説明

内視鏡用鉗子

【課題】内視鏡用鉗子の湾曲操作の自由度を向上させる。
【解決手段】処置具と、コイルによって構成された可撓管と、可撓管に挿通されて処置具に連結された操作ワイヤと、操作ワイヤの操作部とを備える内視鏡用鉗子であって、一方が他方に対して回動可能に構成された管状部材のうち最も基端側の管状部材が可撓管の先端部と接続されており、最も基端側の管状部材には移動ワイヤが接続されており、最も先端側の管状部材には湾曲制御ワイヤが接続されており、操作ワイヤは管状部材に挿通されて処置具に連結されており、操作部は可撓管の基端における軸方向に移動可能な操作筒を有し、移動ワイヤは可撓管に挿通されて操作筒に接続され、湾曲制御ワイヤは可撓管に挿通されて操作筒に設けられた湾曲制御部に接続され、湾曲制御部は湾曲制御ワイヤの長さを調整して、管状部材の軸方向と可撓管の軸方向とがなす湾曲角度を調整可能とする内視鏡用鉗子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用の鉗子に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡においては、一般に、患部を治療するために供される種々の鉗子を体内に挿入するための鉗子口、体腔内挿入管内に貫通された鉗子チャンネル、体腔内挿入管の先端に設けられた鉗子用開口が備えられており、術者は、鉗子口から鉗子を挿入し、内視鏡の体腔内挿入部内の鉗子チャンネルを通じて鉗子用開口から鉗子を出没させ、体腔内の組織を採取する等の処置を行う。
【0003】
このような鉗子としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載されたものが提案されている。特許文献1の鉗子は、密巻きのコイルパイプにより可撓管が構成され、その管内を鉗子操作用のワイヤと可撓管操作用のワイヤが挿し通されており、可撓管の先端部と中途部とで可撓性が異なっている。先端部のコイルは荒く巻かれており巻き密度を低くしているため、先端部の方が中途部に比べて可撓性に富んでおり、可撓管操作用ワイヤを操作すると、先端部のコイルの巻き密度が高いものと比較して先端部の湾曲範囲が広がるので、可撓管の先端に取り付けられる鉗子の移動範囲も自ずと広がる。また、特許文献2の鉗子は、可撓性を有する鉗子管路の先端にワイヤが取り付けられており、鉗子管路自体を進退させて内視鏡先端から突出させた上でワイヤを操作することにより、鉗子管路を所望の方向及び位置に移動させることができる。それによって、鉗子管路に挿通されて鉗子管路の先端より出没する鉗子の移動方向及び位置を変更させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭52−22146号公報
【特許文献2】実公昭56−6082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のような鉗子では、密巻きのコイルパイプにより可撓管が構成されかつ巻き密度が変わる位置を屈曲点として曲がるため、屈曲点を内視鏡先端から突出させなければ十分な湾曲が得られない。また、屈曲点が固定されていることから可撓管の先端部の湾曲の中心点も自ずと決まってしまい、鉗子の操作自由度が低い。また、鉗子管路を内視鏡先端から突出させてワイヤ等で鉗子管路を所望の方向へ湾曲させる場合、湾曲半径を大きくして湾曲させるには内視鏡先端から突出させる鉗子管路を長くしなければならない。このように、いずれの鉗子においても鉗子先端を湾曲させる際の操作の柔軟性に乏しく、効率的な施術を行う上で不便が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、可撓管にコイルを用いた鉗子において、鉗子の屈曲点を変更できる構成を採用することにより、鉗子の内視鏡先端からの突出位置や湾曲角度を微調整しながら施術を行えるようにすることである。また、湾曲に用いる管状部材の数を変更するだけで、鉗子の種類や特性に応じて湾曲可能範囲を変更することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る内視鏡用鉗子は、体腔内の治療対象部位の処置を行うための処置具と、コイルによって構成された可撓管と、該可撓管に挿通されて先端が該処置具に連結された操作ワイヤと、該操作ワイヤを進退操作するための操作部とを備える内視鏡用鉗子であって、互いにばねによって接続されており一方が他方に対して回動可能に構成された少なくとも2つの管状部材のうち最も基端側に配置されている管状部材が、可撓管の先端部と接続されており、最も基端側に配置されている管状部材には、移動ワイヤが接続されており、少なくとも2つの管状部材のうち最も先端側に配置されている管状部材には、湾曲制御ワイヤが接続されており、操作ワイヤは、少なくとも2つの管状部材に挿通されて、該少なくとも2つの管状部材の外側に配置された処置具に連結されており、操作部は、可撓管の基端における軸方向に移動可能な第1の操作筒を有し、移動ワイヤは、可撓管に挿通されて、第1の操作筒に接続されており、湾曲制御ワイヤは、可撓管に挿通されて、第1の操作筒に設けられた湾曲制御部に接続されており、湾曲制御部は、湾曲制御ワイヤの巻き取り長さを調整して、最も先端側に配置されている管状部材の軸方向と可撓管の軸方向とがなす角度である湾曲角度を調整可能とする。これにより、鉗子上における湾曲管の位置やばねの付勢力を各ワイヤによって制御しつつ、内視鏡先端から突出させた処置具の方向をばね及び湾曲管によって変更し、体腔内における鉗子の移動を円滑かつ柔軟に行うことができる。
【0008】
好ましくは、湾曲制御部は、ラチェット機構としての可逆ツメ車機構からなり、該可逆ツメ車機構は、ラチェットギヤとしての回動可能な可逆ツメ車と、ラチェット爪部材とからなり、可逆ツメ車は、ラチェット爪部材によって、一方向への回転が規制されており、湾曲制御ワイヤの基端は、可逆ツメ車の回転軸に取り付けられている。また、ラチェット爪部材は、回動可能な三股形状であり、該三股形状のうちの二股に設けられた先端爪部が可逆ツメ車に近接し、該二股の先端爪部のいずれか一方が該可逆ツメ車の時計回りあるいは反時計回りの回動を規制し、他方が該可逆ツメ車の反時計回りあるいは時計回りの回動を規制する。さらに、湾曲制御部は、二股の先端爪部のいずれもが同時に可逆ツメ車と係合するようにラチェット爪部材を維持するための係止部材を有する。そして、係止部材は、凸部を有し、コイルばねによりラチェット爪部材側に付勢されており、係止部材の凸部は、ラチェット爪部材の三股の先端部のうち二股の先端爪部以外の先端部に設けられた凹部と嵌め合う。これにより、ラチェットギアの回動を抑止することができる。このため、湾曲制御部の可逆ツメ車機構の係合を利用することにより、湾曲制御ワイヤの長さを微調整することができるため、鉗子の位置制御を良好に行うことができる。
【0009】
さらに好ましくは、操作部は、第1の操作筒に摺動可能に挿通された第2の操作筒を有し、操作ワイヤは、第2の操作筒に摺動可能に挿通されており、操作ワイヤの基端には操作環が接続されている。このため、操作部において第1の操作筒を操作することにより湾曲部の移動を制御しつつ、第2の操作筒に設けられた操作ワイヤを操作して処置具も操作することができる。そして、第2の操作筒は、2つの突起部を有し、第1の操作筒は、2つの突起部の間を摺動する。これにより、第2の操作管が可撓管のコイルの付勢力によって移動ワイヤに引かれて先端側へ移動するときに、第2の操作管を一定距離以上は先端側に移動しないように固定することができる。また、第2の操作管を基端側へ移動して移動ワイヤを引いて湾曲部を基端側へ移動するとき、必要以上に移動ワイヤを引きすぎないように第2の操作管を一定距離以上は基端側へ移動しないように固定することができる。従って、第2の操作管の移動範囲ひいては湾曲部の移動範囲を施術に適切な範囲に抑えることができる。
【0010】
また、第1の操作筒及び第2の操作筒には、該第1の操作筒と該第2の操作筒の相対位置を固定するための係止機構が設けられている。これにより、第1の操作筒が第2の操作筒に対して摺動しないように位置を固定しておくことができるため、湾曲部の位置決め及び湾曲部により決定される鉗子の屈曲点の位置決めを容易に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内視鏡用鉗子によれば、処置具を任意の長さ及び位置で湾曲させることができるため、鉗子の屈曲点を変更しつつ湾曲角度を変えることができ、鉗子の湾曲操作の自由度が向上する。また、鉗子の湾曲角度を湾曲管のみの操作で変更することができるため、鉗子の湾曲を行う構成を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態における内視鏡用鉗子の先端側を示す概略図であり、(b)は、同じく内視鏡用鉗子の基端側に設けられた操作部を示す概略図である。
【図2】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態における内視鏡用鉗子の湾曲部を示す拡大図である。
【図3】(a)は、本発明の一実施形態における内視鏡用鉗子の湾曲制御部を示す拡大平面図、(b)は、同じく拡大側断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の一実施形態における内視鏡用鉗子の先端部の湾曲状態を示す拡大図である。
【図5】本発明の別の実施形態における内視鏡用鉗子の湾曲部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態における内視鏡用鉗子の構造について説明する。なお、複数の図にまたがって同じ部材を示す場合は同じ番号を付すこととする。なお、以下の説明において、各部材の先端とはそれぞれ鉗子の先端側の端部を意味し、各部材の基端とはそれぞれ鉗子の基端側の端部を意味するものとする。
【0014】
図1(a)及び(b)に、本実施形態における内視鏡用鉗子全体の概略図を示す。長尺な鉗子1の基端側に設けられた操作部2には、中空円筒形状の第1の操作筒5とその中途部が該第1の操作筒5に挿通された円筒形状の第2の操作筒3が設けられている。第2の操作筒3の先端には突起部3dが設けられており、突起部3dには、コイルを巻き回して形成された可撓管11の基端部が融着、接着、ねじ固定等により固定されている。なお、第1の操作筒5を第2の操作筒3に組み付ける際は、第1の操作筒5を第2の操作筒3に挿し通した後に、突起部3dを第2の操作筒3の先端と融着、接着、ねじ固定等により固定する。第2の操作筒3の基端側外周面には、第1の操作筒5の基端に形成された円環状の突起部5aと対向する同じく円環状の突起部3aが設けられており、さらに、円環状の突起部3aの基端側で第2の操作筒3の端部には、リング状の把持環3bが設けられている。そして、リング状の把持環3b内には、鉗子1の先端に配置された把持鉗子や鉗子鋏等の開閉処置具6を操作するための操作環3cが配置されている。また、操作環3cには、第2の操作筒3内を通りさらに可撓管11内を挿通する操作ワイヤ4の一端が連結されており、操作ワイヤ4の他端は、鉗子1の先端に配設された開閉処置具6に連結されている。従って、術者は、片方の手で操作部2を握り、握った手の親指を操作環3cに通して親指を動かし、操作環3cを第2の操作筒3の軸方向に進退させることにより、操作ワイヤ4を進退させ、操作ワイヤ4の他端に連結された開閉処置具6のリンク機構6aを作動させることにより、開閉処置具6の開閉操作を行うことができる。なお、操作ワイヤ4は、操作ワイヤ4を進退自在に挿通させる可撓性を有するシース8によって、基端側の一部を除いて全体が被覆されている。
【0015】
第1の操作筒5の先端には、湾曲部12の移動ワイヤ7の基端が固定されている。移動ワイヤ7は、操作ワイヤ4と同様に、可撓管11内に挿通され、その先端は、可撓管11の先端に固定された湾曲部12の一部を構成する固定管12bの基端に接続されている。従って、術者は、操作部2を握りながら、第1の操作筒5の円環状の突起部5aを指で押しつけて、第1の操作筒5を第2の操作筒3の円環状の突起部3a方向に移動させることにより、移動ワイヤ7を基端側に牽引し、それによって、移動ワイヤ7に接続された固定管12bが、可撓管11を構成するコイルを圧縮しながら同じく基端側に移動する。これによって、可撓管11の先端に配置された湾曲部12から、シース8に被覆された操作ワイヤ4が体腔内に露出することになり、操作ワイヤ4を湾曲させるための湾曲部12の湾曲作用点が、相対的に操作ワイヤ4の基端側に移動することとなり、操作ワイヤ4を湾曲させる際の屈曲点の位置を基端側に変更することができる。
【0016】
図2(a)及び(b)は、可撓管11の先端に設けられた湾曲部12の拡大図を示す。湾曲部12は、可撓管11の先端に融着ないし接着により固定された管状部材である固定管12bと、固定管12bの前端の一点を中心として回動可能に取り付けられた同じく管状部材である湾曲管12aと、湾曲管12aと固定管12bとの間に配置固定され、湾曲管12aが該一点を中心に回動可能となるように付勢されたトーションばね12cとで構成されている。さらに、湾曲管12aの基端には、湾曲制御ワイヤ10の先端が固定され、また、上述したように、固定管12bの基端には、移動ワイヤ7の先端が固定されている。そして、湾曲制御ワイヤ10は、固定管12b内及び可撓管11内を通って、後述する第1の操作筒5外周面に配置された湾曲制御部9の可逆ツメ車9aの巻き取り軸9fに、その基端が固定されている。湾曲管12aは、トーションばね12cの弾性力により付勢され、後述する湾曲制御部9によって湾曲制御ワイヤ10が基端側へ引かれない初期状態では、図2(a)に示すように、湾曲管12aの軸方向が鉗子1の軸方向に対して一定角度(以下、湾曲角度という。)をなす状態で維持される。そして、後述する湾曲制御部9によって湾曲制御ワイヤ10を基端側へ引くことにより、図2(b)に示すように、湾曲角度を0度に近づけ、湾曲管12aの軸方向と鉗子1の軸方向とを一致させることができる。内視鏡の鉗子口から鉗子1を挿入する際は、図2(b)に示すように湾曲制御ワイヤ10を引いて湾曲管12aの軸方向と鉗子1の軸方向とを一致させたまま、鉗子1を鉗子チャンネル内に挿通させて、鉗子1の先端に配置された開閉処置具6を内視鏡先端から突出させる。湾曲制御ワイヤ10の巻き取り長さとトーションばね12cの弾性力を調整して湾曲管12aの湾曲角度を変更することにより、湾曲管12aによって操作ワイヤ4の湾曲角度と開閉処置具6の操作方向を変更することができる。なお、トーションばね12cの線径、中心径、巻き数、アーム長、自由角度は、湾曲管12aの初期状態が適切な位置になるように任意に決定することができる。
【0017】
次に、図3(a)及び(b)に第1の操作筒5の外周面上に設けられた湾曲制御部9の拡大図を示す。湾曲制御部9は第1の操作筒5の外周面に設けられており、湾曲制御部9は可逆ツメ車の機構、いわゆる、ラチェット機構によって構成されている。湾曲制御ワイヤ10は、ラチェット機構のラチェットギアに相当する可逆ツメ車9aの巻き取り軸9fに接続されており、湾曲制御ワイヤ10は、初期状態では、湾曲管12aがトーションばね12cによって外側に回動付勢されているので先端側に引っ張られている。湾曲制御ワイヤ10は、可逆ツメ車9aを時計回り方向あるいは反時計回り方向に回転させることによって巻き取り軸9fに巻き取られる。湾曲制御ワイヤ10が、トーションばね12cの付勢力に抗して巻き取り軸9fに徐々に巻き取られていくと、湾曲部12の湾曲管12aの軸方向と鉗子1の軸方向とがなす角、すなわち湾曲角度が徐々に0度に近づいてくる。
【0018】
第1の操作筒5の外周面上に巻き取り軸9fによって回動自在に軸支された可逆ツメ車9aの外周面には、所定の周間隔で複数の係合用の凹部9hが設けられている。さらに、第1の操作筒5の外周面上には、可逆ツメ車9aに隣接してラチェット機構のラチェット爪に相当する三つ股形状のラチェット爪部材9bが、軸9gを中心として回動自在に軸支されている。また、可逆ツメ車9aに近接したラチェット爪部材9bの二股の先端爪部9i,9iは、可逆ツメ車9aを時計回り方向に回転させて湾曲制御ワイヤ10を巻き取り軸9fに巻き取る場合には、一方の先端爪部9iが、可逆ツメ車9aの凹部9hの一端と係合して、トーションばね12cの付勢力による可逆ツメ車9aの反時計方向への戻りを係止する。そして、可逆ツメ車9aを反時計回り方向に回転させて湾曲制御ワイヤ10を巻き取り軸9fに巻き取る場合には、他方の先端爪部9iが、可逆ツメ車9aの凹部9hの他端と係合して、可逆ツメ車9aのトーションばね12cの付勢力による時計方向への戻りを係止する。
【0019】
可逆ツメ車9aを時計方向あるいは反時計方向に回転させて一定の長さの湾曲制御ワイヤ10を巻き取り軸9fに巻き取る度に、ラチェット爪部材9bの一方あるいは他方の先端爪部9i,9iが、可逆ツメ車9aの外周面に形成された複数の凹部9hの一端あるいは他端と順繰りに係合し、先端爪部9iあるいは9iと複数の凹部9hとの係合が順繰りに切り替わる。このように、かかる係合が切り替わる度に、先端爪部9iあるいは9iが可逆ツメ車9aの時計回り方向あるいは反時計回り方向の回転を係止し、これによって、巻き取り軸9fに巻き取られた一定の長さの湾曲制御ワイヤ10が鉗子1の先端側に戻らないように係止される。従って、可逆ツメ車9aの外周面に形成される凹部9hの数を増やすことにより、係合が1回切り替わる度に巻き取られる湾曲制御ワイヤ10の長さを細分化して調整することができるため、湾曲管12aの鉗子1の軸方向に対する角度をより細かく制御することができる。従って、湾曲部12の湾曲角度を微調整しやすくなる。
【0020】
湾曲部12を初期状態に戻すには、ラチェット爪部材9bを回転させ、ラチェット爪部材9bの先端爪部9iと可逆ツメ車9aの凹部9hとを係合させる。湾曲制御ワイヤ10には常に引き戻る方向にトーションばね12cの付勢力が働いているので、かかる付勢力によって、湾曲制御ワイヤ10を介して可逆ツメ車9aは、巻き取り方向とは反対の方向に回転する。先端爪部9iと可逆ツメ車の凹部9hとが係合しているときは、可逆ツメ車9aの凹部9h同士の間に形成された凸部端が、ラチェット爪部材9bの先端爪部9iを跳ね上げ、先端爪部9iによって可逆ツメ車9aの巻き戻る方向への回転が阻止されることはない。これにより、巻き取った湾曲制御ワイヤ10を、巻き取る前の引き延ばした初期状態に戻すことができる。
【0021】
巻き取った湾曲制御ワイヤ10を徐々に引き延ばしていく場合は、術者は、湾曲制御ワイヤ10が所望の長さになるまで可逆ツメ車9aを回転させる。その後、ラチェット爪部材9bの先端爪部9iと可逆ツメ車9aの凹部9hとの係合を解いて、再度、ラチェット爪部材9bの先端爪部9iと可逆ツメ車9aの凹部9hとを係合させて、可逆ツメ車9aが巻き取り方向とは逆の方向へ回転するのを阻止すれば、湾曲制御ワイヤ10の長さを維持しつつ湾曲部12を所望の湾曲角度で係止しておくことができる。
【0022】
なお、ラチェット爪部材9bの先端爪部9iあるいは9iと可逆ツメ車9aの凹部9hの一端あるいは他端とを係合させず、先端爪部9iあるいは9iが設けられていないラチェット爪部材9bの残りの一股に形成された窪み9jを、第1の操作筒5の突起部5aに設けられた係止部材9cの先端の係合突起と嵌め合わせると、先端爪部9iと先端爪部9iが可逆ツメ車9aのそれぞれ異なる凹部9hに同時に係合し、可逆ツメ車9aを回動させないようにすることができる。すなわち、図3(a)及び(b)に示すように、係止部材9cは、先端に係合突起が形成された軸状部材であり、係止部材9cの軸部は、第1の操作筒5の突起部5aを貫通しており、突起部5aを貫通した軸部の一端には抜け止め頭部9eが形成されている。さらに、係止部材9cの軸部周りでかつ先端の係合突起と突起部5aの壁面との間にはコイルばね9dが弾設されており、コイルばね9dにより、先端の係合突起は、ラチェット爪部材9b側に常に付勢されている。従って、ラチェット爪部材9bを回転させ、ラチェット爪部材9bの窪み9と係止部材9cの先端の係合突起をコイルばね9dの付勢力に抗して嵌め合わせると、付勢力によってかかる嵌め合わせが維持され、ラチェット爪部材9bは、先端爪部9i及び9iのいずれもが可逆ツメ車9aの凹部9hに進入して可逆ツメ車9aの凹部9hと係合する、中立位置に維持される。これにより、可逆ツメ車9aは、ラチェット爪部材9bの先端爪部9i及び9iによってその回動が邪魔されるので、手動で可逆ツメ車9aを回動させることができなくなり、誤って可逆ツメ車9aを回動させて不意に湾曲制御ワイヤ10の長さが変わって、湾曲部12の湾曲角度が変わることを防止することができる。
【0023】
次に、図4(a)及び(b)に、移動ワイヤ7の引っ張り量及び湾曲制御ワイヤ10の巻き取り長さを調整することによって鉗子1の先端の開閉処置具6の位置を制御する様子を示す。まず、開閉処置具6を先頭にして鉗子1を図示しない内視鏡の鉗子口に挿入し、内視鏡の体腔内挿入管内に配置された鉗子チャンネルを経由して、開閉処置具6を内視鏡の先端に導き、患者の体腔内の治療対象部位の近傍において、内視鏡先端から突出させる。開閉処置具6を治療対象部位に向けるため、操作部2に設けられた第1の操作筒5を基端側に引くと、移動ワイヤ7を介して、湾曲部12の一部を構成する固定管12bが同じく基端側に引かれて、可撓管11のコイルを圧縮し、シース8に被覆された操作ワイヤ4が、湾曲部12の先端から体腔内に所望の長さだけ露出する。このようにして、操作ワイヤ4を湾曲させる際の屈曲点の位置が決まったら、次に、操作部2の湾曲制御部9を構成する可逆ツメ車9a及びラチェット爪部材9bを上記のように操作して、湾曲制御ワイヤ10の巻き取り長さを調整して湾曲部12の湾曲角度を変更し、湾曲部12を介して操作ワイヤ4を湾曲させて、操作ワイヤ4の先端に連結された開閉処置具6が治療対象部位に向くように位置を決定する。開閉処置具6が治療に適切な位置に移動したら、次に、第2の操作筒3の操作環3cを進退させて開閉処置具6を開閉操作して施術を行う。
【0024】
図5に、本発明の別の実施形態に係る湾曲部14の構成を示す。湾曲部14は、2つの湾曲管14a,14b及び固定管14cを有し、これら湾曲管14a、14b及び固定管14cは、トーションばね14d,14eによって互いに接続されており、固定管14cは、第1の実施形態と同様に可撓管11を構成するコイルの先端に融着ないし接着で固定されている。湾曲管14bと固定管14cとの関係も、第1の実施形態と同様であり、湾曲管14aと湾曲管14bとの関係も、実質的には、湾曲管14bと固定管14cとの関係と同様であるが、湾曲管14bは、固定管14cの前端の一点を中心として回動可能に取り付けられており、湾曲管14aは、回動可能に固定管14cに取り付けられた湾曲管14bに対して、さらに、湾曲管14bの前端の一点を中心として回動可能に取り付けられている点において、第1の実施形態と異なる。なお、トーションばね14d,14eの機能も、第1の実施形態と同様であり、トーションばね14eは、湾曲管14bが、固定管14cの前端の一点を中心として回動するように湾曲管14bを付勢し、トーションばね14dは、湾曲管14bの前端の一点を中心としてさらに回動するように湾曲管14aを付勢している。なお、これらのトーションばねの特性も、第1の実施形態と同様に任意に決定することができる。
【0025】
本実施形態では、湾曲制御ワイヤ10は、最も先端側に位置する湾曲管14aに固定されており、移動ワイヤ7は、最も基端側に位置する固定管14cに固定されている。湾曲部14及び操作ワイヤ4の湾曲角度の操作や開閉処置具6の移動等は、第1の実施形態とほぼ同様である。まず、移動ワイヤ7を基端側に牽引し、それによって、移動ワイヤ7が接続された固定管14cが可撓管11のコイルを圧縮しながら同じく基端側に移動し、可撓管11の先端に配置された湾曲部14の先端から、シース8に被覆された操作ワイヤ4が体腔内に露出する。これにより、操作ワイヤ4を湾曲させるための湾曲部14の湾曲作用点が、相対的に操作ワイヤ4の基端側に移動することとなり、操作ワイヤ4を湾曲させる際の屈曲点の位置を基端側に変更することができる。また、湾曲制御ワイヤ10を、上記のように、可逆ツメ車9aによって順次巻き取ると、まずトーションばね14dの付勢力に抗して湾曲管14aが回動を始め、次に湾曲管14aの後端が湾曲管14bの前端に当接すると、トーションばね14d及び14eの付勢力に抗して湾曲管14a及び14bが一体となって回動し、湾曲角度が徐々に0度に近づく。従って、上記のように、湾曲ワイヤ4の巻き取りあるいは引き戻しを調整することにより、湾曲部14及び操作ワイヤ4の湾曲角度の操作や開閉処置具6の治療対象部位への移動を行うことができる。このように湾曲部14の湾曲管の個数を増やすことにより、湾曲部14及び操作ワイヤ4の湾曲角度をより大きい範囲で変更することができるため、鉗子1の構成を大幅に変更することなく開閉処置具6の移動範囲を広げることができ、施術効率を向上させることができる。また、湾曲管の個数を増やすことによって、各湾曲管及び各トーションばねによる湾曲角度を小さくしつつも湾曲部全体としての合計の湾曲角度を大きくすることができるため、応力集中を防ぐとともにシース8及び操作ワイヤ4に対する負荷を分散させることもできる。
【0026】
以上が本発明の実施形態に関する説明である。上記の説明では、湾曲管が1個又は2個の場合について挙げているが、湾曲管の個数は任意に決定することができる。また、処置具は上記に限らず種々のものを用いることができる。さらに、移動ワイヤを制御する第1の操作筒5の位置を、第2の操作筒3に対して調整できるように、第1の操作筒5と第2の操作筒3との間の複数箇所にクリック機構等の係止機構を設け、かかる調整を行っても良い。一例として、図3(b)では、第2の操作筒3の外周に複数の凹部からなる位置決め部3eを設け、第1の操作筒5には突起部5aの基端側の面をスライド可能な係止部材5cを設ける。係止部材5cを第1の操作筒5の内周方向にスライドさせることにより、係止部材5cの先端がいずれかの位置決め部3eに嵌め合わされ、第1の操作筒5を第2の操作筒3に固定することができる。これにより、施術中に第1の操作筒5から手を離しても第1の操作筒5は摺動せず、湾曲部の位置を固定しておくことができる。
【0027】
また、上記の説明では、湾曲管と固定管あるいは湾曲管同士を接続する部材として、トーションばねを用いているが、その他の種類のばねを用いて湾曲管の付勢部材としても良い。そして、湾曲制御ワイヤの長さを調整するために可逆ツメ車機構を用いているが、湾曲制御ワイヤを巻き取るための巻き取り軸を有し、当該巻き取り軸の回動を制御することが可能な機構であれば、可逆ツメ車機構に限らず任意の機構を採用して本発明の効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 鉗子
2 操作部
3,5 操作筒
3a,3d,5a 突起部
3c 操作環
3e 位置決め部
4 操作ワイヤ
5c,9c 係止部材
6 開閉処置具
7 移動ワイヤ
8 シース
9 湾曲制御部
9a 可逆ツメ車
9b ラチェット爪部材
9f 巻き取り軸
9i,9i 先端爪部
10 湾曲制御ワイヤ
11 可撓管
12 湾曲部
12a,14a,14b 湾曲管
12b,14c 固定管
12c,14d,14e トーションばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内の治療対象部位の処置を行うための処置具と、コイルによって構成された可撓管と、該可撓管に挿通されて先端が該処置具に連結された操作ワイヤと、該操作ワイヤを進退操作するための操作部とを備える内視鏡用鉗子であって、
互いにばねによって接続されており一方が他方に対して回動可能に構成された少なくとも2つの管状部材のうち最も基端側に配置されている管状部材が、前記可撓管の先端部と接続されており、
前記最も基端側に配置されている管状部材には、移動ワイヤが接続されており、
前記少なくとも2つの管状部材のうち最も先端側に配置されている管状部材には、湾曲制御ワイヤが接続されており、
前記操作ワイヤは、前記少なくとも2つの管状部材に挿通されて、該少なくとも2つの管状部材の外側に配置された前記処置具に連結されており、
前記操作部は、前記可撓管の基端における軸方向に移動可能な第1の操作筒を有し、
前記移動ワイヤは、前記可撓管に挿通されて、前記第1の操作筒に接続されており、
前記湾曲制御ワイヤは、前記可撓管に挿通されて、前記第1の操作筒に設けられた湾曲制御部に接続されており、
前記湾曲制御部は、前記湾曲制御ワイヤの巻き取り長さを調整して、前記最も先端側に配置されている管状部材の軸方向と前記可撓管の軸方向とがなす角度である湾曲角度を調整可能とする、
ことを特徴とする内視鏡用鉗子。
【請求項2】
前記湾曲制御部は、ラチェット機構としての可逆ツメ車機構からなり、該可逆ツメ車機構は、ラチェットギヤとしての回動可能な可逆ツメ車と、ラチェット爪部材とからなり、
前記可逆ツメ車は、前記ラチェット爪部材によって、一方向への回転が規制されており、
前記湾曲制御ワイヤの基端は、前記可逆ツメ車の回転軸に取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡用鉗子。
【請求項3】
前記ラチェット爪部材は、回動可能な三股形状であり、該三股形状のうちの二股に設けられた先端爪部が前記可逆ツメ車に近接し、該二股の先端爪部のいずれか一方が該可逆ツメ車の時計回りあるいは反時計回りの回動を規制し、他方が該可逆ツメ車の反時計回りあるいは時計回りの回動を規制することを特徴とする請求項2に記載の内視鏡用鉗子。
【請求項4】
前記湾曲制御部は、前記二股の先端爪部のいずれもが同時に前記可逆ツメ車と係合するように前記ラチェット爪部材を維持するための係止部材を有することを特徴とする請求項3に記載の内視鏡用鉗子。
【請求項5】
前記係止部材は、凸部を有し、コイルばねにより前記ラチェット爪部材側に付勢されており、
前記係止部材の凸部は、前記ラチェット爪部材の三股の先端部のうち前記二股の先端爪部以外の先端部に設けられた凹部と嵌め合う、
ことを特徴とする請求項4に記載の内視鏡用鉗子。
【請求項6】
前記操作部は、前記第1の操作筒に摺動可能に挿通された第2の操作筒を有し、
前記操作ワイヤは、前記第2の操作筒に摺動可能に挿通されており、
前記操作ワイヤの基端には操作環が接続されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の内視鏡用鉗子。
【請求項7】
前記第2の操作筒は、2つの突起部を有し、
前記第1の操作筒は、前記2つの突起部の間を摺動する、
ことを特徴とする請求項6に記載の内視鏡用鉗子。
【請求項8】
前記第1の操作筒及び前記第2の操作筒には、該第1の操作筒と該第2の操作筒の相対位置を固定するための係止機構が設けられていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の内視鏡用鉗子。
【請求項9】
前記ばねは、トーションばねであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の内視鏡用鉗子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−104193(P2011−104193A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263778(P2009−263778)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】