説明

刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材、ヘッド部材本体及び刃先交換式溝入れ工具

【課題】インサート取付座における拘束面の後退を抑制して切れ刃の位置精度を確保でき、加工精度が高められ、工具寿命を延長できること。
【解決手段】インサート取付座36は、一対の顎部のうち一方の顎部の押圧面と、他方の顎部の台座面35と、一対の顎部同士の上下方向の間に位置して切削インサート50の端面に当接される拘束面37と、を備え、切削インサート50の端面には、上下方向に対して傾斜する第1壁面53と、第1壁面53に鈍角を形成するように交差する第2壁面54と、が設けられ、拘束面37は、切削インサート50の第1壁面53及び第2壁面54のうち一方の壁面に当接される第1受け面45と、他方の壁面に間隔をあけて対向配置される第2受け面46と、を備え、第2受け面46が前記他方の壁面から離間される間隔L2は、切削インサート50の切れ刃がヘッド部材本体31から突出された突出量よりも小さく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被削材の周面や端面に溝入れ加工を施す刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材、ヘッド部材本体及び刃先交換式溝入れ工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、円柱状や円筒状をなす被削材を回転軸線回りに回転させて、この被削材の外周面や内周面或いは回転軸線方向を向く端面などに、切削インサートの切れ刃で溝入れ加工を施す刃先交換式溝入れ工具が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。この種の刃先交換式溝入れ工具は、鋼材等からなる軸状の工具本体の先端部に、超硬合金等からなる直方体状の切削インサートが、直接又はヘッド部材本体を介して着脱可能に装着される。切削インサートが装着される工具本体又はヘッド部材本体の先端部には、インサート取付座が形成されている。
【0003】
図10は、従来の刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材100を示している。このヘッド部材100は、切れ刃108を有する切削インサート101と、該切削インサート101が着脱可能に取り付けられるインサート取付座107が形成されたヘッド部材本体111と、を備えている。ヘッド部材本体111には、切削インサート101を上下方向(図10における上下方向)から狭持して固定する一対の顎部(上顎部102及び下顎部103)が設けられるとともに、上顎部102の下面に押圧面104が形成され、下顎部103の上面に台座面105が形成されている。また、一対の顎部同士の上下方向の間には、ヘッド部材100の先端側(図10における左側、すなわち該ヘッド部材100が装着される工具本体(不図示)の先端側)を向く拘束面106が形成されている。そして、押圧面104、台座面105及び拘束面106を備えたインサート取付座107が形成されている。
【0004】
このインサート取付座107に装着された切削インサート101は、その上面が押圧面104に当接され、その下面が台座面105に当接され、その後端側(図10における右側)を向く端面が拘束面106に当接される。切削インサート101の前記端面には、その上端縁に形成された切れ刃108から下方に向かうに従い漸次前記先端側に向かって傾斜する第1壁面(逃げ面)109と、第1壁面109に鈍角を形成するように交差して下側へ延びる第2壁面110と、が設けられている。そして、ヘッド部材本体111の拘束面106と切削インサート101の第2壁面110とが当接させられることにより、ヘッド部材本体111に対する切削インサート101の前記後端側への移動が規制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−107073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材、ヘッド部材本体及び刃先交換式溝入れ工具においては、下記の課題を有していた。
すなわち、被削材を溝入れ加工する際、切削力により切削インサート101が振動するなどして、切削インサート101の第2壁面110とインサート取付座107の拘束面106とが擦れ合い該拘束面106が削れたり、第2壁面110が強く押し当てられることで拘束面106が塑性変形したりすることがあった。
【0007】
これにより、図11に2点鎖線で示すように、拘束面106が前記後端側(図11における右側)へ後退され、切削インサート101の第2壁面110が該拘束面106の後退量X1に応じて前記後端側へ向けて移動するとともに、該切削インサート101が前記後端側へ移動してしまうことになる。よって、図10において、ヘッド部材本体111から前記先端側に向けて突出された切削インサート101の切れ刃108aの位置精度が確保できなくなる。
【0008】
ここで、予め切れ刃108aがヘッド部材本体111から前記先端側へ向けて突出された突出量X2よりも、拘束面106の前記後退量X1が大きくなった場合には、溝入れ加工自体が困難となり、ヘッド部材本体111を交換する必要が生じる。
一方、前記後退量X1を大きく確保する目的で、予め前記突出量X2を大きく設定した場合には、溝入れ加工時のビビリ振動が大きくなり、加工精度が低減する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、インサート取付座における拘束面の後退を抑制して切れ刃の位置精度を確保でき、加工精度が高められ、工具寿命を延長できる刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材、ヘッド部材本体及び刃先交換式溝入れ工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、切れ刃を有する切削インサートと、前記切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が形成されたヘッド部材本体と、を備え、軸状をなす工具本体の先端部に装着されることにより刃先交換式溝入れ工具を構成する刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材であって、前記ヘッド部材本体には、前記切削インサートを上下方向から狭持して固定する一対の顎部が設けられ、前記インサート取付座は、前記一対の顎部のうち一方の顎部の押圧面と、他方の顎部の台座面と、前記一対の顎部同士の上下方向の間に位置して前記切削インサートの端面に当接される拘束面と、を備え、前記切削インサートの端面には、上下方向に対して傾斜する第1壁面と、前記第1壁面に鈍角を形成するように交差する第2壁面と、が設けられ、前記拘束面は、前記切削インサートの第1壁面及び第2壁面のうち一方の壁面に当接される第1受け面と、他方の壁面に間隔をあけて対向配置される第2受け面と、を備え、前記第2受け面が前記他方の壁面から離間される間隔は、前記切削インサートの切れ刃が前記ヘッド部材本体から突出された突出量よりも小さく設定されることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材によれば、インサート取付座の拘束面が、切削インサートの端面における第1、第2壁面のうち一方の壁面に当接される第1受け面と、他方の壁面に間隔をあけて対向配置される第2受け面と、を備えている。そして、溝入れ加工により第1受け面が削れたり塑性変形したりして後退されたときに、第2受け面が切削インサートの端面における前記他方の壁面に当接されるようになっている。これにより、切削インサートの端面とインサート取付座の拘束面との接触面積が増大されることから、拘束面におけるそれ以上の摩耗や塑性変形が抑制されるとともに、該切削インサートがインサート取付座の奥側に向けて移動することが防止される。従って、ヘッド部材本体から突出された切削インサートの切れ刃の位置精度が確保され、加工精度が高められ、かつ、工具寿命が延長される。
【0012】
また、第2受け面が切削インサートの端面における前記他方の壁面から離間される間隔が、切削インサートの切れ刃がヘッド部材本体から突出された突出量よりも小さく設定されているので、前述のように第2受け面が切削インサートの前記他方の壁面に当接された際、切れ刃がヘッド部材本体から突出された状態が維持される。従って、前述した効果が確実に得られることになる。
【0013】
さらに、第2受け面が切削インサートの端面における前記他方の壁面から離間されていることで、下記の効果が得られる。
すなわち、切削インサートの端面において、第1壁面と第2壁面とは互いに鈍角を形成するように交差していることから、予め第1、第2壁面に当接するように第1、第2受け面を形成することは製造上難しく、このような第1、第2受け面とした場合には、切削インサートの端面と拘束面とが互いに点当たりすることとなり、加工中にビビリ振動が発生しやすくなる。一方、本発明によれば、第2受け面は、第1受け面が切削インサートの端面における前記一方の壁面の形状に対応するように摩耗・塑性変形等により後退されたときに、切削インサートの端面における前記他方の壁面に当接されるので、前述した点当たりが防止されるとともに該切削インサートの端面が拘束面に確実に拘束されることになり、切削インサートのインサート取付座への装着姿勢が安定する。
【0014】
また、本発明に係る刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材において、前記切削インサートの端面における第2壁面は、上下方向に沿うように形成されており、前記ヘッド部材本体の第1受け面は、上下方向に沿うように形成されているとともに、前記第2壁面に当接されることとしてもよい。
【0015】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材によれば、切削インサートの端面における第2壁面が上下方向に沿うように形成されており、該第2壁面に当接されるヘッド部材本体の第1受け面も、これに対応して上下方向に沿うように形成されている。この場合、これら第2壁面と第1受け面とが、互いに面全体で精度よく当接させられやすくなり、かつ、製造も容易である。
【0016】
また、本発明のヘッド部材本体は、前述の刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材に用いられることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の刃先交換式溝入れ工具は、前述の刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材が、前記工具本体の先端部に装着されたことを特徴としている。
【0018】
また、本発明は、切れ刃を有する切削インサートと、軸状をなし前記切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が先端部に形成された工具本体と、を備える刃先交換式溝入れ工具であって、前記工具本体の先端部には、前記切削インサートを上下方向から狭持して固定する一対の顎部が設けられ、前記インサート取付座は、前記一対の顎部のうち一方の顎部の押圧面と、他方の顎部の台座面と、前記一対の顎部同士の上下方向の間に位置して前記切削インサートの端面に当接される拘束面と、を備え、前記切削インサートの端面には、上下方向に対して傾斜する第1壁面と、前記第1壁面に鈍角を形成するように交差する第2壁面と、が設けられ、前記拘束面は、前記切削インサートの第1壁面及び第2壁面のうち一方の壁面に当接される第1受け面と、他方の壁面に間隔をあけて対向配置される第2受け面と、を備え、前記第2受け面が前記他方の壁面から離間される間隔は、前記切削インサートの切れ刃が前記工具本体の先端部から突出された突出量よりも小さく設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材、ヘッド部材本体及び刃先交換式溝入れ工具によれば、インサート取付座における拘束面の後退を抑制して切れ刃の位置精度を確保でき、加工精度が高められ、工具寿命を延長できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材を示す側面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材を示す正面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材を示す上面図である。
【図6】図3の拘束面37近傍を拡大して示す図である。
【図7】図3のヘッド部材が溝入れ加工に供されたときの状態を示す側面図である。
【図8】図6(図9)のヘッド部材が溝入れ加工に供されたときの状態を示す図である。
【図9】図6の拘束面37の変形例を示す図である。
【図10】従来の刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材を示す側面図である。
【図11】図10の拘束面106近傍を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1、図2に示すように、本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具は、回転する被削材に対して溝入れ加工や突っ切り加工を行うインサート着脱式の旋削工具であって、工作機械の刃物台(不図示)に保持される軸状の工具本体10と、この工具本体10の先端部に着脱可能に装着されるヘッド部材30と、このヘッド部材30のヘッド部材本体31から先端側へ向けて切れ刃52を突出させた状態でクランプされる切削インサート50と、を備えている。
【0022】
工具本体10は鋼材等により形成されて、互いに対向する上面11および下面12と一対の側面13A、13Bとを有する概略正四角柱状をなしており、前記正四角柱の中心軸線(以下「軸線」と省略)Oに沿う工具本体10の先端側(図1において左下側、図2において右下側)には、上面11から上方に向けて突出した突出部15が形成されている。また、この突出部15が形成された工具本体10の先端部に、ヘッド部材30のヘッド部材本体31を装着するための凹状の装着部16が設けられている。また、工具本体10における前記先端部以外の部分は、軸線Oに垂直な断面が正四角形状をなしており、該軸線Oに沿って延びるシャンク部14とされている。
【0023】
装着部16は、工具本体10の先端面と、先端部における側面13A側の部分とを切り欠くように凹状に形成されている。装着部16には、後述するヘッド部材本体31のネジ挿通孔40、41の位置に対応して、複数の雌ネジ穴(不図示)が穿設されている。
突出部15には、その上端部から下方に向けて、軸線Oと直交する平面内において下方に向かうに従い漸次側面13Aから離間するように傾斜するクランプネジ孔(不図示)が穿設されている。
【0024】
図3〜図5に示すように、ヘッド部材30は、切れ刃52を有する切削インサート50と、切削インサート50が着脱可能に取り付けられるインサート取付座36が形成されたヘッド部材本体31と、を備えている。
ヘッド部材本体31は、鋼材等から一体に形成されている。図5において、ヘッド部材本体31は、その先端部分(図5における下側部分)に対して後端部分(図5における上側部分)が一段厚肉とされた多段の概略平板状とされている。
【0025】
詳しくは、このヘッド部材本体31が工具本体10に取り付けられた取付状態において、工具本体10の側面13Aと同じ方向を向く該ヘッド部材本体31の側面(図5において右側を向く側面)31Aと、これとは反対側を向く側面(図5において左側を向く側面)31Bとが互いに平行に配置されている。ただし、このヘッド部材本体31は、図5の上面視において、側面31Aが軸線O方向(前後方向)に亘って平面状とされている一方、側面31Bはその後端部分が先端部分に対して工具本体10の側面13B側に一段突出するように形成されている。
【0026】
また、側面31Bの後端部分における先端縁からは、平板状をなす突壁部31Dが突出して形成されており、この突壁部31Dの後端側を向く背面31Eは、前記取付状態において軸線Oに垂直な面方向に沿うように形成されている。
【0027】
また、図1〜図3に示すように、ヘッド部材本体31の先端部分には、前記取付状態において工具本体10の側面13Aに沿うように先端側に向けて延びるとともに、切削インサート50を上下方向から狭持して固定する一対の顎部(上顎部32、下顎部33)が形成されている。図3において、上顎部32は三角形板状をなしており、下顎部33は矩形板状をなしている。また、下顎部33は、上顎部32よりも先端側に突出して形成されている。
【0028】
また、一対の顎部32、33のうち、本実施形態における一方の顎部である上顎部32には、切削インサート50を上方から押圧する押圧面34が設けられ、他方の顎部である下顎部33には、前記押圧面34と対向配置される台座面35が設けられている。図4の正面視に示すように、ヘッド部材本体31を先端側から見て、押圧面34は下方に向けて凸となる凸V字状をなし、台座面35は上方に向けて凸となる凸V字状をなしている。
【0029】
また、図3に示すように、ヘッド部材本体31には、一対の顎部32、33同士の上下方向の間に位置して該ヘッド部材本体31の先端側を向くとともに、後述する切削インサート50の端面に当接される拘束面37が形成されている。
このように、ヘッド部材本体31には、押圧面34、台座面35及び拘束面37を備えたインサート取付座36が、該ヘッド部材本体31の先端側に開口するとともに後端側へ向けて延びる凹状に形成されている。そして、インサート取付座36に対して切削インサート50が後端側へ向けて挿入されて、ヘッド部材本体31に着脱可能に取り付けられるようになっている。
【0030】
また、図3において、ヘッド部材本体31の拘束面37と押圧面34との間からは、該ヘッド部材本体31の後端部分における側面31A、31B間を該側面31A、31Bに垂直に貫通するとともに、インサート取付座36の後端からさらに後端側に向けて延びるスリット38が形成されている。また、スリット38における後端部は、後端側に向かうに従い上方に延びるように曲折する曲折部38Aとされている。ヘッド部材本体31は、スリット38の後端側に位置する接続部39を支点として弾性変形可能とされており、これにより、上顎部32が下顎部33側に向けて撓むことができるようになっている。
【0031】
ヘッド部材30は、ヘッド部材本体31の後端部分を工具本体10先端の装着部16に挿入するように、該工具本体10に着座される。ここで、このヘッド部材本体31の後端部分には、側面31A、31Bに垂直に延びるように該後端部分を貫通する複数のネジ挿通孔40が形成されている。また、ヘッド部材本体31の突壁部31Dには、背面31Eに垂直に延びるように該突壁部31Dを貫通する複数のネジ挿通孔41が形成されている。これらネジ挿通孔40、41は断面円形をなしており、ただしその孔底側は固定ネジ42の頭部裏面が当接するように縮径させられている。
【0032】
そして、ヘッド部材30のヘッド部材本体31が装着部16に着座された状態で、ネジ挿通孔40、41に固定ネジ42を挿通するとともに、該装着部16の前記雌ネジ穴にねじ込むことにより、ヘッド部材30は、ヘッド部材本体31の側面31Bの後端部分、突壁部31Dの背面31E、及び、下面31Cの後端部分が装着部16の表面(内面)に押し付けられるように固定され、工具本体10に取り付けられる。
【0033】
尚、ヘッド部材本体31の後端面31Fは側面31A、31Bに垂直とされて、図3に示すように、側面31Aに対向する側面視において、後端側に向けて階段状をなしつつ下面31C側に向かうように形成されている。ただし、この後端面31Fは、前記取付状態において、装着部16の後端部分に位置して先端側を向く壁面(内面)とは接触しないように間隔があけられている。
【0034】
また、ヘッド部材本体31には、その上面31Gと側面31Bとに開口する座ぐり部43が前記接続部39よりも先端側に形成されており、この座ぐり部43は、前記取付状態において工具本体10の突出部15上面に開口する凹部23と連通して、前記クランプネジ孔(不図示)の中心線を中心とした断面円形をなすように傾斜して形成されている。さらに、この座ぐり部43の底面43Aは、図5に示すように円弧状に形成され、ヘッド部材本体31の側面31A側と後端側とに向かうに従い漸次下方へと後退するようにして側面31Bに鋭角をなして傾斜させられて、前記取付状態において前記クランプネジ孔の中心線方向を向いて凹部23の段付き面(不図示)より一段突出するように配置される。
【0035】
また、図1、図3に示すように、本実施形態のヘッド部材30においては、そのヘッド部材本体31の側面31A、31Bの後端部分に、該側面31A、31Bから窪む多角形穴状の凹所44が複数形成されている(側面31Bの凹所44については不図示)。これら凹所44は、ヘッド部材本体31を貫通することなく、またヘッド部材本体31の先端面や後端面31F、上面31G、下面31C、及び、スリット38やネジ挿通孔40に開口することなく、さらには凹所44同士でも互いに連通することがないように形成されている。
【0036】
尚、このような凹所44を備えたヘッド部材本体31は、凹所44が形成されていないヘッド部材本体31を鋼材等から削り出して成形した後、エンドミル等によって凹所44を形成するように製造してもよいが、例えばヘッド部材本体31となる鋼材の原料微粉末と樹脂等のバインダーを混練して流動性を持たせた素材を、ヘッド部材本体31の形状を反転させた分割金型内に射出成形した後、加熱によりバインダーを除去して原料微粉末を焼結する、MIM(Metal Injection Molding)法によって製造することもできる。このようなMIM法によって製造した場合、凹所44の内壁面には、該凹所44の底面から側面31A、31B側に向かうに従い外側に傾斜するような抜き勾配が与えられる。
また、こうしてMIM法によって製造された場合や、削り出しによって製造された場合でも、製造されたヘッド部材本体31には、その表面に硬質の小球粒子を噴射することにより表面硬化を促す、ショットピーニングが施されるのが好ましい。
【0037】
このようなヘッド部材本体31のインサート取付座36に取り付けられる溝入れ・突っ切り加工用の切削インサート50は、超硬合金等の硬質材料からなり、断面略方形の直方体状又は角棒状に形成されたインサート本体51を備えている。本実施形態では、切削インサート50は、そのインサート本体51の延在方向が軸線Oに平行に設定されている。
【0038】
図4に示すように、インサート本体51は、その下面と上面中央部とが断面凹V字状に形成されて、ヘッド部材本体31において断面凸V字状をなす押圧面34及び台座面35に当接可能とされている。また、図3に示すように、インサート本体51の上面の両端部には、中央部よりも一段後退した位置にそれぞれすくい面が形成されており、これらすくい面の両端縁部に切れ刃52が一対形成されている。
【0039】
また、図3、図6に示すように、インサート本体51において軸線O方向(図3、図6の左右方向)を向く両端面には、上下方向に対して傾斜する第1壁面53と、第1壁面53に対して鈍角を形成するように交差する第2壁面54とがそれぞれ設けられている。図3及び図6の側面視において、第1壁面53は、インサート本体51の端面の上端縁に形成された切れ刃52から下方へ向かうに従い漸次該インサート本体51の軸線O方向の内側へ向かうように傾斜して形成されており、この第1壁面53が逃げ面とされている。また、この側面視で、第2壁面54は上下方向に沿うように形成されている。
【0040】
そして、切削インサート50がインサート取付座36に挿入された状態で、インサート本体51の両端面のうち後端側を向く端面が、ヘッド部材本体31の拘束面37に当接させられることにより、ヘッド部材本体31に対する切削インサート50の後端側への移動が規制されている。詳しくは、図6に示すように、ヘッド部材本体31の拘束面37は、切削インサート50の第1壁面53及び第2壁面54のうち一方の壁面に当接される第1受け面45と、他方の壁面に間隔をあけて対向配置される第2受け面46と、を備えており、本実施形態では、ヘッド部材本体31の第1受け面45と切削インサート50の第2壁面54(一方の壁面)とが当接させられることにより、ヘッド部材本体31に対する切削インサート50の後端側(図6における右側)への移動が規制されている。
【0041】
図6において、ヘッド部材本体31の第1受け面45は、切削インサート50の第2壁面54に対応して上下方向に沿うように形成されている。本実施形態では、第1受け面45及び第2壁面54は、軸線Oに垂直な面方向に沿うように形成されている。また、第2受け面46は、間隔をあけて対向する切削インサート50の第1壁面53(他方の壁面)に平行となるように、上下方向に対して傾斜して形成されている。第2受け面46の上端は、第1壁面53の上端縁(すなわち切れ刃52)よりも下方に配置されている。また、第2受け面46の下端部は凹曲面状とされており、その下端縁は第1受け面45に鈍角を形成するように連なっている。
【0042】
そして、第2受け面46が第1壁面53から離間される間隔L2は、図3において切削インサート50の先端側に位置する切れ刃52Aがヘッド部材本体31から先端側へ向けて突出された突出量L1よりも小さく設定されている。すなわち、L2<L1とされており、詳しくは、間隔L2は、0mm<L2<1mmの範囲内に設定される。尚、間隔L2は、突出量L1に対して1/10以下に設定されることが好ましい。本実施形態では、L1=1mm、L2=0.1mmとされている。
【0043】
このように、切削インサート50が、前記取付状態とされたヘッド部材30のヘッド部材本体31に対し、その1つの切れ刃52を先端側に向けるとともに凹V字状の下面と上面中央部とを台座面35と押圧面34とに対向させるようにして、先端側からインサート取付座36に挿入され、後端側を向くインサート本体51の端面が前記拘束面37に当接したところで、軸線O方向に位置決めされる。
【0044】
そして、図1および図2に示すように、工具本体10の突出部15に穿設されたクランプネジ孔にクランプネジ47をねじ込むことにより、このクランプネジ47の頭部がヘッド部材本体31の座ぐり部43の底面43Aに当接され、次いで上顎部32が前記クランプネジ孔の穿設された方向に押し付けられるとともに、該ヘッド部材本体31は接続部39を支点として上顎部32が下顎部33側に撓むように弾性変形させられ、押圧面34がインサート本体51を台座面35側に押圧して、切削インサート50がクランプされる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材30、ヘッド部材本体31及びこれを工具本体10の先端部に装着してなる刃先交換式溝入れ工具によれば、インサート取付座36の拘束面37が、切削インサート50の端面における第1、第2壁面53、54のうち一方の壁面(本実施形態では第2壁面54)に当接される第1受け面45と、他方の壁面(本実施形態では第1壁面53)に間隔をあけて対向配置される第2受け面46と、を備えている。そして、図7、図8に示すように、溝入れ加工により第1受け面45が削れたり塑性変形したりして後退されたときに、第2受け面46が切削インサート50の端面における前記他方の壁面(第1壁面53)に当接されるようになっている。
【0046】
これにより、切削インサート50の端面とインサート取付座36の拘束面37との接触面積が増大されることから、拘束面37におけるそれ以上の摩耗や塑性変形が抑制されるとともに、該切削インサート50がインサート取付座36の奥側(後端側)に向けて移動することが防止される。従って、ヘッド部材本体31から突出された切削インサート50の切れ刃52A(52)の位置精度が確保され、加工精度が高められ、かつ、工具寿命が延長される。
【0047】
また、図6において、第2受け面46が切削インサート50の端面における前記他方の壁面(第1壁面53)から離間される間隔L2が、切削インサート50の切れ刃52Aがヘッド部材本体31から突出された突出量L1よりも小さく設定されているので、前述のように第2受け面46が切削インサート50の前記他方の壁面に当接された際、切れ刃52Aがヘッド部材本体31から突出された状態が維持される。従って、前述した効果が確実に得られることになる。
【0048】
尚、間隔L2が、0mm<L2<1mmの範囲内に設定されることにより、ヘッド部材本体31の第2受け面46と切削インサート50の第1壁面53とが使用開始から比較的早期に当接されることになるとともに、前述の効果が早期に得られるので、より好ましい。
また、間隔L2が突出量L1に対して1/10以下に設定された場合には、使用により第2受け面46と第1壁面53とが当接されたとき(間隔L2が0となったとき)の、ヘッド部材本体31から先端側へ向けた切れ刃52Aの突出量(L1−L2)が十分に確保され、工具寿命の延長の効果がより高められる。
【0049】
さらに、図6において、第2受け面46が切削インサート50の端面における前記他方の壁面(第1壁面53)から離間されていることで、下記の効果が得られる。
すなわち、切削インサート50の端面において、第1壁面53と第2壁面54とは互いに鈍角を形成するように交差していることから、予め第1、第2壁面53、54に当接するように第1、第2受け面45、46を形成することは製造上難しく、このような第1、第2受け面45、46とした場合には、切削インサート50の端面と拘束面37とが互いに点当たりすることとなり、加工中にビビリ振動が発生しやすくなる。一方、本実施形態によれば、第2受け面46は、第1受け面45が切削インサート50の端面における前記一方の壁面(第2壁面54)の形状に対応するように摩耗・塑性変形等により後退されたときに、切削インサート50の端面における前記他方の壁面(第1壁面53)に当接されるので、前述した点当たりが防止されるとともに該切削インサート50の端面が拘束面37に確実に拘束されることになり、切削インサート50のインサート取付座36への装着姿勢が安定する。
【0050】
また本実施形態では、切削インサート50の端面における第2壁面54が上下方向に沿うように形成されており、該第2壁面54に当接されるヘッド部材本体31の第1受け面45も、これに対応して上下方向に沿うように形成されている。この場合、これら第2壁面54と第1受け面45とが、互いに面全体で精度よく当接させられやすくなり、かつ、製造も容易である。
【0051】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前述の実施形態では、ヘッド部材本体31の拘束面37が、切削インサート50の後端側を向く端面における第2壁面54に当接される第1受け面45と、該端面の第1壁面53に間隔をあけて対向配置される第2受け面46と、を備えていることとしたが、これに限定されるものではない。
【0052】
図9は、前述した実施形態の拘束面37の変形例を示している。図示の例では、切削インサート50の第1壁面53及び第2壁面54のうち、第1壁面53が一方の壁面とされ、第2壁面54が他方の壁面とされている。詳しくは、ヘッド部材本体31の拘束面37は、切削インサート50の後端側を向く端面における第1壁面53(一方の壁面)に当接される第1受け面65と、該端面の第2壁面54(他方の壁面)に間隔をあけて対向配置される第2受け面66と、を備えている。第1受け面65は、対向する切削インサート50の第1壁面53に平行となるように、上下方向に対して傾斜して形成されている。また、第2受け面66は、間隔をあけて対向する切削インサート50の第2壁面54に対応して上下方向に沿うように形成されている。また、第2受け面66が第2壁面54から離間される間隔L3は、切削インサート50の切れ刃52Aがヘッド部材本体31から突出された突出量L1よりも小さく設定されている。尚、L3<L1とされており、詳しくは、間隔L3は、0mm<L3<1mmの範囲内に設定される。また、間隔L3は、突出量L1に対して1/10以下に設定される。この構成においても、前述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0053】
また、切削インサート50の第2壁面54、ヘッド部材本体31の第1受け面45及び第2受け面66は、上下方向に沿うように形成されているとしたが、これに限定されるものではなく、これらの面が上下方向に対して傾斜して形成されていても構わない。
【0054】
また、前述の実施形態では、切削インサート50は、そのインサート本体51の延在方向が軸線Oに平行に設定されていることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、切削インサート50のインサート本体51の延在方向は、軸線Oに対して傾斜したり交差したりして設定されていてもよい。この場合、切削インサート50の切れ刃52A(52)は、工具本体10の先端側へ向けて突出される以外に、側面13A側や側面13B側へ向けて突出されていてもよい。ここで、ヘッド部材本体31のインサート取付座36の延在方向は、切削インサート50の延在方向に対応して設定されることから、該インサート取付座36は、側面13A(13B)側に開口するとともに側面13B(13A)側へ向けて延びる凹状に形成されていてもよい。
【0055】
また、前述の実施形態では、工具本体10の先端部にヘッド部材30が装着され、該ヘッド部材30のヘッド部材本体31にインサート取付座36が形成されていることとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、工具本体10の先端部に、インサート取付座36が直接形成された刃先交換式溝入れ工具であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 工具本体
30 ヘッド部材
31 ヘッド部材本体
32 上顎部(一方の顎部)
33 下顎部(他方の顎部)
34 押圧面
35 台座面
36 インサート取付座
37 拘束面
45、65 第1受け面
46、66 第2受け面
50 切削インサート
52、52A 切れ刃
53 第1壁面(逃げ面)
54 第2壁面
L1 切れ刃の突出量
L2、L3 第2受け面が切削インサートの端面から離間される間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃を有する切削インサートと、前記切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が形成されたヘッド部材本体と、を備え、軸状をなす工具本体の先端部に装着されることにより刃先交換式溝入れ工具を構成する刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材であって、
前記ヘッド部材本体には、前記切削インサートを上下方向から狭持して固定する一対の顎部が設けられ、
前記インサート取付座は、前記一対の顎部のうち一方の顎部の押圧面と、他方の顎部の台座面と、前記一対の顎部同士の上下方向の間に位置して前記切削インサートの端面に当接される拘束面と、を備え、
前記切削インサートの端面には、上下方向に対して傾斜する第1壁面と、前記第1壁面に鈍角を形成するように交差する第2壁面と、が設けられ、
前記拘束面は、前記切削インサートの第1壁面及び第2壁面のうち一方の壁面に当接される第1受け面と、他方の壁面に間隔をあけて対向配置される第2受け面と、を備え、
前記第2受け面が前記他方の壁面から離間される間隔は、前記切削インサートの切れ刃が前記ヘッド部材本体から突出された突出量よりも小さく設定されることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材。
【請求項2】
請求項1に記載の刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材であって、
前記切削インサートの端面における第2壁面は、上下方向に沿うように形成されており、
前記ヘッド部材本体の第1受け面は、上下方向に沿うように形成されているとともに、前記第2壁面に当接されることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材に用いられることを特徴とするヘッド部材本体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の刃先交換式溝入れ工具のヘッド部材が、前記工具本体の先端部に装着されたことを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。
【請求項5】
切れ刃を有する切削インサートと、軸状をなし前記切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が先端部に形成された工具本体と、を備える刃先交換式溝入れ工具であって、
前記工具本体の先端部には、前記切削インサートを上下方向から狭持して固定する一対の顎部が設けられ、
前記インサート取付座は、前記一対の顎部のうち一方の顎部の押圧面と、他方の顎部の台座面と、前記一対の顎部同士の上下方向の間に位置して前記切削インサートの端面に当接される拘束面と、を備え、
前記切削インサートの端面には、上下方向に対して傾斜する第1壁面と、前記第1壁面に鈍角を形成するように交差する第2壁面と、が設けられ、
前記拘束面は、前記切削インサートの第1壁面及び第2壁面のうち一方の壁面に当接される第1受け面と、他方の壁面に間隔をあけて対向配置される第2受け面と、を備え、
前記第2受け面が前記他方の壁面から離間される間隔は、前記切削インサートの切れ刃が前記工具本体の先端部から突出された突出量よりも小さく設定されることを特徴とする刃先交換式溝入れ工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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