説明

処置を判定するための診断方法

本発明は、EGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤を用いる有効な処置に対して感受性である癌患者を同定する方法を提供する。本発明は、染色体7のポリソミーを使用してEGFRチロシンキナーゼ阻害剤またはそうでないがチロシンキナーゼ阻害剤と同様に機能する薬剤を用いて成功裡に処置されるようである癌患者を選択的に同定しうるという発見に基づく。本発明は、核酸プローブが細胞試料にハイブリッド形成可能でありそして特定の遺伝子領域のコピー数が計量されるという核酸技術の使用に基づく。本発明の癌患者を同定する方法は患者試料中のpAKT蛋白質の発現の判定により高められうる。本発明は、また、チロシンキナーゼ阻害剤を用いるこれらの患者の処置も意図する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
癌の宿主は毎年患者の死亡をもたらしそして癌患者を処置するために有効な治療薬に関する研究が続いている。一般的に、癌の生存期間は治療薬の有効性の最も重要な測定値であると考えられる。全体的な生存期間が比較的短い(進行した症例では1年以内の全体的な中位生存期間)例えば肺癌の如き癌に関しては、FDAによる米国における薬品の最終的な認可は患者の生存期間との有意な関係を示すことを必要とする。応答との有意な関係は短期間での認可をもたらしうるが、生存期間との有意な関係の患者の追跡および実際の提示が最終的に要求される。
【0002】
肺、結腸並びに頭部および頸部癌は癌死亡の相当な割合を占める。肺癌は単独で2005年における癌死亡のほぼ1/3を占める。非小細胞肺癌(NSCLC)は米国において肺癌症例の80−85%を構成する。従来の化学療法を改良するために、癌細胞における非−致死的な遺伝的および後成的(epigenetic)変更を利用するように設計された新規な分子剤が処置戦略として検討されてきた。そのような治療剤の1種であるチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は細胞生存期間および増殖を調節する受容体および非−受容体チロシンキナーゼ類を特異的に標的とする。慢性骨髄性白血病および胃腸間質腫瘍における例えば小分子イマチニブ(imatinib)の如きTKI処置の成功は肺癌に対するTKI類の適用を支援しており、そこでは表皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼが異常に発現される。
【0003】
腫瘍進行におけるその中心的役割、インビトロ試験からの結果、およびNSCLCの40−80%におけるその異常発現に基づき、EGFRは治療関与に関する魅力的な標的である。ゲフィチニブ(gefitinib)(イレッサ(Iressa)、アストラゼネカ(AstraZeneca))およびエルロチニブ(erlotinib)(タルセバ(Tarceva)、OSI・ファーマシューティカルズ(OSI Pharmaceuticals))を包含するEGFR蛋白質のチロシンキナーゼ活性を標的とする剤がNSCLCにおける有意な効果を有することが予期された。しかしながら、臨床的には、ゲフィチニブはフェーズII治験で報告された18.4%および11.8%の応答割合という限定された成功を示した。エルロチニブはEGFR発現に関して予めスクリーニングされた患者において12.3%の応答割合を生じた。その後のフェーズIII治験で、ゲフィチニブは8−13%の応答割合を示したが有意な生存期間利点は示さなかった。患者の再区分群の分析は、女性患者、アジア人患者、非−喫煙者および気管支肺胞/腺癌患者がTKIにさらに大きく応答したようであることを示した。
【0004】
さらに、多くの分子特徴が応答および生存期間に関する予測値との関係に関して評価されていた。これらはEGFRおよび関連受容体の増加した発現、下流因子の状態およびEGFR関係多形を包含する。蛍光インシトゥハイブリッド形成(FISH)およびpAKT発現により検出されたEGFRおよびHER2遺伝子の増加したコピー数(増殖またはポリソミー)は数種の試験において最良の予測値を示した。EGFRの増殖およびポリソミーのレベルはEGFR遺伝子およびヒト染色体7に対して指示された種々の核酸プローブを用いて測定できる。例えば、コロラド大学研究所(the Regents of the University of Colorado)による特許文献1を参照のこと。しかしながら、これらの教示は生存期間利点に関する有用な情報を与えない。
【0005】
EGFRのキナーゼ領域における活性化している突然変異はTKIに対する応答と最も高度に関連する。突然変異は、EGFR遺伝子のエキソン19中の保存されたアミノ酸配列である(E)LREAおよびエキソン18中の点突然変異G719Cおよびエキソン21中のL858Rの欠失がゲフィチニブに対する応答と関連したことを示すEGFR遺伝子の大規模配列分析により発見された。その後の試験はエキソン20中の突然変異を報告したが、既知のEGFR突然変異の大部分はエキソン19および21中にあり、エキソン19中に50%、エキソン21中に40%、エキソン18中に5−10%(もしくはそれ以下)そしてエキソン20中に6%である。エキソン19および21中の突然変異はTKIに対する応答と関係するが、エキソン19欠失突然変異はエキソン21L858R突然変異より延長された生存期間との方に高度に関連しうる。
【0006】
他のバイオマーカーと同様に、EGFRチロシンキナーゼ領域突然変異およびTKI効果の間の関係は、応答が突然変異の不存在下で起きそして突然変異を有する一部の腫瘍はTKI療法にもかかわらず進行する点で、絶対的でない。さらに、特定の突然変異はTKI療法で増加した生存期間利点を予測しえない。
【特許文献1】国際公開第2005/117553A2号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それ故、標的にされるTKIおよび他のそのような療法の適用のための分子指数に基づく改良された患者選択基準に関する要望が引き続き存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
本発明は、EGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤、例えば小分子であるゲフィチニブおよびエルロチニブ並びに抗−EGFRモノクローン抗体であるセツキシマブ、並びにそのような阻害剤と同様に機能する剤を用いる有効な処置(例えば、より長い生存期間)に対して感受性のある癌患者を同定する方法を提供する。本発明は、肺癌患者、特にTKI類からの生存期間利点を得ることが予期されるNSCLC患者、を同定するために特に有利である。本発明は、患者におけるヒト染色体7の異常なコピー数(染色体7のアニュウソミー(aneusomy)または好ましくはポリソミー(polysomy))の検出を使用してEGFR用のTKI類、例えばゲフィチニブ、エルロチニブおよびセツキシマブ、並びにTKI類と同様に機能する剤を用いて成功裡に処置されるようである(またはようでない)癌患者を選択的に同定しうる。癌にしばしば関係する他のマーカーと比べて、出願人は染色体7の異常なコピー数が増加した生存期間を予測する最も有用な単一マーカーであることを見出した。
【0009】
本発明のこの面は、核酸プローブが患者試料にハイブリッド形成可能でありそして特定の遺伝子領域のコピー数が計量されるという核酸プローブ技術の使用に基づく。好ましくは、インシトゥハイブリッド形成、そしてより好ましくは、蛍光標識付けされた核酸プローブを用いる蛍光インシトゥハイブリッド形成(FISH)、が使用される。ハイブリッド形成結果を次に使用して、患者がTKIで成功裡に処置される見込みを判定する。好ましくは、患者はNSCLC患者でありそして試料は肺癌試料である。
【0010】
TKI類を用いる処置と比べて患者を評価するために使用される他のマーカーを用いて本発明の方法を使用することができる。例えば、TKI類で成功裡に処置されるようである(またはようでない)癌患者の同定をより良好に情報提示するために、染色体7の異常なコピー数の検出を表皮受容体成長因子受容体遺伝子の増加および/もしくはポリソミーの検出並びに/またはHER2遺伝子の増加および/もしくはポリソミーの検出と組み合わせることができる。
【0011】
本発明の別の面は、関係する生物学的マーカー、例えばホスホリル化された−AktまたはPTEN蛋白質、の発現のレベルの検出を包含する。pAKTおよびPTENの発現レベルは既知の免疫組織化学技術により判定されうる。患者の試料が染色体7の異常なコピー数およびそのような蛋白質の発現を示す患者はTKI類を用いる処置のための良好な候補者であるようである。
【0012】
EGFRに対するTKI類を用いる処置のための候補患者を同定する方法は、a)癌を有する疑いのある患者から細胞を含んでなる生物学的試料を得、b)ハイブリッド形成条件下で、試料を染色体7の存在を検出しうる染色体プローブと接触させ、c)試料が染色体7の異常なコピー数を有するかどうかを判定しそしてd)その候補者を処置に適するとして同定することを含んでなる。好ましくは、この方法は試料が染色体7のポリソミーを有するかどうかを判定する段階を含んでなる。典型的には、染色体7の存在を検出しうるプローブは染色体の計数を可能にする。そのような例は、染色体7の動原体に特異的にハイブリッド形成するように設計されたプローブ(CEN7プローブ)である。候補患者は癌細胞を有することが疑われるだけでよい。候補患者は、肺、結腸、並びに頭部および頸部癌並びに他の癌を包含するがそれらに限定されない疾病からの癌細胞を有すると予め診断されていてもよい。好ましくは、癌はNSCLCである。
【0013】
本発明の方法は、候補患者の細胞を含んでなる生物学的試料(例えば、組織試料)を例えばホスホリル化されたAKT(pAKT)またはPTENの如き蛋白質を特異的に結合する抗体プローブの如き発現試薬と接触させることをさらに含んでなることができる。
【0014】
本発明は、癌を診断しそして処置する際の使用のためのプローブキットおよびセット、並びに好ましくはEGFR蛋白質のチロシンキナーゼ活性の阻害剤を用いる成功を収める処置に対する癌を有することが疑われる患者の感受性を判定する方法も意図する。好ましくは、蛍光的に標識付けされたプローブが使用されそしてプローブセットおよびキット中に含まれる。キットおよびプローブセットは、染色体7に関するコピー数を検出しうるプローブを含んでなる。キットは、また、本発明の方法を実施するための試薬、例えば発現を測定するための試薬も包含しうる。IHC用の試薬は、例えばpAKTまたはPTENの如き蛋白質に特異的に結合する抗体プローブ、スライドに対する抗体の非−特異的結合を阻止する試薬、スライドを洗浄するための種々の緩衝液、および検出試薬を包含する。
【0015】
発明の詳細な記述
本発明は、EGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤、例えば小分子であるゲフィチニブおよびイマチニブまたは抗体であるセツキシマブを用いる処置のための候補患者を同定する方法並びにそのような阻害剤を用いるそのような患者の処置を包含する。本発明は、また、EGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤と同様に機能する薬剤を用いる処置のための候補患者を同定する方法並びにそのような阻害剤を用いるそのような患者の処置を包含する。好ましくは、患者はNSCLC患者でありそして阻害剤はゲフィチニブまたはイマチニブである。
【0016】
EGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤(TKI類)を用いる処置のための候補患者(例えば、NSCLC癌患者)の同定は、患者から得られた適当な生物学的試料中の染色体異常を同定することにより判定されうる。これは、患者試料中の染色体7のアニュウソミーの存在を証明するためのインシトゥハイブリッド形成により実施することができる。一般的に、インシトゥ(in situ)ハイブリッド形成は典型的には生物学的試料を固定し、染色体プローブを固定された試料中に含有される標的DNAに対してハイブリッド形成させ、洗浄して非−特異的に結合されたプローブを除去し、そしてハイブリッド形成されたプローブを検出する段階を包含する。インシトゥハイブリッド形成はまた液体懸濁液中の検体細胞を用いて行うこともでき、引き続きフローサイトメトリーにより検出される。
【0017】
TKI類および同様な剤を用いる処置のための患者の同定は、例えばpAKTおよびPTENの如き適当な蛋白質の発現を評価することにより、高められうる。患者の試料がそのような蛋白質の発現を染色体7の異常なコピー数と共に有することが見出された患者はTKI類を用いる処置のための良好な候補者であるようである。
【0018】
染色体プローブ。染色体7の異常なコピー数(アニュウソミーまたは好ましくはポリソミー)の検出のために本発明で使用されるインシトゥハイブリッド形成方法における使用に適するプローブは典型的には染色体計数プローブである。これらは、普通は反復配列領域で、染色体領域に対してハイブリッド形成しそして染色体7の存在または不存在を示すようなプローブである。当該技術で既知であるように、染色体計数プローブは反復配列に対してハイブリッド形成し、動原体近くに置かれるかもしくはそこから除去することができ、または染色体上のいずれかの位置に置かれる独特な配列に対してハイブリッド形成しうる。例えば、染色体計数プローブは染色体の動原体に関係する反復DNAとハイブリッド形成しうる。霊長類染色体の動原体はアルファ−サテライトDNAと称する約171塩基対の単量体反復長さよりなるDNAの長い双頭反復の複雑な群を含有する。具体的な染色体計数プローブの非−限定例は実施例に記載された染色体7用のSpectrumGreenTM CEP(R)7プローブ(アボット・モレキュラー・インコーポレーテッド(Abbott Molecular Inc.))である。
【0019】
患者をTKI類で処置するかどうかの判定をより良好に情報提示するために、染色体7のコピー数を検出するためのプローブを他の特異的マーカーを検出するためのプローブと一緒に使用することができる。例えば、染色体7のポリソミーの検出をEGFR遺伝子および/またはHER−2遺伝子の増殖状態および/またはポリソミーを判定するための位置特異的プローブと組み合わせることができる。位置特異的プローブは染色体上で特異的な非−反復位置に対してハイブリッド形成する。EGFR遺伝子および/またはHER−2遺伝子の増殖状態および/またはポリソミーを判定するために有用なプローブは、それぞれ、Vysis LSI EGFR SpectrumOrangeおよびLSI HER−2 SpectrumGreen(アボット・モレキュラー・インコーポレーテッド)を包含する。染色体アームプローブ、すなわち、染色体領域に対してハイブリッド形成しそして特異的染色体のアームの存在または不存在を示すプローブ、も有用でありうる。
【0020】
動原体DNAにハイブリッド形成するプローブはアボット・モレキュラー・インコーポレーテッド(イリノイ州、デスプレイネス)およびモレキュラー・プローブス・インコーポレーテッド(Molecular Probes,Inc.)(オレゴン州、オイゲン)から市販されている。或いは、プローブを既知の技術を用いて非−商業的に製造することもできる。DNAプローブを構成する際の使用のためのDNA源は、ゲノムDNA、クローン化されたDNA配列、例えば細菌性人工染色体(BAC)、1個のまたは一部のヒト染色体を宿主の正常な染色体補体と共に含有する体細胞ハイブリッド、およびフローサイトメトリーまたは顕微解剖により精製された染色体を包含する。当該領域はクローニングによりまたはポリメラーゼ連鎖反応を介する部位−特異的増殖により単離することができる。例えば、Nath,et al.,Biotechnic Histochem,1998,73(1):6−22、Wheeless,et al.,Cytometry,1994,17:319−327、および米国特許第5,491,224号明細書を参照のこと。合成されたオリゴマー状DNAまたはペプチド核酸(PNA)プローブを使用することもできる。
【0021】
本発明で使用されるプローブにより検出される染色体領域の寸法は、例えば、上記のアルファサテライト171塩基対プローブ配列から900,000塩基の大きい断片までに変動しうる。直接的に標識付けされた位置−特異的プローブは好ましくは複雑性において少なくとも100,000塩基であり、そして引用することにより本発明の内容となる米国特許第5,756,696号明細書に開示されているように標識付けされていない阻止核酸を使用してプローブの非−特異的結合を回避する。標識付けされていない合成されたオリゴマー状核酸または蛋白質核酸を阻止核酸として使用することも可能である。
【0022】
染色体プローブは、染色体に対してハイブリッド形成された時にプローブの検出を高めるいずれかの検出部分を含有しうる。有効な検出部分は上記のような直接的および間接的標識の両方を包含する。検出可能な標識の例は、発蛍光団(すなわち、光を吸収した後に蛍光を発する有機分子)、放射活性同位体(例えば、32P、およびH)並びに発色団(例えば、可視的に検出可能なマーカーを生ずる酵素マーカー)を包含する。発蛍光団が好ましくそして標識付きヌクレオチドをプローブ中に例えばニック翻訳、無作為プライミング、およびPCR標識付けの如き標準技術で導入することによりヌクレオチドに対する共有結合後に直接的に標識付けすることができる。或いは、プローブ内のデオキシシチジンヌクレオチド類をリンカーとアミノ基転移することもできる。発蛍光団を次にアミノ基転移されたデオキシシチジンヌクレオチド類に共有結合させることができる。例えば、引用することにより本発明の内容となるBittnerらに対する米国特許第5,491,224号明細書を参照のこと。有用なプローブ標識付け技術は、引用することにより本発明の内容となるMolecular Cytogenetics:Protocols and Applications,Y.−S.Fan,Ed.,Chap.2,“Labeling Fluorescence In Situ Hybridization Probes for Genomic Targets”,L.Morrison et.al.,p.21−40,Humana Press,(C)2002に記載されている。
【0023】
ここに記載された方法で使用できる発蛍光団の例は、7−アミノ−4−メチルクマリン−3−酢酸(AMCA)、Texas Red TM(モレキュラー・プローブス・インコーポレーテッド、オレゴン州、オイゲン);5−(および−6)−カルボキシ−X−ローダミン、リサミンローダミンB、5−(および−6)−カルボキシフルオレセイン;フルオレセイン−5−イソチオシアネート(FITC);7−ジエチルアミノクマリン−3−カルボン酸、テトラメチルローダミン−5−(および−6)−イソチオシアネート;5−(および−6)−カルボキシテトラメチルローダミン;7−ヒドロキシクマリン−3−カルボン酸;6−[フルオレセイン5−(および−6)−カルボキサミド]ヘキサン酸;N−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4aジアザ−3−インダセンプロピオン酸;エオシン−5−イソチオシアネート;エリスロシン−5−イソチオシアネート;5−(および−6)−カルボキシローダミン6G;およびCascade TM ブルーアセチルアジド(モレキュラー・プローブス・インコーポレーテッド、オレゴン州、オイゲン)である。
【0024】
例えば、CEN7およびEGFR遺伝子を検出するために複数のプローブが使用される場合には、セット内の各染色体プローブが異なって可視化されうるように異なる色の発蛍光団を選択することができる。好ましくは、プローブパネルはそれぞれ異なる発蛍光団で標識付けされた別個のプローブを含んでなるであろう。
【0025】
プローブは蛍光顕微鏡およびそれぞれの発蛍光団用の適切なフィルターを用いてまたは複数の発蛍光団を観察するための二重もしくは三重の帯−通過フィルターセットを用いることにより観ることができる。例えば、引用することにより本発明の内容となるBittner他に対する米国特許第5,776,688号明細書を参照のこと。自動化されたデジタル像形成システム、例えば、メタシステムズ(MetaSystems)またはアプライド・イメージング(Applied Imaging)から入手可能なものを包含するいずれかの適当な顕微鏡像形成方法を使用してハイブリッド形成されたプローブを可視化することができる。或いは、例えばフローサイトメトリーの如き技術を使用して染色体プローブのハイブリッド形成パターンを試験することもできる。
【0026】
プローブは、間接的に、例えば、ビオチンまたはジゴキシゲニンを用いて当該技術で既知の手段により、標識付けすることもできる。しかしながら、標識付けされたプローブを可視化するために二次的な検出分子またはさらなる処理が次に必要である。例えば、ビオチンで標識付けされたプローブは検出可能なマーカー、例えば発蛍光団に共役したアビジンにより検出されうる。さらに、アビジンは酵素マーカー、例えばアルカリ性ホスファターゼまたはホースラディッシュペルオキシダーゼに共役されうる。そのような酵素マーカーは標準的な熱量反応で酵素用の基質を用いて検出されうる。アルカリ性ホスファターゼ用の基質は5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェートおよびニトロブルーテトラゾリウムを包含する。ジアミノベンジジンをホースラディッシュペルオキシダーゼ用の基質として使用することができる。
【0027】
本発明の方法で有用なプローブおよびプローブセットを他の試薬と共に本発明の方法を実施する際に使用されるキット内に包装することができる。有用なプローブセットおよびキットはCEN7に対するプローブ並びに1つもしくはそれ以上の遺伝子位置、例えばEGFRおよびHer2に対するプローブを含んでなりうる。
【0028】
発現試薬。当該蛋白質、例えばpAKTおよびPTENに特異的に結合する抗体プローブを用いるIHCにより蛋白質発現を測定しうる。主要な細胞信号発生経路成分を包含する広範囲の抗体プローブが利用可能である。抗体プローブおよび検出試薬を包含するキットも利用可能である。抗体プローブは発蛍光団、酵素、または検出試薬(例えば、標識付けされたアビジンもしくはストレプタビジンによりさらに結合されるビオチン)の追加結合を可能にする部分を用いて標識付けできる。蛍光抗体は蛍光顕微鏡下で直接的に可視化されるが、酵素標識は基質と共にインキュベートされて不溶性の発色性または蛍光性生成物を生じ、それらはそれぞれ明視野または蛍光顕微鏡を用いて可視化される。間接的に標識付けされるインシトゥハイブリッド形成プローブ、例えば抗体上の酵素標識、は標準的熱量反応で酵素用の基質を用いて検出されうる。アルカリ性ホスファターゼ用の基質は5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェートおよびニトロブルーテトラゾリウムを包含する。ジアミノベンジジンをホースラディッシュペルオキシダーゼ用の基質として使用することができる。発現された蛋白質に結合された第一抗体は第一抗体に特異的に結合する第二抗体(例えば、抗−マウスIgG)によっても結合されうる。蛋白質への発現されたmRNA前駆体もインシトゥハイブリッド形成によりまたは逆−トランスクリプターゼポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により検出されうる。
【0029】
本発明の方法で有用なプローブおよびプローブセットを発現試薬と共に本発明の方法を実施する際に使用されるキット内に包装することができる。有用なキットは当該蛋白質、例えばpAKTおよびPTENに特異的に結合する抗体プローブを包含しうる。
【0030】
試料の製造。生物学的試料は細胞または細胞物質を含有する試料である。例えば、肺試料は典型的には、肺実質、細気管支、気管支(bronchial)、気管支(bronchi)、および気管を包含するがそれらに限定されない肺構造体から誘導される細胞または細胞物質である。肺癌の検出に有用な生物学的試料の非−限定例は、気管支検体、切除された肺、肺生検試料、および痰試料を包含する。気管支検体の例は、気管支分泌物、洗液(washings)、洗浄液(lavage)、吸入物およびブラシ掻き落とし物を包含する。肺生検試料は、手術、気管支鏡、微細針吸入(FNA)、および経胸郭針生検試料により得られうる。一例では、接触調剤を肺生検試料から製造することができる。
【0031】
組織を固定剤、例えばホルムアルデヒドで固定しそして次にパラフィン中に埋め込むことができる。切片を次にミクロトームを用いて切断しそして顕微鏡スライドに適用する。細胞検体は、FNA、気管支洗液、気管支洗浄液、もしくは痰、または播種された組織細胞から誘導される細胞懸濁液から製造することができる。細胞検体は、細胞遠心、薄層沈着方法(例えばThinPrep、サイチック・コーポレーション(Cytyc Corp.))、塗抹標本、または顕微鏡スライド上へのピペット滴下と組み合わされた、エタノールまたはメタノール:酢酸中での細胞の固定により製造することができる。
【0032】
さらに、生物学的試料は滲出液、例えば、肺滲出液、心臓周囲滲出液、または腹腔滲出液、を包含しうる。さらに、生物学的試料は肺癌が一般的に転移する組織から誘導される細胞または細胞物質を包含しうる。これらの組織は、例えば、リンパ節、血液、脳、骨、肝臓、および副腎を包含する。それ故、ここに記載されたプローブおよびプローブセットを使用して肺癌および肺癌転移を検出しうる。
【0033】
頭部および頸部試料は典型的には切除された腫瘍および生検試料から誘導された細胞または細胞物質であり、そしてそうでなければ肺検体の如くして製造される。
【0034】
細胞の予備−選択。細胞試料は種々の方法によりそして種々の基準を用いて予め評価することができる。ここに記載されたプローブおよび方法は特定のスクリーニング方式を用いる用法に限定されない。一例は「走査方法」であり、そこでは観察者が細胞学的異常に関して、例えばDAPIフィルターを用いて観察して、数百ないし数千の細胞を走査する。評価される細胞の数は検体の細胞性に依存しており、それは患者毎に変動する。形成異常および新生物細胞と共通しているが必ずしも関係しない細胞学的異常は、核拡大、核不規則性、および異常なDAPI染色(しばしばまだらでありそして色がより薄い)を包含する。走査段階で、観察者は好ましくは細胞学的異常も示す細胞に対して染色体異常(FISHにより示される)に関する細胞の評価に焦点を当てる。さらに、染色体異常は細胞学的異常の不存在下でも起きるため、明白な細胞学的異常を有していない細胞の割合を評価することができる。この走査方法は引用することにより本発明の内容となるHallingらに対する米国特許第6,174,681号明細書にさらに詳細に記載されている。肺癌細胞は引用することにより本発明の内容となるMorrisonらに対する米国特許公開第2003/0087248A1号明細書に記載された方法を用いる評価のために選択することができる。
【0035】
検体の領域も普遍的な染色剤、例えばヘマトキシリンおよびエオシンを含有する染色剤を用いて評価用に選択することができる。例えば、病理学者はパラフィン−埋め込み検体の切片をヘマトキシリン/エオシン染色剤で染色し、ある領域を組織形態および染色パターンにより多分癌性であるとして同定し、そしてその領域をフェルト先端インキペンまたはガラス筆記具を用いて輪郭書きすることができる。マークされた領域を次にガラス筆記具を用いてパラフィン−埋め込み検体の連続切片上の対応する位置に移し、そしてFISHをそのスライド上で行う。筆記された領域内の細胞を次にFISH信号に関して評価する。
【0036】
染色体異常の検出。異常な細胞は染色体7のアニュウソミーまたは、好ましくは、ポリソミーにより特徴づけられる。染色体7のアニュウソミーは、細胞内の染色体プローブのハイブリッド形成パターン(例えば、各プローブに関する信号数)を試験しそして信号数を記録することにより、評価される。アニュウソミーは典型的には、染色体全体のまたは染色体上の位置のいずれかの、異常なコピー数を意味することが意図される。異常なコピー数は常染色体の単染色体性(1コピー)および無染色体性(0コピー)の両者を包含し、そして2コピーより多い。試験試料は典型的には細胞1個当たり染色体7の約3.0もしくはそれ以上のコピーを含有することが見出された時に染色体7のポリソミーに関して「試験陽性」とみなされる。例えば、ポリソミーに関するカットオフは細胞1個当たり3.0より上の信号に設定することができ、そして好ましい態様では、ポリソミーに関するカットオフは1個の細胞当たり3.5〜4.0の信号に設定することができる。しかしながら、パラフィン−埋め込み検体(典型的には4〜6μm)の区分化が細胞核の先端切断をもたらすため、1個の細胞当たりのFISH信号数は無傷の核内の実際のコピー数より幾分低いであろう。従って、ポリソミーおよびコピーの損失に関するしきい値は応答または生存期間との最適な関係を反映するように経験的に設定される。ポリソミーに関する実際のカットオフは1個の細胞当たり約3.6CEN7信号に設定することができ、その理由はたとえCEN7の実際の3もしくは4コピーがカットオフより下に低下しうるとしてもこれが応答または生存期間とより良好な関連性を与えうるからであろう。この場合、「正常」範囲は低レベルのポリソミーを包含することができそして「ポリソミー」範囲はそれより高いレベルのポリソミーだけを包含することができる。「試験陽性」に関する基準は、異常な位置および療法に対する患者応答の間の臨床的関連性によってCEN7プローブでの試験陽性を包含しうる。追加のプローブ、例えばEGFRまたはHer2に対するプローブが使用される時には、試験陽性はプローブのサブセットを用いる異常なハイブリッド形成パターンの検出を包含しうる。例えば、プローブの最初のサブセット(例えば、CEN7に対するプローブ)のパターンを評価することができ、そして、適宜、他のプローブを評価せずに試験を陽性として採用することができる。
【0037】
試験試料は、臨床的診断にとって充分数の細胞を含んでなることができ、そして典型的には少なくとも約100個の細胞を含有することができる。典型的な検定では、ハイブリッド形成パターンは約20〜200個の細胞内で評価される。染色体異常を用いて同定されそして特定試料を一般的に陽性として分類するために使用される細胞の数は試料中の細胞の数に応じて変動するであろう。染色体異常を用いて検出される細胞の絶対数または異常を含有する試験した細胞の合計数の百分率を使用して、カットオフ値との比較により試料が陽性であるかどうかを判定することができる。例えば、異常のある細胞の数または百分率がカットオフ値と等しいかもしくはそれより低い場合には、検体は異常に関して陰性であると分類されうる。異常のある細胞の数または百分率がカットオフ値より大きい場合には、検体は異常に関して陽性であると分類されうる。染色体異常の1つのまたは特定セットに関して陽性である検体は投薬に対する患者の有望な応答として分類されうる。或いは、染色体異常に関する検体陽性は検体中の1個の細胞当たりの位置の平均コピー数またはその検体に関する1つの位置コピー数対第二位置コピー数の平均比から判定されうる。位置の異常増加に関して制定されたカットオフより上にあるかまたは位置の異常な損失に関して制定されたカットオフより下にある1個の細胞当たりの特定位置の平均コピー数を有する検体が特異的異常に関して陽性であると考えられる。同様に、カットオフは2つの位置間の相対的増加または損失に関しても制定されそして試料が異常に関して陽性または陰性であるかどうかを制定するために測定された位置比に適用されうる。
【0038】
蛋白質発現。蛋白質発現は腫瘍組織、生検により得られる細胞物質などの中で検出されうる。例えば、生検試料を固定しそして検出しようとする蛋白質に選択的に結合する抗体、抗体断片またはアプチマー(aptimer)と接触させることができる。試料を検定して、抗体、断片またはアプチマーが蛋白質に結合されたかどうかを当該技術で既知の技術により判定することができる。蛋白質発現は、ウェスタンブロット、免疫ブロット、酵素−結合された免疫吸収検定(ELISA)、放射免疫検定(RIA)、免疫沈降、表面プラスモン共鳴、免疫組織化学(IHC)分析、質量分光法、蛍光活性化細胞分類(FACS)およびフローサイトメトリーを包含するがそれらに限定されない種々の方法により測定することができる。
【0039】
好ましい態様では、IHC分析を使用して蛋白質発現を測定する。試料に関する発現のレベルはIHCにより試料を特定の発現マーカーに関して染色しそして染色に関する得点を引き出すことにより測定される。例えば、ウサギのモノクローン抗体を使用して発現マーカーであるpAKTに関して染色することができる。同様に、マウス抗体がマーカーPTENの染色における使用に関して知られている。試料は各試料に関して染色された細胞の頻度および染色の強度に関して評価される。典型的には、染色された試料の頻度(0〜4に割り当てられる)および強度(0−4に割り当てられる)に基づく得点が全体的な発現の測定値として引き出される。IHCに関する例示であるが非限定的な方法および発現得点に関する基準はHandbook of immunohistochemistry and In Situ Hybridization in Human Carcinomas,M.Hayat Ed.,2004,Academic Pressに詳細に記載されておりそして実施例に記載されている。そこでは、頻度および染色強度は各々0〜4に割り当てられそして強度と頻度との積を採用して全体的な発現を推定した。1〜4の得点はマーカーが試料中で陽性発現されたことを示すとみなされうる。それより高い得点を用いるとより高レベルの発現を示す。
【0040】
療法に対する応答。染色体プローブおよび発現マーカーを、本発明の方法において使用される時の療法に対する応答(または無応答)に関して患者を分類する能力に関して選択する。療法に対する応答は、世界保健機構(the World Health Organization)、国立癌機関(the National Cancer Institute)並びに癌の研究および処置のための欧州機構(the European Organization for Research and Treatment of Cancer)により制定されたRECIST基準により一般に分類される。RECIST基準は、応答を進行性疾病(PD)、安定性疾病(SD)、部分的応答(PR)、および完全応答(CR)として分類する。良好な応答は典型的にはPR+CRを包含すると考えられる(まとめてここでは他覚応答と称する)。
【0041】
本発明の詳細を以下の実施例でさらに記載するが、それらは特許請求された本発明の範囲を限定する意図はない。当業者は、この明細書の精査で本発明の変更および改変が明らかになりうることを認識するであろう。従って、本発明の範囲または精神から逸脱しないここに記載された態様のそのような改変および変更を提供することが1つの目的である。
【実施例】
【0042】
実験方法
検体。ゲフィチニブ(イレッサ)で1週間以上処置された81人のエクスパンデド・アクセス・トライアル(Expanded Access Trial)NSCLC患者からの検体はラッシュ大学医学センターおよびシカゴ大学(イリノイ州、シカゴ)の保管所から得られた。チャート一覧および研究分析はRUMC・インスティチューショナル・レビュー・ボード(RUMC Institutional Review Board)により許可された。保管物質中のNSCLCの診断は病理報告から得られそしてさらなる分析前に病歴評価により確認された。年令、性別、喫煙状態および疾病等級は登録時にチャート一覧および患者報告から制定された。喫煙状態は<100本のたばこの生涯消費量により定義された。応答は測定可能および測定不能病変のRECIST基準に従い評価された。無進行間隔および全体的な生存期間をゲフィチニブを用いる初期処置時期からの月数(30.4により割り算された日数)で計数した。進行性疾病は70日間の処置内の再発により定義される。
【0043】
インシトゥハイブリッド形成。コピー数に関しては、FISH、EGFRおよび染色体7(CEN7)プローブにより分析物質を利用してEGFR/細胞、CEN7/細胞およびEGFR/CEN7を試験した。染色体7の動原体近くのαサテライト反復配列を標的にするプローブを使用してCEN7コピー数を指示した(SpectrumGreenTM CEP(R)7,アボット・モレキュラー・インコーポレーテッド)。Vysis Paraffin Pretreatment IIまたはIIIキット(アボット・モレキュラー・インコーポレーテッド)のいずれかを用いて検体スライドを製造した。製造された検体スライドをHYBriteTM自動化された同時−変性オーブン(アボット・モレキュラー・インコーポレーテッド)中で二色FISHプローブ溶液(SpectrumOrangeTM LSI(R) EGFR,Spectrum−Green CEP7; アボット・モレキュラー・インコーポレーテッド)にハイブリッド形成させた。スライドをオーブン表面上に置きそして10μLのプローブ溶液を組織切片上に積層した。カバースリップをプローブ溶液上に適用しそしてスライドをゴムセメントで密封した。73℃における5分間にわたる変性後に、プローブを37℃において16−18時間にわたりハイブリッド形成させた。ハイブリッド形成およびゴムセメントシールの除去後に、スライドを室温の2×SSC(SSC=0.3M NaCl、15mM クエン酸ナトリウム)、0.3%のNonidet P40(NP40)の中に2−5分間にわたり入れてカバー片を離脱させた。スライドを次に73℃の2×SSC、0.3%のNP40の中に2分間にわたり浸漬して非特異的に結合されたプローブを除去しそして次に暗所で自然乾燥した。核の可視化のためにDAPIIアンチフェード溶液(アボット・モレキュラー・インコーポレーテッド)を検体に適用した。検体の一部は最適なFISH結果を生ずるための追加処理を必要とした。消化過剰または消化不足の検体は前記の通りに再処理した。
【0044】
FISHスライドをZeiss Axioscope epi−fluorescence顕微鏡(カール・ツァイス(Carl Zeiss)、ニューヨーク州、ソーンウッド)下で評価した。信号を可視化し、そして核を可視化するためのDAPI・シングル−バンド−パス・フィルター・セット(DAPI single−band−pass filter set)、SpectrumOrange−labeled LSI EGFRプローブを可視化するための橙色・シングル−バンド−パス・フィルター・セット、およびSpectrumGreen CEP 7プローブを可視化するための緑色・シングル−バンド−パス・フィルター・セットを用いて計数を行った(全てのフィルター・セットはアボット・モレキュラー・インコーポレーテッドからである)。悪性腫瘍細胞の形態学的特徴を有する核だけを計数した。
【0045】
典型的には、30〜90(中位数80)個の細胞が各検体中で計数された。EGFRおよびCEN7に関する各細胞からの信号数を合計しそしてそれぞれEGFR/細胞およびCEN7/細胞を与えるために計数した細胞数により割り算することにより、1個の細胞当たりの信号の平均数を計算した。EGFR/細胞を1個の細胞当たりのCEN7/細胞により割り算してEGFR/CEN7を生じた。選択基準の開発において使用された他のFISHパラメーターは以下の通りにして定義される。EGFRの%増加またはCEN7の%増加は、それぞれ2つより多いEGFRまたはCEN7信号を有する細胞の百分率として計算された。EGFR/CEN7の%増加は動原体7信号より多いEGFR信号を示した細胞の百分率であった。スライドを複数回計数した時には、計数をまとめそして比および%増加を再計算するために使用した。
【0046】
無応答患者の平均および標準偏差を用いて各パラメーター(比および%増加)に関して、0.1標準偏差増分で、平均マイナス1.5標準偏差から平均プラス3.5標準偏差までのカットオフを最初に作成することにより、高い比または高い%増加を定義するための最適なカットオフ点を選択した。それぞれのカットオフにおけるそれぞれの高いおよび低い比並びに%増加を分割表で他覚応答並びに生存期間(1年以上および以下の生存期間)と比較した。最低のカイ−二乗確率を有するカットオフをさらなる分析用に選択した。3.6近くのCEN7/細胞に関するカットオフが他覚応答に関する染色体7ポリソミーを定義するために最適であると見出された。
【0047】
単染色体性または無染色体性のいずれかの染色体7の損失を示すためにもカット点が指定された。染色体7アニュウソミー(CEN7アニュウソミー)を次に、例えば、約2.0より下かまたは約3.0より上の(好ましくは約3.6より上の)CEN7/細胞として定義した。
【0048】
免疫組織化学。標準技術によりパラフィン切片(5μm、切断したて)を脱パラフィン化しそして再水和した。マイクロ波抗原検索方法を次にクエン酸塩緩衝液中で行った。組織をVentana ES Histo−stainer(ベンタナ・メディカル・システムズ(Ventana Medical Systems)、アリゾナ州、ツーソン)を用いて供給されたジアミノベンジジンおよびアビジン−ビオチン共役免疫ペルオキシダーゼ化学を用いて染色した。切片を表1に挙げられたマーカーの発現に関して染色した。
【0049】
【表1】

【0050】
各スライド上の全ての腫瘍細胞の免疫染色頻度を臨床患者データの知識なしで0〜4の目盛りで推定した。1%より少ない陽性腫瘍細胞は0、1%〜10%は1、そして11−35%は2、36%〜70%は3、そして70%以上を4と記録された。腫瘍細胞染色強度はまた0〜4のスケールで記録された。強度と頻度との積、または頻度だけを全体的発現の相対的推定値として使用した。細胞膜関係染色だけがEGFR用であると考えられた。
【0051】
統計学的方法。2つの変数間の関係の一変量分析をフィッシャーズ・エクザクト・テスト(Fisher’s Exact Test)を用いて行った。2つもしくはそれ以上のマーカーの多変量分析をカイ二乗により評価した。有意レベルは片側または両側検定においてp<0.05であった。
【0052】
カプラン−メイアー(Kaplan−Meier)方法を使用して、ログ−ランク(log−rank)試験により評価群の間で比較して、無進行間隔および全体的生存期間を判定した。
【0053】
結果
患者および臨床評価。ゲフィチニブ・エクスパンデド・アクセス・トライアルにおける処置および組織入手性に基づき、81人の患者が選択された。この患者群の人口統計は表2に示される。全ての患者は毎日250mgのゲフィチニブを、7.3ヶ月の中位数追跡期間で、摂取した。
【0054】
【表2】

【0055】
ゲフィチニブに対する全体的応答はこの患者群では15%であり、完全応答の2人の患者および部分的応答の10人を含む。36人の患者は安定性疾病を示した。
【0056】
応答の分子予測因子。入手し易い腫瘍組織を有するこの患者群において遺伝子型および表現型マーカーを分析した。応答の提唱された予測因子に関する結果は表3に示される。以下のマーカーはゲフィチニブに対する応答に有意に関係していた:EGFR/細胞6.0(p=0.0087)、EGFRの%増加75%細胞(p=0.0352)、CEN7/細胞4.0(p=0.0294)、およびPTEN発現(PTEN IHC;p=0.0147)。
【0057】
【表3】

【0058】
応答との関係に対する解釈基準の影響が観察された。動原体プローブを用いるFISHにより評価された染色体7ポリソミーは、元データの解釈のために使用される基準によって、応答に対する関係の範囲を示した。3.0、3.5、3.6、3.8および4.0CEN7/細胞のカットオフを使用した時には、p値はそれぞれ0.420、0.221、0.079、0.039および0.029であった。1個の細胞当たり4.0の信号を有する腫瘍が応答とより高く関係したが、約3.6のカットオフは生存期間をより多く予測した。
【0059】
生存期間の分子予測因子。生存期間の提唱された予測因子に関する結果は表4に示される。一般的に、EGFRコピー数を含むパラメーターは、CEN7に正規化された時でさえ、より長い生存期間と統計学的に有意に関係しなかった。同様に、IHCにより測定される蛋白質発現もより長い生存期間と統計学的に有意に関係しなかった。しかしながら、染色体7コピー数に基づくパラメーターは高度に関係しており、すなわち、CEN7/細胞:「正常な」対アニュウソミー(p=0.0018)、ポリソミー対非−ポリソミー(p=0.0149)、およびCEN7の4つもしくはそれ以上のコピーを含有する細胞の百分率(p=0.0248)であった。
【0060】
【表4】

【0061】
生存期間の予測因子としてのpAKTおよびPTEN発現と組み合わされたEGFRおよび染色体状態。生存期間と有意に関係したマーカー組み合わせの例は表5に示される。挙げられた例の各々において、2つのパラメーターの組み合わせは、個別のいずれかのパラメーター(表4に匹敵する)より低い中位生存期間に関するp−値により判定して、より大きい統計学的有意性を与えた。EGFRコピー数に基づく個別のパラメーターは生存期間の有意な予測因子でないが、一部のEGFRに基づくパラメーターとpAKTまたはPTEN発現との組み合わせは有意な関係を与えたことは注目されうる。
【0062】
【表5】

【0063】
結果の検討
標的癌療法、例えばTKI類であるゲフィチニブおよびエルロチニブ並びに抗−EGFRモノクローン抗体であるセツキシマブ(エルビツックス(Erbitux))は、悪性腫瘍成長に関する治療標的(EGFR)に対する強い依存性を有する細胞に対して最も有効である。しかしながら、新生物細胞の遺伝的不安定性は耐性突然変異を発生することにより特異的阻害剤を無効にするかまたは交互信号発生経路および成長条件を引き出すことによりEGFR依存性を軽減させうる。従って、治療標的および腫瘍表現型の間の簡単な関係が疾病の過程にわたり変動することがありそしてある種の環境下における無能EGFRの初期効果は長期生存期間効果に言い換えられないであろう。これは、初期応答並びにゲフィチニブに対する感受性と関係すると報告されたバイオマーカーの数にもかかわらず、ゲフィニチブの有意な生存期間利点の欠如で説明される。
【0064】
ここで試験された81人の患者群に関しては、EGFRを包含するパラメーターがTKI薬品であるゲフィチニブに対する即時応答に関する患者の最良分類を与えたことが見出された。しかしながら、EGFRに基づく単一パラメーターは生存期間に関して統計学的に有意な患者分類を与えなかった。対照的に、染色体7コピー数に基づく単一パラメーターは応答に関する患者の分類ではあまり有効でないが、生存期間に関しては患者の最も統計学的に有意な分類を与えた。
【0065】
試験した患者群において、6.0ヶ月の中位生存期間(p=0.0149)を有する残りの63人の患者と比べて、染色体7ポリソミー(最適には1個の細胞当たり約3.6CEN7信号)は16.2ヶ月の中位生存期間を有する18人の患者の再区分群を同定した。5.8ヶ月の中位生存期間(p=0.0018)を有する残りの55人の患者と比べて、染色体7アニュウソミー(最適には約3.6CEN7/細胞または<2.0CEN7/細胞)は15.3ヶ月の中位生存期間を有する26人の患者の再区分群を同定した。6.9ヶ月の中位生存期間(p=0.0248)を有する残りの64人の患者と比べて、異常な染色体7コピー数の別の測定値である1個の細胞当たりの4コピーを有する細胞の百分率は17.1ヶ月の中位生存期間を有する17人の患者の再区分群を同定した。
【0066】
ゲノムコピー数変化に加えて、しばしばIHCにより測定される種々の蛋白質の増加した発現がTKI類に対する応答の予測因子として検討された。この試験では、IHCにより測定された増加したEGFR蛋白質は応答または臨床結果に有意に関連しなかった。同様な結果はqPCRを用いるEGFR転写の分析から報告された。この試験では、pAKT発現も生存期間の応答の有効な予測因子であるとは見いだされず、そしてPTENは応答との有意な関係を示したが生存期間とは示さなかった。
【0067】
複数因子の考察はTKI効力を予測する能力を高めうる。EGFR状態またはポリソミー7状態に対するpAKT発現状態の追加は、CEN7/細胞、EGFRの%増加、およびCEN7の%4パラメーターに関するより長い生存期間の予測を改良した。EGFR/CEN7の%増加パラメーターに対するPTEN発現の追加も、より長い生存期間の予測を改良した。
【0068】
本発明をその詳細な記述と共に記載してきたが、以上の記述は本発明を説明することを意図しておりそして発明の範囲の限定を意図しないことを理解すべきである。本発明の他の面、利点、および改変は特許請求の範囲の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤を用いる処置のための候補患者を同定する方法であって、(a)患者から生物学的試料を得、(b)もしあれば、試料中の染色体7に対するプローブのハイブリッド形成を可能にするのに充分な条件下で試料を染色体7の存在を検出しうるプローブと接触させ、ここでプローブは染色体7のコピー数を検出することができ、そして(c)染色体7の異常なコピー数を有する試料を同定しそして該試料を該候補患者と関連づけることにより候補者をそのようなチロシンキナーゼ阻害剤を用いる処置に適するとして同定することを含んでなる方法。
【請求項2】
生物学的試料をEGFRまたはHer2の存在を検出しうるプローブとさらに接触させる請求項1の方法。
【請求項3】
試料中の染色体7のアニュウソミー(aneusomy)の存在または不存在を判定する段階をさらに含んでなる請求項1の方法。
【請求項4】
試料中の染色体7のポリソミー(polysomy)の存在または不存在を判定する段階をさらに含んでなる請求項1の方法。
【請求項5】
患者試料中の染色体7の平均コピー数が細胞1個当たり約3.0コピーより大きいかどうかを判定する段階をさらに含んでなる請求項4の方法。
【請求項6】
患者試料中の染色体7の平均コピー数が細胞1個当たり約3.5〜約4.0コピーの範囲内であるかどうかを判定する段階をさらに含んでなる請求項4の方法。
【請求項7】
患者からの生物学的試料をpAKT発現の存在を判定するための発現試薬と接触させる段階をさらに含んでなる請求項1の方法。
【請求項8】
pAKTの発現レベルを判定する段階をさらに含んでなる請求項7の方法。
【請求項9】
生物学的試料が生検試料を含んでなる請求項1の方法。
【請求項10】
生物学的試料が細胞学試料を含んでなる請求項1の方法。
【請求項11】
染色体プローブが蛍光標識付けされている請求項1の方法。
【請求項12】
生物学的試料が肺細胞を含んでなる請求項1の方法。
【請求項13】
候補患者が肺癌があると診断されている請求項1の方法。
【請求項14】
候補者をEGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤で処置する段階をさらに含んでなる請求項1の方法。
【請求項15】
EGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤がゲフィチニブ(gefitinib)、エルロチニブ(erlotinib)およびセツキシマブ(cetuximab)の群から選択される請求項14の方法。
【請求項16】
候補患者がNSCLCがあると診断されている請求項1の方法。
【請求項17】
EGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤またはチロシンキナーゼ阻害剤と同様に機能する薬剤を用いる処置のための候補患者を同定する方法であって、(a)患者から生物学的試料を得、(b)もしあれば、試料中の染色体に対するプローブのハイブリッド形成を可能にするのに充分な条件下で1つもしくはそれ以上の染色体プローブのセットを接触させ、ここで1つのプローブは細胞内の染色体7のコピー数を検出することができ、そして(c)染色体7の異常なコピー数を有する試料を同定しそして該試料を該候補患者と関連づけることにより候補者をEGFRのチロシンキナーゼ活性の阻害剤またはチロシンキナーゼ阻害剤と同様に機能する薬剤を用いる処置に適するとして同定することを含んでなる方法。
【請求項18】
チロシンキナーゼ阻害剤がゲフィチニブ、エルロチニブおよびセツキシマブの群から選択される請求項17の方法。

【公表番号】特表2009−536523(P2009−536523A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509781(P2009−509781)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/011047
【国際公開番号】WO2007/133516
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(300039672)アボット・ラボラトリーズ (4)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】