説明

冷凍サイクル装置

【課題】コンプレッサのトルクを正確に推定することが可能な冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】冷凍サイクル装置1は、コンプレッサ2、コンデンサ3、レシーバ4、膨張弁5、エバポレータ6を備えている。コンプレッサ2とコンデンサ3との間には、差圧検出機構7が設けられており、差圧検出機構7は、絞り弁7の前後の差圧を差圧センサ72によって検出するように構成されている。コンデンサ3の出口には高圧圧力センサ31が設けられている。差圧センサ72の検出出力ΔPおよび高圧圧力センサ31の検出出力Phに基づいて冷媒流量Rflowが推定される。そして、この冷媒流量Rflowとコンプレッサ2の吸入圧Psと吐出圧Pdとに基づいてコンプレッサ2のトルクが推定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル装置に関し、詳細には、冷凍サイクル装置に設けられる圧縮機のトルクを推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両空調用の冷凍サイクル装置は、冷媒を圧縮するコンプレッサ(圧縮機)と、コンデンサ(凝縮器)と、レシーバ(気液分離器)と、膨張弁(減圧機構)と、エバポレータ(蒸発器)とを備えている。コンプレッサ、コンデンサ、レシーバ、膨張弁、およびエバポレータは、冷媒配管により環状に接続されており、コンプレッサにより吐出された冷媒は、コンデンサ→レシーバ→膨張弁→エバポレータの順に流れ、コンプレッサに吸入される。
【0003】
ところで、車両に搭載された内燃機関(エンジン)によってコンプレッサを駆動する場合、コンプレッサはエンジンの負荷となっており、エンジンはコンプレッサを駆動するための余分なエネルギーを必要とする。このため、車両の燃料消費低減の観点から、エンジンの出力は、その負荷であるコンプレッサの運転状態に応じて制御する必要がある。つまり、コンプレッサのトルクを考慮し、そのトルクを余分に発生するように、エンジンの出力が制御される。例えば、アイドリング時に、コンプレッサのトルク分(アイドルアップ量)だけ上乗せするようなエンジンの出力制御が行われる。したがって、エンジンによってコンプレッサを駆動する場合には、コンプレッサのトルクを正確に推定することが重要となる。
【0004】
従来では、コンプレッサのトルクは、例えば、特許文献1に示されるように、冷媒流量と、コンプレッサの吐出圧および吸入圧とに基づいて推定することが可能となっている。また、従来では、冷凍サイクル装置の高圧側領域(コンプレッサの吐出口から膨張弁の入口までの間)に流量制御弁を設け、この流量制御弁の指示値(電流値)により決定される冷媒流量(指示流量)に基づいてコンプレッサのトルクの推定が行われている。
【特許文献1】特開2004−175290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したような流量制御弁の指示値による指示流量に基づいてコンプレッサのトルクを推定する従来の構成では、例えば、コンプレッサの吸入圧がエバポレータの温度の変化などによって変動した場合や、指示値が変化した場合などの過渡時には、指示流量と実際の冷媒流量との間にずれが生じる可能性があり、正確なトルク推定を行うことができないという問題がある。また、流量制御弁の特性変化などによっても、指示流量と実際の冷媒流量との間にずれが生じる可能性があり、同様の問題が懸念される。さらに、コンプレッサの起動時、液だまりがなくなるまでの間(液冷媒が抜けるまでの間)は、実際の冷媒流量は増加しないため、指示流量との間にずれが発生し、同様の問題が懸念される。なお、上記特許文献1に記載の冷凍サイクル装置においても、コンプレッサの容量可変機構(容量制御弁)に供給される電流値により決定される冷媒流量、およびコンプレッサの吐出圧と吸入圧の差圧に基づいてコンプレッサのトルクを推定するため、上述のような場合には、同様の問題が起こる可能性がある。
【0006】
本発明は、そのような問題点を鑑みてなされたものであり、コンプレッサのトルクを正確に推定することが可能な冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、圧縮機と、凝縮器と、減圧機構と、蒸発器とを備えた冷凍サイクル装置において、高圧側領域に設けられる絞りと、この絞りの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、高圧側領域の圧力を検出する高圧圧力検出手段と、上記差圧検出手段の検出出力および高圧圧力検出手段の検出出力に基づいて冷媒流量を推定する冷媒流量推定手段と、上記冷媒流量推定手段の推定結果、圧縮機の吸入圧、および吐出圧に基づいて圧縮機のトルクを推定するトルク推定手段とを備えることを特徴としている。この場合、上記絞りは、圧縮機と凝縮器との間に設けられていることが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、冷媒流量が変化すると、その変化が絞りの前後の差圧の変化として検出される。そして、差圧検出手段により直接検出された絞りの前後の差圧に基づいて冷媒流量を推定するため、冷媒流量の変動分を冷媒流量の推定結果に速やかに反映させることができる。これにより、冷媒流量が急激に変動したとしても、その冷媒流量を正確に推定することができる。そして、このように推定された冷媒流量を圧縮機のトルクの推定に用いることによって、圧縮機の起動時、圧縮機の吸入圧の変動時、過渡時などにおいても、圧縮機のトルクを正確に推定することができる。
【0009】
本発明において、上記冷媒流量推定手段の推定結果および高圧圧力検出手段の検出出力に基づいて圧縮機の吐出圧を推定する吐出圧推定手段を備えることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、吐出圧推定手段により推定される圧縮機の吐出圧は、圧縮機の吐出口から高圧圧力検出手段の設置箇所までに発生する圧力損失を考慮した値となっているため、圧縮機の吐出圧を正確に推定することができる。また、上記冷媒流量推定手段の推定結果に基づいて圧縮機の吐出圧を推定するため、冷媒流量が急激に変動したとしても、圧縮機の吐出圧を正確に推定することができる。そして、このように推定された圧縮機の吐出圧を圧縮機のトルクの推定に用いることによって、圧縮機の起動時、圧縮機の吸入圧の変動時、過渡時などにおいても、圧縮機のトルクを正確に推定することができる。
【0011】
また、本発明は、圧縮機と、凝縮器と、減圧機構と、蒸発器とを備えた冷凍サイクル装置において、高圧側領域の圧力を検出する高圧圧力検出手段と、上記高圧圧力検出手段の検出出力および冷媒流量に基づいて圧縮機の吐出圧を推定する吐出圧推定手段と、上記吐出圧推定手段の推定結果、圧縮機の吸入圧、および冷媒流量に基づいて圧縮機のトルクを推定するトルク推定手段とを備えることを特徴としている。この場合、冷凍サイクル装置の高圧側領域に設けられる絞りと、この絞りの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、上記差圧検出手段の検出出力および高圧圧力検出手段の検出出力に基づいて冷媒流量を推定する冷媒流量推定手段とを備えることが好ましい。
【0012】
ここで、上記吐出圧推定手段により推定される圧縮機の吐出圧に対し下限が設定されていることが好ましい。すなわち、差圧検出手段に異常が発生した場合などには、この差圧検出手段の検出出力に基づいて推定される冷媒流量と実際の冷媒流量との間の誤差が大きくなり、圧縮機の吐出圧を正確に推定することが難しくなる。したがって、上記吐出圧推定手段により推定される吐出圧に対して予め下限を設定しておくことで、信頼性の低下を防ぐことができる。
【0013】
本発明において、上記冷媒流量推定手段の推定結果および蒸発器の圧力に基づいて圧縮機の吸入圧を推定する吸入圧推定手段を備えることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、吸入圧推定手段により推定される圧縮機の吸入圧は、蒸発器の圧力の検出箇所から圧縮機の吸入口までに発生する圧力損失を考慮した値となっているため、圧縮機の吸入圧を正確に推定することができる。また、上記冷媒流量推定手段の推定結果に基づいて圧縮機の吸入圧を推定するため、実際の冷媒流量が急激に変動したとしても、圧縮機の吸入圧を正確に推定することができる。そして、このように推定された圧縮機の吐出圧を圧縮機のトルクの推定に用いることによって、圧縮機の起動時、圧縮機の吸入圧の変動時、過渡時などにおいても、圧縮機のトルクを正確に推定することができる。
【0015】
ここで、上記吸入圧推定手段により推定される圧縮機の吸入圧に対し下限が設定されていることが好ましい。すなわち、差圧検出手段に異常が発生した場合などには、この差圧検出手段の検出出力に基づいて推定される冷媒流量と実際の冷媒流量との間の誤差が大きくなり、圧縮機の吸入圧を正確に推定することが難しくなる。したがって、上記吸入圧推定手段により推定される吸入圧に対して予め下限を設定しておくことで、信頼性の低下を防ぐことができる。
【0016】
本発明において、上記蒸発器の温度に基づいて蒸発器の圧力を推定する蒸発器圧推定手段とを備えることが好ましい。より具体的な構成としては、上記蒸発器のフィン温度を検出するフィン温度検出手段と、上記フィン温度検出手段の検出出力を圧縮機のON/OFF信号に基づいて補正して推定するフィン温度推定手段と、上記フィン温度推定手段による補正後のフィン温度に基づいて蒸発器の圧力を推定する蒸発器圧推定手段とを備えることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、蒸発器圧推定手段により推定された蒸発器の圧力は、圧縮機のON/OFF動作を考慮したものとなっているため、蒸発器の圧力の推定をより正確に行うことが可能となる。また、このように推定された蒸発器の圧力に基づいて圧縮機の吸入圧を推定することによって、その吸入圧をより正確に推定することができる。そして、圧縮機のトルクをより正確に推定することができる。
【0018】
ここで、上記フィン温度推定手段による補正後のフィン温度を推定するための具体構成として、上記フィン温度検出手段の検出出力に対し一次進み処理を行う一次進み処理手段と、上記一次進み処理手段の処理結果に対し徐変処理を行う徐変処理手段とを備え、上記フィン温度推定手段は、上記一次進み処理手段の処理結果および徐変処理手段の処理結果に基づいて上記補正後のフィン温度を推定する構成が挙げられる。
【0019】
また、本発明は、上記トルク推定手段の推定結果および圧縮機の効率に基づいて圧縮機の実動力を算出する算出手段を備えることを特徴としている。
【0020】
この構成によれば、圧縮機の実動力を正確に算出することができる。これにより、内燃機関によって圧縮機を駆動する場合に、圧縮機の運転状態に応じた内燃機関の出力制御を適切に行うことができ、燃料消費低減に貢献できる。例えば、アイドリング時、推定された圧縮機のトルク分(アイドルアップ量)だけ上乗せするように、内燃機関の出力を制御することで、内燃機関の不安定動作、さらには停止といった不具合を防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、差圧検出手段により直接検出された絞りの前後の差圧に基づいて冷媒流量を推定するため、冷媒流量の変動分を冷媒流量の推定結果に速やかに反映させることができる。これにより、冷媒流量が急激に変動したとしても、その冷媒流量を正確に推定することができる。そして、このように推定された冷媒流量を圧縮機のトルクの推定に用いることによって、圧縮機の起動時、圧縮機の吸入圧の変動時、過渡時などにおいても、圧縮機のトルクを正確に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。以下では、本発明を車両用の空調装置に用いられる冷凍サイクル装置に適用した例について説明する。
【0023】
図1は、実施形態に係る車両空調用の冷凍サイクル装置の概略構成を示す模式図である。
【0024】
図1に示すように、車両空調用の冷凍サイクル装置1は、冷媒を圧縮するコンプレッサ(圧縮機)2と、コンデンサ(凝縮器)3と、レシーバ(気液分離器)4と、膨張弁(減圧機構)5と、エバポレータ(蒸発器)6とを備えている。冷凍サイクル装置1において、コンプレッサ2、コンデンサ3、レシーバ4、膨張弁5、および、エバポレータ6は、冷媒配管により環状に接続されており、コンプレッサ2により吐出された冷媒は、コンデンサ3→レシーバ4→膨張弁5→エバポレータ6の順に流れ、コンプレッサ2に吸入される。また、コンプレッサ2とコンデンサ3との間には、差圧検出機構7が設けられている。
【0025】
コンプレッサ2は、車両に搭載されたエンジン11によって駆動される。コンプレッサ2は、動力断続用の電磁クラッチ21を有し、エンジン11の動力がVベルトおよび電磁クラッチ21を介してコンプレッサ2に伝達される。電磁クラッチ21への通電のON/OFFは電子制御装置(ECU)8によって切り替えられ、電磁クラッチ21の通電がONされて電磁クラッチ21が接続状態になると、コンプレッサ2は運転状態となる。一方、電磁クラッチ21の通電がOFFされて電磁クラッチ21が開離状態になると、コンプレッサ2は停止する。なお、エンジン11には、その回転数Neを検出する回転数センサ12が設けられており、この回転数センサ12は、ECU8に接続されている。
【0026】
また、コンプレッサ2は、容量可変機構22を備えており、ECU8からの指令によりその吐出容量が可変制御されるように構成されている。容量可変機構22により、コンプレッサ2の吐出容量をほぼ0〜100%の範囲で連続的に変化させることが可能となっている。容量可変機構22は、例えば電磁弁機構によって構成され、電磁弁機構に供給される制御電流によりコンプレッサ2の吐出容量が制御される。例えば、電磁弁機構に供給される制御電流に比例して吐出容量を制御し、制御電流が小さくなるほど吐出容量が小さくなるように吐出容量を制御する。
【0027】
コンプレッサ2から吐出された高温、高圧のガス冷媒は、差圧検出機構7の絞り弁71を経てコンデンサ3に導入される。差圧検出機構7は、冷媒が流通するメイン通路73に設けられる絞り弁71(差圧発生手段)と、メイン通路73に並列に接続される検出用通路74に設けられる差圧センサ72(差圧検出手段)とを備えている。絞り弁71によってメイン通路73の通路面積が絞られるので、この絞り弁71を冷媒が通過することで、絞り弁71の前後に冷媒流量に応じた差圧が発生する。このようにして発生した絞り弁71の前後の差圧ΔPを差圧センサ72によって検出するようにしている。差圧センサ72は、ECU8に接続されており、差圧センサ72によって検出された絞り弁71の前後の差圧ΔPがECU8に入力される。
【0028】
コンデンサ3に導入されたガス冷媒は、冷却用ファン(図示略)により送風される外気と熱交換して放熱され、凝縮する。コンデンサ3により凝縮された高温、高圧の冷媒は、レシーバ4に導入される。コンデンサ3の出口直後には高圧圧力センサ31が設けられており、この高圧圧力センサ31により、コンデンサ3の出口から流出される冷媒の圧力(高圧圧力Ph)を検出するようにしている。高圧圧力センサ31は、ECU8に接続されており、この高圧圧力センサ31によって検出された高圧圧力PhがECU8に入力される。なお、高圧圧力センサ31をコンデンサ3の内部に設ける構成としてもよい。
【0029】
レシーバ4に導入された冷媒は、液相と気相とに分離され、液相の冷媒(液冷媒)がレシーバ4内に貯留される。このレシーバ4からの高圧の液冷媒は、膨張弁5により急激に膨張させられ、気液二相の状態となる。
【0030】
膨張弁5により減圧された低圧の冷媒は、エバポレータ6に導入される。このエバポレータ6において、低圧の冷媒は、周囲の空気(空調ケース13の空気通路を流れる送風空気)から吸熱して蒸発(気化)し、ガス冷媒となる。蒸発後のガス冷媒は、再びコンプレッサ2に吸入され、圧縮される。
【0031】
エバポレータ6は、車両用空調装置の空調ケース13内に設置されている。この空調ケース13は、内部に車室内の乗員に向けて空気が送風される空気通路を有し、この空気通路の最上流部には、内気導入口および外気導入口を有する内外気切替箱(図示略)が設けられている。また、エバポレータ6のフィンにはフィン温度センサなどで構成される温度センサ61が設けられており、この温度センサ61により、エバポレータ6のフィン温度Tefinを検出するようにしている。温度センサ61は、ECU8に接続されており、この温度センサ61によって検出されたエバポレータ6のフィン温度TefinがECU8に入力される。
【0032】
空調ケース13の内外気切替箱内には、内外気切替ドア(図示略)が回転自在に配置されている。この内外気切替ドアは、例えばサーボモータにより駆動され、これにより、内気導入口より内気(車室内空気)を導入する内気モードと、外気導入口より外気(車室外空気)を導入する外気モードとを切り替えることが可能となっている。この内外気切替箱の下流側には、車室内に向かう空気流れを発生させるブロワ14が配置されている。このブロワ14の下流側には、上述したエバポレータ6が配置されており、エバポレータ6により空気通路内を流れる空気が冷却される。つまり、エバポレータ6は、ブロワ14による送風空気を冷却する冷房用熱交換器となっている。
【0033】
また、エバポレータ6の下流側には、このエバポレータ6によって冷却された空気を加熱するヒータコア15が配置されている。このヒータコア15は、エンジン11の冷却水などを熱源としてエバポレータ6の通過後の空気を加熱する暖房用熱交換器であり、その側方にはヒータコア15を迂回する空気が流れるバイパス通路が形成されている。
【0034】
エバポレータ6とヒータコア15との間には、エアミックスドア16が回転自在に配置されている。このエアミックスドア16は、例えばサーボモータにより駆動され、エアミックスドア16の開度を調整することによって、ヒータコア15を通る空気量(温風量)と、バイパス通路を通過してヒータコア15を迂回する空気量(冷風量)とを調節することが可能となっている。これにより、車室内に吹き出す空気の吹出温度が調整されるようになっている。また、空調ケース13の空気通路の最下流部には、車両の窓ガラスに向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口や、乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口(図示略)などが設けられている。
【0035】
上述のように構成される冷凍サイクル装置1は、制御手段であるECU8によって制御される。ECU8は、CPU、ROM、RAMなどを含むマイクロコンピュータとその周辺回路とによって構成され、そのROMに記憶されたプログラムやマップ、テーブル、演算式などにに基づいて各種演算、処理を行う電気制御部である。ECU8には、冷凍サイクル装置1の各種の制御に必要な各種センサの検出信号(検出出力)が入力される。
【0036】
そして、この実施形態においては、ECU8は、以下に述べるようなコンプレッサ2のトルクTrqを推定するトルク推定制御を行う。このトルク推定制御の一例について、図2を参照して説明する。図2は、コンプレッサ2の理論動力算出処理の一例を示す図である。
【0037】
図2に示すように、コンプレッサ2のトルク推定制御は、コンプレッサ2の理論動力Lthを算出する理論動力算出処理(処理A)として行われる。その理由は、コンプレッサ2のトルクTrqと理論動力Lthとの間には、次の式(1)のような関係があるからである。
【0038】
Trq=(Lth/ηad)×60/(2π×Nc)×1000 ・・・(1)
ここで、ηadはコンプレッサ2の効率であり、(Lth/ηad)はコンプレッサ2の実動力Lを表す。Ncはコンプレッサ2の回転数である。コンプレッサ2の回転数Ncとしては、センサ(回転数センサ)を設けてこのセンサにより直接検出された値を用いてもよいし、あるいは、エンジン11の回転数Neにプーリ比αを乗じることによって求められた値(Nc=Ne×α)を用いてもよい。
【0039】
コンプレッサ2の理論動力算出処理(処理A)は、図2に示すように、コンプレッサ2の理論動力Lthを、コンプレッサ2により吐出された冷媒の流量(冷媒流量)Rflowと、コンプレッサ2の吐出圧Pdおよび吸入圧Psとに基づいて算出する処理となっている。この理論動力算出処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、冷媒流量Rflowとコンプレッサ2の吐出圧Pdと吸入圧Psとをパラメータとしたマップに基づいて理論動力Lthを求めることが可能である。
【0040】
ここで、冷媒流量Rflow、コンプレッサ2の吐出圧Pd、および吸入圧Psとしては、センサ(流量センサ、圧力センサ)を設けて各センサにより直接検出された値を用いてもよいし、あるいは、ECU8による推定処理によって求められた値を用いてもよい。この実施形態では、以下に述べるような冷媒流量推定処理(処理B)、吐出圧推定処理(処理C)、および吸入圧推定処理(処理D)を行うことによって求められた推定結果(推定値)を、冷媒流量Rflow、コンプレッサ2の吐出圧Pd、および吸入圧Psとして用いるようにしている。
【0041】
まず、冷媒流量推定処理(処理B)は、図2に示すように、冷媒流量Rflowを、差圧検出機構7の差圧センサ72により検出される絞り弁71の前後の差圧ΔPと、高圧圧力センサ31により検出される高圧圧力Phとに基づいて推定する処理となっている。この冷媒流量推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、絞り弁71の前後の差圧ΔPと高圧圧力Phとをパラメータとしたマップに基づいて冷媒流量Rflowを求めることが可能である。
【0042】
ここで、冷凍サイクル装置1において、実際の冷媒流量Rflowが変化すると、これに応じて絞り弁71の前後の差圧ΔPが変化する。この実施形態では、実際の冷媒流量Rflowの変化を、絞り弁71の前後の差圧ΔPの変化として検出するようにしている。そして、差圧センサ72により直接検出された絞り弁71の前後の差圧ΔPに基づいて冷媒流量Rflowを推定するため、実際の冷媒流量Rflowの変動分を冷媒流量Rflowの推定結果に速やかに反映させることができる。これにより、コンプレッサの起動時、コンプレッサの吸入圧の変動時、過渡時などに、実際の冷媒流量Rflowが急激に変動したとしても、その冷媒流量Rflowを正確に推定することができる。
【0043】
そして、このような冷媒流量推定処理(処理B)によって推定された冷媒流量Rflowを、コンプレッサ2の理論動力Lth、つまり、コンプレッサ2のトルクTrqの推定に用いることによって、コンプレッサの起動時、コンプレッサの吸入圧の変動時、過渡時などにおいても、コンプレッサ2のトルクTrqを正確に推定することができる。
【0044】
次に、吐出圧推定処理(処理C)は、図2に示すように、コンプレッサ2の吐出圧Pdを、上記冷媒流量推定処理の推定結果である冷媒流量Rflowと、高圧圧力センサ31により検出される高圧圧力Phとに基づいて推定する処理となっている。この吐出圧推定処理によって求められる吐出圧Pdは、コンプレッサ2の吐出口から高圧圧力Phの検出箇所(高圧圧力センサ31の設置箇所)までに発生する圧力損失(コンデンサ3内の圧損および配管圧損)を考慮した値となっている。つまり、吐出圧推定処理によって求められる吐出圧Pdは、上記圧力損失を冷媒流量Rflowを基に補正した値となっている。
【0045】
この吐出圧推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、上記冷媒流量推定処理によって推定された冷媒流量Rflowと高圧圧力Phとをパラメータとしたマップに基づいてコンプレッサ2の吐出圧Pdを求めることが可能である。
【0046】
この実施形態では、吐出圧推定処理により推定されるコンプレッサ2の吐出圧Pdは、コンプレッサ2の吐出口から高圧圧力センサ31の設置箇所までに発生する圧力損失を考慮した値となっているため、コンプレッサ2の吐出圧Pdを正確に推定することができる。また、コンプレッサ2の吐出圧Pdの推定に絞り弁71の前後の差圧ΔPにより推定された冷媒流量Rflowを用いているため、コンプレッサの起動時、コンプレッサの吸入圧の変動時、過渡時などに、実際の冷媒流量Rflowが急激に変動したとしても、コンプレッサ2の吐出圧Pdを正確に推定することができる。そして、このような吐出圧推定処理(処理C)によって推定されたコンプレッサ2の吐出圧Pdを、コンプレッサ2の理論動力Lth、つまり、コンプレッサ2のトルクTrqの推定に用いることによって、コンプレッサの起動時、コンプレッサの吸入圧の変動時、過渡時などにおいても、コンプレッサ2のトルクTrqを正確に推定することができる。
【0047】
ここで、上述のようにして推定されるコンプレッサ2の吐出圧Pdに対して下限を設定することが好ましい。その理由は、差圧センサ72に異常が発生した場合などには、この差圧センサ72の検出出力に基づいて推定される冷媒流量Rflowと実際の冷媒流量Rflowとの間の誤差が大きくなり、コンプレッサ2の吐出圧Pdを正確に推定することが難しくなるからである。この場合、推定される吐出圧Pdは実際よりも低く推定される傾向にあるため、推定される吐出圧Pdに対して予め下限を設定しておくことで、信頼性の低下を防ぐようにしている。
【0048】
次に、吸入圧推定処理(処理D)は、図2に示すように、コンプレッサ2の吸入圧Psを、上記冷媒流量推定処理の推定結果である冷媒流量Rflowと、エバポレータ6の圧力Plとに基づいて推定する処理となっている。この吸入圧推定処理によって求められた吸入圧Psは、エバポレータ6の圧力Plの検出箇所からコンプレッサ2の吸入口までに発生する圧力損失(エバポレータ6内の圧損および配管圧損)を考慮した値となっている。つまり、吸入圧推定処理によって求められる吸入圧Psは、上記圧力損失を冷媒流量Rflowを基に補正した値となっている。
【0049】
この吸入圧推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、上記冷媒流量推定処理によって推定された冷媒流量Rflowとエバポレータ6の圧力Plとをパラメータとしたマップに基づいてコンプレッサ2の吸入圧Psを求めることが可能である。
【0050】
この構成によれば、吸入圧推定処理により推定されるコンプレッサ2の吸入圧Psは、エバポレータ6の圧力Plの検出箇所からコンプレッサ2の吸入口までに発生する圧力損失を考慮した値となっているため、コンプレッサ2の吸入圧Psを正確に推定することができる。また、コンプレッサ2の吸入圧Psの推定に絞り弁71の前後の差圧ΔPにより推定された冷媒流量Rflowを用いているため、コンプレッサの起動時、コンプレッサの吸入圧の変動時、過渡時などに、実際の冷媒流量Rflowが急激に変動したとしても、コンプレッサ2の吸入圧Psを正確に推定することができる。そして、このような吸入圧推定処理(処理D)によって推定されたコンプレッサ2の吸入圧Psを、コンプレッサ2の理論動力Lth、つまり、コンプレッサ2のトルクTrqの推定に用いることによって、コンプレッサの起動時、コンプレッサの吸入圧の変動時、過渡時などにおいても、コンプレッサ2のトルクTrqを正確に推定することができる。
【0051】
ここで、上述のようにして推定されるコンプレッサ2の吸入圧Psに対して下限を設定することが好ましい。その理由は、差圧センサ72に異常が発生した場合などには、この差圧センサ72の検出出力に基づいて推定される冷媒流量Rflowと実際の冷媒流量Rflowとの間の誤差が大きくなり、コンプレッサ2の吸入圧Psを正確に推定することが難しくなるからである。この場合、推定される吸入圧Psは実際よりも低く推定される傾向にあるため、推定される吸入圧Psに対して予め下限を設定しておくことで、信頼性の低下を防ぐようにしている。
【0052】
ここで、エバポレータ6の圧力Plは、センサ(圧力センサ)をエバポレータ6に設けてこのセンサにより直接検出された値を用いてもよいし、あるいは、ECU8による推定処理によって求められた値を用いてもよい。この実施形態では、以下に述べるようなエバポレータ圧推定処理(処理E)を行うことによって求められた推定結果(推定値)を、エバポレータ6の圧力Plとして用いるようにしている。
【0053】
エバポレータ圧推定処理(処理E)は、図2に示すように、エバポレータ6内の圧力Plを、エバポレータ6の温度とコンプレッサ2のON/OFF信号とに基づいて推定する処理となっている。この実施形態では、エバポレータ6の温度として、温度センサ61により検出されるエバポレータ6のフィン温度Tefinを用いるようにしている。
【0054】
より具体的には、エバポレータ圧推定処理(処理E)は、エバポレータ6の圧力Plを、後述する補正後フィン温度推定処理(処理F)により求められるエバポレータ6の補正後フィン温度TefinADに基づいて推定する処理となっている。このエバポレータ圧推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、後述する補正後フィン温度推定処理によって推定された補正後フィン温度TefinADをパラメータとした演算式に基づいてエバポレータ6の圧力Plを求めることが可能である。
【0055】
次に、補正後フィン温度推定処理(処理F)は、エバポレータ6の補正後フィン温度TefinADを、温度センサ61により検出されるエバポレータ6のフィン温度Tefinとコンプレッサ2のON/OFF信号とに基づいて推定する処理となっている。この補正後フィン温度推定処理の詳細について、図3、図4を参照して説明する。図3は、補正後フィン温度推定処理の一例を示す図であり、図4は、そのタイミングチャートである。
【0056】
補正後フィン温度推定処理(処理F)は、温度センサ61により検出されたエバポレータ6のフィン温度Tefinに対しコンプレッサ2のON/OFF信号を基に先読み処理を行う処理である。このような補正後フィン温度推定処理を行う理由は、エバポレータ6の圧力Plは、コンプレッサ2のON/OFFの切り替えに対応して直ちに変化するわけではなく、やや遅れて変化するからである。そのため、エバポレータ6の圧力Plを正確に推定するには、温度センサ61により検出されたエバポレータ6のフィン温度Tefinそのものを用いるよりも、コンプレッサ2のON/OFF信号を基に先読み処理を行った補正後フィン温度TefinADを用いることが好ましい。したがって、補正後フィン温度推定処理によって求められる補正後フィン温度TefinADは、コンプレッサ2のON/OFF動作を考慮したものとなっている。
【0057】
この補正後フィン温度推定処理は、具体的には、図3に示すように、一次進みフィン温度推定処理(処理F1)と、一次遅れ関数推定処理(処理F2)と、徐変後フィン温度推定処理(処理F3)と、補正後フィン温度推定処理(処理F4)とを含む処理となっている。
【0058】
まず、一次進みフィン温度推定処理(処理F1)は、温度センサ61により検出されるエバポレータ6のフィン温度Tefinに基づいてエバポレータ6の一次進みフィン温度Tefin1を推定する処理となっている。つまり、エバポレータ6の一次進みフィン温度Tefin1は、温度センサ61により検出されるエバポレータ6のフィン温度Tefinに対し一次進み処理を施したものとなっている。この一次進みフィン温度推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、次の式(2)を用いることによってエバポレータ6のフィン温度Tefinに基づいて一次進みフィン温度Tefin1を求めることが可能である。
【0059】
Tefin1=Tefin+K1×(Tefin−Tefinold) ・・・(2)
ここで、K1は補正係数であり、0〜1の所定値に設定される。Tefinoldは温度センサ61により検出されるエバポレータ6のフィン温度Tefinの前回値である。この式(2)によって算出されたエバポレータ6の一次進みフィン温度Tefin1は、例えば、図4(b)に示すような波形となる。なお、図4(a)は、コンプレッサ2のON/OFF信号を示している。この場合、コンプレッサ2のON/OFF信号としては、例えば、コンプレッサ2の電磁クラッチ21への通電のON/OFF信号を用いることが可能である。なお、コンプレッサ2のON/OFF信号として、車両用空調装置のON/OFFを切り替えるスイッチ(エアコンスイッチ)の信号を用いてもよい。
【0060】
次に、一次遅れ関数推定処理(処理F2)は、上記一次進みフィン温度推定処理の推定結果である一次進みフィン温度Tefin1とコンプレッサ2のON/OFF信号とに基づいて一次遅れ関数Tefinlagを推定する処理となっている。この一次遅れ関数Tefinlagは、このコンプレッサ2の起動直後には(ONに切り替わった直後には)、図4(b)に示すように、エバポレータ6の一次進みフィン温度Tefin1は変化しないため、コンプレッサ2の起動時(ONに切り替わった時点)から一次進みフィン温度Tefin1が変化し始めるまでの時間を補正するために導入される。
【0061】
この一次遅れ関数推定処理では、まず、エバポレータ6の行き着く先の想定フィン温度TefinCが決定される。この決定処理は、コンプレッサ2の起動時のエバポレータ6の一次進みフィン温度Tefin1に基づいて、コンプレッサ2の稼動中にエバポレータ6の行き着く先の想定フィン温度TefinCを決定する処理となっている。この決定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、図5に示すようなマップを用いることによってエバポレータ6の一次進みフィン温度Tefin1に基づいて想定フィン温度TefinCを求めることが可能である。図5の横軸はコンプレッサ2の起動時のエバポレータ6の一次進みフィン温度Tefin1となっている。この図5のマップに基づいて決定されたエバポレータ6の想定フィン温度TefinCは、例えば、図4(c)に示すような波形となる。
【0062】
そして、上述のようにして求められたエバポレータ6の行き着く先の想定フィン温度TefinCと一次進みフィン温度Tefin1とコンプレッサ2のON/OFF信号とに基づいて一次遅れ関数Tefinlagが推定される。この一次遅れ関数推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、次の式(3)〜(5)を用いることによって一次遅れ関数Tefinlagを求めることが可能である。
【0063】
まず、コンプレッサ2がOFFの場合には、
Tefinlag=Tefin1 ・・・(3)
Tefinlagold=Tefin1 ・・・(4)
一方、コンプレッサ2がONの場合には、
Tefinlag=((T/Δt−1)×Tefinlagold+TefinC)/(T/Δt) ・・・(5)
ここで、Tは時定数であり、所定の時間に設定される。Δtはサンプリング時間である。Tefinlagoldは一次遅れ関数Tefinlagの前回値である。式(3)〜(5)によれば、コンプレッサ2がOFFの間は、一次遅れ関数Tefinlagを一次進みフィン温度Tefin1と等しくしておき、コンプレッサ2がONとなった際、一次遅れ関数Tefinlagが一次進みフィン温度Tefin1を起点として変化し始めるようにしている。そして、式(3)〜(5)によって算出された一次遅れ関数Tefinlagは、例えば、図4(d)に示すような波形となる。
【0064】
次に、徐変後フィン温度推定処理(処理F3)は、上記一次進みフィン温度推定処理の推定結果である一次進みフィン温度Tefin1と、上記一次遅れ関数推定処理の推定結果である一次遅れ関数Tefinlagと、コンプレッサ2のON/OFF信号とに基づいてエバポレータ6の徐変後フィン温度Tefinsmを推定する処理(徐変処理)である。この徐変後フィン温度Tefinsmは、コンプレッサ2の起動直後には、後述する補正後フィン温度推定処理(処理F4)の処理結果に一次遅れ関数Tefinlagを主に反映させ、コンプレッサ2の起動時から所定時間経過後には、補正後フィン温度推定処理(処理F4)の処理結果に一次進みフィン温度Tefin1を主に反映させるために導入される。この徐変後フィン温度推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、次の式(6)を用いることによってエバポレータ6の徐変後フィン温度Tefinsmを求めることが可能である。
【0065】
Tefinsm=Tefin1+K2×(Tefinlag−Tefin1) ・・・(6)
ここで、K2は徐変係数であり、0〜1の間で変化する値である。この徐変係数K2は例えば、図4(e)に示すように変化する。徐変係数K2は、コンプレッサ2の起動時には1に設定され、その後は、経過時間に比例して減衰する。そして、式(6)によって算出されたエバポレータ6の徐変後フィン温度Tefinsmは、例えば、図4(f)に示すような波形となる。
【0066】
次に、補正後フィン温度推定処理(処理F4)は、上記一次進みフィン温度推定処理の推定結果である一次進みフィン温度Tefin1と、上記徐変後フィン温度推定処理の推定結果である徐変後フィン温度Tefinsmとに基づいてエバポレータ6の補正後フィン温度TefinADを推定する処理となっている。この補正後フィン温度推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。例えば、次の式(7)を用いることによってエバポレータ6の補正後フィン温度TefinADを求めることが可能である。
【0067】
TefinAD=Min(Tefin1,Tefinsm) ・・・(7)
この式(7)によれば、エバポレータ6の一次進みフィン温度Tefin1と徐変後フィン温度Tefinsmのうち小さい値が、エバポレータ6の補正後フィン温度TefinADとして採用される。この式(7)によって算出されたエバポレータ6の補正後フィン温度TefinADは、例えば、図4(g)に示すような波形となる。
【0068】
そして、このようにして求められたエバポレータ6の補正後フィン温度TefinADに基づいて上述したエバポレータ圧推定処理(処理E)が行われる。このエバポレータ圧推定処理により推定されたエバポレータ6の圧力Plは、コンプレッサ2のON/OFF動作を考慮したものとなっているため、エバポレータ6の圧力Plの推定をより正確に行うことが可能となる。また、上述した吸入圧推定処理(処理D)において、このように推定されたエバポレータ6の圧力Plに基づいてコンプレッサ2の吸入圧Psを推定することによって、その吸入圧Psをより正確に推定することができる。そして、このような吸入圧推定処理(処理D)によって推定されたコンプレッサ2の吸入圧Psを、コンプレッサ2の理論動力Lth、つまり、コンプレッサ2のトルクTrqの推定に用いることによって、コンプレッサ2のトルクTrqを正確に推定することができる。
【0069】
また、この実施形態では、上述したコンプレッサ2の理論動力算出処理(処理A)により算出されたコンプレッサ2の理論動力Lthおよびコンプレッサ2の効率ηadに基づいてコンプレッサ2の実動力Lを算出する実動力算出処理(処理G)を行うようにしている。この実動力算出処理は、コンプレッサ2の理論動力Lthをコンプレッサ2の効率ηadで除する処理となっている(L=Lth/ηad)。以上説明したように、この実施形態では、コンプレッサ2のトルクTrqを正確に推定できるので、この実動力算出処理によってコンプレッサ2の実動力Lを正確に算出することが可能となる。これにより、コンプレッサ2の運転状態に応じたエンジン11の出力制御を適切に行うことができ、車両の燃料消費低減に貢献できる。例えば、アイドリング時、推定されたコンプレッサ2のトルクTrq分(アイドルアップ量)だけ上乗せするように、エンジン11の出力を制御することで、エンジン11の不安定動作、さらには停止といった不具合を防止することができる。
【0070】
なお、コンプレッサ2の効率ηadとしては、予め決められた理論効率を用いてもよいし、あるいは、ECU8による推定処理によって求められた値を用いてもよい。コンプレッサ2の推定効率を用いる場合、推定効率は、例えば、コンプレッサ2の吐出圧Pdとコンプレッサ2の回転数Ncと冷媒流量Rflowとに基づいて推定することが可能であり、その推定処理は、マップ、テーブル、あるいは近似式(演算式)を用いて行うことが可能である。この場合、冷媒流量Rflowおよびコンプレッサ2の吐出圧Pdとしては、上述した冷媒流量推定処理(処理B)および吐出圧推定処理(処理C)によって推定された値をそれぞれ用いることができる。
【0071】
−他の実施形態−
以上、本発明の実施形態について説明したが、ここに示した実施形態は一例であり、さまざまに変形することが可能である。
【0072】
上記実施形態では、差圧検出機構7の設置箇所がコンプレッサ2とコンデンサ3との間であったが、差圧検出機構7は、冷凍サイクル装置1の高圧側領域(コンプレッサ2の吐出口〜膨張弁5の入口の間)であれば、上記以外の箇所に設けられていてもよい。また、上記実施形態では、高圧圧力センサ31の設置箇所がコンデンサ3の出口直後であったが、高圧圧力センサ31は、冷凍サイクル装置1の高圧側領域であれば、上記以外の箇所に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施形態に係る車両空調用の冷凍サイクル装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1の冷凍サイクル装置におけるコンプレッサの理論動力算出処理の一例を示す図である。
【図3】図1の冷凍サイクル装置における補正後フィン温度推定処理の一例を示す図である。
【図4】図1の冷凍サイクル装置における補正後フィン温度推定処理の一例を示すタイミングチャートである。
【図5】図3の補正後フィン温度推定処理において、コンプレッサの稼動中にエバポレータの行き着く先のフィン温度を求めるためのマップである。
【符号の説明】
【0074】
1 冷凍サイクル装置
2 コンプレッサ
3 コンデンサ
4 レシーバ
5 膨張弁
6 エバポレータ
7 差圧検出機構
8 ECU
11 エンジン
31 高圧圧力センサ
61 温度センサ
71 絞り弁
72 差圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、凝縮器と、減圧機構と、蒸発器とを備えた冷凍サイクル装置において、
冷凍サイクル装置の高圧側領域に設けられる絞りと、
この絞りの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、
冷凍サイクル装置の高圧側領域の圧力を検出する高圧圧力検出手段と、
上記差圧検出手段の検出出力および高圧圧力検出手段の検出出力に基づいて冷媒流量を推定する冷媒流量推定手段と、
上記冷媒流量推定手段の推定結果、圧縮機の吸入圧、および吐出圧に基づいて圧縮機のトルクを推定するトルク推定手段とを備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷凍サイクル装置において、
上記冷媒流量推定手段の推定結果および高圧圧力検出手段の検出出力に基づいて圧縮機の吐出圧を推定する吐出圧推定手段を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項3】
圧縮機と、凝縮器と、減圧機構と、蒸発器とを備えた冷凍サイクル装置において、
冷凍サイクル装置の高圧側領域の圧力を検出する高圧圧力検出手段と、
上記高圧圧力検出手段の検出出力および冷媒流量に基づいて圧縮機の吐出圧を推定する吐出圧推定手段と、
上記吐出圧推定手段の推定結果、圧縮機の吸入圧、および冷媒流量に基づいて圧縮機のトルクを推定するトルク推定手段とを備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項4】
請求項3に記載の冷凍サイクル装置において、
冷凍サイクル装置の高圧側領域に設けられる絞りと、
この絞りの前後の差圧を検出する差圧検出手段と、
上記差圧検出手段の検出出力および高圧圧力検出手段の検出出力に基づいて冷媒流量を推定する冷媒流量推定手段とを備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項5】
請求項1,3または4に記載の冷凍サイクル装置において、
上記絞りは、圧縮機と凝縮器との間に設けられていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項6】
請求項2,4または5に記載の冷凍サイクル装置において、
上記吐出圧推定手段により推定される圧縮機の吐出圧に対し下限が設定されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項7】
請求項1,2,4〜6のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置において、
上記冷媒流量推定手段の推定結果および蒸発器の圧力に基づいて圧縮機の吸入圧を推定する吸入圧推定手段を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項8】
請求項7に記載の冷凍サイクル装置において、
上記吸入圧推定手段により推定される圧縮機の吸入圧に対し下限が設定されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の冷凍サイクル装置において、
上記蒸発器の温度に基づいて蒸発器の圧力を推定する蒸発器圧推定手段とを備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項10】
請求項7または8に記載の冷凍サイクル装置において、
上記蒸発器のフィン温度を検出するフィン温度検出手段と、
上記フィン温度検出手段の検出出力を圧縮機のON/OFF信号に基づいて補正して推定するフィン温度推定手段と、
上記フィン温度推定手段による補正後のフィン温度に基づいて蒸発器の圧力を推定する蒸発器圧推定手段とを備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項11】
請求項10に記載の冷凍サイクル装置において、
上記フィン温度検出手段の検出出力に対し一次進み処理を行う一次進み処理手段と、
上記一次進み処理手段の処理結果に対し徐変処理を行う徐変処理手段とを備え、
上記フィン温度推定手段は、上記一次進み処理手段の処理結果および徐変処理手段の処理結果に基づいて上記補正後のフィン温度を推定することを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置において、
上記トルク推定手段の推定結果および圧縮機の効率に基づいて圧縮機の実動力を算出する算出手段を備えることを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−262602(P2009−262602A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111097(P2008−111097)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】