説明

処理剤付きポリウレタン弾性糸およびその製造方法

【課題】抗菌消臭性に優れ、かつNOxと塩素水に対する優れた耐黄変性のポリウレタン弾性糸およびその製造方法を提供する。
【解決手段】紡糸されたポリウレタン弾性糸にテルペノイドを含有する処理剤を付与して処理剤付きポリウレタン弾性糸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性およびNOxガスと塩素水に対する耐黄変性に優れた処理剤付きポリウレタン弾性糸に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性繊維は、その優れた伸縮特性からレッグウエア、インナーウエア、スポーツウエアなどの伸縮性衣料用途、紙おむつや生理用ナプキンなどのサニタリー用途(衛材用途)、産業資材用途に幅広く使用されている。
【0003】
近年、清潔志向から衣料にも抗菌消臭機能が強く望まれており、生地に伸縮性を与える機能繊維であるポリウレタン弾性糸にも抗菌消臭機能が望まれている。ポリウレタン弾性糸に抗菌消臭機能を付与するには、弾性糸を構成するポリマに抗菌消臭機能を持った物質を添加剤として添加することが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、下記Aの抗菌剤、及び下記BとCの消臭剤とを含有するポリウレタン弾性繊維が開示されている。
A.銀、銅、亜鉛、及び錫からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを多孔性構造物質に担持させた抗菌剤。
B.リン酸ジルコニウムからなる消臭剤。
C.Zn、Si、Cu、Ni、Fe、Al、及びMgから選ばれた元素を含む金属酸化物又は複合金属酸化物からなる消臭剤。
しかしながら、多種類の粉体をポリマ溶液に混合すると粉体の凝集が発生しやすく、フィルターや口金部に詰まりが発生して生産性が劣るものになりやすい。また、凝集を発生させないように強力なミキサー等で対応することはコスト的に大きな負担になる。
【0005】
また、特許文献2には、ヒノキチオールとZn、Si、Cu、Ni、Fe、Al及びMgから選ばれた少なくとも一種の元素を含む金属酸化物および/又は複合金属酸化物とを含有するポリウレタン溶液を乾式紡糸することでポリウレタン弾性糸を得る旨が開示されている。しかしながら、ヒノキチオールのような天然抗菌剤が乾式紡糸時に高温にさらされることにより、ポリウレタン弾性糸の耐変色性においては、従来のポリウレタン弾性糸に劣るものであり、製品価値が低下するという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−28453号報
【特許文献2】特開2002−105757号報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来技術の問題点を解決し、抗菌消臭性および耐黄変性に優れたポリウレタン弾性糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の弾性糸用処理剤および処理されたポリウレタン弾性糸は、前記の課題を解決するため、以下のいずれかの手段を採用する。
(1)ポリウレタン弾性糸にテルペノイドを含有する処理剤が付与された処理剤付きポリウレタン弾性糸。
(2)前記処理剤中のテルペノイド含有量が0.1重量%以上20重量%以下であることを特徴とする、前記(1)記載の処理剤付きポリウレタン弾性糸。
(3)前記テルペノイドがリモネン、ヒノキチオール、カテキン、シネオールの1種類以上を含有することを特徴とする、前記(1)または(2)記載の処理剤付きポリウレタン弾性糸。
(4)前記ポリウレタン弾性糸に対して前記処理剤を0.5重量%以上10重量%以下の範囲内で付与したことを特徴とする、前記(1)〜(3)いずれかに記載の処理剤付きポリウレタン弾性糸。
(5)口金からポリウレタン弾性糸を紡糸し、該ポリウレタン弾性糸にテルペノイドを含有する処理剤を付与して引き取ることを特徴とする処理剤付きポリウレタン弾性糸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗菌消臭機能と耐変色性に優れたポリウレタン弾性糸となる。そのため、かかるポリウレタン弾性糸を使った編み地は、抗菌消臭機能を保有しつつも耐変色性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明について、さらに詳細に述べる。
【0011】
まず本発明で使用する処理剤について述べる。
【0012】
本発明に使用されるテルペノイドとしては特に制限はないが、抗菌消臭性の持続性という観点からモノテルペノイド化合物が好ましい。具体的には、炭素数30以下、より好ましくは20以下のテルペノイドが好ましく、例えばメントール(l−メントール、dl−メントール)、カンフル(dl−カンフル、d−カンフル)、ボルネオール(d−ボルネオール、リュウノウ)、ゲラニオール、シネオール、リモネン、及びリナロール等が好ましく使用される。
【0013】
また、前記テルペノイドとしては、テルペノイドを含有する精油を用いてもよく、該テルペノイドを含有する精油としては、具体的に、シネオールを含有するユーカリ油、ベルガモット油、ウイキョウ油、ローズ油、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、フタバガキ科植物の精油、ロズマリン油、及びラベンダー油等が挙げられる。
【0014】
また、強力な抗菌性を有することからテルペノイドとしてヒノキチオールやカテキンを使用することも好ましい。
【0015】
これらのテルペノイド(テルペノイドを含有する精油を含む)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
ポリウレタン弾性糸に抗菌消臭性の効果を発現させるために、上記テルペノイドは、処理剤中に0.1重量%以上20重量%以下の範囲で含有されることが好ましい。テルペノイドの濃度が0.1重量%未満では消臭効果が十分でなく、弾性繊維への処理剤の付着量を必要以上に増やさなくてはならず、20重量%超の濃度では処理剤への溶解や分散が困難になる。
【0017】
処理剤のベースとなる媒体には、テルペノイドを分散又は溶解させるとともにテルペノイドのポリウレタン弾性糸への含浸性を高めるという観点から、鉱物油を用いることが好ましい。鉱物油は、処理剤の糸への付着量をコントロールするという観点と、ポリウレタン弾性糸の摩擦力を低減させるという観点から、25℃における粘度が1センチストークス以上50センチストークス以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、25℃における粘度が5センチストークス以上25センチストークス以下の範囲である。
【0018】
また、本処理剤には、鉱物油の他に、ストレートシリコーン、ポリエステル変成シリコーン、ポリエーテル変成シリコーン、アミノ変成シリコーン、アミノエーテル変成シリコーン等のシリコーンオイルや、タルク、シリカ、コロイダルアルミナ等の鉱物性微粒子、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸金属塩粉末、高級脂肪族カルボン酸、高級脂肪族アルコール、パラフィン、ポリエチレン、松脂等で固体のワックスなどを本発明の効果を損なわない限度において混合しても良い。
テルペノイドを鉱物油等の媒体に溶解または分散させる場合、その調整方法としては、ホモミキサー等を用いて高速攪拌することによって均一溶解又は分散させる方法を例示することができる。
【0019】
次に本発明で使用するポリウレタン弾性糸について述べる。
【0020】
本発明に使用されるポリウレタン弾性糸はポリウレタンを含有するものであればよい。該ポリウレタンは、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものでよく、特に限定されるものではない。また、その合成法も特に限定されるものではない。すなわち、例えば、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジアミンからとなるポリウレタンウレアであってもよく、また、ポリマージオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとからなるポリウレタンであってもよい。また、鎖伸長剤として水酸基とアミノ基を分子内に有する化合物を使用したポリウレタンウレアであってもよい。本発明の効果を妨げない範囲で3官能性以上の多官能性のグライコールやイソシアネート等が使用されることも好ましい。
【0021】
ここで、ポリウレタンを構成する代表的な構造単位について述べる。
【0022】
本発明に使用されるポリマージオールはポリエーテル系、ポリエステル系ジオール、ポリカーボネートジオール等が好ましい。そして、特に柔軟性、伸度を糸に付与する観点からポリエーテル系ジオールが使用されることが好ましい。
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールの誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略す)、テトラヒドロフラン(THF)および3−メチルテトラヒドロフランの共重合体である変性PTMG(以下、3M−PTMGと略する)、THFおよび2,3−ジメチルTHFの共重合体である変性PTMG、特許第2615131号公報などに開示される側鎖を両側に有するポリオール、THFとエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドが不規則に配列したランダム共重合体等が好ましく使用される。これらポリエーテル系ジオールを1種または2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
【0023】
また、ポリウレタン弾性糸として耐摩耗性や耐光性を得る観点からは、ブチレンアジペート、ポリカプロラクトンジオール、特開昭61−26612号公報などに開示されている側鎖を有するポリエステルポリオールなどのポリエステル系ジオールや、特公平2−289516号公報などに開示されているポリカーボネートジオール等が好ましく使用される。
【0024】
また、こうしたポリマージオールは単独で使用してもよいし、2種以上混合もしくは共重合して使用してもよい。
本発明に使用されるポリマージオールの分子量は、糸にした際の伸度、強度、耐熱性などを得る観点から、数平均分子量が1000以上8000以下のものが好ましく、1800以上6000以下がより好ましい。この範囲の分子量のポリオールが使用されることにより、伸度、強度、弾性回復力、耐熱性に優れた弾性糸を容易に得ることができる。
【0025】
次に本発明に使用されるジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略す)、トリレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアネートベンゼン、キシリレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが、特に耐熱性や強度の高いポリウレタンを合成するのに好適である。さらに脂環族ジイソシアネートとして、例えば、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(以下、H12MDIと称する。)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが好ましい。脂肪族ジイソシアネートは、特にポリウレタン糸の黄変を抑制する際に有効に使用できる。そして、これらのジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
次に本発明における鎖伸長剤は、低分子量ジアミンおよび低分子量ジオールのうちの少なくとも1種を使用するのが好ましい。なお、エタノールアミンのような水酸基とアミノ基を分子中に有するものであってもよい。
好ましい低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、p−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p,p’−メチレンジアニリン、1,3−シクロヘキシルジアミン、ヘキサヒドロメタフェニレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレンジアミンである。エチレンジアミンを用いることにより伸度および弾性回復性、さらに耐熱性に優れた糸を容易に得ることができる。これらの鎖伸長剤に架橋構造を形成することのできるトリアミン化合物、例えば、ジエチレントリアミン等を効果が失わない程度に加えてもよい。
【0027】
また、低分子量ジオールとしては、エチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、ビスヒドロキシエチレンテレフタレート、1−メチル−1,2−エタンジオールなどが代表的なものである。これらの中から1種または2種以上が使用されることが好ましい。特に好ましくはエチレングリコール、1,3プロパンジオール、1,4ブタンジオールである。これらを用いると、ジオール伸長のポリウレタンとしては耐熱性がより高くなり、また、より強度の高い糸を得ることができるのである。
【0028】
そして本発明においてポリウレタンの分子量は、耐久性や強度の高い繊維を得る観点から、数平均分子量として30000以上150000以下の範囲であることが好ましい。なお、分子量はGPCで測定し、ポリスチレンにより換算する。
【0029】
さらに、ポリウレタンには、末端封鎖剤が1種または2種以上混合使用されることも好ましい。末端封鎖剤としては、ジメチルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、イソプロピルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルメチルアミン、イソブチルメチルアミン、イソペンチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミンなどのモノアミン、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、アリルアルコール、シクロペンタノールなどのモノオール、フェニルイソシアネートなどのモノイソシアネートなどが好ましい。
【0030】
以上のようなポリウレタンを含むポリウレタン弾性糸には、さらに、各種安定剤や顔料などが含有されていてもよい。例えば、耐光剤、酸化防止剤などにBHTや住友化学工業株式会社製の“スミライザー”(登録商標)GA−80などのヒンダードフェノール系薬剤、各種のチバガイギー社製“チヌビン”(登録商標)などのベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、住友化学工業株式会社製の“スミライザー”(登録商標)P−16などのリン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、酸化鉄、酸化チタンなどの各種顔料、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カーボンブラックなどの無機物、フッ素系またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、またシリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸系などの各種の帯電防止剤などが含まれることも好ましく、またこれらがポリマと反応させられることも好ましい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、例えば、日本ヒドラジン株式会社製のHN−150などの酸化窒素補足剤、例えば、住友化学工業株式会社製の“スミライザー”(登録商標)GA−80などの熱酸化安定剤、例えば、住友化学工業株式会社製の“スミソーブ”(登録商標)300♯622などの光安定剤が使用されることも好ましい。
【0031】
次にポリウレタン弾性糸の製造方法について詳細に説明する。
本発明においては、出発物質としてポリマージオールおよびジイソシアネート等を用い、それらから得られるポリウレタンの紡糸原液を口金から押し出してポリウレタン弾性糸を紡糸する。ポリウレタンの紡糸原液の製法、また、該原液の溶質であるポリウレタンの製法は、溶融重合法でも溶液重合法のいずれであってもよく、他の方法であってもよい。しかし、より好ましいのは溶液重合法である。溶液重合法の場合には、ポリウレタンにゲルなどの異物の発生が少なく、紡糸しやすく、低繊度のポリウレタン弾性糸を得やすい。また、当然のことであるが、溶液重合の場合、溶液にする操作が省けるという利点がある。
【0032】
そして本発明に特に好適なポリウレタンとしては、ポリマージオールとして分子量が1000以上6000以下のPTMG、ジイソシアネートとしてMDI、ジオールとしてエチレングリコール、1,3プロパンジオールおよび1,4ブタンジオールのうちの少なくとも1種を使用して合成され、かつ、高温側の融点が200℃以上260℃以下の範囲のものが挙げられる。
【0033】
ポリウレタンは、例えば、DMAc、DMF、DMSO、NMPなどやこれらを主成分とする溶剤の中で、上記の原料を用い合成することにより得られる。例えば、こうした溶剤中に、各原料を投入、溶解させ、適度な温度に加熱し反応させてポリウレタンとする、いわゆるワンショット法、また、ポリマージオールとジイソシアネートを、まず溶融反応させ、しかる後に、反応物を溶剤に溶解し、前述のジオールと反応させてポリウレタンとする方法などが、特に好適な方法として採用され得る。
【0034】
鎖伸長剤にジオールを用いる場合、ポリウレタンの高温側の融点を200℃以上260℃以下の範囲に調節する代表的な方法としては、ポリマージオール、MDI、ジオールの種類と比率をコントロールする方法が挙げられる。ポリマージオールの分子量が低い場合には、MDIの割合を相対的に多くすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができ、同様にジオールの分子量が低いときはポリマージオールの割合を相対的に少なくすることにより、高温の融点が高いポリウレタンを得ることができる。
【0035】
ポリマージオールの分子量が1800以上の場合、高温側の融点を200℃以上にするには、(MDIのモル数)/(ポリマージオールのモル数)=1.5以上の割合で、重合を進めることが好ましい。
【0036】
なお、かかるポリウレタンの合成に際し、アミン系触媒や有機金属触媒等の触媒が1種もしくは2種以上混合して使用されることも好ましい。
アミン系触媒としては、例えば、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサンジアミン、ビス−2−ジメチルアミノエチルエーテル、N,N,N’,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、トリエチレンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチル−ピペラジン、N−(2−ジメチルアミノエチル)モルホリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N,N’−トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N−メチル−N’−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジメチルアミノヘキサノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0037】
また、有機金属触媒としては、オクタン酸スズ、二ラウリン酸ジブチルスズ、オクタン酸鉛ジブチル等が挙げられる。
【0038】
こうして得られるポリウレタン溶液におけるポリウレタンの濃度は、通常、30重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。
【0039】
以上のように構成したポリウレタンの紡糸原液を、たとえば乾式紡糸、湿式紡糸、もしくは溶融紡糸し、巻き取ることで、本発明のポリウレタン糸を得ることができる。中でも、細物から太物まであらゆる繊度において安定に紡糸できるという観点から、乾式紡糸が好ましい。
【0040】
本発明のポリウレタン弾性糸の繊度、断面形状などは特に限定されるものではない。例えば、糸の断面形状は円形であってもよく、また扁平であってもよい。
【0041】
乾式紡糸方式についても特に限定されるものではなく、所望する特性や紡糸設備に見合った紡糸条件等を適宜選択して紡糸すればよい。
【0042】
そして本発明においては、紡糸したポリウレタン弾性糸に対して、該弾性糸が糸管パッケージに巻き取られる前に、上述の処理剤を付与する。すなわち、特に限定されないが通常の方法で紡糸されたポリウレタン弾性糸に、ローラーオイリング、ガイドオイリング、スプレーオイリング等の公知の方法によって上記処理剤を付与する。
【0043】
処理剤は、処理剤を付与する前のポリウレタン弾性糸に対して0.5重量%以上10重量%以下の範囲で付与することが好ましい。処理剤の付着量が0.5重量%未満では抗菌消臭効果が十分に得られない可能性があり、10重量%を超えるとパッケージから処理剤が浸みだし取り扱い上の問題となる可能性がある。処理剤の付与量はより好ましくは2重量%以上8重量%以下である。
【実施例】
【0044】
本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0045】
[抗菌性]
抗菌試験は、社団法人繊維評価技術協議会が指定した抗菌性試験手順(JIS L 1902 (2008) 繊維製品の抗菌性試験方法 定量試験 統一試験法)に準拠して実施した。Aを無加工試料の接種直後の生菌数、Bを無加工試料の18時間培養後の生菌数、Cを試験生地の18時間培養後の生菌数として、静菌活性値を下記の式から算出して抗菌性を評価した。この値が大きいほど抗菌性は優れている。
静菌活性値=LogB−LogC。
【0046】
[アンモニアガス除去性能]
20℃の環境条件にて5リットルのテドラーバッグ中に試料1.0gを入れ、アンモニア40ppmのガス3.0リットルを注入する。初発濃度及び2時間後のテドラーバッグ中のガス濃度を検知管により測定する。
除去率(%)={(初期ガス濃度−残留ガス濃度)/(初期ガス濃度)}×100。
【0047】
[ノネナールガス除去性能]
20℃の環境条件にて試料0.5gをノネナールのガス濃度が30ppmになるように調整した125mLのガラス製バイアル瓶に封入し、2時間放置後にガスクロマトグラフにてノネナール濃度を測定した(A)。比較対象として、試料が未封入である以外は同様の測定を行い(B)、ガスクロマトグラフのピーク面積から下記式に基づいて相対消臭率を算出した。
相対消臭率(%)={(B)−(A)/(A)}×100。
【0048】
[NOx耐黄変性]
ポリウレタン系弾性繊維をステンレス板に10g巻き取り試料カードを作製した。この試料を、スコットテスターを使用して、空気中にNOガスを規定の濃度(7ppm)含有させたガス中に50時間暴露した。この暴露処理の前後で、カラーマスター(D25 DP−9000型 シグナルプロセッサー)を使用して“b”カラーを測定し、処理前後の差“△b”によって黄変程度を評価した。この値が小さいほどにNOx耐黄変性が優れている。なお、測定値はn=3回の平均値で求めた。
【0049】
[塩素耐黄変性]
ポリウレタン弾性糸を“テフロン” (登録商標)板に10g巻き取った試料カードを作製し、これを40℃±2℃に恒温された塩素水(次亜塩素酸ナトリウム濃度が600ppm)中に30分間浸積し、続いて10分間純水で水洗した。この30分間の塩素水への浸積と10分間の水洗とを1サイクルとし、これを10サイクル繰り返し処理した。続いて、試料カードを自然乾燥させ、カラーマスター(D25、DP−9000型シグナルプロセッサー)を使用して“b”カラーを測定した。“b”カラーの処理前後の差“△b”を評価した。この値が小さいほどに塩素耐黄変性が優れている。なお、測定値はn=3回の平均値で求めた。
【0050】
[実施例1]
分子量1800のPTMG、MDI、エチレンジアミンおよび末端封鎖剤としてジエチルアミンからなるポリウレタンウレア重合体のDMAc溶液(35重量%)を調整し、ポリマ溶液A1とした。次に、p−クレゾ−ルおよびジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製“メタクロール”(登録商標)2390)を25℃下で攪拌して調整し、酸化防止剤溶液B1(35重量%)とした。さらに、ステアリン酸マグネシウムとストレートシリコーンの重量比1:4の混合物をホモミキサーにて調整しC1とした。A1、B1、C1、を96重量%、3重量%、1重量%で均一に混合し、紡糸用原液E1とした。
このようにして得られた紡糸用原液を1個の紡糸口金にある4つの細孔から熱風中に押し出して溶剤を蒸発させた。乾燥された糸条はリング仮撚機を通過する仮定で仮撚りされ、ゴデローラーを経てオイリングローラー上で処理剤を付与された。なお、オイリングローラーへ付与された処理剤は、25℃での粘度が10センチストークスの鉱物油92重量%、リモネン8重量%からなる処理剤であった。また、処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し6重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。
【0051】
処理剤を付与したポリウレタン弾性糸は、650m/分のスピードで糸管に巻き取った。このようにして、44デシテックス、4フィラメントのポリウレタン弾性糸を得た。
【0052】
得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0053】
[実施例2]
紡糸用原液E1を用い、処理剤として25℃で10センチストークスの鉱物油97重量%、シネオール70重量%以上含有のユーカリオイル3重量%からなる処理剤を供給した。また、処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し5重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
紡糸用原液E1を用い、処理剤として25℃で10センチストークスの鉱物油98重量%、ヒノキチオール2重量%からなる処理剤を供給した。また、処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し4重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
紡糸用原液E1を用い、処理剤として25℃で10センチストークスの鉱物油98重量%、カテキン2重量%からなる処理剤を供給した。また、処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し4重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
紡糸用原液E1を用い、処理剤として25℃で15センチストークスの鉱物油99重量%、カテキン1重量%からなる処理剤を供給した。また、処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し9重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0057】
[実施例6]
紡糸用原液E1を用い、処理剤として25℃で20センチストークスの鉱物油99.9重量%、ヒノキチオール0.1重量%からなる処理剤を供給した。また、処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し10重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0058】
[実施例7]
紡糸用原液E1を用い、処理剤として25℃で8センチストークスの鉱物油70重量%、シネオール70重量%以上含有のユーカリオイル30重量%からなる処理剤を供給した。また、処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し0.5重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0059】
[実施例8]
溶液A1、B1を97重量%:3重量%で均一に混合し、紡糸用原液E2とした。処理剤として25℃で11センチストークスの鉱物油40重量%、25℃で11センチストークスのストレートシリコーン39重量%、シネオール70重量%以上含有のユーカリオイル20重量%、ステアリン酸マグネシウム1重量%からなる処理剤を供給した。また、処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し6重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
紡糸溶液E2を用い、処理剤として、25℃で11センチストークスのストレートシリコーン99重量%、ステアリン酸マグネシウム1重量%からなる処理剤を供給した。処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し6重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0061】
[比較例2]
紡糸用原液E2を用い、処理剤として25℃で10センチストークスの鉱物油99重量%、ステアリン酸マグネシウム1重量%からなる処理剤を供給した。処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し6重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は比較例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0062】
[比較例3]
ヒノキチオールをDMAcに10重量%となるように25℃下で攪拌して調整し、溶液D1を調整した。A1、B1、D1を95重量%、3重量%、2重量%で均一に混合し、ヒノキチオール含有量0.58重量%の紡糸用原液E3とした。処理剤として、25℃で11センチストークスのストレートシリコーン99重量%、ステアリン酸マグネシウム1重量%からなる処理剤を供給した。処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し6重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
[比較例4]
カテキンをDMAcに10重量%となるように25℃下で攪拌して調整し、溶液D2を調整した。A1、B1、D2を94重量%、3重量%、3重量%で均一に混合し、カテキン含有量0.88重量%の紡糸用原液E4とした。処理剤として、25℃で11センチストークスのストレートシリコーン99重量%、ステアリン酸マグネシウム1重量%からなる処理剤を供給した。処理剤の付着量がポリウレタン弾性糸に対し6重量%になるようオイリングロールの回転数を調整した。その他は実施例1と同様にポリウレタン弾性糸を得た。得られたポリウレタン弾性糸の各種性能を評価した結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のポリウレタン弾性糸は、優れた抗菌消臭性を有しつつ、優れた耐黄変性を有するものであるので、この弾性糸を使用したサニタリー用品や衣服などは優れた消臭性と耐変色性を有したものとなる。
【0065】
これらの優れた特性を有することから、本発明のポリウレタン弾性糸は単独での使用はもとより、各種繊維や不織布との組み合わせにより、優れたストレッチ布帛を得ることが可能で、編成、織成、紐加工、ホットメルト接着加工に好適である。その使用可能な具体的用途としては、ソックス、ストッキング、丸編、トリコット、水着、スキーズボン、作業服、煙火服、ゴルフズボン、ウエットスーツ、ブラジャー、ガードル、手袋、サポーター等の各種繊維製品、締め付け材料、さらには、低応力で伸長できる伸縮性シートを得られると共に、感触の柔らかなサニタリー用品を得るため、紙おむつや生理ナプキンなどサニタニー用品の漏れ防止用ギャザー、さらには、防水資材の締め付け材料、造花、電気絶縁材、ワイピングクロス、コピークリーナー、ガスケットなどが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン弾性糸にテルペノイドを含有する処理剤が付与された処理剤付きポリウレタン弾性糸。
【請求項2】
前記処理剤中のテルペノイド含有量が0.1重量%以上20重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の処理剤付きポリウレタン弾性糸。
【請求項3】
前記テルペノイドがリモネン、ヒノキチオール、カテキン、シネオールの1種類以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の処理剤付きポリウレタン弾性糸。
【請求項4】
前記ポリウレタン弾性糸に対して前記処理剤を0.5重量%以上10重量%以下の範囲内で付与したことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の処理剤付きポリウレタン弾性糸。
【請求項5】
口金からポリウレタン弾性糸を紡糸し、該ポリウレタン弾性糸にテルペノイドを含有する処理剤を付与して引き取ることを特徴とする処理剤付きポリウレタン弾性糸の製造方法。

【公開番号】特開2011−162906(P2011−162906A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26227(P2010−26227)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(502179282)東レ・オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】