内視鏡
【課題】内視鏡の挿入部先端の開口部からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、中空状に噴出することなく、また挿入部先端の太径化を招くことなく切り換える。
【解決手段】切換部材30を先端部3の前面に配置して前方送水口21に対する拡散部31の位置を選択的に切り換えることで前方送水口21から噴出される流体の噴出範囲を先端部3の太径化を招くことなく切り換える。切換部材30の非拡散部31の位置が前方送水口21に一致するように配置されたときには前方送水チャンネル22に供給される液体が前方送水口21から拡散されることなく前方送水チャンネル22の管路軸方向に噴出され、拡散部32が前方送水口21を斜めに覆うような位置に配置されると、前方送水口21から噴出される液体が拡散部32を通過する際に拡散され、先端部3前方の広い範囲で噴射される。
【解決手段】切換部材30を先端部3の前面に配置して前方送水口21に対する拡散部31の位置を選択的に切り換えることで前方送水口21から噴出される流体の噴出範囲を先端部3の太径化を招くことなく切り換える。切換部材30の非拡散部31の位置が前方送水口21に一致するように配置されたときには前方送水チャンネル22に供給される液体が前方送水口21から拡散されることなく前方送水チャンネル22の管路軸方向に噴出され、拡散部32が前方送水口21を斜めに覆うような位置に配置されると、前方送水口21から噴出される液体が拡散部32を通過する際に拡散され、先端部3前方の広い範囲で噴射される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を噴射するための開口を先端部に有する内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内視鏡は、医療分野等で広く利用されており、例えば、体腔内に細長い挿入部を挿入することにより、体腔内の臓器等を観察したり、必要に応じて処置具挿通チャンネル内に挿入した処置具を用いて各種処置をすることができる。挿入部の先端には、湾曲部が設けられ、内視鏡の操作部を操作することによって、先端部の観察窓の観察方向を変更させることができる。
【0003】
このような内視鏡の観察窓である対物光学系の外表面は、体腔内に挿入された際に、体液等が付着して観察の妨げになる場合がある。このため、一般に、内視鏡の先端部の観察窓近傍には、洗浄用の送気送水ノズルが設けられている。そして、内視鏡の対物光学系の外表面は、送気送水ノズルから洗浄液が噴出されたり、空気が吹き付けられる等して観察視野を確保できるようにしている。
【0004】
また、内視鏡は、送気送水ノズルの他にも、体腔内の観察部位に向けて洗浄液等の液体を噴射できる液体供給手段を備えたものがある。この液体供給手段は、例えば前方送水装置から供給される洗浄液等の液体を、挿入部内に設けられた前方送水チャンネルを介して送出し、先端部の先端面に配置された前方送水チャンネルの開口を介して噴射するように構成されている。そして、体腔内の観察部位に対して前方送水チャンネルの開口から薬液を散布したり、又は前方送水チャンネルチャンネルの開口から洗浄液を噴射することで汚染されている体腔内の観察部位を洗浄することができる。
【0005】
また、このような内視鏡は、処置具チャンネルを備えた構成である場合には、先端部の先端面に配された処置具チャンネルの開口より突出する処置具、又はこの処置具近傍の観察部位に対して、前記前方送水チャンネルの開口から洗浄液を噴射することで、処置具又は処置具近傍の観察部位の洗浄ができるようになっている。
【0006】
しかしながら、従来の内視鏡においては、洗浄水の噴射口が単純な絞り孔状に形成されているだけであるため、被写体に向けて噴出される洗浄水の水流の状態を調整することは困難であり、洗浄水を内視鏡に注入する側において注入圧を変える程度のことしか行うことができない。そのため、被写体への汚れの付着状況等に合わせて、例えば広い範囲への拡散噴射と、狭い範囲への高圧噴射とを使い分けることができず、効率的な洗浄を行うことができない場合があった。
【0007】
これに対処するに、特許文献1には、洗浄水噴射口内に可動ノズル芯材を設け、洗浄水噴射口から噴射される洗浄水の水流の広がりと窄まりの状態を制御することにより、被写体への汚れの付着状況等に合わせて、広い範囲への拡散噴射と、狭い範囲への高圧噴射と、緩流による大流量噴射等を使い分け、効率的な被写体洗浄を行うことを可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−313283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、洗浄水噴射口内に可動ノズル芯材を設けているため、内視鏡先端部の太径化を招くばかりでなく、噴射口から噴射される洗浄水は、噴射範囲の大小に拘わらず流路中心部が中空状の流れとなる。このため、特許文献1は、噴出口の開口からの噴出流をそのまま使用する場合や内視鏡先端の細径化が望まれる場合には、適用することができず、適用範囲が限定されてしまう。
【0010】
例えば、内視鏡的粘膜切開剥離法(Endoscopic Submucosal Dssection :ESD)において、処置対称の周辺部位を切開し、その切開孔に向け液体を噴出することにより粘膜下層を膨隆させる場合、特許文献1のように流路中心部が中空状の噴出流では効果的に粘膜下層に注入することができず、局所的且つ十分な膨潤効果を得ることはできない。つまり、観察部位の特定箇所に局所的に液体を噴出したい場合には、特許文献1のような中空状の噴出流は適さない。
また、例えば内視鏡の観察部位の1つである処置具の表面に付着した汚物等の汚れで、特に強固に付着した汚れを流体の噴出により洗い流す場合においても、特許文献1のような中空状の噴出流は適さない。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、挿入部先端の開口部からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、中空状に噴出することなく、また挿入部先端の太径化を招くことなく切り換えることのできる内視鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による内視鏡は、挿入部の先端に、観察部位に向け流体を噴射するための開口部が配設された内視鏡であって、前記開口部から噴出された流体を所定の範囲に拡散する拡散部材と、前記開口部に対する前記拡散部材の位置を、前記開口部から噴出された流体の流路の前面と非前面とに選択的に切換える切換機構とを備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、挿入部先端の開口部から流体を噴出させる際に、開口部からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、中空状に噴出することなく、また挿入部先端の太径化を招くことなく切り換えることができ、症例の状況によって拡散/非拡散を切り換えて症例時間を短縮したり、洗浄性能の向上を図る等の適用範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係り、内視鏡システムの構成図
【図2】同上、内視鏡の先端部を示す説明図
【図3】同上、流体噴出範囲切換機構の説明図
【図4】同上、流体拡散状態を示す説明図
【図5】同上、流体噴出範囲切換機構の変形例を示す斜視図
【図6】同上、流体拡散状態を示す説明図
【図7】同上、重力方向を認識可能な内視鏡フードの説明図
【図8】本発明の第2の実施の形態に係り、内視鏡の先端部を示す説明図
【図9】同上、流体噴出範囲切換機構を示す断面図
【図10】同上、操作ワイヤとかさ歯車との連結状態を示す拡大図
【図11】同上、メッシュ荒さを変更した切換部材の説明図
【図12】本発明の第3の実施の形態に係り、流体噴出範囲切換機構の説明図
【図13】同上、流体拡散状態を示す説明図
【図14】本発明の第4の実施の形態に係り、流体噴出範囲切換機構の説明図
【図15】同上、流体非拡散状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1〜図7は本発明の第1の実施の形態に係り、図1において、符号1は本発明による内視鏡2が適用される内視鏡システムを示している。この内視鏡システム1は、内視鏡2と、光源装置10と、ビデオプロセッサ12と、モニタ13と、送気送水装置14と、吸引装置15と、前方送水装置16とを有して構成されている。
【0016】
内視鏡2は、被検体の体内に挿入される細長の挿入部6と、挿入部6の基端に連接される操作部7と、操作部7から延出されるユニバーサルコード8と、ユニバーサルコード8の先端に設けられるコネクタ部9とを有している。挿入部6は、先端側に硬質部を有する先端部3と、先端部3に連設される湾曲部4と、湾曲部4に連設される可撓管部5とにより構成されている。
【0017】
A矢印方向から見た先端部3の先端面3_1には、図2に示すように、2つの照明窓17a,17b、観察窓18、処置具チャンネル開口部19、送気送水ノズル20が設けられている。また、先端面3_1から若干凹部をなす平面部3_2に、前方送水口21が開口され、この前方送水口21に対向して細長の切換部材30が配設されている。切換部材30は、操作部7に配置された操作レバー7aにより遠隔操作されて前方送水口21から噴射される流体の噴出範囲を切り換える流体噴出範囲切換機構を構成する主要部材であり、詳細については後述する。
【0018】
先端部3の観察窓18には、観察部位からの反射光を取り込む対物光学系が設けられ、その対物光学系の結像位置に固体撮像素子が配設されている。また、先端部3に連設される湾曲部4は、複数の湾曲駒が配置され、操作部7に設けられている図示しない湾曲操作ノブから延出される湾曲ワイヤにより、上下左右に湾曲する。この湾曲部4に連設されている可撓管部5は、可撓性部材により長尺に形成されている。
【0019】
挿入部6を構成する先端部3、湾曲部4、及び可撓管部5には、図示しないライトガイド、信号ケーブル、処置具チャンネル、送水送気チャンネル、前方送水チャンネル22(図3参照)が設けられている。ライトガイドの先端は、先端部3の照明窓17a,17bに配置されている。信号ケーブルの先端は、先端部3の観察窓18に設けられた固体撮像素子に接続されている。処置具チャンネルの先端は、先端部3の処置具チャンネル開口部19に配置されている。送水送気チャンネルの先端は、先端部3の送気送水ノズル20の開口に配置されている。前方送水チャンネル22の先端は、先端部3の前方送水口21に配置されている。
【0020】
一方、ライトガイドの基端は、操作部7からユニバーサルコード8、コネクタ部9を介して、光源装置10に接続される。信号ケーブルの基端は、操作部7からユニバーサルコード8、コネクタ部9、コネクタケーブル11を介して、ビデオプロセッサ12に接続される。処置具チャンネル19の基端は、操作部7に設けられた処置具挿入口(図示せず)に接続されている。送水送気チャンネルの基端は、操作部7に設けられた送水送気チャンネル口金に接続され、送水送気チャンネル口金から、送気チャンネルチューブと送水チャンネルチューブとに分割される。これらの送気チャンネルチューブ及び送水チャンネルチューブは、操作部7からユニバーサルコード8、コネクタ部9を介して何れも送気送水装置14に接続される。そして操作部7の送水送気チャンネル口金に設けられた送水送気スイッチを操作することで送水送気される。前方送水チャンネル22の基端は、操作部7からユニバーサルコード8、コネクタ部9を介して、前方送水装置16に接続される。
【0021】
光源装置10は、照明ランプ等の光源部10aとこの光源部10aの点灯制御回路である光源制御部10bとを有しており、コネクタ部9のライトガイドの基端に照明光を投射する。これにより、光源部10aの照明光を2つの照明窓17a,17bに導光することができる。
【0022】
尚、光源部10aの照明ランプとしては、例えばハロゲン又はキセノンランプ等が用いられ、光源部10aから出射される光の光量や波長は、光源制御部10bにより調整される。光源制御部10bは、例えば光源部10aへの印加電圧又はフィルターを動作させる等して調整する。また、これらの操作は光源装置10のフロントパネル(図示せず)やキーボード(図示せず)等で操作することが可能である。
【0023】
ビデオプロセッサ12は、信号処理部12aと、この信号処理部12aを制御するプロセッサ制御部12bとを有しており、先端部3に設けられた固体撮像素子を駆動させると共に、固体撮像素子によって得られた観察部位の撮像信号を取り込み、その撮像信号に対して信号処理部12aで所定の信号処理を行い、映像信号を生成する。そして、モニタ13は、ビデオプロセッサ12の信号処理部12aにより生成された映像信号に基づく内視鏡画像を表示する。
【0024】
尚、ビデオプロセッサ12において、映像信号の取込、輝度値処理等の制御は、プロセッサ制御部12bによって制御される。これらの操作は、操作部7のスイッチボタン、キーボード又はビデオプロセッサ12のフロントパネル等で操作することが可能である。
【0025】
送気送水装置14は、送気チャンネルチューブを介して空気を、送水チャンネルチューブを介して液体を、操作部7に設けられた送水送気チャンネル口金に供給する。そして、送水送気チャンネル口金に設けられた送水送気スイッチを操作することにより、液体又は空気を選択的に送水送気チャンネルへ供給する。
【0026】
送水送気チャンネルへ供給された液体又は空気は、先端部3の送気送水ノズル20の噴射口から噴射される。尚、送気送水ノズル20の噴射口は、略観察窓18の方向を向いているため、送気送水ノズル20の噴射口から液体又は空気を噴射することにより、観察窓18の表面の汚れを落とすことができる。
【0027】
吸引装置15は、コネクタ部9、ユニバーサルコード8を介して操作部7内で処置具チャンネルを形成する処置具チャンネルチューブに接続されている。処置具チャンネルチューブは、操作部7内で二股に分岐され、一方の処置具チャンネルチューブが操作部7に設けられた処置具挿入口に接続され、この処置具挿入口から処置具を挿入して、処置具チャンネル開口部19から処置具を突出して操作することができる。二股に分岐されたもう一方の処置具チャンネルチューブは、コネクタ部9から吸引装置15に接続され、処置具チャンネル開口部19から、例えば患者の体液や、空気を吸引することができる。
【0028】
尚、操作部7の処置具挿入口からシリンジ等で送水することにより、処置具チャンネル開口部19から手動で送水することも可能である。
【0029】
前方送水装置16は、操作部7の前方送水ボタン(図示せず)を操作することにより、洗浄液や薬液等の流体を所定の圧力で前方送水チャンネル22に送水し、先端部3の前方送水口21に配置された切換部材30の操作位置に応じて流体を非拡散又は拡散状態で噴出させる。
【0030】
切換部材30は、図2に示す例では細長の略長円形に形成されており、前方送水口21から噴出される流体を拡散させることなく通過させる非拡散部31と、前方送水口21から噴出される流体を所定の吐出範囲に拡散させる拡散部32とを有している。非拡散部31は、例えば円形の孔や切り欠き等による開口部として形成されている。この非拡散部31は、前方送水口21からの噴出流を妨げないよう、前方送水口21と同等若しくは若干大きい径の開口孔を基本とするが、用途によっては前方送水口21からの噴出流を絞るオリフィス形状としても良い。また、拡散部32は、例えば、矩形やハニカム形状の開口を有するメッシュ状の部材、若しくはパンチングメタル等の複数の開口孔を有する薄板材等からなる拡散部材で構成されている。
【0031】
図2乃至図4に示すように、切換部材30の非拡散部31側の端部には、細径の回転軸33が切換部材30の長手方向と略直交する方向、つまり前方送水チャンネル22の管路軸方向と略直交する方向に挿通されている。切換部材30は、前方送水チャンネル22の管路軸方向に回動するように回転軸33を介して先端部3に軸支され、図3に示すように非拡散部31が前方送水口21に対向(一致)する位置と、図4に示すように先端部3の先端面3_1から斜めに突出するように回動して拡散部32が前方送水口21を斜めに覆う位置とに回動操作される。
【0032】
切換部材30の回動操作は、拡散部32側の端部に固設される操作ワイヤ34を介して行われ、非拡散部31または拡散部32の位置が前方送水口21から噴出された液体の流路の前面と非前面とに選択的に切換えられる。操作ワイヤ34は、挿入部6内を挿通されて操作部7の操作レバー7aに連結されている。操作レバー7aと操作ワイヤ34とは、リンク機構やラックピニオン機構等を介して連結されており、操作レバー7aによって操作ワイヤ34を進退移動させることにより、先端部3に回転軸33で軸支された切換部材30が図3に示す操作位置(非拡散位置)と図4に示す操作位置(拡散位置)とに回動する。
【0033】
すなわち、図3に示す非拡散位置では、操作ワイヤ34が手元側に索引されて切換部材30が先端部3の先端面3_1と略平行状態に保持され、非拡散部31の位置が前方送水口21に一致した状態となる。また、図4に示す拡散位置では、操作ワイヤ34が前方に押し出されて切換部材30が先端部3の先端面3_1から斜めに突出するように回動し、拡散部32が前方送水口21を斜めに覆うような状態となる。
【0034】
尚、操作ワイヤ34は、湾曲部4の湾曲動作に倣う可撓性を備える一方、操作レバー7aによる進退操作に対しては、進退方向の局部的な屈曲が発生しない剛性を備えており、例えば、複数本の金属素線を撚り合わせて形成される。
【0035】
本実施の形態においては、切換部材30,回転軸33,操作ワイヤ34、操作ワイヤ34と操作レバー7aとの間の連結機構により、前方送水口21から噴出される流体の噴出範囲を切り換える流体噴出範囲切換機構が構成されている。この流体噴出範囲切換機構は、切換部材30を先端部3の前面に配置して、前方送水口21に対する拡散部31の位置を選択的に切り換えることで、前方送水口21から噴出される流体の噴出範囲を切り換えるため、中空状に噴出することなく、また先端部の太径化を招くことがない。
【0036】
次に、以上の流体噴出範囲切換機構を有する内視鏡2の動作について説明する。
内視鏡2の挿入部6を患者の体腔内に挿入し、体腔内の目的部位の観察や処置を行う際、先端部3の前方送水口21から洗浄液や薬液等の流体(液体)を噴射して目的部位の洗浄や薬液の注入等を行うには、使用者が操作部7の前方送水ボタン(図示せず)を操作し、前方送水装置16を駆動させる。すると、前方送水装置16は、コネクタ部9からユニバーサルコード8内を経て挿入部6内の前方送水チャンネル22に液体を所定の圧力で供給する。
【0037】
このとき、前方送水口21から液体を拡散させることなく噴出させる場合には、操作部7の操作レバー7aを非拡散の操作位置とする。この操作状態では、操作ワイヤ34が索引されて、図3に示すように切換部材30の非拡散部31の位置が前方送水口21に一致する。その結果、前方送水チャンネル22に供給される液体が前方送水口21から拡散されることなく、前方送水チャンネル22の管路軸方向に噴出される。
【0038】
一方、前方送水口21から流体を拡散させて噴出させる場合には、操作部7の操作レバー7aを拡散位置に操作する。この操作レバー7aの拡散位置への操作により、操作ワイヤ34が先端部3の前方側に押し出されて切換部材30が回動し、図4に示すように、拡散部32が前方送水口21を斜めに覆うような位置となる。図4の操作位置では、前方送水口21から噴出される液体が拡散部32を通過する際に拡散され、前方送水チャンネル22の管路軸方向に沿って所定の範囲に略円錐状に拡がり、先端部3前方の広い範囲で噴射される。
【0039】
これにより、例えば、内視鏡的粘膜切開剥離法(Endoscopic Submucosal Dssection :ESD)等において目的部位の粘膜下層を膨隆させる場合、切換部材30を非拡散位置に操作しておくことにより、前方送水口21から略円柱状の噴出流を効果的に粘膜下層に注入することができ、局所的且つ十分な膨潤効果を得ることができる。また、例えば、術後の残渣を洗い流す場合や病変部の観察で出血点を探す場合等には、広範囲を効率的に洗い流すことができる。従って、症例の状況によって流体の拡散/非拡散を切り換えることができ、症例時間の短縮を図ることが可能となる。
【0040】
尚、切換部材30により液体を拡散させて洗浄を行う場合、観察窓18の光軸方向と処置具チャンネル開口部19の管路軸向との両方に向けて広範囲で流体を噴射させことも可能であり、洗浄性能を向上することが可能となる。例えば、観察深度が深い内視鏡であっても、前方送水範囲が光軸方向に広くなるので、観察部位と内視鏡先端との距離が多少変化しても観察部位を十分に洗浄することが可能となる。
【0041】
また、処置具チャンネルに処置具を挿通して処置等を行う場合には、処置具チャンネル開口部19からの処置具の突出量が多少変化しても、処置具の洗浄を十分に行うことができる。さらに、観察窓18の撮像視野における観察部位と、処置具チャンネル開口部19から突出する処置具とを同時に洗浄することも可能となる。
【0042】
以上の流体噴出範囲切換機構においては、切換部材30及び操作ワイヤ34を含む切換機構を内視鏡に内蔵しているが、この切換機構を内視鏡と別体の外付け機構としても良い。ここで、流体噴出範囲切換機構を内視鏡に外付けする変形例について説明する。
【0043】
図5に示す変形例は、内視鏡の先端部3Aに装着されるフード40に、切換部材30を軸支するものである。このため、切換部材30は、側方に延出された回転軸33を介してフード40の先端部3Aから突出する側壁40aに軸支されている。また、切換部材30の拡散部32側の端部に固設される操作ワイヤ34は、フード40の外周側に設けられた管状のガイド部40b内を挿通されて支持され、挿入部6Aの外壁に沿って手元側に延出される。
【0044】
操作ワイヤ34の手元側の端部は図示しない操作レバーに連結され、この操作レバーを介して進退操作される。流体が非拡散部31を介して非拡散状態で噴出される図5の状態から操作ワイヤ34を前方に押し出すように操作すると、図6に示すように拡散部32が前方送水口21を斜めに覆うような位置に切換部材30が回動し、前方送水口21から噴出される流体が所定範囲に拡散される。
【0045】
このような内視鏡とは別体の切換機構は、前方送水の非拡散/拡散を切り換える機構を有しない一般の内視鏡に適用することができ、より柔軟に広範囲への適用を可能としてコスト低減を図ることが可能となる。
【0046】
尚、この場合、図7に示すようなフード45を用いても良い。フード45は、重力方向を認識可能な内視鏡フードであり、内視鏡の観察光学系18Aの視野外周部となる部位に、環状の管路45aを設け、この管路45a内に、重力方向を識別する方向識別部材46を配設したものである。
【0047】
方向識別部材46は、例えば球体や気泡等で形成されて管路45a内を円周方向に自由に移動可能に構成され、且つ容易に視認可能なように着色されている。内視鏡先端部を任意の方向に動かして静止させたとき、フード45の方向識別部材46が管路45a内を移動して重力方向の上又は下の位置に停止する。これにより、内視鏡画像上で重力方向を容易に認識することができ、手技のストラテジーを立てやすくなる。
【0048】
尚、本実施の形態においては、拡散部32をメッシュ状の部材で形成する場合、メッシュの粗さは一定としているが、切換部材30の拡散部32が前方送水口21を覆う角度を調整することにより、前方送水口21から前方送水チャンネル22の管路軸方向に沿って噴出される流体に対して等価的にメッシュの密度を変化させることができ、拡散範囲を微調整することが可能である。更には、拡散部32を、例えばメッシュの粗さが段階的に変化するように構成することで、積極的に拡散範囲を可変することも可能である。
【0049】
また、本実施の形態においては、切換部材30に非拡散部31と拡散部32とを設けるようにしているが、切換部材30には、必ずしも非拡散部31を設ける必要はなく、少なくとも拡散部32を設ければ良い。すなわち、非拡散部31は、通常、前方送水口21から噴出される流体をそのまま通過させる開口部として構成すれば良いため、前方送水チャンネル22の管路軸方向と略平行になる角度まで切換部材30を回動可能とすることで、前方送水口21から流体を非拡散状態で噴出させることができる。
【0050】
次に、本発明の第2の実施の形態について、図8乃至図11を参照して説明する。
図8に示すように、第2の実施の形態における内視鏡の先端部3Bに配設される切換部材50は、前方送水口21の開口面上で、前方送水チャンネル22の管路軸方向と略直交する方向に切換部材50を回転動作させることにより、非拡散と拡散とを切り換えるものである。以下では、主として第1の実施の形態との相違点について説明する。
【0051】
第2の実施の形態における切換部材50は、細長の略長円形に形成され、第1の実施の形態の切換部材30の拡散部32と同様の拡散部51を備え、切換部材30の非拡散部31に相当する非拡散部は特に設けられていない。すなわち、切換部材50は、一方の端部を拡散部51の基端側として、この基端側が先端部3Bに立設される回転軸52に軸支され、先端部3Bの先端面3B_1(前方送水口21の開口面)上に回転自在に配設されている。
【0052】
図8(a)に示すように、切換部材50が前方送水口21から外れた位置に回転操作されているときには、前方送水口21からの流体は拡散させれることなく噴出される。また、図8(b)に示すように、切換部材50が拡散部51が前方送水口21を覆う位置に回転操作されているときには、前方送水口21から噴出される流体は所定の吐出範囲に拡散される。
【0053】
切換部材50の先端面3B_1上の回転による流体噴出範囲の切り換えは、例えば、図9に示すように、先端部3B内に配設される2つのかさ歯車54A,54Bを主とする回転機構によって行われる。一方のかさ歯車54Aは、切換部材50の裏面側から先端部3B内に延出される回転軸52に固設されている。また、かさ歯車54Aに噛合される他方のかさ歯車54Bは、回転軸52と直交して先端部3B内に立設される回転軸55に軸支され、更にリンク機構を介して操作ワイヤ57に連結されている。
【0054】
すなわち、他方のかさ歯車54Bの背面側には、リンク機構を構成する細長のプレート56の一端が回転自在に軸支され、このプレート56の他端に操作ワイヤ57の一端が回転自在に軸支されている。操作ワイヤ57は、第1の実施の形態における操作ワイヤ34と同様、手元側の操作レバーに連結されており、操作ワイヤ57の進退移動に応じてかさ歯車54Bが回転動作するように構成されている。
【0055】
このような回転機構においては、図10(a)に示すように、かさ歯車54Bの軸中心に対してプレート56と操作ワイヤ57とが略一直線上に配置される状態のとき、図8(a)に示すように、切換部材50が前方送水口21から外れた操作位置に配置される。従って、この操作位置では、前方送水口21から噴出される流体は、拡散されることなく前方に放出される。
【0056】
一方、非拡散の操作位置から操作ワイヤ57を前方に押し出すように操作すると、図10(b)に示すように、かさ歯車54Bが回転する(同図においては、かさ歯車54Bの背面側からみて時計回り方向に回転)。その結果、かさ歯車54Bに噛合するかさ歯車54Aを介して切換部材50が回転し、図8(b)に示すように、切換部材50の拡散部51が前方送水口21を覆う操作位置となる。この操作位置では、前方送水口21から噴出される流体が拡散部51を通過する際に拡散され、所定の拡散範囲で放出される。
【0057】
この場合、切換部材50を、例えば、図11に示すように、メッシュの粗さが異なる複数の拡散部材51A,51Bを回転方向に配設した切換部材50Aとしても良い。この切換部材50Aを用いることで、流体の拡散範囲を明確に可変することができる。
【0058】
第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、前方送水口21からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、内視鏡先端部の太径化を招くことなく切り換えることができ、症例の状況によって拡散/非拡散を切り換えることで症例時間を短縮したり、洗浄性能の向上を図ることができる。
【0059】
また、本実施の形態においては、2つのかさ歯車54A,54Bを主とする回転機構を、先端部3B内に配設しているが、必ずしも先端部3B内に配設する必要はなく、例えば操作部7内に設けてもよい。この場合、回転軸52を、先端部3Bの切換部材50とかさ歯車54Aとを連結するように挿入部6内を挿通した可撓性を有し捻り剛性のあるワイヤ等で構成する。これにより、操作部7内のかさ歯車54Aの回転トルクを切換部材50に伝達し、切換部材50の回転位置を操作することが可能となる。
【0060】
次に、本発明の第3の実施の形態について、図12及び図13を参照して説明する。第3の実施の形態における流体噴出範囲切換機構は、前方送水口21から噴出される流体の流路中に、伸縮自在な網状の部材を挿入することで流体を拡散させるものである。
【0061】
具体的には、図12に示すように、内視鏡の先端部3Cに、操作ワイヤ60を収納すると共に、先端部3Cの先端面から突出して、前方送水口21の近傍に前方送水口21から噴出される流体の流路に向け開口されるエルボ状のガイド管61を、前方送水チャンネル22と略平行に配設する。操作ワイヤ60は、先端側に、前方送水口21から噴出される流体の流路中に挿入されて流体を拡散させる拡散部材62が接合され、手元側で図示しない操作レバーに連結されている。
【0062】
拡散部材62は、伸縮自在な網状の部材から形成され、操作ワイヤ60が牽引されている状態では、図12に示すように、拡散部材収納管路としてのガイド管61の先端側に収縮・格納されている。ガイド管61内に拡散部材62が格納されている状態では、前方送水口21から噴出される流体は、拡散されることなく前方に放出される。
【0063】
一方、図13に示すように、操作ワイヤ60を押し出した状態では、操作ワイヤ60の先端に接合されている拡散部材62が拡開して網状の略球形状に展開され、前方送水口21の前方に配置される。これにより、前方送水口21から噴出される流体が網状の拡散部材62を通過する際に拡散され、所定の拡散範囲で放出される。
【0064】
尚、拡散部材62は、球状に拡開されるものに限定されることなく、例えば、ガイド管61の先端部分を矩形断面とする等して平板状に展開させることも可能である。
【0065】
第3の実施の形態においても、上述の第1,第2の実施の形態と同様、前方送水口21からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、内視鏡先端部の太径化を招くことなく切り換えることができ、症例の状況によって拡散/非拡散を切り換えることで症例時間を短縮したり、洗浄性能の向上を図ることができる。更に、第3の実施の形態では、簡易な構成としてコスト低減を図ることができる。
【0066】
次に、本発明の第4の実施の形態について、図14及び図15を参照して説明する。第4の実施の形態における流体噴出範囲切換機構は、流体の噴出圧力を駆動源として非拡散/拡散を切り換えるものである。
【0067】
図14及び図15に示すように、第4の実施の形態における切換部材70は、前方送水口21からの流体を拡散させる拡散部71と、この拡散部71に連設され、拡散部71が受ける流体圧力によって湾曲する湾曲部72とを有している。湾曲部72は、拡散部71の反対側となる端部72aを基部として、例えば接着等により内視鏡の先端部3Dに接合されて固定されている。
【0068】
具体的には、拡散部71は、第1の実施の形態における切換部材30の拡散部32と同様、メッシュ状の部材若しくはパンチングメタル等の複数の開口孔を有する薄板材等からなる拡散部材で形成されている。また、湾曲部72は、シリコンゴム等の軟質の弾性体或いは金属ばね材等の硬質の弾性体で形成されており、平板状或いはワイヤ状に形成されている。
【0069】
このような切換部材70は、前方送水口21から流体が噴出されない初期状態では、拡散部71が前方送水口21を覆う位置に配置され、前方送水口21から流体が噴出されて拡散部71にかかる流体圧力が規定の圧力以上になると、湾曲部72が湾曲して拡散部71が流路外に変位する。尚、湾曲部72を湾曲させる規定の圧力は、流路面積、拡散部71の流路抵抗、湾曲部72の剛性等から予め設定されている。
【0070】
従って、前方送水口21からの流体を拡散させる場合には、前方送水装置16の送水ボタンと連動して送水圧を切換える切換スイッチ等により、前方送水チャンネル22に供給する流体の圧力を規定の圧力より低くする。この拡散部71にかかる流体圧力が規定圧よりも低い状態では、図14に示すように、切換部材70の湾曲部72がほとんど湾曲せずに拡散部71が前方送水口21を覆う位置に止まり、前方送水口21から噴出された流体が拡散部71を通過して所定の範囲に拡散される。
【0071】
一方、前方送水口21からの流体を拡散させることなく前方に放出させる場合には、前方送水チャンネル22に供給する流体の圧力を規定の圧力以上に高くする。この拡散部71にかかる流体圧力が規定圧以上の高い状態では、図15に示すように、切換部材70の湾曲部72が湾曲して拡散部71が前方送水口21から噴出される流体の流路外に変位し、前方送水口21から噴出される流体が拡散されることなく前方送水チャンネル22の管路軸方向に放出される。
【0072】
第4の実施の形態においても、上述の各実施の形態と同様、前方送水口21からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、内視鏡先端部の太径化を招くことなく切り換えることができ、症例の状況によって拡散/非拡散を切り換えることで症例時間を短縮したり、洗浄性能の向上を図ることができる。更に、第4の実施の形態では、切換部材70を拡散/非拡散の位置に動作させるための操作ワイヤを必要とせず、簡素な構成としてコスト低減を図ることができ、また先端部の太径化を招くことがない。
【0073】
尚、本発明は、上述した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、例えば、上述した流体噴出範囲切換機構の何れかを、図5にある内視鏡の先端部に装着されるフードに設ける等、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 内視鏡システム
2 内視鏡
3,3A,3B,3C,3D 先端部
6,6A 挿入部
7 操作部
7a 操作レバー
16 前方送水装置
21 前方送水口
22 前方送水チャンネル
30,50,50A,70 切換部材
31 非拡散部
32,51,51A,51B,62,71 拡散部(拡散部材)
34,57,60 操作ワイヤ
61 ガイド管
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を噴射するための開口を先端部に有する内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内視鏡は、医療分野等で広く利用されており、例えば、体腔内に細長い挿入部を挿入することにより、体腔内の臓器等を観察したり、必要に応じて処置具挿通チャンネル内に挿入した処置具を用いて各種処置をすることができる。挿入部の先端には、湾曲部が設けられ、内視鏡の操作部を操作することによって、先端部の観察窓の観察方向を変更させることができる。
【0003】
このような内視鏡の観察窓である対物光学系の外表面は、体腔内に挿入された際に、体液等が付着して観察の妨げになる場合がある。このため、一般に、内視鏡の先端部の観察窓近傍には、洗浄用の送気送水ノズルが設けられている。そして、内視鏡の対物光学系の外表面は、送気送水ノズルから洗浄液が噴出されたり、空気が吹き付けられる等して観察視野を確保できるようにしている。
【0004】
また、内視鏡は、送気送水ノズルの他にも、体腔内の観察部位に向けて洗浄液等の液体を噴射できる液体供給手段を備えたものがある。この液体供給手段は、例えば前方送水装置から供給される洗浄液等の液体を、挿入部内に設けられた前方送水チャンネルを介して送出し、先端部の先端面に配置された前方送水チャンネルの開口を介して噴射するように構成されている。そして、体腔内の観察部位に対して前方送水チャンネルの開口から薬液を散布したり、又は前方送水チャンネルチャンネルの開口から洗浄液を噴射することで汚染されている体腔内の観察部位を洗浄することができる。
【0005】
また、このような内視鏡は、処置具チャンネルを備えた構成である場合には、先端部の先端面に配された処置具チャンネルの開口より突出する処置具、又はこの処置具近傍の観察部位に対して、前記前方送水チャンネルの開口から洗浄液を噴射することで、処置具又は処置具近傍の観察部位の洗浄ができるようになっている。
【0006】
しかしながら、従来の内視鏡においては、洗浄水の噴射口が単純な絞り孔状に形成されているだけであるため、被写体に向けて噴出される洗浄水の水流の状態を調整することは困難であり、洗浄水を内視鏡に注入する側において注入圧を変える程度のことしか行うことができない。そのため、被写体への汚れの付着状況等に合わせて、例えば広い範囲への拡散噴射と、狭い範囲への高圧噴射とを使い分けることができず、効率的な洗浄を行うことができない場合があった。
【0007】
これに対処するに、特許文献1には、洗浄水噴射口内に可動ノズル芯材を設け、洗浄水噴射口から噴射される洗浄水の水流の広がりと窄まりの状態を制御することにより、被写体への汚れの付着状況等に合わせて、広い範囲への拡散噴射と、狭い範囲への高圧噴射と、緩流による大流量噴射等を使い分け、効率的な被写体洗浄を行うことを可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−313283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、洗浄水噴射口内に可動ノズル芯材を設けているため、内視鏡先端部の太径化を招くばかりでなく、噴射口から噴射される洗浄水は、噴射範囲の大小に拘わらず流路中心部が中空状の流れとなる。このため、特許文献1は、噴出口の開口からの噴出流をそのまま使用する場合や内視鏡先端の細径化が望まれる場合には、適用することができず、適用範囲が限定されてしまう。
【0010】
例えば、内視鏡的粘膜切開剥離法(Endoscopic Submucosal Dssection :ESD)において、処置対称の周辺部位を切開し、その切開孔に向け液体を噴出することにより粘膜下層を膨隆させる場合、特許文献1のように流路中心部が中空状の噴出流では効果的に粘膜下層に注入することができず、局所的且つ十分な膨潤効果を得ることはできない。つまり、観察部位の特定箇所に局所的に液体を噴出したい場合には、特許文献1のような中空状の噴出流は適さない。
また、例えば内視鏡の観察部位の1つである処置具の表面に付着した汚物等の汚れで、特に強固に付着した汚れを流体の噴出により洗い流す場合においても、特許文献1のような中空状の噴出流は適さない。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、挿入部先端の開口部からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、中空状に噴出することなく、また挿入部先端の太径化を招くことなく切り換えることのできる内視鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による内視鏡は、挿入部の先端に、観察部位に向け流体を噴射するための開口部が配設された内視鏡であって、前記開口部から噴出された流体を所定の範囲に拡散する拡散部材と、前記開口部に対する前記拡散部材の位置を、前記開口部から噴出された流体の流路の前面と非前面とに選択的に切換える切換機構とを備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、挿入部先端の開口部から流体を噴出させる際に、開口部からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、中空状に噴出することなく、また挿入部先端の太径化を招くことなく切り換えることができ、症例の状況によって拡散/非拡散を切り換えて症例時間を短縮したり、洗浄性能の向上を図る等の適用範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係り、内視鏡システムの構成図
【図2】同上、内視鏡の先端部を示す説明図
【図3】同上、流体噴出範囲切換機構の説明図
【図4】同上、流体拡散状態を示す説明図
【図5】同上、流体噴出範囲切換機構の変形例を示す斜視図
【図6】同上、流体拡散状態を示す説明図
【図7】同上、重力方向を認識可能な内視鏡フードの説明図
【図8】本発明の第2の実施の形態に係り、内視鏡の先端部を示す説明図
【図9】同上、流体噴出範囲切換機構を示す断面図
【図10】同上、操作ワイヤとかさ歯車との連結状態を示す拡大図
【図11】同上、メッシュ荒さを変更した切換部材の説明図
【図12】本発明の第3の実施の形態に係り、流体噴出範囲切換機構の説明図
【図13】同上、流体拡散状態を示す説明図
【図14】本発明の第4の実施の形態に係り、流体噴出範囲切換機構の説明図
【図15】同上、流体非拡散状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1〜図7は本発明の第1の実施の形態に係り、図1において、符号1は本発明による内視鏡2が適用される内視鏡システムを示している。この内視鏡システム1は、内視鏡2と、光源装置10と、ビデオプロセッサ12と、モニタ13と、送気送水装置14と、吸引装置15と、前方送水装置16とを有して構成されている。
【0016】
内視鏡2は、被検体の体内に挿入される細長の挿入部6と、挿入部6の基端に連接される操作部7と、操作部7から延出されるユニバーサルコード8と、ユニバーサルコード8の先端に設けられるコネクタ部9とを有している。挿入部6は、先端側に硬質部を有する先端部3と、先端部3に連設される湾曲部4と、湾曲部4に連設される可撓管部5とにより構成されている。
【0017】
A矢印方向から見た先端部3の先端面3_1には、図2に示すように、2つの照明窓17a,17b、観察窓18、処置具チャンネル開口部19、送気送水ノズル20が設けられている。また、先端面3_1から若干凹部をなす平面部3_2に、前方送水口21が開口され、この前方送水口21に対向して細長の切換部材30が配設されている。切換部材30は、操作部7に配置された操作レバー7aにより遠隔操作されて前方送水口21から噴射される流体の噴出範囲を切り換える流体噴出範囲切換機構を構成する主要部材であり、詳細については後述する。
【0018】
先端部3の観察窓18には、観察部位からの反射光を取り込む対物光学系が設けられ、その対物光学系の結像位置に固体撮像素子が配設されている。また、先端部3に連設される湾曲部4は、複数の湾曲駒が配置され、操作部7に設けられている図示しない湾曲操作ノブから延出される湾曲ワイヤにより、上下左右に湾曲する。この湾曲部4に連設されている可撓管部5は、可撓性部材により長尺に形成されている。
【0019】
挿入部6を構成する先端部3、湾曲部4、及び可撓管部5には、図示しないライトガイド、信号ケーブル、処置具チャンネル、送水送気チャンネル、前方送水チャンネル22(図3参照)が設けられている。ライトガイドの先端は、先端部3の照明窓17a,17bに配置されている。信号ケーブルの先端は、先端部3の観察窓18に設けられた固体撮像素子に接続されている。処置具チャンネルの先端は、先端部3の処置具チャンネル開口部19に配置されている。送水送気チャンネルの先端は、先端部3の送気送水ノズル20の開口に配置されている。前方送水チャンネル22の先端は、先端部3の前方送水口21に配置されている。
【0020】
一方、ライトガイドの基端は、操作部7からユニバーサルコード8、コネクタ部9を介して、光源装置10に接続される。信号ケーブルの基端は、操作部7からユニバーサルコード8、コネクタ部9、コネクタケーブル11を介して、ビデオプロセッサ12に接続される。処置具チャンネル19の基端は、操作部7に設けられた処置具挿入口(図示せず)に接続されている。送水送気チャンネルの基端は、操作部7に設けられた送水送気チャンネル口金に接続され、送水送気チャンネル口金から、送気チャンネルチューブと送水チャンネルチューブとに分割される。これらの送気チャンネルチューブ及び送水チャンネルチューブは、操作部7からユニバーサルコード8、コネクタ部9を介して何れも送気送水装置14に接続される。そして操作部7の送水送気チャンネル口金に設けられた送水送気スイッチを操作することで送水送気される。前方送水チャンネル22の基端は、操作部7からユニバーサルコード8、コネクタ部9を介して、前方送水装置16に接続される。
【0021】
光源装置10は、照明ランプ等の光源部10aとこの光源部10aの点灯制御回路である光源制御部10bとを有しており、コネクタ部9のライトガイドの基端に照明光を投射する。これにより、光源部10aの照明光を2つの照明窓17a,17bに導光することができる。
【0022】
尚、光源部10aの照明ランプとしては、例えばハロゲン又はキセノンランプ等が用いられ、光源部10aから出射される光の光量や波長は、光源制御部10bにより調整される。光源制御部10bは、例えば光源部10aへの印加電圧又はフィルターを動作させる等して調整する。また、これらの操作は光源装置10のフロントパネル(図示せず)やキーボード(図示せず)等で操作することが可能である。
【0023】
ビデオプロセッサ12は、信号処理部12aと、この信号処理部12aを制御するプロセッサ制御部12bとを有しており、先端部3に設けられた固体撮像素子を駆動させると共に、固体撮像素子によって得られた観察部位の撮像信号を取り込み、その撮像信号に対して信号処理部12aで所定の信号処理を行い、映像信号を生成する。そして、モニタ13は、ビデオプロセッサ12の信号処理部12aにより生成された映像信号に基づく内視鏡画像を表示する。
【0024】
尚、ビデオプロセッサ12において、映像信号の取込、輝度値処理等の制御は、プロセッサ制御部12bによって制御される。これらの操作は、操作部7のスイッチボタン、キーボード又はビデオプロセッサ12のフロントパネル等で操作することが可能である。
【0025】
送気送水装置14は、送気チャンネルチューブを介して空気を、送水チャンネルチューブを介して液体を、操作部7に設けられた送水送気チャンネル口金に供給する。そして、送水送気チャンネル口金に設けられた送水送気スイッチを操作することにより、液体又は空気を選択的に送水送気チャンネルへ供給する。
【0026】
送水送気チャンネルへ供給された液体又は空気は、先端部3の送気送水ノズル20の噴射口から噴射される。尚、送気送水ノズル20の噴射口は、略観察窓18の方向を向いているため、送気送水ノズル20の噴射口から液体又は空気を噴射することにより、観察窓18の表面の汚れを落とすことができる。
【0027】
吸引装置15は、コネクタ部9、ユニバーサルコード8を介して操作部7内で処置具チャンネルを形成する処置具チャンネルチューブに接続されている。処置具チャンネルチューブは、操作部7内で二股に分岐され、一方の処置具チャンネルチューブが操作部7に設けられた処置具挿入口に接続され、この処置具挿入口から処置具を挿入して、処置具チャンネル開口部19から処置具を突出して操作することができる。二股に分岐されたもう一方の処置具チャンネルチューブは、コネクタ部9から吸引装置15に接続され、処置具チャンネル開口部19から、例えば患者の体液や、空気を吸引することができる。
【0028】
尚、操作部7の処置具挿入口からシリンジ等で送水することにより、処置具チャンネル開口部19から手動で送水することも可能である。
【0029】
前方送水装置16は、操作部7の前方送水ボタン(図示せず)を操作することにより、洗浄液や薬液等の流体を所定の圧力で前方送水チャンネル22に送水し、先端部3の前方送水口21に配置された切換部材30の操作位置に応じて流体を非拡散又は拡散状態で噴出させる。
【0030】
切換部材30は、図2に示す例では細長の略長円形に形成されており、前方送水口21から噴出される流体を拡散させることなく通過させる非拡散部31と、前方送水口21から噴出される流体を所定の吐出範囲に拡散させる拡散部32とを有している。非拡散部31は、例えば円形の孔や切り欠き等による開口部として形成されている。この非拡散部31は、前方送水口21からの噴出流を妨げないよう、前方送水口21と同等若しくは若干大きい径の開口孔を基本とするが、用途によっては前方送水口21からの噴出流を絞るオリフィス形状としても良い。また、拡散部32は、例えば、矩形やハニカム形状の開口を有するメッシュ状の部材、若しくはパンチングメタル等の複数の開口孔を有する薄板材等からなる拡散部材で構成されている。
【0031】
図2乃至図4に示すように、切換部材30の非拡散部31側の端部には、細径の回転軸33が切換部材30の長手方向と略直交する方向、つまり前方送水チャンネル22の管路軸方向と略直交する方向に挿通されている。切換部材30は、前方送水チャンネル22の管路軸方向に回動するように回転軸33を介して先端部3に軸支され、図3に示すように非拡散部31が前方送水口21に対向(一致)する位置と、図4に示すように先端部3の先端面3_1から斜めに突出するように回動して拡散部32が前方送水口21を斜めに覆う位置とに回動操作される。
【0032】
切換部材30の回動操作は、拡散部32側の端部に固設される操作ワイヤ34を介して行われ、非拡散部31または拡散部32の位置が前方送水口21から噴出された液体の流路の前面と非前面とに選択的に切換えられる。操作ワイヤ34は、挿入部6内を挿通されて操作部7の操作レバー7aに連結されている。操作レバー7aと操作ワイヤ34とは、リンク機構やラックピニオン機構等を介して連結されており、操作レバー7aによって操作ワイヤ34を進退移動させることにより、先端部3に回転軸33で軸支された切換部材30が図3に示す操作位置(非拡散位置)と図4に示す操作位置(拡散位置)とに回動する。
【0033】
すなわち、図3に示す非拡散位置では、操作ワイヤ34が手元側に索引されて切換部材30が先端部3の先端面3_1と略平行状態に保持され、非拡散部31の位置が前方送水口21に一致した状態となる。また、図4に示す拡散位置では、操作ワイヤ34が前方に押し出されて切換部材30が先端部3の先端面3_1から斜めに突出するように回動し、拡散部32が前方送水口21を斜めに覆うような状態となる。
【0034】
尚、操作ワイヤ34は、湾曲部4の湾曲動作に倣う可撓性を備える一方、操作レバー7aによる進退操作に対しては、進退方向の局部的な屈曲が発生しない剛性を備えており、例えば、複数本の金属素線を撚り合わせて形成される。
【0035】
本実施の形態においては、切換部材30,回転軸33,操作ワイヤ34、操作ワイヤ34と操作レバー7aとの間の連結機構により、前方送水口21から噴出される流体の噴出範囲を切り換える流体噴出範囲切換機構が構成されている。この流体噴出範囲切換機構は、切換部材30を先端部3の前面に配置して、前方送水口21に対する拡散部31の位置を選択的に切り換えることで、前方送水口21から噴出される流体の噴出範囲を切り換えるため、中空状に噴出することなく、また先端部の太径化を招くことがない。
【0036】
次に、以上の流体噴出範囲切換機構を有する内視鏡2の動作について説明する。
内視鏡2の挿入部6を患者の体腔内に挿入し、体腔内の目的部位の観察や処置を行う際、先端部3の前方送水口21から洗浄液や薬液等の流体(液体)を噴射して目的部位の洗浄や薬液の注入等を行うには、使用者が操作部7の前方送水ボタン(図示せず)を操作し、前方送水装置16を駆動させる。すると、前方送水装置16は、コネクタ部9からユニバーサルコード8内を経て挿入部6内の前方送水チャンネル22に液体を所定の圧力で供給する。
【0037】
このとき、前方送水口21から液体を拡散させることなく噴出させる場合には、操作部7の操作レバー7aを非拡散の操作位置とする。この操作状態では、操作ワイヤ34が索引されて、図3に示すように切換部材30の非拡散部31の位置が前方送水口21に一致する。その結果、前方送水チャンネル22に供給される液体が前方送水口21から拡散されることなく、前方送水チャンネル22の管路軸方向に噴出される。
【0038】
一方、前方送水口21から流体を拡散させて噴出させる場合には、操作部7の操作レバー7aを拡散位置に操作する。この操作レバー7aの拡散位置への操作により、操作ワイヤ34が先端部3の前方側に押し出されて切換部材30が回動し、図4に示すように、拡散部32が前方送水口21を斜めに覆うような位置となる。図4の操作位置では、前方送水口21から噴出される液体が拡散部32を通過する際に拡散され、前方送水チャンネル22の管路軸方向に沿って所定の範囲に略円錐状に拡がり、先端部3前方の広い範囲で噴射される。
【0039】
これにより、例えば、内視鏡的粘膜切開剥離法(Endoscopic Submucosal Dssection :ESD)等において目的部位の粘膜下層を膨隆させる場合、切換部材30を非拡散位置に操作しておくことにより、前方送水口21から略円柱状の噴出流を効果的に粘膜下層に注入することができ、局所的且つ十分な膨潤効果を得ることができる。また、例えば、術後の残渣を洗い流す場合や病変部の観察で出血点を探す場合等には、広範囲を効率的に洗い流すことができる。従って、症例の状況によって流体の拡散/非拡散を切り換えることができ、症例時間の短縮を図ることが可能となる。
【0040】
尚、切換部材30により液体を拡散させて洗浄を行う場合、観察窓18の光軸方向と処置具チャンネル開口部19の管路軸向との両方に向けて広範囲で流体を噴射させことも可能であり、洗浄性能を向上することが可能となる。例えば、観察深度が深い内視鏡であっても、前方送水範囲が光軸方向に広くなるので、観察部位と内視鏡先端との距離が多少変化しても観察部位を十分に洗浄することが可能となる。
【0041】
また、処置具チャンネルに処置具を挿通して処置等を行う場合には、処置具チャンネル開口部19からの処置具の突出量が多少変化しても、処置具の洗浄を十分に行うことができる。さらに、観察窓18の撮像視野における観察部位と、処置具チャンネル開口部19から突出する処置具とを同時に洗浄することも可能となる。
【0042】
以上の流体噴出範囲切換機構においては、切換部材30及び操作ワイヤ34を含む切換機構を内視鏡に内蔵しているが、この切換機構を内視鏡と別体の外付け機構としても良い。ここで、流体噴出範囲切換機構を内視鏡に外付けする変形例について説明する。
【0043】
図5に示す変形例は、内視鏡の先端部3Aに装着されるフード40に、切換部材30を軸支するものである。このため、切換部材30は、側方に延出された回転軸33を介してフード40の先端部3Aから突出する側壁40aに軸支されている。また、切換部材30の拡散部32側の端部に固設される操作ワイヤ34は、フード40の外周側に設けられた管状のガイド部40b内を挿通されて支持され、挿入部6Aの外壁に沿って手元側に延出される。
【0044】
操作ワイヤ34の手元側の端部は図示しない操作レバーに連結され、この操作レバーを介して進退操作される。流体が非拡散部31を介して非拡散状態で噴出される図5の状態から操作ワイヤ34を前方に押し出すように操作すると、図6に示すように拡散部32が前方送水口21を斜めに覆うような位置に切換部材30が回動し、前方送水口21から噴出される流体が所定範囲に拡散される。
【0045】
このような内視鏡とは別体の切換機構は、前方送水の非拡散/拡散を切り換える機構を有しない一般の内視鏡に適用することができ、より柔軟に広範囲への適用を可能としてコスト低減を図ることが可能となる。
【0046】
尚、この場合、図7に示すようなフード45を用いても良い。フード45は、重力方向を認識可能な内視鏡フードであり、内視鏡の観察光学系18Aの視野外周部となる部位に、環状の管路45aを設け、この管路45a内に、重力方向を識別する方向識別部材46を配設したものである。
【0047】
方向識別部材46は、例えば球体や気泡等で形成されて管路45a内を円周方向に自由に移動可能に構成され、且つ容易に視認可能なように着色されている。内視鏡先端部を任意の方向に動かして静止させたとき、フード45の方向識別部材46が管路45a内を移動して重力方向の上又は下の位置に停止する。これにより、内視鏡画像上で重力方向を容易に認識することができ、手技のストラテジーを立てやすくなる。
【0048】
尚、本実施の形態においては、拡散部32をメッシュ状の部材で形成する場合、メッシュの粗さは一定としているが、切換部材30の拡散部32が前方送水口21を覆う角度を調整することにより、前方送水口21から前方送水チャンネル22の管路軸方向に沿って噴出される流体に対して等価的にメッシュの密度を変化させることができ、拡散範囲を微調整することが可能である。更には、拡散部32を、例えばメッシュの粗さが段階的に変化するように構成することで、積極的に拡散範囲を可変することも可能である。
【0049】
また、本実施の形態においては、切換部材30に非拡散部31と拡散部32とを設けるようにしているが、切換部材30には、必ずしも非拡散部31を設ける必要はなく、少なくとも拡散部32を設ければ良い。すなわち、非拡散部31は、通常、前方送水口21から噴出される流体をそのまま通過させる開口部として構成すれば良いため、前方送水チャンネル22の管路軸方向と略平行になる角度まで切換部材30を回動可能とすることで、前方送水口21から流体を非拡散状態で噴出させることができる。
【0050】
次に、本発明の第2の実施の形態について、図8乃至図11を参照して説明する。
図8に示すように、第2の実施の形態における内視鏡の先端部3Bに配設される切換部材50は、前方送水口21の開口面上で、前方送水チャンネル22の管路軸方向と略直交する方向に切換部材50を回転動作させることにより、非拡散と拡散とを切り換えるものである。以下では、主として第1の実施の形態との相違点について説明する。
【0051】
第2の実施の形態における切換部材50は、細長の略長円形に形成され、第1の実施の形態の切換部材30の拡散部32と同様の拡散部51を備え、切換部材30の非拡散部31に相当する非拡散部は特に設けられていない。すなわち、切換部材50は、一方の端部を拡散部51の基端側として、この基端側が先端部3Bに立設される回転軸52に軸支され、先端部3Bの先端面3B_1(前方送水口21の開口面)上に回転自在に配設されている。
【0052】
図8(a)に示すように、切換部材50が前方送水口21から外れた位置に回転操作されているときには、前方送水口21からの流体は拡散させれることなく噴出される。また、図8(b)に示すように、切換部材50が拡散部51が前方送水口21を覆う位置に回転操作されているときには、前方送水口21から噴出される流体は所定の吐出範囲に拡散される。
【0053】
切換部材50の先端面3B_1上の回転による流体噴出範囲の切り換えは、例えば、図9に示すように、先端部3B内に配設される2つのかさ歯車54A,54Bを主とする回転機構によって行われる。一方のかさ歯車54Aは、切換部材50の裏面側から先端部3B内に延出される回転軸52に固設されている。また、かさ歯車54Aに噛合される他方のかさ歯車54Bは、回転軸52と直交して先端部3B内に立設される回転軸55に軸支され、更にリンク機構を介して操作ワイヤ57に連結されている。
【0054】
すなわち、他方のかさ歯車54Bの背面側には、リンク機構を構成する細長のプレート56の一端が回転自在に軸支され、このプレート56の他端に操作ワイヤ57の一端が回転自在に軸支されている。操作ワイヤ57は、第1の実施の形態における操作ワイヤ34と同様、手元側の操作レバーに連結されており、操作ワイヤ57の進退移動に応じてかさ歯車54Bが回転動作するように構成されている。
【0055】
このような回転機構においては、図10(a)に示すように、かさ歯車54Bの軸中心に対してプレート56と操作ワイヤ57とが略一直線上に配置される状態のとき、図8(a)に示すように、切換部材50が前方送水口21から外れた操作位置に配置される。従って、この操作位置では、前方送水口21から噴出される流体は、拡散されることなく前方に放出される。
【0056】
一方、非拡散の操作位置から操作ワイヤ57を前方に押し出すように操作すると、図10(b)に示すように、かさ歯車54Bが回転する(同図においては、かさ歯車54Bの背面側からみて時計回り方向に回転)。その結果、かさ歯車54Bに噛合するかさ歯車54Aを介して切換部材50が回転し、図8(b)に示すように、切換部材50の拡散部51が前方送水口21を覆う操作位置となる。この操作位置では、前方送水口21から噴出される流体が拡散部51を通過する際に拡散され、所定の拡散範囲で放出される。
【0057】
この場合、切換部材50を、例えば、図11に示すように、メッシュの粗さが異なる複数の拡散部材51A,51Bを回転方向に配設した切換部材50Aとしても良い。この切換部材50Aを用いることで、流体の拡散範囲を明確に可変することができる。
【0058】
第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、前方送水口21からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、内視鏡先端部の太径化を招くことなく切り換えることができ、症例の状況によって拡散/非拡散を切り換えることで症例時間を短縮したり、洗浄性能の向上を図ることができる。
【0059】
また、本実施の形態においては、2つのかさ歯車54A,54Bを主とする回転機構を、先端部3B内に配設しているが、必ずしも先端部3B内に配設する必要はなく、例えば操作部7内に設けてもよい。この場合、回転軸52を、先端部3Bの切換部材50とかさ歯車54Aとを連結するように挿入部6内を挿通した可撓性を有し捻り剛性のあるワイヤ等で構成する。これにより、操作部7内のかさ歯車54Aの回転トルクを切換部材50に伝達し、切換部材50の回転位置を操作することが可能となる。
【0060】
次に、本発明の第3の実施の形態について、図12及び図13を参照して説明する。第3の実施の形態における流体噴出範囲切換機構は、前方送水口21から噴出される流体の流路中に、伸縮自在な網状の部材を挿入することで流体を拡散させるものである。
【0061】
具体的には、図12に示すように、内視鏡の先端部3Cに、操作ワイヤ60を収納すると共に、先端部3Cの先端面から突出して、前方送水口21の近傍に前方送水口21から噴出される流体の流路に向け開口されるエルボ状のガイド管61を、前方送水チャンネル22と略平行に配設する。操作ワイヤ60は、先端側に、前方送水口21から噴出される流体の流路中に挿入されて流体を拡散させる拡散部材62が接合され、手元側で図示しない操作レバーに連結されている。
【0062】
拡散部材62は、伸縮自在な網状の部材から形成され、操作ワイヤ60が牽引されている状態では、図12に示すように、拡散部材収納管路としてのガイド管61の先端側に収縮・格納されている。ガイド管61内に拡散部材62が格納されている状態では、前方送水口21から噴出される流体は、拡散されることなく前方に放出される。
【0063】
一方、図13に示すように、操作ワイヤ60を押し出した状態では、操作ワイヤ60の先端に接合されている拡散部材62が拡開して網状の略球形状に展開され、前方送水口21の前方に配置される。これにより、前方送水口21から噴出される流体が網状の拡散部材62を通過する際に拡散され、所定の拡散範囲で放出される。
【0064】
尚、拡散部材62は、球状に拡開されるものに限定されることなく、例えば、ガイド管61の先端部分を矩形断面とする等して平板状に展開させることも可能である。
【0065】
第3の実施の形態においても、上述の第1,第2の実施の形態と同様、前方送水口21からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、内視鏡先端部の太径化を招くことなく切り換えることができ、症例の状況によって拡散/非拡散を切り換えることで症例時間を短縮したり、洗浄性能の向上を図ることができる。更に、第3の実施の形態では、簡易な構成としてコスト低減を図ることができる。
【0066】
次に、本発明の第4の実施の形態について、図14及び図15を参照して説明する。第4の実施の形態における流体噴出範囲切換機構は、流体の噴出圧力を駆動源として非拡散/拡散を切り換えるものである。
【0067】
図14及び図15に示すように、第4の実施の形態における切換部材70は、前方送水口21からの流体を拡散させる拡散部71と、この拡散部71に連設され、拡散部71が受ける流体圧力によって湾曲する湾曲部72とを有している。湾曲部72は、拡散部71の反対側となる端部72aを基部として、例えば接着等により内視鏡の先端部3Dに接合されて固定されている。
【0068】
具体的には、拡散部71は、第1の実施の形態における切換部材30の拡散部32と同様、メッシュ状の部材若しくはパンチングメタル等の複数の開口孔を有する薄板材等からなる拡散部材で形成されている。また、湾曲部72は、シリコンゴム等の軟質の弾性体或いは金属ばね材等の硬質の弾性体で形成されており、平板状或いはワイヤ状に形成されている。
【0069】
このような切換部材70は、前方送水口21から流体が噴出されない初期状態では、拡散部71が前方送水口21を覆う位置に配置され、前方送水口21から流体が噴出されて拡散部71にかかる流体圧力が規定の圧力以上になると、湾曲部72が湾曲して拡散部71が流路外に変位する。尚、湾曲部72を湾曲させる規定の圧力は、流路面積、拡散部71の流路抵抗、湾曲部72の剛性等から予め設定されている。
【0070】
従って、前方送水口21からの流体を拡散させる場合には、前方送水装置16の送水ボタンと連動して送水圧を切換える切換スイッチ等により、前方送水チャンネル22に供給する流体の圧力を規定の圧力より低くする。この拡散部71にかかる流体圧力が規定圧よりも低い状態では、図14に示すように、切換部材70の湾曲部72がほとんど湾曲せずに拡散部71が前方送水口21を覆う位置に止まり、前方送水口21から噴出された流体が拡散部71を通過して所定の範囲に拡散される。
【0071】
一方、前方送水口21からの流体を拡散させることなく前方に放出させる場合には、前方送水チャンネル22に供給する流体の圧力を規定の圧力以上に高くする。この拡散部71にかかる流体圧力が規定圧以上の高い状態では、図15に示すように、切換部材70の湾曲部72が湾曲して拡散部71が前方送水口21から噴出される流体の流路外に変位し、前方送水口21から噴出される流体が拡散されることなく前方送水チャンネル22の管路軸方向に放出される。
【0072】
第4の実施の形態においても、上述の各実施の形態と同様、前方送水口21からの流体を妨げることなく噴出させる非拡散状態と、所定の範囲に拡散させて噴出させる拡散状態とを、内視鏡先端部の太径化を招くことなく切り換えることができ、症例の状況によって拡散/非拡散を切り換えることで症例時間を短縮したり、洗浄性能の向上を図ることができる。更に、第4の実施の形態では、切換部材70を拡散/非拡散の位置に動作させるための操作ワイヤを必要とせず、簡素な構成としてコスト低減を図ることができ、また先端部の太径化を招くことがない。
【0073】
尚、本発明は、上述した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、例えば、上述した流体噴出範囲切換機構の何れかを、図5にある内視鏡の先端部に装着されるフードに設ける等、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 内視鏡システム
2 内視鏡
3,3A,3B,3C,3D 先端部
6,6A 挿入部
7 操作部
7a 操作レバー
16 前方送水装置
21 前方送水口
22 前方送水チャンネル
30,50,50A,70 切換部材
31 非拡散部
32,51,51A,51B,62,71 拡散部(拡散部材)
34,57,60 操作ワイヤ
61 ガイド管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入部の先端に、観察部位に向け流体を噴射するための開口部が配設された内視鏡であって、
前記開口部から噴出された流体を所定の範囲に拡散する拡散部材と、
前記開口部に対する前記拡散部材の位置を、前記開口部から噴出された流体の流路の前面と非前面とに選択的に切換える切換機構と
を備えることを特徴とする内視鏡。
【請求項2】
前記拡散部材を、前記開口部から噴出された流体を拡散させることなく通過させる非拡散部を有する切換部材に拡散部として設け、
前記切換部材を回動させて、前記非拡散部と前記拡散部とを選択的に前記流路の前面に配置することを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項3】
前記非拡散部を、前記開口部と同等若しくは前記開口部より大きい径の開口孔として形成することを特徴とする請求項2記載の内視鏡。
【請求項4】
前記切換機構で前記拡散部材を前記開口部の管路軸方向と略直交する方向に回転動作させることにより、前記拡散部材の位置を前記流路の前面と非前面とに選択的に切換えることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項5】
前記切換機構で前記拡散部材を前記開口部の管路軸方向と略直交する回転軸に沿い回転動作させることにより、前記拡散部材の位置を前記流路の前面と非前面とに選択的に切換えることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項6】
前記開口部の近傍に設けられ、前記開口部に向けた開口を有するとともに、収縮自在な網状部材からなる前記拡散部材が収納可能な、拡散部材収納管路を有し、
前記切換機構で前記拡散部材を前記拡散部材収納管路の収納状態と前記拡散部材収納管路の前記開口から突出した状態とに押し引き動作させることにより、前記拡散部材の位置を前記流路の前面と非前面とに選択的に切換えることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項7】
前記拡散部材は、メッシュ状の部材で形成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載の内視鏡。
【請求項8】
前記メッシュ状の部材は、複数段階のメッシュ粗さを有することを特徴とする請求項7記載の内視鏡。
【請求項9】
前記拡散部材および前記切換機構を、前記挿入部の先端に着脱可能なフードに設けたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1つに記載の内視鏡。
【請求項1】
挿入部の先端に、観察部位に向け流体を噴射するための開口部が配設された内視鏡であって、
前記開口部から噴出された流体を所定の範囲に拡散する拡散部材と、
前記開口部に対する前記拡散部材の位置を、前記開口部から噴出された流体の流路の前面と非前面とに選択的に切換える切換機構と
を備えることを特徴とする内視鏡。
【請求項2】
前記拡散部材を、前記開口部から噴出された流体を拡散させることなく通過させる非拡散部を有する切換部材に拡散部として設け、
前記切換部材を回動させて、前記非拡散部と前記拡散部とを選択的に前記流路の前面に配置することを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項3】
前記非拡散部を、前記開口部と同等若しくは前記開口部より大きい径の開口孔として形成することを特徴とする請求項2記載の内視鏡。
【請求項4】
前記切換機構で前記拡散部材を前記開口部の管路軸方向と略直交する方向に回転動作させることにより、前記拡散部材の位置を前記流路の前面と非前面とに選択的に切換えることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項5】
前記切換機構で前記拡散部材を前記開口部の管路軸方向と略直交する回転軸に沿い回転動作させることにより、前記拡散部材の位置を前記流路の前面と非前面とに選択的に切換えることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項6】
前記開口部の近傍に設けられ、前記開口部に向けた開口を有するとともに、収縮自在な網状部材からなる前記拡散部材が収納可能な、拡散部材収納管路を有し、
前記切換機構で前記拡散部材を前記拡散部材収納管路の収納状態と前記拡散部材収納管路の前記開口から突出した状態とに押し引き動作させることにより、前記拡散部材の位置を前記流路の前面と非前面とに選択的に切換えることを特徴とする請求項1記載の内視鏡。
【請求項7】
前記拡散部材は、メッシュ状の部材で形成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1つに記載の内視鏡。
【請求項8】
前記メッシュ状の部材は、複数段階のメッシュ粗さを有することを特徴とする請求項7記載の内視鏡。
【請求項9】
前記拡散部材および前記切換機構を、前記挿入部の先端に着脱可能なフードに設けたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1つに記載の内視鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−99426(P2013−99426A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244763(P2011−244763)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】
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