説明

冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法及び冷間鍛造方法

【課題】従来、熱間鍛造を用いて製造していた機械部品を、冷間鍛造を用いて製造することによって、製品の強度を十分に確保することができる製品を製造することができるようにする。
【解決手段】冷間鍛造を用いて機械部品を製造するに際して、機械部品において強度が必要な部分に対し、塑性歪みを付与する。機械部品の形状に機械加工代を付与することで機械加工前の形状を決定する。機械加工前形状に強度が必要な部分の強度増加のために付与する塑性歪み量に基づき強度増加前形状を決定する。強度増加前形状が、機械加工前形状となるように強度増加工程にて歪みを入れながら冷間鍛造を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、大型ねじや自動車等の車両に用いられているクランクシャフト、コンロッド、トランスミッションギア等の機械部品は、熱間鍛造により製造されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
特許文献1のコンロッドの製造方法では、まず、コンロッドの元となる素材に熱間鍛造を施し、大端部と小端部とこれらを繋ぐ断面略H型のコラム部とを有すると共に外周部にバリを備えたコンロッドを熱間鍛造工程により成形し、次に、熱間鍛造したコンロッドの外周部に生じたバリをバリ抜き工程により除去し、コンロッドの大端部、小端部及びコラム部に冷間コイニング工程により冷間コイニングを施していた。
【0003】
また、特許文献2の製造方法では、コンロッドの元となる鋼材を、下限温度が固相線温度×0.94又は1250℃の何れか高い方とした上で、上限温度が液相線×0.98となるように加熱し,前記範囲の温度域で,素材表面の85%以上が金型に接触するように超高温鍛造することによって、コンロッドを製造していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−312978号公報
【特許文献2】特開2005−54228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、大型ねじ等の機械部品においては、熱間鍛造を用いて製造していたが、近年、部品製造工程におけるCO2の排出量削減のため、大型ねじのような熱間鍛造を用いて製造していた機械部品においても、冷間鍛造を用いて製造したいという要求が高まっているのが実情である。
しかしながら、熱間鍛造によって製造していた大型ねじ等の機械部品を、冷間鍛造に切り換えて製造した場合、単に鍛造方法を切り換えるだけでは、次の問題が生じる。熱間鋳造によって製品を作製する際には、熱間鍛造後に焼き入れや焼きもどし等の熱処理が施され、必要される部品強度を得ている。冷間鍛造ままで熱間鍛造と同等の部品強度を得るためには、強度の高い鋼材を使用する必要がある。しかし、そのような鋼材は、冷間鍛造時の変形抵抗が高く、金型の寿命を劣化させやすい。また、加工性も劣るため部品に割れが生じやすくなる。一方、熱間鍛造のような低い変形抵抗、高い加工性を得るためには軟質の鋼材を用いる必要があり、製品に要求される強度が十分に確保することができないのが実情である。
【0006】
本発明では、冷間鍛造を用いて機械部品を製造するに際し、製品の強度を十分に確保することができる冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法及び冷間鍛造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明では、次の手段を講じた。
即ち、本発明の手段は、冷間鍛造を用いて機械部品を製造するに際して、前記機械部品において強度が必要な部分に対し、塑性歪みを付与することによる強度増加工程を有する点にある。 前記機械部品の形状に機械加工代を付与することで機械加工前形状を決定し、前記機械加工前形状に、前記強度が必要な部分に対して強度増加のために付与する前記塑性歪み量に基づいて強度増加前形状を決定した上で、前記強度増加前形状が、前記機械加工前形状となるように前記強度増加工程にて歪みを入れながら冷間鍛造を行うことが好ましい。
【0008】
前記機械部品は、C:0.005〜0.045質量%、Si:0.005〜0.4質量%、Mn:0.3〜1質量%、P:0.05質量%以下(0%を含まない)、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.005〜0.06質量%、N:0.008〜0.025質量%、及び式(1)を満たし、残部は鉄および不可避的不純物からなり、且つ固溶状態としてのN:0.007質量%以上を満たす材料から製造されることが好ましい。
前記塑性歪み量は、8以下(0を除く)であることが好ましい。さらには、塑性歪み量は、1以上5以下であることが好ましい。
【0009】
前記塑性歪み量を、降伏応力(YP)、最大応力(TS)、強度(h)、疲労強度(i)のいずれかをもとにしたモデル式又は予め取得したデータベースから求めることが好ましい。
上述した冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法における冷間鍛造においては、押し出し型鍛造又は圧縮部分圧下を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、冷間鍛造を用いて機械部品を製造するに際し、製品の強度を十分に確保することができる製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法を示したフローチャートである。
【図2】大型ねじ(機械部品)の製造方法を図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法について説明する。
本発明の機械部品の製造方法では、従来より熱間鍛造により製造されていた大型ねじ、クランクシャフト、コンロッド、トランスミッションギア等の機械部品を、冷間鍛造を用いて製造するものである。以下、大型ねじを代表的に例示して、その製造方法を説明する。
図1は、機械部品の製造方法の手順を示したものであり、図2は、機械部品の製造方法の手順を図示したものである。なお、この製造方法においては、設計段階の内容も含んだものとなっており、後述する製品形状決定工程〜材料形状決定工程までが設計段階(加工前段階)であり、以降が具体的な加工段階となる。
【0013】
図1及び図2に示すように、まず、大型ねじ1を製造するにあたっては、大型ねじ1の製品形状Aを決定する(S1:製品形状決定工程)。即ち、冷間鍛造後(強度増加後)に機械加工が施されるが、この機械加工終了後の大型ねじ1の形状、即ち、製品にしたときの大型ねじ1の製品形状Aを製作図面中から決定する。この形状はユーザからの要求により決まることが多い。
次に、製品形状工程S1にて決定した製品形状Aに機械加工代を付与(加算)することで、機械加工前形状Bを決定する(S2:機械加工前形状工程)。
【0014】
例えば、機械加工前形状工程S2では、大型ねじ1における製品輪郭線(製造後の輪郭線)L1に、各箇所の機械加工代(例えば、数mm)の寸法を加算して、冷間鍛造後輪郭線(強度増加後輪郭線)L2を求めることによって冷間鍛造によって形成できる機械加工前形状Bを決定する。
そして、機械加工前形状工程S2にて決定した機械加工前形状Bに、強度が必要な部分に対して強度増加のために付与する塑性歪み量εに基づき、強度増加前形状(歪み前形状)Cを決定する(S3:強度増加前形状決定工程)。
【0015】
例えば、大型ねじ1において軸部2に強度が必要な場合、当該軸部2の冷間鍛造後(強度増加後)の鍛造後輪郭線L3に対して、機械加工代とは別に塑性歪みを与えうるだけの寸法ε(歪み量)を加算し、歪み付与前輪郭線L4を求めることによって、強度増加前形状(歪み前形状)Cを決定する。
この強度増加前形状決定工程S3では、後述する冷間鍛造の際(強度増加工程)に、強度が必要な部分に対して意図的に塑性歪みを与え、その部分(強度が必要な部分)のTS(引っ張り強度)やYSを増加させる、即ち、必要な部分での強度をアップさせることを意図して、塑性歪みの量を計算している。
【0016】
従来の技術では、大型ねじ1は熱間鍛造とその後の熱処理によって製造することで強度を確保していたが、熱間鍛造していた大型ねじ1を単に冷間鍛造に変更するだけでは、前述した理由の通り予め必要な強度が得られない箇所が出てくる。
そのため、本発明では、従来の方法による冷間鍛造のみでは強度が得られない部分に対して、製造過程で意図的に塑性歪みを与えるようにすることで、部品強度を増加させている。言い換えれば、従来、熱間鍛造していた大型ねじ1は、残留歪みは有していないが、本発明では、意図的に、強度を向上させる部分に残留歪みを与えることで、冷間鍛造を行っても強度が確保できるようにしている。ここで、付与する塑性歪み量は、8以下(0を除く)にしている。塑性歪み量が8よりも大きい場合、強度が上がりすぎて冷間鍛造では部品加工ができなくなることから、塑性歪み量は8以下とする必要がある。また、付与する塑性歪み量は、1以上5以下であることが好ましい。付与する塑性歪み量が1未満であると十分な部品強度が得られず、5よりも大きいと鋼材の加工能が劣化しはじめるため、部品に割れが生じやすくなる。
【0017】
なお、強度増加前形状決定工程S3において、塑性歪みを与える量はTS(引っ張り強度)を付与する度合い(量)に応じて設定すればよい。例えば、式(2)〜式(5)に示したモデル式又は予め取得したデータベースを用いて塑性歪み量εを決定してもよい。即ち、塑性歪み量を、降伏応力(YP)、最大応力(TS)、強度(h)、疲労強度(i)のいずれかをもとにしたモデル式又は予め取得したデータベースから求めてもよい。
ε=f-1(YP) ・・・(2)
ε=g-1(TS) ・・・(3)
ε=h-1(強度) ・・・(4)
ε=i-1(疲労強度) ・・・(5)
ただし、f:応力−歪み曲線(塑性歪み曲線)の関数、g:最大応力−歪み曲線(塑性歪み曲線)の関数、h:強度−歪み曲線(塑性歪み曲線)の関数、i:疲労強度−歪み曲線(塑性歪み曲線)の関数である。
【0018】
また、塑性歪みは、強度が必要な部分に対して与えればよく、上述したように、大型ねじ1において説明したように軸部分に限定されなず、適宜選定すればよい。
強度増加前形状(歪み前形状)Cを決定した後は、この強度増加前形状C(幅や高さ、体積等)から、大型ねじ1の元になる材料の大きさを決定する(S4:材料形状決定工程)。例えば、大型ねじ1を製造する際には、丸棒3を用いることから強度増加前形状C(幅や高さ、体積等)から丸棒3の直径、長さ等を決定する。
次に、材料の初期形状が決まると、熱間鍛造、又は、切削などの機械加工により、材料が強度増加前形状(歪み前形状)Cとなるように予備の加工を行う(S5:予備加工工程)。
【0019】
そして、予備加工工程S5にて材料を強度増加前形状(歪み前形状)Cの形状にした後は、機械加工前形状Bとなるように強度が必要な部分に塑性歪みを付与しながら冷間鍛造を行う(S6:強度増加工程)。
例えば、設計段階にて説明したように、この大型ねじ1においては軸部2の強度を増加させることから、強度増加工程S6では、軸部2に歪みを入れつつ冷間鍛造を行っている。詳しくは、この強度増加工程S6では、軸部2に対応する歪み付与前輪郭線L4が鍛造後輪郭線(強度増加後輪郭線)L2に一致するように圧縮等(部分圧下)を行い、塑性歪みを入れ、これにより、軸部2のTS(引っ張り強度)を増加させている。
【0020】
そして、冷間鍛造後(強度増加後)は、機械加工前形状Bの材料に対して機械加工することによって、製品形状Aにする(S7:機械加工工程)。
なお、冷間鍛造を行う方法については限定されず、軸方向への圧縮(圧縮部分圧下)を行ってもよいし、押し出し成形(押し出し型鍛造)を行ってもよいし、型鍛造を行っても良い。また、冷間鍛造(冷間加工)時の雰囲気の温度は200℃未満であり、材料の加工前温度は、100℃未満であることが好ましい。
また、上記の説明では、予備加工工程S5を経てから強度増加工程(冷間鍛造工程)S6を行っているが、図2の矢印Sに示すように、この予備加工工程S5を行わずに、材料形状決定工程S4で決定した丸棒2に対して、直接、強度増加工程(冷間鍛造工程)S6を行ってもよい。つまり、この場合は、機械加工代が付与された形状となるように冷間鍛造を行いつつ、強度の必要な部分(例えば、軸部)に塑性歪み量εに応じた歪み入れを行うことになる。
【0021】
次に、機械部品の材料について説明する。
上述した機械部品の材料は、C:0.005〜0.045質量%、Si:0.005〜0.4質量%、Mn:0.3〜1質量%、P:0.05質量%以下(0%を含まない)、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.005〜0.06質量%、N:0.008〜0.025質量%、及び式(1)を満たし、残部は鉄および不可避的不純物からなり、且つ固溶状態としてのN:0.007質量%以上を満たすものである。
この材料は、塑性歪みを付与するとTSやYSが向上する特性があり、特に、与える塑性歪みに比例してTSが向上するものである。なお、材料について説明するが、塑性歪みを付与した際にTSやYSが向上する材料であれば何でもよく、この実施形態に説明する材料に限定されない。
【0022】
[C:0.005〜0.045質量%]
Cは、鋼材の組織の形成に大きな影響を及ぼす元素であり、組織をフェライト単相組織とするために、極力低減する必要があり、過剰に含有すると、鋼材の組織中にパーライトが生成し、パーライトの加工硬化によって変形抵抗が過大となる恐れがある。こうしたことから、C含有量は0.045質量%とする必要があり、好ましくは、0.043質量%以下、より好ましくは0.040質量%以下である。しかしながら、C含有量が極端に少なくなると、鋼材の溶製中の脱酸が困難になるため、下限は0.005質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.015質量%以上である。
【0023】
[Si:0.005〜0.4質量%]
Siは、溶製中の脱酸元素として有効である。Si含有量が0.005質量%未満であると、脱酸が不十分になって溶製中にブローホールを発生することになる。しかしながら、Si含有量が過剰になって0.4質量%を超えると、Siの固溶強化による変形抵抗の増大を招くと共に、割れが顕著になる場合がある。尚、Si含有量は好ましくは0.006質量%以上(より好ましくは0.007質量%以上)であり、好ましくは0.35質量%以下(より好ましくは0.32質量%以下)である。
【0024】
[Mn:0.3〜1質量%]
鋼材中のN含有量を高めた場合、加工中の発熱による動的歪み時効によって割れが発生しやすくなるが、Mnはそのときの加工性を向上させ、割れを抑制する効果がある。この様な効果を有効に発揮させるには、0.3質量%以上含有させることが必要であり、好ましくは0.35質量%以上、より好ましくは0.40質量%以上である。一方、Mnが過剰に含まれると変形抵抗が過大となるだけでなく、偏析による組織の不均一性が生じるので、1質量%以下とする必要があり、好ましくは0.95質量%以下、より好ましくは0.90質量%以下である。
【0025】
[P:0.05質量%以下(0%を含まない)]
リン(P)は、不可避的不純物であるが、これがフェライトに含有すると、フェライト粒界に偏析して冷間加工性を劣化させる元素である。また、フェライトを固溶強化させて変形抵抗の増大をもたらす元素でもある。よって、冷間加工性向上の観点から、P含有量は0.05質量%以下とする。好ましくは0.03質量%以下であるが、P含有量を0%にすることは、工業上困難である。
[S:0.005〜0.05質量%]
硫黄(S)も、Pと同様に不可避的不純物であり、FeSとして結晶粒界に膜状に析出し、加工性を劣化させる元素である。また、熱間脆性を引き起こす作用がある。そこで変形能を向上させる観点から、S含有量を、0.05質量%以下(好ましくは0.03質量%以下)とする。但しS含有量を0%にすることは、工業上困難である。尚、Sは被削性を向上させる効果を有するため、被削性向上の観点からは、0.005質量%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.008質量%以上含有させることが推奨される。
[Al:0.005〜0.06質量%]
Alは、強い脱酸効果を有して、鋼材の内部品質を向上させることができる。また、鋼中のNと結合して、AlNを形成し、フェライト結晶粒を整粒化する効果も有する。これらの効果を有効に発揮させるためには、0.005質量%以上のAlが必要である。また、0.01質量%以上が好ましく、0.015質量%以上が更に好ましい。Alの含有量が0.005質量%未満であると、溶製時にガス欠陥が発生しやすく、冷間鍛造時に割れが発生しやすい。一方、0.06質量%を超えると、固溶N量を低下させ、所定の部品強度が得られなくなる。Alは、好ましくは、0.05質量%以下、さらに、好ましくは0.04質量%以下である。
【0026】
[N:0.008〜0.025質量%]
窒素(N)は、加工後の静的歪み時効によって所定の強度を得るために重要な元素である。こうした効果を発揮させるためには、N含有量を0.008質量%以上とする必要がある。しかしながら、N含有量が過剰になって0.025質量%を超えると、静的歪み時効よりも加工中の動的歪み時効の影響が顕著になり、変形抵抗が増大することになる。尚、N含有量の好ましい下限は0.0085質量%(より好ましくは0.009質量%以上)であり、好ましい上限は0.023質量%(より好ましくは0.02質量%以下)である。
【0027】
機械部品に用いる材料では、固溶状態のN(固溶N)を所定量とすることによって、変形抵抗をあまり高くせずに、静的歪み時効を促進させることも特徴としている。冷間加工後に所定の強度を確保するためには、固溶Nの量を0.007質量%以上とする必要がある。しかしながら、固溶Nの量が過剰になると、冷問加工性が劣化するので、好ましくは00.025質量%以下とするのが良い。
尚、本発明における固溶Nの含有量は、JIS G 1228に準拠して、鋼材中の全N量から全N化合物中のN量を差し引いて求められる値である。この固溶Nの含有量の実用的な測定法を以下に例示する。
(a)不活性ガス融解法一熱伝導度法(全N量測定)
供試材から切り出したサンプルをルツボに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、抽出物を熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定して全N量を求める。
(b)アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法(全N化合物量の測定)
供試材から切り出したサンプルを、10%AA系電解液に溶解し、定電流電解を行って、鋼中の全N化合物量を測定する。用いる10%AA系電解液は、10%アセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウム、残部メタノールからなる非水溶媒系の電解液であり、鋼表面に不働態皮膜を生成させない溶液である。
【0028】
供試材のサンプル約0.5gを、この10%AA系電解液に溶解させ、生成する不溶解残渣(N化合物)を穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過する。得られた不溶解残渣を、硫酸、硫酸カリウムおよび純銅製チップ中で加熱して分解し、分解物をろ液に合わせる。この溶液を、水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させる。更に、フェノール、次亜塩素酸ナトリウムおよびペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、吸光光度計を用いて吸光度を測定して全N化合物量を求める。
【0029】
(a)の方法によって求められた全N量から、(b)の方法によって求められた全N化合物量を差し引いて固溶N量を求めることができる。
機械部品に用いる材料において、固溶Cは変形抵抗を大きく増加させ、静的歪み時効にあまり寄与せず、一方、固溶Nは変形抵抗をあまり上げず、静的歪み時効を促進させることができるため加工後(歪み付与後)の強度を増加させることができる作用を有する。
そのため、この材料においては、加工中の変形抵抗をあまり上げず、加工後の硬さを増加させるために、Cの含有量[C]とNの含有量[N]とは、式(1)の関係を満足する必要がある。式(1)の右辺の値(=10[C]+[N])が、0.3(質量%)を超えると、CおよびNの含有量が過剰となって、変形抵抗が過大となる。
【0030】
尚、(10[C]+[N])の値は、0.29以下であることが好ましく、より好ましくは0.28以下とするのが良い。
0.3≧(10[C]十[N]) ・・・(1)
但し、[C]および[N]は、夫々CおよびNの含有量(質量%)を示す。
材料の成分は上記の通りであり、残部は鉄および不可避的不純物である。
以上の材料を用いて、大型ねじ1を本発明に示した鍛造方法により製造することにより、従来、熱間鍛造を用いてしか大型ねじ1を製造できなかったものが、冷間鍛造を用いて製造することができるようになった。なお、本発明の製造方法は、大型ねじ1のみならず、これまで熱間鍛造によって加工されていたクランクシャフト、コンロッド、トランスミッションギヤ等の自動車用部品、その他の機械部品)にも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 大型ねじ
2 軸部
3 丸棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間鍛造を用いて機械部品を製造するに際して、前記機械部品において強度が必要な部分に対し、塑性歪みを付与することによる強度増加工程を有することを特徴とする冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法。
【請求項2】
前記機械部品の形状に機械加工代を付与することで機械加工前形状を決定し、前記機械加工前形状に、前記強度が必要な部分に対して強度増加のために付与する前記塑性歪み量に基づいて強度増加前形状を決定した上で、
前記強度増加前形状が、前記機械加工前形状となるように前記強度増加工程にて歪みを入れながら冷間鍛造を行うことを特徴とする請求項1に記載の冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法。
【請求項3】
前記機械部品は、C:0.005〜0.045質量%、Si:0.005〜0.4質量%、Mn:0.3〜1質量%、P:0.05質量%以下(0%を含まない)、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.005〜0.06質量%、N:0.008〜0.025質量%、及び式(1)を満たし、残部は鉄および不可避的不純物からなり、且つ固溶状態としてのN:0.007質量%以上を満たす材料から製造されることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法。
【請求項4】
前記塑性歪み量は、8以下(0を除く)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法。
【請求項5】
前記塑性歪み量は、1以上5以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法。
【請求項6】
前記塑性歪み量を、降伏応力(YP)、最大応力(TS)、強度(h)、疲労強度(i)のいずれかをもとにしたモデル式又は予め取得したデータベースから求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の冷間鍛造を用いた機械部品の製造方法における冷間鍛造において、押し出し型鍛造又は圧縮部分圧下を行うことを特徴とする冷間鍛造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−188369(P2010−188369A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33996(P2009−33996)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】