説明

凝集デンプン組成物

天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる凝集デンプン組成物が開示される。この凝集デンプン組成物は、上記二つの成分の同じ比での単純ブレンドに比べてより優れた流動性とより低いpH感度を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、製薬ならびに関連の技術分野におけるタブレット剤やカプセル充填剤を調製するのに用いることができる改良デンプン組成物である。
【背景技術】
【0002】
(特許文献1)には、多段法によるタブレットの製造で使用するための直接圧縮型デンプンの調製が開示されている。先ず、天然デンプンを水にスラリー化し、得られた分散物を約85℃に加熱することによりデンプンペーストがつくられる。次に、造粒工程の間にこのデンプンペーストは天然デンプンに噴霧される。最後に、得られた混合物を乾燥し、粉砕し、そして篩にかけて、平均粒子径が100〜500マイクロメートル(別称ミクロン)の顆粒を得る。デンプンペーストの量は、二成分組成物の1〜20重量%である。
【0003】
(特許文献2)にも、易流動性の、直接圧縮型デンプンが開示されている。このケースでは、デンプン顆粒の部分膨潤をデンプン顆粒の崩壊を引き起こすことなく起こさせるために、天然デンプンの水性スラリーを先ず約62℃に加熱する。スラリーをこの後冷却し、そして噴霧乾燥して、易流動性の粉を得る。この(特許文献2)の方法は、中間的なデンプンペースト形成のステップを無くするものである。しかしながら、長時間に及ぶ加熱ステップおよび冷却ステップをなお伴う。そのようにして形成された生成物は、1:5〜5:1の非膨潤性複屈折質顆粒(インタクト天然デンプン)対膨潤性非複屈折質顆粒(ゼラチン化デンプン)の比を有している。(特許文献3)には、(特許文献2)の易流動性、直接圧縮型デンプンと少なくとも1種の他の添加剤とを含んでなるタブレット化組成物が開示されている。
【0004】
(特許文献4)には希釈剤および崩壊性デンプン組成物が開示されており、これは予めゼラチン化させたデンプンマトリックス中にアミロースリッチなデンプン顆粒を含んでなるものである。この組成物は、通常の天然デンプンスラリーとアミロースリッチな天然デンプンスラリー(それぞれ水中に約35重量%)を混合し、得られた混合物を約100℃で加熱・乾燥してペーストを得、そして最後にそのペーストを粉砕することによって調製される。加熱・乾燥工程の間に天然デンプンの一部がゼラチン化されて、ゼラチン化デンプンのマトリックスが得られる。
【0005】
(特許文献5)には、デンプンのシード(種)をデンプン顆粒層と予めゼラチン化させたデンプン層の連続的な層でコーティングすることによる凝集球状粒子の調製が開示されている。この方法では、固体のデンプンシードが流動床装置中で「流動化」され、この後球状の凝集が得られるようにシードに予めゼラチン化したデンプンと天然デンプン顆粒のスラリーが層状に重ねられる、つまりコーティングされる。この開示による球状粒子は担体物質として用いられる。この担体粒子に活性医薬成分および賦形剤がコーティングされ、あるいは「付加(load)」される。
【0006】
昭和56年特許願第28606号(特許文献6)は、顆粒状ジャガイモデンプンの調製に関するものである。ジャガイモデンプンを流動式造粒機に入れ、そしてゼラチン化ジャガイモデンプンの溶液をバインダー(結合剤)として噴霧するという方法がここには開示されている。流動化されたジャガイモデンプンはこのバインダー・デンプン核を取り囲んで凝集形成・成長して、150〜1,000マイクロメートルの平均粒子径をもつ微細顆粒状ジャガイモデンプンを与える。開示されている方法は、ジャガイモデンプンの水分散液を80℃で加熱することによる中間的なゼラチン化ジャガイモデンプン溶液の調製を利用するものである。
【0007】
直接圧縮によるタブレット剤の製造におけるバインダーおよび/又は崩壊剤として、また硬質のゼラチンカプセルで提供される製剤のためのフィラー(増量剤)として使用するための予圧縮型(pre-compacted)デンプン粉が(特許文献7)および(特許文献8)に記載されている。予圧縮型デンプン粉は、非ゼラチン化顆粒状デンプンに、スチール製ローラー間で、できれば熱エネルギーを加えながら物理的圧縮をかけることによって得られる。予圧縮型デンプン粉には、シャープな複屈折を示す顆粒、および非複屈折性顆粒断片ならびにいくらかの顆粒・断片凝集体の存在が認められる。圧縮の後、デンプンを粉砕しそして篩にかけて易流動性の粉を得る。(特許文献7)のデンプンおよび(特許文献8)のデンプンを含んでなるタブレット剤およびカプセル剤は、低pH媒体(例えばpH1.2)中よりも中性の水性媒体中でよりゆっくりと崩壊する傾向がある。
【特許文献1】米国特許第5,164,014号明細書
【特許文献2】米国特許第6,143,324号明細書
【特許文献3】米国特許第6,455,069号明細書
【特許文献4】米国特許第6,184,213号明細書
【特許文献5】米国特許第6,322,818号明細書
【特許文献6】特開昭57−144952号公報
【特許文献7】米国特許第3,622,677号明細書
【特許文献8】米国特許第4,072,535号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、改良された流動特性をもち、またpHが変動する媒体中において実質的に同じ速度で崩壊する凝集デンプン組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる課題は、そのようなデンプン組成物を、先行技術に開示されている方法よりもより単純な方法で、したがってより経済的な方法で製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一つの態様で、天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる凝集デンプン組成物が提供される。この発明に係る凝集デンプン組成物は、二つの方法のうちの一つによって製造される。第一の方法は:1)天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる混合物を流動化すること;および2)この流動化混合物に予圧縮型デンプン粉を含んでなるスラリーを噴霧すること;を含む。第二の方法は:1)予圧縮型デンプン粉と天然デンプンとの水性スラリーを製造すること;および2)続いてこのスラリーを噴霧乾燥すること;を含む。いずれのケースでも、本発明の課題を達成する凝集デンプン組成物が得られる。ここまでに述べられてきたように、予圧縮型デンプン粉の結合能力が限られていること、およびその崩壊特性が良くないこと(特許文献2の特許;2欄61〜63行)を考えると、予圧縮型デンプン粉を積極的に用いることで本発明の課題を達成することができることは驚くべきことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の凝集デンプン組成物は天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる。本出願人はいかなる特定の理論にも縛られないが、水の存在下に湿式造粒法によって、又はスラリーを形成しその後噴霧乾燥することによって天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを緊密に混合することで二つの成分は物理的に一緒に結合されていると考えている。予圧縮型デンプン粉は、先行技術の教示によれば逆であるのに、効果的にバインダーとしての役割を果たし、このバインダーが天然デンプン粒子を一緒に保持する。さらに、天然デンプン粒子は予圧縮型デンプン粉によって実質的にランダムに結合されており、その結果、さまざまな径および形状をもつ凝集粒子がもたらされる。天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる凝集デンプン組成物は、同じ比の二つの成分の単純ブレンドと比較して、大きく異なる特性を有している。具体的には、本凝集デンプン組成物は、同じ比の二つの成分の単純ブレンドと比較して、優れた流動性と、より小さいpH感受性とを有している。さらに、本凝集デンプン組成物はSOTAX FT300フローテスターで測定した場合、約4.5グラム/秒以上の流動速度を有しており、また実質的に非発塵性である。
【0012】
天然デンプンとは、数多くある植物源のうちのいずれか一つから直接得られるデンプンを言う。天然デンプンは、植物源から、その顆粒構造を実質的にそのままの状態(インタクト)に保ったまま、粗粉砕、水洗い、漂白、湿式篩い分け、遠心分離などのうちの一つ以上を含む一連の工程によって抽出される。これらの工程から得られる含水デンプンは乾燥・粉砕された後、医薬製剤などで用いられる。このようにして得られる天然デンプンは、偏光を使用して写真撮影した場合に複屈折を示すそのままのデンプン顆粒からなる。トウモロコシすなわちコーン、ジャガイモ、コメ、タピオカ、コムギなどが好適な植物源である。トウモロコシから得られる天然デンプンが好ましい。
【0013】
予圧縮型デンプン粉は、上述の特許文献7および特許文献8の特許に開示されている方法など、既知の方法によって製造される。好ましくは、予圧縮型デンプン粉は、非ゼラチン化顆粒状天然デンプンに、スチール製ローラー間で、できれば熱エネルギーを加えながら物理的圧縮をかけることによって得る。圧縮の後、デンプンは粉砕・篩い分けされて、易流動性の粉が得られる。予圧縮型デンプン粉には、シャープな複屈折を示す顆粒、および非複屈折性の顆粒断片、ならびにいくらかの顆粒・断片凝集体の存在が認められ、これは、予圧縮型デンプン粉が天然デンプンと、加工されて元の顆粒構造が変わっているデンプンとの混合物であることを示している。予圧縮型デンプン粉は、部分的に予めゼラチン化したデンプンとしても特徴付けられる。しかしながら、この予圧縮型デンプン粉中には、相当な量のそのままの状態の天然デンプンが残っているので、これは、十分もしくは完全に予めゼラチン化したデンプンとは区別される。有利なことには、予圧縮型デンプン粉から調製される水性分散液は、同じ濃度である、完全に予めゼラチン化したデンプンから調製されるものよりも、かなり低い粘度を有している。予圧縮型デンプン粉の調製に有用な好適な天然デンプンは、コーンつまりトウモロコシ、ジャガイモ、コメ、タピオカ、コムギなどから得られるデンプンである。予圧縮型デンプン粉の調製には天然のトウモロコシデンプンが好ましい。トウモロコシから得られる一つの特に好ましい予圧縮型デンプン粉は、Colorcon社が製造するStarch1500(登録商標)である。
【0014】
本凝集デンプン組成物は、約70:30〜約99:1の天然デンプン対予圧縮型デンプン粉比を有している。好ましくは、天然デンプン対予圧縮型デンプン粉の比は約85:15〜約95:5にする。凝集デンプン組成物の平均粒子径は約40〜約200マイクロメートルである。好ましくは、平均粒子径は約50〜約120マイクロメートルとする。本凝集デンプン組成物は、任意付加的に1種以上の追加的な賦形剤を含んでいてもよい。例えば、希釈剤、結合剤、バインダー、溶解度向上剤、pH調節剤、流動促進剤、付着防止剤、流動助剤、潤滑剤、崩壊剤、ならびにこれらの混合物を組み込んでもよい。本発明の別の態様では、本凝集デンプン組成物は、活性薬剤もしくは成分、ビタミン類、ミネラル類、栄養補助食品も含みうる。好適な医薬活性剤の非限定的な例としては:
a)コデイン、ジハイドロコデイン、ハイドロコドン、ハイドロモルホン、モルフィン、ジアモルフィン、フェンタニル、ブプレノルフィン、トラマドール、オキシコドン、アセトアミノフェン、アスピリン、フェニルブタゾン、ジフルニサール、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナック、インドメタシン、ナプロキセン、メタドン、メロキシカム、ピロキシカム、あるいはアザプロパゾンなどの鎮痛薬;
b)ロラチジン、ジフェンヒドラミンなどのような抗ヒスタミン薬;
c)クロニジン、テラゾシン、アセブタロール、アテノロール、プロプラノロール、ナドロール、ニフェジピン、ニカルジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、リシノプリル、カプトプリル、ラミプリル、フォシノプリル、エナラプリルなどのような抗高血圧症薬;
d)デモクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、シプロフラキサシン、アモキシシリン、ペニシリン、エリトロマイシン、メトロニダゾール、セファロスポリンなどのような抗生物質;
e)テルブタリン、サルブタモール、テオフィリンなどのような気管支/抗喘息薬;
f)プロカインアミド、トカイニド、プロパフェノンなどのような心臓血管医薬品;
g)レボドパ、フルオキシテン、ドキセピン、イミプラミン、トラゾドン、フルフェナジン、ペルフェナジン、プロメタジン、ハロペリドール、オキサゼパム、ロラゼパム、ジアゼパム、クロナゼパム、ブスピロンなどのような中枢神経系薬/抗不安薬/抗鬱薬;
h)メルファラン、シクロホスファミド、フルオロウラシル、メトトレキセートなどのような抗癌薬;
i)スマトリプタン、リスリドなどのような抗片頭痛医薬品;
j)シメチジン、ラニチジン、オメプラゾール、ミソプロストールなどのような胃腸薬;
k)グリピジド、グリボルリドなどのような経口抗糖尿病薬;
が挙げられる。
【0015】
本凝集デンプン組成物は:1)天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる混合物を流動化すること;および2)予圧縮型デンプン粉を含んでなるスラリーをこの流動化混合物に噴霧すること;によって製造することができる。この方法では、液体分散物が適用される間、固体粒子を空気中に浮遊させておくことができるものであればいずれの標準的な流動床装置でも用いることができる。この目的に適している装置の例は、Glatt社が提供している流動床装置である。この方法では、予圧縮型デンプン粉(全体量の約半分を用いる)を、先ず、ミキサーの助けを借りて水に約10%(重量/重量)の濃度で分散させる。予圧縮型デンプン粉が十分に分散するまで混合を続ける。次に、予圧縮型デンプンの残りと天然デンプンの全てを流動床装置のボウルに入れる。このボウル中の乾燥成分をこの後流動化、つまり空気中に浮遊させ、そして上記予圧縮型デンプンの水性スラリーを浮遊粒子に噴霧する。入口温度を約60℃にコントロールする。得られる床の温度は、噴霧適用工程全体に亘って約26〜28℃である。乾燥は約70℃で行い、床温度が約40℃に到達するまで行う。最終生成物は、易流動性の凝集デンプン組成物である。
【0016】
本凝集デンプン組成物はまた:1)予圧縮型デンプン粉と天然デンプンの水性スラリーを製造すること;および2)続いてそのスラリーを噴霧乾燥すること;によっても製造することができる。スラリーは、天然デンプンの全ておよび予圧縮型デンプン粉の全てを水に混合することでつくられる。各成分の実質的に均質な分散物が得られる限り、いずれのミキサーを用いてもよい。合わせた成分の水中濃度は、好ましくは約40〜50%(重量/重量)とする。このスラリーの粘度は、容易にポンプ吐出および噴霧ができるように約2,000センチポイズ未満の粘度であるべきである。好ましくは、スラリーの粘度は約1,500センチポイズ未満であるべきである。得られる実質的に均質なスラリーは、この後に撹拌式保持タンクに移される。保持タンクから、スラリーは、噴霧乾燥機フィードタンクにポンプ輸送される。スラリーはこの後ポンプによってフィードタンクからホモジナイザーに移される。ホモジナイザーは、圧力ノズルを通してスラリーを並流式噴霧乾燥機に供給する。スラリーはこの後噴霧されそして所望の含水量4〜15重量/重量%(好ましくは8〜12重量/重量%)および平均粒子径40〜200マイクロメートル(好ましくは50〜120マイクロメートル)に乾燥される。一方、噴霧乾燥機は次の運転範囲内で運転される。
【表1】

【0017】
乾燥同伴物質はこの後一次サイクロンに通され、乾燥機の底に存在している物質と合わされる。この合わせた生成物はこの後梱包サイクロンに搬送され、単離され、そしてスクリーンを有する篩で篩にかけられて、上述した流動特性を有している最終凝集デンプン生成物が得られる。スクリーン径は、12〜40メッシュ(好ましくは14〜30メッシュ)であるべきである。
【0018】
この二つの方法の内、1)予圧縮型デンプン粉と天然デンプンとの水性スラリーを製造すること;および2)続いてそのスラリーを噴霧乾燥すること;による凝集デンプン組成物の製造の方が、噴霧乾燥により効率および経済性が向上しているので、より好ましい。
【0019】
本発明の凝集デンプン組成物を用いることで、各種の経口摂取型基剤を有利に製造することができる。本発明の凝集デンプン組成物を含んでなるそのような経口摂取型基剤の例としては、説明するためであって限定するためではないが、タブレット剤および充填されたカプセル剤が挙げられ、これらは、好ましくは、活性医薬成分、ビタミン類、ミネラル類および/又はその他の栄養補助食品の一つ以上も含んでいる。これら全ては、当業者に周知なものであるか又は容易に明らかとなるものであろう。このような経口摂取型基剤を製造するのには、標準的なタブレット圧縮法、カプセル充填法を用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下の実施例は、本発明のさらなる理解を得るためのものであって、本発明の有効な範囲を限定しようとするものでは決してない。
【0021】
実施例1:凝集トウモロコシデンプンの製造と特性評価
流動床プロセス(3.0kg)により、純粋トウモロコシデンプンと、(特許文献7)および(特許文献8)の特許に記載されている方法によって調製された予圧縮型トウモロコシデンプン(Colorcon社からStarch1500[登録商標]として販売されている)を凝集させた。処方は、85%のトウモロコシデンプン(Kingsfordデンプン、市販されている純粋なトウモロコシデンプン)と15%のStarch1500とから構成されていた。凝集は、上部噴霧液体送達によるGlatt GPCG−3流動床で行った。トウモロコシデンプンの全体量と一緒に、Starch1500の半分をボウルに入れ、残りはバインダーとして用いるために水に10%固形分濃度で分散させた。
【0022】
入口温度は60℃にコントロールし、噴霧速度は60〜65g/分であった。得られた床温度は噴霧塗布プロセス全体に亘って26〜28℃であった。実際の噴霧時間は35分であった。乾燥は、70℃で、床温度が40℃に到達するまで(約12分)行った。最終生成物は、L.O.D.つまり含水量が8.5%であった。得られた物質は、易流動性であった。
【0023】
また、凝集デンプンのサンプルは、Brookfield粘度について、0.1N HCl(pH1.2)中およびpH6.8リン酸緩衝液中の両方において10%固形分濃度で試験した。凝集デンプンは、pH1.2と6.8のいずれにおいても10センチポイズ未満の粘度を有していたが、Starch1500は、pH1.2と6.8においてそれぞれ25〜40センチポイズと40〜90センチポイズの粘度を有していた。
【0024】
図1に示す圧縮曲線は、凝集デンプン物質について測定したものであり、実際の凝集プロセスで使用した、Starch1500のバッチの圧縮曲線と比較している。得られたデンプンタブレットの重量は225mgであった。凝集デンプン物質は、Starch1500のロットよりもはるかに高い圧縮特性を示した。
【0025】
実施例2:偏光顕微鏡観察
天然トウモロコシデンプン、予圧縮型トウモロコシデンプン粉(Starch1500)、および凝集デンプン生成物の間の差異をさらに特性評価するために、いくつかのサンプルを偏光顕微鏡観察により調べた。インタクトな天然デンプン粒は、偏光下で高度の複屈折を見せる。図2に示す写真は、天然トウモロコシデンプン(A)、Starch1500(B)、および凝集デンプン(C)の複屈折の程度を比較するものである。サンプルは全て1.660屈折率オイル中に調製されている。図2(B)のStarch1500には、複屈折性のインタクトなトウモロコシデンプン顆粒と非複屈折性のガラス質粒子の両方が含まれている。図2(A)の天然トウモロコシデンプンと図2(C)の凝集デンプン生成物の両方が、複屈折性であるインタクトな顆粒の割合が高いことを示している。凝集デンプン生成物の写真は、凝集プロセスの間、顆粒はインタクトなままであることを示している。
【0026】
実施例3:凝集トウモロコシデンプン含有のプロプラノロールHClカプセル
硬質ゼラチンカプセル(サイズ1)に、25%のプロプラノロールHCl、および75%の予圧縮型トウモロコシデンプン(Starch1500)もしくは実施例1の凝集トウモロコシデンプンのブレンドを充填した。図3の溶解試験は、0.1N HCl(pH1.2)中もしくはpH6.8リン酸緩衝液中で行った。
【0027】
凝集トウモロコシデンプンが充填されたカプセルは、0.1N HClとpH6.8リン酸緩衝液のどちらにおいても非常に速い放出を見せたが、Starch1500含有のカプセルは酸媒体中ではより遅く、pH6.8媒体中ではなお一層遅かった。
【0028】
実施例1の凝集デンプン生成物含有のカプセルは、pHに対する感受性が、予圧縮型デンプン粉含有のカプセルよりもはるかに小さかった。
【0029】
比較例A:予圧縮型トウモロコシデンプン粉/天然トウモロコシデンプンのブレンド
図4では、予圧縮型トウモロコシデンプン粉(Starch1500)/天然トウモロコシデンプンのブレンドを用いて実験を行い、単純ブレンドが凝集デンプン生成物と同じ結果を達成することができるかどうかを確定した。実施例3と同じように、カプセル製剤には、25%のプロプラノロールHClと、75%のStarch1500(ST1500)/トウモロコシデンプンブレンド(この比較例では非凝集)を含有させた。結果は、処方中に75%ものトウモロコシデンプンがあっても、pH6.8媒体中では溶解はなお抑えられたものであることを示している。
【0030】
実施例4:凝集トウモロコシデンプンの大規模製造
トウモロコシデンプンNFと予圧縮型トウモロコシデンプン粉(Starch1500)とのスラリーを次のようにして調製した。先ず、USP精製水(2,442kg)を混合タンクに加えた。天然トウモロコシデンプンNF(1,650.9kg)を続いて投入し、そして分散するまで混合した。Starch1500(184.7kg)を最後に加え、得られたスラリーを均質となるまで混合した。水中の全固形分濃度は約43%であり、天然トウモロコシデンプン対Starch1500の比は約9:1であった。スラリーをこの後に撹拌式保持タンクに移した。
【0031】
スラリーを、保持タンクから噴霧乾燥機フィードタンクにポンプ送出した。この後ポンプによってスラリーをフィードタンクからホモジナイザーに移した。ホモジナイザーは、圧力ノズルを介してスラリーを並流式噴霧乾燥機に供給した。スラリーは噴霧され、そして所望の含水量(8〜12重量/重量%)と平均粒子径(50〜120マイクロメートル)の仕様に乾燥した。一方、噴霧乾燥機は次の運転範囲内で運転した。
【表2】

【0032】
乾燥同伴物質はこの後一次サイクロンに通し、乾燥機の底に存在している物質と合わせた。噴霧乾燥の全体時間は約4時間であった。この合わせた生成物をこの後梱包サイクロンに搬送し、単離し、そして20メッシュのスクリーンを有する篩で篩にかけ、最終凝集デンプン生成物を得た。得られた生成物は易流動性の粉で、実施例1に記載されている粉と同じような特性を有していることが確定された。
【0033】
粉の流動性は、次の寸法:
ファネル直径(上部) 14.5cm
ファネル直径(底部) 2.5cm
オリフィス幅(底部) 5.5mm
を有する標準型のファネルとオリフィスが装着されたSOTAX FT300フローテスターを用いて測定した。
【0034】
フローテスターは、(底部オリフィスを閉じて)2回反転し、その後20秒の予振サイクルのある標準混合サイクルにより運転した。ファネルは3の強度設定で振動し、オリフィスは試験の間開口していた。このような条件下で、別々に梱包されている凝集デンプン組成物のドラムから抜き取られた一連のサンプルは、5.7〜6.7グラム/分の平均流動速度を有していた。この粉はまた、粉塵をほとんど発生することなく流動した。対照的に、同じ条件下では、天然トウモロコシデンプンには認識できる流動は示さなかった。すなわち流動速度は0であった。同じ条件下では、予圧縮型トウモロコシデンプンは、3.9グラム/分の平均流動速度を有していて、かなり多くの粉塵を発生した。
【0035】
凝集デンプン組成物の粉流動速度が高いことは、当業者が、工業スケールにおいて、迅速にタブレットを圧縮し、またカプセルを充填することを可能にするので、有利なことである。凝集デンプン組成物が実質的に非粉塵性であるという特性も、カプセル充填作業又はタブレット製作作業の後の清掃が、より粉塵性の組成物が用いられる場合に比べて著しく簡単であるので、これもまた有利なことと考えられる。
【0036】
実施例5〜7および比較例B:天然トウモロコシデンプン対予圧縮型トウモロコシデンプン粉(Starch1500)の比の変動
原料の量および比を変えた以外は実施例4に記載の方法と同じ方法により、凝集デンプンを製造した。これらの実施例・比較例を、以下の表にまとめた。
【表3】

【0037】
実施例4〜6の生成物は易流動性の粉であり、実施例1の生成物と同じような特性を有していた。比較例Bの生成物は凝集の証拠を示すことはなく、流動特性が劣っていた。
【0038】
実施例8:タブレット崩壊時間のpH依存性
実施例5〜7で得られた各生成物を9KNの力で標準凹形タブレット(5/16インチ;タブレット重量225mg)に圧縮した。各タイプからタブレット6個を0.1N HCl(pH1.2)の中に沈め、平均崩壊時間を測定した。次に各タイプから6個の新しいタブレットをpH6.8の緩衝液の中に沈め、平均崩壊時間を測定した。崩壊時間を以下の表の中で比較する。
【0039】
予圧縮型トウモロコシデンプン粉(Starch1500)および凝集トウモロコシデンプンから調製したタブレットの崩壊時間
【表4】

【0040】
Starch1500のみから調製されたタブレットは、pH1.2の媒体中とpH6.8の媒体中ではかなり異なる速度で崩壊するが、実施例5〜7の凝集デンプンから調製されたタブレットの崩壊時間はpHによっては相対的な影響を受けない。したがって、凝集デンプン組成物を用いることで、胃腸管の変化し得るpH環境で実質的に同じ崩壊速度を有する経口摂取型基剤を調製することができる。このpH感受性がないことはまた、活性医薬成分などの放出が、pHが相当に変化することが知られている胃の空腹状態と満腹状態のいずれにおいても実質的に同じであることを保証することになるので、有利なことである。
【0041】
本出願で言及されたそれぞれの特許および刊行物は、参照で本明細書に組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1で調製したタブレット剤の圧縮曲線を示すものである。
【図2】実施例2で議論されている粉についての偏光顕微鏡下での複屈折の程度を示すもので、図中(A)は天然トウモロコシデンプン(Staley社)であり;(B)は予圧縮型トウモロコシデンプン粉(Starch1500)であり;(C)は実施例1の凝集トウモロコシデンプンである。
【図3】実施例3で議論されているプロプラノロールHClカプセルについての溶解曲線を示すものである。
【図4】比較例Aで議論されているプロプラノロールHClカプセルについての比較溶解曲線を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる凝集デンプン組成物。
【請求項2】
天然デンプンがトウモロコシ由来のものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
予圧縮型デンプンがトウモロコシ由来のものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
天然デンプン対予圧縮型デンプン粉の比が約70:30〜約99:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
天然デンプン対予圧縮型デンプン粉の比が約85:15〜約95:5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
平均粒子径が約40〜約200マイクロメートルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
平均粒子径が約50〜約120マイクロメートルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
凝集デンプン組成物が、pH値が約1から約7までの媒体中で実質的に同じ速度で崩壊する、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
組成物が、天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる混合物を流動化すること、および該流動化した混合物に予圧縮型デンプン粉を含んでなるスラリーを噴霧すること、によって製造されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
組成物が、天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなるスラリーを調製すること、および該スラリーを噴霧乾燥すること、によって製造されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
さらに、希釈剤、結合剤、バインダー、溶解度向上剤、pH調節剤、流動促進剤、付着防止剤、流動助剤、潤滑剤、崩壊剤、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の添加剤を含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
さらに活性薬剤を含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなる混合物を流動化するステップと、該流動化した混合物に予圧縮型デンプン粉を含んでなるスラリーを噴霧するステップと、を具備する凝集デンプン組成物の製造方法。
【請求項14】
天然デンプンと予圧縮型デンプン粉とを含んでなるスラリーを調製するステップと、該スラリーを噴霧乾燥するステップと、を具備する凝集デンプン組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の組成物を含んでなる経口摂取型基剤。
【請求項16】
基剤が、pH値が約1から約7までの媒体中で実質的に同じ速度で崩壊する、請求項15に記載の基剤。
【請求項17】
基剤がタブレットである、請求項15に記載の基剤。
【請求項18】
基剤がカプセルである、請求項15に記載の基剤。
【請求項19】
さらに、活性医薬成分、ビタミン類、ミネラル類、又はその他の栄養補助食品の一つ以上を含んでなる、請求項15に記載の基剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−534498(P2008−534498A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503036(P2008−503036)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/009443
【国際公開番号】WO2006/101945
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(507315704)ビーピーエスアイ ホールディングス,エルエルシー. (1)
【Fターム(参考)】