説明

処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システム

【課題】 不正使用を抑止するための処理済みID情報を配信するために、ID情報を列車によって配給する処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムを提供する。
【解決手段】 処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、各駅1〜5に蓄積された処理済み乗車券IDデータリスト7a〜7dを列車8を用いて収集するとともに、この列車8が蓄積している処理済み乗車券IDデータリスト7a〜7dを前記各駅1〜5に配給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムに関するものである。ここで、乗車券とは、通常の乗車券のみならず、区間指定の回数券や金額指定の回数券などを含む。
【背景技術】
【0002】
本特許出願人は、地方都市圏における磁気方式に代わる安価な出改札方式として、2次元コード方式を提案している(下記特許文献1)。
この2次元コード方式は、IDなどがエンコードされた2次元コードが印刷された乗車券を光学的に読み取ることで入出場チェックを行うものである。
この2次元コード付き乗車券を用いた出改札方式では、
(1)乗車券の発券時刻から一定時間以内に入出場を行う(発券時刻を特定できない回数券は入場時に発券時刻入りの券と引換え)。
【0003】
(2)入場または出場済み乗車券のID情報を各駅で共有する。
などの対策によって、記録の上書きができない2次元コード付き乗車券でも不正利用を抑止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2010−041521号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5は従来の2次元コード付き乗車券を用いた鉄道駅用出改札システムの概略模式図である。
この図において、101は出発駅、102は目的駅、103〜105は出発駅101と目的駅102の間の駅、106は2次元コード付き乗車券のID情報の管理(共有)を行うためのインターネット回線(電話回線)である。
【0006】
出発駅101では、乗車券を発券する。利用者は発券から一定時間以内の入場が必要であり、改札機で入場処理した2次元コード付き乗車券のIDは、処理済みIDとして入場時刻と共に記憶装置に記憶される。入場処理済み2次元コード付き乗車券のID情報は、インターネット回線106により各駅102〜105に送信される。目的駅102では、入場処理済み2次元コード付き乗車券で出場することで出場処理を行い、出場処理済みID情報は各駅101,103〜105に送信される。このような構成により、乗車券の複写や他券との併用、使用済み乗車券の再利用が防止される。
【0007】
このように、入場/出場処理済み乗車券情報は、各駅毎に管理され、乗車券ID情報の管理(共有)を行うときには、インターネット回線や電話回線106などを経由した方式を用いることを想定している。この場合、地方都市圏の出改札システムとしては投資コストに見合わず、なおかつ通信設備のメンテナンスコストや通信費などの運用コストも無視できないといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、不正使用を抑止するための処理済み乗車券のID情報を列車によって各駅に配給する、処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、各駅に蓄積された処理済み乗車券IDデータリストを列車を用いて収集するとともに、この列車が蓄積している処理済み乗車券IDデータリストを前記各駅に配給するようにしたことを特徴とする。
【0010】
〔2〕上記〔1〕記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記列車を用いた情報の収集および前記列車から駅への情報の配給は、近距離無線通信システムによることを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記近距離無線通信システムは無線LANであることを特徴とする。
【0011】
〔4〕上記〔1〕記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記近距離無線通信システムはBluetoothであることを特徴とする。
〔5〕上記〔1〕記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記各駅において処理済み乗車券IDデータの蓄積を行うことを特徴とする。
〔6〕上記〔1〕記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記各駅および前記列車は、捕脱防止のために前記処理済み券IDデータリストの共有化を図ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不正使用を抑止するためのID情報を列車によって配給する処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムの概略模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す処理済み普通乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムの概略模式図である。
【図3】本発明の実施例を示す処理済み回数乗車券(区間指定)情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムの概略模式図である。
【図4】本発明の処理済み回数乗車券(金額指定)情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムの概略模式図である。
【図5】従来の2次元コード付き乗車券を用いた鉄道駅用出改札システムの概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムは、各駅に蓄積された処理済み乗車券IDデータリストを列車を用いて収集するとともに、この列車が蓄積している処理済み乗車券IDデータリストを前記各駅に配給するようにした。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムの概略模式図である。
この図において、1〜5は駅、6a〜6eは各駅で入場処理又は出場処理された2次元コード付き乗車券の処理済み券IDデータリスト、6a′〜6e′は列車8で収集した処理済み券IDデータリスト6a〜6eの写し、7a〜7dはその処理済み券IDデータリストの写し6a′〜6e′からなる列車内の収集済みデータリスト、7a′〜7d′は列車8から各駅2〜5に配給される収集済みデータリスト7a〜7dの写しである共有済みデータリストである。
【0016】
本発明では、各駅1〜5で入場処理又は出場処理された2次元コード付き乗車券のIDを処理済み券IDデータリスト6a〜6eとして各駅1〜5で蓄積し、その処理済み券IDデータリストの写し6a′〜6e′を列車8によって収集して収集済みデータリスト7a〜7dとして記憶すると共に、その収集済みデータリスト7a〜7dの写しを共有済みデータリスト7a′〜7d′として各駅2〜5に配給する。
【0017】
例えば、駅1で改札処理を行った乗車券のID情報は、乗車券の有効区間の各駅に列車8によって送るため、方面別に「処理済み券IDデータリスト6aが作成される。処理済み券IDデータリスト6a〜6dは、それぞれ(1)入場処理済み/出場処理済み、(2)IDを配給する範囲、(3)ID、を組み合わせたデータリストとして管理する。IDを配給する範囲は、券種や券の有効区間に合わせて方面別に決める。普通乗車券と回数乗車券では券の有効区間を配給範囲に設定する。ただし、回数乗車券のうち金額のみが指定されるタイプのものは、どの駅からも入場可能になるため、全駅に配信するよう指定する。
【0018】
このように、駅1の改札処理で発生した処理済み券IDデータリスト6aは、その写し6a′が収集済みデータリスト7aとして列車8に記憶される。列車8は次の駅2において、収集済みデータリスト7aの写しを共有済みデータリスト7a′として配給するとともに駅2における収集済みデータリスト6bの写し6b′を収集し、処理済み券IDデータリストの写し6a′と併せて収集済みリスト7bとする。駅3〜5においても同様にデータリストの授受が行われる。なお、有効期間を過ぎた乗車券のIDに関するデータリストを消去する。
【0019】
これらのデータリストの授受は、各駅から列車へ、又は列車から各駅への一時的なデータの伝送だけですむので、従来のような各駅間を結ぶインターネット回線ではなく、無線LANやBluetoothなど近距離無線通信システムを用いて行う。
このように構成したので、各駅間を結ぶ通信ネットワークを省略することができ、列車−各駅間の近距離無線通信のための最低限の設備投資で済む。また、遠隔地のサーバまでの通信費を節約することができる。
【0020】
さらに、大規模なインターネット回線を構成する必要がないため、通信回線のダウンなどによる全体的なシステムダウンの恐れがなく、個々の機器に不具合があっても、局所的なデータの欠損で済む。
また、移動する旅客よりもデータリストの配給が遅れることはないため、乗車券に利用情報が記録された磁気乗車券と利用者が一緒に移動することと同等であり、もしくは磁気乗車券よりも早く利用情報を配給できるため、磁気乗車券のチェック機能と同等のチェック機能が実現できる。
【0021】
以下、具体例について説明する。
図2は本発明の実施例を示す処理済み普通乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムの概略模式図、図3は本発明の実施例を示す処理済み回数乗車券(区間指定)情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムの概略模式図、図4は本発明の処理済み回数乗車券(金額指定)情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムの概略模式図である。
【0022】
図2において、IDNo.125のE駅から200円区間で有効な2次元コード付き普通乗車券11が、E駅においてに入場処理された場合、X駅のあるA方面、Z駅のあるB方面、Y駅のあるC方面別の処理済み券IDデータリスト12,13,14が作成される。各方面別のデータリストは、乗車券11の有効区間であるX駅、Z駅、Y駅までそれぞれ列車(図示なし)によって配給される。
【0023】
図3において、IDNo.53のA駅C駅区間の2次元コード付き区間指定回数券15がE駅において、入場処理された場合、A駅のあるA方面、C駅のあるC方面別の処理済み券IDデータリスト16,17が作成される。B方面に配給されるデータリストは作成されない。各方面別のデータリストは有効区間であるA駅,C駅までそれぞれ列車(図示なし)によって配給される。
【0024】
図4において、IDNo.78の150円区間の2次元コード付き金額指定回数券18がE駅において、入場処理された場合、X駅のあるA方面、Z駅のあるB方面、Y駅のあるC方面別の処理済み券IDデータリスト19,20,21が作成される。各方面別のデータリストは各方面の終点までそれぞれ列車(図示なし)によって配給される。
なお、各駅と各列車間の情報の授受に加えて、すれ違いや追い越す列車同士、または通過列車と通過駅の間でもデータリストの授受が行えれば、授受ミスが起こった場合のバックアップがより確実になる。
【0025】
また、各駅・各列車が重複してデータリストを授受しないように工夫することでトラフィックの低減を図ることができる。例えば、各列車は指定された範囲内の各駅に配給し終えたデータリストを消去する、各駅は列車に配給済みのデータリストを配給しない、データリストの配給回数に制限を加える、などの方策により、データリストの冗長な授受、配給を減らすことができる。
【0026】
さらに、ICカードの使用履歴やネガデータ(紛失したカードのID)などを、列車を用いて各駅に配信するなど、大都市圏の鉄道への応用も可能である。
なお、列車内に改札機を搭載する車載方式の場合には、その改札機で得られた情報を列車内で収集しておき、その収集された情報をも組み合わせ各駅に配給するようにしてもよい。
【0027】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムは、各駅と各列車間で乗車に関する情報を共有し、乗車券の不正使用を防止するシステムとして利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1〜5 駅
6a〜6e 各駅で入場処理又は出場処理された2次元コード付き乗車券の処理済み券IDデータリスト
6a′〜6e′ 列車で収集した処理済み券IDデータリストの写し
7a〜7d 処理済み券IDデータリストの写しからなる列車内の収集済みデータリスト
7a′〜7d′ 列車から各駅に配給される収集済みデータリストの写しである共有済みデータリスト
8 列車
11 IDNo.125のE駅からの200円区間の2次元コード付き普通乗車券
12,13,14,16,17,19,20,21 処理済み券IDデータリスト
15 2次元コード付き区間指定回数券
18 2次元コード付き金額指定回数券

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、各駅に蓄積された処理済み乗車券IDデータリストを列車を用いて収集するとともに、該列車が蓄積している処理済み乗車券IDデータリストを前記各駅に配給するようにしたことを特徴とする処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システム。
【請求項2】
請求項1記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記列車を用いた情報の収集および前記列車から駅への情報の配給は、近距離無線通信システムによることを特徴とする処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システム。
【請求項3】
請求項1記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記近距離無線通信システムは無線LANであることを特徴とする処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システム。
【請求項4】
請求項1記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記近距離無線通信システムはBluetoothであることを特徴とする処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システム。
【請求項5】
請求項1記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記各駅において処理済み乗車券IDデータの蓄積を行うことを特徴とする処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システム。
【請求項6】
請求項1記載の処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システムにおいて、前記各駅および前記列車は、捕脱防止のために前記処理済み券IDデータリストの共有化を図ることを特徴とする処理済み乗車券情報の列車媒介伝送による捕脱防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−89036(P2012−89036A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236947(P2010−236947)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】