説明

冷凍サイクルの制御方法

【課題】フロント側とリア側とでそれぞれ空調でき、内部熱交換器を備えた冷凍サイクルのコスト低減を可能にした制御方法を提供する。
【解決手段】フロント側膨張弁4をフロント側蒸発器5の出口の冷媒が所定の過熱度になるよう制御する温度式膨張弁とし、リア側膨張弁6は、リア側蒸発器7の入口圧力と出口圧力との差圧に応じてリア側蒸発器7に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定される、構成が簡単で安価なソレノイド作動の電磁膨張弁とする。ソレノイドに流す電流値は、送風機10の駆動電圧によって設定されるが、このラフな制御は、フロント側の正確な制御と内部熱交換器8の存在によって吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍サイクルの制御方法に関し、特に車室内のフロント側とリア側とを独立して空調することができる自動車用空調装置の冷凍サイクルであって、レシーバからフロント側膨張弁およびリア側膨張弁に向かう高温・高圧の冷媒とフロント側蒸発器およびリア側蒸発器から可変容量圧縮機へ向かう低温・低圧の冷媒との間で熱交換を行う二重管構造の内部熱交換器を備えた冷凍サイクルの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車室容量の大きな車両には、車室内のフロント側とリア側とをそれぞれ独立して空調できるようにした自動車用空調装置が搭載されていることがある。このような自動車用空調装置では、フロント側の空調制御を行うフロント側膨張弁およびフロント側蒸発器の回路とリア側の空調制御を行うリア側膨張弁およびリア側蒸発器の回路とを並列に配置して構成した冷凍サイクルが用いられている。ここで、フロント側回路およびリア側回路に用いられる膨張弁としては、それぞれの蒸発器の出口における冷媒の温度および圧力を感知してその蒸発器出口の冷媒が所定の過熱度になるように蒸発器へ供給する冷媒の流量を制御するようにした温度式膨張弁を用いることが多い。
【0003】
また、冷凍サイクルにおいては、一般に、膨張弁に向かう凝縮された高温・高圧の冷媒と蒸発器から可変容量圧縮機へ向かう低温・低圧の冷媒との間で熱交換を行う内部熱交換器を備えることにより、システムの効率を向上できることも知られている(たとえば、特許文献1参照。)。これは、凝縮された冷媒が内部熱交換器によってさらに冷却されることで膨張弁および蒸発器の入口の冷媒のエンタルピを低下させ、また、蒸発器を出た冷媒が内部熱交換器によってさらに過熱されることで可変容量圧縮機の入口の冷媒のエンタルピを上昇させることにより成績係数が向上するからである。
【0004】
フロント用およびリア用にそれぞれ膨張弁および蒸発器を備えた冷凍サイクルにおいてもこのような内部熱交換器を適用すれば、同じようにシステムの効率を向上させることができる。その内部熱交換器としては、構造のシンプルさから、内管と外管とが同心配置された二重管構造のものが用いられている。
【特許文献1】特開2001−108308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フロント側とリア側とでそれぞれ空調可能にした冷凍サイクルにおいても、フロント側の膨張弁に温度式膨張弁を用い、リア側の膨張弁には空調停止時に冷媒回路を閉止できるようにした構造が複雑で高価な電磁弁付温度式膨張弁を用いているため、自動車用空調装置のコストが高くなるという問題点があった。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、フロント側とリア側とでそれぞれ空調でき、内部熱交換器を備えた冷凍サイクルのコスト低減を可能にした冷凍サイクルの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では上記問題を解決するために、レシーバからフロント側膨張弁およびリア側膨張弁に向かう高温・高圧の冷媒とフロント側蒸発器およびリア側蒸発器から可変容量圧縮機へ向かう低温・低圧の冷媒との間で熱交換を行う二重管構造の内部熱交換器を備えた冷凍サイクルの制御方法において、前記リア側膨張弁は、前記リア側蒸発器の入口圧力と出口圧力との差圧に応じて前記リア側蒸発器に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁であり、前記リア側蒸発器に送風される車室内の空気の量を推定し、推定した空気の量に応じて前記リア側蒸発器に供給すべき冷媒の流量に対応する前記設定差圧を設定するようにしたことを特徴とする冷凍サイクルの制御方法が提供される。
【0008】
このような冷凍サイクルの制御方法によれば、リア側膨張弁として、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁としたことで、空調停止時に冷媒回路を閉止するための電磁弁が不要になり、また、その電磁膨張弁がリア側蒸発器の入口圧力と出口圧力との差圧に応じてリア側蒸発器に供給する冷媒の流量を制御する構成であるため、温度式膨張弁に必要なパワーエレメントが不要であるため、リア側膨張弁のコストを大幅に低減することができ、しかも、その電磁膨張弁の制御を、リア側の空気負荷を代表しているリア側蒸発器に送風される車室内の空気の量を基にしている。電磁膨張弁は、温度式膨張弁に比べて制御の精度は低下するが、たとえリア側蒸発器で蒸発し切れないほどの流量を流出させたとしても、内部熱交換器がリア側蒸発器からの湿り分の多い冷媒を完全に蒸発させるので、可変容量圧縮機の重大な故障要因である液冷媒の導入を防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の冷凍サイクルの制御方法は、リア側の膨張弁には高価な電磁弁付温度式膨張弁の代わりにリア側蒸発器の入口圧力と出口圧力との差圧に応じてリア側蒸発器に供給する冷媒の流量を制御する電磁膨張弁を使用したことで、自動車用空調装置のコストを低減でき、その電磁膨張弁をリア側の空気負荷を代表しているリア側蒸発器に送風される車室内の空気の量を基に制御することで、制御自体も簡素化できるという利点がある。そのため、流量制御の精度は温度式膨張弁よりも低下するが、それによる不具合は内部熱交換器が吸収するため問題にはならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は第1の制御方法に係る自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
【0011】
この冷凍サイクルは、車両のエンジンルーム内に配置されて、冷媒を圧縮する可変容量圧縮機1と、圧縮された冷媒を冷却して凝縮させる凝縮器2と、凝縮された冷媒を気液に分離して液冷媒を送り出すレシーバ3とを備えている。車室内のフロント側には、液冷媒を断熱膨張させるフロント側膨張弁4と、膨張された冷媒を蒸発させるフロント側蒸発器5とが配置され、車室内のリア側には、液冷媒を断熱膨張させるリア側膨張弁6と、膨張された冷媒を蒸発させるリア側蒸発器7とが配置されている。そして、レシーバ3とフロント側膨張弁4およびリア側膨張弁6との間は、二重管構造の内部熱交換器8によって接続されている。また、フロント側蒸発器5およびリア側蒸発器7の近傍には、これらに車室内の空気を通過させるための送風機9,10が設けられている。
【0012】
フロント側膨張弁4は、フロント側蒸発器5の出口における冷媒の温度および圧力を感知してそのフロント側蒸発器5の出口の冷媒が所定の過熱度になるようにフロント側蒸発器5へ供給する冷媒の流量を制御するようにした温度式膨張弁である。
【0013】
リア側膨張弁6は、リア側蒸発器7の入口圧力と出口圧力との差圧に応じてリア側蒸発器7に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁である。そのソレノイドに流す電流値は、制御部11によって制御される。その制御部11は、リア側蒸発器7の空気導入口近傍に設置された温度センサ12、リア側蒸発器7の空気導出口近傍に設置された温度センサ13および送風機10に接続されている。温度センサ12はリア側蒸発器7の入口空気温度を検出し、温度センサ13はリア側蒸発器7の出口空気温度を検出する。送風機10では、これに印加される駆動電圧とリア側蒸発器7に送風する空気の量とが対応しているので、送風機9の駆動電圧を検出することにより送風する空気の量を推定することができ、これがリア側の空気負荷を代表していることになる。したがって、制御部11は、送風機10の駆動電圧を基にリア側膨張弁6の流量制御をすることになる。
【0014】
ここで、たとえばフロント側のみ空調を行うとき、リア側膨張弁6は、非通電の状態にされて閉弁しており、リア側回路の冷媒流路に冷媒が流れることはない。この状態で、可変容量圧縮機1およびフロント側の送風機9が起動されると、可変容量圧縮機1で圧縮された高温・高圧の冷媒は、凝縮器2にて凝縮され、レシーバ3に溜められる。レシーバ3の液冷媒は、内部熱交換器8を通ってフロント側膨張弁4に供給され、そこで断熱膨張されて低温・低圧の冷媒になる。低温・低圧の冷媒になった冷媒は、フロント側蒸発器5に送られ、そこで送風機9によって送られてきた車室内の空気との熱交換により蒸発される。蒸発された冷媒は、フロント側膨張弁4および内部熱交換器8を介して可変容量圧縮機1の入口に送られる。
【0015】
蒸発した冷媒がフロント側膨張弁4を通過するとき、そのパワーエレメントは、フロント側蒸発器5を出た冷媒の温度および圧力を感知し、そのフロント側蒸発器5の出口における冷媒が所定の過熱度になるようにフロント側蒸発器5に送り出す冷媒の流量を制御する。内部熱交換器8は、レシーバ3からフロント側膨張弁4に向けて流れる高温の冷媒とフロント側膨張弁4から可変容量圧縮機1に向けて流れる低温の冷媒との間で熱交換する。これにより、フロント側膨張弁4に送られる冷媒はより冷却され、可変容量圧縮機1に送られる冷媒はより過熱されることにより、フロント側膨張弁4の入口と可変容量圧縮機1の入口とのエンタルピ差が大きくなる。その結果、冷凍サイクルの成績係数が向上するため、可変容量圧縮機1を駆動する走行用エンジンの負荷を小さくすることができ、自動車用空調装置の効率を向上させることができる。
【0016】
リア側の空調を行うときには、リア側膨張弁6が通電され、送風機10が起動される。これにより、内部熱交換器8にて分岐された高温・高圧の液冷媒がリア側膨張弁6に供給され、そこで断熱膨張されて低温・低圧の冷媒になる。低温・低圧の冷媒になった冷媒は、リア側蒸発器7に送られ、そこで送風機10によって送られてきた車室内の空気との熱交換により蒸発される。蒸発された冷媒は、リア側膨張弁6および内部熱交換器8を介して可変容量圧縮機1の入口に送られる。蒸発した冷媒がリア側膨張弁6を通過するとき、そのリア側膨張弁6は、リア側蒸発器7の前後差圧を感知し、その差圧が給電された電流に対応する所定の差圧を維持するようにリア側蒸発器7に送り出す冷媒の流量を制御する。このとき、制御部11は、送風機9の駆動電圧から送風機9がリア側蒸発器7に送風する空気の量を推定し、これを基にリア側膨張弁6の流量制御をすることになる。すなわち、送風する空気の量が多くなればなるほどリア側膨張弁6のソレノイドに流す電流値(設定差圧)を大きく設定して、リア側蒸発器7に送り出す冷媒の流量を多くするように制御する。さらに、温度センサ12および温度センサ13がリア側蒸発器7の入口空気温度および出口空気温度を検出し、それらの温度差を求めることによってリア側蒸発器7による車室内空気の冷え具合を知ることができるので、制御部11は、温度差が大きくなればなるほどリア側膨張弁6のソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整して、設定された設定差圧の値を補正する。
【0017】
このように、フロント側のフロント側膨張弁4では、フロント側蒸発器5を出た冷媒が所定の過熱度になるようにフロント側蒸発器5に送り出す冷媒の流量を常に正確に制御して、可変容量圧縮機1の故障の原因となる液冷媒が可変容量圧縮機1に決して戻らないようにしているのに対し、リア側のリア側膨張弁6では、フロント側膨張弁4のような正確な流量制御は要求されない。これは、この冷凍サイクルが内部熱交換器8を備えているためである。すなわち、たとえリア側膨張弁6がラフな流量制御をしたことによってリア側蒸発器7から蒸発し切れずに湿り分の多い冷媒が出されたとしても、そのような湿り分の多い冷媒は、可変容量圧縮機1の入口に到達する前に内部熱交換器8で完全に蒸発され、さらに過熱されるのである。このことから、高価な温度式膨張弁またはそれに電磁弁を一体にした電磁弁一体型膨張弁を用いなくても、構成が簡単で、非通電時には閉弁することができる安価なリア側膨張弁6の使用が可能となるのである。次に、このようなリア側膨張弁6の具体例について説明する。
【0018】
図2はリア側膨張弁の構成例を非通電時の状態で示す断面図である。
このリア側膨張弁6は、リア側蒸発器7の冷媒入口および冷媒出口に直接接続するような構成を有している。なお、リア側蒸発器7は、複数のアルミニウムのプレートを積層して構成され、そのヘッダ部分には、冷媒を導入する冷媒入口配管22および冷媒を導出する冷媒出口配管23を有している。冷媒出口配管23は、冷媒入口配管22を囲うように冷媒入口配管22と概略同軸に配置されて二重管構造になっている。そして、このリア側蒸発器7は、炉中ろう付け加工にて、積層されたプレートを同時に溶接することによって形成されるが、このとき、冷媒入口配管22および冷媒出口配管23も一緒に溶接されて一体に形成されている。
【0019】
リア側膨張弁6は、図2の左右方向に延びる主円柱部24にこれに直交して図2の下方向に延びる副円柱部25が結合された外形を有するボディ26を備えている。その副円柱部25は、二重管構造の内部熱交換器8の配管と接続される配管接続部を構成している。主円柱部24および副円柱部25は、それら三方の端面形状がそれぞれ二重管構造を有している。主円柱部24は、その中央に膨張弁の可動部が収容される中央孔が軸方向に貫通形成され、その中央孔の周囲にはリア側蒸発器7から導入された低圧冷媒を流す複数の通路が軸方向に貫通形成されている。そのため、好ましくは、このボディ26は、中央孔および/または複数の通路が中空押し出し加工によってあらかじめ形成された押し出し中空材が使用され、それを加工して三方が二重管構造になるようにしている。
【0020】
主円柱部24の中央孔の中ほどには、弁軸ガイド27およびリング状の弁座28がかしめ加工によってボディ26に固定されている。その弁座28に対して接離自在に弁体29が配置されている。弁体29は、スプリング30によって閉弁方向に付勢されており、そのスプリング30は、主円柱部24のリア側蒸発器7側に形成された二重管の内管に圧入されたばね受け部材31によって受けられている。スプリング30の荷重は、二重管の内管に圧入されるばね受け部材31の圧入量によって調整されている。
【0021】
弁体29は、弁座28および弁軸ガイド27を介して軸方向に延びる弁軸32と一体に形成されている。弁軸32の弁体29が形成されている側とは反対側の端部に筒状受圧部材33が外嵌され、その筒状受圧部材33よりも弁体29側の弁軸32にはシール用のOリング34が周設されている。筒状受圧部材33を収容している主円柱部24の中央孔である二重管の内管の内径は、弁座28の弁孔の内径に概略等しくしてあり、これによって、弁体29が高圧の圧力を開弁方向に受ける有効受圧面積とOリング34が高圧の圧力を閉弁方向に受ける有効受圧面積とが概略等しくなるので、弁体29が開弁方向に受ける高圧の圧力をOリング34が閉弁方向に受ける同じ圧力によってキャンセルするようにしている。
【0022】
主円柱部24のばね受け部材31が圧入されている側にて二重管構造に形成されたものの内管は、このリア側膨張弁6の低圧冷媒出口35を構成し、その外周に形成された環状溝は、リア側蒸発器7から戻ってきた冷媒を受け入れる戻り低圧冷媒入口36を構成している。ここで、このリア側膨張弁6の低圧冷媒出口35は、リア側蒸発器7の冷媒入口配管22に嵌合され、その嵌合部はOリングによってシールされている。また、リア側膨張弁6の戻り低圧冷媒入口36は、リア側蒸発器7の冷媒出口配管23に嵌合され、先端部を全周かしめ加工することによってリア側蒸発器7と機械的に結合され、冷媒出口配管23との嵌合部は、Oリングによってシールされている。
【0023】
主円柱部24の中央孔における弁軸ガイド27の設置空間は、副円柱部25に形成された二重管構造の内管が連通し、主円柱部24の中央孔の周りにその中央孔と平行に形成された通路は、副円柱部25に形成された内管と外管との間の空間に連通している。ここで、副円柱部25の内管は、高圧冷媒入口37を構成し、副円柱部25の内管と外管との間の空間は、このリア側膨張弁6を通過した冷媒が可変容量圧縮機1の入口に戻される戻り低圧冷媒出口38を構成している。したがって、リア側膨張弁6の高圧冷媒入口37は、レシーバ3からの高温・高圧の液冷媒が供給される高圧配管39が嵌合され、Oリングによってシールされている。また、リア側膨張弁6の戻り低圧冷媒出口38は、戻り低圧配管40に嵌合され、先端部に内嵌したバックアップリング41を固定するようにその全周をかしめ加工することによって戻り低圧配管40と機械的に結合され、戻り低圧配管40との嵌合部は、Oリングによってシールされている。この副円柱部25に接続される高圧配管39および戻り低圧配管40は、これらの間に図示しない複数の伝熱フィンが螺旋状に配置されて概略同軸の二重管構造になっており、これが、図1の内部熱交換器8を構成している。
【0024】
主円柱部24のリア側蒸発器7と結合される側と反対側も二重管構造になっていて、その開口端は、ソレノイド42によって閉止されている。ソレノイド42は、コア43を有し、そのフランジ部は、二重管構造の外管を全周かしめ加工することによって主円柱部24に気密に結合されている。コア43には、弁軸32と同軸方向に伸びる有底スリーブ44の開口端が嵌合され、その有底スリーブ44の中にプランジャ45が配置されている。このプランジャ45は、コア43を貫通して弁軸32と同軸方向に伸びるシャフト46に固定され、そのシャフト46は、コア43に圧入して固定された軸受部47および有底スリーブ44の底部に形成された軸受部48によって軸方向に進退自在に保持されている。ソレノイド42は、また、有底スリーブ44の外側にコイル49が周設され、ヨーク50によって囲撓されている。したがって、このリア側膨張弁6は、コイル49への通電がないときには、弁体29がスプリング30の付勢力によって弁座28に着座され、閉弁している。コイル49への通電があるときには、プランジャ45がコア43により吸引され、スプリング30の付勢力に抗してプランジャ45に固定されたシャフト46が弁体29と一体の弁軸32を開弁方向に押し、開弁させる。その弁体29のリフトは、コイル49に給電される電流の大きさによって設定される。
【0025】
以上の構成のリア側膨張弁6において、フロント側の空調は行っているが、リア側の空調は停止しているとき、ソレノイド42のコイル49には給電されないので、図2に示したように、リア側膨張弁6は閉弁している。つまり、自動車用空調装置は、フロント側の空調を行っているので、レシーバ3から内部熱交換器8の高圧配管39を通じて高温・高圧の液冷媒が高圧冷媒入口37に供給されているが、その高圧は、筒状受圧部材33を収容している主円柱部24の二重管の内管の内径を弁孔の内径と概略等しくしてあることによってキャンセルされているため、弁体29は、スプリング30の付勢力によって弁座28に着座し、閉弁していることになる。
【0026】
ここで、リア側の空調を行うためにソレノイド42のコイル49に通電されると、その通電電流の大きさに応じて弁体29がリフトし、リア側膨張弁6は開弁する。レシーバ3から内部熱交換器8の高圧配管39を通じて高温・高圧の液冷媒が高圧冷媒入口37に供給されると、その液冷媒は、弁座28と弁体29との間の隙間を通って低圧冷媒出口35へ流出する。このとき、冷媒は、断熱膨張されて低温・低圧の気液混合冷媒となり、冷媒入口配管22を介してリア側蒸発器7へ導入される。なお、図中の矢印は、冷媒の流れ方向を示している。リア側蒸発器7では、導入された冷媒は、車室内の空気との熱交換により蒸発されて冷媒出口配管23から流出する。その冷媒は、戻り低圧冷媒入口36より導入され、複数の低圧冷媒の通路を通じて戻り低圧冷媒出口38へ流出し、戻り低圧配管40を介して可変容量圧縮機1の入口へ戻される。
【0027】
ここで、高圧配管39によって供給される冷媒の膨張弁入口圧力をPo、断熱膨張された冷媒の膨張弁出口圧力(蒸発器入口圧力)をPx、リア側蒸発器7から戻ってきた蒸発器出口圧力をPeとすると、弁体29には、閉弁方向に蒸発器入口圧力Pxが加わり、弁体29と一体の弁軸32および筒状受圧部材33の端面には、開弁方向に蒸発器出口圧力Peが加わっている。したがって、弁体29、弁軸32および筒状受圧部材33の一体の組立体には、リア側蒸発器7の入口圧力と出口圧力との差圧(Px−Pe)が加わっているので、その組立体は、このリア側膨張弁6で差圧(Px−Pe)を感知する差圧感知部を構成していることになる。
【0028】
リア側膨張弁6がソレノイド42によって設定された所定の弁リフトにて冷媒をリア側蒸発器7に供給しているとき、リア側蒸発器7を通過する冷媒の流量が増加してリア側蒸発器7での圧力損失が増加すると、蒸発器前後差圧(Px−Pe)が大きくなるので、弁体29は閉弁方向に移動して流量を絞るように作用する。逆に、リア側蒸発器7を通過する冷媒の流量が減少して蒸発器前後差圧(Px−Pe)が小さくなると、弁体29は開弁方向に移動して流量を増やすように作用する。したがって、このリア側膨張弁6は、リア側蒸発器7の入口と出口との圧力差を一定に制御することで、リア側蒸発器7に送り出される冷媒の流量を概略一定に制御するように作用する。また、その一定に制御しようとする差圧はソレノイド42によって設定されるので、このリア側膨張弁6は、リア側蒸発器7を通過する冷媒の流量をソレノイド42によって設定される流量に概略一定に制御するものでもある。しかも、その蒸発器前後差圧(Px−Pe)は、膨張弁入口圧力Poが背圧キャンセルされていることによって、膨張弁入口圧力Poの大きさには、何ら影響されることはない。
【0029】
このリア側膨張弁6を制御するためにソレノイド42のコイル49に通電される電流の大きさは、リア側の空気負荷の推定値に基づいて設定される。その空気負荷の推定値は、送風機10によってリア側蒸発器7に当てられる空気の量、すなわち送風機10の駆動電圧から求められる。送風機10の駆動電圧は、送風機10から直接検出するか、または、送風機10を制御する装置から風量指定信号を検出することによって求められ、制御部11がこれらのデータを基に演算して空気負荷を推定し、それに対応する値の電流をソレノイド42のコイル49に供給することになる。制御部11は、また、リア側蒸発器7の入口空気温度と出口空気温度との温度差を演算し、その温度差に応じて、送風機10の駆動電圧から設定されたソレノイド42のコイル49に通電される電流の大きさを補正するようにしている。
【0030】
図3はフロント側膨張弁の構成例を示す断面図である。
このフロント側膨張弁4は、リア側膨張弁6のソレノイド42をパワーエレメント51に置き換えて、温度式膨張弁の構成になっている。すなわち、フロント側膨張弁4は、主円柱部52および副円柱部53を有するボディ54を備え、三方の端面形状がそれぞれ二重管構造になっている。主円柱部52の一端は、内管が低圧冷媒出口55、外管が戻り低圧冷媒入口56になっており、フロント側蒸発器5に一体に形成された冷媒入口配管57および冷媒出口配管58にそれぞれ接続されている。主円柱部52の他端の開口端は、パワーエレメント51の外周縁部を係止するように全周かしめ加工することによって封止されている。このパワーエレメント51は、厚い金属製のアッパーハウジング59およびロアハウジング60と、外周縁部がこれらによって挟持された状態でともに溶接された可撓性の金属薄板からなるダイヤフラム61と、ロアハウジング60内に配置されたセンターディスク62とによって構成されている。アッパーハウジング59とダイヤフラム61とによって囲まれた空間は、感温室を構成し、ここに冷凍サイクルの冷媒と同じまたは類似の特性を有するガスが充填されている。ロアハウジング60は、その開口端が円周方向に交互に内側および外側に屈曲されていて、外側の屈曲部がシール用のOリングの脱落防止に使用され、内側の屈曲部がセンターディスク62の脱落防止用のストッパになっている。副円柱部53は、その内管が高圧冷媒入口63を構成し、外管が戻り低圧冷媒出口64を構成し、内部熱交換器8の高圧配管39aおよび戻り低圧配管40aがそれぞれ接続されている。
【0031】
ボディ54の主円柱部52は、その中央に中央孔が貫通形成され、その中央孔の周囲には図示はしないがたとえば4つの低圧冷媒の通路が平行に貫通形成されている。中央孔の中には、弁軸ガイド65とリング状の弁座66とが嵌合され、かしめ加工によってボディ54に固定されている。その弁座66に対して接離自在に弁体67が配置されている。この弁体67は、弁座66および弁軸ガイド65を介して軸方向に延びる弁軸68と一体に形成されている。弁軸68の弁体67が形成されている側とは反対側の端部には、円筒状のカラー部材69が嵌合され、それよりも弁体67の側には、シール用のOリング70が配置されている。カラー部材69は、パワーエレメント51のセンターディスク62に当接されており、ダイヤフラム61の変位を弁体67に伝達するようにしている。カラー部材69は、弁座66の弁孔の内径に略等しい外径を有し、これにより、フロント側膨張弁4に導入される冷媒の圧力をキャンセルしている。
【0032】
弁体67は、スプリング71によって閉弁方向に付勢されており、そのスプリング71は、主円柱部52のフロント側蒸発器5側に形成された二重管の内管内に圧入されたばね受け部材72によって受けられていて、そのばね受け部材72の内管への圧入量によってスプリング71の荷重が調整されている。
【0033】
以上の構成のフロント側膨張弁4において、レシーバ3から高圧配管39aを通じて高温・高圧の液冷媒が高圧冷媒入口63に供給されると、その液冷媒は、弁座66と弁体67との間の隙間を通って低圧冷媒出口55へ流出する。このとき、冷媒は、断熱膨張されて低温・低圧の気液混合冷媒となり、冷媒入口配管57よりフロント側蒸発器5へ導入される。フロント側蒸発器5では、導入された冷媒は、車室内の空気との熱交換により蒸発されて冷媒出口配管58から流出する。その冷媒は、戻り低圧冷媒入口56より導入され、低圧冷媒の通路を通じて戻り低圧冷媒出口64へ流出し、内部熱交換器8の戻り低圧配管40aを介して可変容量圧縮機1の入口へ戻される。
【0034】
パワーエレメント51のダイヤフラム61とロアハウジング60とによって囲まれた空間は、低圧冷媒の通路と連通しているので、フロント側蒸発器5から戻ってきた冷媒が低圧冷媒の通路を通過するとき、その冷媒が導入されてその温度および圧力がパワーエレメント51によって検出される。感温室内の圧力は、検出した冷媒の温度および圧力に応じて昇降するので、その温度および圧力に応じてダイヤフラム61が弁体67の開閉方向に変位する。その変位は、センターディスク62を介してカラー部材69に伝達され、さらに弁軸68を介して弁体67に伝達される。これにより、弁体67のリフトが変化し、フロント側蒸発器5に供給する冷媒の流量を制御することになる。つまり、このフロント側膨張弁4は、フロント側蒸発器5を出た冷媒の温度および圧力を感知して、その冷媒が所定の過熱度を保持するようにフロント側蒸発器5に供給する冷媒の流量を制御することになる。
【0035】
図4は第2の制御方法に係る自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。なお、この図4において、図1に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0036】
この冷凍サイクルは、フロント側膨張弁4に、フロント側蒸発器5の入口圧力と出口圧力との差圧に応じてフロント側蒸発器5に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁を使用し、リア側膨張弁6に、リア側蒸発器7の入口圧力と出口圧力との差圧に応じてリア側蒸発器7に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁を使用している。なお、このリア側膨張弁6の制御については、図1の第1の制御方法に関して説明したものと同じであり、フロント側膨張弁4の具体的な構成例としては、図2に示した電磁膨張弁と同じであるので、ここではこれらの説明を省略する。
【0037】
フロント側膨張弁4は、フロント制御部14によって制御される。このフロント制御部14は、内部熱交換器8の低圧側出口に設置された圧力センサ15および温度センサ16が接続され、さらに、必要に応じて、可変容量圧縮機1の高圧側、たとえばレシーバ3に設置された圧力センサ17または可変容量圧縮機1の吐出側に設置された温度センサ18が接続される。
【0038】
以上の構成の冷凍サイクルによれば、フロント側膨張弁4は、これを構成する電磁膨張弁のソレノイドに流す電流値が内部熱交換器8の低圧側出口の温度および圧力によって設定される。これにより、フロント側膨張弁4は、内部熱交換器8の低圧側出口の冷媒の温度および圧力を感知して、その冷媒が所定の過熱度を保持するようにフロント側蒸発器5に供給する冷媒の流量を制御することになる。このように、フロント側膨張弁4は、内部熱交換器8のリア側回路との分岐・合流ポイントよりも可変容量圧縮機1の吸入側である低圧側出口の冷媒の過熱度を制御しているため、フロント側およびリア側を含む全体の空調を制御していることになる。
【0039】
このとき、内部熱交換器8の低圧側出口における冷媒の過熱度ができるだけ大きくなるように制御することによって成績係数を上げることができ、これにより自動車用空調装置の効率を向上させることができる。この過熱度をどこまで大きくすることができるかは、そのような過熱度を有する冷媒を吸入して圧縮する可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒温度が潤滑オイルの連続使用耐熱温度を超えないことが条件である。
【0040】
この条件を満たすには、可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒温度を知る必要があり、その温度は、可変容量圧縮機1の吐出側に設置された温度センサ18によって検出することができる。したがって、フロント制御部14は、フロント側膨張弁4を過熱度制御しながら、可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒の温度を監視し、その吐出側の冷媒の温度が潤滑オイルの連続使用耐熱温度に相当する所定値より高くなると、過熱度制御で設定したソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整する。これにより、フロント側膨張弁4からフロント側蒸発器5に供給される冷媒の流量が増加され、内部熱交換器8の低圧側出口における冷媒の過熱度が低下するので、可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒温度を低下させることができる。
【0041】
このように可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒の温度を監視するには、可変容量圧縮機1の吐出側に温度センサ18を新たに設置する必要がある。しかし、既存の自動車用空調装置には安全のために必須であった圧力センサ17が可変容量圧縮機1の高圧側に設置されているので、その圧力センサ17を利用して、温度センサ18を新たに設けることなく、可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒の温度を推定することができる。
【0042】
この可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒の温度の推定は、冷凍サイクルの挙動を表すモリエル線図を使って説明することができる。すなわち、可変容量圧縮機1の理想的な断熱圧縮ではエントロピは変化せず、断熱圧縮された冷媒は、仕事をした分、圧力もエンタルピも増加するため、モリエル線図上では、可変容量圧縮機1による圧縮は、等エントロピ線に沿った右上がりの変化で表される。この等エントロピ線上の変化の始点は、圧力センサ15および温度センサ16によって検出された内部熱交換器8の低圧側出口、つまり、可変容量圧縮機1の吸入口における圧力および温度から特定することができる。一方、始点が特定された等エントロピ線上の変化の終点は、可変容量圧縮機1の高圧側の圧力が圧力センサ17によって検出されているので、モリエル線図上で、等エントロピ線がその検出した圧力と交差する位置で特定される。そして、モリエル線図上で、その終点を通る等温線を求めることによって、可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒の温度を推定することができるのである。
【0043】
このようにして推定された可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒の温度は、圧力センサ15および温度センサ16によって検出された内部熱交換器8の低圧側出口における圧力および温度から設定されるソレノイドに流す電流値の補正に使用される。すなわち、フロント制御部14は、内部熱交換器8の低圧側出口における冷媒の過熱度をできるだけ大きくするように制御し、それによって可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒の推定した温度が可変容量圧縮機1の潤滑オイルの連続使用耐熱温度を超えようとすると、ソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整して、フロント側膨張弁4がフロント側蒸発器5へ流す冷媒の流量を増加させ、内部熱交換器8の低圧側出口における冷媒の過熱度を低下させて可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒の温度を低下させるように制御する。
【0044】
図5は第3の制御方法に係る自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。なお、この図5において、図4に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0045】
この冷凍サイクルは、フロント側膨張弁4およびリア側膨張弁6にそれぞれフロント側蒸発器5およびリア側蒸発器7の入口圧力と出口圧力との差圧に応じてフロント側蒸発器5およびリア側蒸発器7に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁を使用し、図4の場合と同様である。ただし、この冷凍サイクルの制御方法では、内部熱交換器8の低圧側出口における冷媒の圧力を、高価な圧力センサ15を用いることなく求めている点で図4の場合と相違する。
【0046】
すなわち、この冷凍サイクルでは、フロント側蒸発器5の冷媒入口の近傍に温度センサ19を設置し、フロント側膨張弁4から供給されたフロント側蒸発器5の入口の温度を検出している。フロント制御部14は、温度センサ19によって検出されたフロント側蒸発器5の入口の温度からフロント側蒸発器5内の蒸発圧力を演算により推定している。この推定は、フロント側膨張弁4からフロント側蒸発器5の入口に供給される冷媒が湿り分の多い気液混合冷媒であり、このような気液混合の飽和状態では、温度および圧力が飽和圧力温度特性より一義的に決まることに基づいている。
【0047】
フロント制御部14は、フロント側蒸発器5の入口の冷媒の温度からそのときの蒸発圧力を推定し、その推定した蒸発圧力と、温度センサ16によって検出された内部熱交換器8の低圧側出口の冷媒の温度とによって、フロント側膨張弁4のソレノイドに流す電流値を設定し、内部熱交換器8の低圧側出口の冷媒が所定の過熱度を保持するようにフロント側蒸発器5に供給する冷媒の流量を制御する。
【0048】
このとき、潤滑オイルの劣化を招くことなく、内部熱交換器8の低圧側出口における冷媒の過熱度をできるだけ大きくするように安全に制御するには、図4の場合と同様に、可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒温度を、温度センサ18で検出するか、圧力センサ17で検出した圧力から推定し、その吐出側の冷媒温度が所定値より高くなると、ソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整する。
【0049】
図6は第4の制御方法に係る自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。なお、この図6において、図4に示した構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0050】
この冷凍サイクルは、フロント側膨張弁4およびリア側膨張弁6にソレノイド作動の電磁膨張弁を使用することは、図4の場合と同様である。ただし、この冷凍サイクルの制御方法では、内部熱交換器8の低圧側出口における冷媒の圧力を、高価な圧力センサ15を用いることなく求めている点で図4の場合と相違する。
【0051】
すなわち、この冷凍サイクルでは、可変容量圧縮機1を容量制御している容量制御弁20の外部電流から可変容量圧縮機1の吸入圧力を推定している。この容量制御弁20は、特に、ベローズ等の感圧部材を使って吸入室の吸入圧力を感知し、その吸入圧力が外部電流によって設定される所定値を維持するように容量を制御するタイプのものである。したがって、その外部電流は、容量制御弁20の制御目標値であり、吸入圧力を代表していることになるので、この第4の制御方法では、その外部電流を吸入圧力としてフロント側膨張弁4の過熱度制御に利用している。
【0052】
フロント制御部14は、容量制御弁20の外部電流から可変容量圧縮機1の吸入圧力を推定し、その推定した吸入圧力と、温度センサ16によって検出された内部熱交換器8の低圧側出口の冷媒の温度とによって、フロント側膨張弁4のソレノイドに流す電流値を設定し、内部熱交換器8の低圧側出口の冷媒が所定の過熱度を保持するようにフロント側蒸発器5に供給する冷媒の流量を制御する。
【0053】
このとき、潤滑オイルの劣化を招くことなく、内部熱交換器8の低圧側出口における冷媒の過熱度をできるだけ大きくするように安全に制御するには、図4の場合と同様に、可変容量圧縮機1の吐出側の冷媒温度を、温度センサ18で検出するか、圧力センサ17で検出した圧力から推定し、その吐出側の冷媒温度が所定値より高くなると、ソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1の制御方法に係る自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
【図2】リア側膨張弁の構成例を非通電時の状態で示す断面図である。
【図3】フロント側膨張弁の構成例を示す断面図である。
【図4】第2の制御方法に係る自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
【図5】第3の制御方法に係る自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
【図6】第4の制御方法に係る自動車用空調装置の冷凍サイクルを示すシステム図である。
【符号の説明】
【0055】
1 可変容量圧縮機
2 凝縮器
3 レシーバ
4 フロント側膨張弁
5 フロント側蒸発器
6 リア側膨張弁
7 リア側蒸発器
8 内部熱交換器
9,10 送風機
11 制御部
12,13 温度センサ
14 フロント制御部
15 圧力センサ
16 温度センサ
17 圧力センサ
18,19 温度センサ
20 容量制御弁
22 冷媒入口配管
23 冷媒出口配管
24 主円柱部
25 副円柱部
26 ボディ
27 弁軸ガイド
28 弁座
29 弁体
30 スプリング
31 ばね受け部材
32 弁軸
33 筒状受圧部材
34 Oリング
35 低圧冷媒出口
36 戻り低圧冷媒入口
37 高圧冷媒入口
38 戻り低圧冷媒出口
39 高圧配管
39a 高圧配管
40 戻り低圧配管
40a 戻り低圧配管
41 バックアップリング
42 ソレノイド
43 コア
44 有底スリーブ
45 プランジャ
46 シャフト
47,48 軸受部
49 コイル
50 ヨーク
51 パワーエレメント
52 主円柱部
53 副円柱部
54 ボディ
55 低圧冷媒出口
56 戻り低圧冷媒入口
57 冷媒入口配管
58 冷媒出口配管
59 アッパーハウジング
60 ロアハウジング
61 ダイヤフラム
62 センターディスク
63 高圧冷媒入口
64 戻り低圧冷媒出口
65 弁軸ガイド
66 弁座
67 弁体
68 弁軸
69 カラー部材
70 Oリング
71 スプリング
72 ばね受け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシーバからフロント側膨張弁およびリア側膨張弁に向かう高温・高圧の冷媒とフロント側蒸発器およびリア側蒸発器から可変容量圧縮機へ向かう低温・低圧の冷媒との間で熱交換を行う二重管構造の内部熱交換器を備えた冷凍サイクルの制御方法において、
前記リア側膨張弁は、前記リア側蒸発器の入口圧力と出口圧力との差圧に応じて前記リア側蒸発器に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁であり、前記リア側蒸発器に送風される車室内の空気の量を推定し、推定した空気の量に応じて前記リア側蒸発器に供給すべき冷媒の流量に対応する前記設定差圧を設定するようにしたことを特徴とする冷凍サイクルの制御方法。
【請求項2】
前記空気の量を前記リア側蒸発器に送風する送風機の駆動電圧から推定し、前記送風機の駆動電圧が高くなるに連れて前記ソレノイドに流す電流値を大きく設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項3】
前記リア側蒸発器の入口空気温度と出口空気温度とを検出し、前記入口空気温度と前記出口空気温度との温度差が大きくなるに連れて前記ソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整することを特徴とする請求項2記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項4】
前記フロント側膨張弁は、前記フロント側蒸発器を出た冷媒の温度および圧力に応じて前記フロント側蒸発器に供給する冷媒の流量を制御する温度式膨張弁であることを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項5】
前記フロント側膨張弁は、前記フロント側蒸発器の入口圧力と出口圧力との差圧に応じて前記フロント側蒸発器に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁であり、前記内部熱交換器の低圧側出口の温度および圧力を検出し、前記ソレノイドに流す電流値を検出した前記内部熱交換器の低圧側出口の温度および圧力によって設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項6】
前記フロント側膨張弁は、前記フロント側蒸発器の入口圧力と出口圧力との差圧に応じて前記フロント側蒸発器に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁であり、前記内部熱交換器の低圧側出口の温度と前記フロント側蒸発器の入口の冷媒温度とを検出し、前記ソレノイドに流す電流値を検出した前記内部熱交換器の低圧側出口の温度と検出した前記フロント側蒸発器の入口の冷媒温度から推定される蒸発圧力とによって設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項7】
前記可変容量圧縮機は、容量制御弁によって吸入圧力が外部電流により設定された所定の値を維持するように容量が制御されるものであり、
前記フロント側膨張弁は、前記フロント側蒸発器の入口圧力と出口圧力との差圧に応じて前記フロント側蒸発器に供給する冷媒の流量を制御するものであって、非通電時には閉弁し、通電時には開弁するときの設定差圧がソレノイドに流す電流値に応じて設定されるソレノイド作動の電磁膨張弁であり、前記内部熱交換器の低圧側出口の温度を検出し、前記ソレノイドに流す電流値を前記内部熱交換器の低圧側出口の温度と前記可変容量圧縮機を容量制御している前記容量制御弁の前記外部電流から推定される前記吸入圧力とによって設定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項8】
前記可変容量圧縮機の吐出側の冷媒の温度を検出し、この吐出側の冷媒の温度が所定値より高くなると、設定された前記ソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整することを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項9】
前記可変容量圧縮機の高圧側の冷媒の圧力を検出し、検出したこの高圧側の冷媒の圧力と前記内部熱交換器の低圧側出口の温度および圧力とから前記可変容量圧縮機の吐出側の冷媒の温度を推定し、この推定した吐出側の冷媒の温度が所定値より高くなると、設定された前記ソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整することを特徴とする請求項5記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項10】
前記可変容量圧縮機の高圧側の冷媒の圧力を検出し、検出したこの高圧側の冷媒の圧力と前記内部熱交換器の低圧側出口の温度と推定された前記蒸発圧力とから前記可変容量圧縮機の吐出側の冷媒の温度を推定し、この推定した吐出側の冷媒の温度が所定値より高くなると、設定された前記ソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整することを特徴とする請求項6記載の冷凍サイクルの制御方法。
【請求項11】
前記可変容量圧縮機の高圧側の冷媒の圧力を検出し、検出したこの高圧側の冷媒の圧力と前記内部熱交換器の低圧側出口の温度と前記吸入圧力とから前記可変容量圧縮機の吐出側の冷媒の温度を推定し、この推定した吐出側の冷媒の温度が所定値より高くなると、設定された前記ソレノイドに流す電流値を大きくする方向に調整することを特徴とする請求項7記載の冷凍サイクルの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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