説明

冠状動脈バイパス移植術を行うための方法

本発明は、哺乳類対象における閉塞性冠動脈疾患を治療する方法を提供する。本方法は、対象に有効量の芳香族カチオン性ペプチドをそれを必要とする対象に投与すること、および対象に冠状動脈バイパス移植術を行うことを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年12月31日に出願された米国特許仮出願第61/291,699号、2010年7月9日に出願された米国特許仮出願第61/363,138号、および2010年10月26日に出願された米国特許仮出願第61/406,713号の優先権を主張し、それら全体の内容の全てが、参照により本明細書に組み込まれる。
本技術は、概して、冠状動脈バイパス移植(CABG)手術を使用して閉塞性冠動脈疾患を治療するための組成物および方法に関する。具体的には、本方法は、CABG手術の前、最中、および/または後に、芳香族カチオン性ペプチドを有効量で投与することに関する。
【背景技術】
【0002】
以下の説明は、読者の理解を支援するために提供される。提供される情報または引用される参考文献のいずれも、本発明に対する先行技術であるとは認められない。
【0003】
冠状動脈バイパス移植(CABG)手術は、閉塞性冠動脈疾患を有する患者において、狭心症を緩和し、生存率および生活の質を改善することに効果的である。世界中で行われる最も一般的な手術のうちの1つであり、循環器内科における他のいずれの単一手術よりも多くの資源支出を占める。実際に、2006年には、米国において、500,000人近くの入院患者のCABG術が行われた。しかしながら、心筋梗塞、心室不全、致命的な不整脈、腎不全、神経傷害、および死亡が、手術中および手術後に起こる可能性がある。このような有害事象の発生率は、ますます高齢化し、進行性アテローム性動脈硬化症を含む併発状態によって特徴づけられる患者人口を反映して、CABGを紹介される患者の間で、上昇することが予想される。
【0004】
左心室(LV)機能は、冠状動脈の外科処置後の早期および後期の死亡率の重要な予測因子である。それは、通常のLV機能を有する患者と比較して、冠状動脈バイパス処置を受ける患者における、手術中および長期の死亡率の危険性の増加と関連がある。低い駆出分画率(EF)および臨床的心不全のいずれも、CABG処置の高い手術死亡率の予測因子である。近年、手術後のNT−proBNPレベルが、CABG処置後の高い院内死亡率および長期のICU滞在(4日を超える)と関連があることが報告されている。
【0005】
CABG処置後のクレアチニンキナーゼ−MB画分(CK−MB)におけるいずれの増加も、筋細胞壊死を示唆し、CK−MBの高いレベルは、さらに悪い転帰と関連する可能性が高い。手術後のCK−MBの上昇と死亡率との間の直線関係が、手術後のピークCK−MB値が、通常の上限の5倍未満、5〜10倍未満、10〜20倍未満、および20倍超で、それぞれ3.4%、5.8%、7.8%、および20.2%の6ヶ月の死亡率と関連して、報告されている。近年のコンセンサス文書は、新しい病理学的Q波または左脚ブロックの出現、血管造影により確認される新しい移植片または天然の冠状動脈閉塞、あるいは生存心筋の新規喪失の画像化による証拠と関連付けられる、CABG処置後最初の72時間の間の通常の上限の少なくとも5倍のCK−MB上昇率に基づいた、CABG処置後の心筋梗塞の定義を推奨した。
【0006】
究極的には、CABG患者間の転帰が改善される場合、心筋虚血・再灌流傷害を予防するためのより良い手段、ならびに心血管罹患率および死亡率の増加を内在する重要な機構の開発が、重要であろう。さらに、他の脆弱末端器官(例えば、腎臓および脳)への傷害を和らげるか、または最小化するために、新規の補助療法を開発することならびにそれを標的とすることは、CABGを受ける患者の転帰を改善するために、依然として重要である。
【発明の概要】
【0007】
本技術は、概して、芳香族カチオン性ペプチドの治療有効量の、それを必要とする対象への投与を通じた、哺乳動物における閉塞性冠動脈疾患の治療に関する。一態様において、本開示は、(a)D-Arg-2′6′-Dmt-Lys-Phe-NH2ペプチドまたはその薬学的に許容される塩の治療有効量を、それを必要とする哺乳類対象に投与することと、(b)対象に冠状動脈バイパス移植術を行うことと、を含む、閉塞性冠動脈疾患を治療する方法を提供する。別の態様において、本開示は、冠状動脈バイパス移植術(CABG)の手技中の、腎臓または脳の合併症を予防するための方法を提供し、その方法は、(a)D-Arg-2′6′-Dmt-Lys-Phe-NH2ペプチドまたはその薬学的に許容される塩の治療有効量を哺乳類対象に投与することと、(b)対象に冠状動脈バイパス移植術(CABG)を行うことと、を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、
少なくとも1つの正味の正電荷と、
最低4個のアミノ酸と、
最高約20個のアミノ酸と、
正味の正電荷の最低数(pm)とアミノ酸残基の合計数(r)との間に、3pmがr+1以下の最大数である、という関係と、芳香族基の最低数(a)と正味の正電荷の合計数(pt)との間に、aが1でありptもまた1であるような場合を除いて、2aがpt+1以下の最大数であるという関係と、を有する。一実施形態において、2pmは、r+1以下である最大数であり、ptに等しい場合がある。芳香族カチオン性ペプチドは、最低2つまたは最低3つの正電荷を有する水溶性のペプチドであってもよい。
【0009】
一実施形態において、本ペプチドは、1つ以上の非天然のアミノ酸、例えば、1つ以上のD−アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、C末端におけるアミノ酸のC末端カルボキシル基は、アミド化される。ある実施形態において、本ペプチドは、最低4個のアミノ酸を有する。本ペプチドは、最大約6個、最大約9個、最大約12個のアミノ酸を有することができる。
【0010】
一実施形態において、本ペプチドは、N末端にチロシンまたは2′,6′−ジメチルチロシン(Dmt)残基を備える。例えば、本ペプチドは、化学式Tyr−D−Arg−Phe−Lys−NH2または2′,6′−Dmt−D−Arg−Phe−Lys−NH2を有することができる。別の実施形態において、ペプチドは、フェニルアラニンまたは2′,6′−ジメチルフェニルアラニン残基をN末端に備える。例えば、ペプチドは、化学式Phe−D−Arg−Phe−Lys−NH2または2′,6′−Dmp−D−Arg−Phe−Lys−NH2を有してもよい。特定の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、化学式D−Arg−2′,6′−Dmt−Lys−Phe−NH2(SS−31としても既知である)を有する。
【0011】
一実施形態において、本ペプチドは、化学式Iによって定義され、
【化1】

【0012】
式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、
(i)水素、
(ii)直鎖または分枝のC1−C6アルキル、






3およびR4は、それぞれ独立して、
(i)水素、
(ii)直鎖または分枝のC1−C6アルキル、
(iii)C1−C6アルコキシ、
(iv)アミノ、
(v)C1−C4アルキルアミノ、
(vi)C1−C4ジアルキルアミノ、
(vii)ニトロ、
(viii)ヒドロキシル、
(ix)ハロゲン(前記「ハロゲン」はクロロ、フルオロ、ブロモ、およびヨウ素を包含する)、から選択され、
5、R6、R7、R8、およびR9は、それぞれ独立して、
(i)水素、
(ii)直鎖または分枝のC1−C6アルキル、
(iii)C1−C6アルコキシ、
(iv)アミノ、
(v)C1−C4アルキルアミノ、
(vi)C1−C4ジアルキルアミノ、
(vii)ニトロ、
(viii)ヒドロキシル、
(ix)ハロゲン(「ハロゲン」は、クロロ、フルオロ、ブロモ、およびヨウ素を包含する)、から選択され、
nは、1〜5の整数である。
【0013】
特定の実施形態において、R1およびR2は水素であり、R3およびR4はメチルであり、R5、R6、R7、R8、およびR9は全て水素であり、nは4である。
【0014】
一実施形態において、本ペプチドは、化学式IIによって定義され、
【化2】

式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、
(i)水素、
(ii)直鎖または分枝のC1−C6アルキル、





3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立して、
(i)水素、
(ii)直鎖または分枝のC1−C6アルキル、
(iii)C1−C6アルコキシ、
(iv)アミノ、
(v)C1−C4アルキルアミノ、
(vi)C1−C4ジアルキルアミノ、
(vii)ニトロ、
(viii)ヒドロキシル、
(ix)ハロゲン(「ハロゲン」が、クロロ、フルオロ、ブロモ、およびヨウ素を包含する)、
から選択され、nは1〜5の整数である。
【0015】
特定の実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は全て水素であり、nは4である。別の実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、およびR11は全て水素であり、R8およびR12はメチルであり、R10はヒドロキシルであり、nは4である。
【0016】
芳香族カチオン性ペプチドは、様々な手段で投与することができる。いくつかの実施形態において、本ペプチドは、経口的、局所的、鼻腔内、腹腔内、静脈内、皮下、または経皮的(例えば、イオン導入)に、投与することができる。
【0017】
一実施形態において、対象は、虚血の前に本ペプチドを投与される。一実施形態において、対象は、虚血組織の再灌流前に本ペプチドを投与される。一実施形態において、対象は、ちょうど虚血組織の再灌流のときに本ペプチドを投与される。一実施形態において、対象は、虚血組織の再灌流後に本ペプチドを投与される。
【0018】
一実施形態において、対象は、CABG術の前に本ペプチドを投与される。別の実施形態において、対象は、CABG術の後にペプチドを投与される。別の実施形態において、対象は、CABG術の最中および後にペプチドを投与される。さらに別の実施形態において、対象は、CABG術の前、最中、および後に、継続的にペプチドを投与される。
【0019】
一実施形態において、対象は、CABGの、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも3時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、または少なくとも24時間前に、ペプチドを投与され始める。一実施形態において、対象は、CABG術前、約5〜30分、約10〜60分、約10〜90分、または約10〜120分から、ペプチドを投与され始める。一実施形態において、対象は、CABG術後、約5〜30分まで、約10〜60分まで、約10〜90分まで、約10〜120分まで、または約10〜180分まで、ペプチドを投与される。
【0020】
一実施形態において、対象は、CABG術の組織後、少なくとも30分間、少なくとも1時間、少なくとも3時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、または少なくとも24時間、ペプチドを投与される。一実施形態において、ペプチド投与の継続時間は、CABG術後、約30分間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約8時間、約12時間、または約24時間である。
【0021】
一実施形態において、対象は、再灌流の約1分から30分前(すなわち、再灌流の、約5分、約10分、約20分、または約30分前)に静脈内注入が開始するときに、ペプチドを投与され、最灌流後、約1時間から24時間(すなわち、再灌流後、約1時間、約2時間、約3時間、または約4時間)継続する。一実施形態において、対象は、組織の再灌流前に、静脈内ボーラス注入において受容する。一実施形態において、対象は、再灌流期間後、長期的に、すなわち、再灌流期間後約1〜7日間、約1〜14日間、約1〜30日間にわたって、ペプチドを受容し続ける。この期間の間、ペプチドは、任意の経路、例えば、皮下投与または静脈内投与によって投与可能である。
【0022】
一実施形態において、本ペプチドは、麻酔導入の約5〜60分、約10〜45分、または約30分前に始まる全身的な静脈内注入によって投与される。一実施形態において、ペプチドは、心停止液との併用で投与される。一実施形態において、ペプチドは、心肺バイパス中に、プライミング液の一部として人工心肺内に投与される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例において使用される動物のための研究デザインの説明図である。
【図2A】偽治療(結紮糸を適用したが、締め付けなかった)を用いたウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。図2Aは、心臓スライスの写真、およびプラセボで治療した偽ウサギの梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像である。
【図2B】偽治療(結紮糸を適用したが、締め付けなかった)を用いたウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。図2Bは、心臓のスライス写真、およびペプチドで治療した偽ウサギの梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像である。
【図3A】心虚血を誘発され、かつプラセボで治療された2つの異なる対照ウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。それぞれの図は、心臓スライスの写真、および梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像を示す。
【図3B】心虚血を誘発され、かつプラセボで治療された2つの異なる対照ウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。それぞれの図は、心臓スライスの写真、および梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像を示す。
【図4A】心虚血を誘発され、かつ例示の芳香族カチオン性ペプチドで治療された5つの異なるウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。それぞれの図は、心臓のスライスの写真および梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像を示す。
【図4B】心虚血を誘発され、かつ例示の芳香族カチオン性ペプチドで治療された5つの異なるウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。それぞれの図は、心臓のスライスの写真および梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像を示す。
【図4C】心虚血を誘発され、かつ例示の芳香族カチオン性ペプチドで治療された5つの異なるウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。それぞれの図は、心臓のスライスの写真および梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像を示す。
【図4D】心虚血を誘発され、かつ例示の芳香族カチオン性ペプチドで治療された5つの異なるウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。それぞれの図は、心臓のスライスの写真および梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像を示す。
【図4E】心虚血を誘発され、かつ例示の芳香族カチオン性ペプチドで治療された5つの異なるウサギの梗塞寸法を示すデータを提示する。それぞれの図は、心臓のスライスの写真および梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像を示す。
【図5】ウサギの対照群および試験群のそれぞれについての、梗塞領域と左心室領域との比率を示す表である。
【図6】ウサギの対照群および試験群のそれぞれについての、梗塞領域と危険性のある領域との比率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実質的な理解を提供するために、本発明の特定の態様、様式、実施形態、変形、および特性が、様々なレベルの詳細で、以下に記載されることを認識されたい。
【0025】
本明細書で使用される特定の用語の定義が、以下に提供される。別段の定義がない限り、本明細書に使用される全ての技術および科学用語は、概して、本発明が属する技術分野の当業者に広く理解されるものと同じ意味を有する。
【0026】
本明細書および添付の請求項に使用される、単数形「a」、「an」、および「the」は、その内容についての別段の明確な指定がない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「細胞(a cell)」への言及は、2つ以上の細胞の組み合わせを含む等である。
【0027】
本明細書で使用される際、対象への薬品、薬剤、またはペプチドの「投与」は、目的の機能を果たすために、対象へ化合物を導入または送達するいずれの経路をも含む。投与は、経口、鼻腔内、非経口(静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下)、あるいは局所を含む、いずれの好適な経路によっても実行することができる。投与は、自己投与および他者による投与を含む。
【0028】
本明細書で使用される際、用語「アミノ酸」は、天然のアミノ酸および合成のアミノ酸、ならびに、天然のアミノ酸に似た方式で機能する、アミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を含む。天然のアミノ酸は、遺伝コードによってコードされるもの、ならびに後に修飾されるようなアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロピン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然のアミノ酸と同一の基本的化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、およびメチオニンメチルスルホニウム)に結合されるα炭素を有する化合物を指す。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然のアミノ酸と同一の基本的化学構造を保持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然のアミノ酸に類似する方式で機能する化学化合物を指す。アミノ酸は、広く知られたそれらの3文字符号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される1文字符号かのいずれかによって、本明細書に称されてもよい。
【0029】
本明細書で使用される際、用語「有効量」は、所望の治療効果および/または予防効果を達成するのに十分な量、例えば、心虚血・再灌流傷害または心虚血・再灌流傷害に関連する1つ以上の症状の予防、またはその低下をもたらす量を指す。治療適用または予防適用に関して、対象に投与される組成物の量は、疾患の種類および重症度、ならびに個々の特徴、例えば、全体的な健康状態、年齢、性別、体重、および薬物耐性等に依存する。また、疾患の程度、重症度、および種類にも依存する。当業者は、これらおよび他の因子によって、適切な投与量を判定することができるであろう。組成物はまた、1つ以上の追加の治療化合物との組み合わせで投与することもできる。本明細書に記載される方法において、芳香族カチオン性ペプチドは、1つ以上の血管閉塞の兆候または症状を有する対象に投与することができる。他の実施形態において、哺乳動物は、例えば、圧覚として説明される胸痛、肥大、または胸部の中央部分の圧迫感;顎もしくは歯、肩、腕、および/または背中への胸痛の放散;呼吸困難または息切れ;場合によっては嘔気嘔吐を伴う心窩部不快感;および発汗(diaphoresis)もしくは発汗(sweating)等の、1つ以上の心筋梗塞の兆候または症状を有する。例えば、芳香族カチオン性ペプチドの「治療有効量」は、CABG術中の心虚血・再灌流傷害の生理学的効果が、最低限改善されるレベルを意味する。
【0030】
本明細書で使用される用語「虚血再灌流傷害」は、まず組織への血液供給の制限によって、続いて血液の急激な再供給およびフリーラジカルの付随生成によってもたらされる損傷を指す。虚血は、組織への血液供給の低下であり、再灌流、困窮した組織への酸素の急激な灌流に続く。
【0031】
「単離」または「精製」ポリペプチドまたはペプチドは、細胞物質、または薬剤が抽出される細胞源もしくは組織源からの他の汚染ポリペプチドを実質的に有しないか、あるいは化学的に合成される際に、化学的前駆体または他の化学物質が実質的に存在しない。例えば、単離芳香族カチオン性ペプチドは、薬剤の診断的使用または治療的使用を妨害するであろう物質を含まない。このような妨害物質には、酵素、ホルモン、ならびに他のタンパク質性および非タンパク質性の溶質が挙げられる。
【0032】
本明細書で使用される際、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、本明細書に互換的に使用され、ペプチド結合か、または修飾ペプチド結合、すなわちペプチドアイソスターによって互いに連結された2個以上のアミノ酸を含むポリマーを意味する。ポリペプチドは、一般的にペプチド、グリコペプチド、またはオリゴマーと称される単鎖と、一般的にタンパク質と称される長鎖の両方を指す。ポリペプチドは、20個の遺伝コードされたアミノ酸以外のアミノ酸を含んでもよい。ポリペプチドは、翻訳後のプロセシング等の自然過程か、または当該技術分野で周知の化学修飾技術かのいずれかによって修飾される、アミノ酸配列を含む。
【0033】
本明細書で使用される際、用語「同時の」治療的使用は、同一の経路による少なくとも2つの活性成分の、同時または実質的に同時の投与を指す。
【0034】
本明細書で使用される際、用語「別個の」治療的使用は、異なる経路による少なくとも2つの活性成分の、同時または実質的に同時の投与を指す。
【0035】
本明細書で使用される際、用語「順次の」治療的使用は、異なる時間での2つ以上の活性成分の投与を指し、投与経路は同一であるか、または異なる。より具体的には、順次の使用は、活性成分のうちの1つの、もう1つまたはその他の投与が始まる前の投与全体を指す。したがって、活性成分のうちの1つを、もう1つの活性成分または複数の成分の投与前に、数分間、数時間、または数日間にわたって投与することが可能である。この場合には、同時治療は存在しない。
【0036】
本明細書で使用される際、用語「治療する」または「治療」あるいは「緩和」は、治療的治療法と予防策(prophylactic)または予防策(preventative)の両方を指し、その目的は、標的の病態または障害を予防するか、あるいは遅らせる(軽減する)ことである。対象は、本明細書に記載の方法に従って、芳香族カチオン性ペプチドの治療有効量の受容した後に、対象が血管閉塞傷害の1つ以上の兆候および症状の観測可能および/または測定可能な減少もしくはその欠如、例えば、梗塞寸法の減少等、を示す場合、血管閉塞傷害の「治療」が成功している。記載されるような病状の治療または予防の様々な様式は、「実質的である」ことを意味するように意図され、それは、完全な治療または予防を含むが、いくらかの生物学関連あるいは医学関連の結果が達成される、完全まで満たないものも含むこともまた、認識されたい。
【0037】
本明細書で使用される際、障害もしくは病状の「予防」またはそれを「予防すること」は、治療済みのサンプルにおいて、未治療の対照サンプルと比較して、障害または病状の発生を減少させるか、あるいは、未治療の対照サンプルと比較して、障害または病状の1つ以上の症状の発現を遅らせるかまたはその重症度を減少させる、化合物を指す。本明細書で使用される際、CABGの腎臓または脳の合併症を予防することは、CABGを受ける患者の統計サンプルにおいて、脳または腎臓への損傷を予防するか、または改善することを含む。予防は、対象が、後年その症状を全く発現させないことを意味するわけではなく、単に、発生の可能性が減少されることを意味する。

芳香族カチオン性ペプチドを用いてCABG術を行う方法
【0038】
本技術は、CABG術と併用での特定の芳香族カチオン性ペプチドの投与による、閉塞性冠動脈疾患の治療または予防に関する。心虚血・再灌流傷害の治療または予防のための方法もまた、提供される。一態様において、本技術は、芳香族カチオン性ペプチドの治療有効量を哺乳類対象に投与することと、冠状動脈バイパス移植(CABG)術を対象に行うことと、を含む、冠動脈再建の方法に関する。
【0039】
D−Arg−2′,6′−Dmt−Lys−Phe−NH2を含む、特定の芳香族カチオン性ペプチドは、幅広い種類の心筋虚血再灌流(IR)傷害のインビボ動物モデルにおいて、有益であることが示されている。急性心筋IRモデルにおいて、ウサギに、30分の虚血、続いて180分の再灌流を施した。D−Arg−2′,6′−Dmt−Lys−Phe−NH2またはビヒクルの注入を、再灌流の20分前に開始し、実験を通して継続した。梗塞寸法は、梗塞の危険性のあるLVの量(組織学上でEvans Blue染料を吸収しなかった領域の量によって測定される)と、梗塞領域(トリフェニルテトラゾリウムクロリドで染色されなかった領域の量によって測定される)との比率を計算することによって、判定された。
【0040】
一態様において、本開示は、CABG術を受ける患者の、外科処置の前、最中、および直後に投与される際に、芳香族カチオン性ペプチドを複数器官の保護剤として使用するための方法に関する。心肺バイパスは、酸化的ストレスを誘発することが既知である。虚血心筋の再酸素化および再灌流の際に、酸素由来のフリーラジカル(スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルアニオン、および過酸化水素)が生産され、これらのフリーラジカルを掃気する通常の内因性機構が、減少される。ほとんどの場合において、これらの酸素ラジカルは、細胞代謝の副産物であり、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、およびペルオキシターゼによって、ならびにグルタチオン、ビタミンE、およびヘモグロビン等の抗酸化物質受容体によって、酵素的に掃気および非活性化される。心筋再灌流中の活性酸素種(ROS)の過剰生産は、細胞膜を損傷し、組織の間質へ酵素を漏出させ、スーパーオキシドジスムターゼおよびカタラーゼの枯渇をもたらす。
【0041】
ミトコンドリアは、ROSの主要な細胞内源である。機能的に、ミトコンドリアは、開始剤であり、酸化的ストレスの第1の標的でもある。ミトコンドリアの損傷は、細胞死につながる場合がある。これは、エネルギー代謝およびカルシウムの恒常性、ならびにシトクロムC等のアポトーシス促進因子およびアポトーシス誘発因子を解放するミトコンドリアの能力において、ミトコンドリアが担う重要な役割を反映する。実際に、ミトコンドリアの損傷および機能不全は、ATPまたはクレアチンリン酸のレベルにおける即座の変化なしに、心筋血流をゆっくりと減少させた期間の後でさえも起こる場合がある。
【0042】
再灌流傷害は、少なくとも部分的に、ミトコンドリアの透過性遷移に関する問題に関連する。究極的には、これは、原形質膜の破裂および細胞死につながる、低いATP濃度および変質したイオン恒常性の生成をもたらす。再灌流後の不整脈もまた、ミトコンドリアの機能不全に関連している。抗酸化物質療法、カルシウムチャネル遮断薬、ナトリウム−水素交換阻害薬、および抗炎症薬を使用して、患者内の虚血再灌流傷害の既知の介在物を個々に標的にしようとする過去の取り組みは、大いに期待はずれであった。これが、実験的介入を再灌流傷害(再灌流不整脈、気絶心筋、筋細胞死、および梗塞を含む)の臨床症状に対する保護へとうまく変換するためには、虚血・再灌流傷害に対する、複数を標的化する機構的なアプローチが必要である、という概念に導いた。
【0043】
CABG処置における、細胞レベルの心筋救済に対する、このような幅広いアプローチは、心筋微小循環を通じて血流を維持しながら、虚血・再灌流傷害を予防する治療法を含む必要がある。理論的には、これは、時間重視の大導管動脈の開放と開放微小血管系の維持との2つの目標を達成することができる、技術的にうまく行われるCABG処置と治療薬との統合によって、最も良く達成される。残念ながら、CABG処置に遭遇する、複数の心臓病態生理学的錯乱の結果として、CABG関連の心筋虚血再灌流傷害を減少させるかまたは予防するための効果的な治療法は、見つかりにくいと証明された。
【0044】
特定の芳香族カチオン性ペプチドは、ミトコンドリア標的化の能力がある。取り込み研究は、D−Arg−2′,6′−Dmt−Lys−Phe−NH2ペプチドの細胞内濃度は、細胞外液中よりも6倍高く、ミトコンドリアのペレット中の薬物濃度は、おおよそ5000倍高いことを示した。したがって、このペプチドは、ミトコンドリアによって選択的に取り込まれる。ミトコンドリア内のこの局在化と併せて、このペプチドは、活性酸素種(ROS)の掃気、ミトコンドリアの電子伝達系内での電子移動の促進、ミトコンドリアの呼吸(酸素消費量)の維持、アデノシン三リン酸(ATP)レベルの維持、ミトコンドリア膜電位の損失の予防、シトクロムcの解放の予防、およびミトコンドリアの透過性遷移孔(mPTP)の開放の抑制と一致するミトコンドリアの増大の予防を含む、複数の独自の特徴を有することを示している。
【0045】
いくつかの実施形態において、冠状動脈バイパス移植術の前、最中、および/または直後の芳香族カチオン性ペプチドの投与は、CABG処置の腎臓の合併症を予防または治療する。手術後のCABG患者において、血清中クレアチニンにおいて、ベースラインを上回る軽度の増加でさえも、有害転帰に関連し、腎不全のいずれの度合いも、いかに小さくとも、機能の全損が存在しなくても有意な臨床的結果を有する。虚血・再灌流傷害を含む手術中の発作は、糸球体濾過量(GFR)の低下および血清中クレアチニン濃度の上昇によって認められる、腎損傷の発達につながることがある。心肺バイパス技術、集中治療室での看護、および血液透析の進歩にもかかわらず、手術後の腎機能不全に関連する罹患率および死亡率は、過去10年間にわたり、有意に変化していない。異なる手術中の計画が、心臓血管手技を受ける患者の腎臓保護を提供するために開発されてきたが、これらの計画は、主に、ドーパミン、マンニトール、およびフロセミド等の薬物の使用に焦点を当ててきた。しかしながら、いずれの薬理学的介入も、腎臓を保護すると証明されていない。
【0046】
D−Arg−2′,6′−Dmt−Lys−Phe−NH2ペプチドは、虚血・再灌流によって引き起こされるARIの発生を減少させることに効果的であることを示している。米国特許公開第20090221514号を参照されたい。特に、このペプチドは、ARIの動物モデルにおいて、間質性線維症、尿細管のアポトーシス(tubular apoptosis)、マクロファージ浸潤、および細尿管の増殖(tubular proliferation)の減少に効果的である。このペプチドは、45分の虚血および24時間の再灌流から得られる病理組織学のスコアを有意に改善し、再灌流後のATP生産率も有意に増加させた。
【0047】
手術後のCABG患者における腎機能不全に関連する危険因子は、患者関連と手技関連の基準に分類することができる。患者関連の因子には、真性糖尿病、高血圧、左心室機能不全、および既存の腎疾患が挙げられる。例えば、1.5mg/dLを超える腎臓血清中クレアチニン(SCr)を有する手術前の患者は、低い値を有する対象と比較して、手術後の腎機能の急激な悪化、長期の人工呼吸器使用、集中治療室および入院の増加、ならびに短期および長期の高死亡率に対して、より高い危険性がある。手術後のSCrが1.7から2.5mg/dL未満である非透析患者については、手術中の死亡率は、徐々に増加し、33%ほどの高さである。全体的に、手術前に正常に機能するネフロンの数が減少した対象は、手術中および手術後の期間中、不均衡配分および低下した腎血流、腎血管の増加、ならびに糸球体濾過量の低下に対して、より脆弱である。
【0048】
既存の腎疾患は、手術中の合併症の危険性を大いに増加させる。腎機能は、年齢とともに衰退し、機能不全は、高血圧および糖尿病等の、いくつかの従来的な心臓血管の危険因子の結果である。損なわれた腎機能は、これらの病状に悪影響を及ぼし、急性期タンパク質の増加、抗酸化物質の減少、カルシウム/リン酸の代謝の乱れを含む、様々なあまり明確ではない他の危険因子と関連する。腎機能不全はまた、左心室収縮機能の減少および心不全の一般的な結果でもある。同様に、慢性腎疾患は、それ自体が、左心室肥大、拡張、および機能不全の危険因子である。
【0049】
急性腎損傷(AKI)の実用的定義は、血清中クレアチニンレベルの絶対的増加が26.4μmol/l(0.3mg/dl)以上か、または血清中クレアチニンレベルの増加の割合が50%(ベースラインより1.5倍高い)か、あるいは尿排出量の減少(記録された乏尿が6時間を超えて、0.5ml/kg/時未満)として定義される、腎機能における急激な(48時間以内の)減少を要する。これらの基準は、臨床提示に関して適用され、適用する場合には、適正な輸液蘇生に従うことが想定される。全体的に、AKINは、ベースラインに対する血清中クレアチニンの増加、ならびに手術後の尿排出量の減少を示す3つの部類を提案した。
【0050】
複数の一般的病態生理学的過程が、CABG処置関連のAKIに寄与すると考えられる。虚血・再灌流傷害、酸化的ストレス、および炎症が、このリストに含まれる。これらの因子は、特に、相関的、および恐らくは相乗的な方法で作用するように思われる。通常、腎臓灌流は、平均動脈圧が80mm Hg未満に下落するまで、糸球体濾過量が維持されるように、自己調節される。心臓外科手術の間の平均動脈圧は、特に血行動態が不安定な期間中に、しばしば自己調整機能の下限にあるか、または下限を下回る。さらに、多数の心臓外科患者は、現存の共存症(例えば、高齢、アテローム性動脈硬化、慢性高血圧、または慢性腎疾患)、腎臓の自己調整機能に影響する薬物(例えば、非ステロイドの抗炎症薬、ACE阻害剤、アンジオテンシン受容体遮断薬、および放射線造影剤)の投与、または炎症誘発状態のために、自己調整機能が損なわれている。自己調整機能が損なわれた患者において、腎機能は、平均動脈圧が正常範囲内の場合でさえも、悪化することがある。
【0051】
CABG患者において、これらの因子は、尿細管上皮および血管内皮の傷害および活性化を伴う細胞虚血につながる場合がある。さらに、微小血管、ならびに尿細管の閉塞が起こり、傷害と細胞消失の周期の悪化につながる可能性がある。傷害は、次いで、細胞修復、分割、および再分化が起こる場合の維持段階、ならびに回復段階への移行中に安定されるか、あるいは有害介在物の持続的解放が、不適切な増殖および線維症に対する細胞応答を推進する。最後に、ヌクレオチドの枯渇は、ヒポキサンチンの蓄積に至り、活性酸素分子の生成に寄与する。尿細管の酸化的ストレスは、オフポンプの心臓外科手術においてさえも明らかであり、心肺バイパスによって激化される。現在の痕跡は、アポトーシスが、AKIにおける早期の尿細管細胞死の主要な機構であることを提言する。アポトーシスにおける重要なステップは、カスパーゼ(アスパラギン酸特異的システインプロテアーゼ)の活性化であり、それはプログラムされた細胞死の際に極めて有効である。カスパーゼの活性化は、ミトコンドリア膜透過性を統率し、ミトコンドリア内孔を誘導する、経路付近で起こり、シトクロムcが、細胞質内へ退出することを可能にし、それが次にカスパーゼカスケードを活性化する。
【0052】
心臓外科手術はまた、強い全身炎症反応を促すことにより、虚血腎臓傷害にも寄与する。心臓外科手術中の、炎症促進事象には、手術による外傷、血液成分のCPB回路の人工表面との接触、虚血・再灌流傷害、および内毒素血が挙げられる。この全身炎症反応は、腎臓、肺、心臓、および脳を含む、複数の末端器官の機能不全をもたらすことがある。
【0053】
CABG関連のAKIが、虚血、内皮機能不全、および尿細管傷害間の複雑な相互作用であるという認識は、代替の腎臓保護アプローチの探求につながった。これらの過程全てを標的化し、同様に尿細管傷害および血管傷害の両方の上流および末端で、複数の部位に有益に影響する、特定の芳香族カチオン性の能力は、この分子の腎臓保護剤としての発見につながった。
【0054】
いくつかの実施形態において、CABG術の前、最中、および/または直後の芳香族カチオン性ペプチドの投与は、CABG処置の脳の合併症を予防または治療する。手術後の神経機能の低下が、特にCPBが使用される場合の、CABG処置を受けている患者において報告されている。Terrando et al.,Tumor necrosiss factor−triggers a cytokine cascade yielding postoperative cognitive decline.Proc Natl Acad Sci USA 107(47):20518−20522,2010を参照されたい。心臓外科手術においてなされた多数の進歩にもかかわらず、手術中および手術後の脳損傷には問題が残る。CPB中の灌流圧の減少、ならびに大動脈カニューレ挿入中またはCPBからのウィーニング中の空気または粒子物質の塞栓は、神経損傷および神経精神合併症を発現させる可能性がある。
【0055】
D−Arg−2′,6′−Dmt−Lys−Phe−NH2ペプチドは、脳虚血からマウスを保護することを示している。米国特許公開第20070129306号を参照されたい。30分の中大脳動脈の閉塞後、このペプチドを0、6、24、および48時間で用いた野生型マウスの治療は、梗塞の体積および大脳半球の膨張において、生理食塩水対照と比較して、有意な減少をもたらした。
【0056】
CPBが、CABG処置を受ける患者において、神経損傷の発達に寄与する可能性のある全身炎症反応を引き起こし得ることが確立されている。この全身炎症は、CPBの中止後、外科手術による外傷、体外バイパス回路との血液接触、および肺の再灌流傷害によって介在される場合がある。CBP関連の全身炎症反応は、血清C反応性タンパク質、IL−6、IL−8、およびコルチゾールの濃度と相関関係にある。この全身炎症反応の減弱化は、重要な治療対象であり、転帰の改善と関連する。
【0057】
さらに、局所的な脳イベントは、心臓外科手術中に、患者に害を及ぼす可能性がある。脳虚血の存在自体が、シグナル伝達機構、遺伝子転写、およびタンパク質生成を伴う複雑な一連の分子経路を誘導する。脳の領域への血流の損失後、数秒から数分内に、虚血カスケードが開始され、最終的に梗塞の中心/中核で細胞膜の崩壊および神経細胞の死をもたらす一連の生化学的事象へとつながる。酸化的ストレス、ATP枯渇、興奮毒性、炎症、アポトーシス、微小血管の閉塞、および脳の血液脳関門の破裂を含む、複数の病原性エフェクターの共同作用が、これらの事象と関連する。酸化的ストレスは、ミトコンドリア阻害、Ca2+過負荷、および虚血・再灌流傷害を含む、複数の傷害機構を通して、ROS/反応性窒素種の構成を伴う虚血細胞死につながる。虚血傷害に誘発される局所炎症は、炎症促進サイトカインおよびROSを傷害部位内にさらに放出する、活性化ミクログリアおよび浸潤炎症細胞によって引き起こされる。脳組織は、抗酸化物質および抗炎症の防御物で十分に装備されていないため、これらの過程は、虚血脳組織の生存能力を脅かす。脳虚血・再灌流は、脳内の酸化促進状態への有意な移動を誘発する。この理由のため、D−Arg−2′,6′−Dmt−Lys−Phe−NH2ペプチドは、CABG術中に、神経保護剤として使用することができる。
【0058】
一実施形態において、対象は、CABG術の最中および後に、このペプチドを投与される。別の実施形態において、対象は、CABG術の前、最中、および後に、継続的にペプチドを投与される。一実施形態において、対象は、CABG術の少なくとも10分、少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも3時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、または少なくとも24時間前に、ペプチドを投与され始める。一実施形態において、対象は、CABG術の後、少なくとも3時間、少なくとも5時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、または少なくとも24時間ペプチドを投与される。一実施形態において、対象は、CABG術の少なくとも8時間、少なくとも4時間、少なくとも2時間、少なくとも1時間、または少なくとも30分前にペプチドを投与され始める。一実施形態において、対象は、CABG術の後、少なくとも1週間、少なくとも1ヶ月間、または少なくとも1年間、投与される。
【0059】
芳香族カチオン性ペプチドは、水溶性であり、高極性である。これらの性質にもかかわらず、このペプチドは、細胞膜を容易に通過する。芳香族カチオン性ペプチドは、典型的に、最低3個のアミノ酸または最低4個のアミノ酸を含み、ペプチド結合によって、共有結合される。芳香族カチオン性ペプチド内に存在するアミノ酸の最大数は、ペプチド結合によって共有結合される約20個のアミノ酸である。好ましくは、アミノ酸の最大数は、約12個、より好ましくは約9個、最も好ましくは約6個である。
【0060】
芳香族カチオン性ペプチドのアミノ酸は、任意のアミノ酸であってもよい。本明細書で使用される際、用語「アミノ酸」は、少なくとも1つのアミノ基および少なくとも1つのカルボキシル基を含有する任意の有機分子を指して使用される。典型的には、少なくとも1つのアミノ基はカルボキシル基に対しα位にある。アミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよい。天然のアミノ酸には、例えば、通常、哺乳類のタンパク質内に見られる、20個の最も一般的な左旋性(L)アミノ酸、すなわち、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン、(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)が挙げられる。他の天然のアミノ酸には、例えば、タンパク質の合成と関連しない代謝過程において合成されるアミノ酸が挙げられる。例えば、アミノ酸オルニチンおよびシトルリンは、尿素の生産中に哺乳類の代謝において合成される。天然のアミノ酸の別の例には、ヒドロキシプロピン(Hyp)が挙げられる。
【0061】
本ペプチドは、1つ以上の非天然のアミノ酸を随意的に含有する。最適には、ペプチドは、天然のアミノ酸を有しない。非天然のアミノ酸は、左旋性(L−)、右旋性(D−)、またはそれらの混合物であってもよい。非天然のアミノ酸は、生物の通常の代謝過程において典型的には合成されず、タンパク質内でも自然に発生しないようなアミノ酸である。さらに、非天然のアミノ酸はまた、好適には一般的なプロテアーゼによって認識されない。非天然のアミノ酸は、ペプチド内で任意の位置に存在することができる。例えば、非天然のアミノ酸は、N末端、C末端、またはN末端とC末端との間の任意の位置に存在することができる。
【0062】
非天然のアミノ酸は、例えば、天然のアミノ酸内には見られない、アルキル基、アリール基、またはアルキルアリール基を含むことができる。非天然のアルキルアミノ酸のいくつかの例には、α−アミノ酪酸、β−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、δ−アミノ吉草酸、およびε−アミノカプロン酸が挙げられる。非天然のアリールアミノ酸のいくつかの例には、オルト−、メタ、およびパラアミノ安息香酸が挙げられる。非天然のアルキルアリールアミノ酸のいくつかの例には、オルト、メタ、およびパラアミノ馬尿酸、ならびにγ−フェニル−β−アミノ酪酸が挙げられる。非天然のアミノ酸は、天然のアミノ酸の誘導体を含む。天然のアミノ酸の誘導体は、例えば、天然のアミノ酸への1つ以上の化学基の付加を含んでいてもよい。
【0063】
例えば、1つ以上の化学基が、フェニルアラニンまたはチロシン残基の芳香環の2′、3′、4′、5′、または6′位、あるいはトリプトファン残基のベンゾ環の4′、5′、6′、または7′位のうちの1つ以上に付加されてもよい。この基は、芳香環に付加することができる、任意の化学基であってもよい。このような基のいくつかの例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、またはt−ブチル等の、分枝または非分枝のC1−C4アルキル、C1−C4アルキルオキシ(すなわち、アルコキシ)、アミノ、C1−C4アルキルアミノおよびC1−C4ジアルキルアミノ(例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ)、ニトロ、ヒドロキシル、ならびにハロゲン(すなわち、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨウ素)が挙げられる。天然のアミノ酸の非天然の誘導体のいくつかの特定の例は、ノルバリン(Nva)およびノルロイシン(Nle)が挙げられる。
【0064】
ペプチド内のアミノ酸の修飾の別の例は、ペプチドのアスパラギン酸またはグルタミン酸残基のカルボキシル基の誘導体化である。誘導体化の一例は、アンモニア、あるいは一次または二次アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、もしくはジエチルアミンを用いたアミド化である。誘導体化の別の例は、例えばメチルまたはエチルアルコールでのエステル化を含む。別のこのような修飾には、リシン、アルギニン、またはヒスチジン残基のアミノ基の誘導体化が挙げられる。例えば、このようなアミノ基は、アシル化されてもよい。いくつかの好適なアシル基には、例えば、アセチル基またはプロピオニル基等の上述のC1−C4アルキル基のうちのいずれかを含む、ベンゾイル基またはアルカノイル基が挙げられる。
【0065】
非天然のアミノ酸は、好ましくは、一般的なプロテアーゼに対して耐性がある、および/または非感受性である。プロテアーゼに対して耐性があるか、または非感受性の非天然のアミノ酸の例は、上述の天然のL−アミノ酸のうちのいずれかの右旋性(D−)形態、ならびにL−および/またはD−非天然のアミノ酸を含む。D−アミノ酸は、通常はタンパク質中に発生しないが、細胞の通常のリボソームタンパク質合成機構以外の手段によって合成される、特定のペプチド抗生物質中に見られる。本明細書で使用される際、D−アミノ酸は、非天然のアミノ酸であると考えられる。
【0066】
プロテアーゼ感受性を最小化するために、ペプチドは、アミノ酸が天然か非天然かにかかわらず、一般的なプロテアーゼによって認識される、5個未満、4個未満、3個未満、または2個未満の隣接するL−アミノ酸を有する必要がある。最適には、ペプチドは、D−アミノ酸のみを有し、L−アミノ酸を有しない。ペプチドが、プロテアーゼ感受性配列のアミノ酸を含有する場合、アミノ酸のうちの少なくとも1つは、好ましくは非天然のD−アミノ酸であり、したがって、プロテアーゼ耐性を与える。プロテアーゼ感受性配列の例は、エンドペプチターゼおよびトリプシン等の一般的なプロテアーゼによって容易に開裂される、2個以上の隣接する塩基性アミノ酸を含む。塩基性アミノ酸の例は、アルギニン、リシン、およびヒスチジンを含む。
【0067】
芳香族カチオン性ペプチドは、ペプチド内のアミノ酸残基の合計数と比較して、生理学的pHにおいて、正味の正電荷の最低数を有する必要がある。生理学的pHにおける正味の正電荷の最低数は、以下に(pm)として称される。ペプチド内のアミノ酸残基の合計数は、以下に(r)として称される。以下に説明される正味の正電荷の最低数は、全て生理学的pHにおいてのものである。本明細書に使用される用語「生理学的pH」は、哺乳類の体の組織または器官の細胞内の通常のpHを指す。例えば、ヒトの生理学的pHは、通常おおよそ7.4であるが、哺乳動物における通常の生理学的pHは、約7.0から約7.8のいずれのpHであってもよい。
【0068】
本明細書に使用される「正味の電荷」は、ペプチド内に存在するアミノ酸によって担持される、正電荷の数と負電荷の数の平衡を指す。本明細書において、正味の電化は、生理学的pHにおいて測定されるものと理解される。生理学的pHにおいて正電荷を帯びる天然のアミノ酸には、L−リシン、L−アルギニン、およびL−ヒスチジンが挙げられる。生理学的pHにおいて負電荷を帯びる天然のアミノ酸には、L−アスパラギン酸およびL−グルタミン酸が挙げられる。
【0069】
典型的に、ペプチドは、正電荷を帯びたN末端のアミノ基および負電荷を帯びたC末端のカルボキシル基を有する。電荷は、生理学的pHで互いに打ち消し合う。正味の電荷の計算例として、Tyr−Arg−Phe−Lys−Glu−His−Trp−D−Argペプチドは、負電荷を帯びたアミノ酸1個(すなわちGlu)および正電荷を帯びたアミノ酸4個(すなわち、2個のArg残基、1個のLys、および1個のHis)を有する。したがって、上記のペプチドは、正味の正電荷3を有する。
【0070】
一実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、生理学的pHにおける正味の正電荷の最低数(pm)と、アミノ酸残基の合計数(r)との間の関係を有し、そこでは3pmがr+1以下の最大数である。この実施形態において、正味の正電荷の最低数(pm)とアミノ酸残基の合計数(r)との間の関係は、次の通りである。
表1.アミノ酸数および正味の正電荷(3pm≦p+1)
【表1】

【0071】
別の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、正味の正電荷の最低数(pm)と、アミノ酸残基の合計数(r)との間の関係を有し、そこでは2pmが、r+1以下の最大数である。この実施形態において、正味の正電荷の最低数(pm)とアミノ酸残基の合計数(r)との間の関係は、次の通りである。
表2.アミノ酸数および正味の正電荷(2pm≦p+1)
【表2】

【0072】
一実施形態において、正味の正電荷の最低数(pm)とアミノ酸残基の合計数(r)は等しい。別の実施形態において、ペプチドは、3個または4個のアミノ酸残基、ならびに最低1の正味の正電荷、好ましくは最低2の正味の正電荷、より好ましくは最低3の正味の正電荷を有する。
【0073】
芳香族カチオン性ペプチドが、正味の正電荷の合計数(pt)と比較して、芳香族基の最低数を有することもまた、重要である。芳香族基の最低数は、以下に(a)として言及される。芳香基を有する天然のアミノ酸には、アミノ酸ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンが挙げられる。例えば、ヘキサペプチドLys−Gln−Tyr−D−Arg−Phe−Trpは、正味の正電荷2(リシンおよびアルギニン残基によって寄与される)ならびに3個の芳香族基(チロシン、フェニルアラニン、およびトリプトファン残基によって寄与される)を有する。
【0074】
芳香族カチオン性ペプチドは、芳香族基の最低数(a)と、生理学的pHにおける正味の正電荷の合計数(pt)との間に関係を有し、ptが1であり、aもまた1である可能性のある場合を除き、3aがpt+1以下の最大数である。この実施形態において、芳香族基の最低数(a)と正味の正電荷の合計数(pt)との間の関係は、次の通りである。
表3.芳香族基および正味の正電荷(3a≦pt+1またはa=pt=1)
【表3】

【0075】
別の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、芳香族基の最低数(a)と、正味の正電荷の合計数(pt)との間に関係を有し、2aがpt+1以下の最大数である。この実施形態において、芳香族アミノ酸残基の最低数(a)と正味の正電荷の合計数(pt)との間の関係は、次の通りである。
表4.芳香族基および正味の正電荷(2a≦pt+1またはa=pt=1)
【表4】

【0076】
別の実施形態において、芳香族基の数(a)と正味の正電荷の合計数(pt)は等しい。
【0077】
カルボキシル基、C末端アミノ酸の特に末端カルボキシル基は、好ましくは、C末端アミドを形成するために、例えば、アンモニアでアミド化される。あるいは、C末端アミノ酸の末端カルボキシル基は、任意の一次または二次アミンでアミド化されてもよい。一次または二次アミンは、例えば、アルキル、特に分枝もしくは非分枝のC1−C4アルキル、あるいはアリールアミンであってもよい。従って、ペプチドのC末端におけるアミノ酸は、アミド、N−メチルアミド、N−エチルアミド、N,N−ジメチルアミド、N,N−ジエチルアミド、N−メチル−N−エチルアミド、N−フェニルアミド、またはN−フェニル−N−エチルアミド基に変換されてもよい。芳香族カチオン性ペプチドのC末端に発生しないアスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸残基の遊離カルボキシレート基はまた、ペプチド内でそれらが発生する場所がどこであっても、アミド化することができる。これらの内部位置でのアミド化は、アンモニアまたは上述の一次もしくは二次アミンのいずれかを用いて行われてもよい。
【0078】
一実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、正味の正電荷2および少なくとも1つの芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。特定の実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドは、正味の正電荷2および2個の芳香族アミノ酸を有するトリペプチドである。
【0079】
芳香族カチオン性ペプチドには、以下のペプチド例が挙げられるが、これらに限定はされない。

【0080】
一実施形態において、本ペプチドは、μオピオイド受容体作動薬活性(すなわち、それらはμオピオイド受容体を活性化する)を有する。μオピオイド活性は、クローンのμオピオイド受容体への放射性リガンド結合、またはモルモットの回腸を使用するバイオアッセイ(Schiller et al.,Eur J Med Chem,35:895−901,2000、Zhao et al.,J Pharmacol Exp Ther,307:947−954,2003)によって評価することができる。μオピオイド受容体の活性化は、典型的に、鎮痛効果を引き出す。特定の事例において、μオピオイド受容体作動薬活性を有する芳香族カチオン性ペプチドが好ましい。例えば、急性疾患または病状において等の短期治療の際、μオピオイド受容体を活性化する芳香族カチオン性ペプチドを使用することが有益な場合がある。このような急性疾患および病状は、しばしば、中程度または重度の痛みと関連する。これらの事例において、芳香族カチオン性ペプチドの鎮痛効果は、ヒト患者または他の哺乳類の治療計画において有益な場合がある。μオピオイド受容体を活性化しない芳香族カチオン性ペプチドも、しかしながら、臨床要件に従って、場合によっては鎮痛剤を伴って使用することができる。
【0081】
あるいは、他の事例においては、μオピオイド受容体作動薬活性を有しない芳香族カチオン性ペプチドが好ましい。例えば、慢性疾患状態または病状において等の長期治療の際、μオピオイド受容体を活性化させる芳香族カチオン性ペプチドの使用は、禁忌である可能性がある。これらの事例において、芳香族カチオン性ペプチドの潜在的な副作用または中毒作用は、ヒト患者または他の哺乳類の治療計画において、μオピオイド受容体を活性化させる芳香族カチオン性ペプチドの使用を妨げる可能性がある。潜在的な副作用には、鎮静作用、便秘、および呼吸抑制が挙げられる。このような事例において、μオピオイド受容体を活性化させない芳香族カチオン性ペプチドが、治療に適している場合がある。
【0082】
μオピオイド受容体作動薬活性を有するペプチドは、典型的に、N末端(すなわち、第1番目のアミノ酸の位置)にチロシン残基またはチロシン誘導体を有するようなペプチドである。チロシンの好ましい誘導体には、2−メチルチロシン(Mmt)、2′,6′−ジメチルチロシン(2′6′−Dmt)、3′,5′−ジメチルチロシン(3′5′Dmt)、N,2′,6′−トリメチルチロシン(Tmt)、および2′−ヒドロキシ−6′−メチルチロシン(Hmt)が挙げられる。
【0083】
一実施形態において、μオピオイド受容体作動薬活性を有するペプチドは、化学式Tyr−D−Arg−Phe−Lys−NH2を有する。このペプチドは、アミノ酸チロシン、アルギニン、およびリシンによって寄与される正味の正電荷3を有し、アミノ酸フェニルアラニンおよびチロシンによって寄与される2つの芳香族基を有する。チロシンは、化学式2′,6′−Dmt−D−Arg−Phe−Lys−NH2を有する化合物を生成するために、2′,6′−ジメチルチロシンにあるような修飾されたチロシンの誘導体であってもよく、このペプチドは、分子量640を有し、生理学的pHにおいて、正味の電荷量3を担持する。本ペプチドは、エネルギー非依存方式で、複数の哺乳類細胞種の原形質膜を容易に通過する(Zhao et al., J.Pharmacol Exp Ther.,304:425−432,2003)。
【0084】
μオピオイド受容体作動薬活性を有しないペプチドは、一般的にチロシン残基またはチロシンの誘導体をN末端(すなわち、アミノ酸位置1)に有しない。N末端のアミノ酸は、チロシン以外の任意の天然または非天然のアミノ酸であってもよい。一実施形態において、N末端のアミノ酸は、フェニルアラニンまたはその誘導体である。フェニルアラニンの例示的な誘導体には、2′−メチルフェニルアラニン(Mmp)、2′,6′−ジメチルフェニルアラニン(2′,6′−Dmp)、N,2′,6′−トリメチルフェニルアラニン(Tmp)、および2′−ヒドロキシ−6′−メチルフェニルアラニン(Hmp)が挙げられる。
【0085】
μオピオイド受容体作動薬活性を有しない芳香族カチオン性ペプチドの例は、化学式Phe−D−Arg−Phe−Lys−NH2を有する。あるいは、N末端のフェニルアラニンは、2′,6′−ジメチルフェニルアラニン(2′6′−Dmp)等、フェニルアラニンの誘導体であってもよい。一実施形態において、2′,6′−ジメチルフェニルアラニンをアミノ酸位置1に有するペプチドは、化学式2′,6′−Dmp−D−Arg−Phe−Lys−NH2を有する。一実施形態において、アミノ酸配列は、DmtがN末端に存在しないように、再配置される。このようなμオピオイド受容体作動薬活性を有しない芳香族カチオン性ペプチドの例は、化学式D−Arg−2′6′−Dmt−Lys−Phe−NH2を有する。
【0086】
本明細書に記載されるペプチドおよびそれらの誘導体は、機能的類似体をさらに含んでもよい。ペプチドは、類似体が提示されるペプチドと同一の機能を有する場合、機能的類似体と考えられる。類似体は、例えば、1つ以上のアミノ酸が別のアミノ酸によって置換される、ペプチドの置換変異体であってもよい。ペプチドの好ましい置換変異体は、同類アミノ酸置換を含む。アミノ酸は、それらの物理化学的特性によって、次のように分類されてもよい。
(a)非極性アミノ酸:Ala(A) Ser(S) Thr(T) Pro(P) Gly(G) Cys(C)
(b)酸性アミノ酸:Asn(N) Asp(D) Glu(E) Gln(Q)
(c)塩基性アミノ酸:His(H) Arg(R) Lys(K)
(d)疎水性アミノ酸:Met(M) Leu(L) Ile(I) Val(V)
(e)芳香族アミノ酸:Phe(F) Tyr(Y) Trp(W) His(H)
【0087】
ペプチド内のアミノ酸の、同一の分類の別のアミノ酸による置換は、同類置換と称され、元のペプチドの物理化学的特性を保つ場合がある。逆に、ペプチド内のアミノ酸の、異なる分類の別のアミノ酸による置換は、一般的に、元のペプチドの特性を変化させる傾向が強い。
【0088】
いくつかの実施形態において、芳香族カチオン性ペプチド内の1つ以上の天然のアミノ酸は、アミノ酸類似体で置換される。μオピオイド受容体を活性化させる類似体の例は、表5に示される芳香族カチオン性ペプチドを含むが、これらに限定されない。
表5.μオピオイド活性を有するペプチド類似体
【表5】







Dab=ジアミノ酪酸
Dap=ジアミノプロピオン酸
Dmt=ジメチルチロシン
Mmt=2′−メチルチロシン
Tmt=N,2′,6′−トリメチルチロシン
Hmt=2′−ヒドロキシ,6′−メチルチロシン
dnsDap=β−ダンシル−L−α,β−ジアミノプロピオン酸
atnDap=β−アントラニロイル−L−α,β−ジアミノプロピオン酸
Bio=ビオチン
【0089】
μオピオイド受容体を活性化させない類似体の例は、表6に示される芳香族カチオン性ペプチドを含むが、それらに限定されない。
表6.μオピオイド活性を有しないペプチド類似体
【表6】

Cha=シクロヘキシルアラニン
【0090】
表5および6に示される、ペプチドのアミノ酸は、L−またはD−構成のいずれかであってもよい。
【0091】
本ペプチドは、当該技術分野で周知の方法のいずれかによって合成することができる。本タンパク質を化学的に合成するために好ましい方法は、例えば、StuartおよびYoungによって記載の、Solid Phase Peptide Synthesis,Second Edition, Pierce Chemical Company(1984)、およびMethods Enzymol.,289,Academic Press,Inc,New York(1997)において記載されるもの等を含む。

芳香族カチオン性ペプチドの予防的使用および治療的使用
【0092】
概要。本明細書に記載の芳香族カチオン性ペプチドは、疾患の予防または治療に有用である。具体的には、本開示は、血管閉塞傷害または心虚血・再灌流傷害の危険性がある(または、それにかかりやすい)対象を治療する、予防的および治療的両方の方法を提供する。したがって、本方法は、芳香族カチオン性ペプチドの有効量を、それを必要とする対象に投与すること、およびCABG術を行うことによって、対象内の血管閉塞傷害もしくは心虚血・再灌流傷害の予防ならびに/または治療を提供する。
【0093】
芳香族カチオン性ペプチドに基づいた治療の生物学的効果の判定。様々な実施形態において、特定の芳香族カチオン性ペプチドに基づく治療の効果、およびその投与が治療に適用されるかどうかを判定するために、好適なインビトロまたはインビボ検定が行われた。様々な実施形態において、インビトロ検定を、所定の芳香族カチオン性ペプチドに基づく治療が、虚血・再灌流傷害の予防または治療において、所望の効果を発揮するかどうかを判定するために、代表的な動物モデルを用いて行うことができる。治療における使用のための化合物は、ヒト対象における試験の前に、ラット、マウス、ニワトリ、ブタ、ウシ、サル、ウサギ等を含むがこれらに限定されない好適な動物モデル系において、試験することができる。同様に、インビボ試験についても、ヒト対象への投与の前に、当該技術分野で既知の動物モデル系のいずれかを使用することができる。
【0094】
予防方法。一態様において、本発明は、病状の発症または進行を予防する芳香族カチオン性ペプチドを対象に投与することによって、対象内の血管閉塞傷害を予防するための方法を提供する。血管閉塞傷害の危険性のある対象は、例えば、本明細書に記載のように、診断検定または予後検定のいずれか、あるいはその組み合わせによって同定することができる。予防適用において、芳香族カチオン性ペプチドの薬学的組成物または薬剤は、疾患または病状にかかりやすいか、あるいはそうでなければその危険性のある対象に、疾患の生化学的、組織学的、および/または行動的症状、ならびに疾患の発達中に現れる合併症および中程度の病理学的表現型を含む、危険性の排除または減少、重症度の軽減、もしくは疾患の発病の遅延に十分な量で投与される。予防的な芳香族カチオン性の投与は、疾患または傷害が予防されるか、あるいはその進行を遅延させるように、異常に特徴的な症状の兆候に先立って、行うことができる。適切な化合物は、上述のスクリーニング検定に基づいて判定することができる。いくつかの実施形態において、本ペプチドは、CABGからの腎臓または脳の合併症の予防に十分な量で投与される。
【0095】
治療方法。本技術の別の態様は、対象内の血管閉塞傷害を治療目的で治療する方法を含む。治療適用において、組成物または薬剤は、このような疾患の疑いがあるか、あるいは既にそれを患っている対象に、疾患の発達における合併症および中程度の病理学的表現型を含む、疾患の症状を癒す、もしくは少なくとも部分的にそれを阻むために十分な量で投与される。このようにして、本発明は、芳香族カチオン性ペプチドの有効量を投与すること、およびCABG術を行うことによって、心虚血・再灌流傷害に苦しむ人を治療する方法を提供する。

投与形態および有効量
【0096】
細胞、器官、または組織をペプチドに接触させるための、当業者に既知の任意の方法を採用することができる。有効量は、臨床前試験および臨床試験の際に、医師および臨床医によく知られた方法によって判定することができる。本方法に有用なペプチドの有効量は、医薬品を投与するための多数の周知の方法のいずれかによって、それを必要とする哺乳動物に投与することができる。本ペプチドは、全身的または局所的に投与することができる。
【0097】
本ペプチドは、薬学的に許容される塩として製剤化することができる。用語「薬学的に許容される塩」は、哺乳動物等の患者への投与が許容される塩基または酸から調製される塩を意味する(例えば、所定の用法用量に対して許容可能な哺乳類安全性を有する塩)。しかしながら、患者への投与を目的とされない中間化合物の塩等の塩は、薬学的に許容される塩である必要はないことを理解されたい。薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される無機塩基または有機塩基、ならびに薬学的に許容される無機酸または有機酸から誘導されてもよい。さらに、ペプチドが、例えばアミン、ピリジン、またはイミダゾール等の塩基性部分と、カルボキシル酸またはテトラゾール等の酸性部分の両方を含有する場合、両性イオンが形成されてもよく、本明細書に使用される用語「塩」の中に含まれる。薬学的に許容される無機塩基から誘導される塩には、アンモニウム塩、カルシウム塩、銅塩、第二鉄塩、第一鉄塩、リチウム塩、マグネシウム塩、第二マンガン塩、第一マンガン塩、カリウム塩、ナトリウム塩および亜鉛塩等が挙げられる。薬学的に許容される有機塩基から誘導される塩には、置換アミンを含む一級、二級、および三級アミン、環状アミン、ならびに天然アミン等が挙げられ、例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N′−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチルモルホリン、N−エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リシン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペラジン(piperadine)、ポリアミン、樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、およびトロメタミン等である。薬学的に許容される無機酸から誘導される塩には、ホウ酸、炭酸、ハロゲン化水素酸(臭化水素、塩化水素、フッ化水素またはヨウ化水素)、硝酸、リン酸、スルファミン酸、および硫酸の塩が挙げられる。薬学的に許容される有機酸から誘導される塩には、脂肪族ヒドロキシル酸(aliphatic hydroxyl acids)(例えば、クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、ラクトビオン酸、リンゴ酸、および酒石酸)、脂肪族モノカルボン酸(例えば、酢酸、酪酸、ギ酸、プロピオン酸、およびトリフルオロ酢酸)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸)、芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸、p−クロロ安息香酸、ジフェニル酢酸、ゲンチシン酸、馬尿酸、およびトリフェニル酢酸)、芳香族ヒドロキシル酸(例えば、o−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、1−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸、および3−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸)、アスコルビン酸、ジカルボン酸(例えば、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、およびコハク酸)、グルクロン酸(glucoronic)、マンデル酸、粘液酸、ニコチン酸、オロチン酸、パモン酸、パンテトン酸、スルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、エジシル酸(edisylic)、エタンスルホン酸、イセチオン酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレン−1,5−ジスルホン酸、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸、およびp−トルエンスルホン酸)、およびキシナホ酸(xinafoic acid)の塩が挙げられる。
【0098】
本明細書に記載される芳香族カチオン性ペプチドは、本明細書に記載される傷害の治療または予防のために、対象に単独あるいは組み合わせでの投与のための薬学的組成物に組み込むことが可能である。このような組成物は、典型的に、活性薬剤および薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される際、用語「薬学的に許容される担体」は、薬学的投与に適合する、生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含む。追加的な活性化合物もまた、組成物に組み込むことが可能である。
【0099】
薬学的組成物は、典型的に、その目的の投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例には、非経口(例えば、静脈内、皮内、腹腔内、または皮下)、経口、吸入、経皮(局所的)、眼球内、イオン導入、および経粘膜投与が挙げられる。非経口、皮内、または皮下適用に使用される溶液または懸濁液は、次の構成成分を含んでもよい:注入のための水等の滅菌希釈剤、食塩溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベン等の抗菌剤;アスコルビン酸または二亜硫酸ナトリウム等の抗酸化物質;エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩等の緩衝液、ならびに塩化ナトリウムまたはデキストロース等の張力を調節するための薬剤。pHは、塩酸もしくは水酸化ナトリウム等の、酸または塩基で調節可能である。非経口調製は、アンプル、使い捨てシリンジ、またはガラスもしくはプラスチック製の複数の投与バイアル内に封入することができる。患者または治療医師の便宜のために、投与製剤は、治療単位(例えば、7日間の治療)に必要な全ての備品(例えば、薬品のバイアル、希釈剤のバイアル、ならびにシリンジおよび針)を含むキット内に提供されてもよい。
【0100】
注入に好適な薬学的組成物は、滅菌注入溶液または分散剤の即時調製のための、滅菌の水性溶液(水溶性)または分散剤および滅菌の粉末を含んでもよい。静脈内投与については、好適な担体は、生理学的食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)(BASF,Parsippany,N.J.)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。全ての事例において、非経口投与のための組成物は、滅菌でなければならず、容易な注入能力が存在する限りは、流体である必要がある。製造および保管の状況下において安定している必要があり、細菌および真菌等の微生物の汚染活動に対して保護されなければならない。
【0101】
芳香族カチオン性ペプチド組成物は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体のポリエチレングリコール等)、ならびに好適なそれらの混合物を含有する溶媒または分散媒であってもよい、担体を含むことができる。適正な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散の場合には必要とされる粒子寸法の維持によって、ならびに界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の活動の予防は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、およびチオメロサール(thiomerasol)等の、様々な抗菌剤および抗真菌剤によって達成することができる。グルタチオンおよび他の抗酸化物質を、酸化を防止するために含んでもよい。多数の事例において、例えば、糖、およびマンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウム等の多価アルコールの、等張剤を、組成物内に含むことが好ましい。注入可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチン、を組成物内に含むことによってもたらすことができる。
【0102】
抗菌の注入可能溶液は、適切な溶媒中の必要な量の活性化合物を、上に列挙した成分のうちの1つまたは組み合わせと組み込み、必要に応じて、続いて濾過滅菌することによって調製することができる。一般的に、分散剤は、塩基性の分散媒、および上に列挙されたものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに、活性化合物を組み込むことによって調製される。滅菌の注入可能溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製の典型的な方法は、活性成分の粉末に加えて、前もって滅菌濾過されたその溶液から任意の追加の所望の成分を生成することができる、真空乾燥および凍結乾燥を含む。
【0103】
経口用組成物は、概して、不活性希釈剤または食用の担体を含む。経口治療的投与の目的で、活性化合物は、賦形剤と組み合わせて、錠剤、トローチ、またはカプセル、例えばゼラチンカプセルの形状で使用することができる。経口用組成物はまた、洗口剤としての使用のために、流体の担体を使用して調製することができる。薬学的に混合可能な結合剤、および/またはアジュバント物質が、組成物の一部として含まれてもよい。錠剤、丸薬、カプセル、およびトローチ等は、以下の成分、あるいは類似の性質の化合物のいずれかを含有することができる:微結晶性セルロース、トラガカントガム、またはゼラチン等の結合剤;デンプンまたはラクトース等の賦形剤、ならびにアルギン酸、Primogel、またはコーンスターチ等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはSterotes等の潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素等の流動促進剤;スクロースまたはサッカリン等の甘味剤;あるいはペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香味料等の香味剤。
【0104】
吸入による投与については、化合物は、好適な推進剤、例えば、二酸化炭素等のガス、あるいは噴霧器を含む、加圧容器またはディスペンサーからのエアロゾールスプレーの形状で送達可能である。このような方法は、米国特許第6,468,798号に記載のもの等を含む。
【0105】
本明細書に記載のような治療的化合物の全身的投与はまた、経粘膜的または経皮的手段によるものであってもよい。経粘膜的または経皮的投与について、透過される障壁に適切な浸透剤が、その製剤において使用される。このような浸透剤は、概して、当該技術分野で既知であり、例えば、経粘膜的投与については、洗浄剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜的投与は、鼻腔用スプレーの使用を通じて達成されてもよい。経皮的投与については、活性化合物は、当該技術分野で一般的に既知のように、軟膏(ointment)、軟膏(salve)、ゲル、またはクリームに製剤化されてもよい。一実施形態において、経皮的投与は、イオン導入によって行われてもよい。
【0106】
治療用タンパク質またはペプチドは、担体系において製剤化されてもよい。担体は、コロイド系であってもよい。コロイド系は、リポソーム、リン脂質二重層ビヒクルであってもよい。一実施形態において、治療用ペプチドは、ペプチドの完全性を維持しながら、リポソーム内にカプセル封入される。当業者が認識するように、リポソームを調製するためには様々な方法が存在する。(Lichtenberg et al.,Methods Biochem.Anal.,33:337−462(1988)、Anselem et al.,Liposome Technology,CRC Press(1993)を参照されたい)。リポソーム製剤は、クリアランスを遅らせ、細胞取り込みを増加させることができる(Reddy,Ann.Pharmacother.,34(7−8):915−923(2000)を参照されたい)。活性薬剤はまた、可溶性、不溶性、浸透性、不浸透性、生分解性、もしくは胃保持性(gastroretentive)のポリマーまたはリポソームを含むがこれらに限定されない、薬学的に許容される成分から調製される粒子内に積載されてもよい。このような粒子は、ナノ粒子、生分解性ナノ粒子、微小粒子、生分解性微小粒子、ナノスフェア、生分解性ナノスフェア、ミクロスフェア、生分解性ミクロスフェア、カプセル、エマルジョン、リポソーム、ミセル、およびウィルスベクター系を含むが、これらに限定されない。
【0107】
担体はまた、ポリマー、例えば、生分解性、生体適合性のポリマーマトリクスであってもよい。一実施形態において、治療用ペプチドは、タンパク質の完全性を維持しながらもポリマーマトリクス内に埋め込まれてもよい。ポリマーは、ポリペプチド、タンパク質、または多糖等、天然のものであってもよく、ポリα−ヒドロキシ酸等、合成のものであってもよい。例は、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、多糖、繊維素、ゼラチン、およびそれらの組み合わせから作製される担体を含む。一実施形態において、ポリマーは、ポリ乳酸(PLA)またはコポリ乳酸/グリコール酸(PGLA)である。ポリマーマトリクスは、調製可能であり、ミクロスフェアおよびナノスフェアを含む、様々な形状および大きさに分離することができる。ポリマー製剤は、治療効果を長い持続時間に導くことができる。(Reddy,Ann.Pharmacother.,34(7−8):915−923(2000)を参照されたい。)ヒト成長ホルモン(hGH)のためのポリマー製剤は臨床試験で使用されてきた。(Kozarich and Rich,Chemical Biology,2:548−552(1998))を参照されたい)。
【0108】
ポリマーミクロスフェアの持続性放出性製剤の例は、国際公開第WO 99/15154号(Tracyら)、米国特許第5,674,534号および第5,716,644号(いずれもZaleら)、国際公開第WO 96/40073号(Zaleら)、ならびに国際公開第WO 00/38651号(Shahら)に記載されている。米国特許第5,674,534号および第5,716,644号、ならびに国際公開第WO 96/40073号は、塩との凝集に対して安定化されるエリスロポエチンの粒子を含有するポリマーマトリクスを説明する。
【0109】
いくつかの実施形態において、治療用化合物は、体からの急速な排出から治療化合物を保護する、埋め込みおよびマイクロカプセル化した送達系を含む、放出制御製剤等の担体を用いて調製される。生分解性生体適合性のポリマーは、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ酢酸等が、使用されてもよい。このような製剤は、既知の技術を使用して調製することができる。材料はまた、例えば、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incから、市販に入手可能である。リポソーム懸濁液(細胞特異的抗原に対して、モノクローナル抗体を用いて特定の細胞に標的化されるリポソームを含む)もまた、薬学的に許容される担体として使用可能である。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載のように、当業者に既知の方法に従って調製することができる。
【0110】
治療的化合物はまた、細胞内送達を強化するように製剤化されてもよい。例えば、リポソーム送達系は、当該技術分野で既知であり、例えば、Chonn and Cullis“Recent Advances in Liposome Drug Delivery Systems,”Current Opinion in Biotechnology6:698−708(1995)、Weiner,“Liposomes for Protein Delivery: Selecting Manufacture and Development Processes,”Immunomethods,4(3):201−9 (1994)、およびGregoriadis,“Engineering Liposomes for Drug Delivery:Progress and Problems,”Trends Biotechnol.,13(12):527−37(1995)を参照されたい。Mizguchi et al.,Cancer Lett.,100:63−69(1996)は、インビボおよびインビトロの両方において、タンパク質を細胞に送達するための、融合性リポソームの使用を説明する。
【0111】
治療薬剤の、投与量、毒性、および治療効果は、例えば、LD50(個体数の50%に致死の投与量)およびED50(個体数の50%に治療効果のある投与量)の判定について、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手技によって判定される。毒性と治療効果との間の投与量の比率は、治療指数であり、LD50/ED50の比率として表現することができる。高い治療指数を示す化合物が、好ましい。毒性の副作用を示す化合物も使用されることがあるが、非感染細胞への潜在的な損傷を最小化し、副作用を減少させるためには、このような化合物を罹患組織の位置に標的化する送達系を設計するために、注意を要する。
【0112】
細胞培養検定および動物実験から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投与量範囲の形成において使用することができる。このような化合物の投与量は、毒性がほとんどないか、全くないED50を含む、血中濃度の範囲内にあることが好ましい。投与量は、採用される投与形態および利用される投与経路によって、この範囲内で変化してもよい。本方法において使用されるあらゆる化合物について、治療的に有効な投与量は、まず細胞培養検定から試算することができる。投与量は、細胞培養において判定される際、動物モデルにおいて、IC50(すなわち、症状の半最大抑制を達成する試験化合物の濃度)を含む血中血漿濃度範囲を達成するように、形成されてもよい。このような情報は、ヒトにおいて有用な投与量をより正確に判定するために使用することができる。血漿中のレベルが、例えば、高性能液体クロマトグラフィーによって、測定されてもよい。
【0113】
典型的に、治療または予防効果を達成するために十分な、芳香族カチオン性ペプチドの有効量は、1日につき体重1キログラムあたり約0.000001mgから1日につき体重1キログラムあたり約10,000mgの範囲である。好適には、投与量範囲は、1日につき体重1キログラムあたり約0.0001mgから1日につき体重1キログラムあたり約100mgである。例えば、投与量は、毎日、1日おき、または2日おきに1mg/kg体重または10mg/kg体重か、あるいは毎週、隔週、または2週おきに1〜10mg/kgの範囲であってもよい。一実施形態において、ペプチドの単回投与は、体重1kgあたり0.1〜10,000マイクログラムの範囲である。一実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドの担体内濃度は、送達されるミリリットルあたり、0.2から2000マイクログラムである。例示的治療計画は、1日1回、または1週間に1回の投与を伴う。治療的適用において、比較的短い間隔での比較的高い投与量が、疾患の進行が減少されるか終了されるまで、好ましくは、対象が、疾患の症状の部分的または完全な改善を見せるまで、しばしば必要とされる。したがって、患者は、予防的投与計画で投与されてもよい。
【0114】
例示的実施形態において、対象は、約0.001から約1mg/kg/時、すなわち、約0.005、約0.01、約0.025、約0.05、約0.10、約0.25、または約0.5mg/kg/時間で、静脈内注入によって、本ペプチドを投与される。静脈内注入は、組織の再灌流の前、または後に開始されてもよい。
【0115】
いくつかの実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドの治療有効量は、10-12から10-6モル、例えば、おおよそ10-7モルの、標的組織における、ペプチドの濃度として定義することができる。この濃度は、0.001から100mg/kgの全身的な投与または体表面積による同等の投与によって、送達することができる。投与のスケジュールは、標的細胞における治療的濃度を維持するために最適化され、最も好ましくは、毎日または毎週の単回投与だが、継続的な投与もまた含む(例えば、非経口注入または経皮的投与)。
【0116】
いくつかの実施形態において、芳香族カチオン性ペプチドの投与量は、「低い」、「中間の」、「高い」投与量レベルで提供される。一実施形態において、低い投与量は、約0.001から約0.5mg/kg/時、好適には約0.01から約0.1mg/kg/時で提供される。一実施形態において、中間の投与量は、約0.1から約1.0mg/kg/時、好適には約0.1から約0.5mg/kg/時で提供される。一実施形態において、高い投与量は、約0.5から約10mg/kg/時、好適には約0.5から約2mg/kg/時で提供される。静脈内注入は、組織の再灌流の前、または後に開始されてもよい。いくつかの実施形態において、対象は、組織の再灌流の前に、静脈内ボーラス注入において受容することができる。一実施形態において、本ペプチドは、心停止液と併用して投与される。一実施形態において、本ペプチドは、心肺バイパス中に、プライミング液の一部として、人工心肺内に投与される。
【0117】
当業者は、疾患または障害の重症度、以前の治療、対象の全体的な健康状態、および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含むがこれらに限定はされない、特定の因子が、対象を効果的に治療するために必要とされる投与量およびタイミングに影響を及ぼすことを認識するであろう。さらに、本明細書に記載される治療的化合物の治療有効量での対象の治療は、単回治療または一連の治療を含むことができる。
【0118】
本発明の方法に従って治療される哺乳動物は、例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、およびウマ等の家畜;イヌおよびネコ等の愛玩動物;ラット、マウス、およびウサギ等の実験動物を含む、任意の哺乳動物であってもよい。好適な実施形態において、哺乳動物はヒトである。
【0119】
実施例
本発明は、以下の実施例によってさらに説明され、決して限定的であると解釈されるべきではない。

実施例1.ウサギモデルにおける血管閉塞傷害から保護する芳香族カチオン性ペプチドの効果
【0120】
ウサギモデルにおける血管閉塞傷害から保護する芳香族カチオン性ペプチドの効果を調査した。D−Arg−2′6′−Dmt−Lys−Phe−NH2ペプチドの心筋保護効果は、本実施例によって実証された。

実験方法
【0121】
ニュージーランド白ウサギを本研究に使用した。ウサギは、10週齢超の雄であった。動物飼育室の環境制御を、温度華氏61度〜72度のおよび相対湿度30%〜70%を維持するよう設定した。室温および湿度を毎時間記録し、毎日監視した。1時間におおよそ10〜15回、動物飼育室の空気交換を行った。光周期は、必要に応じて投薬およびデータ収集を提供する場合を除いて、12時間明所/12時間暗所(蛍光灯を介して)であった。日常的な監視を毎日行った。Harlan Teklad、Certified Diet(2030C)のウサギの餌を、到着時から施設に1日につきおおよそ180グラム提供した。加えて、新鮮な果物および野菜を1週間に3回ウサギに与えた。
【0122】
試験物質としてD−Arg−2′6′−Dmt−Lys−Phe−NH2ペプチド(滅菌凍結乾燥粉末)を使用した。投与液を1mg/mL以下で製剤化し、持続注入(静脈内)を介して定速(例えば、50μL/kg/分)で送達した。対照として生理食塩水(0.9%のNaCl)を使用した。
【0123】
AMIおよびPTCAの臨床環境における予想される投与経路を模倣するために、試験/ビヒクルを全身麻酔下で静脈内投与した。静脈内注入を、Kd Scientific社の注入ポンプ(Holliston,MA 01746)を用いて、一定容積(例えば、50μL/kg/分)で末梢静脈投与した。
【0124】
研究は、既定のプラセボおよび偽制御されたデザインに従った。手短に言えば、10〜20匹の健常な順応した雄ウサギを、3つの研究アームのうちの1つに割り当てた(1ブループにつき約2〜10匹の動物)。アームA(n=10、対照/プラセボ)は、ビヒクル(ビヒクル;VEH、静脈内)で治療された動物を含み、アームB(n=10、治療)は、ペプチドで治療された動物を含み、アームC(n=2、偽)は、ビヒクル(ビヒクル;VEH、静脈内)またはペプチドで治療された偽手術された時間対照を含む。
表7.研究計画
【表7】

【0125】
全ての事例において、30分間の虚血性傷害(冠動脈閉塞)の開始の約10分後に治療を開始し、再灌流後、最大3時間続けた。全ての事例において、心臓血管機能を、虚血前および虚血中の両方、ならびに再灌流後、最大180分間(3時間)監視した。実験を再灌流の3時間後に終了し(研究終了)、この時点での不可逆的心筋傷害(組織形態測定による梗塞寸法)を評価し、これが本研究の主要エンドポイントであった。研究デザインは、表7および図1に要約される。
【0126】
麻酔/外科的準備。筋肉内(IM)全身麻酔をケタミン(約35〜50mg/kg)/キシラジン(約5〜10mg/kg)混合物で誘発した。静脈カテーテルを麻酔薬投与のために末梢静脈(例えば、耳)内に設置した。自律神経機能を保つために、プロポフォール(約8〜30mg/kg/時間)およびケタミン(約1.2〜2.4mg/kg/時間)の持続注入で麻酔を維持した。気管切開(腹側正中切開)を介してカフ付き気管チューブを設置し、それを使用して、PaCO2値を大まかに生理学的範囲内に維持するために、従量式動物人工呼吸器を介して(1回の換気量約12.5mL/kgで、約40回の呼吸/分)、肺に95%のO2/5%のCO2混合物を機械的に通気した。
【0127】
麻酔の外科的水準に達した時点で、2つの標準のECGリード(例えば、リードII、aVF、V2)を形成する経胸腔電極または針電極のいずれかを設置した。頸静脈切開によって頸動脈が曝露し、これを周辺組織から単離し、解剖し、二重センサ高性能マイクロマノメーターカテーテル(Millar Instruments)でカニューレ挿入し、大動脈圧(歯根、近位トランスデューサ)および左室圧(遠位トランスデューサ)を同時に決定するために、このカテーテルの先端を、大動脈弁にわたって逆行的に左心室(LV)内に前進させた。頸静脈切開によって頸静脈も曝露し、中空の注入カテーテル(血液サンプリング用)でカニューレ挿入した。最後に、ビヒクル/試験物質の投与のために、さらなる静脈カテーテルを末梢静脈(例えば、耳)に設置した。
【0128】
その後、動物を右側横臥位で設置し、正中開胸術および心膜切開術を介して心臓を曝露させた。左回旋枝(LCX)および左前下行枝(LAD)冠動脈を曝露するために、心臓を心膜架台に吊垂した。絹糸結紮を、(先細針を用いて)近位LAD周囲に、必要ならば、それぞれの動物の冠動脈の解剖学的形態に応じて、LCX辺縁冠動脈の1つ以上の分岐部周囲に緩く設置した。これらのスネアの締め付け(ポリエチレンチューブの小片を介して)は、左心室筋の一部を一時的に虚血性にさせた。
【0129】
器具の使用が終了した時点で、血行動態安定性および適切な麻酔深度を少なくとも30分間検証/確保した。その後、血行動態/呼吸安定性を促進するために、動物をアトラクリウム(約0.1〜0.2mg/kg/時間、静脈内)で麻痺させた。アトラクリウムの投与後、自律神経系の活動亢進の兆候および/またはBIS値の変化を用いて麻酔深度を評価し、および/または静脈麻酔薬を上方滴定した。
【0130】
実験プロトコル/心臓血管データ収集。外科的準備の直後、動物をヘパリンで治療し(100単位のヘパリン/kg/時間、静脈内ボーラス)、血行動態安定化後(約30分後)、心筋酵素/バイオマーカーの評価ならびに試験物質濃度の評価のために、静脈血を含むベースラインデータを収集した。
【0131】
血行動態安定化およびベースライン測定後、動物を、LAD/LCX冠状動脈スネアの締め付けによって急性虚血性傷害に30分間供した。心筋虚血は、LAD/LCXの遠位分布における色(すなわち、チアノーゼ性)変化によって、かつ心電図上の変化の開始によって視覚的に確認された。虚血の約10分後、動物は、ビヒクル(生理食塩水)またはペプチドのいずれかの持続注入を受け、治療の開始からさらに20分間(すなわち、合計30分間)虚血を続けた。その後(すなわち、虚血の30分後であり、最後の20分間は治療と重複する)、冠状動脈スネアを解放し、先の虚血心筋を最大3時間再灌流した。ビヒクルまたはペプチドのいずれかでの治療を再灌流期間にわたって続けた。偽手術された動物において、血管スネアを虚血/再灌流開始時点で操作したが、引き締めることも弛緩することもなかったことに留意されたい。
【0132】
心臓血管のデータを、11個の既定の時点:器具の使用/安定化(すなわち、ベースライン)後、虚血の10分後および30分後、ならびに再灌流の5分後、15分後、30分後、60分後、120分後、および180分後に収集した。本実験にわたって、アナログ信号をデジタル的にサンプリングし(1000Hz)、データ収集システム(IOX;EMKA Technologies)で連続的に記録し、以下のパラメータを上述の時点で判定した:(1)双極性経胸腔ECG(例えば、リードII、aVF):リズム(不整脈の定量化/分類)、RR、PQ、QRS、QT、QTc、短期間QT不安定性、およびQT:TQ(復元)、(2)大動脈(Millar):動脈圧/大動脈圧(AoP)におけるソリッドステートマノメーター、ならびに(3)LV(Millar):左心室圧(ESP、EDP)におけるソリッドステートマノメーターおよび生成されたインデックス(dP/dtmax、dP/dtmin、Vmax、およびtau)。加えて、ペプチド治療されたI/R傷害およびペプチド治療されていないI/R傷害に起因する不可逆的心筋傷害(すなわち、梗塞)の程度を決定/定量化するために、心臓バイオマーカーならびに梗塞領域を評価した。
【0133】
血液サンプル。薬物動態(PK)分析、および心臓バイオマーカー分析を介する心筋傷害の評価の両方のために、静脈(3mL未満)全血サンプルを6個のデータ収集時点:ベースライン、虚血の30分後、ならびに再灌流の30分後、60分後、120分後、および180分後に収集した。加えて、血液ガスを決定するために、3つの動脈(約0.5mL)全血サンプルをベースライン、虚血の60分後、ならびに再灌流の60分後および180分後に収集した。動脈サンプルを血液ガスシリンジ内に収集し、I−Statアナライザー/カートリッジ(CG4+)を介する血液ガスを測定するために使用した。
【0134】
組織病理学/組織形態計測。プロトコルの完了時に、I/R傷害に起因する不可逆的心筋傷害(すなわち、梗塞)を評価した。手短に言えば、冠状動脈スネアを再び締め付け、虚血中に危険性のある(AR)心筋領域を描写するために、エバンスブルー染料(1mL/kg、Sigma,St.Louis,MO)を静脈内注入した。約5分後、心臓を停止させ(左心房への塩化カリウムの注入によって)、新たに切除した。LVをその長軸に対して垂直に区分して(先端から底面まで)、厚さ3mmのスライスにした。その後、そのスライスを、2%のトリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)中で、37°Cで20分間インキュベートし、10%の非緩衝化ホルマリン溶液(NBF)中に固定した。
【0135】
固定後、梗塞領域および危険性のある領域を、デジタル的に描写/測定した。そのような目的のために、それぞれのスライスの厚さをデジタルマイクロメータで測定し、その後、撮影/スキャンした。全ての撮影を画像分析プログラム(Image J、National Institutes of Health)に取り込み、梗塞(I)領域および危険性のある(AR)領域の総合的な寸法を判定するために、コンピュータを使用した面積測定を行った。それぞれのスライドについて、AR(すなわち、青色に染色していない)領域は、LV領域の割合として表され、梗塞寸法(I、染色していない組織)は、AR(I/AR)の割合として表された。全ての事例において、治療割当て/研究デザインに関して盲検化された職員が定量的組織形態計測を行った。
【0136】
動物監視。分析用のECG Autoソフトウェア(EMKA Technologies)を用いて、データをEMKAのIOXシステム上で入手した。全ての生理学的パラメータにおける測定を、(デジタル)オシログラフ追跡から手動でまたは自動的に行った。(可能である場合)それぞれの標的とされる時点からのデータの60秒時点の平均値を使用したが、上述のように、(必要である場合)より細密な/詳細の時間的データ分析(修正を介して)を可能にするために、信号/追跡を本実験にわたって継続的に記録した。マイクロソフトエクセルを用いてさらなる計算を行った。データは、標準誤差を伴う平均として表される。

結果
【0137】
30分間の虚血および3時間の再灌流に曝露した心臓由来の梗塞寸法は、図2〜6に示される。図2Aおよび2Bは、偽手術(結紮糸を適用したが、締め付けなかった)、プラセボ、またはペプチドを伴うウサギの梗塞寸法を示すデータを示す。LVをその長軸に対して垂直に区分して(先端から底面まで)、厚さ3mmのスライスにした。図2Aは、心臓スライスの写真、およびプラセボで治療された偽ウサギの梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像である。図2Bは、心臓スライスの写真、およびペプチドで治療された偽ウサギの梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像である。
【0138】
図3Aおよび3Bは、心虚血を誘発され、かつプラセボで治療された2つの異なる対照ウサギの梗塞寸法を示すデータを示す。それぞれの図は、心臓スライスの写真、および梗塞寸法を強調するコンピュータ生成画像を示す。
【0139】
図4A、4B、4C、4D、および4Eは、心虚血を誘発され、かつペプチドで治療された5つの異なるウサギの梗塞寸法を示すデータを表す。ペプチドの投与は、対照と比較して、梗塞寸法の減少をもたらした。表8は、本研究において使用される動物のそれぞれにおいて、左心室領域と危険性のある領域との比率、左心室領域と梗塞領域との比率、および危険性のある領域と梗塞領域との比率を示すデータを示す。図5〜6は、ペプチド治療された対象および対照対象における、左心室領域と危険性のある領域との比率、左心室領域と梗塞領域との比率、および危険性のある領域と梗塞領域との比率を示すデータをさらに提示する。
表8.研究動物の組織病理学的結果
【表8】

【0140】
これらの結果は、急性心筋虚血および再灌流の標準化されたウサギモデルにおいて、ペプチドが、30分間の虚血期間の10分時点で開始する静脈内持続注入として、その後、再灌流後180分間の静脈内持続注入として投与される場合、対照群と比較して、心筋梗塞寸法を減少させることができたことを示す。治療に対して定義可能な応答を示したウサギにおいて、対照動物において記述された梗塞寸法と比較して、心筋梗塞領域の寸法は減少した。再灌流後3時間未満、すなわち、30分の治療は、同等の心筋救済をもたらした(データは示されない)。これらの結果は、ペプチド治療が急性心虚血・再灌流傷害の症状の発現を予防することを示す。したがって、芳香族カチオン性ペプチドは、哺乳類対象における血管閉塞傷害を予防および治療する方法において有用である。

実施例2.ヒトにおける血管閉塞傷害から保護するペプチドの効果
【0141】
本実施例は、血行再建時のD−Arg−2′6′−Dmt−Lys−Phe−NH2の投与が急性心筋梗塞中の梗塞寸法を制限するかどうかを判定する。
【0142】
研究グループ。胸痛の開始を示し、かつ血行再建術(例えば、PCIまたは血栓溶解剤)で治療される臨床決定が下される18歳以上の男性および女性が登録対象である。患者は、STEMIまたは非STEMIであり得る。STEMI患者は、患者のECGがST上昇の典型的な心臓発作パターンを示す場合、心筋への血液供給の中断を暗示する症状を示す。したがって、診断を、純粋に症状、臨床検査、およびECG変化に基づいて行う。非ST上昇心臓発作の場合では、胸痛の症状は、STEMIの症状と同一であり得るが、患者のECGが心臓発作に伝統的に関連した典型的なST上昇変化を示さないことが重要な相違点である。患者は、多くの場合、狭心症の病歴を有するが、疑わしい攻撃時のECGは、異常を全く示さない場合もある。診断は、病歴および症状において疑われ、かつ血液中の心筋酵素と呼ばれる物質の濃度の増加を示す血液試験によって確認される。
【0143】
血管造影および血行再建。左心室および冠状動脈血管造影を、血行再建の直前に標準の技法を用いて行う。血行再建を、直接ステント留置法を用いてPCIによって行う。代替の血行再建術には、バルーン血管形成、経皮経管冠動脈形成術、および方向性冠動脈粥腫切除術が含まれるが、それらに限定されない。
【0144】
実験プロトコル。冠状動脈血管造影を行った後であるが、ステントを埋め込む前に、登録基準を満たす患者を、対照群またはペプチド群のいずれかにランダムに割り当てる。ランダム化を、コンピュータ生成されたランダム化シーケンスを用いて行う。直接ステント留置の10分未満前に、ペプチド群の患者は、D−Arg−2′6′−Dmt−Lys−Phe−NH2の静脈内ボーラス注入を受ける。ペプチドを生理食塩水中で溶解し、肘正中静脈内に位置付けられるカテーテルを通して注入する。患者を、以下の治療アームのうちのいずれかに平等にランダム化する(例えば、0、0.001、0.005、0.01、0.025、0.05、0.10、0.25、0.5、および1.0mg/kg/時間)。ペプチドを再灌流の約10分前からPCIの約3時間後まで静脈内注入として投与する。再灌流期間後、任意の投与手段、例えば、皮下注入または静脈内注入によって、対象にペプチドを長期間投与されてもよい。
【0145】
梗塞寸法。主要エンドポイントは、心臓バイオマーカーの測定によって評価される梗塞寸法である。血液サンプルを、入院時および翌3日間にわたって繰り返し入手する。冠状動脈バイオマーカーを、それぞれの患者において測定する。例えば、クレアチンキナーゼおよびトロポニンI放出(ベックマンキット)の曲線下面積(AUC)(任意の単位で表される)は、それぞれの患者において、コンピュータ化された面積測定法によって測定され得る。主な二次エンドポイントは、心臓磁気共鳴画像(MRI)上で見られる遅延高度増強領域によって測定される梗塞の寸法であり、梗塞後5日目に評価される。遅延増強分析について、1キログラムあたり0.2mmolのガドリニウム−テトラアザシクロドデカン四酢酸(DOTA)を、1秒あたり4mLの速度で注入し、15mLの生理食塩水で洗い流した。三次元反転回復勾配エコーシーケンスを用いて、ガドリニウム−DOTAの注入の10分後に遅延高度増強を評価した。全左心室を被覆する短軸スライスにおいて画像を分析する。
【0146】
心筋梗塞は、同一のスライス内の離れた非梗塞心筋の参照領域内の強度を2SD超える心筋の造影剤後信号の強度によって定量的に定義される、心筋内の遅延高度増強によって同定される。全てのスライスについて、梗塞領域の絶対質量を、以下の式に従って計算する:梗塞質量(組織のグラム単位)=Σ(高度増強領域[平方センチメートル単位])×スライスの厚さ(センチメートル単位)×心筋特定密度(1立方センチメートルあたり1.05g)。
【0147】
確立した危険因子のバイオマーカー。N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)およびグルコースのレベル、ならびに推算糸球体濾過速度(eGFR)を測定する。これらのバイオマーカーは全て、平均約2年半のフォローアップを通して原因を問わない死亡率を有意に予測する。これらの3つのバイオマーカーに基づいたリスクスコアを計算することで、フォローアップ中に死の危険性が高い患者を同定することができる。ペプチドを受容していない患者がPCIを受けた場合と比較して、PCIを受けた患者において、ペプチドがこれらのバイオマーカーのリスクスコアを減少させることが予測される。血液サンプルをCK−MBおよびトロポニンIの決定のために採取してもよい。コンピュータ化された面積測定法によって、それぞれの患者のCK−MBおよびトロポニンI放出の曲線下面積(AUC)(任意の単位で表される)を測定することができる。
【0148】
他のエンドポイント。ペプチドの全血濃度は、PCIの直前、ならびにPCIの1、2、4、8および12時間後である。クレアチニンおよびカリウムの血圧および血清濃度を、入院時、ならびにPCIの24、48、および72時間後に測定する。ビリルビン、γ−グルタミルトランスフェラーゼ、およびアルカリホスファターゼの血清濃度、ならびに白血球数を、入院時およびPCIの24時間後に測定する。
【0149】
死、心不全、急性心筋梗塞、発作、再発性虚血、血行再建の反復の必要性、腎不全または肝不全、血管合併症、および出血を含む、再灌流後最初の48時間以内に起こる主要な有害事象の累積発現率を記録する。心不全および心室細動を含む梗塞に関連した有害事象を評価する。加えて、急性心筋梗塞の3ヶ月後、心イベントを記録し、全体の左心室機能を心エコー(Vivid7システム、GE Vingmed)によって評価する。
【0150】
再灌流時のペプチドの投与が、プラセボの投与で見られるよりもある程度小さい梗塞に関連していることが予測される。

実施例2.CABG中に器官を保護するペプチドの効果
【0151】
この実施例は、芳香族カチオン性ペプチドD−Arg−2′6′−Dmt−Lys−Phe−NH2(「本ペプチド」)の投与が、計画的な心肺バイパス(CPB)および心臓麻痺を伴う非緊急のCABG処置を受ける、中程度から高度の危険性のある患者において、損傷した心筋の寸法を制限するかどうかを判定する。心臓保護剤としてのペプチドの効果は、ピークCK−MB酵素、トポニウム、または乳酸塩脱水酵素レベルによって測定される、損傷した心筋の相対的寸法を使用して評価する。本ペプチドの腎臓または心臓の合併症に対する投与効果もまた、評価する。
【0152】
標準治療の背景と併せて、本ペプチドは、計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的なCABG処置の心臓、腎臓、および/または脳の合併症の発現率の減少に対して、プラセボよりも優れていることが予測される。計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的CABG処置を受ける、中程度から高度の危険性のある患者の梗塞心筋の相対寸法によって測定される、心臓保護剤としての本ペプチドの効果は、手術後日数(POD)4日を通じた心筋酵素レベルによって測定される。
【0153】
心臓の合併症。この研究は、以下の目的を有する:(1)計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的CABG処置を受ける、中程度から高度の危険性のある患者の、(術後日数0から)術後日数(POD)4日、30日、および90日までのランダム化から、心臓血管系死亡、非致死的MI、または非致死的脳卒中の複合要素に対する、本ペプチドの効果を評価すること、(2)計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的CABG処置を受ける、中程度から高度の危険性のある患者の、(術後日数0から)術後日数(POD)4日、30日、および90日までのランダム化から、心臓血管の死亡、非致死的MI、または非致死的脳卒中の個々の事象に対する、本ペプチドの効果を評価すること、(3)計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的CABG処置を受ける、中程度から高度の危険性のある患者の、POD2日を通しての重要な心房性および/または心室性不整脈の発現率を評価すること。
【0154】
腎臓の合併症。この研究は、以下の目的を有する:(1)手術後日数(POD)4日までのCK−MBレベルによって測定される、計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的なCABG処置を受ける中程度から高度の危険性のある患者において、POD4までの急性腎損傷(AKI)の腎機能の連続的測定によって測定される、腎臓保護剤としてのペプチドの効果を評価すること、ならびに(2)計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的なCABG処置を受ける、中程度から高度の危険性のある患者において、(手術後日数ゼロ)から手術後日数(POD)30および90日までのランダム化から、腎機能に対するペプチドの効果を評価すること。
【0155】
脳の合併症。この研究は以下の目的を有する:(1)計画的心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的CABG処置を受けている、中程度から高度の危険性のある患者において、POD4(+2日)の前およびそれまでに行われる磁気共鳴画像化によって評価される、急性脳損傷に対するペプチドの効果を評価すること、(2)計画的心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的CABG処置を受けている、中程度から高度の危険性のある患者において、処置の前、最中、ならびに後の短い期間に投与されるペプチドの安全性および耐容性を評価すること、ならびに(3)計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴う選択的CABG処置を受ける、中程度から高度の危険性のある患者において、ペプチドの薬物動態を評価すること。

全体的な研究設計および計画
【0156】
この研究は、標準治療の背景との併用で、本ペプチドが、計画的な心肺バイパス(CPB)および心臓麻痺を伴う非緊急のCABG処置を受ける、中から高度の危険性のある患者において、心臓、腎臓、および脳の合併症の発現率の減少に対して、プラセボよりも優れているという仮説を試験するようにデザインされる、試験段階IIの、前向きの、無作為の、二重盲式の、プラセボ対照の、多中心投与量範囲の研究である。処置手順は、場合によっては軽度から中程度の弁機能不全に対して僧帽弁修復を用いる、摘出冠状動脈バイパス移植(CABG)処置を含む。患者の危険性プロファイルは、次のうち少なくとも2つを含む:年齢65歳以上;推算糸球体濾過速度(eGFR)が31から60mL/minであるとして定義される中程度の腎機能障害;食事療法以外の治療を要する真性糖尿病の病歴;および重大な左心室機能不全(左心室駆出分画率が0.40以下)またはいずれの種類の心臓ペースメーカーの非存在でのうっ血性心不全の痕跡。
【0157】
主要な除外基準には、ランダム化の前48時間未満に発生する急性心筋梗塞、心臓麻痺を伴わない断続的大動脈遮断を使用する(すなわち、CPBの使用なしの)CABG処置、臨床的に重要な腎臓および/または肝臓疾患、コントロール不良の糖尿病、あるいは、以前の脳卒中、一過性脳虚血発作、または頸動脈血管内膜切除術の病歴、ならびに過去6ヶ月以内の頭部外傷もしくは発作の病歴が挙げられる。計画的CABG処置の前に、患者は、全ての試験対象/除外基準について検査される。有資格患者は、抗凝固を含む、標準治療に加えて、2つのペプチド投与計画または照合するプラセボのうちの1つを受容するようにランダムに割り当てられる。
【0158】
本ペプチドまたは整合するプラセボは、3つの異なる経路を介して投与される。全患者は、(1)麻酔導入前おおよそ30分以内に開始し、合計持続時間おおよそ6時間で継続する、全身的静脈内(IV)注入として、(2)心停止液との併用で、(3)CPB中に、人工心肺へのプライミング液の一部として、の全3つの薬物送達形態を使用する、同一の盲検方式において、研究品目を受容する。
【0159】
院内試験は、最大96時間継続する。患者の脳の拡散強調磁気共鳴画像(DW−MRI)評価が、CABG処置の手技前4日以内、および手技後3〜6日以内に行われる。最低限、転帰、検査データ、および有害事象に対する臨床フォローアップが、指標入院(index hospitalization)中毎日、ならびに指標のCABG処置手技の後96時間、30日(30〜40の範囲)、および90日(76〜104の範囲)に、行われる。一連の試験を通して、併用する医療的ケアは、心臓外科医および/または治療にあたる医師の判断に委ねられる。指針に基づく治療の厳守および痕跡に基づく投薬(アスピリン、β−遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII拮抗薬、カルシウムチャネル遮断薬、利尿薬、抗不整脈薬、スタチン、インスリン、経口抗糖尿病薬、クマディン)の使用が、強く勧められる。

転帰のエンドポイントおよびフォローアップ
【0160】
本研究のための主要な有効性エンドポイントは、計画的な心肺バイパス(CPB)および心臓麻痺を伴う非緊急のCABG処置を受ける、中程度から高度の危険性のある患者の手術後72時間までのピークCK−MB酵素レベルによって測定される損傷した心筋の相対的寸法を使用する、心臓保護剤としてのペプチドの効果の評価である。二次エンドポイントは、手術後72時間の腎機能の連続的測定によって評価される、CABG処置に関連する急性腎損傷(AKI)の発現率およびPOD3〜6の脳の磁気共鳴画像を使用する、CABG処置に関連する新たな急性の脳傷害の発現率を含む。
【0161】
心臓血管系死亡、非致死的MI、または非致死的脳卒中に対する、規定の評価が、ランダム化(手術後日数ゼロ)からPOD90まで行われる。MIの診断は、研究現場から収集した臨床情報と、中核の実験室からのCK−MBおよび心電図の実験室データとに基づく。脳卒中は、少なくとも24時間続く、新たな局所的非外傷的神経学的欠損として定義される。独立した、盲険臨床兆候委員会が、全ての疑わしいMI、脳卒中、および全ての死亡に関する死亡原因を判断することになる。
【0162】
表5.評価スケジュール − 開始24時間



1 =プロトコル前基準(PCI TIMIフロー基準を含む)を何らかの理由で満たさない患者は調査事項を中断し有効性分析から除外する。これらの患者は72時間の間安全性について追跡し、ランダム化スキームにおいて新たな患者と入れ替える。
【0163】
患者の選択および離脱
対象は、計画的な心肺バイパス(CPB)および心臓麻痺を伴う非緊急のCABG処置を受けるように予定されている男性または女性患者(年齢45歳以上)を含む。処置手順は、場合によっては軽度から中程度の弁機能不全のための僧帽弁修復を伴う、単独冠状動脈バイパス移植(CABG)処置を含む。患者は、彼らのCABG処置と関連する、その後の末端器官の合併症に対して、中程度から高度の危険性にあると考えられるべきである。患者の危険性プロファイルは、次のうちの少なくとも2つを含むべきである:年齢65歳以上;推算糸球体濾過速度(eGFR)が31から60mL/minと定義される中程度の腎機能不全;食事療法以外の治療を必要とする真性糖尿病の病歴;および重大な左心室機能不全(左心室駆出分画率が0.40以下)、またはいずれの種類の心臓ペースメーカーも存在しないうっ血性心不全の痕跡。
患者の治療
【0164】
研究薬物。D−Arg−2′6′−Dmt−Lys−Phe−NH2は、小さいペプチド(CAS No.736992−21−5)である。その分子量は639.8(遊離塩基)である。それは、粉末状または液体状のいずれかで、光に対して安定である。最大40℃まで安定しており、酸化に耐性がある。製剤原料は、滅菌のガラスバイアル内に凍結乾燥粉末として提供される。各バイアルは、非盲目の薬剤師によって、それぞれの現場で、10mLの滅菌D5Wで再構成される。
【0165】
本研究は、研究現場で盲険方式において実行される(患者および現場職員が盲険化される)。ランダム化コードは、独立の統計学者によって作製される。患者を、以下の治療アームのうちのいずれかに平等にランダム化する(0、0.001、0.005、0.01、0.025、0.05、0.10、0.25、0.50、または1mg/kg/時間)。再構成し、希釈した研究用薬物を、注入ポンプを使用して、60mL/時で注入し、予想再灌流時間の少なくとも10分前に開始して、CABG術後3時間継続する。開始および完了時間を、静脈内に投与される研究用投薬について記録する。輸液バッグ内に残っている研究用溶液の容量(目測で十分)を記録し、希釈された研究物質の適量が注入されたことのチェックを提供する。ペプチドの血漿中レベルを測定し、治療のコンプライアンスの最も正確な測定を提供する。
有効性の評価
【0166】
有効性についての一次分析は、プラセボ投与群およびペプチド投与のそれぞれの群の間で、72時間に及ぶ、クレアチンキナーゼ−MB曲線に対する曲線下面積(AUC)によって試算される、左心室の梗塞寸法の比較である。二次有効性分析は、(1)72時間にわたるトロポニンI酵素の曲線下面積、(2)4±1日、30±3日、および6+1.5ヶ月での、心臓磁気共鳴画像(CMR)診断、(3)再灌流後の不整脈の発現、および(4)微小血管の閉塞によって測定される、心筋傷害に対するペプチドの効果に焦点を当てる。これらの分析は、TIMIフロー等級=0、TIMIフロー等級=1の基準線を有する患者、ならびに全ての患者(TIMIフロー等級が0か1のいずれか)に対して行われる。
【0167】
(1)冠動脈血流の度合いと不整脈の発現、(2)CMRによって測定される30日および6ヶ月の患者の心筋機能および再形成に対するペプチドの効果を判定すること、(3)微小血管の閉塞の発現に対するペプチドの効果、(4)再灌流を受けて成功した患者におけるペプチドの薬物動態、ならびに(5)血清中クレアチニン、推算糸球体濾過率、シスタチンC、およびBUNによって測定される、腎機能に対するペプチドの、直後、30日、90日、および6ヶ月の効果、を含む、CABG後の直接有益を調査する。
【0168】
心臓バイオマーカー。CK−MBおよびトロポニンIの判定のために、血液サンプルを採取する。CK−MBおよびトロポニンI放出の曲線下面積(AUC)(任意の単位で表される)は、それぞれの患者において、コンピュータ化された面積測定法によって、次の時点で測定する:入院時;シースを通してCABGの前後;CABG後、最初の24時間中4時間おき;CABG後、2日目および3日目の間、6時間おき;および3日後以降は、臨床的に指示される通り。NT−proBNPおよびCRPレベルの判定のための血液サンプルを、次の時点で採取する:CABG前;CABG後24時間;CABG後30±3日;CABG後90±14日;CABG後6+1.5ヶ月。
【0169】
心臓MR画像(CMR)診断。1.5−Tの体部MRIスキャナーを使用して、心室機能、心筋の浮腫(危険性のある領域)、微小血管の閉塞、および梗塞寸法を評価するために、CMRを行う。CMRを、CABGの成功後、4±1日、30±3日、および6+1.5ヶ月で行う。特定のCMRプロトコルは、左心室容積、質量および駆出分画率のためにシネ画像を取ることを含む。定常状態自由歳差運動シーケンス(steady−state free precession sequence)を用いたシネ画像化は、CABG成功後、4±1日目、30±3日目、および6+1.5ヶ月目に行われる。T2強調画像を取り、心筋の浮腫を評価し、梗塞の危険性のある虚血領域を判定する。3倍の反転回復高速スピンエコーシーケンスは、CMR研究4±1日目にのみ行う。造影剤後の遅延増強を、処置後4±1日目、30±3日目、および6+1.5ヶ月目に使用して、梗塞した心筋を定量化する。これは、同一のスライス内の、離れた、非梗塞心筋の参照領域における強度を、2SDを超えて上回る、心筋の造影剤後の信号の強度によって、定量的に定義される。標準的な細胞外のガドリニウムベースの造影剤が、0.2mmol/kgの投与量で使用される。2D反転回復準備済みの高速勾配エコーシーケンスは、次の時点で使用する:(1)微小血管の梗塞の評価のために、早期(造影剤の注入後おおよそ2分)、利用可能な場合は単発技術を考慮する、(2)梗塞寸法の評価のために、後期(造影剤の注入後おおよそ10分)。
【0170】
血圧、心拍数、および呼吸数を、試験を通して連続的に測定する。血液化学および尿化学、ならびに血液学プロファイルは、試験中に連続的に測定し、電解質(ナトリウム、カリウム、重炭酸塩、塩化物);肝機能(総ビリルビン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[ASTまたはSGOT]、およびアラニンアミノトランスフェラーゼ[ALTまたはSGPT]);腎臓機能(血清中クレアチニン、シスタチンC、および血中尿素窒素[BUN]);推算糸球体濾過速度(eGFR);CABG処置後の急性腎損傷(AKI)の発現;および完全血球算定を含む。
【0171】
腎機能を、血清中クレアチニンおよびシスタチンC、およびBUN;推算糸球体濾過速度(eGFR)の連続的計算;ならびにX線造影剤の受容48時間以内に発生する、血清中クレアチニンが基準値の25%以上の増加および/または血清中クレアチニンの0.5mg/dlの増加として定義される、CABG後の造影剤誘発腎症の少なくとも1級症状の発現、の一連の測定によって評価する。
【0172】
確立した危険因子のバイオマーカー。N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)およびグルコースのレベル、ならびに推算糸球体濾過速度(eGFR)を測定する。これらのバイオマーカーは全て、平均約2年半の経過観察を通して原因を問わない死亡率を有意に予測する。これらの3つのバイオマーカーに基づいたリスクスコアを計算することで、フォローアップ中に死の危険性が高い患者を同定することができる。ペプチドを受容していない患者がCABGを受けた場合と比較して、CABGを受けた患者において、ペプチドがこれらのバイオマーカーのリスクスコアを減少させることが予測される。

予測結果
【0173】
本ペプチドが、CABGを受けているが本ペプチドを受容しない対象と比較して、梗塞寸法を減少させ、腎臓のAKIおよび脳の合併症の発生を減少させることが予測される。有効性についての一次分析は、ANOVAモデル(または分布が非ガウスであると判断される場合、ノンパラメトリック等価のKruskal−Wallisの順位分析)を使用して、プラセボおよび2つのペプチド投与群の間で、72時間にわたるクレアチンキナーゼMB曲線に対して、曲線下の領域(AUC)によって試算される、左心室の梗塞寸法の比較である。本ペプチドが、計画的な心肺バイパスおよび心臓麻痺を伴うCABG術を受ける患者において、処置の前、最中、および直後に投与される場合、複数の器官の保護剤として作用することもまた、予測される。
【0174】
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【0175】
均等物
本発明は、本発明の個々の態様の単なる例として意図される、本出願に記載の特定の実施形態の点に限定されるものではない。本発明の多数の変更および変形は、当業者には明らかであるように、その精神と範囲から逸脱することなく、なされてもよい。本発明の範囲内の、機能的に同等の方法および器具は、本明細書に列挙されたものに加えて、前述の説明から当業者には明らかであろう。このような変更および変形は、添付の請求項の範囲内に含まれるように意図される。本発明は、このような請求項が与える均等の全範囲に加え、添付の請求項の表現によってのみ制限される。本発明が、特定の方法、試薬、化合物、組成物、あるいは生体系に限定されるものではなく、もちろん変形可能であることを理解されたい。本明細書に使用される専門用語は、特定の実施形態のみを示す目的で使用され、限定する意図はないこともまた、理解されたい。
【0176】
さらに、本開示の特性または態様がマーカッシュ(Markush)グループの観点で記載される場合、当業者は、本開示が、マーカッシュグループメンバーの任意の個々のメンバーまたはサブグループに関して記載されることもまた、認識するであろう。
【0177】
当業者には理解されるように、いずれかまたは全ての目的のため、特に明細書の記載を提供する事に関して、本明細書に開示される全ての範囲は、いずれのおよび全ての可能な限りの副範囲ならびにその副範囲の組み合わせをも包含する。いずれの列挙される範囲も、同一の範囲を十分に説明し、その範囲を少なくとも2等分、3等分、4等分、5等分、10等分等に分解することを可能にするとして容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書に説明される各範囲は、下3分の一、中3分の一、および上3分の一等に容易に分解することができる。当業者には理解されるように、例えば「まで」、「少なくとも」、「を超える」、および「未満」等の全ての言語は、列挙される数字を含み、上述のように部分的な範囲に実質的に分解することができる範囲を指す。最後に、当業者には理解されるように、範囲は、各一つ一つの数字を含む。したがって、例えば、1〜3個の細胞を有する基は、1、2、または3個の細胞を有する基を指す。同様に、1〜5個の細胞を有する基は、1、2、3、4、または5個の細胞を有する基を指す、等である。
【0178】
本明細書に参照または引用される全ての特許、特許出願、仮出願、および出版物は、本明細書の明白な教示と矛盾しない限り、全ての図および表を含むその全体が参照によって本明細書に組み込まれる。他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に記載される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞性冠動脈疾患を治療するための方法であって、
(a)哺乳動物対象に、治療的有効量のD-Arg-2'6'-Dmt-Lys-Phe-NH2ペプチド、またはその薬学的に許容される塩を投与することと、
(b)前記対象に、冠動脈バイパス移植術(CABG)を実施することと、
を含む、前記方法。
【請求項2】
対象にCABG前にペプチドが投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象にCABG後にペプチドが投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象にCABG中およびCABG後にペプチドが投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
対象にCABG前、CABG中、およびCABG後に連続してペプチドが投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
対象にCABG後に少なくとも3時間の間ペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
対象にCABG後に少なくとも5時間の間ペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
対象にCABG後に少なくとも8時間の間ペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
対象にCABG後に少なくとも12時間の間ペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
対象にCABG後に少なくとも24時間の間ペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
対象にCABGの少なくとも8時間前からペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
対象にCABGの少なくとも5時間前からペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
対象にCABGの少なくとも2時間前からペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
対象にCABGの少なくとも1時間前からペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
対象にCABGの少なくとも30分前からペプチドが投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
ペプチドが麻酔導入の約30分前から全身性静脈内注入によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ペプチドが心停止液と共に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
心肺バイパスの間心肺装置のプライミング液の一部としてペプチドが投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)、グルコース、および推算糸球体濾過速度(eGFR)のうちの1つ以上レベルが、CABGを受けたがペプチドが投与されていない比較対象に対して、前記ペプチドが投与された対象において減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
冠動脈バイパス移植術(CABG)の際の腎または脳合併症を予防する方法であって、
(a)哺乳動物対象に、治療的有効量のD-Arg-2'6'-Dmt-Lys-Phe-NH2ペプチド、またはその薬学的に許容される塩を投与することと、
(b)前記対象に冠動脈バイパス移植術(CABG)を実施することと、
を含む、前記方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−516426(P2013−516426A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547308(P2012−547308)
【出願日】平成22年12月30日(2010.12.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/062544
【国際公開番号】WO2011/082328
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(512044909)ステルス ペプチドズ インターナショナル インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】