説明

凸版印刷版

【課題】表面が平坦な転写ロールを使用する凸版印刷法によって所期の膜厚の薄膜を形成することが可能な凸版印刷版を提供する。
【解決手段】本発明は、表面が平坦な転写ロールを使用する凸版印刷法に用いられる凸版印刷版であって、表面に所定の窪みが形成された凸部を有する、凸版印刷版に関する。また本発明は、前記凸部は、点対称となるように配置された複数の前記窪みを有する、凸版印刷版に関する。また本発明は、互いに所定の間隔をあけて、所定の方向に延在する複数本の前記凸部を有する、凸版印刷版に関する。また本発明は、前記凸部は、前記所定の方向に延在する前記窪み、または前記所定の方向に垂直な方向に延在する窪みを有する、凸版印刷版に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凸版印刷版、この凸版印刷版を使用した薄膜の製造方法、印刷装置、および凸版印刷版を使用した有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凸版印刷法では通常つぎのように印刷を行っている。まず円柱状の転写ロールの全面にインキを供給し、次にこの転写ロールに凸版印刷版を押し当て、凸版印刷版の凸部にインキを転写する。さらに凸版印刷版を被印刷体に押圧することによって印刷を行い、被印刷体に所定のパターンで薄膜を形成している。
【0003】
上述の転写ロールにはいわゆるアニロックスロールが多用されている。アニロックスロールは、表面に微細な凹凸が形成された転写ロールであり、その表面に形成される凹凸の形状を調整することで、凸版印刷版に転写されるインキの分量を調整することができる。図4を参照しつつ、アニロックスロールを使用した凸版印刷法について説明する。
【0004】
図4はアニロックスロールを使用した凸版印刷法を模式的に示す図である。印刷用のインキ3はインキタンク2に収容されている。アニロックスロール1は、その一部がインキ3に浸漬する状態で回転可能に軸支されており、図4では矢印で示すように反時計回りに回転する。インキ3中を通過したアニロックスロール1の表面にはインキが付着する。なおインキは凸版印刷版4に転写すべき量よりも多量に付着するが、余分なインキは凸版印刷版4に転写される前にドクターブレード5によって除去される。図4に示すように、ドクターブレード5は、凸版印刷版4がアニロックスロール1に押し当てられる前にアニロックスロール1に押し当てられる。これによって、余分なインキが除去されるとともに、意図した分量のインキがアニロックスロール1表面の凹部に充填される。このように意図した分量のインキがアニロックスロール1に保持された状態で凸版印刷版4が押し当てられると、意図した分量のインキが凸版印刷版に転写され、これがさらに被印刷体に印刷される。
【0005】
このようにアニロックスロールを使用することにより、意図した分量のインキを被印刷体に印刷することが可能となり、結果として意図した膜厚の薄膜を被印刷体に形成することができる(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−252787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のようにアニロックスロールに供給されたインキは凸版印刷版に転写されるが、その全てが転写されるわけではなく、一部は転写されずにアニロックスロール上に残留する。そしてアニロックスロール上に残留したインキは、アニロックスロールの回転にともなってインキタンクに向けて移動し、再びインキタンクに収容される。アニロックスロールに供給されたインキは、アニロックスロールが回転する間に溶媒の一部が蒸発するため、その固形分濃度が上昇する。そのため固形分濃度の高いインキがインキタンクに収容され続け、結果としてインキタンク中のインキ組成が経時的に変化する。このようにインキタンク中のインキ組成が変化するために、アニロックスロールを使用した凸版印刷法では連続して一定の性状の薄膜を形成することが難しいという問題がある。なおインキがインキタンクに戻ることを防ぐために、アニロックスロールを洗浄することも考えられるが、アニロックスロールの表面の凹部に充填されたインキを、洗浄によって完全に除去することは難しいため、残留したインキがインキタンクに戻ること完全に防ぐことは困難である。
【0008】
そこで、本発明者等は、表面に凹凸が形成されたアニロックスロールに替えて、表面が平坦な転写ロールを使用して薄膜を形成することを検討した。表面が平坦な転写ロールでは、転写ロールをインキに浸漬しただけでは意図した分量のインキがその表面に付着しないため、通常インキはスリットコート法などによって転写ロールの表面に供給される。転写ロールから凸版印刷版に転写されるインキの分量は、転写ロールに供給するインキの量を制御することによってある程度調整することは可能であるが、実際には、インキの供給量を調整しただけでは意図した分量のインキが凸版印刷版に転写されず、結果として、意図した膜厚の薄膜を形成することができないという新たな問題が確認された。
【0009】
従って本発明の目的は、表面が平坦な転写ロールを使用する凸版印刷法によって所期の膜厚の薄膜を形成することが可能な凸版印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、表面が平坦な転写ロールを使用する凸版印刷法に用いられる凸版印刷版であって、
表面に所定の窪みが形成された凸部を有する、凸版印刷版に関する。
【0011】
また本発明は、前記凸部は、点対称となるように配置された複数の前記窪みを有する、凸版印刷版に関する。
【0012】
また本発明は、互いに所定の間隔をあけて、所定の方向に延在する複数本の前記凸部を有する、凸版印刷版に関する。
【0013】
また本発明は、前記凸部は、前記所定の方向に延在する前記窪み、または前記所定の方向に垂直な方向に延在する窪みを有する、凸版印刷版に関する。
【0014】
また本発明は、インキ供給源と、
前記インキ供給源からインキが供給される、表面が平坦な転写ロールと、
前記転写ロールの表面に供給されたインキが転写される、前記凸版印刷版とを備える印刷装置に関する。
【0015】
また本発明は、表面が平坦な転写ロールにインキを供給する工程と、
前記凸版印刷版を前記転写ロールに押し当て、前記インキを前記凸版印刷版に転写する工程と、
前記凸版印刷版を被印刷体に押し当て、前記インキを印刷する工程と、
前記インキを固化し、被印刷体上に薄膜を形成する工程とを備える薄膜の製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、一対の電極と、該電極間に設けられる有機EL層とを備える有機EL素子の製造方法であって、
一対の電極のうちの一方の電極を形成する工程と、
表面が平坦な転写ロールに、前記有機EL層となる材料を含む有機ELインキを供給する工程と、
前記凸版印刷版を前記転写ロールに押し当て、前記有機ELインキを前記凸版印刷版に転写する工程と、
前記凸版印刷版を一対の前記一方の電極に押し当て、前記有機ELインキを印刷する工程と、
前記有機ELインキを固化し、一方の電極上に有機EL層を形成する工程と、
前記有機EL層上に一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含む、有機EL素子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面が平坦な転写ロールを使用する凸版印刷法によって所期の膜厚の薄膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の凸版印刷版を模式的に示す図である。
【図2】連続した窪みが形成された凸部を模式的に示す図である。
【図3】上述した凸版印刷版を備える印刷装置を模式的に示す図である。
【図4】アニロックスロールを使用した凸版印刷法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の凸版印刷版は、表面が平坦な転写ロールを使用する凸版印刷法に用いられる凸版印刷版であって、表面に所定の窪みが形成された凸部を有する。
【0020】
このように凸部の表面に所定の窪みを形成することにより、転写ロールから転写されるインキの分量を調整することができる。これによって、印刷された薄膜の膜厚を調整することができる。
【0021】
凸版印刷版には、被印刷体に形成すべき薄膜のパターンに対応するパターンの凸部が形成される。たとえば複数本の帯状の薄膜を被印刷体に形成する場合には、この帯状の薄膜のパターンに対応するように、互いに所定の間隔をあけて、所定の方向に延在する複数本の凸部が凸版印刷版に設けられる。またたとえばマトリクス状に配置される複数枚の薄膜を形成する場合、すなわち所定の行方向に所定の間隔をあけるとともに、所定の列方向に所定の間隔をあけて配置される複数枚の薄膜を形成する場合には、この複数枚の薄膜のパターンに対応するようにマトリクス状に配置される複数個の凸部が凸版印刷版に設けられる。
【0022】
図1は本実施形態の凸版印刷版を模式的に示す図である。図1(1)は平面図であり、図1(2)はその断面図である。図1では、互いに所定の間隔をあけて、所定の方向に延在する複数本の凸部11、すなわちストライプ状に配置される複数本の凸部11が形成された凸版印刷版12を、実施の一形態として示している。なお図1(1)および後述する図2では窪み14にハッチングを施している。
【0023】
図1に示すように凸版印刷版12の凸部11には所定の窪み14が設けられている。窪み14の形状およびその配置はインキの転写量に応じて適宜設定される。たとえば平面視において、凸部11の面積に占める窪み14の面積の割合や、窪み14の深さを適宜調整することによってインキの転写量を調整することができる。
【0024】
前記凸部11は、点対称となるように配置された複数の前記窪み14を有することが好ましい。すなわち凸版印刷版12の厚み方向に垂直な平面上において、複数の前記窪み14は、点対称となるように配置されていることが好ましい。換言すると各凸部11において、凸版印刷版12の厚み方向にその軸線方向が一致する所定の対称軸に対して、線対称となるように窪み14が形成されていることが好ましい。なお後述するように凸版印刷版12は所定の版胴に巻き回されて使用されるが、上記窪み14の配置は、凸版印刷版12を平面上に載置した状態での配置を意味する。このように対称に複数の窪みを配置することによって、転写ロールから凸部に転写されるインキの膜厚を均一にすることができ、結果として均一な膜厚の薄膜を被印刷体に形成することができる。
【0025】
図1では、各凸部の延在する方向に垂直な幅方向に2つの窪み14がそれぞれ設けられた凸版印刷版を示しているが、幅方向の窪みの数は2つに限らず、1つ、または3つ以上であってもよい。また図1では平面視で円形の窪み14を示しているが、窪み14の平面視の形状は円形に限らず多角形状でも、略楕円状であってもよい。なお幅方向は、基板の厚み方向に対しても垂直な方向である。
【0026】
また図1では窪みが離散的に設けられた凸部を示したが、窪みは連続して形成されていてもよい。図2は連続した窪みが形成された凸部を模式的に示す図である。図2では複数本形成される凸部のうちの1つの凸部を拡大して模式的に示している。なお窪みが連続して形成されている形態であっても、窪みは、点対称となるように配置されていることが好ましい。
【0027】
たとえば互いに所定の間隔をあけて、所定の方向に延在する複数本の前記凸部を有する凸版印刷版の場合、すなわちストライプ状の凸部を有する凸版印刷版の場合、前記凸部は、前記所定の方向に延在する複数本の前記窪み、または前記所定の方向に垂直な方向に延在する複数本の前記窪みを有することが好ましい。すなわち凸部は、図2(1)に示すように凸部の延在する方向と同じ方向に延在する窪み、または図2(2)に示すように凸部の延在する方向とは垂直な方向に延在する窪みを有することが好ましい。なお図2(1)では凸部の延在する方向と同じ方向に延在する3本の窪みが形成された凸部を示しているが、窪みの本数は3本に限らず、1本以上であればよい。
【0028】
また図2(3)に示すように、凸部には格子状の窪みが形成されていてもよく、また図2(4)に示すように、凸部にはV字状の窪みが形成されていてもよい。
【0029】
次に窪みが形成された凸部を備える凸版印刷版の作製方法について説明する。本実施形態の凸版印刷版は例えば感光性樹脂を用いて作製することができる。たとえばまず所定の基材上にネガ型の感光性樹脂を成膜する。次にフォトマスクを介して、UV光で感光性樹脂を露光し、凸部を構成する部位を硬化させる。なお露光の際には、凸部が形成される領域(a)から窪みが形成される領域(b)を除いた領域<領域(a)−領域(b)>と、領域(b)とで、露光量を異ならせる。具体的には領域(b)よりも領域<領域(a)−領域(b)>の露光量を多くする。露光量を異ならせるために、露光は2回に分けて行ってもよい。たとえば1回目は、領域<領域(a)−領域(b)>を露光し、2回目は、領域(a)または領域(b)を露光すればよい。そして未硬化の感光性樹脂を洗い流し、現像する。上述したように露光量を異ならせることによって、領域(b)よりも領域<領域(a)−領域(b)>がより硬化しているため、現像の際には、領域(b)よりも領域<領域(a)−領域(b)>がより残存することになり、窪みが形成された凸部が得られる。このようにして凸版印刷版を得ることができる。なお露光は、感光性樹脂側のみから行ってもよいが、基材側からも予め露光していてもよい。
【0030】
感光性樹脂としてはたとえばポリアミド、ポリイミド、アクリレートなどを用いることができる。基材にはポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネイトなどを用いることができる。
【0031】
次に上述した凸版印刷版を用いて薄膜を製造する方法について説明する。図3は、上述した凸版印刷版を備える印刷装置21を模式的に示す図である。印刷装置21は主に、インキ供給源22と、前記インキ供給源22からインキが供給される、表面が平坦な転写ロール23と、前記転写ロール23の表面に供給されたインキが転写される上述の凸版印刷版12とを備える。
【0032】
上述したように凸版印刷版12は通常版胴24に巻き回されて使用される。たとえばストライプ状の凸部が設けられた凸版印刷版を使用する場合、凸版印刷版は、凸部の延在する方向が版胴の周方向に一致するように、または凸部の延在する方向が版胴の軸線方向に一致するように版胴に巻き回される。本実施形態では版胴24は、軸心を中心に回転可能に軸支され、図示しない回転駆動機構からの駆動力によって回転する。図3では版胴24は矢印で示すように時計回りに回転し、この版胴24の回転にともなって凸版印刷版12も回転する。
【0033】
転写ロール23は、その軸心が版胴24の軸心と平行になるように、回転可能に軸支され、図示しない回転駆動機構からの駆動力によって回転する。図3では矢印で示すように反時計回りに回転する。転写ロール23はたとえばクロム、酸化クロム、アルミニウム、酸化アルミニウムなどによって構成される。
【0034】
インキ供給源22は、インキを収容し、さらにこれを転写ロール23に供給する。本実施形態ではスリットノズル25を用いて、転写ロール23にインキを供給する。
【0035】
さらに本実施形態では印刷装置は洗浄機構26をさらに備える。洗浄機構26は、転写ロール23から凸版印刷版12にインキが転写された後に、転写ロール23上に残存するインキを洗浄する。たとえば洗浄機構26は、ドクターブレードを備え、このドクターブレードを転写ロール23に押し当てることによって、転写ロール23上に残存するインキを掻き落とす。なお所定のリンス液を用いて転写ロール23を洗浄してもよい。
【0036】
印刷装置21は被印刷体27を搬送する搬送テーブル28をさらに備える。この搬送テーブル28は被印刷体27を保持し、凸版印刷版12の接線速度と同じ速度で、凸版印刷版12の接線方向に平行移動する。搬送テーブル28は通常、水平移動する。この搬送テーブル28の移動にともなって被印刷体も平行移動する。
【0037】
インキ供給源22から供給されるインキは、スリットノズル25を通って転写ロール23上に供給される。このようにスリットノズル25からインキが供給されつつ、転写ロール23が回転することにより、転写ロール23の表面上にインキの薄膜が形成される。
【0038】
凸版印刷版12は転写ロール23に当接した状態で回転するため、転写ロール23に供給されたインキが、凸版印刷版12の凸部の表面に順次転写される。
【0039】
このようにインキが転写され、凸部にインキを保持する凸版印刷版12は、被印刷体27にも押圧された状態で回転する。被印刷体27は凸版印刷版12の回転とともに平行移動するため、被印刷体27には、凸版印刷版12の凸部に保持されたインキが順次印刷される。
【0040】
なお凸版印刷版12に転写されずに転写ロール23に残存したインキは、洗浄機構26によって転写ロール23から除去される。
【0041】
以上の工程によって、表面が平坦な転写ロールにインキを供給する工程と、上述の凸版印刷版を前記転写ロールに押し当て、インキを前記凸版印刷版に転写する工程と、凸版印刷版を被印刷体に押し当て、前記インキを印刷する工程とが行われ、さらに前記インキを固化し、被印刷体上に薄膜を形成する工程とを行うことにより被印刷体上に薄膜が形成される。
【0042】
インキの固化は、溶媒を除去することによって行うことができる。溶媒の除去はたとえば自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥などによって行われる。またインキが、光や熱を加えることによって硬化する材料を含む場合は、被印刷体にインキが印刷された後に、光を照射したり、熱を加えたりすることによってインキを固化してもよい。
【0043】
上述したように、所定の窪みを凸部に形成することによって、意図した分量のインキを凸版印刷版12に転写することができる。これによって意図した分量のインキを被印刷体27に印刷することができ、結果として意図した膜厚の薄膜を、被印刷体上に形成することができる。
【0044】
上述した印刷装置を用いることにより、被印刷体上に様々な種類の薄膜を形成することができる。たとえば用いるインキを適宜調整することによって、電極や配線として機能する導電性薄膜、有機光電変換素子の活性層、有機薄膜トランジスタの半導体層、および後述する有機EL素子の有機EL層などを形成することができる。
【0045】
上述した凸版印刷法を用いて、有機EL素子を形成することができる。すなわち本実施の形態の有機EL素子の製造方法は、一対の電極と、該電極間に設けられる有機EL層とを備える有機EL素子の製造方法であって、一対の電極のうちの一方の電極を形成する工程と、表面が平坦な転写ロールに、前記有機EL層となる材料を含む有機ELインキを供給する工程と、上述の凸版印刷版を前記転写ロールに押し当て、前記有機ELインキを前記凸版印刷版に転写する工程と、前記凸版印刷版を一対の前記一方の電極に押し当て、前記有機ELインキを印刷する工程と、前記有機ELインキを固化し、一方の電極上に有機EL層を形成する工程と、前記有機EL層上に一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含む、有機EL素子の製造方法に関する。
【0046】
有機EL素子はたとえば表示装置の画素として用いられる。このような表示装置では、支持基板上に複数の有機EL素子が所定の配列で整列して設けられる。たとえば複数の有機EL素子は、支持基板上においてマトリクス状に配置される。すなわち複数の有機EL素子は、所定の行方向に所定の間隔をあけるとともに、所定の列方向に所定の間隔をあけて、整列して配置される。
【0047】
支持基板上には通常複数の有機EL素子を区分けするための隔壁が設けられる。そして複数の有機EL素子は隔壁によって区分けされた領域にそれぞれ形成される。
【0048】
隔壁は、たとえばストライプ状、または格子状に設けられる。ストライプ状の隔壁が設けられる場合、所定の方向に延在する複数本の隔壁が、互いに所定の間隔をあけて基板上に設けられる。そして各有機EL素子は、各隔壁間に設けられ、この隔壁間において、隔壁の延在する方向に沿って所定の間隔をあけて配置される。また格子状の隔壁が設けられる場合、各有機EL素子は、それぞれ格子状の隔壁によって区分けされた領域にそれぞれ設けられる。
【0049】
本実施形態ではストライプ状の隔壁が設けられる基板に複数の有機EL素子を作製する方法について説明する。
【0050】
有機EL素子は一対の電極を備える。一対の電極の一方の電極は、陽極と陰極とから構成される。すなわち一対の電極のうちの一方の電極は、陽極および陰極のうちのいずれか一方の電極として機能し、一対の電極のうちの他方の電極は、陽極および陰極のうちのいずれか他方の電極として機能する。まず支持基板上に各有機EL素子の一方の電極をそれぞれ形成する。すなわち有機EL素子の数に対応する数の一方の電極を支持基板上に形成する。複数の一方の電極は、マトリクス状に配置される。
【0051】
次にストライプ状の隔壁を形成する。ストライプ状の隔壁は、隣り合う一方の電極間に形成される。この隔壁はたとえば感光性樹脂を用いて、フォトリソグラフィ法によって形成することができる。
【0052】
つぎに有機EL層を形成する。本実施形態では、ストライプ状の隔壁間に、有機EL層となる材料を含む有機ELインキを供給し、さらにこれを固化することによって、ストライプ状の隔壁間に、帯状の有機EL層を形成する。なおストライプ状の隔壁間への有機ELインキの供給は、上述した凸版印刷法によって行われる。すなわち上述の凸版印刷法において、インキとして、有機EL層となる材料を含む有機ELインキを使用し、さらに、凸版印刷版として、隔壁間のパターンに対応するストライプ状の凸部が形成された凸版印刷版を使用する。上述した凸版印刷法によって隔壁間に有機ELインキを供給し、さらにこれを固化することによって、帯状の有機EL層を各隔壁間に形成することができる。
【0053】
有機EL層を形成する際に用いられる有機ELインキは、その固形分濃度が通常0.5重量%〜3重量%程度であり、その粘度が通常5cp〜100cp程度である。有機ELインキの溶媒または分散媒は、有機EL層となる材料を均一に溶解または分散するものであればよい。たとえばクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、および水などを溶媒または分散媒として適宜使用することができる。
【0054】
有機EL層の膜厚は通常30nm〜120nm程度である。有機EL素子の特性は有機EL層の膜厚に大きく依存するため、意図した膜厚の有機EL層を形成することが望まれている。本実施形態では、凸版印刷版の凸部に所定の窪みを形成することによって、意図した分量の有機ELインキを隔壁間に供給することができ、結果として、意図した膜厚の有機EL層を形成することができる。これによって所期の特性を有する有機EL素子を形成することができる。
【0055】
一対の電極間には、1層の有機EL層に限らず、複数の有機EL層が必要に応じて設けられる。なお有機EL層とは一対の電極間に設けられる全ての層を意味する。一対の電極間には少なくとも1層の発光層が有機EL層として設けられる。複数の有機EL層が設けられる場合には、少なくとも1層の有機EL層が上述の本発明の凸版印刷法によって形成される。なお複数の有機EL層のうち、塗布法によって形成することが可能な有機EL層は、上述した本発明の凸版印刷法によって形成することが好ましい。なおカラー表示装置の場合には、赤色、緑色、青色をそれぞれ発光する有機ELインキを所定の隔壁間に塗り分ける必要がある。この場合、各色の有機ELインキが供給されるパターンに対応するように、印刷版の凸部のパターンを形成することによって、各色の有機ELインキを塗り分けることができる。
【0056】
有機EL層を形成した後に、有機EL層上に他方の電極を形成する。これによって複数の有機EL層が基板上に形成される。
【0057】
なお本実施形態ではストライプ状の隔壁が形成される基板上に複数の有機EL素子を形成する方法について説明したが、格子状の隔壁が形成された基板上に複数の有機EL素子を形成する方法であっても、上述した凸版印刷法によって、各有機EL素子の有機EL層を形成することができる。この場合、格子状の隔壁によって区分けされるマトリクス状のパターンに対応するように、マトリクス状に配置される複数の凸部が形成された凸版印刷版を使用すればよい。
【0058】
<有機EL素子の構成>
有機EL素子は種々の層構成をとりうるが、以下では有機EL素子の層構造、各層の構成、および各層の形成方法についてさらに詳しく説明する。
【0059】
有機EL素子は、一対の電極と、該電極間に設けられる1または複数の有機EL層とを含んで構成され、1または複数の有機EL層として少なくとも1層の発光層を有する。なお有機EL素子は、無機物と有機物とを含む層、および無機層などを含んでいてもよい。有機層を構成する有機物としては、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、また低分子化合物と高分子化合物との混合物でもよい。有機層は、高分子化合物を含むことが好ましく、ポリスチレン換算の数平均分子量が10〜10である高分子化合物を含むことが好ましい。
【0060】
陰極と発光層との間に設けられる有機EL層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層などを挙げることができる。陰極と発光層との間に電子注入層と電子輸送層との両方の層が設けられる場合、陰極に近い層を電子注入層といい、発光層に近い層を電子輸送層という。陽極と発光層との間に設けられる有機EL層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層などを挙げることができる。正孔注入層と正孔輸送層との両方の層が設けられる場合、陽極に近い層を正孔注入層といい、発光層に近い層を正孔輸送層という。
【0061】
本実施の形態の有機EL素子のとりうる層構成の一例を以下に示す。
a)陽極/発光層/陰極
b)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
c)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
d)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極
e)陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
f)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
g)陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
h)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
j)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
k)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極
l)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
m)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
n)陽極/発光層/電子注入層/陰極
o)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
p)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ここで、記号「/」は、記号「/」を挟む各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
本実施の形態の有機EL素子は2層以上の発光層を有していてもよい。上記a)〜p)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極と陰極とに挟持された積層体を「構造単位A」とすると、2層の発光層を有する有機EL素子の構成として、下記q)に示す層構成を挙げることができる。なお2つある(構造単位A)の層構成は互いに同じでも、異なっていてもよい。
q)陽極/(構造単位A)/電荷発生層/(構造単位A)/陰極
また「(構造単位A)/電荷発生層」を「構造単位B」とすると、3層以上の発光層を有する有機EL素子の構成として、下記r)に示す層構成を挙げることができる。
r)陽極/(構造単位B)x/(構造単位A)/陰極
なお記号「x」は、2以上の整数を表し、(構造単位B)xは、構造単位Bがx段積層された積層体を表す。また複数ある(構造単位B)の層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0062】
ここで、電荷発生層とは電界を印加することにより正孔と電子を発生する層である。電荷発生層としては、たとえば酸化バナジウム、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、酸化モリブデンなどから成る薄膜を挙げることができる。
【0063】
有機EL素子は通常支持基板上に設けられる。有機EL素子は、陽極および陰極から構成される一対の電極のうちの陽極を陰極よりも支持基板寄りに配して支持基板に設けてもよく、また陰極を陽極よりも支持基板寄りに配して支持基板に設けてもよい。たとえば上記a)〜r)の構成において、右側から順に支持基板上に各層を積層した構成の有機EL素子でも、左側から順に支持基板上に各層を積層した構成の有機EL素子であってもよい。
【0064】
積層する層の順序、層数、および各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜設定することができる。
【0065】
次に有機EL素子を構成する各層の材料および形成方法についてより具体的に説明する。
【0066】
<陽極>
発光層から放たれる光が陽極を通って素子外に出射する構成の有機EL素子の場合、陽極には光透過性を示す電極が用いられる。光透過性を示す電極としては、金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を用いることができ、電気伝導度および光透過率の高いものが好適に用いられる。具体的には酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、および銅などから成る薄膜が用いられ、これらの中でもITO、IZO、または酸化スズから成る薄膜が好適に用いられる。陽極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法などを挙げることができる。また、該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0067】
陽極の膜厚は、求められる特性や成膜工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0068】
<正孔注入層>
正孔注入層を構成する正孔注入材料としては、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、および酸化アルミニウムなどの酸化物や、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、およびポリチオフェン誘導体などを挙げることができる。
【0069】
正孔注入層の成膜方法としては、正孔注入材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。例えば正孔注入材料を含む溶液を所定の塗布法によって塗布成膜し、さらにこれを固化することによって正孔注入層を形成することができる。
【0070】
塗布法としてはスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、オフセット印刷法、インクジェットプリント法などを挙げることができ、実施の一形態として前述した本発明の凸版印刷法が好ましい。
【0071】
正孔注入層の膜厚は、求められる特性および成膜工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0072】
<正孔輸送層>
正孔輸送層を構成する正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などを挙げることができる。
【0073】
これらの中で正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、又はポリ(2,5−チエニレンビニレン)若しくはその誘導体などの高分子正孔輸送材料が好ましく、さらに好ましくはポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体である。低分子の正孔輸送材料の場合には、高分子バインダーに分散させて用いることが好ましい。
【0074】
正孔輸送層の成膜方法としては、特に制限はないが、低分子の正孔輸送材料では、高分子バインダーと正孔輸送材料とを含む混合液からの成膜を挙げることができ、高分子の正孔輸送材料では、正孔輸送材料を含む溶液からの成膜を挙げることができる。
【0075】
溶液からの成膜方法としては、前述した正孔注入層の成膜法と同様の塗布法を挙げることができる。
【0076】
混合する高分子バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収の弱いものが好適に用いられ、例えばポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0077】
正孔輸送層の膜厚は、求められる特性および成膜工程の簡易さなどを考慮して設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0078】
<発光層>
発光層は、通常、主として蛍光及び/又はりん光を発光する有機物、または該有機物とこれを補助するドーパントとから形成される。ドーパントは、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。なお発光層を構成する有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、塗布法によって発光層を形成する場合には、発光層は高分子化合物を含むことが好ましい。発光層を構成する高分子化合物のポリスチレン換算の数平均分子量はたとえば10〜10程度である。発光層を構成する発光材料としては、例えば以下の色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料、ドーパント材料を挙げることができる。
【0079】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などを挙げることができる。
【0080】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、またはAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体を挙げることができ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などを挙げることができる。
【0081】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどを挙げることができる。
【0082】
上記発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0083】
また、緑色に発光する材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
【0084】
また、赤色に発光する材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約2nm〜200nmである。
【0085】
発光層の成膜方法としては、溶液から成膜する方法、真空蒸着法、転写法などを挙げることができる。
【0086】
溶液からの成膜において溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法およびノズルプリンティング法などのコート法、並びにグラビア印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法などの塗布法を挙げることができ、実施の一形態として前述した本発明の凸版印刷法が好ましい。
【0087】
<電子輸送層>
電子輸送層を構成する電子輸送材料としては、公知のものを使用でき、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などを挙げることができる。
【0088】
これらのうち、電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体が好ましく、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、ベンゾキノン、アントラキノン、トリス(8−キノリノール)アルミニウム、ポリキノリンがさらに好ましい。
【0089】
電子輸送層の成膜法としては特に制限はないが、低分子の電子輸送材料では、粉末からの真空蒸着法、または溶液若しくは溶融状態からの成膜を挙げることができ、高分子の電子輸送材料では溶液または溶融状態からの成膜を挙げることができる。なお溶液または溶融状態からの成膜する場合には、高分子バインダーを併用してもよい。溶液から電子輸送層を成膜する方法としては、前述の溶液から正孔注入層を成膜する方法と同様の成膜法を挙げることができる。
【0090】
電子輸送層の膜厚は、求められる特性や成膜工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば1nm〜1μmであり、好ましくは2nm〜500nmであり、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
【0091】
<電子注入層>
電子注入層を構成する材料としては、発光層の種類に応じて最適な材料が適宜選択され、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のうちの1種類以上を含む合金、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、またはこれらの物質の混合物などを挙げることができる。アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、ハロゲン化物、および炭酸塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウムなどを挙げることができる。また、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。電子注入層は、2層以上を積層した積層体で構成されてもよく、例えばLiF/Caなどを挙げることができる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法などにより形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
【0092】
<陰極>
陰極の材料としては、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料が好ましい。また陽極側から光を取出す構成の有機EL素子では、発光層から放たれる光を陰極で陽極側に反射するために、陰極の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。陰極には、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および周期表の13族金属などを用いることができる。陰極の材料としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、前記金属のうちの2種以上の合金、前記金属のうちの1種以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1種以上との合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物などが用いられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などを挙げることができる。また、陰極としては導電性金属酸化物および導電性有機物などから成る透明導電性電極を用いることができる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、およびIZOを挙げることができ、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などを挙げることができる。なお陰極は、2層以上を積層した積層体で構成されていてもよい。なお電子注入層が陰極として用いられる場合もある。
【0093】
陰極の膜厚は、求められる特性や成膜工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
【0094】
陰極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などを挙げることができる。
【実施例】
【0095】
(凸版印刷版の作製)
まず図1に模式的に示す凸版印刷版と同様の構成の凸版印刷版を作製した。ポリエステル系樹脂を感光性樹脂として使用し、フォトリソグラフィ法によって複数個の窪みが形成された複数本の凸部を有する凸版印刷版を作製した。各凸部の幅方向の幅L1は、80μmであり、凸部の高さL3は136μmである。また凸部と凸部との間隔L2は220μmである。各窪みの深さは約10μm程度である。各窪みは正方格子の配置で形成し、1インチ当り、536個の窪みを形成した。凸部の面積における窪みの面積の割合(窪みの面積/凸部の面積)×100は、平面視で約70%であった。
【0096】
(基板の準備)
被塗布体として200mm(縦)×200mm(横)×0.7mm(厚み)の透明ガラス板を準備した。
【0097】
(有機ELインキの用意)
アニソール90重量部、シクロヘキシルベンゼン10重量部からなる混合溶媒を用意し、この混合溶媒に有機発光材料を1重量%の濃度で溶解し、有機ELインキを用意した。有機発光材料には高分子発光材料(サメイション社製、商品名「Green1300」)を用いた。用意した有機ELインキの粘度は25cpであった。
【0098】
(印刷)
図3に模式的に示す印刷装置と同様に動作する大日本スクリーン製造(株)製の「有版印刷実験装置」を用いて印刷を行った。凸版印刷版には上記で作製した凸版印刷版を使用した。凸版印刷版は、凸部の延在する方向が版胴の周方向と一致するように、版胴に設置した。前述したように、まずスリットノズル(スリット幅220mm,スリット隙間50μm)を用いて、表面が酸化クロムから成る転写ロールに有機ELインキを供給し、転写ロールの表面に有機ELインキの薄膜を形成した。さらに凸版印刷版の凸部が転写ロールに対して20μm押し込まれた状態となるように、凸版印刷版を転写ロールに押し当て、転写ロールから凸版印刷版の凸部に有機ELインキを転写した。次に凸版印刷版の凸部がガラス基板に対して20μm押し込まれた状態となるように、凸版印刷版をガラス基板に押し当てた。その後有機ELインキを乾燥し、複数本の帯状の薄膜を得た。
【0099】
(薄膜形状の測定)
形成された薄膜の断面形状を触針式膜厚計(KLA-Tencor社製;アルファステップP16)を用いて測定した。薄膜の延在する方向に垂直な平面で薄膜を切断したその断面形状はドーム状であった。幅方向の幅は210μmであり、膜厚は59nmであった。
【0100】
(比較例)
実施例において使用した凸版印刷版とは異なる凸版印刷版を使用したこと以外は、実施例と同様にして薄膜を形成した。実施例では凸部に窪みを形成したが、本比較例では凸部に窪みを形成していない凸版印刷版を使用した。すなわち凸部の頂面が平坦な凸版印刷版を使用した。なお凸部に窪みを形成していないことを除けば、比較例と実施例とで使用した凸版印刷版は同じ構成である。
(膜厚測定)
実施例と同様にして薄膜の形状を測定した。薄膜の断面はドーム状であった。薄膜の幅方向の幅は210μm、膜厚は53nmであった。実施例の薄膜と比較すると、膜厚の薄い薄膜が形成されていた。
【0101】
以上のように、凸部の表面に窪みを形成することによって印刷される有機ELインキの量を調整することができ、結果として、形成される薄膜の膜厚を調整することができることを確認した。
【符号の説明】
【0102】
1 アニロックスロール
2 インキタンク
3 インキ
4 凸版印刷版
5 ドクターブレード
11 凸部
12 凸版印刷版
14 窪み
21 印刷装置
22 インキ供給源
23 転写ロール
24 版胴
25 スリットノズル
26 洗浄機構
27 被印刷体
28 搬送テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が平坦な転写ロールを使用する凸版印刷法に用いられる凸版印刷版であって、
表面に所定の窪みが形成された凸部を有する、凸版印刷版。
【請求項2】
前記凸部は、点対称となるように配置された複数の前記窪みを有する、請求項1記載の凸版印刷版。
【請求項3】
互いに所定の間隔をあけて、所定の方向に延在する複数本の前記凸部を有する、請求項1または2記載の凸版印刷版。
【請求項4】
前記凸部は、前記所定の方向に延在する前記窪み、または前記所定の方向に垂直な方向に延在する前記窪みを有する、請求項3記載の凸版印刷版。
【請求項5】
インキ供給源と、
前記インキ供給源からインキが供給される、表面が平坦な転写ロールと、
前記転写ロールの表面に供給されたインキが転写される、請求項1〜4のいずれか1つに記載の凸版印刷版とを備える印刷装置。
【請求項6】
表面が平坦な転写ロールにインキを供給する工程と、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の凸版印刷版を前記転写ロールに押し当て、前記インキを前記凸版印刷版に転写する工程と、
前記凸版印刷版を被印刷体に押し当て、前記インキを印刷する工程と、
前記インキを固化し、被印刷体上に薄膜を形成する工程とを備える薄膜の製造方法。
【請求項7】
一対の電極と、該電極間に設けられる有機EL層とを備える有機EL素子の製造方法であって、
一対の電極のうちの一方の電極を形成する工程と、
表面が平坦な転写ロールに、前記有機EL層となる材料を含む有機ELインキを供給する工程と、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の凸版印刷版を前記転写ロールに押し当て、前記有機ELインキを前記凸版印刷版に転写する工程と、
前記凸版印刷版を一対の前記一方の電極に押し当て、前記有機ELインキを印刷する工程と、
前記有機ELインキを固化し、一方の電極上に有機EL層を形成する工程と、
前記有機EL層上に一対の電極のうちの他方の電極を形成する工程とを含む、有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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