説明

円筒容器の設計方法および円筒容器

【課題】外部からの圧力に対して座屈しない円筒容器の設計方法および前記方法により設計された円筒容器を提供する。
【解決手段】円筒容器に作用する外部圧力に対して座屈しない円筒容器を設計する際に、円筒容器に作用する外部圧力Po(MPa)、円筒容器の内部圧力Pi(MPa)に対して、円筒容器胴部の直径D(mm)、円筒容器胴部の長さL(mm)、円筒容器胴部の基材の板厚t(mm)、ヤング率E(MPa)及び降伏強度YP(MPa)を、下式を満足するよう決定することを特徴とする円筒容器の設計方法。Po−Pi≦0.0232(t・E・lnYP・D−1・L−1)−0.042

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品容器、医療機器、装置部品などに用いられる各種の円筒容器に関するもので、特に外部から作用する圧力に対して座屈しないことが求められる円筒容器の設計方法、および前記方法により設計された円筒容器に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への対応の必要性から、工業製品に関しても素材使用量の低減、および廃棄後のリサイクルが可能であることが求められる。
【0003】
食品容器、医療機器、装置部品などに用いられる各種の円筒容器では、素材使用量の低減のために用いる素材の板厚を低減することが試みられており、またリサイクルを可能とするために用いる素材自体を部品単位に特定の金属に統一するなどの方法が試みられている。
【0004】
しかし、前記の円筒容器のうち外部から圧力が作用する状態で用いられるものは、単に板厚を低減するだけでは作用する圧力に対する円筒容器の強度が低下するため、座屈しないようにするには用いる素材、サイズなどの再設計を行う必要がある。一方、素材の統一は、素材の機械特性の変化を伴うため、外部から圧力が作用する状態での円筒容器の強度に影響を及ぼすことが考えられ、やはり素材、サイズを含めて再設計を行う必要がある。
【0005】
外部から作用する圧力Pに対して座屈しない円筒容器を得ることを目的に、サイズ、板厚、素材の機械特性について設計を行うには、外部から作用する圧力P、円筒容器の諸条件と円筒容器の座屈の関係を定量的に把握する必要がある。
【0006】
円筒容器の外部から作用する圧力に対する座屈については、従来から実験式や理論式が提案されている。従来の円筒容器の外圧に対する座屈に関する考えは、素材の材質的な影響因子として、非特許文献1のように降伏強度を用いるものと、非特許文献2のようにヤング率を用いるものに大別できる。
【0007】
例えば、非特許文献1では、飲料缶の外圧に対する座屈強度であるパネリング強度に対する実験式が開示され、パネリング強度に対して、素材の板厚、降伏強度および円筒容器の長さが影響することが示されている。また、非特許文献2では、薄肉円筒容器の限界座屈圧力に対する理論式が開示され、限界座屈圧力に対して、素材の板厚、ヤング率、円筒容器の直径および長さ、ポアソン比が影響することが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】杉原、「材料とプロセス 第134回講演大会」、鉄鋼協会、1997年9月、p1228
【非特許文献2】S.P.Timoshenko,J.M.Gere(著者)、長谷川節(訳)、「弾性安定の理論(下)」、ブレイン図書出版株式会社、1973年、p278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1の実験式は、降伏強度が外圧に対する座屈強度に影響を及ぼすという経験的な知見を再現する点で有効である。しかし、降伏強度が非常に高い材料(例えば降伏強度が800MPa程度の高降伏強度を有する冷延鋼板)などを用いても必ずしも座屈強度が向上しないという、本発明者らが新規に知見した事実には反するものである。また、素材にアルミ、銅、ステンレスなどを用いることは考慮されていないため、非特許文献1の実験式を用いて円筒容器の設計を行うには限界がある。
【0010】
一方、非特許文献2の理論式は、例えば鋼とアルミのように、ヤング率の異なる素材を用いた場合の座屈強度を再現するには有効である。しかし、この理論式は、降伏強度が外圧に対する座屈強度に影響を及ぼすという経験的な知見が考慮されていないため、非特許文献2の理論式を用いて円筒容器の設計を行うことにもやはり限界がある。
【0011】
本発明は、前記の問題を解決し、外部からの圧力に対して座屈しない円筒容器の設計方法および前記方法により設計された円筒容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の手段は次の通りである。
【0013】
[1]円筒容器に作用する外部圧力に対して座屈しない円筒容器を設計する際に、円筒容器に作用する外部圧力Po(MPa)、円筒容器の内部圧力Pi(MPa)に対して、円筒容器胴部の直径D(mm)、円筒容器胴部の長さL(mm)、円筒容器胴部の基材の板厚t(mm)、ヤング率E(MPa)及び降伏強度YP(MPa)を、下式を満足するように決定することを特徴とする円筒容器の設計方法。
Po−Pi≦0.0232(t・E・lnYP・D−1・L−1)−0.042
[2]外部圧力が作用する条件で使用される円筒容器であって、円筒容器に作用する外部圧力Po(MPa)、円筒容器の内部圧力Pi(MPa)に対して、円筒容器胴部の直径D(mm)、円筒容器胴部の長さL(mm)、円筒容器胴部の基材の板厚t(mm)、ヤング率E(MPa)及び降伏強度YP(MPa)が下式を満足することを特徴とする円筒容器。
Po−Pi≦0.0232(t・E・lnYP・D−1・L−1)−0.042
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外部から作用する圧力による円筒容器の座屈と円筒容器のサイズおよび素材条件の関係を明確化することにより、外部から作用する圧力に対して座屈しない強度を備えた円筒容器を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が対象とする円筒容器の概要を示す斜視図である。
【図2】円筒容器胴部の長さを説明する側面図である。
【図3】円筒容器胴部の長さを説明する側面図である。
【図4】円筒容器胴部の長さを説明する側面図である。
【図5】円筒容器の限界座屈圧力の測定に使用する装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
食品容器、医療機器、装置部品などに用いられる各種の円筒容器の中には、容器内部を減圧して用いるものがある。このような円筒容器では、外部から作用する圧力の作用によって容器が座屈するのを避けなければならない。つまり、円筒容器はその用途に応じて作用する外部圧力に耐える座屈強度を備える必要がある。このような円筒容器を設計するには、円筒容器のサイズおよびそれに用いる素材の板厚や機械特性が、円筒容器が座屈に耐え得る圧力である限界座屈圧力(以降、Prと記載する)に及ぼす影響を明確にする必要がある。
【0017】
これを明らかにするために、本発明者らはまず円筒容器のPrに影響を及ぼす因子について検討し、次いで、それらの因子を様々に異なる条件として実際のPrを測定することで、各因子の影響度を定量評価し、円筒容器の設計指針を与える定量式を得た。以下、本発明について詳しく説明する。
【0018】
本発明が対象とする円筒容器の概要を図1に示す。円筒容器は胴部1とその両端に胴部に接合して設置された閉塞板2からなる。こうした円筒容器のPrに対して円筒容器のサイズが影響することは、経験的にも従来技術の検討からも周知である。円筒容器のサイズは、図1に示す円筒容器胴部の直径Dおよび円筒容器胴部の長さLで規定できる。
【0019】
円筒容器胴部の長さLは円筒容器胴部において、両端に設置された閉塞板間の最短長さとする。閉塞板を図2にその概要を示した二重巻き締め等で設置した場合は、円筒容器両端の巻き締め部間の最短距離を円筒容器胴部の長さLとする。ただし、図3にその概要を示した閉塞板近傍の胴部端部側に段差を設けた円筒容器では、段差部分を除いた円筒容器胴部の長さを円筒容器胴部の長さLとする。
【0020】
円筒容器胴部の直径Dは円筒容器胴部の外径から、胴部板厚の二分の一を減じた値で定義する。
【0021】
また、円筒容器のPrには、基材の板厚および機械特性が影響する。板厚は厚いほどPrが高まる。一方、機械特性としては、従来技術では降伏強度、あるいはヤング率が影響することが示されており、それぞれが高いとPrが高まるとされている。以降、降伏強度をYP、ヤング率をEと記載する。ただし、従来技術ではYP、Eを同時に考慮しているものはない。これは、それらの影響がそれぞれ異なる座屈機構である塑性座屈、弾性座屈に立脚しているためである。しかし本発明者らが行った実験によれば、実際のPrにはYPおよびEの両者の関与が示されている。そこで、本発明ではYP、Eの両者を影響因子として導入することを試みた。
【0022】
これらの因子が様々に異なる条件においてPrを測定し、測定結果を精度良く再現する定量評価式として得られたものが(1)式の関係である。ここで、それぞれの因子の影響は、それ以外の因子がほぼ一定となる条件で決定したものである。Prは限界座屈圧力(MPa)、Dは円筒容器胴部の直径(mm)、Lは円筒容器胴部の長さ(mm)、tは円筒容器胴部の基材の板厚(mm)、YPは円筒容器胴部の基材の降伏強度(MPa)、Eは円筒容器胴部の基材のヤング率(MPa)である。
Pr=0.0232(t・E・lnYP・D−1・L−1) …(1)
(1)式によれば、まずサイズの因子であるD、Lはそれぞれの逆数で作用する。つまり、D、Lが小さいほどPrを高める効果がある。また、tはその二乗で作用する。機械特性では、Eは一次として、YPはその対数で作用する。本発明でYPが対数で作用するとしたのは、YPが比較的低い領域ではPrはYPに影響されるが、YPを高めても必ずしもPrの向上には寄与しないという実験結果を、YPが対数で作用するとして反映させたものである。
【0023】
一方、実験的に得られたPrにはばらつきがあり、(1)式で得た数値が同一であっても、必ずしも一定とはならなかった。実験的に得られたPrが(1)式の数値より低い方向にばらついた際にも、外部からの圧力Pに対して、座屈しないことが必要である。そこで、このばらつきを考慮して(1)式に独立した定数項を導入した(2)式を得た。(2)式を満足させることで、Prが低い方向にばらついた際にも、外部から作用する圧力Pに対して、座屈しない円筒容器が確実に得られる。
P≦0.0232(t・E・lnYP・D−1・L−1)−0.042 …(2)
【0024】
さて、本発明の特徴は、円筒容器の限界座屈圧力にYP、Eの両者の効果を考慮することである。上記の関係が得られたことに対する理論的背景は必ずしも明らかではないが、以下のように推定される。円筒容器に外部から作用する圧力(外圧)PがそのPrに対して十分に低い段階では、外圧の作用による円筒容器の変形はEの支配する弾性的な変形である。この際の変形は、円筒容器胴部に、その軸方向に沿った稜線をもつ節が周方向で周期的に発生するものである。外圧が高まるにつれ、弾性的な変形が大きくなる。弾性座屈の考え方では、外圧がある値に達すると弾性的な変形が急激に大きくなることで座屈が発生する。ただし、弾性的な変形が急激に大きくなる際には、前記の節を折り曲げるように塑性変形させる必要がある。この時、節が塑性変形に対して抗する力がYPの作用として発現される。
【0025】
尚、これまでの記述では円筒容器に作用する圧力を単に外部から作用する圧力と記述したが、実際には、円筒容器にはその外部の圧力Poと内部の圧力Piが作用し、円筒容器に作用する圧力Pは、(3)式に示す外部圧力Poと内部の圧力Piの圧力差で定義される。
P=Po−Pi …(3)
従って、(2)式は、(4)式で定義される。
Po−Pi≦0.0232(t・E・lnYP・D−1・L−1)−0.042…(4)
【0026】
本発明が対象とする円筒容器は、図1に示したように胴部とその両端に設置された閉塞板からなる。本発明により決定されるD、L、t、E、YPはそれぞれ円筒容器胴部に関するものである。これは、本発明で考慮した外圧による円筒容器の座屈が、円筒容器胴部の座屈を対象とすることによる。よって、閉塞板が外圧によって座屈する条件においては、本発明は適用することができない。ただし、閉塞板に対しても本発明の方法で決定されるt、E、YPである素材を用いることで、閉塞板の座屈が生じないことを確認しているため、実質的に本発明の効果が損なわれることはない。
【0027】
円筒容器胴部と閉塞板とを接合する方法は、本発明には影響がない。接合方法としては図2に示した二重巻き締めが単位時間あたりの円筒容器の製造量の点で優れる。二重巻き締めは、胴部と閉塞板の各端部が複数重なった接合構造となっていることから接合部自体の強度が高く、外圧以外に作用する力に強い点でも有利である。その他の接合方法として、溶接、接着などの方法も適用できる。
【0028】
一方、円筒容器には閉塞板の近傍の胴部に段差を設けた、図3に概要を示したものもある。このような円筒容器が外圧の作用によって座屈する場合、座屈は段差部分で生じず、円筒容器の長さ方向の中央部で生じ、段差部分がない場合と同様の座屈となる。よって、図3に示した段差のある円筒容器の場合、円筒容器胴部の長さLは、段差部分を除いた円筒容器胴部の長さとする。
【0029】
円筒容器に用いる基材は、外圧に対する座屈強度が高いことが望ましいとの観点から金属板が望ましい。具体的には容器に求められる耐食性、コストなどの観点で決定できるが、アルミ合金、銅合金、ステンレス、鋼などを用いることができる。
【0030】
円筒容器の胴部を作製する方法は、本発明では特に規定しない。一般的な方法として、長方形板を丸めて端部を接合することで円筒容器胴部を得る方法が利用できる。接合の方法としては、端部を突合せて接合する方法、端部を重ね合わせて溶接する方法などが利用できる。溶接でのエネルギー投入方法としては、通電加熱、レーザー、アークなどが利用できる。この際、溶接部の存在が円筒容器のPrに影響することが考えられるが、前記の突合せによる溶接部での影響は無く、また重ね合わせによる溶接部でも、用いる長方形板の板厚の5倍程度以下の重ね代であれば、溶接部の存在が円筒容器のPrに影響することはない。
【0031】
円筒容器の胴部を作製する別の方法として、円形板を深絞り加工、しごき加工、スピニング加工などで作製する方法があるが、この方法でもよい。この方法では円筒容器端部の片側が底部として円筒容器胴部と一体となる場合がある。
【0032】
円筒容器のサイズの測定方法は以下の通りである。Lは円筒容器胴部において両端に設置された閉塞板の間の最短長さとする。測定は円筒容器の周方向において任意の位置を定め、その位置から周方向に90°毎に計4箇所で両端に設置された閉塞板の間の最短長さを測定し、その平均値をLとする。尚、閉塞板を二重巻き締めで設置した場合、閉塞板の近傍の胴部に段差を設けた場合のLは前記のとおりである。
【0033】
また、円筒容器端部の片側が底部として円筒容器胴部と一体化した構造の場合、缶底部の近傍は、図4に示したように曲面を備えた構造となる。この場合は、段差部分を除いた円筒容器胴部の長さとする。
【0034】
Dは円筒容器胴部の外径から、胴部板厚の二分の一を減じた値とする。円筒容器胴部の両端に設置された閉塞板間を胴部長さ方向で4等分した3箇所の位置において、円筒容器の周方向において任意の位置を定め、その位置とその位置から周方向に180°ずらした位置での胴部外径、及び、前記位置に対して円周方向に各々90°ずらした位置での胴部外径を各々測定し、測定した合計6箇所の胴部外径の平均値を求める。また各外径測定位置での胴部板厚を各々測定し、測定した合計12箇所から胴部板厚の平均値を求め、胴部外径の平均値から胴部板厚の平均値の二分の一を減じた値をDとする。
【0035】
tは円筒容器胴部の基材の板厚である。長方形板を丸めて端部を接合することで円筒容器胴部を得る方法では、tは円筒容器とする前の素材の長方形板の板厚を用いてよい。板厚測定は長方形板の任意の5点で行い、その平均値とする。円形板を深絞り加工、しごき加工、スピニング加工などで作製する場合は、tは加工後の平均板厚とする。円筒容器の板厚測定位置は、円筒容器胴部の外径測定の際の円筒容器の長さ方向で4等分した3箇所の位置において、円筒容器の周方向において任意の位置を定め、その位置から周方向に45°毎の板厚を測定してその平均値を求め、円筒容器胴部の平均板厚tとする。
【0036】
基材の機械特性の測定方法は以下の通りである。
【0037】
YPは降伏強度である。円筒容器として作製された状態の基材の降伏強度であることを基本とする。その測定は円筒容器胴部から引張試験片を採取して行う。試験片は引張方向が円筒容器胴部の周方向となるように複数採取する。ここで、長方形板を丸めて端部を接合することで円筒容器胴部を得る方法では、接合部が試験片に含まれないように試験片を採取する。また、この方法で得た円筒容器の場合は、円筒容器とする前の平板状の素材(長方形板)の降伏強度をYPとしても差し支えない。平板を円筒容器とすることで、YPに若干の変化が認められる場合があるが、その結果としてもたらされるPrの変化は本発明で考慮したばらつきの範囲内であるため、問題とならない。ただし、平板から試験片を採取する場合は、その引張方向は円筒容器胴部の周方向と一致するようにする。
【0038】
平板状の素材(円形板)を深絞り加工、しごき加工、スピニング加工などで作製する場合は、YPは加工後の円筒容器胴部からその周方向で採取した試験片を用いて測定する必要がある。これは、加工により円筒容器胴部の強度が平板状の素材と大幅に変化するためである。試験片は、円筒容器高さの中央近傍から、引張方向が円筒容器胴部の周方向となるように、複数採取し、YPはそれらの平均値とする。あらかじめ、平板状の素材のYPと円筒容器胴部に加工した後のYPの関係を求めておき、平板状の素材のYPを測定し、その測定値から円筒容器胴部のYPを決定することもできる。上記いずれの場合も引張試験片はJIS Z 2201 に規定された試験片とするが、円筒容器のサイズが小さく規定の試験片の採取が困難である場合には小型の引張試験片を用いることができる。また、YPはJIS Z 2241 に規定された降伏強度とし、降伏点が明瞭な場合は下降伏点、不明瞭な場合は0.2%耐力をもってYPとする。
【0039】
Eはヤング率である。YPと同様に円筒容器として作製された状態の基材のヤング率であることを基本とする。ただし、平板状の素材(長方形板)を丸めて端部を接合することで円筒容器胴部を得る方法では、平板状の素材のヤング率を用いてもよい。平板状の素材(円形板)を深絞り加工、しごき加工、スピニング加工などで作製する場合は、加工後の円筒容器胴部からその周方向で採取した試験片を用いて測定する必要がある。試験片はYP測定の場合と同様のものを用いる。測定はJIS Z 2280の規定を準用する。具体的には比例限の50%以下の荷重までの引張試験を5回行い、歪と応力の関係からEを算出し、最小値と最大値を除いた3回の平均値とする。
【0040】
限界座屈圧力Prの測定方法を説明する。Prの測定に用いる装置構成の概略を図5に示す。円筒容器5は加圧チャンバー7の内部に配置され、加圧チャンバー7は蓋6を固定することによって密閉される。加圧チャンバー7内部の加圧は、空気導入バルブ8を介して加圧チャンバー7の内部に加圧空気を導入することで行われる。加圧中、空気排出バルブ9を閉じ、加圧終了後、加圧チャンバー7内部の加圧空気を開放する際には空気排出バルブ9を開く。加圧チャンバー7は内部の圧力を確認するための圧力ゲージ10、圧力センサ11を備え、その検出信号を増幅するアンプ12、検出信号の表示、データ処理などを行うデータ処理部13を備える。測定は、加圧チャンバー7内に0.16MPa/sで加圧空気を導入しつつ、加圧チャンバー内部の圧力を圧力センサ11でモニターし、内部に設置した円筒容器5を座屈させることによって行う。限界座屈圧力Prは円筒容器の座屈に伴う圧力変化点の圧力とする。
【0041】
次に、本発明の実施の形態についてその例を示す。本発明で円筒容器の諸条件を決定する場合、当該円筒容器に求められる要求座屈強度Pが明確である必要がある。要求座屈強度Pは、円筒容器に作用する外部の圧力Poと円筒容器の内部の圧力Piの圧力差を考慮した前記した(3)式で定義される。(3)式を(2)式に適用することにより得られた(4)式から、t・E・lnYP・D−1・L−1のとるべき値が定まる。次に、円筒容器の仕様を考慮して、t、E、YP、D、Lをそれぞれ決定していく。例えば要求座屈強度Pのみが規定されるのであれば、t、E、YP、D、Lは(4)式を満たす条件で多くの組み合わせが可能である。また、仕様として円筒容器のサイズが規定されている場合は、まずそれに応じたD、Lを定め、素材のコスト、重量などからtを、あるいは機械特性からE、YPを、それぞれ(4)式を満たす条件で決めればよい。仕様として基材または素材条件が規定されている場合は、その決定の順序が前例と逆になる。このように、本発明では要求座屈圧力Pに応じ、容器に求められる仕様の項目を(4)式を満たす条件の下で順次決定していくことで、円筒容器胴部のt、E、YP、D、Lを決定することができる。
【0042】
また、本発明の方法で設計された(2)式を満たす条件である円筒容器は、外部から作用する圧力Pに対して座屈しないものとなる。
【実施例】
【0043】
外部圧力Po:0.241MPa、円筒容器の内部圧力Pi:0.101MPaに対して座屈しないことが求められる円筒容器の設計を行った。この場合、要求座屈強度Pは0.140MPaである。この容器の仕様は、直径66mm、長さ96mmで内容積を約330ccとすることである。円筒容器の作製方法としては長方形板を丸めて端部を溶接で接合する方法とする。この事例においては作製に用いる機器の関係から素材の板厚tは0.2mmが最適とされた。以上の条件を前提とすると、(2)式においてP=0.140(MPa)、D=66(mm)、L=96(mm)、t=0.2(mm)を代入すると、とりうるべきE・lnYPの値からヤング率206000MPaの鋼板を用いる場合、降伏強度YPが450MPa以上であれば目的を達するとの結果を得た。
【0044】
この結果をもとに、板厚tが0.2mmで降伏強度YPが450MPaの鋼板を用いて上記仕様の円筒容器を50個作製した。比較のため、板厚tが0.2mmで降伏強度YPが360MPaの鋼板でも同様に円筒容器を作製した。それぞれの円筒容器の限界座屈圧力Prを測定した結果、降伏強度YPが450MPaの鋼板を用いた円筒容器のPrは0.150MPから0.182MPaであり、ばらつきを含めても0.140MPaの圧力に全て耐えることが確認された。一方、YPが360MPaの鋼板を用いた円筒容器ではPrは0.133MPaから0.175MPaであり、ばらつきを含めると一部は必要な圧力に耐えられないものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、外部から作用する圧力によって座屈しない円筒容器を設計する方法に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 円筒容器胴部
2 閉塞板
5 円筒容器
6 蓋
7 加圧チャンバー
8 空気導入バルブ
9 空気排出バルブ
10 圧力ゲージ
11 圧力センサ
12 アンプ
13 データ処理部
D 円筒容器胴部の直径
L 円筒容器胴部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒容器に作用する外部圧力に対して座屈しない円筒容器を設計する際に、円筒容器に作用する外部圧力Po(MPa)、円筒容器の内部圧力Pi(MPa)に対して、円筒容器胴部の直径D(mm)、円筒容器胴部の長さL(mm)、円筒容器胴部の基材の板厚t(mm)、ヤング率E(MPa)及び降伏強度YP(MPa)を、下式を満足するよう決定することを特徴とする円筒容器の設計方法。
Po−Pi≦0.0232(t・E・lnYP・D−1・L−1)−0.042
【請求項2】
外部圧力が作用する条件で使用される円筒容器であって、円筒容器に作用する外部圧力Po(MPa)、円筒容器の内部圧力Pi(MPa)に対して、円筒容器胴部の直径D(mm)、円筒容器胴部の長さL(mm)、円筒容器胴部の基材の板厚t(mm)、ヤング率E(MPa)及び降伏強度YP(MPa)が下式を満足することを特徴とする円筒容器。
Po−Pi≦0.0232(t・E・lnYP・D−1・L−1)−0.042

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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