説明

再溶解用消耗電極の製造方法及び再溶解用消耗電極

【課題】製造作業効率の向上を図ると共に製造時における不具合の発生を阻止し、欠落ちが生じることのない大型の再溶解用消耗電極を製造可能な再溶解用消耗電極の製造方法を提供する。
【解決手段】ニッケルの含有量が30質量%を超え且つアルミニウム,チタニウム,ニオブ及びタンタルの含有総和量が2.0質量%を超える析出硬化型高ニッケル合金から成る再溶解用消耗電極1を製造するに際して、再溶解用消耗電極1の形状に成形した析出硬化型高ニッケル合金に対して、固溶体化する温度よりも低い温度、好ましくは850〜950℃の均熱処理を10〜100時間施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空アーク再溶解法(VAR)やエレクトロスラグ再溶解法(ESR)に用いる消耗電極の製造方法及び再溶解用消耗電極に係り、特に、ニッケルの含有量が30質量%を超え且つアルミニウム,チタニウム及びニオブの含有総和量が2.0質量%を超える析出硬化型高ニッケル合金から成る再溶解用消耗電極を製造する際に用いる再溶解用消耗電極の製造方法及び再溶解用消耗電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記した析出硬化型高ニッケル合金から成る再溶解用消耗電極において、単に大型化を図ろうとすると、電極鋳造時における凝固偏析箇所が多くなって脆い位相が増すこととなり、この脆化相を起点とした割れによる欠落ち(電極の一部がメタルプール内に落下する現象)が発生して、鋼塊状の製品にフレッケルやホワイトスポットやスラグ巻込み等の品質上の不具合をもたらす可能性があることが知られている。
【0003】
このため、再溶解用消耗電極の径及び重量を小さ目に抑えて、例えば、径を300mm以下、重量を2000kg以下に抑えて、脆化相の増加による欠落ちが生じないようにしているのが実状であり、したがって、再溶解能率が高いとは言えないうえ、歩留まりも悪いものとなっている。
そこで、最近では、再溶解能率及び歩留まりの向上を図るべく、1100℃以上で且つ融点以下の温度で均熱処理を施して電極内の金属間化合物を固溶体化することで、欠落ちが生じることのない大型の再溶解用消耗電極を製造しようとする試みが成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3606404号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の消耗電極の製造方法にあっては、脆化相の増加による欠落ちをなくすために、電極内の金属間化合物を固溶体化するようにしていることから、再冷却する工程が必要となり、したがって、その分だけ作業効率が悪く、加えて、再冷却を行う際に応力差が生じて割れ等の不具合が発生する懸念があるという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題に着目してなされたもので、製造作業効率の向上を図ると共に製造時における不具合の発生を阻止したうえで、従来と比べて大型にしてもなお欠落ちが生じることのない再溶解用の消耗電極を製造することが可能である再溶解用消耗電極の製造方法及び再溶解用消耗電極を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る再溶解用消耗電極の製造方法は、ニッケルの含有量が30質量%を超え且つアルミニウム,チタニウム,ニオブ及びタンタルの含有総和量が2.0質量%を超える析出硬化型高ニッケル合金から成る再溶解用消耗電極を製造するに際して、再溶解用消耗電極の形状に成形した析出硬化型高ニッケル合金に対して、固溶体化する温度よりも低い温度の均熱処理を10時間以上施す構成としたことを特徴としており、この再溶解用消耗電極の製造方法を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
また、本発明の請求項2に係る再溶解用消耗電極の製造方法において、700〜950℃の均熱処理を10時間以上施す構成とし、さらに、本発明の請求項3に係る再溶解用消耗電極の製造方法において、850〜950℃の均熱処理を10〜100時間施す構成としている。
本発明の再溶解用消耗電極の製造方法において用いる析出硬化型高ニッケル合金としては、Inconel718や、InconelX-750や、Inconel751や、Udimet520(いずれも商標)を挙げることができるほか、JIS NCF80Aを挙げることができる。
【0008】
本発明の再溶解用消耗電極の製造方法では、固溶体化する温度よりも低い温度の均熱処理を10時間以上(好ましくは700〜950℃の均熱処理を10時間以上、より好ましくは850〜950℃の均熱処理を10〜100時間)施すようにしているので、大型の消耗電極を製造する場合であったとしても、過時効現象によって硬さが低下する、すなわち、脆い位相の増加が抑えられることとなり、その結果、欠落ちが生じることのない大型の再溶解用消耗電極が得られることとなる。
【0009】
そして、本発明の再溶解用消耗電極の製造方法では、再冷却する工程を必要としないので、その分だけ作業効率が良いうえ、再冷却時の応力差に起因する割れ等の不具合が生じる恐れが皆無となる。
一方、本発明の再溶解用消耗電極は、上記再溶解用消耗電極の製造方法により製造した析出硬化型高ニッケル合金から成る再溶解用消耗電極であって、硬さがHRC35以下としてある構成としたことを特徴としている。
【0010】
この再溶解用消耗電極では、脆化相が少なく抑えられていて、硬さをHRC35以下としているので、大型のもの、例えば、径が300mm以上で且つ重量が2000kg以上のものであったとしても、欠落ちが生じる懸念がほとんどなく、再溶解能率及び歩留まりの向上が図られることとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の再溶解用消耗電極の製造方法では、上記した構成としたから、製造作業効率の向上を図ると共に製造時における不具合の発生を阻止したうえで、欠落ちが生じることのない、再溶解能率及び歩留まりの向上を実現し得る大型の再溶解用消耗電極を製造することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
また、本発明の再溶解用消耗電極では、上記した構成としているので、大型の消耗電極であったとしても、欠落ちの発生を回避することでき、再溶解能率及び歩留まりの向上を実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を一実施形態に基づいて説明する。
この実施形態では、質量%でC:0.05%、Ni:51%、Cr:15%、Mo:1%、Nb:1.3%、Al:1.4%、Ti:2.5%、Ta:2%を含み、残部がFeの組成の合金Aを真空誘導炉で溶解させて、図1に示す再溶解用消耗電極1を鋳造により製作し、この再溶解用消耗電極1に、 表1に示すように、650、700、750、800、850、900、950℃の各均熱処理をそれぞれ0.5〜130時間(hr)施した場合の硬さ指数を測定した。
【0013】
【表1】

【0014】
表1及び図2に示すように、800、850℃の各均熱処理を5時間以上施した領域では、過時効現象によって硬さ指数が30台になっていることが判り、850℃の均熱処理を100時間施した領域では、硬さ指数が20台になっていることが判る、すなわち、硬さが低下していることが判る。
【0015】
また、900、950℃の各均熱処理を5時間以上施した領域、とくに15時間以上施した領域(図示楕円内の領域)では、過時効現象によって硬さ指数が20台になっていて、硬さが低下していることが判る。
なお、この実施形態の合金Aから成る再溶解用消耗電極1において、750℃の均熱処理を施す場合には、処理時間が110時間を越えた領域で硬さが低下する方向に転じているが、他の組成の合金によっては、処理時間が100時間を大きく越えた領域で硬さが低下するものもある。
【実施例】
【0016】
そこで、上記実施形態の組成を有する合金Aから成る再溶解用消耗電極1に対して、900℃の均熱処理を15時間,30時間及び50時間の三つのパターンで施し、これで得た実施例1〜3の再溶解用消耗電極1をそれぞれVARに供して、欠落ちの有無を調べたところ、表2に示す結果を得た。
この際、上記合金Aから成る再溶解用消耗電極1に対して、900℃の均熱処理を5時間施して得たものを比較例1の再溶解用消耗電極1とすると共に、同じく上記合金Aから成る再溶解用消耗電極1に対して、650℃の均熱処理を15時間施して得たものを比較例2の再溶解用消耗電極1とし、さらに、上記合金Aから成る再溶解用消耗電極1に対して、均熱処理を全く施さないものを比較例3の再溶解用消耗電極1とし、これらの比較例1〜3の再溶解用消耗電極1をそれぞれVARに供したときの欠落ちの有無を調べて、その結果を表2に併記した。
【0017】
【表2】

【0018】
表2に示すように、900℃の均熱処理を15〜50時間施した実施例1〜3の各再溶解用消耗電極1には、いずれも欠落ちが発生しなかったのに対して、均熱処理時間が短かったり均熱処理温度が低かったり均熱処理を施さなかったりした比較例1〜3の各再溶解用消耗電極1には、いずれも欠落ちが発生している。
【0019】
また、この結果を受けて、上記した実施例1の仕様で大型の再溶解用消耗電極1を製造し、これで得た実施例1の再溶解用消耗電極1と、VAR操業時に欠落ちが生じない従来の再溶解用消耗電極とを比較したところ、表3の結果を得た。
【0020】
【表3】

【0021】
表3に示すように、従来の再溶解用消耗電極の径及び単重量をいずれも単位係数(1)で表すと、実施例1における大型の再溶解用消耗電極1の径及び単重量はそれぞれ1.5、2となっており、これによって、実施例1〜3の製造方法では、欠落ちが生じることのない大型の再溶解用消耗電極が得られることが実証できた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る再溶解用消耗電極の製造方法により製造した再溶解用消耗電極の斜視説明図である。
【図2】本発明に係る再溶解用消耗電極の製造方法における均熱処理の温度及び時間の数値限定理由を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0023】
1 再溶解用消耗電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルの含有量が30質量%を超え且つアルミニウム,チタニウム,ニオブ及びタンタルの含有総和量が2.0質量%を超える析出硬化型高ニッケル合金から成る再溶解用消耗電極を製造するに際して、
再溶解用消耗電極の形状に成形した析出硬化型高ニッケル合金に対して、固溶体化する温度よりも低い温度の均熱処理を10時間以上施す
ことを特徴とする再溶解用消耗電極の製造方法。
【請求項2】
700〜950℃の均熱処理を10時間以上施す請求項1に記載の再溶解用消耗電極の製造方法。
【請求項3】
850〜950℃の均熱処理を10〜100時間施す請求項2に記載の再溶解用消耗電極の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の再溶解用消耗電極の製造方法により製造した析出硬化型高ニッケル合金から成る再溶解用消耗電極であって、
電極硬さがHRC35以下としてある
ことを特徴とする再溶解用消耗電極。

【図1】
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【図2】
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