説明

刃物研磨装置

【課題】簡単な構成にて、研磨した刃物の刃先に左右対称の蛤状の小刃が確実に形成される刃物研磨装置を提供する。
【解決手段】刃物研磨装置は、互いに交差するように配置され、刃物の刃先を受け入れるためのV字状の研磨溝54を形成する複数の無端ベルト52と、無端ベルト52が架け回され、無端ベルト52を走行自在に支持する従動プーリ20及び駆動プーリ40とを備える。無端ベルト52は、研磨溝54に刃物が押し付けられたときに弾性変形可能である。また、刃物研磨装置は、無端ベルト52の交差位置を挟んで刃物とは対角位置に配置され、刃物の研磨時に無端ベルト52に当接して無端ベルト52の交差角度を所望の角度にするガイドロッド58を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は刃物研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
刃物研磨装置の中には、複数の無端ベルトを備えたものがあり、これら無端ベルトは、互いに協働して断面がV字状の研磨溝を形成する(例えば、特許文献1)。
特許文献1によれば、刃物研磨装置の研磨溝に刃物の刃先が押し付けられたとき、研磨溝の頂角は包丁下降力と無端ベルトの反発力とが釣り合う角度に変化する。そして、研磨された刃物の刃先の角度は、変化後の研磨溝の頂角に等しくなり、且つ、刃先の形状は蛤状になると考えられている。
【特許文献1】特開昭49-64992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の刃物研磨装置にあっては、刃物の刃先を研磨溝に押し付けたときの押圧力に応じて、研磨溝の頂角が変化する。この結果、研磨溝の頂角が安定せずに変化してしまい、刃物の刃先の形状が確実に蛤状にならない虞がある。また、刃物の両側の無端ベルトの弾性変形量が同一にならず、横断面でみて、刃先の形状が左右非対称になってしまう虞もある。
【0004】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、簡単な構成にて、研磨した刃物の刃先に左右対称の蛤状の小刃が確実に形成される刃物研磨装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、互いに交差するように配置され、刃物の刃先を受け入れるためのV字状の研磨溝を形成する複数の無端ベルトと、前記無端ベルトが架け回され、前記無端ベルトを走行自在に支持するプーリ列とを備え、前記無端ベルトは前記研磨溝に刃物が押し付けられたときに弾性変形可能である刃物研磨装置において、前記無端ベルトの交差位置を挟んで前記刃物とは対角位置に配置され、前記刃物の研磨時に前記無端ベルトに当接して、前記無端ベルトの交差角度を所望の角度にする規制部材を具備することを特徴とする刃物研磨装置が提供される(請求項1)。
【発明の効果】
【0006】
本発明の請求項1の刃物研磨装置では、規制部材によって、この装置を使用する者に合わせて、使用時の研磨溝の頂角が所望の角度にて安定するよう設定される。この結果として、この研磨装置によれば、研磨した刃物の刃先に、左右対称な蛤状の小刃が確実に形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は一実施形態の刃物研磨装置を示し、刃物研磨装置は矩形状のベース板2を有する。ベース板2の上面には断面L字状の2つのブラケット4,4が固定され、これらブラケット4,4はベース板2の幅方向両側に位置している。各ブラケット4の底壁部4aが複数のボルト6によってベース板2に固定され、各ブラケット4の側壁部4bはベース板2に対して垂直に延びている。
【0008】
各側壁部4bの外面には、ステージ8の脚部8aが2本のボルト10によって固定されている。脚部8aの上端は、ステージ8の台座部8bの下面に垂直に連なり、台座部8bは、ベース板2に平行である。
なお、図1でみて左側のブラケット4の側壁部4bには、図2に示したように、2つのステージ8が固定され、右側のブラケット4の側壁部4bには、3つのステージ8が固定されている。同一のブラケット4に固定された複数のステージ8は、ベース板2の長手方向に並んでおり、また、ベース板2の長手方向でみて、左側のブラケット4に固定された2つのステージ8は、右側のブラケット4に固定された3つのステージ8同士の間に位置している。
【0009】
各ステージ8の台座部8bの上面には、ビーム12の基端部が2本のボルト14によって固定されている。各ビーム12は、台座部8bの端縁を超えてベース板2の幅方向中央に向かって延びている。各ビーム12の先端部には、平面視形状がコの字状のプーリ支持部材16が固定され、各プーリ支持部材16において対向する側壁部16a間には、回転軸18が架け渡されている。各回転軸18はベース板2の長手方向に延び、同一のブラケット4によって支持されている3つ又は2つの回転軸18は、直線上にそれぞれ並んでいる。なお、図2でみて右側の3つの回転軸18と左側の2つの回転軸18は互いに平行であるが、ベース板2の幅方向に互いに離間している。
【0010】
各回転軸18には従動プーリ20が取付けられ、回転軸18と従動プーリ20との間には、2つのラジアル軸受け22が配置されている。従って、従動プーリ20は、ラジアル軸受け22によって回転自在に支持されている。
従動プーリ20の直径は、3つの回転軸18と2つの回転軸18との間隔よりも小さく、図2でみて右側の回転軸18に取付けられた従動プーリ20と、左側の回転軸18に取付けられた従動プーリ20とは、ベース板2の幅方向に互いに離間している。
【0011】
なお、各従動プーリ20の両端には外向き鍔部24,24が形成されている。
一方、ベース板2の上面には、図3に示したように、固定フレーム30を介して電動モータ32が固定され、ベース板2の長手方向でみて、電動モータ32は、ブラケット4,4とは反対側に位置している。電動モータ32の電動軸34は、ベース板2の長手方向に延び、連結スリーブ36を介して、駆動軸38の基端部に連結されている。駆動軸38もベース板2の長手方向に延び、駆動軸38の先端側の部分は、2つのブラケット4,4間を延びている。
【0012】
駆動軸38の先端側の部分には、3つの駆動プーリ40が等間隔をもって固定され、プーリ40は、駆動軸38と一体に回転可能である。なお、駆動軸38は、ベース板2の上面に立設された2つの支持板42を貫通し、駆動軸38と支持板42との間には、ラジアル軸受け44が配置されている。従って、駆動軸38は、ラジアル軸受け44によって回転自在に支持されている。なお、駆動プーリ40も両端に外向き鍔部45,45を有する。
【0013】
また、駆動軸38の基端側の部分には、駆動ギア46が固定され、駆動ギア46は、従動ギア48と噛み合っている。従動ギア48は、従動軸50の基端側の部分に固定され、従動軸50は駆動軸38と平行に延びている。従動軸50の先端側の部分もブラケット4,4間を延び、従動軸50の先端側の部分には、等間隔をもって2つの駆動プーリ40が固定されている。なお、従動軸50は、駆動軸38とは別の2つの支持板42を貫通し、ラジアル軸受け44によって回転自在に支持されている。
【0014】
ここで、駆動軸38と従動軸50との間隔は、駆動プーリ40の半径よりも小さく、これら駆動軸38及び従動軸50の軸線方向でみて、従動軸50に固定された2つの駆動プーリ40の一部は、駆動軸38に固定された3つの駆動プーリ40の間に位置している。換言すれば、駆動軸38及び従動軸50の軸線方向でみて、従動軸50に固定された駆動プーリ40と駆動軸38に固定された駆動プーリ40とは交互に配置されている。
【0015】
そして、前述した各従動プーリ20は、各駆動プーリ40の上方に一つずつ位置し、互いに上下に位置する従動プーリ20及び駆動プーリ40は対をなしている。そして、再び図1を参照すると、一対の従動プーリ20及び駆動プーリ40には1本の無端ベルト52が架け回されている。無端ベルト52は、適当なテンションをもって架け回されており、従動プーリ20と駆動プーリ40との間を延びる無端ベルト52の部分は、略直線状に延びる直線部を形成している。
【0016】
無端ベルト52は、例えばSUS粉末ダイヤモンド電着鋼帯又は粉末ダイヤモンド不織布からなるベルトであり、無端ベルト52の表面は、砥粒としてのダイヤモンド粉末が分布した研磨面を形成している。なお、粉末ダイヤモンド不織布を用いた場合、無端ベルト52が摩耗しても、不織布中のダイヤモンド粉末が次々と表出するため、研磨面が摩滅することはない。
【0017】
図1でみて、駆動軸38に固定された駆動プーリ40に架けまわされた無端ベルト52の直線部52aと、従動軸50に固定された駆動プーリ40に架けまわされた無端ベルト52の直線部52aとは、従動プーリ20と駆動プーリ40との間にて交差している。互いに交差する無端ベルト52,52の直線部52a,52aは、それらの交差位置よりも上方にV字状の研磨溝54を形成し、研磨溝54の開口幅は、ベース板2の幅方向での従動プーリ20同士の間隔によって規定される。
【0018】
また、互いに交差する無端ベルト52の直線部52aは、それらの交差位置よりも下方に、研磨溝54と上下対称のV字状の空間56を規定する。この空間56を貫通するように2本のガイドロッド58が配置され、各ガイドロッド58は、ベース板2の長手方向に延びている。2本のガイドロッド58は、ベース板2の幅方向に互いに離間し、且つ、ベース板2からの距離(高さ)が互いに等しい。ガイドロッド58も、図1でみて左右対称に配置され、各ガイドロッド58の外周面は、直線部52aの裏面に接している。
【0019】
ここで、図4に示したように、この刃物研磨装置では、非使用時における研磨溝54の頂角をαとすると、αは例えば20度に設定される。そして、刃物研磨装置の使用時、即ち、刃物60の刃先62が研磨溝54に押し付けられたときの研磨溝54の頂角をβとすると、βは例えば30度になるように設定される。
より詳しくは、無端ベルト52は可撓性を有するけれども、刃物研磨装置の非使用時には無端ベルト52の直線部52aは撓んでいない。このため、頂角がαのときには、各ガイドロッド58は直線部52aに僅かに接するのみである。頂角αは、次式(1)にて表される。
【0020】
tan(α/2)=(D/2+R/cos(α/2))/L1 ・・・(1)
なお、式(1)中、Dはガイドロッド58の中心間距離であり、Rはガイドロッド58の半径である。L1は、無端ベルト52の交差位置X1から、ガイドロッド58の中心までの垂直方向での距離である。
一方、刃物研磨装置の使用時には、無端ベルト52は、その可撓性により、研磨溝54の頂角が増大するのを許容するよう撓む。すなわち、刃物60の刃先62が研磨溝54に押し付けられたとき、無端ベルト52の直線部分52aは弾性変形し、交差位置X2にて互いに交差する。このとき、ガイドロッド58に対する無端ベルト52の接触面積は増大しており、研磨溝54の頂角βは、次式(2),(3)にて表される。
【0021】
tan(β/2)=(D/2+R/cos(β/2))/L3 ・・・(2)
L3=L1-L2 ・・・(3)
なお、式(3)中、L2は、交差位置X1と交差位置X2との間の距離である。
そして、上述した刃物研磨装置では、使用者の刃物を押し付ける力に応じて頂角α及びβが所望の値になるよう、無端ベルト52の弾性率を選択可能である。また、ガイドロッド58同士の中心間距離Dや距離L1,L2,L3を調整可能であるとともに、駆動プーリ40に対する従動プーリ20の相対位置を変更可能である。
【0022】
具体的には、再び図1を参照すると、ブラケット4の側壁部4bの外面には、垂直に延びるガイド溝70が形成され、ステージ8の脚部8bはガイド溝70にスライド可能に嵌合している。一方、脚部8bには、垂直方向に長い長孔72が形勢され、ボルト10は、長孔72を貫通してブラケット4の側壁部4bに形成された雌ねじに螺子込まれている。従って、ボルト10を緩めて、ステージ8の脚部8bをガイド溝70に沿って上下方向に移動させれば、ベース板2からの従動プーリ20の高さを、所望の高さに設定することができる。
【0023】
また、ステージ8の台座部8bの上面には、水平に延びるガイド溝74が形成され、ビーム12はガイド溝74にスライド可能に嵌合している。一方、ビーム12には、水平方向に長い長孔76が形勢され、ボルト14は、長孔76を貫通してベース8の台座部8bに形成された雌ねじに螺子込まれている。従って、ボルト14を緩めて、ビーム12をガイド溝74に沿って水平方向に移動させれば、従動プーリ20の水平方向での位置を、所望の位置に設定することができる。
【0024】
以下、上述した刃物研磨装置を用いた刃物の研磨方法について説明する。
刃物研磨装置を使用するには、まず、電動モータ32を起動して駆動プーリ40を回転させ、無端ベルト52を走行させる。この後、片手で刃物を把持した状態で、刃物60の刃先62を研磨溝54に対し押付けながら、その刃渡り方向に刃物60を数回往復動させることにより、その刃先62が研磨される。
【0025】
ここで、研磨時に刃物60の刃先62によって押圧されると、無端ベルト52は弾性変形して撓む。無端ベルト52が撓むのに伴い、無端ベルト52の交差位置はX1からX2まで下方に移動し、研磨溝54の頂角がαからβに変化する。
このように、ガイドロッド58によって、無端ベルト52が撓んだ状態で研磨溝54の頂角がβになると、図6に拡大して示したように、刃物60の刃先62には、左右対称な蛤状の小刃64が確実に形成される。
【0026】
小刃64とは、刃物60の刃先62の先端部分に形成される断面二等辺三角形の部分であり、蛤状の小刃64とは、小刃64の両側面が丸みを帯びた凸面状に仕上げられることをいう。刃物60の刃先62に蛤状の小刃64が形成されると、刃物60による切断時、被切断物の刃離れが良くなる。また、小刃64の厚みが厚いために刃こぼれし難く、切れ味が長期亘り保たれる。
【0027】
上述の刃物研磨装置を用いて研磨された刃物60では、図6中の円内に示したように、刃物60における刃先62の先端から略0.02mm〜0.2mmの領域に小刃64が形成される。そして、小刃64の先端での幅(小刃先r)は0.0005mm〜0.0015mmの範囲になり、小刃64の先端での凹凸の大きさ(小鋸歯)は0.0005mm〜0.001mmの範囲になる。
そして、研磨された刃物60では、刃先62の角度は略18°〜22°にあるのが好ましく、小刃64の角度は略28°〜32°にあるのが好ましいけれども、上述した刃物研磨装置では、刃先62及び小刃64の角度を容易且つ確実に好ましい範囲にすることができる。
【0028】
すなわち、研磨溝54の頂角α,βは、研磨された刃物60における刃先62の角度及び小刃64の角度に対応することから、頂角αを略18°〜22°に設定し、ガイドロッド58によって頂角βを略28°〜32°に設定すれば、刃先62及び小刃64の角度を容易且つ確実に好ましい範囲にすることができる。
以上で説明を終えるが、本発明は上記した一実施形態に限定されることはなく、種々変形が可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図3のI-I線に沿う、一実施形態の刃物研磨装置の概略的な断面図である。
【図2】図1の刃物研磨装置におけるステージよりも上部の概略的な上面図である。
【図3】一実施形態の刃物研磨装置におけるステージよりも上部の一部を切り欠いた概略的な上面図である。
【図4】図1の刃物研磨装置におけるガイドロッドの機能を説明するための図である。
【図5】図1の刃物研磨装置を用いた研磨された刃物の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
20 従動プーリ(プーリ列)
40 駆動プーリ(プーリ列)
52 無端ベルト
54 研磨溝
58 ガイドロッド(規制部材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差するように配置され、刃物の刃先を受け入れるためのV字状の研磨溝を形成する複数の無端ベルトと、前記無端ベルトが架け回され、前記無端ベルトを走行自在に支持するプーリ列とを備え、前記無端ベルトは前記研磨溝に刃物が押し付けられたときに弾性変形可能である刃物研磨装置において、
前記無端ベルトの交差位置を挟んで前記刃物とは対角位置に配置され、前記刃物の研磨時に前記無端ベルトに当接して前記無端ベルトの交差角度を所望の角度にする規制部材を具備する
ことを特徴とする刃物研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−307658(P2007−307658A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139061(P2006−139061)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000160201)吉田金属工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】