説明

凍結ミクロトームを使用した小麦粉の製パン性評価方法

【課題】小麦粉の製パン性を実際にパンを製造することなく評価する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】以下の工程を含むことを特徴とする小麦粉の製パン性評価方法である。
(1)中種製パン法における本捏工程の初期段階のパン生地を採取し該採取したパン生地を凍結する工程、(2)前記凍結した生地をミクロトームで薄片状の生地とする工程、(3)前記薄片状の生地とした生地を染色した後、染色した生地の蛋白質組織模様を顕微鏡を使用して観察する工程。製パン性のよい小麦粉ほど筋状の組織が観察できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結ミクロトームを使用した小麦粉の製パン性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉の製パン性を評価するには実際にパンを製造して評価する方法が確実であるが、時間や費用がかかるという問題がある。
実際にパンを製造することなく製パン性を評価する方法としては、ファリノグラフやエクステンソグラフ等を使用して製パン性と関連性が高い生地の物性を測定する方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
一方、食品組織を観察する方法としては凍結した生地をミクロトームを使用して薄片とし、染色する方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】「再改訂版 小麦粉」、日本麦類研究会、1981年1月31日
【非特許文献2】「食品組織研究の方法およびその実例」、日本家政学会食品組織研究委員会 食品組織研究会、1986年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、小麦粉の製パン性を実際にパンを製造することなく評価する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、中種製パン法における本捏工程の初期段階のパン生地の蛋白組織を観察することにより小麦粉の製パン性を評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は以下の工程を含むことを特徴とする小麦粉の製パン性評価方法である。
(1)中種製パン法における本捏工程の初期段階のパン生地を採取し、採取した該パン生地を凍結する工程
(2)前記凍結した生地をミクロトームで薄片状の生地とする工程
(3)前記薄片状の生地を染色した後、染色した生地の蛋白質組織模様を顕微鏡を使用して観察する工程
【発明の効果】
【0006】
小麦粉の製パン性を実際にパンを製造することなく評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の中種製パン法とは、使用する小麦粉全量の一部を使用して該一部の小麦粉に加水混捏して発酵した生地に、残りの小麦粉を加えてさらに混捏して生地を調製し、さらに発酵して焼成する製パン方法をいう。
通常、使用する小麦粉の70質量%程度を中種用小麦粉として使用し、必要に応じて副資材と共に加水して混捏し中種生地を調製し、該中種生地に残りの小麦粉や他の副資材を加え更に加水して混捏しパン生地を調製する。
本発明で使用できる中種製パン法は、中種生地に残りの小麦粉を加えて混捏する工程があれば特に限定されず従来公知の中種製パンを使用することができる。
【0008】
本発明の本捏工程の初期段階とは、調製した中種生地に残りの小麦粉及び他の副資材を加え更に加水して混捏する工程における混捏開始から約2分30秒以内の工程をいう。
前記本捏工程における混捏は、従来公知の中種製パン法のおける混捏と同様に低速(100min-1)で行う。
【0009】
本発明の本捏工程の初期段階におけるパン生地の採取場所は特に限定されない。
生地に力が加わるのを避けるため、はさみ等で切り取ることが好ましい。
【0010】
採取した生地は、直接ミクロトームにより薄片にする場合以外は、アルミホイル等で包み凍結する。
凍結はドライアイス等を使用して急速に行う。
生地の採取量は使用するミクロトームにより適宜調製するが3g程度で足りる。
【0011】
前記生地をミクロトームを使用して薄片とする。
生地が凍結してある場合は解凍してから行う。
薄片の調製方法は従来の凍結ミクロトームによる薄片の調製方法を使用できる。
例えば、ミクロトームに凍結用板を設けて生地を載せ、純水または樹脂により生地を凍結した後薄片とする。
ミクロトームの切刃はドライアイス等で冷却して行う。
【0012】
前記採取した生地を染色する。
染色方法は蛋白質を染色できる方法であれば、特に限定されない。
例えば、アクロレイン−シッフ反応やヘマトキシリン エオジン染色を使用することができる。
【0013】
アクロレイン−シッフ反応は蛋白質を検出するために行う染色方法である。
シッフ試薬は塩基性フクシンを過剰の亜硫酸で処理したもので、シッフ試薬はアルデヒドが存在すると赤紫色の化合物を形成する。
試料をアクロレインで処理すると、組織の蛋白質のSH基にアクロレインが結合し、該アクロレインのアルデヒドがシッフ試薬に反応して赤色に染まる。
アクロレイン−シッフ反応による染色方法は、以下のとおりである。
(1)エタノールに3分浸す
(2)10%アクロレイン試薬に10分浸して反応させる
(3)95%エタノールに3分浸す
(4)流水で5分水洗する
(5)シッフ試薬に30分浸す
(6)亜流酸水に3分間浸してシッフ液を洗う、これを3回行う
(7)流水で5分水洗する
(8)脱水した後、グリセリン-ゼラチンで封入する
【0014】
ヘマトキシリン エオジン染色は組織の一般構造を調べる染色方法で、細胞核、細胞膜ななどの好塩基性物質はヘマトキシリンで青紫色に、エオジンは、核仁、細胞質蛋白などの好酸性物質を淡赤色から濃赤色に染め分ける。
ヘマトキシリンは、正に帯電するアルミニウムキレートが塩基性染料のようにふるまい、強く負に帯電した物質を染色する。
エオジンは、酸性色素の1つである。
水溶液中でカラーアニオンとして存在し、負性荷電している。
酸性の液中において、組織蛋白質の陽性荷電部分を染色する。
ヘマトキシリン エオジン染色による染色方法は、以下のとおりである。
(1)ヘマトキシリン染色液に4〜6分浸す
(2)流水で15〜30分水洗する
(3)エオジン液に3〜5分浸す
(4)水洗する
(5)70〜90%エタノールに1分ずつ通して、脱水を行う
【0015】
前記染色した生地の蛋白質組織模様を顕微鏡を使用して観察する。
顕微鏡倍率は400倍程度がよく観察できる。
製パン性評価は、蛋白質組織模様を観察することにより行う。
製パン性は、蛋白質組織模様が筋状に現れているほど良い。
【実施例】
【0016】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
[試験例1]
中種配合
パン用強力小麦粉 70質量部
イースト 2.2質量部
イーストフード 0.1質量部
水 40質量部
製パン用ミキサー(商品名「SKミキサー」 エスケーミキサー株式会社製)で前記中種原料を低速(100min-1)で2分間、中低速(200min-1)で2分間混捏し、捏ね上げ温度を24℃として、27℃、湿度75%の醗酵室で4時間ねかせ中種生地を得た。
本捏配合
パン用強力小麦粉 30質量部
食塩 2質量部
砂糖 5質量部
脱脂粉乳 2質量部
ショートニング 5質量部
水 26質量部
前記製パン用ミキサーに前記ショートニング以外の本捏原料を入れ、前期中種を入れ低速(100min-1)で2分間混捏を行い生地を、はさみで切り取り3g採取した。
【0017】
前記採取した生地をアルミホイルに包み、ドライアイスで急速凍結した。
前記凍結した生地を解凍後、滑走式ミクロトーム(商品名「ROM−380CN」 大和光機工業株式会社製)を使用して、エレクトロフリーズの上に蒸留水又は樹脂を滴下し、その上にサンプルを載せて凍結し、ミクロトームの刃の部分にドライアイスを載せて生地を切断して薄片状の生地を得た。
【0018】
前記、採取した薄片状の生地をアクロレイン−シッフ反応により染色した。
アクロレイン−シッフ反応による染色は、以下のとおり行った。
(1)薄片状の生地をエタノールに3分浸した。
(2)前記浸漬した薄片状の生地を10%アクロレイン試薬に10分浸した。
(3)前記アクロレイン試薬に10分浸した薄片状の生地を95%エタノールに3分浸した。
(4)前記95%エタノールに3分浸した薄片状の生地を流水で5分水洗した。
(5)前記水洗した薄片状の生地をシッフ試薬に30分浸した。
(6)前記シッフ試薬に浸した薄片状の生地を亜流酸水に3分間浸してシッフ液を洗った。この操作は3回行った。
(7)前記亜流酸水により洗浄した薄片状の生地を流水で5分水洗した。
(8)前記薄片状の生地を脱水した後、グリセリン-ゼラチンで封入した。
前記10%アクロレイン試薬は、90%アクロレイン溶液11.1mlに95%エチルアルコール88.9mlを加え調製した。
前記シッフ液は、塩基性フクシン2gを400mlの蒸留水に溶解し5分間煮沸するし50℃に冷却後、ろ過し2NのHClを10mlと亜硫酸水素ナトリウム4gを加え、一晩放置後に活性炭1gを入れ1分間混和しろ過して調製した。
【0019】
前記、グリセリン-ゼラチンで封入した薄片状の生地を倍率400倍で透過型顕微鏡により観察を行った。
【0020】
結果を図1に示す。
やや斜め縦方向に伸びる筋が観察できた。
実施例1で使用したパン用強力小麦粉は実際の製パン性は良好であった。
【0021】
[試験例2]
試験例1において、製パン性が劣る小麦粉としてパン用強力小麦粉に代えてパン用強力小麦粉50質量部、菓子用薄力小麦粉50質量部を混合した混合小麦粉を使用した以外は試験例1と同様にしてグリセリン-ゼラチンで封入した薄片状の生地を得た。
【0022】
前記、グリセリン-ゼラチンで封入した薄片状の生地を倍率400倍で透過型顕微鏡により観察を行った。
【0023】
結果を図2に示す。
試験例1で観察できた筋は観察できなかった。
試験例2で使用した混合小麦粉は実際の製パン性は悪かった。
【0024】
[試験例3]
試験例1において、低速(100min-1)2分間混捏した生地をさらに中速(280min-1)3分間、高速(400min-1)1分間混捏し、ショートニングを入れ低速(100min-1)1分間、中速(280min-1)分間、高速(400min-1)5分間混捏した。
混捏した生地を27℃、湿度75%の醗酵室で20分間ねかせた(フロアタイム)。
前記ねかせた生地を分割して室温で20分間ねかせた(ベンチタイム)。
前記生地を型に詰め、38℃、湿度85%で型上1cmになるまでホイロをとった。
前記生地を210℃で25分間焼成した。
【0025】
試験例1及び前記工程において、中種調製後醗酵前生地、中種調製後醗酵後生地、本捏中速3分間混捏後生地、本捏高速1分間混捏後生地、フロアタイム後生地、ベンチタイム後生地、ホイロ後生地、焼成後生地を、試験例1と同様にして染色して観察した。
結果を図3〜図10に示す。
いずれも試験例1のような筋は観察できなかった。
【0026】
[試験例4]
試験例2において低速2分間混捏した生地から試験例3と同様にして生地を調製し染色して観察した。
結果を図11〜図18に示す。
いずれも試験例1のような筋は観察できなかった。
【0027】
以上のように、中種製パン法における本捏工程の初期段階のパン生地の蛋白組織を観察することによってのみ小麦粉の製パン性を評価することができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】パン用強力小麦粉の本捏初期段階の生地を染色した写真である。
【図2】混合小麦粉の本捏初期段階の生地を染色した写真である。
【図3】パン用強力小麦粉の中種調製後発酵前の生地を染色した写真である。
【図4】パン用強力小麦粉の中種調製後発酵後の生地を染色した写真である。
【図5】パン用強力小麦粉の本捏混捏(中速3分)後の生地を染色した写真である。
【図6】パン用強力小麦粉の本捏混捏(高速1分)後の生地を染色した写真である。
【図7】パン用強力小麦粉のフロアタイム後の生地を染色した写真である。
【図8】パン用強力小麦粉のベンチタイム後の生地を染色した写真である。
【図9】パン用強力小麦粉の ホイロ後の生地を染色した写真である。
【図10】パン用強力小麦粉の 焼成後の生地を染色した写真である。
【図11】混合小麦粉の中種調製後発酵前の生地を染色した写真である。
【図12】混合小麦粉の中種調製後発酵後の生地を染色した写真である。
【図13】混合小麦粉の本捏混捏(中速3分)後の生地を染色した写真である。
【図14】混合小麦粉の本捏混捏(高速1分)後の生地を染色した写真である。
【図15】混合小麦粉のフロアタイム後の生地を染色した写真である。
【図16】混合小麦粉のベンチタイム後の生地を染色した写真である。
【図17】混合小麦粉の ホイロ後の生地を染色した写真である。
【図18】混合小麦粉の 焼成後の生地を染色した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする小麦粉の製パン性評価方法
(1)中種製パン法における本捏工程の初期段階のパン生地を採取し、採取した該パン生地を凍結する工程
(2)前記凍結した生地をミクロトームで薄片状の生地とする工程
(3)前記薄片状の生地を染色した後、染色した生地の蛋白質組織模様を顕微鏡を使用して観察する工程


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−312606(P2007−312606A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142380(P2006−142380)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】