説明

内燃機関

【課題】燃料の液滴化を抑制する内燃機関を提供する。
【解決手段】シリンダヘッド10に形成された吸気ポート12と、燃焼室11と吸気ポート12の開口部17との間を開閉する吸気バルブ14と、吸気ポート12の開口部17に形成された配置部20と接した状態で設けられ、吸気バルブ14の傘部16と接したときに吸気ポート12の開口部17を閉状態とするバルブシート18とを有する内燃機関において、バルブシート18に切欠溝18aを設けることにより、配置部20とバルブシート18とが非接触となる空隙部を切欠溝18aの内側に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関として、吸気ポート噴射式のものが知られており、この吸気ポート噴射式の内燃機関では、吸気ポートに燃料噴射装置が設けられ、吸気バルブに向けて、燃料が噴射されるよう構成されている。
【0003】
【特許文献1】特昭61−229908号公報
【特許文献2】特昭61−229926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸気ポート噴射式の内燃機関では、吸気バルブに向けて噴射した燃料が冷態始動時に液滴化するおそれがある。液滴化した燃料がそのまま気筒内に入ると、排出ガス中のHCが増加するので、排出ガス中のHC低減のためには、噴射した燃料をいかに気化させるかが重要となる。通常、吸気バルブには、気筒内で燃焼した燃料(燃焼ガス)からの入熱があり、この熱を有効に利用できれば、燃料の液滴化を抑制することが可能である。しかしながら、吸気バルブは、バルブシートを介して、シリンダヘッドと接するものであり、吸気バルブに入熱した熱は、熱容量の大きいシリンダヘッド側に奪われてしまい、内燃機関全体が暖機するまで、吸気バルブを高い温度(燃料の気化温度)にすることは難しく、その結果、燃料の液滴化を抑制することも難しかった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、燃料の液滴化を抑制する内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する第1の発明に係る内燃機関は、
内燃機関のシリンダヘッドに形成された吸気ポートと、
前記内燃機関の燃焼室と前記吸気ポートの開口部との間を開閉する吸気バルブと、
前記吸気ポートの開口部に形成された配置部と接した状態で設けられ、前記吸気バルブの傘部と接したときに前記吸気ポートの開口部を閉状態とするバルブシートとを有し、
前記配置部と前記バルブシートとの間に、これら両者が非接触となる空隙部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決する第2の発明に係る内燃機関は、
上記第1の発明に記載の内燃機関において、
前記空隙部は、前記バルブシートの少なくとも一部を切り欠いた切欠部の内側で構成されていることを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決する第3の発明に係る内燃機関は、
上記第1又は第2の発明に記載の内燃機関において、
前記空隙部は、前記配置部の少なくとも一部を掘り込んだ部分の内側で構成されていることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する第4の発明に係る内燃機関は、
上記第1から第3の発明のいずれか1つに記載の内燃機関において、
前記空隙部に低熱伝導率の気体が封入されていることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第5の発明に係る内燃機関は、
上記第1から第3の発明のいずれか1つに記載の内燃機関において、
前記空隙部内が減圧状態とされていることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第6の発明に係る内燃機関は、
上記第1から第5の発明のいずれか1つに記載の内燃機関において、
前記吸気バルブは、前記傘部の前記バルブシートと接する部分が低熱伝導率の材料から形成されていると共に、前記傘部の他の部分が高熱伝導率の材料から形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バルブシート又はシリンダヘッドの配置部の少なくとも一方に空隙部を設け、バルブシートとシリンダヘッドとの接触面積を小さくしたので、更に、空隙部の内部を熱伝導率が低い状態としたので、冷態始動後の吸気バルブの温度を高くすることができる。従って、吸気バルブへの燃料付着(液滴化)を抑制し、その結果、HC排出を低減することができる。
【0013】
又、本発明によれば、吸気バルブの傘部のバルブシートと接する部分を低熱伝導率の材料から形成すると共に、傘部の他の部分を高熱伝導率の材料から形成したので、冷態始動後の吸気バルブの温度を更に高くすることができる。従って、吸気バルブへの燃料付着(液滴化)を更に抑制し、その結果、HC排出を更に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1〜図7を用いて、本発明に係る内燃機関の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
(実施例1)
図1は、本発明に係る内燃機関の実施形態の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、内燃機関(以降、エンジンと呼ぶ。)のシリンダヘッド10には、その燃焼室11に空気を供給するための吸気ポート12が形成されている。そして、吸気ポート噴射式エンジンでは、この吸気ポート12に燃料噴射装置(以降、インジェクタと呼ぶ。)13が設けられている。吸気ポート12の燃焼室11への開口部分(開口部17)には、吸気バルブ14が設けられており、吸気バルブ14の開閉動作により、燃焼室11と吸気ポート12の開口部17との間を開閉している。
【0016】
吸気バルブ14は、カム等(図示省略)の駆動動作を伝達するステム部15と、ステム部15に支持され、開口部17の部分を開閉する傘部16とを有する。又、開口部17には、そのシリンダヘッド10側に形成された配置部20と接した状態で、リング形状のバルブシート18が設けられている。
【0017】
そして、吸気バルブ14の閉動作時には、傘部16の背面(吸気ポート12の上流側の面)をバルブシート18に密接させることで、吸気ポート12の開口部17を閉状態とし、燃焼室11に対し、吸気ポート12を非連通にさせて、燃焼室11を密閉している。
【0018】
一方、吸気バルブ14の開動作時には、ステム部15により傘部16が燃焼室11側へ移動されて、傘部16の背面とバルブシート18との間に隙間を形成することで、燃焼室11に対し、吸気ポート12を連通させて、燃焼室11に空気を供給している。このとき、インジェクタ13から傘部16の背面へ向けて噴射された燃料fが、空気と共に燃焼室11へ供給されることになる。その後、燃焼室11へ供給された燃料f及び空気は、燃焼室11の天井部分(シリンダヘッド10の底面部分)に設けられた点火プラグ19により点火されて、燃焼されることになる。
【0019】
前述したように、吸気ポート噴射式の内燃機関では、吸気バルブに向けて噴射した燃料が冷態始動時に液滴化するおそれがある。そこで、本実施例においては、バルブシート18の形状を工夫することにより、傘部16に入熱した熱を、シリンダヘッド10側に奪われないようにしている。
【0020】
具体的には、リング形状のバルブシート18において、シリンダヘッド10の配置部20と接触する部分の外周方向に沿って切り欠いた矩形断面形状の切欠溝18a(切欠部)を設け、バルブシート18と配置部20との間に、これら両者が非接触となる空隙部を設けるようにしている。このような切欠溝18aは、後述の切欠溝21aを含めて、既存のバルブシートに簡単な加工を施すことで形成可能である。
【0021】
なお、この切欠溝18aは、バルブシート18の全周に設けることで、その全周に空隙部を形成しているが、全周に限ることはなく、バルブシート18の外周の少なくとも一部を切り欠いた切欠部を設け、その切欠部が形成する内側の空間に空隙部を形成するようにしてもよい。又、このバルブシート18自体は、できるだけ低い熱伝導率の材料から形成されることが望ましい。
【0022】
上記構成により、バルブシート18のシリンダヘッド10との接触面積を減少させ、バルブシート18からシリンダヘッド10への熱移動量を低減させて、傘部16に入熱した熱をシリンダヘッド10側に奪われ難くすることができる。従って、冷態始動直後であっても、燃焼ガスからの入熱が傘部16に留まるため、傘部16の温度をできるだけ早く高温(燃料の気化温度)にすることができ、噴射した燃料の気化を促進して、その液滴化を抑制することになる。その結果、排出ガスのHCを低減することになる。
【0023】
なお、ここでは、切欠溝18a(切欠部)を燃焼室11から遠い上端側1箇所に設けているが、バルブシート18に必要な強度を保てるのであれば、このような切欠溝(切欠部)を複数箇所に設けて、バルブシート18のシリンダヘッド10への接触面積がより小さくなるようにしてもよい。
【0024】
又、矩形断面形状の切欠溝18aに限らず、図2に示すように、リング形状のバルブシート21において、シリンダヘッド10と接触する部分の外周方向に沿って、四分円等の扇状断面形状の切欠溝21aを設け、バルブシート21のシリンダヘッド10への接触面積が小さくなるようにしてもよい。
【0025】
更に、バルブシート18、21は、圧入により配置部20に取り付けられるが、その際、低熱伝導率の気体からなる雰囲気の状態、又は、減圧状態(若しくは、真空状態)で、バルブシート18、21の圧入を行い、配置部20と切欠溝18a、21aとの間に形成される空隙部に低熱伝導率の気体を封入した状態としたり、この空隙部内を減圧状態(若しくは、真空状態)としたりして、シンリンダヘッド10側への熱伝達を更に低減するようにしてもよい。
【0026】
(実施例2)
図3は、本発明に係る内燃機関の実施形態の他の一例を示す概略構成図である。なお、本実施例は、実施例1の構成を前提として、吸気バルブ(傘部)の構成を更に工夫したものである。従って、実施例1に示した構成と同じものについては、同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0027】
本実施例においては、吸気バルブ14の傘部31の構成を工夫することにより、燃焼ガスから傘部31へ入熱する熱の伝達量を多くすると共に、傘部31に入熱した熱をバルブシート18側に熱伝達しないようにしている。
【0028】
具体的には、傘部31において、バルブシート18と接触する部分である接触部33のみを、熱伝導率の低い材料から形成すると共に、傘部31の他の部分、つまり、燃焼室11の燃焼ガスの入熱を受ける表面と、インジェクタ13から燃料が噴射される背面とからなる主部32を、熱伝導率の高い材料から形成している。
【0029】
更に詳細には、図4に示す傘部31の破断図のように、傘部31がバルブシート18と接触する部分を外周方向に切り欠いて鍔部34を形成し、その鍔部34の背面側(バルブシート18側)にリング状の接触部33を嵌合し、溶着している。
【0030】
上記構成により、バルブシート18側からシリンダヘッド10側への熱伝達を少なくすることに加えて、燃焼ガスから傘部31へ入熱する熱の伝達量を多くすると共に、傘部31側からバルブシート18側への熱伝達も少なくすることができる。従って、冷態始動直後であっても、燃焼ガスからの入熱が傘部31に更に留まるため、傘部31の温度を更に早く高温(燃料の気化温度)にすることができ、噴射した燃料の気化を更に促進して、その液滴化を更に抑制することになる。その結果、排出ガスのHCを更に低減することになる。
【0031】
なお、接触部33の抜けを防止するために、図5に示すように、傘部31の主部33の外周部分に階段状の段差部35を形成すると共に、この段差部35の形状に対応して、接触部33の内周部分にも階段状の段差部36を形成し、段差部35と段差部36とを互いに嵌合し、溶着することで、熱伝導率の高い材料からなる主部32と熱伝導率の低い材料からなる接触部33との接合を強く固着するようにしてもよい。
【0032】
(実施例3)
図6は、本発明に係る内燃機関の実施形態の更なる他の一例を示す概略構成図である。なお、本実施例は、実施例1の構成を基本にしているので、実施例1に示した構成と同じものについては、同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0033】
本実施例においては、シリンダヘッド10側の配置部20の構成を工夫することにより、傘部31に入熱した熱をシリンダヘッド10側に熱伝達しないようにしている。
【0034】
具体的には、配置部20において、バルブシート18の上端側(吸気ポート12の上流側)と接触する部分を周方向に沿って掘り込んだ矩形断面形状の掘込溝41(掘込部)を設け、バルブシート18と配置部20との間に、これら両者が非接触となる空隙部を設けるようにしている。このような掘込溝41は、開口部17を切削形成する際に、その一部を周方向に深く掘り込むことにより、切削形成すればよい。
【0035】
なお、この掘込溝41は、配置部20の全周に設けることで、その全周に空隙部を形成しているが、全周に限ることはなく、バルブシート18の上端側と接触する配置部20の少なくとも一部を掘り込んで掘込部を設け、その掘込部が形成する内側の空間に空隙部を形成するようにしてもよい。
【0036】
上記構成により、シリンダヘッド10のバルブシート18との接触面積を減少させ、バルブシート18からシリンダヘッド10への熱移動量を低減させて、傘部16に入熱した熱をシリンダヘッド10側に奪われ難くすることができる。従って、冷態始動直後であっても、燃焼ガスからの入熱が傘部16に留まるため、傘部16の温度をできるだけ早く高温(燃料の気化温度)にすることができ、噴射した燃料の気化を促進して、その液滴化を抑制することになる。その結果、排出ガスのHCを低減することになる。
【0037】
なお、ここでは、掘込溝41(掘込部)をバルブシート18の上端側と接触する場所1箇所に設けているが、バルブシート18と接触する部分であれば、このような掘込溝(掘込部)を複数箇所に設けて、配置部20のバルブシート18への接触面積がより小さくなるようにしてもよい。
【0038】
又、図6では、バルブシート18側は空隙部を形成する切欠溝(又は切欠部)を有していないが、図7に示すように、バルブシート18にも切欠溝18a(又は切欠部)を設け、掘込溝41と切欠溝18a(又は掘込部と切欠部)を対面又は隣接するように配置して、より大きな空隙部を形成するようにしてもよい。つまり、本実施例と実施例1とを組み合わせてもよい。更には、実施例2とも組み合わせてもよい。なお、堀込溝41は、図7に示す方が図6に示した方よりも大きく形成されているが、図7の場合は接触面積をより小さくできる利点がある。このように、他の実施例と組み合わせることにより、燃料の液滴化を更に抑制して、排出ガスのHCを更に低減するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る内燃機関は、吸気ポート噴射式の内燃機関に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る内燃機関の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示した本発明に係る内燃機関におけるバルブシートの変形例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る内燃機関の実施形態の他の一例を示す概略構成図である。
【図4】図3に示した本発明に係る内燃機関における吸気バルブの傘部を示す破断図である。
【図5】図4に示した本発明に係る内燃機関における吸気バルブの傘部の変形例を示す破断図である。
【図6】本発明に係る内燃機関の実施形態の他の一例を示す概略構成図である。
【図7】図6に示した本発明に係る内燃機関の変形例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0041】
10 シリンダヘッド
11 燃焼室
12 吸気ポート
13 インジェクタ
14 吸気バルブ
15 ステム部
16、31 傘部
17 開口部
18、21 バルブシート
18a、21a 切欠溝
19 点火プラグ
20 配置部
32 主部
33 接触部
41 掘込部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダヘッドに形成された吸気ポートと、
前記内燃機関の燃焼室と前記吸気ポートの開口部との間を開閉する吸気バルブと、
前記吸気ポートの開口部に形成された配置部と接した状態で設けられ、前記吸気バルブの傘部と接したときに前記吸気ポートの開口部を閉状態とするバルブシートとを有し、
前記配置部と前記バルブシートとの間に、これら両者が非接触となる空隙部が設けられていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、
前記空隙部は、前記バルブシートの少なくとも一部を切り欠いた切欠部の内側で構成されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関において、
前記空隙部は、前記配置部の少なくとも一部を掘り込んだ部分の内側で構成されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関において、
前記空隙部に低熱伝導率の気体が封入されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関において、
前記空隙部内が減圧状態とされていることを特徴とする内燃機関。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の内燃機関において、
前記吸気バルブは、前記傘部の前記バルブシートと接する部分が低熱伝導率の材料から形成されていると共に、前記傘部の他の部分が高熱伝導率の材料から形成されていることを特徴とする内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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