説明

冷凍回路及びその改良法

【課題】圧縮機としてスクロール圧縮機を使用し、冷媒として不飽和フッ化炭化水素冷媒を使用し、且つ冷凍機油としてポリアルキレングリコールなどエーテル系潤滑油を使用する冷凍回路において、冷凍回路の詰まりや冷凍性能の低下を引き起こすワックス状の固形物が冷凍回路内に生成するのを防止する。
【解決手段】ポリアルキレングリコールなどのエーテル系潤滑油に対し、炭素原子数8〜25のエポキシアルカンなどの長鎖エポキシアルカンを添加して、ワックス状の固形物が冷凍回路内に生成するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒の全部又は1部としてHFO1234yfに代表される不飽和フッ化炭化水素冷媒を含む冷媒が使用される冷凍回路及びその改良法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置などに用いられる冷凍回路には現状では代表的な冷媒としてフルオロカーボンの一種であるHFC134aが使用されるとともに、代表的な冷凍機油としてポリアルキレングリコール(PAG)が使用されている。
【0003】
現在、世界規模で地球温暖化を防止する取り組みが盛んに進んでいる。特にEU諸国においてはフロンガス規制において、自動車用の代表的な冷媒HFC134aの高い地球温暖化係数(GWP1430)に対する規制を進め、2012年以降の新型車へのこの冷の使用の禁止を、また2017年以降には全ての車両へのこの冷媒の使用禁止を決定した。これを受け、世界各地域に同様の規制が波及している。この動向に対して冷媒メーカー、冷凍機油メーカー及び空調機器メーカーは、安全でありながら地球温暖化係数(GWP)などのさらなる低減と改善を目指して、新冷媒及び新冷媒用冷凍機油の研究・開発が行われている。このような改善を目指した新冷媒として現在、低GWP化を求めて分子内部に不飽和結合を導入し、蒸発温度が−50℃から−10℃の範囲にある不飽和フッ化炭化水素冷媒が次世代の冷媒として開発されている。特に、HFO1234yfやHFO1234zeなどの不飽和フッ化炭化水素冷媒が世界的に採用される見込みが有力である。これらの物質を車両用空調装置などの冷凍回路へ適用できるよう改良を目指した試験研究が盛んになってきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、不飽和フッ化炭化水素冷媒は低GWP値を特長のひとつとする反面、分子内に不飽和結合を有するためHFC134aをはじめとする従来の飽和フッ化炭化水素系冷媒と比較して反応性が高く熱・化学的安定性に乏しい。そこで、本発明者らは、不飽和フッ化炭化水素冷媒の代表例であるHFO1234yfについて、この冷媒を実際の冷凍回路に使用した場合の熱・化学的安定性を確認する実験を行ったところ、圧縮機としてスクロール圧縮機を使用し、冷媒としてHFO1234yfを使用し、且つ冷凍機油として代表的なポリアルキレングリコールを使用した実験系の冷凍回路では、特に高速高負荷条件下において、圧縮機内にワックス状の固形物が生成するのに対し、この実験系の冷凍回路においてスクロール圧縮機をレシプロ圧縮機に置換えた実験系の冷凍回路では、高速高負荷条件下においても、ワックス状の固形物は生成しないという事実を確認した。このワックス状の固形物は、冷凍回路の詰まりや冷凍性能の低下を引き起こすため、冷凍回路の著しい性能低下や故障などの致命的な欠陥になり得る。ワックス状の固形物の生成はHFO1234yfに限られず分子内に同様の不飽和結合を有する他の不飽和フッ化炭化水素冷媒においても生成するものと考えられる。従って、冷凍回路において不飽和フッ化炭化水素冷媒を使用する場合、特に高速高負荷条件下においてもかかるワックス状の固形物が圧縮機内や冷凍回路内に生成するのを防止する必要がある。
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、圧縮機としてスクロール圧縮機を使用し、冷媒として不飽和フッ化炭化水素冷媒を使用し、且つ冷凍機油としてポリアルキレングリコールなどのエーテル系潤滑油を使用する冷凍回路において、冷凍回路の詰まりや冷凍性能の低下の原因となるワックス状の固形物が冷凍回路内に生成するのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはワックス状の固形物の化学分析を行い、この固形物は融点が約50℃〜72℃の低分子量の重合パラフィンであることを確認した。本発明者らはこの分析結果に基づきワックス状の固形物の生成メカニズムを次のように推定している。すなわち、スクロール圧縮機では旋回スクロールの旋回運動に伴って旋回スクロールの渦巻体と固定スクロールの渦巻体とが高温高圧の冷媒ガスの作用に対抗するために相互に強く押圧された状態で摺動するため、使用する冷凍機油には高度の潤滑性能が要求されるところ、HFO1234yfなどの不飽和結合を有する冷媒に対するポリアルキレングリコールなどのエーテル系潤滑油の潤滑性能はスクロール圧縮機にとって必ずしも充分ではない。このため、高温高負荷条件下において、旋回スクロールの旋回運動に伴い圧縮機構部の摺動表面に局部的に金属活性表面が露出し易くなる。一方、不飽和フッ化炭化水素冷媒は反応性が高く熱・化学的安定性に乏しい。その結果、露出した金属活性表面が反応触媒として作用して、スクロール圧縮機の圧縮機構部内において高温高圧の冷媒ガス雰囲気下で不飽和フッ化炭化水素冷媒とエーテル系潤滑油のポリオキシアルキレン構造との反応を誘起し、その結果不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解と分解物たる重合性オレフィンの生成が起こり、更にこの重合性オレフィンが圧縮機内部の圧力および熱のもとで金属活性表面の重合触媒作用を受けて重合して重合パラフィンを生成するものと推定される。また、不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解により生成するフッ化水素は不飽和フッ化炭化水素冷媒の更なる分解を助長する触媒として作用するものと推定される。従って、ワックス状の固形物の生成を防止するためには、エーテル系潤滑油の潤滑性能の不足をポリオキシアルキレン構造を有しない他の潤滑油性成分の併用により補うことが有効な手段となり得る。また、不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解により生成するフッ化水素を捕捉する酸捕捉剤を使用することも有効な手段となり得る。本発明者らはこの観点から各種化合物について検討し、長鎖脂肪族エポキシアルカンがワックス状の固形物の生成防止に非常に効果的である事実を見出した。本発明はかかる技術的知見と着想に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明の冷凍回路は、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機を備える冷凍回路において、前記冷媒がその一部又は全部として不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有し、冷凍機油がポリオキシアルキレン構造を有するエーテル系潤滑油からなり、前記エーテル系潤滑油が長鎖脂肪族エポキシアルカンを含有することを特徴としている。この発明によれば、前記エポキシアルカンが、圧縮機の運転に伴い引き起される不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解と重合性分解物の重合に起因する重合パラフィンの生成とを防止する重合パラフィン防止剤として機能する。
【0008】
また、本発明の冷凍回路の改良法は、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機を備える冷凍回路の改良法において、前記冷媒がその一部又は全部として不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有し、冷凍機油がポリオキシアルキレン構造を有するエーテル系潤滑油からなり、前記エーテル系潤滑油が長鎖エポキシアルカンを含有することにより、前記圧縮機の運転に伴い引き起される前記不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解と重合性分解物の重合に起因する重合パラフィンの生成とを防止することを特徴としている。
【0009】
上記構成において熱・化学的安定性が特に低い分子末端にCH2=CH−又はCH2=CF−の基を有する不飽和フッ化炭化水素冷媒が用いられる場合にも、重合パラフィンの生成を効果的に防止できる。また、上記構成において不飽和フッ化炭化水素冷媒として代表的なHFO1234yf及びHFO1234zeが用いられる場合にも、重合パラフィンの生成を効果的に防止できる。上記構成において、長鎖エポキシアルカンとしては、炭素原子数8〜25のエポキシアルカンが好ましい。
【0010】
本発明の冷凍回路及びその改良法は、家電、住宅空調、流通分野などに利用されるあらゆる冷凍回路に適用可能であり、特に車両空調装置用冷凍回路として好適である。車両空調装置用冷凍回路において本発明を適用することにより、HFO1234yfなどの不飽和フッ化炭化水素冷媒を使用して環境負荷を低減し且つ従来と同様の動作安定性を達成した冷凍回路を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧縮機としてスクロール圧縮機を使用し、冷媒として不飽和フッ化炭化水素冷媒を使用し、且つ冷凍機油としてポリオキシアルキレン構造を有するエーテル系潤滑油を使用する冷凍回路において、エーテル系潤滑油の潤滑性能の不足を長鎖エポキシアルカンの併用により補うとともに、不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解により生成し冷媒の更なる分解を助長するフッ化水素を長鎖エポキシアルカンのエポキシ基で捕捉することにより、圧縮機構部の摺動に伴う金属活性表面の露出を防止して、これにより圧縮機構部内において高温高圧の冷媒ガス雰囲気下で不飽和フッ化炭化水素冷媒とエーテル系潤滑油のポリオキシアルキレン構造とが露出した金属活性表面の触媒作用を受けて反応することを防止でき、その結果冷凍回路の詰まりや冷凍性能の低下の原因となる重合パラフィンの生成を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が対象とする冷凍回路の基本的な機器配置例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は車両用空調装置などに用いられる冷凍回路の基本的な構成を示している。図1において、冷凍回路1は、冷媒を圧縮する圧縮機2と、圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器3と、凝縮した冷媒を減圧・膨張させる減圧・膨張手段としての膨張弁4と、減圧・膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器5とを備えており、この冷凍回路1中を冷媒がその状態を変化させながら循環される。
【0014】
本発明で使用するスクロール圧縮機には特に制限はない。圧縮機の構成材料として鉄系材料のほか、アルミニウム、マグネシウム又はその合金などの軽金属系材料が使用可能である。圧縮機構部において可動側のスクロールは慣性力を低減させるために鉄系材料よりも比重が小さなアルミニウム、マグネシウム又はその合金などの軽金属系材料が使用される場合が多い。これらの鉄系材料や軽金属系材料はいずれも純粋の金属素材の状態では高い反応性に富んでいるが、通常はその表面は酸化被膜で覆われて金属素材の活性が抑えられた状態にある。しかし、冷凍機油の潤滑性能が不充分であると、酸化被膜が旋回スクロールの旋回運動に伴う摩擦などにより失われて金属活性表面が露出する。金属活性表面が露出すると、その金属素材の高い反応性のために、この金属活性表面は極めて高い触媒作用を呈する。従って、高温高圧状態の冷媒雰囲気下でエーテル系潤滑油と不飽和フッ化炭化水素冷媒とがこの金属活性表面に接触すると、この金属活性表面の触媒作用を受けてエーテル系潤滑油のポリオキシアルキレン構造と不飽和フッ化炭化水素冷媒が反応する。この反応により不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解と分解物たる重合性オレフィンの生成が起こり、更にこの重合性オレフィンが金属活性表面の重合触媒作用を受けて高温高圧の冷媒ガス雰囲気下で重合して重合パラフィンを生成することになる。しかしながら、本発明によれば、エーテル系潤滑油は長鎖エポキシアルカンを含有し、この長鎖エポキシアルカンは高温高圧の冷媒ガス雰囲気下でも不飽和フッ化炭化水素冷媒と反応することはないので、エーテル系潤滑油の潤滑性能の不足を補って金属活性表面の露出を防止する一方、不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解により生成し冷媒の更なる分解を助長するフッ化水素と反応してこれを消失させ、これにより不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解と分解物たる重合性オレフィンの生成を防止するとともに、重合性オレフィンの重合による重合パラフィンの生成を防止する。
【0015】
本発明で使用される不飽和フッ化炭化水素冷媒としては、例えば1,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFC−1234ye);1,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFC−1234ze);2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFC−1234yf);1,1,2,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFC−1234yc);1,1,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFC−1234zc);2,3,3−トリフルオロ−1−プロペン(HFC−1243yf);3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン(HFC−1243zf);1,1,2−トリフルオロ−1−プロペン(HFC−1243yc);1,1,3−トリフルオロ−1−プロペン(HFC−1243zc);1,2,3−トリフルオロ−1−プロペン(HFC−1243ye);1,3,3−トリフルオロ−1−プロペン(HFC−1243ze);3,3,3−トリフルオロプロペン(HFC−1243zf)などのハイドロフルオロプロペン:2,3,3,4,4,4−ヘキサフルオロ−1−ブテン(CF3CF2CF=CH2);3,3,3−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−1−プロペン(CH2=C(CF3)2);1,1,1,3,4−ペンタフルオロ−2−ブテン(CF3CH=CFCH2F);3,3,4,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン(CF3CF2CH=CH2);2,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン(CH2=CFCF2CHF2);3,3,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン(CH2=CHCF2CHF2);3,3−ジフルオロ−2−(ジフルオロメチル)−1−プロペン(CH2=C(CHF2)2);3,3,4,4,4−ペンタフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−1−ブテン(CH2=C(CF3)CF2CF3);3,4,4,4−テトラフルオロ−3−(トリフルオロメチル)−1−ブテン((CF3)2CFCH=CH2);2,4,4,4−テトラフルオロ−3−(トリフルオロメチル)−1−ブテン(CH2=CFCH(CF3)2);4,4,4−トリフルオロ−3−(トリフルオロメチル)−1−ブテン(CH2=C(CF3)CH2CF3)などのハイドロフルオロブテン:3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CF3CF2CF2CH=CH2);2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH2=CFCF2CF2CHF2);3,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−1−ペンテン(CH2=CHCF2CHFCF3);4,5,5,5−テトラフルオロ−4−(トリフルオロメチル)−1−ペンテン(CH2=CHCH2CF(CF3)2)などのハイドロフルオロペンテン: 3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキセン(CF3CF2CF2CF2CH=CH2);4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1−ヘキセン(CH2=CHCH2CF2CF2CF5)などのハイドロフルオロヘキセンが挙げられる。不飽和フッ化炭化水素冷媒の中でも特に分子末端にCH2=CH−又はCH2=CF−の基を有するものはポリオキシアルキレン構造を有するエーテル系潤滑油とスクロール圧縮機内で反応して重合パラフィンを生成させる程度が分子末端にこれらの基を有しないものよりも顕著である。従って、これらの基を有する不飽和フッ化炭化水素冷媒を使用する冷凍回路に対し本発明の適用は特に有効である。
【0016】
上記化合物は単独又は2種以上の混合物として使用される。また、上記化合物とともには飽和ハロゲン化炭化水素冷媒又は炭化水素冷媒を併用することも可能である。代表的な飽和フッ化炭化水素冷媒ならびに炭化水素系冷媒としては、例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)、1,1−ジフルオロエタン(R152a)、ジフルオロメタン(R32)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,1−トリフルオロエタン(R143a)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(R227ea)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(R365mfc)、2,2,−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン(R123)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(R245fa)、1,2−ジクロロ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(R124)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(R236fa)が挙げられる。代表的な炭化水素冷媒としては、例えばプロパン、プロピレン、シクロプロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、2−メチルブタン(イソペンタン)、シクロブタン、シクロペンタン、2,2−ジメチルプロパン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、2,3−ジメチルペンタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2−メチルペンタン、3−エチルペンタン、3−メチルペンタン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、メチルシクロペンタン、およびn−ヘキサンが挙げられる。
【0017】
本発明で使用される長鎖エポキシアルカンとしては、例えば1,2−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシノナデカンなどの炭素原子数8〜25のエポキシアルカンが好ましい。長鎖エポキシアルカンのエーテル系潤滑剤に対する添加量は0.5〜15重量が好ましく、封入冷媒量に対する添加量は0.1〜3重量%が好ましい。
【実施例】
【0018】
本発明による重合パラフィンの生成防止効果は以下の実施例及び比較例により確認することができる。実施例及び比較例において図1に示される冷凍回路が用いられる。冷凍回路のスクロール圧縮機はアルミニウム合金製の固定スクロールとアルミニウム合金製にアルマイト処理された旋回スクロールとを備えている。冷凍回路内にHFO1234yf冷媒を所定量充填し、スクロール圧縮機内に表1に記載の処方の混合物を所定量充填する。実施例及び比較例のエーテル系潤滑油には極圧剤としてリン酸トリクレシルを潤滑油に対し1.0%添加する。スクロール圧縮機の回転数を6000rpmに設定し、この回転速度で400時間に亘って冷凍回路を連続運転する。運転終了後に圧縮機内及び冷凍回路の配管内を点検してワックス状の固形物(重合パラフィン)の生成の有無を確認する。この確認実験により表1に記載の結果が得られる。表1の効果の欄における判定基準は次の通りである。
○:目視で確認できる固形物は存在しない。
×:目視で確認できる固形物が存在する。
【0019】
【表1】


上表において、PPGはポリプロピレングリコールを主構造として分子末端をエーテル変性処理したポリアルキレングリコールを表し、%は封入冷媒量に対する重量%を表す。
【0020】
表1に示すように、実施例1〜8のようにエーテル系潤滑油(PPG)に重合パラフィン防止剤として長鎖エポキシアルカンを添加する場合には、回転数6000rpm、連続運転時間400時間の高温高負荷条件下においても、重合パラフィンは発生しないのに対し、比較例にように長鎖エポキシアルカンを添加しない場合には、同条件下において、重合パラフィンが発生する。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は家電、住宅空調、流通分野などに利用されるあらゆる冷凍回路に適用可能であり、特に車両空調装置用冷凍回路において、HFO1234yfなどの不飽和フッ化炭化水素冷媒を使用して環境負荷を低減し且つ従来と同様の動作安定性を達成した冷凍回路を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0022】
1 冷凍回路
2 圧縮機
3 凝縮器
4 減圧・膨張手段としての膨張弁
5 蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機としてスクロール圧縮機を備える冷凍回路において、前記冷媒はその一部又は全部として不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有し、冷凍機油がポリオキシアルキレン構造を有するエーテル系潤滑油からなり、前記エーテル系潤滑油が、長鎖エポキシアルカンを含有することを特徴とする冷凍回路。
【請求項2】
冷媒を圧縮する圧縮機としてスクロール圧縮機を備える冷凍回路の改良法において、前記冷媒がその一部又は全部として不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有し、冷凍機油がポリオキシアルキレン構造を有するエーテル系潤滑油からなり、前記エーテル系潤滑油が長鎖エポキシアルカンを含有することにより、前記圧縮機の運転に伴い引き起される前記不飽和フッ化炭化水素冷媒の分解と重合性分解物の重合に起因する重合パラフィンの生成とを防止することを特徴とする冷凍回路の改良法。
【請求項3】
前記不飽和フッ化炭化水素冷媒が分子末端にCH2=CH−又はCH2=CF−の基を有する不飽和フッ化炭化水素冷媒である請求項1又は2に記載の冷凍回路又は冷凍回路の改良法。
【請求項4】
前記不飽和フッ化炭化水素冷媒がHFO1234yf及びHFO1234zeの少なくとも1種である請求項1又は2に記載の冷凍回路又は冷凍回路の改良法。
【請求項5】
前記長鎖エポキシアルカンが炭素原子数8〜25のエポキシアルカンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の冷凍回路又は冷凍回路の改良法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57886(P2011−57886A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210260(P2009−210260)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】