説明

冷蔵装置のアルミニウム製部品の摩耗最小化のためのポリオールエステル減摩剤の使用

【課題】冷蔵装置のアルミニウム表面の減摩に有用な減摩剤組成物および作動液を提供する。
【解決手段】該組成物はモノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールから成る群から選択される少なくとも1種のアルコール並びに2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、n−ペンタン酸およびイソノナン酸から成る群から選択される少なくとも1種のカルボン酸から調製されるエステル減摩剤を含有する。また、該作動液は該減摩剤組成物および塩素不含フルオロ基を有する熱媒液(例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタン)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、完全潤滑剤としても使用可能なポリオールエステル減摩剤ベースストック(base stock)、該減摩剤ベースストックまたは完全潤滑剤と共に一次熱媒液を含有する冷蔵用作動液、および冷蔵装置のアルミニウム製部品の減摩のためにこれらの組成物を使用する方法に関する。この種の減摩剤および減摩剤ベースストックは大部分または全てのハロカーボン冷媒と併用するのに一般的に適しており、特に、塩素不含フルオロ基を有する熱媒液(特に、ペンタフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、ジフルオロメタンおよび1,1,1,2−テトラフルオロエタンのような塩素不含熱媒液)と併用するのに適している。
【背景技術】
【0002】
関連技術の現状を以下に説明する。
塩素不含熱媒液は冷蔵システムや空調システムに使用するのに望ましいものである。この理由は、この種の熱媒液は現在一般的に多用されているクロロフルオロカーボン熱媒液(例えば、トリクロロフルオロメタンおよびジクロロジフルオロメタン等)に比べて大気中へ放出されても環境に多大な悪影響をもたらさないからである。しかしながら、塩素不含冷媒用熱媒液は商業的に十分な減摩剤を欠くために商業的な規模で普及するには至っていない。このことは、当該分野において「冷媒134a」または「R134a」として一般的に知られている環境に許容される主要な熱媒液の1つである1,1,1,2−テトラフルオロエタンの場合にもあてはまる。その他のフッ素置換アルカン類も有効な熱媒液である。
【0003】
特定のタイプの冷蔵装置に使用されている減摩剤は該装置の内部のアルミニウム表面を保護するためのものである。このような内部表面は、特に該装置の一部を成すコンプレッサーの作動中に減摩剤および減摩剤/冷媒作動液と絶えず接触するために摩耗するようになる。このような摩耗によって生じるアルミニウム粒子はコンプレッサーを詰まらせ、これを実用上不適当なものにする。さらに、アルミニウム表面は経時的に摩耗し、冷蔵装置の固有の機能を妨げることになる。
【0004】
この種の減摩剤は冷蔵装置の機械部分を腐食させてはならず、また、広い温度範囲にわたって冷媒と化学的に反応してはならない。低出力のコンプレッサーの場合でも、冷蔵装置の機械部分の表面からの減摩剤の過度の消失を回避するためには該減摩剤には一定の最小粘度が必要である(該機械部分の表面は作動中は潤滑性を必要とするが、例えば、冷蔵システムのコンプレッサーやその他の作動部品が停止している間は冷媒作動液に浸漬されてはならない)。
【0005】
冷媒と冷媒作動液の減摩剤の相互混和性は非常に重要である。何故ならば、減摩剤は高温または低温において冷媒から分離してはならないからである。冷媒と減摩剤との混和性が低いと、冷蔵システムの作動部品が不十分な潤滑性に起因して動かなくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする1つの課題は、塩素不含冷媒、特に冷蔵装置内部のアルミニウム表面の摩耗を最小にする1,1,1,2−テトラフルオロエタン冷媒用の減摩剤を提供することである。
本発明が解決しようとする別の課題は、広い温度範囲にわたって冷媒と混和性または相溶性のある減摩剤を提供することである。
本発明が解決使用とするさらに別の課題は、調整された範囲の粘度値と十分な加水分解安定性を有し、かつ、未反応酸の含有量が非常に少ない摩耗剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、(i)冷蔵装置内部のアルミニウム表面の摩耗を低減させ、(ii)所望の粘度グレードを有し、(iii)塩素不含フルオロ基を有する熱媒液、特にペンタフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、ジフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタンおよびこれらの混合物のような塩素不含熱媒液と広い温度範囲において高い混和性を有する高品質のエステル減摩剤が得られることが判明した。これらのエステルは十分な加水分解安定性を有し、また、これらの遊離酸含有量は非常に少ない。
【0008】
本発明による減摩剤組成物は、反応性成分としてペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールから選択されるアルコールを少なくとも1種有するエステルを含有するエステルブレンドから実質上成る。
【0009】
上記のエステル減摩剤はこの種の用途に使用してもよく、また、最終用途に応じて1種または複数種の添加剤を配合して配合減摩剤として使用してもよい。しかしながら、本発明による減摩剤の別の望ましい特徴は、作動過程において減摩剤と接触する冷蔵装置のアルミニウム表面に良好な減摩効果をもたらすために摩耗防止用添加剤の配合を必要としないことである。
【0010】
本発明によるエステル減摩剤は冷媒作動液の成分として種々の塩素不含フルオロ基を有する熱媒液、特に1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R−134a)と併用するときに特に有利である。
【発明の効果】
【0011】
本発明による冷媒作動液は、熱媒液の循環的な圧縮、液化、膨張および蒸発を伴う冷蔵装置の実際上の作動において非常に良好な効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
請求の範囲と実施例の場合または特に明示する場合を除き、この明細書において物質の量あるいは反応および/または使用の条件を示すのに用いる数値は本発明の最広義の範囲を限定するときには概数値である。しかしながら、記載する正確な量に対応する範囲内での本発明の実施は通常は好ましいものである。
【0013】
本発明による減摩剤組成物を構成する各々のエステルに関しては、酸自体を反応させないで酸無水物のような酸誘導体、塩化アシルおよび酸エステルを反応させることによって同じエステルを得ることができる。酸は経済的な観点からは一般に好ましいものであって、ここでの反応成分として例示することができるが、酸とこれらに対する反応性成分によってここで定義されるエステルはアルコールと対応する酸誘導体との反応によって同様にして入手することができる。ここで用いる「イソノナン酸源」という用語は該酸自体だけでなく、対応する酸無水物、塩化アシルおよびエステル誘導体にも関するものである。
【0014】
本発明による減摩剤組成物を構成するエステルの反応性成分に関しては、所望のアルコールと酸のみを明示するが、工業用グレードの製品中に通常含まれる程度の不純物は大抵の場合は許容される。例えば、「工業用ペンタエリトリトール」(PE)は通常はモノPEを85〜90重量%のオーダーで含有すると共に、ジぺンタエリトリトール(DPE)およびトリペンタエリトリトール(TPE)をそれぞれ10〜15重量%および0〜3重量%のオーダーで含有するが、多くの場合において高品質エステルの製造原料としては十分に満足できるものである。また、「市販のイソペンタン酸」は約65重量%のn−ペンタン酸と共に2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸から選択されるイソペンタン酸を約35重量%含有する。
【0015】
実際、各々のエステルのアルコール成分と酸成分との反応は、反応混合物に最初に配合する酸成分の量を該酸成分と反応するアルコール成分に対して10〜25当量%過剰になるようにすることによってより効果的に進行する。この明細書において用いる酸の当量はカルボキシル基を1グラム当量有する量であり、また、アルコールの当量はヒドロキシル基を1グラム当量有する量である。実際に反応した酸とアルコールとの混合物の組成はエステル生成物中のアシル基の含有量の分析によって決定することができる。
【0016】
本発明によってエステル生成物を製造する場合、反応させる酸の沸点は反応させるアルコールおよびエステル生成物の沸点よりも低くしてもよい。この条件が満たされるならば、エステル反応終了後に残存する過剰酸の大部分を蒸留(好ましくは1〜5torrのような低圧下での蒸留)によって除去できるので好ましい。
【0017】
このような真空蒸留後、生成物はそのまま本発明による減摩剤ブレンドストックとして使用することができる。生成物をさらに精製する必要があるときには、第1回目の真空蒸留後の生成物中の遊離酸の含有量をエポキシエステルを用いる処理法(米国特許第3,485,754号明細書参照)またはいずれかの適当なアルカリ性物質(例えば、石灰、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩)を用いる中和法によって低減させてもよい。
【0018】
生成物をエポキシエステルを用いて処理する場合には、過剰のエポキシエステルを非常に低い圧力下での第2回目の蒸留によって除去してもよいが、エポキシエステルと残存酸との反応生成物は有害でない限り生成物中に含まれていてもよい。精製法としてアルカリ中和法を利用する場合には、生成物を減摩剤エステルブレンドの調製に用いる前にアルカリによって中和された未反応の過剰脂肪酸を除去するために水洗処理に付すのが特に好ましい。
【0019】
本発明によるエステルベースストックは実質的には、モノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールから選択される少なくとも1種のアルコール並びに0〜100重量%、好ましくは約1〜99重量%、より好ましくは約20〜80重量%、最も好ましくは約40〜60重量%のペンタン酸源および0〜100重量%、好ましくは約1〜99重量%、より好ましくは約20〜80重量%、最も好ましくは約40〜60重量%のイソノナン酸を含む酸混合物から得られるエステルを含有するエステルブレンドから成る。ペンタン酸成分に関しては、2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸との混合物とn−ペンタン酸の重量%比は0〜100、好ましくは約30〜40:60〜70である。得られるエステルのISO粘度グレード数(ISO viscosity grade number)は15〜100、より好ましくは22〜46、最も好ましくは約32である。
【0020】
この明細書に記載のエステルベースストックは使用条件によっては完全潤滑剤として十分に機能する。しかしながら、完全潤滑剤には当該分野において添加剤として一般的に知られている下記のようなその他の成分を配合するのが好ましい:耐酸化性と熱安定性の向上剤、腐食防止剤、金属奪活剤、減摩性添加剤、粘度指数向上剤、流動点および/またはフロック点の降下剤、洗剤、分散剤、発泡促進剤、消泡剤および耐極圧添加剤。多くの添加剤は耐摩耗性と耐極圧性の両方を付与するものであってもよく、あるいは金属奪活剤と腐食防止剤として機能するものであってもよい。添加剤の全配合量は配合減摩剤組成物の全重量に基づいて8重量%を越えない量、より好ましくは5重量%を越えない量である。
【0021】
上記の種類の添加剤の有効な配合量は次の通りである:抗酸化剤(0.01〜5%)、腐食防止剤(0.01〜5%)、金属奪活剤(0.001〜0.5%)、減摩性添加剤(0.5〜5%)、粘度指数向上剤(0.01〜2%)、流動点および/またはフロック点の降下剤(0.01〜2%)、洗剤(0.1〜5%)、分散剤(0.1〜5%)、発泡促進剤(0.001〜0.1%)、消泡剤(0.001〜0.1%)および耐極圧剤(0.1〜2%)(これらの量は減摩剤組成物の全重量に基づく値である)。特定の環境や用途によっては添加剤の配合量は上記の量よりも多くしてもよく、あるいは少なくしてもよく、また、各々の添加剤は単独で使用してもよく、あるいは適宜併用してもよい。
【0022】
上記の例は単なる例示的なものであって、請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではない。
【0023】
耐酸化性と熱安定性の向上剤としては次のものが例示される:ジフェニルアミン、ジナフチルアミンおよびフェニルナフチルアミン(フェニル基およびナフチル基は置換されていてもよい)、例えば、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、p−オクチルジフェニルアミン、p,p−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N−(p−ドデシル)−フェニル−2−ナフチルアミン、ジ−1−ナフチルアミンおよびジ−2−ナフチルアミン;フェノチアジン、例えば、N−アルキルフェノチアジン;イミノ(−ビスベンジル);ヒンダードフェノール、例えば、6−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ(t−ブチル)フェノール、4−メチル−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4,4’−メチレンビス(−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール)、4,4’−メチレンビス(−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール)等。
【0024】
適当な銅金属奪活剤としては次のものが例示される:イミダゾール、ベンズアミダゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、2,5−ジメルカプトチアジアゾール、サリチリジン−プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2−メチルベンズアミダゾール、3,5−ジメチルピラゾールおよびメチレンビス−ベンゾトリアゾール。ベンゾトリアゾール誘導体が好ましい。より一般的な金属奪活剤および/または腐食防止剤としては次のものが例示される:有機酸およびこれらのエステル、金属塩、酸無水物、例えば、N−オレイルサルコシン、ソルビタンモノオレエート、ナフテン酸鉛、コハク酸ドデセニル並びにその部分エステルおよびアミド、および4−ノニルフェノキシ酢酸;第一、第二および第三脂肪族アミンおよび脂環式アミン、有機酸および無機酸のアミン塩、例えば、油溶性アルキルアンモニウムカルボキシレート、ヘテロ環式含窒素化合物、例えば、チアジアゾール、置換イミダゾリンおよびオキサゾリン;キノリン、キノンおよびアントラキノン;没食子酸プロピル;バリウムジノニルナフタレンスルホネート;アルケニルコハク酸もしくはその酸無水物のエステルおよびアミド誘導体、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、酸性アルキルホスフェートのアミン塩およびその誘導体。
【0025】
適当な減摩性添加剤としては次のものが例示される:シロキサンポリマー、ポリオキシアルケンポリマー、ポリアルキレングリコール、脂肪酸および天然油の長鎖誘導体、例えば、エステル、アミン、アミド、イミダゾリンおよびホウ酸エステル。
【0026】
適当な粘度指数向上剤としては次のものが例示される:ポリメタクリレート、ビニルピロリドン−メタクリレートコポリマー、ポリブテンおよびスチレン−アクリレートコポリマー。
【0027】
適当な流動点および/またはフロック点の降下剤としては次のものが例示される:ポリメタクリレート、例えば、メタクリレート−エチレン−酢酸ビニルターポリマー;アルキル化ナフタレン誘導体、およびフリーデル−クラフツ触媒を用いる尿素とナフタレンもしくはフェノールとの縮合反応による生成物。
【0028】
適当な洗剤および/または分散剤としては次のものが例示される:ポリブテニルコハク酸アミド;ポリブテニルホスホン酸誘導体;長鎖アルキル置換芳香族スルホン酸およびその塩;アルキルスルフィドのメチル塩、アルキルフェノールのメチル塩、アルキルフェノールの縮合物のメチル塩およびアルデヒド。
【0029】
適当な消泡剤としては次のものが例示される:シリコンポリマー、シロキサンポリマー、ポリオキシアルケンポリマーおよび一部のアクリレート。
発泡促進剤としては次のものが例示される:消泡剤として用いられるシリコンポリマーとは異なる構造を有するシリコンポリマー、シロキサンポリマーおよびポリオキシアルケンポリマー。
【0030】
適当な耐摩耗剤および耐極圧剤としては次のものが例示される:硫化脂肪酸および脂肪酸エステル、例えば、硫化タル油酸オクチル、硫化テルペン、硫化オレフィン、オルガノポリスルフィド、有機リン誘導体、例えば、アミンホスフェート、アルキル酸性ホスフェート、ジアルキルホスフェート、アミンジチオホスフェート、トリアルキルおよびトリアリールホスホロチオネート、トリアルキルおよびトリアリールホスフィン、およびジアルキルホスフィット、例えば、リン酸モノヘキシルエステルのアミン塩、ジノニルナフタレンスルホネートのアミン塩、トリフェニルホスフェート、トリナフチルホスフェート、ジフェニルクレシルおよびジクレシルフェニルホスフェート、ナフチルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスホロチオネート;ジチオカルバメート、例えば、アンチモンジアルキルジチオカルバメート;塩素化および/またはフッ素化炭化水素、およびキサントゲン酸塩。
【0031】
一部の操作条件下においては、フルオロカーボン冷媒作動液と併用するのに有用であるとされていた従来の特定の減摩剤ベースストックの主成分であるポリエーテルポリオール型の減摩剤は最適な安定性を示さず、最も有用な一部の減摩剤用添加剤に対して十分な混和性を示さないと考えられている。従って、本発明の1つの態様においては、減摩剤ベースストックと減摩剤にはこの種のポリエーテルポリオールを実質上含有しないようにするのが好ましい。「実質上含有しない」とはこのような組成物が該成分を約10重量%(好ましくは約2.6重量%、より好ましくは約1.2重量%)よりも多く含有しないことを意味する。
【0032】
本発明による冷媒作動液の配合においては、選択された熱媒液と減摩剤の化学的特性と配合比を、作動液を用いる冷蔵システムの操作中に該作動液が影響を受ける全作動温度にわたって該作動液の均一性が保持される(即ち、相分離または濁りが視覚的に認められない)ように選定するのが好ましい。この作動温度は−60℃〜+175℃の範囲で変化してもよい。作動液は+30℃まで単一相の状態を維持すれば十分な場合が多いが、該単一相は少なくとも100℃まで維持されればさらに好ましい。同様に、作動液は0℃まで冷却されても単一相の状態を維持すれば十分な場合が多いが、該単一相は−55℃まで維持されればさらに好ましい。塩素不含フルオロ基を有する熱媒液との単一相混合物は前述のような配合エステル減摩剤を用いて調製される場合が多く、また、最も好ましいエステルは広い温度範囲にわたってこのような単一相挙動を最も示しやすい。
【0033】
作動液を調製するために熱媒液と混合する減摩剤の配合量を正確に予測するのは困難な場合が多いので、減摩剤組成物が熱媒液と上記の温度範囲にわたって全ての配合割合で単一相を維持するような配合処方が最も好ましい。これは厳密な要求ではなく、本発明による減摩剤を1重量%まで含有する作動液混合物に関しては、上記の全温度範囲にわたって単一相が維持されれば十分な場合が多い。減摩剤を2重量%、4重量%、10重量%または15重量%まで含有する混合物が上記の温度範囲にわたって単一相挙動を示せばさらに好ましい。
【0034】
単一相挙動が要求されない場合もある。冷蔵用減摩剤および以下においては、2相が形成されるが、少なくとも機械的に穏やかに撹拌される限り容易に均一分散液に混合し得るときに「混和し得る(miscible)」という用語を用いる。但し、「全ての配合割合で混和し得る」というフレーズで用いる場合もある。一部の冷蔵装置等で用いられているコンプレッサーはこの種の熱媒液と減摩剤との混和し得る混合物を用いたときに十分に作動するように設計されている。これに対して、凝固または著しく増粘して2相もしくはそれ以上の相を形成する混合物は実用上許容できないものであり、このような混合物は「混和し得ない」ものとして表示する。
【0035】
本発明の実施に際しては、減摩剤ベースストックは冷蔵用機械の作動過程において、減摩剤のみまたは塩素不含フルオロ基を有する熱媒液と減摩剤との混合物と接触する冷蔵機械のアルミニウム表面の摩耗を減摩剤が低減させるように使用される。
【0036】
本発明による減摩剤組成物に関する粘度の操作し得る好ましい範囲および温度による粘度変化は、冷蔵システムにおいて減摩剤と共に熱媒液、特にフルオロカーボンおよび/またはクロロフルオロカーボン熱媒液が使用されるときに当該分野で確立されている場合と一般的には同様である。一般的には、前述のように、本発明による減摩剤は15〜320の国際標準機構(ISO)による粘度グレード数を有するのが好ましい。ISO粘度グレード数による粘度範囲の一部を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】

【実施例】
【0038】
本発明によるエステル減摩剤ベースストックの調製については以下の実施例において詳述する。
【0039】
一般的なエステル合成手順
反応成分であるアルコールと酸および適当な触媒、例えば、ジブチル錫ジアセテート、シュウ酸錫、リン酸および/またはテトラブチルチタネートを丸底フラスコ内へ入れる(該フラスコには撹拌器、温度計、窒素ガス吹込み手段、コンデンサーおよび再循環トラップを具備させる)。酸はアルコールに対して約15%モル過剰で仕込む。触媒の使用量は反応する酸とアルコールの全重量の0.02〜0.1重量%である。
【0040】
反応混合物は約220〜230℃に加熱する。反応によって生成する水はトラップで捕集し、還流する酸は反応混合物に戻す。反応混合物の上部は還流をおこなうのに必要な減圧にする。
【0041】
反応混合物から時々試料を採取してヒドロキシル価を測定し、ヒドロキシル価が該混合物1gあたり5.0mgKOH以下になった後、大部分の過剰酸を使用装置で得られる最高の減圧度(温度は約190℃まで下げる)で留去させる。次いで反応混合物を冷却し、所望により残存する酸を石灰、水酸化ナトリウムまたはエポキシエステルを用いる処理によって除去する。得られる減摩剤または減摩剤ベースストックは配合と相の相溶性試験の前に乾燥させた後、濾過処理に付す。
【0042】
実施例1
エステルを用いるアルミニウム摩耗試験の一般的手順
エステルは冷蔵装置の一部を構成するコンプレッサーのアルミニウム摩耗試験に供した。コンプレッサーは連続的に240時間または試験が続行できなくなるまで運転させた。試験の直前には、使用して慣らした鉱油(ジチオリン酸亜鉛含有)をコンプレッサーから流出させた。
【0043】
試験に供した特定のエステルベースストックの例
本発明によるエステルと本発明によらないエステル(比較のためのエステル)の例、アルミニウム摩耗試験の結果およびこれらのエステルの一部についての酸価を以下の表2に示す。
【0044】
表2に示すデータから明らかなように、本発明によるエステル減摩剤はアルミニウムに対して著しく優れた減摩効果を示した。特に表2に示すように、240時間運転させたコンプレッサー内の本発明によるエステル減摩剤はアルミニウムをわずかに4ppmしか含有せず、試験に合格した。これに対し、比較例AおよびBの比較のための減摩剤は20〜30時間運転させたコンプレッサー内において500倍よりも多くのアルミニウムを含有した。比較例CおよびDの比較のための減摩剤は20〜30時間運転させたコンプレッサー内においてアルミニウムをそれぞれ57ppmおよび112ppm含有した。比較例Eのデータは不完全であるが、試験には合格した。脚注(5)に示すように、比較例Eのエステルは耐摩耗剤を配合したものである(前述のように、本発明によるエステルは試験に合格するためには耐摩耗剤の配合を必要としない)。
【0045】
以下の脚注(1)に示す本発明によるエステル減摩剤の酸価(AV)は0.011であった。この種のエステルによる腐食は無視し得るものであった。
【0046】
【表2】

【0047】
脚注
(1)2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸との混合物(99%は2−メチルブタン酸である)19.95重量%、n−ペンタン酸37.05重量%およびイソノナン酸43.00重量%から成る酸混合物とモノペンタエリトリトールから調製されたエステルブレンド。
(2)アジピン酸7.00重量%、n−ペンタン酸60.45重量%およびイソペンタン酸32.55重量%から成る酸混合物とモノペンタエリトリトールから調製されたエステル。
(3)工業用ペンタエリトリトール75.0重量%とジペンタエリトリトール25.0重量%から成るアルコール混合物並びにn−ペンタン酸48.5重量%、n−ヘキサン酸9.6重量%、n−ヘプタン酸10.7重量%、n−オクタン酸14.8重量%、n−ノナン酸8.4重量%およびn−デカン酸7.6重量%から成る酸混合物から調製されたエステル。
(4)n−ヘプタン酸60重量%、イソオクタン酸19重量%およびイソノナン酸21重量%から成る酸混合物とモノペンタエリトリトールから調製されたエステル。
(5)比較例Dのエステルに耐摩耗剤[ICI社製「エムカレート(商標)RL 32 CF」]を配合した組成物。
【0048】
実施例2
コンプレッサーの運転時間を約400時間まで延長した以外は実施例1の手順に準拠してアルミニウム摩耗試験をおこなった。アルミニウムの摩耗結果は前記のようにして測定した。この試験における合格基準は5ppmまたはそれ以下である。さらに、鉄、銅、ケイ素および水分の濃度と共に全酸価(TAV)も測定した。
【0049】
以下に表3に示すデータから明らかなように、本発明によるエステル減摩剤はアルミニウムの減摩とその他の特性において著しく優れた効果を示した。実際、本発明によるエステル減摩剤のみがアルミニウム摩耗試験に合格した。
【0050】
【表3】

【0051】
脚注
(6)モノペンタエリトリトール89.39重量%、ジぺンタエリトリトール7.47重量%、トリペンタエリトリトール0.64重量%を含有するポリオール混合物(残余の3.46重量%は上記のポリオールの1種と考えられる)並びにn−ブタン酸0.43重量%、2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸との混合物9.57重量%、n−ペンタン酸20.93重量%、n−ヘキサン酸0.77重量%、n−ヘプタン酸41.35重量%、n−オクタン酸1.16重量%、n−ノナン酸24.91重量%、n−デカン酸0.51重量%、n−ウンデカン酸0.11重量%、ラウリン酸0.08重量%および未知酸0.21重量%から成る酸混合物から調製されたエステルブレンド。
(7)表2の脚注(4)参照。
【0052】
本発明の好ましい実施態様を以下に例示する。
【0053】
1.冷蔵装置内のアルミニウム表面と接触する該表面の減摩に有用な減摩剤組成物であって、モノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールから成る群から選択される少なくとも1種のアルコール並びにイソノナン酸約1〜99重量%および2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸、n−ペンタン酸およびイソノナン酸から成る群から選択されるペンタン酸源約1〜99重量%を含む混合物から調製されるエステルブレンドを含有する減摩剤組成物。
【0054】
2.アルコールが工業用ペンタエリトリトールである上記1記載の減摩剤組成物。
【0055】
3.エステルのISO粘度グレード数が約15〜100である上記1記載の減摩剤組成物。
【0056】
4.エステルのISO粘度グレード数が22〜46である上記3記載の減摩剤組成物。
【0057】
5.カルボン酸混合物がイソノナン酸約40〜60重量%並びに2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸およびn−ペンタン酸から成る群から選択されるペンタン酸源約40〜60重量%含有する上記1記載の減摩剤組成物。
【0058】
6.ペンタン酸源が2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸およびn−ペンタン酸の混合物を約60〜70重量%含有する上記5記載の減摩剤組成物。
【0059】
7.カルボン酸混合物が2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸との混合物19.95重量%、n−ペンタン酸37.05重量%およびイソノナン酸43.00重量%含有する上記6記載の減摩剤組成物。
【0060】
8.冷蔵装置に上記1記載の減摩剤組成物を接触させることを含む冷蔵装置の作動中のアルミニウム表面の減摩方法。
【0061】
9.冷蔵装置のアルミニウム表面の減摩に有用な作動液であって、塩素不含フルオロ基を有する熱媒液および上記1記載の減摩剤組成物を含有する作動液。
【0062】
10.塩素不含フルオロ基を有する熱媒液が塩素不含フルオロカーボン熱媒液である上記9記載の作動液。
【0063】
11.塩素不含フルオロカーボン熱媒液がペンタフルオロカーボン、ジフルオロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタンおよびこれらの混合物から成る群から選択される上記10記載の作動液。
【0064】
12.塩素不含フルオロカーボン熱媒液が1,1,1,2−テトラフルオロエタンである上記11記載の作動液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷蔵装置の作動中のアルミニウム表面の減摩方法であって、下記の成分(i)及び(ii)から調製されるエステルを含有するが摩耗防止用添加剤は含有しない減摩剤組成物を該冷蔵装置に接触させることを含む該減摩方法:
(i)モノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールから成る群から選択される少なくとも1種のアルコール、
(ii)イソノナン酸40〜60重量%並びに2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸及びn−ペンタン酸から成る群から選択されるペンタン酸源40〜60重量%を含有するカルボン酸混合物。
【請求項2】
アルコールが工業用ペンタエリトリトールである請求項1記載の減摩方法。
【請求項3】
エステルのISO粘度グレード数が22〜46である請求項1記載の減摩方法。
【請求項4】
エステルのISO粘度グレード数が32である請求項3記載の減摩方法。
【請求項5】
カルボン酸混合物がペンタン酸源として、n−ペンタン酸60〜70重量%及び2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸との混合物30〜40重量%含有する請求項1記載の減摩方法。
【請求項6】
カルボン酸混合物が、2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸の混合物19.95重量%、n−ペンタン酸37.05重量%及びイソノナン酸43.00重量%含有する請求項1記載の減摩方法物。
【請求項7】
冷蔵装置の作動中のアルミニウム表面の減摩方法であって、下記の成分(i)及び(ii)から調製されるエステルを含有するが摩耗防止用添加剤は含有しない減摩剤組成物並びに塩素不含フルオロ基を有する熱媒液を含有する作動液を該冷蔵装置に接触させることを含む該減摩方法:
(i)モノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールから成る群から選択される少なくとも1種のアルコール、
(ii)イソノナン酸40〜60重量%並びに2−メチルブタン酸、3−メチルブタン酸及びn−ペンタン酸から成る群から選択されるペンタン酸源40〜60重量%を含有するカルボン酸混合物。
【請求項8】
作動液が、ペンタフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、ジフルオロメタン及び1,1,1,2−テトラフルオロエタンを含有する請求項7記載の減摩方法。
【請求項9】
熱媒液が、ペンタフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、ジフルオロメタン及び1,1,1,2−テトラフルオロエタンから成る群から選択される請求項7記載の減摩方法。
【請求項10】
熱媒液が1,1,1,2−テトラフルオロエタンである請求項7記載の減摩方法。
【請求項11】
冷蔵装置のアルミニウム表面の減摩方法であって、下記の成分(i)及び(ii)から調製されるエステルを該冷蔵装置に接触させることを含む該減摩方法:
(i)モノペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールから成る群から選択される少なくとも1種のアルコール、
(ii)2−メチルブタン酸と3−メチルブタン酸の混合物19.95重量%、n−ペンタン酸37.05重量%及びイソノナン酸43.00重量%含有するカルボン酸混合物。

【公開番号】特開2008−115401(P2008−115401A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319657(P2007−319657)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【分割の表示】特願平9−523685の分割
【原出願日】平成8年12月19日(1996.12.19)
【出願人】(500232879)コグニス コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】