凝集沈殿処理を行う水処理方法における凝集剤注入率の決定方法及び装置
【課題】凝集沈殿処理を行う水処理方法において、短時間で自動的に適正な凝集剤注入率を決定することが可能な凝集剤注入率の決定方法及び装置を提供する。
【解決手段】所定量の原水を入れるための試験用水槽1A〜1Dと、給水ポンプ7と、原
水および洗浄水の給排水弁4,6と、撹拌器3A〜3Dと、凝集剤注入部21と、フロックの粒径と粒子数とを測定する検出器30等で構成される凝集分析装置によって、当該試験用水槽に凝集剤20を注入してから、撹拌によって凝集剤が分散し、粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定し、その集塊化開始時間に基づいて、凝集剤注入率を決定、あるいは凝集剤注入量を制御する。
【解決手段】所定量の原水を入れるための試験用水槽1A〜1Dと、給水ポンプ7と、原
水および洗浄水の給排水弁4,6と、撹拌器3A〜3Dと、凝集剤注入部21と、フロックの粒径と粒子数とを測定する検出器30等で構成される凝集分析装置によって、当該試験用水槽に凝集剤20を注入してから、撹拌によって凝集剤が分散し、粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定し、その集塊化開始時間に基づいて、凝集剤注入率を決定、あるいは凝集剤注入量を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、河川水や湖沼水等の表流水、工業用水、下水、汚泥、工場廃水などを処理するための凝集沈澱処理において、凝集剤注入率(被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率)を決定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
急速ろ過方式を採用した浄水場では、一般的に凝集剤を注入するとともに急速撹拌を実施する混和池と、混和池で生成された凝集体(フロック)を成長させるフロック形成池と、成長したフロックを沈澱除去するための沈殿池と、沈澱しきらなかった粒子やフロックを除去するろ過池で構成される(特許文献2の図7参照)。
【0003】
急速ろ過方式における重要なポイントは、原水水質に応じて凝集剤の注入率を適正な値に制御し、沈降性のよいフロックを形成することである。不適切な注入率によって凝集処理を行った場合には、沈澱池からのフロックのキャリーオーバや凝集不良により、ろ過池の損失水頭の上昇,逆洗頻度の上昇,微細粒子のろ過池からの流出などの問題が発生する。
【0004】
適正な凝集剤注入率は、原水濁度の他に、アルカリ度,pH,水温などによっても変化し、原水ごとに異なるので、原水濁度を基に一義的に凝集剤注入率を決定することはできない。そのため、従来から浄水場では次のような方法で、凝集状況の判定や、凝集剤注入率の決定、あるいは制御を行っている。
(1)ジャーテスト
処理すべき原水の一定量を幾つかのビーカーに採取し、ビーカーごとに注入率を段階的に変化させて、急速撹拌と緩速撹拌とにより凝集反応を起こし、所定の時間だけ静置させた後の上澄み水濁度やフロックの沈降状況を判定して、凝集剤注入率を決定する方法である(特許文献2の図8参照)。
【0005】
これらの作業は一般的に手分析で行われるが、特許文献1に記載されているように原水の採水から、凝集剤の注入や、撹拌機の回転数および回転時間の設定、上澄み水濁度の測定までを自動的に行うオートジャーテスターなるものも実用化されている(詳細は、特許文献1参照)。
(2)注入率式
原水の濁度やpH,アルカリ度,水温などの水質をパラメータとして、適正な凝集剤注入率との関係を表した注入率式に基づいてフィードフォワード制御するものである。注入率式はジャーテストや実施設の沈澱水濁度などを基に経験的な方法で定められる。この方式の発展形として、沈澱水濁度の測定値に基づいたフィードバック制御の組み込みや、オペレータによるジャーテストの結果と実施設の運用実績に近づけるようにファジーやニューロによる制御を利用する例もある(特許文献2の段落[0006]および[0007]8参照)。
(3)凝集センサ
特許文献2に開示された発明の方法のように被測定流体の流れに対して光ビームを照射し、その透過光量の平均値と標準偏差とからフロックの平均粒径と個数濃度を求めるとともに、平均粒径が適正な値となるように凝集剤注入率を制御する方法である(詳細は、特許文献2参照)。
【0006】
なお、本発明に関連する技術を開示する下記特許文献3〜6に関しては、説明の便宜上、後述する。
【特許文献1】特開平2−114178号公報
【特許文献2】特許第3205450号公報
【特許文献3】特許第3672158号公報
【特許文献4】特許第2824164号公報
【特許文献5】特開平10−311784号公報
【特許文献6】特開2002−90284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような方法による凝集状況の判定方法、あるいは凝集剤注入率の決定方法には、次のような課題がある。
【0008】
(1)のジャーテストによる方法は、熟練したオペレータが必要であり、さらにはオペレータによって異なる結果になりやすいという問題がある。また、凝集状況や適正な凝集剤注入率の判定にかかる時間が30分程度と長いため、頻繁なジャーテストの実施は困難であり、実施設の凝集剤注入率への反映が遅れてしまう問題がある。
【0009】
ジャーテストの作業を自動化したオートジャーテスターであれば、オペレータの作業は大幅に軽減されるものの、測定結果を得るためには依然として30分程度必要であり、タイムラグが大きいという課題は解決されない。
【0010】
(2)の注入率式による方法は、原水によって注入率式が異なるので、浄水場ごとに注入率式を管理しなければならず、さらに恒久的にその注入率式を使用できる保証はない。すなわち、取水口より上流側にダムができたり、河岸工事が施工されたりした時や、豪雨の影響などにより、各水質と最適凝集剤注入率との関係は崩れてしまう恐れがあり、場所的、時間的な普遍性がないという問題がある。
【0011】
(3)の凝集センサによる方法は、適正なフロック粒径となるように凝集剤注入率をリアルタイムで自動的に管理することが可能で、(1)のオペレータの問題やタイムラグの問題、(2)の普遍性の問題を解決する方法である。しかしながら、原水水質に応じて適正なフロック粒径は異なるものであり、凝集剤注入率の自動制御を行うためには、あらかじめ原水濁度と最適フロック粒径との関係について、データベースを作成しなければならない。すなわち、四季を通じて凝集センサによるデータを取得しなければならず、正式運用までに時間がかかるという問題がある。
【0012】
以上、浄水場における課題について記してきたが、工業用水、下水や工場廃水における凝集沈澱についても同様な課題があることはいうまでもない。
【0013】
この発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、この発明の課題は、凝集沈殿処理を行う水処理方法において、短時間で自動的に適正な凝集剤注入率を決定することが可能な凝集剤注入率の決定方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の課題を解決するため、この発明は、被処理水に凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行う水処理方法における被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率(凝集剤注入率)を決定する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする(請求項1)。
(1)被処理水を複数個の試験用水槽にそれぞれ所定量採取し、前記各試験用水槽に採取された試料水に対して、それぞれ異なる凝集剤注入率を有する試料水となるように、予め設定した異なる所定量の凝集剤を注入する工程(凝集剤注入工程)。
(2)前記各試料水に凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、各試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を、前記各試料水毎に測定する工程(集塊化開始時間測定工程)。
(3)前記各試料水毎に測定された集塊化開始時間と、前記各凝集剤注入率とに基づいて、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして演算する工程(フィッティングライン演算工程)。
(4)水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値と、前記フィッティングラインとに基づいて、前記水処理設備に対して適正な凝集剤注入率を演算する工程(適正凝集剤注入率演算工程)。
【0015】
また、上記請求項1の発明においては、複数個の試験用水槽を用いているが、下記請求項2の発明のように、1個の試験用水槽を繰返し用いることにより、異なる凝集剤注入率を有する試料水の集塊化開始時間を測定するようにすることもできる。即ち、前記請求項1に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記(1)および(2)の工程に代えて、下記の(1a)、(2a)および(2b)の工程とすることを特徴とする(請求項2)。
(1a)被処理水を単一の試験用水槽に所定量採取し、前記試験用水槽に採取された試料水に対して、予め設定した所定量の凝集剤を注入し、凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定する工程。
(2a)前記工程後、試験用水槽を洗浄水で洗浄し、この洗浄水を試験用水槽から排出後に、再び、被処理水を試験用水槽に所定量採取し、前記工程とは異なる試料水に対して、異なる所定量の凝集剤を注入し、前記集塊化開始時間を測定する工程。
(2b)前記工程と同様の工程を、凝集剤の注入量を変えて複数回行なって、それぞれ異なる凝集剤注入率を有する試料水に対して、それぞれ前記集塊化開始時間を測定する工程。
【0016】
さらに、下記請求項3の発明のように、前記集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関に関して予め実験で求めた関係式等のデータベースを用いる場合には、1個の試験用水槽を用い、1回の集塊化開始時間を測定することにより適正な凝集剤注入率を演算することができる。即ち、被処理水に凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行う水処理方法における被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率(凝集剤注入率)を決定する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする(請求項3)。
(1)被処理水を単一の試験用水槽に所定量採取し、前記試験用水槽に採取された試料水に対して、被処理水の水質に基づいて予め設定した所定量の凝集剤を注入し、凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定する工程。
(2)上記により測定された集塊化開始時間の測定値と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とのズレが、所定幅以内であれば、前記(1)の工程における所定量の凝集剤に相応する凝集剤注入率を適正な凝集剤注入率と決定し、前記ズレが前記所定幅より大きい場合には、下記の手順(21)〜(23)により、適正な凝集剤注入率を演算する工程。
(21)集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関に関して、2個の定数を含む一般式として定め、実験により予め求めたデータベースに基づき、一方の前記定数を、前記被処理水の水質に基づいて定め、1個の定数を含む一般式を求める。
(22)前記1個の定数を含む一般式と、前記集塊化開始時間の測定値および当該測定時の凝集剤注入率とに基づいて、他方の前記定数を求め、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関の演算式を特定する。
(23)前記特定された演算式と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とに基づいて、適正な凝集剤注入率を演算する。
【0017】
また、前記請求項1ないし3の発明の実施態様としては、下記請求項4ないし6の発明が好ましい。即ち、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記集塊化開始時間は、試料水中の粒径区分毎の粒子数を測定し、凝集剤注入前から試料水中に存在する粒子の所定の小粒径区分の粒子に関して測定される粒子数の減少開始時間、もしくは、凝集剤注入後に集塊化が始まることによって前記所定の小粒径区分よりは大きい所定の粒径区分の粒子に関して測定される粒子数の増加開始時間の内の、少なくともいずれか一方の時間から特定されることを特徴とする(請求項4)。
【0018】
さらに、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記集塊化開始時間は、試料水中の粒子の平均粒径と粒子数とを測定し、平均粒径の増大が見られ始める時間をフロック成長開始時間として測定し、フロックとして計数される平均粒子数が増加し始める点をフロック増加開始時間として測定した際に、前記フロック成長開始時間もしくはフロック増加開始時間の内の、少なくともいずれか一方の時間から特定されることを特徴とする(請求項5)。
【0019】
さらにまた、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値は、前記水処理設備が備える混和池における被処理水の滞留時間に基づいて設定されることを特徴とする(請求項6)。
【0020】
なお、上記混和池における被処理水の滞留時間は、実際の水処理施設(実施設)における混和池の容積、処理水量によって決定される。また、実施設における適正な凝集剤注入率は、被処理水(原水)の水質によって刻一刻と変化するので、被処理水を試験用水槽に適宜採取して、適正な凝集剤注入率を変化に応じて決定する必要がある。
【0021】
さらに、凝集剤注入率の決定装置に関する発明としては、下記請求項7の発明が好ましい。即ち、前記請求項1または3に記載の凝集剤注入率の決定方法を実施するための装置であって、攪拌器を備えた少なくとも1個の試験用水槽と、予め設定した異なる所定量の凝集剤を注入する凝集剤注入装置と、集塊化開始時間測定器と、適正な凝集剤注入率の演算を行なう演算装置とを備えることを特徴とする(請求項7)。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、凝集沈殿処理を行う水処理方法において、従来方法より短時間で、かつ自動的に適正な凝集剤注入率を決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態について、図1に基づいて以下に述べ、詳細は実施例の項で述べる。なお、本発明は下記の実施形態や実施例によって限定されるものではない。
【0024】
一般的に凝集沈澱処理においては、図1に示すように、凝集剤注入後の混和池における急速撹拌からフロック形成池における緩速撹拌の工程にかけて、微粒子が集塊し、フロックとして成長していく。このとき、集塊化は混和池において始まっていることが基本であり、前記集塊化開始時間は混和池の滞留時間と同程度の時間であることが重要である。
【0025】
この状況においては、混和池以降の処理が良好に行われ、結果として沈降性の高いフロックが形成され、沈澱水濁度を低減することができる。ここで、集塊化開始時間は、原水の濁度、アルカリ度、pH、水温などの水質と、撹拌強度と、凝集剤注入率との影響を受け、これらの中で、実施設において容易に制御できるのは、凝集剤注入率である。すなわち、凝集剤注入率が適正量より小さければ、集塊化開始時間は、混和池の滞留時間より長くなり、その後のフロック形成に問題が発生する。一方、凝集剤注入率が適正量より大きければ、集塊化開始時間は、混和池の滞留時間より短くなり、凝集剤は過注入の状況となる。本発明では、被処理水(原水)の一部を図1に示す凝集分析装置に通流し、この凝集分析装置において、刻一刻と変化する水質に対して、集塊化開始時間が所定の値になるように凝集剤注入率を制御すれば、ジャーテストのフロックの沈降性や上澄み水濁度の評価、あるいは凝集センサの最適フロック粒径制御と同様の結果を得ることができる。
【0026】
即ち、この凝集分析装置によって集塊化開始時間を測定し、その時間に応じて凝集剤注入率を制御する方法によれば、緩速撹拌から静置の工程が必要ないので、約10分程度で自動的に凝集剤注入率を決定することができる。したがって、ジャーテストのような熟練したオペレータによる作業が削減され、さらに、オートジャーテスターよりもタイムラグの少ない凝集剤注入率制御を実現することが可能である。また、凝集センサのように原水濁度と適正フロック粒径のデータベースを作成する必要がないため、凝集分析装置による凝集剤注入率制御システムは、装置設置後から比較的短期間で実運用に入ることができるという特徴がある。
【0027】
次に、凝集分析装置による集塊化開始時間の測定、および凝集剤注入率の決定、あるいは制御について具体的な方法を以下に記す。
【0028】
本発明における集塊化開始時間の測定には、以下に記す二つの方法のうち少なくとも何れか一方を用いる。第一の方法(以下、微粒子カウント法という。)の微粒子カウント方法については、前記特許文献3に開示された方法と同じである。この微粒子カウント方法は、検出器内を流れる試料水に対して、光ビームを照射し、前方散乱光と、側方散乱光と、後方散乱光と、透過光のうち、少なくとも一つの光を光電変換器にて受光し、所定時間内に光電変換器で変換された電気信号のパルスの数と各パルスの高さとから、粒径区分ごとの粒子数を測定する。本発明の第一の方法は、さらに、粒子数の多い粒径区分については、凝集剤添加開始時から粒子数の減少が見られる時までを粒子数減少開始時間とし、粒子数の少ない粒径区分については、粒子数が増加する点を粒子数増加開始時間とし、粒子数減少開始時間または粒子数増加開始時間のうち、少なくとも一方の時間、あるいは両方の時間を演算した結果を集塊化開始時間として採用する方法である。
【0029】
第二の方法(以下、変動解析法という。)の変動解析方法については、前記特許文献4に開示された方法と同じである。この変動解析方法は、検出器内を流れる試料水に対して、少なくとも一箇所から光ビームを照射し、前方散乱光と、側方散乱光と、後方散乱光と、透過光のうち、少なくとも一つの光を光電変換器にて受光し、所定時間内に光電変換器の出力から変換された電気信号の平均値と標準偏差とから、試料水に含まれる粒子の平均粒径と粒子数とを求める方法である。本発明の第二の方法は、さらに、凝集剤添加開始時から平均粒径の増大が見られ始める時までをフロック成長開始時間とし、凝集剤添加開始時からフロックとして計数される粒子数が増加し始める時までをフロック増加開始時間として測定した際に、フロック成長開始時間またはフロック増加開始時間のうち、少なくとも一方の時間、あるいは両方の時間を演算した結果を集塊化開始時間として採用する方法である。
【0030】
ここで、前記電気信号の平均値と標準偏差とから粒子の平均粒径と粒子数とを求める方法に関しては、特許文献4に記載されている。また、当該特許を応用した例として、特許文献2に記載の方法のように、フロック平均径が適正な粒径となるように、凝集剤注入率を制御する方法もある。しかし、本発明とは以下の点で異なっている。まず、特許文献4および特許文献2に記載の方法では、凝集剤の注入は連続的に行われているため、凝集前の懸濁質粒子は、様々な成長過程のフロックとともに混在している。したがって、特許文献4および特許文献2に係る方法は、本発明で測定する微細粒子の集塊により粒子数が減少し始める時間やフロックの成長開始に伴って、フロックの粒径が増大し始める時間、あるいはフロックの数が増加し始める時間(集塊化開始時間)を測定することができない。そのため、特許文献4および特許文献2に係る方法は、本発明の集塊化開始時間に基づく凝集剤注入率の制御を実現することは不可能であり、本発明の方法と、特許文献4および特許文献2の発明に係る方法とは異なる方法であるといえる。
【0031】
本発明における上記第一の方法、もしくは第二の方法によって、集塊化開始時間とフロックの粒子数や平均径とを測定する装置を凝集分析装置と呼ぶ。
【0032】
本発明における凝集剤注入率を制御する方法としては、以下に記す方法の何れかを用いる。第一の方法は、凝集分析装置によって、複数の異なる凝集剤注入率における集塊化開始時間を測定し、その測定結果から集塊化開始時間と凝集剤注入率との関係式を導き出した後、当該関係式にあらかじめ定めた適正な集塊化開始時間の設定値を代入することで、最適な凝集剤注入率を求める方法である。
【0033】
第二の方法は、原水の濁度とアルカリ度とpHと水温のうち、少なくとも一つの指標をパラメータとした注入率式で、適正と予測される凝集剤注入率をあらかじめ求めておくとともに、当該注入率における集塊化開始時間を凝集分析装置によって測定した際に、当該集塊化開始時間が所定の時間範囲から外れた場合には、あらかじめ定めた集塊化開始時間と凝集剤注入率との関係式によって、集塊化開始時間を所定の時間範囲に収めるための凝集剤注入率の補正量を求める方法である。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
本発明における凝集分析装置は、前記図1に示すように、河川から取水した原水を着水井に送水し、急速混和池にて注入された凝集剤を速やかに撹拌し、フロック形成池にて急速混和池において形成された凝集体をフロックに成長させ、沈澱池でフロックを沈降させ、その上澄み水をろ過池にてろ過する機能を有する浄水プロセスにおいて、着水井からの原水を分岐した配管に設置される。場合によっては、ジャーテストや原水水質の検査を行うことを目的として水質試験室に送水されている原水の配管に凝集分析装置を接続してもよい。
【0035】
ここで、凝集分析装置で測定される集塊化開始時間により決定される適正な凝集剤注入率を浄水プロセスにおける凝集剤注入率に反映することが本発明の特徴である。
【0036】
実施例1における凝集分析装置は、図2に示すように、所定量の原水を入れるための複数(本実施例では4個)の試験用水槽1A〜1Dと、給排水弁2A〜2Eと、撹拌器3A〜3Dと、原水入口弁4と、原水捨水弁5と、水道水入口弁6と、給水ポンプ7と、フィルター8と、フィルター入口弁9と、原水送水弁10と、排水弁11と、越流壁12から溢れた水を排水する配管13が接続された水位調整槽14と、凝集剤20と、凝集剤注入部21と、凝集剤注入管22と、注入管稼動部23と、ステージ24と、フロックの粒径と粒子数とを測定するための検出器30と、採水管31A〜31Dと、採水ポンプ32A〜32Dと、検出器からの電気信号33を解析するとともに機器を制御するためのシーケンサ34と、測定結果の表示や装置の設定条件を入力するためのPOD(Programable operation display)35等で構成される。
【0037】
ここで、検出器30は、特許文献3に開示されたように、試料水に向けて光ビームを照射するためのレーザ、LED、ランプの何れかで構成される光ビーム照射部と、試料水中に含まれる粒子から発せられる前方散乱光か、側方散乱光か、後方散乱光か、透過光の少なくとも一つの光を受光して、電気信号に変換する光電変換器と、変換された電気信号のパルスの数とパルスの高さとから、粒径区分ごとの粒子数を測定する電子回路とで構成される。
【0038】
具体的な粒径と粒子数の測定方法については、半導体レーザを照射部として、前方散乱光を受光する光学系を用いた例として、試料水中の微粒子の数を測定することを目的とした前記特許文献5に記載の方法や、半導体レーザを照射部として、透過光を受光する光学系を用いた例として、特許文献6に記載された方法等がある。なお、本実施例の検出器30としては、上記の微粒子カウント法を用いているが、前記特許文献4に記載された変動解析法による光学系を用いてもよい。
【0039】
次に集塊化開始時間の測定方法について、以下に具体的な手順を記す。
【0040】
まず、試験用水槽1A〜1Dに残っている試料水を排水するため、撹拌器3A〜3D、給水ポンプ7、採水ポンプ32A〜32Dを停止、原水捨水弁5を開、原水入口弁4、水道水入口弁6、フィルター入口弁9、原水送水弁10を閉、給排水弁2A〜2E、排水弁11を開とする(以下、試料水排水工程という。)。
【0041】
試料水が試験用水槽1A〜1Dから排水された後、水道水入口弁6,フィルタ入口弁9を開き、水道水が水道水入口弁6を介して、給水ポンプ7で送水され、フィルター入口弁9を介して、フィルタ8で微粒子が除去された水(以下、洗浄水)となる。この洗浄水は、給排水弁2A〜2Eを介して、試験用水槽1A〜1Dおよび水位調整槽14に送水される。なお、排水弁11は閉とし、これにより、試験用水槽には徐々に洗浄水が溜まり、図3の試験用水槽を側面から見た図に示すように、試験用水槽からオーバーフローした水が配管15A〜15D(図示は15Aのみ)を介して排水される(以下、洗浄水送水工程という。)。
【0042】
ここで、オーバーフローの高さは、越流壁12の高さで規定される水面より高い位置にしなければならない。また、流量スイッチあるいは出力機能つき流量計16を設けておけば、試験用水槽が満水になったことを自動的に検知することができる。なお、本工程において、撹拌器3A〜3Dを動作させておくことにより、試験用水槽を洗浄するようにすれば、原水の濁度や色度が高いときに有効である。
【0043】
洗浄水送水工程の後、すなわち、十分に洗浄水が当該試験用水槽に送水された後は、採水ポンプ32A〜32Dを稼動し、検出器30にて洗浄水の測定が行われる。このときに光電変換器で測定される電圧レベルや、微粒子が光ビームを通過する際に発生するパルスの数や高さを変換して得られる粒径と粒子数の情報を記憶しておけば、光学系の汚れや、フィルターの劣化などを判断することができ、さらには光量の補正を行うことができる(以下、ゼロ水測定工程という。)。
【0044】
ゼロ水測定工程が終了したら、排水弁11を開、給水ポンプ7を停止、フィルター入口弁9,原水送水弁10,水道水入口弁6を閉として試験用水槽および水位調整槽内の洗浄水を排水し(以下、洗浄水排水工程)、原水入口弁4、原水送水弁10を開、原水捨水弁5を閉、給水ポンプ7を稼動、排水弁11を閉、給排水弁2A〜2Eを開とする(以下、原水送水工程という。)。
【0045】
試験用水槽が原水で満たされた後、すなわち、所定の時間が経過するか、流量スイッチあるいは出力機能つき流量計16により、試験用水槽が満水になったことを検知した後に、給水ポンプ7を停止、原水送水弁10,原水入口弁4を閉、原水捨水弁5を開とする。すると、各試験用水槽の水位は水位調整槽14の越流壁12の高さとなり、毎回の試験で同じ容量の試験水が規定される。そして、給排水弁2A〜2Dを閉じる(以下、水位調整工程という。)。
【0046】
ここで、越流壁12は、場合に応じて高さの異なる材料を使用することにより、試験水の容量を変更することができる。
【0047】
水位が調整された後は、撹拌器3A〜3Dを所定の回転数で稼動させる。次に採水ポンプ32A〜32Dを稼動させ、検出器30で原水の粒子数あるいは濁度を測定し、その値に基づいて、試験用水槽1A〜1Dにおける各凝集剤注入率の範囲をそれぞれ設定しておく。このとき、採水ポンプ32A〜32Dの排水は試験用水槽に戻してもよい。原水の測定を所定の時間実施した後は、定量ポンプあるいはシリンジポンプで構成される凝集剤注入部21により、試験用水槽1A〜1Dの順番に凝集剤20が注入される。このとき凝集剤注入管22は、注入管稼動部23に接続され、ステージ24上を移動することにより、各試験用水槽に対して、前記測定により決定された所定量の凝集剤が注入されていく(以下、凝集剤注入工程という)。
【0048】
凝集剤が注入されると、撹拌によって凝集剤が分散され、粒子の集塊化が始まる。このとき、検出器30で測定される粒子数の挙動を示したものが図4である。すなわち、本実施例で用いた原水では、1〜3μmの粒子数が多く含まれているため、凝集剤注入前から、検出器30でカウントされているが、凝集剤注入後3分程度で、集塊化が始まり、1〜3μmの粒子数が減少に転じる。そして、凝集剤注入前にはほとんど存在しなかった3-7μmの粒子数が増加する。これは、粒子が集塊し、マイクロフロックが形成されたことを示している。さらに時間が経過するとマイクロフロックはさらに大きなフロックに成長していくため、3-7μmの粒子数が減少に転じると同時に、7-10μm、10-15μmの区分の粒子数が順次増加していく。
【0049】
ここで、本装置において、原水中に多く含まれている粒径に関する粒子数は、任意に選択できるが、本実施例で用いた原水の場合は、1〜3μmが適している。ここで、図5に示すように粒子数が減少し始める時間を粒子数減少開始時間と定義できる。本装置では検出器から電気信号33を介して、シーケンサ34に粒子数が出力されるので、シーケンサにて粒子数減少開始時間を判定し、記憶しておく。一方、原水中にあまり含まれていない粒径に関する粒子数も任意に選択でき、本実施例の場合は、3〜7μmが適している。ここで、図6に示すように、粒子数が増加し始める時間を粒子数増加開始時間と判断し、当該時間をシーケンサにて記憶しておく(以下、集塊化開始時間測定工程という。)。
【0050】
なお、前記粒子数減少開始時間か粒子数増加開始時間かのどちらか一方を、集塊化開始時間とするか、あるいは双方の平均値を集塊化開始時間とするかは、あらかじめ決めておき、いずれかを採用することができる。
【0051】
各試験用水槽の集塊化開始時間が測定されると、図7のようにA〜Dの各凝集剤注入率と集塊化開始時間の関係がプロットできる。本発明の凝集分析装置は、これらのデータを用いた折線近似式、あるいは最小二乗法による多項式への近似によって、凝集剤注入率と集塊化開始時間との関係式(フィッティングライン)を求める(以下、フィッティングライン演算工程という。)。
【0052】
次に、水処理設備に応じてあらかじめ適正値として設定された集塊化開始時間を前記関係式に代入し、適正な凝集剤注入率を演算する(以下、適正凝集剤注入率演算工程という。)。
【0053】
なお、集塊化開始時間の適正値は、混和池の滞留時間に基づいて決定されるが、実施設の凝集剤注入率の運用実績に合わせて補正してもよい。混和池の滞留時間は、実設備の混和池の容積、処理水量によって決定される。
【0054】
凝集剤注入率が演算された後は、試料水排水工程に戻り、上記の工程が繰り返される。なお、上記においては、複数個の試験用水槽を用いた実施例について述べたが、前述のように、1個の試験用水槽を繰返し用いることにより、異なる凝集剤注入率を有する試料水の集塊化開始時間を測定するようにすることもできる。また、前述のように演算された適正な凝集剤注入率は、実施設の注入率を手動で変更する際の設定値に利用したり、中央監視装置の注入率制御システムの入力として利用することができる。
【0055】
次に、図8の凝集剤注入率の決定に要する時間に関する従来方法と本願発明に係る方法との比較説明図について述べる。本発明による適正な凝集剤注入率の判定は、ジャーテストと比較して短時間で可能である。それは、図8に示すように本発明では、ジャーテストで必要とする緩速撹拌と静置の工程が不要だからである。
【0056】
〔実施例2〕
次に、図9〜12に基づいて、実施例2について述べる。図9に示す本発明における凝集分析装置は、所定量の原水を入れるための試験用水槽1と、給排水弁2、2Eと、撹拌器3と、原水入口弁4と、原水捨水弁5と、水道水入口弁6と、給水ポンプ7と、フィルター8と、フィルター入口弁9と、原水送水弁10と、排水弁11と、越流管17へ溢れた水を排水する配管13が接続された水位調整槽14と、凝集剤20と、凝集剤注入部21と、凝集剤注入管22と、フロックの平均粒径と平均粒子数とを測定するための検出器36と、採水管31と、採水ポンプ32と、検出器からの電気信号33を解析するとともに機器を制御するためのシーケンサ34と、測定結果の表示や装置の設定条件を入力するためのPOD35等で構成される。
【0057】
ここで、検出器36は、試料水に向けて光ビームを照射するためのレーザ、LED、ランプの何れかで構成される光ビーム照射部と、試料水中に含まれる粒子から発せられる前方散乱光か、側方散乱光か、後方散乱光か、透過光の少なくとも一つの光を受光して、電気信号に変換する光電変換器と、変換された電気信号の平均値と標準偏差とから、フロックの平均粒径と平均粒子数とを測定する電子回路とで構成される。具体的な粒径と粒子数の測定方法については、前記特許文献4に記載されている。なお、本実施例の検出器36としては、上記の変動解析法を用いているが、前記特許文献3に記載された微粒子カウント法による光学系を用いてもよい。
【0058】
次に集塊化開始時間の測定方法について、以下に具体的な手順を記す。まず、試料水排水工程、洗浄水送水工程、ゼロ水測定工程、洗浄水排水工程、原水送水工程、水位調整工程までは、実施例1と基本動作は同じである。異なる点は、実施例1では複数あった試験用水槽が1個であること、水位調整槽の越流壁が越流管であること、ステージや、凝集剤注入管の稼動部がないこと等である。
【0059】
水位が調整された後は、撹拌器3を所定の回転数で稼動させた後、採水ポンプ32を稼動させる。このとき、採水ポンプの排水は試験用水槽1に戻してもよい。次に、凝集分析装置あるいは他の装置で測定された、原水の濁度、アルカリ度、pH、水温などの水質をパラメータとした注入率式で、適正と予測される凝集剤注入率をあらかじめ求めておき、試験用水槽1における凝集剤注入率として設定する。そして、定量ポンプあるいはシリンジポンプで構成される凝集剤注入部21により、試験用水槽1に凝集剤20が注入される(以下、凝集剤注入工程という。)。
【0060】
次に凝集剤が注入されると、撹拌によって凝集剤が分散され、粒子の集塊化が始まる。このとき、検出器36で測定されるフロックの平均粒径は、図10のような挙動を示す。ここで、検出器からは電気信号33を介して、シーケンサ34にフロックの平均粒径が出力されるので、シーケンサにて凝集剤注入開始時からフロック粒径が増大し始める時までをフロック成長開始時間として記憶しておく。一方、フロックの平均粒子数は、図11のような挙動を示すので、凝集剤注入開始時からフロックが増加し始める時までをフロック増加開始時間として記憶しておく(以下、集塊化開始時間測定工程という。)。
【0061】
なお、前記フロック成長開始時間かフロック増加開始時間かのどちらか一方を、集塊化開始時間とするか、双方の平均値を集塊化開始時間として採用するかは、あらかじめ決めておく。
【0062】
上記により測定された集塊化開始時間の測定値と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とのズレが、所定幅以内であれば、前記集塊化開始時間測定工程における所定量の凝集剤に相応する凝集剤注入率を適正な凝集剤注入率と決定し、前記ズレが前記所定幅より大きい場合には、前記請求項3における手順(21)〜(23)により、適正な凝集剤注入率を演算する工程を行なう。その詳細は以下のとおりである。
【0063】
すなわち、まず始めに、あらかじめ実験等により凝集剤注入率と集塊化開始時間との関係を一般式として求める。一般式としては、幾つかの式が提唱されているが、例えば、下記数1(式(1))のように指数関数によって表される。
【0064】
【数1】
【0065】
ここで、Tは集塊化開始時間、Pは凝集剤注入率、α、βは定数であり、当該定数は水温、pH、アルカリ度、濁度などの水質によって異なる値となる。次に集塊化開始時間の測定を実施した際の原水の当該水質のうち、少なくとも一つの指標から、一方の定数αを決定する。当該水質のパラメータとαとの関係はあらかじめ実験等により求めておく。
【0066】
そして、当該一般式に当該αの数値と集塊化開始時間の測定値と測定時の凝集剤注入率とを代入し、当該一般式のβを求め、一般式の全ての定数を決定する(以下、注入率演算式という。)。
【0067】
ここで、一般式が式(1)と異なる関数で表される場合であっても、当該集塊化開始時間の測定値と凝集剤注入率とを代入する前に、あらかじめ、実験等により求めておいた当該水質と定数との関係に基づいて、一般式において数値が不明な定数は一つだけとなるように、定数を決定しておけばよい。
【0068】
次に当該注入率演算式に集塊化開始時間の適正値を代入し、適正な凝集剤注入率を演算する。以上が適正凝集剤注入率演算工程の詳細である。
【0069】
図12は当該工程における、集塊化開始時間の測定値および適正値、凝集剤注入率と集塊化開始時間の一般式および、定数決定後の注入率演算式の関係を図に示した例である。ここで、同図においては、集塊化開始時間の測定値が適正値よりも大きいので、凝集剤の注入率を補正(増加)することになる。すなわち、水質によって変化する一般式に集塊化開始時間の測定値と測定時の凝集剤注入率を代入し、注入率演算式を決定する。これにより、集塊化開始時間が適正値となるような凝集剤注入率適正値を求めることができる。実施設の注入率を当該注入率適正値に変更すれば、注入率演算式によって決定された凝集剤注入率を補正することができる。
【0070】
以上述べたように、本発明の凝集分析装置によって集塊化開始時間を測定し、その時間に応じて凝集剤注入率を制御する方法によれば、緩速撹拌から静置の工程が必要ないので、従来方法よりも短時間で自動的に凝集剤注入率を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の凝集剤注入率決定方法を実施するための装置としての凝集分析装置を浄水プロセスフローに接続した実施例に係る要部系統図。
【図2】図1に示す凝集分析装置に係る実施例の模式的構成図。
【図3】図2の試験用水槽の模式的側断面図。
【図4】試料水に凝集剤注入後、測定される粒子数の挙動を説明する図。
【図5】集塊化開始時間の説明に関わり、1-3μmの粒子の粒子数の挙動に関する実験結果の一例を示す図。
【図6】集塊化開始時間の説明に関わり、3-7μmの粒子の粒子数の挙動に関する実験結果の一例を示す図。
【図7】集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関としてのフィッティングラインの説明図。
【図8】凝集剤注入率の決定に要する時間に関する従来方法と本願発明に係る実施例の方法との比較説明図。
【図9】図1に示す凝集分析装置に係る、図2とは異なる実施例の模式的構成図。
【図10】フロックの成長開始時間に関わり、試料水に凝集剤注入後、測定される平均粒径の挙動を示す図。
【図11】フロックの増加開始時間に関わり、試料水に凝集剤注入後、測定されるフロックの平均粒子数の挙動を示す図。
【図12】実施例2に関わり、集塊化開始時間の測定値および適正値、凝集剤注入率と集塊化開始時間の一般式および、定数決定後の注入率演算式の関係を示す図。
【符号の説明】
【0072】
1,1A〜1D:試験用水槽、3,3A〜3D:撹拌器、4:原水入口弁、5:原水捨水弁、6:水道水入口弁、7:給水ポンプ、10:原水送水弁、11:排水弁、12:越流壁、14:水位調整槽、20:凝集剤、21:凝集剤注入部、22:凝集剤注入管、23:注入管稼動部、24:ステージ、30:フロックの粒径と粒子数とを測定するための検出器、31,31A〜31D:採水管、32,32A〜32D:採水ポンプ、33:検出器からの電気信号、34:検出器からの電気信号を解析するとともに機器を制御するためのシーケンサ、35:測定結果の表示や装置の設定条件を入力するためのPOD。
【技術分野】
【0001】
この発明は、河川水や湖沼水等の表流水、工業用水、下水、汚泥、工場廃水などを処理するための凝集沈澱処理において、凝集剤注入率(被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率)を決定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
急速ろ過方式を採用した浄水場では、一般的に凝集剤を注入するとともに急速撹拌を実施する混和池と、混和池で生成された凝集体(フロック)を成長させるフロック形成池と、成長したフロックを沈澱除去するための沈殿池と、沈澱しきらなかった粒子やフロックを除去するろ過池で構成される(特許文献2の図7参照)。
【0003】
急速ろ過方式における重要なポイントは、原水水質に応じて凝集剤の注入率を適正な値に制御し、沈降性のよいフロックを形成することである。不適切な注入率によって凝集処理を行った場合には、沈澱池からのフロックのキャリーオーバや凝集不良により、ろ過池の損失水頭の上昇,逆洗頻度の上昇,微細粒子のろ過池からの流出などの問題が発生する。
【0004】
適正な凝集剤注入率は、原水濁度の他に、アルカリ度,pH,水温などによっても変化し、原水ごとに異なるので、原水濁度を基に一義的に凝集剤注入率を決定することはできない。そのため、従来から浄水場では次のような方法で、凝集状況の判定や、凝集剤注入率の決定、あるいは制御を行っている。
(1)ジャーテスト
処理すべき原水の一定量を幾つかのビーカーに採取し、ビーカーごとに注入率を段階的に変化させて、急速撹拌と緩速撹拌とにより凝集反応を起こし、所定の時間だけ静置させた後の上澄み水濁度やフロックの沈降状況を判定して、凝集剤注入率を決定する方法である(特許文献2の図8参照)。
【0005】
これらの作業は一般的に手分析で行われるが、特許文献1に記載されているように原水の採水から、凝集剤の注入や、撹拌機の回転数および回転時間の設定、上澄み水濁度の測定までを自動的に行うオートジャーテスターなるものも実用化されている(詳細は、特許文献1参照)。
(2)注入率式
原水の濁度やpH,アルカリ度,水温などの水質をパラメータとして、適正な凝集剤注入率との関係を表した注入率式に基づいてフィードフォワード制御するものである。注入率式はジャーテストや実施設の沈澱水濁度などを基に経験的な方法で定められる。この方式の発展形として、沈澱水濁度の測定値に基づいたフィードバック制御の組み込みや、オペレータによるジャーテストの結果と実施設の運用実績に近づけるようにファジーやニューロによる制御を利用する例もある(特許文献2の段落[0006]および[0007]8参照)。
(3)凝集センサ
特許文献2に開示された発明の方法のように被測定流体の流れに対して光ビームを照射し、その透過光量の平均値と標準偏差とからフロックの平均粒径と個数濃度を求めるとともに、平均粒径が適正な値となるように凝集剤注入率を制御する方法である(詳細は、特許文献2参照)。
【0006】
なお、本発明に関連する技術を開示する下記特許文献3〜6に関しては、説明の便宜上、後述する。
【特許文献1】特開平2−114178号公報
【特許文献2】特許第3205450号公報
【特許文献3】特許第3672158号公報
【特許文献4】特許第2824164号公報
【特許文献5】特開平10−311784号公報
【特許文献6】特開2002−90284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような方法による凝集状況の判定方法、あるいは凝集剤注入率の決定方法には、次のような課題がある。
【0008】
(1)のジャーテストによる方法は、熟練したオペレータが必要であり、さらにはオペレータによって異なる結果になりやすいという問題がある。また、凝集状況や適正な凝集剤注入率の判定にかかる時間が30分程度と長いため、頻繁なジャーテストの実施は困難であり、実施設の凝集剤注入率への反映が遅れてしまう問題がある。
【0009】
ジャーテストの作業を自動化したオートジャーテスターであれば、オペレータの作業は大幅に軽減されるものの、測定結果を得るためには依然として30分程度必要であり、タイムラグが大きいという課題は解決されない。
【0010】
(2)の注入率式による方法は、原水によって注入率式が異なるので、浄水場ごとに注入率式を管理しなければならず、さらに恒久的にその注入率式を使用できる保証はない。すなわち、取水口より上流側にダムができたり、河岸工事が施工されたりした時や、豪雨の影響などにより、各水質と最適凝集剤注入率との関係は崩れてしまう恐れがあり、場所的、時間的な普遍性がないという問題がある。
【0011】
(3)の凝集センサによる方法は、適正なフロック粒径となるように凝集剤注入率をリアルタイムで自動的に管理することが可能で、(1)のオペレータの問題やタイムラグの問題、(2)の普遍性の問題を解決する方法である。しかしながら、原水水質に応じて適正なフロック粒径は異なるものであり、凝集剤注入率の自動制御を行うためには、あらかじめ原水濁度と最適フロック粒径との関係について、データベースを作成しなければならない。すなわち、四季を通じて凝集センサによるデータを取得しなければならず、正式運用までに時間がかかるという問題がある。
【0012】
以上、浄水場における課題について記してきたが、工業用水、下水や工場廃水における凝集沈澱についても同様な課題があることはいうまでもない。
【0013】
この発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、この発明の課題は、凝集沈殿処理を行う水処理方法において、短時間で自動的に適正な凝集剤注入率を決定することが可能な凝集剤注入率の決定方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の課題を解決するため、この発明は、被処理水に凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行う水処理方法における被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率(凝集剤注入率)を決定する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする(請求項1)。
(1)被処理水を複数個の試験用水槽にそれぞれ所定量採取し、前記各試験用水槽に採取された試料水に対して、それぞれ異なる凝集剤注入率を有する試料水となるように、予め設定した異なる所定量の凝集剤を注入する工程(凝集剤注入工程)。
(2)前記各試料水に凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、各試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を、前記各試料水毎に測定する工程(集塊化開始時間測定工程)。
(3)前記各試料水毎に測定された集塊化開始時間と、前記各凝集剤注入率とに基づいて、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして演算する工程(フィッティングライン演算工程)。
(4)水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値と、前記フィッティングラインとに基づいて、前記水処理設備に対して適正な凝集剤注入率を演算する工程(適正凝集剤注入率演算工程)。
【0015】
また、上記請求項1の発明においては、複数個の試験用水槽を用いているが、下記請求項2の発明のように、1個の試験用水槽を繰返し用いることにより、異なる凝集剤注入率を有する試料水の集塊化開始時間を測定するようにすることもできる。即ち、前記請求項1に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記(1)および(2)の工程に代えて、下記の(1a)、(2a)および(2b)の工程とすることを特徴とする(請求項2)。
(1a)被処理水を単一の試験用水槽に所定量採取し、前記試験用水槽に採取された試料水に対して、予め設定した所定量の凝集剤を注入し、凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定する工程。
(2a)前記工程後、試験用水槽を洗浄水で洗浄し、この洗浄水を試験用水槽から排出後に、再び、被処理水を試験用水槽に所定量採取し、前記工程とは異なる試料水に対して、異なる所定量の凝集剤を注入し、前記集塊化開始時間を測定する工程。
(2b)前記工程と同様の工程を、凝集剤の注入量を変えて複数回行なって、それぞれ異なる凝集剤注入率を有する試料水に対して、それぞれ前記集塊化開始時間を測定する工程。
【0016】
さらに、下記請求項3の発明のように、前記集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関に関して予め実験で求めた関係式等のデータベースを用いる場合には、1個の試験用水槽を用い、1回の集塊化開始時間を測定することにより適正な凝集剤注入率を演算することができる。即ち、被処理水に凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行う水処理方法における被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率(凝集剤注入率)を決定する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする(請求項3)。
(1)被処理水を単一の試験用水槽に所定量採取し、前記試験用水槽に採取された試料水に対して、被処理水の水質に基づいて予め設定した所定量の凝集剤を注入し、凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定する工程。
(2)上記により測定された集塊化開始時間の測定値と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とのズレが、所定幅以内であれば、前記(1)の工程における所定量の凝集剤に相応する凝集剤注入率を適正な凝集剤注入率と決定し、前記ズレが前記所定幅より大きい場合には、下記の手順(21)〜(23)により、適正な凝集剤注入率を演算する工程。
(21)集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関に関して、2個の定数を含む一般式として定め、実験により予め求めたデータベースに基づき、一方の前記定数を、前記被処理水の水質に基づいて定め、1個の定数を含む一般式を求める。
(22)前記1個の定数を含む一般式と、前記集塊化開始時間の測定値および当該測定時の凝集剤注入率とに基づいて、他方の前記定数を求め、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関の演算式を特定する。
(23)前記特定された演算式と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とに基づいて、適正な凝集剤注入率を演算する。
【0017】
また、前記請求項1ないし3の発明の実施態様としては、下記請求項4ないし6の発明が好ましい。即ち、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記集塊化開始時間は、試料水中の粒径区分毎の粒子数を測定し、凝集剤注入前から試料水中に存在する粒子の所定の小粒径区分の粒子に関して測定される粒子数の減少開始時間、もしくは、凝集剤注入後に集塊化が始まることによって前記所定の小粒径区分よりは大きい所定の粒径区分の粒子に関して測定される粒子数の増加開始時間の内の、少なくともいずれか一方の時間から特定されることを特徴とする(請求項4)。
【0018】
さらに、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記集塊化開始時間は、試料水中の粒子の平均粒径と粒子数とを測定し、平均粒径の増大が見られ始める時間をフロック成長開始時間として測定し、フロックとして計数される平均粒子数が増加し始める点をフロック増加開始時間として測定した際に、前記フロック成長開始時間もしくはフロック増加開始時間の内の、少なくともいずれか一方の時間から特定されることを特徴とする(請求項5)。
【0019】
さらにまた、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値は、前記水処理設備が備える混和池における被処理水の滞留時間に基づいて設定されることを特徴とする(請求項6)。
【0020】
なお、上記混和池における被処理水の滞留時間は、実際の水処理施設(実施設)における混和池の容積、処理水量によって決定される。また、実施設における適正な凝集剤注入率は、被処理水(原水)の水質によって刻一刻と変化するので、被処理水を試験用水槽に適宜採取して、適正な凝集剤注入率を変化に応じて決定する必要がある。
【0021】
さらに、凝集剤注入率の決定装置に関する発明としては、下記請求項7の発明が好ましい。即ち、前記請求項1または3に記載の凝集剤注入率の決定方法を実施するための装置であって、攪拌器を備えた少なくとも1個の試験用水槽と、予め設定した異なる所定量の凝集剤を注入する凝集剤注入装置と、集塊化開始時間測定器と、適正な凝集剤注入率の演算を行なう演算装置とを備えることを特徴とする(請求項7)。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、凝集沈殿処理を行う水処理方法において、従来方法より短時間で、かつ自動的に適正な凝集剤注入率を決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態について、図1に基づいて以下に述べ、詳細は実施例の項で述べる。なお、本発明は下記の実施形態や実施例によって限定されるものではない。
【0024】
一般的に凝集沈澱処理においては、図1に示すように、凝集剤注入後の混和池における急速撹拌からフロック形成池における緩速撹拌の工程にかけて、微粒子が集塊し、フロックとして成長していく。このとき、集塊化は混和池において始まっていることが基本であり、前記集塊化開始時間は混和池の滞留時間と同程度の時間であることが重要である。
【0025】
この状況においては、混和池以降の処理が良好に行われ、結果として沈降性の高いフロックが形成され、沈澱水濁度を低減することができる。ここで、集塊化開始時間は、原水の濁度、アルカリ度、pH、水温などの水質と、撹拌強度と、凝集剤注入率との影響を受け、これらの中で、実施設において容易に制御できるのは、凝集剤注入率である。すなわち、凝集剤注入率が適正量より小さければ、集塊化開始時間は、混和池の滞留時間より長くなり、その後のフロック形成に問題が発生する。一方、凝集剤注入率が適正量より大きければ、集塊化開始時間は、混和池の滞留時間より短くなり、凝集剤は過注入の状況となる。本発明では、被処理水(原水)の一部を図1に示す凝集分析装置に通流し、この凝集分析装置において、刻一刻と変化する水質に対して、集塊化開始時間が所定の値になるように凝集剤注入率を制御すれば、ジャーテストのフロックの沈降性や上澄み水濁度の評価、あるいは凝集センサの最適フロック粒径制御と同様の結果を得ることができる。
【0026】
即ち、この凝集分析装置によって集塊化開始時間を測定し、その時間に応じて凝集剤注入率を制御する方法によれば、緩速撹拌から静置の工程が必要ないので、約10分程度で自動的に凝集剤注入率を決定することができる。したがって、ジャーテストのような熟練したオペレータによる作業が削減され、さらに、オートジャーテスターよりもタイムラグの少ない凝集剤注入率制御を実現することが可能である。また、凝集センサのように原水濁度と適正フロック粒径のデータベースを作成する必要がないため、凝集分析装置による凝集剤注入率制御システムは、装置設置後から比較的短期間で実運用に入ることができるという特徴がある。
【0027】
次に、凝集分析装置による集塊化開始時間の測定、および凝集剤注入率の決定、あるいは制御について具体的な方法を以下に記す。
【0028】
本発明における集塊化開始時間の測定には、以下に記す二つの方法のうち少なくとも何れか一方を用いる。第一の方法(以下、微粒子カウント法という。)の微粒子カウント方法については、前記特許文献3に開示された方法と同じである。この微粒子カウント方法は、検出器内を流れる試料水に対して、光ビームを照射し、前方散乱光と、側方散乱光と、後方散乱光と、透過光のうち、少なくとも一つの光を光電変換器にて受光し、所定時間内に光電変換器で変換された電気信号のパルスの数と各パルスの高さとから、粒径区分ごとの粒子数を測定する。本発明の第一の方法は、さらに、粒子数の多い粒径区分については、凝集剤添加開始時から粒子数の減少が見られる時までを粒子数減少開始時間とし、粒子数の少ない粒径区分については、粒子数が増加する点を粒子数増加開始時間とし、粒子数減少開始時間または粒子数増加開始時間のうち、少なくとも一方の時間、あるいは両方の時間を演算した結果を集塊化開始時間として採用する方法である。
【0029】
第二の方法(以下、変動解析法という。)の変動解析方法については、前記特許文献4に開示された方法と同じである。この変動解析方法は、検出器内を流れる試料水に対して、少なくとも一箇所から光ビームを照射し、前方散乱光と、側方散乱光と、後方散乱光と、透過光のうち、少なくとも一つの光を光電変換器にて受光し、所定時間内に光電変換器の出力から変換された電気信号の平均値と標準偏差とから、試料水に含まれる粒子の平均粒径と粒子数とを求める方法である。本発明の第二の方法は、さらに、凝集剤添加開始時から平均粒径の増大が見られ始める時までをフロック成長開始時間とし、凝集剤添加開始時からフロックとして計数される粒子数が増加し始める時までをフロック増加開始時間として測定した際に、フロック成長開始時間またはフロック増加開始時間のうち、少なくとも一方の時間、あるいは両方の時間を演算した結果を集塊化開始時間として採用する方法である。
【0030】
ここで、前記電気信号の平均値と標準偏差とから粒子の平均粒径と粒子数とを求める方法に関しては、特許文献4に記載されている。また、当該特許を応用した例として、特許文献2に記載の方法のように、フロック平均径が適正な粒径となるように、凝集剤注入率を制御する方法もある。しかし、本発明とは以下の点で異なっている。まず、特許文献4および特許文献2に記載の方法では、凝集剤の注入は連続的に行われているため、凝集前の懸濁質粒子は、様々な成長過程のフロックとともに混在している。したがって、特許文献4および特許文献2に係る方法は、本発明で測定する微細粒子の集塊により粒子数が減少し始める時間やフロックの成長開始に伴って、フロックの粒径が増大し始める時間、あるいはフロックの数が増加し始める時間(集塊化開始時間)を測定することができない。そのため、特許文献4および特許文献2に係る方法は、本発明の集塊化開始時間に基づく凝集剤注入率の制御を実現することは不可能であり、本発明の方法と、特許文献4および特許文献2の発明に係る方法とは異なる方法であるといえる。
【0031】
本発明における上記第一の方法、もしくは第二の方法によって、集塊化開始時間とフロックの粒子数や平均径とを測定する装置を凝集分析装置と呼ぶ。
【0032】
本発明における凝集剤注入率を制御する方法としては、以下に記す方法の何れかを用いる。第一の方法は、凝集分析装置によって、複数の異なる凝集剤注入率における集塊化開始時間を測定し、その測定結果から集塊化開始時間と凝集剤注入率との関係式を導き出した後、当該関係式にあらかじめ定めた適正な集塊化開始時間の設定値を代入することで、最適な凝集剤注入率を求める方法である。
【0033】
第二の方法は、原水の濁度とアルカリ度とpHと水温のうち、少なくとも一つの指標をパラメータとした注入率式で、適正と予測される凝集剤注入率をあらかじめ求めておくとともに、当該注入率における集塊化開始時間を凝集分析装置によって測定した際に、当該集塊化開始時間が所定の時間範囲から外れた場合には、あらかじめ定めた集塊化開始時間と凝集剤注入率との関係式によって、集塊化開始時間を所定の時間範囲に収めるための凝集剤注入率の補正量を求める方法である。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
本発明における凝集分析装置は、前記図1に示すように、河川から取水した原水を着水井に送水し、急速混和池にて注入された凝集剤を速やかに撹拌し、フロック形成池にて急速混和池において形成された凝集体をフロックに成長させ、沈澱池でフロックを沈降させ、その上澄み水をろ過池にてろ過する機能を有する浄水プロセスにおいて、着水井からの原水を分岐した配管に設置される。場合によっては、ジャーテストや原水水質の検査を行うことを目的として水質試験室に送水されている原水の配管に凝集分析装置を接続してもよい。
【0035】
ここで、凝集分析装置で測定される集塊化開始時間により決定される適正な凝集剤注入率を浄水プロセスにおける凝集剤注入率に反映することが本発明の特徴である。
【0036】
実施例1における凝集分析装置は、図2に示すように、所定量の原水を入れるための複数(本実施例では4個)の試験用水槽1A〜1Dと、給排水弁2A〜2Eと、撹拌器3A〜3Dと、原水入口弁4と、原水捨水弁5と、水道水入口弁6と、給水ポンプ7と、フィルター8と、フィルター入口弁9と、原水送水弁10と、排水弁11と、越流壁12から溢れた水を排水する配管13が接続された水位調整槽14と、凝集剤20と、凝集剤注入部21と、凝集剤注入管22と、注入管稼動部23と、ステージ24と、フロックの粒径と粒子数とを測定するための検出器30と、採水管31A〜31Dと、採水ポンプ32A〜32Dと、検出器からの電気信号33を解析するとともに機器を制御するためのシーケンサ34と、測定結果の表示や装置の設定条件を入力するためのPOD(Programable operation display)35等で構成される。
【0037】
ここで、検出器30は、特許文献3に開示されたように、試料水に向けて光ビームを照射するためのレーザ、LED、ランプの何れかで構成される光ビーム照射部と、試料水中に含まれる粒子から発せられる前方散乱光か、側方散乱光か、後方散乱光か、透過光の少なくとも一つの光を受光して、電気信号に変換する光電変換器と、変換された電気信号のパルスの数とパルスの高さとから、粒径区分ごとの粒子数を測定する電子回路とで構成される。
【0038】
具体的な粒径と粒子数の測定方法については、半導体レーザを照射部として、前方散乱光を受光する光学系を用いた例として、試料水中の微粒子の数を測定することを目的とした前記特許文献5に記載の方法や、半導体レーザを照射部として、透過光を受光する光学系を用いた例として、特許文献6に記載された方法等がある。なお、本実施例の検出器30としては、上記の微粒子カウント法を用いているが、前記特許文献4に記載された変動解析法による光学系を用いてもよい。
【0039】
次に集塊化開始時間の測定方法について、以下に具体的な手順を記す。
【0040】
まず、試験用水槽1A〜1Dに残っている試料水を排水するため、撹拌器3A〜3D、給水ポンプ7、採水ポンプ32A〜32Dを停止、原水捨水弁5を開、原水入口弁4、水道水入口弁6、フィルター入口弁9、原水送水弁10を閉、給排水弁2A〜2E、排水弁11を開とする(以下、試料水排水工程という。)。
【0041】
試料水が試験用水槽1A〜1Dから排水された後、水道水入口弁6,フィルタ入口弁9を開き、水道水が水道水入口弁6を介して、給水ポンプ7で送水され、フィルター入口弁9を介して、フィルタ8で微粒子が除去された水(以下、洗浄水)となる。この洗浄水は、給排水弁2A〜2Eを介して、試験用水槽1A〜1Dおよび水位調整槽14に送水される。なお、排水弁11は閉とし、これにより、試験用水槽には徐々に洗浄水が溜まり、図3の試験用水槽を側面から見た図に示すように、試験用水槽からオーバーフローした水が配管15A〜15D(図示は15Aのみ)を介して排水される(以下、洗浄水送水工程という。)。
【0042】
ここで、オーバーフローの高さは、越流壁12の高さで規定される水面より高い位置にしなければならない。また、流量スイッチあるいは出力機能つき流量計16を設けておけば、試験用水槽が満水になったことを自動的に検知することができる。なお、本工程において、撹拌器3A〜3Dを動作させておくことにより、試験用水槽を洗浄するようにすれば、原水の濁度や色度が高いときに有効である。
【0043】
洗浄水送水工程の後、すなわち、十分に洗浄水が当該試験用水槽に送水された後は、採水ポンプ32A〜32Dを稼動し、検出器30にて洗浄水の測定が行われる。このときに光電変換器で測定される電圧レベルや、微粒子が光ビームを通過する際に発生するパルスの数や高さを変換して得られる粒径と粒子数の情報を記憶しておけば、光学系の汚れや、フィルターの劣化などを判断することができ、さらには光量の補正を行うことができる(以下、ゼロ水測定工程という。)。
【0044】
ゼロ水測定工程が終了したら、排水弁11を開、給水ポンプ7を停止、フィルター入口弁9,原水送水弁10,水道水入口弁6を閉として試験用水槽および水位調整槽内の洗浄水を排水し(以下、洗浄水排水工程)、原水入口弁4、原水送水弁10を開、原水捨水弁5を閉、給水ポンプ7を稼動、排水弁11を閉、給排水弁2A〜2Eを開とする(以下、原水送水工程という。)。
【0045】
試験用水槽が原水で満たされた後、すなわち、所定の時間が経過するか、流量スイッチあるいは出力機能つき流量計16により、試験用水槽が満水になったことを検知した後に、給水ポンプ7を停止、原水送水弁10,原水入口弁4を閉、原水捨水弁5を開とする。すると、各試験用水槽の水位は水位調整槽14の越流壁12の高さとなり、毎回の試験で同じ容量の試験水が規定される。そして、給排水弁2A〜2Dを閉じる(以下、水位調整工程という。)。
【0046】
ここで、越流壁12は、場合に応じて高さの異なる材料を使用することにより、試験水の容量を変更することができる。
【0047】
水位が調整された後は、撹拌器3A〜3Dを所定の回転数で稼動させる。次に採水ポンプ32A〜32Dを稼動させ、検出器30で原水の粒子数あるいは濁度を測定し、その値に基づいて、試験用水槽1A〜1Dにおける各凝集剤注入率の範囲をそれぞれ設定しておく。このとき、採水ポンプ32A〜32Dの排水は試験用水槽に戻してもよい。原水の測定を所定の時間実施した後は、定量ポンプあるいはシリンジポンプで構成される凝集剤注入部21により、試験用水槽1A〜1Dの順番に凝集剤20が注入される。このとき凝集剤注入管22は、注入管稼動部23に接続され、ステージ24上を移動することにより、各試験用水槽に対して、前記測定により決定された所定量の凝集剤が注入されていく(以下、凝集剤注入工程という)。
【0048】
凝集剤が注入されると、撹拌によって凝集剤が分散され、粒子の集塊化が始まる。このとき、検出器30で測定される粒子数の挙動を示したものが図4である。すなわち、本実施例で用いた原水では、1〜3μmの粒子数が多く含まれているため、凝集剤注入前から、検出器30でカウントされているが、凝集剤注入後3分程度で、集塊化が始まり、1〜3μmの粒子数が減少に転じる。そして、凝集剤注入前にはほとんど存在しなかった3-7μmの粒子数が増加する。これは、粒子が集塊し、マイクロフロックが形成されたことを示している。さらに時間が経過するとマイクロフロックはさらに大きなフロックに成長していくため、3-7μmの粒子数が減少に転じると同時に、7-10μm、10-15μmの区分の粒子数が順次増加していく。
【0049】
ここで、本装置において、原水中に多く含まれている粒径に関する粒子数は、任意に選択できるが、本実施例で用いた原水の場合は、1〜3μmが適している。ここで、図5に示すように粒子数が減少し始める時間を粒子数減少開始時間と定義できる。本装置では検出器から電気信号33を介して、シーケンサ34に粒子数が出力されるので、シーケンサにて粒子数減少開始時間を判定し、記憶しておく。一方、原水中にあまり含まれていない粒径に関する粒子数も任意に選択でき、本実施例の場合は、3〜7μmが適している。ここで、図6に示すように、粒子数が増加し始める時間を粒子数増加開始時間と判断し、当該時間をシーケンサにて記憶しておく(以下、集塊化開始時間測定工程という。)。
【0050】
なお、前記粒子数減少開始時間か粒子数増加開始時間かのどちらか一方を、集塊化開始時間とするか、あるいは双方の平均値を集塊化開始時間とするかは、あらかじめ決めておき、いずれかを採用することができる。
【0051】
各試験用水槽の集塊化開始時間が測定されると、図7のようにA〜Dの各凝集剤注入率と集塊化開始時間の関係がプロットできる。本発明の凝集分析装置は、これらのデータを用いた折線近似式、あるいは最小二乗法による多項式への近似によって、凝集剤注入率と集塊化開始時間との関係式(フィッティングライン)を求める(以下、フィッティングライン演算工程という。)。
【0052】
次に、水処理設備に応じてあらかじめ適正値として設定された集塊化開始時間を前記関係式に代入し、適正な凝集剤注入率を演算する(以下、適正凝集剤注入率演算工程という。)。
【0053】
なお、集塊化開始時間の適正値は、混和池の滞留時間に基づいて決定されるが、実施設の凝集剤注入率の運用実績に合わせて補正してもよい。混和池の滞留時間は、実設備の混和池の容積、処理水量によって決定される。
【0054】
凝集剤注入率が演算された後は、試料水排水工程に戻り、上記の工程が繰り返される。なお、上記においては、複数個の試験用水槽を用いた実施例について述べたが、前述のように、1個の試験用水槽を繰返し用いることにより、異なる凝集剤注入率を有する試料水の集塊化開始時間を測定するようにすることもできる。また、前述のように演算された適正な凝集剤注入率は、実施設の注入率を手動で変更する際の設定値に利用したり、中央監視装置の注入率制御システムの入力として利用することができる。
【0055】
次に、図8の凝集剤注入率の決定に要する時間に関する従来方法と本願発明に係る方法との比較説明図について述べる。本発明による適正な凝集剤注入率の判定は、ジャーテストと比較して短時間で可能である。それは、図8に示すように本発明では、ジャーテストで必要とする緩速撹拌と静置の工程が不要だからである。
【0056】
〔実施例2〕
次に、図9〜12に基づいて、実施例2について述べる。図9に示す本発明における凝集分析装置は、所定量の原水を入れるための試験用水槽1と、給排水弁2、2Eと、撹拌器3と、原水入口弁4と、原水捨水弁5と、水道水入口弁6と、給水ポンプ7と、フィルター8と、フィルター入口弁9と、原水送水弁10と、排水弁11と、越流管17へ溢れた水を排水する配管13が接続された水位調整槽14と、凝集剤20と、凝集剤注入部21と、凝集剤注入管22と、フロックの平均粒径と平均粒子数とを測定するための検出器36と、採水管31と、採水ポンプ32と、検出器からの電気信号33を解析するとともに機器を制御するためのシーケンサ34と、測定結果の表示や装置の設定条件を入力するためのPOD35等で構成される。
【0057】
ここで、検出器36は、試料水に向けて光ビームを照射するためのレーザ、LED、ランプの何れかで構成される光ビーム照射部と、試料水中に含まれる粒子から発せられる前方散乱光か、側方散乱光か、後方散乱光か、透過光の少なくとも一つの光を受光して、電気信号に変換する光電変換器と、変換された電気信号の平均値と標準偏差とから、フロックの平均粒径と平均粒子数とを測定する電子回路とで構成される。具体的な粒径と粒子数の測定方法については、前記特許文献4に記載されている。なお、本実施例の検出器36としては、上記の変動解析法を用いているが、前記特許文献3に記載された微粒子カウント法による光学系を用いてもよい。
【0058】
次に集塊化開始時間の測定方法について、以下に具体的な手順を記す。まず、試料水排水工程、洗浄水送水工程、ゼロ水測定工程、洗浄水排水工程、原水送水工程、水位調整工程までは、実施例1と基本動作は同じである。異なる点は、実施例1では複数あった試験用水槽が1個であること、水位調整槽の越流壁が越流管であること、ステージや、凝集剤注入管の稼動部がないこと等である。
【0059】
水位が調整された後は、撹拌器3を所定の回転数で稼動させた後、採水ポンプ32を稼動させる。このとき、採水ポンプの排水は試験用水槽1に戻してもよい。次に、凝集分析装置あるいは他の装置で測定された、原水の濁度、アルカリ度、pH、水温などの水質をパラメータとした注入率式で、適正と予測される凝集剤注入率をあらかじめ求めておき、試験用水槽1における凝集剤注入率として設定する。そして、定量ポンプあるいはシリンジポンプで構成される凝集剤注入部21により、試験用水槽1に凝集剤20が注入される(以下、凝集剤注入工程という。)。
【0060】
次に凝集剤が注入されると、撹拌によって凝集剤が分散され、粒子の集塊化が始まる。このとき、検出器36で測定されるフロックの平均粒径は、図10のような挙動を示す。ここで、検出器からは電気信号33を介して、シーケンサ34にフロックの平均粒径が出力されるので、シーケンサにて凝集剤注入開始時からフロック粒径が増大し始める時までをフロック成長開始時間として記憶しておく。一方、フロックの平均粒子数は、図11のような挙動を示すので、凝集剤注入開始時からフロックが増加し始める時までをフロック増加開始時間として記憶しておく(以下、集塊化開始時間測定工程という。)。
【0061】
なお、前記フロック成長開始時間かフロック増加開始時間かのどちらか一方を、集塊化開始時間とするか、双方の平均値を集塊化開始時間として採用するかは、あらかじめ決めておく。
【0062】
上記により測定された集塊化開始時間の測定値と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とのズレが、所定幅以内であれば、前記集塊化開始時間測定工程における所定量の凝集剤に相応する凝集剤注入率を適正な凝集剤注入率と決定し、前記ズレが前記所定幅より大きい場合には、前記請求項3における手順(21)〜(23)により、適正な凝集剤注入率を演算する工程を行なう。その詳細は以下のとおりである。
【0063】
すなわち、まず始めに、あらかじめ実験等により凝集剤注入率と集塊化開始時間との関係を一般式として求める。一般式としては、幾つかの式が提唱されているが、例えば、下記数1(式(1))のように指数関数によって表される。
【0064】
【数1】
【0065】
ここで、Tは集塊化開始時間、Pは凝集剤注入率、α、βは定数であり、当該定数は水温、pH、アルカリ度、濁度などの水質によって異なる値となる。次に集塊化開始時間の測定を実施した際の原水の当該水質のうち、少なくとも一つの指標から、一方の定数αを決定する。当該水質のパラメータとαとの関係はあらかじめ実験等により求めておく。
【0066】
そして、当該一般式に当該αの数値と集塊化開始時間の測定値と測定時の凝集剤注入率とを代入し、当該一般式のβを求め、一般式の全ての定数を決定する(以下、注入率演算式という。)。
【0067】
ここで、一般式が式(1)と異なる関数で表される場合であっても、当該集塊化開始時間の測定値と凝集剤注入率とを代入する前に、あらかじめ、実験等により求めておいた当該水質と定数との関係に基づいて、一般式において数値が不明な定数は一つだけとなるように、定数を決定しておけばよい。
【0068】
次に当該注入率演算式に集塊化開始時間の適正値を代入し、適正な凝集剤注入率を演算する。以上が適正凝集剤注入率演算工程の詳細である。
【0069】
図12は当該工程における、集塊化開始時間の測定値および適正値、凝集剤注入率と集塊化開始時間の一般式および、定数決定後の注入率演算式の関係を図に示した例である。ここで、同図においては、集塊化開始時間の測定値が適正値よりも大きいので、凝集剤の注入率を補正(増加)することになる。すなわち、水質によって変化する一般式に集塊化開始時間の測定値と測定時の凝集剤注入率を代入し、注入率演算式を決定する。これにより、集塊化開始時間が適正値となるような凝集剤注入率適正値を求めることができる。実施設の注入率を当該注入率適正値に変更すれば、注入率演算式によって決定された凝集剤注入率を補正することができる。
【0070】
以上述べたように、本発明の凝集分析装置によって集塊化開始時間を測定し、その時間に応じて凝集剤注入率を制御する方法によれば、緩速撹拌から静置の工程が必要ないので、従来方法よりも短時間で自動的に凝集剤注入率を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の凝集剤注入率決定方法を実施するための装置としての凝集分析装置を浄水プロセスフローに接続した実施例に係る要部系統図。
【図2】図1に示す凝集分析装置に係る実施例の模式的構成図。
【図3】図2の試験用水槽の模式的側断面図。
【図4】試料水に凝集剤注入後、測定される粒子数の挙動を説明する図。
【図5】集塊化開始時間の説明に関わり、1-3μmの粒子の粒子数の挙動に関する実験結果の一例を示す図。
【図6】集塊化開始時間の説明に関わり、3-7μmの粒子の粒子数の挙動に関する実験結果の一例を示す図。
【図7】集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関としてのフィッティングラインの説明図。
【図8】凝集剤注入率の決定に要する時間に関する従来方法と本願発明に係る実施例の方法との比較説明図。
【図9】図1に示す凝集分析装置に係る、図2とは異なる実施例の模式的構成図。
【図10】フロックの成長開始時間に関わり、試料水に凝集剤注入後、測定される平均粒径の挙動を示す図。
【図11】フロックの増加開始時間に関わり、試料水に凝集剤注入後、測定されるフロックの平均粒子数の挙動を示す図。
【図12】実施例2に関わり、集塊化開始時間の測定値および適正値、凝集剤注入率と集塊化開始時間の一般式および、定数決定後の注入率演算式の関係を示す図。
【符号の説明】
【0072】
1,1A〜1D:試験用水槽、3,3A〜3D:撹拌器、4:原水入口弁、5:原水捨水弁、6:水道水入口弁、7:給水ポンプ、10:原水送水弁、11:排水弁、12:越流壁、14:水位調整槽、20:凝集剤、21:凝集剤注入部、22:凝集剤注入管、23:注入管稼動部、24:ステージ、30:フロックの粒径と粒子数とを測定するための検出器、31,31A〜31D:採水管、32,32A〜32D:採水ポンプ、33:検出器からの電気信号、34:検出器からの電気信号を解析するとともに機器を制御するためのシーケンサ、35:測定結果の表示や装置の設定条件を入力するためのPOD。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行う水処理方法における被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率(凝集剤注入率)を決定する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
(1)被処理水を複数個の試験用水槽にそれぞれ所定量採取し、前記各試験用水槽に採取された試料水に対して、それぞれ異なる凝集剤注入率を有する試料水となるように、予め設定した異なる所定量の凝集剤を注入する工程(凝集剤注入工程)。
(2)前記各試料水に凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、各試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を、前記各試料水毎に測定する工程(集塊化開始時間測定工程)。
(3)前記各試料水毎に測定された集塊化開始時間と、前記各凝集剤注入率とに基づいて、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして演算する工程(フィッティングライン演算工程)。
(4)水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値と、前記フィッティングラインとに基づいて、前記水処理設備に対して適正な凝集剤注入率を演算する工程(適正凝集剤注入率演算工程)。
【請求項2】
請求項1に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記(1)および(2)の工程に代えて、下記の(1a)、(2a)および(2b)の工程とすることを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
(1a)被処理水を単一の試験用水槽に所定量採取し、前記試験用水槽に採取された試料水に対して、予め設定した所定量の凝集剤を注入し、凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定する工程。
(2a)前記工程後、試験用水槽を洗浄水で洗浄し、この洗浄水を試験用水槽から排出後に、再び、被処理水を試験用水槽に所定量採取し、前記工程とは異なる試料水に対して、異なる所定量の凝集剤を注入し、前記集塊化開始時間を測定する工程。
(2b)前記工程と同様の工程を、凝集剤の注入量を変えて複数回行なって、それぞれ異なる凝集剤注入率を有する試料水に対して、それぞれ前記集塊化開始時間を測定する工程。
【請求項3】
被処理水に凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行う水処理方法における被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率(凝集剤注入率)を決定する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
(1)被処理水を単一の試験用水槽に所定量採取し、前記試験用水槽に採取された試料水に対して、被処理水の水質に基づいて予め設定した所定量の凝集剤を注入し、凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定する工程。
(2)上記により測定された集塊化開始時間の測定値と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とのズレが、所定幅以内であれば、前記(1)の工程における所定量の凝集剤に相応する凝集剤注入率を適正な凝集剤注入率と決定し、前記ズレが前記所定幅より大きい場合には、下記の手順(21)〜(23)により、適正な凝集剤注入率を演算する工程。
(21)集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関に関して、2個の定数を含む一般式として定め、実験により予め求めたデータベースに基づき、一方の前記定数を、前記被処理水の水質に基づいて定め、1個の定数を含む一般式を求める。
(22)前記1個の定数を含む一般式と、前記集塊化開始時間の測定値および当該測定時の凝集剤注入率とに基づいて、他方の前記定数を求め、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関の演算式を特定する。
(23)前記特定された演算式と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とに基づいて、適正な凝集剤注入率を演算する。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記集塊化開始時間は、試料水中の粒径区分毎の粒子数を測定し、凝集剤注入前から試料水中に存在する粒子の所定の小粒径区分の粒子に関して測定される粒子数の減少開始時間、もしくは、凝集剤注入後に集塊化が始まることによって前記所定の小粒径区分よりは大きい所定の粒径区分の粒子に関して測定される粒子数の増加開始時間の内の、少なくともいずれか一方の時間から特定されることを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記集塊化開始時間は、試料水中の粒子の平均粒径と粒子数とを測定し、平均粒径の増大が見られ始める時間をフロック成長開始時間として測定し、フロックとして計数される平均粒子数が増加し始める点をフロック増加開始時間として測定した際に、前記フロック成長開始時間もしくはフロック増加開始時間の内の、少なくともいずれか一方の時間から特定されることを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値は、前記水処理設備が備える混和池における被処理水の滞留時間に基づいて設定されることを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
【請求項7】
請求項1または3に記載の凝集剤注入率の決定方法を実施するための装置であって、攪拌器を備えた少なくとも1個の試験用水槽と、予め設定した異なる所定量の凝集剤を注入する凝集剤注入装置と、集塊化開始時間測定器と、適正な凝集剤注入率の演算を行なう演算装置とを備えることを特徴とする凝集剤注入率の決定装置。
【請求項1】
被処理水に凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行う水処理方法における被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率(凝集剤注入率)を決定する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
(1)被処理水を複数個の試験用水槽にそれぞれ所定量採取し、前記各試験用水槽に採取された試料水に対して、それぞれ異なる凝集剤注入率を有する試料水となるように、予め設定した異なる所定量の凝集剤を注入する工程(凝集剤注入工程)。
(2)前記各試料水に凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、各試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を、前記各試料水毎に測定する工程(集塊化開始時間測定工程)。
(3)前記各試料水毎に測定された集塊化開始時間と、前記各凝集剤注入率とに基づいて、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関をフィッティングラインとして演算する工程(フィッティングライン演算工程)。
(4)水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値と、前記フィッティングラインとに基づいて、前記水処理設備に対して適正な凝集剤注入率を演算する工程(適正凝集剤注入率演算工程)。
【請求項2】
請求項1に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記(1)および(2)の工程に代えて、下記の(1a)、(2a)および(2b)の工程とすることを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
(1a)被処理水を単一の試験用水槽に所定量採取し、前記試験用水槽に採取された試料水に対して、予め設定した所定量の凝集剤を注入し、凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定する工程。
(2a)前記工程後、試験用水槽を洗浄水で洗浄し、この洗浄水を試験用水槽から排出後に、再び、被処理水を試験用水槽に所定量採取し、前記工程とは異なる試料水に対して、異なる所定量の凝集剤を注入し、前記集塊化開始時間を測定する工程。
(2b)前記工程と同様の工程を、凝集剤の注入量を変えて複数回行なって、それぞれ異なる凝集剤注入率を有する試料水に対して、それぞれ前記集塊化開始時間を測定する工程。
【請求項3】
被処理水に凝集剤を注入して凝集沈殿処理を行う水処理方法における被処理水水量に対する凝集剤注入量の比率(凝集剤注入率)を決定する方法において、下記の工程を含むことを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
(1)被処理水を単一の試験用水槽に所定量採取し、前記試験用水槽に採取された試料水に対して、被処理水の水質に基づいて予め設定した所定量の凝集剤を注入し、凝集剤注入後、攪拌によって凝集剤を分散させ、試料水内の粒子の集塊が始まるまでの時間(集塊化開始時間)を測定する工程。
(2)上記により測定された集塊化開始時間の測定値と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とのズレが、所定幅以内であれば、前記(1)の工程における所定量の凝集剤に相応する凝集剤注入率を適正な凝集剤注入率と決定し、前記ズレが前記所定幅より大きい場合には、下記の手順(21)〜(23)により、適正な凝集剤注入率を演算する工程。
(21)集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関に関して、2個の定数を含む一般式として定め、実験により予め求めたデータベースに基づき、一方の前記定数を、前記被処理水の水質に基づいて定め、1個の定数を含む一般式を求める。
(22)前記1個の定数を含む一般式と、前記集塊化開始時間の測定値および当該測定時の凝集剤注入率とに基づいて、他方の前記定数を求め、集塊化開始時間と凝集剤注入率との相関の演算式を特定する。
(23)前記特定された演算式と、水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値とに基づいて、適正な凝集剤注入率を演算する。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記集塊化開始時間は、試料水中の粒径区分毎の粒子数を測定し、凝集剤注入前から試料水中に存在する粒子の所定の小粒径区分の粒子に関して測定される粒子数の減少開始時間、もしくは、凝集剤注入後に集塊化が始まることによって前記所定の小粒径区分よりは大きい所定の粒径区分の粒子に関して測定される粒子数の増加開始時間の内の、少なくともいずれか一方の時間から特定されることを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記集塊化開始時間は、試料水中の粒子の平均粒径と粒子数とを測定し、平均粒径の増大が見られ始める時間をフロック成長開始時間として測定し、フロックとして計数される平均粒子数が増加し始める点をフロック増加開始時間として測定した際に、前記フロック成長開始時間もしくはフロック増加開始時間の内の、少なくともいずれか一方の時間から特定されることを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の凝集剤注入率の決定方法において、前記水処理設備に応じて予め設定する集塊化開始時間適正値は、前記水処理設備が備える混和池における被処理水の滞留時間に基づいて設定されることを特徴とする凝集剤注入率の決定方法。
【請求項7】
請求項1または3に記載の凝集剤注入率の決定方法を実施するための装置であって、攪拌器を備えた少なくとも1個の試験用水槽と、予め設定した異なる所定量の凝集剤を注入する凝集剤注入装置と、集塊化開始時間測定器と、適正な凝集剤注入率の演算を行なう演算装置とを備えることを特徴とする凝集剤注入率の決定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−672(P2009−672A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15022(P2008−15022)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]