説明

内部固形コア中に成長ホルモンを含有する固形脂質マイクロカプセル

本発明は、徐放特性を有する成長ホルモン(GH)、とりわけヒト成長ホルモン(hGH)製剤、およびこれら製剤の製造方法に関する。これらの成長ホルモン製剤は、タンパク質を変性させることなく製造することができ、また、必要とする人に、通常のシリンジを使用して小直径を有する針によって好都合に投与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、徐放特性を有する成長ホルモン(GH)、とりわけヒト成長ホルモン(hGH)製剤、およびその製造方法に関する。上記成長ホルモン製剤は、当該タンパク質を変性させることなく製造することができ、それを必要とする人々に、通常のシリンジまたは機械的もしくは電子的注入装置を使用して、小直径を有する針によって好都合に投与し得る。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおけるhGH欠乏症の現在の治療処方は、例えば、皮下注射によるhGH伝達に主として基づいている。hGHは、細胞および臓器増殖の調節並びに発育および加齢の各種段階における生理学的機能において重要な役割を果す。例えば、hGHの過産生は、小児における巨人症および成人における末端肥大症をもたらし、一方、産生不足は、小児における小人症[Mauras et al., J . Clin. Endocrinology and Metabolism, 85(10), 3653-3660 (2000);Frindik et al ., Hormone Research, 51(1), 15-19 (1999);Leger et al., J. Clin. Endocrinology and Metabolism, 83(10), 3512-3516 (1998)]、ターナー症候群(女性のみ) [Bramswig, Endocrine, 15(1), 5-13 (2001);Pasquino et al., Hormone Research, 46(6), 269-272 (1996)]、および慢性腎不全 [Carroll et al., Trends in Endocrinology and Metabolism, 11(6), 231-238 (2000);Ueland et al., J. Clin. Endocrinology and Metabolism, 87(6), 2760-2763 (2002);Simpson et al., Growth Hormone & IGF Research, 12, 1-33 (2002)]に至る。成人においては、hGH欠乏症は、タンパク質、炭水化物、脂質、ミネラル類および結合組織の代謝過程に影響を与え得、また、筋肉、骨または皮膚の萎縮症をもたらし得る [Mehls and Haas, Growth Hormone & IGF Research, Supplement B, S31-S37 (2000);Fine et al., J . Pediatrics, 136(3), 376-382 (2000); Motoyama et al., Clin. Exp. Nephrology, 2(2), 162-165 (1998)]。成長阻害および問題に特徴を有する他のhGH欠乏症関連障害としては、エイズ消耗症候群[Hirschfeld, Hormone Research, 46, 215-221 (1996);Tritos et al., Am. J . Medicine, 105(1), 44-57 (1998);Mulligan et al., J. Parenteral and Enteral Nutrition, 23(6), S202-S209 (1999);Torres and Cadman, BioDrugs, 14(2), 83-91 (2000)]、およびプラダー・ウィリ症候群[Ritzen, Hormone Research, 56(5-6), 208 (2002);Eiholzer et al ., Eur. J . Pediatrics, 157(5), 368-377 (1998)]がある。
【0003】
多くの製品が、安定で長時間作用性であり、従って、少ない頻度の注射スケジュールによって伝達し得るhGH治療薬の必要性に対処せんがために開発されている。
この目的において、ヒドロゲル[Katakam et al., J. Controlled Release, 49(1), 21-26 (1997);Kim and Park, J. Controlled Release, 80(1-3), 69-77 (2002)]リポソーム[Weiner et al., J . Pharm. Sci ., 74(9), 922-925 (1985)]、オイルエマルジョン[Yu et al., J. Pharm. Sci., 85(4), 396-401 (1996);Zhao et al., J. Dairy Sci., 75(11), 3122-3130 (1992)]および生分解性ポリマーミクロスフィア[Jostel et al., Clin. Endocrinol. (Oxf), 62 (5) :623-627 (2005);Sun et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 289 (3):1523-1532 (1999);Jones et al., Adv. Drug Deliv. Rev., 28(1): 1-84 (1997);Johnson et al., Wat Med, 2(7):795-799 (1996)]のような種々の薬物伝達技術が使用されている。しかしながら、得られるhGH製剤は、望ましくない薬物の破裂的放出を示すか、或いは製造するのが困難であり得る。
【0004】
例えば、Nutropin Depot(登録商標)は、組換えヒト成長ホルモン(r-hGH)含有ポリラクチド‐コ‐グリコシド(PLG)ミクロスフィアの注射用懸濁液である(http://www.gene.com参照)。有意な製造コストは、この製品の市場からの撤退に至っている。さらにまた、Nutropin Depot(登録商標)の小児患者における投与に関連する試験は、結節、紅斑、疼痛、傷痕(bruising)、掻痒、脂肪萎縮症および腫れをもたらす有害な注射部位反応に至っている。
LG Pharmaceuticals(大韓民国)によって現在開発されているもう1つの製品は、hGH、ヒアルロネート、レシチンおよびトリグリセリドを含有する微小粒子懸濁液製剤である。この製品の欠点は、好ましくない伝達手段、とりわけ、26ゲージ針によって注射しなければならない伝達流体である[Kim et al., J. Controlled Release, 104: 323-335 (2005);米国出願第2005/0100605号;EP 0918535 B1号]。
【0005】
PCT特許出願WO 2004/060310号およびWO 2004/060920号は、高分子電解質(例えば、ポリカチオン類)によって複合体化したhGHの結晶を含む製剤のようなhGH製剤に関する。そのような組成物は、安定であり、1週間までの間の持続性hGH放出が可能である。該ポリカチオン複合体化hGH結晶成分はこれらの組成物を安定で且つ長期作用性にするものの、ある種の患者においては、上記複合体化結晶表面の荷電性質が注射部位での軽微な発赤および腫れのような局所反応をもたらし得る可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、破裂作用、限られた徐放特性のような従来技術製剤の欠点を大部分回避し、且つ有害な反応を引起す助剤、例えば、高分子電解質を含有しない徐放性製剤を提供することである。さらに、上記徐放性製剤は、通常のシリンジを使用することにより或いは機械的または電子的注入装置により、27〜29ゲージ(G)針によって容易に投与できなければならない。
驚くべきことに、そのような製剤を、成長ホルモン、増量剤(bulking agent)および界面活性剤を含有する少なくとも1個の内部固形コアと少なくとも1種の脂質を含むそのような内部固形コアを取巻く外側シェルとを含むマイクロカプセルを調製することによって得ることができることを見出した。
【0007】
従って、本発明は、(1) 少なくとも成長ホルモン、増量剤、界面活性剤を含有する少なくとも1個の内部固形コアと、(2) 少なくとも1種の脂質を含む外側シェルとを含む粒状製剤に関する。上記内部固形コアは、成長ホルモンを含有する少なくとも1個の微小粒子から構成される。固形のマルチコアを含む、即ち、上記外側シェルによって取囲まれた2個以上の成長ホルモン微小粒子を含有するマイクロカプセルも、本発明の1部である。
本発明に従って製剤化し得る成長ホルモンは、ウシまたはブタ成長ホルモンのような動物起原由来であり得る。好ましくは、成長ホルモンは、ヒト起原由来である。本発明の1つの好ましい実施態様は、上記成長ホルモンが、ヒト成長ホルモン(hGH)またはヒト成長ホルモンの生物学的活性を保持しているその機能性誘導体、フラグメント、変異体、アナログまたは塩であるマイクロカプセルに関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に従い加圧流体法により内部微小粒子をカプセル化するためのSCF装置を略図的に示す。
【図2a】5%hGHコア微小粒子を含有する2つのGelucire(登録商標)系マイクロカプセル製剤(1G5、3G5)の生体外放出プロフィールを示す。%放出タンパク質は、上記マイクロカプセルの実験により測定したhGH負荷量に基づいて算出している。
【図2b】10%負荷量hGH微小粒子を含むGelucire(登録商標)系マイクロカプセル製剤の生体外放出プロフィールを示す。放出プロフィールは、実験により測定したhGH負荷量に対して算出して示している。
【図3】2つのPrecirol(登録商標)系マイクロカプセル製剤(1P5、5P5)の生体外放出プロフィールを示す。%放出タンパク質は、上記微小粒子の実験により測定したhGH負荷量に基づいて算出している。
【図4】1つのPrecirol(登録商標)/Gelucire(登録商標)系製剤(1GP5)の生体外放出プロフィールを示す。%放出タンパク質は、上記微小粒子の実験により測定したhGH負荷量に基づいて算出している。
【図5】ヒト成長ホルモンのアミノ酸配列を示す。
【図6】マイクロカプセル製剤(DM5、GOP5b、D5、DM10)の生体外放出プロフィールを示す。%放出タンパク質は、上記微小粒子の実験により測定したhGH負荷量に基づいて算出している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
“ヒト成長ホルモン”または“hGH”なる用語は、本発明において使用するとき、好ましくは、図5に示すようなアミノ酸配列を含む。また、本明細書において使用するときの“ヒト成長ホルモン”または“hGH”なる用語は、限定することなしに、20kDおよび22kDヒト成長ホルモンの双方、GH‐V、スルホキシド化および脱アミド化形のGH、および成長ホルモン遺伝子座の他のメンバーのような、上記したような天然産生または合成誘導体も包含するものとする。
【0010】
20kD‐hGHは、下垂体中および血流中で産生すると報告されている(Lewis et al, J. Biol. Chem. 253:2679 (1978);Lewis et al, Biochem. Biophys. Res. Comm. 92:511 (1980))。この化合物は、Glu‐32からGlu‐46までの15個のアミノ酸残基を欠落しており、メッセンジャーリボ核酸の選択的スプライシングによって生じる(DeNoto et al, Nucleic Acids Res. 9:3719 (1981))。20‐K‐hGHは、下垂体内で造られ、血中に分泌する。20‐K‐hGHは、成人の成長ホルモン産生量の約5%および小児の成長ホルモン産生量の約20%を構成する。20‐K‐hGHは、20kD成長ホルモンと同じ成長促進活性を有し、22kD形と同等またはそれ以上の脂肪分解活性量を有することが報告されている。20‐K‐hGHは、20kD成長ホルモンと同等の親和性でもって成長ホルモンレセプターに結合し、22kDホルモンの1/10の乳腺刺激(プロラクチン様)生物活性を有する。22kDと異なり、20‐k‐hGHは、弱い抗インスリン活性を有する。
【0011】
GH‐Vは、胎盤中で見出される成長ホルモンの変異体である。GHのさらなる既知の誘導体としては、hGHの脱アミド化およびスルホキシド化形がある。
タンパク質中のアスパラギンおよびグルタミン残基は、適切な条件下では、脱アミド化反応に対して感受性である。下垂体hGHは、このタイプの反応を受けて、Asn‐152のアスパラギン酸への転換、さらにまた、少なめの程度に、Gln‐137のグルタミン酸への転換をもたらすことが証明されている(Lewis et al, Endocrinology 104:1256 (1979))。脱アミド化hGHは、酵素スブチリシンによるタンパク質分解に対して変化した感受性を有し、脱アミド化がhGHのタンパク質分解開裂を指向するのに生理学的有意性を有し得ることを示唆することが証明されている。生合成hGHは、ある種の保存条件下では分解して、異なるアスパラギン(Asn‐149)において脱アミド化を生じることが知られている。これは脱アミド化の一次部位であるが、Asn‐152での脱アミド化も見受けられる(Becker等、1988年)。下垂体由来および生合成双方のhGHは、Met‐14およびMet‐125においてスルホキシド化を受ける(Becker等、1988年)。また、Met‐170での酸化も、下垂体hGHにおいては報告されているが、生合成hGHにおいては報告されていない。
【0012】
デサミドhGHおよびMet‐14スルホキシドhGHの双方は、完全な生物学的活性を示すことが見出されている(Becker et al, Biotechnol. Appl. Biochem. 10:326 (1988)。
本発明によれば、上記hGHは、例えば、下垂体または血液または血漿から精製した天然産生ヒト成長ホルモンであり得、或いは組換えhGHであり得る。組換えGHは、原核宿主または真核宿主いずれかの任意の適切な宿主中で発現させ得る。例えば、大腸菌は、hGHの発現にとってとりわけ適切な宿主である。好ましくは、大腸菌内で発現させたhGHはヒト配列に対比してさらなるN末端メチオニンを含み、そのようなhGHは、Met‐GHとも称する。酵母、昆虫または哺乳類細胞は、組換え成長ホルモンの発現にとってさらに適している。hGHは、ヒトまたは動物細胞中で、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中で発現させ得る。好ましくは、hGHは、例えば、C127細胞系のようなマウス細胞系において発現させ得る。
【0013】
また、用語“成長ホルモン”は、本明細書において使用するとき、図5に示すアミノ酸配列を有するhHGの機能性誘導体、フラグメント、変異体またはアナログも、これらの成長ホルモンの機能性誘導体、フラグメント、変異体またはアナログが成長ホルモンの生物学的活性を保持している、即ち、成長ホルモンレセプターに対して作用薬として作用することを条件として包含する。換言すれば、これらの誘導体、フラグメント、変異体またはアナログは、成長ホルモンレセプターに結合して該レセプターのシグナル伝達活性を開始させることができる。
“機能性誘導体”または“化学誘導体”なる用語は、本明細書において使用するとき、N‐またはC‐末端基の残基上の側鎖として生じる官能基から、当該技術において既知の方法によって調製でき且つ本発明に包含される誘導体に及ぶ;但し、これらの誘導体が製薬上許容し得るままであり、本明細書において説明するようなhGHの生物学的活性、即ち、hGHレセプターに結合する能力を有意に低下させず、レセプターシグナル伝達を開始させ、上記誘導体を含有する組成物に毒性を与えないことを条件とする。誘導体は、そのような誘導体がhGHの生物学的活性を実質的に保持しており且つ製薬上許容し得るままであることを条件として、炭水化物またはホスフェート残基のような化学成分を含み得る。
【0014】
例えば、誘導体としては、カルボキシル基の脂肪族エステル、カルボキシル基のアンモニアとのまたは第一級もしくは第二級アミンとの反応によるアミド、アミノ酸残基のアシル成分(例えば、アルカノイルまたは炭素環アロイル基)と一緒に形成されたN‐アシル誘導体または遊離アミノ基、または遊離ヒドロキシル基(例えば、セリルまたはスレオニル残基のヒドロキシル基)のアシル成分と一緒に形成されたO‐アシル誘導体があり得る。また、そのような誘導体は、例えば、抗原部位を隠蔽し分子の体液中での滞留を延長し得るポリエチレングリコール側鎖を含み得る。
【0015】
複合体化剤によって誘導体されまたは複合体化剤と結合している成長ホルモンは、長期持続性であり得る。従って、本発明の1つの実施態様は、ヒト成長ホルモンのPEG化形に関する。ヒト成長ホルモンのそのようなPEG化形は、例えば、WO 2005/074546号に記載されている。体内での長期持続活性示すように遺伝子操作されている成長ホルモンも、本発明の範囲内のhGH誘導体の例である。N‐末端においてアセチル化されているhGHは、分離され同定されている(Lewis等、1979年)。アセチル化が調節役割を果すのか或いは単純に精製の人工物であるのかは明らかではない。しかしながら、この分子が他のhGH誘導体と同様な形でGH活性を示すことが期待されている。従って、1つの実施態様においては、本発明は、N‐末端においてアセチル化されているヒト成長ホルモンの誘導体に関する。本発明に従う製剤の1つの実施態様は、鎖間ジスルフィド結合により結合したジスルフィドダイマー、共有不可逆性非ジスルフィドダイマー、非共有ダイマーおよびこれらの混合物からなる群から選ばれるヒト成長ホルモンのダイマーを含む。
【0016】
本明細書において使用するとき、用語“ムテイン(mutein)”とは、天然GHの1個以上のアミノ酸残基を異なるアミノ酸残基で置換しているまたは欠落させているか或いは1個以上のアミノ酸残基をGHの天然配列に付加させており、野生タイプのGHと比較したときに得られる生成物の活性を著しく低下させていないGHのアナログを称する。これらのムテインは、既知の合成および/または部位特異性突然変異生成法によって或いは他の既知のそのために適切な方法によって調製する。
本発明に従うムテインとしては、DNAまたはRNAのような核酸がコード化し、緊縮条件下にGHをコード化するDNAまたはRNAにハイブリッド化するタンパク質がある。hGHをコード化するポリヌクレオチドは、図5に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコード化するポリヌクレオチドである。
【0017】
用語“緊縮条件”とは、当業者が“緊縮”と通常称しているハイブリッド化およびその後の洗浄条件を称する。Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, supra, Interscience, N.Y., §§6.3 and 6.4 (1987, 1992) を参照されたい。限定することなしに、緊縮条件の例としては、例えば、2×SSCおよび0.5%SDS中で5分間、2×SSCおよび0.1%SDS中で15分間の試験下でのハイブリッドの算出Tmよりも低い12〜20℃の洗浄条件;37℃で30〜60分間の0.1×SSCおよび0.5%SDS、およびその後の68℃で30〜60分間の0.1×SSCおよび0.5%SDSがある。当業者であれば、緊縮条件は、DNA配列の長さ、オリゴヌクレオチドプローブ(10〜40塩基数のような)または混合オリゴヌクレオチドプローブに依存することを理解しているであろう。混合プローブを使用する場合、テトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)をSSCの代りに使用するのが好ましい。前出のAusubelを参照されたい。
【0018】
同一性(identity)は、配列を比較することによって決定する2以上のポリペプチド配列または2以上のポリヌクレオチド配列間の関係を反映する。一般に、同一性は、2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチド配列それぞれの比較する各配列の長さに亘っての正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の一致を称する。
正確な一致が存在しない配列においては、“%同一性”を判定し得る。一般に、比較すべき2つの配列を、配列間で最大の相関が得られるように位置合せ(アラインメント)する。この位置合せは、配列のいずれか一方または双方に“ギャップ”を挿入してアラインメントの度合を増強することができる。%同一性は、同一または極めて同様な長さの配列においてとりわけ適する比較すべき配列の各々の全長(いわゆる全域アラインメント)に亘って、或いは等しくない長さの配列においてより適切である短めの限られた長さ(いわゆる局所アラインメント)に亘って判定し得る。
【0019】
2以上の配列の同一性および相同性を比較する方法は、当該技術において周知である。従って、例えば、Wisconsin Sequence Analysis Package、バージョン9.1 (Devereux J et al, Nucleic Acids Res, 12, 387-395, 1984)において利用可能なプログラム、例えば、プログラムBESTFITおよびGAPを使用して、2つのポリヌクレオチド間の%同一性並びに2つのポリペプチド配列間の%同一性および%相同性を判定し得る。BESTFITは、 SmithおよびWatermanの“局所相同性”アルゴリズム(Smith and Waterman J Mol Biol, 147,195-197, 1981, Advances in Applied Mathematics, 2, 482-489, 1981)を使用しており、2つの配列間の最良の単一類似性領域を見出している。また、配列間の同一性および/または類似性を判定するための他のプログラム、例えば、BLAST群のプログラム(Altschul S F et al, J Mol Biol, 215, 403-410, 1990;Altschul S F et al, Nucleic Acids Res., 25:389-3402, 19)およびFASTA (Pearson W R and Lipman D J, Proc Nat Acad Sci USA, 85, 2444-2448,1988)も、当該技術において知られている。
【0020】
1.そのようなムテインは、いずれも、好ましくは、GHに実質的に類似する活性を有するように、GHの配列(例えば、図5に示すアミノ酸配列)に十分に重複したアミノ酸の配列を有する。GHの1つの活性は、GHレセプターに結合するその能力である。ムテインは、GHレセプター(GHR)への実質的結合活性を有する限り、GHに実質的に同様の活性を有するとみなし得る。従って、任意の与えられたムテインがGHと実質的に同じ活性を有するかどうかは、そのようなムテインを、例えば、ラジオイムノアッセイまたはELISAアッセイのような簡単なサンドイッチ競合アッセイに供してそのようなムテインが適切にラベル化したGHRまたは細胞発現GHRに結合しているかまたはしていないかを測定することを含むルーチン試験によって判定し得る。
2.好ましい実施態様においては、そのようなムテインは、いずれも、GHのアミノ酸またはDNA配列でもって、少なくとも60%または70%または80%または90%または95%または98%または99%の同一性または相同性を有する。hGHのアミノ酸配列は、図5に示している。GHをコード化するDNA配列は、当該技術において、例えば、DeNoto等、1981年またはMartial等、1979年から既知である。
【0021】
3.本発明に従うムテインにおける好ましい変化は、“同類”置換として知られていることである。GHポリペプチドの同類アミノ酸置換は、十分に同様な物理化学的性質を有する群内の同義的アミノ酸であってこの群のメンバー間の置換がその分子の生物学的機能を保持しているアミノ酸を含み得る(Grantham、1974年)。アミノ酸の挿入または欠落も、上記で定義した配列中で、それら配列の機能を変化させることなく、とりわけ、上記の挿入または欠落が少数の、例えば、30個よりも少ない、20個よりも少ない、好ましくは10個よりも少ないアミノ酸のみに関与し、且つ機能的構造にとって重要なアミノ酸、例えば、システイン残基を除去または置換しない場合になし得ることは明白である。そのような欠落および/または挿入によって産生させたタンパク質およびムテインは、本発明の範囲内に属する。
【0022】
4.用語“融合タンパク質”は、例えば、体液内で延長された滞留時間を有するもう1つのタンパク質と融合させたGHまたはそのムテインもしくはフラグメントを含むポリペプチドを称する。この融合は、直接か、または、例えば、5〜10個のアミノ酸数のペプチドリンカーのようなリンカーを介してであり得る。従って、GHは、もう1つのタンパク質、ポリペプチド等、例えば、イムノグロブリンまたはそのフラグメントに融合させ得る。IgG類の、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のようなFc成分は、イムノグロブリン融合タンパク質の調製において適している。Ig融合タンパク質は、例えば、EP 314 317 A1号(Genentech社)またはEP 0 325 224 A2号(Zymogenetics社)に記載されている。
5.GH、またはムテインおよび融合タンパク質の“活性画分”として、本発明は、該画分がGHと実質的に同様な活性を有することを条件として、単独または結合した関連分子または残基、例えば、糖またはホスフェート残基と一緒の上記タンパク質分子のポリペプチド鎖の任意のフラグメントまたはプレカーサー、或いは上記タンパク質分子の凝集体または糖残基それ自体に及ぶ。
【0023】
6.本発明に従って製剤化するGHは、多くの疾患または障害の治療および/または予防において、単独でまたは他の活性成分と併用して使用することができる。そのような疾患または障害は、好ましくは、不十分な内生GH産生に関連する。精製GHは、例えば、GH欠乏症、エイズ消耗症、リポジストロフィー(HARS-HIV関連異形/代謝異常症候群とも称する)、または短腸症候群の、とりわけ小児の治療および予防において使用し得る。成長ホルモンの投与が適応であり得るさらなる疾患としては、肝硬変、成人発育不全、アテローム性動脈硬化症、クローン病および潰瘍性大腸炎、骨関節炎、心臓悪液質、うっ血性心疾患、慢性腎不全、血球再構成または動員、男性不妊、造血幹細胞動員、多発性硬化症、卒中、多系統萎縮症、または癌がある。
【0024】
本明細書において使用するときの用語“マイクロカプセル”は、ミクロンおよびサブミクロン規模の粒子であり、少なくとも1個の内部固形コアと外側シェルを含み且つおよそ球形の形状を示す構造を有する。定義したのと同じ構造を有するサブミクロン規模範囲内の粒子であるナノカプセルと称する粒子は、本明細書において使用するときの“マイクロカプセル”に明らかに包含される。
典型的には、本発明のマイクロカプセルの質量平均直径は、およそ100nmからおよそ500μmまでの範囲である。さらに好ましくは、平均粒径は、約1μm〜約100μmである。もう1つの実施態様においては、上記ミクロスフィアの平均直径は、約10μm〜約80μmであり、この直径は、小直径を有する針を装着したシリンジによって投与するのに極めて有用な粒度範囲である。本発明のマイクロカプセルは、筋肉内または皮下注入後に局部組織滞留を達成し、持続性薬剤(depot)を蓄積して、上記粒子内に取込ませた成長ホルモンの持続放出をもたらすのに極めて有用である。
【0025】
本発明に従う粒子において使用する増量剤は、好ましくは、糖アルコール、糖、糖アルコールおよび/またはアミノ糖である。増量剤が糖である場合、その増量剤は、好ましくは、単糖類、二糖類または三糖類である。挙げることのできる単糖類の例は、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトースおよびソルボースであり;挙げることのできる二糖類の例は、スクロース、ラクトース、マルトースまたはトレハロースであり;挙げることのできる三糖類の例は、ラフィノースである。好ましいのは、スクロース、ラクトース、マルトースおよびトレハロースであり、とりわけこのましいのはスクロースである。糖アルコールは、例えば、ヘキシトール類またはペンチトール類のような、反応性カルボニル基がアルコール基に還元されている単糖類であることを意味する。増量剤として使用することのできる糖アルコールは、好ましくは、例えば、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、キシリトールまたはリビトールのようなヘキシトール類を含む。とりわけ好ましのは、マンニトールおよび/またはソルビトールの存在であり、極めて好ましいのはマンニトールである。
増量剤として使用することのできるアミノ糖は、ヒドロキシル基の代りに、第一級、第二級もしくは第三級アミノ基またはアシル化アミノ基(‐NH‐CO‐R)を含有する単糖類である。本発明の目的においては、とりわけ好ましいのは、グルコサミン、N‐メチルグルコサミン、ガラクトサミンまたはノイラミン酸である。
【0026】
上記マイクロカプセルのコアを構成する微小粒子は、1種の増量剤または種々の増量剤の混合物を含有し得る。混合物を使用する場合、そのような混合物は、同じ群から、例えば、糖類から、糖アルコール類からまたはアミノ糖類からの増量剤を含有し得、或いは混合物は、異なる群からの増量剤を、例えば、糖アルコールと一緒の糖類を含有し得る。
増量剤は、本発明に従うマイクロカプセルのコアを構成する微小粒子中に、総質量の20〜99%、好ましくは総質量の30〜90%、とりわけ好ましくは総質量の35〜75%の割合で存在する。
【0027】
使用することのできる界面活性剤は、医薬品において通常使用する全ての界面活性剤である。界面活性剤は、好ましくは非イオン界面活性剤、とりわけ好ましくはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート)またはポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレンブロックコポリマーである。上記マイクロカプセルのコアを構成する微小粒子は、1種以上の界面活性剤を含有し得る。界面活性剤または界面活性剤混合物は、そのような微小粒子中に、総質量の0.01〜2%、好ましくは総質量の0.05〜0.5%、より好ましくは総質量の約0.1%の割合で存在する。
【0028】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ポリソルベートとして、また、商品名 Tween(登録商標)としても知られている。適切なポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、とりわけ、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテートおよびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートである。好ましいのは、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートおよびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレートであり、とりわけ好ましいのはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレートである。また、ポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレンブロックコポリマーも、品名ポロキサマー(Poloxamer)として知られている。とりわけ好ましいポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、商品名Lutrol(登録商標) F68として商業化されているポロキサマー188である。
【0029】
本発明に従う製剤のシェルにおいて使用する脂質は、脂肪アルコール、脂肪酸エステルおよび/またはポリオールエステル(ポリオールは、グリセリンまたはポリエチレングリコールであり得る)の純粋物またはブレンドであり得る。本発明の特定の形態においては、脂質は、リン脂質;C8〜C22脂肪酸のモノ‐、ジ‐またはトリ‐グリセリド;脂肪酸エステル;脂肪アルコール;グリコグリセロ脂質(この化合物は、グリセリンまたはジアシルグリセリンにグリコシド連結した1種または2種の糖を含有する);スクロースエステルおよびこれらのブレンドの群の中から選ばれる。使用する脂質は、好ましくは、投与するヒトまたは動物の体温よりも高い融点を有して、脂質の溶融による上記タンパク質の早い伝達を回避する。好ましくは、使用する脂質は、少なくとも約40℃、好ましくは45℃〜80℃の範囲内、より好ましくは48℃〜75℃の範囲内の融点を有する。
【0030】
本発明の好ましい形態においては、上記シェルを形成させるのに使用するリン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセリン、ジホスファチジルグリセリン、ジパルミトイル‐ホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレイルホスファチジルコリン、ジミリストール‐ホスファチジルグリセリン、およびこれらのブレンドからなる群から選ばれる。
グリセリンと脂肪酸のエステルは、グリセリンと中鎖および/または長鎖(C8〜C22)脂肪酸とのモノエステル、ジエステルおよび/またはトリエステル、および/またはこれらの混合物であり得る。本発明の好ましい形態においては、上記モノ‐、ジ‐、トリ‐グリセリドは、C8〜C22脂肪酸のモノ‐、ジ‐、トリ‐グリセリドの群の中から、とりわけ、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、およびこれらのブレンドのモノ‐、ジ‐、トリ‐グリセリドの群の中から選ばれる。また、商標 Dynasan(登録商標)として商業化されているトリグリセリドのような純粋トリグリセリド、例えば、Dynasan(登録商標) 114 (トリミリスチン)、Dynasan(登録商標) 118 (トリステアリン)も、上記マイクロカプセルのシェルを形成させるのに使用し得る。また、水素化植物油、好ましくは、ヤシ油、大豆油または綿実油のようなタイプIの長鎖水素化植物油は、上記脂質シェルの1部として、とりわけ適切であり得る。とりわけ好ましい水素化植物油は、商標 Dynasan(登録商標) P60として商業化されているような水素化ヤシ油である。
【0031】
上記脂肪酸エステルは、脂肪酸と1価または2価のアルコールとのモノエステルである。本発明において使用することのできる脂肪酸エステルは、好ましくは、C12〜C22酸とC1〜C10線状または枝分れ脂肪族アルコールとのエステルおよびこれらの混合物、例えば、パルミチン酸エチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸オクチルおよびこれらの混合物から選ばれる。
【0032】
本発明において使用することのできる脂肪アルコールは、セチルアルコール、ミリスチルアルコール、セテアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールおよびこれらの混合物のような、長鎖(C8〜C22)アルコールである。
本発明において使用することのできるグリコグリセロ脂質の例は、モノガラクトシルジアシルグリセリン(MGDG)およびジガラクトシルジアシルグリセリン(DGDG)、これらの混合物並びにこれらのアシル化およびスルホン化誘導体である。本発明において使用し得る例は、グリセリンとベヘン酸(C22)とのエステル(INCI:トリベヘニン、USP:ベヘン酸グリセリル)であり、これも、商標Compritol(登録商標) 888として市販されている。このエステルは、モノ‐(12〜18%)、ジ‐(52%)およびトリ‐グリセリド(28〜32%)を含み、ベヘン酸(>85%)以外に、C16〜C20脂肪酸をさらに含む。ベヘン酸グリセリルは、69〜74℃の融点を有する。
本発明において使用し得るグリセリンと脂肪酸とのエステルのさらなる例は、商標Precirol(登録商標) ATO 5 (Precirol社)として市販されている脂質であり、この脂質は、グリセリンとパルミチン酸およびステアリン酸とのエステル混合物(グリセリルパルミトステアレート)であり、パルミチン酸およびステアリン酸とのモノ‐(8〜17%)、ジ‐(54%)およびトリ‐グリセリド(29〜38%)からなる。Precirol(登録商標) ATO 5は、50〜60℃の融点および約2のHLB価を有する。
【0033】
ポリエチレングリコールと脂肪酸のエステルは、ポリグリコール化(polyglycolized)グリセリドとしても知られており、天然油とポリエチレングリコール(PEG)とのアルコール分解反応によって調製し得る。これらのエステルは、長鎖(C12〜C18)脂肪酸のグリセリドのモノエステル、ジエステルおよび/またはトリエステルと、長鎖(C12〜C18)脂肪酸のPEGエステル(モノ‐および/またはジ‐)との混合物であり、遊離のPEGを含み得る。
ポリグリコール化グリセリドは、例えば、Gattefosse社から商標Gelucire(登録商標)として商業的に入手可能である。通常、Gelucire(登録商標)商標で市販されている脂質は、それら製品の融点およびHLB価を指標している2つの二桁数字によってさらに特定化されている。融点は摂氏で示され、HLB (親水性・親油性バランス)は、0からおよそ20までの数字尺度である。低いHLB価は、高い親油性で疎水性の物質を示し、高い値は、高い親水性で疎油性の物質を示す。水または油性物質に対する親和性を判定し、そのHLB価を経験により割当てている。上記マイクロカプセルのシェル中に存在するポリグリコール化グリセリドの例は、Gelucire(登録商標) 50/13、Gelucire(登録商標) 53/10、好ましくはGelucire(登録商標) 50/02である。
【0034】
上記粒状製剤のシェルは、1種の脂質または種々の脂質の混合物を含み得る。混合物を使用する場合、そのような混合物は、同じ群からの、例えば、グリセリンと脂肪酸のエステル類またはポリグリコール化グリセリド類からの各脂質を含有し得、或いは、混合物は、異なる群の各脂質、例えば、グリセリンと脂肪酸のエステルをポリグリコール化グリセリドと一緒に含有し得る。
本発明の好ましい実施態様によれば、上記マイクロカプセルのシェル中に存在する脂質は、ポリグリコール化グリセリドおよび/またはグリセリンと脂肪酸のエステルである。
上記の脂質以外に、シェルは、脂質のフィルム形成能力を改善する可塑剤のような添加剤も含有し得る。可塑剤は、脂質中に溶解し、それによって脂質の可塑度と流動度を増進させ、通常は室温で液体ある物質である。可塑剤の添加は、コーティーング中での結晶性ドメインの形成を抑制し、(脂質)コーティーング材料の空隙率を低下させる。従って、本発明の1つの好ましい実施態様は、外側シェルが可塑剤も含有するマイクロカプセルに関する。
【0035】
上記マイクロカプセルのシェル中に存在し得る可塑剤および分散剤のような添加剤と一緒の脂質および脂質混合物は、本出願においては、“脂質相”と称する。
上記脂質相中に存在し得る可塑剤は、例えば、コーティーング材料として使用する上記脂質と比較して有意に低い融点を有する脂質、例えば、中鎖トリグリセリド(MCT)またはLutrol(登録商標) F127のような両親媒性ブロックポリオキシエチレン‐ポリプロピレングリコールコポリマー(ポロキサマー)である。これら可塑剤の上記脂質相の総質量に対する濃度は、0〜10%の範囲内、好ましくは1〜6%の範囲内である。また、シェルは、コアhGH微小粒子の溶融脂質内での分散を容易にする1種以上の分散剤も含有し得る。従って、さらなる好ましい実施態様は、外側シェルを構成する上記脂質相が内部コアのための分散剤を含有するマイクロカプセルに関する。とりわけ好ましい実施態様によれば、上記分散剤は、リン脂質またはその誘導体、例えば、大豆レシチン類、好ましくは大豆レシチンである。これら分散剤のシェル形成脂質相全体の総質量に対する濃度は、0〜2%の範囲内、好ましくは0.1〜1%の範囲内である。
【0036】
本発明のマイクロカプセルは、2工程法によって製造し得る。第1工程においては、マイクロカプセルの内部コアを構成する粒子を調製し、第2工程においては、外側シェルを調製する。
好ましくは、マイクロカプセルの製造における第1工程を、スプレー乾燥法を使用することによって実施し;第2工程を、その臨界圧(Pc)に近い圧力に加圧した流体を使用する方法を使用することによって実施する。“その臨界圧(Pc)に近い圧力に加圧した流体”なる表現は、0.4Pc〜3Pcからなる圧力に加圧した流体を意味する。従って、本発明のさらなる目的は、上記内部コアを、スプレー乾燥法を使用して製造し;上記外側シェルを、加圧流体系方法(pressurized fluid-based process)を使用して製造することを特徴とする、本発明のマイクロカプセルの製造方法に関する。好ましい実施態様によれば、上記方法は、超臨界(SC)圧で操作する。“SC圧の流体”なる表現は、流体の温度にかかわらず、流体の臨界圧(Pc)よりも高い圧力に加圧した流体を意味する。このことは、臨界温度(Tc)よりも高いまたは低い温度を選択し得ることを意味する。本発明の好ましい形態においては、超臨界流体(SCF)を使用するマイクロカプセル化法を使用する;このことは、流体の圧力および温度の双方が、上記方法の少なくとも1部において、それぞれ、PcおよびTcよりも高いことを意味する。
【0037】
既に説明したように、第1工程、即ち、内部コアを構成する粒子の製造は、スプレー乾燥法を使用することによって実施し得る。スプレー乾燥は、原理的には溶媒抽出方法である。取得すべき生成物の構成成分を液体中に溶解/分散させ、その後、例えば、蠕動ポンプを使用することによってスプレー乾燥機のアトマイザーに供給する。流体を噴霧化するのに使用し得る適切なアトマイザーとしては、ノズルおよび回転ディスクがある。ノズルにおいては、噴霧化は圧縮ガスの作用によって生じ、一方、回転ディスクを使用する場合は、噴霧化は、ディスクの急速回転により生じる。いずれにしても、噴霧化は、乾燥チャンバー内への液体の小液滴への分裂をもたらし、溶媒をエアゾール液滴から抽出し、例えば、排気管により溶媒トラップに排出する。
上記粒子を製造するのに使用することのできる適切なスプレー乾燥法は、周知であり、例えば、K. Mastersによって、“Spray-drying Handbook", John Wiley & Sons, New York, 1984”において説明されている。好ましい実施態様においては、液体の噴霧化は、ノズルを使用して実施する。適切なスプレー乾燥機の例としては、Mini Spray Dryer 290またはMOBILE MINOR(商標)のような、Buchi社からの実験室規模スプレー乾燥機、或いはNiro社からのPharma Spray Dryer PharmaSD(登録商標)がある。
【0038】
スプレー乾燥条件は、生成物特性、水分、粒度、形態並びにタンパク質の凝集および分解度合に大きな影響を有する。温度は、タンパク質の高温への暴露が分解を生じ得ることから、最も重要なプロセスパラメーターである。スプレー乾燥機においては、2つの温度、即ち、入口温度および出口温度を制御しなければならない。前者は独立のプロセスパラメーターであり、操作者が設定し得、後者は、液体供給量、噴霧空気体積流量、乾燥体積流量に、そして、明白に選定した入口温度に依存する。
本発明の適切な実施態様によれば、上記入口温度は、90℃〜150℃、好ましくは95℃〜130℃、より好ましくは100℃〜120℃の範囲内である。
【0039】
本発明によれば、上記粒状製剤調合物のコアの製造において使用する上記タンパク質、増量剤および界面活性剤含有溶液は、界面活性剤を、0.001〜2質量%、好ましくは0.05〜1質量%、とりわけ好ましくは0.1〜0.2質量%の量で含む。スプレー乾燥において使用する溶液/分散液は、マイクロカプセルの内部コア中に存在する全ての成分、即ち、成長ホルモン、増量剤および界面活性剤を含有する。上記溶液/分散液は、例えば、成長ホルモンのそのような溶液/分散液中での安定性を改良するためのまたはその加工性を改良するためのさらなる助剤を含有し得る。例えば、上記溶液/分散液は、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液および/またはコハク酸緩衝液のような緩衝液を含有し得る。そのような緩衝液は、1mM〜100mM、好ましくは5mM〜50mM、より好ましくは10mM〜20mMの濃度で存在し得る。
好ましくは、上記溶液/分散液は、pH 5.0〜pH 8.5、好ましくはpH 5.5〜pH 7.5、より好ましくはpH 5.85〜pH 7.4の範囲内のpHを有する。とりわけ好ましいpH値は、pH 5.85およびpH 7.4である。
適切な実施態様によれば、成長ホルモンは、約1mg/ml〜約10mg/mlの濃度で存在する。
さらなる実施態様によれば、スプレー乾燥用の溶液/分散液は、増量剤を、1mg/ml〜20mg/ml、好ましくは2mg/ml〜10mg/ml、より好ましくは5mg/mlの濃度で含む。
【0040】
少なくとも1種の脂質を含有するシェルは、上記コア微小粒子を、Pcに近い圧力Pに加圧した流体に、Tcに近い温度で接触させて、上記シェル材料を膨張させ得るようにする方法を使用して、上記タンパク質負荷コアに適用し得る。“Tcに近い温度”なる表現は、0.8Tc (Kで表す)〜1.5Tc (Kで表す)からなるケルビン(K)での温度Tの流体を意味する。例えば、この方法は、US 5,057,342号(H.F. Bok等、1989年)、US 5,066,522号(T.A. Cole等、1989年)、さらにまた、最近のUS 2003/0157183 A1号に説明されているようなカプセル化方法である。そのような方法は、加圧流体を、分散コア微小粒子を含有する溶融脂質中に溶解させて、いわゆるガス飽和懸濁液をもたらし、この懸濁液をノズルによりさらに膨張させて上記タンパク質負荷コアを含有する固形脂質マイクロカプセルを形成させることからなる。加圧流体は、好ましくは、単独でまたは共溶媒の存在下に使用する亜酸化窒素、プロパン、エタンおよび二酸化炭素(CO2)からなる群から選ばれる。CO2は、本発明において使用する好ましい加圧流体である。共溶媒は、加圧流体の脂質相中での溶解を有利にし且つ分散液の粘度を低下させるのに使用し得る。本発明において使用する共溶媒は、ケトン類、アルコール類、エステル類、および3〜8個の炭素原子を担持する軽質炭化水素類、好ましくは、アセトン、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノールまたは酢酸エチルであり得る。これらの共溶媒は、10%よりも低い、好ましくは約1%に近い低濃度で使用する。共溶媒は、最終マイクロカプセルから、当該方法の最終脱ガス/膨張段階において除去する。EP 0784 506 B号に記載されている方法に反して、本発明において使用する脂質相は、超臨界流体中に溶解させて当該方法を実施する必要はない。このことは、シェルを形成させるのに使用し得る固形脂質の範囲を著しく拡大し、はるかに高い生産収率をもたらし、且つ製剤中に導入する本来の材料の組成と同じ組成を有する良好に形成された固形脂質シェルを担保するという、EP 0784 506 B号に比較しての本発明の重要な利点である。本発明の好ましい実施態様においては、流体圧Pの値は、hGHコア微小粒子の脂質溶融物中への分散段階において、約0.75 Pc〜1.5Pcの範囲内にある。従って、本発明の1つの好ましい目的は、上記内部コアを、スプレー乾燥法を使用することによって製造し;上記外側シェルを、0.5Pc〜2Pcからなり、より好ましくは約0.75Pc〜約1.5Pcの範囲内の圧力に加圧した流体(Pcは流体の臨界圧である)を使用することによって製造する、マイクロカプセルの製造方法である。
【0041】
本発明のカプセル化方法においては、上記成長ホルモン負荷コア微小粒子および上記脂質剤を二酸化炭素(CO2)のような加圧流体と接触させて、上記タンパク質粒子の溶融ガス飽和脂質剤(1種以上)中の懸濁液をもたらす。CO2を加圧流体として使用する場合、この段階において使用する圧力は、好ましくは、5MPa〜15MPa、好ましく5.8MPa〜11.0MPaの範囲から選ばれる。上記賦形剤中での加圧流体溶解は、賦形剤の溶融/ガラス転移温度よりもはるかに低い(約10〜50℃低い)温度において賦形剤の膨張/溶融を誘発させて、低下した粘度を有する飽和溶融物(saturated melt)を生成する。上記飽和溶融物の温度は、好ましくは30℃〜70℃、より好ましくは35℃〜65℃の範囲内である。
【0042】
上記タンパク質負荷コア微小粒子を上記加圧流体によって膨張させた溶融脂質中で均質に分散させた後、上記飽和懸濁液をノズルにより減圧して液滴内に溶解した流体の大体積膨張をもたらして液滴を小液滴に崩壊させる;これらの小液滴は、上記流体膨張に伴う強い温度低下のために急速に固化する(即ち、いわゆるジュール・トムソン効果)。上記の脂質中の流体溶解、分散および減圧条件は、準球状形態、低空隙率および高凝集性を有するマイクロカプセルを生成して低いバースト放出をもたらすように調節する。均質分散液を減圧する圧力は、好ましくは周囲圧力乃至5.5MPaの範囲内、より好ましくは1.5MPa〜3.5MPa、最も好ましくは約3MPaである。
【0043】
好ましい実施態様によれば、本発明のマイクロカプセルは、下記の工程を含む方法によって製造する:
(a) 少なくとも成長ホルモン、増量剤および界面活性剤を含む水溶液/分散液を調製する工程;
(b) 工程(a)で調製した水溶液/分散液をスプレー乾燥させて、タンパク質含有微小粒子を製造する工程;
(c) 工程(b)で得られた微小粒子を収集する工程;
(d) 工程(c)で得られた微小粒子および上記脂質を含む均質分散液を、加圧流体中で、上記加圧流体を上記脂質相中に溶解させる圧力および温度条件下に調製する工程;
(e) 工程(d)で調製した分散液をノズルにより減圧する工程、および工程(e)で得られたマイクロカプセルを収集する工程。
本発明の最も好ましい実施態様においては。上記方法を実施するのに使用する加圧流体は、CO2であり;流体溶解およびhGH微小粒子の分散における圧力は約6MPaまたは100MPaであり;温度は、約60℃〜約70℃の範囲内であり;そして、膨張後圧力(即ち、減圧容器内の圧力)は、約3.0MPa〜約5.0MPaである。
【0044】
本発明のマイクロカプセルは、必要とする人に、適切な製薬上許容し得る注射用媒質中に懸濁させた後、例えば、小直径を有する針により、通常のシリンジ(25〜30ゲージ)を使用して投与することができる。好ましくは、懸濁媒は、水性媒質であり、適切な界面活性剤および/または増量剤をさらに含有し得る。本明細書において使用するときの用語“水性”とは、水または水と他の溶媒、とりわけ有機溶媒との混合物と理解されたい。水性溶液/懸濁液は、1種以上の成分を水または水と他の溶媒との混合物中に溶解または懸濁させた場合に存在する。水性溶液/懸濁液が1種以上の薬理活性成分を含み、そのような溶液/懸濁液が人または動物の治療または予防的処置に適する場合、そのような溶液/懸濁液は医薬品製剤である。有機溶媒が上記水性溶液/懸濁液または医薬品製剤中に存在する場合、好ましくは、非経口投与に適するような有機溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、好ましくは、例えば、エタノール、1,2‐プロパンジオール、グリセリン、ポリエチレングリコールおよびグリコフロールのようなアルコール類が存在する。
【0045】
非経口投与の耐容性を増大させるためには、懸濁液のオスモル濃度は、等張範囲内、即ち、約250〜350mオスモル/kgである。その後、製剤は、実質的に疼痛無しで、直接静脈内、動脈内、さらにまた皮下投与することができる。
オスモル濃度を得るためには、水性媒質は、等張改変剤、好ましくは、例えば、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムのような生理学的に許容される塩、或いは、例えば、グルコースまたはグリセリンのような生理学的に許容されるポリオールを、等張改変に必要な濃度で含有し得る。本発明の好ましい実施態様においては、上記マイクロカプセル用の水性分散媒は、生理食塩水である。
【0046】
上記分散媒は、適切な界面活性剤(ポロキサマー188および407、Solutol(登録商標) HS 15、Tween(登録商標) 20)および/または、例えば、マンニトールおよび/またはソルビトールのような適切な糖アルコールのようなさらなる助剤を含有し得る。
また、上記マイクロカプセルを投与するための懸濁媒は、中鎖トリグリセリド(グリセリンの脂肪酸エステル)の混合物のような低粘度を有する非水性注射用液であり得る。好ましい中鎖トリグリセリドは、Mygliol(登録商標) 812 (Dynamit Nobel社から)、Labrafac(登録商標) WL1349 (フランスのGattefosse社からのカプリル酸トリグリセリド)、またはLipoid MCT (ドイツのLipoid社から)である。
【0047】
上記マイクロカプセルを使用のために利用可能な非経口投与に適するようにするためには、上記マイクロカプセルは、有利には、使用前の保存に適する容器内に滅菌条件で密閉(hermetically closed)するような形で提供する。従って、本発明の有益な目的は、使用前の保存に適する容器内に滅菌条件で密閉したマイクロカプセルの頒与形(a form of presentation of microcapsules)である。非経口投与に適する上記マイクロカプセルの懸濁液を調製するのに使用する要素を、有利には、一緒にキットとすることができる。従って、本発明のさらなる目的は、(1) 成長ホルモン、増量剤、界面活性剤を含む内部コアおよび(2) 少なくとも1種の脂質を含む外側シェルを含むマイクロカプセルを収容する容器、および分散媒を含む容器を含むキットである。
【0048】
さて、本発明を十分に説明してきたが、当業者であれば、本発明を、等価のパラメーター、濃度および条件の広い範囲内で、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、また、必要以上に実験することなく実施し得ることは承知であろう。
本発明をその特定の実施態様に関連して説明してきたが、本発明はさらなる修正が可能であることを理解されたい。本出願は、一般に本発明の原理に従い、且つ本発明が属する技術内の既知または慣用的実施に属するような、さらに、特許請求の範囲において説明している本質的特徴に当てはまり得るような本開示からの逸脱を包含する本発明のあらゆる変形、使用および適応化に及ぶものとする。
【0049】
学術論文またはアブストラクト、公開または未公開の米国および外国特許出願、交付済み米国または外国特許、またはあらゆる他の文献を含む本明細書において引用した全ての文献は、引用文献に示された全てのデータ、表、図面および本文を含めて、その全体を参考として本明細書に合体させる。さらに、本明細書において引用した文献において引用されている文献の内容全体も、参考として合体させる。
既知の方法工程、通常の方法工程、既知の方法または通常の方法についての言及は、いずれにしても、本発明の何らかの局面、説明または実施態様が関連技術において開示、教示または示唆されていることを容認するものではない。
【0050】
上記の特定の実施態様の説明は、第三者が、当該技術の熟練内の知識(本明細書において引用した文献の内容のような)を応用することによって、そのような特定の実施態様を、必要以上に実験しないで、本発明の一般的概念から逸脱することなく、種々の用途のために容易に修正しおよび/または適応化することができる本発明の一般的性質をそのように十分に明らかにしている。従って、そのような適応化および修正は、本明細書において提示した教示および助言に基づく開示実施態様の等価の意義の範囲内とする。本明細書における表現または学術用語は、当業者が、本明細書の表現または学術用語を、本明細書に提示した教示および助言に照らして、当業者の知識と組合せて解釈すべきであるように、説明目的であって限定を目的としていないことを理解すべきである。
【0051】
明確に他で断らない限り、本特許出願において開示する全てのパーセント(%)データは、質量パーセント(%(質量/質量))を意味するものとする。
以下、実施例により本発明を説明するが、限定するものではない。
スプレー乾燥
Buchi社からのミニスプレードライヤー(Mini Spray Drier)を使用した。高温ガスは、除湿空気または窒素であった。ガス温度は、約80℃〜約150℃の範囲であった。
【0052】
粒度分布分析
スプレー乾燥法を使用して製造した粉末の粒度分布を、レーザー回折システム(Mastersizer 2000、Malvern Instruments社)および粒子画像アナライザー(Morphologi G2、Malvern Instruments社)によって特性決定した。Mastersizer 2000は、スプレー乾燥粉末の粒度分布を、溶媒としてイソプロパノールを使用する液体懸濁液中で測定するのに使用した。各懸濁液は、サンプルセルに装填する前に約2分間超音波処理した。
この一般的手順から外れて、バッチ参照DM5、GP5 b、D5およびDM10の粒度を、Tween 20を含有する水溶液中に再懸濁し、そのために、各懸濁液を渦巻ミキサーで混合し(10s)、約5分間超音波処理した後に測定した。
また、粉末を、Morphologi G2 (Malvern社)を使用する光学顕微鏡により検査して、粒子形態および粒度分布を、円形相当直径を使用して判定した。粒度結果は、数平均分布およびパラメーター(粒子サンプル数の90%、50%および10%が相応するD値よりも低いこと意味するD(n、0.9)、D(n、0.5)およびD(n、0.1))として、さらに、体積分布およびパラメーター(粒子サンプル体積の90%、50%および10%が相応するD値よりも低いこと意味するD(v、0.9)、D(v、0.5)およびD(v、0.1))としてマイクロメートルで表している。
【0053】
タンパク質物理化学特性決定(サイズ排除および逆相クロマトグラフィー)
スプレー乾燥によって得られたGHコア微小粒子のサンプルを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC) (タンパク質含有量および%凝集の測定のため)および逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP-HPLC) (%酸化形および脱アミド化形の測定のため)によって分析した。RP-HPLCにおいては、主たるGH化学分解生成物(酸化形および脱アミド化形)を、45℃に保持したC4カラムを使用して本来形から分離した。タンパク質ピークを、220nmでモニターした。タンパク質を、71%の50mM Tris緩衝液および29%のイソプロパノールからなる溶媒による定組成溶離によって上記カラムから溶出させた。SEC分析は、室温に維持したTSKゲルG2000 SWXLカラムによって実施した。タンパク質ピークを、214nmでモニターした。タンパク質を、97%(容量/容量)の63mM リン酸緩衝液および3%(容量/容量)のイソプロパノールからなる溶媒による定組成溶離によって上記カラムから溶出させた。
【実施例1】
【0054】
噴霧化における適切な操作条件のスクリーニングと選定
入口温度(℃)
タンパク質がスプレー乾燥中に受ける熱応力および機械的応力がタンパク質分解を引起すことは周知である。スプレー乾燥中に適用する操作条件を、スプレー乾燥工程中のタンパク質安定性を保持するために最適化した。入口温度および供給材料中のタンパク質濃度を変えて、製造した微小粒子中のGHの回収および分解生成物の量に対する効果を評価した。数種の粉末を、二通りの濃度(20mg/mLおよび10mg/mL)から出発し、種々の入口温度(80℃、90℃、120℃および150℃)を設定して得た。分析に当っては、各粉末をリン酸緩衝生理食塩水(PBS) pH 7.4中に溶解し(1mg/mLの理論濃度に)、SE-HPLCによって分析して、粉末中のhGHの量および高分子量物質(HMWS)の存在をアッセイした。下記の表1に、SEC-HPLCによるhGHの回収および完全性についての結果を要約している。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示す結果によれば、純タンパク質のスプレー乾燥は、保護剤を使用しない場合、タンパク質安定性に対し深刻な影響を有し得る。スプレー乾燥後、供給物中のhGH濃度および使用入口温度にもかかわらず、40%よりも低いhGHしか回収されていない。この低い回収は、再構成後に残留白色粒子として目視し得る大きな不溶性凝集物の形成に関連し得る。
高めの割合のhGH HMWSは、高入口温度で製造した粉末において測定されており、高温へのタンパク質の暴露によって生じる熱誘発分解のリスクを確認した。また、高めの入口温度の使用は、低水分含有量を有する微小粒子を生成する傾向にあり得る(表1)。しかしながら、低入口温度によるこれらのコア微小粒子において得られた7〜10%までの水分含有量は、許容し得、タンパク質の良好な安定性と一致している。
【実施例2】
【0057】
増量剤および界面活性剤の効果についての調査
スプレー乾燥中のhGHの分解を防止する賦形剤の能力を調べるために、糖(10mg/mLのテレハロース、スクロース、マンニトール)を含有し、界面活性剤(0.1%のポリソルベート20およびポロキサマー188)を添加したまたは添加していない数種の溶液を、スプレー乾燥用に調製した。hGH濃度は、2mg/mLに設定した。各溶液は、界面活性剤および増量剤をpH 7.4のリン酸緩衝液中に溶解し、次いで、hGHバルクを、穏やかに混合しながら添加することによって調製した。各溶液は、120℃の入口温度、538L/時の空気流量、5mL/分の溶液流量および38m3/時のアスピレーター速度で噴霧化した。粉末サンプルを、hGH回収および純度についてアッセイし(SE-HPLCにより)、粒度分布に関して特性決定した(Mastersizer 2000により)。また、界面活性剤を含有する製剤は、酸化形および脱アミド化形の%増加についても分析し(RP-HPLCにより)、スプレー乾燥させていない参照hGH物質と比較した。
スプレー乾燥において使用した組成および得られた製剤の分析データ(回収および%HMWS (SE-HPLCによる))は、下記の表2に要約している。分析に当っては、各粉末をPBS pH 7.4中に溶解し(1mg/mLの理論濃度に)、hGH回収と完全性についてSE-HPLCにより分析した。
【0058】
【表2】

【0059】
hGHに炭水化物のみを配合した場合、炭水化物濃度にもかかわらず、低回収率(20%〜44%)を測定している。これは、再構成後に白色粒子として目視し得る、また、界面活性剤を使用した場合には存在しない大きな不溶性凝集物の形成に関連し得る。0.1質量%のポリソルベート20またはポロキサマー188の添加は、界面活性剤の種類にかかわらず、おそらくはタンパク質の界面暴露を抑制することによって、回収率を著しく改善し、また、分析前の粉末の完全溶解を可能にしている。
炭水化物および界面活性剤と配合したhGHを、RP-HPLCにより、%酸化形および脱アミド化形に関しても分析した。各粉末をPBS pH 7.4中に溶解して2mg/mLの理論濃度を得た。並行して、スプレー乾燥させてないhGHバルクを参照として試験した。
得られた表2に示す結果は、hGHの%酸化形および脱アミド化形が、噴霧化サンプルにおいて、参照のスプレー乾燥させていないバルクと比較したとき増加していなかったことを示していた。
【実施例3】
【0060】
粒度分布
表2に示した粉末の粒度を下記の表4に示している:直径を、体積分布および数分布の双方として表している。
スプレー乾燥粒子の平均直径は、数分布として表したとき、5μmよりも小さく、噴霧化粉末が微細なきめを有することを示唆している。体積分布は、大きめの平均直径を示しており、大きい凝集物が極めて低い割合で存在することを示唆していた。
【0061】
【表3】

【0062】
加圧流体法を使用しての微小粒子のコーティーング
図1に略図的に示すようなSCF装置を使用した。全ての試験において、以下の手順を使用した:
‐粒子/コーティーング剤(1種以上)混合物(2)を、混合用セル(1)に入れ、CO2タンク(4)から混合条件でポンプ吸引した加圧CO2と10分間接触させた。
‐その後、上記混合物を撹拌機(3)により1時間撹拌した。この工程において、微粉化条件を、逆圧レギュレータ(8)を備えた収集用容器(7)において安定させた。
‐1時間後、撹拌を停止し、ノズル(6)による微粉化を、バルブを開けることによって開始した。
‐微粉化終了時に、収集用容器(7)をゆっくり減圧した;サンプルを集め、篩分けした(500μm)。
【0063】
脂質マイクロカプセル内に5%(質量/質量) (% w/w)負荷量の微小粒子を含むhGH負荷脂質微小粒子の8種の製剤を、この加圧流体系カプセル化方法を使用して製造し、分析的に特性決定した(hGH物理化学特性決定、生体外hGH放出プロフィール)。さらに、10質量%負荷量製剤も予備的プロセスおよび分析評価のために製造した。プロセスパラメーターおよび製剤データは、下記の表5に要約している。
5質量%の負荷量でもって製造したサンプルは、粒度分布、外観および生産収率の点で許容し得る。さらにまた、10質量%の負荷量を有する予備的製剤は、そのターゲット投与量を達成するのが潜在的に必要であるそのような高負荷量を有する粒子の製造が実施可能なようであることを示している。
【0064】
【表4】

【0065】
分析結果は、下記の表6に要約している。この方法を使用して製造したhGH負荷脂質マイクロカプセルは、関連タンパク質分解生成物の増加(RP-HPLCによる)が6%よりも低いままであることから、極めて高いタンパク質回収率(>98%)およびこの方法によって誘発されたタンパク質分解がほぼ無いことを示している。
【0066】
【表5】

*バッチ1G5、1GP5、1G10についての参照
**バッチ1P5、2P5、3P5、4P5についての参照
***バッチ2G5、3G5、5P5についての参照。
【0067】
【表6】

【0068】
さらに、これらの製剤の生体外放出特性も定量している。結果は、Gelucire(登録商標)系製剤については図2aおよび2bに、Precirol(登録商標)系製剤については図3に、Precirol(登録商標)/Gelucire(登録商標)系製剤については図4に示している。さらなるPrecirol(登録商標)/Gelucire(登録商標)系製剤についての、さらにまた、Dynasan(登録商標)系製剤からの結果は、図6に示している。
Gelucire(登録商標)系製剤は、低い生体外バースト放出(およそ20〜30%)および徐放性プロフィールを示している。Gelucire(登録商標) 50/20製剤の2つの異なるバッチ(1G5および3G5)の生体外放出プロフィールは、同じようであり、当該方法は極めて再現性があると結論付けるのを可能にしている。また、低バースト放出は、10質量%負荷量のhGH微小粒子でもって製造した製剤によっても見出された。
【0069】
同じhGH負荷(5%)において、生体外バーストは、Dynasan(登録商標)系製剤においてさらに減少していること、およびそのような低バーストは改良された徐放性プロフィールと組合わさっていることは、注目に値する。
同じhGH負荷(5%)において、Precirol(登録商標)系製剤は、高めのバーストを示しているが、その場合、より遅延性の放出速度であった。Precirol(登録商標)系製剤の2つの異なるバッチ(1P5および5P5)の生体外放出プロフィールは、当該方法は高度に一貫性であると結論付けることを可能にしている。
【0070】
さらに、スプレー乾燥微細化hGH粒子から出発し、低い生体外バースト放出および生体外徐放性プロフィールを示すhGH負荷注射用固形脂質マイクロカプセルを、加圧流体法を使用して製造することができることを実証した。これらの製剤を、何らのhGH変性(低レベルのHMWSおよび関連タンパク質分解生成物の増加)なしで製造できることを証明した。
試験は、窒素下の3mLのガラスバイアル内に詰めたhGH負荷注射用脂質マイクロカプセルの2〜8℃および25℃での保存安定性を評価するために実施した。各サンプルを、タンパク質含有量およびタンパク質の凝集レベルを判定するために、SECによって分析し、RP-HPLC分析を、酸化形および脱アミド化形の測定のために実施した。分析に当っては、hGHを、ジクロロメタンを使用して、上記脂質微小粒子から抽出した。該溶媒は、上記微小粒子中の脂質を溶解し、タンパク質を沈降させる。タンパク質沈降物を上記溶媒で洗浄し、乾燥させ、その後、HPLC分析の前に、水性相で再構成する。クロマトグラフィー分析は、上述したように実施した。また、サンプルは、電量測定により、水分含有量についても分析した。各サンプルを抽出し、初期、2週間時、1ヶ月時および2ヶ月時で分析した。下記の表8および9の結果は、当該方法によって得られた脂質微小粒子中のhGHは、2〜8℃および25℃において、少なくとも2ヶ月に亘って安定であることを示している。
【0071】
当業者であれば、本明細書において具体的に説明した本発明の特定の実施態様の多くの等価物を承知しているであろうし、或いはルーチン程度の試験を使用して確認し得るであろう。そのような等価物は、特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0072】
【表7】

【0073】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 少なくとも成長ホルモン、増量剤、界面活性剤を含有する少なくとも1個の内部固形コア、および(2) 少なくとも1種の脂質を含む外側シェルを含むマイクロカプセル。
【請求項2】
前記成長ホルモンが、ヒト成長ホルモン(hGH)、またはヒト成長ホルモンの生物学的活性を保持しているその機能性誘導体、フラグメント、変異体、アナログもしくは塩である、請求項1記載のマイクロカプセル。
【請求項3】
前記増量剤が、糖アルコール、糖および/またはアミノ糖である、請求項1および/または2記載のマイクロカプセル。
【請求項4】
前記糖が、単糖類、二糖類または三糖類である、請求項3記載のマイクロカプセル。
【請求項5】
前記糖が、スクロース、ラクトース、マルトースまたはトレハロース、好ましくはスクロースである、請求項4記載のマイクロカプセル。
【請求項6】
前記アミノ糖が、グルコサミン、N‐メチルグルコサミン、ガラクトサミンまたはノイラミン酸である、請求項3記載のマイクロカプセル。
【請求項7】
前記糖アルコールが、マンニトール、ソルビトール、ズルシトール、キシリトールまたはリビトール、好ましくはマンニトールである、請求項3記載のマイクロカプセル。
【請求項8】
前記界面活性剤が、ポリソルベートまたはポリオキシエチレン‐ポリオキシプロピレンブロックコポリマーである、請求項1〜7の1項以上に記載のマイクロカプセル。
【請求項9】
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレートまたはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートである、請求項8記載のマイクロカプセル。
【請求項10】
前記脂質が、少なくとも約40℃、好ましくは45℃〜80℃の範囲、より好ましくは48℃〜75℃の範囲の融点を有する、請求項1〜9の1項以上に記載のマイクロカプセル。
【請求項11】
前記脂質が、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、ポリオールエステル、または少なくとも1種の脂肪酸と少なくとも1種のポリオールのエステルである、請求項1〜10の1項以上に記載のマイクロカプセル。
【請求項12】
前記脂質が、ポリグリコール化グリセリドおよび/またはグリセリンと脂肪酸のエステルである、請求項1〜11の1項以上に記載のマイクロカプセル。
【請求項13】
前記脂質が、前記ポリグリコール化グリセリド Gelucire(登録商標) 50/02、グリセリル(パルミトステアレート、またはこれらのブレンドである、請求項1〜12の1項以上に記載のマイクロカプセル。
【請求項14】
前記外側シェルを構成する相が、前記内部コアに対する分散剤を含有する、請求項1〜13の1項以上に記載のマイクロカプセル。
【請求項15】
前記分散剤が、リン脂質またはその誘導体、好ましくは大豆レシチンである、請求項14記載のマイクロカプセル。
【請求項16】
前記外側シェルが、可塑剤も含有する、請求項1〜15の1項以上に記載のマイクロカプセル。
【請求項17】
前記可塑剤が、ポロキサマーの中鎖トリグリセリドである、請求項16記載のマイクロカプセル。
【請求項18】
分散媒中に懸濁させている請求項1〜17の1項以上に記載のマイクロカプセルを含む医薬製剤。
【請求項19】
使用前の保存に適する容器内に滅菌状態で密閉されている請求項1〜17記載のいずれか1項記載の製剤の頒与形。
【請求項20】
(1) 成長ホルモン、増量剤、界面活性剤を含む内部コアおよび(2) 少なくとも1種の脂質を含む外側シェルを含む請求項1〜17の1項以上に記載のマイクロカプセルを収容する容器、および分散媒を含む容器を含むキット。
【請求項21】
前記内部コアを、スプレー乾燥法を使用して製造し;前記外側シェルを、加圧流体系方法を使用して製造することを特徴とする、請求項1〜17のいずれか1項記載の製剤の製造方法。
【請求項22】
下記の工程を含むことを特徴とする、請求項21記載のマイクロカプセルの製造方法:
(a) 少なくとも成長ホルモン、増量剤および界面活性剤を含む水溶液/分散液を調製する工程;
(b) 工程(a)で調製した水溶液/分散液をスプレー乾燥させて、タンパク質含有微小粒子を製造する工程;
(c) 工程(b)で得られた微小粒子を収集する工程;
(d) 工程(c)で得られた微小粒子を含む均質分散液および加圧流体中に前記外側シェルを構成する相を、前記加圧流体を前記脂質相中に溶解させる圧力および温度条件下に調製する工程;
(e) 工程(d)で調製した分散液をノズルにより減圧する工程、および工程(e)で得られたカプセル化タンパク質粒子を収集する工程。
【請求項23】
前記内部コアを、スプレー乾燥法を使用することによって製造し;前記外側シェルを、前記溶解および分散工程中の圧力が0.4Pc〜3Pc、好ましくは0.5Pc〜2Pc、より好ましくは0.75Pc〜1.5Pcである(Pcは前記流体の臨界圧である)加圧流体を使用することによって製造する、請求項21〜22のいずれか1項記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項24】
前記加圧流体が、二酸化炭素である、請求項21〜23のいずれか1項記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項25】
前記二酸化炭素が、前記脂質を膨潤させて、前記溶解および分散工程(d)中に飽和溶融物を形成する、請求項23および/または24記載の方法。
【請求項26】
前記溶解および分散工程(d)中の温度が、30℃〜70℃の範囲内、好ましくは35℃〜65℃の範囲内、より好ましくは約60℃である、請求項24および25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記溶解および分散工程(d)中の圧力が、6.0MPa〜11.0MPaの範囲内、好ましくは約6MPaまたは10MPa近くであり;膨張後の圧力が、1.0MPa〜5.5MPaの範囲内、好ましくは1.5MPa〜3.5MPaの範囲内、より好ましくは3.0MPa〜5.0MPaの範囲内である、請求項24〜26のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−506499(P2011−506499A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538383(P2010−538383)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009849
【国際公開番号】WO2009/080164
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】