説明

冷凍サイクル装置

【課題】炭素の二重結合を有する物質を冷媒として使用する冷凍サイクル中に水分子が混入しても、飽和水分量の高い冷凍機油の分子間力により、水分子の冷媒への触媒作用を抑制し、冷媒の分解を抑制することができる冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明に係る冷凍サイクル装置は、設置時に室外機41と室内機42の冷媒配管を接続して冷凍サイクルを形成する冷凍サイクル装置において、冷媒に組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物を用い、圧縮機43に水分含有量が所定値以下に管理された飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油を封入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物のいずれかを冷媒に使用する冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーエアコンの分野では、低GWP(地球温暖化係数)冷媒として、現状HFO−1234yf(CFCF=CH)が有力視されている。
【0003】
定置式の冷凍サイクル装置(例えば、空気調和機)では、HFC冷媒の代替策が見えないのが現状ではあるが、炭素の二重結合を有する炭化水素やHFCをベースにして不燃化したもの(例えば二重結合を有する化合物や臭素やヨウ素や酸素などを組み合わせたもの)等が提案されている。
【0004】
密閉容器内に、塩素とフッ素を含まない炭化水素系化合物の冷媒を圧縮する圧縮機およびこの圧縮機を駆動する電動機と、この冷媒と相溶性を有する冷凍機油とを収容する密閉型冷媒圧縮機において、5wt%以内の内部離型剤を含有し、あるいは射出成形もしくは押し出し成形時の成形型に離型剤を塗布して製造された直鎖型のPPS樹脂、レゾール型のフェノール樹脂、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、FEP、PFA)、PA樹脂、PI樹脂、PBT樹脂、PET樹脂、の群から選択される少なくとも1種類よりなる絶縁用構成部材および摺動部材の少なくとも一方を具備し、炭化水素系化合物の冷媒は、R170(エタン)、R290(プロパン)、R600(n−ブタン)、R600a(I−ブタン)、R1150(エチレン)、R1270(プロピレン)の群から選択される1種類以上の冷媒からなる密閉形電動圧縮機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、圧縮機をGWP150以下の低GWP冷媒に適合させることにより、地球温暖化への影響を十分抑制するために、軟質基材に硬質粒子が分散している材料で摺動部材を構成するとともに、摺動部材の表層部に傾斜層を設けて表面を軟質基材リッチにしたことにより、油膜形成能力が高くなり、GWPが150以下でR134aより極性が高い冷媒雰囲気における摺動部材の摩耗を十分抑制することができるので、低GWP冷媒用の圧縮機が得られる。また、冷媒としては、R134aより極性が高くかつGWPが150以下であればよく、HFCをベースにして不燃化したもの、例えば二重結合を有する化合物や臭素やヨウ素や酸素などを組み合わせたものでもよい。また、混合冷媒で、少なくとも一つがR134aより極性が高いものを含むものであってもよいということが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−274360号公報
【特許文献2】特開2008−2368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭素の二重結合を有する物質は、安定性に課題があり、分解及び重合の可能性がある。
【0007】
炭素の二重結合を有する物質を冷媒とし、圧縮機、室外熱交換器、減圧機構等を有する室外機と、室内熱交換器等を有する室内機とを備え、設置時に室外機と室内機の冷媒配管を接続して冷凍サイクルを形成する冷凍サイクル装置では、設置時に冷媒配管から雨などの水分が冷凍サイクルに浸入すると、水分が触媒となり炭素の二重結合を有する物質である冷媒が分解する懸念があり、これを抑制する対策が必要である。
【0008】
また、上記冷凍サイクル装置に使用される圧縮機が容積式の場合、圧縮機構の摺動部において炭素の二重結合を有する物質の分解及び重合の懸念があり、これらを抑制する対策が必要である。
【0009】
上記特許文献1、2では、これらの点に関する言及は見当たらない。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、炭素の二重結合を有する物質を冷媒として使用する冷凍サイクル中に水分子が混入しても、飽和水分量の高い冷凍機油の分子間力により、水分子の冷媒への触媒作用を抑制し、冷媒の分解を抑制することができる冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、容積式の圧縮機の圧縮機構における摺動部の金属が、炭素の二重結合を有する物質の分解及び重合の触媒となることを抑制することができる冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る冷凍サイクル装置は、圧縮機、四方弁、室外熱交換器、減圧機構等を有する室外機と、室内熱交換器等を有する室内機とを備え、設置時に前記室外機と前記室内機の冷媒配管を接続して冷凍サイクルを形成する冷凍サイクル装置において、
前記冷媒に、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物を用い、
前記圧縮機に、水分含有量が所定値以下に管理された飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油を封入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るロータリ圧縮機は、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物である冷媒を使用する場合においても、圧縮機に水分含有量が所定値以下に管理された飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油を封入したので、冷凍サイクル中に水分子が混入しても、飽和水分量の高い冷凍機油の分子間力により、水分子の冷媒への触媒作用を抑制し、冷媒の分解を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
実施の形態1.
先ず、この実施の形態で対象とする冷媒について説明する。この実施の形態で対象とする冷媒は、以下に示すものである。
(1)組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素:例えば、カーエアコンの分野で低GWP(地球温暖化係数)冷媒として有力視されているHFO−1234yf(CFCF=CH)である。HFOは、Hydro−Fluoro−Olefinの略で、Olefinは、二重結合を一つ持つ不飽和炭化水素のことである。尚、HFO−1234yfのGWPは4である。
(2)組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素:例えば、R1270(プロピレン)である。尚、GWPは3で、HFO−1234yfより小さいが、可燃性はHFO−1234yfより大きい。
(3)組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物:例えば、HFO−1234yfとR32との混合物等である。HFO−1234yfは、低圧冷媒のため圧損が大きくなり、冷凍サイクル(特に、蒸発器において)の性能が低下しやすい。そのため、HFO−1234yfより高圧冷媒であるR32又はR41等との混合物が実用上は有力になる。
【0015】
組成中に炭素の二重結合を有する物質は、安定性に課題があり分解及び重合の可能性があることは既に述べたが、HFO−1234yfを例に、もう少し説明する。
【0016】
二重結合を有する物質は、分解及び重合の可能性があり、一般的に重合の条件となるのは、高温・高圧や触媒である。炭化水素に比べ、水素に代わるフッ素数の割合が多いものの方が、容易に重合する可能性がある。例えば、ロイ・J・プランケット(Roy J. Plunkett、1910年6月26日−1994年5月12日、米国の化学者)は、1938年にテトラフルオロエチレン(エチレンの水素4個がフッ素に全て置き換わったもの)がボンベ内で自然に重合反応を起こし、偶然にフッ素樹脂が生成していることを発見した。
【0017】
HFO−1234yfは、プロピレンの6個の水素の中、4個がフッ素に置き換わったものであり、メカノケミカル反応等で、重合する可能性がかなり高いと考えられる。メカノケミカル反応とは、対象物質に衝撃や摩擦という機械的エネルギーを与えることにより、対象物質が活性化されて(メカノケミカル活性)、起こる化学反応である。
【0018】
以下、冷凍サイクル装置の一例である空気調和機の構成を説明する。
【0019】
図1は実施の形態1を示す図で、空気調和機の冷媒回路図である。図1に示すように、空気調和機は室外機41と、室内機42とを備える。
【0020】
室外機41は、冷媒を圧縮する圧縮機43と、冷媒流路を切替る四方弁44、室外熱交換器45、冷媒の流量を制御する電子膨張弁46(減圧機構の一例)を備える。室外熱交換器45は、室外送風機45aを有する。
【0021】
冷媒には、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物のいずれかを用いる。
【0022】
冷媒を圧縮する圧縮機43には、容積式圧縮機を用いる。容積式圧縮機は、例えば、ロータリ圧縮機、スクロール圧縮機、スクリュー圧縮機、往復圧縮機等である。そして、圧縮機43はインバータ回路により回転数が制御され容量制御されるタイプである。
【0023】
室内機42は、室内熱交換器48を備える。室内熱交換器48は、室内送風機48aを有する。
【0024】
室外機41、室内機42は冷媒流路である液管47及びガス管49で接続され冷凍サイクルを構成する。
【0025】
図1において、室内熱交換器48から冷熱を供給する冷熱供給モード(冷房運転)では、四方弁44は実線の流路となり、室内熱交換器48から温熱を供給する温熱供給モード(暖房運転)では、四方弁44は点線の流路に切り換えられる。
【0026】
従って冷熱供給モードでは、圧縮機43、四方弁44、室外熱交換器45、電子膨張弁46、液管47、室内熱交換器48、ガス管49、圧縮機43がこの順序で環状に接続される。
【0027】
温熱供給モードでは、圧縮機43、四方弁44、ガス管49、室内熱交換器48、液管47、電子膨張弁46、室外熱交換器45、圧縮機43がこの順序で環状に接続される。
【0028】
電子膨張弁46は絞り開度が可変な構造となっている。
【0029】
室外熱交換器45は室外送風機45aによって搬送される室外機41周囲の空気と熱交換を行う。
【0030】
室内熱交換器48は室内送風機48aによって搬送される室内機42周囲の空気と熱交換を行い、室内空間の冷却・加熱を行うことで冷暖房を実現する。
【0031】
液管47及びガス管49は、工場出荷時は別部品として出荷される。空気調和機の据え付け時に、現地にて液管47及びガス管49は、室外機41及び室内機42に接続される。
【0032】
従って、空気調和機の据え付け時の液管47及びガス管49の室外機41及び室内機42への接続作業において、雨等の水が冷媒回路(冷凍サイクル)に混入する可能性がある。
【0033】
次に、容積式圧縮機について、ロータリ圧縮機を例に説明する。
【0034】
図2、図3は実施の形態1を示す図で、図2はロータリ圧縮機200の縦断面図、図3は図2のA−A断面図である。
【0035】
本実施の形態は、ロータリ圧縮機200に封入される冷凍機油30と、各摺動部の構成に特徴がある。従って、ロータリ圧縮機200の全体構成は公知のものであるから、簡単に説明する。
【0036】
図1に示すロータリ圧縮機200の一例は、密閉容器20内が高圧の縦型のものである。密閉容器20内の下部に圧縮要素101が収納される。密閉容器20内の上部で、圧縮要素101の上方に圧縮要素101を駆動する電動要素102が収納される。
【0037】
密閉容器20内の底部に、圧縮要素101(圧縮機構)の各摺動部を潤滑する冷凍機油30が貯留されている。
【0038】
先ず、圧縮要素101の構成を説明する。内部に圧縮室が形成されるシリンダ1は、外周が平面視略円形で、内部に平面視略円形の空間であるシリンダ室1bを備える。シリンダ室1bは、軸方向両端が開口している。シリンダ1は、側面視で所定の軸方向の高さを持つ。
【0039】
シリンダ1の平面視略円形の空間であるシリンダ室1bに連通し、半径方向に延びる平行なベーン溝1aが軸方向に貫通して設けられる。
【0040】
また、ベーン溝1aの背面(外側)に、ベーン溝1aに連通する平面視略円形の空間である背圧室1cが設けられる。
【0041】
シリンダ1には、冷凍サイクルからの吸入ガスが通る吸入ポート(図示せず)が、シリンダ1の外周面からシリンダ室1bに貫通している。
【0042】
シリンダ1には、平面視略円形の空間であるシリンダ室1bを形成する円の縁部付近(電動要素102側の端面)を切り欠いた吐出ポート(図示せず)が設けられる。
【0043】
シリンダ1の材質は、ねずみ鋳鉄、焼結、炭素鋼等である。
【0044】
ローリングピストン2が、シリンダ室1b内を偏心回転する。ローリングピストン2はリング状で、ローリングピストン2の内周がクランク軸6の偏心軸部6aに摺動自在に嵌合する。
【0045】
ローリングピストン2の外周と、シリンダ1のシリンダ室1bの内壁との間は、常に一定の隙間があるように組立られる。
【0046】
ローリングピストン2の材質は、クロム等を含有した合金鋼等である。
【0047】
ベーン3がシリンダ1のベーン溝1a内に収納され、背圧室1cに設けられるベーンスプリング8でベーン3が常にローリングピストン2に押し付けられている。ロータリ圧縮機200は、密閉容器20内が高圧であるから、運転を開始するとベーン3の背面(背圧室1c側)に密閉容器20内の高圧とシリンダ室1bの圧力との差圧による力が作用するので、ベーンスプリング8は主にロータリ圧縮機200の起動時(密閉容器20内とシリンダ室1bの圧力に差がない状態)に、ベーン3をローリングピストン2に押し付ける目的で使用される。
【0048】
ベーン3の形状は、平たい(周方向の厚さが、径方向及び軸方向の長さよりも小さい)略直方体である。
【0049】
ベーン3の材料には、高速度工具鋼や、ステンレス鋼等が主に用いられている。
【0050】
主軸受け4は、クランク軸6の主軸部6b(偏心軸部6aより上の部分)に摺動自在に嵌合するとともに、シリンダ1のシリンダ室1b(ベーン溝1aも含む)の一方の端面(電動要素102側)を閉塞する。
【0051】
主軸受け4は、吐出弁(図示せず)を備える。但し、主軸受け4、副軸受け5のいずれか一方、または、両方に付く場合もある。
【0052】
主軸受け4は、側面視略逆T字状である。
【0053】
副軸受け5が、クランク軸6お副軸部6c(偏心軸部6aより下の部分)に摺動自在に嵌合するとともに、シリンダ1のシリンダ室1b(ベーン溝1aも含む)の他方の端面(冷凍機油30側)を閉塞する。
【0054】
副軸受け5は、側面視略T字状である。
【0055】
主軸受け4、副軸受け5の材質は、シリンダ1の材質と同じで、ねずみ鋳鉄、焼結、炭素鋼等である。
【0056】
主軸受け4には、その外側(電動要素102側)に吐出マフラ7が取り付けられる。主軸受け4の吐出弁から吐出される高温・高圧の吐出ガスは、一端吐出マフラ7に入り、その後吐出マフラ7から密閉容器20内に放出される。但し、副軸受け5側に吐出マフラ7を持つ場合もある。
【0057】
密閉容器20の横に、冷凍サイクルからの低圧の冷媒ガスを吸入し、液冷媒が戻る場合に液冷媒が直接シリンダ1のシリンダ室に吸入されるのを抑制する吸入マフラ21が設けられる。吸入マフラ21は、シリンダ1の吸入ポートに吸入管22を介して接続する。吸入マフラ21本体は、溶接等により密閉容器20の側面に固定される。
【0058】
次に、電動要素102の構成を説明する。電動要素102には、ブラシレスDCモータが使用されるが、誘導電動機の場合もある。
【0059】
電動要素102は、固定子12と回転子13とを備える。固定子12は密閉容器20の内周面に嵌合して固定され、固定子12の内側に空隙を介して回転子13が配置される。
【0060】
固定子12は、板厚が0.1〜1.5mmの電磁鋼板を所定の形状に打ち抜き、所定枚数軸方向に積層し、カシメや溶接等により固定して製作される固定子鉄心12aと、固定子鉄心12aの複数のティース部(図示せず)に集中巻線方式で巻回される三相の巻線12bとを備える。巻線12bは、絶縁部材12cを介してティース部に巻回される。巻線12bの材料は、AI(アミドイミド)/EI(エステルイミド)等の被膜を施した銅線である絶縁部材12cとしては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化))、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、フェノール樹脂等が主に用いられている。
【0061】
巻線12bは、固定子鉄心12aの軸方向両端(図1では軸方向上下端部)から、一部が突出している。この突出している部分を、コイルエンドという。図1で符号(12b)が指している部分が、巻線12bの一方(反圧縮要素101側)のコイルエンドである。リード線23は、絶縁部材12cに取り付けられる端子(図示せず)に接続される。
【0062】
固定子鉄心12aの外周には、略等間隔に配置される切欠き(図示せず)が複数箇所に設けられている。この切欠きは吐出マフラ7から密閉容器20内へ放出される吐出ガスの通路の一つであり、また、冷凍機油30が電動要素102の上から密閉容器20底部に戻る通路にもなる。
【0063】
固定子12の内側に空隙(通常0.3〜0.5mm程度)を介して配置される回転子13は、固定子鉄心12aと同様、板厚が0.1〜1.5mmの電磁鋼板を所定の形状に打ち抜き、所定枚数軸方向に積層し、カシメや溶接等により固定して製作される回転子鉄心13aと、回転子鉄心13aに形成される永久磁石挿入孔(図示せず)に挿入される永久磁石(図示せず)とを備える。永久磁石には、フェライトや希土類のマグネットを使用している。
【0064】
永久磁石挿入孔に挿入される永久磁石が軸方向に抜けないようにするために、回転子13の軸方向両端(図1では軸方向上下端部)に端板が設けられる。回転子13の軸方向上端部に上端板13b、回転子13の軸方向下端部に下端板13cが設けられる。
【0065】
上端板13bと下端板13cは、回転バランサーを兼ねる。上端板13bと下端板13cは、複数の固定用リベット(図示せず)等にて一体にかしめて固定されている。
【0066】
回転子鉄心13aには、吐出ガスのガス流路となる略軸方向に貫通する貫通孔(図示せず)が複数開けられている。
【0067】
密閉容器20には、電力の供給源である電源に接続する端子24(ガラス端子という)が、溶接により固定されている。図1の例では、密閉容器20の上面に端子24が設けられる。端子24には、電動要素102からのリード線23が接続される。
【0068】
密閉容器20の上面に、両端が開口した吐出管25が嵌挿されている。圧縮要素101から吐出される吐出ガスは、密閉容器20内から吐出管25を通って外部の冷凍サイクルへ吐出される。
【0069】
尚、電動要素102が誘導電動機で構成される場合には、板厚が0.1〜1.5mmの電磁鋼板を所定の形状に打ち抜き、所定枚数軸方向に積層し、カシメや溶接等により固定して製作される回転子鉄心13aと、回転子鉄心13aに形成されるスロットにアルミニウムや銅で構成される導体が充填または挿入され、その導体の両端をエンドリングで短絡したかご形巻線とを備える。
【0070】
密閉容器20内の底部に貯留される冷凍機油30には、水分含有量が50ppm以下に管理されたPVE(ポリビニールエーテル)が使用される。
【0071】
PVEは、飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油30である。
【0072】
また、冷凍機油30は、加水分解する分子構造を有していない。
【0073】
加水分解とは、反応物と水が反応し、生成物に分解する反応で、このとき水は生成物にH(プロトン成分)とOH(水酸化物成分)とに分割して取り込まれる。
【0074】
冷凍サイクル中に水分子が混入しても、飽和水分量が2000ppm以上のPVEの分子間力により、水分子の冷媒への触媒作用を抑制し、冷媒の分解を抑制することができる。
【0075】
PVE以外に、PAG(ポリアルキレングリコール)も上記条件を満たすので、使用可能である。
【0076】
ロータリ圧縮機200の一般的な動作について説明する。端子24、リード線23から電動要素102の固定子12に電力が供給されることにより、回転子13が回転する。すると回転子13に固定されたクランク軸6が回転し、それに伴いローリングピストン2はシリンダ1のシリンダ室1b内で偏心回転する。シリンダ1のシリンダ室1bとローリングピストン2との間の空間は、ベーン3によって2分割されている。クランク軸6の回転に伴い、それらの2つの空間の容積が変化し、片側はだんだん容積が広がることにより吸入マフラ21より冷媒を吸入し、他側は容積が除々に縮小することにより、中の冷媒ガスが圧縮される。圧縮された吐出ガスは、吐出マフラ7から密閉容器20内に一度吐出され、更に電動要素102を通過して密閉容器20の上面にある吐出管25より密閉容器20外へ吐出される。
【0077】
電動要素102を通過する吐出ガスは、電動要素102の回転子13の貫通孔、固定子鉄心12aのスロットオープニング(図示せず、スロット開口部ともいう)含む空隙、固定子鉄心12aの外周に配置された切欠き等を通る。
【0078】
ロータリ圧縮機200が上記運転動作を行う場合、部品同士が摺動する摺動部が以下に示すように複数ある。
(1)第1の摺動部:ローリングピストン2の外周2aとベーン3の先端3a(内側);
(2)第2の摺動部:シリンダ1のベーン溝1aとベーン3の側面部3b(両側面);
(3)第3の摺動部:ローリングピストン2の内周2bとクランク軸6の偏心軸部6a;
(4)第4の摺動部:主軸受け4の内周とクランク軸6の主軸部6b;
(5)第5の摺動部:副軸受け5の内周とクランク軸6の副軸部6c。
【0079】
圧縮要素101に設けられる、摺動部を構成する部品をまとめる。
(1)シリンダ1;
(2)ローリングピストン2;
(3)ベーン3;
(4)主軸受け4;
(5)副軸受け5;
(6)クランク軸6。
【0080】
また、図示しないが、駆動軸が駆動されると、ローリングピストン2に一体に設けたベーン3の突出先端部が支持体の受入溝に沿って出入すると同時に、支持体が旋回する。つまり、ベーン3は、ローリングピストン2の公転にしたがって揺動しながら径方向へ進退動することによって、シリンダ室1bの内部を常に圧縮室と吸入室とに区画するスイング式のロータリ圧縮機がある。
【0081】
このスイング式のロータリ圧縮機では、ベーン3の突出先端部と支持体の受入溝とが摺動部となる。
【0082】
また、シリンダ1の吸入口と吐出口との中間部に、円筒形の筒状保持孔が形成され、この保持孔には、横断面が半円形状の2つの半円柱状部材で構成する支持体が回転自在に嵌合しているので、筒状支持体の外周面とシリンダの筒状保持孔とが他の摺動部となる。
【0083】
本実施の形態は、冷媒として組成中に炭素の二重結合を有するものを使用するため、従来の冷媒と比べて冷媒の化学反応が起こりやすい。これを防止するため、上述の各摺動部において、高温条件や反応触媒を生成しやすい金属同士の直接的な接触を避ける構成をとっている。
【0084】
先ず、第1の摺動部であるローリングピストン2の外周とベーン3の先端3aにおいては、ベーン3の表面に炭素系のDLC−Si(ダイヤモンドライクカーボン−シリコン)コーティング(非金属の一例)を施した構成となっている。このため、ローリングピストン2の外周とベーン3の先端3aとの間の摺動は金属同士の直接的な接触を避けることができ、高温条件となりにくく、また金属表面も活性化されにくいので、冷媒の分解や重合を抑制することができる。
【0085】
DLC−Siコーティングは、シリコンを含有したアモルファスカーボンであり、表層硬度は2000〜2500Hmv、膜厚さは3±1μmである。
【0086】
第2の摺動部であるシリンダ1のベーン溝1aとベーン3の側面部3bにおいても、上述のベーン3の表面にDLC−Siコーティングを施すことにより、金属同士の直接的な接触を避けることができ、高温条件となりにくく、また金属表面も活性化されにくいので、冷媒の分解や重合を抑制することができる。
【0087】
第3の摺動部であるローリングピストン2の内周2bとクランク軸6の偏心軸部6aにおいては、クランク軸6の表面にリン酸マンガン皮膜(非金属の一例)を形成することで、金属同士の直接的な接触を避けることができ、高温条件となりにくく、また金属表面も活性化されにくいので、冷媒の分解や重合を抑制することができる。尚、ローリングピストン2の内周2bにリン酸マンガン皮膜を形成してもよい。
【0088】
第4の摺動部である主軸受け4の内周とクランク軸6の主軸部6b及び第5の摺動部である副軸受け5の内周とクランク軸6の副軸部6cにおいても、クランク軸6の表面にリン酸マンガン皮膜を形成することで、金属同士の直接的な接触を避けることができ、高温条件となりにくく、また金属表面も活性化されにくいので、冷媒の分解や重合を抑制することができる。尚、主軸受け4及び副軸受け5の内周にリン酸マンガン皮膜を形成してもよい。
【0089】
上記のように構成することで、ロータリ圧縮機200内の全ての摺動部において、金属同士の直接的な接触を防止し、圧縮要素101の部品として用いられている鉄系材料が、組成中に炭素の二重結合を有する冷媒の重合や分解の触媒として働くことを防止することができるため、スラッジを生成しにくく、ロータリ圧縮機200の故障や冷凍回路内の詰まりを抑制し、長期にわたる信頼性を得ることが可能となる。
【0090】
ベーン3に施すコーティングとしては、DLC−Siコーティング以外に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、CrN(窒化クロム)、TiN(窒化チタン)、TiCN(炭窒化チタン)、TiAlN(窒化チタンアルミ)、WC/C、VC等を用いてもよく、ベーンの摺動面に金属が露出しないため、これらのコーティングにおいても同様の効果がある。
【0091】
また、ベーン3においては、上述のように金属の表面を非金属のコーティングで覆う方法のほかに、ベーン3そのものをセラミック系の材料とする方法もある。材質としては、SiC(シリコンカーバイド)、ZrO(二酸化ジルコニウム)、Al(酸化アルミニウム)、Si(窒化ケイ素)等があり、これらを用いることで、ベーン3の摺動面に金属が露出しないため、同様の効果を得ることができる。
【0092】
ベーン3の表面に金属面を露出しない方法を示したが、ローリングピストン2の外周2aにおいて同様の方法を実施してもよい。ローリングピストン2の外周2aを含む表面にDLC−Si,DLC、CrN、TiN、TiCN、TiAlN、WC/C、VC等のコーティングを施すことにより、ローリングピストン2の外周2aの摺動面に金属が露出しないため、同様の効果がある。
【0093】
また、ローリングピストン2においても、金属の表面を非金属系のコーティングで覆う方法だけでなく、ローリングピストン2の材質そのものをセラミック系の材料とする方法もある。材質としては、SiC、ZrO、Al、Si等が適用可能であり、ローリングピストン2の外周2aの摺動面に金属が露出しないため、同様の効果がある。
【0094】
第2の摺動部であるシリンダ1のベーン溝1aとベーン3の側面部3bにおけるその他の例を示す。上述した、ベーン3にDLC、CrN、TiN、TiCN、TiAlN、WC/C、VC等のコーティングを施すことにより、第2の摺動部においてもベーン3の摺動面に金属が露出することを防止できるため、同様の効果を得ることができる。
【0095】
また、ベーン3の材質を、SiC、ZrO、Al、Si等のセラミックとすることによっても第2の摺動部においてもベーン3の摺動面に金属が露出しないため、同様の効果を得ることができる。
【0096】
第3の摺動部であるローリングピストン2の内周2bとクランク軸6の偏心軸部6aにおけるその他の実施例を示す。
【0097】
クランク軸6の表面にリン酸マンガン皮膜を形成する方法を示したが、ローリングピストン2側に対策を施してもよく、ローリングピストン2の内径部に軸受け材(図示せず)を用いる方法もある。
【0098】
この軸受け材には、金属系と樹脂系(非金属系)の2種類があるが、本実施の形態の主旨に合うものは、樹脂系の軸受け材(非金属の一例)である。
【0099】
樹脂系の軸受け材として具体的には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、POM(ポリアセタール)を主成分とした軸受け材を用いることが望ましい。これにより、ローリングピストン内径側の摺動部に金属が露出しないため、同様の効果を得ることができる。
【0100】
尚、クランク軸6の偏心軸部6aに、軸受け材(非金属の一例)を用いてもよい。
【0101】
第4の摺動部である主軸受け4の内周とクランク軸6の主軸部6bと、第5の摺動部である副軸受け5の内周とクランク軸6の副軸部6cとにおけるその他の実施例を示す。
【0102】
クランク軸6の表面に、リン酸マンガン皮膜を形成する方法を示したが、主軸受け4及び副軸受け5側に対策を施してもよく、主軸受けの内径部に軸受け材を用いる方法もある。
【0103】
この軸受け材には、金属系と樹脂系の2種類があるが、本実施の形態の主旨に合うものは、樹脂系の軸受け材(非金属の一例)である。
【0104】
樹脂系の軸受け材として具体的には、PTFE、POMを主成分とした軸受け材を用いることが望ましい。これにより、主軸受け4の内径側の摺動部に金属が露出しないため、同様の効果を得ることができる。
【0105】
尚、クランク軸6の主軸部6bと副軸部6cに、軸受け材を用いることもできる。
【0106】
以上の説明では、摺動部を構成する部品のいずれか一方を、少なくともその摺動する表面を非金属で構成する例を説明したが、摺動部を構成する部品の両方を少なくともその摺動する表面を非金属で構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施の形態1を示す図で、空気調和機の冷媒回路図。
【図2】実施の形態1を示す図で、ロータリ圧縮機200の縦断面図。
【図3】実施の形態1を示す図で、図2のA−A断面図。
【符号の説明】
【0108】
1 シリンダ、1a ベーン溝、1b シリンダ室、1c 背圧室、2 ローリングピストン、2a 外周、2b 内周、3 ベーン、3a 先端、3b 側面部、4 主軸受け、5 副軸受け、6 クランク軸、6a 偏心軸部、6b 主軸部、6c 副軸部、7 吐出マフラ、8 ベーンスプリング、12 固定子、12a 固定子鉄心、12b 巻線、12c 絶縁部材、13 回転子、13a 回転子鉄心、13b 上端板、13c 下端板、20 密閉容器、21 吸入マフラ、22 吸入管、23 リード線、24 端子、25 吐出管、30 冷凍機油、41 室外機、42 室内機、43 圧縮機、44 四方弁、45 室外熱交換器、45a 室外送風機、46 電子膨張弁、47 液管、48 室内熱交換器、48a 室内送風機、49 ガス管、101 圧縮要素、102 電動要素、200 ロータリ圧縮機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、四方弁、室外熱交換器、減圧機構等を有する室外機と、室内熱交換器等を有する室内機とを備え、設置時に前記室外機と前記室内機の冷媒配管を接続して冷凍サイクルを形成する冷凍サイクル装置において、
前記冷媒に、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物のいずれかを用い、
前記圧縮機に、水分含有量が所定値以下に管理された飽和水分量が2000ppm以上の冷凍機油を封入することを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記冷凍機油は、加水分解する分子構造を有していないことを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記圧縮機は容積式の圧縮機構を有し、前記圧縮機構の摺動部を構成する部品の少なくとも一方は、少なくともその摺動する表面を非金属で構成することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−2099(P2010−2099A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160228(P2008−160228)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】