説明

凍結乾燥容器および凍結乾燥容器の製造方法

【課題】製造コストが安価で、破損しにくく、ガスバリア性、凍結乾燥時の熱伝導性および打栓時の座屈強度に優れ、さらに使用後の分別廃棄が不要な凍結乾燥容器を提供することを目的とする。
【解決手段】凍結乾燥物が収容されるプラスチック製の容器本体11と、容器本体11に嵌合されるプラスチック製の栓21とを備えた凍結乾燥容器10であって、容器本体11が、成形体12とガスバリア性フィルム13とで形成された側壁部14と、少なくとも一部がガスバリア性フィルム15のみからなるように、ガスバリア性フィルム15で覆われた底部16とからなり、栓21に、ガスバリア性フィルム22が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥容器および凍結乾燥容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、蛋白質製剤、抗生物質などの医療用薬剤には、有効成分の安定性を保つため、凍結乾燥処理が施される。
凍結乾燥物は以下の操作により凍結乾燥容器に収容される。まず、凍結乾燥容器の容器本体内に、凍結乾燥物の原液を充填する。次に、容器本体に栓を半打栓し、該容器本体を、凍結乾燥装置内の加熱と冷却機能を備えた棚(加熱冷却棚)の上に配置する。さらに、容器本体を該加熱冷却棚で冷却し、凍結乾燥物の原液を凍結処理する。次に、凍結乾燥物の原液を凍結状態に保ったまま減圧乾燥する。その後、凍結乾燥装置内に窒素ガスを供給して大気圧に戻し、容器本体内をガス置換した後、容器本体に栓を完全打栓する。このようにして、凍結乾燥容器に凍結乾燥物が収容される。
【0003】
このような凍結乾燥容器から凍結乾燥物を取り出すには、凍結乾燥容器の栓に注射針を貫通させ、凍結乾燥容器内に凍結乾燥物を溶解するための所定の溶解液を注入し、該溶解液で凍結乾燥物を溶解する。その後、凍結乾燥物の溶液を注射針で吸引する。このようにして、凍結乾燥物の溶液を凍結乾燥容器から取り出す。
【0004】
このような凍結乾燥容器の容器本体には、主にガラス容器が用いられてきた。ガラス容器はガスバリア性に優れるため、酸素や水分が容器内に透過せず、凍結乾燥物が変質しにくい。しかし、ガラス容器は衝撃に弱く、破損しやすいという問題があった。
一方、ガラス容器に代わるものとして、プラスチック容器を用いた凍結乾燥容器が製品化されている。プラスチック容器は、ガラス容器に比べて破損しにくいという利点がある。しかし、プラスチック容器はガラス容器に比べて熱伝導性に劣り、凍結乾燥処理に時間がかかるという問題があった。
【0005】
そこで、プラスチック容器の熱伝導性を改善するため、特許文献1には、容器を扁平な形状にし、かつ容器の容器壁を薄肉にした凍結乾燥容器が開示されている。また、特許文献2には、容器の底部を薄肉にした凍結乾燥容器、および容器の底部に開口部を設けた上で、該開口部に薄肉のフィルムを貼着した凍結乾燥容器が開示されている。
【特許文献1】特開平10−236537号公報
【特許文献2】特開平10−155875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、プラスチック容器はガラス容器に比べてガスバリア性に劣るため、容器壁が薄肉な特許文献1のプラスチック容器は、ガスバリア性を維持できない可能性がある。さらに容器壁が薄肉な特許文献1のプラスチック容器は、容器単体では充分な座屈強度が得られず、専用の受け部に固定して打栓を行う必要がある。また、特許文献2のプラスチック容器は、ガスバリア性樹脂を用いた多層押出成形とされているが、多層押出成形ではガスバリア性樹脂層に層切れが生じる恐れがあり、ガスバリア性を維持できない可能性がある。
【0007】
ところで、従来の凍結乾燥容器用の栓には、ゴム栓が使用されている。しかし、ゴム栓は高価で、凍結乾燥容器の製造コストを押し上げる原因となっていた。
また、打栓後にゴム栓が容器本体から脱落しないよう、容器本体とゴム栓とをアルミニウム製の留め具でかしめていた。また、このような凍結乾燥容器は、使用後に容器本体とゴム栓とアルミニウム製の留め具を分別廃棄する必要があった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、製造コストが安価で、破損しにくく、ガスバリア性、凍結乾燥時の熱伝導性および打栓時の座屈強度に優れ、さらに使用後の分別廃棄が不要な凍結乾燥容器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1)凍結乾燥物が収容されるプラスチック製の容器本体と、該容器本体に嵌合されるプラスチック製の栓とを備えた凍結乾燥容器であって、
前記容器本体が、成形体とガスバリア性フィルムとで形成された側壁部と、少なくとも一部がガスバリア性フィルムのみからなるように、ガスバリア性フィルムで覆われた底部とからなり、
前記栓に、ガスバリア性フィルムが形成されていることを特徴とする凍結乾燥容器。
(2)前記側壁部のガスバリア性フィルム、前記底部のガスバリア性フィルム、前記栓のガスバリア性フィルムの少なくとも1つ以上が、アルミニウム箔積層フィルムである(1)に記載の凍結乾燥容器。
(3)前記側壁部のガスバリア性フィルムが、透明フィルムである(1)に記載の凍結乾燥容器。
【0009】
(4)前記栓に、該栓に貫通させる注射針に密着し、該栓に空隙が生じないようにする再封止層が設けられている(1)〜(3)のいずれかに記載の凍結乾燥容器。
(5)凍結乾燥物が収容されるプラスチック製の容器本体と、該容器本体に嵌合されるプラスチック製の栓とを備えた凍結乾燥容器の製造方法であって、
プラスチックから成形された成形体に、ガスバリア性フィルムを溶着して前記容器本体の側壁部を形成し、
該成形体の下方端にガスバリア性フィルムを溶着して前記容器本体の底部を形成し、
プラスチックから成形された前記栓にガスバリア性フィルムを溶着することを特徴とする凍結乾燥容器の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の凍結乾燥容器は、製造コストが安価で、破損しにくく、ガスバリア性、凍結乾燥時の熱伝導性および打栓時の座屈強度に優れ、さらに使用後の分別廃棄が不要である。本発明の凍結乾燥容器の製造方法によれば、本発明の凍結乾燥容器を効率よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図を用いて本発明を詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態例の凍結乾燥容器10は、凍結乾燥物が収容されるプラスチック製の容器本体11と、容器本体11に嵌合されるプラスチック製の栓21とを備える。
【0012】
容器本体11は、成形体12とガスバリア性フィルム13とで形成された側壁部14と、底面が全面にわたりガスバリア性フィルム15で覆われた底部16とからなる。また、容器本体11の上端には、凍結乾燥物の原液を充填する開口17が設けられている。ここで、成形体12の下方側の端面を下方端18とし、下方端18の内周に形成され、成形体12と一体成形された部分を底部成形部19とする。
【0013】
成形体12の厚みは0.5〜10mmが好ましい。0.5mm以上とすることで、容器本体11の充分な座屈強度が得られ、凍結乾燥の打栓時の押圧で容器本体11が破損しにくい。10mm以下とすることで、側壁部14の透明性を良好にでき、容器内に収容された凍結乾燥物の視認性が良好となる。成形体12は、この実施形態例で、図2に示すように断面円形とされているが、容器本体11が自立できるものであれば他の断面形状であってもよい。
また、容器本体11の上端部にフランジ部(不図示)を設け、該フランジ部を、後述する栓との溶着部として利用できるようにしておくことも好ましい。
成形体12を形成する合成樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。中でも、凍結乾燥物への影響が少なく、廃棄性、リサイクル性に優れるポリオレフィン系樹脂が好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂は透明性に優れているため、側壁部14に視認性が求められる場合にも好ましく用いられる。なお、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。また、成形体12は、複数の異なる樹脂層からなる多層構造とされていてもよい。
【0014】
ガスバリア性フィルム13は、酸素バリア性、水蒸気バリア性を有するフィルムである。ガスバリア性フィルム13の酸素バリア性の指標となる酸素透過量は、0〜0.5ml/m/24hrs/MPaであることが好ましく、0〜0.1ml/m/24hrs/MPaであることがより好ましい。ガスバリア性フィルム13の水蒸気バリア性の指標となる水蒸気透過量は、0〜1.0g/m/24hrsであることが好ましく、0〜0.5g/m/24hrsであることがより好ましい。
ガスバリア性フィルム13の具体例としては、銅、アルミニウム、マグネシウムなどの金属からなる5〜100μmの金属箔フィルム、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などからなるフィルムに、シリカ、アルミニウム、アルミナなどを蒸着させた蒸着系バリアフィルム、5〜100μm程度の厚みの金属箔を、PET樹脂やポリプロピレン樹脂で挟み込んだ金属箔積層フィルム、PETやセロファンなどのフィルムにポリビニリデンクロライド(PVDC)をコートしたKコートフィルム、バリア性を有する有機系および/または無機系のバリア性材料をポリエステルまたはポリアミドなどからなるフィルムにコートしたコート系バリアフィルムが挙げられる。その他に、フィルムの原材料としてポリビニルアルコール系樹脂(PVA)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、PVDC、メタキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂(MXD)を用いたフィルム、さらには、これら原材料を用いたフィルムと前述した他のガスバリアフィルムとをドライラミネート法などにより積層した積層フィルム、さらには、これら原材料とポリオレフィン樹脂などとを共押出にて積層した共押出系バリアフィルムも挙げられる。
【0015】
ガスバリア性フィルム13は、容器本体11に視認性が必要な場合、共押出系バリアフィルム、蒸着系バリアフィルム、コート系バリアフィルムなどの透明フィルムであることが好ましい。透明性を有するガスバリア性フィルム13に、前述した透明性を有する成形体12を組み合わせることで、透明性を有した側壁部14とすることができ、容器内に収容された凍結乾燥物の視認性が良好となる。
また、ガスバリア性フィルム13は、特に優れたガスバリア性が要求される場合、ガスバリア性に特に優れた金属箔または金属箔積層フィルムが好ましく用いられる。なお、ガスバリア性フィルム13が金属箔または金属箔積層フィルムであることで、熱伝導性をより向上することもできる。これら金属箔または金属箔積層フィルムに用いられる金属としては、アルミニウム、マグネシウムが好ましい。
【0016】
ガスバリア性フィルム13は市販品であってもよく、例えば、凸版印刷株式会社製の「GLフィルム」、大日本印刷株式会社製の「IBフィルム」、三菱樹脂株式会社製の「テックバリア」、株式会社クラレ製の「エバールフィルム」「クラリスタ」、旭化成株式会社製の「サランUB」、タマポリ株式会社製の「ハイトロンBX」、東セロ株式会社製の「マックスバリア」、株式会社クレハ製の「ベセーラ」などが挙げられる。
【0017】
ガスバリア性フィルム13の厚さは、フィルムの種類にもよるが、樹脂を主成分とするフィルムの場合には、概ね10〜100μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。10μm以上であれば、充分なガスバリア性が得られる。100μm以下であれば、凍結乾燥時の熱伝導性が良好である。
【0018】
ガスバリア性フィルム13の表面には、ガスバリア性フィルム13を保護する保護層(不図示)が設けられていることが好ましい。これにより、擦れなどによるガスバリア性フィルム13のガスバリア層の損傷をより確実に防止でき、ガスバリア性を維持できる。
前記保護層を形成する樹脂としては、PET樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。前記保護層の厚みとしては、5〜100μmが好ましい。
ガスバリア性フィルム13と成形体12との間には、ガスバリア性フィルム13と成形体12との接合を強固にする接着層(不図示)が形成されていることが好ましい。これにより、凍結乾燥時の温度変化に基づくガスバリア性フィルム13と成形体12との膨張率および収縮率の差により発生する物理的刺激や、成形体12を透過しうる内容物からの化学的刺激などにより、ガスバリア性フィルム13が成形体12から剥離することを防止でき、良好なガスバリア性を維持できる。なお、この接着層は、頭部23の樹脂と接着可能な、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの合成樹脂、または公知の接着剤や接着性樹脂から形成される。また、この接着層の厚みは5〜100μmが好ましい。前記接着剤としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、エステル系接着剤などが挙げられる。前記接着性樹脂としては、変性ポリエチレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂などが挙げられる。
【0019】
底部16は、より詳しくは、ガスバリア性フィルム15と、下方端18に連設される底部成形部19とで形成されている。ガスバリア性フィルム15は、下方端18と底部成形部19とに接するように、底部16の全面にわたり形成されている。
底部16の熱伝導性を向上するためには、図1のように底部成形部19を極力小さくし、底部16の大部分をガスバリア性フィルム15とするのが好ましく、底部成形部19を無くして、ガスバリア性フィルム15のみとした底部16としてもよい。なお、底部成形部19は、この実施形態例では、図2に示すように、成形体12の内周に一定の幅を有して環状に形成されているが、例えば格子状に形成された底部成形部19であってもよく、外周に一定の幅を有して環状に形成させてもよい。
さらには、ガスバリア性フィルム15が底部16の全面よりやや広くされ、この広くされた部分が、側壁部14の底部近傍に貼り付けるようにされていてもよい。すなわち、ガスバリア性フィルム15がカップ状の形状とされていてもよい。このように、側壁部14のガスバリア性フィルム13の一部と、底部16のガスバリア性フィルム15の一部とが重ね合わされて容器本体11を覆うことにより、両フィルムの継ぎ目部分にガスバリアされていない隙間が生じることがなく、容器本体11のガスバリア性が向上する。
【0020】
ガスバリア性フィルム15は、前述のガスバリア性フィルム13と同様に、酸素バリア性、水蒸気バリア性を有するフィルムであり、その具体例、酸素バリア性の指標となる好ましい酸素透過量、および水蒸気バリア性の指標となる好ましい水蒸気透過量も同様である。凍結乾燥容器10に特に優れたガスバリア性が要求される場合には、金属箔積層フィルムが好ましい。また、ガスバリア性フィルム15に金属箔または金属箔積層フィルムを用いることで、熱伝導性をより向上することもできる。
ガスバリア性フィルム15の厚さは、用いられるフィルムにもよるが、樹脂を主成分とするフィルムの場合には、概ね10〜100μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。10μm以上であれば、充分なガスバリア性が得られる。100μm以下であれば、凍結乾燥時の熱伝導性が良好である。
【0021】
ガスバリア性フィルム15の表面には、ガスバリア性フィルム13と同様に、ガスバリア性フィルム15を保護する保護層が設けられていることが好ましい。これにより、擦れなどによるガスバリア性フィルム15のガスバリア層の損傷を防止でき、ガスバリア性を維持できる。
前記保護層を形成する樹脂としては、PET樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。前記保護層の厚みとしては、5〜100μmが好ましい。
ガスバリア性フィルム15と底部成形部19との間には、ガスバリア性フィルム13と成形体12との間に好ましく設けられる接着層と同様に、ガスバリア性フィルム15と底部成形部19との接合を強固にする接着層(不図示)が設けられていることが好ましい。なお、この接着層の形成に用いられる材料、および接着層の好ましい厚みに関しても、ガスバリア性フィルム13と成形体12との間に好ましく設けられる接着層と同様である。
【0022】
栓21を形成する樹脂としては、成形体12と同様の樹脂が挙げられ、好ましい樹脂も同様である。また、栓21は、成形体12と剛性の異なる樹脂とすることが、嵌合部の気密性が高くなることから好ましい。さらに、栓21は、成形体12と剛性の異なる樹脂であって、かつ成形体12と熱接着が可能な樹脂、例えば成形体12と同種の樹脂とすることが、嵌合部の気密性がさらに高くなることから、より好ましい。具体的には、栓21と成形体12とを形成する樹脂がともにポリエチレン樹脂であって、かつポリエチレン樹脂の中でも剛性が異なる樹脂で、栓21と成形体12とがそれぞれ形成される、または栓21と成形体12とを形成する樹脂がともにポリプロピレン樹脂であって、かつポリプロピレン樹脂の中でも剛性が異なる樹脂で、栓21と成形体12とがそれぞれ形成される場合などが挙げられる。
栓21は、図1に示すように、打栓により容器本体11の開口17を塞ぐ頭部23と、頭部23の下方に連続して形成され、打栓により開口17に嵌合される脚部24とからなる。
【0023】
栓21は、図1に示すように、その内側にガスバリア性フィルム22が形成されている。ガスバリア性フィルム22は、この実施形態例では頭部23の内側に形成されているが、頭部23の外側に形成されていてもよい。また、頭部23の内側および外側に形成されていてもよい。
ガスバリア性フィルム22は、前述のガスバリア性フィルム13と同様に、酸素バリア性、水蒸気バリア性を有するフィルムであり、その具体例、酸素バリア性の指標となる好ましい酸素透過量、および水蒸気バリア性の指標となる好ましい水蒸気透過量も同様である。凍結乾燥容器10に特に優れたガスバリア性が要求される場合には、ガスバリア性フィルム22が金属箔または金属箔積層フィルムであることが好ましい。
ガスバリア性フィルム22の厚さは、用いられるフィルムにもよるが、樹脂を主成分とするフィルムの場合には、概ね10〜100μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。
【0024】
ガスバリア性フィルム22には、ガスバリア性フィルム13と同様に、ガスバリア性フィルム22を保護する保護層が設けられていることが好ましい。これにより、擦れなどによるガスバリア性フィルム22のガスバリア層の損傷を防止でき、ガスバリア性を維持できる。
前記保護層を形成する樹脂としては、PET樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。前記保護層の厚みとしては、5〜100μmが好ましい。
ガスバリア性フィルム22と頭部23との間には、ガスバリア性フィルム13と成形体12との間に好ましく設けられる接着層と同様に、頭部23へのガスバリア性フィルム22の接合を強固にする接着層(不図示)が設けられていることが好ましい。なお、この接着層の形成に用いられる材料、および接着層の好ましい厚みに関しても、ガスバリア性フィルム13と成形体12との間に好ましく設けられる接着層と同様である。
【0025】
頭部23には、図1、3に示すように、天面25に孔26が設けられている。なお、孔26は、ガスバリア性フィルム22で塞がれている。孔26は、凍結乾燥容器10内への溶液の注入および凍結乾燥物の溶解液の取り出しを行う注射針を挿入する孔である。
孔26の大きさは、挿入される注射針の直径より大きいものとされ、概ね1〜10mmの口径が好ましい。なお、この実施形態例では、孔26を有した凍結乾燥容器10を示したが、本発明はこれに限らず、孔26を有さない代わりに、天面25の肉厚を注射針が貫通できる程度に薄くされた栓であってもよい。
【0026】
脚部24には、切欠き28が設けられている。切欠き28は、凍結乾燥物の原液の減圧乾燥において、半打栓された凍結乾燥容器10内外を繋ぐ部分として機能し、凍結乾燥容器10内から空気及び水分を逃がすためのものである。
なお、脚部24は、この切欠き28の形状に限定されることなく、半打栓状態で凍結乾燥容器内外を連通させ、凍結乾燥しうる機能を有していれば、どのような形状であってもよい。また、栓21側に脚部24を設けずに、容器本体11側の開口17に、栓21の脚部24に相当する部分を設けて、当該部分の外周面側と、脚部を具備しない栓の内周面側とが接して嵌合する構造としてもよい。
また、成形体12の上端部にフランジ部(不図示)を設けた場合、脚部24のつけ根近傍にもフランジ部(不図示)を設け、これらフランジ部を容器本体11と栓21との溶着部とすることも好ましい。
さらに、成形体12の上端部にフランジ部を設けた場合、天面の外周部にフランジ部を設け、かつ脚部24を天面直下から設けることにより、打栓した際に、栓の天面以外の部分が全て容器本体内に埋没するようにしてもよい。
【0027】
この実施形態例では、栓21に、凍結乾燥物の取り出しの際、栓21に貫通させる注射針に密着し、栓21に空隙が生じないようにする再封止層27が設けられている。再封止層27により、凍結乾燥物の取り出しの際、注射針を貫通させても容器内の密閉状態を維持できる。これにより、外界の空気に含まれるホコリ、雑菌などの異物が凍結乾燥容器10内に混入するのを防止でき、かつ凍結乾燥物およびその溶液が外界に漏れ出すのを防止できる。
再封止層27は、少なくとも孔26を覆うように設けられていればよく、例えばこの実施形態例のように、ガスバリア性フィルム22に貼着された状態で設けられる、またはガスバリア性フィルム22内に多層フィルムとしてあらかじめ設けられていてもよく、天面25側に設けられていてもよい。
【0028】
再封止層27を形成する樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、熱可塑性エラストマーなど、密着性に優れた樹脂が挙げられる。中でもポリエチレン樹脂が好ましく、特に低密度ポリエチレン樹脂および高強度な直鎖状低密度ポリエチレン樹脂が好ましい。再封止層27の厚さは、50〜500μmが好ましい。
【0029】
以上説明した本発明の凍結乾燥容器10にあっては、栓21をプラスチック製としているため、従来用いられてきたゴム栓に比べて製造コストを安価にすることができる。
また、本発明の凍結乾燥容器10にあっては、容器本体11をプラスチック製としているため、衝撃に強く、破損しにくい。
また、本発明の凍結乾燥容器10にあっては、容器本体11と栓21とがともにプラスチック製であるため、凍結乾燥物を収容した後に、物理的に気密な状態で嵌合して固定することができる。さらに、気密性により完全を期すために、高周波溶着、超音波溶着、レーザー溶着、熱板溶着、インパルス溶着などにより、容器本体11と栓21とを溶着でき、いずれの場合もアルミの留め具を必要しない。また前述したように、容器本体11と栓21とはともにプラスチック製である。そのため、使用後の分別廃棄が不要である。
【0030】
また、本発明の凍結乾燥容器10にあっては、底部の少なくとも一部がガスバリア性フィルムのみからなる薄肉の部分とされているため、熱伝導性に優れ、凍結乾燥を迅速に行える。
また、本発明の凍結乾燥容器10にあっては、側壁部14に充分な座屈強度を有した成形体12を形成しているため、打栓時の座屈強度に優れ、打栓時に特別な受け具を必要としない。
また、本発明の凍結乾燥容器10にあっては、容器本体11および栓21のガスバリア層の形成に、ガスバリア性を有した樹脂をフィルム状にしたガスバリア性フィルムを用いている。そのため、容器本体11および栓21に、ガスバリア性を有した層を確実に形成することができ、多層押出成形による層切れの恐れがない。
【0031】
次に本発明の一実施形態例の凍結乾燥容器10の製造方法について説明する。
容器本体11の側壁部14を構成する成形体12は、前述した合成樹脂を用いて、射出成形、ブロー成形、パイプ成形などの押出成形法で成形される。中でも射出成形が好ましく用いられる。射出成形、ブロー成形、パイプ成形には、それぞれ公知の射出成形機、押出成形機を用いることができる。
【0032】
ガスバリア性フィルム13には、前述したガスバリア性を有するフィルムを用いる。側壁部14は、成形体12にガスバリア性フィルム13をインモールド成形、高周波溶着、熱板溶着、インパルス溶着などにより溶着することで成形される。中でもインモールド成形が好ましく用いられる。
インモールド成形では、あらかじめ所定の寸法に切断されたガスバリア性フィルム13を容器本体11の射出成形金型内の所定位置に固定しておき、該成形金型に成形体12の材料となる合成樹脂を流すことで、成形体12にガスバリア性フィルム13が溶着された側壁部14を成形できる。
このように、射出成形時にインモールド成形を行うことにより、一回の成形で側壁部14を製造でき、成形体12を成形してからガスバリア性フィルム13を溶着して側壁部14を成形する方法に比べ、製造工程を簡略化できる。
【0033】
なお、成形体12とガスバリア性フィルム13との間に、前述した接着層を設ける場合は、ガスバリア性フィルム13の成形体12と接する面、および/または成形体12のガスバリア性フィルム13と接する面に、あらかじめこの接着層を形成する接着剤や樹脂を塗布してから、押出成形を行えばよい。
【0034】
底部16のガスバリア性フィルム15は、成形体12の下方端18に対して、インモールド成形、高周波溶着、熱板溶着、インパルス溶着などにより溶着される。
このようにして、側壁部14と底部16とからなる容器本体11が製造される。
さらに、ガスバリア性フィルム13とガスバリア性フィルム15とが一体となったものをインモールド成形することも可能である。
なお、ガスバリア性フィルム15と底部成形部19との間に、前述した接着層を設ける場合は、ガスバリア性フィルム15の底部成形部19と接する部分、および/または底部成形部19のガスバリア性フィルム15と接する面に、あらかじめこの接着層を形成する接着剤や樹脂を塗布してから、前記溶着またはインモールド成形を行えばよい。
【0035】
栓21は、前述した合成樹脂を用いて、射出成形法を用いて成形される。また、栓21にガスバリア性フィルム22を形成する方法にも、前述の成形体12へのガスバリア性フィルム13の溶着と同様の溶着法を用いることができる。中でもインモールド成形が好ましく用いられる。
なお、ガスバリア性フィルム22と頭部23との間に、前述した接着層を設ける場合は、ガスバリア性フィルム22の頭部23と接する面、および/または頭部23のガスバリア性フィルム22と接する部分に、あらかじめこの接着層を形成する接着剤や樹脂を塗布してから、射出成形を行えばよい。
【0036】
次に、本発明の一実施形態例の凍結乾燥容器10に、凍結乾燥物を収容する手順について説明する。
まず、凍結乾燥容器10の容器本体11内に、無菌状態とされた凍結乾燥物の原液を充填する。次いで、容器本体11に栓を半打栓した上で、凍結乾燥装置内の加熱と冷却機能を備えた棚(加熱冷却棚)の上に配置する。該凍結乾燥装置としては、公知の凍結乾燥装置を用いることができる。なお、容器本体11は側壁部14が充分な座屈強度を備えているため、特別な受け部を使用せずとも、加熱冷却棚の上に自立して配置することができる。
次に、凍結乾燥物の原液を充填した容器本体11を、加熱冷却棚を用いて冷却し、凍結乾燥物の原液を凍結処理する。ここで、容器本体11は、底部16の少なくとも一部がガスバリア性フィルム15のみからなる薄肉の部分とされているため、熱伝導性に優れており、凍結処理を迅速に行える。
【0037】
次に、凍結乾燥物の原液を凍結状態に保ったまま減圧乾燥することで、水分を昇華させる。この半打栓状態において、水分は切欠き28から凍結乾燥容器10外に放出される。その後、凍結乾燥装置内に窒素ガスを供給して大気圧に戻すことで、凍結乾燥容器10内が窒素ガスにガス置換される。その後、栓21を完全打栓することで、凍結乾燥容器10に凍結乾燥物が収容され、容器本体11と栓21は物理的嵌合により気密性を維持できる。
さらに、気密性により完全を期すために、容器本体11と栓21との嵌合箇所を高周波溶着、超音波溶着、レーザー溶着、熱板溶着、インパルス溶着により溶着することもできる。
【0038】
次に、本発明の一実施形態例の凍結乾燥容器10に収容された凍結乾燥物を取り出す手順について説明する。
まず、孔26から注射針を挿入し、ガスバリア性フィルム22を貫通させ、凍結乾燥容器10内に凍結乾燥物を溶解するための所定の溶液を注入する。そして、該溶液により凍結乾燥物を溶解する。次いで、凍結乾燥物の溶解液を注射針で吸引する。このようにして、凍結乾燥物を溶解液の状態にして凍結乾燥容器10から取り出す。ここで、凍結乾燥容器10には、栓21に再封止層27が設けられているため、再封止層27が注射針に密着し、注射針とガスバリア性フィルム22との間に空隙が生じるのを防止できる。これにより、凍結乾燥容器10内にホコリや雑菌などの異物が混入するのを防止でき、かつ凍結乾燥容器10外に凍結乾燥物および凍結乾燥物の溶解液が漏れ出すのを防止できる。
また、凍結乾燥物を再度、溶解させずにそのまま服用したり、孔26から複数流路を有するチューブなどを挿入し、空気流下で微粉の凍結乾燥物として容器外へ搬送させて、服用することも可能である。
【0039】
本発明の凍結乾燥容器は、製造コストが安価で、破損しにくく、ガスバリア性に優れ、打栓時の座屈強度に優れ、熱伝導性に優れ、使用後の分別廃棄が不要である。本発明の凍結乾燥容器の製造方法によれば、この凍結乾燥容器を効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態例の凍結乾燥容器を示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態例の凍結乾燥容器の容器本体の上面図である。
【図3】本発明の一実施形態例の凍結乾燥容器の栓の上面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 凍結乾燥容器
11 容器本体
12 成形体
13、15、22 ガスバリア性フィルム
14 側壁部
16 底部
17 開口
18 下方端
21 栓
23 頭部
24 脚部
26 孔
27 再封止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結乾燥物が収容されるプラスチック製の容器本体と、該容器本体に嵌合されるプラスチック製の栓とを備えた凍結乾燥容器であって、
前記容器本体が、成形体とガスバリア性フィルムとで形成された側壁部と、少なくとも一部がガスバリア性フィルムのみからなるように、ガスバリア性フィルムで覆われた底部とからなり、
前記栓に、ガスバリア性フィルムが形成されていることを特徴とする凍結乾燥容器。
【請求項2】
前記側壁部のガスバリア性フィルム、前記底部のガスバリア性フィルム、前記栓のガスバリア性フィルムの少なくとも1つ以上が、アルミニウム箔積層フィルムである請求項1に記載の凍結乾燥容器。
【請求項3】
前記側壁部のガスバリア性フィルムが、透明フィルムである請求項1に記載の凍結乾燥容器。
【請求項4】
前記栓に、該栓に貫通させる注射針に密着し、該栓に空隙が生じないようにする再封止層が設けられている請求項1〜3のいずれかに記載の凍結乾燥容器。
【請求項5】
凍結乾燥物が収容されるプラスチック製の容器本体と、該容器本体に嵌合されるプラスチック製の栓とを備えた凍結乾燥容器の製造方法であって、
プラスチックから成形された成形体に、ガスバリア性フィルムを溶着して前記容器本体の側壁部を形成し、
該成形体の下方端にガスバリア性フィルムを溶着して前記容器本体の底部を形成し、
プラスチックから成形された前記栓にガスバリア性フィルムを溶着することを特徴とする凍結乾燥容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−189492(P2009−189492A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32080(P2008−32080)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000143880)株式会社細川洋行 (130)
【Fターム(参考)】