説明

内生細菌コーティングレタス種子、その製造方法、及びレタスビッグベイン病害の防除方法

【課題】本発明は、レタスビッグベイン病害防除効果が高く保存安定性の高い、拮抗性内生細菌コーティングレタス種子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に減圧接種すること、拮抗性内生細菌を接種したレタス種子を、従来の加温通風乾燥ではなく低温低湿条件下で乾燥させること、またはその両方を組み合わせることにより、拮抗性内生細菌がコーティングされたレタス種子における拮抗性内生細菌の生存率を飛躍的に高めることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌がコーティングされたレタス種子、その製造方法、及びレタスビッグベイン病害の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レタスビッグベイン病は、土壌生息菌類であるオルピディウム属菌(Olpidium brassicae)によって媒介されるウイルス病であり、発病すると葉が網目症状になり、球は小さくなることから商品価値が低下してしまう。また、病徴が激しい場合には結球せず、商品にならない。これまでに兵庫県・香川県・静岡県・千葉県などで発生しており、最も発生規模の大きい兵庫県の場合には、栽培面積の26%まで被害が広がり、今後、更なる被害の拡大が危惧されている。現在のところ有効な登録農薬がない為に、抵抗性品種を用いた栽培、または土壌消毒などによる媒介菌を対象とした防除方法などが行われているが、激発地域ではその効果が十分に発揮されない。また、これらの効果は一時的であり、長期間にわたって防除することは困難である。
【0003】
したがって、いくつかの技術を組み合わせたレタスビッグベイン病害の総合的防除方法が検討されている。その中の1つとして、拮抗微生物を用いた生物防除技術の研究が進められており、すでに相野らにより土壌病原微生物に対して有効な内生細菌が分離され、防除効果が確認されている(特許文献1、2、3、非特許文献1)。しかしながら、内生細菌を広大な圃場に施用する方法、あるいはレタス育苗苗に施用する方法は、内生細菌を大量に製造する必要があり、製造にコストがかかり、また生産者にとっても新たな資材を施用することは作業的な負担になる。また、多様な土壌環境や栽培条件・育苗培土の種類により内生細菌のレタス根への定着が影響を受ける為に、安定した効果を出す事は難しかった。
【0004】
生産者にとって、最も簡単で安価なレタスビッグベイン病害の防除方法は、レタスの種子と内生細菌が一体となった内生細菌コーティング種子を播種することである。使用する内生細菌の量が少なくて済むうえ、内生細菌が生きてさえいれば、他の方法と比較して最も早く内生細菌がレタスの根内に定着することができると考えられる。実験室レベルではレタス種子に内生細菌を付着させて、乾燥しないですぐに播種することを行えば、高い防除効果が得られることが確認されている(非特許文献2)。しかしながら、内生細菌コーティング種子を用いる方法は実用化することは困難であった。なぜなら、実用的なレタスのペレット種子製造は、造粒工程・ペレットの粒径および形状の選別工程・乾燥工程からなるが、乾燥工程では加温した空気を送風することから、加温と乾燥により内生細菌は容易に死滅してしまううえに、ペレット種子製造後から播種までの貯蔵期間中にも内生細菌が死滅しやすいからである。
【0005】
【特許文献1】特開平9-308372号公報
【特許文献2】特開平8-268826号公報
【特許文献3】特開平7-163334号公報
【非特許文献1】微生物の資材化:研究の最前線、(2000)、編集 鈴井孝仁他、ソフトサイエンス社
【非特許文献2】日本植物病理学会報 第68巻、第2号、p240
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、レタスビッグベイン病害防除効果が高く保存安定性の高い、拮抗性内生細菌コーティングレタス種子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌(本明細書において「拮抗性内生細菌」と称する場合がある)のレタス種子への安定導入方法と保存安定性およびその防除効果について検討を行った。
【0008】
その結果、本発明者らは、驚くべきことに、レタス種子のペレット造粒工程の前に拮抗性内生細菌を減圧接種すること、拮抗性内生細菌を接種した種子をペレット造粒工程の後、従来の加温通風乾燥ではなく低温低湿条件下で乾燥させること、またはその両方を組み合わせることにより、拮抗性内生細菌がコーティングされたレタス種子における拮抗性内生細菌の生存率を飛躍的に高めることが可能となることを見出した。また、こうして製造された拮抗性内生細菌コーティングレタス種子は、播種、発芽に対しても問題がなく、作物に対する土壌病害に対して高い防除価を示すことを見出した。上記の本発明者らにより初めて確認された現象は、例えば以下のように説明することができる。減圧接種法により拮抗性内生細菌は種子の表皮の内側まで導入させることができる。種子の表皮の内側は、乾燥した種子表面とは異なり、種子が生存できるだけの水分が保持されていることから、種子の表皮の内側まで導入させた拮抗性内生細菌はその水分を利用して生存することができ、拮抗性内生細菌の生存率が飛躍的に高まるものと推定される。また、拮抗性内生細菌接種後に種子を低温低湿条件で乾燥処理することにより、拮抗性内生細菌が温度又は湿度によりダメージを受けることが少なくなるため、拮抗性内生細菌の生存率が飛躍的に高まる。
【0009】
本発明者らは更にまた、こうして製造された拮抗性内生細菌コーティングレタス種子は、低温条件下で貯蔵することにより、長期間安定保存できることを見出した。
【0010】
即ち本発明は、より具体的には、下記の発明を包含する。
(1)レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に減圧接種することを特徴とする、前記内生細菌がコーティングされたレタス種子の製造方法。
(2)レタス種子に内生細菌を減圧接種した後に、低温低湿条件下で乾燥することを更なる特徴とする(1)記載の方法。
【0011】
(3)レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に接種し、接種後に前記種子を低温低湿条件下で乾燥することを特徴とする、前記内生細菌がコーティングされたレタス種子の製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法により製造された、レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌がコーティングされたレタス種子。
【0012】
(5)レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に減圧接種し、前記種子を播種することを特徴とする、レタスビッグベイン病害の防除方法。
(6)レタス種子に内生細菌を減圧接種した後に、前記種子を低温低湿条件下で乾燥することを更なる特徴とする(5)記載の方法。
【0013】
(7)レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に接種し、接種後に前記種子を低温低湿条件下で乾燥し、前記種子を播種することを特徴とする、レタスビッグベイン病害の防除方法。
(8)内生細菌を接種したレタス種子を、乾燥終了後から播種までの間に、低温低湿条件下で貯蔵することを更なる特徴とする(5)〜(7)のいずれか1つに記載の方法。
なお(8)において、「拮抗微生物を接種した作物の種子」とは、(8)が(5)又は(6)に従属する場合には、「拮抗微生物を減圧接種した作物の種子」を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、レタスビッグベイン病害防除効果が高く保存安定性の高い拮抗性内生細菌コーティングレタス種子、その製造方法、及び前記拮抗性内生細菌コーティングレタス種子を用いた、レタスビッグベイン病害の防除方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において「レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌がコーティングされたレタス種子」又は「拮抗性内生細菌コーティングレタス種子」とは、拮抗性内生細菌をレタス種子にコーティングしたものを言う。すなわち、拮抗性内生細菌がレタス種子にコーティングされている限り、裸種子のままであっても良いし、フィルムコート種子、ペレット種子、ゲル被覆種子、シーダーテープ、シードグラフ、プライミング処理種子など様々な加工処理が施された種子であっても良い。通常は、レタス種子はペレット造粒によりペレット種子に加工される。コーティングされた拮抗性内生細菌の量は特に限定されないが、101〜1010 cells/粒の範囲内で含まれていれば良い。
【0016】
レタス種子をペレット造粒する場合の造粒工程は、通常のペレット造粒機などを用いて造粒すれば良く、特に制限はない。造粒サイズは、レタス種子よりもわずかでも大きければ良く、造粒層の厚さは、1 nm〜50 mmの範囲であればよい。造粒後の形状は、球状またはラグビーボール状であるほうが好ましいが、特に制限はない。造粒後、粒径および粒の形状による選別を行うことは、播種作業の効率を上げる上で好ましい。
【0017】
本発明に用いる種子はレタス種子であり、品種は特に限定するものではない。
本発明に用いる内生細菌としては、レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌であれば特に限定されない。例えば、シュードモナス・プチダFP-16株(トマトの根面から分離された菌株で、青枯菌に抗菌活性物質を産生し、圃場においても高い青枯病発病抑制効果を有する菌株)、シュードモナス・フルオレッセンス FPH9601株(FERM BP-5479)、シュードモナス sp. HAI00377株(ハクサイの根内からP-1培地(蛍光性pseudomonads選択培地)を用いて平板希釈法にて分離、高いハクサイ根こぶ病発病抑制効果を示す菌株)(非特許文献1)、シュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2003株(FERM AP-20654)、FPH-2005-1株(FERM AP-20653)などが挙げられる。
【0018】
これらの拮抗性内生細菌は、種子、植物体、土壌などからスクリーニングし、単離して用いることも出来る。更にまた、レタスビッグベインウイルスを媒介するオルピディウム属菌汚染土に、候補菌をコーティングした種子を播種し、オルピディウム属菌の生育適温下において数週間培養し、オルピディウム属菌の根への感染を明らかに阻害するものを、拮抗性を持つ内生細菌として選択して本発明に使用することができる(日本植物病理学会 第68巻、第2号、p240)。本発明の拮抗性内生細菌の培養条件に関しては、実験書(新編 土壌微生物実験法 (1997) 土壌微生物研究会編、養賢堂)等に記載されている条件を用いることができる。培地は、例えば肉エキス培地、LB培地、ポテトデキストロース(PD)培地、1/10 PD培地、キングB寒天培地などを用い、培養方法は、例えば、シャーレ、試験管、フラスコ、ジャーファメンターなどの容器内で、静置、振とう、攪拌などの条件で行えばよく、特殊な培養条件で行う必要はない。
【0019】
本発明において「減圧接種」とは、吸引機と連結した密閉容器を作成し、その中に拮抗微生物を混和・接触させたレタス種子を入れ、容器内部の空気を吸引することにより陰圧条件を作り出し種子表面の空気を除去した後、常圧(約760 mmHg)に戻すことで、拮抗微生物を種子表皮の内側に導入させる方法を言う。吸引機としては、一般に広く使用されているものでよく、例えばアスピレーター(aspirator)、サッカー(sucker)、油回転真空ポンプ、ドライ真空ポンプなどを使用することができる。陰圧にした時の到達圧力はレタス種子と拮抗性内生細菌が死滅したり、細胞に実質的な障害を受けない範囲であれば良く、例えば1 mmHg〜755 mmHg、好ましくは、100 mmHg〜700 mmHg(大気圧を0 mmHgとした時の真空度で表記した)の範囲である。常圧から最高陰圧に達するまでの時間は特に限定されないが例えば1 秒〜120 分の範囲で行えば良い。また、最高陰圧条件下に置く時間は、1 分〜100 分の範囲であれば良い。その後、ゆっくり常圧に戻すが、陰圧条件から常圧に戻す時間は、1 秒〜120 分の範囲で行えばよい。最高陰圧条件下に120分以上の長時間置くことは、内生細菌の生存率が低下したり、発芽率が著しく低下する為に好ましくない場合がある。減圧接種処理の回数は、1回以上20回までの範囲であれば良い。減圧接種を繰り返す事により、内生細菌の種子内部への導入率は高くなる場合があるが、過度に行った場合には種子にダメージを与え、発芽率低下などを招く場合がある。密閉容器は、吸引ビンや耐圧ビンにゴム栓を付けたり、シールテープで塞ぐことにより密閉系としたものなどを作成して使用することができ、密閉系が保てる様になっていれば形状・材質などに特別な制限はない。容器のサイズは、レタス種子と拮抗性内生細菌の量に応じて適宜選択することができ、例えば、1ml〜1000 m3の範囲から選択できる。吸引機と密閉容器をつなぐ連結部分は、密閉系が保て、かつ陰圧条件に耐えうる耐圧のパイプであればよく、レタス種子や拮抗性内生細菌に害を与えない材質のものであれば特に制限はない。装置を組み立てるのが難しければ、既存の減圧乾燥装置、低温減圧乾燥装置、ロータリーエバポレーター、凍結乾燥機などを利用する事も可能である。
【0020】
減圧接種のためにレタス種子と拮抗性内生細菌を混和・接触させる方法としては、一般に行われる方法であれば良く、特別な制限はない。例えば、拮抗性内生細菌を含む懸濁液中にレタス種子を浸す、拮抗性内生細菌を含む懸濁液をレタス種子に噴霧する、拮抗性内生細菌を含む粉剤中にレタス種子を投入して粉衣するなどである。攪拌や混合を行うことはレタス種子と拮抗性内生細菌との接触効率を上げる上で好ましいが、過度に行うとレタス種子を傷つける場合もあるので注意が必要である。
【0021】
レタス種子に接種する拮抗性内生細菌の量は特に限定されないが例えば101〜1010 cells/粒の範囲であれば良い。
【0022】
本発明の拮抗性内生細菌コーティングレタス種子の製造方法は、上記の方法でレタス種子に拮抗性内生細菌を減圧接種した後に、前記種子を低温低湿条件下で乾燥する工程を行うものであることがより好ましい。或いはまた、本発明の拮抗性内生細菌コーティングレタス種子の製造方法は、上記の減圧接種以外の方法でレタス種子に拮抗性内生細菌を接種した後に、前記種子を低温低湿条件下で乾燥する工程を行う方法であっても良い。ここで、「レタス種子に拮抗性内生細菌を(減圧)接種した後に、前記種子を低温低湿条件下で乾燥する」とは、低温低湿条件下での乾燥工程が、拮抗性内生細菌のレタス種子への接種よりも時間的に後に行われる限りいずれの形態をも包含する。すなわち、本発明においては、拮抗性内生細菌のレタス種子への接種の後に続けて、レタス種子を低温低湿条件下で乾燥する工程を行っても良いし、拮抗性内生細菌のレタス種子への接種の後に追加的な処理(例えばペレット造粒)を施した後に、種子を低温低湿条件下で乾燥する工程を行っても良い。減圧接種以外の方法でレタス種子に拮抗性内生細菌を接種する方法としては、拮抗性内生細菌を含む懸濁液中にレタス種子を浸す、拮抗性内生細菌を含む懸濁液をレタス種子に噴霧する、拮抗性内生細菌を含む粉剤中にレタス種子を投入して粉衣するなどの方法が挙げられるがこれらには限定されない。
【0023】
本発明においてコーティング種子処理における「低温低湿条件」とは、常温(約25℃)以下の温度(低温)で、かつ室内の湿度以下の湿度(低湿)である条件のことを言う。
「低温」とはより具体的には、−80℃以上常温以下の範囲の温度であり、その中でも特に−10℃以上20℃以下の範囲の温度が望ましい。「低湿」とは室内の湿度以下であることを言い、室内の湿度によって変わるが、通常0%以上80%以下の範囲の湿度である。その中でも特に0%以上40%以下の範囲が望ましい。低温にする方法としては、冷却装置を有する部屋または冷却剤を入れた容器、クーラーボックス、冷蔵庫、冷凍庫などを用いる方法が挙げられる。湿度を下げる方法としては、生石灰などの化学的乾燥剤や、シリカゲル、ゼオライト、粘土鉱物などの物理的乾燥剤、除湿機などを用いる方法が挙げられる。
【0024】
乾燥後のレタス種子の含水率は、0.01%以上20%以下の範囲であることが望ましい。より好ましい含水率は0.1%以上10%以下である。それよりも含水率が高い場合は、貯蔵中にレタス種子の発芽率が低下する、あるいは貯蔵中にレタス種子の発芽が起こる、カビなどの雑菌がレタス種子に付着し増殖する、などの問題が発生する。逆に、含水率が低い場合は、拮抗性内生細菌の生存率が低下してしまう。また、レタス種子の発芽率低下が起こる場合もある。
【0025】
本発明の方法に従って製造した拮抗性内生細菌コーティングレタス種子の貯蔵は、拮抗性内生細菌の生菌数、種子の発芽などに出来るだけ影響の少ない条件で行うことが望ましい。このような条件としては低温低湿条件が挙げられる。貯蔵条件に関して「低温」とは、−80℃以上30℃以下であることが好ましく、0℃以上20℃以下であることがより好ましい。また、貯蔵条件に関して「低湿」とは、0%以上80%以下であることが好ましく、0%以上50%以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明の方法で製造した拮抗性内生細菌コーティングレタス種子を播種することにより、レタスビッグベイン病害を軽減、抑制することができる。すなわち本発明は、拮抗性内生細菌コーティングレタス種子を用いた、レタスビッグベイン病害の防除方法に関する。例えば、拮抗性内生細菌コーティングレタス種子を播種、育苗した後、レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に汚染された土壌を含む圃場またはポットに苗を定植して栽培した場合に、レタスビッグベイン病害の発生が軽減・抑制される。
【0027】
本発明のレタスビッグベイン病害の防除方法は、他の病害防除方法と併用することが可能である。他の病害防除方法としては、例えば、レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌の土壌菌密度を下げる為の土壌消毒処理、薬剤処理、土壌改良剤処理、高畝処理などが挙げられる。また、拮抗性内生細菌でコーティングするレタス種子として、レタスビッグベイン病害抵抗性の品種あるいはレタスビッグベイン病害耐病性の品種のレタス種子を用いることは防除効果をさらに高める上で好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に本発明の実施例を掲げて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0029】
参考例1:レタスフィルムコート種子への拮抗性内生細菌の接種および乾燥が拮抗性内生細菌の生存率に与える影響
拮抗性内生細菌として、シュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2003株(FERM AP-20654)を用いた。
【0030】
キングB寒天培地を入れた9cmシャーレにシュードモナスFPH-2003株を植菌し、25℃で2日間静置培養した。コーンラージ棒を用いて集菌し、これを接種源とした。
【0031】
集菌したFPH-2003株に、ポリビニルアルコール(PVA)又はポリビニルアセテート(PVAc)で作製したバインダー溶液10mlを加え、回転子(攪拌子)を用いてFPH-2003株を十分に分散させ、レタス種子100g(品種:ロジック)に少量ずつ加えながら、十分に攪拌した。この種子を、25℃又は35℃の温風循環乾燥機に入れ、24時間乾燥させた。
【0032】
種子中におけるFPH-2003株の菌密度は、下記の方法で求めた。種子100粒を10 mlの滅菌水に懸濁し、さらに10倍・100倍・1000倍・10000倍希釈液を作成した。これらの菌懸濁液を希釈平板法によりストレプトマイシンを添加したキングB寒天培地上に塗布した。25℃で96時間培養し、コロニーの出現により判定した。
【0033】
参考例1の結果を表1に示す。PVAフィルムコート剤を用いてFPH-2003株を接種したレタス種子では、いずれの乾燥温度区でも乾燥前に6.2×104cfu/粒の菌密度であったが、乾燥6時間後には全滅していた。また、PVAcフィルムコート剤を用いてFPH-2003株を接種したレタス種子では、いずれの乾燥温度区でも乾燥前に1.2×105cfu/粒の菌密度であったが、乾燥24時間後には全滅していた。このことから、レタス種子に拮抗性内生細菌を接種し乾燥後に、拮抗性内生細菌を生存させることは、きわめて難しい事が明らかになった。
【0034】
【表1】

【0035】
参考例2:拮抗性内生細菌を接種したレタスペレット種子の含水率による拮抗性内生細菌の生存に与える影響
拮抗性内生細菌として、シュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2003株(FERM AP-20654)を用いた。キングB寒天培地を入れた9cmシャーレにシュードモナス FPH-2003株を植菌し、25℃で2日間静置培養した。コーンラージ棒を用いて集菌し、これを接種源とした。
【0036】
集菌したFPH-2003株に滅菌水20mlを加え、回転子(攪拌子)を用いてFPH-2003株を十分に分散させた。この拮抗性内生細菌分散溶液をレタス種子のペレット造粒に用いた。次にペレット造粒工程について説明する。造粒装置Pelletizing unit(SEED PROCESSING社製)を回転させながら、レタス種子100g(品種:ロジック)を投入し、種子を攪拌しながら上記の拮抗性内生細菌分散溶液をスプレーし種子を十分に湿らせた。その種子に造粒用粉体(珪藻土・炭酸カルシウムなどの混合物)を少量加え攪拌した。さらに、拮抗性内生細菌分散溶液をスプレーし造粒用粉体を少量加える作業を、拮抗性内生細菌分散溶液がなくなるまで繰り返した。その後、造粒用バインダーを3.0%ポリビニルアルコールに切り替え、造粒用バインダーと造粒用粉体を交互に添加しながらペレットを造粒した。造粒後、篩を使用し粒径3.0〜3.5mmのペレットのみ選別した。この種子を、30℃の温風循環乾燥機に入れ、24時間乾燥させた。このときの部屋の湿度は約45%であった。
【0037】
ペレット造粒種子中におけるFPH-2003株の菌密度の測定は、参考例1と同様の方法を用いた。また、ペレット造粒種子中におけるFPH-2003株の生存率は、下記の方法で求めた。ペレット種子50粒(10粒×5反復)をストレプトマイシン添加キングB寒天培地上に置床し、25℃で96時間培養した。培養後に、FPH-2003株のコロニーをカウントし、その数から百分率を求め生存率とした。
【0038】
参考例2の結果を表2に示す。FPH-2003株をレタス種子にスプレー接種した種子は、ペレット種子の含水率が高いほどFPH-2003株の生存率および菌密度が高い、つまりペレット種子を乾燥させるにつれて、FPH-2003株が減少していくことが明らかになった。通常の実用に供試し得るペレットの含水率は、0.5〜3.0%であるが、含水率を0.8%に下げた場合、FPH-2003株が完全に死滅してしまうことが明らかになった。レタス種子の場合に含水率が10%を超えると保存中にカビが発生したり、腐敗が始まったり、発芽したりする為に実用的に使用できない。したがって、拮抗性内生細菌をレタス種子にスプレー接種後、ペレット造粒し、加温通風で乾燥させる従来の方法では、拮抗性内生細菌をレタス種子に定着させることが、きわめて困難であることが判明した。
【0039】
【表2】

【0040】
参考例3: レタス品種の違いが拮抗性内生細菌の根部定着量に及ぼす影響(1)
拮抗性内生細菌シュードモナス(Pseudomonas sp.)FPH-2003株(FERM AP-20654)をキングB寒天培地で28℃、48時間培養し、殺菌水中にそれぞれ107cfu/ml になるように懸濁した。8種類のレタス品種を準備し、拮抗性内生細菌懸濁液を種子にコーティングした。そして得られた種子をバーミキュライトに播種した。播種後、28℃、24時間照明下で25日間培養した。レタスの根部を95%エタノールで10秒間表面殺菌を行い、乳鉢ですりつぶし、キングB寒天培地を用いて希釈平板法で拮抗性内生細菌の検出を行った。
結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
参考例4:レタス品種の違いが拮抗性内生細菌の根部定着量に及ぼす影響(2)
参考例3と同様の試験を拮抗性内生細菌シュードモナス(Pseudomonas sp.)FPH-2005-1株(FERM AP-20653)を用い、育成中のレタス品種および市販品種を用いて行った。
結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表3および表4の結果より、レタスの品種の違いにより拮抗性内生細菌の菌株の定着率にはかなりの差があることが明らかとなった。従って、本発明を実施するにあたって、レタス種子の品種と拮抗性内生細菌の親和性について確認しておくことは、拮抗性内生細菌コーティング種子の製造において重要であることがわかった。このようにして選抜したレタス品種と拮抗性内生細菌の組み合わせを用いてペレット種子の製造方法を検討した。
【0045】
実施例1:レタス種子への拮抗性内生細菌の接種方法および加温通風乾燥が拮抗性内生細菌の生存に与える影響
拮抗性内生細菌として、シュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2003株(FERM AP-20654)を用いた。キングB寒天培地を入れた9cmシャーレにシュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2003株を植菌し、25℃で2日間静置培養した。コーンラージ棒を用いて集菌し、1/5000 Tween80を添加した滅菌水に懸濁した。希釈平板法で生菌数を測定したところ、約1 x 1010 cfu/mlであった。レタス種子100g(品種:ロジック)をメッシュで包みイチゴパックに収め、浮かばないように重りを載せ、種子が沈むように菌懸濁液300mlを注いだ。減圧接種法は、コンパクトエアーポンプNUP-2(アズワン製)を用いて、陰圧条件とした。ポンプ排気能力は、12 l/min、到達圧力は、300 mmHg 、最高陰圧条件に達するまでの時間は、約2分であった。5分間、最高陰圧条件に置いた後、ゆっくりコックを開いて常圧に戻した。常圧に戻るまでの時間は、約20秒であった。余剰水分を除去する為に恒温乾燥機(MOV-212F)(SANYO製)にて、30℃、1時間通風乾燥を行った。
【0046】
こうして得られた拮抗性内生細菌コーティングレタス種子を更にペレット造粒した。以下にペレット造粒工程について説明する。上記で得られたコーティング済みのレタス種子の全量(約100g)を回転している造粒装置Pelletizing unit(SEED PROCESSING社製)に投入し、種子を攪拌しながら造粒用バインダー3.0%ポリビニルアルコールを種子にスプレーし湿らせた。種子が十分に湿った後、造粒用粉体(珪藻土・炭酸カルシウムなどの混合物)を所定量加えた。さらに造粒用バインダーと造粒用粉体を交互に添加しながらペレットを造粒した。造粒後、篩を使用して、得られたペレットのうち直径3.0〜3.5mmのもののみを選別した。この種子を、30℃の温風循環乾燥機に入れ、24時間乾燥させた。このときの部屋の湿度は約45%であった。
【0047】
比較例1
実施例1と同様の方法でFPH-2003株を培養、集菌した。FPH-2003株の浸漬処理は、レタス種子100g(品種:ロジック)と拮抗性内生細菌懸濁液を用いて、常圧条件下にて行った。実施例1と同様に余剰水分を除去、ペレット造粒を行った。この種子を30℃の温風循環乾燥機に入れ、24時間乾燥させた。このときの部屋の湿度は約45%であった。
ペレット造粒種子中におけるFPH-2003株の生存率は、参考例2と同様の方法を用いた。
【0048】
実施例1と比較例1の結果を表5に示す。FPH-2003株を減圧接種後ペレット加工した区(実施例1)では、FPH-2003株の生存率は、乾燥してもほとんど低下せず、通常の商品用ペレットの含水率である1.1%になっても、93%と高い値を示した。それに対して、FPH-2003株を浸漬接種後ペレット加工した区(比較例1)では、FPH-2003株の生存率は、乾燥とともに徐々に低下し、通常の商品用ペレットの含水率である1.1%では、FPH-2003株の生存率が3%となり、ほとんどのFPH-2003株が死滅していることがわかった。このことからレタスペレット種子の製造において、用いられるレタス種子に拮抗性内生細菌を減圧接種する方法が、拮抗性内生細菌をレタス種子に定着させるのに有効であることが明らかになった。
【0049】
【表5】

【0050】
実施例2:レタス種子への拮抗性内生細菌の接種方法および乾燥方法が拮抗性内生細菌の生存および種子の発芽に与える影響
拮抗性内生細菌として、シュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2003株(FERM AP-20654)を用いた。実施例1と同様の条件で減圧接種およびペレット造粒を行った。この種子の低温低湿乾燥は、下記の方法で行った。15℃の低温室にデシケーターを入れ、その中に乾燥剤としてシリカゲルを入れた。ペレット種子をデシケーター中に置き、24時間乾燥させた。このときのデシケーター中の湿度は約20%であった。
【0051】
比較例2
比較例1と同様の方法でFPH-2003株を浸漬処理し、ペレット造粒を行った。この種子を30℃の温風循環乾燥機に入れ、24時間乾燥させた。このときの部屋の湿度は約45%であった。
【0052】
ペレット造粒種子中におけるFPH-2003株の生存率は、参考例2と同様の方法を用いた。また、種子の発芽率は下記の方法で確認した。脱イオン水を吸水させたろ紙上に、ペレット種子150粒(50粒×3反復)を置床し、20℃暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
【0053】
実施例2と比較例2の結果を表6に示す。FPH-2003株を減圧接種後15℃で低温低湿乾燥した区(実施例2)では、FPH-2003株の生存率は100%、FPH-2003株を浸漬接種後30℃で通風乾燥した区(比較例2)では、FPH-2003株の生存率は11%となり、比較例2よりも実施例2の方がより高い生存率となった。種子の発芽率に関しても95%以上の高い値を示し、問題のないことがわかった。これらのことからレタス種子において、拮抗性内生細菌を減圧接種した後、低温低湿乾燥する方法が、拮抗性内生細菌を定着させるのに有効であることが明らかになった。
【0054】
【表6】

【0055】
実施例3:拮抗性内生細菌を減圧接種後、低温低湿乾燥したレタスペレット種子における拮抗性内生細菌の保存安定性試験(拮抗性内生細菌の生存率および種子の発芽率の推移)
実施例2でFPH-2003株を減圧接種後、造粒し15℃で低温低湿乾燥したペレット種子を密封し、(1)温度5℃・湿度20%、(2)温度15℃・湿度40%、(3)温度20/30℃変温・湿度80%の3つの異なる条件下で3ヶ月間貯蔵した。貯蔵期間0ヶ月・1ヶ月・3ヶ月の時点で、FPH-2003株の生存率および種子の発芽率を調査した。
実施例3の結果を表7に示す。
【0056】
このレタスペレット種子を、温度5℃・湿度20%で保存した区(実施例3−1)では、FPH-2003株の生存率は貯蔵1ヶ月後には96%、貯蔵3ヶ月後には36%であった。一方、この種子を温度15℃・湿度40%で保存した区(実施例3−2)では、FPH-2003株の生存率は貯蔵1ヶ月後には30%、貯蔵3ヶ月後には0%であった。また温度20/30℃変温・湿度80%で保存した区(実施例3−3)では、FPH-2003株の生存率は貯蔵1ヶ月後には4%、貯蔵3ヶ月後には0%であった。種子の発芽率に関してはいずれの区でも93%以上の高い値を示し、問題のないことがわかった。これらのことから、レタス種子において拮抗性内生細菌を減圧接種した後、造粒後、乾燥を低温低湿条件下で行ったペレット種子を低温低湿下で貯蔵することで、拮抗性内生細菌の生存率が高まり、拮抗性内生細菌を種子に長い期間定着させるのに有効であることが明らかになった。
【0057】
【表7】

【0058】
実施例4:拮抗性内生細菌コーティング種子のレタスビッグベイン病を媒介するOlpidium brassicaeの感染阻害効果
拮抗性内生細菌として、シュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2005-1株(FERM AP-20653)を用いた。実施例2と同様の条件で減圧接種およびペレット造粒を行い、低温低湿乾燥を行った。拮抗性内生細菌コーティング種子及び通常種子(拮抗性内生細菌をコーティングしていない種子)それぞれを、ビッグベイン病汚染土壌を充填したプランター(25cm×60cm)に播種し、ガラス温室内で育成した。播種26日後にレタス苗を抜き取り、生物顕微鏡下で根部に形成したOlpidium brassicaeの遊走子のうの数を調べた。通常種子では1株当たり86.3個感染していたが拮抗性内生細菌コーティング種子では、5.5個とOlpidium brassicaeの感染数を約1/15に減少させることができた。
結果を表8に示す。
【0059】
【表8】

【0060】
実施例5:レタスビッグベイン病に対する拮抗性内生細菌コーティング種子の防除効果
拮抗性内生細菌として、シュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2005-1株(FERM AP-20653)を用いた。実施例2と同様の条件で減圧接種およびペレット造粒を行い、低温低湿乾燥を行った。拮抗性内生細菌コーティング種子及び通常種子(拮抗性内生細菌をコーティングしていない種子)それぞれを、ビッグベイン病汚染土壌を充填したプランター(25cm×60cm)に播種し、ガラス温室内で育成した。播種80及び110日後に発病を調査した。通常種子では播種80日後には発病株率30.0%、播種110日後には100%となった。拮抗性内生細菌コーティング種子区では、播種80日後では5.9%、播種110日後には67.7%となり、それぞれ通常種子と比べ低い発病株率であった。本結果より拮抗性内生細菌コーティング種子はレタスビッグベイン病に対して高い発病抑制効果を示した。
結果を表9に示す。
【0061】
【表9】

【0062】
実施例6:減圧接種条件の検討
拮抗性内生細菌として、シュードモナス(Pseudomonas sp.)FPH-2005-1株(FERM AP-20653)を用いた。キングB寒天培地を入れた9cmシャーレにシュードモナス(Pseudomonas sp.) FPH-2005-1株を植菌し、25℃で2日間静置培養した。コーンラージ棒を用いて集菌し、1/5000 Tween80を添加した滅菌水に懸濁した。希釈平板法で生菌数を測定したところ、約1 x 109 cfu/mlであった。レタス種子20g(品種:ロジック)をメッシュで包みイチゴパックに収め、浮かばないように重りを載せ、種子が沈むように菌懸濁液150mlを注いだ。減圧接種法は、MDA-015ポンプを用い減圧接種条件の検討を行った。減圧接種後、脱水し、恒温乾燥機にて30℃、15時間通風乾燥した。種子からの菌の検出は、下記の方法で行った。種子100粒をストレプトマイシン添加キングB寒天培地に置床し、25℃で2日間培養後、蛍光コロニーの出現する種子をカウントした。また、種子の発芽率は、脱イオン水を吸水させたろ紙上に、ペレット種子150粒(50粒×3反復)を置床し、20℃暗黒条件下で14日間栽培した。胚軸と幼根の存在を確認したものをカウントし、その数から百分率を求め発芽率とした。
【0063】
(実施例6-1)最高陰圧条件の検討
ポンプMDA-15の圧力調節弁を調節し、最高陰圧条件を変えた。
(実施例6−2)最高陰圧から常圧への戻し時間の検討
空気穴の開閉を調節して常圧への戻し時間を調節した。
(実施例6−3)最高陰圧の保持時間の検討
最高陰圧条件下に保持する時間を変更した。
比較例として、浸漬処理を行った種子を用いて菌の検出率と発芽率を調べた。
【0064】
結果を表10に示した。実施例6-1の結果から、最高陰圧150 mmHg〜680 mmHgの範囲では、菌の検出率、発芽率ともに問題ないことがわかった。実施例6-2の結果から、最高陰圧から常圧への戻し時間が25 秒〜50 秒の範囲では、菌の検出率、発芽率ともに問題ないことがわかった。実施例6-3の結果から、最高陰圧の保持時間は、300 秒に比べ、1200 秒〜3600 秒では、菌の検出率がやや低下する事がわかった。
【0065】
実施例6の減圧接種条件の範囲であれば、内生細菌をレタス種子に接種するのに問題ないことがわかった。
【0066】
【表10】

【0067】
実施例7:レタス種子への拮抗性内生細菌の接種方法および乾燥方法が拮抗性内生細菌の生存に与える影響
実施例6と同様の方法でFPH-2005-1株(FERM AP-20653)を培養し、実施例1と同様の減圧接種と低温低湿乾燥および比較例1と同様の常温・常圧条件における接種と加温通風乾燥を組合せた試験を行った。
【0068】
内生細菌の検出は、96穴のマイクロウエルにペレット種子を入れ、ストレプトマイシン200 ppm、チオファメートメチル1,000 ppm加用キングB液体培地を100μl注入後、25℃、48時間培養後、340 nmの紫外光を照射し、蛍光を示したウエルを数えた。蛍光強度を3段階に分類した(+:かすかに蛍光が見られる。++:蛍光が見られる。+++:強い蛍光が確認される。)。そして各蛍光強度を示すウエルの、全ウエルに対する百分率を求めた。
結果を表11に示した。
【0069】
【表11】

【0070】
表11の結果から、減圧接種、低温低湿乾燥のそれぞれ単独処理および併用処理により接種した内生細菌FPH-2005-1株がレタスペレット種子から高頻度で検出されることが確認された。
【0071】
以上の結果から、レタス種子に拮抗性内生細菌を減圧接種する方法、レタス種子に拮抗性内生細菌を接種後、低温低湿条件下で乾燥する方法、およびこれらを組み合わせる方法により、レタス種子へ接種した拮抗性内生細菌の生存率は著しく高まることは明らかである。更に、本発明に基づいて作成した拮抗性内生細菌コーティングレタス種子は、レタスビッグベイン病害に対して高い防除価を示した。本発明を利用することにより、レタスビッグベイン病害防除効果が高く保存安定性の高いレタス種子を安価かつ簡便に提供することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に減圧接種することを特徴とする、前記内生細菌がコーティングされたレタス種子の製造方法。
【請求項2】
レタス種子に内生細菌を減圧接種した後に、低温低湿条件下で乾燥することを更なる特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に接種し、接種後に前記種子を低温低湿条件下で乾燥することを特徴とする、前記内生細菌がコーティングされたレタス種子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の方法により製造された、レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌がコーティングされたレタス種子。
【請求項5】
レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に減圧接種し、前記種子を播種することを特徴とする、レタスビッグベイン病害の防除方法。
【請求項6】
レタス種子に内生細菌を減圧接種した後に、前記種子を低温低湿条件下で乾燥することを更なる特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
レタスビッグベインウイルスを保持するオルピディウム属菌に対して拮抗性を示す内生細菌をレタス種子に接種し、接種後に前記種子を低温低湿条件下で乾燥し、前記種子を播種することを特徴とする、レタスビッグベイン病害の防除方法。
【請求項8】
内生細菌を接種したレタス種子を、乾燥終了後から播種までの間に、低温低湿条件下で貯蔵することを更なる特徴とする請求項5〜7のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2007−77126(P2007−77126A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271020(P2005−271020)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(591042403)株式会社サカタのタネ (10)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】