説明

凍結保存器具

【課題】卵や胚等の凍結保存器具において、卵や胚等を安全に凍結保存することができ、かつ凍結保存時の操作性を向上させる器具を提供する。
【解決手段】基端および先端を軸方向に備える柱状の本体部2と、該本体部の先端に設けられた保持部3と、該保持部を被包可能な筒状部材4とを備え、前記保持部は、卵子細胞、卵子、卵および胚からなる群より選ばれる少なくとも一つを保持し、前記本体部、保持部および筒状部材は液体窒素耐性材料からなる凍結保存器具1であって、前記筒状部材は、前記本体部に外嵌されており、前記保持部を露出させる第一の位置から、前記保持部を被包する第二の位置へ、前記本体部の軸方向に摺動可能な凍結保存器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の卵、胚等を凍結保存するために使用する凍結保存器具に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の卵や胚等の凍結保存は、遺伝資源の保存を可能とし、家畜の育種改良、絶滅危惧種の維持、さらには、ヒトの不妊治療においても有用である。
従来、哺乳動物の卵や胚等の凍結保存方法として、バイアルやストロー等の凍結保存用容器の内面に、卵や胚等をガラス化液で包被して貼り付け、凍結保存用容器を密封した後、液体窒素に接触させて急速に冷却する方法が知られている(特許文献1)。
しかし、このような凍結保存方法では、凍結保存容器の内面に、卵や胚等を貼り付ける作業が容易でないという課題があった。
【0003】
係る課題を解決するために、耐寒性材料により形成された本体部と、本体部の一端に取り付けられ、可撓性かつ透明性かつ液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップと、卵付着保持用ストリップを被包可能に本体部に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ耐寒性材料により形成された筒状部材4からなる卵凍結保存用具が考案されている(特許文献2)。
【0004】
特許文献2に記載の卵凍結保存用具は、卵付着保持用ストリップの先端部に卵を少量のガラス化液とともに付着させ、ストリップ部分を液体窒素に浸漬し凍結させた後に、筒状部材を本体部材に取り付け、収納容器(ケーン)に収納後、収納容器ごと液体窒素タンク内に入れて保存して、使用するものである。
【0005】
しかしながら、このような卵凍結保存用具では、本体部に筒状部材を取り付ける際に、筒状部材保持具で筒状部材を保持して本体部に取り付ける必要があるため、操作が容易ではなく、煩雑な物であった。また、筒状部材を本体部に取り付ける際に、卵付着保持用ストリップに付着した卵に筒状部材が当たるなどして、ストリップから卵を含む凍結液が剥離し、卵が喪失したり損傷する恐れもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−189155号公報
【特許文献2】特開2002−315573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような問題に鑑み、本発明は、卵や胚等の凍結保存器具であって、卵や胚等を安全に凍結保存することができ、かつ凍結保存時の操作性を向上することができる凍結保存器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の凍結保存器具は、基端および先端を軸方向に備える柱状の本体部と、該本体部の先端に設けられた保持部と、該保持部を被包可能な筒状部材とを備え、前記保持部は、卵子細胞、卵子、卵および胚からなる群より選ばれる少なくとも一つを保持し、前記本体部、保持部および筒状部材は液体窒素耐性材料からなる凍結保存器具であって、前記筒状部材は、前記本体部に外嵌されており、前記保持部を露出させる第一の位置から、前記保持部を被包する第二の位置へ、前記本体部の軸方向に摺動可能であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の凍結保存器具は、前記筒状部材の内面には係合突起が設けられ、前記本体部には第一被係合部が設けられ、前記第一の位置においては、該係合部と該第一被係合部が係合しており、前記係合が解除されることにより、前記筒状部材が摺動可能としても良い。
【0010】
さらに、本発明の凍結保存器具は、前記本体部には、前記第一被係合部より先端側に第二被係合部が設けられ、該第二被係合部は、前記第二の位置において、前記係合突起と契合するようにしても良い。
【0011】
また、本発明の凍結保存器具は、前記第二の位置にある前記筒状部材の軸方向への摺動を制限する固定機構を備えても良い。
【0012】
さらに、本発明の凍結保存器具は、前記固定機構は、前記係合突起と前記第二被係合部との係合からなり、前記第二被係合部は、前記本体部の外周の一部に溝状に設けられており、前記係合突起が、前記溝状に設けられた第二被係合部を周方向に回転することで、前記筒状部材の軸方向への摺動が制限されるようにしても良い。
【0013】
また、本発明の凍結保存器具は、前記第二の位置からさらに先端方向に摺動し、前記本体部から取り外し可能としても良い。
【0014】
また、本発明の凍結保存器具は、前記第二被係合部は、前記本体部の外周に溝状に設けられており、前記本体部の第二被係合部より先端側には、外周の一部に前記本体部の先端まで続く先端部摺動面が設けられており、前記係合突起が前記先端部摺動面に接する位置まで前記筒状部材が周方向に回転された状態で、前記係合突起と前記第二被係合部との係合が解除されることにより、前記筒状部材が、前記第二の位置からさらに先端方向に摺動可能としても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明の凍結保存器具は、摺動により簡単に保持部を筒状部材内に収納することでき、かつ、卵や胚等が喪失や損傷することなく凍結保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1にかかる凍結保存器具の筒状部材が第一の位置にある外観図である。
【図2】図1の凍結保存器具を本体部の軸を中心に周方向右に90度回転した時の中央断面図である。
【図3】図1の凍結保存器具の筒状部材が第二の位置にある中央断面図である。
【図4】図1の凍結保存器具の筒状部材が第二の位置から、周方向に回転された状態の中央断面図である。
【図5】図1の凍結保存器具の筒状部材が第二の位置から、さらに先端方向に摺動し、本体部から取り外された状態の中央断面図である。
【図6】本発明の実施例2にかかる凍結保存器具の筒状部材が第一の位置にある外観図である。
【図7】図6の凍結保存器具を本体部の軸を中心に周方向右に90度回転した時の中央断面図である。
【図8】図6の凍結保存器具の筒状部材が第二の位置にある中央断面図である。
【図9】図6の凍結保存器具の筒状部材が第二の位置から、周方向に回転された状態の中央断面図である。
【図10】図6の凍結保存器具の筒状部材が第二の位置から、さらに先端方向に摺動し、本体部から取り外された状態の中央断面図である。
【図11】本発明の実施例3にかかる凍結保存器具の筒状部材が第一の位置にある外観図である。
【図12】図11の凍結保存器具を本体部の軸を中心に周方向に90度回転したときの中央断面図である。
【図13】本発明の実施例3にかかる凍結保存器具の本体部のみの外観図である。
【図14】図11の凍結保存器具の筒状部材が第二の位置にある中央断面図である。
【図15】本発明の実施例3にかかる凍結保存器具の固定機構を示す拡大図である。
【図16】本発明の実施例3にかかる凍結保存器具の固定機構の別の態様を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0017】
1 凍結保存器具
2 本体部
21 把持部
211 凹凸部
22 被摺動部
221 第一被係合部
222 第二被係合部
2221 傾斜部
2222 固定凹部
223 第一の戻り防止突起
224 凸部
23 先端部
231 先端部摺動面
232 第二の戻り防止突起
3 保持部
31 孔
32 凹部
4 筒状部材
41 係合突起
411 固定凸部
42 リブ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の凍結保存器具を図面に示す実施例を用いて説明すると、図1〜図16に示すように、凍結保存器具1は、本体部2と、保持部3と、筒状部材4とを有する。また、本発明において先端方向とは、凍結保存器具1の軸方向における、保持部3に向かう方向、即ち、図1〜16の右から左に向かう方向を示している。一方、基端方向とは、凍結保存器具1の軸方向における、本体部2に向かう方向、即ち、図1〜16の左から右に向かう方向を示している。
【0019】
(実施例1)
以下本発明の実施例1にかかる凍結保存器具について図1〜図5を用いて説明する。
凍結保存器具1は、生体試料、主に哺乳動物の卵子細胞、卵子、卵、胚等を凍結保存するための器具である。後述する液体窒素に浸漬する操作をする際にも凍結保存器具を把持できるように、細長い柱状の形状となっている。
【0020】
本体部2は、把持部21と、被摺動部22とおよび先端部23とを有し、図2に示す様に、先端方向から先端部23、被摺動部22、把持部21の順に設けられている。把持部21、被摺動部22および先端部23はプラスチック材料により、一体に成形される。プラスチック材料としては、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリオレフィン(例えば、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、メタクリレート−スチレン共重合体、メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体)、ポリアミド(例えば、6ナイロン,66ナイロン)、ポリサルホン、フッ素樹脂、ポリイミド等の耐寒性樹脂が使用される。本発明の凍結保存器具1は、液体窒素に浸漬させて使用するものであるため、上記耐寒性樹脂の中でも、特に、凍結保存の際に使用される液体窒素の温度に耐え得るものが好ましい。
また、本体部2は、細長い柱状の形状となっており、本実施例で示す様な円柱状または、細長い平板状となっている。本体部2の長さとしては、保持部を液体窒素に浸漬しても手で把持できるように、5〜20cmの長さが好適である。また、本体部の幅としては、1〜10mm程度が好適である。そして、図2に示す様に、先端部23の先端には保持部3が設けられており、被摺動部22および先端部23は筒状部材4を摺動可能に設けられている。
【0021】
把持部21は、筒状部材4が把持部21側に摺動して、本凍結保存器具1の基端側から抜け落ちない様に、筒状部材4の内径より大きい径であることが望ましい。また、把持部21には、操作(特に、筒状部材4の摺動操作)に際して、把持している手が滑らない様に凹凸部211が設けられていることが好ましい。この場合、凹凸部211は、把持部21の円周に複数設けられている。また、別の好ましい態様としては、把持部21に患者名等の患者情報記入できる様な平らな面を設けることも考えられる。この場合、平らな面を設けるために、把持部21のみ角柱状に設ける様にしても良い。
【0022】
被摺動部22は、筒状部材4が摺動できるように、筒状部材の内径と等しいかまたは筒状部材の内径よりも小さい径となっている。被摺動部22には、図2で示す保持部3を露出する第一の位置で、筒状部材4の係合突起41と係合する第一被係合部221と、図3で示す保持部3を被包する第二の位置で、筒状部材4の係合突起41と係合する第二被係合部222とを備える。第一被係合部221は、第二被係合部222よりも基端側に設けられている。第二被係合部222は、図3に示す様に、第二被係合部222より基端側の被摺動部および先端部23よりも、細径とされている細径部として、本体部の全周または周上の一部に設けるのが好ましい。このような構成により、第二の位置まで摺動した筒状部材4が、その後図4に示す位置まで周方向に回転される際に、筒状部材4の係合突起41が第二被係合部222に沿うことにより、第二の位置から軸方向にずれない様に、筒状部材4を回転することができる。また、被摺動部22には、第二の位置へ摺動した筒状部材4が再度第一の位置へ摺動しないように、第一の戻り防止突起223を設けても良い。戻り防止突起223は、被摺動部22の全周に亘って設けても良いし、周の一部に設けても良い。
【0023】
先端部23は、上記被摺動部22に設けられた第二被係合部222よりも先端側の本体部2を示している。先端部23は、先端に保持部3が設けられており、かつ、筒状部材4が摺動可能な様に、筒状部材の内径と等しいかまたは筒状部材の内径よりも小さい径となっている。先端部23には、図4および図5に示す様に、第二の位置から回転された筒状部材4が、さらに先端方向に摺動するために、先端部摺動面231が設けられているのが好ましい。この場合、第二の位置からさらに先端に摺動した筒状部材4が、基端方向に戻らないように、第二の戻り防止突起232が設けられても良い。また、別の好ましい態様としては、本実施例3の図12〜図14で示す様に、筒状部材4が先端部へ摺動できないように、先端部被摺動面を設けないことも考えられる。
【0024】
保持部3は、卵付着作業を容易にするために、可撓性かつ無色透明な平坦フィルム状のものが好ましく用いられ、本実施例では、細長い平坦フィルム状のものを用いている。また、保持部3は、卵付着作業をより容易にするために、図1に示す様に、孔31を設けても良いし、図11および図12に示す様にフィルムに凹部32を設ける様にしても良い。また、単に平坦に設けたフィルム状とすることも可能である。保持部3の露出する部分の長さは、10〜30mm程度、幅0.5〜2.0mm程度、厚さが0.01〜0.4mm程度、孔又は凹部の大きさは直径0.1〜2mm程度の円または楕円のものが用いられる。また、本実施例では、保持部として孔を一つ設けているが、複数設ける様にしても良い。そして、保持部3は、基端側が、上述した本体部2の先端部23に設けられている。保持部3を本体部2の先端部23に設ける方法としては、保持部3の基端側と上述した本体部2の先端部23とを接着剤により固着する方法や本体部2と保持部3とを一体成形する方法などが考えられる。保持部3の形成材料としては、例えば、環状ポリオレフィン、3−フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの合成樹脂からなるフィルムあるいはそれらの積層体が挙げられる。特に、液体窒素耐性材料、言い換えれば、液体窒素に接触しても脆化しないものが使用される。
【0025】
筒状部材4は、本体部2に沿って摺動可能となるように、被摺動部22および先端部23に外嵌されている。筒状部材4の内径は、被摺動部22より先端側に摺動可能に、被摺動部22および先端部23の外径よりも大きくなっており、被摺動部22より基端側に摺動しないように、把持部21の外径よりは小さくなっている。また、筒状部材4は、保持部3に接触することなく被包できる内径および長さを備えている。筒状部材4には、前述した第一被係合部および第二被係合部と係合する係合突起41が設けられている。さらに、筒状部材4の基端側には摺動の際に筒状部材を手やピンセット等で保持しやすい様にリブ42が設けられていてもよい。筒状部材4の形成材料としては、例えば、3−フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの合成樹脂からなるフィルムあるいはそれらの積層体が挙げられる。特に、液体窒素耐性材料、言い換えれば、液体窒素に接触しても脆化しないものが好ましい。
【0026】
次に、本発明の実施例1にかかる凍結保存器具1の使用方法について、卵を凍結保存する場合を例に説明する。まず、ピペットの先端に卵を採取し、卵の細胞内液を平衡液に置換する作業を行い、さらに、細胞外液をガラス化液に置換する作業を行う。そして、図2に示す筒状部材4が第一の位置にある本発明の凍結保存器具1を用意し、把持部21を操作者の手で把持しながら顕微鏡下において、本発明の卵凍結保存用具1の保持部3の孔31に卵を少量のガラス化液とともに付着させる(ガラス化液の表面張力により、卵と共に孔31に保持される)。この時、筒状部材4の係合突起41および被摺動部22の第一被係合部221の係合により、筒状部材4は、本体部2に対して、前後方向(先端方向および基端方向)へ動かない様に固定されている。
【0027】
その後、卵が付着した保持部3をあらかじめ準備しておいた液体窒素に、把持部21を把持したまま、浸漬し凍結(ガラス化)させる。保持部3を液体窒素に浸漬した状態(本体部2および筒状部材4の基端側は液体窒素外に出ている状態)で、例えばピンセット等で筒状部材4のリブ42を保持し、筒状部材4を図3に示す第二の位置まで先端方向に摺動させることにより、卵が保持された保持部3を筒状部材4の内部に収納する。第二の位置において、筒状部材4および本体部2は、係合突起41と第一被係合部の係合により、筒状部材4が先端方向に動かない様に固定される。また、この時、被摺動部22に設けられた第一の戻り防止突起223により、筒状部材4が基端方向にも動かない様に固定されている。この後、保存容器(図示せず)内に、ガラス化した卵を付着保持する凍結保存器具1を収納した後、保存容器を液体窒素タンク内に入れ保存する。
【0028】
また、保存された卵を融解する時には、液体窒素タンク内に保存された保存容器を取り出し、保存容器から凍結保存器具1を取り出す。取り出した凍結保存器具1の筒状部材4を図4に示す位置まで周方向に回転する。その後、筒状部材4を先端方向に押圧することにより、図5に示す様に筒状部材4が、本体部2および保持部3から脱離された状態となる。筒状部材4を先端方向に押圧する際、先端部23に設けられた第二の戻り防止突起先端部232により、誤って筒状部材4を基端方向に摺動するのを防いでいる。その後、卵が付着している保持部3を融解することにより、凍結保存した卵が利用可能となる。
このように、本発明の実施例1にかかる凍結保存器具1は、筒状部材4が被摺動部22または先端部23に沿って摺動するため、筒状部材4が保持部3に接触することなく、保持部3の収納や本体部からの取り外しが可能となり、卵を喪失したり、損傷する恐れがなくなる。
【0029】
(実施例2)
以下本発明の実施例2にかかる凍結保存器具について図6〜図10を用いて説明する。実施例1と共通する部材については、実施例1と同じ符号を施している。
実施例2にかかる凍結保存器具1は、実施例1と同様に、本体部2は、把持部21と、被摺動部22とおよび先端部23とを有し、図7に示す様に、先端方向から先端部23、被摺動部22、把持部21の順に設けられている。実施例1と比較し、把持部21が短く
、被摺動部22が長く設けられている。また、実施例1と同様に、把持部21には凹凸部211が、被摺動部22には第一被係合部221、第二被係合部222および第一の戻り防止突起223が、先端部23には先端部摺動面231および第二の戻り防止突起232が設けられている。
【0030】
また、実施例2にかかる凍結保存器具1は、実施例1と同様に、保持部3および筒状部材4を有している。実施例1と比較し、筒状部材4が長い構成となっている。また、実施例1と同様に、保持部3には孔31が、筒状部材4には係合突起41およびリブ42が設けられており、係合突起41は被摺動部22の第一被係合部221および第二被係合部222と係合するように設けられている。
【0031】
次に、本発明の実施例2にかかる凍結保存器具1の使用方法について、卵を凍結保存する場合を例に説明する。卵を採取し、保持部3の孔31にガラス化液とともに付着させる工程までは、実施例1と同様である。
【0032】
その後、卵が付着した保持部3をあらかじめ準備しておいた液体窒素に、把持部21を操作者の手(例えば、右手)で把持したまま、浸漬し凍結(ガラス化)させる。保持部3を液体窒素に浸漬した状態(本体部2および筒状部材4の基端側は液体窒素外に出ている状態)で、操作者の反対の手(例えば、左手)で筒状部材4のリブ42を保持し、筒状部材4を図3に示す第二の位置まで先端方向に摺動させることにより、卵が保持された保持部3を筒状部材4の内部に収納する。このような方法すなわち、液体窒素外に出ている本体部2および筒状部材4の基端側を素手で摺動させることで、筒状部材4の内部に保持部3を収納できるため、本発明の実施例2にかかる凍結保存器具1では、簡単な操作により、卵の凍結保存が可能となる。また、ピンセットを用いる場合には、筒状部材4のリブ42の凹凸にピンセットを引っかけることにより、ピンセットが滑ることなく摺動操作が可能となる。以降、保存工程や卵の融解工程については、実施例1と同様である。このような方法により、卵の凍結保存および凍結保存した卵の利用が可能となる。
本発明の実施例2にかかる凍結保存器具1においても、筒状部材4が被摺動部22または先端部23に沿って摺動するため、筒状部材4が保持部3に接触することなく、保持部3の収納や本体部からの取り外しが可能となり、卵を喪失したり、損傷する恐れがなくなる。
【0033】
(実施例3)
以下本発明の実施例3にかかる凍結保存器具について図11〜図16を用いて説明する。実施例1と共通する部材については、実施例1と同じ符号を施している。
実施例3にかかる凍結保存器具1においては、本体部2は、把持部21と、被摺動部22とおよび先端部23とを有し、図13に示す様に、先端方向から先端部23、被摺動部22、把持部21の順に設けられている。本実施例の本体部は、実施例1と比較し、把持部21が短く、被摺動部22が長く設けられている。また、実施例2と同様に、把持部21には凹凸部211が、被摺動部22には第一被係合部221、第二被係合部222および凸部224が設けられている。しかし、本実施例にかかる先端部23は、実施例1および2と異なり、筒状部材4が摺動できないようになっている。さらに、図13に示す様に、本実施例の第二被係合部222は、本体部2の外周の一部に溝状に設けられており、形状としては、図14に示す様に傾斜部2221を設けても良いし、図15に示す様に固定凹部(図15では、半円状の形状)を設ける様な形状としても良い。また、本実施例の第二被係合部222の基端側には筒状部4の係合突起41が乗り越えて本体部2の軸方向前後に摺動可能な凸部224が設けられている。
【0034】
また、実施例3にかかる凍結保存器具1は、実施例1および2と同様に、保持部3および筒状部材4を有している。本実施例の筒状部材4は、実施例1と比較し、長い構成となっている。また、図11に示す様に、本実施例では実施例1および2と異なり、保持部3に凹部32が複数設けけられているが、実施例1および2と同様に孔を設けても良いし、単に平坦なフィルム状としても良い。さらに、実施例2と同様に、筒状部材4には係合突起41およびリブ42が設けられており、係合突起41は被摺動部22の第一被係合部221および第二被係合部222と係合するように設けられている。本実施例の係合突起41には、図16に示す様に、固定凸部411を設ける様にしても良い。
【0035】
次に、本発明の実施例3にかかる凍結保存器具1の使用方法について、卵を凍結保存する場合を例に説明する。卵を採取し、保持部3の凹部32にガラス化液とともに付着させる工程までは、実施例1および2と同様である。
【0036】
その後、卵が付着した保持部3をあらかじめ準備しておいた液体窒素に、把持部21を操作者の手(例えば、右手)で把持したまま、浸漬し凍結(ガラス化)させる。保持部3を液体窒素に浸漬した状態(本体部2および筒状部材4の基端側は液体窒素外に出ている状態)で、操作者の反対の手(例えば、左手)で筒状部材4のリブ42を保持し、筒状部材4を図14に示す第二の位置まで先端方向に摺動させることにより、卵が保持された保持部3を筒状部材4の内部に収納する。このような方法すなわち、液体窒素外に出ている本体部2および筒状部材4の基端側を素手で摺動させることで、筒状部材4の内部に保持部3を収納できるため、本発明の実施例3にかかる凍結保存器具1では、簡単な操作により、卵の凍結保存が可能となる。また、ピンセットを用いる場合には、筒状部材4のリブ42の凹凸にピンセットを引っかけることにより、ピンセットが滑ることなく摺動操作が可能となる。また、本発明の実施例3にかかる凍結保存器具では、この後、筒状部材4を本体部2に対して周方向(図15の下から上方向)に回転させることにより、図15に示す様に、係合突起41と第二被係合部222の傾斜部2221との係合からなる固定機構が働き、係合突起41を備える筒状部材4の軸方向への摺動が不可能となる。固定機構としては、図16に示す様に、係合突起41に設けた固定凸部411と第二被係合部222に設けた固定凹部2222との係合としても良く、この場合は、周方向に筒状部材4を回転させると、固定凸部411と固定凹部2222とが係合し、筒状部材4の軸方向への摺動が不可能となる。このように、筒状部材4の軸方向への摺動が制限されるため、以降の工程で不意に筒状部材4が基端側に戻ることにより付着した卵が落下するなどの自体を避けることができる。
以降、保存工程や卵の融解工程については、実施例1と同様である。このような方法により、卵の凍結保存および凍結保存した卵の利用が可能となる。
【0037】
その後、本発明の実施例3にかかる凍結保存器具では、筒状部材4を凍結保存時とは逆方向(図15の上方向から下方向)に回転させることにより、固定機構が解除され、筒状部材4は軸方向への摺動が可能となる。この状態で、基端方向に筒状部材4を引くことで、凸部224を乗り越えて、第一被係合部まで戻り、再び保持部3が露出した第一の位置へと戻る。そして、保持部3から凍結保存した卵を取り出すことが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端および先端を軸方向に備える柱状の本体部と、該本体部の先端に設けられた保持部と、該保持部を被包可能な筒状部材とを備え、前記保持部は、卵子細胞、卵子、卵および胚からなる群より選ばれる少なくとも一つを保持し、前記本体部、保持部および筒状部材は液体窒素耐性材料からなる凍結保存器具であって、
前記筒状部材は、前記本体部に外嵌されており、前記保持部を露出させる第一の位置から、前記保持部を被包する第二の位置へ、前記本体部の軸方向に摺動可能であることを特徴とする凍結保存器具。
【請求項2】
前記筒状部材の内面には係合突起が設けられ、前記本体部には第一被係合部が設けられ、前記第一の位置においては、該係合部と該第一被係合部が係合しており、前記係合が解除されることにより、前記筒状部材が摺動可能となる請求項1記載の凍結保存器具。
【請求項3】
前記本体部には、前記第一被係合部より先端側に第二被係合部が設けられ、該第二被係合部は、前記第二の位置において、前記係合突起と係合する請求項2記載の凍結保存器具。
【請求項4】
前記第二の位置にある前記筒状部材の軸方向への摺動を制限する固定機構を備えることを特徴とする請求項3記載の凍結保存器具。
【請求項5】
前記固定機構は、前記係合突起と前記第二被係合部との係合からなり、
前記第二被係合部は、前記本体部の外周の一部に溝状に設けられており、
前記係合突起が、前記溝状に設けられた第二被係合部を周方向に回転することで、前記筒状部材の軸方向への摺動が制限されることを特徴とする請求項4記載の凍結保存器具。
【請求項6】
前記筒状部材は、前記第二の位置からさらに先端方向に摺動し、前記本体部から取り外し可能である請求項3記載の凍結保存器具。
【請求項7】
前記第二被係合部は、前記本体部の外周に溝状に設けられており、
前記本体部の第二被係合部より先端側には、外周の一部に前記本体部の先端まで続く先端部摺動面が設けられており、
前記係合突起が前記先端部摺動面に接する位置まで前記筒状部材が周方向に回転された状態で、前記係合突起と前記第二被係合部との係合が解除されることにより、前記筒状部材が、前記第二の位置からさらに先端方向に摺動可能となる請求項6記載の凍結保存器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−140422(P2012−140422A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277742(P2011−277742)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】