説明

凍結鋳型及びその造型方法

【課題】凍結鋳型の溶湯接触面において表面安定度の高い鋳型内面形成を可能として、高温で高粘性の溶湯に対しても焼き付きや砂削りが発生しない凍結鋳型及びその造型方法を提供する。
【解決手段】2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂を用いて鋳型6を成形し、溶融金属と接触する鋳型内面を凍結する凍結鋳型の造型方法において、水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層4を模型2の表面に塗付した後、該肌砂層を形成した鋳型内面6bを凍結処理し、その後肌砂層4をガスバーナ7で短時間(2〜5秒)炙ることにより硬い強固な表面保護砂層8を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも溶融金属と接触する鋳型内面を凍結してなる凍結鋳型及びその造型法に関し、該鋳型内面に強固な表面保護砂層を形成して、該鋳型内面の砂削り現象を防止したものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋳物砂よりなる鋳型の条件として、溶融金属の鋳造を進めるのに必要な型の強度保持と、鋳型形成に使用されている砂の回収と再生使用が要求されている。
鋳型に充分な強度を付与するためには、鋳型を焼成するかまたは別の物質を導入して化学結合または例えばCO硬化を起させることにより砂型の硬化を促すことが知られている。これらの方法は鋳型強度に所望の効果を与えるものの鋳物砂の回収再生は不可能になる。
上記問題の解決のため、下記内容を持つ提案が特許文献1(特公昭56−30107号公報)に開示されている。
【0003】
則ち、上記提案では、ベンナイト等の粘土を粘着剤とするとともに、硅砂に対しバインダ作用を付与するため2〜12重量%の水分を添加混合させた鋳物砂を使用する構成とし、該鋳物砂を混練造型した生砂型を凍結させることにより凍結鋳型を形成したものである。
則ち、鋳型の凍結により鋳造時に所要の強度を持たせるとともに、鋳物砂の効率的再生使用を可能としたものである。
【0004】
ところで、上記提案の場合、高い強度を得るため、通常の0℃にて徐々に冷却するのではなく、過冷却の状態で急速凍結することが必要で、窒素などの液化ガスもしくはドライアイスなどの冷媒が用いられ、一般的に液体窒素溶液中への鋳型の浸漬が主として使用されてきた。
上記液体窒素使用の場合、鋳型が−100℃以下になることもあって作業者に凍傷を強いる危険な作業を余儀なくされていた。
また、凍結鋳型が大気と接触すると過飽和な水蒸気が急速に鋳型に付着して鋳型面に霜付き現象を起し鋳造欠陥の原因形成の問題を内蔵していた。
【0005】
上記問題解決のため、特許文献2(特開平11−138235号公報)には下記提案が開示されている。
則ち、上記提案によれば、冷凍機により冷却された−3℃以下の低温空気を鋳型内を水分が移動しない程度の差圧でファンにより吸引もしくは加圧し鋳物砂からなる鋳型内に流通させて鋳型を凍結させる。
鋳型内を流通した空気は冷凍機の熱交換器で冷却して再び鋳型に送り、冷却空気を系内で循環させる。
【0006】
則ち、前記冷凍機により一度冷却された空気が外界と遮断された系内を循環させることにより鋳型内の急速冷却を可能とし、高強度の凍結鋳型を得ている。また、霜付きが起きる作業である型抜き作業、中子作業、型合わせ作業などを上記冷凍機によって除湿された庫内にて、凍結鋳型の凍結処理の後前記霜付きを最小限に抑えた雰囲気下で行い、更に冷凍機によって0℃以下に冷却された冷凍庫内にて凍結鋳型を保管する。また、鋳型の開口部に消失性の蓋をして霜付きを防ぐ。このことにより、鋳型を効率よく凍結でき、無駄を防止するともに鋳肌の良好な鋳造品を得るようにしている。
【0007】
しかしながら注湯の際は、約1450℃の高温溶融金属が砂型の中に流入され、鋳型の表面は溶湯の高熱に曝され、鋳型表面の砂の焼付きを起し金属と溶着する欠陥を発生する。これを防ぐため鋳型や中子の表面に刷毛塗り、どぶ付け、スプレーなどにより塗装を行ない、鋳肌の改善などによる鋳造欠陥の防止、焼付き防止などの機能を持たしている。
【0008】
ところが、凍結鋳型に上記塗型を行なう場合、下記問題点を内蔵して居ることが分かり、これらを解決する必要が生じた。
即ち水溶性塗型の場合は、塗型の水分が塗布時に凍結するため、塗型に斑ができるとともに、塗型の水分がそのまま凍結するため、鋳型表面の水分量が多くなり、水分による「きらい」が出る。また、水分によるピンホールなどが発生することもある。
【0009】
またアルコール塗型及び水性塗型ともに、アルコール若しくは水分が凍結した鋳物砂を解凍するため、塗型面付近の表面安定性が悪くなる。このため、塗型の「すくわれ(鋳物表面にできる粗い不規則な金属の板状突出欠陥)、砂かみ(鋳物表面近くにできる塊状・板状の砂の捲き込み)」などの欠陥が発生する。
なお塗型を行なわないで、鋳込みを行なうと、鋳型が溶湯の熱により解凍されるため、砂が流されて「砂かみ、洗われ(金属の突出欠陥)」などの欠陥が発生する。また、砂の粒度が粗いと焼付き(砂の一部が溶けて鋳物表面に混ざりこんだ状態)欠陥を生じる。
【0010】
このように水性、水溶性、アルコール性の液状塗型剤の使用には問題があるため、特許文献3(特開2004−34043号公報)には、凍結鋳型の内面に帯電塗型材を付着させる静電塗装法による塗型を行い、これによって凍結鋳型の内面に緻密、且つ強靭な密着性能の高い薄膜を形成するようにした提案が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特公昭56−30107号公報
【特許文献2】特開平11−138235号公報
【特許文献3】特開2004−34043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献3に開示された静電塗型法は、耐火粉体を凍結鋳型内面に塗布することで、凍結鋳型内面の鋳物砂の焼き付きを防止でき、前述のアルコール塗型及び水性塗型の問題点を解消できる長所をもつ。
しかしながら凍結鋳型を結合させている力は鋳物砂に含有させた水分の凍結によるものであるため、高粘性の材質からなる溶湯を注湯する場合、溶湯の粘性と高温により凍結鋳型表面の砂が削られる現象が発生する。また鋳造品の鋳肌表面が荒らされ、鋳造欠陥の原因となっている。凍結鋳型表面から剥離した鋳物砂は、溶湯内に拡散するため、鋳造欠陥の原因となり、鋳造品の品質低下につながる。
凍結鋳型は鋳物砂に含有した水分の凍結により立体構造を保持する。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、先に開発された静電塗装法による凍結鋳型の塗型形成における前記問題を解決し、さらに有効な鋳型形成を可能とするべく、凍結鋳型の溶湯接触面においてさらに表面安定度の高い鋳型内面形成を可能とする凍結鋳型及びその造型方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明の凍結鋳型の第1の構成は、
2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂で形成した鋳型であって、該鋳型の少なくとも溶融金属と接触する内面を凍結してなる凍結鋳型において、
前記溶融金属と接触する鋳型内面に水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を短時間炙ることにより形成された表面保護砂層を具えてなるものである。
【0015】
前記第1の構成は、主として、溶湯温度が低い、例えば溶湯温度が500〜600℃のアルミ、銅等の非鉄金属用の鋳型であって、静電塗装法による塗型を行なわなくても凍結鋳型内面の鋳物砂の焼き付きを防止できる場合に適用されるものである。
前記第1の構成において、鋳型の凍結表面に水ガラスを鋳物砂に対して0.5〜5重量%含有した鋳物砂を短時間炙ることにより、硬い強固な表面保護砂層を形成することができる。これによって溶湯の鋳型への注湯時に、溶湯の粘性と高温により凍結鋳型内面の砂が削られる現象を防止することができる。
【0016】
水ガラスを鋳物砂に対して0.5〜5重量%含有させる理由は、0.5重量%未満であると、硬い強固な表面保護砂層を形成するのに水ガラスのバインダ効果が不足し、また5重量%を越えると、高コストになるとともに、表面保護砂層が容易に崩壊しにくくなり、鋳型の再利用が難しくなるためである。
なお表面保護砂層の炙り処理に要する時間は、例えば鋳物工場に備え付けられたガスバーナで炙る場合は2〜5秒と極短時間で済むため、凍結鋳型全体にはほとんど影響しない。
【0017】
次に本発明の凍結鋳型の第2の構成は、
2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂で形成した鋳型であって、該鋳型の少なくとも溶融金属と接触する内面を凍結してなる凍結鋳型において、
前記溶融金属と接触する鋳型内面に水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層及び該肌砂層の上に静電塗装法により付着された帯電塗型剤を短時間炙ることにより形成された表面保護砂層を具えてなるものである。
【0018】
前記第2の構成の凍結鋳型は、肌砂層の上に静電塗装法により帯電塗型剤を付着させることにより、溶湯温度が高い、例えば溶湯温度が1400〜1500℃の鋳鉄用等の鋳型に適用可能であって、溶湯温度が高温であっても溶湯に接触する凍結鋳型内面の鋳物砂の焼き付きによる鋳造欠陥を防止することができる。
前記第2の構成において、溶湯が接触する鋳型内面に前記肌砂層及び該肌砂層の上に静電塗装法により付着された帯電塗型剤を短時間炙ることにより形成された表面保護砂層を有するため、高温かつ高粘性の溶湯を注湯しても溶湯の粘性と高温による凍結鋳型表面の砂削り現象をなくすことができる。
【0019】
また前記肌砂層の上に形成された塗型剤は、静電塗装法によりクーロン力による緻密で且つ強靭な均一で薄い(約0.2〜0.3mm)塗膜を鋳型表面に密着形成することを可能とするとともに、経済的かつ環境汚染を防止する塗膜の形成を可能とする。
なお前記表面保護砂層の厚さは1〜20mmで十分であり、この範囲の厚さで凍結鋳型内面の砂削り現象を実質的になくすことができる。前記肌砂層は、例えば模型の表面にスラリ状になった水ガラスと鋳物砂の混合物をスプレーガンで模型表面に塗布し、その後内部に該模型を設置した鋳型に砂込めすることで、溶湯と接する鋳型内面に形成することができる。
【0020】
また本発明の凍結鋳型の造型方法の第1の構成は、
2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂を用いて鋳型を成形し、該鋳型の表面のうち少なくとも溶融金属と接触する内面を凍結する凍結鋳型の造型方法において、
水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を模型の表面に接する鋳型内面に形成した後、少なくとも該肌砂層を形成した鋳型内面を凍結処理し、
その後前記肌砂層を短時間炙ることにより表面保護砂層を形成するものである。
【0021】
かかる処理工程によって、鋳型の凍結表面に硬度の大きい強固な表面保護砂層を形成することができる。本発明方法の前記第1の構成は、主として溶湯温度の比較的低い材料の鋳造に適用される本発明の前記第1の構成の凍結鋳型を製造するためのものである。
【0022】
次に本発明造型方法の第2の構成は、
2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂を用いて鋳型を成形し、該鋳型の表面のうち少なくとも溶融金属と接触する内面を凍結する凍結鋳型の造型方法において、
水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を模型の表面に接する鋳型内面に形成した後、少なくとも該肌砂層を形成した鋳型内面を凍結処理し、
該鋳型内面に静電塗装法により帯電塗型剤を付着させ、
その後前記肌砂層及び塗膜を短時間炙ることにより表面保護砂層を形成するものである。
【0023】
図1において、(a)は本発明方法の前記第1の構成の作業手順を示し、(b)は本発明方法の前記第2の構成の作業手順を示すブロック線図である。
本発明方法の前記第2の構成においては、前記処理工程を実施することにより、溶湯と接する凍結鋳型内面に形成された前記肌砂層及び塗膜を瞬間的に硬化させ、強固な鋳型層を形成することができる。なお前記炙り処理はごく短時間の熱処理で済むため、凍結鋳型全体に影響を及ぼすことはない。その後通常通りの注湯を行なう。該炙り処理のやり方として、例えば前記肌砂層及び塗膜をガスバーナで2〜5秒炙るだけでよい。
一般的なガスバーナの外炎温度が1500℃程度であるので、2〜5秒の短時間炙るだけで硬化した表面保護砂層を形成することが可能である。
【0024】
また、本発明方法の前記第2の構成における静電塗装法は、
塗型剤が、硅砂、ジルコン、アルミナ、ムライト、電融シリカ、クロマイト、酸化鉄、黒曜石、黒鉛、雲母等の骨材のいずれか一つ若しくは幾つかの混合物からなる骨材に対して0.2〜10重量%のバインダを添加し、該バインダは加熱により強度を失わない樹脂による構成が好ましい。このように耐火性粉体からなる塗型剤を用いることにより、高温に対する耐久性を向上させることができる。
【0025】
また、塗型は、低温除湿雰囲気内における凍結鋳型の凍結処理後についで、同雰囲気内で行なうようにした方が好ましい。これによって凍結鋳型面の霜付きを防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の凍結鋳型の第1の構成によれば、溶融金属と接触する鋳型内面に水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を短時間炙ることにより硬化させた表面保護砂層が形成されてなるため、高粘性の溶湯を注湯する場合でも、溶湯の粘性と高温により凍結鋳型表面の砂が削られるおそれがなく、溶湯内に鋳物砂が拡散することがないため、鋳造欠陥を生ずることもない。
【0027】
また本発明の凍結鋳型の第2の構成によれば、溶融金属と接触する鋳型内面に水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層及び該肌砂層の上に静電塗装法により付着された帯電塗型剤を短時間炙ることにより形成された硬い強固な表面保護砂層を具えてなるため、鋳鉄等溶湯温度が高温でかつ高粘度の溶湯を注湯する場合であっても、砂削り現象を生じることがないため、鋳造欠陥が生じない。
前記表面保護砂層は、肌砂層が1〜20mmと薄い層であり、静電塗装法による塗膜の膜厚が通常0.2〜0.3mmであるため、小さな力を加えることにより簡単に崩壊し、そのため鋳型の再利用が可能となる。
【0028】
また本発明の凍結鋳型の造型方法の第1の構成によれば、水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を模型の表面に接する鋳型内面に形成した後、該肌砂層を形成した鋳型内面を凍結処理し、その後該肌砂層を短時間炙ることにより表面保護砂層を形成するため、溶湯が接する鋳型内面に硬く強固な表面安定度の高い鋳型層を形成でき、従って高粘性の溶湯を注湯する場合でも、溶湯の粘性と高温により凍結鋳型表面の砂が削られるおそれがなく、溶湯内に鋳物砂が拡散することがないため、鋳造欠陥を生ずることもない。また前記肌砂層は薄く形成すればよいため、熱処理時間が極短時間で済み、熱処理工程が鋳型全体に及ぼす影響は少ない。
【0029】
また本発明の凍結鋳型の造型方法の第2の構成によれば、水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を模型の表面に接する鋳型内面に形成した後、該肌砂層を塗布した鋳型内面を凍結処理し、該鋳型内面に静電塗装法により帯電塗型剤を付着させ、その後該肌砂層及び塗膜を短時間炙ることにより表面保護砂層を形成するため、該肌砂層の上に静電塗装法によりクーロン力による緻密で且つ強靭な均一で薄い塗膜を密着形成できるとともに、該肌砂層及び塗膜を炙り処理した硬く強固で表面安定度の高い鋳型層を形成することができる。
【0030】
そのため鋳鉄等、溶湯温度が1400〜1500℃と高い溶湯であっても、溶湯による砂削り現象や高温による凍結表面の鋳物砂の焼き付きによる鋳造欠陥を防止することができる。
このように本発明によれば、簡単な短時間の炙り処理により、凍結鋳型を崩壊させることなく、凍結鋳型の特徴である良好な鋳型崩壊性を維持したまま、溶湯と接する鋳型内面に安定度の高い薄い表面保護砂層を形成することにより、該鋳型内面の焼き付き又は砂削り現象を防止できるとともに、薄い表面保護砂層は容易に崩壊するため、鋳型の再利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
図2は、本発明の第1実施例の作業手順を示す説明図、図3は、本発明の第2実施例の作業手順を示す説明図、図4は、本発明の前記第2実施例において、静電塗装による塗型を行なう情況を示す説明図、図5は、本発明の第3実施例の実験結果を示す図表である。
【実施例1】
【0032】
本発明の第1実施例を示す図2の(a)において、基盤1上に木型2が載置されてあり、鋳物砂に水ガラスを0.5〜5重量%含有したスラリ状の混合物をスプレーガン3で木型2の表面に吹き付け塗布し、木型2の表面に1〜20mm程度の厚さで肌砂層4を形成する。次に図2(b)に示すように、木型2の周囲に鋳枠5を設置し、鋳枠5に水2〜12重量%を添加混練した鋳物砂を充填して鋳砂層6aを形成することにより、鋳型6を成形する。
【0033】
次に図2(c)に示すように、鋳型6の凍結処理を行う。凍結処理は、例えば特許文献2(本出願人等の出願による)に開示された凍結鋳型の製造法により凍結を行なう。
この方法は、図示しない冷凍機により形成された−3℃以下の低温空気fを鋳型6内の水分が移動しない程度の差圧でファンにより吸引もしくは加圧して鋳型6内に流通させて鋳型を凍結させる。
【0034】
ついで、鋳型6内を流通した低温空気fを前記冷凍機の熱交換器で冷却して再び鋳型6に送り、冷却空気を系内で循環させる。このように前記冷凍機により一度冷却された空気が外界と遮断された系内を循環させることにより、鋳型内の急速冷却を可能とし、高強度の凍結鋳型を得る。
次に図2(d)に示すように、鋳型6を基盤1上から離して反転し、また木型2を鋳型6から離し、ガスバーナ7を用いて溶融金属と接する凍結鋳型内面6bを1500℃程度の外炎で2〜5秒程度炙る。
これによって凍結鋳型内面6bに肌砂層4が硬化した強固な表面保護砂層8が形成される。
【0035】
次に図2(e)に示すように、かかる表面保護砂層8が形成された鋳型6を一方を反転して2個重ね合わせる型合わせを行い、溶湯を注入する中空部10を形成し、湯つぼ9で湯道6cから溶湯を該中空部10に注入する。これによって図2(f)に示すように、鋳造品11をつくる。
次に鋳造品11が冷えて固まったら、鋳型6をこわす作業を行なうが、表面保護砂層8は薄い層厚であるので、ハンドハンマ12のような小型の打撃具でも簡単に崩壊する。
【実施例2】
【0036】
次に本発明の第2実施例を図2及び図3により説明する。本第2実施例は、図1(a)から図1(c)までの作業手順は、前記第1実施例と同一である。その後図3の(a)〜(c)の作業手順を行なう。
図2(c)に示す凍結処理を行った後、図3(a)に示すように、凍結した鋳型内面6bに静電塗装法により塗膜13を被覆する。
【0037】
図4に、凍結鋳型に対する静電塗装による塗型を行なう一例を示す。塗型剤として珪砂などの粉末状骨材にアクリル系樹脂などのバインダを添加混練したものを用いる。
図4において、静電塗装機の帯電装置21内に塗型剤20cを充填し、該塗型剤20cを負に帯電させた後、前記凍結直後の凍結鋳型20を図示しない冷凍機によって形成された低温除湿雰囲気に枠20aを介してアースさせ地絡状態に置くとともに、ノズル22内に帯電装置21より帯電塗型剤を導入し加圧ガス24により凍結鋳型の内面に吹き付け、均一厚みを持つ塗膜20bを形成させる。
【0038】
このような静電塗装法を用いて、肌砂層4上に0.2〜0.3mmの塗膜13を形成する。
次に図3(b)に示すように、肌砂層4及び塗膜13をガスバーナ7で2〜5秒炙り、硬化した表面保護砂層8を形成させる。
次に図3(c)に示すように、鋳型6の一方を反転して2つの鋳型6を重ね合わせ、中空部10を形成し、該中空部10に湯道6cを通して湯つぼ9から溶湯を注入し、図3(d)に示すように鋳造品11をつくる。
なお図3の(b)〜(d)の作業は、前記第1実施例の図2(d)〜(f)の作業と同一である。
【0039】
前記第1実施例及び第2実施例で形成される表面保護砂層8は薄い層厚であり、従来のCO鋳型に含有される水ガラス量と比較してきわめて少量の水ガラスで形成されるため、硬化した表面保護砂層8の剥離に必要な動力は、従来のCO鋳型と比較にならないほど小さく、従って軽くハンドハンマ12で叩く程度の力で崩壊する。
従来のCO硬化法は、COガスを鋳型内に強制通気することで砂中の水ガラスを硬化させるものであり、この方法では、硬化に5〜10分程度の時間を必要とし、一旦硬化した鋳型は強固に固まっており、バラバラに分解して再利用することが困難である。
【0040】
一方本実施例によれば、鋳型凍結後に溶湯が接触する鋳型内面をごく短時間炙るだけでよいため、作業が極めて容易であるとともに、表面保護砂層8がごく薄い層を形成するだけであるので、鋳型を簡単に崩壊させることができ、再利用も可能である。
【実施例3】
【0041】
1つの凍結鋳型の溶湯接触面を2分割し、一方の凍結鋳型の溶湯接触面に、凍結前に鋳物砂に水ガラスを図5に示すそれぞれNo.1〜4の4例の添加量(重量%)を添加した15mmの厚さの肌砂層を形成した後凍結処理し、他方の凍結鋳型の溶湯接触面には前記肌砂層を形成しない従来の凍結鋳型とし、両方の凍結鋳型の溶湯接触面に静電塗型を施した後、肌砂層を形成した側にはガスバーナで2〜5秒間炙る炙り処理を実施した。その後わざと鋳肌が荒れる方法(製品となる鋳型面に直上から粘性を持った高温の溶融金属を落下させる方法。凍結鋳型に対しては非常に厳しい条件であり、落下点の製品となる鋳型面が荒らされやすい。)で溶けたアルミを用いて注湯作業を行い、鋳肌表面の比較を行なった。
【0042】
なお実験条件は以下のとおりである。
・使用砂;珪砂6号
・含有水分;5重量%
・凍結時間;15分(従来と同じ凍結時間設定で実施)
・凍結用冷凍庫内温度;−40℃
【0043】
硅砂(6号)に水5重量%を添加し混練した鋳物砂に対し、特許文献2(本出願人等の出願による)で開示された凍結鋳型の製造法により凍結処理を行なった。
ついでこの凍結鋳型に対し、静電塗装による塗型を図4に示す方法により行なう。表1には図4の静電塗装に使用した塗型剤の配合例を示す。表1中、%の表示は重量%を示す。
【0044】
表1に示す骨材にバインダとして加熱により強度を失わないアクリル系樹脂を2重量%添加混練し、骨材にバインダコーティングしたものを図4に示す静電塗装に使用した。
【表1】

【0045】
該バインダの添加量を種々変えた塗型剤を用いて静電塗装を行い、形成した塗膜を溶湯に曝す実験を行なってみた。この実験によると、該バインダの添加量が0.2重量%未満の場合は、塗膜強度がなく溶湯により塗膜が流される問題が生じた。
またバインダ量が10%重量を越える場合は、溶湯熱によるバインダの分解生成物が多くなりガス欠陥などを発生する問題が生じた。
また酢酸ビニルなどの高温強度のないバインダを用いた場合は、溶湯により流される問題が発生した。
【0046】
また、高温強度を若干なりとも有するバインダの場合は、塗型が溶湯により流されることがなかった。
なお、高温強度を有するバインダとしては、フラン、フェノール、水ガラス、アクリル系樹脂、酢ビ系樹脂、ゴム系樹脂を挙げることができる。
このように凍結鋳型の塗型に静電塗装を用いかつ高温強度を有するバインダを骨材に対して特定量添加混練することにより、均一で表面安定性の高い塗膜を形成することができることがわかった。
【0047】
なお、表1に示す塗型剤成分において、加熱により強度を失うバインダである酢酸ビニール2重量%を用いて同様の試験を行なった。この場合は塗膜が一部脱落しこの部位から焼付きが生じていた。
表1の塗型剤成分を水溶性塗型に改良して刷毛塗りを行なったが、この場合は均一皮膜を持つ塗型は得られないことは勿論であるが、鋳造後の塗型水分によるピンホールの発生等の問題が発生した。
【0048】
次に本実施例において、凍結鋳型のうち、前記肌砂層を形成した凍結鋳型の該肌砂層及び静電塗膜をガスバーナにより2〜5秒間炙って焼結処理し、鋳型表面に該肌砂層及び静電塗膜を硬化させた表面保護砂層を形成した。
以上のような方法で表面保護砂層を形成した凍結鋳型に対して、溶けたアルミを用いて注湯作業を行い、鋳肌表面の比較を行なった。
図6は、前記従来例の鋳型表面を示すカラー写真であり、図7は、本発明の前記実施例(図5のNo.3)の鋳型表面を示すカラー写真であり、図8は、前記実施例において溶湯の熱により硬化した肌砂層を示すカラー写真である。
【0049】
図6より、従来例の凍結鋳型表面において、厳しい注湯方法で注湯作業を実施したところ、鋳肌表面の文字が削られてしまったことがわかる。一方図7の本発明の前記実施例の場合は、溶湯を落とした位置は鋳肌表面の縞模様で特定できるものの、その下にある文字ははっきりと判読できる状態であり、かつ全体的に鋳肌表面は滑らかであった。
【0050】
また図8により、本発明の前記実施例(図5のNo.3)において、溶湯と接する鋳型表面に形成されていた肌砂層が熱硬化により形を保った状態を維持しており、良好な保形性を有していることがわかる。なおこの熱硬化した肌砂層は、ハンドハンマ等で軽く叩くだけで崩壊した。第3実施例は、溶湯として溶湯温度の低いアルミを使用したが、溶湯温度の高い鋳鉄を使用した場合でも同様に溶湯と接した鋳型内面の良好な保形性と崩壊性を得られることがわかった。
【0051】
また図5に示す結果から、肌砂層において鋳物砂に対する水ガラスの含有量が0.5重量%を下回ると、容易に崩壊するが、硬化強度が不足して、保形性が悪化し、また鋳物砂に対する水ガラスの含有量が5.0重量%を超えると、硬化強度は十分であるが、容易に崩壊しないことが分かった。このため硬化強度及び崩壊性の観点から、肌砂層において鋳物砂に対する水ガラスの含有量を0.5〜5.0重量%にする必要がある。
【0052】
このように第3実施例によれば、鋳型の溶湯接触面に鋳物砂に対し0.5から5重量%の水ガラスを添加した肌砂層を形成し、鋳型の溶湯接触面を凍結処理した後、該肌砂層上に静電塗装法により塗膜を形成し、その後該肌砂層及び塗膜を炙り処理することにより、鋳型の溶湯接触面に硬化した表面保護砂層を形成し、これによって鋳鉄等溶湯温度が高くかつ高粘度の溶湯を注湯する場合であっても、溶湯と接する凍結鋳型内面の砂の焼き付きや砂削り現象を生じることがないため、鋳造欠陥が生じない。
【0053】
また肌砂層及び静電塗膜の層厚は薄いため、前記炙り処理は短時間で済み、凍結鋳型の特徴である良好な鋳型崩壊性や凍結時間に影響を及ぼすことがなく、かつ硬化した表面保護砂層は簡単に崩壊するため、鋳型の再利用が可能となる。
また静電塗装法により塗型を行なうに際し、塗型剤が、硅砂、ジルコン、アルミナ、ムライト、電融シリカ、クロマイト、酸化鉄、黒曜石、黒鉛、雲母等の耐火性粉体からなる骨材を用い、これら骨材に対して0.2〜10重量%のバインダを添加し、該バインダは高温強度を有するフラン、フェノール、水ガラス、アクリル系樹脂、酢ビ系樹脂、ゴム系樹脂を用いることにより、高温に対する耐久性を向上させることができ、焼き付きや鋳型水分によるピンホールなどの欠陥のない塗膜を形成することができ、かかる塗膜を前記肌砂層とともに炙り処理することにより、さらに高強度の安定した表面保護砂層を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、溶湯と接触する鋳型面に水ガラスを添加した肌砂層を形成することで、簡単且つ迅速に鋳肌表面の改善が可能であり、また焼結処理された肌砂層が凍結鋳型の特徴である良好な鋳型崩壊性や凍結時間に影響を及ぼすことなく、鋳型の再利用も可能とする凍結鋳型を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)は本発明方法の第1の構成を示すブロック線図、(b)は本発明方法の第2の構成を示すブロック線図である。
【図2】本発明の第1実施例の作業手順を示す説明図である。
【図3】本発明の第2実施例の作業手順を示す説明図である。
【図4】本発明の前記第2実施例において、静電塗装による塗型を行なう情況を示す説明図である。
【図5】本発明の第3実施例及び比較例の実験結果である。
【図6】従来例の鋳型表面を示すカラー写真である。
【図7】本発明の前記第2実施例の鋳型表面を示すカラー写真である。
【図8】前記第2実施例において溶湯の熱により硬化した肌砂層を示すカラー写真である。
【符号の説明】
【0056】
2 木型(模型)
3 スプレーガン
4 肌砂層
5 鋳枠
6 鋳型
6a 鋳砂層
6b 鋳型内面
7 ガスバーナ
8 表面保護砂層
20 凍結鋳型
21 帯電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂で形成した鋳型であって、該鋳型の少なくとも溶融金属と接触する内面を凍結してなる凍結鋳型において、
前記溶融金属と接触する凍結された鋳型内面に水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を短時間炙ることにより形成された表面保護砂層を具えたことを特徴とする凍結鋳型。
【請求項2】
2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂で形成した鋳型であって、該鋳型の少なくとも溶融金属と接触する内面を凍結してなる凍結鋳型において、
前記溶融金属と接触する凍結された鋳型内面に水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層及び該肌砂層の上に静電塗装法により付着された帯電塗型剤を短時間炙ることにより形成された表面保護砂層を具えたことを特徴とする凍結鋳型。
【請求項3】
前記表面保護砂層の層厚を1〜20mmとしたことを特徴とする請求項1又は2記載の凍結鋳型。
【請求項4】
2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂を用いて鋳型を成形し、該鋳型の表面のうち少なくとも溶融金属と接触する内面を凍結する凍結鋳型の造型方法において、
水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を模型の表面に接する鋳型内面に形成した後、少なくとも該肌砂層を形成した鋳型内面を凍結処理し、
その後前記肌砂層を短時間炙ることにより表面保護砂層を形成することを特徴とする凍結鋳型の造型方法。
【請求項5】
2〜12重量%の水分を混合させた鋳物用砂を用いて鋳型を成形し、該鋳型の表面のうち少なくとも溶融金属と接触する内面を凍結する凍結鋳型の造型方法において、
水ガラスを0.5〜5重量%含有した鋳物砂からなる肌砂層を模型の表面に接する鋳型内面に形成した後、少なくとも該肌砂層を形成した鋳型内面を凍結処理し、
該鋳型内面に静電塗装法により帯電塗型剤を付着させ、
その後前記肌砂層及び塗膜を短時間炙ることにより表面保護砂層を形成することを特徴とする凍結鋳型の造型方法。
【請求項6】
前記炙り処理は、前記肌砂層及び塗膜をガスバーナで2〜5秒間炙ることを特徴とする請求項4又は5記載の凍結鋳型の造型方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−202187(P2009−202187A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45576(P2008−45576)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】