説明

再生角膜内皮細胞シート、製造方法及びその利用方法

組織から採取した角膜内皮細胞を、0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で培養し、培養後、(1)培養液温度を基材表面のポリマーが水和される温度とし、(2)培養した角膜内皮細胞シートをキャリアに密着させ、(3)キャリアと共にそのまま剥離することを特徴とする、再生角膜内皮細胞シートの製造方法。 上記方法により得られる再生角膜内皮細胞シートは、生体組織への付着性が極めて良好である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、生物学、医学等の分野における再生角膜内皮細胞シート、製造方法及びそれらを利用した治療法に関する。
【背景技術】
角膜組織とは、外側表面から角膜上皮層、ボーマン膜、角膜実質層、デスメ膜、角膜内皮層の5層からなる。最も内側の角膜内皮層は角膜組織に対し、裏打ちされた形となっており、デスメ膜が角膜内皮層の接着蛋白質からなる基底膜にあたる。角膜内皮細胞の機能は角膜実質の膨潤圧に逆らって実質側から前房側へ水を汲み出すことにあり、これはNa−K ATPaseを用いたポンプ作用によるものとされている。ヒトの角膜内皮細胞は、通常、生体内では細胞分裂しないとされ、変性、脱落した内皮細胞の分は残存する細胞が肥大化、或いは移動することで代償される。その際、残存する角膜内皮細胞数が少なすぎると、もはや角膜内皮組織によるポンプ機能が不十分となり、角膜組織が膨張し、角膜内皮障害、水疱性角膜症などの疾病を発症することとなる。これらの病気に対する治療法としては、目の痛みに対して治療用のソフトコンタクトレンズを使用したり、膨潤した角膜組織から水分をとるために高張食塩水の眼軟膏や点眼薬を使用する方法などがあげられるが、この方法では対症療法に過ぎず、根本的な治療法が望まれていた。
医療技術の著しい発展により、近年、治療困難となった臓器を他人の臓器と置き換えようとする臓器移植が一般化してきた。上記の角膜内皮障害、水疱性角膜症などの疾病に対しても角膜全層を移植することで根本的に治療しようとする試みがなされている。しかしながら、依然としてドナー数は患者数に対し圧倒的に少なく国内だけでも角膜移植の必要な患者が年間約2万人出てくるのに対し、実際に移植治療が行える患者は約1/10の2000人程度でしかないといわれている。角膜移植というほぼ確立された技術があるにもかかわらず、ドナー不足という問題のため、次なる医療技術が求められているのが現状である。
そのような問題を解決する手段として、最近、必要な組織を生体外で人工的に培養して得ようとする再生医療技術が急速に進歩してきた。従来、そのような細胞培養は、ガラス表面上あるいは種々の処理を行った合成ポリマーの表面上にて行われていた。例えば、ポリスチレンを材料とする表面処理、例えばγ線照射、シリコーンコーティング等を行った種々の容器等が細胞培養用容器として普及している。しかしながら、上記の角膜内皮細胞はこのような容器表面では高密度に増殖させ難い細胞として知られており、より良い培養法が望まれていた。
また、細胞培養用容器を用いて培養・増殖した細胞は、通常、トリプシンのような蛋白分解酵素や化学薬品により処理することで容器表面から剥離・回収される。しかし、上述のような化学薬品処理を施して増殖した細胞を回収する場合、不純物混入の可能性が多くなること、及び増殖した細胞が化学的処理により変成若しくは損傷し細胞本来の機能が損なわれる例があること等の欠点が指摘されていた。かかる欠点を克服するために、これまでいくつかの技術が提案されている。
特公平2−23191号公報には、ヒト新生児由来角化表皮細胞を、ケラチン組織の膜が容器の表面上に形成される条件下にて、培養容器中で培養し、ケラチン組織の膜を酵素を用いて剥離させることを特徴とするケラチン組織の移植可能な膜を製造する方法、が記載されている。具体的には、3T3細胞をフィーダーレイヤーとして増殖、重層化させ、蛋白質分解酵素であるディスパーゼを用いて細胞シートを回収する技術が開示されている。しかしながら、当該公報に記載されている方法は次のような欠点を有していた。
(1)ディスパーゼは菌由来のものであり、回収された細胞シートを十分に洗浄する必要性があること。
(2)培養された細胞ごとにディスパーゼ処理の条件が異なり、その処理に熟練が必要であること。
(3)ディスパーゼ処理により培養された表皮細胞が病理学的に活性化されること。
(4)ディスパーゼ処理により細胞外マトリックスが分解されること。
(5)そのためその細胞シートを移植された患部は感染され易いこと。
上述したような従来法の欠点に加えて、本発明の対象である角膜内皮細胞は、皮膚細胞ほど細胞・細胞間の結合が強くないため、上記ディスパーゼをもってしても、培養後、1枚のシートとして剥離、回収することはできなかった、という欠点を有していた。
また、特願2001−226141号では、水に対する上限もしくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である温度応答性ポリマーを基材表面に被覆した細胞培養支持体上で前眼部関連細胞を培養し、必要に応じて常法により培養細胞層を重層化させ、支持体の温度を変えるだけで培養した細胞シートを剥離させることで、十分な強度を持った細胞シートの作製が可能となった。しかしながら、実際に得られる角膜内皮細胞シートの生着性、機能を考えるとさらに改善が望まれていた。
【発明の開示】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、眼組織への付着性が良好な再生角膜内皮細胞シートを提供することを目的とする。また、本発明は、その製造法、並びに利用方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した特定条件の細胞培養支持体上で角膜内皮細胞を特定条件下で培養し、その後、培養液温度を基材表面のポリマーが水和する温度とし、培養した再生角膜内皮細胞シートを特定のキャリアに密着させ、細胞シートの収縮を抑えながら、そのままキャリアと共に剥離することにより、生体組織に極めて付着性の良い再生角膜内皮細胞シートが得られることを見いだした。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、前眼部組織への付着性が良好で、機能の面にも十分な程度の細胞密度からなる、キャリアに密着させた再生角膜内皮細胞シートを提供する。
また、本発明は、0〜80℃の温度範囲内で脱水和する温度応答性ポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上で細胞を培養し、その後、
(1)培養液温度を基材表面のポリマーが水和される温度とし、
(2)培養した角膜内皮細胞シートをキャリアに密着させ、
(3)キャリアと共にそのまま剥離する
ことを特徴とする再生角膜内皮細胞シートの製造方法を提供する。
加えて、本発明は、上記再生角膜内皮細胞シートを移植することを特徴とする治療法を提供する。
更に加えて、本発明は、創傷した組織を治療するための上記再生角膜内皮細胞シートを提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例4で細胞培養支持体材料から剥離された再生角膜細胞シートを示す。
図2は、実施例4で培養中のヒト再生角膜細胞シートを培養1日後(A)、3日後(B)、7日後(C)、14日後(D)にそれぞれ取り出し生成されるコラーゲンIV(上図)並びにフィブロネクチン(下図)を常法に従い染色した結果を示す。
図3は、実施例4で培養4日後の再生角膜内皮細胞シートに存在するZO−1タンパク質を免疫蛍光染色した結果を示す。
図4は、実施例4で得られた剥離途中のヒト再生角膜細胞シートに存在するコラーゲンIV(左図)並びにフィブロネクチン(右図)を常法に従い染色した結果を示す。図中の矢印は剥離方向を示す。
図5は、実施例4で剥離後のヒト再生角膜細胞シートをH/E染色した結果(左図)、細胞シートに存在するコラーゲンIV(中央図)並びにフィブロネクチン(右図)を常法に従い染色した結果を示す。
図6は、実施例4で得られたヒト再生角膜細胞シートのTEM像を示す。図中の記号はそれぞれECM:細胞外マトリックス、N:核、GC:Golgi Complex、M:ミトコンドリア、EM:Endoplasmic Reticulumを示し、矢印部分は細胞−細胞間結合を示している。
図7は、実施例5、比較例3、4で示される角膜内皮細胞シート表層に存在するタンパク質並びに細胞−細胞間の結合に関与するZO−1タンパク質をSDS−PAGE法にて確認した結果を示す。上図のAにCoomassie brillinat blueで染色し細胞シート表層に存在するタンパク質を測定した結果、また下図のBは抗ヒトZO−1ポリクローナル抗体を用いて染色した結果を示す。図中のTは本発明の細胞培養支持体材料から低温処理で剥離させた細胞シートの結果を示し、Dは市販の温度応答性ポリマーが被覆されていない基材からディスパーゼ処理して得られた細胞、Sはその市販基材からスクレーパー法により剥離した細胞の分析結果を示す。
図8は、実施例7で得られた剥離前の再生角膜内皮シートに対し、抗ウサギNa−K ATPaseモノクローナル抗体を用い染色させ、Na−K ATPaseポンプサイト部を緑色に染色させ、propidium iodideで細胞核を赤色に染色させ、共焦点顕微鏡を用いて得られた結果を示す。その際、上図のAは培養細胞シートの上面からの観察した結果を示し、Bは厚さ方向を観察した結果である。
図9は、図中のAにヒト角膜内皮細胞シート内の細胞密度に対する1細胞当たりのポンプ数の相関性を示し、図中のBに細胞密度に対する単位面積当たりのポンプ数の相関性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に使われる代表的な内皮細胞は角膜組織内にある角膜内皮細胞であるが、その種類は、何ら制約されるものではない。本発明において、再生角膜内皮細胞シートとは、上記した各種細胞が培養支持体上で単層状に培養され、その後、支持体より剥離されたシートを意味する。
本発明における再生角膜内皮細胞シートは培養時にディスパーゼ、トリプシン等で代表される蛋白質分解酵素による損傷を受けていないものである。そのため、基材から剥離された再生角膜内皮細胞シートは、細胞−細胞間のデスモソーム構造が保持され、構造的欠陥が少なく、強度の高いものである。また、本発明のシートは培養時に形成される細胞−基材間の基底膜様蛋白質も酵素による破壊を受けていない。このことにより、移植時において患部組織と良好に接着することができ、効率良い治療を実施することができるようになる。以上のことを具体的に説明すると、トリプシン等の通常の蛋白質分解酵素を使用した場合、細胞−細胞間のデスモソーム構造及び細胞、基材間の基底膜様蛋白質等は殆ど保持されておらず、従って、細胞は個々に分かれた状態となって剥離される。その中で、蛋白質分解酵素であるディスパーゼに関しては、細胞−細胞間のデスモソーム構造については10〜60%保持した状態で剥離させることができることで知られているが、細胞−基材間の基底膜様蛋白質等を殆ど破壊してしまうため、得られる細胞シートは強度の弱いものである。これに対して、本発明の細胞シートは、デスモソーム構造、基底膜様蛋白質共に80%以上残存された状態のものであり、上述したような種々の効果を得ることができるものである。
本発明における再生角膜内皮細胞シートは生体組織である前眼部組織に極めて良好に生着する。その性質は、支持体表面から剥離させた再生角膜内皮細胞シートの収縮を抑えることで実現されることを見いだした。その際、再生角膜内皮細胞シートの収縮率はシート内の何れの方向における長さにおいても20%以下であることが望ましく、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下であることが好ましい。シートの何れかの方向の長さにおいて20%以上となると、剥離した細胞シートはたるんだ状態となり、その状態で生体組織に付着させても組織に密着させられず、本発明で示すところの高生着性は望めない。
再生角膜内皮細胞シートを収縮させない方法は、細胞シートを収縮させない方法であれば何ら制約されるものではないが、例えば、支持体から再生角膜内皮細胞シートを剥離させる際、これらの細胞シートに中心部を切り抜いたリング状のキャリアなどを密着させ、そのキャリアごと細胞シートを剥離する方法などが挙げられる。
再生角膜内皮細胞シートを密着させる際に使用するキャリアは、本発明の細胞シートが収縮しないように保持するための構造物であり、例えばポリマー膜またはポリマー膜から成型された構造物、金属性治具などを使用することができる。例えば、キャリアの材質としてポリマーを使用する場合、その具体的な材質としてはポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース及びその誘導体、紙類、キチン、キトサン、コラーゲン、ウレタン等を挙げることができる。
本発明において密着という場合、細胞シートが収縮しないように、細胞シートとキャリアとの境界面において、キャリア上で細胞シートがずれたり移動したりしない状態のことをいい、物理的に結合することにより密着していても、両者のあいだに存在する液体(例えば培養液、その他の等張液)を介して密着していてもよい。
キャリアの形状は、特に限定されるものではないが、例えば得られた再生角膜内皮細胞シートを移植する際に、キャリアの一部に移植部位と同程度もしくは移植部位より大きく切り抜いたものを利用すると、細胞シートは切り抜かれた周囲の部分だけに固定され、切り抜かれた部分にある細胞シートを移植部位に当てるだけで良く、好都合である。また、角膜内皮組織が角膜組織の最内層に位置することから、上記細胞シートを細胞シートの支持体と接触していた反対側の面を治具に固定し、それをそのまま角膜組織内に挿入し、細胞シートをおいて来る移植法でも良い。その際の治具の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、生体内の角膜内皮組織の形態と同等な曲率の曲面を持った治具、その治具に細胞シートが固定されるように吸引口を設けたものなどが操作しやすく好都合である。
また、本発明における再生角膜内皮細胞シートの特徴である生体組織への高い生着性は、特定の培養条件下で実現される。すなわち、本発明の細胞シートは、支持体表面上に角膜内皮細胞を播種後、培養することで得られるが、支持体表面上で細胞がコンフルエント(満杯な状態)になってから10日後以降、好ましくは12日後以降、さらに20日後以降であることが好ましいことが判明した。10日より少ないと剥離した再生角膜内皮細胞シートの基底膜が十分でなく、そのため付着性も低減してしまい、本発明の特徴の1つである高生着性は望めなくなる。
本発明における再生角膜内皮細胞シートは角膜内皮組織本来の機能を有する高密度な細胞シートである。その際の細胞密度は2500個/mm以上、好ましくは2700個/mm以上、さらには2900個/mm以上であることが好ましいことが判明した。2500個/mm以下であると十分なポンプ機能を発現することができず、本発明の特徴の1つである高機能性は望めなくなる。
本発明における再生角膜内皮細胞シートは十分なポンプ機能を有する細胞シートである。その際のポンプサイト(Na/K ATPaseポンプサイト)数は3.4×10個/mm以上、好ましくは3.8×10個/mm以上、さらには4.2×10個/mm以上であることが好ましいことが判明した。3.4×10個/mm以下であると十分なポンプ機能を発現することができず、本発明の特徴の1つである高機能性は望めなくなる。
本発明における再生角膜内皮細胞シートは、以上に示すように、生体組織に極めて良好に付着でき、さらに角膜内皮組織として十分に機能しうる高密度な細胞シートであり、従来技術からでは全く得られなかったものである。
本発明の細胞培養支持体において、基材に被覆されている温度応答性ポリマーは温度を変えることで水和、脱水和を起こすものであり、その温度域は0℃〜80℃、好ましくは10℃〜50℃、さらに好ましくは20℃〜45℃であることが判明した。80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。
本発明に用いる温度応答性ポリマーはホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このようなポリマーとしては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物((メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド及びメタクリルアミドを意味する。以下、同じ。)、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。
被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外のポリマー化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
温度応答性ポリマーの支持体への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマーまたはポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。
温度応答性ポリマーの被覆量は、0.4〜3.0μg/cmの範囲が良く、好ましくは0.7〜2.8μg/cmであり、さらに好ましくは0.9〜2.5μg/cmである。0.4μg/cmより少ない被覆量のとき、刺激を与えても当該ポリマー上の細胞は剥離し難く、作業効率が著しく悪くなり好ましくない。逆に3.0μg/cm以上であると、その領域に細胞が付着し難く、細胞を十分に付着させることが困難となる。
本発明における支持体の形態は特に制約されるものではないが、例えばディッシュ、マルチプレート、フラスコ、セルインサートなどが挙げられる。
本発明において、細胞の培養は上述のようにして製造された細胞培養支持体上で行われる。培地温度は、基材表面に被覆された前記ポリマーが脱水和する温度で行われれば特に制限されない。しかし、培養細胞が増殖しないような低温域、あるいは培養細胞が死滅するような高温域における培養が不適切であることは言うまでもない。温度以外の培養条件は、常法に従えばよく、特に制限されるものではない。例えば、使用する培地については、公知のウシ胎児血清(FCS)等の血清が添加されている培地でもよく、また、このような血清が添加されていない無血清培地でもよい。本発明の方法において、培養した細胞を支持体材料から剥離回収するには、培養された再生角膜内皮細胞シートをキャリアに密着させ、細胞の付着した支持体材料の温度を支持体基材の被覆ポリマーの水和する温度にすることによって、そのままキャリアとともに剥離することができる。その際に、細胞シートと支持体の間に水流を当て剥離を円滑に行っても良い。なお、シートを剥離することは細胞を培養していた培養液中において行うことも、その他の等張液中において行うことも可能であり、目的に合わせて選択することができる。
以上のことを温度応答性ポリマーとしてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を例にとり説明する。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集し、白濁する。逆に31℃以下の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆、固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃以下の温度では、基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が付着、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が付着できないほどの表面となり、培養中の細胞、もしくは細胞シートも冷却するだけで剥離させられることになる。
本発明の細胞シートは細胞が高密度に存在するものである。その製造法は特に限定されるものではないが、角膜内皮細胞が速やかに高密度に増殖しないため、例えば、あらかじめ継代培養を何回も行い、所定の総細胞数となった段階で、その全ての細胞を所定の面積へ播種する方法があげられる。その際、細胞分散液中の細胞濃度をあげるために遠心分離を行って濃縮したり、基材の培養面積を減らして単位面積あたりの細胞数を増加させても良い。細胞の継代培養時に用いる基材は特に限定されるものではないが、例えばコラーゲンIV、コラーゲンI、コラーゲンIII、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲルなどの接着性蛋白質上で培養すると角膜内皮細胞の形態が崩れず好都合である。
播種時の基材単位面積あたりの細胞数は2000個/mm以上が良く、好ましくは2300個/mm以上、さらに好ましくは2500個/mm以上が良い。2000個/mm未満の場合、得られる再生角膜内皮細胞シートの細胞密度を2500個/mm以上にすることが困難となる。
本発明では、細胞シートを患部に当てた後、細胞シートをキャリアからはがせば良い。そのはがし方は、何ら制約されるものではないが、例えば、キャリアを濡らしてキャリアと細胞シートの密着性を弱めてはがす方法、或いはメス、はさみ、レーザー光、プラズマ波などの治具を用いても切断する方法でも良い。例えば上述したような一部を切り抜いたキャリアに密着した細胞シートを用いた場合、レーザー光などを用いて患部の境界線に沿って切断すると患部以外の余計なところへの細胞シートの付着を避けられ好都合である。
本発明で示すところの再生角膜内皮細胞シートと生体組織との固定方法は特に限定されるものではなく、細胞シートと生体組織を縫合しても良く、或いは本発明で示すところの再生角膜内皮細胞シートは生体組織と速やかに生着するため、患部に付着させた細胞シートは生体側と縫合しなくても良い。
再生角膜内皮細胞シートを高収率で剥離、回収する目的で、細胞培養支持体を軽くたたいたり、ゆらしたりする方法、更にはピペットを用いて培地を撹拌する方法、細胞シートと基材との間に水流をあてる方法等を単独で、あるいは併用して用いてもよい。加えて、必要に応じて培養細胞は等張液等で洗浄して剥離回収してもよい。
本発明に示される再生角膜内皮細胞シートの用途は何ら制約されるものではないが、例えば角膜内皮障害、水疱性角膜症に有効である。
上述の方法により得られた再生角膜内皮細胞シートは、従来の方法により得られたものに比べて、剥離の際の非侵襲なこと、さらに高機能なことで極めて優れており、移植用角膜内皮シートとしての臨床応用が強く期待される。特に、本発明の再生角膜内皮細胞シートは従来の移植シートとは異なり、生体組織との高い生着性を有するため、極めて速く生体組織に生着する。このことは、患部の治療効率の向上、更には患者の負担の軽減もはかられ極めて有効な技術と考えられる。なお、本発明の方法において使用される細胞培養支持体は繰り返し使用が可能である。
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
実施例1、2
市販の3.5cmφ細胞培養用培養皿(ベクトン・ディッキンソン・ラブウェア(Becton Dickinson Labware)社製 ファルコン(FALCON)3001)上に、N−イソプロピルアクリルアミドモノマーを40wt%(実施例1)、45wt%(実施例2)になるようにイソプロピルアルコールに溶解させたものを0.1ml塗布した。0.25MGyの強度の電子線を照射し、培養皿表面にN−イソプロピルアクリルアミドポリマー(PIPAAm)を固定化した。照射後、イオン交換水により培養皿を洗浄し、残存モノマーおよび培養皿に結合していないPIPAAmを取り除き、クリーンベンチ内で乾燥し、エチレンオキサイドガスで滅菌することで細胞培養支持体材料を得た。PIPAAmの被覆量は、それぞれ1.6μg/cm(実施例1)、1.8μg/cm(実施例2)であることが分かった。
一方、常法により白色家兎角膜周辺部から深麻酔下で角膜内皮組織を採取し、その角膜内皮細胞をコラーゲンIVをコーティングしたフラスコを用い、常法に従って5継代培養した(使用培地:DMEM、10%FCS、37℃、10%CO下)。その結果、最終的に4×10個の角膜内皮細胞を回収することができた。
次に、これら全ての細胞を上記培養皿表面にPIPAAmが固定化された細胞培養支持体材料上に播種し、4週間そのまま培養し続けた。培養後、培養した細胞の上に直径1.8cmの円状に切り抜いた直径2.3cmのポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜から成型したキャリアをかぶせ、培地を静かに吸引し、細胞培養支持体材料ごと20℃で30分インキュベートし冷却することで、何れの細胞培養支持体材料上の細胞もかぶせたキャリアと共に剥離させられた。得られた細胞シートは収縮率5%以下の1枚のシートとして十分に強度を持ったものであった。得られた細胞シート内の細胞密度は3000個/mmであった。
なお、上記各実施例において、「低温処理」は20℃で30分インキュベートという条件下で行われたが、本発明において「低温処理」はこれらの温度及び時間に限定されない。本発明における「低温処理」として好ましい温度条件は0℃〜30℃であり、好ましい処理時間は2分〜1時間である。
実施例1、2で得られた再生角膜内皮細胞シートを角膜内皮組織部を欠損させた白色家兎に移植した。その際、再生角膜内皮細胞シートの支持体と接触していた反対側の面で、生体内の角膜内皮組織と同等な曲率の吸引面を持った治具に吸引、固定し、キャリアをメスを用いて切除した。再生角膜内皮細胞シートを治具を用いて創傷部へ押しあて、治具の吸引をとめ、そのまま15分間付着させた。その際、再生角膜内皮細胞シートと生体との縫合は行わなかった。最後に、常法に従い、切り開いた角膜組織を眼球に縫合した。3週間後、患部を観察したところ、実施例1、2共に再生角膜内皮細胞シートは眼球に良好に生着しており、角膜の膨潤も認められなかった。
【実施例3】
実施例1の細胞培養支持体材料に対し、引き続き、このものの上にN,N−メチレンビスアクリルアミド(1wt%/アクリルアミドモノマー)を含むアクリルアミドモノマーを5wt%になるようにイソプロピルアルコールに溶解させたものを0.1ml塗布し、直径1.8cmの金属製マスクをのせ、そのままの状態で0.25MGyの強度の電子線を照射し、金属マスクをのせた部分以外のところにアクリルアミドポリマー(PAAm)を固定化した。照射後、イオン交換水により培養皿を洗浄し、残存モノマーおよび培養皿に結合していないPAAmを取り除き、クリーンベンチ内で乾燥し、エチレンオキサイドガスで滅菌することで細胞培養支持体材料を得た。
次に、実施例1と同様な方法により、白色家兎角膜周辺部から深麻酔下で角膜内皮組織を採取し、4継代培養することで、最終的に7.6×10個の角膜内皮細胞を回収することができた。次に、これら全ての細胞を上記細胞培養支持体材料上に播種し、3週間そのまま培養し続けた。培養後、実施例1と同様に培養した細胞の上に直径1.8cmの円状に切り抜いた直径2.3cmのポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜から成型したキャリアをかぶせ、培地を静かに吸引し、細胞培養支持体材料ごと20℃で30分インキュベートし冷却することで、細胞培養支持体材料上の細胞もかぶせたキャリアと共に剥離させられた。得られた細胞シートは収縮率5%以下の1枚のシートとして十分に強度を持ったものであった。得られた細胞シート内の細胞密度は2800個/mmであった。
得られた再生角膜内皮細胞シートを実施例1と同様に、角膜内皮組織部を欠損させた白色家兎に移植した。3週間後、患部を観察したところ、再生角膜内皮細胞シートは眼球に良好に生着しており、角膜の膨潤も認められなかった。
比較例1
実施例2で角膜内皮細胞シートを作製し、キャリアを使わずに細胞シートを剥離させ、収縮させること以外は実施例2と同様に角膜内皮細胞シートを製造した。その際の収縮率は、42%であった。
実施例2と同様に得られた角膜内皮細胞シートを角膜内皮組織部を欠損させたウサギに移植した。移植1日後に患部を観察したところ、角膜内皮細胞シートの眼球への生着性はやや悪く、角膜の膨潤も認められた。
比較例2
実施例3で角膜内皮細胞を培養し、細胞培養支持体から剥離するまでの期間を9日後としたこと以外は実施例3と同様に再生角膜内皮細胞シートを製造することを試みた。実施例3と同様に再生角膜内皮細胞シートの剥離を試みたが部分的にしか剥離できず、細胞シートとして不十分なものであった。
【実施例4】
実施例3の直径1.8cmの金属製マスクをのせて得られた細胞培養支持体材料に対し、実施例3と同様な方法でヒト角膜周辺部から採取した角膜内皮細胞を実施例3と同様に上記細胞培養支持体材料上に播種し、4週間そのまま培養し続けた。培養後、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)キャリアを使いながら細胞培養支持体材料ごと20℃で30分インキュベートし冷却することで、細胞培養支持体材料上の内皮細胞シートを剥離させた。得られた内皮細胞シートは収縮率5%以下の1枚のシートとして十分に強度を持ったものであった。得られた内皮細胞シート内の細胞密度は3000個/mmであった。得られた内皮細胞シートからキャリアを取り除いたものを図1に示す。培養支持体材料内にヒト再生角膜内皮細胞シートが浮遊していることが分かる。
培養中のヒト再生角膜内皮細胞シートを培養1日後(A)、3日後(B)、7日後(C)、14日後(D)にそれぞれ取り出し生成されるコラーゲンIV(上図)並びにフィブロネクチン(下図)を常法に従い染色した結果を図2に示す。培養日数が増えるに従いコラーゲンIV、並びにフィブロネクチンが蓄積されていることが分かる。
培養4日後に再生角膜内皮細胞シートに存在するZO−1タンパク質を免疫蛍光染色した。結果を図3に示す。このタンパク質が細胞−細胞間に局在していることが分かり、この結果から本発明から得られた再生角膜内皮細胞シートは細胞−細胞間の結合の形成が行われており、その形成が剥離後でも破壊されずに残っていることが分かる。
次に、培養支持体材料内からヒト再生角膜内皮細胞シートを剥離させた。剥離途中のヒト再生角膜内皮細胞シートに存在するコラーゲンIV(左図)並びにフィブロネクチン(右図)を常法に従い染色した結果を図4に示す。この図からも分かるように得られた再生角膜内皮細胞シートにはコラーゲンIV並びにフィブロネクチンを有するものであった。
図5に剥離後のヒト再生角膜内皮細胞シートをH/E染色した結果(左図)、細胞シートに存在するコラーゲンIV(中央図)並びにフィブロネクチン(右図)を常法に従い染色した結果を示す。H/E染色写真より、本発明で得られたヒト再生角膜内皮細胞シートは生体内での通常の状態と同様に単層であること、コラーゲンIVは内皮細胞シートが支持体と接触していた側に局在していること、フィブロネクチンは細胞−細胞間に局在していることが分かる。
さらに、同様に準備した再生角膜細胞シートを2%グルタルアルデヒドで固定し、その後オスニウム酸染色したものを透過型電子顕微鏡で観察した結果を図6に示す。図からも分かるように得られた再生角膜細胞シートは生体内の組織と同様な組織になっていた。
【実施例5】
実施例1で得られた細胞培養支持体材料に対し、実施例3と同様な方法でヒト角膜周辺部から採取した角膜内皮細胞を実施例3と同様に上記細胞培養支持体材料上に播種し、4週間そのまま培養し続けた。培養後、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)キャリアを使わずに胞培養支持体材料ごと20℃で30分インキュベートし冷却することで、細胞培養支持体材料上の内皮細胞シートを剥離させた。得られた内皮細胞シート表層に存在するタンパク質並びに細胞−細胞間の結合に関与するZO−1タンパク質などを常法に従い抽出しSDS−PAGE法にて確認した。結果を図7中のTに示す。その際、上図のAはCoomassie brillinat blueで染色し細胞シート表層に存在するタンパク質を測定し、また下図のBは抗ヒトZO−1ポリクローナル抗体を用いて染色した。図7から本発明の方法に従えば、細胞表層のタンパク質が破壊されずに残っていることが分かる。
比較例3、4
実施例5の実験において、ヒト角膜内皮細胞の培養を温度応答性ポリマーが被覆されていない市販の培養基材上で培養する以外は同様な操作で4週間培養し続けた。培養後、培養した細胞を剥離するために、一つ方法として常法であるディスパーゼ処理を行って剥離させ(比較例3)、もう一方でゴム製スクレーパーで物理的に剥離させる方法(比較例4)を行った。それぞれの方法で得られた細胞を実施例5と同様に内皮細胞シート表層に存在するタンパク質並びに細胞−細胞間の結合に関与するZO−1タンパク質などを常法に従い抽出しSDS−PAGE法にて確認した。結果をそれぞれ図7中のD(比較例3)、図7中のS(比較例4)に示す。図7よりディスパーゼ処理法では細胞表層のタンパク質が破壊されて残存量が少なくなっていることが分かる。また、スクレーパー法では細胞表層のタンパク質の残存量は多いものの、物理的に剥離させたため得られた角膜内皮細胞シートには多くの切断されたところがあり、本発明で示す再生角膜内皮細胞シートとしては不十分なものであった。また、図7のSとTを比較し、両者に全く差が認められないことから、本発明である実施例5から得られる再生角膜内皮細胞シートの表層タンパク質はほとんど破壊されていないことが分かる。
【実施例6】
実施例3で得られた剥離前の再生角膜内皮シート、並びに冷却して剥離させた後、再び市販の3.5cmφ細胞培養用培養皿(FALCON 3001)上に付着させた再生角膜内皮シートを用い、剥離前後の1細胞当たりのポンプ数を算出した。具体的には、Na−K ATPase阻害剤であるウアバインを用い、1分子のウアバインが1分子のNa−Kポンプに結合するものと考え、ウアバインの総結合量を測定することで求めた。その際、ウアバインはHラベル化されたものを用い、液体シンチレーションカウンターで測定した。細胞シートへのウアバインの総結合量、並びに細胞シートの細胞密度より、実施例3における剥離前後の1細胞当たりのポンプ数を算出した結果、剥離前のポンプ数が3.5×10個、剥離後のポンプ数は3.5×10個であった。本発明の細胞培養支持体を用いれば、剥離の際の細胞の損傷は認められなかった。
【実施例7】
実施例3の直径1.8cmの金属製マスクをのせて得られた細胞培養支持体材料に対し、実施例3と同様な方法でヒト角膜周辺部から採取した角膜内皮細胞を実施例3と同様に上記細胞培養支持体材料上に播種し、4週間そのまま培養し続けた。この剥離前のヒト再生角膜内皮シートに対し、抗ウサギNa−K ATPaseモノクローナル抗体を用い染色させ、Na−K ATPaseポンプサイト部を緑色に染色させた。その際、propidium iodideで細胞核を赤色に染色させた。共焦点顕微鏡を用いて得られた結果を図8に示す。その際、上図のAは培養細胞シートの上面からの観察した結果を示し、Bは厚さ方向を観察した結果である。図で示されるように本発明の再生角膜内皮細胞シートにはNa−K ATPaseポンプサイト部が高密度に残されていることが分かる。
【実施例8】
使用する細胞をヒト角膜内皮細胞とし、細胞シート内の細胞密度が575個/mm〜3070個/mmになるまで培養する以外は実施例6と同様な方法で培養操作を行い、実施例6と同様にHラベル化ウアバイン結合量を液体シンチレーションカウンターで測定することでNa−K ATPaseポンプサイト数を測定した。Na−K ATPaseポンプサイト数並びに細胞シートの細胞密度より、剥離させた再生角膜内皮細胞シートの1細胞当たりのポンプ数を算出した。得られた結果を図9に示す。図中のAは細胞密度に対する1細胞当たりのポンプ数の相関性を示し、図中のBは細胞密度に対する単位面積当たりのポンプ数の相関性を示す。図のAより細胞密度が増加すると1細胞当たりのポンプ数が減少すること、図のBより細胞密度が増加すると単位面積当たりのポンプ数が増加することが分かった。細胞密度を2500個/mmとすることで本発明のポンプサイト数に到達することが明らかとなった。
比較例5
市販の3.5cmφ細胞培養用培養皿(FALCON 3001)に対し、実施例3と同様な方法で、このものの上にN,N−メチレンビスアクリルアミド(1wt%/アクリルアミドモノマー)を含むアクリルアミドモノマーを5wt%になるようにイソプロピルアルコールに溶解させたものを0.1ml塗布し、直径1.8cmの金属製マスクをのせ、そのままの状態で0.25MGyの強度の電子線を照射し、金属マスクをのせた部分以外のところにアクリルアミドポリマー(PAAm)を固定化した。照射後、イオン交換水により培養皿を洗浄し、残存モノマーおよび培養皿に結合していないPAAmを取り除き、クリーンベンチ内で乾燥し、エチレンオキサイドガスで滅菌することで、実施例3の細胞培養支持体でPIPAAm被覆部のところがない培養用支持体を得た。
この培養用支持体を用い、実施例4と同様に剥離前の再生角膜内皮シート、並びにコラゲナーゼ処理して剥離させた後、再び市販の3.5cmφ細胞培養用培養皿(FALCON 3001)上に付着させた再生角膜内皮シートを用い、剥離前後の1細胞当たりのポンプ数を算出した。剥離前後の1細胞当たりのポンプ数を算出した結果、剥離前のポンプ数が3.5×10個、剥離後のポンプ数は1.5×10個であった。剥離の際に行われる細胞の損傷が顕著であった。
【産業上の利用の可能性】
本発明で得られる再生角膜内皮細胞シートは生体組織への生着性が極めて高く、高機能であり、たとえば角膜内皮疾患治療等の臨床応用が強く期待される。したがって、本発明は細胞工学、医用工学、などの医学、生物学等の分野における極めて有用な発明である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアに密着させた、再生角膜内皮細胞シート。
【請求項2】
蛋白質分解酵素による処理を施されることなく支持体から剥離され、剥離後の細胞シートの収縮率が20%以下に保たれた、請求項1記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項3】
基底膜様蛋白質が80%以上残存されている、請求項1または2に記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項4】
デスモソーム構造が80%以上残存されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項5】
シート内の細胞密度が2500個/mm以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項6】
シート内のポンプサイト数3.4×10個/mm以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項7】
角膜内皮組織の一部或いは全部を損傷もしくは欠損した患部を治療するための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項8】
剥離する時期が、細胞が支持体表面でコンフルエントとなった日から10日目以降である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項9】
治療が再生角膜内皮細胞シートを患部に対し縫合することなく被覆することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項10】
患部に被覆する際、患部の大きさ、形状に沿って切断された、請求項1〜9のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シート。
【請求項11】
組織から採取した角膜内皮細胞を、0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した細胞培養支持体上で培養し、培養後、
(1)培養液温度を基材表面のポリマーが水和される温度とし、
(2)培養した角膜内皮細胞シートをキャリアに密着させ、
(3)キャリアと共にそのまま剥離する
ことを特徴とする、再生角膜内皮細胞シートの製造方法。
【請求項12】
組織から採取した角膜内皮細胞をあらかじめ複数回継代培養することで総細胞数を増加させ、支持体表面に対し最終的に播種細胞濃度が2000個/mm以上となるようにし、高密度で培養することを特徴とする、請求項11に記載される再生角膜内皮細胞シートの製造方法。
【請求項13】
継代培養がコラーゲンIV上で行われる、請求項11または12に記載の再生角膜内皮細胞シートの製造方法。
【請求項14】
ポリマーが、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)である、請求項11〜13のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シートの製造方法。
【請求項15】
キャリアの形状が中心部を切り抜いたリング状のものであることを特徴とする、請求項11〜14のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シートの製造方法。
【請求項16】
剥離が蛋白質分解酵素による処理が施されていない、請求項11〜15のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シートの製造方法。
【請求項17】
角膜内皮組織の一部或いは全部を損傷もしくは欠損した患部に対し、請求項1〜8のいずれか1項に記載の再生角膜内皮細胞シートを移植することを特徴とする治療法。
【請求項18】
移植が、
(1)再生角膜内皮細胞シートをキャリアと共に剥離させ、
(2)細胞シートの支持体との接触していた反対側の面に対し、生体内の角膜内皮組織形態と同等な曲率を持った治具に固定して行い、
(3)患部に、支持体と接触していた同じ面で再生角膜内皮細胞シートを被覆し、その後、細胞シートを固定していた治具並びにキャリアを取り除く
ことを特徴とする、請求項17記載の治療法。
【請求項19】
移植が、
(1)再生角膜内皮細胞シートをキャリアと共に剥離させ、
(2)細胞シートの支持体との接触していた反対側の面に対し、生体内の角膜内皮組織形態と同等な曲率を持った治具に固定し、キャリアを取り除き、
(3)患部に、支持体と接触していた同じ面で再生角膜内皮細胞シートを被覆し、その後、細胞シートを固定していた治具を取り除く
ことを特徴とする、請求項17記載の治療法。
【請求項20】
移植が患部に対し縫合することなく被覆することを特徴とする、請求項17〜19のいずれか1項に記載の治療法。
【請求項21】
患部に被覆する際、再生角膜内皮細胞シートを患部の大きさ、形状に沿って切断することを特徴とする、請求項17〜20のいずれか1項に記載の治療法。
【請求項22】
治療すべき疾患が角膜内皮障害、水疱性角膜症であることを特徴とする、請求項17〜21のいずれか1項に記載の治療法。

【国際公開番号】WO2004/073761
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502785(P2005−502785)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001975
【国際出願日】平成16年2月20日(2004.2.20)
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【出願人】(503105952)
【Fターム(参考)】