説明

円形加速器

【課題】円形加速器から荷電粒子ビームを外部に出射する場合、ビーム軌道の変化に起因するチューンの変化を静的に補正し、チューンを線形に変化させ、ビーム出射調整を容易とした円形加速器を提供する。
【解決手段】偏向電磁石3の荷電粒子ビームが出入りする磁極エッジ部32にエンドパック34を設け、このエンドパック34の中心エネルギビームの平衡軌道33aより径方向外側部分32aに第1の突起部34aが、中心エネルギビームの平衡軌道33aより径方向内側部分32bに第2の突起部34bを設け、その第1、第2の突起部34a、34bの形状を加速エネルギ、エネルギの異なるビームのベータトロン振動数を一定ないし、エネルギに対して線形となるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、低エネルギビームを入射し、平衡軌道上で加速した高エネルギビームを出射する円形加速器に関すものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シンクロトロン等の円形加速器は荷電粒子ビームを周回加速させ、その平衡軌道から取り出したビームをビーム輸送系で輸送し、所望の対象物に照射する物理実験や、粒子線医用として癌治療や患部の診断に供されている。
このような円形加速器では、加速した荷電粒子を連続的に出射させるために、ビームのベータトロン振動の共鳴が用いられてきた。ベータトロン振動の共鳴とは、以下のような現象である。荷電粒子は、円形加速器の平衡軌道の周辺を左右(水平方向)或いは上下(垂直方向)に振動しながら周回する。これをベータトロン振動という。ベータトロン振動の周回軌道一周あたりの振動数を一般にチューン(ベータトロン振動数)と呼ばれる。チューンは周回軌道上に設けられた偏向電磁石や4極電磁石等で制御可能である。チューンの少数部をa/b(a,bは整数)に近づけると同時に、平衡軌道上に設けられた共鳴発生用多重極磁石(例えば、6極電磁石)を励磁すると、多数周回している荷電粒子のうち、ある一定以上のベータトロン振動振幅を持つ荷電粒子のベータトロン振動の振幅が急激に増加する。この現象をベータトロン振動の共鳴と呼び、安定領域と不安定領域の境界部分を安定限界(セパラトリクス)という。共鳴の安定限界のベータトロン振動振幅の大きさは、チューンの小数部からの偏差に依存し、偏差が近い程小さくなる。セパラトリクスより外側のビームはビームが不安定となり徐々に円形加速器の外へ取り出される。このように共鳴出射ではチューンの微妙な調整が必要となり出射パラメータの調整には多大な時間を要する。
【0003】
この様な共鳴出射を行う方法として、従来より以下の4つの方法が広く一般に知られている。
[方法1]セパラトリクスの大きさを初めの大きな状態から徐々に小さくしていき、周回中の荷電粒子のうちベータトロン振動振幅が大きな荷電粒子にまず共鳴を発生させ、その後振動振幅が小さな荷電粒子に順次共鳴を発生させて徐々に荷電粒子ビームを出射器から照射室へ出射する。
[方法2]チューンを一定に保つことにより安定限界を一定とし、高周波によりビームのベータトロン振動の振幅を増加させて共鳴を発生させる。
[方法3]チューンを概一定に保つことにより安定限界を概一定とし、高周波によりビームのベータトロン振動の振幅を増加させて安定限界の境界までビームを増大させる、その後で4極電磁石を励磁しセパラトリクスを若干小さくし徐々に荷電粒子ビームを取り出す。
[方法4]チューンを概一定に保つことにより安定限界を概一定とし、高周波加速電界により徐々にビームを加速し、セパラトリクスの外になったビームを徐々に取り出す。
【0004】
上記のいずれの方法も、荷電粒子は中心軌道のみを周回するのではなく、中心軌道より外側、中心軌道よりも内側のいろいろな部分を通過する。その場合、従来例では6極電磁石等を時間的に制御することによりチューンの変化を補正している。その具体例として、偏向電磁石、4極電磁石、機能結合型電磁石などの励磁電流の変化等により平衡軌道がずれることに起因するベータトロン振動数(チューン)の変化を防止し、荷電粒子ビームを安定に出射する為に、共鳴出射用の6極電磁石以外に、偏向電磁石、4極電磁石の励磁電流に起因するチューンの変化を打ち消すような6極電磁石を設けて、偏向電磁石や4極電磁石の励磁電流によるチューンの変化を打ち消す発散力,収束力を周回ビームに与えるような励磁電流を上記6極電磁石に供給する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平11−074100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1に示された周回型加速器では、
(1)偏向電磁石や他の電磁石などの励磁電流の変化に起因する平衡軌道の変異によるチューンの変化を防止する為に6極電磁石等を複雑な制御を行う必要があり、ビーム調整に多くの時間を要する。
(2)同じエネルギの出射においても、共鳴出射の場合セパラトリクスを小さくしていく過程で荷電粒子ビームは異なるビーム軌道上を通るので、軌道の変化に起因するチューンの変化を防止する為に複雑な制御が必要であり、多大なビーム調整時間が必要である。
【0007】
この発明では、上記のような課題を解決するためになされたものであって、チューンの変化を静的に補正し、平衡軌道が変位してもチューンが概線形に変化するようにし、簡単な制御で安定にビームを出射可能とし、ビーム調整時間を短縮でき、その結果、コストを低減した円形加速器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る荷電粒子ビームが平衡軌道を周回する円形加速器は、偏向磁場を発生する偏向電磁石と、荷電粒子ビームのエネルギの相違によるベータトロン振動の相違を補正する磁場を発生する6極電磁石と、荷電粒子ビームを平衡軌道から円形加速器の外部に取り出す出射装置を備えており、
偏向電磁石の荷電粒子ビームが出入りする磁極エッジ部には、荷電粒子ビームの中心エネルギビームを有するビームの平衡軌道より径方向外側部分に第1の突起部が、径方向内側部分には第2の突起部が設けられたエンドパックが付設されているとともに、第1、第2の突起部の形状が荷電粒子ビームの加速エネルギの範囲内で、エネルギの異なるビームのベータトロン振動数が一定ないしエネルギに対して線形となるように設定されているものである。
【発明の効果】
【0009】
このような偏向電磁石を備えているので、共鳴出射時の6極電磁石の磁場強度の時間依存性が簡単な1次関数となり、出射時の加速されている荷電粒子のエネルギが変化した時の、出射パラメータの調整が容易となり、円形加速器建設時や、長期運転休止後あるいは装置部分的改造後等における初期のビーム調整期間を大幅に短縮することが可能となり、運転の信頼性の向上とともに、低コストの円形加速器を実現できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。
図1は、この実施の形態1による円形加速器100の機器配置を示す図である。広く知られているように円形加速器100は、前段加速器9からビーム輸送系1を介して入射した荷電粒子を、周回軌道である平衡軌道4周辺を周回させながら加速した後、出射装置7を介し出射用ビーム輸送系8を介して図示省略した照射室へ荷電粒子を供給する。
図1に示すように、円形加速器100は、前段加速器9から輸送された荷電粒子、例えばプロトンのビームを入射する入射装置2と、この荷電粒子にエネルギを与える高周波加速空胴5と、ビーム軌道を曲げる偏向電磁石3と、加速された荷電粒子ビームの出射時の共鳴を励起する、すなわち荷電粒子ビームのベータトロン振動を安定領域と共鳴領域に分割するための磁場を発生する6極電磁石と、ベータトロン振動振幅が増加したプロトンビームを出射用ビーム輸送系8に出射するための出射装置7を備えている。なお、平衡軌道4は、4台の偏向電磁石3間の記入は省略している。さらに、図2(b)にて後述するエンドパック34、およびその第1、第2の突起部34a、34bの記入も省略している。
【0011】
偏向電磁石3とその磁極部分の拡大図を図2に示す。
図2(a)は、偏向電磁石3の側面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A矢の方向から見た偏向電磁石3の磁極31の拡大図を示す。図2(a)において、偏向電磁石3は磁極空隙Gを介して対向する磁極面31aを有した磁極31と、偏向磁場を発生させるコイル39を備えている。図2(b)に示すように、偏向電磁石3の磁極31は、偏向半径Rの中心点をQとして、偏向角θbでビーム軌道を曲げる。磁極31は磁極エッジ部32を有している。そしてこの実施の形態1では前記偏向半径Rより外周側の磁極エッジ部をエッジ外側部32aと、内周側をエッジ内側部32bと呼ぶことにする。
図1に示した平衡軌道4は、図2(b)に示されるビーム中心軌道に相当する中心エネルギのビームの平衡軌道33a、中心エネルギよりエネルギが高いビーム(高エネルギビーム)の平衡軌道33b、中心エネルギが低いビーム(低エネルギビーム)の平衡軌道33cを総称するものに相当する。磁極31のビームの入口35aおよび出口35bの磁極エッジ32には、後述するエンドパック34が付設されている。
【0012】
加速される荷電粒子4に収束作用を持たせるために、磁極エッジ部32と、ビーム中心軌道33aと偏向半径Rの中心点Qを結ぶ直線との間の角度θeを、図2(a)において時計回り方向を正として零度より大きくしている。この角度θeをエッジ角度と一般に称している。エッジ角度θeが大きいほど図2(a)の紙面に垂直な、垂直方向のビーム収束力が大きくなり、水平方向のビーム収束力は小さくなる。一方、偏向電磁石3の偏向角θbにわたる磁極31のメイン部分は、水平方向の収束力を有しているが垂直方向の収束力は零である。
以上によりエッジ角度θeを適当に選定することで、水平方向と垂直方向の双方にビーム収束させる安定解を決めることができる。広く一般に知られているように、ほぼ全ての円形加速器は図2(a)のようにエッジ角度を正に設定している。その場合、前記したエッジ内側部32bの方が、エッジ外側部32aより磁極31の占める割合が少なくなり、必然的に磁極エッジ32部での磁場強度分布はエッジ内側部32bの方が弱くなる。
その理由は、通常一般の偏向電磁石では磁極の境界部の磁場強度はビーム中心軌道上でも内側でも外側でも概同様であるが、エッジ角度が正側に大きい(10度を超える場合:本実施の形態1では30度程度)場合には、磁極の境界部の内側の方が弱くなる。電磁石全体の磁場強度は磁気抵抗が小さい部分が強くなるが、エッジ角度が正側に大きい場合には3次元効果により磁極の境界部の内側方向の磁気抵抗が外側と比べて大きくなるからである。よってビーム収束力が内側と外側で異なりチューンが非線形となる。この非線形を線形にすることがこの実施の形態1を含む本願発明のポイントである。
【0013】
図3に磁極31のビーム出口側35b付近の磁極エッジ部32の拡大図を示す。
偏向電磁石3の磁極31の磁極端面31bには、エンドパック34が付設されている。このエンドパック34には前述したエッジ外側部32a相当する個所に第1の突起部34aが、エッジ内側部32bには第2の突起部34bが設けられるとともに、磁極端面31bに密接し、ビーム周回軌道方向に延伸して磁極面31aと同一平面を形成するよう設置されている。
また、エンドパック34の第1、第2の突起部34a、34bの間には、それぞれの突起の底辺をつなぐエンドパック端面34cが形成されていて、このエンドパック端面34cは第1、第2の突起部34a、34bの頂辺に相当する平坦部34d、34eとは平行となるよう設けられている。なお、磁極端面31bとエンドパック端面34cは必ずしも平行でなくてもよい。エンドパック端面34cから突起部平坦部までの長さ(突起の高さ)を、第1の突起部34aではL、第2の突起部34bではLとし、この実施の形態1ではL>Lに設定している。つまり突起部平坦部34d、34eは同一平面性をなしてない。
また、第1の突起部34aは突起の底辺つまりエンドパック端面34c上の始点Sから平坦部34dに到り、ビームの平衡軌道より径方向外側に向かって底辺と傾斜角θをなす第1の平衡軌道側端部Kが設けられている。前記始点Sは高エネルギビーム平衡軌道34bより径方向外側に設定している。
また、第2の突起部34bは、同様に底辺上の始点Sから平坦部34eに到って所定の傾斜角θを有し、平衡軌道より径方向内側に向かって第2の平衡軌道側端部Kが設けられ、前記始点Sを低エネルギビーム平衡軌道33cより径方向内側に設定している。そして、この実施の形態1では前記θとθの関係をθ>θとしている。
このような第1、第2の突起部34a、34bを有するエンドパック34を磁極端面31bに付設することにより、磁極エッジ部32のエッジ内側部32bの磁場分布の弱まりを補正することができる。なお、この実施の形態1では、エンドパック34に第1、第2の突起部34a、34bを有する例を示したが、第1、第2の突起部34a、34bのみを、あるいは2個の分離したエンドパックとし磁極端面31bに取り付けてもよい。この場合、磁極端面31bは平面でなく、段差があってもよい。また、この実施の形態1ではビーム周回方向のエンドパック形状について述べたが、径方向の端部形状は特に制約はない。
【0014】
図4に水平方向のビーム収束特性を、3次元磁場と軌道解析コードを用いて、チューンのエネルギ依存性の計算結果を示す。共鳴出射では水平方向のチューンのみが制御対象となるので、水平方向の依存性のみを示した。磁極は図3において、第1、第2のエンドパック34a、34bがないとした場合の計算結果である。図3に示した様に、中心エネルギより低エネルギのビームは偏向電磁石の内側、中心エネルギより高エネルギのビームは偏向電磁石の外側を通過するので、磁極エッジ部32での磁場強度分布がエッジ内側部分32bの方が弱くなっているために、横方向の収束力が内側の方が外側よりも強くなっている。
図5に水平方向のビーム収束特性を現すチューンの、エネルギ依存性を示す別の例Bを示す。図4の結果も点線Aで同時に示した。この計算結果は図3で第1、第2の突起部34a、34bの長さをL=L、かつθ>θとしたときの計算結果である。図4のA、図5のB共、水平方向のチューンのエネルギ依存性は、非線形となっており、ビームを共鳴出射する時には複雑な電磁石制御が必要となる。
一方、図6に水平方向のビーム収束特性を現すチューンの、エネルギ依存性を示す別の例を実線Cにて示す。図6中の計算結果は図3に示した第1、第2の突起部34a、34bの形状、つまりL>L、θ>θとし、水平方向のチューンがエネルギを変化させても変化しない様に磁極形状を最適化したものである。このような条件だと、エネルギが変化してもチューンは線形であり、出射の条件は非常に簡単なものとなる。図6はエネルギ依存性がない結果となっているが、これが出射にとって最適な条件であるとは限らない。出射時には6極電磁石6を励磁してセパラトリクスを所定の大きさに設定する。6極電磁石6を励磁することにより水平方向のチューンのエネルギ依存性は、6極電磁石6を励磁していない場合に線形であった場合には、線形を保つが、その傾きが変化するからである。この実施の形態1を含む本発明での磁極整形はエネルギ依存性が線形になることが本質的であり、エネルギ依存性を全くなくす必要はない。従って、第1、第2の突起部34a、34bの形状とその配置を最適化することによって一定でなく線形に変化させることができる。その1例を図7に実線Dにて示した。
【0015】
図8は共鳴出射をする場合の、図5の場合A、図6の場合C、図7の場合Dの、ある共鳴出射時の6極電磁石6の強度の時間依存性の計算結果を示す。Aの条件では時間毎に6極電磁石6の磁場強度を変える必要があり初期のビーム調整時に多大な調整時間が必要となる。一方、C、Dの場合には6極電磁石6の強度の時間依存性は簡単な1次関数であり、ビーム調整期間の大幅な短縮が可能となる。なお、6極電磁石は、荷電粒子ビームのエネルギの相違によるベータトロン振動の相違を補正する磁場を生成するものである。
図9に図8のDの場合のビーム出射時のビーム電流の時間変化の計算結果を示す。非常に安定なビームが連続的に出射されていることがわかる。
【0016】
実施の形態2.
次に実施の形態2を磁極エッジ部32の部分拡大図である図10に基づいて説明する。
図10に示すようにエンドパック34の第1の突起部34aの長さLと、第2の突起部34bの長さLを等しく、かつθ>θと設定している。つまり、平坦部34d、34eは同一平面性を有し傾斜角θ、θは同一性を有してない。また、第1の突起部34aの第1の平衡軌道側端部Kの始点Sが高エネルギビームの平衡軌道33bの径方向内側とし、第2の突起部34bの第2の平衡軌道側端部Kの始点Sが低エネルギビームの平衡軌道33cの径方向外側と設定している。
このような第1、第2の突起部34a、34bを有したエンドパック34を付設することにより、前述した実施の形態1とほぼ同様に図6Cに示したようなチューンのエネルギ依存性を線形化することができる。従って、実施の形態1と同様にエネルギが変化した時の出射パラメータの調整が簡単となり、初期のビーム調整期間が大幅に短縮できる。
【0017】
実施の形態3.
実施の形態3を磁極エッジ部32の部分拡大図である図11に基づいて説明する。
この図11は前述した実施の形態2の図10と比較して、エンドパック34の第1、第2の突起部34a、34bの第1、第2の平衡軌道側端部K,Kの始点を、中心エネルギビームの平衡軌道33aと交点Sとしたことが異なるのみでそれ以外は同様である。
この場合にも実施の形態1と同様に、チューンのエネルギ依存性を線形化することができ、エネルギが変化した時の出射パラメータ調整が簡単化され、初期ビーム調整期間が大幅に短縮できる。
【0018】
実施の形態4.
実施の形態4を磁極エッジ部32の部分拡大図である図12に基づいて説明する。
この図12は前述に実施の形態3の図11と比較して、エンドパック34の第1、第2の突起部34a、34bの第1、第2の平衡軌道側端部K,Kが中心エネルギビームの平衡軌道33a上で、滑らかな曲線KSでつながれていることが異なるのみでそれ以外は同様である。
この場合にも実施の形態1と同様にチューンのエネルギ依存性を線形化することができ、エネルギが変化した時の出射のパラメータ調整が簡単化され、初期ビーム調整期間が大幅に短縮できる。
【0019】
実施の形態5.
実施の形態5を磁極エッジ部32の部分拡大図である図13に基づいて説明する。
図13は前述した実施の形態2の図10と比較して、エンドパック34の第1、第2の突起部34a、34bの底辺と平坦部34d、34eとをつなぐ第1、第2の平衡軌道側端部を形成する傾斜角θ,θを同一と設定し、さらに第1の突起部34aのP矢視側面図13(b)に示すように、磁極エッジ部32からビームの周回方向に離れるにつれて、磁極空隙Gが大きくなるような第1の傾斜面Kが、磁極面31aと同一平面をなすエンドパック面から第1の傾斜角αを有して設けられている。また、同様にP矢視側面図13(c)に示すように第2の傾斜角αを有して第2の傾斜面Kが設けられており、前記第1、第2の傾斜角α、αは、α<αと設定されている。なお、この傾斜面K,Kはエンドパック34の第1の突起部34aから第2の突起部34bにのみ設ける必要はなく、また径方向の全面に設ける必要もなく、一部分に設けてもよい。さらにこの図13(b)(c)では、第1、第2の突起部34a、34bに設ける例を示したが、エンドパック端面34に、前記α,αを適宜設定して傾斜面を設けてもよい。これ以外は前述した図10と同様である。
この実施の形態5でも実施の形態1と同様にエネルギが変化した時の出射のパラメータの調整が簡単となり、初期のビーム調整期間が大幅に短縮できる。
【0020】
以上、実施の形態1〜5で述べた偏向電磁石の磁極境界部におけるエッジ効果はエンドパック突起部を含めた磁極が磁気的に飽和していない場合には、エネルギ依存性はない。しかし、実際には高エネルギ側で若干飽和しているので、若干のエネルギ依存性が生じる。従って、最適なエッジ効果を持たせるための突起部形状は周回する粒子線のエネルギにより若干異なるものとなるが、その程度は小さいので、所定のエネルギ範囲に対応した突起部形状(すなわち磁極形状)の中間的な形状とすることにより、前記所定のエネルギ範囲の粒子線に対して所期のエッジ効果を持たせることは可能である。一方、円形加速器を照射用として使用する場合には、粒子線出射エネルギを変えて照射深さを制御することは起こりうる。
照射深さの制御は出射後、レンジシフターというエネルギ減衰装置を用いて、粒子線の中心エネルギを低下させるという方法があるが、大きく変える場合は加速器から出射される粒子の出射エネルギを変えるという方法もとられ、現有装置では例えば出射エネルギは数段階程度で切り替えられるようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明は、荷電粒子ビームを用いた癌治療や患部の診断等を行う医療用加速器や、諸材料への粒子線照射や、物理実験用加速器に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態1の円形加速器の機器配置を示す図である。
【図2】実施の形態1の偏向電磁石の磁極部分を示す図である。
【図3】実施の形態1の磁極エッジ部を拡大して示す図である。
【図4】磁極エッジ部にエンドパックを設けない場合の水平方向のチューンのエネルギ依存性を示す図である。
【図5】エンドパックの長さを同一とし、傾斜面をなす角度θ>θとした時の水平方向のチューンのエネルギ依存性を示す図である。
【図6】実施の形態1による水平方向のチューンのエネルギ依存性を示す図である。
【図7】実施の形態1の他の1例による水平方向のチューンのエネルギ依存性を示す図である。
【図8】実施の形態1による共鳴出射時の6極電磁石の強度の時間依存性を示す図である。
【図9】実施の形態1によるビーム出射時の出射ビーム電流を示す図である。
【図10】実施の形態2の磁極エッジ部を拡大して示す図である。
【図11】実施の形態3の磁極エッジ部を拡大して示す図である。
【図12】実施の形態4の磁極エッジ部を拡大して示す図である。
【図13】実施の形態5の磁極エッジ部を拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ビーム輸送系、3 偏向電磁石、4 平衡軌道、6 6極電磁石、
31 偏向電磁石の磁極、31a 磁極面、32 磁極エッジ部、
32a エッジ外側部、32b エッジ内側部、
33a 中心エネルギのビームの平衡軌道、33b 高エネルギビームの平衡軌道、
33c 低エネルギビームの平衡軌道、34 エンドパック、34a 第1の突起部、
34b 第2の突起部、34c エンドパック端面(突起部底辺)、
第1の突起部の長さ、L 第2の突起部の長さ、
θ 第1の平衡軌道側端部の傾斜角、θ 第2の平衡軌道側端部の傾斜角、
α 第1の傾斜角、α 第2の傾斜角、K 第1の傾斜面、K 第2の傾斜面、
第1の平衡軌道側端部の始点、S 第2の平衡軌道端部の始点、
SK 滑らかな曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームが平衡軌道を周回する円形加速器において、前記加速器は偏向磁場を発生する偏向電磁石と、前記荷電粒子ビームのエネルギの相違によるベータトロン振動の相違を補正する磁場を発生する6極電磁石と、前記荷電粒子ビームを前記平衡軌道から前記円形加速器の外部に取り出す出射装置を備えており、
前記偏向電磁石の前記荷電粒子ビームが出入りする磁極端面には、前記荷電粒子ビームの周回方向に磁極面と同一平面を形成するよう延伸して、前記荷電粒子ビームの中心エネルギを有するビーム平衡軌道より径方向外側部分に第1の突起部と、径方向内側部分に第2の突起部とが設けられたエンドパックが付設されており、当該突起部には前記荷電粒子ビームの周回方向の端部に互いに平行な平坦部を有するとともに、前記第1の突起部には前記ビームの平衡軌道より径方向外側に向かって、突起の底辺を始点として前記平坦部に到る前記底辺と傾斜角θをなす第1の平衡軌道側端部が設けられており、前記第2の突起部には前記ビームの平衡軌道より径方向内側に向かって、突起の底辺を始点として前記平坦部に到る前記底辺と傾斜角θをなす第2の平衡軌道側端部が設けられており、前記第1、第2の突起部平坦部が同一平面上にあるか否かという同一平面性、および前記傾斜角θ、θの同一性のうち、少なくともいずれか一方が異なることにより、前記第1、第2の突起部の形状が異なることを特徴とする円形加速器。
【請求項2】
前記第1、第2の突起部の間には、前記それぞれの突起の始点をつなぐエンドパック端面が形成されており、該エンドパック端面が前記突起部平坦部と平行であることを特徴とする請求項1に記載の円形加速器。
【請求項3】
前記第1、第2の突起部平坦部が同一平面上にあるとともに、前記第1の突起部の突起の始点が、前記中心エネルギビーム平衡軌道より径方向外側の高エネルギビーム平衡軌道の外側にあり、前記第2の突起部の突起の始点が、前記中心エネルギビーム平衡軌道より径方向内側の低エネルギビーム平衡軌道の内側にあり、かつ前記θが、θより小さいことを特徴とする請求項2に記載の円形加速器。
【請求項4】
前記第1、第2の突起部の始点が、前記中心エネルギビーム平衡軌道との交点にあることを特徴とする請求項1に記載の円形加速器。
【請求項5】
前記第1、第2の突起部の第1、第2の平衡軌道側端部が前記始点において滑らかな曲線でつながれていることを特徴とする請求項4に記載の円形加速器。
【請求項6】
前記エンドパックのビーム周回方向の端面には、前記ビームの周回方向に離れるに従って磁極空隙が大きくなるような傾斜面が設けられているとともに、当該傾斜面が前記磁極面となす傾斜角が、前記ビームの平衡軌道の径方向外側部分が径方向内側部分より小さいことを特徴とする請求項2に記載の円形加速器。
【請求項7】
前記エンドパックは分離した第1と第2のエンドパックによって構成されており、前記第1の突起部は第1のエンドパックに、前記第2の突起部は第2のエンドパックに設けられていることを特徴とする請求項2に記載の円形加速器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−259523(P2009−259523A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105608(P2008−105608)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】