説明

凝固欠陥予測解析の精度検証方法

【課題】型の温度分布を容易に再現することにより、短時間で高精度の凝固欠陥予測解析が可能となり、さらに、該凝固欠陥予測解析の精度を検証することができる、凝固欠陥予測解析の精度検証方法を提供する。
【解決手段】型11・11を加熱した後に、前記型11・11を放置して放熱させ、型11・11の温度を均一にしてから検証用粗材の鋳込みを行い、前記均温化した温度に設定して凝固欠陥予測解析を行う構成とした。これにより、凝固欠陥予測解析の際に型11・11の温度分布を考慮する必要がなくなり、実際の鋳込みにおける型の温度分布と、凝固解析における型の温度分布とを完全に整合させることができるため、短時間で高精度の凝固欠陥予測解析が可能となり、さらに、該凝固欠陥予測解析の精度を検証することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固欠陥予測解析の精度検証方法に関し、より詳しくは、CAE(Computer Aided Engineering:コンピュータによる数値解析)による凝固欠陥予測解析の精度を検証する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凝固時の温度データ等を基にして、CAEによる鋳物の凝固解析を行い、凝固欠陥の発生状況を予測する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−80596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術に係る凝固欠陥予測解析においては、型の温度分布の影響を排除することはできないため、実際の型の温度分布を模擬し、該温度分布に基づいて凝固欠陥予測解析を行う必要がある。しかし、このような解析は時間がかかる上、実際の鋳込みにおける型の温度分布と、CAEの凝固解析で得られた型の温度分布とを完全に整合させることは困難である。このため、前記のように実測の温度分布とCAEの凝固解析の温度分布とに差が生じ、凝固解析において望ましい予測精度を得ることができなかった。また、実測の温度分布とCAEの凝固解析の温度分布とに差が凝固欠陥予測解析の精度に影響を与えることにより、凝固欠陥予測解析そのものの精度を検証することができなかった。
【0005】
そこで本発明では、上記現状に鑑み、型の温度分布を容易に再現することにより、短時間で高精度の凝固欠陥予測解析が可能となり、さらに、該凝固欠陥予測解析の精度を検証することができる、凝固欠陥予測解析の精度検証方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、複数箇所に温度測定具を設置し周囲を断熱材で覆った型により検証用粗材の鋳込みを行うとともに、前記温度測定具により前記鋳込み時における前記型全体の温度データを測定し、前記温度測定具により測定した、前記鋳込み時における型全体の温度データを用いて、前記検証用粗材の凝固欠陥予測解析の精度を検証する、凝固欠陥予測解析の精度検証方法であって、前記型を加熱して、前記型の温度を所定温度以上に上昇させる、昇温工程と、前記昇温工程の後に、前記型を放置して該型を均温化させる、均温化工程と、前記型が均温化したときに前記温度測定具により測定された温度データを記録する、記録工程と、前記均温化工程によって前記型が均温化した状態で、前記検証用粗材の鋳込みを行う、鋳込み工程と、前記鋳込み工程で前記検証用粗材に発生した凝固欠陥結果を実測する、実測工程と、前記型に基づいて検証用型モデルを生成する、モデル生成工程と、前記モデル生成工程で生成された前記検証用型モデルを用いて、前記型の温度を前記記録工程で記録された温度データの温度に設定しつつ、前記検証用粗材の鋳込みによる凝固欠陥予測解析を行う、凝固欠陥予測解析工程と、前記実測工程で実測された凝固欠陥結果と前記凝固欠陥予測解析工程で予測された凝固欠陥結果とを比較して、前記凝固欠陥予測解析の精度を検証する、検証工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0009】
本発明により、型の温度分布を容易に再現することにより、短時間で高精度の凝固欠陥予測解析が可能となり、さらに、該凝固欠陥予測解析の精度を検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る型を示す模式図。
【図2】本発明に係る凝固欠陥予測解析の精度検証方法のフローチャート図。
【図3】本発明に係る型における温度分布の変化を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0012】
本発明に係る凝固欠陥予測解析の精度検証方法は、図1に示す如く、熱が逃げないように周囲を断熱材12・12で覆った型11・11の複数個所に温度測定具である熱電対14・14・・・を設置し、前記型11に検証用粗材の鋳込みを行い、前記鋳込みの際に行われた前記熱電対14による型の温度分布の測定で得られた、前記型11の全体の温度データを用いて行われる。
具体的には、相対的に近接離間可能に構成された成形機13・13に、周囲を断熱材12・12で覆われた型11・11が配設されているのである。前記型11・11には、例えば鉄等を素材とする金型が用いられ、また、前記断熱材12・12には、例えば合成樹脂等を素材とするものが用いられるが、その構成は限定されるものではない。また、前記型11・11の内部には全体的に複数の熱電対14・14・・・が配設されており、該型11・11の温度分布を検知することが可能に構成されている。このように構成された型11・11の相互間には、成形機13・13が近接した際にキャビティCが形成され、アルミ溶湯等の粗材を該キャビティCにダイカストで鋳込むのである。その際、前記熱電対14・14・・・で該型11・11の温度分布データを検出するのである。
【0013】
次に、図2及び図3を用いて、凝固欠陥予測解析の精度検証方法について具体的に説明する。
本発明に係る凝固欠陥予測解析の精度検証方法は、前記型11・11を加熱して、前記型11・11の温度を所定温度以上に上昇させる、昇温工程と、前記昇温工程の後に、前記型11・11を放置して該型11・11を均温化させる、均温化工程と、前記型11・11が均温化したときに前記熱電対14・14・・・による温度測定で得られた温度データを記録する、記録工程と、前記均温化工程によって前記型11・11が均温化した状態で、前記検証用粗材の鋳込みを行う、鋳込み工程と、前記鋳込み工程で前記検証用粗材に発生した凝固欠陥結果を実測する、実測工程と、前記型11・11に基づいて検証用型モデルを生成する、モデル生成工程と、前記モデル生成工程で生成された検証用型モデルを用いて、前記型11・11の温度を前記記録工程で記録された温度データの温度に設定した、検証用粗材の鋳込みによる凝固欠陥予測解析を行う、凝固欠陥予測解析工程と、前記実測工程で実測された凝固欠陥結果と前記凝固欠陥予測解析工程で予測された凝固欠陥結果とを比較して、前記凝固欠陥予測解析の精度を検証する、検証工程と、を備える。
【0014】
各工程について、以下に詳細に説明をする。
まず、前記型11・11を加熱して、前記型11・11の温度を上昇させる(昇温工程・ステップS1)。具体的には、前記断熱材12・12による断熱状態を保持したまま、前記熱電対14・14・・・による測定温度であるモニタリング温度を観察し、鋳込みを行うことで型11・11の温度を上昇させるのである。
前記型11・11の温度分布の、前記昇温工程における変化を、図3中に示す区間P1で示す。図3中のグラフD1・D2・D3は、型11・11に配設された各熱電対14・14で検知された温度データの変化を示している。図3中のグラフD1・D2・D3に示すように、前記鋳込みによって、区間P1における型11・11の温度は断続的に上昇するのである。
本明細書においては説明の便宜上、グラフD1・D2・D3は三つのデータとして説明するが、実際には配設された熱電対14・14・・・の個数だけ温度データのグラフが得られることになる。また、型11・11においては、粗材が射出されるキャビティC近傍の温度が他の部分に比べて高くなる。本実施形態においては、グラフD1の結果が最も温度が高く、グラフD3の結果が最も温度が低くなるように構成されている。なお、本実施形態においては、昇温工程において鋳込みによって型11・11の温度を上昇させる構成としているが、ヒータで加熱する構成等、他の昇温構成とすることも可能である。
【0015】
次に、前記型11・11の温度が所定温度以上に上昇したか否かを判断する(ステップS2)。具体的には、前記熱電対14・14・・・ので検知したモニタリング温度のうち少なくとも一つが、所定温度T1以上になったか否かを判断するのである。ステップS2で、熱電対14・14・・・によるモニタリング温度のうち少なくとも一つが、所定温度T1以上になったと判断した場合はステップS3に進む。一方、モニタリング温度のうち少なくとも一つが、所定温度T1以上になっていないと判断した場合はステップS1に進み、ステップS1〜ステップS2の処理を繰り返す。本実施形態においては、ステップS1〜ステップS2の処理が繰り返され、鋳込みが数ショット行われることで型11・11の温度を上昇させる構成としている。このため、各グラフD1・D2・D3は鋳込み作業の度に温度が段階的に上昇する結果となっている。なお、本実施形態においては、モニタリング温度のうち一つが所定温度T1以上になったか否かを判断したが、前記熱電対14・14・・・で得られたモニタリング温度の平均値が、所定温度以上になったか否かを判断する構成にすることも可能である。
【0016】
次に、前記型11・11を放置して、該型11・11の温度を均一化させる(均温化工程・ステップS3)。前記型11・11の温度分布の、前記均温化工程における変化を、図3中に示す区間P2で示す。図3中の区間P2のグラフD1・D2・D3に示すように、本実施形態における型11・11は断熱材12・12で覆われているため、徐々に放熱して温度が低下していき、熱伝導によって型11・11は全体的に均温化していく。即ち、前記断熱材12・12が型11・11からの急速な放熱を防ぐため、その間にグラフD1で示される相対的に温度の高い部分から、グラフD3で示される相対的に温度の低い部分に熱が伝わり、型11・11の全体の温度がほぼ均一となるのである。
【0017】
次に、前記型11・11が均温化したか否かを判断する(ステップS4)。具体的には、前記各熱電対14・14・・・で検知したモニタリング温度が、均一になったか否かを判断するのである。具体的には、例えば各熱電対14・14・・・で検知したモニタリング温度の差が所定の範囲内に収まったか否かにより、モニタリング温度の均一化を判断する。
ステップS4で、各熱電対14・14・・・で検知したモニタリング温度が均一になったと判断した場合はステップS5に進む。一方、モニタリング温度が均一になっていないと判断した場合はステップS3に進み、ステップS3〜ステップS4の処理を繰り返す。
【0018】
次に、前記型11・11が均温化したときに前記熱電対14・14・・・で得られた温度データを、入力手段、表示手段、演算手段、記憶手段等からなる図示しない解析部における記憶手段に記録する(記録工程・ステップS5)。
【0019】
次に、前記型11・11が均温化した状態で、前記検証用粗材の鋳込みを行う(鋳込み工程・ステップS6)。前記型11・11の温度分布の、前記鋳込み工程における変化を、図3中に示す区間P3で示す。図3中のグラフD1・D2・D3に示すように、該鋳込み工程で鋳込みが行われることで、区間P3における型11・11の温度は一旦上昇する。該鋳込み工程における鋳込み作業により、前記検証用粗材に凝固欠陥が発生することがある。
【0020】
次に、前記鋳込み工程で前記検証用粗材に発生した凝固欠陥結果を実測する(実測工程・ステップS7)。具体的には、鋳込み工程で得られた検出用粗材に対してX線撮影やCT撮影を行って、凝固欠陥の位置や大きさを測定するのである。
【0021】
次に、前記解析部で、前記型11・11に基づいて検証用型モデルを生成する(モデル生成工程・ステップS8)。
【0022】
次に、前記解析部で、前記モデル生成工程で生成された検証用型モデルを用いて、前記記録工程で記録された温度データの温度に設定した、検証用粗材の鋳込みによる凝固欠陥予測解析を行う(凝固欠陥予測解析工程・ステップS9)。該凝固欠陥予測解析により、前記検証用粗材に発生する凝固欠陥が予測される。この際、前記記録工程で記録された温度データは、型11・11が均温化したときに前記熱電対14・14・・・で得られた温度データであるため、該温度データを用いて凝固欠陥予測解析を行うことにより、実際の鋳込みにおける型11・11の温度分布と、凝固解析における型11・11の温度分布とを完全に整合させることができるのである。また、型11・11の温度が均一であるため、型11・11における複雑な温度分布を考慮する必要がなく、凝固欠陥予測解析にかかる時間を短縮することができるのである。
【0023】
次に、前記実測工程で実測された凝固欠陥結果と前記凝固欠陥予測解析工程で予測された凝固欠陥結果とを比較するのである(検証工程・ステップS10)。具体的には、前記実測工程で実測された凝固欠陥の位置や大きさと、前記凝固欠陥予測解析工程で予測された凝固欠陥の位置や大きさとを比較することにより、前記凝固欠陥予測解析の精度を検証するのである。即ち、両凝固欠陥の位置や大きさが相似していれば、凝固欠陥予測解析の精度は高く、一方異なっていれば、精度は低いと判断することができるのである。
【0024】
上記の如く、本発明に係る凝固欠陥予測解析においては、型11・11の温度を均一にしてから検証用粗材の鋳込みを行い、前記均温化した温度に設定して凝固欠陥予測解析を行う構成とした。
これにより、実際の鋳込みにおける型11・11の温度分布と、凝固解析における型11・11の温度分布とが完全に整合するため、型11・11の温度分布の再現が容易となる。即ち、短時間で高精度の凝固欠陥予測解析を行うことができるのである。さらに、実測工程で実測された凝固欠陥結果と、前記凝固欠陥予測解析工程で予測された凝固欠陥結果を比較することで、該凝固欠陥予測解析の精度を検証することが可能となるのである。
【符号の説明】
【0025】
11 型
12 断熱材
13 成形機
14 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数箇所に温度測定具を設置し周囲を断熱材で覆った型により検証用粗材の鋳込みを行うとともに、前記温度測定具により前記鋳込み時における前記型全体の温度データを測定し、
前記温度測定具により測定した、前記鋳込み時における型全体の温度データを用いて、前記検証用粗材の凝固欠陥予測解析の精度を検証する、凝固欠陥予測解析の精度検証方法であって、
前記型を加熱して、前記型の温度を所定温度以上に上昇させる、昇温工程と、
前記昇温工程の後に、前記型を放置して該型を均温化させる、均温化工程と、
前記型が均温化したときに前記温度測定具により測定された温度データを記録する、記録工程と、
前記均温化工程によって前記型が均温化した状態で、前記検証用粗材の鋳込みを行う、鋳込み工程と、
前記鋳込み工程で前記検証用粗材に発生した凝固欠陥結果を実測する、実測工程と、
前記型に基づいて検証用型モデルを生成する、モデル生成工程と、
前記モデル生成工程で生成された前記検証用型モデルを用いて、前記型の温度を前記記録工程で記録された温度データの温度に設定しつつ、前記検証用粗材の鋳込みによる凝固欠陥予測解析を行う、凝固欠陥予測解析工程と、
前記実測工程で実測された凝固欠陥結果と前記凝固欠陥予測解析工程で予測された凝固欠陥結果とを比較して、前記凝固欠陥予測解析の精度を検証する、検証工程と、を備える、
ことを特徴とする、凝固欠陥予測解析の精度検証方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−158685(P2010−158685A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1115(P2009−1115)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】