説明

再生塊の品質保証方法および品質保証システム

【課題】本発明は、再生塊の純正品と偽造品や紛い物とを容易に識別できる再生塊の品質保障方法および品質保証システムの提供。
【解決手段】鋳造元においては、前記再生塊を成分分析し、得られた成分分析結果を前記再生塊の鋳造ロットを示す鋳造ロット記号と関連付け、鋳造ロット記号と関連付けられた成分分析結果のデータを前記再生塊を出荷するユーザに送付するとともに、前記再生塊の組成範囲を表示する符号および鋳造ロット記号を前記再生塊に付して前記ユーザに出荷し、前記ユーザにおいては、前記鋳造元から前記再生塊を受領すると、前記再生塊に付された鋳造ロット記号および符号を、前記鋳造元から送付されたデータと比較して前記再生塊が純正品か偽造品かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生塊の品質保証方法および品質保証システムに関する。
【背景技術】
【0002】
使用済みの平版印刷版や、製造ラインで平版印刷版ウェブを所定の寸法に裁断および切断する際に排出される端材はこれまで廃棄されていたが、これらは殆どが純アルミニウムまたはアルミニウム合金のシートからなる。
【0003】
したがって、使用済みの平版印刷版や端材を再生地金として再生利用できれば経済的である。
【0004】
使用済みの平版印刷版や端材を地金として再生する方法としては、たとえば使用済み平版印刷版および/または未使用平版印刷版の画像記録層および付着物を除去する工程と、前記記録層および付着物を除去された使用済み平版印刷版および/または未使用平版印刷版を溶解させてアルミニウム溶湯を得る工程と、前記アルミニウム溶湯からアルミニウム合金板を得る工程と、前記アルミニウム合金板に表面処理を施して平版印刷版用支持体を得る工程とを具備する平版印刷版用支持体の製造方法がある(特許文献1)。
【0005】
また、使用済みの平版印刷版を1%以上含有する溶解用材料を用い、鋳造前に、ガスによる溶湯処理と濾材を用いる濾過を行って不純物およびHガスを除去した後に鋳造を行い、その後、冷間圧延、熱処理の何れか一方または両方を行ってアルミニウム薄板とした後、矯正、粗面化を行う平版印刷版用支持体の製造方法もある(特許文献2)。
【0006】
更に、溶解炉でアルミニウムインゴットおよびアルミニウム母合金を溶解させて得られたアルミニウム溶湯に、使用済み平版印刷版を、前アルミニウム原材料の量に対する該使用済み平版印刷版の量が1〜90質量%となる割合で投入して溶解させた溶湯からアルミニウム合金板を製造し、製造されたアルミニウム合金板に粗面化処理を行って平版印刷版用支持体とする平版印刷版用支持体の製造方法であって、該使用済み平版印刷版のうち、A1000系のものの質量をaとし、A3000系のものの質量をbとすると、質量比b/a≦0.3を満足するようにする製造方法もある(特許文献3)。
【0007】
加えて使用済みのアルミニウム容器、および使用済みのアルミニウム製平版印刷版を原料として、アルミニウム含有率が95〜99wt%の低純度アルミニウム合金を鋳造、熱処理、圧延を行って圧延版とした後、粗面化処理、陽極酸化処理を行って平版印刷版用支持体とする方法もある(特許文献4)。
【0008】
更に加えて、加熱手段を用いてアルミニウム原材料を溶解し、アルミニウム溶湯の状態で保持する第1室と、前記第1室と底部で連通し、上部において隔壁で仕切られた第2室とで構成された溶解炉を用いて前記アルミニウム原材料を溶解するとともに、使用済み平版印刷版や平版印刷版用アルミニウム板を、前記溶解炉の第2室に、前記アルミニウム溶湯に対して1重量%以上投入して溶解する平版印刷版の支持体の製造方法もある(特許文献5)。
【0009】
家電製品などのリサイクルシステムとしては、たとえば、回収製品の名称、メーカ名、型名などの製品情報を前記回収製品から読み込む読込み手段と、前記製品情報に含まれる情報を、再製品化可能期限を表す期限情報に対応付ける製品仕様情報データベースと、前記製品情報に含まれる情報を、再販売に当たり満足する必要がある法規制情報および規格情報に対応付ける法規制/規格情報データベースとを記録する記憶手段と、前記読込み手段に読み込まれた製品情報に含まれる製造年月から、前記製品情報に含まれる情報に前記製品仕様情報データベースが対応付ける期限情報の示す再製品化可能期限の範囲内に前記回収製品がある場合であって前記読込み手段が読み込んだ製品情報に含まれる情報に前記法規制/規格情報データベースが対応付ける前記規正法上および前記規格情報を前記回収製品が満たしたときは、前記回収製品を再製品化対象と判定し、その他の場合には、前記塊修正品を、構成部品への分解処理対象と判定するリサイクル判定手段と、前記リサイクル判定手段の判定結果を出力する出力手段とを備えるリサイクルシステムがある(特許文献6)。
【0010】
前記リサイクルシステムとしては、更に、廃棄物回収処理における受け渡し状況を管理する管理表を備え、該管理表の識別番号を記載する端を設けたシールを廃棄物に添付するようにしたリサイクルシステムもある(特許文献7)。
【特許文献1】特開2005−186415号公報
【特許文献2】特許第3420817号公報
【特許文献3】特開2002−225449号公報
【特許文献4】特開2002−331767号公報
【特許文献5】特開2000−351060号公報
【特許文献6】特許第3344845号公報
【特許文献7】特開2002−099614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のように使用済みの平版印刷版や端材などから再生した再生地金から平版印刷版を製造するときは、前記使用済みの平版印刷版や端材などを鋳造した再生塊と新地金とを溶解炉で溶解し、必要に応じて微量成分を添加して平版印刷版用スラブを作製し、これを所定の厚みまで圧延して片面または両面を粗面化して支持体とし、さらに前記支持体の粗面化面に製版層を形成するという手順を経るのが一般的である。
したがって、前記再生塊に偽造品や紛い物が混入すると、得られる平版印刷版に品質上の問題が生じたり、コスト上のロスが生じたりする。
【0012】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、再生塊の純正品と偽造品や紛い物とを容易に識別できる再生塊の品質保障方法および品質保証システムを提供するとともに、再生塊に規格外品が混入していた場合でも新地金とともに溶解することでスラブとして再生利用できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、未使用平版印刷版および使用済み平版印刷版の少なくとも一方を溶解して所定の形状に鋳造した再生塊の品質保証方法において、前記再生塊鋳造した鋳造元においては、前記再生塊を成分分析し、得られた成分分析結果を前記再生塊の鋳造ロット記号と関連付け、鋳造ロット記号と関連付けられた成分分析結果のデータを前記再生塊を出荷するユーザに送付するとともに、前記再生塊の組成範囲を表示する符号および鋳造ロット記号を前記再生塊に付して前記ユーザに出荷し、前記ユーザにおいては、前記鋳造元から前記再生塊を受領すると、前記再生塊に付された鋳造ロット記号および符号を、前記鋳造元から送付されたデータと比較し、前記データに係る鋳造ロット記号に関連付けられた成分分析結果が、前記符号で表示される組成範囲内であれば前記再生塊は純正品であると判定し、前記データに係る鋳造ロット記号に関連付けられた成分分析結果が、前記符号で表示される組成範囲外であれば前記再生塊は偽造品であると判定することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の再生塊の品質保証方法において、前記鋳造元で、組成範囲を示す符号および鋳造ロット記号に加えて前記再生塊の製造場所、および鋳造年月日も示す符号も前記再生塊に付してからユーザに出荷することを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の再生塊の品質保証方法において、前記鋳造元において前記ユーザに出荷される再生塊に附される符号は、色彩によって前記再生塊に含まれる元素の種類を示し、前記符号の個数によって前記元素の含有量の範囲を示すことを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の再生塊の品質保証方法において、前記鋳造元で、前記再生塊の成分分析結果に加えて重量データもユーザに送付することを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の再生塊の品質保証方法において、前記ユーザでは、前記再生塊を鋳造元から受領すると、鋳造元から送付された前記再生塊に係るデータにおける成分分析結果を環境規制物質の規制基準と比較し、前記データに係る鋳造ロット記号に関連付けられた成分分析結果が前記符号で表示される組成範囲内であり、しかも前記成分分析結果に示される環境規制物質の含有量が前記規制基準内であるとき、前記再生塊を受け入れることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載の再生塊の品質保証方法において、前記ユーザでは、純正品と判定した複数の再生塊の夫々について、前記再生塊の鋳造ロット記号と前記鋳造元から送付されたデータとから成分分析結果を求め、成分分析結果の平均が、前記ユーザにおいて予め定められた基準内であれば、前記複数の再生塊を受け入れることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項4に記載の再生塊の品質保証方法において、前記ユーザでは、純正品と判定した再生塊について、前記再生塊の鋳造ロット記号と前記鋳造元から送付されたデータとから成分分析結果を求め、鋳造元から送付された前記再生塊の重量データおよび前記手順で求められた再生塊の成分分析結果と、前記再生塊に所定の重量比で配合しようとする純アルミニウムまたはアルミニウム合金の新地金の成分組成および前記再生塊に対する重量比とから、前記再生塊および新地金から製造される平版印刷版用スラブの成分組成を求め、上記手順で求められた平版印刷版用スラブの成分組成がユーザの定めた基準内であれば、前記再生塊を受け入れることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は、未使用平版印刷版および使用済み平版印刷版の少なくとも一方を溶解して所定の形状に鋳造した再生塊の品質保証システムであって、前記再生塊を成分分析して得られた成分分析結果を前記再生塊の鋳造ロット記号と関連付ける第1の処理装置と、前記第1の処理装置で関連付けられた成分分析結果と前記鋳造ロット記号とが格納される第1の記憶装置と、得られた再生塊に付された成分組成を示す符号の色彩、形状、個数と前記再生塊の組成範囲とが関連付けられて格納されている第2の記憶装置と、前記再生塊の鋳造ロット記号と、前記鋳造ロットに付された符号の色彩、形状、個数とが入力されると、前記第1の記憶装置から前記鋳造ロット記号に対応する成分分析結果を呼び出し、前記第2の記憶装置から前記符号の色彩、形状、個数に対応する前記鋳塊の組成範囲を読み出す第2の処理装置と、前記再生塊の鋳造ロット記号と、前記鋳造ロットに付された符号の色彩、形状、個数とを前記第2の処理装置に入力する入力装置と、前記入力装置から前記第2の処理装置に前記再生塊の鋳造ロット記号と、前記鋳造ロットに付された符号の色彩、形状、個数とが入力され、前記第2の処理装置によって前記鋳造ロット記号に対応する成分分析結果、および前記符号の色彩、形状、個数に対応する前記鋳塊の組成範囲が呼び出されると、前記組成範囲と前記成分分析結果とを比較して、後者が前者の範囲内であるとき、前記鋳造ロット記号に係る再生塊は純正品であると判定し、後者が前者の範囲外であるとき、前記鋳造ロット記号に係る再生塊は偽造品であると判定する真贋判定装置と、前記真贋判定装置における判定結果を前記入力装置で入力された鋳造ロット記号と関連付けて出力する出力装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、鋳造ロット記号に関連付けられた成分分析結果と、再生塊に付された符号で表示される組成範囲内とを比較して鋳造元から納入された再生塊の真贋を判定しているから、ユーザで再生塊の真贋を容易に識別できる再生塊の品質保障方法が提供される。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、前記鋳造元で、組成範囲を示す符号および鋳造ロット記号に加えて前記再生塊の製造場所、および鋳造年月日も示す符号も前記再生塊に付してからユーザに出荷しているから、ユーザでは、再生塊の組成範囲を示す符号だけでなく、前記製造場所や製造年月日を示す符号も参照して再生塊の真贋を判定できる。したがって、再生塊の製造方法の変化や異なる製造場所における不純物管理のレベル差を考慮した再生塊の真贋の判定が可能になる。
【0023】
請求項3の発明によれば、再生塊に含まれる不純物の種類に対応した色彩および形状の記号が附され、しかも、前記不純物の含有量に対応した個数の符号が鋳造元において付される。
【0024】
したがって、ユーザにおいては、受領した再生塊に付されていた符号の色彩、形状、および個数から前記再生塊に含有される不純物の種類および含有量を知ることができる。
【0025】
請求項4の発明によれば、再生塊の重量データもユーザに送付されるから、ユーザ側では前記重量データを利用することにより、前記再生塊がユーザ側で定めた規格から外れる規格外品であったときに前記再生塊を新地金に配合することで平版印刷版用スラブとして使用できるか否かの判断が可能になる。
【0026】
請求項5の発明によれば、環境規制物質を基準値以上含有する再生塊がユーザで純正品として受け入れられることを防止できる。
【0027】
請求項6の発明によれば、たとえば、複数個の再生塊のうちの一部がユーザで定めた基準を満たしていない場合であっても、前記複数個の再生塊の組成の平均値が前記基準を満たしていれば、前記ユーザで純正品として受け入れられるから、純正品ではあっても不純物含有量の多い再生塊を有効利用できる。
【0028】
請求項7の発明によれば、たとえ純正品として受け入れた再生塊がユーザで定めた成分組成の基準から外れる規格外品であっても、前記再生塊に新地金を配合して得られる平版印刷版用スラブの成分組成が前記基準範囲内であれば受け入れられる。
したがって、前記規格から多少外れる再生塊であっても再利用が可能になる上、新地金のみから平版印刷版用スラブを製造する場合と比較して新地金を節約できるから、平版印刷版用スラブの製造コストを低減することができる。
【0029】
請求項8の発明によれば、請求項1のところで述べたように、鋳造ロット記号に関連付けられた成分分析結果と、再生塊に付された符号で表示される組成範囲内とを比較して鋳造元から納入された再生塊の真贋を判定しているから、ユーザで再生塊の真贋を容易に識別できる再生塊の品質保障システムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
1.実施形態1
鋳造元において使用済み平版印刷版および未使用平版印刷版から再生地金を再生して再生塊とする再生塊製造ラインの一例を図1に示す。
【0031】
図1に示すように、再生塊製造ライン1は、ユーザから回収された使用済み平版印刷版14A、および平版印刷版製造工程で発生した不良品や裁断屑などの未使用平版印刷版14Bを溶解して溶湯12とする溶解炉10と、溶解炉10で得られた溶湯12をガス処理するガス処理槽24と、ガス処理槽24でガス処理された溶湯12を濾過する濾過槽26と、濾過槽26で濾過された溶湯12を凝固させて再生塊32とする水冷鋳型30と、再生塊32を下方から受ける受台34と、濾過槽26で濾過された溶湯12を水冷鋳型30に導く溶湯供給ノズル28とを備える。溶解炉10とガス処理槽24とは管路23で、ガス処理槽24と濾過槽26とは管路25で、濾過槽26と溶湯供給ノズル28とは管路27で接続されている。但し、得られた再生塊32は、平版印刷版用スラブを製造するときに再度溶解されるから、そのときに脱ガス処理および濾過をしてもよい。したがって、再生塊製造ライン1においては、ガス処理槽24および濾過槽26を省略してもよい。
【0032】
溶解炉10は、上方が天井璧16で遮蔽されているとともに、天井璧16から底壁面11に向かって隔壁18が垂下している。溶解炉10は、上部においては、隔壁18によって第二室10Bと第一室10Aとに仕切られているが、第二室10Bと第一室10Aとは、溶解炉10の底壁面11近傍において連通する。
【0033】
第二室10Bの側璧には、使用済み平版印刷版14Aや未使用平版印刷版14Bを投入する投入口20が設けられている。
【0034】
一方、第一室10Aには、バーナー22が設けられており、投入された使用済み平版印刷版14Aおよび未使用平版印刷版14Bを加熱溶解するようになっている。しかし、第二室10Bとは隔壁18で仕切られているので、投入口20から投入された使用済み平版印刷版14Aや未使用平版印刷版14Bにバーナー22の炎が直接には接触しない構造となっている。
【0035】
ガス処理槽24には、導入された溶湯12にアルゴンガスなどの不活性ガスを吹き込むためのガス吹込み管路24Aが設けられている。
【0036】
濾過槽26には、溶湯12を濾過するためのセラミックスフィルタ26Aが設けられた濾過室26Bと、セラミックスフィルタ26Aで濾過された溶湯12を一時貯留する一時貯留室26Cと、濾過室26Bと一時貯留室26Cとを仕切る隔壁26Dとを備える。濾過室26Bと一時貯留室26Cとは、隔壁26Dと濾過槽26の底面との間の間隙において連通する。
【0037】
以下、再生塊製造ライン1の作用について述べる。
【0038】
溶解炉10の第1室10Aにおいては、予め所定量の純アルミニウム合金のインゴットが投入され、これがバーナー22の熱で溶解されて生じた溶湯12によって底壁面11近傍が満たされている。ここで、第1室10Aと第2室10Bとは隔壁18と底壁面11との間の間隙によって連通しているから、第1室10Aで生じた溶湯12は第2室10Bにおける底壁面11近傍にも溜まる。なお、溶湯12の液面の高さは、隔壁18の下端が溶湯12中に浸漬されるように設定されている。
【0039】
投入口20から使用済み平版印刷版14Aや未使用平版印刷版14Bが第2室10Bに投入されると、投入された使用済み平版印刷版14Aや未使用平版印刷版14Bは溶湯12の熱で溶解される。
【0040】
使用済み平版印刷版14Aや未使用平版印刷版14Bを溶解した溶湯12は、管路23を通して溶解炉10から取り出してガス処理槽24に導入され、ガス処理槽24において、ガス吹込み管路24Aを通してアルゴンガスなどの不活性ガスが吹き込まれる。これにより、使用済み平版印刷版14Aや未使用平版印刷版14Bに付着していた製版層や合紙、包装材などの不純物が燃焼して生じた燃焼ガスおよび溶湯12が水分と反応して生じた水素ガスなどの溶湯12に溶存していた溶存ガスが除去される。
【0041】
ガス処理槽24で溶存ガスが除去された溶湯12は、管路25を通って濾過槽26の濾過室26Bに導入され、内部に設けられたセラミックスフィルタ26Aで濾過される。これにより、溶湯12中の前記不純物が燃焼して生じた残渣が除去される。
【0042】
セラミックスフィルタ26Aで濾過された溶湯12は、一時貯留室26Cに導入され、管路27を通って溶湯供給ノズル28に送られ、水冷鋳型30に導入される。そして、水冷鋳型30によって所定形状の再生塊32に鋳造される。
【0043】
このようにして鋳造された再生塊32のうちから所定個数、たとえば1個の再生塊32が抜き出され、Al、Si、Cu、Fe、およびTiの含有量が測定される。なお、含有量を測定される元素の種類はAl、Si、Cu、Feには限定されないから、これらの元素に加え、MnおよびMgの含有量を測定してもよい。
【0044】
抜き出した再生塊32について元素分析がされたら、図2に示すように、再生塊32にたとえばAA−1234のような鋳造ロットを示す符号を刻印する。そして、再生塊32の1個当たり重量がたとえば50kgであり、平成19年10月16日の鋳造であれば、前記ロットを示す符号AA−1234の下方に50kg、および平成19年10月16日の日付を刻印する。
【0045】
更に、図2に示す刻印に加えて、図3に示すように、Siについては赤線、Cuについては青線、Feについては黄線、Tiについては白線というように、再生塊32に、元素毎に異なる色彩の線からなる符号を付する。なお、前記符号として、元素毎に異なる色彩の線を付す代わりに、異なる色彩の点や三角印、星印等、各種のマークを付してもよい。
【0046】
また、これらの符号の本数や個数によってSi、Cu、Fe、およびTiの含有量を示すようにしてもよい。
【0047】
このように再生塊32に異なる色彩の線、点、三角印、星印などの符号を附すことにより、前記再生塊32における元素含有量が一目瞭然で判る。
【0048】
平版印刷版を製造する際は、通常、図4に示すように、異なる鋳造ロット、たとえばAA−1234、AA−1235、およびAA−1236の再生塊32が、夫々x個、y個、およびz個溶解炉に投入されて溶解、混合され、凝固されて地金スラブが形成される。
【0049】
そして、得られた地金スラブを所定の厚さまで圧延してウェブとし、このウェブの片面または両面を粗面化処理して支持体ウェブとする。そしてこの支持体ウェブの粗面化面に感光性、感熱性、または光重合性の製版層を形成して平版印刷版ウェブとし、これを所定のサイズに裁断および切断して平版印刷版34とする。
【0050】
このようにして製造された平版印刷版34の製版層34Aとは反対側の面34Bに、図5に示すように平版印刷版のロット番号などの識別表示を表示することで、ユーザで製版、印刷中に品質故障が生じたときに、何時製造されたどの鋳造ロットの再生塊32が使用されたかの追跡が容易に行える。したがって、前記品質故障が再生塊32の品質によるものなのか、それとも加工工程の不良によるものなのかの判断が容易になる。
【0051】
また、ロット番号AA−1234、AA−1235、およびAA−1236の再生塊32のうち、たとえばロット番号AA−1234において、Si含有量、Cu含有量、Fe含有量、およびTi含有量のうち、Si含有量a1重量%が平版印刷版用支持体として許容できる基準範囲外であってとしても、ロット番号AA−1234、AA−1235、およびAA−1236の再生塊32のSi含有量の平均値(a1・x+a2・y+a3・z)/(x+y+z)が前記基準範囲内であれば、ロット番号AA−1234の再生塊32も使用できる。したがって、製造したAA1234、1235、1236の再生塊32の何れかが、Si含有量、Cu含有量、Fe含有量、およびTi含有量のうち、たとえばSi含有量が前記基準範囲外であっても、前記再製秋32は、新たな平版印刷版用支持体の材料の一部として配合できる。
【0052】
以下、再生塊32の真贋を判別するための品質保証システムの一例について説明する。
本件実施形態に係る品質保証システム100は、たとえば図6に示すように、再生塊32の鋳造ロット記号などを入力するためのキーボード40と、キーボード40からの入力結果などを表示するディスプレー42と、第1の記憶装置44と、キーボード40、ディスプレー42、および第1の記憶装置44が接続され、更に再生塊32に含まれる元素の含有量を測定する元素分析装置150からの測定結果が入力される演算処理装置46と(第1の処理装置)と、演算処理装置46とサーバ60を介して接続されている演算処理装置50(第2の処理装置)と、演算処理装置50に接続され、ユーザ側で受領した再生塊32に付された後述する組成範囲を示す符号に関する情報を入力するキーボード52(入力装置)と、同じく演算処理装置50に接続され、キーボード52における入力結果および演算処理装置50における処理結果などを表示するディスプレー54(出力装置)と、演算処理装置50に接続され、予め図3に示す記号と各元素の含有量の範囲とが関連付けられて記憶されている第2の記憶装置56とを備える。
【0053】
品質保証システム100の構成要素のうち、キーボード40、ディスプレー42、演算処理装置46、および第1の記憶装置46は鋳造元に設置され、キーボード52、ディスプレー54、演算処理装置50、および第2の記憶装置56はユーザ側に設置されている。
【0054】
以下、品質保証システム100の作用について説明する。
図1に示す再生塊製造ライン1で鋳造ロットがAA−1234である再生塊32が製造されると、図7のステップS2において、キーボード40から鋳造ロット記号「AA−1234」が入力される。キーボード40から鋳造ロット記号「AA−1234」が入力されると、ステップS4において、演算処理装置46は、鋳造ロット記号AA−1234の再生塊32の分析結果(Si:a1wt%、Cu:b1wt%、Fe:c1wt%、Ti:d1wt%)を元素分析装置150から呼び出し、ステップS6において、キーボード40から入力された鋳造ロット番号AA−1234を、元素分析装置150から呼び出した元素分析結果(Si:a1wt%、Cu:b1wt%、Fe:c1wt%、Ti:d1wt%)と関連付けて第1の記憶装置44に格納する。
【0055】
同様に、図1に示す再生塊製造ライン1で鋳造ロットがAA−1235である再生塊32が製造されると、ステップS2においてキーボード40から鋳造ロット記号「AA−1235」が入力される。キーボード40から鋳造ロット記号「AA−1235」が入力されると、演算処理装置46は、鋳造ロット記号AA−1235の再生塊32の分析結果(Si:a2wt%、Cu:b2wt%、Fe:c2wt%、Ti:d2wt%)を元素分析装置150から呼び出す。そして、ステップS4において、演算処理装置46は、キーボード40から入力された鋳造ロット番号AA−1235を、元素分析装置150から呼び出した元素分析結果(Si:a2wt%、Cu:b2wt%、Fe:c2wt%、Ti:d2wt%)と関連付けて第1の記憶装置44に格納する。以下同様である。
【0056】
上記情報を第1の記憶装置44に格納したら、ステップS8において、鋳造元は再生塊32に図2に示す刻印および図3に示す符号を付して出荷する。ここで、図2に示す刻印は、鋳造ロット記号、重量、および製造年月日を示すものであり、鋳造場所を示す記号が含まれていてもよい。図3の符号は、再生塊32の元素含有量を示すものであり、たとえばSi含有量を示す赤線、Cu含有量を示す青線、Fe含有量を示す黄線、およびTi含有量を示す白線からなっている。そして、これらの赤線、青線、黄線、および白線は、何れも1本のときはこれらの元素の含有量がx重量%未満であることを、2本のときはx重量%以上y重量%未満であることを、3本のときはy重量%以上z重量%未満であることを、4本のときはz重量%以上であることを示す。但し、x<y<zである。なお、図3に示す符号における赤線、青線、黄線、および白線の本数は、夫々3本、2本、1本、1本である。
再生塊32は、これらの刻印および符号を付された後、鋳造元からユーザに出荷される。
【0057】
ここで、ユーザ側に設置されている第2の記憶装置56には、前記赤線、青線、黄線、白線が示す元素、および本数と各元素の含有量との関係についての情報が格納されている。
【0058】
ユーザは、鋳造元から再生塊32を受領すると、ステップS10においてキーボード52から再生塊32の鋳造ロット番号AA−1234を入力するとともに、および再生塊32に付された符号に関する情報、即ち赤線、青線、黄線、および白線が夫々3本、2本、1本、1本である旨入力する。
【0059】
キーボード52から鋳造ロット番号および前記符号に関する情報が入力されたら、ステップS12において、演算処理装置50は、第2の記憶装置56から、赤線、青線、黄線、白線が示す元素、および本数と各元素の含有量の範囲との関係についての情報を呼び出し、前記情報と、キーボード52から入力された赤線、青線、黄線、白線の本数とから、鋳造ロットがAA−1234の再生塊32の組成範囲を求める。ここで、先にも述べたように、前記再生塊32に付された赤線、青線、黄線、白線の本数は、夫々3本、2本、1本、1本であるから、前記再生塊32の組成範囲は、Siがy重量%以上z重量%未満、Cuがx重量%以上y重量%未満、FeおよびTiが夫々x重量%未満となる。
【0060】
ステップS14において、演算処理装置50は、サーバ60を介して第1記憶装置から鋳造ロット番号AA−1234の再生塊32の元素分析結果(Si:a1wt%、Cu:b1wt%、Fe:c1wt%、Ti:d1wt%)を呼び出す。
【0061】
そして、ステップS16において、演算処理装置50は、ステップS12で求めた再生塊32の組成範囲と、第1の記憶装置44から呼び出した再生塊32の元素分析結果とを比較する。そして、前記元素分析結果が前記組成範囲内であれば、言いかえればz>a1≧y、y>b1≧x、x>c1、およびx>d1の関係がすべて成り立てば、再生塊32は純正品であると判定する。一方、前記元素分析結果が前記組成範囲外であれば、言いかえればz>a1≧y、y>b1≧x、x>c1、およびx>d1の関係の何れか1つでも成り立たないときは、再生塊32は偽造品であると判定する。
【0062】
ステップS18において、演算処理装置50は、上記判定結果をディスプレー54に表示する。ユーザは、上記表示結果を見て再生塊32を受け入れるか破棄するかを決定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、使用済み平版印刷版および未使用平版印刷版から地金を再生して再生塊とする再生塊製造ラインの一例を示す説明図である。
【図2】図2は、本願発明の再生塊の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、本願発明の再生塊の別の例を示す斜視図である。
【図4】図4は、印刷画像に品質故障が生じたときに前記品質故障の原因を特定する手段を示す流れ図である。
【図5】図5は、平版印刷版にロット番号を附した例を示す斜視図である。
【図6】図6は、前記再生塊が純正品か偽造品かを判定する品質保証システムの構成を示すブロック図である。
【図7】図7は、図6に示す品質保証システムにおける純正品か偽造品かの判定手順を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0064】
1 再生塊製造ライン
10 溶解炉
10A 第一室
10B 第二室
11 底壁部
12 溶湯
14A 使用済み平版印刷版
14B 未使用平版印刷版
16 天井璧
18 隔壁
20 投入口
22 バーナー
23 管路
24 ガス処理槽
24A ガス吹き込み管路
25 管路
26A セラミックスフィルタ
26B 濾過室
26C 一時貯留室
26D 隔壁
26 濾過槽
27 管路
28 溶湯供給ノズル
30 水冷鋳型
32 再生塊
40 キーボード
42 ディスプレー
44 記憶装置
46 演算処理装置
46 記憶装置
50 演算処理装置
52 キーボード
54 ディスプレー
56 記憶装置
60 サーバ
100 品質保証システム
150 元素分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未使用平版印刷版および使用済み平版印刷版の少なくとも一方を溶解して所定の形状に鋳造した再生塊の品質保証方法であって、
前記再生塊を鋳造した鋳造元においては、
前記再生塊を成分分析し、得られた成分分析結果を前記再生塊の鋳造ロットを示す鋳造ロット記号と関連付け、鋳造ロット記号と関連付けられた成分分析結果のデータを前記再生塊を出荷する相手先のユーザに送付するとともに、
前記再生塊の組成範囲を表示する符号および鋳造ロット記号を前記再生塊に付して前記ユーザに出荷し、
前記ユーザにおいては、前記鋳造元から前記再生塊を受領すると、前記再生塊に付された鋳造ロット記号および符号を、前記鋳造元から送付されたデータと比較し、前記データに係る鋳造ロット記号に関連付けられた成分分析結果が、前記符号で表示される組成範囲内であれば前記再生塊は純正品であると判定し、前記データに係る鋳造ロット記号に関連付けられた成分分析結果が、前記符号で表示される組成範囲外であれば前記再生塊は偽造品であると判定することを特徴とする再生塊の品質保証方法。
【請求項2】
前記鋳造元においては、組成範囲を示す符号および鋳造ロット記号に加えて前記再生塊の製造場所、および鋳造年月日も示す符号も前記再生塊に付してユーザに出荷する請求項1に記載の再生塊の品質保証方法。
【請求項3】
前記鋳造元において前記ユーザに出荷される再生塊に附される符号は、色彩によって前記再生塊に含まれる元素の種類を示し、前記符号の個数によって前記元素の含有量の範囲を示す請求項1または2に記載の再生塊の品質保証方法。
【請求項4】
前記鋳造元においては、前記再生塊の成分分析結果に加えて重量データもユーザに送付する請求項1〜3の何れか1項に記載の再生塊の品質保証方法。
【請求項5】
前記ユーザにおいては、前記再生塊を鋳造元から受領すると、鋳造元から送付された前記再生塊に係るデータにおける成分分析結果を環境規制物質の規制基準と比較し、前記データに係る鋳造ロット記号に関連付けられた成分分析結果が前記符号で表示される組成範囲内であり、しかも前記成分分析結果に示される環境規制物質の含有量が前記規制基準内であるとき、前記再生塊を受け入れる請求項1〜4の何れか1項に記載の再生塊の品質保証方法。
【請求項6】
前記ユーザでは、純正品と判定した複数の再生塊の夫々について、前記再生塊の鋳造ロット記号と前記鋳造元から送付されたデータとから成分分析結果を求め、前記成分分析結果の平均が前記ユーザにおいて予め定められた基準内であれば、前記複数の再生塊を受け入れる請求項1〜5の何れか1項に記載の再生塊の品質保証方法。
【請求項7】
前記ユーザでは、純正品と判定した再生塊について、前記再生塊の鋳造ロット記号と前記鋳造元から送付されたデータとから成分分析結果を求め、
次に、鋳造元から送付された前記再生塊の重量データおよび前記手順で求められた再生塊の成分分析結果と、前記再生塊に所定の重量比で配合しようとする純アルミニウムまたはアルミニウム合金の新地金の成分組成および前記再生塊に対する重量比とから、前記再生塊および新地金から製造される平版印刷版用スラブの成分組成を求め、
上記手順で求められた平版印刷版用スラブの成分組成がユーザの定めた基準内であれば、前記再生塊を受け入れる請求項4に記載の再生塊の品質保証方法。
【請求項8】
未使用平版印刷版および使用済み平版印刷版の少なくとも一方を溶解して所定の形状に鋳造した再生塊の品質保証システムであって、
前記再生塊を成分分析して得られた成分分析結果を前記再生塊の鋳造ロットを示す鋳造ロット記号と関連付ける第1の処理装置と、
前記第1の処理装置で関連付けられた成分分析結果と前記鋳造ロット記号とが格納される第1の記憶装置と、
得られた再生塊に付された成分組成を示す符号の色彩、形状、個数と前記再生塊の組成範囲とが関連付けられて格納されている第2の記憶装置と、
前記再生塊の鋳造ロット記号と、前記鋳造ロットに付された符号の色彩、形状、個数とが入力されると、前記第1の記憶装置から前記鋳造ロット記号に対応する成分分析結果を呼び出し、前記第2の記憶装置から前記符号の色彩、形状、個数に対応する前記鋳塊の組成範囲を読み出す第2の処理装置と、
前記再生塊の鋳造ロット記号と、前記鋳造ロットに付された符号の色彩、形状、個数とを前記第2の処理装置に入力する入力装置と、
前記入力装置から前記第2の処理装置に前記再生塊の鋳造ロット記号と、前記鋳造ロットに付された符号の色彩、形状、個数とが入力され、前記第2の処理装置によって前記鋳造ロット記号に対応する成分分析結果、および前記符号の色彩、形状、個数に対応する前記鋳塊の組成範囲が呼び出されると、前記組成範囲と前記成分分析結果とを比較して、後者が前者の範囲内であるとき、前記鋳造ロット記号に係る再生塊は純正品であると判定し、後者が前者の範囲外であるとき、前記鋳造ロット記号に係る再生塊は偽造品であると判定する真贋判定装置と、
前記真贋判定装置における判定結果を前記入力装置で入力された鋳造ロット記号と関連付けて出力する出力装置と、
を備えることを特徴とする再生塊の品質保証システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−237819(P2009−237819A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81818(P2008−81818)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】