説明

凝集剤及びその製造方法

【課題】土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料の特性を生かしつつ、凝集効果に優れる液状の凝集剤及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料中の鉱物粒子集合体を破壊して得られる単位粒子を主成分とし、該単位粒子中の含水アルミニウムケイ酸塩構造は破壊されずに残存しており、該単位粒子が水中に存在しており、且つ該単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有することを特徴とする凝集剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集剤及びその製造方法に関し、詳しくは土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料から得られる単位粒子自体の自己凝集性を利用した凝集剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理用凝集剤として代表的なものは、多価金属塩、多価金属の水酸化物クラスター、ポリケイ酸イオン、ポリケイ酸イオンと多価金属の水酸化物クラスターの複合体、合成高分子化合物などがある。
【0003】
これらは何れも化学合成物であり、多価金属塩、多価金属塩の水酸化物クラスター、合成高分子化合物などはそれ自体生理活性であることが多く、大量に使用した場合には未反応の凝集剤成分の処理水への残留による環境影響が懸念されることもある。
【0004】
また、処理対象水中の懸濁物質が、土や堆積物由来の微細鉱物である場合、使用量によっては、多価金属塩、多価金属の水酸化物クラスター、ポリケイ酸イオン、ポリケイ酸イオンと多価金属の水酸化物クラスターの複合体、合成高分子化合物などによって凝集させた凝集体の組成は懸濁物質の組成とは大きく異なることとなり、凝集沈殿物の処理や資源としての再利用の制限要因となることがある。
【0005】
更に、アルカリ土類金属の炭酸塩や酸化物、水酸化物などを原料とする凝集剤またはそれらを原料の一部として含む凝集剤は、凝集剤自体の生理活性は低いものの、処理水のpHを上昇させたり、凝集沈殿物がアルカリ性であるため、処理や再利用に不都合となることがある。
【0006】
このような欠点を補うため、特許文献1には、火山灰土壌や浮石風化物を原料とした凝集剤も開発されている。この凝集剤は、火山灰土壌や浮石風化物を原料としているので、処理水中に残留したとしても環境影響が小さく、凝集沈殿物の処理および再利用が容易となる効果がある。
【特許文献1】特開2002−136978
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、火山灰土壌や浮石風化物を摩砕処理によって表面積を大きくし、帯電部位を多く出現させることによって、処理対象水中の懸濁物質のゼータ電位を中和し、ゼータ電位を±10mvの範囲に入るようにする。その中和によって粒子間引力が表面電荷の反発力を上回り、粒子は互いに結合する。つまり、懸濁粒子のゼータ電位の中和のために摩砕処理された粉末を使用している。
【0008】
しかし、かかる特許文献1の技術では、摩砕処理により粒子をサブミクロンに微小化することは困難であり、反応表面積の増加には限界があるため、その結果として電荷中和のために大量の当該凝集剤を添加する必要がある。
【0009】
また、摩砕処理によって原料中のシルトないし砂サイズの鉱物粒子、たとえばセキエイ、チョウセキや火山ガラス等が微細化し、これらが新たな懸濁粒子として、つまり濁質として処理対象水に加えられる、含水アルミニウムケイ酸塩の構造が破壊されるため、アルミニウムがイオンとして溶出しやすくなるなどの問題点がある。
【0010】
さらに摩砕処理して粉体として使用しているので、事前に大量に生産することが困難で実用性に欠ける問題がある。即ち、使用前に大量に生産して保管しておくと、環境湿度によって固形化してしまい、使用時に再度粉末化しなければならない煩雑さがあり、実用性に欠けていた。
【0011】
そこで、本発明の課題は、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料の特性を生かしつつ、凝集効果に優れる液状の凝集剤及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0014】
(請求項1)
土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料中の鉱物粒子集合体を破壊して得られる単位粒子を主成分とし、該単位粒子中の含水アルミニウムケイ酸塩構造は破壊されずに残存しており、該単位粒子が水中に存在しており、且つ該単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有することを特徴とする凝集剤。
【0015】
(請求項2)
前記単位粒子が水中で分散あるいは緩く会合していることを特徴とする請求項1記載の凝集剤。
【0016】
(請求項3)
前記単位粒子が水中で分散あるいは緩く会合した状態を維持するようにpH調整剤が添加されることを特徴とする請求項2記載の凝集剤。
【0017】
(請求項4)
前記分散あるいは緩い会合状態にある単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有するようにpH又は共存塩類濃度を調整していることを特徴とする請求項1、2又は3記載の凝集剤。
【0018】
(請求項5)
土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料を採取後選別する工程と、
前記鉱物原料を分散処理用容器に入れて水を加えた状態で、攪拌法、振動法又は振とう法により鉱物粒子集合体を破壊して単位粒子を得る工程とを有する凝集剤の製造方法であって、
前記単位粒子を得る工程で鉱物原料中の鉱物粒子集合体を破壊する際に、単位粒子中の含水アルミニウムケイ酸塩構造を破壊しない範囲で攪拌法、振動法又は振とう法から選ばれる一つの方法またはこれらを組み合わせた方法を選択採用することを特徴とする凝集剤の製造方法。
【0019】
(請求項6)
前記単位粒子が水中で分散あるいは緩い会合状態を維持するようにpH調整剤を添加することを特徴とする請求項5載の凝集剤の製造方法。
【0020】
(請求項7)
水中に分散あるいは緩い会合状態にある単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有するようにpH又は共存塩類濃度を調整することを特徴とする請求項5又は6記載の凝集剤の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、単位粒子中の含水アルミニウムケイ酸塩構造は破壊されずに残存しているために、凝集原料が本来もっている凝集効果を最大限に発揮でき、そのため添加量も非常に少なくてすむ効果がある。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、前記単位粒子が水中で分散あるいは緩い会合状態にあるので、反応性がよく凝集効果を瞬時に発揮できる効果がある。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、前記単位粒子が水中で分散あるいは緩い会合状態を維持するようにpH調整剤が添加されているので、品質を維持しながら長期間の安定保存が可能である。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、該分散あるいは緩い会合状態にある単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有するので、懸濁粒子は自己凝集した単位粒子集合体に付着あるいは包接されて凝集沈降するので、懸濁粒子の電荷に影響されることが少ない効果がある。さらに、過剰に添加した場合においても未反応の凝集剤が処理水中に残存することがない。
【0025】
請求項5記載の発明によれば、前記単位粒子を得る工程で鉱物原料を破壊する際に、単位粒子中の含水アルミニウムケイ酸塩構造を破壊しない範囲で攪拌法、振動法又は振とう法から選ばれる一つの方法またはこれらを組み合わせた方法を選択採用するので、従来の摩砕処理と異なり、原料中のシルトないし砂サイズの鉱物微粒子が微細化し、これらが新たな懸濁粒子となって処理対象水に加えられることがない。
【0026】
請求項6記載の発明によれば、単位粒子が水中で分散あるいは緩い会合状態を維持するようpH調整剤を添加しているために、凝集安定性を長時間維持できる効果がある。
【0027】
請求項7記載の発明によれば、該分散あるいは緩い会合状態にある単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有するようにpH又は共存塩類濃度を調整しているので、確実に自己凝集性を実現し、懸濁粒子の凝集沈降を安定して実現できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
本発明に係る凝集剤の製造方法の第1の工程は、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料を採取後選別する工程である。
【0030】
本発明で用いる凝集剤の主原料は、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料であればよく、例えば赤黄色土、赤色土、黒ボク土、および玄武岩、火山灰、軽石等の風化物などが挙げられる。
【0031】
なお、その大部分が水処理に不都合な程度の石礫からなるものは好ましくなく、また、処理水の有機物含量について制限のある場合には、腐植物質含量の高いものは好ましくない。
【0032】
第2の工程は、前記鉱物原料を分散処理用容器に入れて水を加えた状態で、攪拌法、振動法又は振とう法により破壊して単位粒子を得る工程で、前記単位粒子を得る工程で鉱物原料中の鉱物粒子集合体を破壊する際に、単位粒子中の含水アルミニウムケイ酸塩構造を破壊しない範囲で攪拌法、振動法又は振とう法から選ばれる一つの方法またはこれらを組み合わせた方法を選択採用することである。
【0033】
採取した土や岩石(火山放出物を含む)の風化物は、強固に結合した鉱物粒子集合体である場合や、結合が比較的弱い鉱物粒子集合体である場合がある。
【0034】
結合力の程度によって、攪拌法、振動法又は振とう法から選ばれる一つの方法またはこれらを組み合わせた方法を選択使用すればよい。
【0035】
攪拌法としては、スターラー、攪拌翼、水中ポンプ、水中ミキサーによる攪拌などが挙げられ、振動法としては、高周波バイブレーター、音波による振動などが挙げられ、振とう法としては、往復振とう、旋回振とうなどが挙げられる。
【0036】
土や岩石風化物に含まれる鉱物微粒子の主体は含水アルミニウムケイ酸塩であり、それらは機械的な摩砕によって容易に構造破壊されてしまう。その結果、アルミニウムがイオンとして溶出しやすくなるなどの問題を生ずる。そのため原料となる土や岩石風化物を機械的に摩砕することは好ましくない。
【0037】
本発明の上記方法を採用すると、従来の摩砕処理と異なり、含水アルミニウムケイ酸塩構造を破壊することなく、それらの鉱物粒子集合体だけを破壊して単位粒子を得ることができる。また、原料中に含まれるシルトないし砂サイズの鉱物までも微細化し、それらが新たな懸濁粒子となって処理対象水に加えられることがない。
【0038】
上記の水中での分散処理によって単位粒子が得られ、得られた単位粒子が水に分散あるいは緩い会合状態で存在する本発明の凝集剤が得られる。
【0039】
水の添加量に関しては特別な制限はないが、注入に用いる装置の仕様、製造した凝集剤の輸送コストなどを勘案して決定する。
【0040】
前記単位粒子は、上記の方法で分散処理をすると、添加物がなくても水中で分散しているが、これは基本的には電荷の反発によるものと推定される。
【0041】
かかる分散状態は時間の経過と共に、減少することがあるので、その場合には水中で分散した状態を維持するようにpH調整剤が添加されることが好ましい。
【0042】
本発明において、得られた単位粒子は、懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有することに特徴がある。また懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有するようにpH又は共存塩類濃度を調整することもできる。
【0043】
本明細書において、「自己凝集性」とは、処理対象水から懸濁粒子を除いた水(たとえば処理対象水をメンブランフィルターでろ過して得られる水)に添加したときに、自ら凝集することを意味する。
【0044】
本発明の凝集剤には、性状を調節するための不活性物質、他の種類の凝集剤などを混合することを排除するものではない。
【0045】
次に、本発明の基本的な原理について補充的に説明する。
【0046】
本発明者らは、水中に懸濁した微粒子の凝集機構に関する知見にもとづき、自然環境中に存在する土や岩石(火山放出物を含む)の風化物に含まれる微粒子の分散、凝集現象について検討した。
【0047】
その結果、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物は、その中に含まれる鉱物微粒子集合体を破壊し、鉱物微粒子が単位粒子として分散あるいは緩く会合した状態で存在するようにした上、処理対象水に添加したとき、それら自身が凝集する(自己凝集性)ならば、あるいはpHや共存塩類濃度などを調整して自己凝集性を付与したならば、構成鉱物種を問わず凝集剤として機能しうることを見出した。
【0048】
次に、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物の粒子集合体を破壊したものの凝集剤としての機能をコロイド科学の手法を用いて検討した結果、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物に含まれる鉱物微粒子が懸濁粒子を除外した処理対象水中で凝集するときに、その処理対象水中の懸濁粒子を物理的に取り込んでフロックを形成するという機構が重要であると推定している。
【0049】
加えて、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物中の鉱物微粒子と処理対象水中の懸濁粒子のゼータ電位の符号が逆である場合には、両者の間での静電気的な相互作用によって凝集が促進されることも明らかになった。
【0050】
従来、特開2002−136978に記載のように、異種コロイド粒子の凝集機構としては、懸濁粒子の静電気的な相互作用による表面電荷の中和が最重要と考えられてきた。
【0051】
しかし、本発明の凝集剤においては、例えばカオリン鉱物を主体とする土の鉱物粒子集合体を破壊し、pHを4.5程度に調節することによって調整した凝集剤はそれに含まれる粒子のゼータ電位は負であるにもかかわらず、懸濁物質の主体がイライトであり、そのゼータ電位が同じく負である濁水に対して凝集剤として機能する、というような現象も見出されている。
【0052】
このことから、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物に含まれる鉱物微粒子が処理対象水中で凝集するときに、その処理対象水中の懸濁粒子を物理的に取り込んでフロックを形成するという機構が重要であると推定されるものである。
【0053】
要するに本発明の凝集剤は、土や岩石(火山放出物を含む)の風化物に含まれる鉱物微粒子集合体をできるだけ破壊して単位粒子にし、水中で分散あるいはそれらが緩く会合した状態にあり、処理対象水に投入したとき凝集剤の鉱物微粒子が自ら凝集するような状態に調整したもの、ということができる。
【0054】
自己凝集性はpH又は共存塩類濃度の調整なしでこの性質を有するものについては処理の必要はない。
【0055】
処理対象水中の懸濁物質の正味表面電荷が既知であり、それが正の場合にはpH調整剤を用いてアルカリ性に、処理対象水中の懸濁物質の正味表面電荷負の場合にはpH調整剤を用いて酸性にすることが、凝集促進のためには有利である。
【0056】
しかし、pHは、あくまでも処理対象水に添加したとき自ら凝集する範囲でなければならない。このためのpH調整剤の添加法については特に制限はない。またpH調整剤の種類にも制限はないが、対象水の処理目的や処理水に係る水質基準の確保に適したものを選択することが好ましい。たとえば処理水を飲用に供する場合や河川や下水道に放流する場合、アンモニア水を用いてアルカリ性化すること等は避けるべきである。
【0057】
また、pHはpH試験紙、pHメーターなどを用いて測定するが、その程度は土や岩石(火山放出物を含む)の風化物に含まれる物質の溶解により鉄、アルミニウム、ケイ素などが著しく溶解しない程度であることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により、更に本発明について説明する。
【0059】
実施例1
<本発明凝集剤の製造>
熊本県で採取した有機態炭素含量0.1%の風化火山灰を風乾したものを原料として使用した。原料200gを1L容器に採り、水を少しずつ加えて原料と水とをよく混合しながら全容を1Lとした。その後、2mol/Lの塩酸を加えてpHを4.5に調整し、株式会社カイジョー製T−A4280型音波発生装置を用い、出力200Wで19.5kHzの音波で30分間処理をした。
【0060】
<作製した凝集剤による凝集特性試験>
長期濁水化現象が問題となっているダム湖水を用いて、ジャーテスターによる凝集沈降試験をおこない、供試濁水に対する添加量および攪拌条件(時間・強度)と濁度変化の関係を確認する実験をおこなった。このダム湖水において長期濁水化を引き起こしている原因物質はセリサイトであることが分かっている。
【0061】
(実験手順)
500mlのビーカーに供試濁水を500ml採り、ジャーテスター(JMD−8S,宮本理研工業(株)製)にセットした。攪拌翼の回転数を設定条件に調整し、ビーカー内に設定量の凝集剤をピペットで添加した後、ジャーテスターを稼動させ、設定した回転数および時間で攪拌をおこなった。停止後は静置させ、30秒、1、3、5、10、30分後にピペット等を用いてビーカー内の濁水(水面下1cm)を採取し、積分球濁度計により濁度の測定をおこなった。
【0062】
(実験結果)
1.添加量
濁度114ppm、攪拌翼回転数60rpm、攪拌時間10分の統一条件で、凝集剤の添加量を14、36、74、150、300、700、1,500mg/Lと変化させ、静置10分後の濁度の変化を確認した。
【0063】
実験結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1より、供試濁水に対しては、添加量が150mg/L以上で濁度が10ppm未満となることがわかる。
【0066】
2.攪拌翼回転数
濁度114〜117ppm、凝集剤添加量150mg/L、攪拌時間10分の統一条件で、攪拌翼回転数を30、60、120、170rpmと変化させ、静置10分後の濁度の変化を確認した。
【0067】
実験結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2により、回転数の増加に伴い、10分静置後の上澄み濁度は低下したが、回転数が30rpmと非常に緩やかな攪拌でも、10分後の濁度は10ppm以下となることがわかる。
【0070】
3.攪拌時間
濁度120ppm、凝集剤添加量150mg/L、攪拌翼回転数60rpmの統一条件で、攪拌時間を20秒、1、3、5、10分と変化させ、静置10分後の濁度の変化を確認した。
【0071】
実験結果を表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3より、攪拌時間の増加に伴い、10分後の上澄み濁度は低下したが、5分以上の攪拌で静置10分後の濁度が10ppm未満となることがわかる。
【0074】
<作製した凝集剤による生物影響試験>
(実験手順)
供試濁水中で試験生物(ヒメダカ,Oryzias latipes)を1週間飼育(順化)した後、凝集剤を添加して濁質を凝集沈殿させ、その状態で3週間の生死および症状を観察した。暴露期間中は、水温、DO(溶存酸素濃度)、pHの変化を確認した。
【0075】
試験容器に入れた10Lの濁水に、凝集剤を150mg/Lとなるよう添加し、攪拌して調整した。試験は7日間ごとに試験液の全量を交換する半止水式でおこなった。
【0076】
交換用の試験液は凝集剤を添加するとき(試験開始後7日目)に暴露区と同様の方法で調整しておいた。
【0077】
また、凝集剤投入後の試験液では、1回/日沈殿物を攪拌によって巻き上げた。
【0078】
試験生物数は10尾/試験区、試験液量は10L/試験区とした。また、ヒメダカへの給餌として、暴露期間中、ブラインシュリンプ(Artemia salina)幼生を2回/日で適量与えた。なお、脱塩素水道水に本発明凝集剤を添加しない場合を対照区Iとし、また供試濁水に本発明凝集剤を添加しない場合を対照区IIとした。
【0079】
(実験結果)
試験結果を表4、5に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
表4、5より、暴露期間中、試験区において試験生物に死亡はみとめられず、生存率は100%であった。また、本発明品による凝集処理区及び対照区I、IIのいずれでも試験生物に症状は観察されなかった。
【0083】
以上の結果より、凝集剤の生物への影響がないことが確認された。
【0084】
<作製した凝集剤を用いた現地での沈降試験>
(実験手順)
長期濁水化が問題となっている貯水池の取水口付近において、各種凝集剤による効果確認試験をおこなった。取水口地点に試験水槽(12m3)を5基設置し、水中ポンプを用いて貯水池から濁水を汲み上げ、各水槽に10m3注水した。凝集剤添加前の濁水(原水)の採水をおこなった後に、凝集剤をそれぞれ適量添加し、攪拌機(水中ミキサー)により10分間攪拌した。攪拌機を停止し、濁水を静置させて濁度など水質の経時変化を調査した。試験終了後は、処理水と凝集沈殿物について有害物等の分析を実施し、生態への影響を確認した。沈降試験は2週間×2バッチおこなった。
【0085】
各水槽に添加した凝集剤の概要と添加量を表6に示す。
【0086】
【表6】

【0087】
(実験結果)
1.水質測定
凝集剤添加前から添加後にかけて、多項目水質測定器(YSI−6600)により各水槽の水質測定をおこなった。また同時に、ハイロート型採水器を用いて同箇所から採水し、積分球濁度の測定も実施した。測定箇所は表層(水深0.2m)と下層(水深1m)の2箇所であり、測定項目は水温、pH、濁度、DO、電気伝導度の5項目である。
【0088】
2バッチ目の表層での測定結果を表7〜11、図1〜5に示す。
【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
【表9】

【0092】
【表10】

【0093】
【表11】

【0094】
以上の結果より、他の凝集剤と比較して、本発明の凝集効果は非常に優れており、添加前に58.6ppmであった濁度が、静置1時間後には半減以下、同1日後には10ppm、同4日後には1ppmを下回るまで低下した。なお電気伝導度およびpHの変化も非常に小さかった。
【0095】
2.水質分析
試験開始前に原水の水質分析をおこなった。分析は生活環境の保護に関する環境基準(6項目)、人の健康に関する環境基準(26項目)、水産用水基準(2000年版、5項目)について実施した。また、試験終了時に各水槽からバンドン型採水器を用いて処理水を採水し、同項目の水質分析をおこなった。分析試料には表層と下層の等量混合試料を用いた。
【0096】
分析結果を抜粋して表12に示す。
【0097】
【表12】

【0098】
上記表より、各凝集剤による処理水水質を環境基準等と比較すると、A剤が6項目、A剤+PACが3項目、本発明品が2項目、基準を上回る結果となった。
【0099】
しかし、原水が5項目、対照区が6項目超過していること、対照区と比べて同等もしくは低い値を示していることから、凝集剤の添加による水質悪化、有害成分の増加などの環境影響はほとんどないと考えられる。
【0100】
3.凝集沈殿物分析
試験終了後に、各水槽の底部に堆積した凝集沈殿物をスコップ等で採取し、土壌の汚染対策法において特定有害物質に定められている項目についての溶出試験、および貯水池底質の監視項目とアルミニウムについての成分分析をおこなった。
【0101】
分析結果を抜粋して表13、14に示す。
【0102】
【表13】

【0103】
【表14】

【0104】
上記表より、溶出試験においては対照区で鉛、本発明品処理水では鉛とフッ素が検出されているが、何れも環境基準値を下回っており問題ない。
【0105】
また、アルミニウムは何れの凝集剤でも検出されているが、A剤+PACは対照区よりも高い値を示している。成分分析結果から、A剤+PACの沈殿物は対照区および他のものと比較して、強熱減量、含水比、アルミニウムが高い値を示していることがわかる。
【0106】
実施例2
本製品における分散処理の効果を確認するために、熊本県で採取した有機態炭素含量0.1%の風化火山灰の風乾試料を原料として、摩砕処理した凝集剤2種(比較)と分散処理した凝集剤1種(本発明品)を作成し、凝集試験を実施した。
【0107】
(実験手順)
上記の原料を乳鉢で10分間摩砕した粉末試料(乾式摩砕処理)と、乳鉢に原料と原料の4倍の水を加えて水中で摩砕した液体試料(湿式摩砕処理)、および実施例1と同様の操作で分散処理をおこなった液体試料(分散処理(本発明品))の3種類の凝集剤を作成した。
【0108】
濁水試料には長期濁水化が問題となっているダム湖水を使用した。500mlのビーカーに供試濁水を500ml採り、ジャーテスター(JMD−3S,宮本理研工業(株)製)にセットした。攪拌翼の回転数を150rpmに設定し、ビーカー内に各凝集剤200mg/Lを添加した。10分後、攪拌翼回転数を50rpmに設定し、1分間の緩速攪拌をおこなった。停止後は静置させ、3分後、30分後、1、3、6、24時間後にピペットを用いてビーカー内の濁水(水面下1cm)を採取し、濁度の測定をおこなった。
【0109】
(実験結果)
試験結果を表15、図6に示す。
【0110】
【表15】

【0111】
上記表より、分散処理をおこなった本発明品は、攪拌中に凝集反応が進んで大きなフロックを形成していた。そのため、静置後すぐにフロックの沈降が始まり、3分後には上澄みの濁度が0度となった。摩砕処理した2種の比較凝集剤も、攪拌中に微細なフロックを形成しており、凝集効果が認められた。
【0112】
しかし、フロックの沈降速度が遅く、また反応しきれなかった懸濁物質の残留により、24時間後も上澄みに濁りが残っていた。
【0113】
本実験の結果より、比較の摩砕処理よりも、本発明の分散処理をすることにより、凝集効果が発揮されることが確認できた。
【0114】
実施例3
<処理対象水中での自己凝集性の確認>
処理対象水中に懸濁物質が存在しなくても、本発明品自身が凝集沈殿する性質を確認する。
【0115】
(実験手順)
実験には長期濁水化が問題となっている濁度26度のダム湖水を使用した。供試濁水をMILLIPORE製0.45μmのメンブランフィルターでろ過して得た、濁度0度のろ水を処理対象水とした。500mlのビーカーに処理対象水を500mlとり、ジャーテスター(JMD−3S,宮本理研工業(株)製)にセットした。攪拌翼の回転数を150rpmに設定し、ビーカー内に凝集剤200mg/Lを添加した。10分後、攪拌翼回転数を50rpmに設定し、1分間の緩速攪拌をおこなった。停止後は静置させ、凝集状態の確認をした。
【0116】
(実験結果)
本発明品を添加して2分経過後に水中に小さなフロックを形成し始め、10分経過時には平均で3mm程度の大きなフロックを形成していた。
【0117】
本実験より、本発明品の自己凝集性が確認できた。
【0118】
実施例4
<振とう処理による構造維持の確認試験>
火山灰風化物をpH4.5に調節して振とう処理(往復振とう機により24時間振とう処理)によって分散させた本発明試料の透過電子顕微鏡写真を図7に示す。
【0119】
図7の顕微鏡写真より、本発明試料は、粒径5nm程度の単位粒子と、単位粒子の会合体が存在していることが確認できる。
【0120】
この試料の粒子はアロフェンであり,アロフェンは直径5nmの中空球状の単位からなることが知られている。図7の顕微鏡写真より、その中空球状粒子の形態が保全されていることが確認できる。
【0121】
したがって、本発明の振とう処理では、構造は破壊されていないことがわかる。
【0122】
<摩砕処理による構造破壊の確認試験>
一方、比較の乾式摩砕により、アロフェンが破壊されている否かを確認するために、Kn-P,Ki-Pという2種類のアロフェンを摩砕してX線回折を行なった。その結果を図8に示す。
【0123】
図8において、一番上のチャートが未処理のものでその下に1分間、2分間…5分間摩砕処理をしたもののチャートを示している。
【0124】
アロフェンはカオリナイトよりはるかに摩砕に対する抵抗性が低く、2分間の摩砕によって3.3および2.5Aのピークが微弱になっている(Henmi, T., Nakai, M., Seki, T. and Yoshinaga, N. 1983. Structural changes of allopHanes during dry grinding: Dependence on SiO2/Al2O3ratio. Clay Minerals 18, 101-107.)。
【0125】
図9には、乾式摩砕によるカオリナイトの破壊状態を示す。図9において、Aは原試料、Bは48時間摩砕、Cは96時間摩砕、Dは384時間摩砕処理ものである(粘土ハンドブック,技報堂,1967)。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、建設工事に伴う濁水や河川、沿岸での凌漠汚泥処理、池、湖沼の富栄養化対策、大型のダムや湖沼の長期化濁水対策に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】水質測定結果(濁度)を示すグラフ
【図2】水質測定結果(水温)を示すグラフ
【図3】水質測定結果(電気伝導度)を示すグラフ
【図4】水質測定結果(DO)を示すグラフ
【図5】水質測定結果(pH)を示すグラフ
【図6】比較実験結果を示すグラフ
【図7】本発明試料の透過電子顕微鏡写真
【図8】比較の摩砕処理の場合におけるX線回折図
【図9】乾式摩砕によるカオリナイトの破壊状態を示す写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料中の鉱物粒子集合体を破壊して得られる単位粒子を主成分とし、該単位粒子中の含水アルミニウムケイ酸塩構造は破壊されずに残存しており、該単位粒子が水中に存在しており、且つ該単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有することを特徴とする凝集剤。
【請求項2】
前記単位粒子が水中で分散あるいは緩い会合状態にあることを特徴とする請求項1記載の凝集剤。
【請求項3】
前記単位粒子が水中で分散あるいは緩い会合状態を維持するようにpH調整剤が添加されることを特徴とする請求項2記載の凝集剤。
【請求項4】
前記分散あるいは緩い会合状態にある単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有するようにpH又は共存塩類濃度を調整していることを特徴とする請求項1、2又は3記載の凝集剤。
【請求項5】
土や岩石(火山放出物を含む)の風化物からなる含水アルミニウムケイ酸塩微粒子を主体とする鉱物原料を採取後選別する工程と、
前記鉱物原料を分散処理用容器に入れて水を加えた状態で、攪拌法、振動法又は振とう法により鉱物粒子集合体を破壊して単位粒子を得る工程とを有する凝集剤の製造方法であって、
前記単位粒子を得る工程で鉱物原料中の鉱物粒子集合体を破壊する際に、単位粒子中の含水アルミニウムケイ酸塩構造を破壊しない範囲で攪拌法、振動法又は振とう法から選ばれる一つの方法またはこれらを組み合わせた方法を選択採用することを特徴とする凝集剤の製造方法。
【請求項6】
前記単位粒子が水中で分散あるいは緩く会合した状態を維持するようにpH調整剤を添加することを特徴とする請求項5載の凝集剤の製造方法。
【請求項7】
水中に分散あるいは緩く会合した状態にある単位粒子が懸濁物質を除外した処理対象水中で自己凝集性を有するようにpH又は共存塩類濃度を調整することを特徴とする請求項5又は6記載の凝集剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−12487(P2008−12487A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188649(P2006−188649)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(393003837)株式会社アステック (7)
【Fターム(参考)】