説明

冷凍サイクル装置

【課題】冷凍サイクル装置において、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度を目標冷媒蒸発温度に近づける際の応答性を十分に向上させる。
【解決手段】圧縮機から吐出される冷媒流量Grを検出する流量センサを設け、冷媒流量Grおよび蒸発器入口側冷媒と出口側冷媒のエンタルピ差Ieを用いて、冷媒側冷房能力Qerを精度よく算出する。さらに、冷媒側冷房能力Qerと空気側冷房能力Qeaがバランスする点を推定冷媒蒸発温度TLとして、このTLが冷却対象空間を適切に冷却できるように決定された目標蒸発温度TEOに近づくように、圧縮機の冷媒吐出能力をフィードフォワード制御する。これにより、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度Teを目標冷媒蒸発温度TEOに近づける際の応答性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒吐出能力を変更可能に構成された圧縮機を備える冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可変容量型圧縮機や電動圧縮機のように冷媒吐出能力を変更可能に構成された圧縮機を備える冷凍サイクル装置が知られている。例えば、特許文献1には、圧縮機として吐出容量を変更可能に構成された可変容量型圧縮機が採用された冷凍サイクル装置が開示されている。
【0003】
この特許文献1の冷凍サイクル装置では、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度Teと、冷却対象空間を適切に冷却できるように決定された目標冷媒蒸発温度TEOとの偏差に基づいて、圧縮機の吐出容量(冷媒吐出能力)をフィードバック制御することによって、冷媒蒸発温度Teを目標冷媒蒸発温度TEOに近づけている。
【0004】
さらに、特許文献2には、車両用空調装置に適用されて、目標冷媒蒸発温度TEOが変更された際に、変更前の目標冷媒蒸発温度TEO、外気温Tam、車速、蒸発器へ送風される送風空気量に基づいて、圧縮機の吐出容量(冷媒吐出能力)をフィードフォワード制御する冷凍サイクル装置が開示されている。
【0005】
この特許文献2の冷凍サイクル装置では、このフィードフォワード制御によって、特許文献1に対して、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度Teを目標冷媒蒸発温度TEOに近づける際の応答性向上を図っている。
【特許文献1】特開2002−283840号公報
【特許文献2】特開2005−193749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、蒸発器の冷媒蒸発温度Teは、空気側冷房能力Qeaと冷媒側冷房能力Qerのバランス点(等しくなる点)における冷媒蒸発圧力に応じて決まる。ここで、空気側冷房能力Qeaとは、蒸発器において空気が冷媒に放熱する総熱量を意味し、冷媒側冷房能力Qerとは、蒸発器において冷媒が空気から吸熱する総熱量を意味する。
【0007】
従って、空気側冷房能力Qeaは、蒸発器へ送風される空気温度(蒸発器の吸込空気温度)と蒸発器における冷媒蒸発温度との温度差、および、蒸発器へ送風される送風空気量の積によって決定される。一方、冷媒側冷房能力Qerは、蒸発器出口冷媒のエンタルピと蒸発器入口冷媒のエンタルピとのエンタルピ差、および、サイクル内を循環する冷媒流量Grの積によって決定される。
【0008】
しかし、引用文献2のフィードフォワード制御では、変更前の目標冷媒蒸発温度TEO、外気温Tam、車速、蒸発器へ送風される送風空気量については考慮されているものの、サイクル内を循環する冷媒流量Grについて考慮されていない。そのため、冷媒側冷房能力Qerを正確に算出することができない。
【0009】
従って、引用文献2では、目標冷媒蒸発温度TEOが変更された際の冷媒蒸発温度を正確に推定することができない。その結果、フィードフォワード制御を行っても、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度Teを目標冷媒蒸発温度TEOに近づける際の応答性向上効果を十分に得ることができない。さらに、蒸発器の冷媒蒸発温度Teを必要以上に低下させてしまい、蒸発器の着霜を招く恐れもある。
【0010】
上記点に鑑み、本発明は、冷媒吐出能力を変更可能に構成された圧縮機を備える冷凍サイクル装置において、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度を目標冷媒蒸発温度に近づける際の応答性を十分に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11、11’)と、圧縮機(11、11’)から吐出された冷媒を放熱させる放熱器(12)と、放熱器(12)にて放熱された冷媒を減圧膨張させる減圧手段(13)と、減圧手段(13)にて減圧膨張された冷媒を蒸発させて、冷却対象空間へ送風される送風空気を冷却する蒸発器(14)と、圧縮機(11、11’)の冷媒吐出能力を変更する吐出能力変更手段(11a、11b)と、吐出能力変更手段(11a、11b)の作動を制御する吐出能力制御手段(20a)と、サイクル内を循環する冷媒流量(Gr)に相関を有する物理量を検出する流量検出手段(26)と、蒸発器(14)における目標冷媒蒸発温度(TEO)を決定する目標蒸発温度決定手段(S5)と、空気側冷房負荷に変動が生じたことを判定する負荷変動判定手段(S8)と、冷媒側冷房能力(Qer)を算出する冷媒側能力算出手段(S6)と、空気側冷房能力(Qea)を算出する空気側能力算出手段(S7)と、空気側冷房能力(Qea)および冷媒側冷房能力(Qer)が等しくなる蒸発器(14)の冷媒蒸発温度を推定冷媒蒸発温度(TL)とする蒸発温度推定手段(S91)とを備え、
冷媒側能力算出手段(S6)は、少なくとも流量検出手段(26)の検出値(Gr)を用いて冷媒側冷房能力(Qer)を算出し、吐出能力制御手段(20a)は、空気側冷房負荷の変動が検出された際に、推定冷媒蒸発温度(TL)を目標冷媒蒸発温度(TEO)に近づけるように、吐出能力変更手段(11a、11b)の作動をフィードフォワード制御する冷凍サイクル装置を特徴とする。
【0012】
これによれば、冷媒側能力算出手段(S6)が、少なくとも流量検出手段(26)の検出値(Gr)を用いて冷媒側冷房能力(Qer)を算出するので、例えば、変更前の目標冷媒蒸発温度(TEO)、外気温(Tam)、車速、蒸発器へ送風される送風空気量(BLV)のみに基づいて算出する場合に対して、冷媒側冷房能力(Qer)を精度よく算出することができる。
【0013】
従って、空気側冷房負荷が変動した場合に、空気側冷房能力(Qea)および冷媒側冷房能力(Qer)のバランス点における推定冷媒蒸発温度(TL)の推定精度を向上させることができる。
【0014】
さらに、吐出能力制御手段(20a)が、この精度の高い推定冷媒蒸発温度(TL)を目標蒸発温度(TEO)に近づけるように、吐出能力変更手段(11a、11b)の作動をフィードフォワード制御するので、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度(Te)を目標冷媒蒸発温度(TEO)に近づける際の応答性を十分に向上させることができる。
【0015】
また、上記特徴の冷凍サイクル装置において、具体的に、負荷変動判定手段(S8)は、送風空気の送風空気量が変化したときに、空気側冷房負荷の変動を判定するようになっていてもよい。
【0016】
また、上述の特徴の冷凍サイクル装置において、送風空気は、冷却対象空間内の空気および冷却対象空間外の空気のうち、少なくとも一方の空気を含んでおり、さらに、送風空気における冷却対象空間内の空気の風量と冷却対象空間外の空気の風量との風量割合を変化させる風量割合変更手段(16c)を備え、負荷変動判定手段(S8)は、風量割合変更手段(16c)が風量割合を変化させたときに、空気側冷房負荷が変動したと判定するようになっていてもよい。
【0017】
風量割合変更手段(16c)が風量割合を変化させたときは、蒸発器(14)へ送風される空気温度が変化することを意味するので、これにより空気側冷房負荷の変動を検出できる。
【0018】
また、上述の特徴の冷凍サイクル装置において、さらに、冷却対象空間の目標温度(Tset)を設定する目標温度設定手段(33)を備え、負荷変動判定手段(S8)は、目標温度(Tset)が変更されたときに、空気側冷房負荷の変動を判定するようになっている。
【0019】
冷却対象空間の目標温度(Tset)が変更されたときは、蒸発器(14)から吹き出される空気温度の変化を意味するので、これにより空気側冷房負荷の変動を検出できる。
【0020】
また、上述の特徴の冷凍サイクル装置において、空気側能力算出手段(S7)は、蒸発器(14)吸込側における送風空気の吸込空気温度(Ta)に相関のある物理量(Tam、Tr)、送風空気の送風空気量に相関のある物理量(BLV)、および、蒸発器(14)における冷媒蒸発温度に相関のある物理量(Tef)のうち、少なくとも1つを用いて空気側冷房能力(Qea)を算出するようになっていてもよい。
【0021】
前述の如く、空気側冷房能力(Qea)は、蒸発器(14)へ送風される空気温度(蒸発器の吸込空気温度)と蒸発器における冷媒蒸発温度との温度差、および、蒸発器へ送風される送風空気量の積によって決定される。従って、吸込空気温度(Ta)に相関のある物理量(Tam、Tr)、送風空気量に相関のある物理量(BLV)、および、冷媒蒸発温度に相関のある物理量(Tef)のうち、少なくとも1つを用いることで、より正確な空気側冷房能力(Qea)を算出できる。
【0022】
また、上述の特徴の冷凍サイクル装置において、冷媒側能力算出手段(S6)は、さらに、蒸発器(14)出口側冷媒の出口側比エンタルピ(Ieo)と蒸発器(14)入口側冷媒の入口側比エンタルピ(Iei)とのエンタルピ差(Ie)に相関のある物理量(Tam、Tef)のうち、少なくとも1つを用いて冷媒側冷房能力(Qer)を算出するようになっていてもよい。
【0023】
前述の如く、冷媒側冷房能力(Qer)は、蒸発器(14)出口側冷媒の出口側比エンタルピ(Ieo)と蒸発器(14)入口側冷媒の入口側比エンタルピ(Iei)とのエンタルピ差(Ie)、および、サイクル内を循環する冷媒流量(Gr)の積によって決定される。従って、上述の流量検出手段(26)の検出値(Gr)に加えて、さらに、エンタルピ差(Ie)に相関のある物理量(Tam、Tef)を用いることで、より正確な冷媒側冷房能力(Qer)を算出できる。
【0024】
また、上述の特徴の冷凍サイクル装置において、具体的に、減圧手段は、高圧側冷媒圧力を放熱器(12)下流側の高圧側冷媒温度に応じて決定される目標高圧に近づけるように、弁開度が調整される圧力制御弁(13)であってもよい。
【0025】
ここで、放熱器(12)下流側の高圧側冷媒温度は、一般的に、外気温(Tam)と略同等の値となるため、圧力制御弁(13)を採用する冷凍サイクル装置では、外気温(Tam)の変化に伴って高圧側冷媒圧力が変化する。従って、減圧手段として圧力制御弁(13)を採用すれば、後述する実施形態にて説明するように、外気温(Tam)に基づいて、上述の蒸発器(14)入口側冷媒の入口側比エンタルピ(Iei)が推定できる。
【0026】
さらに、蒸発器(14)出口側冷媒の出口側比エンタルピ(Ieo)については、蒸発器(14)の熱交換フィン温度(Tef)に基づいて推定できる。
【0027】
また、上述の特徴の冷凍サイクル装置において、具体的に、圧縮機は、吐出容量を変更可能に構成された可変容量型圧縮機(11)であり、吐出能力変更手段は、吐出容量を変更する容量制御弁(11a)であり、流量検出手段は、サイクル内を循環する冷媒流量(Gr)を検出する流量センサ(26)で構成されていてもよい。
【0028】
また、上述の特徴の冷凍サイクル装置において、具体的に、圧縮機は、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機(11’)であり、吐出能力変更手段は、固定容量型圧縮機(11’)を回転駆動する電動モータ(11b)であり、流量検出手段は、固定容量型圧縮機(11’)の回転数を検出する回転数検出手段(27)を含んで構成されていてもよい。
【0029】
さらに、流量検出手段(26、27)の少なくとも一部は、圧縮機(11、11’)と一体に構成されていてもよい。これにより、流量検出手段(26、27)および圧縮機(11、11’)の小型化を図ることができる。
【0030】
また、上述の特徴の冷凍サイクル装置において、圧縮機(11、11’)は、冷媒を臨界圧力以上となるまで昇圧するようになっていてもよい。また、冷媒は二酸化炭素であってもよい。
【0031】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(第1実施形態)
図1〜7により、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本発明の冷凍サイクル装置10を車両用空調装置に適用している。図1は、本実施形態の冷凍サイクル装置10の全体構成図である。また、この冷凍サイクル装置10では、冷媒として二酸化炭素を採用しており、圧縮機11の吐出冷媒圧力が冷媒の臨界圧力以上(超臨界状態)となる超臨界冷凍サイクルを構成している。
【0033】
圧縮機11は、冷凍サイクル装置10において、冷媒を吸入し、圧縮して吐出するもので、プーリおよびベルトを介して車両走行用エンジン(図示せず)から駆動力が伝達されて回転駆動される。さらに、本実施形態では圧縮機11として、後述する空調制御装置20から出力される制御信号によって吐出容量を連続的に変更可能に構成された周知の斜板式可変容量型圧縮機を採用している。
【0034】
なお、吐出容量とは冷媒の吸入圧縮を行う作動空間の幾何学的な容積、すなわちピストンストロークの上死点と下死点との間のシリンダ容積である。
【0035】
具体的には、圧縮機11は、吸入冷媒と吐出冷媒とを導入させる斜板室(図示せず)、斜板室へ導入させる吸入冷媒と吐出冷媒との割合を調整する電磁式容量制御弁11a、斜板室の圧力に応じて傾斜角度を変位させる斜板(図示せず)を有して構成されている。そして、この斜板の傾斜角度に応じてピストンストローク(吐出容量)が変更される。
【0036】
電磁式容量制御弁11aは、圧縮機11の吸入冷媒圧力Psと吐出冷媒圧力Pdとの差圧(Pd−Ps)による力を発生する圧力応動機構と、この差圧による力と対向する電磁力を発生する電磁機構とを内蔵しており、差圧による力と電磁力との釣り合いによって弁開度(吸入冷媒と吐出冷媒との割合)を調整して斜板室の圧力を変化させる。
【0037】
また、電磁機構の電磁力は、空調制御装置20から出力される制御電流Icによって決定され、制御電流Icを増加させると、斜板室の圧力が低下し、斜板の傾斜角度が増加する。これにより、ピストンストローク(吐出容量)が増加する。逆に、制御電流Icを減少させると、斜板室の圧力が上昇し、斜板の傾斜角度が減少する。これにより、ピストンストローク(吐出容量)が減少する。
【0038】
そして、この吐出容量の増減に応じて、圧縮機11の吐出流量Grが増減することになるので、本実施形態の電磁式容量制御弁11aは、吐出能力変更手段を構成している。さらに、制御電流Icによって、圧縮機11の吐出冷媒流量の目標値(目標流量)が決定されることになる。
【0039】
なお、本実施形態における、制御電流Icと圧縮機11の吐出流量Grとの関係は、図2の特性図に示されるように、制御電流Icの増加に伴って、圧縮機11の吐出流量Grが増加するようになっている。
【0040】
また、制御電流Icの出力は、具体的には電流制御回路の構成上、デューティ制御により変化させる方式とするのが通常であるが、制御電流Icの値をデューティ制御によらず直接、連続的(アナログ的)に変化させてもよい。このように制御電流Icが調整されることによって、圧縮機11では、吐出容量を略0%〜100%の範囲で連続的に変化させることができる。
【0041】
なお、本実施形態の圧縮機11では吐出容量を約0%とすることができるので、上述の如く、圧縮機11をプーリおよびベルトを介して車両走行用エンジンに常時連結するクラッチレスの構成とすることができる。もちろん、電磁クラッチを介して車両走行用エンジンから動力を伝達できるようにしてもよい。
【0042】
圧縮機11の冷媒吐出側には、図1に示すように、放熱器12が接続されている。放熱器12は、圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒と冷却ファン12aにより送風される外気(車室外空気)とを熱交換させて、高圧冷媒を放熱させる放熱用熱交換器である。冷却ファン12aは、後述する空調制御装置20から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。
【0043】
なお、前述の如く、本実施形態の冷凍サイクル装置10では、超臨界冷凍サイクルを構成しているので、放熱器12を通過する冷媒は、凝縮することなく超臨界状態のまま放熱する。
【0044】
放熱器12の出口側には、圧力制御弁13が接続されている。圧力制御弁13は、内部熱交換器13から流出した高圧冷媒を減圧膨張させるとともに、高圧側冷媒圧力が目標高圧となるように、弁開度(絞り開度)が機械的機構にて調整されるように構成されたものである。
【0045】
具体的には、圧力制御弁13は、放熱器12出口側と圧力制御弁13入口側との間に設けられた感温部13aを有し、この感温部13aの内部に放熱器12出口側の高圧冷媒の温度に対応した圧力を発生させ、感温部13aの内圧と放熱器12出口側の冷媒圧力とのバランスで圧力制御弁13の弁開度を調整するようになっている。
【0046】
これにより、高圧側冷媒圧力を放熱器12の出口側の高圧側冷媒温度により決まる目標高圧に調整できる。このような高圧制御機能を持つ圧力制御弁13は特開2000−81157号公報等にて公知である。
【0047】
圧力制御弁13の出口側には、蒸発器14が接続されている。蒸発器14は、圧力制御弁13にて減圧された低圧冷媒と送風ファン14aから送風された送風空気とを熱交換させて、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる吸熱用熱交換器である。また、送風ファン14aは、空調制御装置20から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。
【0048】
なお、本実施形態では、蒸発器14として、周知のフィンアンドチューブ構造の熱交換器を採用している。さらに、この蒸発器14は、車両用空調装置の室内空調ユニットにおいて車室内送風空気の空気通路を形成するケース15内に配置されている。
【0049】
ケース15の空気流れ最上流部には、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する内外気切替箱16が設けられている。この内外気切替箱16には、ケース15内に内気を導入させる内気導入口16aおよび外気を導入させる外気導入口16bが形成されている。
【0050】
さらに、内外気切替箱16の内部には、内気導入口16aおよび外気導入口16bを開閉する内外気切替ドア16cが回転自在に配置されている。この内外気切替ドアは、内気導入口16aおよび外気導入口16bの開口面積を連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる風量割合変更手段を構成するもので、サーボモータ16dによって駆動される。
【0051】
また、ケース15の内部であって蒸発器14の空気流れ下流側には、蒸発器14にて冷却された冷風を再加熱するヒータコア17およびヒータコア17を通過させる冷風の風量割合を調整するエアミックスドア18が配置されている。ヒータコア17は、車両走行用エンジンの冷却水を熱源として冷風を再加熱する加熱手段である。
【0052】
エアミックスドア18は、車室内へ送風される空調風の温度を調整する温度調整手段を構成するもので、サーボモータ18aによって駆動される。なお、内外気切替ドア16cのサーボモータ16dおよびエアミックスドア18のサーボモータ18aは、空調制御装置20から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0053】
さらに、ケース15の空気流れ最下流部には、冷却対象空間である車室内へ温度調整された送風空気を吹き出す吹出口(図示せず)が配置されている。この吹出口としては、具体的に、車室内の乗員の上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、乗員の足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口、および、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口が設けられている。
【0054】
蒸発器14の出口側にはアキュムレータ19が接続されている。アキュムレータ19は、蒸発器14から流出した冷媒を液相冷媒と気相冷媒に分離するとともに、サイクル内の余剰冷媒を蓄える気液分離器である。また、アキュムレータ19には、気相冷媒を流出させる気相冷媒出口が設けられており、気相冷媒出口は、圧縮機11の冷媒吸入側に接続されている。
【0055】
次に、本実施形態の電気制御部の概要を説明する。空調制御装置20は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。そして、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、上述の各種電気式アクチュエータ11a、12a、14a、16d、18a等の作動を制御する。
【0056】
なお、空調制御装置20は、各種電気式アクチュエータを制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、本実施形態では、特に、空調制御装置20のうち電磁式容量制御弁11aの作動を制御するハードウェアおよびソフトウエアの構成を吐出能力制御手段20aとする。
【0057】
空調制御装置20の入力側には、空調用センサ群21〜26および車室内に配置された操作パネル30が接続されており、空調用センサ群21〜26の検出信号および操作パネル30に設けられた各種操作スイッチ31〜33の操作信号等が入力される。
【0058】
空調用センサ群としては、具体的に、外気温Tamを検出する外気温センサ21、内気温Trを検出する内気温センサ22、車室内に入射する日射量Tsを検出する日射センサ23、蒸発器14の熱交換フィン温度Tefを検出する蒸発器温度センサ24、圧縮機11から吐出される吐出冷媒圧力Pdを検出する高圧圧力センサ25、圧縮機11から吐出される冷媒流量Grを検出する流量検出手段である流量センサ26等が設けられる。
【0059】
なお、本実施形態の蒸発器温度センサ24は、蒸発器14から吹き出される送風空気の温度を検出するためのものである。従って、蒸発器温度センサ24の代わりに、蒸発器14から吹き出した空気の温度を直接検出する吹出空気温度検出手段である吹出空気温度センサを用いてもよい。
【0060】
また、流量センサ26は、サイクル内を循環する冷媒流量を検出するもの、すなわち圧縮機11の吐出流量Grを検出するものである。流量センサ26は、圧縮機11の冷媒吐出側通路を形成するハウジング内に設けられている。つまり、流量センサ26は、圧縮機11と一体に構成されて、圧縮機11および流量センサ26の小型化を図っている。
【0061】
さらに、この流量センサ26は、サイクル内を循環する冷媒を通過させる絞り部を有し、この絞り部における圧力損失(差圧)を検出する差圧検出部と、絞り部の下流側冷媒の温度および圧力を検出する温度・圧力検出部とを有し、差圧検出部の検出値(差圧)と温度・圧力検出部の検出値から推定される冷媒密度によって、冷媒流量を検出する差圧式流量センサによって構成されている。
【0062】
操作パネル30の操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置の作動指令信号を出力するエアコンスイッチ31、空調状態の自動制御を要求する自動制御要求信号を出力するオートスイッチ32、冷却対象空間である車室内の目標温度Tsetを設定する目標温度設定手段をなす温度設定スイッチ33等が設けられる。
【0063】
また、空調制御装置20の出力側には、圧縮機11の電磁式容量制御弁11a、冷却ファン12aおよび送風ファン14aの電動モータ、内外気切替ドア16cを駆動するサーボモータ16d、エアミックスドア18を駆動するサーボモータ18aおよび各吹出口を開閉する開閉ドアを駆動するサーボモータ等の電気式アクチュエータが接続され、これらの機器の作動が空調制御装置20の出力信号により制御される。
【0064】
次に、上記構成の本実施形態の作動を図3、4に基づいて説明する。図3、4は、空調制御装置20が実行する制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は、図示しない車両の始動スイッチ(イグニッションスイッチ)の投入状態において、オートスイッチ32が投入(ON)されるとスタートする。
【0065】
まず、図3に示すように、ステップS1ではフラグ、タイマ等の初期化がなされ、次のステップS2にて、センサ群21〜26により検出された検出信号、および、操作パネル30の操作信号を読込む。
【0066】
次に、ステップS3にて、車室内吹出空気の目標吹出温度TAOを算出する。この目標吹出温度TAOは空調熱負荷変動および温度設定スイッチ33により設定した設定温度Tsetに基づいて、下記数式F1により算出される。
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C…(F1)
なお、Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインおよびCは補正用の定数である。
【0067】
次に、ステップS4にて、圧縮機11を除く、各種空調制御機器の制御状態を決定する。すなわち、空調制御装置20の出力側に接続された各種電気式アクチュエータのうち、電磁式容量制御弁11aを除く、送風ファン14aの電動モータ、内外気切替ドア16cのサーボモータ16d、エアミックスドア18のサーボモータ18a、各吹出口を開閉する開閉ドアのサーボモータへ出力される制御信号等が決定される。
【0068】
送風ファン14aの電動モータへ出力される制御信号(制御電圧BLV)については、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置20に記憶された制御マップを参照して、TAOに応じて適切な送風量となるように決定する。
【0069】
具体的には、TAOの極低温域(最大冷房域)および極高温域(最大暖房域)で制御電圧BLVを最大値として、送風量を最大風量とする。TAOが極低温域から中間温度域に向かって上昇、あるいは、TAOが極高温域から中間温度域に向かって低下するに伴って、制御電圧BLVを減少させて送風量を減少させる。また、TAOが所定の中間温度域内に入ると、制御電圧BLVを最小値として、送風量を最小風量とする。
【0070】
内外気切替ドア16cのサーボモータへ出力される制御信号については、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置20に記憶された制御マップを参照して、TAOに応じて適切な空気通路となるように決定する。
【0071】
具体的には、設定温度Tsetに対して内気温Trが所定温度以上に高いとき(冷房高負荷時)に内気モードとし、TAOが低温側から高温側へ上昇するにつれて、全内気モード→内外気混入モード→全外気モードと切り替える。
【0072】
エアミックスドア18のサーボモータへ出力される制御信号については、蒸発器温度センサ24の検出信号、車両走行用エンジンの冷却水の温度に基づいて、エアミックスドア18の目標開度SWを算出して、エアミックスドア18の開度が目標開度SWとなるように制御信号を決定する。
【0073】
各吹出口を開閉する開閉ドアのサーボモータへ出力される制御信号については、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置20に記憶された制御マップを参照して、TAOに応じて適切な吹出口を開閉するように決定する。
【0074】
次に、ステップS5にて、蒸発器14における目標冷媒蒸発温度TEOを決定する。具体的には、目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置20に記憶された図5に示すような制御マップを参照して目標冷媒蒸発温度TEOを決定する。本実施形態では、TAOの増加に伴って、TEOも増加するように決定する。従って、制御ステップS5は、目標蒸発温度決定手段を構成している。
【0075】
なお、図5に示すTEOmnは、蒸発器14への着霜を防止するために設定された目標冷媒蒸発温度TEOの下限値(余裕度)であり、本実施形態では、3℃としている。本発明者の検討によれば、冷媒として二酸化炭素を採用し、超臨界冷凍サイクルを構成する冷凍サイクル装置では、0.5℃≦TEOmn≦5℃とすることが望ましい。より好ましくは、1℃≦TEOmn≦3℃とすればよいことが判っている。
【0076】
次に、ステップS6にて、冷媒側冷房能力Qerが算出される。具体的には、この冷媒側冷房能力Qerは、外気温センサ21により検出された外気温Tam、および、流量センサ26により検出された冷媒流量Grに基づいて、下記数式F2により算出される。
Qer=Gr×Ie…(F2)
なお、Ieは蒸発器14出口側冷媒の出口側エンタルピIeoと蒸発器14入口側冷媒の入口側エンタルピIeiとのエンタルピ差である。このIeの詳細については、図6より説明する。なお、図6、本実施形態の冷凍サイクル装置10の通常運転時における冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【0077】
図6の点Roは、放熱器12出口側の冷媒の状態を示している。この点Roにおける冷媒温度は、一般的に、外気温Tamと略同等となる。従って、本実施形態の圧力制御弁13のように、高圧側冷媒圧力を放熱器12出口側の高圧側冷媒温度により決まる目標高圧に調整することは、高圧側冷媒圧力を外気温Tamにより決まる目標高圧に調整することを意味する。
【0078】
このため、外気温Tamから放熱器出口側の冷媒状態を推定することができ、蒸発器入口側比エンタルピIeiを推定することができる。
【0079】
また、蒸発器14の出口にはアキュムレータ19が接続されており、蒸発器出口の状態が飽和ガス状態となるようにサイクル中の循環冷媒量を調整している。このため、蒸発器温度に相関のある物理量Tefから蒸発器14出口の冷媒状態を推定することができ、同時に蒸発器14出口の比エンタルピを推定することができる。
【0080】
従って、蒸発器14入口の比エンタルピに相関のある物理量(Tam)と蒸発器14出口の比エンタルピに相関のある物理量(Tef)から蒸発器14出口冷媒の出口側比エンタルピIeoと蒸発器14入口側冷媒の入口側比エンタルピIeiを推定できる。
【0081】
そこで、ステップS6では、外気温Tamに基づいて、予め記憶された制御マップを参照して、エンタルピ差Ieを推定し、さらに、このエンタルピ差Ieを上記数式F2へ代入して冷媒側冷房能力Qerを算出している。従って、本実施形態における制御ステップS6は、冷媒側能力算出手段を構成しており、外気温Tamが、エンタルピ差Ieに相関のある物理量となる。
【0082】
次に、ステップS7にて、空気側冷房能力Qeaが算出される。具体的には、この空気側冷房能力Qeaは、内気温センサ22により検出された内気温Tr、外気温センサ21により検出された外気温Tam、蒸発器14における推定冷媒蒸発温度TL、および、送風ファン14aに出力される制御電圧BLVに基づいて、下記数式F3により算出される。
Qea=f(Ta、TL、BLV)…(F3)
なお、Taは、蒸発器14へ送風されて蒸発器14に吸い込まれる吸込空気温度Taである。
【0083】
この吸込空気温度Taは、前述の内外気切替箱16から内気を導入させる場合は、内気温センサ22により検出された内気温Trとなり、外気を導入させる場合は、外気温センサ21により検出された外気温Tamとなる。内気と外気を同時に導入させる場合は、その風量割合によってTrおよびTamから決定される。従って、内気温Trおよび外気温Tamは、蒸発器14吸込側の吸込空気温度Taに相関のある物理量である。
【0084】
また、制御電圧BLVは、送風ファン14aの回転数(送風空気量)の制御に用いられる値であるから、蒸発器14へ送風される送風空気、すなわち、冷却対象空間へ送風される送風空気の送風空気量に相関のある物理量である。
【0085】
そして、ステップS7では、具体的に、制御電圧BLVに基づいて、予め記憶された制御マップを参照して送風空気量を決定し、この送風空気量に、吸込空気温度Taから推定冷媒蒸発温度TLを減算した値Ta−TLと空気比熱および蒸発器14熱交換効率から決定される制御定数とを積算することによって、空気側冷房能力Qeaに算出する。
【0086】
従って、本実施形態における制御ステップS7は、空気側能力算出手段を構成している。なお、ステップS7では、推定蒸発冷媒温度TLを変数としたまま、空気側冷房能力Qeaを算出する。
【0087】
次に、ステップS8では、空気側冷房負荷に変動が生じたか否かが判定される。具体的には、このステップS8では、ステップS4にて決定された制御信号と現在出力されている制御信号との値を比較して、制御電圧BLV(送風ファン14aの送風空気量)が変化したこと、内外気切替ドア16cが風量割合を変更したこと、あるいは、温度設定スイッチ33により設定温度Tsetが変更されたことの少なくとも1つを検出したときに、空気側冷房負荷に変動が生じたものと判定する。
【0088】
従って、本実施形態における制御ステップS8は、負荷変動検出手段を構成している。そして、ステップS8にて空気側冷房負荷に変動が検出された場合は、ステップS9へ進み、圧縮機11の電磁式容量制御弁11aへ出力する制御電流Icをフィードフォワード制御により決定する。
【0089】
一方、ステップS8にて空気側冷房負荷に変動が検出されていない場合は、ステップS10へ進み、フィードフォワード制御を実行することなく、圧縮機11の電磁式容量制御弁11aへ出力する制御電流Icをフィードバック制御により決定する。
【0090】
ステップS9のフィードフォワード制御の内容については、図4のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS91では、ステップS6およびS7にて算出された冷媒側冷房能力Qerおよび空気側冷房能力Qeaに基づいて、推定蒸発冷媒温度TLを推定する。
【0091】
この推定蒸発冷媒温度TLの推定の詳細については、図7により説明する。図7の横軸は蒸発器14における冷媒蒸発温度(冷媒蒸発圧力)を示し、縦軸は冷房能力を示している。さらに、実線は冷媒蒸発温度による冷媒側冷房能力Qerの変化、破線は冷媒蒸発温度による空気側冷房能力Qeaの変化を示している。
【0092】
前述の如く、冷媒側冷房能力Qerは、蒸発器14において冷媒が空気から吸熱する総熱量であり、空気側冷房能力Qeaは、蒸発器14において空気が冷媒に放熱する総熱量である。従って、蒸発器14においては、冷媒側冷房能力Qer=空気側冷房能力Qeaとなるバランス点(等しくなる点)で熱交換が行われることになる。
【0093】
そこで、ステップS91では、以下数式F4を満足する冷媒蒸発温度を推定冷媒蒸発温度TLとして推定する。
Qer=Qea…(F4)
従って、本実施形態における制御ステップS91は、蒸発温度推定手段を構成している。
【0094】
次に、ステップS92では、推定冷媒蒸発温度TLが、ステップS5で決定された目標冷媒蒸発温度TEOとなるために必要な必要冷媒流量Grnを以下数式F5により算出する。
Grn×Ie=f(Ta、TEO、BLV)…(F5)
この数式F5は、数式F4に対して、数式F2のGrをGrnとし、数式F3のTLをTEOとしたものである。
【0095】
次に、ステップS93において、ステップS92で算出された必要冷媒流量Grnとなる制御電流Icを仮決定する。具体的には、ステップS93では、必要冷媒流量Grnに基づいて、予め空調制御装置20に記憶された、図2の特性図から決定される制御マップを参照して制御電流Icを仮決定する。
【0096】
すなわち、ステップS93では、次回ステップS6で推定される推定冷媒蒸発温度TLが目標蒸発温度TEOに近づくように、制御電流Icの値をフィードフォワード制御によって決定している。なお、本実施形態では、このステップS9の次に、ステップS10にて、制御電流Icをフィードバック制御により再度決定(変更)するので、ステップS93では、制御電流Icを仮決定していると表現している。
【0097】
次に、ステップS10では、蒸発器温度センサ24にて検出された熱交換フィンの温度Teと目標冷媒蒸発温度TEOとの偏差En(Te−TEO)を算出し、この偏差Enに基づいて、TeをTEOに近づけるように比例積分制御(PI制御)によるフィードバック制御手法によって、制御電流Icを変更する。
【0098】
つまり、ステップS10では、ステップS8にて空気側冷房負荷に変動が検出された場合は、ステップS9のフィードフォワード制御によって仮決定された制御電流Icを、さらにフィードバック制御により変更し、ステップS8にて空気側冷房負荷に変動が検出されていない場合は、前回出力された制御電流Icをフィードバック制御により変更する。
【0099】
次に、ステップS11では、上記ステップS4、S10にて決定された制御状態が得られるように、空調制御装置20より電気式アクチュエータに対して制御信号が出力される。次のステップS12で制御周期τの間待機し、制御周期τの経過を判定するとステップS2に戻るようになっている。
【0100】
本実施形態では、上記の如く、冷媒側能力算出手段を構成するステップS6において、流量センサ26により検出された冷媒流量Grおよび外気温Tamから推定されるエンタルピ差Ieを用いて、冷媒側冷房能力Qerを算出しているので、冷媒側冷房能力Qerを、より正確に、精度よく算出することができる。
【0101】
また、空気側能力算出手段を構成するステップS7において、外気温Tam、内気温Trから決定される吸込空気温度Taおよび送風ファン14aへ出力される制御電圧BLVから決定される送風空気量を用いて、空気側冷房能力Qeaを算出しているので、空気側冷房能力Qeaについても精度よく算出することができる。
【0102】
これにより、空気側冷房負荷が変動した場合に、図7に示す空気側冷房能力Qeaおよび冷媒側冷房能力Qerのバランス点における推定冷媒蒸発温度TLの推定精度を向上させることができる。
【0103】
さらに、ステップS92にて、この精度よく推定された推定冷媒蒸発温度TLを、目標冷媒蒸発温度TEOに近づけるために必要な必要冷媒流量Grnを算出し、ステップS93にて、次回のステップS6で推定される推定冷媒蒸発温度TLが、目標蒸発温度TEOに近づくように、制御電流Icの値をフィードフォワード制御によって決定している。
【0104】
従って、制御電流Icを速やかに、かつ、適切な量だけ変化させて、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度Teを目標冷媒蒸発温度TEOに近づける際の応答性を十分に向上させることができる。しかも、蒸発器の冷媒蒸発温度Teを必要以上に低下させることを回避して、蒸発器14の着霜を防止することもできる。
【0105】
さらに、制御ステップS8では、空気側冷房負荷に変動が生じたか否かを、具体的に、制御電圧BLVが変化したこと、内外気切替ドア16cが風量割合を変更したこと、あるいは、温度設定スイッチ33により設定温度Tsetが変更されたことの少なくとも1つを検出したときに、空気側冷房負荷に変動が生じたものと判定しているので、確実に空気側冷房負荷の変動を検出できる。
【0106】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態では、実際の蒸発器の冷媒蒸発温度Teを目標冷媒蒸発温度TEOに近づける際の応答性を十分に向上させること、および、蒸発器14の着霜を防止することを同時に行うことができる制御処理について説明しているが、本実施形態では、特に蒸発器14の着霜を防止するための制御処理について説明する。
【0107】
具体的には、第1実施形態に対して、ステップS9のフィードフォワード制御を、図8に示すようにしたものである。つまり、本実施形態のステップS9では、ステップS91にて、推定蒸発冷媒温度TLを推定する。次に、ステップS91’にて推定蒸発冷媒温度TLが目標冷媒蒸発温度TEOよりも小さい場合には、ステップS92、S93へ進み、第1実施形態と同様のフィードフォワード制御を行う。
【0108】
一方、ステップS91’にて推定蒸発冷媒温度TLが目標冷媒蒸発温度TEOよりも小さくなっていない場合は、ステップS10へ進む。その他の制御フローおよび冷凍サイクル装置10の構成は、第1実施形態と同様である。また、図8以降の図面では、第1実施形態に対して同一もしくは均等部分には同一の符号を付している。
【0109】
前述の如く、目標冷媒蒸発温度TEOは、蒸発器14の着霜を防止するためにTEOmn以上の値となる。従って、TEO>TLの場合は、TEOmn>TLとなっている可能性があり、蒸発器14が着霜する恐れがある。
【0110】
これに対して、本実施形態では、TEO>TLの場合に第1実施形態と同様のフィードフォワード制御を行っているので、特に、蒸発器の冷媒蒸発温度Teを必要以上に低下させることを回避して、蒸発器14の着霜を防止することができる。
【0111】
(第3実施形態)
上述の実施形態では、可変容量型の圧縮機11の冷媒吐出能力を変更する吐出能力変更手段を電磁式容量制御弁11aで構成した例を説明したが、本実施形態では、図9に示すように、圧縮機11’を固定容量型圧縮機とし、吐出能力変更手段を圧縮機11’を駆動する電動モータ11bで構成した例を説明する。なお、圧縮機11’としては、スクロール型圧縮機、ベーン型圧縮機等の各種圧縮機構を採用できる。
【0112】
本実施形態の圧縮機11’と電動モータ11bは同一のハウジング内に収容されて、いわゆる電動圧縮機として一体に構成されている。さらに、本実施形態では、流量センサ26を廃止して、圧縮機11’(電動モータ11b)の回転数Ncを検出する回転数センサ27を上記ハウジング内に設けている。
【0113】
さらに、本実施形態では、ステップS6の冷媒側冷房能力Qerの算出時に、冷媒流量Grとして、下記数式F6にて算出されるGrを用いる。
Gr=ηv×Nc×Vc×ρ…(F6)
なお、ηvは圧縮機11’の体積効率であり、Vcは圧縮機11の1回転当たりの吐出容量であり、ρは圧縮機11’に吸入される冷媒密度である。
【0114】
ここで、圧縮機11’に吸入される冷媒密度は、圧縮機11’吸入冷媒温度および吸入冷媒圧力によって決定される。さらに、吸入冷媒温度は、蒸発器14の冷媒蒸発温度にほぼ等しい値となるので、冷媒密度ρは、蒸発器14の推定冷媒蒸発温度TLの関数で表すことができる。
【0115】
従って、本実施形態では、回転数センサ27が、流量検出手段を構成する。なお、本実施形態のステップS6では、推定蒸発冷媒温度TLを変数としたまま、冷媒側冷房能力Qerを算出している。
【0116】
さらに、本実施形態のステップS91では、上記数式F6から算出されたQerを用いて、上記数式F4を満足する冷媒蒸発温度を推定冷媒蒸発温度TLとして推定する。また、ステップS93、S10では、電動モータ11bの回転数制御信号を決定する。その他の構成および制御フローは第1実施形態と同様である。
【0117】
上記の如く、回転数Ncを用いて冷媒流量Grを算出しても、冷媒側冷房能力Qerを精度よく算出できるので、第1実施形態と同様に、推定冷媒蒸発温度TLの推定精度を向上させることができる。その結果、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0118】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、以下のように種々変形可能である。
【0119】
(1)上述の実施形態では、ステップS8にて、制御電圧BLV(送風ファン14aの送風空気量)が変化したこと、内外気切替ドア16cが風量割合を変更したこと、あるいは、温度設定スイッチ33により設定温度Tsetが変更されたことの少なくとも1つを検出したときに、空気側冷房負荷に変動が生じたものと判定しているが、もちろん、上記のいずれか1つを検出したときに空気側冷房負荷に変動が生じたものと判定してもよい。
【0120】
さらに、上述の実施形態の如く、目標吹出温度TAOに基づいて、制御電圧BLV、内外気切替ドア16cへ出力する制御信号を変更する場合は、このTAOの変化が生じたときに、空気側冷房負荷に変動が生じたものと判定してもよい。
【0121】
(2)上述の第2実施形態では、TEO>TLの時にステップS92、S93へ進み、フィードフォワード制御を実行しているが、フィードフォワード制御の実行条件はこれに限定されない。例えば、目標冷媒蒸発温度TEOと推定冷媒蒸発温度TLとの偏差(TEO−TL)の絶対値が予め定めた値以上になったときに、フィードフォワード制御を実行するようにしてもよい。
【0122】
(3)上述の実施形態の冷凍サイクル装置10に対して、放熱器12出口側冷媒と圧縮機11吸入側冷媒とを熱交換をさせる内部熱交換器を設けてもよい。これにより、蒸発器14における入口側冷媒と出口側冷媒とのエンタルピ差(冷凍能力)を増大することができる。
【0123】
(4)上述の実施形態では、流量センサ26として差圧式流量センサを採用した例を説明しているが、流量センサ26の形式はこれに限定されない。例えば、熱線式流量センサのような、質量流量センサを採用してもよい。
【0124】
(5)上述の実施形態では、本発明の冷凍サイクル装置10を車両用空調装置に適用した例を説明しているが、本発明の適用はこれに限定されない。例えば、業務用冷蔵冷凍装置、家庭用冷蔵庫等に適用してもよい。また、冷媒も二酸化炭素に限定されることなく、フロン系冷媒、HC系冷媒を採用してもよい。
【0125】
(6)上述の実施形態では、放熱器12を冷媒と外気とを熱交換させる室外側熱交換器とし、蒸発器14を室内側熱交換器として車室内の冷却用に適用しているが、蒸発器14を外気等の熱源から吸熱する室外側熱交換器として構成し、放熱器12を空気あるいは水等の被加熱流体を加熱する室内側熱交換器として構成するヒートポンプサイクルに本発明を適用してもよい。
【0126】
(7)上述の実施形態では、空気側負荷変動が有った場合、ステップS9のフィードフォワード制御の後に、ステップS10のフィードバック制御を行うようにしているが、ステップS9から直接ステップS11に進み、空調制御装置20から電気式アクチュエータに対して制御信号を出力するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置に適用された冷凍サイクル装置の全体構成図である。
【図2】第1実施形態の制御電流と圧縮機吐出冷媒流量との関係を示す特性図である。
【図3】第1実施形態の車両用空調装置の制御の示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態の車両用空調装置の制御の要部を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態の目標冷媒蒸発温度TEOを決定するための特性図である。
【図6】第1実施形態の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図7】第1実施形態の冷媒側冷房能力および空気側冷房能力の変化を示すグラフである。
【図8】第2実施形態の車両用空調装置の制御の要部を示すフローチャートである。
【図9】第3実施形態の車両用空調装置に適用された冷凍サイクル装置の全体構成図である。
【符号の説明】
【0128】
11、11’…圧縮機、11a…電磁式容量制御弁、11b…電動モータ、
12…放熱器、13…圧力制御弁、14…蒸発器、内外気切替ドア…16c、
20a…吐出能力制御手段、26…流量センサ、33…温度設定スイッチ、
S5…目標蒸発温度決定手段、S6…冷媒側能力算出手段、S7…空気側能力算出手段、
S8…負荷変動判定手段、S91…蒸発温度推定手段
Gr…冷媒流量、TEO…目標冷媒蒸発温度、Qer…冷媒側冷房能力、
Qea…空気側冷房能力、TL…推定冷媒蒸発温度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11、11’)と、
前記圧縮機(11、11’)から吐出された冷媒を放熱させる放熱器(12)と、
前記放熱器(12)にて放熱された冷媒を減圧膨張させる減圧手段(13)と、
前記減圧手段(13)にて減圧膨張された冷媒を蒸発させて、冷却対象空間へ送風される送風空気を冷却する蒸発器(14)と、
前記圧縮機(11、11’)の冷媒吐出能力を変更する吐出能力変更手段(11a、11b)と、
前記吐出能力変更手段(11a、11b)の作動を制御する吐出能力制御手段(20a)と、
サイクル内を循環する冷媒流量(Gr)に相関を有する物理量を検出する流量検出手段(26)と、
前記蒸発器(14)における目標冷媒蒸発温度(TEO)を決定する目標蒸発温度決定手段(S5)と、
空気側冷房負荷に変動が生じたことを判定する負荷変動判定手段(S8)と、
冷媒側冷房能力(Qer)を算出する冷媒側能力算出手段(S6)と、
空気側冷房能力(Qea)を算出する空気側能力算出手段(S7)と、
前記空気側冷房能力(Qea)および前記冷媒側冷房能力(Qer)が等しくなる前記蒸発器(14)の冷媒蒸発温度を推定冷媒蒸発温度(TL)とする蒸発温度推定手段(S91)とを備え、
前記冷媒側能力算出手段(S6)は、少なくとも前記流量検出手段(26)の検出値(Gr)を用いて前記冷媒側冷房能力(Qer)を算出し、
前記吐出能力制御手段(20a)は、前記空気側冷房負荷の変動が検出された際に、前記推定冷媒蒸発温度(TL)を前記目標冷媒蒸発温度(TEO)に近づけるように、前記吐出能力変更手段(11a、11b)の作動をフィードフォワード制御することを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記負荷変動判定手段(S8)は、前記送風空気の送風空気量が変化したときに、前記空気側冷房負荷が変動したと判定することを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記送風空気は、前記冷却対象空間内の空気および前記冷却対象空間外の空気のうち、少なくとも一方の空気を含んでおり、
さらに、前記送風空気における前記冷却対象空間内の空気の風量と前記冷却対象空間外の空気の風量との風量割合を変化させる風量割合変更手段(16c)を備え、
前記負荷変動判定手段(S8)は、前記風量割合変更手段(16c)が前記風量割合を変化させたときに、前記空気側冷房負荷が変動したと判定することを特徴とする請求項1または2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
さらに、前記冷却対象空間の目標温度(Tset)を設定する目標温度設定手段(33)を備え、
前記負荷変動判定手段(S8)は、前記目標温度(Tset)が変更されたときに、前記空気側冷房負荷の変動を判定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記空気側能力算出手段(S7)は、前記蒸発器(14)吸込側における前記送風空気の吸込空気温度(Ta)に相関のある物理量(Tam、Tr)、前記送風空気の送風空気量に相関のある物理量(BLV)、および、前記蒸発器(14)における冷媒蒸発温度に相関のある物理量(Tef)のうち、少なくとも1つを用いて空気側冷房能力(Qea)を算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記冷媒側能力算出手段(S6)は、さらに、前記蒸発器(14)出口側冷媒の出口側比エンタルピ(Ieo)と前記蒸発器(14)入口側冷媒の入口側比エンタルピ(Iei)とのエンタルピ差(Ie)に相関のある物理量(Tam、Tef)のうち、少なくとも1つを用いて冷媒側冷房能力(Qer)を算出することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記減圧手段は、高圧側冷媒圧力を前記放熱器(12)下流側の高圧側冷媒温度に応じて決定される目標高圧に近づけるように、弁開度が調整される圧力制御弁(13)であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項8】
前記圧縮機は、吐出容量を変更可能に構成された可変容量型圧縮機(11)であり、
前記吐出能力変更手段は、前記吐出容量を変更する容量制御弁(11a)であり、
前記流量検出手段は、サイクル内を循環する冷媒流量(Gr)を検出する流量センサ(26)で構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項9】
前記圧縮機は、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機(11’)であり、
前記吐出能力変更手段は、前記固定容量型圧縮機(11’)を回転駆動する電動モータ(11b)であり、
前記流量検出手段は、前記固定容量型圧縮機(11’)の回転数を検出する回転数検出手段(27)を含んで構成されていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項10】
前記流量検出手段(26、27)の少なくとも一部は、前記圧縮機(11、11’)と一体に構成されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項11】
前記圧縮機(11、11’)は、前記冷媒を臨界圧力以上となるまで昇圧することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項12】
前記冷媒は二酸化炭素であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−97772(P2009−97772A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268765(P2007−268765)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】