説明

凝集処理装置、凝集処理方法及び薬注制御装置

【課題】凝集処理における無機凝集剤添加量を的確に制御することにより、原水中の凝集阻害物質による凝集阻害を防止し、また、無機凝集剤の過不足を防止して少ない無機凝集剤使用量で安定かつ効率的な凝集処理を行って、溶存アルミニウム及び溶存有機物濃度の低い凝集処理水を得る。
【解決手段】凝集処理水を固液分離して得られる分離液をフィルタで所定の圧力で加圧又は吸引濾過する際に、該分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能と、この濾過性能の経時変化率とを検出し、検出された濾過性能及び濾過性能の経時変化率がそれぞれ予め設定した基準値を満たす場合には、予め定めた基準となる無機凝集剤添加量を維持し、濾過性能及び濾過性能の経時変化率のうちの少なくとも一方が予め設定した基準値を満たさない場合には無機凝集剤添加量の調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然水を原料とする用水処理や、工場排水又は下水等を処理する廃水処理において、原水に無機凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質、コロイダル成分や有機物質を凝結させる凝集処理装置及び凝集処理方法と、そのための薬注制御装置に係り、特に、この凝集処理における無機凝集剤添加量を適切に制御することにより、凝集阻害、無機凝集剤の過不足を防止して安定かつ効率的な凝集処理を行う凝集処理装置及び凝集処理方法と、そのための薬注制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天然水を原料とする用水処理や、工場排水又は下水等を処理する廃水処理においては、原水に凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質、コロイダル成分や有機物質を凝結かつ粗大化させた後、沈殿、浮上、濾過、膜濾過等により固液分離することが行われている。
【0003】
凝集処理は、後段に位置する沈殿、浮上、濾過、膜濾過等の固液分離効率を高めるためのものであり、凝集剤としては、一般にアルミニウム塩や鉄塩等の無機凝集剤が用いられる。また、無機凝集剤で凝結した粒子を更に粗大化させるための凝集補助剤として高分子凝集剤が併用される場合も多い。
【0004】
凝集処理における凝集効率の向上のためには、添加した凝集剤としての無機凝集剤や凝集補助剤としての高分子凝集剤を原水中に円滑に拡散移動させて、凝集対象物と接触、衝突させる頻度を増加させることが重要であり、このため、一般的には撹拌手段を備える凝集槽(以下「撹拌槽」と称す場合がある。)が用いられ、凝集剤を添加した原水を撹拌下に凝集処理することが行われている。撹拌槽には、一般に原水中の凝集対象物と凝集剤とを接触、衝突させるための撹拌を行う急速撹拌槽と、凝集ないし凝結した粒子を粗大化させるための撹拌を行う緩速撹拌槽とに区分される。撹拌手段としては、撹拌翼を用いるものや水路を迂回させて原水を撹拌する構造のものが一般的である。また、ポンプやスタティックミキサーを用いて配管移送中に撹拌する方法も用いられており、これを撹拌槽と併用する例もある。
【0005】
しかし、無機凝集剤による凝集ないし凝結作用は、原水中に存在するフミン質や、藻類が生産する細胞内外の代謝産物等の天然有機物や界面活性剤等の合成化学物質等により阻害を受け、凝集ないし凝結速度が遅くなったり、凝集不良に到ったりする。
【0006】
従来、この凝集阻害を防止する方法としてpHの最適化が行われており、pH計と酸やアルカリ剤のpH調整剤の添加ポンプとを連動させて自動的にpH調整することが行われている。しかしながら、pH調整のみでは、安定な凝集処理を行うことはできない。
【0007】
従来においては、天然水や排水中に含まれるフミン質等の天然有機物や界面活性剤等の合成化学物質が凝集阻害を引き起こす機構は十分には解明されていない上に、これらの阻害物質の同定もなされていない。このため、用水や廃水処理では、最適な凝集条件を設定するために、別途ジャーテスターを用いて凝集剤の添加濃度やpHを決定する操作が必須となるが、このような操作は一般に煩雑な操作と長い時間を要し、このために、原水の水質変動に対応し得ず、決定した凝集剤添加量やpH調整値を即時的に反映することができない結果、凝集不良を招くことが多い。
【0008】
このようなことから、現状においては、凝集剤添加量を予想される必要添加量の上限値よりも予め高く設定し、凝集剤の過剰添加により凝集不良を防止する方法が採用されているが、このように凝集剤を過剰に添加することは、薬剤コストの高騰のみならず、汚泥発生量の増加につながり、好ましいことではない。
【0009】
一方、凝集処理水を精密濾過(MF)膜、限外濾過(UF)膜、ナノ濾過(NF)膜、或いは逆浸透(RO)膜を用いて膜分離処理する場合、未凝集の溶存アルミニウムや溶存有機物濃度が高い水をこれらの膜分離装置に供給すると、膜面の汚染を引き起こし十分な膜性能が得られず、経済性を著しく阻害することになることから、膜分離処理の前段の凝集処理には、未凝集の溶存アルミニウムや溶存有機物をできるだけ減少させる凝集操作が必要とされる。
【0010】
なお、特公平6−103296号公報には、原水への凝集剤添加率や撹拌時間、撹拌速度の組み合せにおいて、最適条件を設定するためのジャーテストを自動的に行うための試験装置が提案されているが、この装置はジャーテスターであり、試験結果を実際の撹拌槽に反映して凝集処理を行うためのものではない。
【0011】
また、特許第3205450号公報には、撹拌槽内の凝集フロックの粒径と溶解性有機物の紫外吸光度を測定し、これらの結果に基いて凝集剤添加量を制御する薬注装置が提案されている。この装置では、撹拌槽内の溶解性有機物濃度、即ち、凝集剤が添加され撹拌されている凝集液の溶解性有機物濃度を検出し、これを凝集フロックの粒径の検出値と共に、凝集剤添加量の制御の指標としているが、十分に満足し得る凝集結果が得られているとは言えず、より一層の改善が望まれている。
【特許文献1】特公平6−103296号公報
【特許文献2】特許第3205450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、凝集処理における無機凝集剤添加量を的確に制御することにより、原水中の凝集阻害物質による凝集阻害を防止し、また、無機凝集剤の過不足を防止して少ない無機凝集剤使用量で安定かつ効率的な凝集処理を行って、溶存アルミニウム及び溶存有機物濃度の低い凝集処理水を得るための凝集処理装置及び凝集処理方法と薬注制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、凝集操作と処理水中の溶存アルミニウム及び溶存有機物との関係について精査したところ、凝集処理水を固液分離した試料水の一定量をフィルタを用いて濾過するに要する濾過時間を最小にする凝集操作条件において、処理水中の溶存アルミニウム及び溶存有機物濃度の値が小さくなることを見出した。また、この条件で凝集処理した水を膜分離装置に供給した場合に、膜汚染が抑止され、高い濾過性能を維持することができることを見出した。
【0014】
本発明は、このような知見に基いてなされたものである。
【0015】
本発明の凝集処理装置は、原水に無機凝集剤を添加して凝集処理する凝集処理装置において、原水に無機凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、凝集処理水を固液分離する固液分離手段と、固液分離手段で分離された分離液を所定の圧力で加圧又は吸引濾過するフィルタと、該フィルタで前記分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該フィルタで前記分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能と、該濾過性能の経時変化率とを検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基いて、前記凝集剤添加手段の無機凝集剤添加量を制御する凝集剤添加量制御手段とを備えてなることを特徴とする。
【0016】
本発明の凝集処理方法は、原水に無機凝集剤を添加して凝集処理する凝集処理方法において、凝集処理水を固液分離して得られる分離液をフィルタで所定の圧力で加圧又は吸引濾過する際に、該分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能と、この濾過性能の経時変化率とを検出し、検出された濾過性能及び濾過性能の経時変化率がそれぞれ予め設定した基準値を満たす場合には、予め定めた基準となる無機凝集剤添加量を維持し、該濾過性能及び濾過性能の経時変化率のうちの少なくとも一方が予め設定した基準値を満たさない場合には無機凝集剤添加量の調整を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明の薬注制御装置は、原水に無機凝集剤を添加して凝集処理する際の無機凝集剤添加量を制御する薬注制御装置において、凝集処理水を固液分離して得られた分離液を所定の圧力で加圧又は吸引濾過するフィルタと、該フィルタで前記分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該フィルタで前記分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能と、該濾過性能の経時変化率とを検出する検出手段と、検出された濾過性能及び濾過性能の経時変化率がそれぞれ予め設定した基準値を満たす場合には、予め定めた基準となる無機凝集剤添加量を維持し、該濾過性能及び濾過性能の経時変化率のうちの少なくとも一方が予め設定した基準値を満たさない場合に無機凝集剤添加量の調整を行う制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、凝集処理における無機凝集剤添加量を的確に制御することにより、原水中の凝集阻害物質による凝集阻害を防止し、また、無機凝集剤の過不足を防止して少ない無機凝集剤使用量で安定かつ効率的な凝集処理を行って、溶存アルミニウム及び溶存有機物濃度の低い凝集処理水を得ることができる。
【0019】
即ち、凝集処理水を固液分離して得られる分離液をフィルタで所定の圧力で加圧又は吸引濾過する際に、該分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能とその変化率とを求め、これらの値が基準値を満たすように無機凝集剤添加量を調整することにより、常に溶存アルミニウムや溶存有機物濃度の低い固液分離水を得ることができる。そして、このことにより、この固液分離水を更に膜分離するMF膜、UF膜、NF膜、又はRO膜を用いた膜分離工程において膜を汚染させる要因を少なくさせることができる。また、膜分離の膜濾過流束を高く設定することができ、経済性を高めることができる。特に、NF膜やRO膜を用いる場合には、膜面の汚染を防止できるので、ファウリング層内部での過剰な濃度分極現象を制限でき、塩類や溶存有機物濃度の低い膜透過水を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
図1,2は、本発明の凝集処理装置を備える水処理装置の実施の形態を示す系統図であり、図3は本発明に好適な濾過時間測定器の一例を示す系統図である。
【0022】
図1,2において、1は原水槽である。2は凝集撹拌槽であり、撹拌機12を備える。3は沈殿槽である。4は凝集剤貯槽であり、薬注ポンプ14を備える。5は制御装置、6は濾過装置、7は中間槽、8は膜分離装置、10は濾過時間測定器であり、この濾過時間測定器10の検出値が制御装置5に入力され、この制御装置5から、薬注ポンプ14の回転数制御信号が出力される。
【0023】
図1において、濾過時間測定器10は凝集撹拌槽2に設けられている。図2において、濾過時間測定器は中間槽7に設けられている。
【0024】
原水は、原水槽1を経て凝集撹拌槽2に導入される。凝集撹拌槽2において、原水は、凝集剤貯槽4の無機凝集剤が薬注ポンプ14により添加されると共に、撹拌機12により撹拌されて凝集処理される。この凝集撹拌槽2への凝集剤添加量は、濾過時間測定器10の検出値に基いて制御される。即ち、例えば、制御装置5において、入力された濾過時間測定器10の検出値を後述の式に代入し、その算出結果に基いて薬注ポンプ14の回転数が制御され、適正量の無機凝集剤が添加される。この薬注ポンプ14としては、市販の可変式定量ポンプ等が用いられる。
【0025】
凝集撹拌槽2内で凝集剤が添加されて撹拌されることにより凝集処理された凝集処理水は、沈殿槽3に導入されて凝結、凝集粒子が沈降分離され、上澄水が取り出され、次いで濾過装置6で更に固液分離される。この濾過装置6としては、砂濾過装置、複層濾過装置、繊維濾過装置等を用いることができる。
【0026】
濾過装置6の濾過水は中間槽7を経て膜分離装置8で膜分離処理され、膜透過水が処理水として取り出される。
【0027】
濾過時間測定器10は、例えば図3に示す如く、試料水を導入するポンプ21と、導入した試料水をメンブレンフィルタ(以下「MF」と略記する。)24で、図示しない加圧又は吸引装置により一定の圧力で加圧又は吸引濾過し、濾過水を濾過水計量槽25に受けた後測定系から排出する構成とされている。この濾過時間測定器10では、所定量の試料水を濾過する毎に、新しいMF面で濾過することができるように、試料水の濾過部は、T24を支持して試料水を濾過するための濾紙フォルダ22と、この濾紙フォルダ22の試料水濾過部にMFを給紙する給紙ユニット23とで構成される。この給紙ユニット23は、MFの送り出しロール23Aと巻き取りロール23Bを有し、送り出しロール23Aから新品のT24を送り出して供給し、巻き取りロール23Bで使用済みMF部分を巻き取る構成とされている。
【0028】
濾過時間測定器10の濾過部で所定の圧力で加圧又は吸引濾過された濾過水は、濾過水計量槽25に受け入れられ、水位計(レベルスイッチ)26の検出値で、所定の濾過水が得られたことを検知したときに、この所定量の濾過水が得られるまでの時間が計測ユニット27で計測される。
【0029】
本発明において、この濾過時間に基く無機凝集剤添加量の制御は、例えば次のようにして行うのが好ましい。
【0030】
即ち、凝集処理水を固液分離して得られる分離液の所定量(例えば500mL)をフィルタ(例えば、直径25〜67mmのフォルダに取り付けられた孔径0.2〜0.45μmのMF)で所定の圧力で加圧又は吸引濾過した際の濾過時間(秒)を検出し、下記(1)式で合計濾過時間Txを算出すると共に下記(2)式で濾過時間変化率Tyを算出し、Tx及びTyがそれぞれ予め設定した基準値以下である場合には、予め定めた基準となる無機凝集剤添加量Mを維持し、Tx及びTyのうちの少なくとも一方が予め設定した基準値を超える場合に無機凝集剤添加量の調整を行うことが好ましい。
合計濾過時間Tx=T1+T2 ‥(1)
濾過時間変化率Ty=T2/T1 ‥(2)
T1:所定量の前記分離液を濾過するに要する時間
T2:T1計測後、次の所定量の前記分離液を濾過するに要する時間
Tx値、Ty値の基準値は、用いるMFの種類や吸引又は加圧濾過条件によって異なり、それぞれの条件に応じて設定されるが、例えば直径47mm、孔径0.45μmのMFを用いて50kPaで加圧又は吸引濾過する場合、Tx値の基準値は、80〜300秒、例えば200秒、Ty値の基準値は1.05〜1.3、例えば1.2に設定することができる。
【0031】
一般的には、Tx値、Ty値が共に基準値以下である場合には、予め定めた無機凝集剤添加量Mにおいて、十分な凝集処理がなされていると判断し、当該無機凝集剤添加量Mで無機凝集剤を添加し、Tx値、Ty値のいずれか一方が基準値を超える場合には、無機凝集剤添加量が不足しているために、凝集不良が起きていると判断し、無機凝集剤添加量を予め定めた無機凝集剤添加量Mよりも多くする。そして、再びTx値、Ty値が共に基準値以下となった場合には、再び無機凝集剤添加量をMに戻す。
【0032】
Tx値、Ty値が基準値を超えた場合に増加させる無機凝集剤添加量は、Mに対して、常に所定の値でも良く、また、Tx値及びTy値が共に基準値を超える場合とTx値及びTy値の一方が基準値を超える場合とで、その増加量を変えても良く、また基準値との差の大小によりその増加量を変えるようにしても良い。
【0033】
ここで、前記TxとTyの2指標を用いて制御する利点は、次の事項に基く。即ち、原水の水源によっては、Txが小さくTyが大きい場合、或いはTxが大きくTyが小さい場合があるが、Txが小さくTyが大きい場合、多くの場合、後段の膜分離工程への障害は小さい。これに対して、Txが大きくTyが小さい場合には、後段の膜分離工程のファウリングをもたらすことが多い。この原因は明確ではないが、凝集処理後の固液分離水に残存する微小な粒子の濾過性に基くものと考えられる。従って、このような原水変動に対しても的確に凝集性を制御するには、TxとTyとの2指標を用いることが有効となる。
【0034】
本発明における濾過時間及びその変化率に基く無機凝集剤添加量の制御方法は、何ら上述の方法に限定されるものではない。例えば、合計濾過時間及びその変化率は、それぞれ下記(1’),(2’)式により算出しても良い。
合計濾過時間Tx=T1+T2+T3 ‥(1)
濾過時間変化率Ty=T3/T1 ‥(2)
T1:所定量の前記分離液を濾過するに要する時間
T2:T1計測後、次の所定量の前記分離液を濾過するに要する時間
T3:T2計測後、次の所定量の前記分離液を濾過するに要する時間
即ち、前記(1),(2)式では、2点の濾過時間の測定値に基いて合計濾過時間とその変化率を求めているが、3点以上の濾過時間の測定値に基いて同様の計算を行って合計濾過時間とその変化率を求めても良い。
【0035】
以上は、濾過性能として、濾過時間を採用し、濾過時間に基く無機凝集剤添加量の制御を行う場合について説明したが、本発明では、凝集処理水を固液分離して得られた分離液を、フィルタにより所定の圧力で加圧又は吸引濾過する際に、所定時間内に濾過し得る濾過水量に基いて無機凝集剤添加量を制御することもできる。
【0036】
この場合に、この濾過水量に基く無機凝集剤添加量の制御は、例えば次のようにして行うのが好ましい。
【0037】
即ち、凝集処理水を固液分離して得られる分離液を所定時間(例えば180分)内にフィルタ(例えば、直径25〜67mmのフォルダに取り付けられた孔径0.2〜0.45μmのMF)で所定の圧力で加圧又は吸引濾過した際の濾過水量(mL)を検出し、下記(3)式で合計濾過水量Wxを算出すると共に下記(4)式で濾過水量変化率Wyを算出し、Wx及びWyがそれぞれ予め設定した基準値以上である場合には、予め定めた基準となる無機凝集剤添加量Mを維持し、Wx及びWyのうちの少なくとも一方が予め設定した基準値を下回る場合に無機凝集剤添加量の調整を行うことが好ましい。
合計濾過水量Wx=W1+W2 ‥(3)
濾過水量変化率Wy=W2/W1 ‥(4)
W1:所定時間内に前記分離液を濾過し得る水量
W2:W1計測後、次の所定時間内に前記分離液を濾過し得る水量
Wx値、Wy値の基準値は、用いるMFの種類や吸引又は加圧濾過条件によって異なり、それぞれの条件に応じて設定されるが、例えば直径47mm、孔径0.45μmのMFを用いて50kPaで加圧又は吸引濾過する場合、Wx値の基準値は、500〜2000mL、例えば1000mL、Wy値の基準値は1.05〜1.3、例えば1.2に設定することができる。
【0038】
一般的には、Wx値、Wy値が共に基準値以上である場合には、予め定めた無機凝集剤添加量Mにおいて、十分な凝集処理がなされていると判断し、当該無機凝集剤添加量Mで無機凝集剤を添加し、Wx値、Wy値のいずれか一方が基準値を下回る場合には、無機凝集剤添加量が不足しているために、凝集不良が起きていると判断し、無機凝集剤添加量を予め定めた無機凝集剤添加量Mよりも多くする。そして、再びWx値、Wy値が共に基準値以上となった場合には、再び無機凝集剤添加量をMに戻す。
【0039】
Wx値、Wy値が基準値を下回った場合に増加させる無機凝集剤添加量は、Mに対して、常に所定の値でも良く、また、Wx値及びWy値が共に基準値を下回る場合とWx値及びWy値の一方が基準値を超える場合とで、その増加量を変えても良く、また基準値との差の大小によりその増加量を変えるようにしても良い。
【0040】
ここで、前記WxとWyの2指標を用いて制御する利点は、前述の濾過時間に基く制御の場合と同様である。即ち、原水の水源によっては、Wxが小さくWyが大きい場合、或いはWxが大きくWyが小さい場合があるが、Wxが小さく、Wyが大きい場合、多くの場合、後段の膜分離工程への障害は小さい。これに対して、Wxが大きく、Wyが小さい場合には、後段の膜分離工程のファウリングをもたらすことが多いためであり、このような原水変動に対しても的確に凝集性を制御するには、WxとWyとの2指標を用いることが有効となる。
【0041】
本発明における濾過水量及びその変化率に基く無機凝集剤添加量の制御方法は、何ら上述の方法に限定されるものではない。例えば、合計濾過水量及びその変化率は、それぞれ下記(3’),(4’)式により算出しても良い。
合計濾過時間Wx=W1+W2+W3 ‥(3’)
濾過時間変化率Wy=W3/W1 ‥(4’)
W1:所定時間内に前記分離液を濾過し得る水量
W2:W1計測後、次の所定時間内に前記分離液を濾過し得る水量
W3:W2計測後、次の所定時間内に前記分離液を濾過し得る水量
即ち、前記(3),(4)式では、2点の濾過水量の測定値に基いて合計濾過水量とその変化率を求めているが、3点以上の濾過水量の測定値に基いて同様の計算を行って合計濾過水量とその変化率を求めても良い。
【0042】
なお、最初の濾過性能(即ち、濾過時間又は濾過水量)の測定時点と次の濾過性能の測定時点との時間間隔は、過度に長いと即時的な無機凝集剤添加量の制御を行えず、過度に短いと測定頻度が高いことにより操作が煩雑となるおそれがあることから、濾過性能の測定時間間隔は5〜30分程度とすることが好ましい。
【0043】
また、濾過性能の測定値に基く無機凝集剤添加量の制御は、0.5〜3時間に1回の頻度で行うことが好ましい。
【0044】
図2に示す水処理装置においては、濾過時間測定器10は、濾過装置6の濾過水、即ち、凝集処理水の固液分離水が導入される中間槽7に設けられているため、図3に示すような濾過時間測定器により、この中間槽7内の水を試料水としてそのまま導入してMFで濾過することにより、無機凝集剤添加量制御のための濾過時間の計測を行うことができる。
【0045】
しかし、濾過時間測定器10を図1に示す如く凝集撹拌槽2に設ける場合、濾過時間測定器10の導入側に更に固液分離手段を設ける必要がある。この場合、例えば、図3に示す濾過時間測定器10の前段に砂濾過カラムや濾過ホルダ等を設ける方法が挙げられる。
【0046】
濾過時間測定器10は凝集撹拌槽2、中間槽7の他、沈殿槽3に設けることも可能であり、この場合においても濾過時間測定器前段の固液分離手段を設けることができる。
【0047】
濾過時間測定器10は、濾過時間の測定を繰り返し行うことができるように、図3に示す如く、フィルタの交換(新しいフィルタ面の付与)が自動的に行える構成であるか、或いはフィルタの自動洗浄が行える構成であることが好ましい。また、濾過時間測定器10は、水の温度補正や粘度補正を行うことができるものであることが好ましい。
【0048】
濾過時間測定器10に用いるMFとしては、測定制御系の環境(水質、温度等)に応じて適切な濾過時間及びその変化率を測定できる範囲で、孔径や膜材質が選択されるが、特にミリポア社製セルロース混合エステル製MF(孔径0.45μm)が好ましく用いられる。
【0049】
また、濾過時間測定器の加圧又は吸引装置についても、測定制御系の環境(水質、温度等)に応じて適切な濾過時間及びその変化率を測定できる範囲で、一定の圧力を付与できるものが選択使用される。
【0050】
濾過時間測定器の代りに濾過水量測定器を設ける場合についても同様である。
【0051】
濾過時間測定器としては、濾過時間を計測できるものであれば良く、図3に示すようなMFを用いた濾過時間測定器の他、MFの汚れ指数を測定するFI計等を用いることもできる。また、濾過水量測定器としても、濾過時間測定器と同様のものを用いることができる。
【0052】
なお、図1,2は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示のものに限定されるものではない。
【0053】
例えば、原水の有機物を検出するセンサとして、市販のTOC計やCOD計、その他、260nm近辺の紫外部単波長のUV計、200nm近傍から700nm近傍の紫外から可視光の領域を走査して広範囲の吸光度を検出するセンサ等を設け、このスペクトルパターンから、更に操作pHや凝集撹拌強度を制御することも可能である。この場合、凝集撹拌槽2内の撹拌強度を調整する装置としては、撹拌翼を駆動するモーターの回転数を制御する装置や、凝集撹拌槽の液体を汲み上げてポンプ循環させる装置及び管路内部で液体を撹拌させるスタティックミキサー等撹拌素子をポンプと連結させた装置が用いられる。
【0054】
また、凝集処理には無機凝集剤と更に凝集補助剤としての高分子凝集剤を併用しても良く、また、この高分子凝集剤の添加量の制御手段を設けても良い。
【0055】
図1,2では、無機凝集剤を凝集撹拌槽2に添加しているが、凝集剤は、凝集撹拌槽2への原水導入配管に注入しても良い。更に、図1,2では、凝集処理水の固液分離手段として沈殿槽3、濾過装置6、及び膜分離装置8を示したが、本発明はこの構成に限らず、沈殿槽、浮上槽、濾過装置、膜濾過装置等の1種又は2種以上の組み合せよりなる固液分離手段の前段の凝集手段として有効に適用可能である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0057】
実施例1
有機物汚染の進んだA河川を水源として凝集・沈殿・砂濾過・膜分離を行う図2に示す水処理装置を用いて、本発明による凝集処理を行い、凝集処理水を、沈殿槽3、砂濾過装置6及びUF膜分離装置7で順次固液分離した。
【0058】
凝集撹拌槽2には、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加した。砂濾過装置6には、有効径0.45mmの濾過砂を600mmの高さに積層したカラムを用いた。また、UF膜分離装置7のUF膜としては、クラレ(株)製の分画分子量13,000、内径1.15mmのポリスルフォン製中空糸膜を用い、濾過流束4m/dで濾過した。
【0059】
濾過時間測定器10には、孔径0.45μmのロール状のMF(ミリポア社製セルロース混合エステルMF)を取り付け、50kPaの加圧濾過時の最初の500mLの試料水(中間槽7内の砂濾過装置6の濾過水)を濾過するに要する濾過時間T1と、その後の500mLの試料水を濾過するに要する濾過時間T2とを計測し、水の粘度補正したそのそれぞれの値から、前述の(1)式及び(2)式に従って、Tx値とTy値を算出した。なお、水の粘度補正は、具体的には25℃の時の粘度をμ25、温度t℃の時の粘度をμとして、その比μ25/μをTx値やT1,T2の値に乗ずることにより行った。
【0060】
用いた濾過時間測定器10は、濾紙フォルダ22を空気シリンダーにより開枠、開閉でき、ロール状のT24を給紙ユニット23によりこの濾紙フォルダ22に順次移送して、常に新しい濾紙面で濾過できる構成のものである。なお、濾過時間は30分間隔で試料水を採水して計測し、3時間に1回の頻度で無機凝集剤添加量の制御を行った。
【0061】
Tx値の基準値を200秒、Ty値の基準値を1.15とし、Tx値及びTy値がいずれも基準値以下の場合は、予めジャーテスターにより定めたPAC添加量を維持し、Tx値及びTy値の一方又は双方が基準値を超える場合には、PAC添加量を増やすようにPAC添加量を制御して凝集処理を行った。
【0062】
このときの通水結果を表1に示した。
【0063】
比較例1
実施例1において、PAC添加量の制御は行わず、PAC添加量固定としたこと以外は同様にして処理を行った。ただし、PAC添加量はジャーテスターで適正添加量を求めることにより、毎日1度の頻度で設定した。このときの通水結果を表1に示した。
【0064】
上記実施例1及び比較例1は、6月に入り、晴天、降雨で水質変動が生じた時期(原水のUV260nmの吸光度が約0.16〜0.19の範囲で変動した時期)に、それぞれ1週間の通水を行ったものであり、実施例1の処理後、UF膜分離装置のUF膜を新品に取り替えて比較例1の処理を実施した。表1中、平均PAC添加濃度は、PAC消費量から算出したものである。また、ΔP上昇速度はUF膜分離装置の膜差圧の上昇速度である。
【0065】
【表1】

【0066】
表1より次のことが明らかである。
【0067】
実施例1では、Tx値及びTy値が予め設定した基準値以下となるようにPAC添加量の制御を行ったことにより、Tx値及びTy値は低い値で推移した。一方、比較例1では、毎日のジャーテストでPAC添加量を設定したが、夜間等原水変動に追随できず、Tx値及びTy値ともに、実施例1の基準値を上回るデータが認められた。
【0068】
原水当たりの平均PAC添加濃度は、実施例1で25mg/Lであったが、比較例1では36mg/Lと過剰になる場合があった。
【0069】
このように、PAC添加量は比較例1の方が実施例1よりも多いにもかかわらず、砂濾過水の水質は、比較例1の方が実施例1よりも悪く、特に、Al濃度が大幅に高い場合があった。そして、この結果、UF膜の差圧上昇速度は実施例1で0.18kPa/dと極めて小さく、濾過性能が安定であったのに対して、比較例1では、UF膜の差圧上昇速度は0.67kPa/dとなり、実施例1と比べて高く、薬品洗浄頻度を高くする必要があると結論付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、天然水を原料とする用水処理や、工場排水又は下水等を処理する廃水処理等の各種水処理における原水の凝集処理に有効に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の凝集処理装置を備える水処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明の凝集処理装置を備える水処理装置の他の実施の形態を示す系統図である。
【図3】本発明に好適な濾過時間計測器の一例を示す系統図である。
【符号の説明】
【0072】
1 原水槽
2 凝集撹拌槽
3 沈殿槽
4 凝集剤貯槽
5 制御装置
6 濾過装置
7 中間槽
8 膜分離装置
10 濾過時間測定器
14 薬注ポンプ
22 濾紙フォルダ
23 給紙ユニット
24 MF(メンブレンフィルタ)
25 濾過水計量槽
26 水位計
27 計測ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水に無機凝集剤を添加して凝集処理する凝集処理装置において、
原水に無機凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、
凝集処理水を固液分離する固液分離手段と、
固液分離手段で分離された分離液を所定の圧力で加圧又は吸引濾過するフィルタと、
該フィルタで前記分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該フィルタで前記分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能と、該濾過性能の経時変化率とを検出する検出手段と、
該検出手段の検出結果に基いて、前記凝集剤添加手段の無機凝集剤添加量を制御する凝集剤添加量制御手段とを備えてなることを特徴とする凝集処理装置。
【請求項2】
原水に無機凝集剤を添加して凝集処理する凝集処理方法において、
凝集処理水を固液分離して得られる分離液をフィルタで所定の圧力で加圧又は吸引濾過する際に、該分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能と、この濾過性能の経時変化率とを検出し、
検出された濾過性能及び濾過性能の経時変化率がそれぞれ予め設定した基準値を満たす場合には、予め定めた基準となる無機凝集剤添加量を維持し、該濾過性能及び濾過性能の経時変化率のうちの少なくとも一方が予め設定した基準値を満たさない場合には無機凝集剤添加量の調整を行うことを特徴とする凝集処理方法。
【請求項3】
原水に無機凝集剤を添加して凝集処理する際の無機凝集剤添加量を制御する薬注制御装置において、
凝集処理水を固液分離して得られた分離液を所定の圧力で加圧又は吸引濾過するフィルタと、
該フィルタで前記分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該フィルタで前記分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能と、該濾過性能の経時変化率とを検出する検出手段と、
検出された濾過性能及び濾過性能の経時変化率がそれぞれ予め設定した基準値を満たす場合には、予め定めた基準となる無機凝集剤添加量を維持し、該濾過性能及び濾過性能の経時変化率のうちの少なくとも一方が予め設定した基準値を満たさない場合に無機凝集剤添加量の調整を行う制御手段とを有することを特徴とする薬注制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−55804(P2006−55804A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242579(P2004−242579)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】