説明

内視鏡推進装置及び内視鏡用カバー

【課題】バルーンに穴があいたときに、内視鏡用カバーの過膨張を防止しつつ、挿入部を消化管等の管内に留める。
【解決手段】推進機構14aを、内側からの加圧により挿入部16の径方向に拡径する第1〜第4伸縮ユニット28a〜28dから構成する。推進機構14aを汚れ防止カバー14bで覆う。汚れ防止カバー14bのカバー本体65の両端をピアノ線66で括って、カバー内側に密閉された内部空間68を形成する。カバー本体65の後端部に、内部空間68内の圧力が所定のしきい値を超えるときに開き、逆にしきい値以下のときに閉じる圧力解放バルブ67を設ける。しきい値の下限値を、膨張した汚れ防止カバー14bが消化管72の内壁に対して押圧力を有する程度の値に設定する。しきい値の上限値を、汚れ防止カバー14bの破裂あるいは内壁の損傷が発生する限界値よりも小さい値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡を消化管や人工管路等の管内で推進させる内視鏡推進装置、及びこの装置で用いられる内視鏡用カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、大腸や小腸のような屈曲した消化管内に内視鏡の挿入部を挿入して、消化管内壁面の観察や診断、治療を施すことが行われている。この場合、消化管が複雑に屈曲しかつ比較的自由に動くS字結腸であると、このS字結腸内で挿入部を奥へ進めるためには、手技に熟練度が要求されていた。このため、S字結腸のような複雑に屈曲した消化管内でも挿入部を容易に奥へ進めることができる内視鏡が求められていた。
【0003】
近年、挿入部の先端部に取り付けられ、この挿入部を消化管内で推進させる内視鏡推進装置が開発されている(特許文献1参照)。この内視鏡推進装置は、挿入部の軸方向に沿って少なくとも3個以上設けられた伸縮ユニットからなる。各伸縮ユニットは、加圧により径方向に拡径するとともに軸方向に収縮する特殊なバルーンを有しており、また、各伸縮ユニットには、それぞれ各加圧用の圧縮空気を給排するエアチューブが接続されている。各伸縮ユニットは、拡径したときに消化管の内壁をグリップし、縮径したときにグリップを解除する。内視鏡推進装置は、各伸縮ユニットを所定の順番で拡径・縮径させる、いわゆるミミズの移動を模した蠕動運動を行うことで、消化管を手繰り寄せながら挿入部を消化管内で前進/後進させる。
【0004】
ところで、内視鏡推進装置を消化管内に直に挿入した場合には、内視鏡検査後に洗浄消毒処理を施す必要があるが、この洗浄所毒処理には多大の手間と時間を要する。このため、例えば特許文献2の記載に基づき、使い捨ての汚れ防止カバーを内視鏡推進装置に被せて、内視鏡検査が終了する毎に汚れ防止カバーを交換する方法が提案されている。これにより、洗浄消毒処理を省略あるいはその頻度を減らすことができる。
【0005】
このように内視鏡推進装置に汚れ防止カバーを被せた場合、何らかの原因で伸縮ユニットのバルーンに穴があいてしまうと、この穴から漏れた空気により汚れ防止カバーが膨張してしまう。この際に、空気漏れの量が多いと、汚れ防止カバーが過膨張して患者に著しい不快感や苦痛を与えたり、あるいは消化管を傷つけたりするおそれがある。
【0006】
そこで、特許文献3及び4の記載に基づき、汚れ防止カバーに各種バルブからなる圧力解放機構を設け、汚れ防止カバー内の圧力が一定の大きさを超えたときに、圧力解放機構を作動させて汚れ防止カバー内の圧力を解放することにより、汚れ防止カバーの過膨張を防止する方法が提案されている。また、特許文献5及び6の記載に基づき、汚れ防止カバーが一定の大きさ以上膨張したときに内視鏡推進装置から外れるようにする方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−240713号公報
【特許文献2】特開2003−250749号公報
【特許文献3】特表2009−521297号公報
【特許文献4】特開2003−010105号公報
【特許文献5】特開2001−046376号公報
【特許文献6】特開2004−337249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
伸縮ユニットのバルーンに穴があくと、この穴からの空気漏れによりバルーンは縮径する。このとき、バルーンの穴から漏れた空気により汚れ防止カバーが膨張するものの、上記特許文献3及び4に記載の過膨張防止対策を採用した場合には、汚れ防止カバー内の圧力が一定の大きさを超えたときに汚れ防止カバー内の圧力が解放されるため、汚れ防止カバーも縮径する。このため、内視鏡推進装置が消化管の内壁をグリップする力は極めて弱くなる。その結果、消化管内の奥まで進めた挿入部及び内視鏡推進装置が消化管内から抜けたり、あるいは挿入部及び内視鏡推進装置が手繰り寄せた消化管が開放されたりするので、両者を消化管内に留めることができないおそれがある。
【0009】
また、特許文献5及び6に記載の過膨張防止対策を採用した場合でも、バルーンの穴から漏れた空気により汚れ防止カバーが一定の大きさ以上膨張したときに、汚れ防止カバーが内視鏡推進装置から外れてしまう。このため、特許文献3及び4と同様に、内視鏡推進装置が消化管の内壁をグリップする力が極めて弱くなり、挿入部及び内視鏡推進装置を消化管内に留めることができないおそれがある。
【0010】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、バルーン等の拡張部材から流体の漏れが発生したときに、汚れ防止カバー等の内視鏡用カバーの過膨張を防止しつつ、消化管等の管路内に留まることが可能な内視鏡推進装置、及びこの装置で用いられる内視鏡用カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の内視鏡推進装置は、管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構であり、前記挿入部の外周側に第1密閉空間を形成する略筒状を有し、前記第1密閉空間内に供給された加圧用の流体による内側からの加圧により前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮し、前記加圧が解除されたときに元の状態に復元する拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、各前記拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構と、弾性材料からなり、前記推進機構の先端から後端までの全体を覆う長さを持つ略筒状のカバーと、前記カバーの両端部において前記カバーと前記挿入部とを固定して、前記カバーの内周と前記推進機構の外周との間に第2密閉空間を形成するカバー端部固定手段と、前記カバーに設けられ、前記第2密閉空間内の圧力を外部に解放する圧力解放バルブであり、前記拡張部材から前記第2密閉空間内へ前記流体が漏れたときに、前記第2密閉空間内の圧力が所定のしきい値以下のときは閉じ状態となって前記カバーを前記径方向に膨張させ、前記第2密閉空間内の圧力が前記しきい値を上回ったときは開き状態となって前記カバーのさらなる膨張を停止させる圧力解放バルブと、を備えることを特徴とする。
【0012】
前記しきい値は、前記カバーが前記径方向に膨張したときに当該カバーの破裂が発生する限界値、または当該カバーが前記管路の内壁に損傷を与える限界値のいずれか低い方よりも小さい値に設定されることが好ましい。
【0013】
前記しきい値は、前記径方向に膨張した前記カバーが前記管路の内壁に対して押圧力を有する値に設定されることが好ましい。さらに、前記押圧力を有する値は、前記径方向に膨張した前記カバーの径が、前記径方向に拡径した前記拡張部材の最大径よりも大きくなるような圧力値であることが好ましい。
【0014】
前記挿入部に沿って前記軸方向に延びるように配設され、一端が前記圧力解放バルブに接続するとともに、他端が前記内視鏡の操作部まで引き出されており、前記圧力解放バルブが開き状態となったときに前記第2密閉空間内の流体を前記他端から外部に排出する排気用チューブを備えていることが好ましい。
【0015】
各前記拡張部材からの前記流体の漏れをそれぞれ検出する流体漏れ検出手段と、前記流体漏れ検出手段の検出結果に基づき、前記流体の漏れが発生した前記拡張部材の前記第1密閉空間に対する前記流体の供給を停止させる停止制御手段と、を備えることが好ましい。
【0016】
前記推進機構は、前記挿入部が挿通され、前記軸方向に伸縮自在な伸縮管と、前記伸縮管の外周を覆う前記拡張部材と、前記拡張部材の両端部において前記拡張部材と前記伸縮管とを固定して、前記筒状伸縮体の内周と前記伸縮管の外周との間に前記第1密閉空間を形成する拡張部材端部固定手段と、前記第1密閉空間に対して前記流体を給排する給排チューブとからなる伸縮ユニットを、前記軸方向に複数連結してなることが好ましい。
【0017】
複数の前記伸縮ユニットのうち、前記挿入部の最も先端側に位置する最先端伸縮ユニットを、前記挿入部に解除可能に固定する最先端伸縮ユニット固定手段を備えることが好ましい。また、前記拡張部材はバルーンであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の内視鏡用カバーは、管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構を覆う内視鏡用カバーであり、前記推進機構は、前記挿入部の外周側に第1密閉空間を形成する略筒状を有し、前記第1密閉空間内に供給された加圧用の流体による内側からの加圧により前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮し、前記加圧が解除されたときに元の状態に復元する拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、各前記拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構であり、弾性材料からなり、前記推進機構の先端から後端までの全体を覆う長さを持つ略筒状のカバー本体と、前記カバー本体の両端部において前記カバー本体と前記挿入部とを固定して、前記カバー本体の内周と前記推進機構の外周との間に第2密閉空間を形成するカバー端部固定手段と、前記カバー本体に設けられ、前記第2密閉空間内の圧力を外部に解放する圧力解放バルブであり、前記拡張部材から前記第2密閉空間内へ前記流体が漏れたときに、前記第2密閉空間内の圧力が所定のしきい値以下のときは閉じ状態となって前記カバーを前記径方向に膨張させ、前記第2密閉空間内の圧力が前記しきい値を上回ったときは開き状態となって前記カバーのさらなる膨張を停止させる圧力解放バルブと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の内視鏡推進装置及び内視鏡用カバーは、管路内で挿入部を推進させる推進機構を覆うカバーに、このカバーと推進機構との間に形成される第2密閉空間内の圧力が所定のしきい値以下のときは閉じ状態となり、第2密閉空間内の圧力がしきい値を上回ったときに開き状態となる圧力解放バルブを設けたので、推進機構を構成する拡張部材からの流体の漏れが発生したときに、カバーを、管路の内壁をグリップし、かつカバーの破裂や管路内壁の損傷が発生しない程度の大きさで膨張させることができる。その結果、カバーの過膨張を防止するのと同時に、挿入部及び内視鏡推進装置を管路内に留めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電子内視鏡システムの構成を示す斜視図である。
【図2】(A)は内視鏡推進装置の側面図、(B)はバルーンの内側の構造を説明するための説明図である。
【図3】第3フランジの斜視図である。
【図4】図3中のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】第3フランジを挿入部の後端側から見た背面図である。
【図6】第3フランジとエアチューブの接続状態を示した(A)斜視図、(B)背面図である。
【図7】第3フランジとエアチューブの接続部分の断面図である。
【図8】(A)第1フランジの背面図、(B)第2フランジの背面図、(C)第3フランジの背面図である。
【図9】推進制御装置を説明するための説明図である。
【図10】推進制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図11】(A)汚れ防止カバーの側面図、(B)汚れ防止カバーの後端部の拡大断面図である。
【図12】(A)〜(E)は推進機構の動作を説明するための説明図である。
【図13】(A)は第2バルーンに穴があく前の状態、(B)は第2バルーンに穴があいた後の状態を説明するための説明図である。
【図14】汚れ防止カバー(密閉空間)内の圧力の大きさと、本発明の圧力解放バルブの開閉との関係を説明するための説明図である。
【図15】汚れ防止カバー内の圧力の大きさと、従来の圧力解放バルブの開閉との関係を説明するための説明図である。
【図16】空気漏れが発生したバルーンに対する圧縮空気の供給を停止する処理の流れを示したフローチャートである。
【図17】挿入部に対するキャップの固定を解除した状態を示す断面図である。
【図18】挿入部に対してキャップを固定した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、電子内視鏡システム10は、電子内視鏡11、プロセッサ装置12、光源装置13、内視鏡推進装置(自走装置)14、推進制御装置15などから構成される。電子内視鏡11は、消化管内に挿入される挿入部16と、電子内視鏡11の把持及び挿入部16の操作に用いられる操作部17と、プロセッサ装置12及び光源装置13に接続するユニバーサルコード18とを備えている。
【0022】
挿入部16は可撓性を有する棒状体である。挿入部先端部16aには、図示は省略するが、観察窓、照明窓、及び送気・送水用ノズル等が設けられている。なお、以下の説明では、挿入部16の先端側の方向及び面をそれぞれ先端側、先端面といい、挿入部16の後端側の方向及び面をそれぞれ後端側、後端面という。
【0023】
操作部17は、アングルノブ22、操作ボタン23等を備えている。アングルノブ22は、挿入部16の湾曲方向及び湾曲量を調整する際に回転操作される。操作ボタン23は、送気・送水や吸引等の各種の操作に用いられる。また、操作部17には、ユニバーサルコード18が接続されている。
【0024】
ユニバーサルコード18には、送気・送水チャンネルと、撮像信号出力用ケーブル及びライトガイドが組み込まれている。このユニバーサルコード18の先端部にはコネクタ部25aが設けられている。このコネクタ部25aは光源装置13に接続する。また、コネクタ部25aからはコネクタ部25bが分岐しており、このコネクタ部25bはプロセッサ装置12に接続する。
【0025】
推進制御装置15には、操作ユニット26が接続している。この操作ユニット26は、内視鏡推進装置14の前進・後退・停止の指示を入力するためのボタン、後述する各伸縮ユニット28a〜28dを伸縮させるタイミングをコントロールすることで内視鏡推進装置14の移動速度を調整するための速度調節ボタン、および全ての伸縮ユニット28a〜28dを伸張した状態とすることで緊急時に容易に内視鏡推進装置14を抜去するための緊急退避ボタンなどを備えている。
【0026】
プロセッサ装置12は、電子内視鏡11から入力される画像信号から内視鏡画像を生成し、この内視鏡画像に各種画像処理を施す。画像処理済みの内視鏡画像は、プロセッサ装置12にケーブル接続されたモニタ27に表示される。光源装置13は、照明光をライトガイドに供給する。
【0027】
内視鏡推進装置14は、挿入部先端部16aに取り付けられた推進機構14aと、この推進機構14aを覆う使い捨ての汚れ防止カバー14bとから構成されており、消化管内で挿入部16を前進または後進させる。推進機構14aは、挿入部16の先端側から順にその軸方向(以下、挿入部軸方向という)に沿って設けられた第1〜第4伸縮ユニット28a,28b,28c,28dからなる。各伸縮ユニット28a〜28dは、それぞれ個別に、加圧によって挿入部16の径方向に拡径するとともに挿入部軸方向に収縮し、加圧が解除されると元の状態に復元する。以下、前者の状態を拡径状態といい、後者の状態を縮径状態という。
【0028】
各伸縮ユニット28a〜28dには、第1〜第4エアチューブ(給排チューブ)29a,29b,29c,29dを介して、推進制御装置15から圧縮空気が供給される。推進制御装置15は、操作ユニット26からの操作信号に基づき、各エアチューブ29a〜29dへの圧縮空気の給排を制御する。
【0029】
図2(A),(B)に示すように、推進機構14aの第1〜第4伸縮ユニット28a〜28dは、挿入部16に外嵌されかつ挿入部軸方向に沿って並べて設けられた第1〜第4オーバチューブ(伸縮管)31a〜31dを備えている。各オーバチューブ31a〜31dは、挿入部軸方向に伸縮自在な蛇腹構造を有している。各オーバチューブ31a〜31dの内部空間には、挿入部16、各エアチューブ29a〜29d(第1オーバチューブ31aを除く)が挿通される。
【0030】
第1オーバチューブ31aの先端部は、挿入部先端部16aに外嵌された略環状のキャップ32の開口に嵌合している。また、第1オーバチューブ31aの後端部は、挿入部先端部16aに外嵌された略環状の第1フランジ33aの先端側の開口に嵌合している。この第1フランジ33aの後端側の開口には、第2オーバチューブ31bの先端部が嵌合している。これにより、第1オーバチューブ31aと第2オーバチューブ31bとが第1フランジ33aを介して連結される。
【0031】
以下同様に、第2〜第4オーバチューブ31b〜31dの後端部はそれぞれ第1フランジ33aと同形状の第2〜第4フランジ33b〜33dの先端側の開口に嵌合し、さらに、第3及び第4オーバチューブ31c,31dの先端部はそれぞれ第2及び第3フランジ33b,33cの後端側の開口に嵌合している。これにより、第M(Mは1〜3)オーバチューブと第(M+1)オーバチューブとが第Mフランジを介して連結される。従って、各オーバチューブ31a〜31d、キャップ32、各フランジ(拡張部材端部固定手段)33a〜33dは一体化している。
【0032】
キャップ32は、挿入部16の外周に着脱自在に固定される。これに対して各フランジ33a〜33dは、挿入部16の外周に遊嵌されており、挿入部16に固定されていない。このため、キャップ32によって、各オーバチューブ31a〜31d、各フランジ33a〜33dは、挿入部16に対してその挿入部軸方向に移動自在に保持される。
【0033】
キャップ32及び各フランジ33a〜33dの後端部の外周面には、その周方向に沿って環状溝35が形成されている。キャップ32の後端部から第4フランジ33dの後端部までの間の各部材の外周面は、1本の略筒状の弾性カバー36で覆われている。弾性カバー36は、例えば合成ゴムや天然ゴム等からなる略円筒状の弾性体と、この弾性体内に、挿入部軸方向に沿うように設けられた複数の繊維とからなる。この繊維は例えばガラスロービング繊維やカーボンロービング繊維のような、挿入部軸方向に伸縮し難い非伸縮性を有している。
【0034】
弾性カバー36は、キャップ32及び各フランジ33a〜33dのそれぞれの環状溝35に対応する位置でピアノ線37などにより括られている。これにより、弾性カバー36に、第1〜第4バルーン36a〜36d(拡張部材)が形成される。第1バルーン36aは、第1オーバチューブ31aの外周を囲むとともに、両端部がキャップ32及び第1フランジ33aにそれぞれ固定される。同様に、第2バルーン36b〜第4バルーン36dは、それぞれ第2〜第4オーバチューブ31b〜31dの外周を囲み、両端部がそれぞれ第1及び第2フランジ33a,33b、第2及び第3フランジ33b,33c、第3及び第4フランジ33c,33dに固定される。これにより、各バルーン36a〜36dの内側には、それぞれ密閉された第1〜第4空気室(第1密閉空間)38a〜38dが形成される。
【0035】
第1〜第4バルーン36a〜36dは、その内側から加圧されたときに、挿入部16の径方向に膨張するとともに挿入部軸方向に収縮し、この加圧が解除されると弾性復元力により元の状態に復元する。
【0036】
第1伸縮ユニット28aは、第1オーバチューブ31aと、キャップ32と、第1フランジ33aと、第1バルーン36aとにより構成される。また、第N(Nは2〜4)伸縮ユニットは、第Nオーバチューブと、第(N−1)及び第Nフランジと、第Nバルーンとにより構成される。
【0037】
第1〜第4エアチューブ29a〜29dは、例えばポリ塩化ビニルなどで形成されている。第1エアチューブ29aは、第4フランジ33d、第4オーバチューブ31d、第3フランジ33c、第3オーバチューブ31c、第2フランジ33b、第2オーバチューブ31bの内部空間を通って第1フランジ33aに接続している。また、第2エアチューブ29bは、第4フランジ33d、第4オーバチューブ31d、第3フランジ33c、第3オーバチューブ31cの内部空間を通って第2フランジ33bに接続している。
【0038】
第3エアチューブ29cは、第4フランジ33d、第4オーバチューブ31dの内部空間を通って第3フランジ33cに接続している。また、第4エアチューブ29dは、第4フランジ33dに接続している。
【0039】
次に、第3フランジ33cを例に挙げてフランジの構造について説明を行う。図3〜図5に示すように、第3フランジ33cは、挿入部16が挿通されるとともに、第3及び第4オーバチューブ31c,31dが嵌合する挿通孔42を有している。また、第3フランジ33cの外周面には、上述の環状溝35の他に、第3空気室38c内で開口した開口穴43と、この開口穴43の縁から先端側に向かって長く延びた2本の断面凹状の溝44とが形成されている。
【0040】
第3フランジ33cの内周面には、その周方向に沿ってエアチューブ接続部46、第1エアチューブ支持部47、第2エアチューブ支持部48が所定間隔をあけて設けられている(図5参照)。この間隔は、エアチューブ29a〜29dの幅よりも一回り大きくなるように調整されている。
【0041】
エアチューブ接続部46は、内周面上で開口穴43の開口部分に位置する。このエアチューブ接続部46の後端面には、挿入部16の後端側に向かって突出したチューブ接続口50が形成されている。また、エアチューブ接続部46の内部には、開口穴43とチューブ接続口50とを接続する貫通口51が形成されている(図4参照)。さらに、エアチューブ接続部46の両端部には、エアチューブの側端部を支持するために略凹円弧状のガイド部52が形成されている(図5参照)。
【0042】
第1及び第2エアチューブ支持部47,48の周方向の両端部にも、エアチューブ接続部46と同様にガイド部52が形成されている。これにより、エアチューブ接続部46と第1エアチューブ接続部46との間、第1エアチューブ支持部47と第2エアチューブ支持部48との間、第2エアチューブ支持部48とエアチューブ接続部46との間にそれぞれエアチューブを支持する断面略円弧状の支持凹部54a,54b,54cが形成される(図5参照)。
【0043】
各支持凹部54a,54b,54cは、その断面積がエアチューブの断面積よりも一回り以上大きくなるように形成されている。このため、各支持凹部54a,54b,54cの内面とエアチューブの外面との間には遊びが生じる。これにより、各支持凹部54a,54b,54cは、エアチューブを挿入部軸方向にスライド移動自在に支持する。
【0044】
図6(A),(B)に示すように、第1エアチューブ29aは、支持凹部54bにより挿入部軸方向にスライド移動自在に支持される。第2エアチューブ29bは、支持凹部54aにより挿入部軸方向にスライド移動自在に支持される。第3エアチューブ29cは、チューブ接続口50に接続され、この状態で接着剤等により固定される。これにより、図7に示すように、第3エアチューブ29cが、チューブ接続口50、貫通口51、及び開口穴43を介して、第3空気室38cに接続する。
【0045】
第1、第2、第4フランジ33a,33b,33dは、第3フランジ33cと同じ構造であるのでその構造についての説明は省略する。また、第1〜第4フランジ33a〜33dは、互いのエアチューブ接続部46の位置が重ならないように取り付けられている。具体的には、第1フランジ33aを基準としたときに、挿入部16の後端側から見て第2フランジ33bは挿入部16の中心軸を中心として時計回りに90°回転し、第3フランジ33cは時計回りに180°回転し、第4フランジ33dは時計回りに270°回転している(図2(B)参照)。
【0046】
図8(A)に示すように、第1フランジ33aのチューブ接続口50には第1エアチューブ29aが接続固定される。図8(B)に示すように、第2フランジ33bのチューブ接続口50には第2エアチューブ29bが接続固定され、支持凹部54aには第1エアチューブ29aがスライド移動自在に支持される。図8(C)に示すように、第4フランジ33dのチューブ接続口50には第4エアチューブ29dが接続固定され、支持凹部54a,54b,54cにはそれぞれ第3エアチューブ29c、第2エアチューブ29b、第1エアチューブ29aがスライド移動自在に支持される。これにより、第1、第2、第4エアチューブ29a,29b,29dと、第1、第2、第4空気室38a,38b,38dとがそれぞれ接続する。
【0047】
図9に示すように、推進制御装置15は、コンプレッサ58と、コンプレッサ58から発生した圧縮空気を各エアチューブ29a〜29dへ導く4本の管路59a,59b,59c,59dと、各管路59a〜59dの途中に設けられた供給弁60a,60b,60c,60d及び解放弁61a,61b,61c,61dと、圧力計(漏れ検出手段)62a,62b,62c,62dとから構成されている。コンプレッサ58が作動している状態で解放弁を閉じて供給弁を開くと、これに対応するエアチューブを介して空気室に圧縮空気が供給される。この状態で供給弁を閉じて解放弁を開くと空気室が大気圧に戻る。
【0048】
推進制御装置15から第1〜第4エアチューブ29a〜29dをそれぞれ介して供給された圧縮空気は、第1〜第4エアチューブ29a〜29dを通って、第1〜第4空気室38a〜38d内にそれぞれ供給される。また、第1〜第4空気室38a〜38d内の圧縮空気は、解放弁61a〜61dを開いたときに、第1〜第4エアチューブ29a〜29dを通って解放弁61a〜61dからそれぞれ排出される。
【0049】
圧力計62a〜62dは、それぞれ第1エアチューブ29a及び第1空気室38a内の圧力、第2エアチューブ29b及び第2空気室38b内の圧力、第3エアチューブ29c及び第3空気室38c内の圧力、第4エアチューブ29d及び第4空気室38d内の圧力を測定する。
【0050】
図10に示すように、推進制御装置15のCPU(停止制御手段)64は、推進制御装置15の各部を統括的に制御して、第1〜第4空気室38a〜38dへの圧縮空気の給排を制御する。CPU64は、第1〜第4圧力計62a〜62dから入力される計測結果に基づき、それぞれ第1〜第4バルーン36a〜36dから空気漏れが発生しているか否かを判定する。
【0051】
また、CPU64は、例えば第1バルーン36aより空気漏れが発生している場合には、第1供給弁60aを制御して第1空気室38aへの圧縮空気の供給を停止させる。さらに、CPU64は、第2〜第4バルーン36b〜36dより空気漏れが発生している場合も同様に、第2〜第4供給弁60b〜60dを制御して第2〜第4空気室38b〜38dへの圧縮空気の供給を停止させる。
【0052】
図11(A)に示すように、汚れ防止カバー14bは、推進機構14aの先端から後端までの全体を覆う長さを持つ略筒状のカバー本体65と、カバー本体65の両端を括って挿入部16に固定するピアノ線(カバー端部固定手段)66と、カバー本体65の後端部に設けられた圧力解放バルブ67とを備えている。
【0053】
カバー本体65は、例えば天然ゴム、合成ゴム等の弾性材料で形成されている。このカバー本体65の両端をそれぞれピアノ線66で括ることにより、カバー本体65の内側に気密な内部空間(第2密閉空間)68が形成される。これにより、消化管72(図13(A)参照)内の粘液等が推進機構14aの外周に付着することが防止される。また、カバー本体65は、各バルーン36a〜36dのいずれかより漏れた圧縮空気により内側から加圧されたときに、挿入部16の径方向に膨張する。
【0054】
図11(B)に示すように、圧力解放バルブ67は、カバー本体65の後端部を貫通するように設けられている。圧力解放バルブ67の先端側の開口は内部空間68内に位置し、後端側の開口は内部空間68外に位置している。圧力解放バルブ67は、内部空間68内の圧力が所定のしきい値Pthよりも大きくなると開き、逆に内部空間68内の圧力がしきい値Pth以下になると閉じる。このような圧力解放バルブ67としては、例えば、内蔵したバネの収縮/弾性復元により弁の開/閉を行う、いわゆるリリーフ弁タイプや一次圧力調整弁タイプのものが用いられる。
【0055】
しきい値Pthは、推進機構14aの種類(例えば各バルーン36a〜36dの外径等)、及びカバー本体65の種類(例えばカバーの材料、弾性変形していない初期状態での内径)などに応じて定められる上限値Maxと下限値Minとの間の値に設定される。上限値Maxは、膨張したカバー本体65の破裂が発生する限界値、または膨張したカバー本体65が消化管72に損傷を与える限界値のいずれか低い方よりも小さい値に設定されている。
【0056】
また、下限値Minは、膨張したカバー本体65が消化管72の内壁に対して押圧力を有する程度の値に設定されている。具体的にこの値は、例えば、膨張したカバー本体65の径が、拡径状態の各伸縮ユニット28a〜28dの各バルーン36a〜36dの最大径よりも大きくなるような圧力値である(図13(B)参照)。
【0057】
圧力解放バルブ67の後端側の開口には、排気用チューブ73の先端部が接続している。排気用チューブ73は、挿入部16に沿って配設されており、後端部が操作部17まで引き出されている。従って、排気用チューブ73の後端側の開口は、操作部17の周囲に位置している。このため、内視鏡検査中においても、排気用チューブ73の後端側の開口は、常に患者の体外に位置する。
【0058】
次に、図12を用いて上記構成の内視鏡推進装置14の作用について説明を行う。なお、図面の煩雑化を防止するため、各エアチューブ29a〜29dは図示を省略している。
【0059】
最初に、挿入部先端部16aに推進機構14aが取り付けられ、そのキャップ32が挿入部先端部16aに固定される。このとき、各伸縮ユニット28a〜28dは縮径状態である。キャップ32の固定後、推進機構14aを覆うように汚れ防止カバー14bが挿入部先端部16aに取り付けられる。次いで、プロセッサ装置12及び光源装置13の電源がONされて検査準備が完了した後、挿入部先端部16aが患者の消化管72内に挿入される。
【0060】
挿入部先端部16aが消化管72内の所定位置、例えばS字結腸の手前まで進められた後、推進制御装置15の電源がONされる。推進制御装置15のCPU64は、コンプレッサ58を作動させるとともに、第1及び第4供給弁60a,60dを開いて第1及び第4解放弁61a,61dを閉じる。また、CPU64は、第2及び第3供給弁60b,60cを閉じて第2及び第3解放弁61b,61cを開く。これにより、第1及び第4エアチューブ29a,29dからそれぞれ第1及び第4空気室38a,38dに圧縮空気が供給される。
【0061】
図12(A)に示すように、第1及び第4空気室38a,38dへの圧縮空気の供給により、第1及び第4バルーン36a,36dが拡径するとともに挿入部軸方向に収縮する。また、第1及び第4バルーン36a,36dの拡径に伴い、汚れ防止カバー14bにおける第1及び第4バルーン36a,36dの外周に位置する部分も拡径する。CPU64は、圧力計62a,62dの測定結果に基づき、第1及び第4空気室38a,38d内の圧力が所定の設定圧力値に達した時に、第1及び第4供給弁60a,60dを閉じる。
【0062】
第1及び第4バルーン36a,36dの挿入部軸方向の収縮に伴い、キャップ32と第1フランジ33aとの間隔が狭まり第1オーバチューブ31aが挿入部軸方向に収縮するとともに、第3フランジ33cと第4フランジ33dとの間隔が狭まり第4オーバチューブ31dが挿入部軸方向に収縮する。これにより、第1及び第4伸縮ユニット28a,28dが縮径状態から拡径状態に変形して、第1及び第4バルーン36a,36dの外面が汚れ防止カバー14bを介して消化管72の内壁に圧着される。こうして第1及び第4伸縮ユニット28a,28dが消化管72の内壁をグリップする。
【0063】
次いで、操作ユニット26で前進指示が入力されると、CPU64は、第2供給弁60bを開いて第2解放弁61bを閉じるとともに、第4解放弁61dを開く。これにより、第2空気室38bへ圧縮空気が供給されるとともに、第4空気室38dが大気圧に戻る。なお、第2供給弁60bは、圧力計62bで測定された第2空気室の圧力が設定圧力値に達した時に閉じられる。
【0064】
図12(B)に示すように、第2伸縮ユニット28bが拡径状態に変形して消化管72の内壁をグリップするとともに、第4伸縮ユニット28dが縮径状態に変形して消化管72の内壁のグリップが解除される。
【0065】
図12(C)に示すように、CPU64は、各供給弁及び解放弁を適宜開閉して、第1伸縮ユニット28aを縮径状態に変形させるとともに、第3伸縮ユニット28cを拡径状態に変形させて消化管72の内壁をグリップさせる。この際に、第1伸縮ユニット28aの後方の第2,第3伸縮ユニット28b,28cは、消化管72の内壁をグリップしている。また、キャップ32は挿入部16に固定されている一方で、他の各部材は挿入部16に対してフリーな状態になっている。このため、第1伸縮ユニット28aが挿入部軸方向へ伸長しようとする動作は、挿入部16を消化管72の内壁に対して前進させる推進力に変換され、挿入部16が前進する。
【0066】
図12(D)に示すように、CPU64は、第2伸縮ユニット28bを縮径状態に変形させるとともに、第4伸縮ユニット28dを拡径状態に変形させる。第2伸縮ユニット28bが挿入部軸方向に伸長するときは、第2伸縮ユニット28bの後方の第3,第4伸縮ユニット28c,28dが消化管72の内壁をグリップしている。図12(C)と同様に、第2伸縮ユニット28bが伸長する動作は、挿入部16を前進させる推進力に変換され、挿入部16がさらに前進する。
【0067】
図12(E)に示すように、CPU64は、第3伸縮ユニット28cを縮径状態に変形させるとともに、第1伸縮ユニット28aを拡径状態に変形させる。この状態では、第3伸縮ユニット28cが挿入部軸方向に伸長したとしても、第1伸縮ユニット28aが挿入部軸方向に収縮にして消化管72の内壁をグリップしているので、挿入部16は前進しない。この図12(E)の状態は、図12(A)に示した初期状態と同じである。
【0068】
CPU64は、上述の図12(A)、図12(B)、図12(C)、図12(D)の各状態が順番に繰り返し実行されるように、各供給弁及び解放弁を適宜開閉する。これにより、各伸縮ユニット28a〜28dが図12(A)〜図12(D)で説明したような、いわゆるミミズの移動を模した蠕動運動をすることで、挿入部16が前進する。
【0069】
図13(A)において、例えば第1及び第2伸縮ユニット28a,28bが拡径状態に切り替えられたときに第2バルーン36bに穴75があいた場合、図13(B)に示すように、この穴75から内部空間68内に圧縮空気が漏れる。これにより、第2バルーン36b内の圧力が急速に低下するため、第2バルーン36bが縮径して、第2伸縮ユニット28bが縮径状態に変形する。
【0070】
図14の括弧付き数字(1)に示すように、第2バルーン36bの穴75から内部空間68内へ圧縮空気が漏れ始めた初期の段階では、内部空間68内の圧力は低く上述のしきい値Pthまで達してはいない。この状態では圧力解放バルブ67が閉じ状態となっているので、内部空間68は密閉された空間になる。このため、穴75から内部空間68内へ漏れる圧縮空気の量が増えるのに従って、内部空間68内の圧力が次第に上昇し、カバー本体65が次第に径方向に膨張する。
【0071】
次いで、内部空間68内の圧力がしきい値Pthを超えると、括弧付き数字(2)に示すように圧力解放バルブ67が開き状態となる。これにより、内部空間68内の圧縮空気が、圧力解放バルブ67から排気用チューブ73を通って患者の体外にある操作部17の付近で排出される。その結果、括弧付き数字(3)に示すような内部空間68内のさらなる圧力の上昇は発生せず、カバー本体65の径方向の膨張が停止する。
【0072】
圧力解放バルブ67が開き状態になった後、例えば「圧力解放バルブ67から排出される圧縮空気の量」>「穴75から内部空間68内に漏れる圧縮空気の量」の場合、あるいは第2空気室38bへの圧縮空気の供給が停止された場合には、内部空間68内の圧力は減少するため、カバー本体65は径方向に収縮する。そして、内部空間68内の圧力がしきい値Pth以下になると、括弧付き数字(4)に示すように圧力解放バルブ67が閉じる。これにより、括弧付き数字(5)に示すような内部空間68内のさらなる圧力の減少は発生しないので、カバー本体65の径方向の収縮が停止する。
【0073】
以下同様に、内部空間68内の圧力がしきい値Pthを超えた場合には圧力解放バルブ67が開き状態となることでさらなる圧力の上昇が防止され、逆に内部空間68内の圧力がしきい値Pth以下になった場合には圧力解放バルブ67が閉じ状態となることでさらなる圧力の減少が防止される。その結果、内部空間68内の圧力がしきい値Pthの前後の値に保たれる。
【0074】
図13(B)に戻って、内部空間68内の圧力のしきい値Pthは、上述の下限値Minよりも大きく設定されるので、カバー本体65の径は、拡径状態の各伸縮ユニット28a〜28dの各バルーン36a〜36dの最大径よりもΔd[=(Δd/2)×2]だけ大きくなる。これにより、カバー本体65は、消化管72の内壁に対して押圧力を有する程度に膨張するので、消化管72の内壁を確実にグリップすることができる。
【0075】
このように第2伸縮ユニット28bが縮径状態に変形して推進機構14aによる消化管72の内壁のグリップ力が大幅に低下した場合でも、汚れ防止カバー14bにより消化管72の内壁をグリップすることができる。従って、挿入部16及び内視鏡推進装置14が消化管72内から抜けたり、あるいは手繰り寄せた消化管72が開放されたりすることが防止される。
【0076】
また、内部空間68内の圧力のしきい値Pthは、上述の上限値Maxよりも小さく設定されるので、カバー本体65が破裂する大きさまで膨張、及び消化管72の内壁を損傷させる大きさまで膨張するなどの過膨張が防止される。
【0077】
一方、圧力解放バルブ67の代わりに上記先行技術文献3及び4に記載の圧力解放バルブが設けられた比較例では、図15の括弧付き数字(1)及び(2)に示すように、内部空間68内の圧力がしきい値Pthを超えたときに圧力解放バルブが開いて、汚れ防止カバー14b内の圧力が解放されるまでは本発明と基本的に同じである。
【0078】
しかしながら、比較例では、内部空間68内の圧力がしきい値Pthを一旦超えてしまうと、その後の内部空間68内の圧力の変動に関らず、圧力解放バルブが開いた状態が継続する。このため、上述したように「圧力解放バルブから排出される圧縮空気の量」>「穴から内部空間内に漏れる圧縮空気の量」などが満たされる場合には、括弧付き数字(3)に示すように、内部空間68内の圧力は次第に減少し、これに伴い汚れ防止カバー14bが径方向に収縮する。その結果、比較例では、汚れ防止カバー14bの破裂や消化管72の内壁の損傷は防止されるものの、消化管72の内壁をグリップすることができないので、挿入部16及び内視鏡推進装置14が消化管72内から抜けたり、あるいは手繰り寄せた消化管72が開放されてしまう。
【0079】
これに対して本発明では、圧力解放バルブ67により内部空間68内の圧力がしきい値Pthの前後の値に保たれるので、汚れ防止カバー14bの過膨張を防止するとともに、挿入部16及び内視鏡推進装置14を空気漏れが発生した位置で消化管72内に留めることができる。
【0080】
また、図16に示すように、推進制御装置15のCPU64は、例えば第1及び第2伸縮ユニット28a,28bが拡径状態に切り替えられたときに、第1及び第2圧力計62a,62bの計測値をモニタして、第1及び第2バルーン36a,36bに空気漏れが発生しているか否かを監視する。
【0081】
具体的には、(A)圧力計の計測値が突然低下した場合、(B)正常なバルーンが膨張したときの空気室内の圧力をPsとしたときに、所定時間が経過しても圧力計の計測値がPsにならない場合、あるいは(C)圧力計の計測値がしきい値Pthに近い値になった場合など圧力計の計測値に異常が生じた場合に、CPU64はバルーンからの空気漏れが発生していると判定する。これにより、上記図13(B)で説明したように、例えば第2バルーン36bからの空気漏れが発生した場合には、第2圧力計62bの計測値に異常が生じるため、CPU64は、第2バルーン36bで空気漏れが発生したと判定する。
【0082】
次いで、CPU64は第2供給弁60bを閉じる。これにより、空気漏れが発生している第2バルーン36bの第2空気室38bに対する圧縮空気の供給が停止される。これにより、第2空気室38bに対して圧縮空気が無駄に供給され続けることが防止される。
【0083】
なお、挿入部16及び内視鏡推進装置14を消化管72内から抜き取る場合には、操作ユニット26の緊急退避ボタンを押下操作する。この押下操作がなされると、CPU64はコンプレッサ58の作動を停止して全供給弁60a〜60dを閉じるとともに、全解放弁61a〜61dを開く。これにより、拡径状態の第1伸縮ユニット28aが縮径状態に切り替えられる。
【0084】
また、第2解放弁61bが開くことにより、内部空間68内の圧縮空気が、第2バルーン36bの穴75、第2空気室38b、第2フランジ33b、第2エアチューブ29bを通って第2解放弁61bから排出される。これにより、膨張したカバー本体65が収縮するため、カバー本体65による消化管72の内壁のグリップが解除される。推進機構14a及び汚れ防止カバー14bによるグリップが全て解除されるので、挿入部16及び内視鏡推進装置14を消化管72内から抜き取ることができる。
【0085】
上記実施形態では、第1〜第4バルーン36a〜36dのうち、第2バルーン36bから空気漏れが発生した場合を例に挙げて説明したが、他のバルーン36a,36c,36dまたは複数個のバルーンで空気漏れが発生した場合にも、上記説明した効果と同様の効果が得られる。
【0086】
上記実施形態では、キャップ32は挿入部先端部16aの外周に着脱自在に固定されるが、このキャップ32の固定・固定解除を操作ユニット26で行ってもよい。例えば図17に示すように、第1オーバチューブ31aの先端部分の内周面に、その周方向に沿って略ドーナツ状のバルーン(最先端伸縮ユニット固定手段)77を設けてもよい。このバルーン77の内径は、圧縮空気が供給されていない非圧縮状態において挿入部先端部16aの外径よりも大きくなっている。
【0087】
バルーン77には、圧縮空気の給排を行うための給排チューブ78の一端が接続している。この給排チューブ78の他端は、各伸縮ユニット28a〜28dの内部空間を通って、推進制御装置15に接続している。
【0088】
推進制御装置15は、操作ユニット26からの指令に応じて、給排チューブ78への圧縮空気の給排を制御する。推進制御装置15は、操作ユニット26から挿入部先端部16aの固定指令が入力されると、給排チューブ78へ圧縮空気を供給する。これにより、図18に示すように、バルーン77が内側に膨張してその内径が狭まることで、バルーン77が挿入部先端部16aの外周をグリップする。これにより、バルーン77を介してキャップ32が挿入部先端部16aに固定される。
【0089】
キャップ32の固定後、推進制御装置15は、操作ユニット26から挿入部先端部16aの固定解除指令が入力されると、コンプレッサ58から発生した圧縮空気を給排チューブ78に導く管路(図示せず)の途中に設けた解放弁(図示せず)を開く。これにより、バルーン77及び給排チューブ78の内部が大気圧に戻り、バルーン77が図17に示した元の状態に復元して挿入部先端部16aのグリップを解除する。挿入部先端部16aに対するキャップ32の固定が解除される。
【0090】
以上説明したように、挿入部16及び内視鏡推進装置14が消化管内などに挿入されている状態でも、操作ユニット26を操作することでキャップ32の固定・固定解除を切り替えることができる。これにより、上記図13(B)で説明したような汚れ防止カバー14bが消化管72の内壁をグリップした状態でも、キャップ32の固定を解除することで、挿入部16だけを消化管72のさらに奥に進めることができる。
【0091】
なお、バルーン77を、第1オーバチューブ31aの先端部分の内周面上に設ける代わりに、キャップ32の内周面上などに設けてもよい。また、バルーン77の代わりに、挿入部先端部16aに対するキャップ32の固定/固定解除を遠隔操作で切替可能な各種の固定部材を設けてもよい。
【0092】
上記実施形態では、推進制御装置15の各圧力計62a〜62dの計測結果に基づき、各バルーン36a〜36dでそれぞれ空気漏れが発生しているかを判定しているが、圧力計は推進制御装置15から各空気室38a〜38dまでの圧縮空気の流路の任意の箇所に設けてもよい。
【0093】
上記実施形態では、空気漏れが発生したバルーンへの圧縮空気の供給を選択的に停止する場合について説明したが、各バルーンの少なくとも1つで空気漏れが発生した場合には、全てのバルーンへの圧縮空気の供給を停止してもよい。
【0094】
上記実施形態では、第1〜第4エアチューブ29a〜29dをそれぞれ第1〜第4フランジ33a〜33dに接続しているが、第1〜第4伸縮ユニット28a〜28dの任意の1箇所に接続してもよい。例えば、第1〜第4オーバチューブ31a〜31dにその内面と外面とを貫通する貫通穴を設けて、各オーバチューブ31a〜31dの貫通穴にそれぞれ各エアチューブ29a〜29dを接続してもよい。
【0095】
上記実施形態では、弾性カバー36(図2参照)をピアノ線37で括ることより第1〜第4バルーン36a〜36dを形成しているが、各第1〜第4バルーン36a〜36d(筒状伸縮体)をそれぞれ別個に取り付けてもよい。
【0096】
上記各実施形態では、各伸縮ユニット28a〜28dがそれぞれ個別のオーバチューブ31a〜31dを備えているが、例えば、挿入部16の軸方向に長く延びた一本のオーバチューブの外周に、その軸方向に沿って複数のバルーン36a〜36d、キャップ32及びフランジ33a〜33dを設けることによって、各伸縮ユニットを構成してもよい。
【0097】
上記各実施形態では、各バルーン36a〜36dの両端部と、各オーバチューブ31a〜31dの両端部とをそれぞれキャップ32、各フランジ33a〜33dを介して固定しているが、フランジを介さずに、圧着や接着等の各種方法を用いて両者を固定してもよい。
【0098】
上記実施形態では、内視鏡推進装置14を4個の伸縮ユニット28a〜28dにより構成しているが、ミミズの移動を模した蠕動運動を行う場合には3個以上の伸縮ユニットがあればよいので、内視鏡推進装置を3個あるいは5個以上の伸縮ユニットにより構成してもよい。また、上記各実施形態では、各バルーン36a〜36dの内側に圧縮空気を給排しているが、圧縮空気の代わりに液体等の各種流体を用いてもよい。
【0099】
上記実施形態では、第M(Mは1〜3)オーバチューブと第(M+1)オーバチューブとが共通の第Mフランジを介して接続されているが、この第Mフランジを第Mオーバチューブに接続するフランジと、第M+1オーバチューブに接続するフランジとに分けてもよい。
【0100】
上記実施形態ではピアノ線66を用いてカバー本体65の両端部を括っているが、ピアノ線以外のものを用いてカバー本体65の両端部を括るようにしてもよい。また、上記実施形態では、各バルーン36a〜36dの空気室38a〜38dに供給する流体として圧縮空気を例に挙げて説明を行ったが、液体等の各種流体を用いてもよい。
【0101】
上記実施形態では、内部空間68内の圧力がしきい値Pthを上回るか否かに応じて自動的に開き状態/閉じ状態に切り替わるタイプの解放バルブ67を例に挙げて説明を行ったが、内部空間68内の圧力を圧力計等の各種測定器で別途計測した結果に基づき、開き状態/閉じ状態に切り替わるタイプの解放バルブを用いてもよい。
【0102】
上記実施形態では、推進機構14aの外周を覆うカバーとして使い捨ての汚れ防止カバー14bを例に挙げて説明を行ったが、例えばバルーンから消化管72への空気漏れを防止するためのカバーや、アレルギー性材料からなるバルーンと消化管72の内壁との接触防止するための低アレルギー材料カバーなどの各種カバーを用いることができる。
【0103】
上記実施形態では、内視鏡推進装置14が電子内視鏡11の挿入部16に取り付けられる場合について説明を行ったが、本発明の内視鏡推進装置は、消化管や人工管路等の各種管内に挿入される各種内視鏡の挿入部に取り付け可能である。
【符号の説明】
【0104】
11 電子内視鏡
14 内視鏡推進装置
14a 推進機構
14b 汚れ防止カバー
15 推進制御装置
16 挿入部
16a 挿入部先端部
28a〜28d 第1〜第4伸縮ユニット
31a〜31d 第1〜第4オーバチューブ
33a〜33d 第1〜第4フランジ
36a〜36d 第1〜第4バルーン
38a〜38d 第1〜第4空気室
62a〜62d
64 CPU
65 カバー本体
66 ピアノ線
67 解放バルブ
68 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構であり、前記挿入部の外周側に第1密閉空間を形成する略筒状を有し、前記第1密閉空間内に供給された加圧用の流体による内側からの加圧により前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮し、前記加圧が解除されたときに元の状態に復元する拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、各前記拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構と、
弾性材料からなり、前記推進機構の先端から後端までの全体を覆う長さを持つ略筒状のカバーと、
前記カバーの両端部において前記カバーと前記挿入部とを固定して、前記カバーの内周と前記推進機構の外周との間に第2密閉空間を形成するカバー端部固定手段と、
前記カバーに設けられ、前記第2密閉空間内の圧力を外部に解放する圧力解放バルブであり、前記拡張部材から前記第2密閉空間内へ前記流体が漏れたときに、前記第2密閉空間内の圧力が所定のしきい値以下のときは閉じ状態となって前記カバーを前記径方向に膨張させ、前記第2密閉空間内の圧力が前記しきい値を上回ったときは開き状態となって前記カバーのさらなる膨張を停止させる圧力解放バルブと、
を備えることを特徴とする内視鏡推進装置。
【請求項2】
前記しきい値は、前記カバーが前記径方向に膨張したときに当該カバーの破裂が発生する限界値、または当該カバーが前記管路の内壁に損傷を与える限界値のいずれか低い方よりも小さい値に設定されることを特徴とする請求項1記載の内視鏡推進装置。
【請求項3】
前記しきい値は、前記径方向に膨張した前記カバーが前記管路の内壁に対して押圧力を有する値に設定されることを特徴とする請求項1または2記載の内視鏡推進装置。
【請求項4】
前記押圧力を有する値は、前記径方向に膨張した前記カバーの径が、前記径方向に拡径した前記拡張部材の最大径よりも大きくなるような圧力値であることを特徴とする請求項3記載の内視鏡推進装置。
【請求項5】
前記挿入部に沿って前記軸方向に延びるように配設され、一端が前記圧力解放バルブに接続するとともに、他端が前記内視鏡の操作部まで引き出されており、前記圧力解放バルブが開き状態となったときに前記第2密閉空間内の流体を前記他端から外部に排出する排気用チューブを備えていることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の内視鏡推進装置。
【請求項6】
各前記拡張部材からの前記流体の漏れをそれぞれ検出する流体漏れ検出手段と、
前記流体漏れ検出手段の検出結果に基づき、前記流体の漏れが発生した前記拡張部材の前記第1密閉空間に対する前記流体の供給を停止させる停止制御手段と、を備えることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の内視鏡推進装置。
【請求項7】
前記推進機構は、前記挿入部が挿通され、前記軸方向に伸縮自在な伸縮管と、前記伸縮管の外周を覆う前記拡張部材と、前記拡張部材の両端部において前記拡張部材と前記伸縮管とを固定して、前記筒状伸縮体の内周と前記伸縮管の外周との間に前記第1密閉空間を形成する拡張部材端部固定手段と、前記第1密閉空間に対して前記流体を給排する給排チューブとからなる伸縮ユニットを、前記軸方向に複数連結してなることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の内視鏡推進装置。
【請求項8】
複数の前記伸縮ユニットのうち、前記挿入部の最も先端側に位置する最先端伸縮ユニットを、前記挿入部に解除可能に固定する最先端伸縮ユニット固定手段を備えることを特徴とする請求項7記載の内視鏡推進装置。
【請求項9】
前記拡張部材はバルーンであることを特徴とする請求項8記載の内視鏡推進装置。
【請求項10】
管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構を覆う内視鏡用カバーであり、
前記推進機構は、前記挿入部の外周側に第1密閉空間を形成する略筒状を有し、前記第1密閉空間内に供給された加圧用の流体による内側からの加圧により前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮し、前記加圧が解除されたときに元の状態に復元する拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、各前記拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構であり、
弾性材料からなり、前記推進機構の先端から後端までの全体を覆う長さを持つ略筒状のカバー本体と、
前記カバー本体の両端部において前記カバー本体と前記挿入部とを固定して、前記カバー本体の内周と前記推進機構の外周との間に第2密閉空間を形成するカバー端部固定手段と、
前記カバー本体に設けられ、前記第2密閉空間内の圧力を外部に解放する圧力解放バルブであり、前記拡張部材から前記第2密閉空間内へ前記流体が漏れたときに、前記第2密閉空間内の圧力が所定のしきい値以下のときは閉じ状態となって前記カバーを前記径方向に膨張させ、前記第2密閉空間内の圧力が前記しきい値を上回ったときは開き状態となって前記カバーのさらなる膨張を停止させる圧力解放バルブと、
を備えることを特徴とする内視鏡用カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−81132(P2012−81132A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230732(P2010−230732)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】