説明

冷凍サイクル装置およびその製造方法

【課題】過酷な空調環境下に設置されても耐久性が高く寿命の長い冷凍サイクル装置が望まれていた。
【解決手段】冷凍サイクル装置は冷媒回路1を構成する冷媒流路1Aが無酸素銅で構成されている。そして、無酸素銅で構成される冷媒流路1Aとして冷媒回路1の蒸発器5の冷媒管8が適用されたり、冷媒流路1Aのロウ付け時の昇温部分が防錆塗膜で被覆されたり、冷媒流路1Aのロウ付けに用いるロウ材として銀ロウが適用されたり、冷媒流路1Aをロウ付けする際に水素脆化防止処理が施されたりしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば空気調和装置や冷凍装置に用いられる冷媒回路を備えた冷凍サイクル装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の冷凍サイクル装置の冷媒回路は、圧縮機、凝縮器、冷媒絞り弁、および蒸発器がそれぞれ冷媒配管を介して環状に連結された冷媒流路を有している。この冷凍サイクル装置において、冷媒配管、凝縮器の冷媒管、および蒸発器の冷媒管は、安価で、後述する水素脆化が起こりにくいりん脱酸銅(JIS−H−3100、合金番号1201)で構成され、ロウ付けにより管同士が接続されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−303428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、機械加工・食品加工工場などのようにオイルミストが発生する環境下に設置される空気調和装置では、オイルミストが酸化して生じたギ酸・酢酸などの有機酸により、銅管製の冷媒配管や熱交換器の冷媒管が腐食して寿命が短くなるという不具合がある。特に、りん脱酸銅製の冷媒管を用いた従来の蒸発器の場合、特定のpH範囲(特に、2.8以上4未満)において腐食速度が急激に高くなり侵食深さの深い蟻の巣状腐食を多発させるといったこと(図4中の曲線F参照)が従来より知られている。そのために、生産リードタイムが長くなる防食塗装処理を行ったり、加工性の悪い銅合金を用いたりしなければならないことから、有機酸に対し耐食性の高い機器が嘱望されていた。
そこで、室内機内に吸着材を配備した空気調和装置が上記の特許文献1に記載されている。この空気調和装置では、空調環境から室内機内に流入した有機酸を吸着材が吸着除去することにより、熱交換器の冷媒管の腐食を抑制するようになっている。しかしながら、上記した空調環境から流入するオイルミストの量は非常に多いので、活性炭などに代表される吸着材の吸着能力が短期間で失なわれ、短期間で吸着材の交換を余儀なくされ、交換などメンテナンスの手間や吸着材コストがかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、過酷な設置環境下であっても耐久性が高くメンテナンスの手間が少なくて済む冷凍サイクル装置およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る冷凍サイクル装置は、冷媒回路を構成する冷媒流路を無酸素銅で構成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る冷凍サイクル装置によれば、冷媒回路の冷媒流路が無酸素銅で構成されているので、従来のりん脱酸銅と比べて、使用時間経過に伴う侵食深さが格段に小さくなるうえ、特定pH範囲での腐食速度の急騰をもたらすことがない。従って、いわゆる蟻の巣状腐食の多発を防止でき、耐久性が高く長寿命の冷凍サイクル装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は本発明の一実施形態に係る冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す概略構成図である。
図1において、この実施形態に係る冷凍サイクル装置は、冷凍サイクル動作を行なう冷媒回路1を備えた空気調和装置の例を示している。冷媒回路1は、圧縮機2、凝縮器3、冷媒絞り弁4、および蒸発器5がそれぞれ冷媒配管7,7,7,7を介して環状に連結されている。すなわち、圧縮機2内の冷媒流通部分、冷媒配管7、凝縮器3の冷媒管9、冷媒配管7、冷媒絞り弁4内の冷媒流通部分、冷媒配管7、蒸発器5の冷媒管8、および冷媒配管7が環状に連通することにより、冷媒回路1の冷媒流路1Aが構成される。蒸発器5は冷房を行なう空調環境Aに配置されていて、例えばフィンチューブ式に構成されている。空調環境Aは例えばオイルミストが発生する機械加工工場などの環境である。
【0009】
前記の蒸発器5では、図2および図3に示すように、横方向所定間隔で並設された多数のフィン10,10,10,・・・に、縦方向所定間隔の管挿通穴(図示省略)が形成されている。各フィン10は管挿通穴形成の際に切り起こされたカラー15の存在により隣り合うフィン10との間に所定隙間が保持されている。そして、各フィン10の管挿通穴には、ヘアピン状配管11,11,11,・・・がフィン組体の一端側から挿通されている。各ヘアピン状配管11の管端部11A,11Bはフィン組体の他端側から突出した状態にされ、或るヘアピン状配管11の管端部11Bと次のヘアピン状配管11の管端部11AとがU字状の管継手12を介して連結されている。すなわち、ヘアピン状配管11,11,11,・・・と管継手12,12,12,・・・とから、蒸発器5の冷媒管8が構成される。この実施形態では、ヘアピン状配管11および管継手12が無酸素銅(JIS−H−3100、合金番号C−1020)で構成されている。
【0010】
そして、ヘアピン状配管11,11の管端部11Bと管端部11Aは、管継手12の両端の大径部13,13にそれぞれ挿し込まれ、挿し込み部およびその近傍が800℃程度に加熱されたのちにロウ付け(ロウ付け部14)されている。このようなロウ付けに用いるロウ材としては、いわゆる硬ロウ付けで使用される450℃以上の溶融点を持つものであれば特に限定されない。このようなロウ材としては、例えば銀ロウ、金ロウ、黄銅ロウ、真鍮ロウ、ニッケルロウ、アルミニウムロウなどが挙げられる。この実施形態では例えば銀ロウを使用してある。
【0011】
上記のように構成された空気調和装置の冷媒回路1の冷房運転動作を次に説明する。圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は凝縮器3の冷媒管9へ流入し室外空気により冷却されて凝縮液化する。凝縮器3から出た冷媒は冷媒絞り弁4で減圧され、蒸発器5の冷媒管8へ流入する。蒸発器5において冷媒は空調環境Aの空気を冷却するとともに自身は冷媒管8内で気化して蒸発器5を出る。蒸発器5から流出したガス冷媒はアキュムレータ6を経て圧縮機2に戻る。このような冷凍サイクル動作が繰り返される。
前記の冷媒回路1において、蒸発器5の冷媒管8の表面では空調環境Aの空気中の水分が結露してドレン水として滴下し排水される。この場合、空調環境Aはオイルミストが発生する機械加工・食品加工工場などの環境の場合は、オイルミストの酸化により生じたギ酸・酢酸などによって、冷媒管8の表面はpHの低い(すなわち酸性度の高い)湿潤状態となっている場合が多い。
【0012】
図4は試験で得られた蒸発器冷媒管部分の湿潤環境での、pHと侵食速度との関係を示すグラフである。ここで、Eは無酸素銅の状態を示し、Fはりん脱酸銅の状態を示している。本グラフで示す通り、無酸素銅の場合は、pHの低下に伴い侵食速度は徐々に速くなる。一方、りん脱酸銅の場合は、特定のpHの範囲(特に、2.8以上4未満)において侵食速度が急激に速くなり、いわゆる蟻の巣状腐食が進行する。
図5は同様に、試験室レベル(加速試験)で得られた蒸発器冷媒管部分の湿潤環境での、経過時間と侵食深さとの関係を示すグラフである。また、試験室の環境は、蟻の巣状腐食が進行しやすい、pH(特に、2.8以上4未満)環境である。ここで、Gは無酸素銅の状態を示し、Fはりん脱酸銅の状態を示している。
つまり、この実施形態の冷凍サイクル装置は、図5のグラフにおいて曲線Gで示すように、加速試験開始から40日を経過しても、孔食の侵食深さが100〜200μm程度と大きくならず、極めて耐久性の高い蒸発器5を提供することができる。一般に、フィン10のカラー15と微小な隙間を隔てて対面する冷媒管の面には蟻の巣状腐食が発生しやすいが、本実施形態の冷媒管8ではカラー15との対面位置にも蟻の巣状腐食や孔食がほとんど発生していない。
これに対し、同グラフ中の曲線Hで示すように、従来汎用の蒸発器の冷媒管は加速試験開始当初より特に蟻の巣状腐食に関して大きな侵食深さを呈しており、加速試験開始から40日目で600〜1200μm程度と、本実施形態の冷媒管8と比べてほぼ6倍も深い侵食深さに達したのである。冷媒管の腐食が前記のように深い侵食深さになると、冷媒管の耐圧強度の観点から、侵食深さが冷媒管の初期管肉厚に等しくなる(貫通する)と予測される加速試験経過日数Bよりも前の短期間で、従来の蒸発器は寿命となってしまう。
【0013】
そして、この実施形態では、上述した冷媒管8のヘアピン状配管11と管継手12をロウ付けする際に、水素脆化防止処理を施した。ここで、水素脆化とは、水素が材料内部に入り、脆くなる現象を言う。よって、水素脆化防止処理とは、ロウ付け時に、水素の進入を防止する処理のことである。この水素脆化防止処理の一例としては、例えば800℃に達した後、ロウ付け作業時間を60秒以下(より好ましくは20秒以下である。また、一般的な作業時間は10秒以下である。)に収めることである。ここでいうロウ付け作業時間とは、加熱するためのトーチにより配管(ここでは、外径7.94mm、肉厚0.25mmの銅管を用いた)を加熱して或る一定温度、例えば800℃に達したのち、ロウ材を投入してからトーチを外して加熱を止めるまでの時間である。加熱温度が高い場合、さらにロウ付け作業時間は短くなる。
そこで、ロウ付け後に常温まで放熱したのち冷媒管8の表面に生じたボイド(孔)の数を計数した。図6のグラフ中の曲線Iは、前記のロウ付け作業時間と、ロウ付け後の冷媒管8の表面に生じたボイドの数との関係を示している。ボイドの数はサンプル表面を顕微鏡で観察して計数した250×250μmあたりの個数である。すなわち、曲線Iから明らかなように、60秒以下でロウ付け作業時間を行なうと、水素脆化性割れの起点となるボイドの発生を抑制し、ひいては水素脆化による耐圧強度低下の問題を解消することができる。
【0014】
通常、加熱温度が不適切な場合やロウ材の量が適正でない場合には、再度800℃まで加熱してロウ付けの手直しが行なわれる。そこで、水素脆化防止処理の別例としては、ロウ付けの手直し作業を2回までに収めることである。すなわち、図7のグラフからわかるように、ロウ付けの手直し作業が2回までであれば、ボイドの発生を防ぐことができる。
【0015】
また、水素脆化は酸素の存在下で発生することが知られている。そこで、水素脆化防止処理の他のいくつかの例として、窒素ガスを封入した容器内でロウ付けを行なう処理、冷媒管のロウ付けされる部分に向けて窒素ガスを流しながらロウ付けを行なう処理、真空にした容器内でロウ付けを行なう処理などが挙げられる。これらの処理によっても、ボイドの発生を防ぐことができる。
【0016】
ところで、冷媒管8においてロウ付け時に昇温した部分は加熱酸化による無酸素銅の特性が失われているので、そのままでは腐食を抑制することができない。このようにロウ付け時に昇温する部分は、例えばヘアピン状配管11と管継手12を接続したロウ付け部14と、ロウ付け部14近傍のヘアピン状配管11および管継手12である。そこで、図8に示すように、これら昇温部分の表面に防錆塗料を塗布し防錆塗膜16として被覆しておく。これにより、ロウ付け部14およびその近傍の冷媒管8の腐食を防ぐことができる。尚、防錆塗料としては、塗膜の防錆性および耐久性が高く塗装作業が容易なものであれば特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂系塗料、タールエポキシ樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、アルキルシリケート樹脂系塗料などが挙げられる。
【0017】
また、この実施形態ではロウ材として、耐食性が高く燐を含まない銀ロウを用いているので、冷媒管8の無酸素銅の特性を阻害することがなく、管同士のロウ付けによる防食効果の低下を阻止することができる。
【0018】
尚、上記の実施形態では、無酸素銅で構成する部分として蒸発器の冷媒管を例示したが、本発明はそれに限定されるものでなく、例えば圧縮機の冷媒流通部分、凝縮器の冷媒管、冷媒絞り弁の冷媒流通部分、蒸発器の冷媒管、または各部をつなぐ冷媒配管など、冷媒流路の構成部品を可能な限り無酸素銅で構成してよいことは言うまでもない。
また、上記では冷凍サイクル装置の例として空気調和装置を例示したが、本発明は空気調和装置に限るものでなく、冷凍装置や冷蔵装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す概略構成図である。
【図2】前記冷凍サイクル装置の蒸発器を示す概略正面図である。
【図3】前記蒸発器の冷媒管の連結態様を示す一部断面を含む部分正面図である。
【図4】前記蒸発器の冷媒管に関する腐食速度と結露環境のpHとの関係を示すグラフである。
【図5】前記蒸発器の冷媒管に関する侵食深さと使用経過時間との関係を示すグラフである。
【図6】前記冷媒管のロウ付けに要した時間とその後に発生したボイドの数との関係を示すグラフである。
【図7】前記冷媒管におけるロウ付けの手直し回数とその後に発生したボイドの数との関係を示すグラフである。
【図8】前記冷媒管のロウ付け時に昇温した部分の一部断面を含む部分正面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 冷媒回路、1A 冷媒流路、5 蒸発器、7 冷媒配管、8 冷媒管、11 ヘアピン状配管、12 管継手、14 ロウ付け部、16 防錆塗膜、A 空調環境。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒回路を構成する冷媒流路を無酸素銅で構成したことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
無酸素銅で構成される冷媒流路が冷媒回路の蒸発器の冷媒管であることを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
冷媒流路のロウ付け時の昇温部分を防錆塗膜で被覆したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
冷媒流路のロウ付けに用いるロウ材が銀ロウであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の冷凍サイクル装置に係る冷媒流路をロウ付けする際に、水素脆化防止処理を施したことを特徴とする冷凍サイクル装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−202813(P2008−202813A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36192(P2007−36192)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)