説明

円錐ころ軸受

【課題】円錐ころの円錐面の軸方向の大径側の大径端面と、この大径端面を案内する案内面との潤滑性に優れ、かつ、案内面の処理に起因する内輪の劣化が起こらず、かつ、製造容易性および量産性に優れる円錐ころ軸受を提供すること。
【解決手段】内輪2の円錐軌道面12の軸方向の大径側に、円錐軌道面12の大径側の端よりも径方向の外方に突出する環状の突出部14を形成する。内輪2の軸方向において、突出部14と円錐ころ3との間に、内輪2に対して相対移動可能な環状のワッシャ4を配置する。ワッシャ4の軸方向の円錐ころ3側の第1端面21の全面の表層部およびワッシャ4の軸方向の突出部14側の第2端面22の全面の表層部を、Si−DLC膜で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円錐ころ軸受としては、特開平9−177796号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
【0003】
この円錐ころ軸受は、外輪、内輪および複数の円錐ころを備え、上記内輪は、その円錐軌道面の大径側に大鍔部を有する。上記大鍔部の軸方向の円錐ころ側の端面である円錐ころの案内面は、イオンプレーディング処理等によって、硬質カーボン膜によって被覆されている。
【0004】
上記従来の円錐ころ軸受は、上記大鍔部の上記案内面を硬質カーボン膜によって被覆することにより、上記案内面と、この案内面に対して摺動する円錐ころの円錐面の軸方向の大径側の大径端面との潤滑性を向上(特に、貧潤滑時の潤滑性向上、低粘度油,少量給油潤滑時等)させ、上記案内面および上記円錐ころの上記大径端面の焼付きを抑制している。
【特許文献1】特開平9−177796号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の円錐ころ軸受では、上記案内面と、上記円錐ころの上記大径端面との潤滑性を向上させることができて、上記案内面および上記円錐ころの上記大径端面の焼付きを抑制することができる一方、上記案内面の成膜,硬化等の処理時に、内輪全体が影響を受けて、内輪の硬さが低下する等、上記処理に基づく内輪が劣化を避けがたいという課題がある。
【0006】
例えば、上記案内面に、硬質カーボン膜を蒸着処理する際、案内面近傍の温度が400℃以上(350〜500℃程度が一般的)の温度になることがある。ここで、この温度は、例えば、内輪の材質として一般的に使用される高クロム軸受鋼(SUJ2)の焼き戻し温度よりも高いから、内輪の上記案内面の近傍の部分が焼き戻されて、その部分の硬さが低下して、その部分が歪んだりして、最悪の場合、内輪が使用不可になる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、円錐ころの円錐面の軸方向の大径側の大径端面と、この大径端面を案内する案内面との潤滑性に優れ、かつ、案内面の成膜,硬化等の処理に起因する内輪の劣化が起こらない円錐ころ軸受を提供することにある。
【0008】
また、特に、本発明の課題は、円錐ころの大径端面と、この大径端面を案内する案内面との潤滑性に優れ、かつ、案内面の処理に起因する内輪の劣化が存在せず、かつ、製造容易性および量産性に優れる円錐ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明の円錐ころ軸受は、
円錐軌道面と、この円錐軌道面の軸方向の大径側に位置すると共に、上記円錐軌道面の大径側の端よりも径方向の外方に突出する環状の突出部とを有する内輪と、
円錐軌道面を有する外輪と、
上記内輪の上記円錐軌道面と、上記外輪の上記円錐軌道面との間に配置された複数の円錐ころと、
上記軸方向において、上記突出部と、上記円錐ころとの間に配置されると共に、上記内輪に対して相対移動可能である環状のワッシャと
を備え、
上記ワッシャの軸方向の上記円錐ころ側の第1端面の少なくとも一部は、硬質膜からなっていることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、円錐ころの円錐面の軸方向の大径側の大径端面を案内するワッシャの第1端面が、硬質膜を有しているから、この硬質膜によって、上記第1端面と、円錐ころの大径端面との潤滑性を向上させることができて、上記第1端面および円錐ころの大径端面の焼付きを抑制することができる。
【0011】
また、本発明によれば、円錐ころの上記大径端面を案内しかつ硬質膜が存在する案内面を有するワッシャを、内輪の軸方向において、上記突出部と上記円錐ころとの間に配置する構成であるから、ワッシャのみに案内面の潤滑性を向上させる成膜等の処理を施せば良い。したがって、案内面の処理に基づいて内輪特性が変化することがなく、案内面の成膜等の処理に基づいて内輪が劣化することがない。
【0012】
また、本発明によれば、上記ワッシャが、内輪に対して相対移動可能な構成であって、内輪に固定される構成でないから、ワッシャの寸法について、シビアな寸法精度が必要でなくて、ワッシャの寸法の制約が緩やかで、ワッシャの寸法の自由度が大きくなる。したがって、ワッシャを容易に製造することができ、円錐ころ軸受の製造容易性および量産性が、優れたものになる。
【0013】
また、一実施形態では、
上記第1端面の全面が、硬質膜からなると共に、上記ワッシャの軸方向の上記突出部側の第2端面の全面が、硬質膜からなり、
上記ワッシャは、上記内輪の外周面に相対運動可能に嵌合されている。
【0014】
上記実施形態によれば、上記第1端面の全面が、硬質膜からなるから、円錐ころの上記大径端面と、その大径端面を案内する上記第1端面との潤滑性が更に優れたものになる。
【0015】
また、上記実施形態によれば、上記第2端面の全面が、硬質膜からなるから、上記内輪の上記突出部に対する上記ワッシャの相対移動に起因する、上記内輪の上記突出部の軸方向の上記ワッシャ側の端面および上記第2端面の焼付きを抑制できる。
【0016】
また、上記実施形態によれば、上記ワッシャが、上記内輪の外周面に相対運動可能に嵌合されているから、円錐ころとワッシャ、ワッシャと内輪の2カ所ですべり接触可能となる。したがって、1カ所あたりの相対滑り速度が低下するから、すべり接触部の接触条件が緩和され、焼付きを防止できると共に、軸受の回転トルクを低下させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の円錐ころ軸受によれば、円錐ころの円錐面の軸方向の大径側の大径端面と、この円錐ころの大径端面を案内するワッシャの第1端面との潤滑性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の円錐ころ軸受によれば、円錐ころの上記大径端面を案内する案内面である上記第1端面の潤滑性の向上のための成膜等の処理によって、内輪特性が変化することがなく、内輪が劣化することがない。
【0019】
また、本発明の円錐ころ軸受によれば、ワッシャの寸法について、ワッシャの寸法の自由度が大きくて、ワッシャを容易に製造することができるから、円錐ころ軸受の製造容易性および量産性が、優れたものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態の円錐ころ軸受の軸方向の断面図である。
【0022】
この円錐ころ軸受は、外輪1と、内輪2と、複数の円錐ころ3と、環状のワッシャ4とを備える。
【0023】
上記外輪1は、内周側に円錐軌道面11を有する。一方、上記内輪2は、外周側に円錐軌道面12を有する。上記内輪2は、鍔部13および環状の突出部14を有する。上記鍔部13は、内輪2の軸方向の円錐軌道面12の小径側に位置する一方、突出部14は、内輪2の軸方向の円錐軌道面12の大径側に位置している。
【0024】
上記突出部14は、円錐軌道面12の大径側の端に軸方向に間隔をおいて位置する。上記突出部14は、円錐軌道面12の大径側の端よりも径方向の外方に突出している。上記突出部14の軸方向の円錐軌道面12側の端面16は、略内輪1の径方向に広がっている。
【0025】
上記複数の円錐ころ3は、外輪1の円錐軌道面11と、内輪2の円錐軌道面12との間に、保持器5によって保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0026】
上記ワッシャ4は、内輪1の軸方向において、円錐ころ3と、内輪1の突出部14との間に配置されている。上記ワッシャ4の軸方向の円錐ころ3側の第1端面21は、略円錐状の形状を有する一方、ワッシャ4の軸方向の突出部14側の第2端面22は、略内輪2の径方向に延在している。
【0027】
上記ワッシャ4の第1端面21および第2端面22の表層部は、硬質膜の一例としてのSi−DLC膜(ケイ素を含んだダイヤモンドライクカーボン膜)からなっている。上記Si−DLC膜は、ワッシャ4の軸方向の両側の端面の表層部に、処理温度約450℃でプラズマCVD法により形成されている。
【0028】
円錐ころ軸受の使用時、すなわち、各円錐ころ3が、内輪2の円錐軌道面の大径側に移動して、ワッシャ4を内輪2の軸方向の外方に押圧している状態で、ワッシャ4の第1端面21は、円錐ころの軸方向の円錐面28の大径側の大径端面26を案内している一方、ワッシャ4の第2端面22は、内輪2の突出部14の軸方向の内方の端面16に当接している。また、上記ワッシャ4の内周面20は、内輪2の外周面において円錐軌道面12と突出部14との間に位置する部分30に、隙間嵌めにより外嵌されて固定されている。
【0029】
上記ワッシャ4は、内輪2の回転時において、内輪2の突出部14に完全に追随しないようになっている。詳しくは、ワッシャ4は、円錐ころ軸受の使用時において、常には、突出部14に対して相対回転しないようになっている一方、内輪2の突出部14に対して相対回転することがある状態になっている。
【0030】
上記実施形態の円錐ころ軸受によれば、円錐ころ3の大径端面26を案内するワッシャ4の第1端面21が、硬質膜としてのSi−DLC膜を有しているから、このSi−DLC膜によって、ワッシャ4の第1端面21と、円錐ころ3の大径端面26との潤滑性を向上させることができて、円錐ころ3の大径端面26およびワッシャ4の第1端面21の焼付きを抑制することができる。
【0031】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受によれば、円錐ころ3の大径端面26を案内しかつSi−DLC膜が存在する第1端面21を有するワッシャ4を、内輪2の軸方向において、内輪2の突出部14と円錐ころ3との間に配置する構成であるから、ワッシャ4の単体のみに潤滑性を向上させる処理を施せば良い。したがって、円錐ころ3の案内面の処理に基づいて内輪特性が変化することがなく、円錐ころ3の案内面の処理に基づいて内輪2が劣化することがない。
【0032】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受によれば、上記ワッシャ4が、内輪2に対して相対移動可能な構成であって、内輪2に固定される構成でないから、ワッシャ4の寸法について、シビアな寸法精度が必要でなくて、ワッシャ4の寸法の制約が緩やかで、ワッシャ4の寸法の自由度が大きくなる。したがって、ワッシャ4を容易に製造することができ、円錐ころ軸受の製造容易性および量産性が、優れたものになる。
【0033】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受によれば、上記ワッシャ4の軸方向の内輪2の円錐ころ3側の第1端面21の全面が、硬質膜としてのSi−DLC膜からなるから、円錐ころ3の大径端面26と、その大径端面26を案内するワッシャ4の案内面である第1端面21との潤滑性が更に優れたものになる。
【0034】
また、上記実施形態によれば、上記ワッシャ4の軸方向の突出部14側の第2端面22の全面が、硬質膜としてのSi−DLC膜からなるから、内輪2の突出部14に対するワッシャ4の相対移動に起因する、内輪2の突出部14の軸方向のワッシャ4側の端面16およびワッシャ4の第2端面22の焼付きを抑制できる。
【0035】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受によれば、上記ワッシャ4が、内輪2の外周面に相対運動可能に嵌合されているから、円錐ころ3とワッシャ4、ワッシャ4と内輪2の2カ所ですべり接触可能となる。したがって、1カ所あたりの相対滑り速度が低下するから、すべり接触部の接触条件が緩和され、焼付きを防止できると共に、軸受の回転トルクを低下させることができる。
【0036】
尚、上記実施形態の円錐ころ軸受では、環状の突出部14が、内輪2と一体的に形成されていたが、この発明では、環状の突出部は、内輪と別部材であって、内輪に固定される構成でも良い。
【0037】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受では、上記ワッシャ4が、内輪2の外周面に隙間嵌めされていたが、この発明では、ワッシャは、内輪の外周面に中間嵌めされていても良い。
【0038】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受では、ワッシャ4の円錐ころ3側の第1端面21の全面が、硬質膜からなっていたが、この発明では、ワッシャ4の円錐ころ3側の第1端面21の一部のみが、硬質膜からなっていても良い。
【0039】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受では、ワッシャ4の円錐ころ側の第1端面21およびワッシャ4の突出部14側の第2端面22の夫々が、硬質膜を有していたが、この発明では、ワッシャの突出部側の第2端面は、硬質膜を有していなくても良く、ワッシャの円錐ころ側の第1端面のみが硬質膜を有していても良い。
【0040】
また、上記実施形態の円錐ころ軸受では、硬質膜として、Si−DLC膜を採用したが、この発明では、硬質膜として、Si−DLC膜以外のDLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜:カーボン硬質膜)を採用しても良い。また、この発明では、硬質膜として、CrN膜(クロムナイトライド硬質膜)を採用しても良い。この発明では、硬質膜として、潤滑性を有し、かつ、耐焼付き性を有する膜であれば如何なる膜を採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態の円錐ころ軸受の軸方向の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 外輪
2 内輪
3 円錐ころ
4 ワッシャ
11,12 円錐軌道面
14 内輪の突出部
20 ワッシャの内周面
21 第1端面
22 第2端面
26 円錐ころの大径端面
28 円錐面
30 内輪の外周面において円錐軌道面と突出部との間に位置する部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐軌道面と、この円錐軌道面の軸方向の大径側に位置すると共に、上記円錐軌道面の大径側の端よりも上記円錐軌道面の径方向の外方に突出する環状の突出部とを有する内輪と、
円錐軌道面を有する外輪と、
上記内輪の上記円錐軌道面と、上記外輪の上記円錐軌道面との間に配置された複数の円錐ころと、
上記軸方向において、上記突出部と、上記円錐ころとの間に配置されると共に、上記内輪に対して相対移動可能である環状のワッシャと
を備え、
上記ワッシャの軸方向の上記円錐ころ側の第1端面の少なくとも一部は、硬質膜からなっていることを特徴とする円錐ころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の円錐ころ軸受において、
上記第1端面の全面が、硬質膜からなると共に、上記ワッシャの軸方向の上記突出部側の第2端面の全面が、硬質膜からなり、
上記ワッシャは、上記内輪の外周面に相対運動可能に嵌合されていることを特徴とする円錐ころ軸受。

【図1】
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