説明

冷凍品の解凍装置

【課題】 冷凍品が解凍槽等へ衝突することを抑制しながら、冷凍品を解凍槽内で自由に浮遊させて撹拌翼により撹拌しながら解凍できるようにし、冷凍品の原料が損傷する事態を防止しつつ、冷凍品と解凍液との接触を十分に行わせて解凍効率を向上させ、解凍処理能力の向上を図る。
【解決手段】 底壁2及び側壁4を有し上下方向に延びる中心軸Pを中心として回転対称に形成され解凍液Wを収容するとともに冷凍品Bが入れられる解凍槽1と、解凍液Wを撹拌する撹拌機構10とを備え、撹拌機構10を、解凍槽1の中心軸Pを軸線とする回転軸11と、回転軸11に設けられ回転軸11の回転により底壁2の底面2a側で回転軸11を中心として外側に向かいながら旋回する方向の解凍液Wの液流を生成する撹拌部12と、回転軸11を回転駆動する駆動部13とを備えて構成し、解凍槽10の側壁4の内面4aに、側壁4の上下方向に延びる突条5を所定間隔で複数突設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産冷凍食品等の冷凍品を解凍して完全解凍状態あるいは半解凍状態にする冷凍品の解凍装置に係り、特に、解凍槽に冷凍品を入れて撹拌しながら冷凍品の解凍を行う冷凍品の解凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば、岩手県における水産加工業者においては、冷凍品としての水産冷凍食品の使用比率が高く、この冷凍品の解凍作業を頻繁に行っている。従来から行われている解凍方法としては、例えば、海水や真水を入れたタンク中に冷凍品を入れ、空気を送り込む等の工夫をしながら、手作業で解凍する方法がある。しかしながら、手作業なので、労力と手間がかかり効率が悪いという問題がある。また、従来においては、マイクロ波を利用した解凍装置も使用しているが、非常に高価であるため、普及率は極めて低くなっている。比較的、安価な解凍装置としては、例えば、解凍槽に冷凍品を入れて撹拌機構により撹拌しながら冷凍品の解凍を行うものもある。
【0003】
従来、この種の撹拌により冷凍品を解凍する解凍装置としては、例えば、特許文献1(特開昭64−39933号公報)に掲載されたものが知られている。
これは、図12に示すように、真水や海水などの解凍液Wを収容する解凍槽100と、解凍槽100に収容した解凍液Wを撹拌する撹拌機構101とを備えている。撹拌機構101は、解凍槽100の底面に設けられ、解凍槽100の中心軸Pを軸線とし図示外の電動モータなどで回転させられる回転軸102と、この回転軸102に設けられ回転軸102の回転により底面側で解凍液Wを撹拌する複数の撹拌翼103とを備えて構成されている。そして、冷凍品Bを網状の袋104に入れ、袋104の下部に錘105を付け、この袋104を上から吊り下げて解凍液Wに浸漬し、この状態で、撹拌機構101の撹拌翼103を回転させて、解凍液Wの対流を生じさせ、冷凍品Bに傷をつけないようにして、冷凍品Bの解凍作業を容易かつ迅速に行うことができるようにしている。
尚、撹拌翼を用いた撹拌機構により撹拌する解凍装置としては、解凍槽内を真空にするタイプのものであるが、例えば、特許文献2(特開平7−91789号公報)に掲載された技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−39933号公報
【特許文献2】特開平7−91789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の冷凍品の解凍装置においては、冷凍品Bを袋に入れて吊り下げているので、冷凍品Bに傷をつけることは防止されるものの、対流による解凍液Wの接触が不十分で解凍効率が必ずしも良いとは言えず、解凍処理能力に劣っているという問題があった。また、仮に、冷凍品Bを吊り下げることなく、解凍槽100内を自由に浮遊するようにして解凍液Wの接触を十分に行わせようとすると、冷凍品Bが撹拌翼103に衝突したり、冷凍品Bが解凍槽100の側壁に衝突したりして、冷凍品Bの原料に傷がつく等損傷させ易くなってしまう。特に、例えば、冷凍品Bがサンマ等の皮膚が薄く脆弱な皮膚を有する魚類等の冷凍品である場合には、撹拌翼103を有する解凍装置には不向きになっている。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、冷凍品が解凍槽等へ衝突することを抑制しながら、冷凍品を解凍槽内で自由に浮遊させて撹拌翼により撹拌しながら解凍できるようにし、冷凍品の原料が損傷する事態を防止しつつ、冷凍品と解凍液との接触を十分に行わせて解凍効率を向上させ、解凍処理能力の向上を図った冷凍品の解凍装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するための本発明の冷凍品の解凍装置は、底壁及び該底壁に立設され上側に開口を形成する側壁を有するとともに上下方向に延びる中心軸を中心として回転対称に形成され解凍液を収容する解凍槽と、該解凍槽に収容した解凍液を撹拌する撹拌機構とを備え、上記解凍槽に冷凍品を入れ上記撹拌機構により解凍液を撹拌しながら冷凍品の解凍を行う冷凍品の解凍装置において、
上記撹拌機構を、上記解凍槽の中心軸を軸線とする回転軸と、該回転軸に設けられ該回転軸の回転により上記底壁の底面側で上記回転軸を中心として外側に向かいながら旋回する方向の解凍液の液流を生成する撹拌部と、上記回転軸を回転駆動する駆動部とを備えて構成し、
上記解凍槽の側壁の内面に、該側壁の上下方向に延びる突条を所定間隔で複数突設した構成としている。
解凍液としては、例えば、真水や海水などが用いられる。
【0008】
これにより、冷凍品を解凍するときは、冷凍品を解凍槽内に投入する。この場合、例えば魚類等複数の物が集合して凍結されている冷凍ブロックにおいては、網状の袋に収納することが望ましい。冷凍品を投入した状態で、駆動部を作動させて回転軸を回転駆動すると、撹拌部が回転して解凍槽の底壁の底面側で該回転軸を中心として外側に向かいながら旋回する方向の解凍液の液流が生成される。この液流の旋回流は、解凍槽の側壁に至るが、側壁には上下方向に延びる突条が突設されているので、突条に当たり側壁の内面に沿って上昇する上昇流(涌昇流)になり、解凍槽の上側においては、撹拌部により引き込まれ、回転軸に沿って下降する下降流になり、再び、撹拌部により、旋回流として生成されていく。そのため、解凍槽の中心軸を中心とする円周方向に沿って、解凍液が略螺旋状(スパイラル状)になって旋回するようになる。このため、冷凍品はこのスパイラル状の旋回流に載って中心軸の周りを旋回するようになる。この場合、冷凍品は撹拌部に衝突しようとするが外側に向かう解凍液の液流によって外側に押し流されるので、撹拌部に衝突する事態が抑制される。また、外側に押し流された冷凍品は側壁の内面に衝突しようとするが、解凍液の上昇流によって上昇移動させられるので、側壁内面に衝突する事態が抑制される。この結果、冷凍品が撹拌部や側壁内面に衝突する事態が抑制されるので、冷凍品の原料に傷や亀裂がつく事態が防止される。また、冷凍品はスパイラル状の旋回流によって解凍液中を旋回するので、それだけ、解凍液との接触が十分に行われ、解凍効率が向上させられる。また、解凍が均一に行われる。そのため、解凍効率が良いことから、冷凍品の解凍が短時間でできるようになり、解凍処理効率が向上する。更に、解凍時間が短縮化できるので、冷凍品が食品である場合には、原料の鮮度劣化を防止することができ、より新鮮かつ安全な食品を消費者に提供できる。
【0009】
尚、冷凍品として凍結ブロックを解凍する場合、解凍液は流水状態にして入れ替えるようにしても良いし、入れ替えることなく繰り返し使用しても良い。しかし、水温が低下する場合があるので、常に一定の温度で解凍したい場合には、解凍液を温調器で加温あるいは冷却し、あるいはまた、適時に入れ替えて交換する。解凍水の入れ替え等の方法は、冷凍品に悪影響が無ければ、どのような方法を用いてもかまわない。また、冷凍品に悪影響がないと判断される場合には、解凍液の温度が高いほど解凍時間が短縮されるので、加温して良い。
【0010】
そして、必要に応じ、上記各突条を、上記解凍槽の側壁の内面に該解凍槽の中心軸と平行に突設するとともに、該中心軸を中心として等角度関係で配置した構成としている。上昇流を生じさせやすくなり、また、等角度関係に配置されるので、旋回流をより一層規則的な液流にすることができる。
【0011】
また、必要に応じ、上記撹拌部を、上記回転軸に直交する表面及び裏面を有し上記底壁の底面側に配置されて該回転軸に設けられる回転板と、上記回転板の表面及び裏面の少なくともいずれか一方に立設される複数枚の撹拌翼とを備えて構成している。回転板があるので、冷凍品が撹拌翼に巻き込まれる事態が防止され、冷凍品の原料に傷や亀裂がつく事態が防止される。
【0012】
更に、必要に応じ、上記撹拌翼を、上記回転軸を中心として等角度関係で配置した構成としている。より確実に規則的な旋回流を生じさせることができる。
【0013】
更にまた、必要に応じ、上記回転板に、該回転板の裏面側から表面側に向かう解凍液の噴出流を生じさせる貫通孔を上記回転軸を中心として等角度関係で複数設けた構成としている。回転板から解凍液を噴出させるので、冷凍品がこの噴出流によって押し上げられ、撹拌翼に当接する事態が防止される。
この場合、上記貫通孔を、上記回転板の上記各撹拌翼間に夫々設けたことが有効である。貫通孔が撹拌翼に対して均等に配置されるので、冷凍品が確実に撹拌翼に当接する事態が防止される。
【0014】
そして、必要に応じ、上記撹拌部を覆う網状部材を備えた構成としている。撹拌部が網状部材で覆われるので、撹拌部に凹凸があって、冷凍品が接触するようなことがあっても、網状部材で保護されるので、この凹凸によって冷凍品に傷がついたりする事態が防止される。
【0015】
また、必要に応じ、上記回転板の表面に上記撹拌翼を等間隔で4以上の偶数枚設けるとともに、該撹拌翼として所定高さの第1撹拌翼と、該第1撹拌翼より高さの低い第2撹拌翼とを備え、該第1撹拌翼及び第2撹拌翼を交互に配置し、上記第1撹拌翼に支持されるように上記回転板上の各撹拌翼を覆う弾性変形可能な網状部材を設けた構成としている。網状部材が、第1撹拌翼間に支持されるので、第1撹拌翼間において網状部材と第2撹拌翼間に間隙ができ、そのため、網状部材に冷凍品が当接しても、網状部材の第1撹拌翼間が第2撹拌翼との間隙の分、撓んで衝撃を吸収することができ、第1撹拌翼及び第2撹拌翼によって、冷凍品に傷がついたりする事態が確実に防止される。
【0016】
更に、必要に応じ、上記回転板を覆う網状部材を設け、該回転板の表面と網状部材との間に該網状部材を支持する弾性部材を設けた構成としている。網状部材が、弾性部材に支持されているので、網状部材に冷凍品が当接しても、弾性部材によって衝撃を吸収することができ、そのため、冷凍品に傷がついたりする事態が確実に防止される。
【0017】
また、必要に応じ、上記解凍槽の開口から回転軸を垂下させて上記撹拌部が該解凍槽の底壁上面の近傍に位置するように該回転軸の駆動部を支持する支持部を設けた構成としている。回転軸が解凍槽内にあるので、冷凍品が解凍槽の中心軸を横切ることがなく、冷凍品をこの回転軸の周りに確実に旋回させることができる。
【0018】
この際、必要に応じ、上記回転軸に、該回転軸に遊嵌する管状のカバー管を挿通している。カバー管が回転軸に遊嵌しているので、このカバー管に冷凍品が当接しても、遊嵌している分、カバー管が動いて、衝撃を吸収することができ、この点でも冷凍品に傷がついたりする事態が防止される。
この場合、内径が順次大きくなる複数のカバー管を順次遊嵌させて上記回転軸に挿通した構成としている。カバー管によるクッション性が増加し、より一層冷凍品の衝撃を吸収して、冷凍品に傷がついたりする事態が防止される。カバー管の材質は限定するものではないが、表面の摩擦が少ない素材が好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷凍品を解凍槽内の撹拌部と突条との相互作用で生成される規則的な液流中で、規則的に浮いたり沈んだりを繰り返しながら解凍槽内を旋回運動(周回運動)させて、完全解凍状態または半解凍状態など任意の解凍状態に調整することができる。そのため、冷凍品が撹拌部や側壁内面に衝突する事態を抑制することができるので、冷凍品の原料に傷や亀裂がつく事態を防止することができる。また、冷凍品は規則的な液流中で旋回するので、それだけ、解凍液との接触を十分に行って、解凍効率を向上させることができるとともに、解凍を均一に行なうことができる。その結果、解凍効率が良いことから、冷凍品の解凍を短時間で行うことができるようになり、解凍処理効率を向上させることができる。更に、解凍時間を短縮化できるので、冷凍品が食品である場合には、原料の鮮度劣化を防止することができ、より新鮮かつ安全な食品を消費者に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置において撹拌機構を示す要部斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置の作用を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置の作用を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置において撹拌部の別の例を示す要部斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置において撹拌部のまた別の例を示す要部図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置において撹拌機構の他の例を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置において撹拌部のまた別の例を示す要部図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置において突条の別の例を示す図であり、(a)は部分斜視図、(b)は平面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置において突条の変形例を示す図である。
【図12】従来の冷凍品の解凍装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る冷凍品の解凍装置について詳細に説明する。
本装置が対象とする冷凍品は、どのようなものでも良いが、例えば、魚類,甲殻類,貝類,海藻類等の水産物の冷凍食品であって、ブロック状に冷凍されている冷凍品が対象となる。水産物の冷凍品としては、収穫時の状態のものをそのまま冷凍したもの、内臓や殻を取り除きあるいは切り身にする等ある程度加工して冷凍したもの等どのような形態であっても良い。例えば、魚類としては、カレイ,ヒラメ,ワカサギ,アジ,イワシ,サバ,サンマ,サケ,タラ等が挙げられる。また、甲殻類としては、エビ、イカ、タコ等、貝類としては、ホタテ,カキ等、海藻類としては、ワカメ,コンブ等が挙げられる。冷凍品が水産物の場合には、解凍液としては、主として真水あるいは海水が用いられるが、特に限定されるものではなく、必要に応じ、しょう油などの調味料、糖類およびアルコール類などの食品添加物を添加した溶液でも良い。冷凍品としては野菜や果物であっても良い。
【0022】
図1乃至図5に示すように、本発明の実施例に係る冷凍品の解凍装置の基本的構成は、解凍液Wを収容し冷凍品Bが入れられる解凍槽1と、解凍槽1内の解凍液Wを撹拌する撹拌機構10とを備えてなり、解凍槽1に冷凍品Bを入れ撹拌機構10により解凍液Wを撹拌しながら冷凍品Bの解凍を行うものである。
解凍槽1は、底壁2及び底壁2に立設され上側に開口3を形成する側壁4を有するとともに上下方向に延びる中心軸Pを中心として回転対称に形成されている。実施の形態では、解凍槽1は円筒の金属製容器で構成されている。実施の形態では、例えば、内径D=2000mm、深さL=900mmの大きさに形成されている。
【0023】
この解凍槽1の側壁4の内面4aには、側壁4の上下方向に延びる突条5が所定間隔で複数(実施の形態では6つ)突設されている。実施の形態では、各突条5は、横断面三角形状に形成され、頂部が中心軸Pを向くように、解凍槽1の側壁4の内面4aに、解凍槽1の中心軸Pと平行に突設されているとともに、中心軸Pを中心として等角度(60°)関係で配置されている。突条5の突出幅Tは、解凍槽1の内径Dに対して、T=(0.01〜0.1)Dに設定されている。例えば、T=100mmに設定されている。この範囲で、解凍槽1の旋回流を良好なものにすることができる。
また、突条5の高さHは、解凍槽1の深さLに対し、H=(0.5〜1)L(好ましくは0.9L)に設定されている。実施の形態では、突条5は、例えば、高さH=800mmに設定されている。
【0024】
撹拌機構10は、解凍槽1の中心軸Pを軸線とし解凍槽1の底壁2の底面から開口3よりも突出して配置される回転軸11と、回転軸11の下端側に設けられ回転軸11の回転により底壁2の底面2a側で回転軸11を中心として外側に向かいながら旋回する方向の解凍液Wの液流を生成する撹拌部12と、回転軸11の上端に接続されこの回転軸11を回転駆動する駆動部13とを備えて構成されている。
【0025】
駆動部13は、電動モータで構成されており、解凍槽1の開口3から回転軸11を垂下させて、撹拌部12が解凍槽1の底壁2上面の近傍に位置するように、側壁4上部に設けた支持部14に支持されている。支持部14は、駆動部13が取り付けられるベース15と、このベース15が取り付けられ下端が側壁4の開口3縁に架設される脚部材16とを備えて構成されている。回転軸11の下端は底壁2に設けた軸受17に回転可能に軸支されている。また、支持部14には、冷凍品Bを吊るして昇降するためのウインチ18(図1)が設けられている。
【0026】
撹拌部12は、回転軸11に直交する表面20a及び裏面20bを有し底壁2の底面2a側に配置されて回転軸11に設けられる円盤状の回転板20と、回転板20の表面20a及び裏面20bの少なくともいずれか一方(実施の形態では表面20a)に立設される複数枚の撹拌翼21とを備えて構成されている。
回転軸11には、回転軸11に遊嵌する管状のポリエチレンなどの樹脂製カバー管22が挿通されている。カバー管22は、内径が順次大きくなる複数(実施の形態では3つ)設けられ、これらのカバー管22は、順次遊嵌させて回転軸11に挿通されている。
【0027】
撹拌翼21は、基端が回転軸11の近傍に位置し先端が回転板20の外周縁に及ぶ板部材であり、回転軸11を中心として等角度(60°)関係で6つ配置されている。撹拌翼21の先端側の上部は先端に向けて傾斜形成されている。実施の形態では、回転板20の直径Gは、解凍槽1の内径Dに対して、G=(0.2〜0.6)Dに設定されている(好ましくは0.5D程度)。撹拌翼21の高さJ(回転板20の裏面20bから撹拌翼21の上端までの距離)は、回転板20の直径Gに対して、J=(0.05〜0.2)Gに設定されている(好ましくは0.1D程度)。実施の形態では、G=1000mm、J=110mmに設定されている。
【0028】
更に、撹拌部12には、撹拌部12を覆う網状部材24が備えられている。網状部材24は、冷凍品Bが撹拌翼21に当接してもこれが保護されるように、柔軟性および耐衝撃性のある材料で形成されている。例えば、網状部材24は、弾性変形可能な樹脂で形成され、例えば耐久性のある特殊なポリエチレン製の素材で形成され、撹拌翼21の上端縁に支持されて各撹拌翼21を覆っている。
【0029】
更にまた、本装置には、図2(b)に示すように、解凍槽1に解凍液Wをポンプ25により供給する供給管路26と、解凍槽1から解凍液Wを排出する排出管路27とが設けられている。冷凍品Bを解凍する場合、解凍液W(真水や海水)は流水状態にしても良い。また、解凍液Wを入れ替えることなく繰り返し使用しても良い。しかし、入れ替えることなく解凍液Wを使用していると、液温が低下する場合があるので、常に一定の温度で解凍したい場合には、温調器を用いて加温し、あるいは、新鮮な解凍液Wを解凍槽1内に取り込み、古くなった解凍液Wを徐々に排出するようにする等、適宜調整することができる。更に、海水よりも高い塩分を含んだ解凍原料の場合には,解凍液Wの塩分濃度が海水濃度以上になることもあるので、その場合には古くなった解凍液Wを徐々に排出することが望ましい。解凍原料の使用目的に応じて解凍液Wの塩分濃度を管理すると良い。
【0030】
また、本装置は、図1に示すように、適正な解凍液Wの液流が生じるように駆動部13を制御する制御部30を備えている。制御部30は、駆動部13による撹拌部12の回転数や撹拌時間などを設定により制御するものである。撹拌翼21の回転速度は、モータ13の種類,解凍槽1や撹拌翼21の形状,突条5の形状や本数等の違いにより大きく影響されるので、解凍装置の仕様に応じて適宜決定される。また、冷凍品Bに傷が付きやすいかどうかや、解凍後の鮮度や外観等も考慮して、冷凍品B毎に撹拌条件を決定する。
【0031】
従って、この実施の形態に係る解凍装置により冷凍品Bを解凍するときは以下のようにする。冷凍品Bは、そのまま、あるいは、網状の袋Fに入れられて解凍される。実施の形態においては、主には、網状の袋Fを用いる。この袋Fは、樹脂製の網状のものであり、冷凍品Bを入れた後は、開口3を樹脂製の結束バンド(図示せず)で結束して閉じる。なお、冷凍品Bは冷凍庫からそのまま出された状態のものでも、常温や冷蔵庫などで一時的に保管されたものでも良い。
【0032】
図1に示すように、冷凍品Bを入れた袋Fを、例えば、解凍槽1に設けたウインチ18を用いて、これに吊り下げるなどして、解凍槽1に適宜数入れる。そして、制御部30により、所要の回転数で、駆動部13としての電動モータを任意または所要の時間で回転する。
これにより、図4及び図5に示すように、撹拌部12が回転して解凍槽1の底壁2の底面2a側で回転軸11を中心として外側に向かいながら旋回する方向の解凍液Wの液流が生成される。この解凍液Wの旋回流は、解凍槽1の側壁4に至るが、側壁4には上下方向に延びる突条5が突設されているので、突条5に当たり側壁4の内面4aに沿って上昇する上昇流(涌昇流)になり、解凍槽1の上側においては、撹拌部12により引き込まれ、回転軸11に沿って下降する下降流になり、再び、撹拌部12により、旋回流として生成されていく。そのため、解凍槽1の中心軸Pを中心とする円周方向に沿って、解凍液Wが略螺旋状(スパイラル状)になって旋回するようになる。このため、冷凍品Bはこのスパイラル状の旋回流に載って中心軸Pの周りを旋回するようになる。この場合、冷凍品Bは撹拌部12に衝突しようとするが外側に向かう解凍液Wの液流によって外側に押し流されるので、撹拌部12に衝突する事態が抑制される。また、外側に押し流された冷凍品Bは側壁4の内面4aに衝突しようとするが、解凍液Wの上昇流によって上昇移動させられるので、側壁4の内面4aに衝突する事態が抑制される。この結果、冷凍品Bが撹拌部12や側壁4の内面4aに衝突する事態が抑制されるので、冷凍品Bの原料に傷や亀裂がつく事態が防止される。また、冷凍品Bはスパイラル状の旋回流によって解凍液W中を旋回するので、それだけ、解凍液Wとの接触が十分に行われ、解凍効率が向上させられる。また、解凍が均一に行われる。そのため、解凍効率が良いことから、冷凍品Bの解凍が短時間でできるようになり、解凍処理効率が向上する。更に、解凍時間が短縮化できるので、冷凍品Bが食品である場合には、原料の鮮度劣化を防止することができ、より新鮮かつ安全な食品を消費者に提供できる。
【0033】
即ち、冷凍品Bは、解凍槽1の側壁4の内面4aの直前でUターンするように周回運動をしていく。Uターンという意味は、冷凍品Bは撹拌部12上部付近に一度沈み、撹拌部12の液流によって底面2a付近に移動し、さらに撹拌部12の液流によって解凍槽1の側壁4の方へ移動する。側壁4の内面4a付近では、突条5の手前付近で上昇流(涌昇流)が発生するので、冷凍品Bは、次第に上昇しながら側壁4の内面4aにぶつかる前に、上昇流(涌昇流)の影響で冷凍品Bは内面4aの上部付近で反転して向きを変える。そして、冷凍品Bが、涌昇流(上昇流)から離れると、今度は、撹拌部12の水流に引っ張られ、撹拌部12の上部付近まで沈み、撹拌部12の液流によって底面2a付近に移動していく。
そのため、冷凍品Bを解凍槽1内の撹拌部12と突条5との相互作用で生成される規則的な液流中で、規則的に浮いたり沈んだりを繰り返しながら解凍槽1内を旋回運動(周回運動)させて、完全解凍状態または半解凍状態など任意の解凍状態に調整することができる。また、この規則的な水流により、冷凍品Bに衝突による傷等が付いて損傷してしまう事態を防止することができる。更に、撹拌によるので、装置の価格も比較的安くすることができる。
この網袋Fの独特の規則的な運動は,水槽内に解凍原料数(または解凍原料を入れた網袋Fの数)が増加すると、網袋F同士の衝突やコスレ等による摩擦が少なからず発生するため、解凍作業中は全ての網袋Fが同じような独特の規則的な運動をするわけではないが、基本的な動きはほぼ共通していると考えられる。
【0034】
また、この場合、各突条5は、解凍槽1の側壁4の内面4aに解凍槽1の中心軸Pと平行に突設されるとともに、中心軸Pを中心として等角度関係で配置されているので、上昇流を生じさせやすくなり、また、等角度関係に配置されるので、旋回流をより一層規則的な液流にすることができる。
更に、撹拌部12は、回転板20及び撹拌翼21を備えて構成されるので、回転板20があることから、冷凍品Bが撹拌翼21に巻き込まれる事態が防止され、冷凍品Bの原料に傷や亀裂がつく事態が防止される。また、撹拌翼21は、回転軸11を中心として等角度関係で配置されているので、より確実に規則的な旋回流を生じさせることができる。更にまた、回転軸11が解凍槽1内にあるので、冷凍品Bが解凍槽1の中心軸Pを横切ることがなく、冷凍品Bをこの回転軸11の周りに確実に旋回させることができる。この際、回転軸11に冷凍品Bが当接しても、回転軸11にはカバー管22が遊嵌され、カバー管22が動いて、衝撃を吸収することができ、この点でも冷凍品Bに傷がついたりする事態が防止される。しかも、内径が順次大きくなる複数のカバー管22が順次遊嵌されているので、カバー管22によるクッション性が増加し、より一層冷凍品Bの衝撃を吸収して、冷凍品Bに傷がついたりする事態が防止される。
【0035】
更にまた、撹拌部12の撹拌翼21は、網状部材24で覆われているので、冷凍品Bが接触するようなことがあっても、網状部材24で保護されることから、撹拌翼21によって冷凍品Bに傷がついたりする事態が防止される。例えば、サンマ等の皮膚が薄く脆弱な皮膚を有する魚類等においては、傷がつき易いが、本装置においてはそれが防止され、商品化に有効になる。
【0036】
そして、冷凍品Bが解凍したならば、ウインチ18を用いるなどして、袋Fを引き上げる。冷凍品Bは、完全解凍状態または半解凍状態など任意の解凍状態に調整されている。冷凍品Bの原料には、傷や亀裂がつく事態が防止され、また、解凍が均一に行なわれているので、品質が極めて良いものになる。特に、解凍効率が良いことから、冷凍品Bの解凍を短時間で行うことができるようになり、そのため、原料の鮮度劣化を防止することができ、より新鮮かつ安全な食品を消費者に提供できる。
【0037】
図6には、撹拌部12の別の例を示している。これは、上記と同様に構成されるが、上記と異なって、先ず、回転板20には、回転板20の裏面20b側から表面20a側に向かう解凍液Wの噴出流を生じさせる貫通孔23が、回転軸11を中心として等角度関係で複数設けられている。貫通孔23は、回転板20の半径方向に沿う細長状に形成され、回転板20の各撹拌翼21間に夫々設けられている。そのため、回転板20の裏面20b側から表面20a側に向かう解凍液Wの噴出流が生じさせられるので、冷凍品Bがこの噴出流によって押し上げられ、撹拌翼21に当接する事態が防止される。貫通孔23は回転板20の各撹拌翼21間に夫々設けられ、貫通孔23が撹拌翼21に対して均等に配置されるので、冷凍品Bが確実に撹拌翼21に当接する事態が防止される。
【0038】
そしてまた、図6に示す撹拌部12において、上記と異なって、回転板20の表面20aに撹拌翼21を等間隔で4以上の偶数枚(実施の形態では6枚)設けるとともに、撹拌翼21として所定高さ(j1)の第1撹拌翼21(A)と、第1撹拌翼21(A)より高さの低い高さ(j2)の第2撹拌翼21(B)とを備え、第1撹拌翼21(A)及び第2撹拌翼21(B)を交互に配置し、第1撹拌翼21(A)に支持されるように回転板20上の各撹拌翼21を覆う弾性変形可能な網状部材24を設けたものである。これにより、網状部材24が、第1撹拌翼21(A)間に支持されるので、第1撹拌翼21(A)間において網状部材24と第2撹拌翼21(B)間に間隙ができ、そのため、網状部材24に冷凍品Bが当接しても、網状部材24の第1撹拌翼21(A)間が第2撹拌翼21(B)との間隙eの分、撓んで衝撃を吸収することができ、第1撹拌翼21(A)及び第2撹拌翼21(B)によって、冷凍品Bに傷がついたりする事態が確実に防止される。
【0039】
図7には、撹拌部12のまた別の例を示している。図7(a)に示す撹拌部12は、上記と同様に構成されるが、上記と異なって、回転板20の裏面20bにも例えば4枚の撹拌翼21を等間隔で設けている。図7(a)の裏面の撹拌翼21は上面の撹拌翼21よりも高さが低い場合を示しているが、高さは任意に変更してもかまわない。図7(b)に示す撹拌部12は、上記と異なって、回転板20の裏面20bのみに例えば6枚の撹拌翼21を等間隔で設けている。図7(c)に示す撹拌部12は、図7(b)で示した撹拌部12において、回転板20を覆う網状部材24を設け、回転板20の表面20aと網状部材24との間に網状部材24を支持する弾性部材31を設けた構成としている。弾性部材31は、カバー管22に遊挿されるコイルスプリングで構成されている。網状部材24が、弾性部材31に支持されているので、網状部材24に冷凍品Bが当接しても、弾性部材31によって衝撃を吸収することができ、そのため、冷凍品Bに傷がついたりする事態が確実に防止される。また、弾性部材31は必ずしもコイルスプリングに限定されるものではなく、衝撃を吸収できる仕様であればどのようなものを用いても良い。
【0040】
図8には、撹拌部12の他の例を示している。これは、回転板20の裏面20bのみに例えば6枚の撹拌翼21を等間隔で設けている。また、回転板20の表面20aには、空気(エア)、真水、海水から選択される流体が噴き出される吹出口32が多数設けられている。回転板20には吹出口32に連通する流体の通路33が形成されているとともに、回転軸11には回転板20の通路に連通する連通路34が形成され、更に、駆動部13としての電動モータの基端には回転軸11を回転可能に保持し連通路34に流体原(図示せず)からパイプ35を通して流体を供給する供給口部36が形成されている。流体の温度は適宜に設定され、用いる流体は、必ずしも空気(エア)、真水、海水に限定されるものではない。解凍液Wよりも高い温度に設定し、あるいは、低い温度に設定することができる。
これにより、回転板20に設けた吹出口32から流体が噴き出すので、冷凍品Bは、吹出口32から流体が噴き出す流体により、確実に回転板20や撹拌翼21に当接する事態が防止される。それに加えて、吹出口32から流体が噴き出す流体により、冷凍品Bは解凍液Wとの接触が十分に行われ、解凍効率が向上させられるため、解凍時間のより一層の短縮化も可能になる。吹出口32から流体が噴き出す流体には冷凍品Bをほぐす作用もあり、ほぐされた冷凍品Bの表面積が増加するので、より効率的に解凍液Wとの接触が可能となるので、さらに解凍効率が向上させられる。さらに、図示していないが、回転板20の表面20aおよび裏面20bを網状部材24で覆うことにより、冷凍品Bに傷がついたりする事態が確実に防止される。
【0041】
図9には、撹拌部12の別の例を示している。これは、撹拌翼21の形状を、断面台形に形成して、回転板20の上下に、等角度関係で4つずつ設けている。撹拌翼21の形状は上述したものに限定されるものではなく、適宜変更してよいことは勿論である。さらに、図示していないが、回転板20の表面20aおよび裏面20bを網状部材24で覆うことにより、冷凍品Bに傷がついたりする事態が確実に防止される。
【0042】
図10には、突条5の別の例を示している。これは上記と同様に構成されるが、上記と異なって、突条5内が空洞に形成され、回転軸11の回転方向前位であって上下に空気(エア)、真水、海水から選択される流体が噴射される噴射口40が列設されている。流体の温度は適宜に設定され、用いる流体は、必ずしも空気(エア)、真水、海水に限定されるものではない。解凍液Wよりも高い温度に設定し、あるいは、低い温度に設定することができる。
これにより、突条5に設けた噴射口40から流体が噴き出すので、冷凍品Bをほぐす効果が向上し、ほぐされた冷凍品Bの表面積が増加するので、より効率的に解凍液Wとの接触が可能となるので、さらに解凍効率が向上させられるという作用,効果が得られる。
【0043】
図11には、突条5の変形例を示している。図11(a)の突条5は、上記と同様に断面三角形状に形成されるが、上下方向に延びる直線状ではなく、蛇行させて形成したものである。図11(b)の突条5は、上下方向に延びる直線状の板材で形成したものである。突条5の断面形状や側壁4の内面4aに沿う全体形状は、上述したものに限定されるものではなく、適宜変更して差し支えない。
【実施例】
【0044】
次に、実施例を示す。実施例は、上記の図1乃至図5に示す実施の形態に係る解凍装置において、解凍槽1を、内径D=2000mm、深さL=900mmの大きさに形成し、6つの各突条5を、突出幅T=100mm、高さH=800mmに設定し、撹拌部12を、回転板20の直径G=1000mm、6枚の撹拌翼21の高さJ=110mmに設定したものである。
【0045】
この実施例に係る解凍装置を用い、以下の試験を行った。
(試験例1)
冷凍品Bとしてスルメイカ胴肉凍結ブロックを用いた。スルメイカ胴肉の凍結ブロックは、おおよそのサイズは、44cm×28cm×4cmであり、重さが8kgであり、40尾程度が入っているものであり、−45℃で凍結されて保管されていたものである。このスルメイカ胴肉凍結ブロックの20箱(160kg)を、速やかにタマネギ用の網袋Fに詰めて,網袋Fの口を結束バンドで閉じてから、16〜18℃程度の海水を投入した実施例に係る解凍装置の解凍槽1に投入した。解凍液Wとしては海水を用いた。
【0046】
撹拌翼21を5〜20rpm程度で回転させ,毎分60〜180L程度で補水および排水をしながら,常に解凍原料全体が運動するような状態で解凍を行った。60〜90分間の解凍処理を行った後、網袋Fから解凍原料を取りだし、解凍後の外観を観察した。
【0047】
撹拌翼21の撹拌速度は、10〜20rpm程度がちょうど良く、穏やかに原料に傷をつけないような条件で解凍できた。解凍時間は50〜80分間程度で、スルメイカ胴肉がバラバラになり、半解凍状態になった。この時の解凍海水の温度は、18℃から15℃に低下していたが、これは凍結ブロックの品温により、解凍液Wが冷却されたことを示している。この半解凍までの時間は、従来の撹拌をしない解凍タンク中で解凍処理した場合は、2〜3時間程度を要することから、本発明による解凍法では、大幅に解凍時間が短縮化できることを示している。更に、解凍タンクに海水や真水を入れて解凍処理する場合には、凍結ブロックはタンク内で堆積した状態であるので、作業員が状況を見ながら解凍位置を変えたり、凍結ブロック同士が再凍結して結合した場合のほぐし作業,凍結ブロックの表層部および中心部の原料のほぐし作業などの非常に手間がかかる処理が必要だったが、本発明に係る解凍方法では、これらの作業を全て省略できることが明白になった。
【0048】
上記の解凍試験では、イカ胴肉に傷等がつかないように、撹拌速度を穏やかな条件で解凍処理したが、イカ足肉などの解凍後の外観をあまり気にしない場合には、撹拌速度を適宜速めてもかまわない。また、撹拌速度を速める場合、原料に対する衝撃を緩和するには、凍結ブロックを詰める網袋Fを数枚重ねたり、厚手の耐衝撃機能を有する網袋Fを使用するなどの工夫を行っても良い。
【0049】
上記の解凍試験では、凍結ブロックの撹拌解凍初期には、原料は浮力が強く、浮きやすい傾向を示したが、イカ胴肉の表面の解凍が進行すると次第に、凍結ブロックは沈み始めることが観察された。よって、はじめの5分間程度までの撹拌は、少し速めに行い、原料が沈みはじめたら撹拌速度を遅くするなど、原料の解凍特性に応じて任意に撹拌速度を変えても良い。解凍機に時間プログラム機能を付ければ、原料ごとに撹拌速度や解凍時間を設定でき、解凍中の撹拌速度の調整も自動化され、さらに解凍時間の短縮化と作業量の軽減化が可能になる。
【0050】
試験例1では、スルメイカ胴肉のみを解凍したが、実際の生産現場では、複数の凍結原料を同時に解凍することも想定される。この場合には、網袋Fの色を変えたり、結束バンドやヒモの色を変えたりするなどの工夫が必要である。本解凍装置には、所定の時間で撹拌を停止させるタイマーが付いているので、好みに応じて撹拌を自動停止できる。
【0051】
締め鯖や締めサンマのような表皮の外観を重視する加工品においても、本解凍法は有効であり、撹拌速度を遅く設定し、柔らかな素材を使用した網袋Fを使用するなどの工夫が必要である。ところが、従来の水流や撹拌を利用した解凍装置では、網袋Fに解凍原料を詰めることは想定されていたが、規則性のないランダムな水流の中で解凍されたので、水槽内部の壁面や撹拌翼に原料が衝突したり、水流や空気の送付口に原料が衝突することにより、解凍原料の表面には傷等が生じていたため、表皮の外観を重視する場合の解凍には使用できなかった。また、超音波や空気等の送付で解凍水を運動させる場合、解凍原料は規則性のないランダムな状態で解凍されるので、解凍原料同士の衝突や、解凍水槽内壁への衝突により、解凍原料の表皮には、亀裂やこすれた傷が生じていた。本実施例に係る解凍装置では、これらの問題点を解決できた。
【0052】
試験例1では、凍結ブロックを網袋Fに詰めてから解凍を行ったが、これは解凍後の原料がバラバラになって、解凍液Wから揚げる時の利便性を考慮したものであるが、解凍原料の種類や解凍後の取り扱いによっては、必ずしも凍結原料を網袋Fに詰める必要はない。秋サケなどの大型の魚類やイカ等では、長さが1m以上の場合もあり、この場合には網袋Fに詰めなくても解凍後の回収が容易であることから,網袋Fの使用は適宜選択されるものである。
【0053】
本発明に係る解凍装置による解凍法では、原料ごとの解凍条件を把握することにより、解凍後の状況を想定した迅速な解凍が可能になり、水産加工品原料凍結ブロックの解凍のしすぎを防止できることから、製品の鮮度や風味が良好な製品を常に安定的に製造できるようになる。
【0054】
(試験例2)
ここでは、上記の実施の形態に係る解凍装置を用い、冷凍品Bとしてサンマ凍結ブロックの解凍を行った。試験例2で使用したサンマの凍結ブロックのおおよそのサイズは45cm×32cm×9cm(重さ7.5kg)であり、50尾が入っているものを解凍原料として用いた。新鮮なサンマを急速凍結した凍結ブロック10箱を、網袋Fに詰めて、網袋Fの口を結束バンドで閉じてから、各袋Fを、16〜18℃程度の海水に投入した。
撹拌翼21を5〜20rpm程度で回転させ、毎分60〜180Lほどで補水および排水をしながら、常に解凍原料全体が運動するような状態で解凍を行った。60〜90分間の解凍処理を行ったあと、網袋Fから解凍原料を取りだし、解凍後の外観を観察した。
【0055】
撹拌翼21の撹拌速度は、試験例1よりも遅い撹拌が好ましく、10〜15rpm程度がちょうど良く、穏やかに原料に傷をつけないような条件で解凍できた。一方、20rpmでは原料同士の衝突時の衝撃が増加し、水槽内壁面への衝突も見られたことから、締めサンマなどの表皮の外観を重視する場合には遅い撹拌が望ましいことがわかった。半解凍状態になるまでの解凍時間は60〜80分間程度であり、網袋Fの網目を細かくすると同じ撹拌速度でも解凍時間が長くなることが確認された。この時の解凍海水の温度は、18℃から15℃に低下していた。
この半解凍までの時間は,従来の撹拌をしない解凍タンク中で解凍処理した場合は、2〜3時間程度を要し、解凍位置を変えたりする作業,凍結ブロック同士が再凍結して結合した場合のほぐし作業,凍結ブロックの表層部および中心部の原料のほぐし作業などの非常に手間がかかる処理が全て省略できることから、解凍作業の省力化に大きく貢献できると考えられた。
【0056】
上記のサンマの半解凍までの時間は、表皮の外観を重視したために、撹拌速度を遅く設定したが、煮物や缶詰などの加工用原料の場合には、もっと撹拌速度をあげても良い。
【0057】
試験例1および試験例2に係る水産加工原料凍結ブロックは、解凍処理の直前まで−45℃で保管していたが、水産加工場で一般的に見られる凍結ブロックを予め常温または冷蔵温度で一時的に保管して、品温を上昇させた凍結ブロックを、本発明に係る解凍装置で解凍処理しても何ら問題はなく、その場合は試験例1および試験例2における解凍時間よりも早くなることが想定される。ただし、解凍前の凍結ブロックの前処理等に影響されるため、解凍の目的を明確にし、解凍後の原料の品質を考慮した解凍条件が要求される。
【0058】
凍結ブロックを解凍機の水槽内に投入しても、直ぐに撹拌させなくても良く、しばらくたってから撹拌しても良い。つまり、初めの5〜10分間程度を無撹拌状態にすることは、凍結ブロックの表面に生じた氷の結晶を予め溶かすことにより、凍結ブロックが解凍初期に浮きやすい現象を生じさせることを回避することができる。それにより、解凍初期の浮きやすい状態における凍結ブロック同士の衝突を回避できる。
【0059】
尚、上記の実施の形態において、各部構成は上述したものに限定されず、適宜変更して差し支えない。例えば、解凍槽1の側壁4の形状は円筒状に限定されるものではなく、例えば六角筒状に形成する等、適宜変更して差し支えない。また、冷凍品Bは水産物に限らず、例えば鶏肉等の肉製品や野菜等の陸上製品でもよく、どのような冷凍品Bにおいても、本発明を適用できることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明による解凍装置を複数台導入することにより、中小規模の水産加工場における水産加工用原料凍結ブロックの解凍処理能力は飛躍的に高まり、解凍作業の簡略化や省力化を図り、人件費の削減および製造コストの削減を実現できる。それにより、製品の日産の製造能力が高まり、製品の競争力を高めることができる。一方で、解凍時間の短縮化は、解凍中の原料の鮮度劣化やヒスタミンの生成を抑制するので、水産加工製品の安全・安心に貢献する。
更に言えば、従来の解凍用タンクに原料を浸漬する一般的な解凍作業では、原料の位置替え作業やほぐし作業等で人員がかかり、解凍具合を随時確認しながら細心の注意を払いながら行われていた凍結ブロックの解凍処理を、凍結ブロックを網袋Fにいれてから本解凍装置に供することにより、無人的に均一かつ迅速に解凍できることから、凍結ブロックの位置替え作業やほぐし作業を省略でき、製品の製造コストを下げることができる。また、解凍処理の効率化により、一日当たりの加工品の製造能力を増加させることができる。複数台の本解凍装置の導入を図り、一台の解凍装置に複数の目印等を付けた解凍原料を投入できるので、解凍タンクの数を減らすことが可能になり、製造施設の大幅な省スペース化を実現させる。また、解凍後の原料を水槽内から引き揚げる時にも、ウインチ等の使用により労力削減に大きく貢献する。更に、網袋Fに解凍原料を詰め込む作業にも、網袋Fを枠の付いたスタンド等にセットし、解凍原料を詰めた後に、ヒモまたは結束バンド等で容易に網袋Fの口を閉じることができるため、これらの作業も苦労せずに行うことができる。
【符号の説明】
【0061】
B 冷凍品
W 解凍液
1 解凍槽
2 底壁
3 開口
4 側壁
P 中心軸
5 突条
10 撹拌機構
11 回転軸
12 撹拌部
13 駆動部
14 支持部
20 回転板
20a 表面
20b 裏面
21 撹拌翼
22 カバー管
23 貫通孔
24 網状部材
25 ポンプ
26 供給管路
27 排出管路
30 制御部
F 袋
21(A) 第1撹拌翼
21(B) 第2撹拌翼
31 弾性部材
32 吹出口
40 噴射口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁及び該底壁に立設され上側に開口を形成する側壁を有するとともに上下方向に延びる中心軸を中心として回転対称に形成され解凍液を収容する解凍槽と、該解凍槽に収容した解凍液を撹拌する撹拌機構とを備え、上記解凍槽に冷凍品を入れ上記撹拌機構により解凍液を撹拌しながら冷凍品の解凍を行う冷凍品の解凍装置において、
上記撹拌機構を、上記解凍槽の中心軸を軸線とする回転軸と、該回転軸に設けられ該回転軸の回転により上記底壁の底面側で上記回転軸を中心として外側に向かいながら旋回する方向の解凍液の液流を生成する撹拌部と、上記回転軸を回転駆動する駆動部とを備えて構成し、
上記解凍槽の側壁の内面に、該側壁の上下方向に延びる突条を所定間隔で複数突設したことを特徴とする冷凍品の解凍装置。
【請求項2】
上記各突条を、上記解凍槽の側壁の内面に該解凍槽の中心軸と平行に突設するとともに、該中心軸を中心として等角度関係で配置したことを特徴とする請求項1記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項3】
上記撹拌部を、上記回転軸に直交する表面及び裏面を有し上記底壁の底面側に配置されて該回転軸に設けられる回転板と、上記回転板の表面及び裏面の少なくともいずれか一方に立設される複数枚の撹拌翼とを備えて構成したことを特徴とする請求項1または2記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項4】
上記撹拌翼を、上記回転軸を中心として等角度関係で配置したことを特徴とする請求項3記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項5】
上記回転板に、該回転板の裏面側から表面側に向かう解凍液の噴出流を生じさせる貫通孔を上記回転軸を中心として等角度関係で複数設けたことを特徴とする請求項3または4記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項6】
上記貫通孔を、上記回転板の上記各撹拌翼間に夫々設けたことを特徴とする請求項5記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項7】
上記撹拌部を覆う網状部材を備えたことを特徴とする請求項1乃至6何れかに記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項8】
上記回転板の表面に上記撹拌翼を等間隔で4以上の偶数枚設けるとともに、該撹拌翼として所定高さの第1撹拌翼と、該第1撹拌翼より高さの低い第2撹拌翼とを備え、該第1撹拌翼及び第2撹拌翼を交互に配置し、上記第1撹拌翼に支持されるように上記回転板上の各撹拌翼を覆う弾性変形可能な網状部材を設けたことを特徴とする請求項3乃至6何れかに記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項9】
上記回転板を覆う網状部材を設け、該回転板の表面と網状部材との間に該網状部材を支持する弾性部材を設けたことを特徴とする請求項3乃至6何れかに記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項10】
上記解凍槽の開口から回転軸を垂下させて上記撹拌部が該解凍槽の底壁上面の近傍に位置するように該回転軸の駆動部を支持する支持部を設けたことを特徴とする請求項1乃至9何れかに記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項11】
上記回転軸に、該回転軸に遊嵌する管状のカバー管を挿通したことを特徴とする請求項10記載の冷凍品の解凍装置。
【請求項12】
内径が順次大きくなる複数のカバー管を順次遊嵌させて上記回転軸に挿通したことを特徴とする請求項11記載の冷凍品の解凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−200187(P2011−200187A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72292(P2010−72292)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(390025793)岩手県 (38)
【出願人】(592108403)石村工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】