説明

冷却水フィルタエレメントおよび冷却水フィルタ

【課題】 内燃機関の冷却水系に用いられる水質保全薬剤を配置した冷却水フィルタおいては、腐食および水垢の付着によるカビ等の微生物の増殖により藻が発生し、水質保全効果の低下やフィルタの目詰まりによる寿命の低下をもたらす。
【解決手段】 銀を担持した濾材をプリーツ加工し、その両端部を接合して筒状となし、濾過体2を形成し、その上下端に端板5,6を配設・固着してフィルタエレメント1を形成し、フィルタエレメント1の内部に水質保全用薬剤7を配置した冷却水フィルタエレメント10を形成し、このような冷却水フィルタエレメント10を、入口12c,出口12dを有する容器15内に配設し、さらにフィルタエレメント1内部に多数の孔を有するマグネット8を配置した冷却水フィルタ20を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内燃機関等の冷却水フィルタに関する。特に内燃機関等の冷却水系における腐食および水垢付着防止のため防錆剤および水質軟化剤等を収容した冷却水フィルタの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
実公昭62−21287号公報に開示されているように、内燃機関の冷却水の水質の維持・改良を目的として、水入口と水出口を有する蓋板を、環状の囲い板を介して、一端閉鎖、他端開放の筒型ケーシングの開放端に固定しフィルタ容器となし、その内部にひだ折り濾紙または繊維塊からなる環状濾材の両端面を端板で挟着し、環状濾材の内周面に多孔円筒を配置するとともに、多孔円筒の内側に、防錆剤(例えば亜硝酸塩または硼酸塩)を布袋詰めしたものおよび水質軟化剤(粒状のイオン交換樹脂)すなわち水質保全薬剤を収容、または防錆剤(例えば亜硝酸塩または硼酸塩)と高分子電解質(例えば、スチレン無水マレイン酸ポリマーあるいはポリメタアクリル酸塩)からなる固形の水質保全薬剤を収容してなる冷却水フィルタが用いられている。
【0003】
また、特開昭60−190206号公報に開示されているように、ほぼコップ形の本体(ケーシング)と、ねじ山によって本体にねじ込み式に取付けられた蓋とからなる(フィルタ)容器内に、硝酸銀の状態である銀といった静菌物質がフィルター全体に含浸され、有底のキャンドル形セラミックフィルター(第3フィルター)と、その外側に、紙基材上に木炭を付着させ、螺旋状に巻かれた活性炭フィルター(第2フィルター)と、さらにその外側に、ひだ付き紙フィルターからなるプレフィルター(第1フィルター)が順次配設されてなる浄水用濾過器が知られている。
【0004】
【特許文献1】実公昭62−21287号公報
【特許文献2】特開昭60−190206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実公昭62−21288号公報に開示の冷却水フィルタでは、フィルタの内部に水質保全用薬剤が配置されているので、内燃機関の冷却水系における腐食および水垢の付着防止を図って、冷却水の水質の維持・改良を達成することができる。しかしながら、このものではカビ等の微生物の増殖を許し、その結果藻の発生を促し、これが、水質保全効果の低下やフィルタの目詰まりによる寿命の低下をもたらしている。
【0006】
一方、特開昭60−190206号公報に開示されているように、有底のキャンドル形セラミックフィルター(第3フィルター)全体に、硝酸銀の状態である銀といった静菌物質を含浸する技術が確立されており、銀に静菌作用があることが一般に知られている。しかしながら、特開昭60−190206号公報に開示の技術は、円筒状のフィルターに硝酸銀を含浸させたものであるので、濾過面積が小さく、その結果銀の含浸量が少なく、従って効果の持続時間が少なく、しかもこのフィルター部分での冷却水等の通過(濾過)流速が速いので、冷却水と銀との接触時間が少ないものとなっていた。従って静菌作用において十分とは言えないものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、請求項1に係る発明は、銀が担持されてなる濾材をプリーツ加工し、その両端部を接合して筒状の濾過体となし、上下端をシールしてフィルタエレメントを形成し、フィルタエレメントの内部に水質保全用薬剤を配置した冷却水フィルタエレメントである。請求項2の発明は、前記冷却水フィルタエレメントを、入口,出口を有するフィルタ容器内に配設した冷却水フィルタで、請求項3の発明は、前記冷却水フィルタのフィルタエレメントの内側すなわちクリーンサイドにマグネットを配置した冷却水フィルタで、さらに、請求項4の発明は、フィルタエレメントの外側すなわちダーティーサイドにマグネットを配置した冷却水フィルタである。
【0008】
冷却水は入口から流入し、フィルタエレメントを通過し、出口から流出する。冷却水中の塵埃,粒径の大きな鉄分・錆等は、フィルタエレメントを通過するとき捕集され、さらに、濾材中に担持された銀の作用によりカビ等の微生物の増殖を抑制して、藻などの発生を抑えるように作用する。銀は、プリーツ状に形成された濾材の広い面積にわたって担持されているので、冷却水の通過流速が遅くなり、カビ等の微生物の増殖に対する抑制効果が大きく、長時間にわたって効果が持続する。冷却水はフィルタエレメントのクリーンサイドに達し、フィルタエレメント内に入った冷却水は、水質保全用薬剤を溶かして冷却水内に含有した状態となり、冷却水の水質の維持・改良をなすように作用する。さらにマグネットは、フィルタエレメントを通過する前または通過後に鉄分・錆を補足する。
【発明の効果】
【0009】
本願発明は、フィルタエレメントの内部に水質保全用薬剤が配置されているので、内燃機関の冷却水系等における腐食および水垢付着防止を図って、冷却水の水質の維持・改良を達成することができるとともに、フィルタエレメントのプリーツ状に形成された濾材に担持された銀の作用により、長時間にわたってカビ等の微生物の増殖を押えるので、藻の発生を抑制する。その結果、水質保全効果の持続、フィルタエレメントおよび冷却水フィルタの長寿命化をもたらす。
【0010】
請求項3の発明は、前記効果に加え、フィルターの前段階で、冷却水中に含まれる鉄粉,錆の捕集が行われるので、更なる水質保全効果の持続、冷却水フィルタエレメントおよび冷却水フィルタの長寿命化をもたらし、請求項4の発明は、前記効果に加え、フィルタの後段階でフィルタエレメントを通過した鉄粉や錆の捕集が行われるので、これらの物質の除去性能の向上をはかることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであつて、以下、図面に示す実施するための最良の形態により、本発明を詳細に説明する。
図1において、フィルタエレメント1は、不織布または濾紙等からなるシート状の濾材をプリーツ加工し、その両端部を接合して菊花形筒状の濾過体2となし、その内側に多孔体からなる筒状のインナーチューブ3、外側にアウターチューブ4が配設され、さらに上,下端にそれぞれ上端板5、下端板6を配設・接合して形成される。上,下端板5,6は、皿状でステンレス,樹脂,紙等からなり、上端板5は、中央に冷却水の通る孔を有し、内・外周にそれぞれ同じ高さ寸法に形成された内周立上り部5a、外周立上り部5bを有し、下端板6は、中央部に上面が平坦に形成された凸部6aを有し、外周に凸部6aと同じ高さの外周立上り部6bを有している。フィルタエレメント1の濾過体2を構成する濾材は、銀が担持(添着、含浸またはメッキ等)されたアクリル繊維(殺菌機能繊維)とレーヨン繊維とからなり、ニードルパンチまたはバインダーとしてポリアクリルエステル樹脂が用いられてつくられたものである。
【0012】
フィルタエレメント1のインナーチューブ3の内側に、内部に円筒状に成型された水質保全用薬剤7が配置されている。インナーチューブ3の上方には内向きビード状の環状の凸部3aが形成され、この環状の凸部3aと上端板5の内周立ち上がり部5a下端との間に円板状のマグネット8が配設される。マグネット8は多数の孔を有し、この孔が流体の通路となる。フィルタエレメント1,水質保全用薬剤7およびマグネット8とで冷却水フィルタエレメント10を構成する。
【0013】
図2において、ボデー11は、ダイキャストまたは樹脂からなりカップ状で、開放端部外面にはねじ山11aを有し、ボデー11の底壁中央部には後述の押圧スプリング14の保持のための凸状のガイド11bが形成される。カバー12は、ボデー11と同様にダイキャストまたは樹脂からなり、逆皿状で、内周面にボデー11のねじ山11aに嵌合するねじ山12aを、中央部下面にエレメント1の取り付けのための筒状ガイド12bを有し、さらに、上面外方にパイプ状の流体の入口12c、上面中央部にパイプ状の流体の出口12dを有する。
ボデー11とカバー12とは、ボデー11の開放端とカバー12の底壁の外周部内面との間にパッキン16を介在させて、それぞれのねじ山11a,12aが螺着されフィルタ容器15が構成される。冷却水フィルタエレメント10は、ボデー11の保持ガイド11bに配設されたコイル状のスプリング14を介し、また、カバー12の筒状ガイド12bの外周面に配設された環状のパッキン13を介して配設・固定されて、本発明に係る冷却水フィルタ20が構成される。
【0014】
冷却水はカバー12の入口12cから流入し、フィルタエレメント1を通過し、マグネット8の孔を経由して、カバー12の出口12dから流出する。冷却水中の塵埃,粒径の大きな鉄分・錆等は、フィルタエレメント1の濾過体2を通過するとき捕集され、さらに、濾材中に担持された銀の作用によりカビ等の微生物の増殖を抑制して、藻などの発生を防止する。銀は、プリーツ状に形成された広い面積の濾材に担持されているので、冷却水の通過流速が遅くなり、抑制効果が大きく、長時間にわたって効果が持続する。冷却水フィルタエレメント10内(クリーンサイド)に入った冷却水は水質保全用薬剤7を溶かし込み、薬剤が冷却水内に含有した状態となり、冷却水の水質の維持・改良をなすように作用する。さらにマグネット8で、フィルタエレメント1を通過した鉄分・錆を補足して出口12dから流出する。
【0015】
図3は、冷却水フィルタエレメントの他の実施の態様を示すもので、前記実施の態様と異なる部分に付いてのみ説明する。
前記実施の態様のものが、マグネットがフィルタエレメントのクリーンサイドで、流路の出口側に設けられているのに対して、本態様に係る冷却水フィルタエレメント30では、流路を有しない単に円板状のマグネット28が、フィルタエレメント21のダーティーサイドで、下端板6の中央に形成された凸部6aの下面側に形成される凹部に配置・固定される。それに伴ってインナーチューブには環状の凸部(図1における3a)が不要となり、単に円筒状のインナーチューブ23が配置されている。他の構成は前記実施の態様のものと同じ構成となっている。マグネット28の取付けは、凸部6aの下面側の凹部に圧入や接着剤で固定される。
【0016】
このような冷却水フィルタエレメント30は、前記実施の態様のものと同じフィルタ容器15内に収納されて用いられる。この実施の形態のものでは、マグネット28がフィルタエレメント21の外側に配置されおり、冷却水中の鉄分や錆を事前に補足するので、冷却水フィルタエレメント30の濾過寿命の延長をはかることができる。
【0017】
図4は、さらに他の実施の形態を示すもので、上端板を用いることなく濾過体の上端面をカバー内面に直接接着・固定するようにして、カバーがフィルタエレメントの上端板の兼ねた構成にするとともに、マグネットをフィルタエレメントの下端板中央下面に配置したものである。
すなわち、本発明の実施の形態に係る発明は、パイプ状の入口51aを有するカップ状のボディー51(2部品で構成され、ロー付け構造)の開放端に、パイプ状の出口52aを有するカバー52(2部品で構成され、ロー付け構造)を加締め止めして形成されるフィルタ容器55内に後述の冷却水フィルタエレメント50が配設される。ボデー51、カバー52は共にステンレス材で構成されている。カバー52は逆皿状で、加締め前の形状は外周部の断面形状が階段状に形成されるとともに、さらにその外周部がつば状に形成されており、このつば部とボデー51の開放端に形成されたフランジ部とが互いに加締め止めされて固定され、図4に示すようになる。
なお、カバー52の中央部分には、2本の環状ビードが形成されており、カバー52の剛性の向上がはかれるようになっている。
【0018】
フィルタエレメント41は、不織布または濾紙等からなるシート状の濾材をプリーツ加工し、その両端部を接合して菊花形筒状の濾過体42となし、その内側に多孔体からなる筒状のインナーチューブ43、外周にアウターチューブ44が配設され、さらに、濾過体42の下端には、中央部上面が平坦に形成された凸部46aを有し、外周に凸部46aと同じ高さの外周立上り部46bを有してなる下端板46を配設・接合して形成され、さらに、濾過体42の上端は、前記カバー52の底部下面に配設・接合される。すなわち本実施の形態のものにおいては、フィルタエレメントの上端板の機能をカバー52に持たせるようにしたものである。フィルタエレメント41のインナーチューブ43の内部に円筒状に成型された水質保全用薬剤47が配置され、さらにフィルタエレメント41の下端板46の凸部46aの下面側には、円板状のマグネット48が配設・固着されて冷却水フィルタエレメント50が構成される。
このような冷却水フィルタエレメント50は、フィルタ容器55内に配設・固着されて冷却水フィルタ60を構成する。
【0019】
この実施の形態のものの作用は、前記実施の形態の場合とほぼ同じであるが、冷却水の入口51aがマグネット48の真下に位置するので、鉄分や錆の補足効果が大きくなる。また、フィルタエレメント41の上端板の機能をカバー52に兼ねさせたので、部品点数が少なくできコストの安いものとなる。
【0020】
なお、上記実施の形態における濾材では、銀メッキが施されたアクリル繊維が含まれた銀添不織布の例を示したが、一般の不織布や濾紙内に銀粉末を混入して形成されたものでも、特開昭60−190206号公報に開示の硝酸銀の状態である銀をフィルター全体に含浸させたものでもよい。また、濾材は銀が担持された繊維を含む濾材(不織布,濾紙)のみからなっていてもよく、さらに、濾材はニードルパンチまたはバインダーを介して形成されてもどちらでもよい。
さらにまた、上記各実施の形態においては、プリーツ状に形成された濾過体の上・下端に端板を配設・固着したものを示したが、端板を設けることなく、濾過体の上・下端部を接着あるいは溶着してシールするような構造にしてもよい。
【0021】
水質保全用薬剤6は、布袋内に粉末状のものを入れたものでもいいし、固形状に成形されたものでも何れでもよい。また、マグネットは、フィルタエレメントの内側や外側さらにフィルタ容器の内壁に取付けるようにしてもよく、マグネットの形状は、下端板の外径と同じ大きさにしたり、ドーナツ状にしたり、さらにフィルタエレメントのインナーチューブやアウターチューブを兼ねたものであってもよく、表面積が大きい方が、錆や鉄粉を多く吸着させることができる。また、マグネットは、冷却水の噴出し口の対向する位置に設けると、冷却水が直接突き当たるので、捕集効果が大きい。フィルタエレメントの端板やフィルタ容器が鉄製である場合は、マグネットにつながる部分全体が磁気化されるので、鉄分や錆の捕集面が広くなるので、鉄分や錆の捕集効果が大となる。
フィルタ容器は冷却水フィルタエレメントを収納するフィルタ容器の形はどのようなものであってもよく、実公昭62−21288号公報に開示のような水入口と水出口を有する蓋板を、環状の囲い板を介して、一端閉鎖、他端開放の筒型ケーシングの開放端に固定したフィルタ容器内に配設したものすなわちカートリッジタイプであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明は、内燃機関用の冷却水だけでなく、その他の冷却水フィルタ全般に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明を実施するための形態に係るフィルタエレメントを示す断面図。
【図2】は、同フィルタエレメントを配置した冷却水フィルタを示す断面図。
【図3】この発明を実施するための他の形態を示す断面図。
【図4】この発明を実施するためのさらに他の形態を示す断面図。
【符号の説明】
【0024】
1,21,41 フィルタエレメント
2,42 濾過体
7,47 水質保全用薬剤
8,28,48 マグネット
10,30,50 冷却水フィルタ
12c,51a 入口
12d,52a 出口
15,55 フィルタ容器
20,60 冷却水フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀が担持されてなる濾材をプリーツ加工し、その両端部を接合して筒状の濾過体となし、上下端をシールしてフィルタエレメントを形成し、フィルタエレメントの内部に水質保全用薬剤を配置した冷却水フィルタエレメント。
【請求項2】
銀が担持されてなる濾材をプリーツ加工し、その両端部を接合して筒状の濾過体となし、上下端をシールしてフィルタエレメントを形成し、フィルタエレメントの内部に水質保全用薬剤を配置した冷却水フィルタエレメントを、入口,出口を有するフィルタ容器内に配設してなる冷却水フィルタ。
【請求項3】
銀が担持されてなる濾材をプリーツ加工し、その両端部を接合して筒状の濾過体となし、上下端をシールしてフィルタエレメントを形成し、フィルタエレメントの内部に水質保全用薬剤およびマグネットを配置した冷却水フィルタエレメントを、入口,出口を有するる容器内に配設しなる冷却水フィルタ。
【請求項4】
銀が担持されてなる濾材をプリーツ加工し、その両端部を接合して筒状の濾過体となし、上下端をシールしてフィルタエレメントを形成し、フィルタエレメントの内部に水質保全用薬剤を配置した冷却水フィルタエレメントを、入口,出口を有するる容器内に配設するとともに冷却水流路のダーティーサイドにを配置してなる冷却水フィルタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−244981(P2007−244981A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70885(P2006−70885)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(598138729)ウエノテック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】