説明

内皮幹細胞、該細胞集団、該細胞の単離法および使用法

【課題】再生する能力、並びに内皮細胞および/または内皮様細胞を生じさせる能力を有すると特徴付けられる幹細胞、こうした幹細胞を単離する方法およびその使用法を提供する。
【解決手段】(a)P1H12+内皮幹細胞を含むヒト末梢血単核細胞(PBMC)の集団を、P1H12+に特異的に結合する分子と、当該分子が当該P1H12+内皮幹細胞に結合する条件下で接触させ;(b)当該分子に結合した当該P1H12+内皮幹細胞を、当該分子に結合しなかったPBMC細胞から分離し;(c)分離したP1H12+内皮幹細胞を、コラーゲンで被覆した表面に接触している培地中でインキュベートし;そして(d)当該培地から、当該コラーゲンで被覆した表面に接着していない分離したP1H12+内皮幹細胞を除去する;を含んでなるP1H12+内皮幹細胞を培養する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、仮出願第60/343,498号、2001年12月21日出願の優先権を請求する。
【0002】
発明の分野
本発明は、再生する能力、並びに内皮細胞および/または内皮様細胞を生じさせる能力を有すると特徴付けられる幹細胞、こうした幹細胞を単離する方法およびその使用法を提供する。やはり提供するのは、本発明の幹細胞に由来する子孫細胞である。
【背景技術】
【0003】
背景
哺乳動物の体は、哺乳動物の体の多くの組織を生じさせる、いくつかの系譜に拘束された(lineage−committed)細胞で構成される。系譜に拘束されたこうした細胞の性質、形態、特徴および機能が多様であるにもかかわらず、現在、系譜に拘束された細胞は、すべてではないとしても大部分、哺乳動物の体の、系譜に拘束された細胞を1以上生じさせる、多様な幹細胞に由来すると考えられている。こうした幹細胞は、体に存在する細胞総数のわずかな割合しか構成せず、そして特定の細胞種への相対的な拘束に応じて、変化することが可能である。さらに、系譜に拘束された細胞と関連するどのマーカーが、幹細胞上にもまた存在するかは、知られていない。幹細胞上に存在すると示されている1つのマーカー、CD34はまた、系譜に拘束された前駆細胞上でもかなりの数で見られる。特に、B細胞(CD19+)および骨髄性細胞(CD33+)がCD34+集団
の80〜90%を構成する。さらに、CD3、8、10、15、19、20、および33の組み合わせが、すべてのCD34+細胞の>90%に存在するであろう。したがって、
骨髄において、幹細胞である細胞総数の割合が低く、より分化した細胞と識別できる幹細胞関連マーカーが不確かであり、そして一般的にヒト幹細胞に関する生物学的アッセイが不可能であることを考慮すると、幹細胞の同定および精製は達成しがたいものであった。
【0004】
内皮細胞は、血管構造の細胞構成単位である。胚発生中の器官形成には、その直線状の拘束、増大、および血管への集合が必要である。血管形成中、存在する血管中の内皮細胞は、TGF、FGF、およびVEGFなどの血管形成因子によって活性化される。細胞増殖および遊走、そして存在する血管の伸長および分岐を通じて新規血管が形成される。
【0005】
内皮細胞を生じうる幹細胞の容易に入手可能な供給源を同定することが必要である。この必要性は、最近、胚性幹細胞研究に対する連邦政府補助金の使用が規制されたことに鑑みて、成人供給源由来の幹細胞に関して、特に深刻である。こうした幹細胞を所持すれば、内皮細胞再生と関連する増殖因子の同定が可能になるであろう。さらに、幹細胞を内皮細胞系譜に方向付ける(dedication)初期の段階、こうした方向付けの防止、および幹細胞集団の負の調節と関連する、いまだに発見されていない増殖因子または他の生物学的因子(例えば転写因子)がある可能性がある。幹細胞が入手可能であれば、血管移植、組織工学、血管形成制御、血管生成、およびその防止に非常に有用であろう。幹細胞およびその子孫は、心筋損傷の治療および修復に使用を見出しうる。こうした幹細胞はまた、遺伝子治療措置の一部として、被験者に遺伝子を導入するのにも使用可能である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
1つの態様において、本発明は、幹細胞が濃縮されている集団を調製する方法であって、第一の細胞集団から幹細胞が濃縮されている前記集団を分離することを含んでなり、幹細胞が濃縮されている前記集団が、前記の第一の細胞集団より、少なくとも約100倍高い濃度のP1H12+幹細胞を含んでなる、前記方法を提供する。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、前記の第一の細胞集団より、少なくとも約1,000倍高い濃度のP1H12+幹細胞を含んでなる。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、前記の第一の細胞集団より、約1,000倍〜約4,000倍高い濃度のP1H12+幹細胞を含んでなる。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団はさらに、CD148、AC133、CD45およびCD34からなる群より選択される1以上のマーカーを、前記の第一の細胞集団より高い濃度で含んでなる。別の態様において、前記分離工程は、前記の第一の細胞集団を、P1H12+に特異的に結合する分子と接触させ、そして前記分子に結合する、濃縮されている前記細胞集団を選択することを含んでなる。別の態様において、前記分子は抗体である。別の態様において、前記抗体はモノクローナル抗体である。別の態様において、前記分子は抗体由来である。別の態様において、前記分子はペプチド−Fc融合分子である。別の態様において、前記分離工程は、前記の第一の細胞集団を、CD148、AC133、CD45およびCD34からなる群より選択される分子に特異的に結合する分子と接触させ、そして前記分子に結合する、濃縮されている前記細胞集団を選択することをさらに含んでなる。別の態様において、前記分離工程は、濃縮されている前記細胞集団を、CD148、AC133、CD45およびCD34からなる群より選択されるマーカーに特異的に結合する分子と接触させ、そして前記分子に結合しない細胞を、濃縮されている前記細胞集団から取り除くことをさらに含んでなる。別の態様において、前記分離工程は、前記の第一の細胞集団を、CD144、CD202b、VEGFR2からなる群より選択される分子に特異的に結合する分子と接触させ、そして濃縮されている前記細胞集団に関して、前記分子に結合しない細胞を選択することをさらに含んでなる。別の態様において、前記分離工程は、濃縮されている前記細胞集団を、CD144、CD202b、VEGFR2からなる群より選択される分子に特異的に結合する分子と接触させ、そして前記分子に結合する細胞を、濃縮されている前記細胞集団から取り除くことをさらに含んでなる。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、前記の第一の細胞集団より、P1H12+、CD148+、AC133+、CD144−、CD202b−またはVEGFR2−である幹細胞を、少なくとも約100倍高い濃度で含んでなる。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、前記の第一の細胞集団より、P1H12+、CD148+、AC133+、CD144−、CD202b−またはVEGFR2−である幹細胞を、少なくとも約1,000倍高い濃度で含んでなる。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、前記の第一の細胞集団より、P1H12+、CD148+、AC133+、CD144−、CD202b−またはVEGFR2−である幹細胞を、約1,000倍〜約4,000倍高い濃度で含んでなる。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、さらに、CD34+またはCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、さらに、CD34−およびCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、さらに、CD34+およびCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている。別の態様において、前記分子は検出可能実体に結合している。別の態様において、前記検出可能実体は、蛍光実体、比色実体、または磁気実体である。別の態様において、前記分子は固体支持体に結合している。別の態様において、前記固体支持体はプラスチック表面、ガラス表面、アガロース、アクリルアミド、レクチンまたは磁気粒子である。別の態様において、前記方法は、幹細胞が濃縮されている前記集団を培養して、P1H12+、CD144+、AC133−、CD202+、CD45−、VEGFR2+であり、HUVECおよびMVECよりも高い増殖能を有し、そしてヴァイベル・パラーデ体を含有する子孫細胞を生じさせる工程をさらに含んでなる。別の態様において、前記の第一の細胞集団は哺乳動物由来である。別の態様において、前記哺乳動物は霊長類である。別の態様において、前記霊長類はヒトである。別の態様において、前記の第一の細胞集団は末梢血由来である。別の態様において、前記の第一の細胞集団は骨髄由来である。別の態様において、前記の第一の細胞集団は胎児肝組織由来である。
【0007】
別の態様において、本発明は、上述のように調製した、幹細胞集団を提供する。別の態様において、前記幹細胞は、CD148、AC133、CD45およびCD34からなる群より選択されるマーカーの1以上に関して陽性である。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、P1H12+、CD148+、AC133+、CD144−、CD202b−およびVEGFR2−である幹細胞に関して濃縮されている。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、さらに、CD34+またはCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、さらに、CD34+およびCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている。別の態様において、幹細胞が濃縮されている前記集団は、さらに、CD34−およびCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている。別の態様において、前記幹細胞は、ヴァイベル・パラーデ体を含有する。別の態様において、前記幹細胞は内皮前駆細胞である。別の態様において、前記の第一の細胞集団は哺乳動物由来である。別の態様において、前記哺乳動物は霊長類である。別の態様において、前記霊長類はヒトである。別の態様において、前記の第一の細胞集団は末梢血由来である。別の態様において、前記の第一の細胞集団は骨髄由来である。別の態様において、前記の第一の細胞集団は胎児肝組織由来である。
【0008】
別の態様において、本発明は、請求項31の、幹細胞が濃縮されている前記集団由来の子孫細胞集団であって、P1H12+、CD144+、AC133−、CD202+、CD45−、VEGFR2+であり、HUVECおよびMVECよりも高い増殖能を有し、そしてヴァイベル・パラーデ体を含有する、前記子孫細胞集団を提供する。
【0009】
別の態様において、本発明は、P1H12+およびAC133+であり、そして自己再生(self−renew)可能であり、そして内皮細胞に分化する単離幹細胞を提供する。別の態様において、単離幹細胞は、さらに、CD148+、CD144−、VEGFR2−およびCD202b−である。別の態様において、前記単離幹細胞は、さらに、CD34+またはCD45+である。別の態様において、前記単離幹細胞は、さらに、CD34+およびCD45+である。別の態様において、前記単離幹細胞は、さらに、CD34−およびCD45+である。別の態様において、前記単離幹細胞は、哺乳動物由来である。別の態様において、前記哺乳動物は霊長類である。別の態様において、前記霊長類はヒトである。別の態様において、前記の第一の細胞集団は末梢血由来である。別の態様において、前記の第一の細胞集団は骨髄由来である。別の態様において、前記の第一の細胞集団は胎児肝組織由来である。別の態様において、前記単離幹細胞は、15%血清を含んでなる完全培地中で、少なくとも14日間培養可能である。別の態様において、前記単離幹細胞は、異種ポリヌクレオチド配列をさらに含んでなる。
【0010】
別の態様において、本発明は、上述のような単離幹細胞またはその子孫細胞を含んでなる細胞株を提供する。
別の態様において、本発明は、上述のような幹細胞と実質的に均質の集団を含んでなる、幹細胞培養物を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、上述のような単離幹細胞および薬学的に許容しうるキャリアーを含んでなる組成物を提供する。別の態様において、前記の薬学的に許容しうるキャリアーは、生理食塩水、ゲル、ヒドロゲル、スポンジ、およびマトリックスからなる群より選択される。
【0012】
別の態様において、本発明は、15%血清を含む完全培地中で、約6日間〜約3週間、上述のような単離幹細胞を培養することによって得られる単離子孫細胞であって、P1H
12+、CD144+、AC133−、CD202+、CD45−、VEGFR2+であり、HUVECおよびMVECよりも高い増殖能を有し、そしてヴァイベル・パラーデ体を含有することで特徴付けられる、前記単離子孫細胞を提供する。
【0013】
別の態様において、本発明は、上述のような単離子孫細胞と実質的に均質の集団を含んでなる、子孫細胞培養物を提供する。
別の態様において、本発明は、上述のような単離子孫細胞および薬学的に許容しうるキャリアーを含んでなる組成物を提供する。別の態様において、薬学的に許容しうるキャリアーは、生理食塩水、ゲル、ヒドロゲル、スポンジ、およびマトリックスからなる群より選択される。
【0014】
別の態様において、本発明は、上述のような単離幹細胞を含んでなる、組織工学構築物を提供する。
別の態様において、本発明は、上述のような単離幹細胞の子孫を含んでなる、組織工学構築物を提供する。
【0015】
別の態様において、本発明は、上述のような単離幹細胞およびその子孫細胞を含んでなる、組織工学構築物を提供する。
別の態様において、本発明は、上述のような単離幹細胞の分化を誘導する剤を同定する方法であって、前記単離幹細胞を試験剤と接触させ、そして前記単離幹細胞中の変化を検出することを含んでなり、前記変化が、前記剤が前記単離幹細胞の分化を誘導することの指標となる、前記方法を提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は、内皮細胞を含んでなる組織工学構築物を生成する方法であって、上述のような単離幹細胞を組織工学構築物中で培養することを含んでなる、前記方法を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、血管疾患または血管障害の治療が必要な被験者に、上述のような単離幹細胞を投与することを含んでなる、血管疾患または血管障害の治療法を提供する。
【0018】
別の態様において、本発明は、血管疾患または血管障害の治療が必要な被験者に、上述のような単離子孫細胞を投与することを含んでなる、血管疾患または血管障害の治療法を提供する。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、幹細胞として増殖可能であり、そして内皮細胞および/または内皮様細胞を生じさせうる幹細胞、該幹細胞を含んでなる幹細胞組成物の単離法および使用法、並びに該幹細胞由来の細胞を提供する。本発明の幹細胞は、遺伝子治療、組織工学、組織生成、創傷修復、診断学において有用性を見出し、血管形成剤として、血管生成剤として、遺伝子搬送およびタンパク質搬送のための剤として、そして療法剤として有用性を見出す。
【0020】
1つの側面において、本発明は、自己再生能力、並びに内皮細胞および/または内皮様細胞に分化する能力を含む特徴を含んでなる幹細胞を提供する。1つの態様において、本発明の幹細胞は、単層培養で18〜24時間の倍加時間を有し、そして当該技術分野に知られる初代ヒト内皮細胞(すなわちHUVEC)よりもより長い期間持続する。倍加時間は、幹細胞が培養中でインキュベーションされている日数に応じ、培養がより短ければ、倍加時間がより短い。培養において、これらの幹細胞はコラーゲンに基づく支持体上および/または支持体中に接着し、そして遊走し、そして典型的な内皮細胞形態および/または機能を持つ細胞に分化することが可能である。
【0021】
本発明の幹細胞は、内皮幹細胞表現型と関連する1以上のマーカーを発現し、そして/または分化した細胞(例えば自己再生、再生、または分化の能力が減少した細胞)および/または造血起源の細胞と関連する1以上のマーカーを欠く。ある分子が、望ましい細胞種の細胞に十分に高い割合で見られ、そして望ましくない細胞種の細胞に十分に低い割合で見られ、細胞集団において、その分子を有する細胞を選択することによって、望ましい細胞種および望ましくない細胞種両方を含んでなる細胞集団から、望ましい細胞種を望ましいレベルで精製可能である場合、その分子は、望ましい細胞種の「マーカー」である。マーカーは、例えば、望ましい細胞種の30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれより多くに提示されることが可能であり、そして望ましくない細胞種の50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%またはそれ未満に提示されることが可能である。本発明の幹細胞に特徴的なマーカーの例には、P1H12抗原(MUC18およびCD146としても知られる;Soloveyら, 2001, J. Lab. Clin. Med. 138:322−31;例えばCRP Inc.、ペンシルバニア州デンバーから入手可能な、該抗原を認識する抗体、カタログ番号MMS−470R)およびAC133(Bhatia, 2001, Leukemia 15:1685−88)が含まれる。本発明の幹細胞上に典型的には存在しないマーカーの例には、CD3、CD14、CD144、CD202b(TekまたはTie−2としても知られる;Leukocyte Typing VII, Masonら(監修), Oxford University Press, 2002, pp. 344−46)、またはその組み合わせいずれかが含まれる。
【0022】
1つの態様において、本発明の幹細胞は、単離した際、P1H12+およびAC133+である。これらの幹細胞はまた、単離時点で、CD34低またはCD34-、CD148+、および/またはCD45+であることも可能である。本発明の幹細胞はまた、表現型マ
ーカーCD14-、CD144、CD202b、および/またはVEGRF2の1以上を
欠くことも可能である。したがって、別の態様において、幹細胞は、P1H12+、CD
148+、AC133+、CD34+、CD45+、CD144-、CD202b-、およびVEGRF2-である。
【0023】
用語「前駆(precursor)細胞」、「前駆(progenitor)細胞」、および「幹細胞」は、当該技術分野および本明細書において、交換可能に用いられ、そしてその株を再生するか、または内皮細胞もしくは内皮様細胞に分化するであろう子孫細胞を産生するかいずれかの、限定されない数の有糸分裂が潜在的に可能な、多能性または系譜非拘束前駆細胞;あるいは自己再生可能であり、そして内皮細胞に分化可能である、系譜拘束前駆細胞およびその子孫、いずれかを指す。多能性幹細胞と異なり、系譜拘束前駆細胞は、一般的に、互いに表現型的に異なる多くの細胞種を生じさせることは不能であるとみなされる。その代わり、これらは、1つまたは場合によっては2つの系譜拘束細胞種を生じさせる。
【0024】
1つの側面において、本発明は、個々に、または集団で、単離幹細胞を提供する。用語「単離」または「精製」は、本発明の幹細胞を指す際に、系譜方向付けと関連するマーカーを実質的に所持しない細胞を意味する。特定の態様において、幹細胞は、こうした混入細胞種を、少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%含まない。別の態様において、単離幹細胞はまた、可溶性天然存在分子を実質的に含まない。以下により完全に論じるように、本発明の実質的に精製された幹細胞は、例えば、組織または血液試料などの天然供給源から抽出することによって(例えば密度勾配遠心分離および/またはフローサイトメトリーを介して)、得ることが可能である。適切な方法いずれかによって、純度を測定可能である。本発明の幹細胞は、以下に論じるように、例えばフローサイトメトリー(例えばFACS解析)によって、99%〜100%に精製可能である。
【0025】
1つの態様において、本発明は、幹細胞が濃縮されている集団を提供する。「幹細胞が濃縮されている集団」は、生じた幹細胞集団が、元来の細胞集団が有するよりも高い濃度の幹細胞を有するように、本発明の幹細胞が、他の細胞種から部分的に分離されているものである。幹細胞が濃縮されている集団は、分離前に元来の集団が有するよりも、約10倍、100倍、500倍、1,000倍、2,000倍、3,000倍、4,000倍、5,000倍、6,000倍、7,000倍、8,000倍、9,000倍、10,000倍またはそれより高い濃度の幹細胞を有することが可能である。本発明の幹細胞は、例えば、幹細胞が濃縮されている集団の、少なくとも5%、10%、15%、20%、35%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれより多くを構成することが可能である。幹細胞が濃縮されている集団は、例えば、分化した細胞または他の望ましくない細胞種と関連するマーカーを示す細胞を含まずに選択し(selecting against)、そして/または本発明の幹細胞と関連するマーカーを示す細胞を選択することによって、そして/または以下に論じるように、定義された培養系において、単離幹細胞を再生することによって、得られうる。
【0026】
別の態様において、本発明は、幹細胞の細胞株を提供する。本明細書において、「細胞株」は、延長された期間、好ましくは無期限に再生可能である、本発明の幹細胞、またはその子孫細胞(例えば内皮細胞および/または内皮様細胞)の培養物を意味し、そしてこの用語には、例えば培養され、凍結保存され、そして凍結保存後に再培養される細胞が含まれる。本明細書において、「培養物」は、培地中で増殖し、そして場合によって適宜継代される、内皮幹細胞集団を意味する。幹細胞培養物は、初代培養物(例えば継代されていない培養物)であることが可能であるし、あるいは、二次培養物またはそれに続く培養物(例えば、1回以上、継代培養されているかまたは継代されている細胞集団)であることが可能である。
【0027】
上に論じるように、本発明の幹細胞は、分子によって特異的に認識される特定のマーカーの存在および/または非存在によって特徴付けられる。したがって、1つの側面において、本発明は、本発明の幹細胞を標識する方法を提供する。1つの態様において、幹細胞は、本発明の幹細胞と関連するマーカー(例えばP1H12抗原)を特異的に認識する分子(例えば抗体)で標識される。別の態様において、分子がマーカーに結合するのを可能にする条件下で、マーカーに特異的に結合する分子と、細胞集団を接触させ、ここで、細胞集団は、前記マーカーを有する少なくとも1つの幹細胞を含んでなる。別の態様において、分子がマーカーに結合するのを可能にする条件下で、マーカーに特異的に結合する分子と、細胞集団を接触させ、ここで、細胞集団は、該マーカーを持たない幹細胞および該マーカーを有する非幹細胞を含んでなる。用いる分子は、例えば、抗体、抗体誘導体、リガンド、Fc−ペプチド融合分子(例えば公開PCT出願WO 01/83525 A2)、または別の分子であることが可能である。分子は、場合によって、さらなる部分、例えば検出可能部分(例えば蛍光標識または比色標識)または標識細胞の単離を補助する部分(例えば別の分子または磁気粒子に結合する部分)を含んでなることが可能である。
【0028】
別の側面において、本発明は、本発明の幹細胞を単離する方法を提供する。本発明の幹細胞は、例えば、幹細胞上のマーカー(例えばP1H12抗原、CD34、CD45、AC133、およびCD148)に結合する分子(例えば抗体、抗体誘導体、リガンドまたはFc−ペプチド融合分子)を利用し、そして分子に結合する細胞を陽性に選択することによって、単離可能である(すなわち陽性選択)。陽性選択法の他の例には、望ましい細胞種および望ましくない細胞種の混合集団において、望ましい細胞種の増殖を優先的に促
進する方法が含まれる。あるいは、望ましい細胞種上に存在しないが、望ましくない細胞種上に存在するマーカーに結合する分子を用いることによって、こうしたマーカーを含有する望ましくない細胞を、望ましい細胞から取り除くことが可能である(すなわち陰性選択)。他の陰性選択法には、望ましい細胞種および望ましくない細胞種の混合集団において、望ましくない細胞種を優先的に殺すかまたは該細胞種の増殖を優先的に阻害することが含まれる。したがって、陰性選択、陽性選択、またはその組み合わせを用いることによって、幹細胞が濃縮されている集団を作成可能である。
【0029】
本発明の内皮幹細胞は、哺乳動物被験者から得られる試料から単離可能である。被験者は、哺乳動物いずれか(例えばウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ウマ、霊長類)であることが可能であるが、好ましくはヒトである。細胞試料は、例えば骨髄、胎児組織(例えば胎児肝組織)、末梢血、臍帯血等を含む、いくつかの異なる供給源のいずれから得ることも可能である。好ましくは、細胞試料を得るのに、より侵襲性でない技術が使用され、そして容易に入手可能なドナー集団であるため、細胞供給源は、末梢血である。
【0030】
本発明の幹細胞を得るため、通常、共に存在する他の細胞から、本発明の幹細胞を単離するか、分離するか、または取り除くことが必要である。例えば、細胞供給源が末梢血由来である場合、幹細胞は他の細胞(例えば赤血球、血小板、単球、好中球、マクロファージ等)から分離されているかまたは濃縮されていなければならない。
【0031】
マーカー発現特性を介して、他の細胞種から本発明の幹細胞をまず取り除くことによって、そして/または同様の方式で、本発明の幹細胞から、方向付けられた系譜の細胞を取り除くことによって、多様な技術を使用して、本発明の幹細胞を分離することが可能である。抗体(例えばモノクローナル抗体)は、特定の細胞系譜および/または分化段階と関連する細胞表面タンパク質マーカーを同定するのに特に有用である。抗体を固体支持体に付着させることが可能である(例えば抗体コーティング磁気ビーズ)。系譜依存マーカーを認識する、商業的に入手可能な抗体の例には、抗AC133(Miltenyi Biotec、カリフォルニア州オーバーン);抗CD34(Becton Dickinson、カリフォルニア州サンノゼ)、抗CD31、抗CD62E、抗CD104、抗CD106、抗CD1a、抗CD14(すべてPharmingen、ドイツ・ハンブルグより入手可能);抗CD144および抗CD−13(Immunotech、フランス・マルセイユ)が含まれる。クローンP1H12(Chemicon、カリフォルニア州テメキュラ;カタログ番号MAB16985)は、P1H12抗原(CD146、MCAM、およびMUC18としても知られる)と特異的に反応する抗体を産生する。P1H12抗体は、正常組織および癌性組織の微小血管を含む、すべての血管の内皮細胞に特異的に局在する。P1H12抗体は、造血細胞を染色しない。
【0032】
分離法には、抗体コーティング磁気ビーズを用いた磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、モノクローナル抗体に連結させた細胞毒性剤、またはモノクローナル抗体と共に用いた細胞毒性剤、例えば補体および細胞毒、並びに固体マトリックス(例えばプレート)に付着させた抗体を用いた「パニング」、または他の好適な技術が含まれうる。正確な分離を提供する技術には、多様な度合いの精巧さ、例えば複数のカラーチャネル、小角および鈍角光散乱検出チャネル、およびインピーダンスチャネルを有することが可能な、蛍光標示式細胞分取器が含まれる。好適には、直接分離を可能にする磁気ビーズ、支持体に結合したアビジンまたはストレプトアビジンを用いて取り除くことが可能なビオチン、蛍光標示式細胞分取器で使用可能な蛍光色素などの、特定の細胞種の分離を容易にするマーカーと、抗体をコンジュゲート化することが可能である。幹細胞の生存度に過度に有害でない技術いずれかを使用可能である。
【0033】
1つの態様において、P1H12抗原選択を用いて、本発明の幹細胞から系譜拘束細胞
または他の細胞を取り除く前に、それと同時に、またはそれに続いて、造血系の多数の系譜拘束細胞(例えばT細胞、B細胞(プレB細胞およびB細胞両方)および骨髄単球性細胞)および/または少数の細胞集団(例えば巨核球、肥満細胞、好酸球および好塩基球)上に存在する細胞表面マーカーを選択する抗体に連結した磁気ビーズを用いる。総造血細胞の少なくとも約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれより多くが取り除かれるであろう;が、最後まで分化した細胞種をすべて取り除くことは本質的ではない。残存する非血小板、非赤血球細胞から幹細胞を分取するかまたは分離する前に、血小板および赤血球を(例えば密度勾配技術によって)取り除くことが可能である。プロトコルにおいて、陽性選択を利用する場合、陽性選択されるマーカーを欠く、方向付けられた細胞は、後に残されるであろう。しかし、1つの態様において、陽性選択および陰性選択両方を用いて、最終陽性選択工程において、存在する、方向付けられた細胞の数を最小限にする。末梢血において、多くの細胞種は増殖能を欠いているため、陽性選択プロセスおよび/または陰性選択プロセス後に残存する系譜確定細胞のすべてではないとしても大部分は、増殖に失敗し、そして/またはコラーゲンに基づく支持体に接着するのに失敗して、そして細胞継代技術中に取り除かれることは当業者に理解されるであろう。約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれより多くを有する組成物が、この方式によって達成可能であり、ここで望ましい幹細胞は、P1H12+、CD148+、AC133+、CD34+、CD45+、CD144-、CD202b-、およびVEGRF2-であり、そして自己再生可能であり、そして完全に分化した内皮細胞および/または内皮様細胞を生じさせうることによって同定される。
【0034】
濃縮法の組み合わせを用いて、精製または濃縮の時間または効率を改善することが可能である。例えば、目的の細胞種の指標でないマーカーを有する細胞を取り除く濃縮工程後、蛍光標示式細胞分取器(FACS)または高い特異性を有する他の方法論によって、細胞をさらに分離するかまたは濃縮することが可能である。FACSとともに、マルチカラー解析を使用可能である。特定の抗原の染色レベルまたはその欠失に基づいて、細胞を分離することが可能である。蛍光色素を用いて、特定の抗原に特異的な抗体を標識することが可能である。こうした蛍光色素には、フィコビリプロテイン(phycobiliprotein)、例えばフィコエリトリンおよびアロフィコシアニン、フルオレセイン、テキサスレッド等が含まれる。集団に存在する系譜各々を、別個の工程で、典型的には陰性選択プロセスによって分離することが可能であるが、目的の細胞種を、陽性選択プロセスの1工程で分離することが好ましい。細胞は、典型的には、完全培地(例えば明示される補充物質を含むEGM2;Clonetics Corporation)+15%血清中に収集される。血清は、異種血清、自己血清、または同種血清であることが可能である。アフィニティーカラム等の、正確な分離を可能にする、陽性選択の他の技術を使用可能である。
【0035】
分離の特定の順序は本発明には決定的ではないが、好ましい順序には、粗い分離(例えば密度勾配遠心分離)後の細かい分離(例えば幹細胞と関連するマーカー(例えばP1H12抗原)の陽性選択)が含まれる。典型的には、密度勾配分離の後、P1H12+細胞
の陽性選択が続き、これをその後、培養して、本発明の幹細胞をさらに選び出して培養する(culture−out)。
【0036】
細胞種特異的マーカーいずれかを用いて、特定の細胞種を選択するか、または特定の細胞種を含まないように選択することが可能である。こうしたマーカーの例には、CD10/19/20(B細胞関連)、CD3/4/8(T細胞関連)、CD14/15/33(骨髄球関連)、およびヒトT細胞には欠けているThy−1が含まれる。また、ローダミン123を用いて、CD34+細胞を「高」サブセットおよび「低」サブセットに分けることが可能である。マウス幹細胞とともにローダミン123を使用する記述に関しては、Spangrude, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. 87:7433を参照されたい。1つの態様において、本発明の幹細胞は、大部分、P1H12+、CD148+、AC133+、CD144-、CD202b-、VEGRF2-であり、そしてローダミン低である。
【0037】
幹細胞をひとたび単離したら、場合によって、完全培地(例えばClonetics Corp.から商業的に入手可能な補充物質、例えばIGF、EGF、FGF、およびVEGFを含有するEGM2)+15%FCS中、間質細胞(例えば骨髄、胎児胸腺または胎児肝臓から得られる間質細胞)などの他の細胞種由来の馴化(conditioned)培地中、幹細胞維持と関連する増殖因子を含有する培地中、間質細胞との同時培養中、あるいは幹細胞増殖を支持する維持因子を含んでなる培地中で、増殖させることが可能であり、ここで、間質細胞は、例えば同種または異種であることが可能である。同時培養で用いる前に、望ましくない細胞を取り除くのに適したモノクローナル抗体、例えば抗体−毒素コンジュゲート、抗体および補体等を使用して、混合間質細胞調製物が、造血細胞を含まないようにすることが可能である。あるいは、同種または異種であることが可能な、クローニングした間質細胞株を用いることが可能である。さらに、本発明の幹細胞をバイオリアクター系で培養することが可能である。
【0038】
別の態様において、本発明は、幹細胞またはその子孫の集団とともに、幹細胞および内皮様子孫細胞両方を含んでなる混合集団を樹立し、そして/または維持する方法、並びにこうして産生した細胞集団を提供する。本発明の幹細胞と同様に、内皮様細胞培養物、または幹細胞および内皮様細胞の混合培養物が樹立されたら、内皮形成を伴い、または伴わず、細胞増殖を行う条件下で、細胞密度が指示するように、新鮮な培地に継代することによって、in vitroで、細胞集団を有糸分裂で増大させる。こうした培養法には、例えば、IGF、EGF、FGF、VEGF、および/または他の増殖因子を欠く培地中で、細胞を継代することが含まれうる。十分な細胞密度に達したら、内皮細胞および/または内皮様細胞を含んでなる培養物、並びに幹細胞および内皮細胞および/または内皮様細胞を含んでなる混合培養物を、新鮮な培地に移すことが可能である。本発明の細胞種の多くは、典型的な接触阻害アポトーシスを示さないが、密度が最大になると静止する。したがって、1つの態様において、例えば細胞の一部を、新鮮な培地を含む新たな培養容器に移すことによって、細胞の集密(confluent)単層形成を防止するかまたは最小限にする。こうした除去またはトランスファーは、T75組織培養フラスコあたり、約1x106細胞の密度を超える細胞単層を有する培養容器いずれで行うことも可能である
。あるいは、培養系を攪拌して、細胞が貼り付くのを防止することが可能である。
【0039】
上述のように、本発明の幹細胞が培養中で樹立されたら、定期的なトランスファーを必要とする細胞の連続in vitro培養物、または好ましくは凍結保存されている細胞のいずれかを含んでなる細胞「バンク」中で、これらを維持するかまたは保存することが可能である。
【0040】
本発明の幹細胞または他の細胞の凍結保存は、Doyleら(監修), 1995, Cell & Tissue Culture:Laboratory Procedures, John Wiley & Sons, Chichesterに記載されるものなどの既知の方法にしたがって、実行可能である。例えば、限定するわけではないが、細胞を、例えば15〜20%ウシ胎児血清(FBS)および10%ジメチルスルホキシド(DMSO)をさらに含んでなり、5〜10%のグリセロールを含む、または含まない培地などの「凍結培地」中に、例えば約4〜10x106細胞/mlの密度で懸濁することが可能である。細胞をガラスバイアルまたはプラスチックバイアルに分配し、これをその後、密封し、そしてプログラム可能フリーザーまたは受動的フリーザーの凍結チャンバーに移す。凍結の最適速度は、経験的に決定可能である。例えば、融解熱を通じて、−1℃/分の温度変化を生じる凍結プログラムが使用可能である。細胞を含有するバイアルが−80℃に達したら、これらを液体窒素保管領域に移す。凍結保存細胞は数年間保管可能であるが、生存度の維持に関して、少なくとも5年ごとにチェックしなければならない。
【0041】
本発明の凍結保存細胞は、細胞バンクを構成し、この一部を融解することによって取り除いて、そしてその後、必要に応じて、幹細胞、内皮細胞および/または内皮様細胞、または内皮組織を含んでなる幹細胞培養物を産生するのに使用可能である。一般的に、融解は、例えば液体窒素から37℃水槽にバイアルを移すことによって、迅速に行われなければならない。融解したバイアル内容物は、無菌条件下で、直ちに完全培地(例えばIGF、EGF、FGF、およびVEGFを含有するEGM2)+15%FCSなどの適切な培地を含有する培養容器に移さなければならない。細胞ができる限り早く培地を馴化して、それによって遅延時間の長期化を防止することが可能であるように、培地中の細胞を初期密度約1〜3x105細胞/mlに調整することが望ましい。培養を始めたら、毎日、例えば倒立顕微鏡を用いて細胞を検査し、細胞増殖を検出して、そして適切な密度に達したら直ちに継代培養することが可能である。
【0042】
必要に応じて本発明の幹細胞を細胞バンクから取り除いて、そしてin vitroで、例えば以下に記載するような三次元内皮培養物として、またはin vivoで、例えば新規内皮細胞または組織が必要な部位に細胞を直接投与することによって、新規幹細胞、内皮細胞および/または内皮様細胞および/または内皮組織の産生に用いることが可能である。本明細書に記載するように、細胞を、被験者自身の血液または他の組織から元来単離した場合(すなわち自己細胞)、本発明の幹細胞を用いて、被験者において使用するための新規内皮細胞を産生することが可能である。あるいは、本発明の細胞を偏在性ドナー細胞として用いて、いかなる被験者にも使用可能な新規内皮組織を産生することが可能である(すなわち異種細胞)。
【0043】
樹立されたなら、幹細胞培養物を用いて、新規内皮組織を産生可能な内皮様子孫細胞および/または内皮細胞を産生することが可能である。特定の外因性増殖因子によって、または幹細胞培養物の培養条件(例えば密度)を変化させることによって、幹細胞から内皮細胞または内皮様細胞への分化、その後、そこからの内皮組織産生を誘発可能である。細胞は未処置(naive)であるため、これらを、放射線照射した被験者および/または化学療法で治療した被験者を再構成するのに使用可能であるし;あるいは、成熟、増殖および1以上の選択した系譜への分化を提供することによって、特定の系譜の細胞供給源として使用可能である。分化を誘導するのに使用可能な因子の例には、エリスロポエチン、コロニー刺激因子、例えばGM−CSF、G−CSF、またはM−CSF、インターロイキン類、例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8等、白血病阻害因子(LIF)、スチール因子(Stl)等、特定の系譜に拘束されるように幹細胞を誘導する心筋細胞、または他の系譜拘束細胞種との同時培養が含まれる。
【0044】
別の側面において、本発明は、幹細胞を培養して、子孫細胞を生じさせる方法、およびこうして産生した細胞を提供する。1つの態様において、子孫細胞は、P1H12+、C
D144+、AC133-、CD202b+、CD45-、VEGFR2+であり、HUVE
CおよびMVECに比較して、高い増殖能を有し、そしてヴァイベル・パラーデ体を含有する。
【0045】
別の態様において、幹細胞を遺伝子操作して、移植前または移植後に内皮細胞への分化および/または内皮産生代謝回転の成功および/または改善のために、例えばTGF−β、b−FGF、VEGF、FGF−18等、特定の種類の増殖因子の遺伝子を発現させる
。療法上の利益のため、本発明の幹細胞または幹細胞子孫において誘導するかまたはこれらに導入することが可能な他の因子または遺伝子には、例えばIL17R、TNFR、アンギオポエチン−1および2、TWEAK、TWEAKRとともに、当該技術分野に知られる他の抗炎症剤または血管形成因子が含まれる。
【0046】
天然の内皮細胞(EC)数および/または生存度は、時間とともに減少すると考えられる。したがって、特定の患者集団、例えば高齢者集団において、血管形成サイトカインに応答する能力を持つECの常在集団は限定されている可能性がある。したがって、本発明の幹細胞は、血管形成活性および組織修復の増加を生じる、望ましい細胞集団を提供することが可能である。
【0047】
本発明の細胞を用いて、疾患または外傷に起因する内皮組織の修復または置換を必要とする被験者を治療するか、あるいは、美顔または体の他の特徴を増大させるなど、美容機能を提供することが可能である。治療は、当該技術分野に現在知られる方法または将来開発される方法にしたがった、新規内皮組織を提供するための本発明の細胞の使用、およびこうして産生した内皮組織の使用を含むことが可能である。例えば、本発明の細胞が、in vivoで新規内皮組織を産生するであろうように、本発明の細胞を、組織損傷部位に移植するか、注射するか、または別の方式で直接投与することが可能である。1つの態様において、投与には、遺伝的に修飾した内皮幹細胞の投与が含まれる。
【0048】
1つの態様において、新規内皮組織の産生が望ましい部位に直接注射するため、本発明の細胞を含んでなる処方物を調製する。例えば、そして限定されるわけではないが、本発明の細胞を注射用のヒドロゲル溶液に懸濁することが可能である。あるいは、移植前に、本発明の細胞を含有するヒドロゲル溶液を、例えば型(mold)(例えば血管構築物または管状組織構築物)中で固めて、散在する細胞を有するマトリックスを形成することが可能である。マトリックスが固まったら、移植前に細胞が有糸分裂で増大するように、細胞構造を培養することが可能である。ヒドロゲルは、共有結合、イオン性結合、または水素結合を介して架橋され、水分子を捕捉してゲルを形成する、三次元の開いた格子構造を生成する、有機ポリマー(天然または合成)である。ヒドロゲルを形成するのに使用可能な材料の例には、イオン的に架橋される、アルギネートおよびその塩などの多糖、ポリホスファジン、ならびにポリアクリレート、あるいは、それぞれ、温度またはpHによって架橋される、PLURONICSTMもしくはTETRONICSTM(BASF Corp.、ニューヨーク州マウントオリーブ)のようなブロックポリマー、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレングリコール・ブロックコポリマーが含まれる。ヒドロゲル材料の合成法とともに、こうしたヒドロゲルの調製法が当該技術分野に知られる。
【0049】
こうした細胞処方物は、当該技術分野に知られる1種類以上のコラーゲンなどの選択される細胞外マトリックス構成要素、および/または増殖因子および薬剤を含む、1以上の他の構成要素をさらに含んでなることが可能である。細胞処方物に有用に取り込まれうる増殖因子には、当該技術分野に知られるか、または将来同定される、1以上の組織増殖因子が含まれ、これらには、限定されるわけではないが、TGF−βファミリーのメンバーいずれか、IGF−IおよびII、成長ホルモン、BMP−13などのBMP等が含まれる。あるいは、本発明の細胞を遺伝子操作して、BMP−13またはTGF−βなどの増殖因子を発現させ、そして産生することが可能である。本発明の細胞の遺伝子操作の詳細を以下に提供する。細胞処方物に有用に取り込まれうる薬剤には、例えば、抗炎症化合物とともに、局所麻酔剤が含まれる。他の構成要素もまた、処方物に含むことが可能であり、これらには、例えば、適切なpHおよび等張性を提供する緩衝剤、潤滑剤、細胞を投与部位にまたはその近傍に保持する粘性物質(例えばアルギネート、寒天および植物ガム)、および投与部位で望ましい効果(例えば内皮組織形成またはその物理化学特性の増進または修飾、細胞生存のための支持体、あるいは炎症または拒絶の阻害)を生じうる他の細胞種もまた含まれることが可能である。適切な創傷被膜で細胞を覆って、細胞がその部位を離れることを防止することが可能である。こうした創傷被膜が当業者に知られる。
【0050】
あるいは、本発明の幹細胞を三次元フレームワークまたは骨格上に植え付けて、そして細胞を増殖させ、そしてマトリックスを満たすか、またはin vivoで直ちに移植することが可能であり、この場合、植え付けた細胞がフレームワーク表面上で増殖し、そして被験者の細胞と協同してin vivoで内皮組織置換物を形成するであろう。こうしたフレームワークを、1以上の増殖因子、薬剤、さらなる細胞種、あるいは内皮形成を刺激するか、または別の方式で本発明の実施を増進するかもしくは改善する、上述の他の構成要素と組み合わせて移植することが可能である。
【0051】
本発明の細胞を用いて、in vitroで新規内皮組織を産生することが可能であり、これをその後、被験者において、内皮組織修復、置換または増大が必要な部位に植え込むか、移植するか、または別の方式で挿入することが可能である。限定されない態様において、本発明の幹細胞を用いて、in vitroで三次元組織構築物を産生して、これをその後、in vivoで移植する。三次元組織構築物の産生の例として、本明細書に援用される、1990年10月16日、Naughtonらに対して発行された、米国特許第4,963,489号を参照されたい。例えば、本発明の内皮幹細胞、または内皮幹細胞および内皮細胞および/または内皮様細胞を三次元フレームワークまたは骨格上に接種するかまたは「植え付け」、そしてin vitroで増殖させるかまたは成長させて、in vivoで移植可能な生存内皮組織を形成することが可能である。
【0052】
三次元フレームワークは、細胞が付着するのを可能にし(または細胞が付着するのを可能にするように修飾可能であり)、そして細胞が一層より多い層で増殖するのを可能にする、いずれかの材料および/または形状であることが可能である。いくつかの異なる材料を用いて、マトリックスを形成することが可能であり、これらには、限定されるわけではないが:ナイロン(ポリアミド類)、ダクロン(ポリエステル類)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート類、ポリビニル化合物(例えばポリビニルクロリド)、ポリカーボネート(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン(登録商標) )、サーマノックス(termanox)(TPX)、ニトロセルロース、綿、ポリグリコール酸(PGA)、コラーゲン(スポンジ、ブレード(braids)、または織った糸等の形)、腸線縫合糸(cat gut suture)、セルロース、ゼラチン、あるいは例えば多様なポリヒドロキシアルカノエートを含む、他の天然存在生分解性材料または合成材料が含まれる。これらの材料のいずれも、メッシュに織って、例えば三次元フレームワークまたは骨格を形成することが可能である。マトリックス中の孔または空間を当業者が調整して、マトリックス素材へのまたは該素材からの細胞の遊走を可能にするかまたは防止することが可能である。
【0053】
三次元フレームワーク、マトリックス、ヒドロゲル等を、置換するかまたは修復しようとする組織に適した形状に形作ることが可能である。例えば、血管移植物が望まれる場合、三次元フレームワークを管状構造の形状に形作り、そして本発明の内皮幹細胞を単独で、または間質細胞(例えば線維芽細胞)と組み合わせて植え付けて、そして適宜、培養することが可能である。例えば、本発明の細胞に加えて、その上に形成される新規内皮組織の増殖を改善するか、または該組織の1以上の特性を改変するように、三次元フレームワークに他の細胞を添加することが可能である。こうした細胞には、限定されるわけではないが、とりわけ、線維芽細胞、周皮細胞(pericytes)、マクロファージ、単球、形質細胞、肥満細胞、および脂肪細胞が含まれうる。
【0054】
さらに別の態様において、本発明の幹細胞を、「バイオリアクター」中の三次元培養系と組み合わせて用いて、細胞および生じた組織を、天然内皮組織が典型的に経験する環境
条件下で培養することによって、天然ヒト内皮組織の重要な生化学的、物理的および構造的特性を所持する内皮組織構築物を産生することが可能である。したがって、三次元培養系を断続的で、そして定期的な加圧下に維持して、そして対流によって、本発明の細胞に適切な栄養素供給を提供することが可能である。厚さおよそ2〜5mmの置換内皮組織構築物全体で、本発明の細胞に適切な栄養素供給を維持することは、構築物の見かけの密度が増加するにつれて、重要となる。圧力によって、三次元内皮構築物全体に液体が流れるのが促進され、これによって、栄養素供給および構築物中に包埋された細胞からの老廃物の除去が改善される。バイオリアクターは、いくつかの設計を含むことが可能である。典型的には、培養条件には、細胞を含有する構築物に、in vivoで出会うのと類似の生理学的ストレスを課すことが含まれるであろう。例えば、血管の圧力および剪断力をシミュレートする条件下で、血管構築物を培養することが可能である(例えば、本明細書に援用される米国特許第6,121,042号を参照されたい)。
【0055】
本発明の幹細胞、その子孫、および内皮組織は、多様な適用に使用可能である。これらには、限定されるわけではないが、本明細書に記載するように、例えば三次元フレームワークに、付着しない形または付着した形のいずれかでの細胞の移植または植え込みが含まれる。さらに、本発明の細胞により産生される新規内皮組織から調製される細胞外マトリックスの注射を被験者に投与するか、または細胞をさらに培養するのに使用することが可能である。こうした細胞、組織、および細胞外マトリックスは、疾患または外傷のために損傷を負っているか、または正常に発生するのに失敗したか、または美容目的のため、内皮組織を修復するか、置換するか、または増大させるのに役立ちうる。
【0056】
本発明にしたがって産生される内皮組織を用いて、損傷を負ったかまたは破壊された内皮組織を修復するかまたは置換し、現存する内皮組織を増大させ、新規組織または改変された組織を導入し、人工補綴を修飾し、あるいは生物学的組織または構造を連結することが可能である。例えば、そして限定するわけではなく、本発明の特定の態様は、本発明の内皮幹細胞またはその子孫を用いて調製した置換心臓弁および血管組織または移植片を含むであろう。別の態様において、本発明の細胞を、血管形成因子と組み合わせて投与して、被験者における新規毛細血管または血管の形成を誘導するかまたは促進する。本発明の細胞は、血管形成因子注射前、注射と同時、または注射後に投与可能である。さらに、本発明の細胞を、血管形成因子投与部位にすぐ隣接して、該部位と同部位に、または該部位から遠くはなれて投与可能である。血管形成因子は、被験者において血管形成を促進するかまたは誘導する、増殖因子、タンパク質または剤を意味する。
【0057】
さらに、本発明の細胞または内皮組織を用いて、例えば化合物、アレルゲン、増殖/制御因子、薬剤化合物等の、内皮幹細胞に対する有効性および/または細胞毒性に関して、in vitroでスクリーニングし;内皮幹細胞の生物学的活性(例えば増殖能、接着)の変化を決定することによって、特定の疾患の機構を解明し;薬剤および/または増殖因子が機能して内皮幹細胞の生物学的活性を調節する機構を研究し;遺伝子治療、遺伝子搬送またはタンパク質搬送のため、患者において癌を診断して、そして監視し;そして生物学的活性産物を産生することが可能である。
【0058】
内皮幹細胞はまた、内皮幹細胞の分化および成熟と関連する因子の単離および評価にも使用可能である。したがって、馴化培地などの培地の活性を決定するアッセイ、細胞増殖活性、特定の系譜への方向付けの関与に関して液体を評価するアッセイ等において、幹細胞を使用可能である。多様な系が適用可能であり、そしてこうした系を設計して、多様な生理学的ストレスに基づいて、幹細胞の分化を誘導することが可能である。例えば、本発明の細胞とともに使用可能なバイオリアクター系には、血管組織をシミュレートするバイオリアクターが含まれる。
【0059】
本発明の内皮幹細胞、その子孫(例えば分化した内皮細胞および/または内皮様細胞)、およびそれに由来する内皮組織をin vitroで用いて、薬学的剤、増殖/制御因子、抗炎症性剤等の有効性および細胞毒性に関して、非常に多様な剤をスクリーニングすることが可能である。この目的に向けて、本発明の細胞または組織培養物をin vitroで維持し、そして試験しようとする剤に曝露することが可能である。培養中の内皮幹細胞またはその子孫に損傷を与えるか、またはこれらの細胞を殺す能力によって、細胞毒性剤の活性を測定可能である。染色技術によって、これを容易に評価可能である。生存細胞数をin vitroで解析することによって、例えば総細胞数および分化した細胞数によって、増殖/制御因子の効果を評価することが可能である。種特異的細胞抗原を明示する抗体を使用する、免疫細胞化学技術の使用を含む、標準的細胞学的技術および/または組織学的技術を用いて、これを達成可能である。本発明の細胞に対する多様な薬剤の影響を、懸濁培養において、または三次元の系において、評価することが可能である。
【0060】
本発明の内皮幹細胞、その子孫、およびそれに由来する内皮組織は、移植の結果を補助するかまたは改善するため、in vivoで遺伝子および遺伝子産物を導入するビヒクルを提供し、そして/または遺伝子治療に用いるビヒクルを提供することが可能である。
【0061】
目的の遺伝子産物を発現する内皮幹細胞、またはin vitroで該細胞から産生される内皮組織を、そうでなければその遺伝子産物について不全である被験者に移植することが可能である。例えば、多様な種類の血管疾患または血管障害の症状を防止するかまたは寛解させることが可能な産物を発現するか、あるいは炎症性障害を防止するかまたは促進する遺伝子が、特に興味深い。1つの態様において、本発明の細胞を遺伝子操作して、移植に失敗するリスク、または炎症性反応による、内皮組織のさらなる変性変化のリスクを減少させるのに役立つであろう、抗炎症性遺伝子産物を発現させる。例えば、本発明の内皮幹細胞を遺伝子操作して、例えば、顆粒球−マクロファージ・コロニー刺激因子(GM−CSF)、TNF、IL−1、IL−2、または他の炎症性サイトカインを中和する抗体のイディオタイプに対応するペプチドまたはポリペプチドを含む、1以上の抗炎症性遺伝子産物を発現させることが可能である。IL−1は、プロテオグリカンおよびII型、IX型、およびXI型コラーゲンの合成を減少させることが示されてきている(Tylerら, 1985, Biochem. J. 227:69−878;Tylerら, 1988, Coll. Relat. Res. 82:393−405;Goldringら, 1988, J. Clin. Invest. 82:2026−2037;およびLefebvreら, 1990, Biophys. Acta. 1052:366−72)。TNFもまた、プロテオグリカンおよびII型コラーゲンの合成を阻害するが、IL−1よりはるかに強力でない(Yaron, I.ら, 1989, Arthritis Rheum. 32:173−80;Ikebe, T.ら, 1988, J. Immunol. 140:827−31;およびSaklatvala, J., 1986, Nature 322:547−49)。また、例えば、本発明の細胞を操作して、宿主による移植拒絶を防止する、ヒト補体制御タンパク質をコードする遺伝子を発現させることが可能である。例えばMcCurryら, 1995, Nature Medicine 1:423−27を参照されたい。別の態様において、内皮幹細胞を操作して、血管形成因子を発現するかまたは該因子の発現を引き起こす、遺伝子またはポリヌクレオチド配列を含ませることが可能である。
【0062】
遺伝的に改変された幹細胞は、in vivoおよびin vitroで、非療法および療法組換えタンパク質両方を産生するのに有用である。上述のように内皮幹細胞をドナー(非ヒトまたはヒト)から単離し、in vitroまたはex vivoで組換えポリヌクレオチドでトランスフェクションまたは形質転換し、そしてレシピエントに移植するか、またはin vitroで培養する。遺伝的に改変された内皮幹細胞または子孫は、in vivoまたはin vitroで望ましい組換えタンパク質を産生する。産生されたタンパク質または分子は、直接または間接的に、療法効果を引き起こすか、あるいは診断タンパク質または分子を産生することが可能である。
【0063】
あるいは、本発明の内皮幹細胞または子孫を遺伝子操作して、VEGF、FGF、EGF、IGFなどの増殖因子とともに、TWEAK、TWEAKR、TNFRなどの療法剤、他の抗炎症剤、または血管形成剤を発現させそして産生することが可能である。例えば、こうした増殖因子または療法剤の遺伝子またはコード配列を、制御されるプロモーターと機能可能な関連下に配置して、培養における、増殖因子または剤の産生を調節可能であるようにする。本発明の細胞を遺伝子操作して、抗炎症因子、例えば抗GM−CSF、抗TNF、抗IL−1、抗IL−2等の、移植に有益な他の組換え産物を産生することが可能である。あるいは、細胞を遺伝子操作して、炎症を促進する天然遺伝子産物、例えばGM−CSF、TNF、IL−1、IL−2の発現を「ノックアウト」するか、または拒絶のリスクを低下させるため、MHCの発現を「ノックアウト」することが可能である。さらに、遺伝子治療で使用するために、細胞を遺伝子操作して、被験者における遺伝子活性レベルを調整して、内皮移植の結果を補助するかまたは改善することが可能である。遺伝子操作した細胞をスクリーニングして、in vivoでリウマチ性疾患または炎症反応の症状の寛解をもたらし、そして/または免疫学的監視および拒絶を逃れる細胞株を選択することが可能である。
【0064】
慣用的な組換えDNA技術を用いて、幹細胞またはその子孫に望ましいポリヌクレオチドを導入する。ポリヌクレオチド(例えば置換遺伝子)を導入するのに用いる正確な方法は、本発明には決定的でない。例えば、細胞にポリヌクレオチドを導入するための物理的方法には、マイクロインジェクションおよびエレクトロポレーションが含まれる。リン酸カルシウムとの共沈殿およびリポソームへのポリヌクレオチドの取り込みなどの化学的方法もまた、哺乳動物細胞にポリヌクレオチドを導入する標準法である。例えば、DNAまたはRNAは、ネズミおよび鳥レトロウイルス由来のものなどの、標準的ベクターを用いて導入可能である(例えばGluzmanら, 1988, Viral Vectors, Cold Spring Harbor Laboratory, ニューヨーク州コールドスプリングハーバーを参照されたい)。標準的組換え分子生物学法もまた、当該技術分野に周知であり(例えばAusubelら, 1989, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, ニューヨークを参照されたい)、そして遺伝子治療用のウイルスベクターが開発され、そして臨床的に用いられて成功を収めている(Rosenbergら, 1990, N. Engl. J. Med, 323:370)。DNAでコーティングしたマトリックスからの裸のポリヌクレオチドの取り込みなどの他の方法もまた、本発明に含まれる(例えば、本明細書に援用される米国特許第5,962,427号を参照されたい)。本発明の組換え幹細胞に産生されることが可能なタンパク質、ポリヌクレオチドまたは分子の例には、GMCSF、IGF、EGF、VEGF、FGF等が含まれる。
【0065】
さらなる態様において、本発明の内皮幹細胞をin vitroで培養して、高い収率で生物学的産物を産生することが可能である。例えば、こうした細胞は、目的の特定の生物学的産物(例えば増殖因子、制御因子、またはペプチドホルモン等)を天然に産生するか、または生物学的産物を産生するように遺伝子操作されているかいずれであっても、クローンで増大させることが可能である。細胞が栄養培地中に生物学的産物を分泌するならば、標準的分離技術、例えばいくつかのみを挙げると、分画タンパク質沈殿(differential protein precipitation)、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、電気泳動、およびHPLCなどを用いて、消費(spent)培地または馴化培地から、産物を容易に単離可能である。あるいは、目的の生物学的産物が細胞内に保持される可能性があり、そしてしたがって、その収集は、細胞が溶解されることを必要とする可能性がある。その後、上に列挙する技術のいずれか1以上を用いて、生物学的産物を精製可能である。
【0066】
本発明の幹細胞の療法的使用には、幹細胞、幹細胞集団、その子孫を個体に移植して、心筋損傷に起因する疾患および障害、循環または血管の障害または疾患とともに、組織再生および修復を含む、多様な病的状態を治療することが含まれる。幹細胞または幹細胞集団(遺伝的に改変された幹細胞を含む)を、こうした幹細胞を必要とする、あるいは遺伝的に改変された細胞がコードするかまたは産生するタンパク質または分子を必要とする被験者に導入する。例えば、1つの態様において、被験者の内皮幹細胞、内皮細胞、または内皮を殺すか、減少させるか、またはこれらに損傷を与える化学療法を経験した癌患者に、幹細胞を投与することが可能である。
【0067】
幹細胞が、レシピエント被験者に比較して異種供給源に由来している場合、典型的には、同時免疫抑制療法を投与し、例えば免疫抑制剤であるシクロスポリンまたはFK506を投与する。しかし、本発明の幹細胞は未成熟状態であるため、こうした免疫抑制療法は必要でない可能性がある。したがって、1つの態様において、免疫調節(例えば免疫抑制)療法の非存在下で、本発明の幹細胞をレシピエントに投与することが可能である。あるいは、液体の交換を可能にするが、細胞/細胞接触は防止する膜に、細胞を被包することが可能である。微小被包された細胞の移植が当該技術分野に知られ、例えばBalladurら, 1995, Surgery 117:189−94, 1995;およびDixitら, 1992, Cell Transplantation 1:275−79に記載される。
【0068】
細胞を末梢血に直接導入するか、あるいは体中の他の位置、例えば脾臓内、膵臓内に、または腹腔中のマイクロキャリアービーズ上に沈着させることが可能である。例えば、102〜109細胞を単一処置で移植可能であり、そして必要に応じてさらなる移植を行うことが可能である。
【0069】
幹細胞の分化をex vivoで誘導するか、あるいは、in vivoで組織と接触させることによって誘導することが可能である(例えば内皮細胞または細胞マトリックス構成要素との接触によって)。場合によって、分化剤を被験者に同時投与するかまたは続いて投与して、幹細胞分化を促進することが可能である。
【0070】
別に定義しない限り、本明細書に用いる、すべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当該技術分野の一般の当業者に通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に提供するすべての見出しおよび小見出しは、単に読みやすさのために提供するのであり、そして本発明を限定するとみなしてはならない。用語「a」、「an」および「the」は、本明細書において、文脈が明らかに単数形を指示するのでない限り、複数形を含むことを意味する。本発明の実施または試験には、本明細書に記載するものと類似かまたは同等の方法および材料を使用可能であるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書に言及する、すべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、本明細書に完全に援用される。矛盾する場合は、定義を含めて、本明細書が支配するであろう。さらに、材料、方法、および実施例は、例示のみのものであり、そして限定することを意図しない。以下の実施例は、特定の態様を例示することを意図し、そして本発明の範囲を限定しない。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
内皮幹細胞単離
PBMCを単離するため、1.077の比重を有するFICOLLTM(Amersha
m Biosciences、ニュージャージー州ピスカタウェイ)上で遠心分離することによって、体積200ccのナトリウム・ヘパリン処理したヒト血液を分画した。「バフィーコート」中に存在する単離PBMCを、完全培地(IGF、FGF、EGF、およびVEGFを含有するEGM2+15%FCS;Cambrex Bioscience, Inc.、メリーランド州ボルチモア)中、およそ100x106細胞/mlで、そしてこれを超えないように再懸濁した。10μg/mlのマウス抗P1H12抗体(Chemicon MAB 16985)を細胞に添加し、そして室温で1時間インキュベーションした。
【0072】
細胞を完全培地またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2回洗浄し、そして1mlのPBS中、およそ100x106細胞であるがこれを超えずに、再懸濁した。20μl
の磁気抗muIgG−MACSフィリング(カタログ番号130−047−101、Miltenyi Biotec、カリフォルニア州オーバーン)を、約10x106細胞を
含有する20μlに添加して、細胞を抗体標識し、そして細胞を4℃で15分間インキュベーションした。抗体標識した細胞を、PBS+3%ウシ血清アルブミン(BSA)中で1回洗浄し、そして5ml PBS+3%BSAの最終体積中に再懸濁した。
【0073】
その後、抗体標識した細胞を、VARIOMACTM磁石(Miltenyi Biotec)上、調製したMACS LSカラム上を通過させた。フロースルー分画を収集し、そして廃棄し、そしてカラムをPBS+3%BSAで3回洗浄した。磁場の非存在下で、カラムを洗浄することによって、カラムから標識細胞を取り除いた。溶出した分画を洗浄し、そして計数した。
【0074】
完全培地中、6ウェルコラーゲンIVプレート(Becton Dickinson、ニュージャージー州フランクリンレークス)のウェルあたり、およそ1〜5x106細胞
であるが、典型的にはこれを超えない密度で、陽性分画細胞を培養した。48時間後、非接着細胞を取り除いた。培地を週2回、半枯渇させた(demidepleted)。
【0075】
(実施例2)
内皮幹細胞性質決定
以下の表に示すように、単離時および多様な時点でのFACSによって、細胞を性質決定した。
【0076】
単離時、細胞は、比較的高レベルのP1H12抗原、CD148、およびAC133を発現しているようであった。細胞はCD202bおよびCD144に関して陰性であった。いくつかの単離体において、CD45+細胞の下位集団は、CD34+も発現した。総細胞の割合として表す、これらのCD45+/CD34+二重陽性細胞の量は多様であり、そしていくつかの場合、100%であった。表1は、単離時点で、細胞上に存在する、測定されたマーカーを示す。マウスIgG1をフローサイトメトリーの対照として用い;対照データを表1に示す。
【0077】
表1:P1H12+細胞濃縮後のフローサイトメトリー解析および細胞表現型
【0078】
【表1】

【0079】
培養中、内皮幹細胞の外見が変化し、そして細胞上に存在するマーカーは、表2に示すように変化した。
【0080】
表2.時間に渡る単一ドナーの表面マーカーの要約
【0081】
【表2】

【0082】
(実施例3)
刺激に反応したヒト末梢血幹細胞由来内皮細胞の平面遊走および遊走阻害剤の影響
平面内皮細胞遊走(創傷閉鎖)アッセイを用いて、PMA、EGFおよび他の遊走刺激に反応した、ヒト末梢血由来内皮細胞の遊走を定量化した。このアッセイでは、内皮細胞遊走を培養細胞単層中の環状創傷の閉鎖速度として測定する。創傷閉鎖速度は、腎および皮膚の微小血管内皮細胞において、直線性であり、そしてin vivoで血管形成を刺激する剤および阻害する剤によって、動的に制御される。腎微小血管内皮細胞および皮膚
の微小血管内皮細胞は、PMAおよびEGFに反応して遊走し、そしてこの遊走は、遊走培養に抗血管形成剤を添加することによって制御可能である(Wileyら, 2001, Immunity 15:837−46)。末梢血ヒト幹細胞を本明細書に記載するように単離し、そして本明細書に記載するように、初代ヒト末梢血由来内皮細胞、hPBECの子孫を単離し、培養し、そして継代6〜11の間で用いた。シリコンチップドリルプレスを用いて、約80,000細胞/ウェルの、一晩血清欠乏させた(DMEM+0.5%FBS)集密hPBEC単層において、複製環状損傷、「創傷」(直径600〜800ミクロン)を生成した。創傷を与えた時点で、培地(DMEM+0.1%FBS)に、5ng/ml PMA(ホルボール−12−ミリステート−13−アセテート)、40ng/ml EGFあるいは5ng/ml PMAまたはEGFおよび遊走阻害剤の組み合わせを補った。顕微鏡および画像解析ソフトウェア(Bioquant;テネシー州ナッシュビル)を用いて、時間(0〜14時間)の関数として、残余創傷領域を測定した。各剤および剤の組み合わせに関して、時間に渡ってプロットした、残余創傷面積の線形回帰によって、相対遊走率を計算した。結果を図1〜2に示す。hPBECはPMAに反応してよく遊走し(>=50%)(図1)、そしてEGFに反応する場合は、より遅く遊走した(>=35%)(図2)。抗血管形成剤huTekΔFc(WO 00/75323)、TweakR.Fc(WO 01/45730)、ネクチン−3α−Fc(B7L4.Fc)(WO 02/28902)、およびCD148 mAbを、示す濃度で添加すると、PMAが誘導するhPBEC遊走が、huIgG対照タンパク質に比較して、それぞれ、40%、40%、70%および100%阻害された(図1)。抗血管形成剤huTekΔFc、TweakR.Fc、ネクチン−3α−Fc(B7L4.Fc)、および抗CD148 mAbを、示す濃度で添加すると、EGFが誘導するhPBEC遊走が、huIgG対照タンパク質に比較して、それぞれ、50%、100%、95%および100%阻害された(図2)。
【0083】
(実施例4)
バリア遊走アッセイ
内皮幹細胞を培地(例えばEGM−2培地、Clonetics、メリーランド州ウォーカーズビル)中、そしてPMA(50ng/ml)の存在下または非存在下で、一晩(18時間)培養し、そしてその後、細胞を洗浄し、そして4μMカルセイン色素を含有するPBS中で2時間標識した。カルセイン標識後、488nmの励起によって、蛍光を発するように細胞を励起した。細胞をPBS中で洗浄し、基本培地(EBM+/−0.1%FBS)中に再懸濁し、そして24ウェルプレート用の3ミクロン孔サイズのフルオロブロック挿入物における培養に置いた。分化した内皮細胞子孫を含む5万の幹細胞を、フルオロブロック挿入物において、基本培地300マイクロリットル中で培養して、そして細胞を含有する挿入物を、挿入物の不透性(opaque)3ミクロンフィルターから24ウェルプレートに、本発明の細胞を遊走させるかまたは移動させる潜在能力(走触性)を有するサイトカインおよび/または血清を含む1mlの培地を含有する24ウェル無菌培養プレートに入れた。マルチ標識カウンターを用いて、底部ウェルにおいて、530nmで観察される蛍光発光レベルを測定することによって、フィルターを通じた細胞の遊走を検出した。遊走結果は、上記の実施例3の平面遊走アッセイ結果と類似であった。
【0084】
(実施例5)
毛細管/索状組織(chord)形成アッセイ
エンゲルブレス−ホルム−スウォーム(EHS)マウス肉腫から抽出した、可溶化基底膜調製物である、MATRIGELTMマトリックス(Becton Dickinson、マサチューセッツ州ベッドフォード)を氷上、4℃で一晩融解した。24ウェルプレート(BD Labware、ニュージャージー州フランクリンレークス)および1000μlピペットチップもまた、4℃で一晩冷却した。アッセイ当日、泡を入れないように注意しながら、ウェルあたり300μlのMATRIGELTMでプレートウェルを均一にコーティングした。コーティングしたプレートを37℃で30分間インキュベーションして、マトリックスが重合するのを可能にした。
【0085】
内皮幹細胞および/または幹細胞由来の内皮細胞をトリプシン処理し、新鮮完全培地中で洗浄し(実施例1に記載するとおり)、そして計数した。ウェルあたり3万の細胞を100μl増殖培地中に入れ、そして37℃で30分間インキュベーションした。新鮮な増殖培地500μlを添加した。
【0086】
蒔いた後、4時間および5時間の時点で細胞を観察した。MATRIGELTM上に蒔いたことを除いて、同一に処理した対照細胞を比較のために用いた。4時間の時点で、対照細胞は、組織培養プラスチック上で増殖させた細胞に特徴的な、全体に散在する接着を示した。MATRIGELTM上で4時間増殖させた細胞は、多数の増殖巣を形成し、増殖巣を連結する細胞は、管腔状の索状組織の外見を生じた。豊富な管腔構造の出現は、培養24時間までの観察によって明らかであった。
【0087】
(実施例6)
投与した幹細胞および幹細胞子孫のin vivo局在
本実施例は、本明細書に記載する方法によって単離した細胞が、in vivoで、血管形成活性および/または血管生成活性を有する領域に遊走することを立証する。
【0088】
ドナー1017ヒト末梢血由来内皮細胞(hPBEC;実施例3に記載するように、血液由来内皮前駆細胞から増大させたもの)を、1ミクロンの蛍光緑黄色ビーズ(515nmで発光;Molecular Probes、オレゴン州ユージーン)を用いてin vitroで標識した。ドナー1017 hPBEC(1x106細胞あたり5x106ビーズ)を18時間インキュベーションすることによって、細胞標識を達成した。ビーズを取り込んだ接着細胞を、簡単にトリプシン処理して取り除き、そしてPBS中で1回洗浄して、取り込まれていないビーズを取り除き、そしてEC増殖培地(実施例1に記載するとおり)中で再度蒔いて、そして再付着させた。倒立光学顕微鏡および免疫蛍光によって、細胞標識を確認した。注射当日(以下を参照されたい)、簡単にトリプシン処理することによって、標識1017 hPBECを取り除き、そして皮内(i.d.)または静脈内(i.v.)注射用にPBSに再懸濁した。標識ヒト皮膚微小血管内皮細胞(hMVEC−d)は、対照として働き、そしてi.d.で投与した5x106蛍光ビーズ単独は、陰性対照として働いた。
【0089】
24時間未満の新生BALB/c心臓を、麻酔した12週齢メスBALB/c SCIDマウス(Jackson Labs、メイン州バーハーバー)の耳介(両側性)に移植した。移植直後、マウスの耳の、移植した心臓から4〜5mmの箇所に、標識ドナー1017 hPBEC細胞(1x106細胞、i.d.または2x106細胞、i.v.)、蛍光ビーズのみ(5x106ビーズ、i.d.)または標識hMVEC−d細胞(1x106細胞)いずれかを注射した。
【0090】
細胞をi.d.注射した直後、OPENLABTMソフトウェア(Improvision, Inc.マサチューセッツ州レキシントン)によって制御する、4xおよび10x対物レンズ、並びに微光蛍光を検出するCCDカメラを取り付けた、電動倒立顕微鏡を含んでなる顕微鏡系を用いて、麻酔したマウスの耳を画像化して、注射部位に緑色免疫蛍光細胞が沈着していることを確認した。移植/細胞注射の24時間後および144時間後、両方の時点で、各レシピエントマウスにおいて、耳同系移植片を画像化した。
【0091】
生存標識hPBEC(ドナー1017)または蛍光ビーズ単独の両方の沈着を、注射直後(1〜2時間後)の注射部位に限定して観察した。注射24時間後までに、標識hPB
ECが注射部位から虚血心臓に向かって遊走するのが観察可能であった。注射144時間後までに、心臓同系移植片が拍動し、そしてより多数の、標識し、i.d.注射したhPBECが、注射部位から心臓移植片に向かって遊走した。ある程度のhPBECは、血管新生が起こる、拍動する心臓同系移植片の部分、またはそれにすぐ隣接する領域中に遊走した。i.d.注射ビーズも、またi.v.注射標識細胞も、注射24時間後または144時間後には検出不能であった。i.d.注射細胞を、露出した皮膚表面近くの皮間(interdermal)空間に局在させて、組織学的に追跡する必要があるi.v.注射細胞よりも、より容易に、画像化装置が追跡するのを可能にした。
【0092】
前述の発明は、理解を明確にする目的で、例示および実施例によってある程度詳細に記載されているが、本発明の解説に鑑みて、付随する請求項の精神または範囲から逸脱することなく、特定の変化および修飾を行うことが可能であることが、一般の当業者には容易に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、創傷閉鎖アッセイにおいて、PMAが誘導する、幹細胞由来ヒト血液内皮細胞の遊走における、異なる阻害剤の効果を示す。
【図2】図2は、創傷閉鎖アッセイにおいて、EGFが誘導する、幹細胞由来ヒト血液内皮細胞の遊走における、異なる阻害剤の効果を示す。
【図3】図3は、バイオマス産生として表した、本発明の幹細胞および子孫細胞の増殖能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞が濃縮されている集団を調製する方法であって、第一の細胞集団から幹細胞が濃縮されている前記集団を分離することを含んでなり、幹細胞が濃縮されている前記集団が、前記の第一の細胞集団より、少なくとも約100倍高い濃度のP1H12+幹細胞を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、前記の第一の細胞集団より、少なくとも約1,000倍高い濃度のP1H12+幹細胞を含んでなる、請求項1の方法。
【請求項3】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、前記の第一の細胞集団より、約1,000倍〜約4,000倍高い濃度のP1H12+幹細胞を含んでなる、請求項1の方法。
【請求項4】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、さらに、CD148、AC133、CD45およびCD34からなる群より選択される1以上のマーカーを、前記の第一の細胞集団より高い濃度で含んでなる、請求項1の方法。
【請求項5】
前記分離工程が、前記の第一の細胞集団を、P1H12+に特異的に結合する分子と接触させ、そして前記分子に結合する、濃縮されている前記細胞集団を選択することを含んでなる、請求項1の方法。
【請求項6】
前記分子が抗体である、請求項5の方法。
【請求項7】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項6の方法。
【請求項8】
前記分子が抗体由来である、請求項6の方法。
【請求項9】
前記分子がペプチド−Fc融合分子である、請求項6の方法。
【請求項10】
前記分離工程が、前記の第一の細胞集団を、CD148、AC133、CD45およびCD34からなる群より選択される分子に特異的に結合する分子と接触させ、そして濃縮されている前記細胞集団に関して、前記分子に結合する細胞を選択することをさらに含んでなる、請求項1の方法。
【請求項11】
前記分離工程が、濃縮されている前記細胞集団を、CD148、AC133、CD45およびCD34からなる群より選択されるマーカーに特異的に結合する分子と接触させ、そして前記分子に結合しない細胞を、濃縮されている前記細胞集団から取り除くことをさらに含んでなる、請求項1の方法。
【請求項12】
前記分離工程が、前記の第一の細胞集団を、CD144、CD202b、VEGFR2からなる群より選択される分子に特異的に結合する分子と接触させ、そして濃縮されている前記細胞集団に関して、前記分子に結合しない細胞を選択することをさらに含んでなる、請求項1の方法。
【請求項13】
前記分離工程が、濃縮されている前記細胞集団を、CD144、CD202b、VEGFR2からなる群より選択される分子に特異的に結合する分子と接触させ、そして前記分子に結合する細胞を、濃縮されている前記細胞集団から取り除くことをさらに含んでなる、請求項1の方法。
【請求項14】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、前記の第一の細胞集団より、P1H12+、CD
148+、AC133+、CD144−、CD202b−またはVEGFR2−である幹細胞を、少なくとも約100倍高い濃度で含んでなる、請求項1の方法。
【請求項15】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、前記の第一の細胞集団より、P1H12+、CD148+、AC133+、CD144−、CD202b−またはVEGFR2−である幹細胞を、少なくとも約1,000倍高い濃度で含んでなる、請求項14の方法。
【請求項16】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、前記の第一の細胞集団より、P1H12+、CD148+、AC133+、CD144−、CD202b−またはVEGFR2−である幹細胞を、約1,000倍〜約4,000倍高い濃度で含んでなる、請求項15の方法。
【請求項17】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、さらに、CD34+またはCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている、請求項14の方法。
【請求項18】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、さらに、CD34−およびCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている、請求項14の方法。
【請求項19】
幹細胞が濃縮されている前記集団が、さらに、CD34+およびCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている、請求項14の方法。
【請求項20】
前記分子が検出可能実体に結合している、請求項5の方法。
【請求項21】
前記検出可能実体が、蛍光実体、比色実体、または磁気実体である、請求項20の方法。
【請求項22】
前記分子が固体支持体に結合している、請求項5の方法。
【請求項23】
前記固体支持体がプラスチック表面、ガラス表面、アガロース、アクリルアミド、レクチンまたは磁気粒子である、請求項22の方法。
【請求項24】
幹細胞が濃縮されている前記集団を培養して、P1H12+、CD144+、AC133−、CD202+、CD45−、VEGFR2+であり、HUVECおよびMVECよりも高い増殖能を有し、そしてヴァイベル・パラーデ体を含有する子孫細胞を生じさせる工程をさらに含んでなる、請求項1の方法。
【請求項25】
前記の第一の細胞集団が哺乳動物由来である、請求項1の方法。
【請求項26】
前記哺乳動物が霊長類である、請求項25の方法。
【請求項27】
前記霊長類がヒトである、請求項26の方法。
【請求項28】
前記の第一の細胞集団が末梢血由来である、請求項1の方法。
【請求項29】
前記の第一の細胞集団が骨髄由来である、請求項1の方法。
【請求項30】
前記の第一の細胞集団が胎児肝組織由来である、請求項1の方法。
【請求項31】
請求項1の方法によって調製した、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項32】
前記幹細胞が、CD148、AC133、CD45およびCD34からなる群より選択
されるマーカーの1またはそれより多くに関して陽性である、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項33】
P1H12+、CD148+、AC133+、CD144−、CD202b−およびVEGFR2−である幹細胞に関して濃縮されている、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項34】
さらに、CD34+またはCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項35】
さらに、CD34+およびCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項36】
さらに、CD34−およびCD45+である幹細胞に関しても濃縮されている、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項37】
前記幹細胞が、ヴァイベル・パラーデ体を含有する、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項38】
前記幹細胞が内皮前駆細胞である、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項39】
前記の第一の細胞集団が哺乳動物由来である、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項40】
前記哺乳動物が霊長類である、請求項39の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項41】
前記霊長類がヒトである、請求項40の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項42】
前記の第一の細胞集団が末梢血由来である、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項43】
前記の第一の細胞集団が骨髄由来である、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項44】
前記の第一の細胞集団が胎児肝組織由来である、請求項31の、幹細胞が濃縮されている集団。
【請求項45】
請求項31の、幹細胞が濃縮されている前記集団由来の、子孫細胞集団であって、P1H12+、CD144+、AC133−、CD202+、CD45−、VEGFR2+であり、HUVECおよびMVECよりも高い増殖能を有し、そしてヴァイベル・パラーデ体を含有する、前記子孫細胞集団。
【請求項46】
P1H12+およびAC133+であり、そして自己再生(self−renew)可能であり、そして内皮細胞に分化する、単離幹細胞。
【請求項47】
さらに、CD148+、CD144−、VEGFR2−およびCD202b−である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項48】
さらに、CD34+またはCD45+である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項49】
さらに、CD34+およびCD45+である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項50】
さらに、CD34−およびCD45+である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項51】
哺乳動物由来である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項52】
前記哺乳動物が霊長類である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項53】
前記霊長類がヒトである、請求項46の単離幹細胞。
【請求項54】
末梢血由来である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項55】
骨髄由来である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項56】
胎児肝組織由来である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項57】
15%血清を含んでなる完全培地中で、少なくとも14日間培養可能である、請求項46の単離幹細胞。
【請求項58】
異種ポリヌクレオチド配列をさらに含んでなる、請求項46の単離幹細胞。
【請求項59】
請求項46の前記単離幹細胞またはその子孫細胞を含んでなる細胞株。
【請求項60】
請求項38の前記幹細胞と実質的に均質の集団を含んでなる、幹細胞培養物。
【請求項61】
請求項46の前記単離幹細胞および薬学的に許容しうるキャリアーを含んでなる組成物。
【請求項62】
前記の薬学的に許容しうるキャリアーが、生理食塩水、ゲル、ヒドロゲル、スポンジ、およびマトリックスからなる群より選択される、請求項61の組成物。
【請求項63】
15%血清を含む完全培地中で、約6日間〜約3週間、請求項38の前記単離幹細胞を培養することによって得られる単離子孫細胞であって、P1H12+、CD144+、AC133−、CD202+、CD45−、VEGFR2+であり、HUVECおよびMVECよりも高い増殖能を有し、そしてヴァイベル・パラーデ体を含有することで特徴付けられる、前記単離子孫細胞。
【請求項64】
請求項63の前記単離子孫細胞と実質的に均質の集団を含んでなる、子孫細胞培養物。
【請求項65】
請求項63の前記単離子孫細胞および薬学的に許容しうるキャリアーを含んでなる組成物。
【請求項66】
薬学的に許容しうるキャリアーが、生理食塩水、ゲル、ヒドロゲル、スポンジ、およびマトリックスからなる群より選択される、請求項65の組成物。
【請求項67】
請求項46の前記単離幹細胞を含んでなる、組織工学構築物。
【請求項68】
請求項46の前記単離幹細胞の子孫を含んでなる、組織工学構築物。
【請求項69】
請求項46の前記単離幹細胞およびその子孫細胞を含んでなる、組織工学構築物。
【請求項70】
請求項46の前記単離幹細胞の分化を誘導する剤を同定する方法であって、前記単離幹細胞を試験剤と接触させ、そして前記単離幹細胞中の変化を検出することを含んでなり、前記変化が、前記剤が前記単離幹細胞の分化を誘導することの指標となる、前記方法。
【請求項71】
内皮細胞を含んでなる組織工学構築物を生成する方法であって、請求項46の前記単離幹細胞を組織工学構築物中で培養することを含んでなる、前記方法。
【請求項72】
血管疾患または血管障害の治療が必要な被験者に、請求項46の前記単離幹細胞を投与することを含んでなる、血管疾患または血管障害の治療法。
【請求項73】
血管疾患または血管障害の治療が必要な被験者に、請求項63の前記単離子孫細胞を投与することを含んでなる、血管疾患または血管障害の治療法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−148702(P2008−148702A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327141(P2007−327141)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【分割の表示】特願2003−560164(P2003−560164)の分割
【原出願日】平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願人】(591123609)イミュネックス・コーポレーション (24)
【氏名又は名称原語表記】IMMUNEX CORPORATION
【Fターム(参考)】