説明

出血の治療のための組成物および方法

患者における1つ以上の出血性または潜在的に出血性の血管を診断する工程と、当該患者に、血管閉塞化合物を含む治療有効量の組成物を約0.1%〜約45%の濃度で投与する工程と、を含む出血の治療方法が提供される。当該血管閉塞化合物は、親水特性を有するポリマー(ポリエチレングリコール(PEG)等)を含んでいてもよい。当該組成物はまた、当該血管閉塞剤とイオン結合を形成できる1つ以上の活性剤(血流修飾因子等)を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は出血の治療のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出血(bleeding)(技術的に出血(hemorrhage)または出血(hemorrhaging)として知られる)は、循環系からの血液の損失である。出血は、内的(血液が身体内の血管から漏れる)、または外的(血液が自然な開口部または皮膚中の裂け目から漏れる)のいずれかで生じ得る。出血は、身体内の血管が裂け、または漏れた場合に生じる。これは、身体的な外傷または非外傷性の理由(破裂動脈瘤等)から生じ得る。抗凝固療法治療、および血液凝固を伴う疾患は、出血が生じるリスクを高める可能性がある。破裂動脈瘤は、ショックまたは死さえももたらし得る、重度の内出血の原因になる可能性がある。現在の治療の選択肢は、動脈瘤を修復する手術(可能であれば)、床上安静および関連する症候を緩和する薬物療法(鎮痛剤および抗けいれん薬等)である。破裂動脈瘤を経験した全人口の約半分は、1日以内または3ヶ月以内のいずれかに死亡する。生存者のうち約50%には、通常、生涯にわたる身体障害が残る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、当該技術分野において、出血を制御し、有害な事象のリスクを減少するための方法についてのニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
患者における1つ以上の出血を診断する工程と、当該患者に、血管閉塞化合物を含む治療有効量の組成物を、体積あたり約0.1質量%〜約45質量%の濃度で投与する工程と、を含む出血の治療方法が提供される。局所投与のための組成物中、当該血管閉塞化合物の濃度は、体積あたり約0.1質量%〜約20質量%であってもよく、体積あたり約1質量%〜10質量%であってもよい。非経口投与のために、当該濃度は、体積あたり約10質量%〜約45質量%であってもよく、ある実施態様では、体積あたり約20質量%〜約40質量%であってもよい。当該血管閉塞化合物は、親水特性を有するポリマー(ポリエチレングリコール(PEG)等)を含んでいてもよい。
【0005】
血管閉塞化合物に加えて、当該組成物は、血流を変化させることができる1つ以上の活性剤を含んでいてもよい。ある実施態様では、当該活性剤は、体積あたり約0.1質量%〜約20質量%の濃度で存在するマグネシウム塩(Mg)を含む。ある実施態様では、当該活性剤は、体積あたり約0.1質量%〜約10質量%の濃度で存在するマグネシウム塩(Mg)を含む。ある実施態様では、当該活性剤は、体積あたり約0.5質量%〜約5質量%の濃度で存在するマグネシウム塩(Mg)を含む。
【0006】
治療有効量は、患者の体重に基づいて算出できる。一般的に、投与される本発明の組成物の治療有効量は、患者の体重に基づき、患者の体重1kgあたり約0.05ml〜20mlの組成物の割合を使用して見積もってもよい。出血が続く場合、反復用量を投与してもよい。局所投与する場合、患者の体重(kg)あたり約0.05〜約5mlの組成物、患者の体重(kg)あたり約0.1〜約5mlの組成物または患者の体重(kg)あたり約0.1〜約1mlの組成物の範囲の低用量が要求される。非経口的に投与する場合、患者の体重(kg)あたり約0.5〜約20mlの組成物、患者の体重(kg)あたり約0.5〜約10mlの組成物または患者の体重(kg)あたり約1〜約8mlの組成物の範囲の高用量が要求される可能性がある。少なくとも1つの治療有効量の本発明の組成物は、血管閉塞化合物の半減期またはそれ以下の間に投与してもよい。
【0007】
様々な実施態様のさらなる特徴および利点について、一部は下記に記載され、一部は当該記載から明らかであるか、または様々な実施態様の実施によって知ることができる。様々な実施態様の目的および他の利点は、本願明細書および請求項で具体的に記載された要素および組み合わせによって認識でき、かつ、実現できる。
【0008】
部分的に、実施態様の他の態様、特徴、利益および利点は、下記の記載、添付の請求項および添付の図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1a〜1fは、損傷時に投与された際の、1週間にわたる出血部位内のビオチン標識されたPEGの蓄積および保持を示す。
【図2】図2a〜2fは、損傷時の異なる方法での投与後の出血部位内のビオチン標識されたPEGの蓄積を示す。
【図3a】様々なPEG組成物の投与後の、出血部位内のPEGの蓄積のデータを示す。
【図3b】様々なPEG組成物の投与後の、出血部位内のPEGの蓄積のデータを示す。
【図4】生理食塩水、PEGまたはPEG溶液中のマグネシウムの投与後の出血面積の範囲を示すデータを表わす。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面は原寸で描かれていないことが理解されるはずである。さらに、図面中の物体間の関係は原寸通りではない可能性があり、実際はサイズについて逆の関係性を有する可能性がある。図面は、示された各物体の構造についての理解および明確さをもたらすことを意図しており、従って、いくつかの特徴は、構造についての特定の特徴を示すために誇張される可能性がある。
【0011】
本願明細書および添付の請求項について、別段の記載がない限り、本願明細書および請求項において使用される成分の量、物質の割合または比率、反応条件を表わす全ての数および他の数値は、用語「約」によって、全ての例において修飾されるものとして理解されるはずである。従って、別段の記載がない限り、本願明細書および請求項に記載された数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変動する可能性がある近似値である。最低限でも、そして、請求項の範囲の均討論の適用を制限することを意図することなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の値に基づいて、通常の丸め方を適用することによって解釈されなければならない。
【0012】
本発明の広範な範囲を示す数値範囲およびパラメータが近似値であるかに関わらず、特定の例に記載された数値は可能な限り正確に報告される。しかし、全ての数値は、各試験の測定値において認められる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。さらに、本願明細書に開示される全ての範囲は、これらに包含されるいずれか、および全ての部分的な範囲を含むものと理解されるはずである。例えば、「1〜10」という範囲は、最小値1と最大値10との間(およびこれらを含む)のうちのいずれか、および全ての部分的な範囲、すなわち、1に等しいか、もしくはこれよりも大きい最小値、および10に等しいか、またはそれ未満の最大値を有するいずれか、および全ての部分的な範囲(例えば、5.5〜10)を含む。
【0013】
本願明細書および添付の請求項において使用される場合、単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」には、1つの参照対象にはっきりと明示して制限されていない限り、複数形の参照対象が含まれることに注意されたい。
【0014】
出血の治療方法が提供される。このような方法は、患者における1つ以上の出血性血管を診断する工程と、当該患者に、血管閉塞化合物を含む治療有効量の組成物を投与する工程と、を含む。
【0015】
用語「治療する」または「治療」は、1つ以上の薬剤を、患者(ヒトまたはその他)に、疾病の兆候または症候を緩和するために投与する工程を含んでもよい手順を実行することを指す。「治療する」または「治療」は、兆候または症候の完全な軽減を要求せず、治癒を要求せず、患者に対するマージナル効果のみを有する手順を特に含む。
【0016】
用語「治療有効量」は、患者に投与した場合に、患者の症状の改善をもたらすのに十分な本発明の組成物の量を指す。改善は治癒を意味するのではなく、患者の症状におけるマージナルな変化のみ含んでもよい。これはまた、症状を阻害する、またはその進行を停止もしくは遅延させる活性剤の量を含んでいてもよい。
【0017】
治療有効量は、患者の体重に基づいて算出できる。一般的に、投与される本発明の組成物の治療有効量は、患者の体重1kgあたり約0.05ml〜20mlの組成物の割合を使用して、患者の体重に基づいて見積もってもよい。出血が続く場合、反復用量を投与してもよい。局所投与する場合、患者の体重(kg)あたり約0.05〜約5mlの組成物、患者の体重(kg)あたり約0.1〜約5mlの組成物または患者の体重(kg)あたり約0.1〜約1mlの組成物の範囲の低用量が要求される。非経口的に投与する場合、患者の体重(kg)あたり約0.5〜約20mlの組成物、患者の体重(kg)あたり約0.5および約10mlの組成物または患者の体重(kg)あたり約1〜約8mlの組成物の範囲の高用量が要求されてもよい。
【0018】
出血は、機械的、電気的、生物学的、または化学的な損傷によって誘導される可能性がある。出血はまた、変性状態(動脈瘤の形成等)に由来していてもよい。当該技術分野において知られ、使用される全ての診断方法を、1つ以上の出血性血管の存在を特定するために利用してもよい。出血のリスクがある血管はまた、危険因子(動脈瘤、腹部外傷、軟組織、腱、靱帯または骨の外傷、または腫瘍等)の探索によって特定してもよい。適した診断方法としては、血液試験、血圧試験、EKG、または医用イメージング試験(X線、超音波、CATスキャンまたはMRI等)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明の組成物中の血管閉塞化合物として使用するのに有用な化合物は、下記の基準を満たしてもよい;(1)親水特性を有する、(2)出血部位で蓄積し、血管封着特性を有する、ならびに(3)出血部位で少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも24時間維持される。さらに、非経口投与のために、適した血管閉塞化合物は、血管が無傷である場合に迅速に排泄され得る。
【0020】
さらに、血管閉塞剤は、特定の条件下で細胞膜を封着または融合することができてもよい。本発明の組成物について、血管閉塞化合物の濃度は、血管閉塞化合物が、大きな膜融合効果を示すことなく膜封着効果をもたらすように選択されてもよい。例えば、分子量3350〜8000Daを有するポリエチレングリコール(PEG)は、体積あたり0.1質量%〜30質量%の濃度で顕著な細胞膜封着および出血の減少を示し、体積あたり45質量%超の濃度で顕著な膜融合特性を示す。従って、ある実施態様では、血管閉塞化合物の濃度は、体積あたり45質量%未満である。
【0021】
この応用のために、様々な組成物は、出血部位で保持されるが血管が無傷である場合は全身循環から迅速に排泄され得る血管閉塞化合物を含む。血管閉塞化合物の全除去の速度、または半減期は、化合物の分子量および親水特性に関連する。通常は、同一の分子量については、親水性ポリマーは、より疎水性のポリマーよりも半減期が短い。さらに、親水特性を有するポリマーの半減期は、その分子量と直接的に関連し、より高い分子量のポリマーは、より長い半減期を有する。ほとんど変化せずに尿から排泄され得る親水性ポリマーは、排泄の前に何らかの変換が要求されるポリマーよりも、半減期が短い。例えば、糸球体濾過のカットオフ値は24,000Daであるため、24,000Daよりも重い全てのポリマーは、排泄され得る前に、ある程度まで分解される必要があり、これによってポリマーの半減期が延びる。ある実施態様では、当該血管閉塞化合物は、2時間未満、より好ましくは1時間未満の半減期を有する。このような化合物は、24,000Da未満の分子量を有する親水特性を有するポリマーから選択されてもよい。
【0022】
当該血管閉塞化合物は、親水性または両親媒性ポリマーから選択されてもよい。本願明細書で使用される用語「親水性ポリマー」は、水分子への親和性や誘引を示し、鎖状および/または分岐状の構造において互いに結合する同一のサブユニット(「モノマー」)についての複数の例を含む全ての高分子を意味する。親水性ポリマー成分は、合成または自然に存在する親水性ポリマーであってもよい。
【0023】
自然に存在する親水性の剤としては下記が挙げられるが、これらに限定されない。コラーゲンおよびその誘導体、フィブロネクチン、アルブミン、グロブリン、フィブリノーゲンおよびフィブリン等のタンパク質(コラーゲンが特に好ましい);ポリマンヌロン酸およびポリガラクツロン酸等のカルボキシル化ポリサッカライド;アミノ化ポリサッカライド、特にグリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロン酸、キチン、コンドロイチン硫酸A、B、またはC、硫酸ケラチン、ケラタン硫酸およびヘパリン;メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウムおよび活性化ポリサッカライド(デキストラン等)およびデンプン誘導体。
【0024】
有用な合成親水性化合物としては下記が挙げられるが、これらに限定されない。ポリアルキレンオキシド、特にポリエチレングリコールおよびポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)コポリマー(ブロックコポリマーおよびランダムコポリマー等);グリセロール、ポリグリセロール(特に高度分岐ポリグリセロール)、ポリ(メタクリル酸ポリエチレングリコール)、ポリ(メタクリル酸グリセロール)、ポリ(アクリル酸グリセロール)、ポリ(アクリル酸ポリエチレングリコール)、ポリ(アルキルオキサゾリン)、ホスホリルコリンポリマー、ポリメタクリル酸ナトリウムおよびポリメタクリル酸カリウム、ポリアクリル酸ナトリウムおよびポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸およびポリアクリル酸、1つ以上のポリアルキレンオキシドで置換されたプロピレングリコールおよびトリメチレングリコール(例えば、モノ−、ジ−およびトリ−ポリオキシエチル化グリセロール、モノ−およびジ−ポリオキシエチル化プロピレングリコール、ならびにモノ−およびジ−ポリオキシエチル化トリメチレングリコール)等のポリオール;ポリオキシエチル化ソルビトール、ポリオキシエチル化グルコース;アクリル酸ポリマーならびにその類似体およびコポリマー(例えば、ポリアクリル酸それ自体、ポリメタクリル酸、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)、ポリ(アクリル酸ヒドロキシエチル)、ポリ(メタクリル酸メチルアルキルスルホキシド)、ポリ(アクリル酸メチルアルキルスルホキシド)および上述のうちいずれかのコポリマー)、ならびに/またはさらなるアクリレート化学種(アクリル酸アミノエチル等)を含むもの、ならびにモノ−2−(アクリルオキシ)−エチルコハク酸エステル;ポリマレイン酸;ポリアクリルアミドそれ自体、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、およびポリ(N−イソプロピル−アクリルアミド)等のポリ(アクリルアミド);ポリ(ビニルアルコール)等のポリ(オレフィンアルコール);ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)およびそのコポリマー等のポリ(N−ビニルラクタム);ポリ(メチルオキサゾリン)およびポリ(エチルオキサゾリン)等のポリオキサゾリン;およびポリビニルアミン。
【0025】
本願明細書で使用される用語「両親媒性ポリマー」とは、極性部分構造および非極性部分構造を生じさせる電荷の局所的な量の変化を有する全ての高分子を指す。極性部分構造は、他の極性分子構造(水分子等)への親和性または誘引(親水性)を示す一方で、非極性部分構造は、非極性分子(例えば、脂質、油、グリース、脂肪等)への親和性または誘引(親油性)を示す。適した両親媒性ポリマーとしては、ポロキサマー P−188、ポリエーテルエステルコポリマー(ポリエチレングリコールおよびポリブチレンテレフタラートのコポリマー、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレンオキシドのコポリマー、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのブロックコポリマー等)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
両親媒性ポリマーはまた、Jeffamine(登録商標)として知られるポリエーテルアミンのファミリーを含む。これらのポリエーテルアミンは、ポリエーテル骨格の末端に結合した一級アミノ基を含み、この骨格は典型的にプロピレンオキシド(PO)、エチレンオキシド(EO)、またはその混合物に基づく。Jeffamine(登録商標)ファミリーは、モノアミン、ジアミン、トリアミンおよび二級アミンを含む。Jeffamine(登録商標)は、Huntsman Corporation(本社;テキサス州、ザ ウッドランド)から購入できる。
【0027】
通常は、本発明の組成物中の血管閉塞化合物の濃度は、体積あたり約0.1質量%〜約45質量%、すなわち100mlの溶液あたり約0.1〜約45gの血管閉塞化合物に及んでもよい。局所投与のための組成物中、血管閉塞化合物の濃度は、好ましくは体積あたり約0.1質量%〜約20質量%、より好ましくは体積あたり約1質量%〜10質量%である。非経口投与のために調製される組成物中では、当該濃度は、体積あたり約10質量%〜約45質量%または体積あたり約20質量%〜約40質量%であってもよい。
【0028】
ある実施態様では、当該血管閉塞剤は、ポリエチレングリコールを含んでいてもよい。本発明の組成物中の血管閉塞化合物としての使用のためには、分子量が約1000〜24,000Da、より好ましくは約1000〜8000Da、最も好ましくは約2,000Da〜約4,000DaであるPEGが適している。異なる分子量のPEGは、例えば、シグマアルドリッチ(米国、ミズーリ州、セントルイス)から得てもよい。
【0029】
当該血管閉塞化合物に加えて、本発明の組成物は、1つ以上の活性剤を含んでいてもよい。本願明細書で使用される用語「活性剤」は、血流修飾活性を有し、かつ/または血管閉塞化合物の効果を改善する化学元素または化合物を指す。ある実施態様では、当該活性剤は、失血性疾患に関連する兆候または症候を軽減する可能性がある。適した活性剤は、血流修飾剤(例えば、マグネシウム、カリウム、一酸化窒素、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、副甲状腺ホルモン、ブラジキニン分子およびそれに由来する断片等)から選択されてもよい。本発明の組成物中のこのような活性剤の濃度は、体積あたり約0.1質量%〜約20質量%、より好ましくは体積あたり0.1質量%〜10質量%に及んでもよい。
【0030】
ある実施態様では、本発明の組成物は、血管閉塞化合物および少なくとも1つの活性剤を含み、当該血管閉塞化合物と、当該少なくとも1つの活性剤との間の相互作用は、主にイオン性のものである。例えば、親水性ポリマーPEG全体は非イオン性であるが、PEG鎖上のエーテル酸素上の電子の非共有電子対は、ポリマーに陰イオン性の特質を与え、血流修飾因子活性を有する金属イオン(マグネシウム等)に結合できる。
【0031】
1つの実施態様では、当該活性剤は、マグネシウム化合物を含む。様々なマグネシウム塩が、マグネシウム化合物の供給源をもたらし得る。適したマグネシウム塩としては、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムが挙げられるが、これらに限定されない。これらの化合物は、例えば、シグマアルドリッチ(米国、ミズーリ州、セントルイス)から容易に購入できる。
【0032】
本発明の組成物はまた、例えば、疾患修飾剤、神経伝達物質、神経ペプチドおよび神経受容体調節因子、抗炎症性および免疫調節剤、抗酸化剤、抗アポトーシス剤;向知性薬および成長剤、脂質の形成および輸送の調節因子、血流および血管形成の調節因子、鎮痛剤、ステロイド系抗炎症剤(副腎皮質ステロイド等)、非ステロイド系抗炎症剤(サリチル酸エステル等)、COX−2阻害剤、TNFα阻害剤、オピエートおよびモルヒネ様作用薬等の幅広い分類から選択される添加成分を含んでいてもよい。
【0033】
当該血管閉塞化合物および活性剤に加えて、本発明の組成物は、1つ以上の薬理学的に許容できる担体を含んでいてもよい。本発明の組成物は、賦形剤(例えば、溶媒、結合剤、フィラー、崩壊剤、潤滑剤、懸濁剤、界面活性剤、増粘剤、緩衝剤、抗菌剤等)を含んでいてもよい。多くの異なる薬理学的に許容できる担体および賦形剤が知られており、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Lippincott Williams & Wilkins;第21版(2005年5月1日)に開示されている。
【0034】
非限定的な例として、米国特許出願第11/418,153号明細書および米国特許出願第11/418,152号明細書(これらは参照により、その全体が本願明細書に組み入れられる)に開示された組成物を使用してもよい。
【0035】
ある実施態様では、本発明の組成物は、溶液、注射前に溶液に適した固形形態として調製してもよい。本発明の組成物は、非経口的に、好ましくは静脈内投与によって投与されてもよい。静脈内投与は、全身循環へのより直接的な、従って、より早いアクセスを与えるため、静脈内投与は、他の投与方法(腹腔内注射等)に対して、出血部位で血管閉塞剤の高い蓄積をもたらし得ることが見出された。あるいは、本発明の組成物は、血管の破裂部位に局所的に送達されてもよく、ある例では、送達は、ポンプまたは拍動装置等の装置によって補助されてもよい。
【0036】
上述の通り、血管閉塞化合物としての使用に好ましい化合物は出血部位に蓄積し、残りの系からは迅速に除去される。このようなポリマーは、身体内での半減期が短い傾向があるため、患者に、迅速に投与する必要がある。さらに具体的には、1回分の本発明の組成物を、患者に、血管閉塞化合物の半減期またはそれ以下の間に投与することが望ましい。例えば、分子量1000〜6000Daを有するPEGの半減期は約30〜90分間であり、従って、このようなPEGを含む1回分の本発明の組成物を90分間以内、より好ましくは60分間以内に投与することが望ましい。
【0037】
以上で本発明の全般について記載した。これについては、例証によって与えられ、特段の記載がない限り本発明を制限する意図ではない下記の実施例への参照によってさらに容易に理解できるであろう。
【実施例】
【0038】
<方法および試験>
オスのスプラーグドーリーラットを麻酔し、定位フレーム上に腹臥位で置いた。T9/10椎弓切除を行い、オハイオ州立大学のインパクターで、1.5mmの置換で動物を挫傷させた。
【0039】
損傷後すぐに、生理食塩水、生理食塩水中の0.8% マグネシウム、20%または30%のPEG3350中の0.8% マグネシウム、PEG3000−ビオチン製剤中のPEG−ビオチンまたはマグネシウムを、静脈内注射(5〜7ml/kg)によって、10〜30分間かけて投与した。注射毎に6時間の間隔をもうけ、動物に1〜5回の注射を行った。注射バイアルの中身は、注射および分析の両方を行う研究者に知らせなかった。注射後、様々な時点で、組織を抽出し、組織学的評価(図1、2)、生体分析(図3)または機能分析(図4)のために処理した。
【0040】
図1および2に示された組織学分析について、索を所定の時点で回収し、20μmの厚さに水平に切り、ビオチン分子(本例ではPEG−ビオチン)が存在すると、アビジン−ペルオキシダーゼ複合体とペルオキシダーゼ基質DAB標識との反応が褐色を呈するABC比色分析キットを使用して処理した。
【0041】
図3に示された生体分析のために、出血部位を含む(または含まない)組織を回収した。ラット血漿中のPEGの組織濃度を、検証された高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析(HPLC/MS/MS)法を使用して、陽イオンエレクトロスプレーイオン化法で測定した。組織ホモジネートを遠心分離した後、各試料からの上清画分を、分析前に、エバポレーションによって濃縮し、移動層Aで再構成した。試料をThermo Hypersil ODS カラムを使用して、HPLC/MS/MS分析で分析した。PEGのピーク面積および較正標準の理論上の濃度は、原点を除いて二次関数に合わせた。
【0042】
下記に、損傷部位での出血の程度についての機能分析または評価の方法を記載する。損傷から72時間後、動物を断頭し、出血部位を中心に脊髄の15mmの分節を回収し、凍結し、厚さ20μmで低温切片を作成した。索あたり11切片(損傷の中央および吻側および尾側から400μm、800μm、1600μm、2800μmおよび3200μmの区分)を分析のために選択した。スライドにカバースリップを載せ、5倍の対物レンズで、ライカの光学顕微鏡を使用して、脊髄のカラー画像を得た。赤のチャネル(組織への出血を示す)をグレースケールの画像上でキャプチャし、強度の閾値を全ての画像にわたって230に設定し、全体的に一貫させた。脊髄を、下部で捉えられた硬膜および血液を除いて、緑の輪で囲った。赤で表わされ、かつ緑の輪で囲われた重複した信号を、Sigma Scan中のツールバーからのImageについてOverlay Math機能を使用して、青でハイライトし、青の信号の全面積を出血の範囲として測定した。
【0043】
<結果>
(1)単回の非経口投与後、PEGは出血部位に蓄積し、優先的に保持される。
図1について、ビオチン標識されたPEG溶液の非経口投与後のDAB組織染色は、ビオチン標識されたPEGが損傷部位の上部または下部の脊髄領域における目に見える蓄積はなしに、出血部位に優先的に蓄積することを示した。PEGは、出血部位で、投与後2時間以内に検出でき(図1a)、PEGシグナルは投与後24時間にわたって増加し(図1b)、投与後7日までに大半が消失した(図1c)。非特異的なDAB染色は、生理食塩水で処理された動物の脊髄においては見られなかった(図1d〜f)。
【0044】
(2)出血部位でのPEG蓄積は、投与方法によって影響される。
図2について、DAB組織染色は、ビオチン標識されたPEGの有意に高い蓄積および保持は、ビオチン標識されたPEG溶液の単回の腹腔内注射(図2b〜c)に対して、単回の静脈内注射(図2e〜f)の24時間後に達成されたことを示す。しかし、ビオチン標識されたPEG溶液の静脈内注射または腹腔内注射の2時間後に、ビオチン標識されたPEGシグナルについて、出血部位で認められた明白な相違はなかった(図2aおよび2d)。
【0045】
(3)20%および30%のPEG溶液の組成物は、出血部位で、単回または反復静脈内注射後に、PEGの同様の蓄積をもたらす。
HPLC/MS/MS分析を使用したPEG脊髄組織レベルの定量的評価は、20% PEG3350溶液中のマグネシウムの1回の静脈内注射後に出血部位でPEGが優先的に蓄積し、注射3時間後には、非損傷部位(315ng/ml)に対して、出血部位で認められたPEG組織レベルは936ng/mlであることを示す。20% PEG3350溶液中のマグネシウムを5回注射した後(各注射毎に6時間の間隔をもうけた)、PEG組織レベルは、最後の注射から3時間後には非損傷部位で595ng/mlであったのに対し、出血部位で4025ng/mlに達した。同様に、30% PEG3350溶液中のマグネシウムの単回の静脈内投与後、注射から3時間後には非損傷部位で519ng/mlであったのに対し、1430ng/mlのPEG組織レベルが出血部位で認められた。30% PEG3350溶液中のマグネシウムを5回注射した後(各注射毎に6時間の間隔をもうけた)、PEG組織レベルは、最後の注射から3時間後には非損傷部位で526ng/mlであったのに対し、出血部位で3891ng/mlに達した。
【0046】
PEGの静脈内投与は、損傷部位での出血の範囲を減少させた。PEG製剤へのマグネシウムの添加は、出血のシグナルをさらに減少させた。
【0047】
損傷部位の中心部から3.2mmを覆う領域内の出血のシグナルの定量的形態計測分析
ラットにおけるSCI後の生理食塩水処理は、0.79mmの面積のサイズ中に検出される出血をもたらす。出血面積の範囲は、PEG溶液の静脈内投与後に0.47mmまで減少し、PEG溶液中のマグネシウムの静脈内投与後に0.25mmまでさらに減少した。
【0048】
本発明は、特定の実施態様を参照して記載されたが、これらの実施態様は本発明の原理および応用を説明するものでしかないことが理解されるはずである。従って、説明した実施態様に多数の改変を行ってもよく、請求項によって定義される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく他の組み合わせを考案してもよいことが理解されるはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における1つ以上の出血性血管を診断する工程と、
前記患者に血管閉塞化合物の製剤を投与する工程と、を含む出血の治療方法。
【請求項2】
前記製剤は、体積あたり約0.1質量%〜約45質量%の前記血管閉塞化合物を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記血管閉塞化合物は、ポリエチレングリコール(PEG)を含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記製剤は、血流を修飾することができる活性剤をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記活性剤は、前記血管閉塞剤とともにイオン結合を形成できる請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記活性剤は、マグネシウムである請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記活性剤の濃度は、体積あたり約0.1質量%〜約20質量%である請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記製剤は、静脈内投与または局所投与される請求項1記載の方法。
【請求項9】
患者における1つ以上の出血性血管を診断する工程と、
前記患者に、PEGおよび体積あたり約0.1質量%〜約20質量%の活性剤を含む組成物を投与する工程と、を含む出血の治療方法。
【請求項10】
前記組成物は、患者の体重(kg)あたり少なくとも約0.1〜約10mlの組成物という投与量で投与される請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記活性剤は、マグネシウムを含む化合物である請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記組成物は、体積あたり約20質量%〜約45質量%のPEGを含む請求項9記載の方法。
【請求項13】
体積あたり約20質量%〜約45質量%のPEGおよび体積あたり約0.1質量%〜約20質量%の活性剤を含む出血の治療のための組成物。
【請求項14】
前記活性剤は、マグネシウムを含む化合物である請求項13記載の組成物。
【請求項15】
体積あたり約0.1質量%〜約20質量%の活性剤を含む出血の治療のための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−521438(P2012−521438A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502154(P2012−502154)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/028228
【国際公開番号】WO2010/111215
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(506298792)ウォーソー・オーソペディック・インコーポレーテッド (366)
【Fターム(参考)】