説明

冷間成形アイボルト及びその冷間孔明け装置

【課題】 最小のプレス圧でO孔を打ち抜く冷間成形アイボルト及びその冷間孔明け装置を提供するものである。
【解決手段】 ボルト本体2の球状頭部3′又は偏平球状頭部3の厚さ寸法を、ボルト本体2の軸径寸法と同一以上又は少し小さな近似寸法以上とし、球状頭部3′又は偏平球状頭部3にパンチ等で冷間成形された打抜き加工面を有する所定径の孔14を設けるものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は建築パネル等を吊ったり、建物躯体側に固定する支持ボルトとなる冷間成形アイボルト及びその冷間孔明け装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に用いられている建築パネル等を吊り下げたり、建物躯体側に固定する所謂クランプ用アイボルトの構成としては、所定径のボルト本体の頭部を一旦偏平に潰し、その偏平球状頭部の中央位置に所定の孔明けをしたものである。この場合、従来この種の孔明け作業としては、ドリルによる切削孔明けとパンチによる打ち抜き作業が知られている。しかし、前者のドリル切削による孔明けでは切削加工に時間を要し非能率的である。例えば、材質SWCH材等よりなるボルト本体にあって12mm の厚さをもつ偏平球状頭部にφ12の孔をドリル刃で明けるとき、手作業では1日1台当たり700本〜800本程度の孔明け作業が限度である。このとき、ドリル刃自体の摩耗も激しく、所定本数(2000本程度)を切削する都度、研磨が必要であり、この点からも面倒な作業となっていた。なお、切削工程の自動化を図っても、ドリル切削では精々2000本程度である。
【0003】このため、アイボルトの孔明けの量産タイプとしては、時間の掛からない後者のパンチ式抜き孔加工をもって行うものが主流となってきている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】だが、今までのプレス機械を用いるプレス加工の孔抜き作業では、ボルト本体に形成してなる偏平球状頭部を受ける金型は特段の構成をもつわけでもなく、単に偏平球状頭部の外周が嵌め込まれるだけの大きさをもつ雌型受溝を付けた金型にセットするだけであり、この金型で支持された偏平球状頭部に上方位置より降下するパンチで所定径の抜き孔を明けるものである。即ち、この種の金型の雌型受溝は、あくまで偏平球状頭部の周囲がきつく嵌合するだけの面積をもつ受溝形状であり、パンチ圧で偏平球状頭部が変形する膨らみ分(素材の延伸量)を見込むものでない。
【0005】この様に、偏平球状頭部の外周が雌型受溝で規制される条件下でのパンチ打ちによる孔抜き工程では、所定径の孔を得るには極めて大きなプレス圧を要するものであり、そのような極めて大きなプレス圧を掛けない限り所定径の抜き孔を明けることはできない。このことは、実際のプレス作業による孔明けとしては、安全性を考慮して予め別途工程で形成する偏平球状頭部の厚さを、ボルト本体の径(軸径)の寸法より小さく設定し薄型の偏平球状頭部としたものを用いる。このため、仕上がったアイボルト製品としては偏平頭部が薄過ぎ商品価値を下げている。
【0006】一般に、丸パンチの打抜き加工で鋼板に孔明けをする場合、板厚と孔の関係は、孔径と板厚は最大でも同寸法程度が限度である。しかし、従来金型を用いてボルト本体の偏平球状頭部に孔明けをする場合には、従来金型があくまで偏平球状頭部の周囲がきつく嵌合するだけの面積をもつ受け形状であるため、安全性を考慮すると、偏平球状頭部の板厚は孔径の2/3未満が限度となってしまう。このため、楽にプレス加工で孔明けができるように、偏平球状頭部をボルト径より薄くなるよう一旦潰し加工を施し、広がった薄い偏平球状頭部を用いる。一般に、ボルト本体の軸径寸法と偏平球状頭部に設けられる孔径寸法は、略同一寸法で設計され、そのため、広がった薄い偏平球状頭部の板厚は孔径の2/3未満となる。すなわち、広がった薄い偏平球状頭部に設けられる孔部の孔径は、板厚の3/2倍を超える寸法となる。
【0007】例えば、図8(A)に示すように、所定軸径のボルト本体dにおいて、一定のアイ孔eを明ける偏平球状頭部fの厚さを、ボルト本体dの径寸法より小さい寸法となるように片側面を予めプレスで潰して薄型偏平球状頭部f′に成形するか、図8(B)に示すようにボルト本体dの中央位置に薄型偏平球状頭部f′がくるよう偏平球状頭部fを両側より潰し、アイ孔eを明け易くしている。この後、薄型偏平球状頭部f′を所定のプレス台に載置し降下するパンチによる打抜き作業を行うものである。この従来方式によるパンチ式打抜きで得たアイボルトの構造では、必然的に偏平球状頭部がボルト本体の径寸法に比して小さな寸法となる板厚(薄型)形状となるうえ、さらに広がった薄い偏平球状頭部に設けられる孔部は、板厚の3/2倍を超える寸法となるために強度に劣るという欠点がある。また、仮に強度的に耐える金具としても外観が貧弱であり商品価値を下げる結果となっている。
【0008】このため、例えば図8(C)に示すように、少なくともボルト本体dの径寸法と同一以上又は少し小さな近似寸法以上の偏平球状頭部fにあってアイ孔eが直接明けられるようになれば、アイボルト全体として重量感を増し商品価値が高まるため、この様な新規製品の開発が待たれている。
【0009】また、プレス機械が一定容量ならばプレスによる潰れ広がりに起因してセット位置がズレたりし、いきおいパンチも部材のズレ方向に動くようになり、パンチ自体の破損の要因ともなっている。また、降下のパンチが挿通される座金の縦抜き孔は、その口縁が単に鉛直口縁の構造を取っているため、プレス圧がまともに掛かり、口縁に亀裂,破損等を招き易かった。
【0010】本発明は上記実情に鑑み、ボルト本体の偏平球状頭部を受ける金型を、プレス圧で潰れ膨れる部分を見込む少し大き目な形状のものを用いることで、ボルト本体の軸径寸法と同一以上又は少し小さな近似寸法以上の球状頭部又は偏平球状頭部に打抜き孔を可能とし、上記課題を解決する冷間成形アイボルト及びその冷間孔明け装置を提供することを目的としたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の本発明は、ボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法を、ボルト本体の軸径寸法と同一以上又は少し小さな近似寸法以上とし、前記球状頭部又は偏平球状頭部にパンチ等で冷間成形された打抜き加工面を有する所定径の孔を設けたものである。
【0012】この場合、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D′が、ボルト本体の軸径寸法Dに対して、2/3D〜3/2Dであることを特徴とするものである。また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記球状頭部又は偏平球状頭部に設けた孔の孔径寸法φが、前記球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D´に対して、2/3D´〜3/2D´の範囲であることを特徴とするものである。
【0013】さらに、請求項4に記載の発明は、前記発明のアイボルトを形成するための装置に係るものであり、ボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部に所定径の孔を明ける冷間孔明け装置において、ボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部を半分受けるテーブル側金型を、この球状頭部又は偏平球状頭部がパンチ圧により潰れ外周に膨らむ膨出部分を見込む少し大きめの雌型溝部に形成すると共に、該雌型溝部の中央に穿つ縦抜き孔の口縁部分に圧逃げ用傾斜面を配設し、且つ雌型溝部の一端にボルト本体の軸部を受ける水平支持溝部を設けた構成とし、また、前記縦抜き孔の軸線上の上方に配置する雄型を、下端周縁にズレ止め用テーパー面を設けたパンチとしたものを備えてなるものである。
【0014】この様に、冷間成形アイボルトは所定径の孔を打抜くボルト本体端の球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ(断面)寸法D´を、ボルト本体の径寸法Dと同一以上又は少し小さな近似寸法以上、好ましくはボルト本体の軸径寸法Dに対して、2/3D〜3/2Dの範囲としてなるため、アイ孔を配す頭部分である球状頭部又は偏平球状頭部が厚型形状とし得、堅牢タイプのアイボルトが提供でき、アイボルト全体の重量感を増し、商品価値を高めることができる。また、寸法D′を寸法D以上とすると、より好ましい商品価値を発揮することができる。
【0015】さらに、従来技術においては、偏平球状頭部fに穿設する孔が3/2D´を超える孔径寸法φを必要としていたのに対して、請求項3に記載の発明においては、前記球状頭部又は偏平球状頭部に設けた打抜き加工面を有する孔の孔径寸法φを、前記球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D´に対して、2/3D´〜3/2D´の範囲に形成しているので、打抜き加工面を有する孔の孔径寸法φと球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D´をも略同一寸法とすることができる。
【0016】この結果、アイボルト本体の軸径寸法Dと略同一寸法径の鋼棒をアイボルトの孔に貫通させて使用する際にも、前記球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D´をボルト本体の径寸法Dと同一以上又は少し小さな近似寸法とする堅牢タイプのアイボルトとした上、鋼棒径に近接した寸法の孔径で、打抜き加工面を有する孔をアイボルトに設けることができ、応用範囲の広いものとなる。また、厚さ(断面)寸法D´の球状頭部又は偏平球状頭部に対して、3/2D´を超えるような大きな孔径の孔を設ける必要がないため、球状頭部又は偏平球状頭部の孔の周囲の残存部の確保が容易であり、よって強度を確保することも容易となる。
【0017】この場合、孔明け装置としては球状頭部又は偏平球状頭部を受ける金型が、球状頭部又は偏平球状頭部がパンチ圧で部材が潰れる膨出分を見込む少し大きめとし緩く嵌合する雌型受溝としてなるため、該雌型受溝にセットされた球状頭部又は偏平球状頭部に降下するパンチ圧によりその大きめの雌型受溝一杯まで膨出する塑性変形がなされるので、球状頭部又は偏平球状頭部の厚さがボルト本体の径寸法と同一以上又は少し小さな近似寸法以上となる厚めの条件下であってもパンチによる打ち抜きができる。この時、パンチ圧による部材膨出に対し雌型受溝の外周壁が膨らみ兼抑えとなる規制がなされるため、球状頭部又は偏平球状頭部の中央位置はずれずパンチ降下による所定孔の打抜きができる。また、球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D´に対して、安全性を考慮しても、2/3D´〜3/2D´の範囲の孔径寸法φで孔を打抜き加工することができる。
【0018】また、この縦抜き孔の口縁にはパンチ圧の逃げ用下向き傾斜抜き面が付いていて、且つパンチ側には下端縁にズレ止め用テーパー面が付き球状頭部又偏平球状頭部の中心位置に臨むため接衝ズレを起こさず、雌型部分の前記抜き孔口縁の傾斜面と相俟ってプレス圧の逃げ(衝撃緩衝)がなされ、抜き孔口縁に大なる衝撃を受けず亀裂,破損を与えず所謂型もちも良好となる。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の冷間成形アイボルト及びその冷間孔明け装置の一実施例を図に基づいて説明すれば、次の通りである。
【0020】図1〜図7はボルト本体の頭部に予め偏平球状頭部を形成した中間成形部品を使用する冷間孔明け装置及び該装置によって製作される冷間成形アイボルトの実施例を示す。1は上面中央に、水平セットするボルト本体2の偏平球状頭部3の下側半分を嵌め込む受溝1aを、前記偏平球状頭部3がパンチ降下のプレス圧で潰れる外周に膨らむ膨出分(量)を見込む少し大きめの弯曲状雌型溝部4に形成すると共に、該雌型溝部4の中心位置に所定径の縦抜き孔5を下方に向け穿設したテーブル側金型(下型)で、該金型1はプレス機械6のテーブル部6a側に適宜手段をもって固定する。この場合、弯曲状雌型溝部4に嵌め込む偏平球状頭部3の膨らみ幅となる成形間隙aは、例えば0.3mm程度の小さな間隙である。また、雌型溝部4の中心部分の縦抜き孔5にあって、その口縁5aに形成される1mm程度の平坦部分bに、開先状となる下向きの圧逃げ用傾斜抜き面7を形成し所謂ダレとする(図4参照)。この傾斜抜き面7の傾斜角度αを、例えば5°程度に設定する。また、縦抜き孔5の径は、プレス機械上方に配置するパンチプレート6bに取付けた軸状のパンチ8の径より少し大きめ(例えば、φ1mm程度大きな孔径)とする。
【0021】また、金型1の型面には更に雌型溝部4の一部に連続するボルト位置決め兼セット用となる水平支持溝部9を、型端まで達するよう水平刻設する。この水平支持溝部9にボルト本体2の軸部2aの径半分を載置し全体としてボルト本体を水平支持する構成である。また、縦抜き孔5の軸線上の上方に設置した雄型となる丸型パンチ8の下端縁にはズレ止め用テーパー面15を設けている(図3参照)。このズレ止め用テーパー面15の傾斜角度βは、例えば50°程度の傾斜が望ましい。
【0022】10は前記金型1の上面に重ね配置する適宜厚さもつた案内金型で、該案内金型10は下部の前記雌型溝部4の真上位置に臨む一側端に、手前側を開口とした頭部案内用切り欠き凹部11が設けられ、且つ案内金型10の中央上部にはパンチ貫通孔12を配設している。これら上記の全体構成でアイボルトの冷間孔明け装置となる。
【0023】いまこの作用を説明すると、別途工程にて軸部2aにネジ13を施し、頭部となる先端部を偏平球状頭部3に形成した中間成形部材であるボルト本体2を用い、アイボルトに形成する孔明け作業としては、先ず冷間打ち抜き加工を行う所定のプレス機械6のテーブル部6aに、前記弯曲状雌型溝部4を有する金型1を公知の手段で固定する。図6の図示では、テーブル部6aがボルト締め機構である係止爪16の締め付けにて行う。
【0024】ここにおいて、金型1の上面に設けた弯曲状の雌型溝部4にボルト本体2の先端部に形成した偏平球状頭部3を、プレス機械の手前位置にあって、金型1に重ねた案内金型10の手前側に開口した頭部案内用切り欠き凹部11より奥方に挿入し、金型1の雌型溝部4に偏平球状頭部3を、この両側平坦部3a,3aを上下向きとして嵌め込むと共に、ボルト本体2の軸部2aを位置決め兼セット溝となる水平支持溝部9に案内すれば、該水平支持溝部9にボルト軸部2aの下側半分が嵌まると共に、雌型溝部4に偏平球状頭部3の下側半分が緩く嵌合され、ボルト本体2が全体として水平支持された安定セットとなる。但し、このとき、ボルト本体2のプレス圧を受ける偏平球状頭部3には潤滑性を高めるためにオイルを適宜塗着しておく(図示せず)。
【0025】この後、孔の打抜き作業としては、プレス機械6の上方配置のパンチプレート6b側に突設した雄型となる超硬鋼部材のパンチ8を適宜操作をもって降下させ、該パンチ8を案内金型10のパンチ貫通孔12を経てその真下にセットされた偏平球状頭部3の中心部分に打ち下ろせば、このプレス圧にて偏平球状頭部3は一旦潰され雌型溝部4との成形間隙a(例えば、0.3mm程度の間隙)の隙間一杯まで瞬時に広がる塑性変形がなされ、この広がりに起因しパンチ8の打抜き作用がなされるため、比較的小さなパンチ圧で孔が明く。この偏平球状頭部3が一定幅分(成形間隙a)まで達すれば弯曲状雌型溝部4はその壁面が膨らみ抑えとして働き一種の膨出位置規制がなされ部材ズレを招かず、安定した打抜きができ、無理なく所定径の孔14が明きアイボルト2′となる。
【0026】この場合、雌型溝部4の中心位置に配設の縦抜き孔5には、その口縁5aに下向きの圧逃げ用傾斜抜き面7が付いているため、該傾斜抜き面7で偏平球状頭部3に掛かる必要以上の抜き圧(衝撃)が緩和される。このことは、縦抜き孔5自体の口縁にひび割れ,亀裂を招かない緩衝作用が働き型保ちが良好となる。
【0027】また、雄型であるパンチ8の下端縁周囲には、適宜の傾斜切り欠きとなるズレ止め用テーパー15があるため(例えば、50°傾斜)、降下するパンチ8が偏平球状頭部3に当接するときずれを招かず、中心位置に確実な孔明けができる。この様に、雌型溝部4の形状がプレス時に偏平球状頭部3が潰れる膨出分を見込む少し大きめの弯曲状溝構造を呈し、偏平球状頭部3は塑性変形で打抜かれるため、大きなプレス圧を掛けることなくパンチ8で所定径の孔14が形成される。この偏平球状頭部3の形状は、図5の(A)に示すようにボルト本体2の径と同寸法程度まで両側を偏平とした厚い偏平球状頭部3のものや、図5の(B)に示すように片側のみを偏平とし反対側を球状とした変形の偏平球状頭部3でもよく、又は図5の(C)に示すように両側を円弧とした球状頭部3′でも可能となる。このとき、雌型溝部4の形状も当然変形の受溝を呈する(図示せず)。
【0028】即ち、図5の(C)に示す他の実施例の如く、頭部形状を球状頭部3′とした極めて厚い頭部構成でも打抜きができる。この両面を円弧面3b,3bとした球状頭部3′中、その片側半分の円弧面3bを前記同様に雌型溝部4に嵌め込む水平支持のセットとする。この雌型溝部4に上側半分に突出となる円弧面3bに上方よりパンチ8を降下打ちすれば、球状頭部3′は全体として前記同様に予め膨出分を見込んだ大きめの弯曲状雌型溝部4の溝内一杯に潰れ膨出し、且つ外周を規制され所定のアイ孔が打抜かれる。
【0029】ちなみに、所定のボルト本体にあって、適する球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法(断面)D′とボルト本体の径寸法Dとの関係を示せば、ボルト本体の径寸法Dに対して、2/3D〜3/2Dの範囲が好ましい(図8の(C)参照)。例えば、材質SWCH材のボルト本体の径寸法DがD=12mmに対して、球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法(断面)D′はD=8〜18mmとするのがよい。実験によれば、D′の値が前記範囲以上では剪断抵抗が大きくなり、一定条件下のパンチを用いた冷間成形による打抜き加工が難しくなり、範囲以下の値ではアイボルトのアイ孔部分の外形が貧弱に仕上がり商品価値を下げる。
【0030】また、ボルト本体の軸径寸法DがD=12mmに対して、球状頭部又は偏平球状頭部に設けられる孔径寸法φは12〜14mmの略同一寸法で設計されるのが一般的であるが、従来金型を用いてボルト本体の偏平球状頭部に丸パンチの打抜き加工で孔径寸法φ=12mmの孔明けをする場合には、安全性を考慮すると、偏平球状頭部の板厚D´は、孔径寸法φの2/3未満とし、8mm未満とする必要があった。これに対して、本発明に係る冷間孔明け装置を用いれば、ボルト本体の偏平球状頭部に丸パンチの打抜き加工で、孔径寸法φ=12mmの孔明けをする場合であっても、偏平球状頭部の板厚D´を孔径寸法φの2/3以上、すなわち8mm以上とすることができる。なお、偏平球状頭部の板厚D´の最大値は、孔径寸法φの3/2倍が限度である。
【0031】
【発明の効果】上述の様に本発明の冷間成形アイボルト及びその冷間孔明け装置は、ボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部をボルト本体の径寸法と同一以上又は少し小さな近似寸法、好ましくは請求項2に記載の発明のようにボルト本体の軸径寸法Dに対して、2/3D〜3/2Dの範囲としたことにより、アイボルトの頭部となるアイ孔部分の形状が堅牢に仕上がり、従来品のアイボルトに比して商品価値を高めるようになる。
【0032】また、請求項3に記載の発明のように、ボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部に設けた打抜き加工面を有する孔の孔径寸法φを、前記球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D´に対して、2/3D´〜3/2D´と略同一寸法にすれば、前記球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D´をボルト本体の径寸法Dと同一以上又は少し小さな近似寸法とする堅牢タイプのアイボルトとした上、アイボルト本体の軸径寸法Dに近接した寸法の孔径で、打抜き加工面を有する孔をアイボルトに設けることができ、応用範囲の広いものとなる。また、厚さ(断面)寸法D´の球状頭部又は偏平球状頭部に対して、3/2D´を超えるような大きな孔径の孔を設ける必要がないため、球状頭部又は偏平球状頭部の孔の周囲の残存部の確保が容易であり、よって強度を確保することも容易となる。
【0033】また、この場合の冷間孔明け装置としてもテーブル側金型を、嵌め込むボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部がパンチ圧で潰れる膨出分を見込む少し大きめの弯曲状受溝を呈す雌型溝部構成としてなるため、球状頭部又は偏平球状頭部はパンチ圧で型一杯まで塑性変形の膨出る得るので、小さなプレス圧でも打抜きができる。
【0034】このことは、従来型のプレス機械を用いた打抜き孔明け加工で、球状頭部又は偏平球状頭部の板厚と孔の関係は、板厚が孔径の2/3未満が限度であるといわれるが、部材の潰れ膨出分を見込む少し大きめの雌型溝部ではボルト本体径寸法と同一以上又は少し小さな近似寸法以上となる寸法の孔明けが可能となる。このため、球状頭部又は偏平球状頭部が少し厚物構成であっても所望の孔明けができ、仕上がったアイボルトとしてアイ孔部分(孔明け部分)に重厚さを増し、強度的に耐え、商品価値も高まる。
【0035】しかも、金型の雌型溝部の中心の抜き孔の口縁には、プレス圧逃げ用傾斜抜き面を付けているため、プレス衝撃を緩衝し孔口縁に亀裂,破損を招かず、所謂型保ちが良くなる。例えば、単なる抜き孔口縁では1〜3万回程度の打抜き回数で口縁が欠けるが、本発明の傾斜抜き面を施した口縁では20万回以上の打抜き回数でも亀裂,破損を招かない。
【0036】また、雄型となるパンチ下端周囲にズレ止め用テーパー面を付けたため、被抜き部材(偏平球状頭部等)に対する降下時のズレ(振れ)を来さず、その中心位置の孔明けが確実となる。また、金型上面にボルトセットを容易とする水平支持溝部を付けたため、ボルト本体の金型に対するセット作業も簡単となり、1日当たり6000本〜7000本の孔明け加工が可能となる等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の冷間成形アイボルトの一実施例の要部を示す正面図である。
【図2】同冷間成形アイボルトを成形する冷間孔明け装置の一実施例を示す説明図である。
【図3】同パンチ部の要部を示す説明図である。
【図4】同金型の要部を示す説明図である。
【図5】冷間成形アイボルトの孔明け加工を示す説明で、(A)は偏平球状頭部に孔を明けたボルト本体の斜視図であり、(B)は同孔明け前のボルト本体の斜視図であり、(C)はボルト本体頭部を球状頭部とした他の実施例の孔明け前の斜視図である。
【図6】プレス機械のテーブル部に金型を備え、パンチプレート部にパンチを配置した説明図である。
【図7】金型の斜視図である。
【図8】ボルト本体の先端頭部に冷間成形でアイ孔を打抜く説明で、(A)は従来のボルト本体でアイ孔を明ける頭部厚をボルト本体径より小さく設定し打抜き易くした説明図であり、(B)は同頭部をボルト本体径より小さく設定した他の実施例の説明図であり、(C)は本発明のボルト本体で頭部厚をボルト本体径と同一以上とした説明図である。
【符号の説明】
1 金型
1a 受溝
2 ボルト本体
3 偏平球状頭部
3′ 球状頭部
4 雌型溝部
5 縦抜き孔
5a 口縁
7 圧逃げ用傾斜抜き面
8 パンチ
9 水平支持溝部
14 孔
15 ズレ止め用テーパー面

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法を、ボルト本体の軸径寸法と同一以上又は少し小さな近似寸法以上とし、前記球状頭部又は偏平球状頭部にパンチ等で冷間成形された打抜き加工面を有する所定径の孔を設けたことを特徴とする冷間成形アイボルト。
【請求項2】 前記球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D′が、ボルト本体の軸径寸法Dに対して、2/3D〜3/2Dの範囲であることを特徴とする請求項1記載の冷間成形アイボルト。
【請求項3】 前記球状頭部又は偏平球状頭部に設けた孔の孔径寸法φが、前記球状頭部又は偏平球状頭部の厚さ寸法D´に対して、2/3D´〜3/2D´の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷間成形アイボルト。
【請求項4】 ボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部に所定径の孔を明ける冷間孔明け装置において、ボルト本体の球状頭部又は偏平球状頭部を半分受けるテーブル側金型を、この球状頭部又は偏平球状頭部がパンチ圧により潰れ外周に膨らむ膨出部分を見込む少し大きめの雌型溝部に形成すると共に、該雌型溝部の中央に穿つ縦抜き孔の口縁部分に圧逃げ用傾斜面を配設し、且つ雌型溝部の一端にボルト本体の軸部を受ける水平支持溝部を設けた構成とし、また、前記縦抜き孔の軸線上の上方に配置する雄型を、下端周縁にズレ止め用テーパー面を設けたパンチとしたものを備えたことを特徴とする冷間成形アイボルトの冷間孔明け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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