説明

再生可能資源からの発酵によるグリコール酸生産

本発明は、微生物における発酵性炭素源からのグリコール酸の生物学的生産の方法を提供する。本出願のひとつの局面では、グルコースのグリコール酸への変換のプロセスが、i)グリコレート以外の化合物へのグリオキシレート消費経路を弱め、ii)グリオキシレートをグリコレートに変換する為にNADPH依存性グリオキシル還元酵素を使用し、iii)すべてのグリコレート代謝酵素のレベルを弱め、およびiv)グリオキシル酸経路の流れを増加させるように形質転換された宿主大腸菌を含む組み換え生物の使用によって達成される。本出願の他の局面では、組み換え大腸菌を用いる、発酵性炭素源からのグリコール酸生産のプロセスが細胞内のNADPH供給を増加することにより向上される。場合によっては、生産されたグリコール酸は少なくともグリコール酸二量体に重合する工程を通して精製され、グリコール酸の二量体、オリゴマーおよび/またはポリマーからの脱重合により回収され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好気的に生育する微生物による発酵性炭素源のグリコール酸への生物変換のプロセスを含む。
【背景技術】
【0002】
グリコール酸(HOCHCOOH)は、カルボン酸のα−ヒドロキシ酸ファミリーの一番目のメンバーである。グリコール酸は、極めて小さい分子に、アルコールとやや強酸の官能基を有し二重機能性をもつ。これは、典型的な酸およびアルコール化学に加えて独特の化学的性質をもたらす。
【0003】
グリコール酸はヒドロキシ基とカルボン酸基を共に用い、多価金属と五員環錯体(キレート)を形成する。この金属イオン錯化能は強固な水垢の溶解および腐敗の防止、特に優れたすすぎ性が重要な要素である酸洗浄の用途において有用である。グリコール酸は有機アルコールおよび酸と反応し、エステルを生成する。低分子量アルキルグリコール酸エステルは、独特の溶媒の性質を有し、n−プロパノールおよびイソプロパノール、エチレンジアミン、フェノール、メタクレゾール、酢酸2−エトキシエチル、および乳酸エチルおよび乳酸メチルの代替品として使用され得る。高分子量アルキルエステルは、パーソナルケア製品の成分に使用され得る。グリコール酸はそれ自身と反応して、二量体グリコリド、頭−尾ポリエステルオリゴマーおよび長鎖ポリマーを形成し得る。乳酸のような他のα−ヒドロキシ酸と、共重合体が作られ得る。ポリエステルポリマーは、水性の環境で制御可能な速度で、徐々に加水分解する。この性質は、溶解性縫合のような生物医学応用および、pHを下げる為に酸の制御された放出が必要とされる用途において有用である。現在、年間一万五千トンを超えるグリコール酸が、米国で消費されている。
【0004】
図1に示されているグリコール酸の生物学的生産は、中間体としてグリオキシレート(glyoxylate)の形成を必要とし、グリオキシレートは、遺伝子ycdW(Nunez et al, (2001) Biochemistry, 354, 707-715)にコードされるNADPH依存性酸化還元酵素によって、グリコレート(glycolate)に還元される。グリオキシレートはグリオキシル酸回路の中間体である(Tricarboxylic acid cycle and glyoxylate bypass, reviewed in Neidhardt, F. C. (Ed. in Chief), R. Curtiss III, J. L. Ingraham, E. C. C. Lin, K. B. Low, B. Magasanik, W. S. Reznikoff, M. Riley, M. Schaechter, and H. E. Umbarger (eds). 1996. Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology. American Society for Microbiology)。この回路において、aceA遺伝子にコードされるイソクエン酸リアーゼによって触媒される反応で、イソシトレート(isocitrate)は、スクシネート(succinate)とグリオキシレートに分割される。スクシネートはクエン酸回路に直接入っていき、オキサロアセテート(oxaloacetate)に変換される。グリオキシレートは、aceBおよびgclBにコードされる2つのリンゴ酸シンターゼイソ酵素によって触媒される反応で、アセテート(acetate)由来のアセチルCoAの分子を組み込むことによってマレート(malate)に変換される。炭素がグリオキシル酸短絡回路(glyoxylate shunt)に入ることにより、転写レベルおよび転写後レベルが制御される。転写制御はIclRリプレッサーによってaceBAKオペロン上に作用する。AceBAKはリンゴ酸シンターゼ、イソクエン酸リアーゼ、およびイソクエン酸キナーゼ/ホスファターゼをそれぞれコードする。iclR遺伝子は負に自己制御され、FadRタンパク質によって活性化される。icd遺伝子にコードされているイソクエン酸脱水素酵素(isocitrate dehydrogenase)の活性は、転写後に制御されている。イソクエン酸脱水素酵素およびイソクエン酸リアーゼは、共通の基質であるイソシトレートについて競合している。イソシトレートに対するKm値はイソクエン酸リアーゼ反応に対して著しく高いので、グリオキシル酸回路へ入るか否かは、部分的にイソクエン酸脱水素酵素の制御に依存する。イソクエン酸脱水素酵素活性はAceKによって触媒されるそのリン酸化または脱リン酸化によって調節される。リン酸化はIcdの活性を減じ、脱リン酸化はIcd酵素を再活性化する。AceKがキナーゼとして働くかホスファターゼとして働くかは、いくつかの代謝産物の存在に依る。イソシトレートおよび3−ホスホグリセレートの除去はキナーゼ活性を刺激し、ピルベート(pyruvate)およびAMPの存在はキナーゼ機能を阻害する、つまりホスファターゼ活性に好ましい(Neidhardも参照)。グリオキシレートは、gclにコードされるグリオキシル酸カルボリガーゼによってタルトロン酸セミアルデヒドに、edaでコードされる2−ケト−3−デオキシグルコン酸6−リン酸アルドラーゼによって2−ケト−4−ヒドロキシグルタレートに変換される。一方で、グリコレートは、aldAによってコードされるNAD依存性グリコアルデヒド脱水素酵素によってグリコアルデヒドに還元されるか、またはglcDEFによってコードされるNAD依存性グリコール酸酸化酵素によってグリオキシレートに酸化され得る。
【0005】
本発明によって解決すべき課題は、グルコースおよび他の糖類のような安価な炭素基質からのグリコール酸の生物学的生産である。生化学的工程の数および代謝経路の複雑さは、グリコール酸生産の工業的に実用可能なプロセスにとって、代謝的に組み換られた全細胞触媒の使用を必要とする。
【発明の開示】
【0006】
出願人は、記載された問題を解決し、本発明は、発酵性炭素源をグリコール酸に直接的に生物転換する方法を提供する。グルコースがモデル基質として用いられ、組み換え大腸菌がモデル宿主として用いられる。この発明の一つの局面において、リンゴ酸シンターゼ(aceBおよびglcB)、グリオキシル酸カルボリガーゼ(gcl)および2−ケト−3−デオキシグルコン酸6−リン酸アルドラーゼ(eda)をコードする遺伝子を不活性化することによって、グリオキシレートをグリコレート以外の化合物に代謝不可能な組み換え大腸菌が構築される。他の局面では、NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素活性が、ycdWまたはyiaEなどをコードする内在性の遺伝子を用いて、毒性のあるグリオキシレートをグルコレートに還元するのに用いられる。本発明の更なる局面では、グリコレートを代謝する酵素、グリコール酸酸化酵素(glcDEF)およびグリコルアルデヒド脱水素酵素(aldA)をコードする遺伝子が欠失される。更に、グリオキシル酸回路の流れは、i)iclR遺伝子を不活性化することまたは直接aceAの発現を増加させることによりaceAのレベルを増加させること、ii)イソクエン酸脱水素酵素(icd)をコードしている遺伝子の発現レベルを減少させるまたは不活性化すること、およびiii)ピルビン酸酸化酵素(poxB)および酢酸経路(ackpta)をコードする遺伝子を不活性化すること、によって増加される。該発明の最後の局面では、グリコレート生産のより良い収率が、グルコース-6-リン酸イソメーラーゼ(pgi)、6-ホスホグルコン酸脱水酵素(edd)、および可溶性トランスヒドロゲナーゼ(udhA)をコードする遺伝子を不活性化することによってNADPHの供給(availability)を増加することによって得られる。本発明は、一般的に、アセチルCoAに容易に変換されるいかなる炭素基質も包含し適応され得る。
【0007】
従って、本発明の目的は、グリコール酸の生産に有用な組み換え生物を提供することであって、(a)少なくとも、リンゴ酸シンターゼ(malate synthases)、グリオキシル酸カルボリガーゼ(glyoxylate carboligases)および2-ケト-3-デオキシグルコン酸6-リン酸アルドラーゼ(2-keto-3-deoxygluconate 6-phosphate aldolase)をコードする遺伝子のすべての不活性化、(b)NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素(NADPH dependent glyoxylate reductase)活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも一つの遺伝子、および(c)少なくとも、NAD依存のグリコレートのグリオキシレートへの酸化をコードする遺伝子の不活性化、を含んでなる。場合によっては、組み換え生物は、i)(a)グリオキシル酸経路のリプレッサーをコードする遺伝子、(b)グルコース-6-リン酸イソメーラーゼ(glucose-6-phosphate isomerase)活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(c)可溶性トランスヒドロゲナーゼ(soluble transhydrogenase)活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(d)6−ホスホグルコン酸脱水酵素(6-phosphogluconate dehydratase)活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(e)ホスホトランスアセチラーゼ(phospho-transacetylase)および酢酸キナーゼ(acetate kinase)活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、(f)ピルビン酸酸化酵素(pyruvate oxidase)活性をコードする遺伝子、(g)グリコルアルデヒド脱水素酵素(glycoaldehyde dehydrogenase)活性をコードする遺伝子からなる群から選ばれる内在性遺伝子における変異の不活性化、ii)イソクエン酸リアーゼ(isocitrate lyase)をコードする遺伝子の増加したレベル、およびiii)イソクエン酸脱水素酵素(isocitrate dehydrogenase)活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子の減少したレベルもしくは不活性化、を含み得る。
【0008】
他の態様において、本発明は、組み換え生物からグリコール酸を生産するためのプロセスを提供し、該プロセスは、本発明の組み換え生物と、単糖類、オリゴ糖類、多糖類および単一炭素基質からなる群から選ばれた少なくともひとつの炭素源とを接触させる工程を含み、それによって、グリコレートが生産され;場合によっては、(b)少なくともグリコール酸の二量体に重合する工程を通して(a)において生産されたグリコール酸を回収する工程、および(c)グリコール酸の二量体、オリゴマーおよび/またはポリマーから脱重合によるグリコール酸の回収、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
この明細書に組み込まれその一部となっている付属の図は、本発明を例示し、説明と共に、本出願の原理を説明する。
【0010】
【図1】図1は、炭水化物からのグリコール酸生産系の進行における、解糖、 TCA回路およびグリオキシル酸経路の遺伝子組み換えを示す。
【図2】図2は、pME101-ycdWベクターの構築を示した図である。
【本発明の詳細の説明】
【0011】
ここで使用されているように、次の語は、本請求項および明細書の解釈に用いられる。
【0012】
「突然変異株」という語は野生型でない株を意味する。
【0013】
「微生物」という語は、細菌のような原核生物および酵母のような真核生物を含むすべての種類の単細胞生物を意味する。細菌としては、特に、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、バチルス科(Bacillaceae)、ストレプトマイセス科(Streptomycetaceae)およびコリネバクテリア科(Corynebacteriaceae)が挙げられる。腸内細菌科は、特に、エシュリキア(Escherichia)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、サルモネラ(Salmonella)属およびパントエア(Pantoea)属を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0014】
「形質転換」または「トランスフェクション(transfection)」という語は、外来の核酸を組み込んだ後、細胞中における新規の遺伝子の取得を意味する。「形質転換体」という語は形質転換の産物を意味する。「遺伝学的に改変された」という語は、形質転換または突然変異によって遺伝因子を変える操作を意味する。
【0015】
「減衰(attenuation)」という語は、遺伝子の減少した発現または遺伝子産物であるタンパク質の減少した活性を意味する。当業者は、これら結果を得るための数多くの手段を知っており、例えば、
− 遺伝子への変異の導入、該遺伝子の発現レベルまたはコードされたタンパク質の活性レベルを減少させること、
− その遺伝子の本来のプロモーターの低い強度のプロモータへの置換、その結果の低い発現、
− 対応するメッセンジャーRNAまたはタンパク質を不安定化する要素の使用
− 発現しないことが必要であれば、遺伝子の欠失、
である。
【0016】
「発現」という語は、遺伝子からその遺伝子の産物であるタンパク質への転写および翻訳を意味する。
【0017】
「プラスミド」または「ベクター」という語は、細胞の中心的代謝の一部でない遺伝子を多くの場合有し、通常、環状の二重鎖DNA分子の形である染色体外要素を意味する。
【0018】
「炭素基質(carbon substrate)」または「炭素源」は、微生物によって代謝され得る任意の炭素源を意味する。その基質はすくなくともひとつの炭素原子を含む。出願人は、特に再生可能で、安価な、発酵性の炭素源を指している。例えば、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、単一炭素基質およびグリセロールのようなポリオールが挙げられる。単一炭素基質は、メタノールのように炭素原子をひとつのみ含む炭素分子として定義される。一般式(CHO)の単糖類は、オース類(oses)または「単純糖質」とも呼ばれる。単糖類は、サッカロース、フルクトース、グルコース、ガラクトースおよびマンノースを含む。二つ以上の単糖類を含む他の炭素源は、二糖類、三糖類、オリゴ糖類および多糖類と呼ばれる。二糖類は、サッカロース(スクロース)、ラクトースおよびマルトースを含む。デンプンおよびヘミセルロースは、多糖類であり、「複合糖質」としても知られている。故に「炭素源」という語は上記のいかなる物質およびそれらの混合物も意味する。
【0019】
「ATCC」という語は、American Type Culture Collection, 12301 ParklawnDrive, Rockville, Md. 20852, U.S.Aを表す。
【0020】
「グリオキシレート(glyoxylate)」と「グリオキシル酸(glyoxylic acid)」は互換的に用いられる。
【0021】
「グリコレート(glycolate)」と「グリコール酸(glycolic acid)」は互換的に用いられる。
【0022】
本発明の説明において、酵素は、その特異的な活性によって同定される。すなわち、この定義は、他の生物、より具体的には他の微生物でも存在する、定義された特異的活性を有するすべてのポリペプチドを包含する。多くの場合、類似の活性を有する酵素は、PFAMまたはCOGで定義されるある種のファミリーへの分類によって同定される。
【0023】
PFAM(アライメントおよび隠れマルコフモデルのタンパク質ファミリーデータベース、http ://www. Sanger.ac.uk/Software/Pfam/)は、タンパク質配列アライメントの膨大なコレクションである。各々のPFAMによって、多数から成るアライメントを視覚化したり、タンパク質ドメインを見たり、生物での分布を評価したり、他のデータベースへのアクセスを獲得したり、既知のタンパク質の構造を視覚化することが可能になる。
【0024】
COGs(タンパク質の相同分子種グループのクラスター、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/COG/)は、配列が完全に解読された43のゲノムのタンパク質配列を比較することによって得られ、30の主要な系統学的系列を表している。各々のCOGは、少なくとも三つの系統から定義され、前に保存されているドメインの同定を可能にする。
【0025】
相同配列およびその相同性パーセント割合を同定する手段は当業者に周知であり、特に、BLASTプログラムを包含する。該プログラムは、そのウェブサイトで示された初期パラメータを用いて、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/から利用することができる。得られた配列は、例えば、CLUSTALW(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)またはMULTALIN(http://prodes.toulouse.inra.fr/multalin/cgi-bin/multalin.pl)といったプログラムを使い、それらウェブサイトで示された初期パラメータを用いて、利用される(例えば、配列される)。
【0026】
既知の遺伝子に対してGenBankで示された参照資料を使って、当業者は、他の生物、細菌株、酵母、菌類、哺乳類、植物等で相当する遺伝子を決定することができる。この所定の作業は、他の微生物由来の遺伝子との配列アライメントを実行することによって決定され得る共通配列を用い、他の生物中の対応遺伝子をクローンするための縮重プローブを設計することで、有利に行われる。分子生物学のこれら所定の方法は、当業者に周知であり、例えば、Sambrookらの論文(1989 Molecular Cloning: a Laboratory Manual. 2nd ed. Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, New York)に記載されている。
【0027】
本発明は、微生物を炭素源を含んでなる適切な培養培地中で培養し、培地からグリコール酸を回収することによって、グリコール酸、その誘導体または前駆体の発酵的生産の方法を提供する。
【0028】
本発明の更なる態様は、微生物を、グリコレートの重要な前駆体であるグリオキシレートを消化する酵素をコードする遺伝子、リンゴ酸シンターゼをコードするaceBおよびgclB、グリオキシル酸カルボリガーゼをコードするgcl、および2−ケト−3−デオキシグルコン酸6−リン酸アルドラーゼをコードするedaの減衰によって、グリコレートを生産することを除いて、低いグリオキシレート変換能を有するように改変する方法を提供する。
【0029】
本発明のもう一つの態様において、微生物はグリオキシレートのグリコレートへの変換を触媒するポリペプチドをコードする少なくともひとつの遺伝子含む。
【0030】
特に、NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素をコードする遺伝子は、好気的条件下で、毒性のあるグリオキシレート中間体を毒性の低い最終産物のグリコレートに変換する為に存在する。該遺伝子は、外来性でも内在性でもよく、染色体上、あるいは染色体外で発現することができる。NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素をコードする遺伝子は、大腸菌 MG1655のゲノムからycdWまたはyiaEに共通して取り出され得る。好ましい態様では、前記遺伝子の少なくともひとつの発現は増加する。必要に応じて、高レベルのNADPH依存性グリオキシル酸還元酵素活性は、当業者に知られている組み換えの方法によって導入され得るゲノム上のひとつまたは数コピーを用いることによって、染色体上に位置する遺伝子から取得することができる。染色体外の遺伝子に関して、その複製起点およびすなわち細胞内コピー数の点で異なる違ったタイプのプラスミドが使用され得る。それらは、極めて低い(tight)複製の低コピー数プラスミド(pSC101、RK2)、低コピー数プラスミド(pACYC、pRSF1010)または高コピー数プラスミド(pSK bluescript II)に対応して、1〜5コピー、約20コピー、最高500コピーとして存在する。ycdWまたはyiaE遺伝子は、誘導因子分子によって誘発される必要があるまたはその必要がないといった異なる強度を有するプロモーターを用いて発現される。例えば、プロモーターPtrc、 Ptac、 Plac、ラムダプロモータcIまたは当業者に知られている他のプロモーターが挙げられる。遺伝子の発現は、対応するメッセンジャーRNA(Carrier and Keasling (1998) Biotechnol. Prog. 15, 58-64)またはタンパク質(例、GSTタグ、Amersham Biosciences社)を安定化する要素によってもまた引き上げられ得る。
【0031】
本発明の更なる態様において、微生物は、実質的にグリコレートを代謝することができないように改変される。この結果は、グリコレートを消費する酵素をコードする遺伝子(グリコール酸酸化酵素をコードするglcDEF、およびグリコアルデヒド脱水素酵素をコードするaldA)の少なくともひとつを減衰させることによって達成される。遺伝子の減衰は、低い強度のプロモーター、または対応するmRNAもしくはタンパク質を不安定化する要素で本来のプロモーターを置換することによって達成される。もし必要であれば、遺伝子の完全な減衰は、対応するDNA配列の欠失によっても達成される。
【0032】
他の態様において、本発明の方法で用いられる微生物は、グリオキシル酸回路の流れを増加するように形質転換される。
【0033】
グリオキシル酸経路の流れは様々な手段によって増加され、特に、
i) イソクエン酸脱水素酵素(Icd)の活性を減少させること、
ii)遺伝子の減衰によって、次の酵素の少なくともひとつの活性を減少させること
pta遺伝子にコードされるホスホトランスアセチラーゼ
ack遺伝子にコードされる酢酸キナーゼ
poxB遺伝子にコードされるピルビン酸酸化酵素
iii) aceA遺伝子にコードされるイソクエン酸リアーゼの活性を増加させること、
によって増加され得る。
【0034】
イソクエン酸脱水素酵素のレベルを減少させることは、イソクエン酸脱水素酵素をコードするicd遺伝子の発現を促進する人工的なプロモーターを導入すること、またはそのタンパク質の酵素活性を低下させるicd遺伝子に変異を導入することによって達成し得る。
【0035】
タンパク質Icdの活性は、リン酸化によって低下するので、その活性は、野生型AceK酵素と比較して増加したキナーゼ活性または減少したホスファターゼ活性を有する変異aceK遺伝子を導入することによって制御され得る。
【0036】
イソクエン酸リアーゼの活性を増加することは、グリオキシル酸経路のリプレッサーをコードするiclRまたはfadR遺伝子のレベルを減衰させることによって、あるいは、例えば、遺伝子発現を促進させる人工的なプロモーターを導入したり、コードされたタンパク質の活性を増加させる変異をaceAに導入したりして、aceA遺伝子の発現を刺激することによって達成される。
【0037】
本発明の態様は、NADPH依存グリオキシル酸還元酵素へのNADPHの供給を増加することによって、より優れたグリコレート生産の収率を提供する。この微生物の性質の改変は、次の遺伝子、グルコース-6-リン酸イソメーラーゼをコードするpgi、可溶性トランスヒドロゲナーゼをコードするudhAおよび6-ホスホグルコン酸脱水酵素をコードするedd、から選択される遺伝子の少なくともひとつを減衰することを通して獲得され得る。そのような遺伝子改変があれば、すべてのグルコース6−ホスファターゼはペントースリン酸経路を通して解糖に入らなければならなくなり、グルコース6−ホスファターゼが代謝される毎にふたつのNADPHが生産される。
【0038】
本発明の他の態様において、組み換え生物からグリコール酸を発酵生産する為のプロセスを提供し、(a)本発明の組み換え生物とグルコース、スクロース、単糖類、オリゴ糖類、多糖類、デンプンまたはその誘導体、グリセロールおよび単一炭素基質からなる群から選ばれた少なくともひとつの炭素源とを接触させる工程を含んでなり、それによって、グリコール酸が生産される。場合によっては、該プロセスは、細菌内または培地中でグリコレートを濃縮する工程および最終生産物中に場合によっては一部もしくは全量(0ないし100%)残存している発酵培養液および/もしくはバイオマスからグリコール酸を単離する工程を含んでなる。場合によっては、該プロセスは、少なくともグリコール酸の二量体に重合する工程を通して工程(a)で生産されたグリコール酸を回収する工程および(b)グリコール酸の二量体、オリゴマー、および/またはポリマーから脱重合によるグリコール酸の回収を含んでなる。
【0039】
当業者であれば、本発明による微生物に用いられる培養条件を定義することができる。特に、細菌は20°Cと55°Cの間、好ましくは25°Cと40°Cの間の温度で、より具体的にC.glutamicumは約30°Cで、大腸菌は約37°Cで発酵される。
【0040】
発酵は、一般的に、少なくとも一つの単一炭素源および必要に応じて代謝物の生産に必要な補基質を含み、使用される細菌に調製された既知の所定の組成の無機培養培地中で、発酵槽において行われる。
【0041】
本発明は、また、前述の微生物に関する。好ましくは、該微生物は、E.coliC.glutamicumまたはS.cerevisiaeからなる群から選ばれる。
【0042】
実施例1
グリコレートに還元することを除いて、グリオキシレートを代謝することができない株の構築:MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcB
aceB遺伝子を欠失させるために、Datsenko & Wanner(2000)に記載の相同的組み換え方法を用いる。この方法によって、関連する遺伝子のほとんどを欠失させる一方、クロラムフェニコールまたはカナマイシン耐性カセットの挿入が可能となる。この目的の為、次のオリゴヌクレオチドを用いる:
DaceBF (配列番号1)
ggcaacaacaaccgatgaactggctttcacaaggccgtatggcgagcaggagaagcaaattcttactgccgaagcggtagCATATGAATATCCTCCTTAG
−遺伝子aceB(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の配列(4213068〜4213147)に相同な領域(小文字)
−クロラムフェニコール耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
DaceBR (配列番号2)
ggcggtagcctggcagggtcaggaaatcaattaactcatcggaagtggtgatctgttccatcaagcgtgcggcatcgtcTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
−遺伝子aceB(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の配列(4214647〜4214569)に相同な領域(小文字)
−クロラムフェニコール耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
オリゴヌクレオチドDaceBFおよびDaceBRを、プラスミドpKD3からクロラムフェニコール耐性カセットを増幅する為に用いる。次いで、得られたPCR産物を電気穿孔法により、MG1655株 (pKD46)に導入する。該菌株では発現したRedリコンビナーゼ酵素が相同性組み換えを可能にする。その後、クロラムフェニコール耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、下に定義されたオリゴヌクレオチドaceBFおよびaceBRを用いたPCR分析によって検証する。保持した株を、MG1655 ΔaceB::Cmと呼ぶ。
aceBF (配列番号3) : cgttaagcgattcagcaccttacc(4212807〜4212830の配列に相同)
aceBR (配列番号4) : ccagtttctgaatagcttcc(4215327〜4215308の配列に相同)
【0043】
次に、gcl遺伝子をMG1655 ΔaceB::Cm株においてトランスダクション(transduction)によって欠失する。はじめに、MG1655 Δgcl::Km株を、次のオリゴヌクレオチドを用いて前記と同じ方法を使って構築する:
DgclF (配列番号5)
ggcaaaaatgagagccgttgacgcggcaatgtatgtgctggagaaagaaggtatcactaccgccttcggtgttccgggagcTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
−遺伝子gcl(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の領域の配列(533142〜533224)に相同な領域(小文字)
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
DgipR (配列番号6)
gcgttacgttttaacggtacggatccatccagcgtaaaccggcttccgtggtggtttggggtttatattcacacccaacccCATATGAATATCCTCCTTAG
−遺伝子gcl(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の領域の配列(535720〜535640)に相同な領域(小文字)
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
オリゴヌクレオチドDgclFおよびDgipRをプラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅する為に用いる。次いで、得られたPCR産物を電気穿孔法により、MG1655株 (pKD46)に導入する。その後、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、下に定義されたオリゴヌクレオチドgclFおよびgipRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 Δgcl::Kmと呼ぶ。
gclF (配列番号7) : ggatatgcccaccttgctgaagg(532795〜532817の配列に相同)
gipR (配列番号8) : cgcttagtttcaatcggggaaatgg(536114〜536090の配列に相同)
【0044】
Δgcl::Km欠失を転移する為に、ファージP1トランスダクションの方法を用いる。次のプロトコールは2段階で実施され、MG1655 Δgcl::Kmのファージ溶解物の調製と、それに続くMG1655 ΔaceB::Cm株へのトランスダクションである。株の構築は上記の通りである。
ファージ溶解物P1の調製
− Km50μg/ml、0.2%グルコース、5mM塩化カルシウム入りの10mlのLB培地中で一晩培養のMG1655Δgcl::Km株の100μlを接種
− 37°Cで30分間振盪しながら培養
− 100μlのMG1655株で調製されたファージ溶解物P1の添加(約1.10ファージ/ml)
− すべての細胞が溶解するまで37°Cで3時間振盪
− 200μlのクロロホルムの添加およびボルテックス
− 細胞残屑を除くために10分間4500gで遠心
− 上清を滅菌した試験管に移し、200μlのクロロホルムを添加
− 溶解物を4°Cで保存
トランスダクション
− LB培地中で一晩培養のMG1655ΔaceB::Cm株の5mlを10分間1500gで遠心
− 細胞沈殿物を2.5mlの10mMの硫化マグネシウム、5mMの塩化カルシウムに懸濁
− 対照試験管:100μlの細胞、100μlのMG1655Δgcl::Km株のファージP1
− テスト試験管:100μlの細胞および100μlのMG1655Δgcl::Km株のファージP1
− 30°Cで30分間振盪せずに培養
− 各試験管に100μlの1Mのクエン酸ナトリウムの添加およびボルテックス
− 1mlのLBの添加
− 37°Cで1時間振盪しながら培養
− 試験管を3分間7000rpmで遠心した後、50μg/mlのKm入りLBをディシュに薄く広げる
− 37°Cで一晩培養
株の検証
次に、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、遺伝子の欠失Δgcl::Kmを、前述のgclFおよびgipRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB::Cm Δgcl::Kmと呼ぶ。
【0045】
次に、カナマイシンおよびクロラムフェニコール耐性カセットを取り除くことができる。その後、カナマイシンおよびクロラムフェニコール耐性カセットのFRT部位に作用するFLPリコンビナーゼをもつプラスミドpCP20を、電気穿孔法により組み換え部位に導入する。一連の42°C培養の後、カナマイシンおよびクロラムフェニコール耐性カセットの消失を、前述と同様のオリゴヌクレオチド(aceBF/aceBRおよびgclF/gipR)を用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgclと呼ぶ。
【0046】
トランスダクションによってMG1655 ΔaceB Δgcl株においてglcB遺伝子が欠失される。
はじめに、MG1655 ΔglcB::Kmを、次のオリゴヌクレオチドを用いて前述と同様の方法を使用して構築する:
DglcBR (配列番号9)
cccagagccgtttacgcattgacgccaattttaaacgttttgtggatgaagaagttttaccgggaacagggctggacgcCATATGAATATCCTCCTTAG
−遺伝子glcB(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の領域の配列(3121805〜3121727)に相同な領域(小文字)
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
DglcBF (配列番号10)
cgcgtaaacgccaggcgtgtaataacggttcggtatagccgtttggctgtttcacgccgaggaagattaaatcgctggcTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
−遺伝子glcB(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の領域の配列(3119667〜3119745)に相同な領域(小文字)
−カナマイシン耐性カセット(参照配列はDatsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645)の増幅の為の領域(大文字)
オリゴヌクレオチドDglcBFおよびDglcBRを、プラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅する為に用いる。次いで、得られたPCR産物を、電気穿孔法により、MG1655株(pKD46)に導入する。その後、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、下に定義されたオリゴヌクレオチドglcBFおよびglcBRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔglcB::Kmと呼ぶ。
glcBR (配列番号11) : gccagcaaatggcgagtgc(3122225〜3122207の配列に相同)
glcBF (配列番号12) : cgcagagtatcgttaagatgtcc(3119475〜3119497の配列に相同)
【0047】
ΔglcB::Km欠失を転移する為に、ファージP1トランスダクションの方法を用いる。株MG1655 ΔglcB::Kmのファージ溶解物の調製を、株MG1655 ΔaceB Δgclへのトランスダクションの為に用いる。
その後、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、遺伝子の欠失ΔglcB::Kmを前述のオリゴヌクレオチドglcBFおよびglcBRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcB::Kmと呼ぶ。
【0048】
次に、カナマイシン耐性カセットを除き得くことができる。その後、カナマイシン耐性カセットのFRTサイトに作用するFLPリコンビナーゼをもつプラスミドpCP20を電気穿孔法により組み換えサイトに導入する。一連の42°Cでの培養の後、カナマイシン耐性カセットの消失を前述と同様のオリゴヌクレオチド(glcBFおよびglcBR)を用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcBと呼ぶ。
【0049】
実施例2
NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素の増加したレベルを有する株の構築:MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcBpME101-ycdW
NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素のレベルを引き上げる為にycdW遺伝子をプラスミドpCL1920(Lerner & Inouye, 1990, NAR 18, 15 p 4631)からプロモーターPtrcを用いて発現する。低コピーベクターからの発現の為、プラスミドpME101は次のように構築される。オリゴヌクレオチドPME101FおよびPME101Rを用いてプラスミドpCL1920をPCR増幅し、lacI遺伝子およびPtrcプロモーターをもつベクターPTRC99AからのBst17I-XmnI断片を増幅したベクターに挿入する。
PME101F (配列番号13) : Ccgacagtaagacgggtaagcctg
PME101R (配列番号14) : Agcttagtaaagccctcgctag
ycdW遺伝子を次のオリゴヌクレオチドを用いてゲノムDNAからPCR増幅する。
BspHI ycdW (配列番号15):
agctagctctcatgagaataaatttcgcacaacgcttttcggg
SmaI ycdW (配列番号16):
gcatgcatcccgggtctctcctgtattcaattcccgcc
PCR断片をBspHIおよびSmaIで切断し、NcoIおよびSmaI制限酵素で切断したベクターpME101にクローンし、その結果、pME101-ycdWプラスミドを生じる。
次いで、pME101-ycdWプラスミドを、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcBに導入する。
【0050】
実施例3
減少したグリコレート消費を有する株の構築:MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldApME101-ycdW
トランスダクションによってMG1655 ΔaceB Δgcl株においてglcDEFGB遺伝子が欠失される。
はじめに、MG1655 ΔglcDEFGB::Km株を、次のオリゴヌクレオチドを用いて前述と同様の方法を使用して構築する:
DglcDR(配列番号17)
gcgtcttgatggcgctttacccgatgtcgaccgcacatcggtactgatggcactgcgtgagcatgtccctggacttgagatccCATATGAATATCCTCCTTAG
−遺伝子glcD(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の配列(3126016〜3125934)に相同な領域(小文字)
−クロラムフェニコール耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
DglcBF(配列番号18)
cgcgtaaacgccaggcgtgtaataacggttcggtatagccgtttggctgtttcacgccgaggaagattaaatcgctggcTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
−遺伝子glcB(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の領域の配列(3119667〜3119745)に相同な領域(小文字)
−クロラムフェニコール耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
オリゴヌクレオチドDglcDRおよびDglcBFをプラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅する為に用いる。次いで、得られたPCR産物を、電気穿孔法により、MG1655株(pKD46)に導入する。該菌株では発現したRedリコンビナーゼ酵素によって相同性組み換えが可能となる。その後、クロラムフェニコール耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、下に定義されたオリゴヌクレオチドglcDRおよびglcBFを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔglcDEFGB::Kmと呼ぶ。
glcDR (配列番号19) : ccaagacaaggtcacagagc(3126183〜3126164の配列に相同)
glcBF (配列番号20) : cgcagagtatcgttaagatgtcc(3119475〜3119497の配列に相同)
【0051】
欠失ΔglcDEFGB::Kmを転移する為に、ファージP1トランスダクションの方法を用いる。株MG1655 ΔglcDEFGB::Kmのファージ溶解物の調製を株MG1655 ΔaceB Δgclへのトランスダクションの為に用いる。
その後、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、遺伝子の欠失ΔglcDEFGB::Kmは前述のオリゴヌクレオチドglcBFおよびglcDRを用いてPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB::Kmと呼ぶ。
【0052】
次に、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB::Km株においてトランスダクションによってaldA遺伝子を欠失する。MG1655 ΔaldA::Cm株を、次のオリゴヌクレオチドを用いて前述と同様の方法を使用して構築する:
AldA D r (配列番号21)
ttaagactgtaaataaaccacctgggtctgcagatattcatgcaagccatgtttaccatctgcgccgccaataccggatttCATATGAATATCCTCCTTAG
−遺伝子aldA(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の配列(1487615〜1487695)に相同な領域(小文字)
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
AldA D f (配列番号22)
atgtcagtacccgttcaacatcctatgtatatcgatggacagtttgttacctggcgtggagacgcatggattgatgtggtaGTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
−遺伝子aldA(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur. fr/Co libri/に参照配列)の配列(1486256〜1486336)に相同な領域(小文字)
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
オリゴヌクレオチドaldAFおよびaldARを、プラスミドpKD3からクロラムフェニコール耐性カセットを増幅するのに用いる。次いで、得られたPCR産物を電気穿孔法により、MG1655株(pKD46)に導入する。該菌株では発現したRedリコンビナーゼ酵素によって相同性組み換えが可能となる。次いで、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、下に定義されたオリゴヌクレオチドYdcFCfおよびgapCCRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株は、MG1655 ΔaldA::Cmと呼ぶ。
YdcFCf (配列番号23) : tgcagcggcgcacgatggcgacgttccgccg(1485722〜1485752の配列に相同)
gapCCR (配列番号24) : cacgatgacgaccattcatgcctatactggc (1488195〜1488225の配列に相同)
【0053】
欠失ΔaldA::Cmを転移する為に、ファージP1トランスダクションの方法を用いる。株MG1655 ΔaldA::Cmのファージ溶解物の調製を株MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB::Kmへのトランスダクションの為に用いる。
その後、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、遺伝子の欠失ΔaldA::Cmを前述のオリゴヌクレオチドYdcFcfおよびgapCCRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB::Km ΔaldA::Cmと呼ぶ。
【0054】
次いで、カナマイシンおよびクロラムフェニコール耐性カセットを取り除くことができる。その後、カナマイシンおよびクロラムフェニコール耐性カセットのFRTサイトに作用するFLPリコンビナーゼをもつプラスミドpCP20を電気穿孔法により組み換えサイトに導入する。一連の42°C培養の後、カナマイシンおよびクロラムフェニコール耐性カセットの消失を、先に使用したのと同様のオリゴヌクレオチド(glcBF/glcDRおよびYdcFCf/gapCCR)を用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldAと呼ぶ。
その後、pME101-ycdWプラスミドを、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA株に導入する。
【0055】
実施例4
グリオキシル酸経路の流れが増加した株の構築:MG1655 Δace Δgcl ΔglcDEFGB Δald ΔiclpME101-ycdW
次のオリゴヌクレチドを用いて、前述と同じ方法を用いて、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldAにおいてiclR遺伝子の欠失を導入する:
DiclF(配列番号25)
CgcacccattcccgcgaaacgcggcagaaaacccgccgttgccaccgcaccagcgactggacaggttcagtctttaacgcgTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
−遺伝子iclR(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur. fr/Co libri/に参照配列)の配列(4221202〜4221120)に相同な領域(小文字)
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
DiclR(配列番号26)
gcgcattccaccgtacgccagcgtcacttccttcgccgctttaatcaccatcgcgccaaactcggtcacgcggtcatcggCATATGAATATCCTCCTTAG
−遺伝子iclR(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur. fr/Co libri/上参照配列)の配列(4220386〜4220465)に相同な領域(小文字)
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
オリゴヌクレチドDiclFおよびDiclRをプラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅する為に用いる。次いで、得られたPCR産物を、電気穿孔法によってMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA (pKD46)株に導入する。その後、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、耐性カセットを下に定義されたオリゴヌクレオチドiclFおよびiclRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR::Kmと呼ぶ。
iclF (配列番号27) : cctttgaggtcgcatggccagtcggc (4221558〜4221533の配列に相同)
iclR (配列番号28):gctttttaatagaggcgtcgccagctccttgcc (4219917〜4219949の配列に相同)。
【0056】
その後、カナマイシン耐性カセットを取り除くことができる。次いで、カナマイシン耐性カセットのFRT部位に作用するFLPリコンビナーゼを有するプラスミドpCP20は、電気穿孔法によって組み換え部位に導入される。一連の42℃培養の後、カナマイシン耐性カセットの消失を、前に使用されたオリゴヌクレオチド(iclFおよびiclR)を用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclRと呼ぶ。
その後、pME101-ycdWプラスミドをMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclRに導入する。
【0057】
実施例5
NADPHの供給が増加した株の構築:MG1655 ΔaceB Δgcl ΔiclR ΔglcDEFGB ΔaldA Δedd-eda (pME101-ycdW)
edd-eda遺伝子はMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcB ΔglcDEF ΔaldA ΔiclR株においてトランスダクションによって欠失される。
最初に、MG1655 Δedd-eda::Cm株を、次のオリゴヌクレチドを用いて、前記と同様の方法を用いて構築する:
DeddF (配列番号29)
CgcgcgagactcgctctgcttatctcgcccggatagaacaagcgaaaacttcgaccgttcatcgttcgcagttggcatgcggTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
−遺伝子edd-eda(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur. fr/Co libri/に参照配列)の領域の配列(1932582〜1932500)に相同な領域(小文字)
−クロラムフェニコール耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
DedaR (配列番号30)
gcttagcgccttctacagcttcacgcgccagcttagtaatgcggtcgtaatcgcccgcttccagcgcatctgccggaaccCATATGAATATCCTCCTTAG
−遺伝子edd-eda(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur. fr/Co libri/に参照配列)の領域の配列(1930144〜1930223)に相同な領域(小文字)
−クロラムフェニコール耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
オリゴヌクレチドDeddFおよびDedaRをプラスミドpKD3からクロラムフェニコール耐性カセットを増幅する為に用いる。次いで、得られたPCR産物を電気穿孔法によってMG1655(pKD46)株に導入する。その後、クロラムフェニコール耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を下に定義されたオリゴヌクレオチドeddFおよびedaRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 Δedd-eda::Cmと呼ぶ。
eddF (配列番号31) : Gggtagactccattactgaggcgtgggcg (1932996〜1932968の配列に相同).
edaR (配列番号32) : ccacatgataccgggatggtgacg (1929754〜1929777の配列に相同).
【0058】
欠失Δedd-eda::Cmを転移する為に、前述のP1ファージトランスダクションの方法を用いる。MG1655 Δedd-eda::Cm株のファージ溶解物の調製をMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR株へのトランスダクションの為に用いる。
その後、クロラムフェニコール耐性形質転換体を選択し、Δedd-eda::Cm遺伝子の欠失を、オリゴヌクレオチドeddFおよびedaRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcB ΔglcDEF ΔaldA ΔiclR Δedd-eda::Cmと呼ぶ。
【0059】
次に、クロラムフェニコール耐性カセットを取り除くことができる。その後、クロラムフェニコール耐性カセットのFRTサイトに作用するFLPリコンビナーゼを有するプラスミドpCP20を、エレクトロポレーションによって組み換えサイトに導入する。一連の42℃培養の後、クロラムフェニコール耐性カセットの消失を、前記と同じオリゴヌクレオチド(eddFおよびedaR)を用いたPCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd-edaと呼ぶ。
次に、pME101-ycdWプラスミドを、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd-edaに導入する。
【0060】
実施例6
NADPHの供給が増加した株の構築:MG1655 ΔaceB Δgcl ΔiclR ΔglcDEFGB ΔaldA Δpgi::Cm Δedd-eda (pME101-ycdW)
次のオリゴヌクレチドを用い、前述と同様の方法を使って、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcB ΔglcDEF ΔaldA ΔiclR Δedd-edaにおいて、pgi遺伝子の欠失を導入する:
DpgiF (配列番号33)
ccaacgcagaccgctgcctggcaggcactacagaaacacttcgatgaaatgaaagacgttacgatcgccgatctttttgcTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
pgi遺伝子(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur.fr/Colibri/に参照配列)の配列(4231352〜4231432)に相同な領域(小文字)
−クロラムフェニコール耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
DpgiR (配列番号34)
gcgccacgctttatagcggttaatcagaccattggtcgagctatcgtggctgctgatttctttatcatctttcagctctgCATATG AATATCCTCCTTAG
pgi遺伝子(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur. fr/Co libri/に参照配列)の配列(4232980〜4232901)に相同な領域(小文字)
−クロラムフェニコール耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(大文字)
オリゴヌクレチドDpgiFおよびDpgiRをプラスミドpKD3からクロラムフェニコール耐性カセットを増幅する為に用いる。次いで、得られたPCR産物を電気穿孔法によってMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcB ΔglcDEF ΔaldA ΔiclR Δedd-eda (pKD46)株に導入する。その後、クロラムフェニコール耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を、下に定義されたオリゴヌクレオチドpgiFおよびpgiRを用いたPCR分析によって検証する。保持された株は、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcB ΔglcDEF ΔaldA ΔiclR Δedd-eda Δpgi::Cmと呼ぶ。
pgiF (配列番号35) : gcggggcggttgtcaacgatggggtcatgc (4231138〜4231167の配列に相同)
pgiR (配列番号36) : cggtatgatttccgttaaattacagacaag (4233220〜4233191の配列に相同).
次に、pME101-ycdWプラスミドを、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δedd-eda Δpgi::Cmに導入する。
【0061】
実施例7
NADPH供給が増加した株の構築:MG1655 ΔaceB Δgcl ΔiclR ΔglcDEFGB ΔaldA Δpgi Δedd-eda::Cm ΔudhA::Km (pME101-ycdW)
次のオリゴヌクレチドを用い、前述と同様の方法を使って、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δpgi::Cm Δedd-edaにおいてudhA遺伝子の欠失を導入する:
DudhAF (配列番号37)
CCCAGAATCTCTTTTGTTTCCCGATGGAACAAAATTTTCAGCGTGCCCACGTTCATGCCGACGATTTGTGCGCGTGCCAGTGTAGGCTGGAGCTGCTTCG
udhA遺伝子(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur. fr/Co libri/に参照配列)の配列(4157588〜4157667)に相同な領域(太字)、
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(下線文字)
DudhAR (配列番号38)
GGTGCGCGCGTCGCAGTTATCGAGCGTTATCAAAATGTTGGCGGCGGTTGCACCCACTGGGGCACCATCCCGTCGAAAGCCATATGAATATCCTCCTTAG
udhA遺伝子(ウェブサイトhttp ://genolist.pasteur. fr/Co libri/に参照配列)の配列(4158729〜4158650)に相同な領域(太字)、
−カナマイシン耐性カセット(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645に参照配列)の増幅の為の領域(下線文字)。
オリゴヌクレチドDudhAFおよびDudhARをプラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅するのに用いた。次いで、得られたPCR産物を、電気穿孔法によってMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δpgi::Cm Δedd-eda (pKD46)株に導入した。その後、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、耐性カセットの挿入を下に定義されたオリゴヌクレオチドudhAFおよびudhARを用いて、PCR分析によって検証する。保持された株を、MG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δpgi::Cm Δedd-eda ΔudhA::Kmと呼ぶ。
udhAF (配列番号39) : GATGCTGGAAGATGGTCACT (4157088〜4157108の配列に相同)
udhAR (配列番号40) : gtgaatgaacggtaacgc (4159070〜4159052の配列に相同)。
次に、pME101-ycdWプラスミドをMG1655 ΔaceB Δgcl ΔglcDEFGB ΔaldA ΔiclR Δpgi::Cm Δedd-eda ΔudhA::Kmに導入する。
【0062】
実施例8
三角フラスコにおけるグリコール酸生産株の発酵
初めに、株の性能を、40g/lのMOPSおよび10g/lのグルコースを補完し、pHを6.8に調節した改良M9培地(Anderson, 1946, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 32:120-128)を用いて、250mlのバッフル付三角フラスコ培養で評価した。必要に応じて、スペクチノマイシンを、50mg/lの濃度で加え、発現ベクターが存在する場合、その誘導の為に100μmのIPTGも又加えた。一晩の前培養を、約0.3のOD600 nmで50ml培養の接種の為に用いた。培養液は培養培地中においてグルコースが枯渇するまで、30°C、400rpmで振盪器で振盪する。培養の最後に、グルコースとグリコール酸を、分離のためにBiorad HPX 97Hカラムを、検出のために屈折計を用いて、HPLCで分析した。
【0063】
異なる株の性能比較を下表に示す(各値はn回の繰り返し実験の平均値)。実施例1に記載の株はいかなるグリコール酸生産も示さなかった。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例6および実施例7に記載の株が、2g/lより高い滴定濃度(titer)、0.2g/gより高い収率を有し、グリコール酸の最良生産株である。
【0066】
実施例9
流加培養発酵槽におけるグリコール酸生産株の発酵
実施例6および実施例7に記載の株を、流加培養(fed batch)プロトコルを用いて、600ml発酵槽における生産条件下で評価した。
【0067】
試験管で第一の前培養を2.5g/lのグルコースを補完したLB培地で30℃で行った。それに続いて、第二の前培養を40g/lのMOPSおよび10g/lのグルコースを補完した合成培地(フラスコ培養に用いたものと同様の培地)50mlを満たした500ml三角フラスコにおいて、30°Cで行った。第二の前培養を発酵槽の接種に用いた。
【0068】
40g/lのグルコース、50mg/lのスペクチノマイシン、100μmのIPTGを補完した200ml合成培地を満たした発酵槽に初期吸光度約2で接種した。培養は攪拌しながら30°Cで行い、通気は溶解酸素30%を超える飽和率を維持するように調節した。pHは塩基を添加することによって6.8に調節した。培養はグルコースが枯渇するまでバッチモードで行った。その時点で、硫化マグネシウム、オリゴ成分、スペクチノマイシンおよびIPTGを補完した500g/lのグルコース溶液を、培地中のグルコースの濃度が40g/lに戻るように加えた。グルコースが枯渇する毎に更なる添加を施した。
通常、発酵槽において、実施例7記載の株は、実施例6記載の株より良い生産能力を示した(グルコースからの収率0.22g/g対0.15g/g)。
【0069】
実施例7記載の株を用いたグリコール酸生産のための発酵の典型的な時系列を下表に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
最終適定濃度は31g/lのグリコール酸で、グルコースに対する収率0.22g/gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール酸、その誘導体または前駆体の発酵生産方法であって、炭素源を含んでなる適切な培養培地中で微生物を培養すること、および培養培地からのグリコール酸の回収による、方法。
【請求項2】
微生物が、グリオキシレートのグリコレート以外の産物への変換を減衰させるように改変された、請求項1記載の方法。
【請求項3】
グリオキシレート代謝に関わる次の遺伝子から選択される遺伝子の少なくともひとつの発現が減衰された、請求項2記載の方法:
− リンゴ酸シンターゼをコードするace
− 第二のリンゴ酸シンターゼをコードするglc
− グリオキシル酸カルボリガーゼをコードするgcl
− 2-ケト-3-デオキシグルコン酸6-リン酸アルドラーゼをコードするeda
【請求項4】
微生物が、グリオキシレートのグリコレートへの変換を触媒するポリペプチドをコードする少なくともひとつの遺伝子を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
遺伝子が、NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素をコードする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が内在性である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子の発現が増加された、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
NADPH依存性グリオキシル酸還元酵素活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が、ycdWおよびyiaEから選択される、請求項4〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
微生物が、実質的にグリコレートを代謝することができないように改変された、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
グリコレート代謝に関わる次の遺伝子、
− グリコール酸酸化酵素をコードするglcDEF、
− グリコルアルデヒド脱水素酵素をコードするaldA
から選択される少なくともひとつの遺伝子の発現が減衰された、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
微生物が、グリオキシル酸経路の流れを増加させるように形質転換された、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
イソクエン酸脱水素酵素の活性が減衰された、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
次のうち少なくとも一つの遺伝子の発現が減衰された、請求項11に記載の方法:
− ホスホトランスアセチラーゼをコードするpta
− 酢酸キナーゼをコードするack
− ピルビン酸酸化酵素をコードするpoxB。
【請求項14】
aceAの活性を増加させることによりグリオキシル酸経路の流れが増加された、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
iclRまたはfadRの発現を減衰させることによりaceAの発現が増加された、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
aceA遺伝子の上流に人工プロモーターを導入することによりaceAの発現が増加された、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
NADPHの供給が増加された、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
次の遺伝子、
− グルコース-6-リン酸イソメーラーゼをコードするpgi
− 可溶性トランスヒドロゲナーゼをコードするudh
− ホスホグルコン酸脱水酵素をコードするedd
から選択される少なくともひとつの遺伝子の発現が減衰された、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
炭素源が、グルコース、スクロース、単糖類もしくはオリゴ糖類、デンプンもしくはその誘導体、またはグリセロールの少なくとも1つである、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
下記工程を含んでなる、請求項1〜19のいずれか一項に記載されたグリコレートの発酵調製方法:
a)グリコレート生産する微生物の発酵工程
b)細菌または培地中におけるグリコレートの濃縮工程、および
c)最終産物中に、場合によっては一部または全量(0〜100%)残存している発酵培養液および/またはバイオマスからのグリコール酸の単離工程。
【請求項21】
グリコレートが、少なくともグリコレートの二量体に重合する工程を通して単離される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
グリコレートが、グリコレートの二量体、オリゴマーおよび/またはポリマーからの脱重合によって回収される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項で定義された微生物。
【請求項24】
E.coliC.glutamicumまたはS.cerevisiaeからなる群から選択される、請求項23に記載の微生物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−539361(P2009−539361A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513700(P2009−513700)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055625
【国際公開番号】WO2007/141316
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(505311917)メタボリック エクスプローラー (26)
【Fターム(参考)】