説明

冷凍機・冷温水機の冷却水の処理方法及び装置

【課題】 薬品を用いずに、安価かつ確実に、スケール析出を防止して、高濃縮運転を可能にする。
【解決手段】
冷凍機・冷温水機10へ冷却水を送り、冷凍機・冷温水機からの排冷却水を冷却するための冷却塔12において、冷却塔で冷却された冷却水の一部を導入して精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかの処理を行うためのろ過装置14と、冷却塔とろ過装置との間に設けられた冷却水循環ポンプ16とを備え、冷凍機・冷温水機10の循環冷却水の一部を精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかで処理することにより、冷却水中の粒子状スケール成分を予め除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機又は冷温水機(以下、冷凍機・冷温水機と記す)の冷却水の処理方法及び装置、詳しくは、冷凍機・冷温水機の冷却水系の水処理方法及び処理装置に係り、スケール特にシリカ系スケールの析出防止を行うことにより、冷却水の高濃縮運転を実現できるようにして、補給水コストの低減を図ることができるようにした冷却水の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スケール成分の析出防止技術として、冷却水の濃縮管理、結晶成長阻害剤添加といった一般的な水処理方法の他、晶析法、逆浸透膜(NF膜、RO膜)による膜分離、磁場処理、電解装置、金属溶出、電気分解、超音波処理等、様々な処理方法が提案されているが、環境負荷を抑えて、安価に安定的にスケール析出防止効果が得られる冷却水処理方法・高濃縮運転方法は存在していない。
【0003】
従来、一般的には、冷却水処理における固液分離処理は、除濁用途や限外ろ過の前処理等の補助的な処理として認識されており、スケール析出防止効果があることは全く認知されていない。従来は、懸濁物質及びスラッジの除去目的であり(例えば、特許文献1参照)、スケール析出防止効果はないとされている(例えば、特許文献2参照)。また、RO膜処理においても、本発明において用いられるMF膜(精密ろ過膜)等の膜は、RO膜の閉塞防止のためのSS(浮遊物質)除去用途のプレフィルターとして用いられており(例えば、特許文献3参照)、単独の処理でスケール析出防止効果は期待されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3512108号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2002−54894号公報(第2頁、図1)
【特許文献3】特許第3731555号公報(第2頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、環境負荷が低く、すなわち、薬品を用いずに、安価にかつ確実にスケール析出を防止して高濃縮運転を可能とする冷凍機・冷温水機の冷却水の処理方法及び装置は開発されていない点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、冷却水中のスケール成分が粒子として水中に存在する段階で捕集・除去することで、結晶として析出することを防ぎ、高濃縮運転を実現することを最も主要な特徴とする。本発明は、特に、薬品を用いてもスケール析出防止が困難なシリカに対して効果的である。すなわち、本発明は、冷却水系において、冷却水をスケール成分粒子除去装置であるろ過装置で処理することを特徴とする処理方法及び装置であり、精密〜一般ろ過レベルの粒子を捕集することで目的を達成する。
【0007】
本発明の冷凍機・冷温水機の冷却水の処理方法は、冷凍機・冷温水機の循環冷却水の一部を精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかで処理することにより、冷却水中の粒子状スケール成分が凝集・沈澱を起こす前に除去することを特徴としている。
【0008】
この方法において、粒径0.01μm、好ましくは0.1μm以上の粒子状スケール成分を除去することが望ましい。また、循環冷却水量の0.03〜5%を処理するすることが望ましい。
【0009】
また、本発明の冷凍機・冷温水機の冷却水の処理装置は、冷凍機・冷温水機へ冷却水を送り、冷凍機・冷温水機からの排冷却水を冷却するための冷却塔において、冷却塔で冷却された冷却水の一部を導入して精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかの処理を行うためのろ過装置とを備えたことを特徴としている。なお、ろ過装置として、0.01μm以上の粒子状スケール成分を除去する精密ろ過装置を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記のように構成されているので、つぎのような効果を奏する。
(1)スケール成分が粒子として水中に存在する段階で捕集・除去することで、結晶として析出することを防ぎ、高濃縮運転を実現することができる。
(2)精密〜一般ろ過レベルによる安価な処理で目的を達することができる。
(3)薬品を用いてもスケール析出防止が困難なシリカに対しても高い効果を有する。
(4)薬品を用いずに節水効果が得られることから、環境負荷を抑えてランニングコストの低減が可能である。
(5)プレフィルターの設置や薬品投入といった前処理が必ずしも必要では無く、装置の小型化や処理の簡素化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の実施の第1形態による冷凍機・冷温水機の冷却水の処理装置の概略構成図である。
【図2】図2は実験例に用いた循環冷却水系の概略構成図である。
【図3】図3は本発明の実施の第2形態による冷凍機・冷温水機の冷却水の処理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
冷却水系のスケールの析出を防止して、冷却水の高濃縮運転を可能とし、補給水コストの低減を図るという目的を、循環冷却水の一部を精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかで処理することにより、冷却水中の粒子状スケール成分を予め除去することにより実現した。
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は下記の実施の形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施できるものである。図1は、本発明の実施の第1形態による冷凍機・冷温水機の冷却水の処理装置の概略構成図である。
【0014】
10は、冷凍機・冷温水機で、この冷凍機・冷温水機10へ冷却塔(クーリングタワー)12から冷却水を送り、冷凍機・冷温水機10からの排冷却水を冷却塔12で冷却する。14はろ過装置で冷却塔12で冷却された冷却水の一部を導入して精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかの処理を行うためのものである。また、冷却塔12とろ過装置14との間に冷却水循環ポンプ16が設けられている。18は冷却水、20はファンである。
【0015】
ろ過装置14においては、ろ過精度0.01μm以上の精密ろ過膜及びろ過精度25μmまでの一般ろ過膜の少なくともいずれかが用いられる。
【0016】
上記のように構成された装置において、冷凍機・冷温水機10の循環冷却水の一部を精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかで処理することにより、冷却水中の粒子状スケール成分を予め除去する。
【0017】
この場合、粒径0.1μm以上の粒子状スケール成分を除去することが望ましい。粒径0.01μm未満の粒子状スケール成分は、比較的、安定的に水中浮遊して存在しており、直ちに結晶化して析出する傾向にない為、強いて除去する必要はなく、0.1μm以上となってから除去すればよい。
また、循環冷却水量の0.03〜5%を処理することが望ましい。循環冷却水量の0.03%未満を処理する場合は、処理水量が少なすぎて、冷却水中の粒子状スケール成分を充分に除去することができない。また、循環冷却水量の5%を超える量を処理する場合は、効果の割りには、循環ポンプ及びろ過装置が大型になりすぎる。循環冷却水量の5%を上限とすることで、十分効果を奏することができる。
使用する膜のろ過精度と冷却水の処理割合がこの条件の範囲内である場合、スケール析出防止効果が期待できるが、冷却水水質や冷凍機・冷温水機の運転条件によってスケール結晶の析出の程度が異なる為、上記の条件を外れた場合でも、スケール析出防止効果が得られることはあり得る。
【0018】
循環冷却水において、カルシウム・マグネシウム・シリカ等のスケール成分は、当初、イオンとして水に溶けているが、冷凍機・冷温水機の運転に伴い、冷却水の水分が蒸発することで、スケール成分濃度が高くなる。それに伴い、スケール成分はイオンとして水に溶けている状態から水に不溶性の物質(微細な粒子として水中に浮遊)に変化し、最終的に、結晶化して機械内部にスケールとして析出する。従来の分離技術では、イオンの状態で除去することでスケール結晶の析出を防止するのに対し、本発明では、結晶として成長しつつある過程、つまり帯電微粒子として水中に浮遊している状態で捕集・除去する。従って、従来の膜分離技術の様に、凝集を促進させる前処理は省略することができ、処理装置の簡素化が図れる。
なお、本技術は、水の蒸発に伴う溶解成分の濃縮を生じる水の処理であれば、冷却水以外の水においても、スケール成分の析出防止に有効である。
【0019】
本発明では、冷却水系においてスケール成分析出防止処理装置であるろ過装置により冷却水を処理し、高濃縮運転を可能にする。また、本発明は、シリカ、カルシウム等のスケール成分の多い補給水を用いる冷却水系統に適する。また、本発明に用いるスケール成分析出防止処理装置であるろ過装置は、一定粒径以上の粒子を捕集可能であれば良く、ろ材を用いるろ過方式、繊維ろ過、膜ろ過方式、遠心分離法式などの装置が利用できる。装置の具体例としては、中空糸膜を用いたろ過装置を挙げられる(装置フローは図1を参照)。この場合、内圧ろ過・外圧ろ過、吸引ろ過、クロスフローろ過・全量ろ過の何れの方式も適用可能である。また、ろ過装置には、膜の洗浄等による通水回復機能を設けることもできる。
【0020】
ろ過装置の設備は、冷却水系統にバイパスラインを設けて設置してもよく、又は、冷却塔に別系統を設けて設置しても良い。望ましくは、冷却水系統の二次側から取水し、処理水を一次側へ戻すことであるが、冷却塔の受水槽に循環できる系統を設けても良い。また、必要に応じて、スケール成分防止剤、防藻剤、スライム抑制剤、抗レジオネラ薬剤及び防食剤を併用しても良い。さらに、殺菌装置(過酸化水素・オゾン発生、紫外線照射、金属溶出等)との併用も可能である。安定的にスケールの析出防止効果を得るためには、自動フロー装置による冷却水の濃縮管理を併用することが好ましい。又、捕集物の凝集やろ過装置の安定処理を目的とした前処理工程を設けることもできる。
【実施例1】
【0021】
冷房能力:200RTの一般空調用設備を用いた。水処理装置であるろ過装置の処理頻度は循環水量の0.6%とした。電気伝導度:13mS/m、カルシウム硬度:15mgCaCO3 /L、イオン状シリカ濃度:48mgSiO2 /L、塩化物イオン濃度:10mgCl/Lの地下水を補給水とし、導電率監視による濃縮管理を行い、導電率の上限値を45mS/mとして制御した。7〜8月の最盛期における一ケ月間の凝縮器の冷媒温度と冷却水出口温度差(L.T.D)の上昇は、0.15℃であった。
また、水分析結果では、カルシウム硬度およびイオン状シリカ濃度共にスケール析出を示す濃度低下は見られず、散水槽・充填材及び冷却塔内部へのスケール付着も、目視観察では確認されなかった。なお、ろ過装置内のろ過膜としてろ過精度0.85μmの中空糸膜を用いた。
【実施例2】
【0022】
冷房能力:210RTの一般空調用設備を用いた。水処理装置であるろ過装置の処理頻度は循環水量の0.1%とした。電気伝導度:13mS/m、カルシウム硬度:15mgCaCO3 /L、イオン状シリカ濃度:48mgSiO2 /L、塩化物イオン濃度:10mgCl/Lの地下水を補給水とし、導電率監視による濃縮管理を行い、導電率の上限値を45mS/mとして制御した。7〜8月の最盛期における一ケ月間の凝縮器の冷媒温度と冷却水出口温度差(L.T.D)の上昇は、0.22℃であった。
また、水分析結果では、カルシウム硬度およびイオン状シリカ濃度共にスケール析出を示す濃度低下は見られず、散水槽・充填材及び冷却塔内部へのスケール付着は、目視観察では確認されなかった。なお、ろ過装置内のろ過膜としてろ過精度0.1μmの中空糸膜を用いた。
【比較例1】
【0023】
冷房能力:210RTの一般空調用設備を用いた。カルシウム硬度:15mgCaCO3 /L、イオン状シリカ濃度:48mgSiO2 /L、塩化物イオン濃度:10mgCl/Lの地下水を補給水とし、セラミックボールによる水処理と、導電率監視による濃縮管理を行い、導電率の上限値を36mS/mとして制御した。7〜8月の最盛期における一ケ月間の凝縮器の冷媒温度と冷却水出口温度差(L.T.D)の上昇は、0.56℃であった。また、冷却塔内部でのスケールの析出が見られた。
【0024】
つぎに、図2に示す装置を用いて実験を行った。22は水槽、24は循環ポンプ、26はフィルタ、28はガラス管、30はヒータである。
図2に示す循環冷却水系のミニチュアモデルを用いて、スケール付着防止効果の評価を行った。用いた冷却水系は、保有水量が5Lであり、内径30mmのガラス管28をヒータ30の中へ通し、熱負荷部とした。補給水は、市水に塩化カルシウムを加えて、カルシウム硬度として:5000mgCaCO3 /Lに調整し、循環水の流量を5L/分とした。循環水温度を35℃一定に調整し、210時間の運転終了後にガラス管28を取り外して、乾燥したのち秤量し、試験前後の重量差からスケールの付着量を求めた。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1より、ろ過精度を小さくし、又は/及びろ過頻度を大きくすることにより、スケール付着量が減少することがわかる。
【0027】
図3は本発明の実施の第2形態による装置を示している。図3に示すように、循環ポンプを省略することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
冷凍機・冷温水機において、スケールの析出防止を行うことにより、補給水コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0029】
10 冷凍機・冷温水機
12 冷却塔
14 ろ過装置
16 循環ポンプ
18 冷却水
20 ファン
22 水槽
24 循環ポンプ
26 フィルタ
28 ガラス管
30 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機・冷温水機の循環冷却水の一部を精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかで処理することにより、冷却水中の粒子状スケール成分が析出する前に予め除去することを特徴とする冷凍機・冷温水機の冷却水の処理方法。
【請求項2】
0.01μm以上の粒子状スケール成分を除去する請求項1記載の冷凍機・冷温水機の冷却水の処理方法。
【請求項3】
循環冷却水量の0.03〜5%を処理する請求項1又は2記載の冷凍機・冷温水機の冷却水の処理方法。
【請求項4】
冷凍機・冷温水機へ冷却水を送り、冷凍機・冷温水機からの排冷却水を冷却するための冷却塔において、冷却塔で冷却された冷却水の一部を導入して精密ろ過及び一般ろ過の少なくともいずれかの処理を行うためのろ過装置とを備えたことを特徴とする冷凍機・冷温水機の冷却水の処理装置。
【請求項5】
ろ過装置が0.01μm以上の粒子状スケール成分を除去する精密ろ過装置である請求項4記載の冷凍機・冷温水機の冷却水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−253360(P2010−253360A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104686(P2009−104686)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000199887)川重冷熱工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】