円偏波マイクロストリップアンテナ及び多周波共用アンテナ
【課題】 2点給電方式により給電する際に交差偏波成分の影響を抑えて円偏波の特性向上が可能な円偏波マイクロストリップアンテナを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の円偏波マイクロストリップアンテナは、誘電材料を所定の厚さに形成した誘電体基板12と、誘電体基板12の一方の面に配置されたパッチ導体11と、誘電体基板12の他方の面に配置された接地導体13と、パッチ導体11の中心Cから見て方向Aに配置されパッチ導体11に給電する第1給電部14と、パッチ導体11の中心Cから見て方向Aと直交する方向Bに配置され第1給電部14と略同一の振幅かつ略90°異なる位相でパッチ導体11に給電する第2給電部15と、パッチ導体11に形成され、第1及び第2給電部による励振の縮退分離量を調整するための摂動部11a、11bを備えている。
【解決手段】 本発明の円偏波マイクロストリップアンテナは、誘電材料を所定の厚さに形成した誘電体基板12と、誘電体基板12の一方の面に配置されたパッチ導体11と、誘電体基板12の他方の面に配置された接地導体13と、パッチ導体11の中心Cから見て方向Aに配置されパッチ導体11に給電する第1給電部14と、パッチ導体11の中心Cから見て方向Aと直交する方向Bに配置され第1給電部14と略同一の振幅かつ略90°異なる位相でパッチ導体11に給電する第2給電部15と、パッチ導体11に形成され、第1及び第2給電部による励振の縮退分離量を調整するための摂動部11a、11bを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏波を励振可能な円偏波マイクロストリップアンテナに関し、特に、2点給電方式の円偏波平面アンテナにおいて発生する交差偏波成分の影響を制御することにより、良好な円偏波アンテナ特性を保つことが可能な円偏波マイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円偏波を励振可能な平面アンテナとして、2点給電方式の円偏波マイクロストリップアンテナが知られている。この種の円偏波マイクロストリップアンテナは、放射素子としてのパッチ導体と、このパッチ導体に給電する給電回路等を含む給電手段を具備している。そして、パッチ導体に対し、パッチ中心から見て互いに直交する2方向に配置される2つの給電部を設け、それぞれの給電部に振幅比が約1対1で双方の位相差が約90°となるように給電する。その結果、同程度の振幅を持ち互いの位相差が90°の互いに直交する偏波がパッチ導体にて励振されるので、円偏波駆動を行うことができる。
【特許文献1】特開2001−267835
【特許文献2】特開2003−224416
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の2点給電方式の円偏波マイクロストリップアンテナにおいては、2つの給電部の相互結合に起因する交差偏波成分の増加を招くことが問題となる。交差偏波成分の影響によって、軸比の劣化を招くなど、円偏波の良好な特性を保つのに支障を来たすことになる。一方、上記従来の構成において、交差偏波成分の影響を抑制するための手法が提案されている。例えば、特許文献1には、2つの給電部に入力する信号の振幅比を1対1からずらしたり、位相差を90°からずらすことによって交差偏波成分を低減する手法が開示されている。また、特許文献2には、2つの給電部を、パッチ中心から見て直交する方向からずらした位置に設定する手法が開示されている。これらの各手法により、上述の交差偏波成分を抑制することができる。
【0004】
しかし、上記の特許文献1、2に開示された手法は、いずれも給電部の構造や給電回路の構成など給電手段に関するものである。よって、かかる手法を適用する場合、給電手段の設計上の負荷が大きくなり、簡単に円偏波の特性を最適化できないことが問題となる。
【0005】
また、円偏波マイクロストリップアンテナを装置に組み込む場合、回路基板や他の機能部品、ケーブル等の周囲環境によって円偏波の特性が悪影響を受ける場合がある。それらのような周囲環境に適した円偏波の特性を、給電手段によって最適化するのは容易ではない。
【0006】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、円偏波マイクロスリップアンテナにおいて2点給電方式を採用する場合、2つの給電部の相互結合に起因する交差偏波成分の影響を制御することが可能であり、また、周囲環境の影響下においても適した制御を施すことにより、良好な円偏波の特性を有する円偏波マイクロストリップアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、円偏波を励振可能な円偏波マイクロストリップアンテナであって、誘電材料を所定の厚さに形成した誘電体基板と、前記誘電体基板の一方の面に配置されたパッチ導体と、前記誘電体基板の他方の面に配置された接地導体と、前記パッチ導体の中心から見て第1の方向に配置され、前記パッチ導体に給電する第1給電部と、前記パッチ導体の中心から見て前記第1の方向と直交する第2の方向に配置され、前記第1給電部と略同一の振幅かつ略90°異なる位相で前記パッチ導体に給電する第2給電部と、前記パッチ導体、前記接地導体、前記誘電体基板のいずれかに形成され、前記第1及び第2給電部による励振の縮退分離量を調整するための摂動部とを備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、円偏波マイクロストリップアンテナに対し2点給電を行い、第1給電部と第2給電部から略同一の振幅で互いの位相が略90°となるように給電すると、パッチ導体を円偏波駆動することができる。このとき、パッチ中心から各々の給電部を結ぶ2方向での励振において、2つの給電部の存在により交差偏波成分が発生するが、摂動部の状態を変えて縮退分離量を適切に調整すれば、発生した交差偏波成分を制御することができる。よって、交差偏波成分の増加に伴う軸比等の劣化を的確に防止し、円偏波の特性を良好に保つことができる。また、周囲環境の影響下においても適した縮退分離量の調整により、円偏波の特性を良好に保つことができる。この特性改善方法は、給電回路等に対して設計変更するような負荷はなく、アンテナ部分のみにおいての調整であり、設計の簡易化を実現する。
【0009】
請求項2に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項1に記載の発明において、前記摂動部が、前記パッチ導体の中心から見て前記第1の方向と前記第2の方向に伸びる2直線のうち、少なくとも一方の直線に対し非線対称の構造を有することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、上述の発明の作用に加えて、パッチ中心から2つの給電部を見る2方向に対し摂動部が非線対称の構造を有しているので、形状やサイズの変更により、縮退分離量を自在に調整することが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項2に記載の発明において、前記摂動部が、前記2直線のそれぞれと略45°の角をなす方向に励振する第1の偏波と、この第1の偏波に直交する第2の偏波との間の位相差を変化させることが可能であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、上述の発明の作用に加えて、パッチ中心から2つの給電部を見る2方向に対し、それぞれ45°の角をなす2つの偏波を想定したとき、例えばそれらの偏波の電気長に所定の差を付与することが可能な摂動部を設けることにより、それらの位相差の調整、つまりは縮退分離量の調整を容易に設計することができる。これにより、簡易かつ確実に円偏波の特性向上を図ることができる。
【0013】
請求項4に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項3に記載の発明において、前記摂動部が、前記第1の偏波と前記第2の偏波のいずれかの方向に沿うとともに、前記パッチ導体の中心を挟んで対向する2箇所の位置に形成されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項3に記載の発明において、前記摂動部が、前記第1の偏波と前記第2の偏波のいずれかと平行であるとともに前記パッチ導体の中心を通る直線上の1箇所の位置に形成されることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項1から5のいずれかに記載の発明において、前記摂動部が、前記パッチ導体、前記接地導体、前記誘電体基板のいずれかの外形の所定位置に形成された切り欠き領域又は突出領域であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項1から5のいずれかに記載の発明において、前記摂動部が、前記パッチ導体又は前記接地導体の略中央に形成された所定形状のスロットであることを特徴とする。
【0017】
上記請求項4〜7にそれぞれ記載の発明によれば、パッチ導体、接地導体、誘電体基板に対し適用可能な摂動部としては、その位置、形状、個数などに関して多様なバリエーションがあり、アンテナ形状や装置構成に応じて最適な摂動部を選択して採用することができる。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、複数の周波数を送受信可能であるとともに、前記複数の周波数の少なくとも1つの周波数において円偏波の送受信が可能な多周波共用アンテナであって、円偏波で送受信される周波数の内の少なくとも1つの周波数の送受信に請求項1乃至7のいずれかに記載の円偏波マイクロストリップアンテナが用いられることを特徴とする多周波共用アンテナである。
【0019】
この発明によれば、多周波の送受信に対応した多周波共用アンテナにおいても、円偏波の送受信に本発明を適用したアンテナを用いることで円偏波特性を良好に保つことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、2点給電を行う円偏波マイクロストリップアンテナに対して、円偏波の縮退分離量を調整するための摂動部を設けるようにしたので、パッチ中心から各々の給電部を結ぶ2方向での励振において、2つの給電部の存在により発生する交差偏波成分を、摂動部による縮退分離量の調整によって抑えることができる。従って、交差偏波成分の増加に伴う軸比等の劣化を的確に防止し、円偏波の特性を良好に保つことができる。また、周囲環境の影響に対しても縮退分離量の調整により円偏波の特性を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナの構造を示す図であり、平面図及び側面図をそれぞれ示している。
【0022】
図1の平面図に示すように、誘電体基板12の上側の面には、正方形の金属導体からなるパッチ導体11が配置されている。ここでは、パッチ導体11の形状が正方形である場合を示しているが、状況に応じ長方形や円形など他の形状のパッチ導体11を用いてもよい。誘電体基板12は、所望の誘電率の誘電材料からなり、パッチ導体11より大きい外形を有して所定の厚さに形成される。また、図1の側面図に示すように、誘電体基板12の下側の面には所定形状の接地導体13が配置され、パッチ導体11と接地導体13が誘電体基板12を挟んで対向する配置になっている。
【0023】
誘電体基板12の上部平面には、パッチ導体11に給電するための第1給電部14及び第2給電部15が設けられている。これらの第1給電部14及び第2給電部15は、パッチ導体11に対して容量結合で給電するように構成され、それぞれ誘電体基板12を貫く第1の給電線14a、第2の給電線15aを介して給電回路と接続されている。
【0024】
図1に示すように、パッチ導体11のパッチ中心Cから見て、第1給電部14の略中央に設定された第1給電点F1が矢印A方向の直線上に配置されるとともに、第2給電部15の略中央に設定された給電点F2が矢印B方向の直線上に配置される。そして、これらパッチ中心Cを基点とするA方向の直線とB方向の直線は、互いに直交する関係にある。このような配置で、第1給電部14と第2給電部15に対し、振幅が同一で位相が互いに90°異なる信号を入力することにより、円偏波マイクロストリップアンテナを円偏波駆動することが可能となる。
【0025】
パッチ導体11には、正方形の外形のうち1角に摂動部11aが形成されるとともに、パッチ中心Cを挟んで摂動部11aに対向する1角に摂動部11bが形成されている。これら2つの摂動部11a、11bは、正方形の2角の所定領域を切り欠いて形成されている。なお、これら摂動部11a、11bは、図1に示すような切り欠きによって設ける場合に限らず、多様な形態で形成することができるが、詳細については後述する。
【0026】
図1において、一般に摂動部11a、11bを設けずにパッチ導体11を励振する場合、第1給電部14と第2給電部15の位置関係に起因して交差偏波が発生し、それにより軸比等の円偏波アンテナ特性を劣化させる恐れがある。一方、本実施形態では、上述のようにパッチ導体11の2箇所に摂動部11a、11bを形成することにより、2点給電方式において問題となる交差偏波成分の影響によるアンテナ特性の劣化防止を図っている。
【0027】
ここで、本発明のように摂動部11a、11bを設ける構成が、一般的な摂動部11a、11bを設けない構成と比較し、有利となるメカニズムについて説明する。以下は2点給電円偏波アンテナを、1点給電直線偏波アンテナを2つ直交させて用いたものとして捉え、1点から給電した場合の諸特性について述べていく。
【0028】
まずは図2(a)のように、一般的な摂動部がない正方形のパッチ導体21に第1給電部22から給電する場合を考える。このとき、第1給電部22による励振は、図2(a)に示すように、2つの直交モード、偏波φ1及び偏波φ2の重ね合わせとして考えることができる。これらの偏波φ1、φ2の励振方向は、パッチ中心Cから給電点F1を見るA方向の入力信号に対し、いずれも45°の角度をなすものとする。ここで、第2給電部が存在しないと仮定すると(1点給電)、それぞれの偏波φ1、φ2は、各φ1、φ2方向で観測した場合、互いに同振幅、同位相となるので、パッチ導体21の共振成分は純粋にA方向の成分からなり、B方向の成分は発生しない。このような状態で、偏波φ1、φ2についてのアンテナ天頂方向における放射位相の周波数特性を図3(a)に示している。なお、以降に示すアンテナ特性はすべてアンテナ天頂方向におけるものとする。図3(a)において、偏波φ1、φ2の位相がほぼ一致していることがわかる。つまり、第1給電部22からの1点給電とする場合は、交差偏波に起因する問題は生じない。
【0029】
これに対し、図2(b)に示すように、給電は行わない第2給電部23が存在する場合、偏波φ1、φ2の各モードの間に周波数差や位相差が生じる。この場合における図3(a)に対応する位相特性を図3(b)に示している。図3(b)においては、図3(a)とは異なり、偏波φ1、φ2の位相にずれが生じていることがわかる。これは、偏波φ1、φ2に対して第1給電部22と第2給電部23の位置が非対称となっていることにより、偏波φ1、φ2が意図的でない縮退分離をしているという状態である。
【0030】
よって、2点給電の構成において一方の第1給電部22から給電したとき、励振成分としてはA方向の主偏波成分に加えて、B方向において位相差が略90°近辺となる微弱な交差偏波成分が現れる。ここで、第2給電部23のみから給電する場合を考えると、上記と同様の現象からB方向の主偏波成分に加えて、A方向において位相差が略90°近辺となる微弱な交差偏波成分が現れる。そして、図2(b)の第1給電部22及び第2給電部23に位相差90°をつけた2点給電、つまり円偏波駆動する場合、A・Bそれぞれの方向で、主偏波成分と交差偏波成分が一方は強め合い、一方は弱め合う関係となりうる。よって、このような状況の下、A方向とB方向のアンテナ利得に差が生じ、円偏波マイクロストリップアンテナの軸比の劣化が生じることになる。
【0031】
一方、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、上記のような現象を引き起こす原因となる、意図的でない縮退分離状態を、意図的に制御することによって軸比の劣化を防ごうとしている。図4は、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナについて、まずは、第1給電部14のみからの給電による場合を考える。パッチ導体11の励振を、偏波φ1、φ2の重ね合わせとして考えたとき、一方の偏波φ1は摂動部11a、11bが形成された対角方向に沿い、他方の偏波φ2は摂動部11a、11bが形成されていない対角方向に沿う配置になる。
【0032】
このような配置により、摂動部11a、11bは、一方の偏波φ1と他方の偏波φ2の相対的な電気長を変化させるように作用する。これにより、偏波φ1、φ2の共振周波数差や位相差を変化させることができる。すなわち、図4において偏波φ1、φ2に対して摂動部11a、11bの形状やサイズによる調整量が適切に設定されたとき、縮退分離を抑制することができ、A方向・B方向に現れる交差偏波成分を低減して、軸比等の円偏波の特性を最適化することができる。
【0033】
図5は、図4において摂動部11a、11bを適切に調整した状態で、第1給電部14からのみ給電を行い、偏波φ1、φ2についての位相特性を示す図であり、図3(b)と同様の条件に基づく特性である。偏波φ1、φ2の各モードの間には、図3(b)で見られたような位相のずれは生じないことがわかる。つまり、図5は摂動部11a、11bの付加によって位相差をなくし、すなわち縮退分離を抑制することが実際に可能であることを示している。
【0034】
次に図6は、上記の一連の特性を比較するものである。第1給電部のみからの給電を考えた場合の、(A)は第2給電部がまったくないもの(図2(a)、図3(a))、(B)は第2給電部が存在する場合のもの(図2(b)、図3(b))、そして(C)は第2給電部が存在し、かつ摂動部を有するもの(図4、図5)である。各状態において、述べてきた偏波φ1、φ2の縮退分離量を表す位相差と、それに起因して発生した交差偏波成分の利得をプロットしたものである。一般的な2点給電円偏波マイクロストリップアンテナの配置である(B)は、2つの給電部の存在により縮退分離した状態にあるため、交差偏波成分が発生している。一方、本実施形態の摂動部を有する2点給電円偏波マイクロストリップアンテナの配置である(C)は、縮退分離を抑制し、交差偏波成分を低減させることに成功している。これにより、一般的な摂動部なしのものに比べて本実施形態では軸比等の円偏波特性の劣化を防ぐことができる。
【0035】
次に図7は、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナに対して完全にアイソレーションが取れた2点給電円偏波駆動を行った場合の軸比の周波数特性を示す図である。なお、図7(a)では、本実施形態の摂動部14、15を設けた(図4)場合の特性を示すとともに、図7(b)では比較のため、一般的な摂動部なしの構成(図2(b))の場合の特性を示す。
【0036】
図7(a)と図7(b)の特性を比べると、本実施形態の構成により全般的に軸比を小さく抑えられることがわかる。これは、図7(b)におけるA方向・B方向の偏波の利得の差に対し、図7(a)におけるA方向・B方向の偏波の利得の差がほとんどないことに起因している。本実施形態では摂動部11a、11bの作用によって上述したように交差偏波成分を低減でき、これによりA方向・B方向の偏波の利得の差が小さくなり軸比をゼロに近づけることができる。よって、2点給電時に円偏波の特性を改善する上で本実施形態の構成を採用することが有利である。
【0037】
次に、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナを無線機器等の搭載する際においても有用であることを述べる。一般に、無線機器等の装置内部にアンテナを組み込む場合、回路基板やその周囲にはケーブルや他の機能部品が存在し、アンテナに対して近接配置されるような状況が考えられる。このようなアンテナ組み込み時の周囲環境の影響でアンテナ特性が劣化することが問題となる。このような問題に対し、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、以下に説明するように摂動部11a、11bの調整により周囲環境の影響による特性劣化を改善することができる。
【0038】
このように周囲環境の影響が問題となる例として、回路基板上に円偏波マイクロストリップアンテナが非対称配置されるような場合を取り上げる。図8は、回路基板のグランド面を模擬した接地導体13に対しパッチ導体11及び誘電体基板12が非対称配置された状態を示している。すなわち、理想的には接地導体13の略中央にパッチ導体11及び誘電体基板12が配置されると、周囲の影響が円偏波マイクロストリップアンテナに対称的に作用し、アンテナ特性は比較的良好に保たれる。これに対し、図8に示すように非対称配置された場合は、周囲の影響が方向により異なるため、アンテナ特性を劣化させる要因となる。
【0039】
本実施形態では、図8のように非対称配置される場合であっても、摂動部11a、11bの調整によりアンテナ特性の最適化を図ることができる。図8のような非対称配置された場合は、パッチ導体11の周囲では、共振方向がA方向かB方向かによって利得に差が生じ、これにより円偏波の特性劣化を招く可能性がある。そこで、周囲の非対称によって生じた利得の差を解消するため、摂動部11a、11bの形状を適切に設定して縮退分離量を最適化し、円偏波の特性向上を図ればよい。
【0040】
本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナを図8のように非対称配置した状態で、摂動部11a、11bを最適化した場合のアンテナ天頂方向においての軸比特性を図9(a)に示す。図9(a)との比較のため、図9(b)には、摂動部11a、11bを設けない図2の構成で図8のように非対称配置した場合の特性を示す。図9(b)に示す摂動部11a、11bを設けない一般的な構成では、軸比のかなりの劣化が生じているのに対し、図9(a)に示す本実施形態の構成では、軸比が十分小さく抑えられている。ちなみに、図8における摂動部11a、11bの形状は、図4での形状に比べ、切り欠くサイズにおいて異なる。これは、対称配置ではなく、非対称配置によって新たに生じた利得差を解消するために、図4における交差偏波成分低減のための手法を、ここでは交差偏波成分の量を意図的に適したものに調整し、利得差制御するために用いたということである。このように、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナは、回路基板への実装など周囲の環境に適合するように円偏波の特性を最適化できる点で優れている。
【0041】
次に、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、図1に示すような摂動部11a、11bの構造に対して種々の変更を施すことができる。以下、本発明を適用可能な様々な摂動部を有する円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを具体的に説明する。
【0042】
図10は、正方形のパッチ導体11を用いた円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。図10(a)、(b)、(c)の3つの構造は、いずれも図1のA方向・B方向に対しては非線対称であるが、A方向・B方向から45°回転させた2方向に対し線対称となる場合の例である。まず、図10(a)では、図1と同様の構造を持つ例を挙げている。図10(b)では、パッチ導体11の正方形の対向する2角から突出するように形成された方形の摂動部11c、11dを持つ構造を示している。図10(c)では、パッチ導体11の中央部に長方形のスロットを1つ形成し、このスロットを摂動部11dとする構造を示している。
【0043】
図11は、パッチ導体11を正方形ではなく円形とした場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。図11(a)、(b)、(c)の3つの構造は、図10と同様、図1のA方向・B方向に対しては非線対称であるが、A方向・B方向から45°回転させた2方向に対し線対称となる。そして、図11(a)は、図10(a)の摂動部11a、11bと同形状の摂動部11e、11fを持つ構造を示し、図11(b)は、図10(b)の摂動部11c、11dと同形状の摂動部11g、11hを持つ構造を示し、図11(c)は、図10(c)の摂動部11dと同形状の摂動部11iを持つ構造を示している。
【0044】
図12は、正方形のパッチ導体11を用いて1箇所にのみ摂動部を設けた場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。図12の構造では、A方向・B方向に対して非線対称で、A方向・B方向から45°回転させた2方向のうち、一方に対し線対称で他方に対し非線対称となる。図12(a)では、パッチ導体11の1角における正方形の領域を切り欠いた1つの摂動部11jを持つ構造を示している。図12(b)では、パッチ導体11の1角から図10(b)の摂動部11c、11dと同形状に形成した1つの摂動部11kを持つ構造を示している。
【0045】
図13は、図12と同様の対称構造を持たせるとともに、パッチ導体11を正方形ではなく円形とした場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。図13(a)では、パッチ導体11の一端の所定領域を切り欠いた1つの摂動部11lを持つ構造を示している。図13(b)では、図12(b)の摂動部11kと同形状の1つの摂動部11mを持つ構造を示している。
【0046】
図14は、パッチ導体11自体に摂動構造を持たせるべく、正方形や円形などの対称的な形状ではなく非対称的な形状でパッチ導体11を形成する場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示している。いずれも、A方向・B方向に対して非線対称であって、A方向・B方向から45°回転させた2方向に対し線対称となる。それぞれ、図14(a)はパッチ導体11の形状を平行四辺形とした構造を示し、図14(b)はパッチ導体11の形状を楕円とした構造を示している。
【0047】
図15は、物理長と電気長の関係がA方向・B方向において一致しない場合や、別の調整用件がある場合に、パッチ導体11自体の形状を例えば長方形などとし、上述の摂動部を組み合わせたパッチ導体11を形成する場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示している。図15の構造では、A方向・B方向に対して非対称となる。図15(a)は、長方形のパッチ導体11に図10(a)の摂動部11a、11bと同形状の摂動部11n、11oを持つ構造を示し、図15(b)は、長方形のパッチ導体11に図12(a)の摂動部11jと同形状の摂動部11pを持つ構造を示している。
【0048】
次に、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、上述したようにパッチ導体11に摂動部を設ける場合に加え、誘電体基板12に摂動部を設けて構成してもよい。図16は、誘電体基板12に摂動部を設けて構成した円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【0049】
図16(a)では、正方形の誘電体基板12の対向する2角に摂動部12a、12bを設け、図16(b)では、正方形の誘電体基板12の1角に摂動部12cを設け、図16(c)では、円形の誘電体基板12の対向する2箇所から突出する摂動部12d、12eを設けている。このように、誘電体基板12に摂動部を設ける場合は、パッチ導体11に摂動部を設ける場合と基本的に共通の形成方法を適用することができる。
【0050】
次に、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、さらに接地導体13に摂動部を設けて構成してもよい。図17は、接地導体13に摂動部を設けて構成した円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【0051】
図17(a)では、正方形の接地導体13の1角に摂動部13aを設け、図17(b)では、正方形の接地導体13の中央部に長方形のスロットからなる摂動部13bを設けている。このように、接地導体13に摂動部を設ける場合は、パッチ導体11に摂動部を設ける場合と共通の形成方法を適用することができる。
【0052】
なお、接地導体13は平面形状に限らず、立体状に突出する摂動部を有してもよい。例えば、接地導体13の端部を立ち上げ、誘電体基板12の側面に上述の摂動部を形成してもよい。さらに他の導体を取り付けるなどして摂動部とすることもできる。
【0053】
以上、図10〜図17において列挙した円偏波マイクロストリップアンテナの様々なバリエーションは例示に過ぎず、実際には、パッチ導体11、誘電体基板12、接地導体13に対し、多様な形態の摂動部を組み合わせて形成し、本発明を適用することができる。
【0054】
また、以上の実施形態は例として容量給電に関するものであったが、給電手法はこれに限るものではなく、ピン給電、マイクロストリップラインによる給電、電磁結合給電等様々な給電手法においても本発明を適用することができる。
【0055】
なお、本実施形態に係る円偏波マイクロストリップアンテナは、1つの周波数帯に対応するアンテナとして用いる場合に限られず、複数の異なる周波数帯に対応する多周波共用アンテナに組み込んで用いることができる。
【0056】
図18に本発明による円偏波アンテナを適用した多周波共用アンテナの一例を示す。図18のアンテナは第1の周波数に対応したパッチ導体11の中をくり抜き、そこに第2の周波数に対応したパッチ導体31を配置し、2つのパッチ導体を短絡部31a、31bで接続した構造となっている。そして、パッチ導体11によって円偏波が放射されるようになっており、更に摂動部11a、11bを設けて交差偏波成分による軸比劣化を防止する構成となっている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナの構造を示す図である。
【図2】図1の構成に対応して、摂動部がない正方形のパッチ導体と、第1給電部及び第2給電部を含む従来の円偏波マイクロストリップアンテナを示している。
【図3】従来の円偏波マイクロストリップアンテナの位相特性を示す図である。
【図4】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナについて2つの直交モードとしての偏波φ1、φ2を示した図である。
【図5】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナについて、第1給電部からのみ給電を行い、第2給電部からは給電を行わない状態で、A方向の入力信号及び偏波φ1、φ2についての位相特性を示す図である。
【図6】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナに対し第1給電部から給電した場合、第2給電部の有無と摂動部の有無に応じて、円偏波の位相特性及び交差偏波利得を比較して示す図である。
【図7】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナに対し2点給電を行った場合の軸比特性を示すである。
【図8】接地導体に対しパッチ導体及び誘電体基板が非対称配置された状態を示す図である。
【図9】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナを図8のように非対称配置した状態で、摂動部を最適化した場合の軸比特性を示す図である。
【図10】正方形のパッチ導体を用いた円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図11】パッチ導体を円形とした場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図12】正方形のパッチ導体を用いて1箇所にのみ摂動部を設けた場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図13】図12と同様の対称構造を持たせるとともに、パッチ導体を円形とした場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である
【図14】パッチ導体自体に摂動構造を持たせるべく、非対称的な形状でパッチ導体を形成する場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図15】パッチ導体自体の形状をA方向・B方向に対し非線対称な形状とし、図10、12の摂動部を組み合わせたパッチ導体を形成する場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示している。
【図16】誘電体基板に摂動部を設けて構成した円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図17】接地導体に摂動部を設けて構成した円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図18】本発明を適用した円偏波アンテナと他の周波数に対応したアンテナを一体化した多周波共用アンテナの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
11…導体パッチ
12…誘電体基板
13…接地導体
14…第1給電部
15…第2給電部
【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏波を励振可能な円偏波マイクロストリップアンテナに関し、特に、2点給電方式の円偏波平面アンテナにおいて発生する交差偏波成分の影響を制御することにより、良好な円偏波アンテナ特性を保つことが可能な円偏波マイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円偏波を励振可能な平面アンテナとして、2点給電方式の円偏波マイクロストリップアンテナが知られている。この種の円偏波マイクロストリップアンテナは、放射素子としてのパッチ導体と、このパッチ導体に給電する給電回路等を含む給電手段を具備している。そして、パッチ導体に対し、パッチ中心から見て互いに直交する2方向に配置される2つの給電部を設け、それぞれの給電部に振幅比が約1対1で双方の位相差が約90°となるように給電する。その結果、同程度の振幅を持ち互いの位相差が90°の互いに直交する偏波がパッチ導体にて励振されるので、円偏波駆動を行うことができる。
【特許文献1】特開2001−267835
【特許文献2】特開2003−224416
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の2点給電方式の円偏波マイクロストリップアンテナにおいては、2つの給電部の相互結合に起因する交差偏波成分の増加を招くことが問題となる。交差偏波成分の影響によって、軸比の劣化を招くなど、円偏波の良好な特性を保つのに支障を来たすことになる。一方、上記従来の構成において、交差偏波成分の影響を抑制するための手法が提案されている。例えば、特許文献1には、2つの給電部に入力する信号の振幅比を1対1からずらしたり、位相差を90°からずらすことによって交差偏波成分を低減する手法が開示されている。また、特許文献2には、2つの給電部を、パッチ中心から見て直交する方向からずらした位置に設定する手法が開示されている。これらの各手法により、上述の交差偏波成分を抑制することができる。
【0004】
しかし、上記の特許文献1、2に開示された手法は、いずれも給電部の構造や給電回路の構成など給電手段に関するものである。よって、かかる手法を適用する場合、給電手段の設計上の負荷が大きくなり、簡単に円偏波の特性を最適化できないことが問題となる。
【0005】
また、円偏波マイクロストリップアンテナを装置に組み込む場合、回路基板や他の機能部品、ケーブル等の周囲環境によって円偏波の特性が悪影響を受ける場合がある。それらのような周囲環境に適した円偏波の特性を、給電手段によって最適化するのは容易ではない。
【0006】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、円偏波マイクロスリップアンテナにおいて2点給電方式を採用する場合、2つの給電部の相互結合に起因する交差偏波成分の影響を制御することが可能であり、また、周囲環境の影響下においても適した制御を施すことにより、良好な円偏波の特性を有する円偏波マイクロストリップアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、円偏波を励振可能な円偏波マイクロストリップアンテナであって、誘電材料を所定の厚さに形成した誘電体基板と、前記誘電体基板の一方の面に配置されたパッチ導体と、前記誘電体基板の他方の面に配置された接地導体と、前記パッチ導体の中心から見て第1の方向に配置され、前記パッチ導体に給電する第1給電部と、前記パッチ導体の中心から見て前記第1の方向と直交する第2の方向に配置され、前記第1給電部と略同一の振幅かつ略90°異なる位相で前記パッチ導体に給電する第2給電部と、前記パッチ導体、前記接地導体、前記誘電体基板のいずれかに形成され、前記第1及び第2給電部による励振の縮退分離量を調整するための摂動部とを備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、円偏波マイクロストリップアンテナに対し2点給電を行い、第1給電部と第2給電部から略同一の振幅で互いの位相が略90°となるように給電すると、パッチ導体を円偏波駆動することができる。このとき、パッチ中心から各々の給電部を結ぶ2方向での励振において、2つの給電部の存在により交差偏波成分が発生するが、摂動部の状態を変えて縮退分離量を適切に調整すれば、発生した交差偏波成分を制御することができる。よって、交差偏波成分の増加に伴う軸比等の劣化を的確に防止し、円偏波の特性を良好に保つことができる。また、周囲環境の影響下においても適した縮退分離量の調整により、円偏波の特性を良好に保つことができる。この特性改善方法は、給電回路等に対して設計変更するような負荷はなく、アンテナ部分のみにおいての調整であり、設計の簡易化を実現する。
【0009】
請求項2に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項1に記載の発明において、前記摂動部が、前記パッチ導体の中心から見て前記第1の方向と前記第2の方向に伸びる2直線のうち、少なくとも一方の直線に対し非線対称の構造を有することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、上述の発明の作用に加えて、パッチ中心から2つの給電部を見る2方向に対し摂動部が非線対称の構造を有しているので、形状やサイズの変更により、縮退分離量を自在に調整することが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項2に記載の発明において、前記摂動部が、前記2直線のそれぞれと略45°の角をなす方向に励振する第1の偏波と、この第1の偏波に直交する第2の偏波との間の位相差を変化させることが可能であることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、上述の発明の作用に加えて、パッチ中心から2つの給電部を見る2方向に対し、それぞれ45°の角をなす2つの偏波を想定したとき、例えばそれらの偏波の電気長に所定の差を付与することが可能な摂動部を設けることにより、それらの位相差の調整、つまりは縮退分離量の調整を容易に設計することができる。これにより、簡易かつ確実に円偏波の特性向上を図ることができる。
【0013】
請求項4に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項3に記載の発明において、前記摂動部が、前記第1の偏波と前記第2の偏波のいずれかの方向に沿うとともに、前記パッチ導体の中心を挟んで対向する2箇所の位置に形成されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項3に記載の発明において、前記摂動部が、前記第1の偏波と前記第2の偏波のいずれかと平行であるとともに前記パッチ導体の中心を通る直線上の1箇所の位置に形成されることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項1から5のいずれかに記載の発明において、前記摂動部が、前記パッチ導体、前記接地導体、前記誘電体基板のいずれかの外形の所定位置に形成された切り欠き領域又は突出領域であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の円偏波マイクロストリップアンテナは、請求項1から5のいずれかに記載の発明において、前記摂動部が、前記パッチ導体又は前記接地導体の略中央に形成された所定形状のスロットであることを特徴とする。
【0017】
上記請求項4〜7にそれぞれ記載の発明によれば、パッチ導体、接地導体、誘電体基板に対し適用可能な摂動部としては、その位置、形状、個数などに関して多様なバリエーションがあり、アンテナ形状や装置構成に応じて最適な摂動部を選択して採用することができる。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、複数の周波数を送受信可能であるとともに、前記複数の周波数の少なくとも1つの周波数において円偏波の送受信が可能な多周波共用アンテナであって、円偏波で送受信される周波数の内の少なくとも1つの周波数の送受信に請求項1乃至7のいずれかに記載の円偏波マイクロストリップアンテナが用いられることを特徴とする多周波共用アンテナである。
【0019】
この発明によれば、多周波の送受信に対応した多周波共用アンテナにおいても、円偏波の送受信に本発明を適用したアンテナを用いることで円偏波特性を良好に保つことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、2点給電を行う円偏波マイクロストリップアンテナに対して、円偏波の縮退分離量を調整するための摂動部を設けるようにしたので、パッチ中心から各々の給電部を結ぶ2方向での励振において、2つの給電部の存在により発生する交差偏波成分を、摂動部による縮退分離量の調整によって抑えることができる。従って、交差偏波成分の増加に伴う軸比等の劣化を的確に防止し、円偏波の特性を良好に保つことができる。また、周囲環境の影響に対しても縮退分離量の調整により円偏波の特性を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナの構造を示す図であり、平面図及び側面図をそれぞれ示している。
【0022】
図1の平面図に示すように、誘電体基板12の上側の面には、正方形の金属導体からなるパッチ導体11が配置されている。ここでは、パッチ導体11の形状が正方形である場合を示しているが、状況に応じ長方形や円形など他の形状のパッチ導体11を用いてもよい。誘電体基板12は、所望の誘電率の誘電材料からなり、パッチ導体11より大きい外形を有して所定の厚さに形成される。また、図1の側面図に示すように、誘電体基板12の下側の面には所定形状の接地導体13が配置され、パッチ導体11と接地導体13が誘電体基板12を挟んで対向する配置になっている。
【0023】
誘電体基板12の上部平面には、パッチ導体11に給電するための第1給電部14及び第2給電部15が設けられている。これらの第1給電部14及び第2給電部15は、パッチ導体11に対して容量結合で給電するように構成され、それぞれ誘電体基板12を貫く第1の給電線14a、第2の給電線15aを介して給電回路と接続されている。
【0024】
図1に示すように、パッチ導体11のパッチ中心Cから見て、第1給電部14の略中央に設定された第1給電点F1が矢印A方向の直線上に配置されるとともに、第2給電部15の略中央に設定された給電点F2が矢印B方向の直線上に配置される。そして、これらパッチ中心Cを基点とするA方向の直線とB方向の直線は、互いに直交する関係にある。このような配置で、第1給電部14と第2給電部15に対し、振幅が同一で位相が互いに90°異なる信号を入力することにより、円偏波マイクロストリップアンテナを円偏波駆動することが可能となる。
【0025】
パッチ導体11には、正方形の外形のうち1角に摂動部11aが形成されるとともに、パッチ中心Cを挟んで摂動部11aに対向する1角に摂動部11bが形成されている。これら2つの摂動部11a、11bは、正方形の2角の所定領域を切り欠いて形成されている。なお、これら摂動部11a、11bは、図1に示すような切り欠きによって設ける場合に限らず、多様な形態で形成することができるが、詳細については後述する。
【0026】
図1において、一般に摂動部11a、11bを設けずにパッチ導体11を励振する場合、第1給電部14と第2給電部15の位置関係に起因して交差偏波が発生し、それにより軸比等の円偏波アンテナ特性を劣化させる恐れがある。一方、本実施形態では、上述のようにパッチ導体11の2箇所に摂動部11a、11bを形成することにより、2点給電方式において問題となる交差偏波成分の影響によるアンテナ特性の劣化防止を図っている。
【0027】
ここで、本発明のように摂動部11a、11bを設ける構成が、一般的な摂動部11a、11bを設けない構成と比較し、有利となるメカニズムについて説明する。以下は2点給電円偏波アンテナを、1点給電直線偏波アンテナを2つ直交させて用いたものとして捉え、1点から給電した場合の諸特性について述べていく。
【0028】
まずは図2(a)のように、一般的な摂動部がない正方形のパッチ導体21に第1給電部22から給電する場合を考える。このとき、第1給電部22による励振は、図2(a)に示すように、2つの直交モード、偏波φ1及び偏波φ2の重ね合わせとして考えることができる。これらの偏波φ1、φ2の励振方向は、パッチ中心Cから給電点F1を見るA方向の入力信号に対し、いずれも45°の角度をなすものとする。ここで、第2給電部が存在しないと仮定すると(1点給電)、それぞれの偏波φ1、φ2は、各φ1、φ2方向で観測した場合、互いに同振幅、同位相となるので、パッチ導体21の共振成分は純粋にA方向の成分からなり、B方向の成分は発生しない。このような状態で、偏波φ1、φ2についてのアンテナ天頂方向における放射位相の周波数特性を図3(a)に示している。なお、以降に示すアンテナ特性はすべてアンテナ天頂方向におけるものとする。図3(a)において、偏波φ1、φ2の位相がほぼ一致していることがわかる。つまり、第1給電部22からの1点給電とする場合は、交差偏波に起因する問題は生じない。
【0029】
これに対し、図2(b)に示すように、給電は行わない第2給電部23が存在する場合、偏波φ1、φ2の各モードの間に周波数差や位相差が生じる。この場合における図3(a)に対応する位相特性を図3(b)に示している。図3(b)においては、図3(a)とは異なり、偏波φ1、φ2の位相にずれが生じていることがわかる。これは、偏波φ1、φ2に対して第1給電部22と第2給電部23の位置が非対称となっていることにより、偏波φ1、φ2が意図的でない縮退分離をしているという状態である。
【0030】
よって、2点給電の構成において一方の第1給電部22から給電したとき、励振成分としてはA方向の主偏波成分に加えて、B方向において位相差が略90°近辺となる微弱な交差偏波成分が現れる。ここで、第2給電部23のみから給電する場合を考えると、上記と同様の現象からB方向の主偏波成分に加えて、A方向において位相差が略90°近辺となる微弱な交差偏波成分が現れる。そして、図2(b)の第1給電部22及び第2給電部23に位相差90°をつけた2点給電、つまり円偏波駆動する場合、A・Bそれぞれの方向で、主偏波成分と交差偏波成分が一方は強め合い、一方は弱め合う関係となりうる。よって、このような状況の下、A方向とB方向のアンテナ利得に差が生じ、円偏波マイクロストリップアンテナの軸比の劣化が生じることになる。
【0031】
一方、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、上記のような現象を引き起こす原因となる、意図的でない縮退分離状態を、意図的に制御することによって軸比の劣化を防ごうとしている。図4は、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナについて、まずは、第1給電部14のみからの給電による場合を考える。パッチ導体11の励振を、偏波φ1、φ2の重ね合わせとして考えたとき、一方の偏波φ1は摂動部11a、11bが形成された対角方向に沿い、他方の偏波φ2は摂動部11a、11bが形成されていない対角方向に沿う配置になる。
【0032】
このような配置により、摂動部11a、11bは、一方の偏波φ1と他方の偏波φ2の相対的な電気長を変化させるように作用する。これにより、偏波φ1、φ2の共振周波数差や位相差を変化させることができる。すなわち、図4において偏波φ1、φ2に対して摂動部11a、11bの形状やサイズによる調整量が適切に設定されたとき、縮退分離を抑制することができ、A方向・B方向に現れる交差偏波成分を低減して、軸比等の円偏波の特性を最適化することができる。
【0033】
図5は、図4において摂動部11a、11bを適切に調整した状態で、第1給電部14からのみ給電を行い、偏波φ1、φ2についての位相特性を示す図であり、図3(b)と同様の条件に基づく特性である。偏波φ1、φ2の各モードの間には、図3(b)で見られたような位相のずれは生じないことがわかる。つまり、図5は摂動部11a、11bの付加によって位相差をなくし、すなわち縮退分離を抑制することが実際に可能であることを示している。
【0034】
次に図6は、上記の一連の特性を比較するものである。第1給電部のみからの給電を考えた場合の、(A)は第2給電部がまったくないもの(図2(a)、図3(a))、(B)は第2給電部が存在する場合のもの(図2(b)、図3(b))、そして(C)は第2給電部が存在し、かつ摂動部を有するもの(図4、図5)である。各状態において、述べてきた偏波φ1、φ2の縮退分離量を表す位相差と、それに起因して発生した交差偏波成分の利得をプロットしたものである。一般的な2点給電円偏波マイクロストリップアンテナの配置である(B)は、2つの給電部の存在により縮退分離した状態にあるため、交差偏波成分が発生している。一方、本実施形態の摂動部を有する2点給電円偏波マイクロストリップアンテナの配置である(C)は、縮退分離を抑制し、交差偏波成分を低減させることに成功している。これにより、一般的な摂動部なしのものに比べて本実施形態では軸比等の円偏波特性の劣化を防ぐことができる。
【0035】
次に図7は、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナに対して完全にアイソレーションが取れた2点給電円偏波駆動を行った場合の軸比の周波数特性を示す図である。なお、図7(a)では、本実施形態の摂動部14、15を設けた(図4)場合の特性を示すとともに、図7(b)では比較のため、一般的な摂動部なしの構成(図2(b))の場合の特性を示す。
【0036】
図7(a)と図7(b)の特性を比べると、本実施形態の構成により全般的に軸比を小さく抑えられることがわかる。これは、図7(b)におけるA方向・B方向の偏波の利得の差に対し、図7(a)におけるA方向・B方向の偏波の利得の差がほとんどないことに起因している。本実施形態では摂動部11a、11bの作用によって上述したように交差偏波成分を低減でき、これによりA方向・B方向の偏波の利得の差が小さくなり軸比をゼロに近づけることができる。よって、2点給電時に円偏波の特性を改善する上で本実施形態の構成を採用することが有利である。
【0037】
次に、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナを無線機器等の搭載する際においても有用であることを述べる。一般に、無線機器等の装置内部にアンテナを組み込む場合、回路基板やその周囲にはケーブルや他の機能部品が存在し、アンテナに対して近接配置されるような状況が考えられる。このようなアンテナ組み込み時の周囲環境の影響でアンテナ特性が劣化することが問題となる。このような問題に対し、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、以下に説明するように摂動部11a、11bの調整により周囲環境の影響による特性劣化を改善することができる。
【0038】
このように周囲環境の影響が問題となる例として、回路基板上に円偏波マイクロストリップアンテナが非対称配置されるような場合を取り上げる。図8は、回路基板のグランド面を模擬した接地導体13に対しパッチ導体11及び誘電体基板12が非対称配置された状態を示している。すなわち、理想的には接地導体13の略中央にパッチ導体11及び誘電体基板12が配置されると、周囲の影響が円偏波マイクロストリップアンテナに対称的に作用し、アンテナ特性は比較的良好に保たれる。これに対し、図8に示すように非対称配置された場合は、周囲の影響が方向により異なるため、アンテナ特性を劣化させる要因となる。
【0039】
本実施形態では、図8のように非対称配置される場合であっても、摂動部11a、11bの調整によりアンテナ特性の最適化を図ることができる。図8のような非対称配置された場合は、パッチ導体11の周囲では、共振方向がA方向かB方向かによって利得に差が生じ、これにより円偏波の特性劣化を招く可能性がある。そこで、周囲の非対称によって生じた利得の差を解消するため、摂動部11a、11bの形状を適切に設定して縮退分離量を最適化し、円偏波の特性向上を図ればよい。
【0040】
本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナを図8のように非対称配置した状態で、摂動部11a、11bを最適化した場合のアンテナ天頂方向においての軸比特性を図9(a)に示す。図9(a)との比較のため、図9(b)には、摂動部11a、11bを設けない図2の構成で図8のように非対称配置した場合の特性を示す。図9(b)に示す摂動部11a、11bを設けない一般的な構成では、軸比のかなりの劣化が生じているのに対し、図9(a)に示す本実施形態の構成では、軸比が十分小さく抑えられている。ちなみに、図8における摂動部11a、11bの形状は、図4での形状に比べ、切り欠くサイズにおいて異なる。これは、対称配置ではなく、非対称配置によって新たに生じた利得差を解消するために、図4における交差偏波成分低減のための手法を、ここでは交差偏波成分の量を意図的に適したものに調整し、利得差制御するために用いたということである。このように、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナは、回路基板への実装など周囲の環境に適合するように円偏波の特性を最適化できる点で優れている。
【0041】
次に、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、図1に示すような摂動部11a、11bの構造に対して種々の変更を施すことができる。以下、本発明を適用可能な様々な摂動部を有する円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを具体的に説明する。
【0042】
図10は、正方形のパッチ導体11を用いた円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。図10(a)、(b)、(c)の3つの構造は、いずれも図1のA方向・B方向に対しては非線対称であるが、A方向・B方向から45°回転させた2方向に対し線対称となる場合の例である。まず、図10(a)では、図1と同様の構造を持つ例を挙げている。図10(b)では、パッチ導体11の正方形の対向する2角から突出するように形成された方形の摂動部11c、11dを持つ構造を示している。図10(c)では、パッチ導体11の中央部に長方形のスロットを1つ形成し、このスロットを摂動部11dとする構造を示している。
【0043】
図11は、パッチ導体11を正方形ではなく円形とした場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。図11(a)、(b)、(c)の3つの構造は、図10と同様、図1のA方向・B方向に対しては非線対称であるが、A方向・B方向から45°回転させた2方向に対し線対称となる。そして、図11(a)は、図10(a)の摂動部11a、11bと同形状の摂動部11e、11fを持つ構造を示し、図11(b)は、図10(b)の摂動部11c、11dと同形状の摂動部11g、11hを持つ構造を示し、図11(c)は、図10(c)の摂動部11dと同形状の摂動部11iを持つ構造を示している。
【0044】
図12は、正方形のパッチ導体11を用いて1箇所にのみ摂動部を設けた場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。図12の構造では、A方向・B方向に対して非線対称で、A方向・B方向から45°回転させた2方向のうち、一方に対し線対称で他方に対し非線対称となる。図12(a)では、パッチ導体11の1角における正方形の領域を切り欠いた1つの摂動部11jを持つ構造を示している。図12(b)では、パッチ導体11の1角から図10(b)の摂動部11c、11dと同形状に形成した1つの摂動部11kを持つ構造を示している。
【0045】
図13は、図12と同様の対称構造を持たせるとともに、パッチ導体11を正方形ではなく円形とした場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。図13(a)では、パッチ導体11の一端の所定領域を切り欠いた1つの摂動部11lを持つ構造を示している。図13(b)では、図12(b)の摂動部11kと同形状の1つの摂動部11mを持つ構造を示している。
【0046】
図14は、パッチ導体11自体に摂動構造を持たせるべく、正方形や円形などの対称的な形状ではなく非対称的な形状でパッチ導体11を形成する場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示している。いずれも、A方向・B方向に対して非線対称であって、A方向・B方向から45°回転させた2方向に対し線対称となる。それぞれ、図14(a)はパッチ導体11の形状を平行四辺形とした構造を示し、図14(b)はパッチ導体11の形状を楕円とした構造を示している。
【0047】
図15は、物理長と電気長の関係がA方向・B方向において一致しない場合や、別の調整用件がある場合に、パッチ導体11自体の形状を例えば長方形などとし、上述の摂動部を組み合わせたパッチ導体11を形成する場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示している。図15の構造では、A方向・B方向に対して非対称となる。図15(a)は、長方形のパッチ導体11に図10(a)の摂動部11a、11bと同形状の摂動部11n、11oを持つ構造を示し、図15(b)は、長方形のパッチ導体11に図12(a)の摂動部11jと同形状の摂動部11pを持つ構造を示している。
【0048】
次に、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、上述したようにパッチ導体11に摂動部を設ける場合に加え、誘電体基板12に摂動部を設けて構成してもよい。図16は、誘電体基板12に摂動部を設けて構成した円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【0049】
図16(a)では、正方形の誘電体基板12の対向する2角に摂動部12a、12bを設け、図16(b)では、正方形の誘電体基板12の1角に摂動部12cを設け、図16(c)では、円形の誘電体基板12の対向する2箇所から突出する摂動部12d、12eを設けている。このように、誘電体基板12に摂動部を設ける場合は、パッチ導体11に摂動部を設ける場合と基本的に共通の形成方法を適用することができる。
【0050】
次に、本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナでは、さらに接地導体13に摂動部を設けて構成してもよい。図17は、接地導体13に摂動部を設けて構成した円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【0051】
図17(a)では、正方形の接地導体13の1角に摂動部13aを設け、図17(b)では、正方形の接地導体13の中央部に長方形のスロットからなる摂動部13bを設けている。このように、接地導体13に摂動部を設ける場合は、パッチ導体11に摂動部を設ける場合と共通の形成方法を適用することができる。
【0052】
なお、接地導体13は平面形状に限らず、立体状に突出する摂動部を有してもよい。例えば、接地導体13の端部を立ち上げ、誘電体基板12の側面に上述の摂動部を形成してもよい。さらに他の導体を取り付けるなどして摂動部とすることもできる。
【0053】
以上、図10〜図17において列挙した円偏波マイクロストリップアンテナの様々なバリエーションは例示に過ぎず、実際には、パッチ導体11、誘電体基板12、接地導体13に対し、多様な形態の摂動部を組み合わせて形成し、本発明を適用することができる。
【0054】
また、以上の実施形態は例として容量給電に関するものであったが、給電手法はこれに限るものではなく、ピン給電、マイクロストリップラインによる給電、電磁結合給電等様々な給電手法においても本発明を適用することができる。
【0055】
なお、本実施形態に係る円偏波マイクロストリップアンテナは、1つの周波数帯に対応するアンテナとして用いる場合に限られず、複数の異なる周波数帯に対応する多周波共用アンテナに組み込んで用いることができる。
【0056】
図18に本発明による円偏波アンテナを適用した多周波共用アンテナの一例を示す。図18のアンテナは第1の周波数に対応したパッチ導体11の中をくり抜き、そこに第2の周波数に対応したパッチ導体31を配置し、2つのパッチ導体を短絡部31a、31bで接続した構造となっている。そして、パッチ導体11によって円偏波が放射されるようになっており、更に摂動部11a、11bを設けて交差偏波成分による軸比劣化を防止する構成となっている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナの構造を示す図である。
【図2】図1の構成に対応して、摂動部がない正方形のパッチ導体と、第1給電部及び第2給電部を含む従来の円偏波マイクロストリップアンテナを示している。
【図3】従来の円偏波マイクロストリップアンテナの位相特性を示す図である。
【図4】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナについて2つの直交モードとしての偏波φ1、φ2を示した図である。
【図5】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナについて、第1給電部からのみ給電を行い、第2給電部からは給電を行わない状態で、A方向の入力信号及び偏波φ1、φ2についての位相特性を示す図である。
【図6】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナに対し第1給電部から給電した場合、第2給電部の有無と摂動部の有無に応じて、円偏波の位相特性及び交差偏波利得を比較して示す図である。
【図7】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナに対し2点給電を行った場合の軸比特性を示すである。
【図8】接地導体に対しパッチ導体及び誘電体基板が非対称配置された状態を示す図である。
【図9】本実施形態の円偏波マイクロストリップアンテナを図8のように非対称配置した状態で、摂動部を最適化した場合の軸比特性を示す図である。
【図10】正方形のパッチ導体を用いた円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図11】パッチ導体を円形とした場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図12】正方形のパッチ導体を用いて1箇所にのみ摂動部を設けた場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図13】図12と同様の対称構造を持たせるとともに、パッチ導体を円形とした場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である
【図14】パッチ導体自体に摂動構造を持たせるべく、非対称的な形状でパッチ導体を形成する場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図15】パッチ導体自体の形状をA方向・B方向に対し非線対称な形状とし、図10、12の摂動部を組み合わせたパッチ導体を形成する場合の円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示している。
【図16】誘電体基板に摂動部を設けて構成した円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図17】接地導体に摂動部を設けて構成した円偏波マイクロストリップアンテナのバリエーションを示す図である。
【図18】本発明を適用した円偏波アンテナと他の周波数に対応したアンテナを一体化した多周波共用アンテナの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
11…導体パッチ
12…誘電体基板
13…接地導体
14…第1給電部
15…第2給電部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円偏波を励振可能な円偏波マイクロストリップアンテナであって、
誘電材料を所定の厚さに形成した誘電体基板と、
前記誘電体基板の一方の面に配置されたパッチ導体と、
前記誘電体基板の他方の面に配置された接地導体と、
前記パッチ導体の中心から見て第1の方向に配置され、前記パッチ導体に給電する第1給電部と、
前記パッチ導体の中心から見て前記第1の方向と直交する第2の方向に配置され、前記第1給電部と略同一の振幅かつ略90°異なる位相で前記パッチ導体に給電する第2給電部と、
前記パッチ導体、前記接地導体、前記誘電体基板のいずれかに形成され、前記第1及び第2給電部による励振の縮退分離量を調整するための摂動部と、
を備えることを特徴とする円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
前記摂動部は、前記パッチ導体の中心から見て前記第1の方向と前記第2の方向に伸びる2直線のうち、少なくとも一方の直線に対し非線対称の構造を有することを特徴とする請求項1に記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
前記摂動部は、前記2直線のそれぞれと略45°の角をなす方向に励振する第1の偏波と、この第1の偏波に直交する第2の偏波との間の位相差を変化させることが可能であることを特徴とする請求項2に記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項4】
前記摂動部は、前記第1の偏波と前記第2の偏波のいずれかの方向に沿うとともに前記パッチ導体の中心を挟んで対向する2箇所の位置に形成されることを特徴とする請求項3に記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項5】
前記摂動部は、前記第1の偏波と前記第2の偏波のいずれかと平行であるとともに前記パッチ導体の中心を通る直線上の1箇所の位置に形成されることを特徴とする請求項3に記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項6】
前記摂動部は、前記パッチ導体、前記接地導体、前記誘電体基板のいずれかの外形の所定位置に形成された切り欠き領域又は突出領域であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項7】
前記摂動部は、前記パッチ導体又は前記接地導体の略中央に形成された所定形状のスロットであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項8】
複数の周波数を送受信可能であるとともに、前記複数の周波数の少なくとも1つの周波数において円偏波の送受信が可能な多周波共用アンテナであって、
円偏波で送受信される周波数の内の少なくとも1つの周波数の送受信に請求項1乃至7のいずれかに記載の円偏波マイクロストリップアンテナが用いられることを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項1】
円偏波を励振可能な円偏波マイクロストリップアンテナであって、
誘電材料を所定の厚さに形成した誘電体基板と、
前記誘電体基板の一方の面に配置されたパッチ導体と、
前記誘電体基板の他方の面に配置された接地導体と、
前記パッチ導体の中心から見て第1の方向に配置され、前記パッチ導体に給電する第1給電部と、
前記パッチ導体の中心から見て前記第1の方向と直交する第2の方向に配置され、前記第1給電部と略同一の振幅かつ略90°異なる位相で前記パッチ導体に給電する第2給電部と、
前記パッチ導体、前記接地導体、前記誘電体基板のいずれかに形成され、前記第1及び第2給電部による励振の縮退分離量を調整するための摂動部と、
を備えることを特徴とする円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
前記摂動部は、前記パッチ導体の中心から見て前記第1の方向と前記第2の方向に伸びる2直線のうち、少なくとも一方の直線に対し非線対称の構造を有することを特徴とする請求項1に記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
前記摂動部は、前記2直線のそれぞれと略45°の角をなす方向に励振する第1の偏波と、この第1の偏波に直交する第2の偏波との間の位相差を変化させることが可能であることを特徴とする請求項2に記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項4】
前記摂動部は、前記第1の偏波と前記第2の偏波のいずれかの方向に沿うとともに前記パッチ導体の中心を挟んで対向する2箇所の位置に形成されることを特徴とする請求項3に記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項5】
前記摂動部は、前記第1の偏波と前記第2の偏波のいずれかと平行であるとともに前記パッチ導体の中心を通る直線上の1箇所の位置に形成されることを特徴とする請求項3に記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項6】
前記摂動部は、前記パッチ導体、前記接地導体、前記誘電体基板のいずれかの外形の所定位置に形成された切り欠き領域又は突出領域であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項7】
前記摂動部は、前記パッチ導体又は前記接地導体の略中央に形成された所定形状のスロットであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の円偏波マイクロストリップアンテナ。
【請求項8】
複数の周波数を送受信可能であるとともに、前記複数の周波数の少なくとも1つの周波数において円偏波の送受信が可能な多周波共用アンテナであって、
円偏波で送受信される周波数の内の少なくとも1つの周波数の送受信に請求項1乃至7のいずれかに記載の円偏波マイクロストリップアンテナが用いられることを特徴とする多周波共用アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−25035(P2006−25035A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199524(P2004−199524)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【復代理人】
【識別番号】100092989
【弁理士】
【氏名又は名称】片伯部 敏
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【復代理人】
【識別番号】100092989
【弁理士】
【氏名又は名称】片伯部 敏
【Fターム(参考)】
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