説明

冷陰極蛍光ランプ用電極及びその製造方法

【課題】厚膜であり、長寿命を実現する冷陰極蛍光ランプ用電極を提供する。
【解決手段】カップ形状電極内面に酸化物セラミックス膜を形成するために、プラズマ溶射法を用いたこと、さらに施工時の溶射ガンの角度を任意で設定することを特徴とし、前記カップ形状電極の内側面部への成膜が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極蛍光ランプに関するものであり、特に冷陰極蛍光ランプに使用される電極及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報化社会の進展に伴いパーソナルコンピュータなどの情報処理装置の普及が進んでいる。主に使用される表示装置としては、液晶ディスプレイが挙げられる。液晶ディスプレイは、装置の薄型・軽量化、省電力化に対応しやすいなどの利点があるため、今後も、パーソナルコンピュータや液晶テレビの表示部など、各種機器の表示部分に多用されることが予想される。
【0003】
このような、パーソナルコンピュータの液晶モニターや液晶テレビ等のバックライトには冷陰極蛍光ランプが使用されている。冷陰極蛍光ランプは、内面に蛍光体皮膜層を形成したガラス管内に少なくとも希ガス、水銀の放電媒体を封入し、ガラス管内の両端に一対の電極を配置し、電極端部にはリード線が溶接され、リード線を介して電圧が印加される。この冷陰極蛍光ランプは、両電極間に高電圧を印加して、ガラス管内の電子を電極に衝突させて電極から電子を放出させる。そして、この電子とガラス管内の水銀とを反応させて紫外線を放射させ、蛍光体被膜層を発光させる。
【0004】
また、電極はホローカソード効果が見込まれるようカップ形状をしており、電極のスパッタリング抑制効果や陰極電圧降下を見込み、カップ内面にはディップ法やスプレー法により酸化物セラミックス膜等が塗布、焼付けにより成膜されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−355971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような、装置の薄型、軽量化に対応するためには、装置内に組み込まれる冷陰極蛍光ランプの本数を減らしつつ、長いライフが必要とされている。長いライフの指標としては例えば、冷陰極蛍光ランプに電圧をかけた時の電極へのスパッタリング抑制時間が挙げられる。スパッタリング抑制効果を得るには、冷陰極蛍光ランプ内に組み込まれた電極への厚膜化が知られているが、従来のディップ法やスプレー法による成膜方法では、数μm程度の膜厚を得るためには数十回のコーティングが必要であり、コーティング後の焼成により膜の剥離やクラックが発生する場合があり厚膜化は困難である。
【0007】
そのような中、特許文献1の記載には、ニッケル金属や鉄等の金属層の上に、タングステンやモリブデンなどの純金属と希土類元素の六硼化物などの混合物を溶射法により、均一な膜厚で成膜した後、前記金属層を圧延加工により薄板形状とし、その薄板をさらに塑性加工により膜厚10〜40μm程度の電極形状にすることとした冷陰極蛍光ランプ用電極が開示されている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、溶射後の圧延加工や塑性加工により、成膜された溶射膜の割れや基材からの剥離が発生する恐れがあり、ランプ使用時の電極のスパッタリング抑制性能があるとは言いがたい。たとえ圧延加工及び塑性加工の際、膜に欠陥が生じなかったとしても、成膜された膜が薄いために長いライフは期待できない。
【0009】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、冷陰極蛍光ランプで使用される電極内面に容易に厚膜の酸化物セラミックス膜を成膜することができ、さらなるスパッタリング抑制効果や陰極電圧降下が見込める長寿命かつ低消費電力の冷陰極蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管の両端内側にカップ形状の電極を封着してなる冷陰極蛍光ランプにおいて、前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜が形成され、前記カップ形状電極の内底面と内側面に形成された前記酸化物セラミックス膜の膜厚が異なることを特徴としている。
【0011】
このように、カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜が形成されることにより、電極に対するスパッタリング抑制効果を発揮し、冷陰極蛍光ランプの長寿命化が見込める。
【0012】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、前記酸化物セラミックス膜の異なる膜厚は、内側面より内底面の方が厚膜であることを特徴としている。
【0013】
このように、酸化物セラミックス膜の膜厚を、内側面より内底面を厚く成膜することにより、より多くスパッタリングされやすい内底面のスパッタリング抑制効果が得られ、冷陰極蛍光ランプの長寿命化が見込める。
【0014】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、前記カップ形状電極の内面に成膜される前記セラミックス膜の膜厚が、50μm以上であることを特徴としている。
【0015】
このように、酸化物セラミックス膜の膜厚を50μm以上とすることで、電極に対するスパッタリング抑制効果を発揮し、冷陰極蛍光ランプの長寿命が見込める。膜厚が50μm未満の場合、スパッタリングの抑制効果が薄い。
【0016】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、前記酸化物セラミックス膜の原料は、3A族元素からなる酸化物、Al、ZrO、MgOから1種若しくは2種以上から選択されることを特徴している。また、前記3A族元素からなる酸化物は、Y、Gd、Ybのいずれかであることを特徴としている。
【0017】
上記のような原料を使用し、冷陰極蛍光ランプ用電極に酸化物セラミックス膜を成膜することにより、スパッタリング抑制に優れた長寿命な冷陰極蛍光ランプが形成可能である。
【0018】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極は、前記酸化物セラミックス膜は、プラズマ溶射法により成膜されることを特徴としている。
【0019】
このように、酸化物セラミックス膜を得る方法としてプラズマ溶射法とすることにより、高温、高速プラズマ流により完全溶融されたなめらかな皮膜が得られる。さらに、基材(カップ形状電極を意味する)と酸化物セラミックス膜とが密着するため、成膜された皮膜には剥離等は発生しない。また、溶射材料を酸化物セラミックスとしたことにより、所定の気孔を有する膜であってもスパッタリングを抑えられ、膜が剥離し難いことを見出し、発明に至ったものである。さらに、溶射膜成膜後に塑性加工などの変形を生じさせるような工程も存在しないため、成膜された皮膜には剥離等は発生しない。
【0020】
このように、カップ状電極内面に酸化物セラミックス膜を成膜することにより、スパッタリング抑制効果や陰極電圧降下による長寿命化が見込める。また、従来のディップ法やスプレー法と比較しても厚膜化が可能なため、管電圧を低下させることができ低消費電力が見込める。さらに、厚膜であるためその初期特性の維持も見込める。
【0021】
また、本発明に係る冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法は、内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管の両端内側にカップ形状の電極を封着してなる冷陰極蛍光ランプにおいて、前記カップ形状電極の開口部に対し、溶射ガンを垂直若しくは傾斜を付けて配置し、プラズマ溶射法により前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を形成する、前記カップ形状電極と酸化物セラミックス膜とが密着しており、前記酸化物セラミックス膜に剥離が発生しないことを特徴としている。
【0022】
このように、前記カップ形状電極の開口部に対し、溶射ガンを垂直に配置して溶射を行なうことにより、カップ形状電極の内面及び開口部の縁部に成膜が可能である。さらに若しくは、開口部に対し、溶射ガンの傾斜を付けて配置して溶射を行なうことにより、カップ形状電極の内底面、開口部の縁部のみならず、内側面部にも効率的に厚膜の成膜が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、冷陰極蛍光ランプ内のカップ形状電極の内面に、プラズマ溶射法により、内底面と内側面とで膜厚の異なる50μm以上の膜厚の酸化物セラミックス膜を備えた冷陰極蛍光ランプ用電極とすることにより、使用時に剥離が発生しない、かつ長寿命を兼ね備えた冷陰極蛍光ランプ用電極を提供することができる。また、膜形成の際、溶射ガンを垂直に配置して溶射を行なうことにより、カップ形状電極の内面及び開口部の縁部に成膜が可能である。若しくは、溶射ガンの傾斜を付けて配置して溶射を行なうことにより、カップ形状電極の内底面、開口部の縁部のみならず、内側面部にも効率的に厚膜の成膜が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る冷陰極蛍光ランプの概略的な構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る溶射装置の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】(A)〜(C)本発明に係る溶射ガンの配置を説明するための概略的な構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施例の詳細を説明するための概略的な構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0026】
(冷陰極蛍光ランプの構造)
図1は本発明に係る冷陰極蛍光ランプの概略的な構造を示す断面図である。図1に示される冷陰極蛍光ランプ1のガラス管2は、ソーダガラス、鉛ガラス等の硬質ガラス材料で形成されており、その外径は用途に応じて異なるが、1.8〜5.0mm程度で長さは150〜1500mm程度である。また、ガラス管2の両端が硼酸ガラス、珪酸ガラス等で形成された封止ガラス5により気密に封止されている。
【0027】
また、ガラス管2の内壁には、例えば希土類蛍光体皮膜等の蛍光体が、その用途に応じて適宜選択された蛍光体皮膜3が形成されており、ガラス管2の内部空開には、放電媒体4となるアルゴン、キセノン、ネオン等の希ガス及び、蛍光体励起用の水銀が所定量封入されている。
【0028】
ガラス管2内の両端には、リード線6の接合された一対の電極7が、リード線6が封止ガラス5を貫通する形で、一対の電極7が対向するように配置されている。また電極7は、対向する面が開口している有底のカップ形状であり、ホローカソード効果により、電極内側から電子放射が行われやすく、陰極電圧降下が低減でき、低消費電力化も見込まれる。また電極材料としては、本発明では安価で加工性の優れるニッケルを使用しているが、ニオブやモリブデンやタングステンで作製された電極であっても良いことは勿論である。また、電極7の内面及び開口部の縁部には酸化物セラミックス膜8が形成されている。
【0029】
冷陰極蛍光ランプ1は上記のような構造を示しており、リード線6を介して電力を投入することにより、両端の電極7間に放電が発生し、水銀が励起され紫外線が発生する。その発生した紫外線により蛍光体皮膜3から可視光線が外部に放射される。
【0030】
(酸化物セラミックス膜)
次に電極7に形成される酸化物セラミックス膜8について説明する。本発明における酸化物セラミックス膜8はプラズマ溶射法により成膜されている。プラズマ溶射法は出力が高く高融点材料の溶射に適している。プラズマ溶射法とすることで、完全溶融された酸化物セラミックス膜8の原料が、カップ形状電極の内面に密着するために放電による膜剥離が発生しない。
【0031】
プラズマ溶射装置としては特に限定はなく、公知の装置を使用すればよいが、ここでは図2にプラズマ溶射装置の原理として一例を図示する。プラズマ溶射装置20は、プラズマ炎射出口11を有する本体部10と、本体部10とプラズマ炎射出口11の反対側に設けられた陰極12と、本体10の両側面にそれぞれ支持部材(図示せず)に支持されて設けられた陽極13を備えている。
【0032】
陰極12の先端には、Arガス、Oガス等のプラズマガス供給口14よりプラズマガスが供給され、図示しない電源装置より電圧が印加され、電極より高温のプラズマが発生する。また、図示しない原料供給ホッパーから原料供給配管15へ溶射原料である酸化物セラミックス原料16が、プラズマ炎射出口11へ供給され、高温のプラズマにより溶融された酸化物セラミックス原料16が高速のプラズマジェット17に乗り、基材へ成膜を行なう。
【0033】
このとき使用される酸化物セラミックス膜8の原料としては、Y(酸化イットリウム)やGd(酸化ガドリニウム)、Yb(酸化イッテルビウム)などからなる3A族元素、Al(酸化アルミニウム)、ZrO(酸化ジルコニウム)、MgO(酸化マグネシウム)などから1種若しくは2種以上を混合物として使用するのが好適である。また、上記主成分以外の他成分が含まれていても構わない。ただし、このような他成分は、成膜された酸化物セラミックス膜8に対して悪影響を与えないものが好ましい。そのような他成分は、不可避成分であり、例えばSi、Na、Fe、Zn、Cr、Ni、Cu、Ca、Mn、Ti、Kなどが挙げられる。
【0034】
また、酸化物セラミックス膜8の気孔率は5%以上20%以下が好ましく、さらには、5%以上10%以下であることがより好ましい。気孔率が5%未満の場合、皮膜が緻密すぎるため皮膜にクラックが発生し、そこから膜剥離の原因となる恐れがある。また、気孔率が20%を超えると、その空隙に放電が入り込み、膜剥離の原因となる恐れがある。また例えば、特許文献1は、溶射材料に金属を含んでいる。金属溶射では、酸化物セラミックス溶射よりも緻密化できることから、その膜を緻密とすることによりスパッタリングを抑えているものと考えられる。一方、本発明は、溶射材料を酸化物セラミックスとし、所定の気孔を有する緻密でない膜を形成することにより、スパッタリングが抑えられ、膜が剥離し難いことを見出したものである。さらに、溶射膜の原料を酸化物セラミックスとし、内側面よりも内底面を厚い膜厚にすることにより、よりスパッタリングを抑えられることとしたものである。
【0035】
また、酸化物セラミックス膜8は10MPa以上、より好ましくは15MPa以上の強度で基材である電極7に密着していることが好ましい。10MPa以上とすることで、皮膜の剥離を防止することができる。電極7より皮膜が剥離してしまうと、剥離部分よりスパッタリングが発生し、冷陰極蛍光ランプ1の寿命が極端に低下する。
【0036】
また、酸化物セラミックス膜8は、90.0%以上の純度を有する原料が使用可能である。90.0%以上の純度とすることにより、スパッタ環境においても皮膜へのダメージの進行を抑制できる。さらには、純度95.0%以上であることがより好ましい。また、溶射原料の平均粒径としては、20μm以上60μm以下の溶射原料を使用する。20μm以上の溶射原料を使用することにより、プラズマ炎に吹き飛ばされることなくプラズマ炎内に流すことが可能である。また60μm以下の溶射原料を使用することにより、原料の重さによりプラズマ炎を通り抜けることなくプラズマ炎内に流すことが可能である。さらに言うと、平均粒径30μm以上50μm以下の溶射原料を使用することがより好ましい。
【0037】
また、酸化物セラミックス膜8は、電極7の内面であって、その最も薄い部分の膜厚が膜厚50μm以上であることがスパッタリング抑制効果を発揮して、電極の長寿命を得られるとして好ましい。内側面の膜厚は、内底面よりも薄いことが好ましく、内側面の膜厚が50μm未満では、スパッタリングを抑える効果が小さくなり、使用時の内側面のスパッタリングが進行してしまう。成膜される膜厚はその対象となる基材にもよるが、好ましくは150μm以上、さらには300μm以上、もっと言うと500μm以上がより好ましい。
【0038】
(溶射ガンの配置)
図3に示された図は、本発明に係る溶射ガンの配置を説明するための概略的な構成を模式的に示す図である。電極7にプラズマ溶射法により酸化物セラミックス膜8を成膜する際、電極7の開口部に対し、溶射ガン30の配置を垂直、より好ましくは傾斜を付けて配置して溶射を行なう。
【0039】
電極7の開口部に対し、垂直若しくは傾斜を付けて溶射ガン30を配置させて成膜することにより、電極7の内面及び開口部の縁部に溶射膜が成膜できる。なお、電極7は使用時、内側面よりも内底面の方がより多くスパッタリングされ易い。その理由は明らかではないが、電圧を印加すると電気エネルギーは直線的に電極へ向かって進むため、底面のイオン衝突密度が大きいためと推測される。そのため、電極7の内底面に厚膜を施すことが重要なファクターとなる。つまり、垂直に溶射ガン30を配置させて成膜を行なうことにより、カップ形状電極の内底面に厚膜が成膜できる。若しくは、傾斜を付けて成膜を行なうことで、内側面部にもより厚い溶射膜が形成可能である。そのときの溶射ガン30の傾斜角度αは、電極7の底部の中心を基準点とし、縦方向へ伸びる垂直線Yを想定し、同様に横方向へ伸び、線Yと直角に交わる線Xを想定した時、その角度αが、図3の(A)〜(C)に例示するように電極7の径及び深さにもよるが、望ましくは−45°〜+45°の範囲とすることで、電極7の内面全面及び開口部の縁部に厚膜の成膜が可能となる。角度については電極7に対して垂直に配置する時を角度0°と定義している。
【0040】
内側面の膜厚を内底面の膜厚と均一としない理由は、スパッタリング抑制効果を向上し、長いライフを得るためには、厚膜とすることは前途のとおりである、しかしながら内側面を内底面と均一な膜厚で成膜してしまうと、使用されている電極7の径は数mm程度の小径なものであるために開口部が塞がる若しくは狭くなりすぎ、電極7のホローカソード効果が見込めなくなり、冷陰極蛍光ランプとしての性能を発揮できなくなる。
【0041】
また膜形成の際、溶射ガン30側を回転させ電極7を固定して内面を成膜しても、溶射ガン30を固定し、電極7側を回転させて内面を成膜しても良い。若しくは双方を回転させて成膜を行なっても良い。その場合はお互いの回転方向は逆回転が好ましい。
【0042】
上記方法を用いることで、電極内面全面及び開口部の縁部に容易に酸化物セラミックス膜8を成膜することが可能となる。これにより、スパッタリング抑制効果や陰極電圧降下が見込め、長寿命かつ低消費電力の優れた冷陰極蛍光ランプを提供することを可能となる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明に係る一実施例を詳細に説明する。なお本発明は以下に説明する実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(実施例1〜3)
φ2.0mm、深さ5mmのカップ状のニッケル製電極を用意し、酸化物セラミックス膜の原料として、平均粒径30μm、純度99.0%で残部が不可避成分から成る酸化イットリウムを準備した。そして溶射装置として、一対のアノード(陽極)を有するトーチ型溶射装置、ツインアノード型溶射装置(エアロプラズマ社製・ASP7100)を使用し、上記ニッケル製電極の内面に酸化イットリウム膜を成膜した。このときニッケル製電極の開口部に対し、溶射ガンの傾斜は0°の設定とした。また、実施例1〜3における膜厚差はパス数(塗り回数)によるものである。
【0045】
(実施例4)
ニッケル製電極の開口部に対し、溶射ガンの傾斜を20°と設定したこと以外は、上記実施例1と同様の方法で酸化イットリウム膜の成膜を行なった。また、パス数は実施例1と同様の回数で行なった。
【0046】
(比較例1)
φ2.0mm、深さ5mmのカップ状のニッケル製電極を用意し、酸化イットリウムゾルをディップ法にて、電極内面に酸化イットリウムゾルゲル膜を成膜した。成膜条件としては、焼成温度を300℃、加熱時間5時間とした。
【0047】
(比較例2)
φ2.0mm、深さ5mmのカップ状のニッケル製電極を用意した。なお比較例2については、酸化イットリウム膜は形成しなかった。
【0048】
上記で得られた電極7を切断し、内底面と内側面及び開口部の縁部を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した膜厚について、測定部の位置を示した図4を元にその結果を表1に示す。図4における符号については、41は底面中心部を、42は底面周辺部を、43は電極7の開口部の縁部を4/4と想定した時、1/4の位置を、44は同様に3/4の位置、45を電極7の開口部の縁部とした。さらに、気孔率においても、電極7の断面におけるSEM観察により行なったものである。
【0049】
また、実施例1〜4、比較例1及び比較例2で作製された電極を、φ4.0mm、長さ900mmの蛍光体皮膜層3が形成されたガラス管2を準備し、両端を封止ガラス5で封止するように電極7を配置し、冷陰極蛍光ランプ1を作製した。なお、ガラス管2内には、放電媒体4として、アルゴン及び水銀が封入されている。
【0050】
次に、作製した冷陰極蛍光ランプ1の封止ガラス5より外部へ貫通するリード線6を介して、6mAで点灯試験を行った。その時の管電圧(V)の状態と管内温度について表2に示す。また、表2中におけるライフの指標としては、未形成品と特性が同等となった時間を記載した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1より、比較例1の電極と比較し、実施例の電極は、成膜された全ての面において、厚膜を有している。これにより、比較例1に対し厚膜であるためスパッタリング抑制効果が発揮され、冷陰極蛍光ランプの長寿命化が可能である。さらに、プラズマ溶射の特徴でもある、なめらかな皮膜が得られるために初期特性の維持もされやすい。また、実施例の気孔率は9〜10%の気孔を有した膜であっても、スパッタリング抑制効果が発揮された。また、比較例1の皮膜を得るために要した時間は、数時間を要するが、プラズマ溶射を用いて成膜をした場合、厚膜にも関わらず、短時間で形成可能であるため量産性がよく、産業的にも非常に好適な方法である。
【0054】
さらに、内側面より多くスパッタリングされる傾向のある内底面に厚膜を施したこともスパッタリングの抑制効果と成っている。また、傾斜を付けて成膜を行なった実施例4では、実施例1と同様のパス数で内側面により厚い溶射膜を成膜可能としており、原料の使用効率もよく、より安定的な冷陰極蛍光ランプの提供が可能であることもわかった。
【0055】
表2より、比較例1及び比較例2の電極は、実施例の電極と比較して、管電圧が40〜120V、管内温度が15〜55℃高くなっている事がわかる。このように厚膜とすることで、管電圧が比較例に対し低い値を示し、その結果低消費電力となっている。また、管内温度も低温であることも長寿命の要素となる。
【0056】
実施例1及び実施例4の冷陰極蛍光ランプ1は、1万時間経過した後でも性能維持が確認され、現在も輝度低下などの性能低下もなく性能を維持している。比較例1の電極を2千時間経過したところで状態を確認したところ、電極2の底面近辺に、スパッタリングされた形跡が見られた。これは成膜時、底面に液だまりが発生し、膜割れが発生していたためである。また、比較例2の電極は、数百時間経過した程度でスパッタリングにより電極の底面に穴が確認された。
【0057】
以上のことから、冷陰極蛍光ランプ内のカップ形状電極の内面に、プラズマ溶射法により、厚膜の酸化物セラミックス膜を備えた冷陰極蛍光ランプ用電極とすることにより、使用時に剥離が発生しないかつ長寿命を兼ね備えた冷陰極蛍光ランプ用電極を提供することができる。また、膜形成の際、溶射ガンを垂直に配置して溶射を行なうことにより、カップ形状電極の底面及び開口部の縁部に成膜が可能である。若しくは、溶射ガンの傾斜を付けて配置して溶射を行なうことにより、カップ形状電極の底面、開口部の縁部のみならず、内側面部にも効率的な成膜が可能とした。
【符号の説明】
【0058】
1 冷陰極蛍光ランプ
2 ガラス管
3 蛍光体皮膜層
4 放電媒体
5 封止ガラス
6 リード線
7 電極
8 酸化物セラミックス膜
10 本体部
11 プラズマ炎射出口
12 陰極
13 陽極
14 プラズマガス供給口
15 原料供給配管
16 酸化物セラミックス原料
17 プラズマジェット
20 プラズマ溶射装置
30 溶射ガン
41〜45 膜厚測定箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管の両端内側にカップ形状の電極を封着してなる冷陰極蛍光ランプにおいて、前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜が形成され、前記カップ形状電極の内底面と内側面に形成された前記酸化物セラミックス膜の膜厚が異なることを特徴とする冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項2】
前記酸化物セラミックス膜の異なる膜厚は、内側面より内底面の方が厚膜であることを特徴とする請求項1に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項3】
前記カップ形状電極の内面に成膜される前記セラミックス膜の膜厚が、50μm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項4】
前記酸化物セラミックス膜の原料は、3A族元素からなる酸化物、Al、ZrO、MgOから1種若しくは2種以上から選択されることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項5】
前記3A族元素からなる酸化物は、Y、Gd、Ybのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項6】
前記酸化物セラミックス膜は、プラズマ溶射法により成膜されることを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれかに記載の冷陰極蛍光ランプ用電極。
【請求項7】
内面に蛍光体皮膜層を有するガラス管内に放電媒体を封入し、前記ガラス管の両端内側にカップ形状の電極を封着してなる冷陰極蛍光ランプにおいて、前記カップ形状電極の開口部に対し、溶射ガンを垂直若しくは傾斜を付けて配置し、プラズマ溶射法により前記カップ形状電極の内面に酸化物セラミックス膜を形成する、前記カップ形状電極と酸化物セラミックス膜とが密着しており、前記酸化物セラミックス膜に剥離が発生しない冷陰極蛍光ランプ用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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