説明

再生パルプの処理方法および処理された再生パルプを含有する紙

【課題】填料歩留りが高く高灰分で、かつ紙力の良好な紙の製造方法、および当該方法に用いる原料を得るための再生パルプの処理方法を提供する。
【解決手段】アルギン酸、アルギン酸の塩、アルギン酸エステル、およびその混合物からなる群より選択されるアルギン酸類を、再生パルプを含有するパルプスラリーに混合する工程を含む、再生パルプの処理方法、ならびに当該方法で処理された再生パルプを含有するパルプスラリーを抄紙する、紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生パルプの処理方法および処理された再生パルプを含有する紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対応、省資源などの観点から紙の軽量化、低坪量化が要望され、これに伴って紙の白色度、不透明性、印刷適性を維持あるいは向上させるために、炭酸カルシウムなどの各種填料を高含有率で内添する、いわゆる高灰分化が行われている。また、同様の観点から、紙のパルプ組成においては再生パルプの高配合化が進んでいる。再生パルプは各家庭やオフィス等から回収した紙を原料としており、各種填料を多く含有している。再生パルプを配合した紙を抄紙するにあたり、再生パルプ由来の填料の歩留りを高めることができれば、填料の添加量を抑制することができ、省資源化につながる。
【0003】
一方で、填料を多く含む紙は、相対的にパルプ配合量が低下し、紙力発現の主要因であるパルプ繊維間の水素結合を填料が阻害するため、紙力が急激に低下する。また、再生パルプは機械パルプやクラフトパルプと異なり、離解工程、脱墨工程などの各工程における繊維の損傷や、繊維表面のインキ成分などの残存が避けられない。このため上記と同様に、パルプ繊維間の水素結合が阻害され、紙力が低下してしまう。紙力は、一般に、引張強さ等の強度および曲げこわさ等の剛度で評価される。これら紙力の低下は、紙の製造時や印刷時の断紙を引き起こし、操業効率の悪化や、印刷時の紙粉発生など作業性の悪化をもたらす。ところが紙力を高めるために、パルプ等の使用原料を増加(増目)すると、資源の消費につながる。
【0004】
そこで、この紙力を維持あるいは向上させるために、一般的にデンプンやポリアクリルアミド(以下「PAM」ともいう)等の紙力向上剤等の薬品が使用されている。これらの紙力向上剤は、それらが有する官能基(例えばデンプンでは水酸基、PAMではカルバモイル基)が、パルプ繊維の水酸基と水素結合し、パルプ繊維同士の結合を補強することにより強度発現に寄与している。しかしながら、これらの紙力向上剤を用いて十分な紙力向上効果を得るためには薬品の添加量を増やす必要がある。特に、高灰分条件下においては、紙力向上剤がパルプよりも填料に吸着されやすくなるため、本来の目的であるパルプ繊維同士を結合させる作用が阻害され、所望の紙力が得られない。所望の紙力を確保するには、さらに薬品の添加量を増やす必要がある。また、高灰分かつ高薬品添加の条件下では、抄紙時における歩留り低下、抄紙系内の汚れ、製品のサイズ性の低下等の問題が発生し、操業上の障害となる。
【0005】
このような問題を解決するために、これまで幾つかの方法が提案されている。例えば、特許文献1には、古紙原料に由来する灰分を系外に排出する量を減らし、新たに添加する填料の量を低減することを目的とする技術が開示されている。具体的に当該文献には、漂白処理の後に行われる洗浄処理において使用された洗浄水に少なくとも二種のイオン性の異なる凝集剤(アルギン酸塩および水溶性アニリン樹脂塩酸塩等)を添加するとともに、抄紙工程への流送前段階に凝結剤を添加する再生パルプの製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、填料を高配合する際の紙力低下の抑制等を目的として、アルギン酸塩等のアニオン性多糖類と、カチオン性及び/又は両性アクリルアミド系共重合体とからなる複合化アクリルアミド系共重合体(複合化PAM)で填料を被覆処理し、パルプスラリーに内添することで紙力向上を図る技術も開示されている。
【0007】
特許文献3、4には、填料の歩留まりを高めることで高灰分化を達成するために、カチオン化澱粉、カチオン化グアーガム、架橋型カチオン化澱粉で填料を凝集させる技術が開示されている。特許文献5には、製紙スラッジ等から回収した無機物由来の再生填料を使用し、カチオン化澱粉やカチオン化グアーガムで予め凝集させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−265775号公報
【特許文献2】特開2006−257606号公報
【特許文献3】特開平10−060794号公報
【特許文献4】特開2005−194656号公報
【特許文献5】特開2003−119692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方法は、古紙原料に由来する灰分が系外に排出される量を低減させることを目的とする。しかし、特許文献1の方法では、洗浄水中に存在している再生パルプ由来の填料の凝集効果はあるものの、この方法で得られた紙の紙力は十分ではない。また、特許文献1の方法は、凝集剤を2種以上使用する必要があるため、高コストであるばかりでなく、系内が汚れやすくトラブルの原因となりやすい。
【0010】
特許文献2の複合化PAMを用いた場合には、填料の歩留りが十分ではなく、高い紙中灰分を達成しようとして填料を多く添加すると、高コストや、抄紙系内の汚れにつながるといった問題があった。また、複合化PAM自体が複雑な工程を経て調製された処理剤であるため、高コストであった。
【0011】
特許文献3〜5は、カチオン化澱粉やグアーガムを凝集剤として使用する方法に関するが、填料歩留まり、紙力が十分なレベルにないという問題があった。
このように、従来の技術では、填料を効率よく歩留らせると同時に良好な紙力を得ることを、比較的安価に両立することは困難であった。
【0012】
以上を鑑み、本発明は、比較的簡素な処理にも関わらず、填料歩留りが高く高灰分で、かつ紙力の良好な紙の製造方法、および当該方法に用いる原料を得るための再生パルプの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討し、アルギン酸類を混合することにより再生パルプを処理し、この前処理した再生パルプを紙料として紙を製造することで、紙力を向上させることができることを見出した。すなわち、前記課題は、以下の本発明により解決される。
(1)アルギン酸、アルギン酸の塩、アルギン酸エステル、およびこれらの混合物からなる群より選択されるアルギン酸類を、再生パルプを含有するパルプスラリーに混合する工程を含む、再生パルプの処理方法。
(2)前記処理方法により処理されたパルプスラリーを含む紙料を調成する工程、および
前記紙料を抄紙する工程、を含む、紙の製造方法。
(3)前記製造方法により得られる紙。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、填料歩留りが高く高灰分で、かつ紙力の良好な紙の製造方法、および当該方法に用いる原料を得るための再生パルプの処理方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の再生パルプの処理方法および処理された再生パルプを用いた紙の製造方法の一態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.再生パルプの処理方法
本発明の再生パルプの処理方法は、アルギン酸、アルギン酸の塩、アルギン酸エステル、およびこれらの混合物からなる群より選択されるアルギン酸類を、再生パルプを含有するパルプスラリーに混合する工程を含む。この再生パルプの処理方法は、抄紙工程の前に行われるため、前処理とも呼ばれる。
【0017】
[アルギン酸類]
本発明で用いるアルギン酸類とは、多糖類の一種であり、アルギン酸、その塩類およびエステル、ならびにこれらの混合物をいう。アルギン酸の塩類としては、アルギン酸のカルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、またはマグネシウム塩等が挙げられる。アルギン酸のエステルとしては、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸エチレングリコールエステル、アルギン酸グリセロールエステル等が挙げられる。中でも、本発明で用いるアルギン酸類としては、陽イオンとの特異的な反応性があることから、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸エステルが好ましい。
【0018】
後で詳しく述べるように、本発明においては、アルギン酸類が古紙パルプ由来の填料表面を被覆し、紙力向上剤が填料に定着すること妨げ、パルプ同士を結合させやすくすることが紙力に優れた紙が得られる一因と考えられる。よって、アルギン酸類の分子量が大きく粘度が高いと、填料を被覆しやすく、紙力に優れた紙を得やすくなるので好ましい。分子量は、重量平均分子量1万〜150万が好適である。分子量は、GPC分析によりポリスチレン換算して求められる。混合効率を高める観点から、アルギン酸類は水溶液として添加されることが好ましい。その粘度は、濃度1質量%水溶液とした場合、20℃におけるB型粘度が10〜1100mPa・sであることが好ましく、30〜600mPa・sであることがより好ましく、100〜600mPa・sであることがさらに好ましい。本発明において、数値範囲はその端値を含む。
【0019】
[アルギン酸類の添加量]
アルギン酸類の添加量は、再生パルプ固形分を基準として0.05〜3.0質量%が好ましく、0.1〜1.0質量%がより好ましく、0.15〜0.5質量%がさらに好ましい。再生パルプ固形分とは再生パルプを含むパルプスラリー中の固形分であり、古紙由来の填料等を含む。アルギン酸類の添加量が少なすぎると、填料を凝集させる効果が小さく、得られる紙の紙力や填料歩留りが向上しにくい。アルギン酸類の添加量が多すぎると、填料の過度な凝集により操業性が低下したり、コストが上昇したりする場合がある。また、再生パルプを含むパルプスラリーを過剰のアルギン酸類で処理すると、得られる紙の地合が悪化したり紙力が低下したりする傾向がある。
【0020】
[再生パルプを含むパルプスラリー]
本発明に用いることができる再生パルプには、古紙を離解した古紙パルプや古紙を離解後にインキを除去した脱墨パルプが含まれる。再生パルプの原料となる古紙としては、新聞紙、チラシ、雑誌、書籍、事務用紙、封書、感熱紙、ノーカーボン紙、その他複写機、OA機器から生ずる印刷紙等が含まれる。特に、粘着剤、接着剤、粘着テープ、雑誌の背糊等の粘着物を含む雑誌古紙等も本発明の再生パルプの原料として用いることができる。
【0021】
再生パルプを含有するパルプスラリーとは、再生パルプが水に分散している懸濁液であり、通常は、古紙由来の填料を含む。また、再生パルプを含有するパルプスラリーは、古紙パルプ以外の一般のパルプを含んでいてもよい。
【0022】
本発明においては、古紙再生工程を経て製造された再生パルプを含有するパルプスラリーを用いることが好ましい。古紙再生工程とは、古紙の離解、必要に応じて行なう除塵、脱墨、漂白、洗浄および脱水等の処理;必要に応じて行なう叩解;ならびに古紙パルプスラリー濃度の調整および古紙パルプスラリーの貯蔵等を含む工程をいう。歩留りおよび紙力向上の観点から、アルギン酸類をパルプスラリーに添加した後、抄紙工程までに時間が長くかからないことが好ましい。例えば、前記特許文献1の具体的実施例には、漂白後の古紙パルプを、アルギン酸塩および水溶性アニリン樹脂塩酸塩等の二種のイオン性の異なる凝集剤を含む洗浄液で洗浄した後に脱水して、抄紙工程に供する方法が記載されている(特許文献1明細書段落0021)。しかし、これらの凝集剤は、洗浄工程において古紙パルプと接触するので、古紙パルプが抄紙に供されるまでに時間がかかり、抄紙時における填料同士の凝集および填料の繊維への定着が十分でないと推察される。
【0023】
また、アルギン酸類の活性を維持する観点から、パルプスラリーが漂白剤等の薬剤を含まないことが好ましい。漂白後の古紙パルプには、漂白剤(例えば、過酸化水素およびハイドロサルファイト等)が含まれているため、アルギン酸類の活性がこれらの薬剤によって影響を受けると推測される。よって、再生パルプを含有するパルプスラリーとは、ある程度完成した再生パルプ、すなわち脱墨または漂白、あるいは脱墨と漂白との双方を行なう場合は、少なくともその後の洗浄が済んだ状態の再生パルプを含むパルプスラリーをいう。特に、再生パルプを含有するパルプスラリーは、古紙再生工程の最終段階に位置し、抄紙機の配合チェストへ送る前の、固形分濃度が2〜10質量%程度に調整されたパルプスラリーが好ましい。
【0024】
[混合工程]
本工程では、再生パルプを含有するパルプスラリーにアルギン酸類を混合する。図1は、本発明の処理方法および紙の製造方法の一態様を示す。図1中、1は古紙再生工程である。ただし、古紙の離解段階は省略してある。2は抄紙工程である。ただし、抄紙機を用いて抄紙する段階は省略してある。Aは古紙を離解して得た再生パルプ、Bはアルギン酸類、Cは酸性物質である硫酸バンド、Dは再生パルプ以外のパルプ(例えばクラフトパルプまたは機械パルプなど)、Eは填料、Fは製紙薬品である。10は高濃度ストックタワーであり、古紙再生工程において、固形分濃度が10〜25質量%程度に調整されたパルプスラリーを貯蔵する設備である。12は前記パルプスラリーを貯蔵するチェスト、14はリファイナーである。16は完成チェストであり、古紙再生工程の最終段階に位置し、抄紙機の配合チェストへ送る前の、固形分濃度が2〜10質量%程度に調整されたパルプスラリーを貯留するチェストまたはタンク等の容器である。
【0025】
2の抄紙工程とは、古紙再生工程で得られた再生パルプから紙料を調成し、抄紙機によって紙を製造する工程をいう。紙料とは、古紙再生工程からの再生パルプに、必要に応じて再生パルプ以外のパルプ、填料、製紙薬品等を添加して調成される抄紙用の原料である。20は配合チェストであり、抄紙機の前段に位置し、古紙再生工程からの再生パルプを収容し、必要に応じて再生パルプ以外のパルプ、填料等を配合して紙料を調成し貯蔵するチェストまたはタンク等の容器をいう。22、24は配合チェスト20で調成された紙料を収容するチェストである。26は種箱であり、抄紙機において、配合チェスト以降に位置するタンクであり、白水で希釈する前の固形分濃度が3質量%程度の紙料を受容するヘッドタンクをいう。
【0026】
前述のとおり、本発明においては、ある程度完成した再生パルプを含むパルプスラリーにアルギン酸類を混合することが好ましい。図1には、古紙を脱墨または漂白する段階は示されていないが、これらの段階を含む場合は、洗浄後の再生パルプ含むパルプスラリーにアルギン酸類を混合することが好ましい。よって、再生パルプを含有するパルプスラリーを収容するチェスト、タンク、これらの間で前記パルプスラリーを流送する配管、ミキサー、またはポンプ等において、アルギン酸類を前記パルプスラリーに混合することが好ましい。
【0027】
特に、図1に示すとおり、古紙再生工程1の後段である完成チェスト16から抄紙工程2の前段である配合チェスト20へ流送される段階において、アルギン酸類を、再生パルプ含有のパルプスラリーに添加して混合することが好ましい。この際、流動している前記スラリーにアルギン酸類またはその水溶液を添加することで効率よく混合することができる。この段階でアルギン酸類を添加すると、アルギン酸類で古紙由来の填料を被覆しやすくなり、また填料同士を緩やかに凝集させる効果がより高くなる。アルギン酸類を添加後、抄紙工程までのプロセスにおいて時間が長くかかると、再生パルプ中の填料の凝集効果が低減しやすい。また、再生パルプ以外のパルプ、填料、製紙薬品等が混合していると、古紙由来の填料同士を凝集させたり、再生パルプに古紙由来の填料を定着させたりする効果が小さくなる傾向がある。従って、古紙再生工程の後段である完成チェストから抄紙工程の前段である配合チェストへ流送されるまでの段階において添加すると、填料の歩留りや紙力を効率よく高めることができる。
【0028】
[イオン濃度]
本発明においてアルギン酸類による歩留向上効果は、特にカルシウムの存在下で大きくなる。すなわち、再生パルプを含むパルプスラリー中にカルシウムイオンが存在することが好ましい。その濃度が前記パルプスラリーを基準として10ppm以上であれば、アルギン酸類のカルシウムイオンを介した凝集効果が促進されるため好ましく、また3000ppm以下であれば、抄紙機でのスケールトラブルが発生しにくいため好ましい。よって、カルシウムイオンの濃度は、パルプスラリーを基準として10〜3000ppmが好ましく、50〜2000ppmがより好ましく、100〜1500ppmがさらに好ましく、500〜1000ppmが最も好ましい。
【0029】
再生パルプを含むパルプスラリー中のカルシウムイオン濃度は、カルシウムを含む無機粒子、好ましくは炭酸カルシウムを含む無機粒子に対してアルギン酸以外の酸性物質を添加することにより、カルシウムを解離させて、カルシウムイオン濃度を上昇させることにより効果的に調整できる。酸性物質とは水中にて酸性を呈する物質である。酸性物質として、硫酸や塩酸、硝酸等を用いることができるが、紙パルプ分野で一般的に用いられている硫酸バンドを用いることが経済的な面からも好ましい。酸性物質とアルギン酸類を添加する時機は、特に限定されない。しかしながら、酸性物質を添加してカルシウムイオン濃度を上昇させた後にアルギン酸類を添加すると、前述のようにカルシウムイオンを介した凝集促進効果が大きくなる。例えば図1に示すように、完成チェスト16において硫酸バンドCを添加し、その後にアルギン酸類Bを添加することができる。また、アルギン酸類の添加前の再生パルプを含むパルプスラリーに酸性物質の一部を加え、その後アルギン酸類を添加した前記パルプスラリーにその余の酸性物質を添加してもよい。酸性物質の添加量は、例えば硫酸バンドの場合、市販の硫酸バンド(8質量%酸化アルミニウム品)を前記パルプスラリーの固形分に対して0.01〜5質量%添加することが好ましく、0.05〜3質量%添加することがより好ましい。酸性物質が多すぎると、炭酸カルシウムの溶解を促進し過ぎて遊離したカルシウムイオンによるスケールが問題となることがある。一方、酸性物質が少なすぎるとカルシウムイオンの溶解が不十分で、酸性物質の添加効果を十分に発揮できないことがある。
【0030】
2.前記処理された再生パルプを用いた紙の製造方法
本発明の紙の製造方法は、前記の処理方法により処理されたパルプスラリーを含む紙料を調成する工程、および前記紙料を抄紙する工程、を含む。
【0031】
[紙料調成工程および抄紙工程]
本発明の処理方法で得た再生パルプを用いた紙料を調成し、抄紙することにより、紙力が良好で灰分が均一に分布した紙を得ることができる。紙料は、アルギン酸類で前処理した再生パルプを単独で使用して、あるいは以下に挙げるパルプと任意の割合で併用して調成できる。本発明で使用できるパルプとしては、化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)、機械パルプ(グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等)が挙げられる。当然ながら本発明では、前処理した再生パルプを高配合した場合に、その効果が大きい。
【0032】
所望の紙中灰分を得るため、紙料には填料を内添することができる。填料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、クレー、焼成カオリン、デラミカオリン、ホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、炭酸カルシウム/シリカ複合体、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化亜鉛等の無機填料;尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂および微小中空微粒子等の有機填料;ならびに古紙を再生する工程や紙を製造する工程で発生したスラッジを焼却して得られる再生填料および再生填料の表面を炭酸カルシウムやシリカ、水酸化アルミニウム等で被覆した填料等の公知の填料を単独または2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、カルシウムを含む無機粒子や有機無機複合体が好ましく、炭酸カルシウムを含む無機粒子や有機無機複合体がより好ましい。
【0033】
必要に応じて、紙料に、硫酸バンドや、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウムアルミナゾル等のアルミニウム化合物;硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の多価金属化合物;シリカゾル等の内添助剤;AKD(アルキルケテンダイマー)、ASA(アルケニル無水コハク酸)、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤等各種内添サイズ剤;紙力向上剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、紫外線防止剤、退色防止剤、各種澱粉類、着色剤、染料、消泡剤、嵩高剤、ポリアクリルアミド、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドポリアミン樹脂、ポリアミン、ポリエチエンイミン、植物ガム、ポリビニルアルコール、ラテックス、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー粒子分散物、およびこれらの誘導体あるいは変性物等の各種化合物等を添加してもよい。また、蛍光増白剤、消泡剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等を必要に応じて適宜添加することもできる。
【0034】
抄紙時の紙料のpHは、5〜10が好ましく、6〜9がより好ましい。pHの調整方法としては、硫酸等の鉱酸や硫酸バンドの添加、あるいは炭酸ガスの吹込み等を用いることができる。また、必要に応じて上記のpH範囲となるように水酸化ナトリウムや炭酸水素ナトリウム等のアルカリを添加することができる。
【0035】
抄紙には公知の抄紙機を用いてよく、その抄紙条件は特に規定されない。公知の抄紙機としては、長網型、オントップツインワイヤー型、ギャップフォーマー型、円網型、多層型等が挙げられる。
【0036】
[紙の表面処理]
本発明の製造方法で得られた紙に表面処理剤を塗工してもよい。表面処理剤としては、表面強度向上の観点から、カチオン化デンプンやヒドロキシエチル化デンプンなどの水溶性高分子を主成分とする表面処理剤が望ましいが、これらに限定されない。またサイズ性向上の観点から、サイズ剤を単独、または他の表面処理剤と組み合わせて塗工することもできる。サイズ剤としては、一般的なスチレン系、オレフィン系、アクリル酸エステル系、ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0037】
また、本発明では、表面処理剤を塗工または塗工しない紙の上に、炭酸カルシウムやカオリン、二酸化チタンなどの顔料およびバインダーを含有する塗料を塗工してもよい。
[紙の用途]
本発明の製造方法で得られた紙の坪量、用途等は制限されない。例えば、本発明の製造方法で得られた紙は、上質紙、印刷用紙、新聞用紙、情報用紙、包装用紙、板紙、各種原紙等の様々な用途に使用することができる。特に、本発明によれば、高灰分で紙力に優れた紙を得ることができるため、軽量でありながら高い不透明度が求められる印刷用紙、新聞用紙などに好適である。
【0038】
[作用]
本発明により処理された再生パルプを含むパルプスラリーが、再生パルプ中の填料の歩留りを向上させ、かつ良好な紙力の保持を両立する紙を与える理由は明白ではないが、例えば以下のように考えられる。
【0039】
一般に、紙力向上のためにデンプンやPAM等の紙力向上剤が用いられる。パルプスラリーはアニオン性であるため、通常は、パルプにより定着させやすいカチオン性の紙力向上剤が用いられる。
【0040】
一方、一般的な填料は、再生パルプを含むパルプスラリー中ではアニオン性である。また、紙の内添填料として多く用いられる炭酸カルシウムは、紡錘状、針状、毬栗状などの形態をとっており、多孔構造である。よって、通常は、再生パルプ中に含まれる填料も、多孔構造を有した炭酸カルシウムの割合が多い。
【0041】
このような填料を含む系に一般的なカチオン性の紙力向上剤を添加すると、紙力向上剤は、パルプだけではなく、パルプと同様にアニオン性であり、かつ多孔構造である填料にも多く定着する。その結果、紙力向上剤の本来の目的であるパルプ繊維同士を結合させる効果が低減する。
【0042】
これに対し、本発明は、再生パルプを含むパルプスラリーとアルギン酸類とを混合するので、アルギン酸類が再生パルプ中の填料の表面を緩やかに被覆し、そして填料を緩やかに凝集させる。また、アルギン酸類で填料表面が被覆されていると、後に紙力向上剤を添加した場合に、紙力向上剤が填料の細孔内部へと定着するのを防ぐことができる。このため紙力向上剤のパルプへの定着率を向上させ、紙力を向上させることができると考えられる。
【0043】
さらに、アルギン酸類は、パルプの主成分であるセルロースと類似の化学構造を有するので、パルプとの相互作用が強く、填料をパルプに定着させる力が比較的高いと考えられる。従って、アルギン酸類を表面に有する填料は、パルプに定着しやすく、填料の歩留りが向上すると考えられる。また、填料表面のアルギン酸類とパルプのセルロースとの間に働く水素結合が、紙力の向上に寄与すると考えられる。
【0044】
これに加えて、本発明では、古紙再生工程において完成状態にある再生パルプを含むパルプスラリーにアルギン酸類を混合するので、漂白剤等によりアルギン酸類が失活することがない。また、本発明では、古紙再生工程において完成状態にある再生パルプを含むパルプスラリーにアルギン酸類を混合するので、填料同士の凝集および填料とパルプとの定着が崩壊する前に前記処理されたパルプスラリーを速やかに抄紙できるため、より一層、填料の歩留りの向上および紙力の向上が達成されると考えられる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例にて本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。各評価項目は、下記方法に従って行なった。評価結果を表1に示す。
[評価測定方法]
・紙料のカルシウムイオン濃度:パルプスラリーを5Bのろ紙でろ過したろ液について、多項目分析計(DR. LANGE製 LASA30)を用いた比色定量法にて、硬度測定キットを用いて遊離カルシウムイオン濃度を測定した。
・坪量:JIS P 8124:1998に従った。
・紙厚、密度:JIS P 8118:1998に従った。
・紙中灰分:JIS P 8251:2003に従った。
・強度(引張強さ、裂断長、引張弾性率、引張破断伸び、引張エネルギー吸収量(TEA)):JIS P 8113:1998に従った。なお、引張弾性率は、引張弾性率に紙厚を乗じた値で定義される引張こわさとして結果を表した。
・剛度(曲げこわさ):ISO−2493に準じて、L&W Bending Tester Code 160(Lorentzen & Wettre社製)を用いて曲げ角度が15°の曲げこわさを測定した。
【0046】
[実施例1]
(再生パルプの前処理)
新聞系古紙を原料とし、古紙再生工程を経て完成チェストにストックされた再生パルプを含有するパルプスラリーを準備した。このパルプスラリーを抄紙工程前段の配合チェストへ流送する際に、アルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ製 アルギテックスH)の1質量%水溶液を、再生パルプ固形分を基準として0.15質量%となるように添加して混合した。アルギン酸ナトリウム1質量%水溶液の20℃におけるB型粘度は500〜600mPa・sであった。使用した再生パルプの濾水度は200ml(カナダ標準フリーネス)であった。この再生パルプを含有するパルプスラリーのpHは7.2、カルシウムイオン濃度は550ppmだった。
【0047】
(紙の製造)
上記で得られた再生パルプを含有するパルプスラリーを抄紙機前段の配合チェストに送流した。再生パルプ固形分を基準として、填料(軽質炭酸カルシウム<ロゼッタ型>、平均粒子径2.9μm)を15.0質量%添加し、さらにカチオン系紙力向上剤(ハリマ化成株式会社製 EX239)を0.1質量%、硫酸バンドを1.0質量%、歩留り向上剤(ソマール株式会社製 R−300)を100ppm添加、混合して紙料を調成した。その後、紙料を種箱に送流し、固形分濃度約1質量%となるよう白水で希釈した後、ギャップフォーマー型抄紙機で中性抄紙した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
アルギン酸ナトリウムの添加量を0.3質量%とした以外は実施例1と同様に紙を製造して評価した。
【0049】
[実施例3]
再生パルプの前処理において、完成チェストにおいて硫酸バンドを1.5質量%添加した。その後、再生パルプを含有するパルプスラリーを抄紙工程前段の配合チェストへ流送する工程中に、前記のアルギン酸ナトリウムの1質量%水溶液を再生パルプ固形分を基準として0.15質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様に紙を製造して評価した。
【0050】
[実施例4]
完成チェストへの硫酸バンドの添加量を3.0質量%とした以外は、実施例3と同様に紙を製造して評価した。
【0051】
[実施例5]
アルギン酸ナトリウムに代えて、アルギン酸エステル(株式会社キミカ製 キミロイドHV)の1質量%水溶液を、再生パルプ固形分を基準として0.15質量%となるように添加した以外は実施例1と同様に紙を製造して評価した。アルギン酸エステル1質量%水溶液の20℃におけるB型粘度は150〜250mPa・sであった。
【0052】
[実施例6]
再生パルプの前処理において、完成チェストにおいて硫酸バンドを1.5質量%添加した。その後、再生パルプを含有するパルプスラリーを抄紙工程前段の配合チェストへ流送する工程中に、前記のアルギン酸エステルの1質量%水溶液を、再生パルプ固形分を基準として0.15質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様に紙を製造して評価した。
【0053】
[比較例1]
再生パルプの前処理において、アルギン酸ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様に紙を製造して評価した。
【0054】
[比較例2]
完成チェストに硫酸バンドを1.5質量%添加し、アルギン酸ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例3と同様に紙を製造して評価した。
【0055】
[比較例3]
アルギン酸ナトリウムに代えて、カチオン化タピオカ澱粉(日本エヌエスシー株式会社製 CATO304)の1質量%水溶液を、再生パルプ固形分を基準として0.15質量%となるように、再生パルプを含有するパルプスラリーに添加した以外は実施例1と同様に紙を製造して評価した。
【0056】
[比較例4]
完成チェストに硫酸バンドを1.5質量%添加し、アルギン酸ナトリウムに代えて、カチオン化タピオカ澱粉(日本エヌエスシー株式会社製 CATO304)の1質量%水溶液を、再生パルプ固形分を基準として0.15質量%となるように、再生パルプを含有するパルプスラリーに添加した以外は実施例3と同様に紙を製造して評価した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から以下のことがわかる。
1)アルギン酸ナトリウムを添加することにより前処理した再生パルプを用いた実施例1は、未処理(前処理なしの再生パルプ)の比較例1に比べて、紙中灰分が高く灰分歩留まりが良好であり、強度および剛度の紙力も向上した。
2)アルギン酸ナトリウムの添加量が多い実施例2では、さらに灰分歩留まりが向上し、紙力も良好であった。
3)アルギン酸ナトリウムの添加前に、硫酸バンドを添加した実施例3では、実施例1よりもさらに灰分歩留まりが向上し、紙力も良好であった。
4)硫酸バンドの添加量の多い実施例4では、さらに灰分歩留まりが向上し、紙力も良好であった。
5)アルギン酸ナトリウムの代わりにアルギン酸エステルを用いた実施例5、6では、実施例1、3に比べて灰分歩留まりはやや劣るものの、比較例1よりは良好であり、紙力も良好であった。
6)硫酸バンドのみを添加した比較例2は、未処理の比較例1に比べて、紙力はやや向上したが、灰分歩留まりが劣っていた。
7)アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸エステルの代わりにカチオン化タピオカ澱粉を添加した比較例3、4は硫酸バンドの添加の有無に関わらず、灰分歩留まり、紙力のいずれも、比較例1と同程度であった。
8)実施例1〜6では、未処理の比較例1に比べて紙の密度を上昇させることなく、所望の坪量、紙厚を有する紙を得ることができた。
【符号の説明】
【0059】
1 古紙再生工程
10 高濃度ストックタワー
12 チェスト
14 リファイナー
16 完成チェスト
2 抄紙工程
20 配合チェスト
22、24 チェスト
26 種箱
A 再生パルプ
B アルギン酸類
C 硫酸バンド
D 再生パルプ以外のパルプ
E 填料
F 製紙薬品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸、アルギン酸の塩、アルギン酸エステル、およびこれらの混合物からなる群より選択されるアルギン酸類を、再生パルプを含有するパルプスラリーに混合する工程を含む、再生パルプの処理方法。
【請求項2】
前記パルプスラリーが古紙再生工程を経て調製されたパルプスラリーであり、
古紙再生工程の完成チェストから抄紙工程における紙料を調成するための配合チェストへ前記パルプスラリーを流送する段階において、前記アルギン酸類を前記パルプスラリーに混合する、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記パルプスラリーが、古紙を離解する段階、脱墨または漂白する段階、および洗浄する段階を含む古紙再生工程を経て調製されたパルプスラリーであり、
前記洗浄段階後のパルプスラリーに前記アルギン酸類を混合する、請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
前記アルギン酸類が、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸エステルである、請求項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
前記パルプスラリーに、アルギン酸類以外に酸性物質を添加することをさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記酸性物質が硫酸バンドである、請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により処理されたパルプスラリーを含む紙料を調成する工程、および
前記紙料を抄紙する工程、
を含む、紙の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られる紙。

【図1】
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【公開番号】特開2011−202319(P2011−202319A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71520(P2010−71520)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】