冷却装置
【課題】冷暖房能力と発熱源の冷却能力とを確保しつつ圧縮機の消費動力を低減できる、発熱源の冷却装置を提供する。
【解決手段】HV機器31を冷却する冷却装置1は、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とを備える。冷却装置1はまた、冷暖房時で冷媒の流れを切り換える四方弁13を備える。冷却装置1はまた、熱交換器14と膨張弁16との間に並列に接続された冷媒の経路である第一通路および第二通路と、第二通路上に設けられHV機器31を冷却する冷却部30と、冷媒通路41と、冷媒通路43,45と、を備える。冷媒通路41は、圧縮機12と熱交換器14との間の冷媒の経路と、冷却部30に対し熱交換器14に近接する側の第二通路と、を連通する。冷媒通路43,45は、膨張弁16と熱交換器18との間の冷媒の経路と、冷却部30に対し膨張弁16に近接する側の第二通路と、を連通する。
【解決手段】HV機器31を冷却する冷却装置1は、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とを備える。冷却装置1はまた、冷暖房時で冷媒の流れを切り換える四方弁13を備える。冷却装置1はまた、熱交換器14と膨張弁16との間に並列に接続された冷媒の経路である第一通路および第二通路と、第二通路上に設けられHV機器31を冷却する冷却部30と、冷媒通路41と、冷媒通路43,45と、を備える。冷媒通路41は、圧縮機12と熱交換器14との間の冷媒の経路と、冷却部30に対し熱交換器14に近接する側の第二通路と、を連通する。冷媒通路43,45は、膨張弁16と熱交換器18との間の冷媒の経路と、冷却部30に対し膨張弁16に近接する側の第二通路と、を連通する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置に関し、特に、蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して発熱源を冷却する冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題対策の一つとして、モータの駆動力により走行するハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車などが注目されている。このような車両において、モータ、ジェネレータ、インバータ、コンバータおよびバッテリなどの電気機器は、電力の授受によって発熱する。そのため、これらの電気機器を冷却する必要がある。そこで、車両用空調装置として使用される蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して、発熱体を冷却する技術が提案されている。
【0003】
たとえば特開平9−290622号公報(特許文献1)には、車両搭載の発熱部品からの廃熱を回収して、ガスインジェクション用の冷媒に吸熱させることにより、低外気温時における暖房能力を、消費電力の増大を抑制しつつ、効果的に向上する技術が開示されている。特開平11−223406号公報(特許文献2)には、パワートランジスタなどの発熱体の廃熱をヒートポンプサイクルの冷媒に吸収させる構成が開示されている。特開2007−69733号公報(特許文献3)には、膨張弁から圧縮機へ至る冷媒通路に、空調用の空気と熱交換する熱交換器と、発熱体と熱交換する熱交換器と、を並列に配置し、空調装置用の冷媒を利用して発熱体を冷却するシステムが開示されている。
【0004】
特開2005−90862号公報(特許文献4)には、空調用の冷凍サイクルの減圧器、蒸発器および圧縮機をバイパスするバイパス通路に、発熱体を冷却するための発熱体冷却手段を設けた、冷却システムが開示されている。特開2001−309506号公報(特許文献5)には、車両走行モータを駆動制御するインバータ回路部の冷却部材に車両空調用冷凍サイクル装置の冷媒を還流させ、空調空気流の冷却が不要な場合に車両空調用冷凍サイクル装置のエバポレータによる空調空気流の冷却を抑止する、冷却システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−290622号公報
【特許文献2】特開平11−223406号公報
【特許文献3】特開2007−69733号公報
【特許文献4】特開2005−90862号公報
【特許文献5】特開2001−309506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外気温が極めて低い場合に蒸気圧縮式冷凍サイクルを使用して暖房運転を行なうと、減圧器で減圧された冷媒の圧力が低くなり、圧縮機の圧縮比が増大して圧縮効率が低くなり消費動力が増大する。また圧縮機の吐出ガス温度も高くなり、内部の電線絶縁材や潤滑油が劣化し悪影響を与える問題がある。圧縮機の消費動力を悪化させないためには、暖房能力を犠牲にしなければならない問題がある。
【0007】
上記特許文献1に記載の技術では、中間圧の冷媒を発熱部品の廃熱で蒸発させ、圧縮機にガスインジェクションすることにより、圧縮機の圧縮動力を抑制している。しかし、ガスインジェクションされる分の冷媒は直接圧縮機に導入されるため、冷房運転時に室内熱交換器に供給される冷媒量が減少し、冷房能力が低下する。冷媒流量を増加させれば冷房能力を確保できるが、その分圧縮機の消費動力が増加してしまう。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、冷暖房能力と発熱源の冷却能力とを確保しつつ圧縮機の消費動力を低減できる、発熱源の冷却装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る冷却装置は、発熱源を冷却する冷却装置であって、冷媒を循環させるための圧縮機と、冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器と、冷媒を減圧する減圧器と、冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器と、を備える。冷却装置はまた、圧縮機から第一熱交換器へ向かう冷媒の流れと、圧縮機から第二熱交換器へ向かう冷媒の流れと、を切り換える四方弁を備える。冷却装置はまた、第一熱交換器と減圧器との間に並列に接続された冷媒の経路である第一通路および第二通路と、第二通路上に設けられ、冷媒を用いて発熱源を冷却する冷却部と、第一連通路と、第二連通路と、を備える。第一連通路は、圧縮機と第一熱交換器との間の冷媒の経路と、冷却部に対し第一熱交換器に近接する側の第二通路と、を連通する。第二連通路は、減圧器と第二熱交換器との間の冷媒の経路と、冷却部に対し減圧器に近接する側の第二通路と、を連通する。
【0010】
上記冷却装置において好ましくは、冷却部と減圧器との間を流通する冷媒の経路に設けられ、冷媒と外気との間で熱交換する第三熱交換器を備える。
【0011】
上記冷却装置において好ましくは、第一熱交換器と冷却部との間を流通する冷媒の経路に設けられた第二減圧器を備える。
【0012】
上記冷却装置において好ましくは、冷却部に対し第一熱交換器に近接する側の第二通路に配置された気液分離器を備える。第一連通路の一端は、気液分離器の気相中に配置されていてもよい。
【0013】
上記冷却装置において好ましくは、冷却部から第一連通路に向けて流通する冷媒の圧力を上昇させる昇圧機を備える。
【0014】
上記冷却装置において好ましくは、冷媒が圧縮機から第二熱交換器へ向けて流通するように四方弁を設定したとき、第一熱交換器に冷媒が流通しないように冷媒の経路を切り換える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の冷却装置によると、冷暖房能力と発熱源の冷却能力とを確保しつつ、圧縮機の消費動力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1の冷却装置の構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図3】四方弁を切り換えた状態の冷却装置を示す模式図である。
【図4】実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクルの暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図5】実施の形態2の冷却装置の構成を示す模式図である。
【図6】実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図7】四方弁を切り換えた状態の実施の形態2の冷却装置を示す模式図である。
【図8】実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクルの暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図9】実施の形態3の冷却装置の構成を示す模式図である。
【図10】実施の形態3の蒸気圧縮式冷凍サイクルの暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図11】実施の形態4の冷却装置の構成を示す模式図である。
【図12】四方弁を切り換えた状態の実施の形態4の冷却装置を示す模式図である。
【図13】実施の形態4の蒸気圧縮式冷凍サイクルの暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の冷却装置1の構成を示す模式図である。図1に示すように、冷却装置1は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を備える。蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、たとえば、車両の車内の冷暖房を行なうために、車両に搭載される。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた冷房は、たとえば、冷房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動的に車両の室内の温度を設定温度になるように調整する自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも高い場合に行なわれる。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた暖房は、たとえば、暖房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも低い場合に行なわれる。
【0019】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12と、第一熱交換器としての熱交換器14と、減圧器の一例としての膨張弁16と、第二熱交換器としての熱交換器18と、を含む。蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、四方弁13を含む。四方弁13は、圧縮機12から熱交換器14へ向かう冷媒の流れと、圧縮機12から熱交換器18へ向かう冷媒の流れと、を切り換え可能に配置されている。
【0020】
圧縮機12は、車両に搭載されたモータまたはエンジンを動力源として作動し、冷媒ガスを断熱的に圧縮して過熱状態冷媒ガスとする。圧縮機12は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の作動時に流通する気相冷媒を吸入圧縮して、高温高圧の気相冷媒を吐出する。圧縮機12は、冷媒を吐出することで、蒸気圧縮式冷凍サイクル10に冷媒を循環させる。
【0021】
熱交換器14,18は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器14,18の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンと、を含む。熱交換器14,18は、車両の走行によって発生する自然の通風によって供給された空気流れ、またはファンによって供給された空気流れと、冷媒と、の間で熱交換を行なう。
【0022】
膨張弁16は、高圧の液相冷媒を小さな孔から噴射させることにより膨張させて、低温・低圧の霧状冷媒に変化させる。膨張弁16は、凝縮された冷媒液を減圧して、気液混合状態の湿り蒸気とする。なお、冷媒液を減圧するための減圧器は、絞り膨張する膨張弁16に限られず、毛細管であってもよい。
【0023】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、冷媒通路21〜26を含む。冷媒通路21は、圧縮機12と四方弁13とを連通する。冷媒は、冷媒通路21を経由して、圧縮機12から四方弁13へ向かって流通する。冷媒通路22は、四方弁13と熱交換器14とを連通する。冷媒は、冷媒通路22を経由して、四方弁13と熱交換器14との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路23は、熱交換器14と膨張弁16とを連通する。冷媒は、冷媒通路23を経由して、熱交換器14と膨張弁16との一方から他方へ向かって流通する。
【0024】
冷媒通路24は、膨張弁16と熱交換器18とを連通する。冷媒は、冷媒通路24を経由して、膨張弁16と熱交換器18との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路25は、熱交換器18と四方弁13とを連通する。冷媒は、冷媒通路25を経由して、熱交換器18と四方弁13との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路26は、四方弁13と圧縮機12とを連通する。冷媒は、冷媒通路26を経由して、四方弁13から圧縮機12へ向かって流通する。
【0025】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12、熱交換器14、膨張弁16および熱交換器18が、冷媒通路21〜26によって連結されて構成される。なお、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒としては、たとえば二酸化炭素、プロパンやイソブタンなどの炭化水素、アンモニアまたは水などを用いることができる。
【0026】
熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路には、第一通路としての冷媒通路23aと、第二通路と、が並列に接続されて設けられている。冷媒通路23aは、熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路を形成する冷媒通路23の一部を形成する。第二通路上には、冷却部30が設けられている。冷却部30は、熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路上に設けられている。冷却部30は、車両に搭載される電気機器であるHV(Hybrid Vehicle)機器31と、冷媒が流通する配管である冷却通路32と、を含む。HV機器31は、発熱源の一例である。熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒の経路が分岐して、冷媒の一部が冷却部30へ流通する。
【0027】
冷却通路32へ冷媒を流通するための経路として、冷媒通路33,34,35および36が設けられている。冷却通路32の一方の端部は、冷媒通路34に接続される。冷却通路32の他方の端部は、冷媒通路35に接続される。冷媒通路33と冷媒通路34とは、三方弁42を介して連通されている。冷媒通路35と冷媒通路36とは、三方弁46を介して連通されている。冷媒通路33,34と冷媒通路35,36との一方を経由して、冷媒通路23から冷却通路32へ冷媒が流通する。冷却通路32を流通してHV機器31と熱交換した後の冷媒は、冷媒通路33,34と冷媒通路35,36との他方を経由して、冷媒通路23へ戻る。
【0028】
冷媒通路23aと並列に接続される第二通路は、冷却部30よりも熱交換器14に近接する側の冷媒通路33,34と、冷却部30に含まれる冷却通路32と、冷却部30よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路35,36と、を含む。冷媒は、冷媒通路33,34を経由して、冷媒通路23と冷却部30との間を流通する。冷媒は、冷媒通路35,36を経由して、冷却部30と冷媒通路23との間を流通する。
【0029】
熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒は、冷却通路32を経由して流れる。冷媒は、冷却通路32内を流通するとき、HV機器31から熱を奪って、HV機器31を冷却させる。冷却部30は、冷却通路32によってHV機器31と冷媒との間で熱交換が可能な構造を有するように設けられる。本実施の形態においては、冷却部30は、たとえば、HV機器31の筐体に冷却通路32の外周面が直接接触するように形成された冷却通路32を有する。冷却通路32は、HV機器31の筐体と隣接する部分を有する。当該部分において、冷却通路32を流通する冷媒と、HV機器31との間で、熱交換が可能となる。
【0030】
HV機器31は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路の一部を形成する冷却通路32の外周面に直接接続されて、冷却される。冷却通路32の外部にHV機器31が配置されるので、冷却通路32の内部を流通する冷媒の流れにHV機器31が干渉することはない。そのため、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の圧力損失は増大しないので、圧縮機12の動力を増大させることなく、HV機器31を冷却することができる。
【0031】
代替的には、冷却部30は、HV機器31と冷却通路32との間に介在して配置された任意の公知のヒートパイプを備えてもよい。この場合HV機器31は、冷却通路32の外周面にヒートパイプを介して接続され、HV機器31から冷却通路32へヒートパイプを経由して熱伝達することにより、冷却される。HV機器31をヒートパイプの加熱部とし冷却通路32をヒートパイプの冷却部とすることで、冷却通路32とHV機器31との間の熱伝達効率が高められるので、HV機器31の冷却効率を向上できる。たとえばウィック式のヒートパイプを使用することができる。
【0032】
ヒートパイプによってHV機器31から冷却通路32へ確実に熱伝達することができるので、HV機器31と冷却通路32との間に距離があってもよく、HV機器31に冷却通路32を接触させるために冷却通路32を複雑に配置する必要がない。その結果、HV機器31の配置の自由度を向上することができる。
【0033】
熱交換器14と膨張弁16との間を冷媒が流通する経路として、冷却部30を通過する冷媒の経路である冷媒通路33〜36および冷却通路32と、冷却部30を通過しない冷媒の経路である冷媒通路23aと、が並列に設けられる。冷媒通路33〜36および冷却通路32を含むHV機器31の冷却系は、冷媒通路23aと並列に接続されている。熱交換器14と膨張弁16との間を冷却部30を経由せずに流れる冷媒の経路と冷却部30を経由して流れる冷媒の経路とを並列に設け、一部の冷媒のみを冷媒通路33〜36へ流通させることで、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒の一部のみが冷却部30へ流れる。
【0034】
冷却部30においてHV機器31を冷却するために必要な量の冷媒を冷媒通路33〜36へ流通させ、全ての冷媒が冷却部30に流れない。したがって、HV機器31は適切に冷却され、HV機器31が過冷却されることを防止できる。また、冷媒通路33〜36および冷却通路32を含むHV機器31の冷却系への冷媒の流通に係る、圧力損失を低減することができる。それに伴い、冷媒を循環させるための圧縮機12の運転に必要な消費電力を低減することができる。
【0035】
HV機器31は、電力の授受によって発熱する電気機器を含む。電気機器は、たとえば、直流電力を交流電力に変換するためのインバータ、回転電機であるモータジェネレータ、蓄電装置であるバッテリ、バッテリの電圧を昇圧させるためのコンバータ、バッテリの電圧を降圧するためのDC/DCコンバータなどの、少なくともいずれか一つを含む。バッテリは、リチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池等の二次電池である。バッテリに代えてキャパシタが用いられてもよい。
【0036】
熱交換器18は、空気が流通するダクト90の内部に配置されている。熱交換器18は、冷媒とダクト90内を流通する空調用空気との間で熱交換して、空調用空気の温度を調節する。ダクト90は、ダクト90に空調用空気が流入する入口であるダクト入口91と、ダクト90から空調用空気が流出する出口であるダクト出口92と、を有する。ダクト90の内部の、ダクト入口91の近傍には、ファン93が配置されている。
【0037】
ファン93が駆動することにより、ダクト90内に空気が流通する。ファン93が稼働すると、ダクト入口91を経由してダクト90の内部へ空調用空気が流入する。ダクト90へ流入する空気は、外気であってもよく、車両の室内の空気であってもよい。図1中の矢印95は、熱交換器18を経由して流通し、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒と熱交換する空調用空気の流れを示す。冷房運転時には、熱交換器18において空調用空気が冷却され、冷媒は空調用空気からの熱伝達を受けて加熱される。暖房運転時には、熱交換器18において空調用空気が加熱され、冷媒は空調用空気へ熱伝達することにより冷却される。矢印96は、熱交換器18で温度調節され、ダクト出口92を経由してダクト90から流出する、空調用空気の流れを示す。
【0038】
冷房運転時には、図1に示すA点、B点、C点、D点およびE点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とが冷媒通路21〜26によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0039】
図2は、実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図2中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図2中には、圧縮機12から熱交換器14を経由して冷媒通路23へ流入し、HV機器31を冷却し、冷媒通路23へ戻り膨張弁16、熱交換器18を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,C,DおよびE点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0040】
図2に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器14へと流れる。
【0041】
熱交換器14へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器14において外気と熱交換して冷却される。冷媒は、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(C点)。熱交換器14は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器14において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器14における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。
【0042】
熱交換器14で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路33、三方弁42および冷媒通路34を順に経由して冷却部30へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒の過冷却度が小さくなる。つまり、HV機器31から顕熱を受けて過冷却液の状態の冷媒の温度が上昇し、液冷媒の飽和温度に近づき、飽和温度をわずかに下回る温度にまで加熱される(D点)。その後冷媒は、冷媒通路35,三方弁46および冷媒通路36を順に経由して冷媒通路23へ戻り、冷媒通路23を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16を通過することで、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(E点)。
【0043】
膨張弁16から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路24を経由して熱交換器18へ流入する。熱交換器18のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、熱交換器18のチューブ内を流通する際に、フィンを経由して空調用空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって、等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。冷媒は、熱交換器18において周囲から吸熱し加熱される。気化した冷媒は、冷媒通路25を経由して四方弁13へ流れ、さらに冷媒通路26を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0044】
なお、上述した蒸気圧縮式冷凍サイクルの説明では、理論冷凍サイクルについて説明しているが、実際の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12における損失、冷媒の圧力損失および熱損失を考慮する必要があるのは勿論である。
【0045】
冷房運転時に、熱交換器18は、その内部を流通する霧状冷媒が気化することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気の熱を吸収する。熱交換器18は、膨張弁16によって絞り膨張され減圧された低温低圧の冷媒を用いて、冷媒の湿り蒸気が蒸発して冷媒ガスとなる際の気化熱を、車両の室内へ流通する空調用空気から吸収して、車両の室内の冷房を行なう。熱が熱交換器18に吸収されることによって温度が低下した空調用空気が車両の室内に流入することによって、車両の室内の冷房が行なわれる。
【0046】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10の運転中に、冷媒は、熱交換器18において気化熱を空調用空気から吸収して、車室内の冷房を行なう。加えて、熱交換器14から出た高圧の液冷媒が冷却部30へ流通し、HV機器31と熱交換することでHV機器31を冷却する。冷却装置1は、車両に搭載された発熱源であるHV機器31を、車両の室内の空調用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、冷却する。なお、HV機器31を冷却するために必要とされる温度は、少なくともHV機器31の温度範囲として目標となる温度範囲の上限値よりも低い温度であることが望ましい。
【0047】
図1に戻って、冷却装置1は、流量調整弁51を備える。流量調整弁51は、熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒通路23の一部を形成する冷媒通路23aに配置されている。流量調整弁51は、その弁開度を変動させ、冷媒通路23aを流れる冷媒の圧力損失を増減させることにより、冷媒通路23aを流れる冷媒の流量と、冷媒通路33〜36および冷却通路32を流れる冷媒の流量と、を任意に調節する。
【0048】
たとえば、流量調整弁51を全閉にして弁開度を0%にすると、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒の全量が冷媒通路33〜36および冷却通路32へ流入する。流量調整弁51の弁開度を大きくすれば、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒のうち、冷媒通路23aを経由して流れる流量が大きくなり、冷媒通路33〜36および冷却通路32を経由して流れHV機器31を冷却する冷媒の流量が小さくなる。流量調整弁51の弁開度を小さくすれば、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒のうち、冷媒通路23aを経由して流れる流量が小さくなり、冷媒通路33〜36および冷却通路32を経由して流れHV機器31を冷却する冷媒の流量が大きくなる。
【0049】
流量調整弁51の弁開度を大きくするとHV機器31を冷却する冷媒の流量が小さくなり、HV機器31の冷却能力が低下する。流量調整弁51の弁開度を小さくするとHV機器31を冷却する冷媒の流量が大きくなり、HV機器31の冷却能力が向上する。流量調整弁51を使用して、冷却部30に流れる冷媒の量を最適に調節できるので、HV機器31の過冷却を確実に防止することができ、加えて、冷媒通路33〜36および冷却通路32の冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。
【0050】
冷却装置1は、第一連通路としての冷媒通路41を備える。冷媒通路41の一端は、圧縮機12と熱交換器14との間の冷媒の経路である冷媒通路22に接続されている。冷媒通路41が接続されるので、冷媒通路22は、冷媒通路22と冷媒通路41との接続部位よりも四方弁13に近接する側の冷媒通路22aと、当該接続部位よりも熱交換器14に近接する側の冷媒通路22bと、に二分割されている。冷媒通路41の他端は、三方弁42に接続されている。冷媒通路41は、冷却部30へ冷媒を流通させる第二通路のうち、冷却部30に対し熱交換器14に近接する側の冷媒の経路である冷媒通路33,34に、三方弁42を介して接続されている。冷媒通路41は、冷媒通路22と冷媒通路33,34とを連通する。
【0051】
冷媒通路41には、膨張弁47が設けられている。膨張弁47は、膨張弁16と同様に、冷媒を絞り膨張させ、冷媒の比エンタルピーは変化させずに冷媒の温度と圧力とを低下させる。膨張弁47は、第一連通路に配置されている。
【0052】
冷却装置1は、第二連通路を構成する冷媒通路43,45および膨張弁44を備える。
冷媒通路43と冷媒通路45とは、膨張弁44を介して連通している。減圧器(膨張弁16)とは異なる他の減圧器としての膨張弁44は、膨張弁16と同様に、冷媒を絞り膨張させ、冷媒の比エンタルピーは変化させずに冷媒の温度と圧力とを低下させる。膨張弁44は、第二連通路に配置されている。
【0053】
冷媒通路43の一端は膨張弁44に接続され、他端は膨張弁16と熱交換器18との間の冷媒の経路である冷媒通路24に接続される。冷媒通路43が接続されるので、冷媒通路24は、冷媒通路24と冷媒通路43との接続部位よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路24aと、当該接続部位よりも熱交換器18に近接する側の冷媒通路24bと、に二分割されている。
【0054】
冷媒通路45の一端は膨張弁44に接続され、他端は三方弁46に接続される。冷媒通路45は、冷却部30へ冷媒を流通させる第二通路のうち、冷却部30に対し膨張弁16に近接する側の冷媒の経路である冷媒通路35,36に、三方弁46を介して接続されている。冷媒通路43,45および膨張弁44を含む第二連通路は、冷媒通路24と冷媒通路35,36とを連通する。
【0055】
図3は、四方弁13を切り換えた状態の冷却装置1を示す模式図である。図1と図3とを比較して、四方弁13が90°回転することにより、圧縮機12出口から四方弁13へ流入した冷媒が四方弁13を出る経路が切り換えられている。図1に示す冷房運転時には、圧縮機12において圧縮された冷媒は、圧縮機12から熱交換器14へ向かって流れる。一方、図3に示す暖房運転時には、圧縮機12において圧縮された冷媒は、圧縮機12から熱交換器18へ向かって流れる。
【0056】
図1に示す冷房運転時には、第一の弁としての三方弁42は、冷媒通路33と冷媒通路34とを連通し、冷媒通路41と冷媒通路33,34とは連通しないように、開閉を設定される。第二の弁としての三方弁46は、冷媒通路35と冷媒通路36とを連通し、冷媒通路45と冷媒通路35,36とは連通しないように、開閉を設定される。冷房運転時に三方弁42は、冷却部30へ流通する冷媒の経路である第二通路に含まれる冷媒通路33,34と、第一連通路としての冷媒通路41と、の間の冷媒の流通を禁止する。冷房運転時に三方弁46は、第二通路に含まれる冷媒通路35,36と、第二連通路に含まれる冷媒通路43,45と、の間の冷媒の流通を禁止する。
【0057】
一方、図3に示す暖房運転時には、三方弁42は、冷媒通路34と冷媒通路41とを連通し、冷媒通路33と冷媒通路34,41とを連通しないように、開閉を切り換えられる。三方弁46は、冷媒通路35と冷媒通路45とを連通し、冷媒通路36と冷媒通路35,45とを連通しないように、開閉を切り換えられる。暖房運転時に三方弁42は、冷媒通路34と冷媒通路41との間の冷媒の流通を許容する。暖房運転時に三方弁46は、冷媒通路35と冷媒通路43,45との間の冷媒の流通を許容する。
【0058】
そのため暖房運転時には、圧縮機12で断熱圧縮され熱交換器18で空調用空気と熱交換した冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43との二方向へ分岐して流入する。冷媒通路24aへ流入した冷媒は、膨張弁16を通過して冷媒通路23を流通し、熱交換器14を経由して冷媒通路22bへ至る。冷媒通路43へ流入した冷媒は、膨張弁44を通過して冷媒通路45,35を流通し、冷却部30を経由して冷媒通路34を流通し、三方弁42から冷媒通路41へ至る。冷媒通路22bを流れる冷媒と冷媒通路41を流れる冷媒とは、冷媒通路22,41の接続部において合流し、冷媒通路22aへ流通する。
【0059】
つまり、暖房運転時には、図3に示すA点、B点、E点、D点、C点およびJ点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とに冷媒が循環し、かつ、図3に示すA点、B点、E点、F点およびG点を順に通過するように冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器14とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とが順次接続された冷媒循環流路と、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器14とが順次接続された冷媒循環流路と、を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0060】
図4は、実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図4中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図4中には、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁44および冷却部30を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,D,CおよびJ点)における冷媒の熱力学状態が示される。図4中にはまた、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁16および熱交換器14を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,FおよびG点)における冷房の熱力学状態が示される。
【0061】
図4に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器18へと流れる。
【0062】
熱交換器18へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器18において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(E点)。熱交換器18は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器18において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器18における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。冷媒は、熱交換器18において周囲へ放熱し冷却される。
【0063】
熱交換器18で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43とに分岐する。冷媒通路24aへ流通する一部の液相冷媒は、冷媒通路24aを経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器14へ流入する。熱交換器14のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって加熱され、等圧のまま蒸発し、冷媒の乾き度が増大する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(G点)。
【0064】
冷媒通路43へ流通する一部の液相冷媒は、冷媒通路43を経由して膨張弁44に流入する。膨張弁44において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁44において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路45,35を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(C点)。
【0065】
冷却部30から出て冷媒通路34を流通する湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路41を経由して膨張弁47に流入する。膨張弁47において、冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下する(J点)。膨張弁47を通過した後の冷媒の圧力は、膨張弁16を通過して圧力を下げられた後の冷却部30を経由せずに流通する冷媒の圧力と等しくなる。膨張弁47を通過した後の冷媒通路41を流通する湿り蒸気状態の冷媒と、熱交換器14を経由して冷媒通路22bを流通する過熱蒸気状態の冷媒とは、同圧力となる。そのため、冷媒通路41を流通する冷媒と冷媒通路22bを流通する冷媒とは、ともに冷媒通路22aへ流入して混合される。
【0066】
混合された冷媒は、図4に示すJ,G点における圧力と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、冷媒通路22b,41の各々を流通する冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、冷媒通路22b,41を流れる冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、J点における比エンタルピーとG点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(A点)。冷媒通路22aを流通する冷媒は、冷媒通路22b,41を流通する冷媒と等しい圧力を有し、冷媒通路22bを流通する冷媒以下冷媒通路41を流通する冷媒以上の比エンタルピーを有する。
【0067】
その後冷媒は、四方弁13および冷媒通路26を経由して、圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、冷媒通路26から流入する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0068】
暖房運転時に、熱交換器18は、その内部を流通する冷媒蒸気が凝縮することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気へ熱を加える。熱交換器18は、圧縮機12で断熱圧縮された高温高圧の冷媒を用いて、冷媒ガスが凝縮して冷媒の湿り蒸気となる際の凝縮熱を、車両の室内へ流通する空調用空気へ放出して、車両の室内の暖房を行なう。熱交換器18から熱を受け取ることによって温度が上昇した空調用空気が車両の室内に流入することによって、車両の室内の暖房が行なわれる。
【0069】
以上のように、本実施の形態の冷却装置1は、熱交換器18において空調用空気と熱交換することで車両の室内の冷暖房を行なうために設けられた、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を備える。冷房運転時と暖房運転時とで蒸気圧縮式冷凍サイクル10内の冷媒の流れる方向を四方弁13を用いて切り換えることにより、一台の熱交換器18を使用して、冷房運転時と暖房運転時との両方の場合に、車両の室内へ流通する空調用空気の温度を適切に調節できる。空調用空気と熱交換する熱交換器を二台配置する必要がないので、冷却装置1のコストを低減することができ、かつ冷却装置1を小型化することができる。
【0070】
また冷媒は、冷却部30へ流通し、HV機器31と熱交換することでHV機器31を冷却する。冷却装置1は、車両に搭載された発熱源であるHV機器31を、車両の室内の空調用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、冷却する。熱交換器18において空調用空気と熱交換することで車両の室内の冷暖房を行なうために設けられた蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、HV機器31の冷却が行なわれる。
【0071】
HV機器31の冷却のために、専用の水循環ポンプまたは冷却ファンなどの冷却機器を設ける必要はない。そのため、HV機器31の冷却装置1のために必要な構成を低減でき、装置構成を単純にできるので、冷却装置1の製造コストを低減することができる。加えて、HV機器31の冷却のためにポンプや冷却ファンなどの動力源を運転する必要がなく、動力源を運転するための消費動力を必要としない。したがって、HV機器31の冷却のための消費動力を低減することができる。
【0072】
冷房運転時に冷媒は、膨張弁16の出口において、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。熱交換器14は、冷媒を十分に冷却できる程度に、その放熱能力が定められている。膨張弁16を通過した後の冷媒をHV機器31の冷却に使用すると、熱交換器18における空調用空気の冷却能力が減少して車室用の冷房能力が低下するが、本実施の形態の冷却装置1では、熱交換器14において冷媒を十分な過冷却状態にまで冷却し、熱交換器14の出口の高圧の冷媒をHV機器31の冷却に使用する。そのため、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、HV機器31を冷却することができる。
【0073】
熱交換器14の仕様(すなわち、熱交換器14のサイズまたは熱交換性能)は、熱交換器14を通過した後の液相冷媒の温度が車室内の冷房のために必要とされる温度よりも低下するように、定められる。熱交換器14の仕様は、HV機器31を冷却しない場合の蒸気圧縮式冷凍サイクルの熱交換器よりも、冷媒がHV機器31から受け取ると想定される熱量分だけ大きい放熱量を有するように、定められる。このような仕様の熱交換器14を備える冷却装置1は、車両の室内の優れた冷房性能を維持しつつ、圧縮機12の動力を増加させることなく、HV機器31を適切に冷却できる。
【0074】
暖房運転時に冷媒は、熱交換器14において外気から吸熱することにより加熱され、また、冷却部30においてHV機器31から吸熱することにより加熱される。冷却部30と熱交換器14との両方で冷媒を加熱することにより、車両の室内の優れた暖房性能を維持しつつ、HV機器31を適切に冷却できる。冷却部30で冷媒が加熱され、HV機器31の廃熱を室内の暖房に有効利用できるので、成績係数が向上し、より効率よく暖房運転することができる。
【0075】
暖房運転時、冷却部30を通過してHV機器31を冷却する冷媒は、冷媒通路41を経由して圧縮機12と熱交換器14との間の冷媒通路22へ直接流通することができ、熱交換器14へは流通しない。冷媒の一部のみが熱交換器14を流通するように冷媒の経路を構成することにより、圧縮機12の吸入圧力が高められる。図4中に示す破線は、冷媒通路41が設けられず全ての冷媒が熱交換器14へ流れる場合の冷媒の熱力学状態を示す。この破線の場合と比較して、本実施の形態では、圧縮機12の入口における冷媒の圧力が上昇している。
【0076】
圧縮機12の入口での冷媒の圧力を上昇させることで、圧縮効率の低い条件で圧縮機12が作動することを抑制できるので、暖房運転時の圧縮機12での冷媒の断熱圧縮のための消費動力を低減することができる。これに伴い、圧縮機12の吐出ガス温度を低くできるので、圧縮機12の構成部品や潤滑油の劣化を抑制することができる。
【0077】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2の冷却装置1の構成を示す模式図である。実施の形態1と異なり、実施の形態2の冷却装置1は、冷却部30と膨張弁16との間の冷媒の経路に配置された、第三熱交換器としての熱交換器15を備える。
【0078】
熱交換器15が設けられるので、熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒の経路は、熱交換器15よりも熱交換器14に近接する側の冷媒通路23と、熱交換器15よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路27と、に分割されている。冷媒通路23は、熱交換器14と熱交換器15との間を流通する冷媒の経路として設けられている。冷却通路32を含むHV機器31の冷却系である第二通路は、冷媒通路23の一部を形成する冷媒通路23aと並列に接続されている。
【0079】
冷却装置1はまた、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気の状態の冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離する、気液分離器60を備える。気液分離器60へ流入する気液二相状態の冷媒は、気液分離器60の内部において気相と液相とに分離される。気液分離器60は、冷媒を液体状の冷媒液62とガス状の冷媒蒸気61とに分離して、一時的に蓄える。気液分離器60の内部では、冷媒液62が下側、冷媒蒸気61が上側に溜まる。
【0080】
熱交換器14と冷却部30との間を流通する冷媒の経路は、熱交換器14に近接する側の冷媒通路33と、冷却部30に近接する側の冷媒通路34と、を含む。冷媒通路33の一方の端部は、気液分離器60の内部の天井側に配置され、冷媒蒸気61中に配置されている。冷媒通路34の一方の端部は、気液分離器60の内部の底側に配置され、冷媒液62中に浸漬されている。
【0081】
冷房運転時に、飽和液と飽和蒸気とが混合した気液二相状態の湿り蒸気の状態にある冷媒が熱交換器14から流出し、冷媒通路33を通って気液分離器60へ供給される。気液分離器60は、熱交換器14から流出して冷媒通路33を流通する冷媒を、気相冷媒である冷媒蒸気61と液相冷媒である冷媒液62とに分離する。分離された冷媒液62は、冷媒通路34を経由して、気液分離器60の外部へ流出する。気液分離器60内の液相中に配置された冷媒通路34の端部は、液相冷媒の気液分離器60からの流出口を形成する。気液分離器60の底側から冷媒通路34を経由して、冷媒液62のみが気液分離器60の外部へ送り出される。
【0082】
冷媒通路41の一端は、冷媒通路22に接続されている。冷媒通路41の他端は、気液分離器60の内部の、冷媒蒸気61中に配置されており、冷媒通路41を経由して冷媒蒸気61のみを確実に気液分離器60から流出できる構成とされている。冷媒通路41には、冷媒を絞り膨張させて冷媒の温度と圧力とを低下させる膨張弁47が設けられる。冷媒通路48は、気液分離器60と冷媒通路24aとを連通する。冷媒通路48の一端は、気液分離器60の内部に配置され、冷媒液62中に浸漬されている。冷媒通路48の他端は、冷媒通路24aに接続されている。冷媒通路48には、冷媒通路48への冷媒の流通を許容または禁止する開閉弁49が設けられる。冷房運転時には、膨張弁47と開閉弁49とはいずれも閉状態とされている。
【0083】
冷却装置1はさらに、熱交換器14と冷却部30との間の冷媒の経路において、冷媒通路33を連通または非連通の状態にする開閉弁37と、第一減圧器(膨張弁16)とは異なる第二減圧器としての膨張弁38とを備える。膨張弁38は、膨張弁16,44と同様に、冷媒を絞り膨張させ、冷媒の温度と圧力とを低下させる。さらに、膨張弁38をバイパスする冷媒の経路である冷媒通路72と、冷媒通路72上に設けられ冷媒通路72への冷媒の流通を切り換える開閉弁71と、が設けられている。
【0084】
冷房運転時には、図5に示すように、開閉弁37は開状態とされ、開閉弁71は閉状態とされる。熱交換器14において凝縮された冷媒は、冷媒通路33、気液分離器60、冷媒通路34、膨張弁38を経由して、冷却部30へ向かって流通する。冷却部30へ流通し、冷却通路32を経由して流れる冷媒は、HV機器31から熱を奪って、HV機器31を冷却させる。冷却部30は、気液分離器60から出て膨張弁38で減圧された低温低圧の冷媒を用いて、HV機器31を冷却する。
【0085】
冷房運転時には、図5に示すA点、B点、H点、C点、D点、F点およびE点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とが順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0086】
図6は、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図6中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図6中には、圧縮機12から熱交換器14、気液分離器60を経由して冷却部30へ流入し、HV機器31を冷却し、熱交換器15、膨張弁16、熱交換器18を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,H,C,D,FおよびE点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0087】
実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、熱交換器14から膨張弁16へ至る系統を除いて、実施の形態1と同じである。つまり、図2に示すモリエル線図におけるE点からA点を経由してB点へ至る冷媒の状態と、図6に示すモリエル線図におけるE点からA点を経由してB点へ至る冷媒の状態と、は同じである。そのため、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10に特有の、B点からE点へ至る冷媒の状態について、以下に説明する。
【0088】
圧縮機12によって断熱圧縮された高温高圧の過熱蒸気状態の冷媒(B点)は、熱交換器14において冷却される。冷媒は、等圧のまま顕熱を放出して過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になる。熱交換器14から流出した湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路23,33を経由して気液分離器60へ流入する。
【0089】
気液分離器60で、気液二相状態にある冷媒が気液分離され、液相冷媒である冷媒液62のみが気液分離器60から流出し、冷媒通路34へ流れ(H点)、膨張弁38に流入する。膨張弁38において、飽和液状体の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気となる(C点)。膨張弁38において温度が下げられた冷媒は、冷却部30の冷却通路32へ供給される。冷却部30において、熱交換器14を通過して凝縮された液冷媒に熱を放出することで、HV機器31が冷却される。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(D点)。
【0090】
その後冷媒は、熱交換器15に流入する。冷媒の湿り蒸気は、熱交換器15において外気と熱交換することで再度凝縮され、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却された過冷却液になる(F点)。その後膨張弁16を通過することで、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(E点)。
【0091】
気液分離器60から流出する液相冷媒は、過不足の全くない真に飽和液状態の冷媒である。気液分離器60から液相の冷媒のみを取り出し冷却部30へ流すことにより、気液分離器60の上流側に配置された熱交換器14の能力を最大限に活用してHV機器31を冷却することができるので、HV機器31の冷却能力を向上させた冷却装置1を提供することができる。
【0092】
膨張弁38で膨張することにより温度が低下した冷媒を使用してHV機器31を冷却できるので、HV機器31をより効率よく冷却できる。膨張弁38の仕様を最適に選定することにより、冷却部30でHV機器31を冷却する冷媒の温度を任意に調整することができる。HV機器31の冷却に適したより低い温度の冷媒を冷却部30に供給して、HV機器31を冷却することができる。
【0093】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10において、圧縮機12から吐出された高圧の冷媒は、熱交換器14と熱交換器15との両方によって凝縮される。熱交換器15において十分に冷媒を冷却することにより、膨張弁16の出口において、冷媒は、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、熱交換器18において冷媒が蒸発するときに外部から受け取る熱量を十分に大きくすることができる。冷媒を十分に冷却できる熱交換器15の放熱能力を定めることにより、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、HV機器31を冷却することができる。したがって、HV機器31の冷却能力と、車室用の冷房能力との両方を、確実に確保することができる。
【0094】
実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12と膨張弁16との間に熱交換器14が配置され、冷房運転時には、冷房とHV機器31の冷却とに相当する分の熱交換を熱交換器14で行なう必要がある。そのため、熱交換器14において冷媒を飽和液の状態からさらに冷却し、冷媒が所定の過冷却度を有するまで冷却する必要があった。過冷却液の状態の冷媒を冷却すると、冷媒の温度が大気温度に近づき、冷媒の冷却効率が低下するので、熱交換器14の容量を増大させる必要がある。その結果、熱交換器14のサイズが増大し、車載用の冷却装置1として不利になるという問題がある。一方、車両へ搭載するために熱交換器14を小型化すると、熱交換器14の放熱能力も小さくなり、その結果、膨張弁16の出口における冷媒の温度を十分に低くできず、車室用の冷房能力が不足する虞がある。
【0095】
これに対し、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12と膨張弁16との間に二段の熱交換器14,15を配置し、HV機器31の冷却系である冷却部30が熱交換器14と熱交換器15との間に設けられる。熱交換器14では、冷媒を湿り蒸気の状態にまで冷却すればよい。湿り蒸気状態の冷媒が気液分離された飽和液状態の冷媒が膨張弁38を通過して温度と圧力とを下げられ、冷却部30においてHV機器31と熱交換する。
【0096】
HV機器31から蒸発潜熱を受け取り一部気化した湿り蒸気の状態の冷媒は、熱交換器15で再度冷却される。湿り蒸気状態の冷媒を凝縮させ完全に飽和液にするまで、冷媒は一定の温度で状態変化する。熱交換器15はさらに、車両の室内の冷房のために必要な程度の過冷却度にまで、冷媒を冷却する。そのため、実施の形態1と比較して、冷媒の過冷却度を大きくする必要がなく、熱交換器14,15の容量を低減することができる。したがって、車室用の冷房能力を確保でき、かつ、熱交換器14,15のサイズを低減することができるので小型化され車載用に有利な、冷却装置1を得ることができる。
【0097】
図7は、四方弁13を切り換えた状態の実施の形態2の冷却装置1を示す模式図である。図5と図7とを比較して、四方弁13が90°回転することにより、圧縮機12出口から四方弁13へ流入した冷媒が四方弁13を出る経路が、実施の形態1と同様に切り換えられている。図7に示す暖房運転時には、三方弁46は、冷媒通路35と冷媒通路45とを連通し、冷媒通路36と冷媒通路35,45とを連通しないように、開閉を切り換えられる。また、開閉弁37が閉じられ膨張弁38が全閉(開度0%)とされ、膨張弁47が冷媒を適切に絞り膨張するために開度調整され、開閉弁49,71が開かれる。
【0098】
そのため暖房運転時には、熱交換器18で空調用空気と熱交換した冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43との二方向へ分岐して流入する。冷媒通路24aへ流入した冷媒は、膨張弁16を通過して冷媒通路23を流通し、熱交換器15,14を経由して冷媒通路22bへ至る。冷媒通路43へ流入した冷媒は、膨張弁44を通過して冷媒通路45,35を流通し、冷却部30を経由して冷媒通路34,71を流通し、気液分離器60へ流入する。気液分離器60で気液分離された冷媒蒸気61は、気液分離器60から流出して冷媒通路41を流れる。冷媒通路22bを流れる冷媒と冷媒通路41を流れる冷媒とは、冷媒通路22,41の接続部において合流し、冷媒通路22aへ流通する。気液分離器60で気液分離された冷媒液62は、気液分離器60から流出して冷媒通路48を流れ、冷媒通路24aを経由して膨張弁16へ供給される。
【0099】
つまり、暖房運転時には、図7に示すA点、B点、E点、D点、H点、K点およびJ点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とに冷媒が循環し、かつ、図7に示すA点、B点、E点、M点、N点、F点、I点およびG点を順に通過するように冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器15,14とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とが順次接続された冷媒循環流路と、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器15,14とが順次接続された冷媒循環流路と、を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0100】
冷媒通路24aの、冷媒通路24aと冷媒通路43との接続点と、冷媒通路24aと冷媒通路48との接続点と、の間には、流量調整弁52と膨張弁17とが配置されている。流量調整弁52は、その弁開度を変動させ、冷媒通路24aを流れる冷媒の圧力損失を増減させることにより、冷媒通路24aを流れる冷媒の流量と、冷媒通路43,45,35、冷却通路32、冷媒通路34,71、気液分離器60および冷媒通路41を順に流れる冷媒の流量と、を任意に調節する。膨張弁17は、他の膨張弁と同様に、冷媒通路24aを流通する冷媒を絞り膨張させ、冷媒の温度と圧力とを低下させる。
【0101】
実施の形態1で説明した流量調整弁51と同様に、流量調整弁52を使用して、冷却部30に流れる冷媒の量を最適に調節できるので、HV機器31の過冷却を確実に防止することができる。また、冷却部30への冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。さらに、膨張弁16を通過する冷媒と、膨張弁44を通過する冷媒と、の各々の流量を適宜調整できるので、圧縮機12の吸入圧力を最適に設定して、暖房運転時の圧縮機12での冷媒の断熱圧縮のための消費動力を低減することができる。
【0102】
図8は、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図8中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図8中には、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁44および冷却部30を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,D,H,KおよびJ点)における冷媒の熱力学状態が示される。図8中にはまた、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁16および熱交換器15,14を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,M,N,F,IおよびG点)における冷房の熱力学状態が示される。
【0103】
実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、熱交換器18出口から圧縮機12入口へ至る系統を除いて、実施の形態1と同じである。つまり、図4に示すモリエル線図におけるA点からB点を経由してE点へ至る冷媒の状態と、図8に示すモリエル線図におけるA点からB点を経由してE点へ至る冷媒の状態と、は同じである。そのため、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10に特有の、E点からA点へ至る冷媒の状態について、以下に説明する。
【0104】
熱交換器18で空調用空気と熱交換して液化した過冷却液状態の冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43とに分岐する。
【0105】
冷媒通路43へ流通する一部の液相冷媒は、膨張弁44において絞り膨張され、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路45,35を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(H点)。
【0106】
冷却部30から流出した湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路34,72を経由して気液分離器60へ流入する。気液分離器60で、気液二相状態にある冷媒は、冷媒蒸気61と冷媒液62とに気液分離される。気液分離器60は、冷却部30から流出して冷媒通路34を流通する冷媒を、気相冷媒と液相冷媒とに分離する。気液分離器60は、冷却部30において気化された冷媒を液体状の冷媒液62とガス状の冷媒蒸気61とに分離して、一時的に蓄える。
【0107】
飽和蒸気状態の冷媒蒸気61(K点)は、気液分離器60から流出して冷媒通路41へ流れ、膨張弁47に流入する。膨張弁47において、冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下する(J点)。飽和液状態の冷媒液62(L点)は、気液分離器60から流出して、冷媒通路48を経由して冷媒通路24aへ流通する。
【0108】
冷媒通路24bから冷媒通路24aへ流通する一部の液相冷媒は、膨張弁17において絞り膨張され、冷媒の温度と圧力が低下する(M点)。膨張弁17を通過した後の冷媒の圧力は、気液分離器60から流出する冷媒液62の圧力と等しくする。そのため、膨張弁17を通過した気液混合状態の冷媒と、気液分離器60から流出した液相の冷媒とは、共に膨張弁16の上流側の冷媒通路24aに流通する。気液分離器60から冷媒通路48を介して冷媒通路24aへ流れる冷媒と、冷媒通路24bから直接冷媒通路24aへ流れる冷媒とは、膨張弁16入口の冷媒通路24aにおいて混合される。
【0109】
混合された冷媒は、図8に示すL,M点と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、混合される前の各々の冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、混合される前の冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、L点における比エンタルピーとM点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(N点)。N点において冷媒は、L,M点における冷媒と等しい圧力を有し、L点の飽和液状態の冷媒以上、M点の気液混合状態の冷媒以下の比エンタルピーを有する。
【0110】
混合された冷媒はその後、膨張弁16へ流通し、膨張弁16を通過することで絞り膨張され、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路27を経由して熱交換器15へ流入する。熱交換器15のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって等圧のまま蒸発する。熱交換器15における外気との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。熱交換器15において潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(I点)。
【0111】
熱交換器15から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器14へ流入する。熱交換器14のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって加熱され、等圧のまま蒸発し、冷媒の乾き度が増大する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(G点)。
【0112】
膨張弁47において絞り膨張され圧力が下げられた冷媒(J点)は、熱交換器14を経由して冷媒通路22bを流通する過熱蒸気状態の冷媒(G点)と等しい圧力を有する。そのため、冷媒通路41を流通する冷媒と冷媒通路22bを流通する冷媒とは、ともに冷媒通路22aへ流入して混合される。混合された冷媒は、図8に示すJ,G点における圧力と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、冷媒通路22b,41の各々を流通する冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、混合される前の冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、J点における比エンタルピーとG点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(A点)。
【0113】
気液分離器60の出口で飽和液の状態にある冷媒を、冷房運転時に冷媒通路34へ流通させ、暖房運転時に冷媒通路48へ流通させることにより、気相状態の冷媒蒸気が冷媒通路34,48へ流入することを抑制できる。そのため、冷媒の流速が早くなり圧力損失が増大することを抑制でき、冷媒を流通させるための圧縮機12の消費電力を低減できるので、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の性能の悪化を回避することができる。
【0114】
気液分離器60の内部には、飽和液状態の冷媒液62が貯留されている。気液分離器60は、その内部に冷媒液62を一時的に溜める蓄液器として機能する。気液分離器60内に所定量の冷媒液62が溜められることにより、暖房運転から冷房運転への切り換え時に気液分離器60から冷却部30へ流れる冷媒の流量を維持できる。気液分離器60が液だめ機能を有することにより、冷暖房切換の際に熱交換器14から気液分離器60へ流れる冷媒の流量が一時的に低下する冷媒流量の変動を吸収できる。したがって、暖房から冷房への切り換え時に冷却部30への冷媒供給量が不足することを回避でき、HV機器31の冷却性能を安定させることができる。
【0115】
暖房運転時、冷媒の一部のみが熱交換器14を流通するように冷媒の経路を構成することにより、圧縮機12の入口での冷媒の圧力を上昇させ、圧縮効率の低い条件で圧縮機12が作動することを抑制できるので、暖房運転時の圧縮機12での冷媒の断熱圧縮のための消費動力を低減することができる。
【0116】
実施の形態1では、熱交換器14から流出した冷媒を、冷却部30から流出した湿り蒸気状態の冷媒と混合させる必要がある。そのため、過熱蒸気の状態の冷媒を冷媒通路22aに流通させるために、熱交換器14において冷媒を乾き飽和蒸気の状態からさらに加熱し、冷媒が所定の過熱度を有するまで加熱する必要があった。そのため、熱交換器14の容量を増大させる必要があり、熱交換器14のサイズが増大し、車載用の冷却装置1として不利になるという問題がある。
【0117】
これに対し、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、熱交換器14から流出した冷媒を、気液分離器60で分離された乾き飽和蒸気状態の冷媒と混合させて、圧縮機12の吸入圧力の上昇に用いるので、熱交換器14出口の冷媒の過熱度を大きくする必要がない。たとえば、膨張弁47で絞り膨張された冷媒(J点)の比エンタルピーと略等しい比エンタルピーを有する過熱蒸気の状態になるように、熱交換器14出口の冷媒(G点)の過熱度を調整してもよい。そのため、実施の形態1と比較して、熱交換器14,15の容量をより低減することができる。したがって、熱交換器14,15のサイズを低減することができるので小型化され車載用に有利な、冷却装置1を得ることができる。
【0118】
圧縮機12と膨張弁16との間に二段の熱交換器14,15が配置されるので、暖房運転時に冷媒は、熱交換器14,15の両方において外気から吸熱することにより加熱される。冷却部30と熱交換器14,15との両方で冷媒を加熱することにより、熱交換器14,15の各々の熱交換容量を低減することができる。熱交換器14の出口において冷媒を十分な過熱蒸気の状態にまで加熱できるので、車両の室内の優れた暖房性能を維持できる。
【0119】
なお、実施の形態2では、膨張弁38と膨張弁38をバイパスする冷媒通路72とを備える冷却装置1の例について説明した。冷房運転時に冷却部30へ流入する冷媒が膨張弁38で絞り膨張され、暖房運転時には冷媒が膨張弁38を通過するときの圧力損失を小さくできるような膨張弁38を選定できるのであれば、冷媒通路72は設けられなくても構わない。
【0120】
(実施の形態3)
図9は、実施の形態3の冷却装置1の構成を示す模式図である。実施の形態3の冷却装置1は、実施の形態2と同じ構成を有するが、暖房運転時に、開閉弁49が閉じられ膨張弁16が全閉(開度0%)とされ膨張弁47が全開(開度100%)とされている点で、実施の形態2と異なっている。
【0121】
このとき、圧縮機12で断熱圧縮され熱交換器18で空調用空気と熱交換した冷媒の全量が、冷媒通路24bから冷媒通路43へ流入する。冷媒通路43へ流入した冷媒は、膨張弁44を通過して絞り膨張され、冷却部30の冷却通路32を流通してHV機器31を冷却し、気液分離器60で気液分離され、冷媒蒸気61のみが気液分離器60から流出して冷媒通路41,22aを経由して圧縮機12へ戻る。
【0122】
つまり、暖房運転時には、図9に示すA点、B点、E点、D点およびH点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とが順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0123】
図10は、実施の形態3の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図10中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図10中には、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁44および冷却部30を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,DおよびH点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0124】
図10に示すように、圧縮機12の入口において、冷媒は、乾き飽和蒸気の状態にある(A点)。乾き飽和蒸気状態の冷媒は、圧縮機12に吸入され、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器18へと流れる。熱交換器18へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器18において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(E点)。
【0125】
熱交換器18で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路43へ流入する。冷媒通路23へ流通した過冷却液状態の冷媒は、膨張弁44において絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁44において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路45,35を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(H点)。
【0126】
冷却部30から流出した湿り蒸気状態の冷媒は、気液分離器60で、冷媒蒸気61と冷媒液62とに気液分離される。気液分離器60から飽和蒸気状態の冷媒蒸気61のみが流出して、冷媒通路41へ流れ、冷媒通路22a、四方弁13および冷媒通路26を経由して、圧縮機12に吸入される(A点)。圧縮機12は、冷媒通路26から流入する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0127】
図9に示すように弁の開閉を設定することにより、暖房運転時に、全ての冷媒を冷媒通路24bから冷媒通路43へ流通させることができる。すなわち、暖房運転時に、膨張弁16を通過した低温低圧の冷媒が熱交換器15,14に流通しない設定とすることができる。
【0128】
たとえば氷点下以下など外気温が低い条件下では、暖房運転時に、熱交換器14,15において大気から吸熱することが難しく、そのため冷媒圧力が低下してしまう。冷媒圧力が下がりすぎると、圧縮機12の消費動力が増大する、圧縮機12からの吐出ガスが高温になり絶縁材や潤滑油が劣化する、熱交換器14,15への霜付きが発生するので霜を除去するための冷房運転(デフロスト運転)が必要になる、などの課題が生じる。
【0129】
そのため、低外気温条件では、実施の形態3に示すように暖房運転時に冷媒を熱交換器14,15に流通させないように、弁の開閉設定を切り換える。このようにすれば、冷却部30に冷媒を流通させることでHV機器31の冷却を確保でき、かつ、熱交換器18で十分に空調用空気を加温できるので暖房性能を確保できる。加えて、上述した課題が生じることを回避することができる。
【0130】
(実施の形態4)
図11は、実施の形態4の冷却装置1の構成を示す模式図である。実施の形態4の冷却装置1は、実施の形態2と比較して、エジェクタ80を備える点で異なっている。エジェクタ80には、冷媒通路43から分岐した冷媒通路81と、気液分離器60と冷却部30との間を流通する冷媒の経路である冷媒通路34のうち膨張弁38に対して冷却部30に近接する側から分岐した冷媒通路83と、冷媒通路34のうち膨張弁38に対して気液分離器60に近接する側から分岐した冷媒通路85と、が接続されている。
【0131】
冷媒通路81には、冷媒通路81を経由する冷媒の流通を許容または禁止する開閉弁82が配置されている。冷媒通路83には、冷媒通路83を経由する冷媒の流通を許容または禁止する開閉弁84が配置されている。冷媒通路85には、冷媒通路85を経由する冷媒の流通を許容または禁止する開閉弁86が配置されている。
【0132】
図11に示す冷房運転時には、開閉弁82,84,86はいずれも閉とされる。そのため冷媒は、図6と同様に状態を変化させながら、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。したがって、実施の形態2と同様に、気液分離器60から液相の冷媒のみを取り出し、膨張弁38で膨張することにより温度が低下した冷媒を使用してHV機器31を冷却できるので、HV機器31をより効率よく冷却することができる。
【0133】
図12は、四方弁13を切り換えた状態の実施の形態4の冷却装置1を示す模式図である。図12に示す暖房運転時に、開閉弁82,84,86が全て開とされ、かつ膨張弁38は全閉とされる。そのため、エジェクタ80に冷媒が流れる。エジェクタ80は、膨張弁44を通過する前の高圧の冷媒を駆動流とし、膨張弁44を通過し冷却部30においてHV機器31を冷却した後の冷媒を二次流とし、駆動流と二次流とを混合して、冷却部30から気液分離器60に向けて流通する低圧の冷媒の圧力を上昇させる、昇圧機として機能する。
【0134】
冷媒通路43から冷媒通路81を経由してエジェクタ80へ流入した高圧の冷媒を駆動流としてノズルから噴出させ、駆動流の噴出によりエジェクタ80内部に生じる負圧と駆動流の粘性とによって冷媒通路83から冷媒をエジェクタ80内に吸引する。エジェクタ80の内部で、冷媒通路81から流入した冷媒と冷媒通路83から流入した冷媒とが完全に混合し、その後ディフューザを通過することによって圧力を高められて、冷媒通路85に放出される。膨張弁44を通過して圧力が低下した冷媒は、エジェクタ80で昇圧されて、冷媒通路85,34を経由して気液分離器60へ流れる。
【0135】
図13は、実施の形態4の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図13中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
【0136】
図13中には、熱交換器18の出口から冷媒通路43へ流入し、膨張弁44において絞り膨張され、HV機器31を冷却した後にエジェクタ80で昇圧され、気液分離器60で気液分離された冷媒蒸気61が気液分離器60から流出して冷媒通路41,22aを経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,D,C,H,KおよびJ点)における冷媒の熱力学状態が示される。図13中にはまた、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁16および熱交換器15,14を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,M,N,F,IおよびG点)における冷房の熱力学状態が示される。
【0137】
図13に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器18へと流れる。
【0138】
熱交換器18へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器18において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(E点)。熱交換器18で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43とに分岐する。
【0139】
冷媒通路43へ流通する一部の液相冷媒は、冷媒通路43を経由して膨張弁44に流入する。膨張弁44において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁44において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路45,35を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(C点)。
【0140】
冷却部30において温められた冷媒は、エジェクタ80で昇圧される。膨張弁44を通過しない高圧冷媒を冷媒通路81からエジェクタ80へ供給し、膨張弁44を通過して圧力が低下した低圧冷媒を冷媒通路83からエジェクタ80へ供給することにより、低圧冷媒が昇圧され、かつ低圧冷媒の温度が上昇する。エジェクタ80は、高圧冷媒を駆動ガスとし低圧冷媒を吸込ガスとすることで、高圧冷媒と低圧冷媒との差圧を利用して低圧冷媒をエジェクタ80に導入し、低圧冷媒の圧力を上昇させ、より圧力の高い冷媒を吐出する(H点)。
【0141】
低圧冷媒を昇圧するための昇圧機としてエジェクタ80が使用されるので、消費動力を必要とするコンプレッサを駆動させて冷媒を昇圧させる必要がない。そのため、消費動力の増加を回避することができる。エジェクタ80は、ノズルとディフューザとが組み合わされた簡単な構造であって、運動する部分を有しないために、耐久性および信頼性に優れた昇圧機を提供することができる。
【0142】
その後冷媒は、冷媒通路85,34を経由して気液分離器60へ流入する。気液分離器60で、気液二相状態にある冷媒は、冷媒蒸気61と冷媒液62とに気液分離される。気液分離器60で分離された乾き飽和蒸気状態の冷媒蒸気61(K点)は、気液分離器60から流出して冷媒通路41へ流れ、膨張弁47に流入する。膨張弁47において、冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下する(J点)。飽和液状態の冷媒液62(L点)は、気液分離器60から流出して、冷媒通路48を経由して冷媒通路24aへ流通する。
【0143】
冷媒通路24bから冷媒通路24aへ流通する一部の液相冷媒は、膨張弁17において絞り膨張され、冷媒の温度と圧力が低下する(M点)。膨張弁17を通過した後の冷媒の圧力は、気液分離器60から流出する冷媒液62の圧力と等しくする。そのため、膨張弁17を通過した気液混合状態の冷媒と、気液分離器60から流出した液相の冷媒とは、共に膨張弁16の上流側の冷媒通路24aに流通する。気液分離器60から冷媒通路48を介して冷媒通路24aへ流れる冷媒と、冷媒通路24bから直接冷媒通路24aへ流れる冷媒とは、膨張弁16入口の冷媒通路24aにおいて混合される。
【0144】
混合された冷媒は、図13に示すL,M点と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、混合される前の各々の冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、混合される前の冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、L点における比エンタルピーとM点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(N点)。N点において冷媒は、L,M点における冷媒と等しい圧力を有し、L点の飽和液状態の冷媒以上、M点の気液混合状態の冷媒以下の比エンタルピーを有する。
【0145】
混合された冷媒はその後、膨張弁16へ流通し、膨張弁16を通過することで膨張弁16において絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路27を経由して熱交換器15へ流入する。熱交換器15において外気から潜熱を受け取って冷媒が加熱され、一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加し、冷媒の乾き度が増大する(I点)。
【0146】
熱交換器15から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器14へ流入する。冷媒は、熱交換器14を流通する際に、外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって加熱され、等圧のまま蒸発し、冷媒の乾き度が増大する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して過熱蒸気となる(G点)。
【0147】
膨張弁47において絞り膨張され圧力が下げられた冷媒(J点)は、熱交換器14を経由して冷媒通路22bを流通する過熱蒸気状態の冷媒(G点)と等しい圧力を有する。そのため、冷媒通路41を流通する冷媒と冷媒通路22bを流通する冷媒とは、ともに冷媒通路22aへ流入して混合される。混合された冷媒は、図13に示すJ,G点における圧力と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、冷媒通路22b,41の各々を流通する冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、混合される前の冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、J点における比エンタルピーとG点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(A点)。その後冷媒は、四方弁13および冷媒通路26を経由して、圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、冷媒通路26から流入する冷媒を圧縮する。
【0148】
エジェクタ80により昇圧されたH点の冷媒の温度および圧力を、図7に示すエジェクタ80を備えない構成の冷却装置1における気液分離器60の入口側のH点の冷媒の温度および圧力と等しくなるようにすれば、HV機器31を冷却する冷媒の温度および圧力を低くできる。つまり、図13に示すD点からC点へ流通する冷媒の温度および圧力は、エジェクタ80で昇圧される分、図8に示すD点からH点へ流通する冷媒の温度および圧力と比較して、相対的に低くなる。そのため、HV機器31と冷却部30を流通する冷媒との温度差が大きくなり、冷媒のHV機器31からの吸熱量が大きくなる。
【0149】
冷却部30においてHV機器31から冷媒に与えられる熱量が大きくなるので、熱交換器14,15で冷媒が外気から吸熱する熱量を、相対的に小さくすることができる。この場合、外気と冷媒との温度差を小さくできることになるから、膨張弁16を経由して熱交換器15,14を経由して流れる冷媒の温度および圧力を相対的に高くすることができる。すなわち、図13と図8とを比較すると、F点からG点へ至る冷媒の圧力は、図13の方がより高くなっている。
【0150】
前述した通り、膨張弁47での絞り膨張により冷媒通路41を流れる冷媒の圧力は、冷媒通路22bを流れる冷媒の圧力と等しくされる。換言すると、圧縮機12に流入する冷媒の圧力は、G点における冷媒の圧力に合わせられる。そのため、図13と図8とを比較すると、A点における圧力は図13の方がより高くなる。冷却部30でHV機器31を冷却した後の冷媒をエジェクタ80を使用して昇圧することで、圧縮機12の入口での冷媒の圧力をさらに上昇させることができる。したがって、実施の形態1〜3と比較して圧縮機12の消費動力をさらに低減することができる。
【0151】
なお、実施の形態1〜4においては、HV機器31を例として車両に搭載された電気機器を冷却する冷却装置1について説明した。電気機器としては、少なくとも作動によって熱を発生させる電気機器であれば、インバータ、モータジェネレータなどの例示された電気機器に限定されるものではなく、任意の電気機器であってもよい。冷却の対象となる電気機器が複数個ある場合においては、複数の電気機器は、冷却の目標となる温度範囲が共通していることが望ましい。冷却の目標となる温度範囲は、電気機器を作動させる温度環境として適切な温度範囲である。
【0152】
さらに、本発明の冷却装置1により冷却される発熱源は、車両に搭載された電気機器に限られず、熱を発生する任意の機器、または任意の機器の発熱する一部分であってもよい。
【0153】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、各実施の形態の構成を適宜組合せてもよい。また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の冷却装置は、モータジェネレータおよびインバータなどの電気機器を搭載するハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車などの車両における、車内の冷房を行なうための蒸気圧縮式冷凍サイクルを使用した電気機器の冷却に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0155】
1 冷却装置、10 蒸気圧縮式冷凍サイクル、12 圧縮機、13 四方弁、14,15,18 熱交換器、16,17,38,44,47 膨張弁、21,22,22a,22b,23,23a,24、24a,24b,25,26,27,33,34,35,36,41,43,45,48,72,81,83,85 冷媒通路、30 冷却部、31 HV機器、32 冷却通路、37,49,71,82,84,86 開閉弁、42,46 三方弁、51,52 流量調整弁、60 気液分離器、61 冷媒蒸気、62 冷媒液、80 エジェクタ、90 ダクト、91 ダクト入口、92 ダクト出口、93 ファン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置に関し、特に、蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して発熱源を冷却する冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題対策の一つとして、モータの駆動力により走行するハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車などが注目されている。このような車両において、モータ、ジェネレータ、インバータ、コンバータおよびバッテリなどの電気機器は、電力の授受によって発熱する。そのため、これらの電気機器を冷却する必要がある。そこで、車両用空調装置として使用される蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して、発熱体を冷却する技術が提案されている。
【0003】
たとえば特開平9−290622号公報(特許文献1)には、車両搭載の発熱部品からの廃熱を回収して、ガスインジェクション用の冷媒に吸熱させることにより、低外気温時における暖房能力を、消費電力の増大を抑制しつつ、効果的に向上する技術が開示されている。特開平11−223406号公報(特許文献2)には、パワートランジスタなどの発熱体の廃熱をヒートポンプサイクルの冷媒に吸収させる構成が開示されている。特開2007−69733号公報(特許文献3)には、膨張弁から圧縮機へ至る冷媒通路に、空調用の空気と熱交換する熱交換器と、発熱体と熱交換する熱交換器と、を並列に配置し、空調装置用の冷媒を利用して発熱体を冷却するシステムが開示されている。
【0004】
特開2005−90862号公報(特許文献4)には、空調用の冷凍サイクルの減圧器、蒸発器および圧縮機をバイパスするバイパス通路に、発熱体を冷却するための発熱体冷却手段を設けた、冷却システムが開示されている。特開2001−309506号公報(特許文献5)には、車両走行モータを駆動制御するインバータ回路部の冷却部材に車両空調用冷凍サイクル装置の冷媒を還流させ、空調空気流の冷却が不要な場合に車両空調用冷凍サイクル装置のエバポレータによる空調空気流の冷却を抑止する、冷却システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−290622号公報
【特許文献2】特開平11−223406号公報
【特許文献3】特開2007−69733号公報
【特許文献4】特開2005−90862号公報
【特許文献5】特開2001−309506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外気温が極めて低い場合に蒸気圧縮式冷凍サイクルを使用して暖房運転を行なうと、減圧器で減圧された冷媒の圧力が低くなり、圧縮機の圧縮比が増大して圧縮効率が低くなり消費動力が増大する。また圧縮機の吐出ガス温度も高くなり、内部の電線絶縁材や潤滑油が劣化し悪影響を与える問題がある。圧縮機の消費動力を悪化させないためには、暖房能力を犠牲にしなければならない問題がある。
【0007】
上記特許文献1に記載の技術では、中間圧の冷媒を発熱部品の廃熱で蒸発させ、圧縮機にガスインジェクションすることにより、圧縮機の圧縮動力を抑制している。しかし、ガスインジェクションされる分の冷媒は直接圧縮機に導入されるため、冷房運転時に室内熱交換器に供給される冷媒量が減少し、冷房能力が低下する。冷媒流量を増加させれば冷房能力を確保できるが、その分圧縮機の消費動力が増加してしまう。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、冷暖房能力と発熱源の冷却能力とを確保しつつ圧縮機の消費動力を低減できる、発熱源の冷却装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る冷却装置は、発熱源を冷却する冷却装置であって、冷媒を循環させるための圧縮機と、冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器と、冷媒を減圧する減圧器と、冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器と、を備える。冷却装置はまた、圧縮機から第一熱交換器へ向かう冷媒の流れと、圧縮機から第二熱交換器へ向かう冷媒の流れと、を切り換える四方弁を備える。冷却装置はまた、第一熱交換器と減圧器との間に並列に接続された冷媒の経路である第一通路および第二通路と、第二通路上に設けられ、冷媒を用いて発熱源を冷却する冷却部と、第一連通路と、第二連通路と、を備える。第一連通路は、圧縮機と第一熱交換器との間の冷媒の経路と、冷却部に対し第一熱交換器に近接する側の第二通路と、を連通する。第二連通路は、減圧器と第二熱交換器との間の冷媒の経路と、冷却部に対し減圧器に近接する側の第二通路と、を連通する。
【0010】
上記冷却装置において好ましくは、冷却部と減圧器との間を流通する冷媒の経路に設けられ、冷媒と外気との間で熱交換する第三熱交換器を備える。
【0011】
上記冷却装置において好ましくは、第一熱交換器と冷却部との間を流通する冷媒の経路に設けられた第二減圧器を備える。
【0012】
上記冷却装置において好ましくは、冷却部に対し第一熱交換器に近接する側の第二通路に配置された気液分離器を備える。第一連通路の一端は、気液分離器の気相中に配置されていてもよい。
【0013】
上記冷却装置において好ましくは、冷却部から第一連通路に向けて流通する冷媒の圧力を上昇させる昇圧機を備える。
【0014】
上記冷却装置において好ましくは、冷媒が圧縮機から第二熱交換器へ向けて流通するように四方弁を設定したとき、第一熱交換器に冷媒が流通しないように冷媒の経路を切り換える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の冷却装置によると、冷暖房能力と発熱源の冷却能力とを確保しつつ、圧縮機の消費動力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1の冷却装置の構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図3】四方弁を切り換えた状態の冷却装置を示す模式図である。
【図4】実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクルの暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図5】実施の形態2の冷却装置の構成を示す模式図である。
【図6】実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図7】四方弁を切り換えた状態の実施の形態2の冷却装置を示す模式図である。
【図8】実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクルの暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図9】実施の形態3の冷却装置の構成を示す模式図である。
【図10】実施の形態3の蒸気圧縮式冷凍サイクルの暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【図11】実施の形態4の冷却装置の構成を示す模式図である。
【図12】四方弁を切り換えた状態の実施の形態4の冷却装置を示す模式図である。
【図13】実施の形態4の蒸気圧縮式冷凍サイクルの暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の冷却装置1の構成を示す模式図である。図1に示すように、冷却装置1は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を備える。蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、たとえば、車両の車内の冷暖房を行なうために、車両に搭載される。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた冷房は、たとえば、冷房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動的に車両の室内の温度を設定温度になるように調整する自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも高い場合に行なわれる。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた暖房は、たとえば、暖房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも低い場合に行なわれる。
【0019】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12と、第一熱交換器としての熱交換器14と、減圧器の一例としての膨張弁16と、第二熱交換器としての熱交換器18と、を含む。蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、四方弁13を含む。四方弁13は、圧縮機12から熱交換器14へ向かう冷媒の流れと、圧縮機12から熱交換器18へ向かう冷媒の流れと、を切り換え可能に配置されている。
【0020】
圧縮機12は、車両に搭載されたモータまたはエンジンを動力源として作動し、冷媒ガスを断熱的に圧縮して過熱状態冷媒ガスとする。圧縮機12は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の作動時に流通する気相冷媒を吸入圧縮して、高温高圧の気相冷媒を吐出する。圧縮機12は、冷媒を吐出することで、蒸気圧縮式冷凍サイクル10に冷媒を循環させる。
【0021】
熱交換器14,18は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器14,18の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンと、を含む。熱交換器14,18は、車両の走行によって発生する自然の通風によって供給された空気流れ、またはファンによって供給された空気流れと、冷媒と、の間で熱交換を行なう。
【0022】
膨張弁16は、高圧の液相冷媒を小さな孔から噴射させることにより膨張させて、低温・低圧の霧状冷媒に変化させる。膨張弁16は、凝縮された冷媒液を減圧して、気液混合状態の湿り蒸気とする。なお、冷媒液を減圧するための減圧器は、絞り膨張する膨張弁16に限られず、毛細管であってもよい。
【0023】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10はまた、冷媒通路21〜26を含む。冷媒通路21は、圧縮機12と四方弁13とを連通する。冷媒は、冷媒通路21を経由して、圧縮機12から四方弁13へ向かって流通する。冷媒通路22は、四方弁13と熱交換器14とを連通する。冷媒は、冷媒通路22を経由して、四方弁13と熱交換器14との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路23は、熱交換器14と膨張弁16とを連通する。冷媒は、冷媒通路23を経由して、熱交換器14と膨張弁16との一方から他方へ向かって流通する。
【0024】
冷媒通路24は、膨張弁16と熱交換器18とを連通する。冷媒は、冷媒通路24を経由して、膨張弁16と熱交換器18との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路25は、熱交換器18と四方弁13とを連通する。冷媒は、冷媒通路25を経由して、熱交換器18と四方弁13との一方から他方へ向かって流通する。冷媒通路26は、四方弁13と圧縮機12とを連通する。冷媒は、冷媒通路26を経由して、四方弁13から圧縮機12へ向かって流通する。
【0025】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12、熱交換器14、膨張弁16および熱交換器18が、冷媒通路21〜26によって連結されて構成される。なお、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒としては、たとえば二酸化炭素、プロパンやイソブタンなどの炭化水素、アンモニアまたは水などを用いることができる。
【0026】
熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路には、第一通路としての冷媒通路23aと、第二通路と、が並列に接続されて設けられている。冷媒通路23aは、熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路を形成する冷媒通路23の一部を形成する。第二通路上には、冷却部30が設けられている。冷却部30は、熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路上に設けられている。冷却部30は、車両に搭載される電気機器であるHV(Hybrid Vehicle)機器31と、冷媒が流通する配管である冷却通路32と、を含む。HV機器31は、発熱源の一例である。熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒の経路が分岐して、冷媒の一部が冷却部30へ流通する。
【0027】
冷却通路32へ冷媒を流通するための経路として、冷媒通路33,34,35および36が設けられている。冷却通路32の一方の端部は、冷媒通路34に接続される。冷却通路32の他方の端部は、冷媒通路35に接続される。冷媒通路33と冷媒通路34とは、三方弁42を介して連通されている。冷媒通路35と冷媒通路36とは、三方弁46を介して連通されている。冷媒通路33,34と冷媒通路35,36との一方を経由して、冷媒通路23から冷却通路32へ冷媒が流通する。冷却通路32を流通してHV機器31と熱交換した後の冷媒は、冷媒通路33,34と冷媒通路35,36との他方を経由して、冷媒通路23へ戻る。
【0028】
冷媒通路23aと並列に接続される第二通路は、冷却部30よりも熱交換器14に近接する側の冷媒通路33,34と、冷却部30に含まれる冷却通路32と、冷却部30よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路35,36と、を含む。冷媒は、冷媒通路33,34を経由して、冷媒通路23と冷却部30との間を流通する。冷媒は、冷媒通路35,36を経由して、冷却部30と冷媒通路23との間を流通する。
【0029】
熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒は、冷却通路32を経由して流れる。冷媒は、冷却通路32内を流通するとき、HV機器31から熱を奪って、HV機器31を冷却させる。冷却部30は、冷却通路32によってHV機器31と冷媒との間で熱交換が可能な構造を有するように設けられる。本実施の形態においては、冷却部30は、たとえば、HV機器31の筐体に冷却通路32の外周面が直接接触するように形成された冷却通路32を有する。冷却通路32は、HV機器31の筐体と隣接する部分を有する。当該部分において、冷却通路32を流通する冷媒と、HV機器31との間で、熱交換が可能となる。
【0030】
HV機器31は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の熱交換器14と膨張弁16との間を流通する冷媒の経路の一部を形成する冷却通路32の外周面に直接接続されて、冷却される。冷却通路32の外部にHV機器31が配置されるので、冷却通路32の内部を流通する冷媒の流れにHV機器31が干渉することはない。そのため、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の圧力損失は増大しないので、圧縮機12の動力を増大させることなく、HV機器31を冷却することができる。
【0031】
代替的には、冷却部30は、HV機器31と冷却通路32との間に介在して配置された任意の公知のヒートパイプを備えてもよい。この場合HV機器31は、冷却通路32の外周面にヒートパイプを介して接続され、HV機器31から冷却通路32へヒートパイプを経由して熱伝達することにより、冷却される。HV機器31をヒートパイプの加熱部とし冷却通路32をヒートパイプの冷却部とすることで、冷却通路32とHV機器31との間の熱伝達効率が高められるので、HV機器31の冷却効率を向上できる。たとえばウィック式のヒートパイプを使用することができる。
【0032】
ヒートパイプによってHV機器31から冷却通路32へ確実に熱伝達することができるので、HV機器31と冷却通路32との間に距離があってもよく、HV機器31に冷却通路32を接触させるために冷却通路32を複雑に配置する必要がない。その結果、HV機器31の配置の自由度を向上することができる。
【0033】
熱交換器14と膨張弁16との間を冷媒が流通する経路として、冷却部30を通過する冷媒の経路である冷媒通路33〜36および冷却通路32と、冷却部30を通過しない冷媒の経路である冷媒通路23aと、が並列に設けられる。冷媒通路33〜36および冷却通路32を含むHV機器31の冷却系は、冷媒通路23aと並列に接続されている。熱交換器14と膨張弁16との間を冷却部30を経由せずに流れる冷媒の経路と冷却部30を経由して流れる冷媒の経路とを並列に設け、一部の冷媒のみを冷媒通路33〜36へ流通させることで、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒の一部のみが冷却部30へ流れる。
【0034】
冷却部30においてHV機器31を冷却するために必要な量の冷媒を冷媒通路33〜36へ流通させ、全ての冷媒が冷却部30に流れない。したがって、HV機器31は適切に冷却され、HV機器31が過冷却されることを防止できる。また、冷媒通路33〜36および冷却通路32を含むHV機器31の冷却系への冷媒の流通に係る、圧力損失を低減することができる。それに伴い、冷媒を循環させるための圧縮機12の運転に必要な消費電力を低減することができる。
【0035】
HV機器31は、電力の授受によって発熱する電気機器を含む。電気機器は、たとえば、直流電力を交流電力に変換するためのインバータ、回転電機であるモータジェネレータ、蓄電装置であるバッテリ、バッテリの電圧を昇圧させるためのコンバータ、バッテリの電圧を降圧するためのDC/DCコンバータなどの、少なくともいずれか一つを含む。バッテリは、リチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池等の二次電池である。バッテリに代えてキャパシタが用いられてもよい。
【0036】
熱交換器18は、空気が流通するダクト90の内部に配置されている。熱交換器18は、冷媒とダクト90内を流通する空調用空気との間で熱交換して、空調用空気の温度を調節する。ダクト90は、ダクト90に空調用空気が流入する入口であるダクト入口91と、ダクト90から空調用空気が流出する出口であるダクト出口92と、を有する。ダクト90の内部の、ダクト入口91の近傍には、ファン93が配置されている。
【0037】
ファン93が駆動することにより、ダクト90内に空気が流通する。ファン93が稼働すると、ダクト入口91を経由してダクト90の内部へ空調用空気が流入する。ダクト90へ流入する空気は、外気であってもよく、車両の室内の空気であってもよい。図1中の矢印95は、熱交換器18を経由して流通し、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒と熱交換する空調用空気の流れを示す。冷房運転時には、熱交換器18において空調用空気が冷却され、冷媒は空調用空気からの熱伝達を受けて加熱される。暖房運転時には、熱交換器18において空調用空気が加熱され、冷媒は空調用空気へ熱伝達することにより冷却される。矢印96は、熱交換器18で温度調節され、ダクト出口92を経由してダクト90から流出する、空調用空気の流れを示す。
【0038】
冷房運転時には、図1に示すA点、B点、C点、D点およびE点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器14と膨張弁16と熱交換器18とが冷媒通路21〜26によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0039】
図2は、実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図2中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図2中には、圧縮機12から熱交換器14を経由して冷媒通路23へ流入し、HV機器31を冷却し、冷媒通路23へ戻り膨張弁16、熱交換器18を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,C,DおよびE点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0040】
図2に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器14へと流れる。
【0041】
熱交換器14へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器14において外気と熱交換して冷却される。冷媒は、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(C点)。熱交換器14は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器14において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器14における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。
【0042】
熱交換器14で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路33、三方弁42および冷媒通路34を順に経由して冷却部30へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒の過冷却度が小さくなる。つまり、HV機器31から顕熱を受けて過冷却液の状態の冷媒の温度が上昇し、液冷媒の飽和温度に近づき、飽和温度をわずかに下回る温度にまで加熱される(D点)。その後冷媒は、冷媒通路35,三方弁46および冷媒通路36を順に経由して冷媒通路23へ戻り、冷媒通路23を経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16を通過することで、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(E点)。
【0043】
膨張弁16から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路24を経由して熱交換器18へ流入する。熱交換器18のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、熱交換器18のチューブ内を流通する際に、フィンを経由して空調用空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって、等圧のまま蒸発する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(A点)。冷媒は、熱交換器18において周囲から吸熱し加熱される。気化した冷媒は、冷媒通路25を経由して四方弁13へ流れ、さらに冷媒通路26を経由して圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、熱交換器18から流通する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0044】
なお、上述した蒸気圧縮式冷凍サイクルの説明では、理論冷凍サイクルについて説明しているが、実際の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12における損失、冷媒の圧力損失および熱損失を考慮する必要があるのは勿論である。
【0045】
冷房運転時に、熱交換器18は、その内部を流通する霧状冷媒が気化することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気の熱を吸収する。熱交換器18は、膨張弁16によって絞り膨張され減圧された低温低圧の冷媒を用いて、冷媒の湿り蒸気が蒸発して冷媒ガスとなる際の気化熱を、車両の室内へ流通する空調用空気から吸収して、車両の室内の冷房を行なう。熱が熱交換器18に吸収されることによって温度が低下した空調用空気が車両の室内に流入することによって、車両の室内の冷房が行なわれる。
【0046】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10の運転中に、冷媒は、熱交換器18において気化熱を空調用空気から吸収して、車室内の冷房を行なう。加えて、熱交換器14から出た高圧の液冷媒が冷却部30へ流通し、HV機器31と熱交換することでHV機器31を冷却する。冷却装置1は、車両に搭載された発熱源であるHV機器31を、車両の室内の空調用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、冷却する。なお、HV機器31を冷却するために必要とされる温度は、少なくともHV機器31の温度範囲として目標となる温度範囲の上限値よりも低い温度であることが望ましい。
【0047】
図1に戻って、冷却装置1は、流量調整弁51を備える。流量調整弁51は、熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒通路23の一部を形成する冷媒通路23aに配置されている。流量調整弁51は、その弁開度を変動させ、冷媒通路23aを流れる冷媒の圧力損失を増減させることにより、冷媒通路23aを流れる冷媒の流量と、冷媒通路33〜36および冷却通路32を流れる冷媒の流量と、を任意に調節する。
【0048】
たとえば、流量調整弁51を全閉にして弁開度を0%にすると、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒の全量が冷媒通路33〜36および冷却通路32へ流入する。流量調整弁51の弁開度を大きくすれば、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒のうち、冷媒通路23aを経由して流れる流量が大きくなり、冷媒通路33〜36および冷却通路32を経由して流れHV機器31を冷却する冷媒の流量が小さくなる。流量調整弁51の弁開度を小さくすれば、熱交換器14と膨張弁16との間を流れる冷媒のうち、冷媒通路23aを経由して流れる流量が小さくなり、冷媒通路33〜36および冷却通路32を経由して流れHV機器31を冷却する冷媒の流量が大きくなる。
【0049】
流量調整弁51の弁開度を大きくするとHV機器31を冷却する冷媒の流量が小さくなり、HV機器31の冷却能力が低下する。流量調整弁51の弁開度を小さくするとHV機器31を冷却する冷媒の流量が大きくなり、HV機器31の冷却能力が向上する。流量調整弁51を使用して、冷却部30に流れる冷媒の量を最適に調節できるので、HV機器31の過冷却を確実に防止することができ、加えて、冷媒通路33〜36および冷却通路32の冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。
【0050】
冷却装置1は、第一連通路としての冷媒通路41を備える。冷媒通路41の一端は、圧縮機12と熱交換器14との間の冷媒の経路である冷媒通路22に接続されている。冷媒通路41が接続されるので、冷媒通路22は、冷媒通路22と冷媒通路41との接続部位よりも四方弁13に近接する側の冷媒通路22aと、当該接続部位よりも熱交換器14に近接する側の冷媒通路22bと、に二分割されている。冷媒通路41の他端は、三方弁42に接続されている。冷媒通路41は、冷却部30へ冷媒を流通させる第二通路のうち、冷却部30に対し熱交換器14に近接する側の冷媒の経路である冷媒通路33,34に、三方弁42を介して接続されている。冷媒通路41は、冷媒通路22と冷媒通路33,34とを連通する。
【0051】
冷媒通路41には、膨張弁47が設けられている。膨張弁47は、膨張弁16と同様に、冷媒を絞り膨張させ、冷媒の比エンタルピーは変化させずに冷媒の温度と圧力とを低下させる。膨張弁47は、第一連通路に配置されている。
【0052】
冷却装置1は、第二連通路を構成する冷媒通路43,45および膨張弁44を備える。
冷媒通路43と冷媒通路45とは、膨張弁44を介して連通している。減圧器(膨張弁16)とは異なる他の減圧器としての膨張弁44は、膨張弁16と同様に、冷媒を絞り膨張させ、冷媒の比エンタルピーは変化させずに冷媒の温度と圧力とを低下させる。膨張弁44は、第二連通路に配置されている。
【0053】
冷媒通路43の一端は膨張弁44に接続され、他端は膨張弁16と熱交換器18との間の冷媒の経路である冷媒通路24に接続される。冷媒通路43が接続されるので、冷媒通路24は、冷媒通路24と冷媒通路43との接続部位よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路24aと、当該接続部位よりも熱交換器18に近接する側の冷媒通路24bと、に二分割されている。
【0054】
冷媒通路45の一端は膨張弁44に接続され、他端は三方弁46に接続される。冷媒通路45は、冷却部30へ冷媒を流通させる第二通路のうち、冷却部30に対し膨張弁16に近接する側の冷媒の経路である冷媒通路35,36に、三方弁46を介して接続されている。冷媒通路43,45および膨張弁44を含む第二連通路は、冷媒通路24と冷媒通路35,36とを連通する。
【0055】
図3は、四方弁13を切り換えた状態の冷却装置1を示す模式図である。図1と図3とを比較して、四方弁13が90°回転することにより、圧縮機12出口から四方弁13へ流入した冷媒が四方弁13を出る経路が切り換えられている。図1に示す冷房運転時には、圧縮機12において圧縮された冷媒は、圧縮機12から熱交換器14へ向かって流れる。一方、図3に示す暖房運転時には、圧縮機12において圧縮された冷媒は、圧縮機12から熱交換器18へ向かって流れる。
【0056】
図1に示す冷房運転時には、第一の弁としての三方弁42は、冷媒通路33と冷媒通路34とを連通し、冷媒通路41と冷媒通路33,34とは連通しないように、開閉を設定される。第二の弁としての三方弁46は、冷媒通路35と冷媒通路36とを連通し、冷媒通路45と冷媒通路35,36とは連通しないように、開閉を設定される。冷房運転時に三方弁42は、冷却部30へ流通する冷媒の経路である第二通路に含まれる冷媒通路33,34と、第一連通路としての冷媒通路41と、の間の冷媒の流通を禁止する。冷房運転時に三方弁46は、第二通路に含まれる冷媒通路35,36と、第二連通路に含まれる冷媒通路43,45と、の間の冷媒の流通を禁止する。
【0057】
一方、図3に示す暖房運転時には、三方弁42は、冷媒通路34と冷媒通路41とを連通し、冷媒通路33と冷媒通路34,41とを連通しないように、開閉を切り換えられる。三方弁46は、冷媒通路35と冷媒通路45とを連通し、冷媒通路36と冷媒通路35,45とを連通しないように、開閉を切り換えられる。暖房運転時に三方弁42は、冷媒通路34と冷媒通路41との間の冷媒の流通を許容する。暖房運転時に三方弁46は、冷媒通路35と冷媒通路43,45との間の冷媒の流通を許容する。
【0058】
そのため暖房運転時には、圧縮機12で断熱圧縮され熱交換器18で空調用空気と熱交換した冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43との二方向へ分岐して流入する。冷媒通路24aへ流入した冷媒は、膨張弁16を通過して冷媒通路23を流通し、熱交換器14を経由して冷媒通路22bへ至る。冷媒通路43へ流入した冷媒は、膨張弁44を通過して冷媒通路45,35を流通し、冷却部30を経由して冷媒通路34を流通し、三方弁42から冷媒通路41へ至る。冷媒通路22bを流れる冷媒と冷媒通路41を流れる冷媒とは、冷媒通路22,41の接続部において合流し、冷媒通路22aへ流通する。
【0059】
つまり、暖房運転時には、図3に示すA点、B点、E点、D点、C点およびJ点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とに冷媒が循環し、かつ、図3に示すA点、B点、E点、F点およびG点を順に通過するように冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器14とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とが順次接続された冷媒循環流路と、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器14とが順次接続された冷媒循環流路と、を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0060】
図4は、実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図4中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図4中には、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁44および冷却部30を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,D,CおよびJ点)における冷媒の熱力学状態が示される。図4中にはまた、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁16および熱交換器14を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,FおよびG点)における冷房の熱力学状態が示される。
【0061】
図4に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器18へと流れる。
【0062】
熱交換器18へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器18において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(E点)。熱交換器18は、圧縮機12において圧縮された過熱状態冷媒ガスを、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。圧縮機12から吐出された気相冷媒は、熱交換器18において周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器18における熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。冷媒は、熱交換器18において周囲へ放熱し冷却される。
【0063】
熱交換器18で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43とに分岐する。冷媒通路24aへ流通する一部の液相冷媒は、冷媒通路24aを経由して膨張弁16に流入する。膨張弁16において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器14へ流入する。熱交換器14のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって加熱され、等圧のまま蒸発し、冷媒の乾き度が増大する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(G点)。
【0064】
冷媒通路43へ流通する一部の液相冷媒は、冷媒通路43を経由して膨張弁44に流入する。膨張弁44において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁44において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路45,35を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(C点)。
【0065】
冷却部30から出て冷媒通路34を流通する湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路41を経由して膨張弁47に流入する。膨張弁47において、冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下する(J点)。膨張弁47を通過した後の冷媒の圧力は、膨張弁16を通過して圧力を下げられた後の冷却部30を経由せずに流通する冷媒の圧力と等しくなる。膨張弁47を通過した後の冷媒通路41を流通する湿り蒸気状態の冷媒と、熱交換器14を経由して冷媒通路22bを流通する過熱蒸気状態の冷媒とは、同圧力となる。そのため、冷媒通路41を流通する冷媒と冷媒通路22bを流通する冷媒とは、ともに冷媒通路22aへ流入して混合される。
【0066】
混合された冷媒は、図4に示すJ,G点における圧力と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、冷媒通路22b,41の各々を流通する冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、冷媒通路22b,41を流れる冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、J点における比エンタルピーとG点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(A点)。冷媒通路22aを流通する冷媒は、冷媒通路22b,41を流通する冷媒と等しい圧力を有し、冷媒通路22bを流通する冷媒以下冷媒通路41を流通する冷媒以上の比エンタルピーを有する。
【0067】
その後冷媒は、四方弁13および冷媒通路26を経由して、圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、冷媒通路26から流入する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0068】
暖房運転時に、熱交換器18は、その内部を流通する冷媒蒸気が凝縮することによって、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空気へ熱を加える。熱交換器18は、圧縮機12で断熱圧縮された高温高圧の冷媒を用いて、冷媒ガスが凝縮して冷媒の湿り蒸気となる際の凝縮熱を、車両の室内へ流通する空調用空気へ放出して、車両の室内の暖房を行なう。熱交換器18から熱を受け取ることによって温度が上昇した空調用空気が車両の室内に流入することによって、車両の室内の暖房が行なわれる。
【0069】
以上のように、本実施の形態の冷却装置1は、熱交換器18において空調用空気と熱交換することで車両の室内の冷暖房を行なうために設けられた、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を備える。冷房運転時と暖房運転時とで蒸気圧縮式冷凍サイクル10内の冷媒の流れる方向を四方弁13を用いて切り換えることにより、一台の熱交換器18を使用して、冷房運転時と暖房運転時との両方の場合に、車両の室内へ流通する空調用空気の温度を適切に調節できる。空調用空気と熱交換する熱交換器を二台配置する必要がないので、冷却装置1のコストを低減することができ、かつ冷却装置1を小型化することができる。
【0070】
また冷媒は、冷却部30へ流通し、HV機器31と熱交換することでHV機器31を冷却する。冷却装置1は、車両に搭載された発熱源であるHV機器31を、車両の室内の空調用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、冷却する。熱交換器18において空調用空気と熱交換することで車両の室内の冷暖房を行なうために設けられた蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、HV機器31の冷却が行なわれる。
【0071】
HV機器31の冷却のために、専用の水循環ポンプまたは冷却ファンなどの冷却機器を設ける必要はない。そのため、HV機器31の冷却装置1のために必要な構成を低減でき、装置構成を単純にできるので、冷却装置1の製造コストを低減することができる。加えて、HV機器31の冷却のためにポンプや冷却ファンなどの動力源を運転する必要がなく、動力源を運転するための消費動力を必要としない。したがって、HV機器31の冷却のための消費動力を低減することができる。
【0072】
冷房運転時に冷媒は、膨張弁16の出口において、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。熱交換器14は、冷媒を十分に冷却できる程度に、その放熱能力が定められている。膨張弁16を通過した後の冷媒をHV機器31の冷却に使用すると、熱交換器18における空調用空気の冷却能力が減少して車室用の冷房能力が低下するが、本実施の形態の冷却装置1では、熱交換器14において冷媒を十分な過冷却状態にまで冷却し、熱交換器14の出口の高圧の冷媒をHV機器31の冷却に使用する。そのため、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、HV機器31を冷却することができる。
【0073】
熱交換器14の仕様(すなわち、熱交換器14のサイズまたは熱交換性能)は、熱交換器14を通過した後の液相冷媒の温度が車室内の冷房のために必要とされる温度よりも低下するように、定められる。熱交換器14の仕様は、HV機器31を冷却しない場合の蒸気圧縮式冷凍サイクルの熱交換器よりも、冷媒がHV機器31から受け取ると想定される熱量分だけ大きい放熱量を有するように、定められる。このような仕様の熱交換器14を備える冷却装置1は、車両の室内の優れた冷房性能を維持しつつ、圧縮機12の動力を増加させることなく、HV機器31を適切に冷却できる。
【0074】
暖房運転時に冷媒は、熱交換器14において外気から吸熱することにより加熱され、また、冷却部30においてHV機器31から吸熱することにより加熱される。冷却部30と熱交換器14との両方で冷媒を加熱することにより、車両の室内の優れた暖房性能を維持しつつ、HV機器31を適切に冷却できる。冷却部30で冷媒が加熱され、HV機器31の廃熱を室内の暖房に有効利用できるので、成績係数が向上し、より効率よく暖房運転することができる。
【0075】
暖房運転時、冷却部30を通過してHV機器31を冷却する冷媒は、冷媒通路41を経由して圧縮機12と熱交換器14との間の冷媒通路22へ直接流通することができ、熱交換器14へは流通しない。冷媒の一部のみが熱交換器14を流通するように冷媒の経路を構成することにより、圧縮機12の吸入圧力が高められる。図4中に示す破線は、冷媒通路41が設けられず全ての冷媒が熱交換器14へ流れる場合の冷媒の熱力学状態を示す。この破線の場合と比較して、本実施の形態では、圧縮機12の入口における冷媒の圧力が上昇している。
【0076】
圧縮機12の入口での冷媒の圧力を上昇させることで、圧縮効率の低い条件で圧縮機12が作動することを抑制できるので、暖房運転時の圧縮機12での冷媒の断熱圧縮のための消費動力を低減することができる。これに伴い、圧縮機12の吐出ガス温度を低くできるので、圧縮機12の構成部品や潤滑油の劣化を抑制することができる。
【0077】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2の冷却装置1の構成を示す模式図である。実施の形態1と異なり、実施の形態2の冷却装置1は、冷却部30と膨張弁16との間の冷媒の経路に配置された、第三熱交換器としての熱交換器15を備える。
【0078】
熱交換器15が設けられるので、熱交換器14と膨張弁16との間の冷媒の経路は、熱交換器15よりも熱交換器14に近接する側の冷媒通路23と、熱交換器15よりも膨張弁16に近接する側の冷媒通路27と、に分割されている。冷媒通路23は、熱交換器14と熱交換器15との間を流通する冷媒の経路として設けられている。冷却通路32を含むHV機器31の冷却系である第二通路は、冷媒通路23の一部を形成する冷媒通路23aと並列に接続されている。
【0079】
冷却装置1はまた、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気の状態の冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離する、気液分離器60を備える。気液分離器60へ流入する気液二相状態の冷媒は、気液分離器60の内部において気相と液相とに分離される。気液分離器60は、冷媒を液体状の冷媒液62とガス状の冷媒蒸気61とに分離して、一時的に蓄える。気液分離器60の内部では、冷媒液62が下側、冷媒蒸気61が上側に溜まる。
【0080】
熱交換器14と冷却部30との間を流通する冷媒の経路は、熱交換器14に近接する側の冷媒通路33と、冷却部30に近接する側の冷媒通路34と、を含む。冷媒通路33の一方の端部は、気液分離器60の内部の天井側に配置され、冷媒蒸気61中に配置されている。冷媒通路34の一方の端部は、気液分離器60の内部の底側に配置され、冷媒液62中に浸漬されている。
【0081】
冷房運転時に、飽和液と飽和蒸気とが混合した気液二相状態の湿り蒸気の状態にある冷媒が熱交換器14から流出し、冷媒通路33を通って気液分離器60へ供給される。気液分離器60は、熱交換器14から流出して冷媒通路33を流通する冷媒を、気相冷媒である冷媒蒸気61と液相冷媒である冷媒液62とに分離する。分離された冷媒液62は、冷媒通路34を経由して、気液分離器60の外部へ流出する。気液分離器60内の液相中に配置された冷媒通路34の端部は、液相冷媒の気液分離器60からの流出口を形成する。気液分離器60の底側から冷媒通路34を経由して、冷媒液62のみが気液分離器60の外部へ送り出される。
【0082】
冷媒通路41の一端は、冷媒通路22に接続されている。冷媒通路41の他端は、気液分離器60の内部の、冷媒蒸気61中に配置されており、冷媒通路41を経由して冷媒蒸気61のみを確実に気液分離器60から流出できる構成とされている。冷媒通路41には、冷媒を絞り膨張させて冷媒の温度と圧力とを低下させる膨張弁47が設けられる。冷媒通路48は、気液分離器60と冷媒通路24aとを連通する。冷媒通路48の一端は、気液分離器60の内部に配置され、冷媒液62中に浸漬されている。冷媒通路48の他端は、冷媒通路24aに接続されている。冷媒通路48には、冷媒通路48への冷媒の流通を許容または禁止する開閉弁49が設けられる。冷房運転時には、膨張弁47と開閉弁49とはいずれも閉状態とされている。
【0083】
冷却装置1はさらに、熱交換器14と冷却部30との間の冷媒の経路において、冷媒通路33を連通または非連通の状態にする開閉弁37と、第一減圧器(膨張弁16)とは異なる第二減圧器としての膨張弁38とを備える。膨張弁38は、膨張弁16,44と同様に、冷媒を絞り膨張させ、冷媒の温度と圧力とを低下させる。さらに、膨張弁38をバイパスする冷媒の経路である冷媒通路72と、冷媒通路72上に設けられ冷媒通路72への冷媒の流通を切り換える開閉弁71と、が設けられている。
【0084】
冷房運転時には、図5に示すように、開閉弁37は開状態とされ、開閉弁71は閉状態とされる。熱交換器14において凝縮された冷媒は、冷媒通路33、気液分離器60、冷媒通路34、膨張弁38を経由して、冷却部30へ向かって流通する。冷却部30へ流通し、冷却通路32を経由して流れる冷媒は、HV機器31から熱を奪って、HV機器31を冷却させる。冷却部30は、気液分離器60から出て膨張弁38で減圧された低温低圧の冷媒を用いて、HV機器31を冷却する。
【0085】
冷房運転時には、図5に示すA点、B点、H点、C点、D点、F点およびE点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とが順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0086】
図6は、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図6中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図6中には、圧縮機12から熱交換器14、気液分離器60を経由して冷却部30へ流入し、HV機器31を冷却し、熱交換器15、膨張弁16、熱交換器18を経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,H,C,D,FおよびE点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0087】
実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、熱交換器14から膨張弁16へ至る系統を除いて、実施の形態1と同じである。つまり、図2に示すモリエル線図におけるE点からA点を経由してB点へ至る冷媒の状態と、図6に示すモリエル線図におけるE点からA点を経由してB点へ至る冷媒の状態と、は同じである。そのため、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10に特有の、B点からE点へ至る冷媒の状態について、以下に説明する。
【0088】
圧縮機12によって断熱圧縮された高温高圧の過熱蒸気状態の冷媒(B点)は、熱交換器14において冷却される。冷媒は、等圧のまま顕熱を放出して過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になる。熱交換器14から流出した湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路23,33を経由して気液分離器60へ流入する。
【0089】
気液分離器60で、気液二相状態にある冷媒が気液分離され、液相冷媒である冷媒液62のみが気液分離器60から流出し、冷媒通路34へ流れ(H点)、膨張弁38に流入する。膨張弁38において、飽和液状体の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、飽和液と飽和蒸気とが混合した湿り蒸気となる(C点)。膨張弁38において温度が下げられた冷媒は、冷却部30の冷却通路32へ供給される。冷却部30において、熱交換器14を通過して凝縮された液冷媒に熱を放出することで、HV機器31が冷却される。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(D点)。
【0090】
その後冷媒は、熱交換器15に流入する。冷媒の湿り蒸気は、熱交換器15において外気と熱交換することで再度凝縮され、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却された過冷却液になる(F点)。その後膨張弁16を通過することで、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(E点)。
【0091】
気液分離器60から流出する液相冷媒は、過不足の全くない真に飽和液状態の冷媒である。気液分離器60から液相の冷媒のみを取り出し冷却部30へ流すことにより、気液分離器60の上流側に配置された熱交換器14の能力を最大限に活用してHV機器31を冷却することができるので、HV機器31の冷却能力を向上させた冷却装置1を提供することができる。
【0092】
膨張弁38で膨張することにより温度が低下した冷媒を使用してHV機器31を冷却できるので、HV機器31をより効率よく冷却できる。膨張弁38の仕様を最適に選定することにより、冷却部30でHV機器31を冷却する冷媒の温度を任意に調整することができる。HV機器31の冷却に適したより低い温度の冷媒を冷却部30に供給して、HV機器31を冷却することができる。
【0093】
蒸気圧縮式冷凍サイクル10において、圧縮機12から吐出された高圧の冷媒は、熱交換器14と熱交換器15との両方によって凝縮される。熱交換器15において十分に冷媒を冷却することにより、膨張弁16の出口において、冷媒は、車両の室内の冷房のために本来必要とされる温度および圧力を有する。そのため、熱交換器18において冷媒が蒸発するときに外部から受け取る熱量を十分に大きくすることができる。冷媒を十分に冷却できる熱交換器15の放熱能力を定めることにより、車室内の空気を冷却する冷房の能力に影響を与えることなく、HV機器31を冷却することができる。したがって、HV機器31の冷却能力と、車室用の冷房能力との両方を、確実に確保することができる。
【0094】
実施の形態1の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12と膨張弁16との間に熱交換器14が配置され、冷房運転時には、冷房とHV機器31の冷却とに相当する分の熱交換を熱交換器14で行なう必要がある。そのため、熱交換器14において冷媒を飽和液の状態からさらに冷却し、冷媒が所定の過冷却度を有するまで冷却する必要があった。過冷却液の状態の冷媒を冷却すると、冷媒の温度が大気温度に近づき、冷媒の冷却効率が低下するので、熱交換器14の容量を増大させる必要がある。その結果、熱交換器14のサイズが増大し、車載用の冷却装置1として不利になるという問題がある。一方、車両へ搭載するために熱交換器14を小型化すると、熱交換器14の放熱能力も小さくなり、その結果、膨張弁16の出口における冷媒の温度を十分に低くできず、車室用の冷房能力が不足する虞がある。
【0095】
これに対し、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12と膨張弁16との間に二段の熱交換器14,15を配置し、HV機器31の冷却系である冷却部30が熱交換器14と熱交換器15との間に設けられる。熱交換器14では、冷媒を湿り蒸気の状態にまで冷却すればよい。湿り蒸気状態の冷媒が気液分離された飽和液状態の冷媒が膨張弁38を通過して温度と圧力とを下げられ、冷却部30においてHV機器31と熱交換する。
【0096】
HV機器31から蒸発潜熱を受け取り一部気化した湿り蒸気の状態の冷媒は、熱交換器15で再度冷却される。湿り蒸気状態の冷媒を凝縮させ完全に飽和液にするまで、冷媒は一定の温度で状態変化する。熱交換器15はさらに、車両の室内の冷房のために必要な程度の過冷却度にまで、冷媒を冷却する。そのため、実施の形態1と比較して、冷媒の過冷却度を大きくする必要がなく、熱交換器14,15の容量を低減することができる。したがって、車室用の冷房能力を確保でき、かつ、熱交換器14,15のサイズを低減することができるので小型化され車載用に有利な、冷却装置1を得ることができる。
【0097】
図7は、四方弁13を切り換えた状態の実施の形態2の冷却装置1を示す模式図である。図5と図7とを比較して、四方弁13が90°回転することにより、圧縮機12出口から四方弁13へ流入した冷媒が四方弁13を出る経路が、実施の形態1と同様に切り換えられている。図7に示す暖房運転時には、三方弁46は、冷媒通路35と冷媒通路45とを連通し、冷媒通路36と冷媒通路35,45とを連通しないように、開閉を切り換えられる。また、開閉弁37が閉じられ膨張弁38が全閉(開度0%)とされ、膨張弁47が冷媒を適切に絞り膨張するために開度調整され、開閉弁49,71が開かれる。
【0098】
そのため暖房運転時には、熱交換器18で空調用空気と熱交換した冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43との二方向へ分岐して流入する。冷媒通路24aへ流入した冷媒は、膨張弁16を通過して冷媒通路23を流通し、熱交換器15,14を経由して冷媒通路22bへ至る。冷媒通路43へ流入した冷媒は、膨張弁44を通過して冷媒通路45,35を流通し、冷却部30を経由して冷媒通路34,71を流通し、気液分離器60へ流入する。気液分離器60で気液分離された冷媒蒸気61は、気液分離器60から流出して冷媒通路41を流れる。冷媒通路22bを流れる冷媒と冷媒通路41を流れる冷媒とは、冷媒通路22,41の接続部において合流し、冷媒通路22aへ流通する。気液分離器60で気液分離された冷媒液62は、気液分離器60から流出して冷媒通路48を流れ、冷媒通路24aを経由して膨張弁16へ供給される。
【0099】
つまり、暖房運転時には、図7に示すA点、B点、E点、D点、H点、K点およびJ点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とに冷媒が循環し、かつ、図7に示すA点、B点、E点、M点、N点、F点、I点およびG点を順に通過するように冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器15,14とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とが順次接続された冷媒循環流路と、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁16と熱交換器15,14とが順次接続された冷媒循環流路と、を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0100】
冷媒通路24aの、冷媒通路24aと冷媒通路43との接続点と、冷媒通路24aと冷媒通路48との接続点と、の間には、流量調整弁52と膨張弁17とが配置されている。流量調整弁52は、その弁開度を変動させ、冷媒通路24aを流れる冷媒の圧力損失を増減させることにより、冷媒通路24aを流れる冷媒の流量と、冷媒通路43,45,35、冷却通路32、冷媒通路34,71、気液分離器60および冷媒通路41を順に流れる冷媒の流量と、を任意に調節する。膨張弁17は、他の膨張弁と同様に、冷媒通路24aを流通する冷媒を絞り膨張させ、冷媒の温度と圧力とを低下させる。
【0101】
実施の形態1で説明した流量調整弁51と同様に、流量調整弁52を使用して、冷却部30に流れる冷媒の量を最適に調節できるので、HV機器31の過冷却を確実に防止することができる。また、冷却部30への冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。さらに、膨張弁16を通過する冷媒と、膨張弁44を通過する冷媒と、の各々の流量を適宜調整できるので、圧縮機12の吸入圧力を最適に設定して、暖房運転時の圧縮機12での冷媒の断熱圧縮のための消費動力を低減することができる。
【0102】
図8は、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図8中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図8中には、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁44および冷却部30を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,D,H,KおよびJ点)における冷媒の熱力学状態が示される。図8中にはまた、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁16および熱交換器15,14を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,M,N,F,IおよびG点)における冷房の熱力学状態が示される。
【0103】
実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、熱交換器18出口から圧縮機12入口へ至る系統を除いて、実施の形態1と同じである。つまり、図4に示すモリエル線図におけるA点からB点を経由してE点へ至る冷媒の状態と、図8に示すモリエル線図におけるA点からB点を経由してE点へ至る冷媒の状態と、は同じである。そのため、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10に特有の、E点からA点へ至る冷媒の状態について、以下に説明する。
【0104】
熱交換器18で空調用空気と熱交換して液化した過冷却液状態の冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43とに分岐する。
【0105】
冷媒通路43へ流通する一部の液相冷媒は、膨張弁44において絞り膨張され、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路45,35を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(H点)。
【0106】
冷却部30から流出した湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路34,72を経由して気液分離器60へ流入する。気液分離器60で、気液二相状態にある冷媒は、冷媒蒸気61と冷媒液62とに気液分離される。気液分離器60は、冷却部30から流出して冷媒通路34を流通する冷媒を、気相冷媒と液相冷媒とに分離する。気液分離器60は、冷却部30において気化された冷媒を液体状の冷媒液62とガス状の冷媒蒸気61とに分離して、一時的に蓄える。
【0107】
飽和蒸気状態の冷媒蒸気61(K点)は、気液分離器60から流出して冷媒通路41へ流れ、膨張弁47に流入する。膨張弁47において、冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下する(J点)。飽和液状態の冷媒液62(L点)は、気液分離器60から流出して、冷媒通路48を経由して冷媒通路24aへ流通する。
【0108】
冷媒通路24bから冷媒通路24aへ流通する一部の液相冷媒は、膨張弁17において絞り膨張され、冷媒の温度と圧力が低下する(M点)。膨張弁17を通過した後の冷媒の圧力は、気液分離器60から流出する冷媒液62の圧力と等しくする。そのため、膨張弁17を通過した気液混合状態の冷媒と、気液分離器60から流出した液相の冷媒とは、共に膨張弁16の上流側の冷媒通路24aに流通する。気液分離器60から冷媒通路48を介して冷媒通路24aへ流れる冷媒と、冷媒通路24bから直接冷媒通路24aへ流れる冷媒とは、膨張弁16入口の冷媒通路24aにおいて混合される。
【0109】
混合された冷媒は、図8に示すL,M点と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、混合される前の各々の冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、混合される前の冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、L点における比エンタルピーとM点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(N点)。N点において冷媒は、L,M点における冷媒と等しい圧力を有し、L点の飽和液状態の冷媒以上、M点の気液混合状態の冷媒以下の比エンタルピーを有する。
【0110】
混合された冷媒はその後、膨張弁16へ流通し、膨張弁16を通過することで絞り膨張され、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路27を経由して熱交換器15へ流入する。熱交換器15のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって等圧のまま蒸発する。熱交換器15における外気との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。熱交換器15において潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(I点)。
【0111】
熱交換器15から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器14へ流入する。熱交換器14のチューブ内には、湿り蒸気状態の冷媒が流入する。冷媒は、チューブ内を流通する際に、フィンを経由して外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって加熱され、等圧のまま蒸発し、冷媒の乾き度が増大する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して、過熱蒸気となる(G点)。
【0112】
膨張弁47において絞り膨張され圧力が下げられた冷媒(J点)は、熱交換器14を経由して冷媒通路22bを流通する過熱蒸気状態の冷媒(G点)と等しい圧力を有する。そのため、冷媒通路41を流通する冷媒と冷媒通路22bを流通する冷媒とは、ともに冷媒通路22aへ流入して混合される。混合された冷媒は、図8に示すJ,G点における圧力と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、冷媒通路22b,41の各々を流通する冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、混合される前の冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、J点における比エンタルピーとG点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(A点)。
【0113】
気液分離器60の出口で飽和液の状態にある冷媒を、冷房運転時に冷媒通路34へ流通させ、暖房運転時に冷媒通路48へ流通させることにより、気相状態の冷媒蒸気が冷媒通路34,48へ流入することを抑制できる。そのため、冷媒の流速が早くなり圧力損失が増大することを抑制でき、冷媒を流通させるための圧縮機12の消費電力を低減できるので、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の性能の悪化を回避することができる。
【0114】
気液分離器60の内部には、飽和液状態の冷媒液62が貯留されている。気液分離器60は、その内部に冷媒液62を一時的に溜める蓄液器として機能する。気液分離器60内に所定量の冷媒液62が溜められることにより、暖房運転から冷房運転への切り換え時に気液分離器60から冷却部30へ流れる冷媒の流量を維持できる。気液分離器60が液だめ機能を有することにより、冷暖房切換の際に熱交換器14から気液分離器60へ流れる冷媒の流量が一時的に低下する冷媒流量の変動を吸収できる。したがって、暖房から冷房への切り換え時に冷却部30への冷媒供給量が不足することを回避でき、HV機器31の冷却性能を安定させることができる。
【0115】
暖房運転時、冷媒の一部のみが熱交換器14を流通するように冷媒の経路を構成することにより、圧縮機12の入口での冷媒の圧力を上昇させ、圧縮効率の低い条件で圧縮機12が作動することを抑制できるので、暖房運転時の圧縮機12での冷媒の断熱圧縮のための消費動力を低減することができる。
【0116】
実施の形態1では、熱交換器14から流出した冷媒を、冷却部30から流出した湿り蒸気状態の冷媒と混合させる必要がある。そのため、過熱蒸気の状態の冷媒を冷媒通路22aに流通させるために、熱交換器14において冷媒を乾き飽和蒸気の状態からさらに加熱し、冷媒が所定の過熱度を有するまで加熱する必要があった。そのため、熱交換器14の容量を増大させる必要があり、熱交換器14のサイズが増大し、車載用の冷却装置1として不利になるという問題がある。
【0117】
これに対し、実施の形態2の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、熱交換器14から流出した冷媒を、気液分離器60で分離された乾き飽和蒸気状態の冷媒と混合させて、圧縮機12の吸入圧力の上昇に用いるので、熱交換器14出口の冷媒の過熱度を大きくする必要がない。たとえば、膨張弁47で絞り膨張された冷媒(J点)の比エンタルピーと略等しい比エンタルピーを有する過熱蒸気の状態になるように、熱交換器14出口の冷媒(G点)の過熱度を調整してもよい。そのため、実施の形態1と比較して、熱交換器14,15の容量をより低減することができる。したがって、熱交換器14,15のサイズを低減することができるので小型化され車載用に有利な、冷却装置1を得ることができる。
【0118】
圧縮機12と膨張弁16との間に二段の熱交換器14,15が配置されるので、暖房運転時に冷媒は、熱交換器14,15の両方において外気から吸熱することにより加熱される。冷却部30と熱交換器14,15との両方で冷媒を加熱することにより、熱交換器14,15の各々の熱交換容量を低減することができる。熱交換器14の出口において冷媒を十分な過熱蒸気の状態にまで加熱できるので、車両の室内の優れた暖房性能を維持できる。
【0119】
なお、実施の形態2では、膨張弁38と膨張弁38をバイパスする冷媒通路72とを備える冷却装置1の例について説明した。冷房運転時に冷却部30へ流入する冷媒が膨張弁38で絞り膨張され、暖房運転時には冷媒が膨張弁38を通過するときの圧力損失を小さくできるような膨張弁38を選定できるのであれば、冷媒通路72は設けられなくても構わない。
【0120】
(実施の形態3)
図9は、実施の形態3の冷却装置1の構成を示す模式図である。実施の形態3の冷却装置1は、実施の形態2と同じ構成を有するが、暖房運転時に、開閉弁49が閉じられ膨張弁16が全閉(開度0%)とされ膨張弁47が全開(開度100%)とされている点で、実施の形態2と異なっている。
【0121】
このとき、圧縮機12で断熱圧縮され熱交換器18で空調用空気と熱交換した冷媒の全量が、冷媒通路24bから冷媒通路43へ流入する。冷媒通路43へ流入した冷媒は、膨張弁44を通過して絞り膨張され、冷却部30の冷却通路32を流通してHV機器31を冷却し、気液分離器60で気液分離され、冷媒蒸気61のみが気液分離器60から流出して冷媒通路41,22aを経由して圧縮機12へ戻る。
【0122】
つまり、暖房運転時には、図9に示すA点、B点、E点、D点およびH点を順に通過するように蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を冷媒が流れ、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とに冷媒が循環する。冷媒は、圧縮機12と熱交換器18と膨張弁44と冷却部30とが順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。
【0123】
図10は、実施の形態3の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図10中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。図10中には、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁44および冷却部30を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,DおよびH点)における冷媒の熱力学状態が示される。
【0124】
図10に示すように、圧縮機12の入口において、冷媒は、乾き飽和蒸気の状態にある(A点)。乾き飽和蒸気状態の冷媒は、圧縮機12に吸入され、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器18へと流れる。熱交換器18へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器18において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(E点)。
【0125】
熱交換器18で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路43へ流入する。冷媒通路23へ流通した過冷却液状態の冷媒は、膨張弁44において絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁44において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路45,35を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(H点)。
【0126】
冷却部30から流出した湿り蒸気状態の冷媒は、気液分離器60で、冷媒蒸気61と冷媒液62とに気液分離される。気液分離器60から飽和蒸気状態の冷媒蒸気61のみが流出して、冷媒通路41へ流れ、冷媒通路22a、四方弁13および冷媒通路26を経由して、圧縮機12に吸入される(A点)。圧縮機12は、冷媒通路26から流入する冷媒を圧縮する。冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰り返す。
【0127】
図9に示すように弁の開閉を設定することにより、暖房運転時に、全ての冷媒を冷媒通路24bから冷媒通路43へ流通させることができる。すなわち、暖房運転時に、膨張弁16を通過した低温低圧の冷媒が熱交換器15,14に流通しない設定とすることができる。
【0128】
たとえば氷点下以下など外気温が低い条件下では、暖房運転時に、熱交換器14,15において大気から吸熱することが難しく、そのため冷媒圧力が低下してしまう。冷媒圧力が下がりすぎると、圧縮機12の消費動力が増大する、圧縮機12からの吐出ガスが高温になり絶縁材や潤滑油が劣化する、熱交換器14,15への霜付きが発生するので霜を除去するための冷房運転(デフロスト運転)が必要になる、などの課題が生じる。
【0129】
そのため、低外気温条件では、実施の形態3に示すように暖房運転時に冷媒を熱交換器14,15に流通させないように、弁の開閉設定を切り換える。このようにすれば、冷却部30に冷媒を流通させることでHV機器31の冷却を確保でき、かつ、熱交換器18で十分に空調用空気を加温できるので暖房性能を確保できる。加えて、上述した課題が生じることを回避することができる。
【0130】
(実施の形態4)
図11は、実施の形態4の冷却装置1の構成を示す模式図である。実施の形態4の冷却装置1は、実施の形態2と比較して、エジェクタ80を備える点で異なっている。エジェクタ80には、冷媒通路43から分岐した冷媒通路81と、気液分離器60と冷却部30との間を流通する冷媒の経路である冷媒通路34のうち膨張弁38に対して冷却部30に近接する側から分岐した冷媒通路83と、冷媒通路34のうち膨張弁38に対して気液分離器60に近接する側から分岐した冷媒通路85と、が接続されている。
【0131】
冷媒通路81には、冷媒通路81を経由する冷媒の流通を許容または禁止する開閉弁82が配置されている。冷媒通路83には、冷媒通路83を経由する冷媒の流通を許容または禁止する開閉弁84が配置されている。冷媒通路85には、冷媒通路85を経由する冷媒の流通を許容または禁止する開閉弁86が配置されている。
【0132】
図11に示す冷房運転時には、開閉弁82,84,86はいずれも閉とされる。そのため冷媒は、図6と同様に状態を変化させながら、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。したがって、実施の形態2と同様に、気液分離器60から液相の冷媒のみを取り出し、膨張弁38で膨張することにより温度が低下した冷媒を使用してHV機器31を冷却できるので、HV機器31をより効率よく冷却することができる。
【0133】
図12は、四方弁13を切り換えた状態の実施の形態4の冷却装置1を示す模式図である。図12に示す暖房運転時に、開閉弁82,84,86が全て開とされ、かつ膨張弁38は全閉とされる。そのため、エジェクタ80に冷媒が流れる。エジェクタ80は、膨張弁44を通過する前の高圧の冷媒を駆動流とし、膨張弁44を通過し冷却部30においてHV機器31を冷却した後の冷媒を二次流とし、駆動流と二次流とを混合して、冷却部30から気液分離器60に向けて流通する低圧の冷媒の圧力を上昇させる、昇圧機として機能する。
【0134】
冷媒通路43から冷媒通路81を経由してエジェクタ80へ流入した高圧の冷媒を駆動流としてノズルから噴出させ、駆動流の噴出によりエジェクタ80内部に生じる負圧と駆動流の粘性とによって冷媒通路83から冷媒をエジェクタ80内に吸引する。エジェクタ80の内部で、冷媒通路81から流入した冷媒と冷媒通路83から流入した冷媒とが完全に混合し、その後ディフューザを通過することによって圧力を高められて、冷媒通路85に放出される。膨張弁44を通過して圧力が低下した冷媒は、エジェクタ80で昇圧されて、冷媒通路85,34を経由して気液分離器60へ流れる。
【0135】
図13は、実施の形態4の蒸気圧縮式冷凍サイクル10の暖房運転時の冷媒の状態を示すモリエル線図である。図13中の横軸は、冷媒の比エンタルピー(単位:kJ/kg)を示し、縦軸は、冷媒の絶対圧力(単位:MPa)を示す。図中の曲線は、冷媒の飽和蒸気線および飽和液線である。
【0136】
図13中には、熱交換器18の出口から冷媒通路43へ流入し、膨張弁44において絞り膨張され、HV機器31を冷却した後にエジェクタ80で昇圧され、気液分離器60で気液分離された冷媒蒸気61が気液分離器60から流出して冷媒通路41,22aを経由して圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,D,C,H,KおよびJ点)における冷媒の熱力学状態が示される。図13中にはまた、圧縮機12から熱交換器18、膨張弁16および熱交換器15,14を順に経由して流通し圧縮機12へ戻る、蒸気圧縮式冷凍サイクル10中の各点(すなわちA,B,E,M,N,F,IおよびG点)における冷房の熱力学状態が示される。
【0137】
図13に示すように、圧縮機12に吸入された過熱蒸気状態の冷媒(A点)は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になって(B点)、冷媒は熱交換器18へと流れる。
【0138】
熱交換器18へ入った高圧の冷媒蒸気は、熱交換器18において冷却され、等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になり、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して過冷却液になる(E点)。熱交換器18で液化した高圧の液相冷媒は、冷媒通路24bから冷媒通路24aと冷媒通路43とに分岐する。
【0139】
冷媒通路43へ流通する一部の液相冷媒は、冷媒通路43を経由して膨張弁44に流入する。膨張弁44において、過冷却液状態の冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる(D点)。膨張弁44において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路45,35を経由して冷却部30の冷却通路32へ流れ、HV機器31を冷却する。HV機器31との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。HV機器31から潜熱を受け取って一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加する(C点)。
【0140】
冷却部30において温められた冷媒は、エジェクタ80で昇圧される。膨張弁44を通過しない高圧冷媒を冷媒通路81からエジェクタ80へ供給し、膨張弁44を通過して圧力が低下した低圧冷媒を冷媒通路83からエジェクタ80へ供給することにより、低圧冷媒が昇圧され、かつ低圧冷媒の温度が上昇する。エジェクタ80は、高圧冷媒を駆動ガスとし低圧冷媒を吸込ガスとすることで、高圧冷媒と低圧冷媒との差圧を利用して低圧冷媒をエジェクタ80に導入し、低圧冷媒の圧力を上昇させ、より圧力の高い冷媒を吐出する(H点)。
【0141】
低圧冷媒を昇圧するための昇圧機としてエジェクタ80が使用されるので、消費動力を必要とするコンプレッサを駆動させて冷媒を昇圧させる必要がない。そのため、消費動力の増加を回避することができる。エジェクタ80は、ノズルとディフューザとが組み合わされた簡単な構造であって、運動する部分を有しないために、耐久性および信頼性に優れた昇圧機を提供することができる。
【0142】
その後冷媒は、冷媒通路85,34を経由して気液分離器60へ流入する。気液分離器60で、気液二相状態にある冷媒は、冷媒蒸気61と冷媒液62とに気液分離される。気液分離器60で分離された乾き飽和蒸気状態の冷媒蒸気61(K点)は、気液分離器60から流出して冷媒通路41へ流れ、膨張弁47に流入する。膨張弁47において、冷媒は絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下する(J点)。飽和液状態の冷媒液62(L点)は、気液分離器60から流出して、冷媒通路48を経由して冷媒通路24aへ流通する。
【0143】
冷媒通路24bから冷媒通路24aへ流通する一部の液相冷媒は、膨張弁17において絞り膨張され、冷媒の温度と圧力が低下する(M点)。膨張弁17を通過した後の冷媒の圧力は、気液分離器60から流出する冷媒液62の圧力と等しくする。そのため、膨張弁17を通過した気液混合状態の冷媒と、気液分離器60から流出した液相の冷媒とは、共に膨張弁16の上流側の冷媒通路24aに流通する。気液分離器60から冷媒通路48を介して冷媒通路24aへ流れる冷媒と、冷媒通路24bから直接冷媒通路24aへ流れる冷媒とは、膨張弁16入口の冷媒通路24aにおいて混合される。
【0144】
混合された冷媒は、図13に示すL,M点と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、混合される前の各々の冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、混合される前の冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、L点における比エンタルピーとM点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(N点)。N点において冷媒は、L,M点における冷媒と等しい圧力を有し、L点の飽和液状態の冷媒以上、M点の気液混合状態の冷媒以下の比エンタルピーを有する。
【0145】
混合された冷媒はその後、膨張弁16へ流通し、膨張弁16を通過することで膨張弁16において絞り膨張され、冷媒の比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、気液混合状態の湿り蒸気となる(F点)。膨張弁16において温度が下げられた冷媒は、冷媒通路27を経由して熱交換器15へ流入する。熱交換器15において外気から潜熱を受け取って冷媒が加熱され、一部の冷媒が気化することにより、湿り蒸気状態の冷媒中に含まれる飽和蒸気の割合が増加し、冷媒の乾き度が増大する(I点)。
【0146】
熱交換器15から出た湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器14へ流入する。冷媒は、熱交換器14を流通する際に、外気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって加熱され、等圧のまま蒸発し、冷媒の乾き度が増大する。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱によって冷媒蒸気は温度上昇して過熱蒸気となる(G点)。
【0147】
膨張弁47において絞り膨張され圧力が下げられた冷媒(J点)は、熱交換器14を経由して冷媒通路22bを流通する過熱蒸気状態の冷媒(G点)と等しい圧力を有する。そのため、冷媒通路41を流通する冷媒と冷媒通路22bを流通する冷媒とは、ともに冷媒通路22aへ流入して混合される。混合された冷媒は、図13に示すJ,G点における圧力と等しい圧力を有する。混合された冷媒の比エンタルピーは、冷媒通路22b,41の各々を流通する冷媒の比エンタルピーおよび流量の比によって決まる。たとえば、混合される前の冷媒の流量が相等しければ、混合された冷媒は、J点における比エンタルピーとG点における比エンタルピーとの中間の比エンタルピーを有する(A点)。その後冷媒は、四方弁13および冷媒通路26を経由して、圧縮機12に吸入される。圧縮機12は、冷媒通路26から流入する冷媒を圧縮する。
【0148】
エジェクタ80により昇圧されたH点の冷媒の温度および圧力を、図7に示すエジェクタ80を備えない構成の冷却装置1における気液分離器60の入口側のH点の冷媒の温度および圧力と等しくなるようにすれば、HV機器31を冷却する冷媒の温度および圧力を低くできる。つまり、図13に示すD点からC点へ流通する冷媒の温度および圧力は、エジェクタ80で昇圧される分、図8に示すD点からH点へ流通する冷媒の温度および圧力と比較して、相対的に低くなる。そのため、HV機器31と冷却部30を流通する冷媒との温度差が大きくなり、冷媒のHV機器31からの吸熱量が大きくなる。
【0149】
冷却部30においてHV機器31から冷媒に与えられる熱量が大きくなるので、熱交換器14,15で冷媒が外気から吸熱する熱量を、相対的に小さくすることができる。この場合、外気と冷媒との温度差を小さくできることになるから、膨張弁16を経由して熱交換器15,14を経由して流れる冷媒の温度および圧力を相対的に高くすることができる。すなわち、図13と図8とを比較すると、F点からG点へ至る冷媒の圧力は、図13の方がより高くなっている。
【0150】
前述した通り、膨張弁47での絞り膨張により冷媒通路41を流れる冷媒の圧力は、冷媒通路22bを流れる冷媒の圧力と等しくされる。換言すると、圧縮機12に流入する冷媒の圧力は、G点における冷媒の圧力に合わせられる。そのため、図13と図8とを比較すると、A点における圧力は図13の方がより高くなる。冷却部30でHV機器31を冷却した後の冷媒をエジェクタ80を使用して昇圧することで、圧縮機12の入口での冷媒の圧力をさらに上昇させることができる。したがって、実施の形態1〜3と比較して圧縮機12の消費動力をさらに低減することができる。
【0151】
なお、実施の形態1〜4においては、HV機器31を例として車両に搭載された電気機器を冷却する冷却装置1について説明した。電気機器としては、少なくとも作動によって熱を発生させる電気機器であれば、インバータ、モータジェネレータなどの例示された電気機器に限定されるものではなく、任意の電気機器であってもよい。冷却の対象となる電気機器が複数個ある場合においては、複数の電気機器は、冷却の目標となる温度範囲が共通していることが望ましい。冷却の目標となる温度範囲は、電気機器を作動させる温度環境として適切な温度範囲である。
【0152】
さらに、本発明の冷却装置1により冷却される発熱源は、車両に搭載された電気機器に限られず、熱を発生する任意の機器、または任意の機器の発熱する一部分であってもよい。
【0153】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、各実施の形態の構成を適宜組合せてもよい。また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の冷却装置は、モータジェネレータおよびインバータなどの電気機器を搭載するハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車などの車両における、車内の冷房を行なうための蒸気圧縮式冷凍サイクルを使用した電気機器の冷却に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0155】
1 冷却装置、10 蒸気圧縮式冷凍サイクル、12 圧縮機、13 四方弁、14,15,18 熱交換器、16,17,38,44,47 膨張弁、21,22,22a,22b,23,23a,24、24a,24b,25,26,27,33,34,35,36,41,43,45,48,72,81,83,85 冷媒通路、30 冷却部、31 HV機器、32 冷却通路、37,49,71,82,84,86 開閉弁、42,46 三方弁、51,52 流量調整弁、60 気液分離器、61 冷媒蒸気、62 冷媒液、80 エジェクタ、90 ダクト、91 ダクト入口、92 ダクト出口、93 ファン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱源を冷却する冷却装置であって、
冷媒を循環させるための圧縮機と、
前記冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器と、
前記冷媒を減圧する減圧器と、
前記冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器と、
前記圧縮機から前記第一熱交換器へ向かう前記冷媒の流れと、前記圧縮機から前記第二熱交換器へ向かう前記冷媒の流れと、を切り換える四方弁と、
前記第一熱交換器と前記減圧器との間に並列に接続された前記冷媒の経路である第一通路および第二通路と、
前記第二通路上に設けられ、前記冷媒を用いて前記発熱源を冷却する冷却部と、
前記圧縮機と前記第一熱交換器との間の前記冷媒の経路と、前記冷却部に対し前記第一熱交換器に近接する側の前記第二通路と、を連通する、第一連通路と、
前記減圧器と前記第二熱交換器との間の前記冷媒の経路と、前記冷却部に対し前記減圧器に近接する側の前記第二通路と、を連通する、第二連通路と、を備える、冷却装置。
【請求項2】
前記冷却部と前記減圧器との間を流通する前記冷媒の経路に設けられ、前記冷媒と外気との間で熱交換する第三熱交換器を備える、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記第一熱交換器と前記冷却部との間を流通する前記冷媒の経路に設けられた第二減圧器を備える、請求項1または請求項2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記冷却部に対し前記第一熱交換器に近接する側の前記第二通路に配置された気液分離器を備える、請求項1から請求項3のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項5】
前記第一連通路の一端は、前記気液分離器の気相中に配置されている、請求項4に記載の冷却装置。
【請求項6】
前記冷却部から前記第一連通路に向けて流通する前記冷媒の圧力を上昇させる昇圧機を備える、請求項1から請求項5のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項7】
前記冷媒が前記圧縮機から前記第二熱交換器へ向けて流通するように前記四方弁を設定したとき、前記第一熱交換器に前記冷媒が流通しないように前記冷媒の経路を切り換える、請求項1から請求項6のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項1】
発熱源を冷却する冷却装置であって、
冷媒を循環させるための圧縮機と、
前記冷媒と外気との間で熱交換する第一熱交換器と、
前記冷媒を減圧する減圧器と、
前記冷媒と空調用空気との間で熱交換する第二熱交換器と、
前記圧縮機から前記第一熱交換器へ向かう前記冷媒の流れと、前記圧縮機から前記第二熱交換器へ向かう前記冷媒の流れと、を切り換える四方弁と、
前記第一熱交換器と前記減圧器との間に並列に接続された前記冷媒の経路である第一通路および第二通路と、
前記第二通路上に設けられ、前記冷媒を用いて前記発熱源を冷却する冷却部と、
前記圧縮機と前記第一熱交換器との間の前記冷媒の経路と、前記冷却部に対し前記第一熱交換器に近接する側の前記第二通路と、を連通する、第一連通路と、
前記減圧器と前記第二熱交換器との間の前記冷媒の経路と、前記冷却部に対し前記減圧器に近接する側の前記第二通路と、を連通する、第二連通路と、を備える、冷却装置。
【請求項2】
前記冷却部と前記減圧器との間を流通する前記冷媒の経路に設けられ、前記冷媒と外気との間で熱交換する第三熱交換器を備える、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記第一熱交換器と前記冷却部との間を流通する前記冷媒の経路に設けられた第二減圧器を備える、請求項1または請求項2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記冷却部に対し前記第一熱交換器に近接する側の前記第二通路に配置された気液分離器を備える、請求項1から請求項3のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項5】
前記第一連通路の一端は、前記気液分離器の気相中に配置されている、請求項4に記載の冷却装置。
【請求項6】
前記冷却部から前記第一連通路に向けて流通する前記冷媒の圧力を上昇させる昇圧機を備える、請求項1から請求項5のいずれかに記載の冷却装置。
【請求項7】
前記冷媒が前記圧縮機から前記第二熱交換器へ向けて流通するように前記四方弁を設定したとき、前記第一熱交換器に前記冷媒が流通しないように前記冷媒の経路を切り換える、請求項1から請求項6のいずれかに記載の冷却装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−245856(P2012−245856A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118275(P2011−118275)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
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