説明

凍結融解耐久性に優れた燃料電池用スタック

【課題】燃料電池用スタックに反応気体の水素及び空気(酸素)を供給する場合、電気化学反応の生成物である水が氷点下条件で結氷することを減少させるために、燃料電池セル内の接触抵抗が低減するように設計された燃料電池用スタックを提供する。
【解決手段】本発明は、膜−電極接合体と分離板との間に気体拡散層を含む燃料電池用スタックであって、前記気体拡散層を燃料電池セル内部の接触抵抗を低減して生成水の結氷を減少させる構造に形成し、気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向が平行しないように裁断形成して、分離板の主流路を横切る気体拡散層の横方向の剛性を増加させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結融解耐久性に優れた燃料電池用スタックに係り、より詳しくは、燃料電池用スタックに反応気体である水素及び空気(酸素)を供給する場合、電気化学反応の生成物である水が氷点下で結氷することを防ぐために燃料電池セル内の接触抵抗を低減するように設計された燃料電池用スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車用燃料電池として高分子電解質膜燃料電池(PEMFC:Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell)が広範囲に適用されており、この高分子電解質膜燃料電池の単位セル(Cell)を数百枚積層してスタック(Stack)を製作した後、これを車両に搭載して様々な運転条件下で少なくとも数十kW以上の高出力性能を正常に発揮させるためには、広い電流密度範囲で安定して作動することが要求される(非特許文献1)。
【0003】
上記燃料電池の電気生成反応は、以下の通りである。即ち、燃料電池の高分子電解質の膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)内の酸化極であるアノード(Anode)に供給された水素が水素イオンと電子に分離された後、水素イオンは高分子電解質膜により還元極であるカソード(Cathode)側に移動し、電子は外部回路を介してカソードに移動し、上記カソードで酸素分子、水素イオン、及び電子が共に反応して電気と熱を生成すると同時に反応副産物の水を生成する。
燃料電池内の電気化学反応時に生成される水は、適切な量の存在下で、膜−電極接合体の加湿性を維持する好ましい役割をするが、過量の水が発生する場合、これを適切に除去しないと、高電流密度で「フラッディング(Flooding)」現象が発生し、このフラッディングされた水は、反応気体が効率的に燃料電池セル内に供給されることを妨げて電圧損失がさらに大きくなる。
【0004】
上記のように高分子電解質膜燃料電池では、水素と空気中酸素の電気化学反応により水が生成されるため、氷点下の低温から常温以上の温度範囲で凍結融解(Freeze/Thaw)サイクルを繰り返す。これによって膜−電極接合体(MEA)及び気体拡散層などの燃料電池のセル部品及び部品間界面(Interface)の物理的破損が発生して電気化学的性能及び耐久性が低下する恐れがある(非特許文献2〜非特許文献6)。
したがって、水素燃料電池自動車を安定して駆動させるためには、このような凍結融解サイクル条件下で燃料電池用スタックの耐久性を向上させることが必須である。
【0005】
従来、燃料電池の凍結融解耐久性を向上させるために、燃料電池の冷却ライン構造を最適化して凍結融解サイクルを低減することにより耐久性を向上させる技術(特許文献1)、燃料電池の運転制御方法を最適化して氷点下での始動性(Freeze Start Capability)を向上させる技術(特許文献2及び特許文献3)、または氷点下の氷を熱を用いて除去して燃料電池を運転する方法(特許文献4)などの様々な試みがあったが、このような方法は適用が困難であり、その効果も制約があるため、水素燃料電池自動車の量産のためにはより簡便で、凍結融解耐久性をさらに向上できる新しい技術開発が要求されている。
【0006】
最近、燃料電池の商業化に伴って、燃料電池内の水管理の核心部品である気体拡散層に関する多くの研究開発が行われている。
以下に、燃料電池を構成する気体拡散層の機能をより詳細に説明する。
上記気体拡散層は、燃料電池のMEA内のアノード及びカソードの2つの触媒層の外表面に接着され、反応気体の水素及び空気(酸素)の供給、電気化学反応により生成された電子の移動、反応生成水を排出させて燃料電池セル内のフラッディング現象を最小化させるなどの様々な機能を有する。
現在、商業化された気体拡散層は、水銀圧入法(Mercury Intrusion)で測定する場合、通常、気孔大きさ1μm未満のミクロ気孔層(MPL:Micro−Porous Layer)と、1〜300μm大きさのマクロ気孔支持体(Macro−Porous SubstrateまたはBacking)との二重の層構造(Dual Layer Structure)で構成される(非特許文献7)。
【0007】
上記気体拡散層のミクロ気孔層は、アセチレンブラックカーボン(Acetylene Black Carbon)、ブラックパールカーボン(Black Pearls Carbon)などの炭素粉末とポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)またはフッ素化エチレンプロピレン(FEP:Fluorinated Ethylene Propylene)系の疏水性物質(Hydrophobic Agent)を混合して製造した後、用途に応じてマクロ気孔支持体の一面または両面に塗布される。
一方、上記気体拡散層のマクロ気孔支持体は、通常、炭素繊維及びポリテトラフルオロエチレンまたはフッ素化エチレンプロピレン系の疏水性物質で構成されるが、大きく分けて、炭素繊維布(Cloth)、炭素繊維フェルト(Felt)、及び炭素繊維紙(Paper)などが用いられる(非特許文献8及び非特許文献9)。
【0008】
このような燃料電池用気体拡散層は、輸送用、携帯用、家庭用などの詳細適用分野及び燃料電池の運転条件に応じて適切にその性能を発揮するように構造設計されるが、通常、燃料電池自動車用としては、反応気体の供給性及び生成水の排出性、スタック締結時の圧縮性/ハンドリング性(Handling Property)などの様々な物性に優れた炭素繊維フェルトや炭素繊維紙型気体拡散層が炭素繊維布に比してさらに好ましい。
また、上記気体拡散層は、厚さ、気体透過度(Gas Permeability)、圧縮度(Compressibility)、ミクロ気孔層とマクロ気孔支持体の疏水性(Hydrophobicity)の処理程度、炭素繊維の構造、気孔度/気孔分布、気孔ねじれ度(Tortuosity)、電気抵抗及び曲げ剛性(Bending Stiffness)など、複雑で様々な構造の差により燃料電池の性能に大きく影響を及ぼし、特に物質伝達領域で性能の差が大きいとされている(特許文献5、非特許文献10〜非特許文献12)。
【0009】
気体拡散層は、燃料電池内で優れた性能を発揮するために、また、燃料電池用スタックに数百枚のセルを組み立てる場合に優れたハンドリング性を付与するために、適正水準の剛性(Stiffness)を有する必要がある。気体拡散層の剛性が原反ロール(Roll)の方向に向かって大きすぎる場合、ロール状に巻回して保管することが困難であるため、生産性が低下する恐れがある。
また、既存の報告では、気体拡散層の剛性が燃料電池内で足りない場合、図1に示すように、燃料電池セルの締結時、気体拡散層106が分離板(SeparatorまたはBipolar Plate)200のチャネル(Flow Field Channel)202に侵入する現象(GDL Intrusion)が発生する(非特許文献13〜非特許文献15、特許文献6及び特許文献7)。
【0010】
このように気体拡散層106が分離板のチャネル202に浸透する現象が発生すると、反応気体及び生成水などの物質伝達に必要なチャネル空間が不足することになり、気体拡散層106と分離板200のリーブ(Rib)またはランド(Land)204及び高分子電解質の膜−電極接合体100との接触抵抗が増加して燃料電池セルの性能低下の原因になる。
特に、セル内の接触抵抗が増加する場合、気体拡散層/高分子電解質の膜−電極接合体または気体拡散層/分離板の間の界面を適切に維持することができないため、不要な空間が生成されることがあるが、凍結融解の条件下で、このような空いた空間で燃料電池の生成水が凍結して氷を形成する恐れがある。
【0011】
このように氷が生成される場合、繰り返す凍結融解サイクルの条件下で、燃料電池セル内の各部品及び部品間の界面を破損させることがある。したがって、燃料電池の耐久性を向上させるためにはセル内の部品界面に空いた空間が生成されないように、良好に接触させて接触抵抗を低減する必要がある。
通常、燃料電池用分離板は、主流路(Major Flow Field)及び副流路(Minor Flow Field)で構成されるが、気体拡散層が主流路方向のチャネル側に侵入できないようにすることが必要であり、このようにするためには分離板の主流路方向と平行な長手(L:Length)方向と垂直に横切る幅(W:Width)方向のうち、特に幅方向に配列される気体拡散層の剛性を増加させることが重要である。しかし、図1に示すように、分離板の主流路の幅方向に剛性の低い気体拡散層が配列される場合、分離板の主流路チャネルへの気体拡散層の浸透現象は激しくなり、セル内の界面剥離が増加して氷点下の低温で氷が生成される空間が増加するため、燃料電池の凍結融解耐久性を低下させる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国特許0802749(2008)
【特許文献2】米国特許20100143813(2010)
【特許文献3】米国特許20080102326(2008)
【特許文献4】米国特許20080241608(2008)
【特許文献5】日本特許JP3331703B2
【特許文献6】M.F.Mathias, J.Roth, and M.K.Budinski、米国特許7,455,928 B2
【特許文献7】T.Kawashima, T.Osumi, M.Teranishi, and T.Sukawa、米国特許2008/0113243 A1
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S.Park, J.Lee, and B.N.Popov, J.Power Sources, 177, 457 (2008)
【非特許文献2】Q.Guo and Z.Qi, J.Power Sources, 160, 1269 (2006)
【非特許文献3】C.Lee and W.Merida, J.Power Sources, 164, 141 (2007)
【非特許文献4】S.Kim, B.K.Ahn, and M.M.Mench, J.Power Sources, 179, 140 (2008)
【非特許文献5】S.J.Lim, G.G.Park, J.S.Park, Y.J.Sohn, S.D.Yim, T.H.Yang, B.K.Hong, and C.S.Kim, Int.J.Hydrogen Energy, 35, 13111 (2010)
【非特許文献6】M.Luo, C.Huang, W.Liu, Z.Luo, and M.Pan, Int.J.Hydrogen Energy, 35, 2986 (2010)
【非特許文献7】X.L.Wang, H.M.Zhang, J.L.Zhang, H.F.Xu, Z.Q.Tian, J.Chen, H.X.Zhong, Y.M.Liang, and B.L.Yi, Electrochimica Acta, 51, 4909 (2006)
【非特許文献8】S.Escribano, J.Blachot, J.Etheve, A.Morin, and R.Mosdale, J.Power Sources, 156, 8 (2006)
【非特許文献9】M.F.Mathias, J.Roth, J.Fleming, and W.Lehnert, Handbook of Fuel Cells−Fundamentals, Technology and Applications, Vol.3, Ch.42, John Wiley & Sons (2003)
【非特許文献10】D.H.Ahmed, H.J.Sung, and J.Bae, Int.J.Hydrogen Energy, 33, 3767 (2008)
【非特許文献11】Y.Wang, C.Y.Wang, and K.S.Chen, Electrochim.Acta, 52, 3965 (2007)
【非特許文献12】C.J.Bapat and S.T.Thynell, J.Power Sources, 185, 428 (2008)
【非特許文献13】Iwao Nitta, Tero Hottinen, Olli Himanen, and Mikko Mikkola, J.Power Sources, 171, 26 (2007)
【非特許文献14】Yeh−Hung Lai, Pinkhas A.Rapaport, Chunxin Ji, and Vinod Kumar, J.Power Sources, 184, 120 (2008)
【非特許文献15】J.Kleemann, F.Finsterwalder, and W.Tillmetz, J.Power Sources, 190, 92 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の問題点を改善して燃料電池自動車用スタックの凍結融解耐久性を増加させるためになされたもので、従来のスタック生産工程を、そのまま利用し、単に燃料電池セルに適するシート(Sheet)の大きさに気体拡散層を裁断(Cutting)する方式だけを最適化して製造する。具体的には、気体拡散層の分離板チャネルへの浸透を最小にするために気体拡散層のロール原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向が平行しないように裁断して主流路を横切る横方向の気体拡散層の剛性を増加させた気体拡散層を適用することにより、燃料電池セル内の接触抵抗を低減して凍結融解耐久性を向上させた燃料電池用スタックを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、膜−電極接合体と分離板との間に気体拡散層を含む燃料電池用スタックであって、前記気体拡散層を燃料電池セル内部の接触抵抗を低減して生成水の結氷を減少させる構造に形成し、気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向が平行しないように裁断形成して、分離板の主流路を横切る気体拡散層の横方向の剛性を増加させることを特徴とする。
【0016】
前記気体拡散層は、気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向がなす角度が0°<θ≦90°となるように裁断して製造されることを特徴とする。
【0017】
前記気体拡散層は気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向がなす角度が25°<θ≦90°となるように裁断して製造される気体拡散層を適用することを特徴とする。
【0018】
前記気体拡散層は、気体拡散層のロール原反長手方向(高剛性方向)のテーバー曲げ剛性(Taber Bending Stiffness)が20〜150gf・cmであることを特徴とする。
【0019】
前記気体拡散層は、気体拡散層のロール原反長手方向(高剛性方向)のテーバー曲げ剛性(Taber Bending Stiffness)が50〜100gf・cmであることを特徴とする。
【0020】
前記気体拡散層は、膜−電極接合体の各電極外表面に接合されるミクロ気孔層と、分離板の流路に接するマクロ気孔支持体と、で構成され、マクロ気孔支持体は、炭素繊維フェルトまたは炭素繊維紙のうち何れか1つでまたは2つを混合して構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、燃料電池の凍結融解サイクルの条件下で、セル内の接触抵抗を最小にできる構造の気体拡散層を適用し、気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向が平行しないように裁断された気体拡散層を採択することにより、分離板の主流路を横切る気体拡散層の横方向の剛性が増加でき、燃料電池セル内部に氷の生成を低減して凍結融解耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】燃料電池セルの締結時、分離板のランド圧縮により、従来のスタック内の気体拡散層が分離板の主流路チャネル部位に浸透(Intrusion)する現象を示す概略図である。
【図2】従来の気体拡散層の原反ロールにおける気体拡散層のシート裁断方式(0°GDL)と、本発明の気体拡散層のシート裁断方式(90°GDL)と、を対比する概略図である。
【図3】(a)は、従来の0°GDLを適用したスタック内の気体拡散層の高剛性MD方向と分離板の主流路方向の配列図、(b)は、本発明の90°GDLを適用したスタック内の気体拡散層の高剛性MD方向と分離板の主流路方向の配列図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例に使用された気体拡散層のマクロ気孔支持体のSEM表面写真(500倍率)である。
【図5】従来の0°GDLを適用したスタックと本発明の90°GDLを適用したスタックの凍結融解サイクルと、1000サイクル終了後の電気化学的性能と、を示すグラフである。
【図6】従来の0°GDLを適用したスタックと本発明の90°GDLを適用したスタックの凍結融解サイクル回数による電気化学的性能の低下を示すグラフである((a)800mA/cm、(b)1400mA/cm)。
【図7】従来の0°GDLを適用したスタックと本発明の90°GDLを適用したスタックの凍結融解サイクルと、1000サイクル終了後の高周波数抵抗値を示すグラフである。
【図8】従来の0°GDLを適用したスタックと本発明の90°GDLを適用したスタックの凍結融解サイクル回数による高周波数抵抗値の増加を示すグラフである((a)800mA/cm、(b)1400mA/cm)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明は、燃料電池の凍結融解サイクル条件下で、セル内の接触抵抗を最小にできる構造の気体拡散層を適用することにより、燃料電池セル内部の氷の生成を低減させるとともに凍結融解耐久性を増加させた燃料電池用スタックを提供する。
燃料電池内の接触抵抗を減少させるためには、気体拡散層の固有の異方性(Anisotropy)を利用することができる。
具体的には、燃料電池自動車に多く用いられる炭素繊維フェルトまたは炭素繊維紙を支持体とする気体拡散層は、通常の製造工程上、ライン方向(MD:Machine Direction)に炭素繊維がさらに多く配向されるため、ラインと直角な方向(CMD:Cross−Machine DirectionまたはTD:Transverse Direction)に比して曲げ剛性や引張強度(Tensile Stress)などの機械的物性が大きい。
【0024】
したがって、生産された気体拡散層のロール(Roll)に巻回された原反のライン方向である長手方向が高剛性方向(HSD:High Stiffness Direction)であり、ライン方向に直角な幅方向が低剛性方向(LSD:Low Stiffness Direction)であることが一般的である。
本発明の燃料電池用スタックには、気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向のなす角度が0°<θ≦90°で、さらに好ましくは25°<θ≦90°となるように裁断して製造される気体拡散層を用いる。
【0025】
より詳しくは、図3の(a)に示すように、従来は、気体拡散層の原反を裁断する時、気体拡散層の高剛性方向が分離板の主流路方向と平行な方向に裁断されたが、本発明では、図3の(b)に示すように、気体拡散層の高剛性方向が分離板の主流路方向と平行でないように裁断されることにより、分離板の主流路を横切る幅(W)方向への気体拡散層の剛性を増加させることができる。
この時、燃料電池用スタックの凍結融解性を増加させるために、気体拡散層の裁断時、気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向がなす角度を90°にして裁断することは一実施例であり、30°、45°、60°など多様な角度で裁断してもよい。
【0026】
これによって、気体拡散層が分離板の流路チャネル部位に浸透する現象を防止すると共に、気体拡散層/高分子電解質の膜−電極接合体または気体拡散層/分離板の間の界面間に氷が凍結する不要な空間の生成を防止できるため、燃料電池用スタックの凍結融解耐久性を向上させることができる。
一方、上記気体拡散層のロール原反長手方向(高剛性方向)のテーバー曲げ剛性(Taber Bending Stiffness)は20〜150gf・cmであり、さらに好ましくは50〜100gf・cmである。その理由は20gf・cm未満であれば剛性が小さすぎて燃料電池自動車用気体拡散層として長期間使用することが困難であり、150gf・cmを超えると、気体拡散層が非常に固くなってロール状に巻回して保管しにくいため、量産性が低下するからである。
また、本発明によるスタックに装着される気体拡散層のマクロ気孔支持体は、炭素繊維フェルトまたは炭素繊維紙のうち何れか1つでまたは2つを混合して構成される。
【0027】
このように気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向が平行しないようにし、気体拡散層のマクロ気孔支持体として炭素繊維フェルトまたは炭素繊維紙などを用いることにより、燃料電池セル内部の接触抵抗を低減してセル内の部品間の界面を良好に維持して氷の生成を最小にすることができる。
すなわち、気体拡散層と分離板のリブ(Rib)またはランド(Land)及び高分子電解質の膜−電極接合体との接触抵抗を低減して接触抵抗の増加による燃料電池セルの性能低下が防止でき、気体拡散層/高分子電解質の膜−電極接合体または気体拡散層/分離板の間の界面を適切に維持して生成水が凍結する空間が生成されないため、凍結融解耐久性を向上させることができる。
【0028】
一方、本発明の実施例に用いられた炭素繊維フェルト型気体拡散層の基本特性は、(表1)に示す通りであり、マクロ気孔支持体は、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope、InspectTM、FEI Co.)を用いて500倍に拡大した図4に示すように、通常の炭素繊維フェルトで構成されており、炭素繊維が不規則に絡まって(Entangled)いることが分かる。
また、(表1)に記載した通り、気体拡散層の曲げ剛性は、テーバー曲げ剛性測定器(Taber Industries Stiffness Tester:150−E V−5 Model、Taber Industries、USA)を用いて曲げ角度15°でMD及びCMDごとにそれぞれ測定した結果、気体拡散層のロール原反長手方向(高剛性方向)のテーバー曲げ剛性がさらに大きいことが分かった。
【表1】

【0029】
ここで、本発明を実施例及び試験例により詳細に説明する。
実施例
本発明の実施例では、気体拡散層の原反の裁断に当たり、原反の高剛性方向が分離板の主流路方向と垂直(裁断角度90°)になるように裁断し、これを高分子電解質膜、触媒層、締結機構などの様々な部品と共にスタックに組み立てた。
比較例
比較例として気体拡散層の原反は、原反の高剛性方向が分離板の主流路方向と平行(裁断角度0°)になるように裁断し、これを実施例と同様にスタックに適用した。
試験例
実施例及び比較例による気体拡散層の電気化学的性能評価を実施した。
具体的には、実施例及び比較例による気体拡散層を有する燃料電池用スタックの電気化学的性能は、燃料電池5セルを基準として電圧−電流密度分極(Potential−Current Density Polarization)を測定して比較し、電気化学的性能測定器は、既に商用化された装備(5kW Test Station Model、Won−A Tech Co.、Korea)を用いた。
【0030】
この時、実施例及び比較例による気体拡散層を有する燃料電池用スタックの電気化学的性能測定時に用いた条件を以下に示す。
*燃料電池セルの入口温度=65℃
*水素アノード/空気カソードの相対湿度(RH:Relative Humidity)=50%/50%
*水素アノード/空気カソードの化学量論比(S.R.:Stoichiometric Ratio)=1.5/2.0
また、実施例及び比較例によるスタックに適用した凍結融解サイクル条件は、5セルスタックを温度調節が可能な環境チャンバー(Environmental Chamber)に入れて−25℃〜15℃条件下で1000サイクルまで凍結融解を繰り返し、各サイクルごとにスタックの電気化学的性能、高周波数の抵抗(HFR:High Frequency Resistance)などを測定して比較し、この時、測定されたスタックの高周波数抵抗値はセル内の接触抵抗を示す因子であって、この値が大きいほどセル内の部品間界面が破断されて接触が不良になることを示す。
【0031】
高周波数抵抗値は、既に商業化された装備(Galvanostat、Z# Navigator Model、Won−A Tech Co.、Korea)を用いて5A振幅(Amplitude)及び1kHz周波数の条件下で測定した。
このような実施例及び比較例による気体拡散層を有する燃料電池用スタックに対して電気化学的性能評価を行った結果を図5〜図8に示す。
本発明の実施例による気体拡散層を適用したスタックと、比較例による従来の気体拡散層を適用したスタックに対する凍結融解1000サイクル終了後の電気化学的性能を比較した結果、図5に示すように、実施例及び比較例のスタック両方とも凍結融解1000サイクル後に電気化学的性能が減少したが、本発明の気体拡散層が適用されたスタックは、従来の気体拡散層が適用されたスタックに比して凍結融解0サイクル及び1000サイクル後のスタックが両方とも優れた電気化学的性能を示し、かつ、性能減少速度もさらに低いことが分かった。
【0032】
凍結融解サイクル回数によるスタック間の電気化学的性能の低下速度を定量的に比較するために、燃料電池の運転条件中、中電流密度及び高電流密度の代表値としてそれぞれ800mA/cm及び1400mA/cmを選定し、この値のセル電圧値の低下を比較した。結果は、図6の(a)に示す通りで、電流密度が800mA/cmである場合、従来の気体拡散層を適用したスタックのセル電圧は約−38μV/cycleの速度で減少したが、本発明の実施例による気体拡散層を適用したスタックのセル電圧は約−27μV/cycleの速度で減少し、本発明のスタックセルの性能がさらに緩やかに低下することが分かった。
【0033】
また、図6の(b)に示すように、電流密度が1400mA/cmに増加する場合、セル性能の低下速度は増加するが、従来の気体拡散層を適用したスタックのセル電圧は約−109μV/cycleの速度で減少し、本発明の実施例による気体拡散層を適用したスタックのセル電圧は−66μV/cycleの速度で減少する。すなわち、高電流密度で相対的に本発明のスタックセル性能がさらに緩やかに低下することが分かった。
【0034】
次に、凍結融解サイクルによる燃料電池スタックセル内の接触抵抗の変化を比較した。比較例による従来のスタックと実施例による本発明のスタックに対する凍結融解1000サイクルの終了後、高周波数抵抗値を比較した結果、図7に示すように、従来及び本発明のスタックは両方とも凍結融解1000サイクル後に高周波数抵抗値が増加した。
しかし、本発明のスタックに対する高周波数抵抗値は、従来のスタックに比して凍結融解0サイクル及び1000サイクル後の値が両方とも低いことが分かり、これは従来のスタックに比して本発明のスタックセル内の部品間の接触状態が良好であるため、氷点下の低温で氷が部品界面の間に生成される確率が少なく、凍結融解によるセル破損が少ないことを意味する。
【0035】
凍結融解サイクルの回数によるスタック間の高周波数抵抗値の増加速度を定量的に測定して比較した結果、図8の(a)に示すように、電流密度が800mA/cmである場合、従来のスタックの高周波数抵抗値は約43μΩcm/cycleの速度で増加したが、本発明によるスタックの高周波数抵抗値は約34μΩcm/cycleの速度で増加して、本発明によるスタックの高周波数抵抗値がさらに緩やかに増加することが分かった。
また、図8の(b)に示すように、電流密度が1400mA/cmで増加する場合、高周波数抵抗値の増加速度は2つのスタックが両方とも増加し、従来のスタックの高周波数抵抗値は約50μΩcm/cycleの速度で増加したが、本発明によるスタックの高周波数抵抗値は約38μΩcm/cycleの速度で増加して、高電流密度で相対的に本発明によるスタックのセル性能がさらに緩やかに増加することが分かった。
【0036】
参考として、凍結融解1000サイクル後、燃料電池用スタックの電気化学的性能の減少速度と高周波数抵抗値の増加速度を(表2)に記載する。

【表2】

【0037】
以上、従来の気体拡散層(原反の高剛性方向が分離板の主流路方向と平行(裁断角度0°))が適用されたスタックに比して、本発明の気体拡散層(原反の高剛性方向が分離板の主流路方向と垂直(裁断角度90°))が適用されたスタックが、凍結融解サイクル時の電気化学的性能が高く、性能減少速度が低く、また、セル内の接触抵抗が小さく、抵抗増加速度も小さく、セル内の氷が形成される確率が低いため、優れた凍結融解耐久性を有することが分かった。
【符号の説明】
【0038】
100 MEA
106 気体拡散層
200 分離板
202 分離板チャネル
204 分離板ランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜−電極接合体と分離板との間に気体拡散層を含む燃料電池用スタックであって、
前記気体拡散層を燃料電池セル内部の接触抵抗を低減して生成水の結氷を減少させる構造に形成し、気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向が平行しないように裁断形成して、分離板の主流路を横切る気体拡散層の横方向の剛性を増加させることを特徴とする凍結融解耐久性に優れた燃料電池用スタック。
【請求項2】
前記気体拡散層は、気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向がなす角度が0°<θ≦90°となるように裁断して製造されることを特徴とする請求項1に記載の凍結融解耐久性に優れた燃料電池用スタック。
【請求項3】
前記気体拡散層は気体拡散層の原反固有の高剛性方向と分離板の主流路方向がなす角度が25°<θ≦90°となるように裁断して製造される気体拡散層を適用することを特徴とする請求項1に記載の凍結融解耐久性に優れた燃料電池用スタック。
【請求項4】
前記気体拡散層は、気体拡散層のロール原反長手方向(高剛性方向)のテーバー曲げ剛性(Taber Bending Stiffness)が20〜150gf・cmであることを特徴とする請求項1に記載の凍結融解耐久性に優れた燃料電池用スタック。
【請求項5】
前記気体拡散層は、気体拡散層のロール原反長手方向(高剛性方向)のテーバー曲げ剛性(Taber Bending Stiffness)が50〜100gf・cmであることを特徴とする請求項1に記載の凍結融解耐久性に優れた燃料電池用スタック。
【請求項6】
前記気体拡散層は、膜−電極接合体の各電極外表面に接合されるミクロ気孔層と、分離板の流路に接するマクロ気孔支持体と、で構成され、マクロ気孔支持体は、炭素繊維フェルトまたは炭素繊維紙のうち何れか1つでまたは2つを混合して構成されることを特徴とする請求項1に記載の凍結融解耐久性に優れた燃料電池用スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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