説明

分光光度計および分光分析方法

【課題】
分光分析は分析者の経験と測定データの確認作業の繰り返しを必要とするので、経験者以外は分析が困難、また精度の高い結果を得るまで分析を繰り返す必要があった。
【解決手段】
試料に対して測定光を照射する発光手段と、測定光を任意の波長に分光する分光手段と、当該分光手段により分光された波長について光度検出を行う検出手段と、測定すべき波長走査範囲と波長走査速度を入力する入力手段と、測定を実行する測定手段と、得られたデータを処理するデータ処理手段と、ノイズ幅判定値を記憶する記憶手段と、前記各手段の制御を行う制御手段を備えた分光光度計において、波長走査を実行して各波長でのノイズ幅をデータ処理部に記憶する手段と、前記波長走査中の任意の波長に得られたノイズ幅の値と前記記憶手段のノイズ幅判定値との比較判定を行うステップ、当該比較判定処理の結果から測定における波長毎の波長走査速度を求めるステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光手段により分光した測定光を走査し、測定を実行する分光光度計および分光分析方法に関し、特に波長走査(波長スキャン)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分光光度計は、これまで、試料を分光光度計に設置して波長スキャン測定を行う場合、測定開始前に測定条件の設定画面で、測定条件を設定して予め測定(ベースライン補正)をする。この測定では、設定された波長走査範囲を同一、もしくは二段階の波長走査速度での測定条件で測定を行っていた。なお、波長走査速度は、ノイズ幅(Abs)とのバランスで熟練した測定者が波長走査速度を決定している。
【0003】
ノイズ幅という用語は光度計分野の技術用語として使われる。例えば、分光分析の結果を示す図面において横軸を波長、縦軸を吸光度(Abs)とし、測定した波長領域で、ノイズ幅を確認するための波長(10nm分)において、吸光度(Abs)の最大値と最小値の高さの幅を、ノイズ幅と定義している。
【0004】
測定条件である波長走査速度を高速にすると、測定時間は短くなるが、走査中に取り込めるデータ数が少なくなるため、データ処理での積分回数が減少して測定精度が悪くなってしまう。
【0005】
測定条件である波長走査速度を低速にすると、測定時間は長くなるが、走査中に取り込めるデータ数が多くなるため、データ処理での積分回数が増加して測定精度が良くなる。
【0006】
また、検出手段である検知器には波長感度特性があり、各波長域でのノイズ幅が変動してしまうため、各波長域毎に波長走査速度を変え、最適化するためには複数回の条件設定と測定をする必要があった。
【0007】
【特許文献1】特開2005−227120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の測定手順では、分析者の経験と測定データの確認作業の繰り返しを必要とするので、経験者以外は分析が困難、また精度の高い結果を得るまで分析を繰り返す必要があった。
【0009】
また、各波長域でのノイズ幅が異なるため、波長毎に走査速度を検討する必要も有った。
【0010】
本発明の1つの目的は、分析者の経験に依ることなく、適切な波長走査速度を求め、かつ、測定を何度も繰り返さず、一回のまたは少ない測定回数で適切な測定精度が得られる分光光度計を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの特徴は、分光光度計において、試料に対して測定光を照射する発光手段と、測定光を任意の波長に分光する分光手段と、当該分光手段により分光された波長について光度検出を行う検出手段と、測定すべき波長走査範囲と波長走査速度を入力する入力手段と、測定を実行する測定手段と、得られたデータを処理するデータ処理手段と、ノイズ幅判定値を記憶する記憶手段と、前記各手段の制御を行う制御手段とを備え、前記データ処理手段において、波長走査を実行して各波長でのノイズ幅を記憶し、前記波長走査中の任意の波長に対して得られたノイズ幅の値と前記記憶手段のノイズ幅判定値との比較判定を行い、当該比較判定の結果から測定における波長毎の波長走査速度を設定することである。
【0012】
本発明の他の1つの特徴は、試料に対して測定光を照射し、測定光を任意の波長に分光し、当該分光された波長について光度検出を行う分光分析方法において、ノイズ幅判定値を記憶し、測定すべき波長走査範囲と波長走査速度を入力し、波長走査を実行して各波長でのノイズ幅を記憶し、前記波長走査中の任意の波長に対して得られたノイズ幅の値と前記記憶されたノイズ幅判定値との比較判定し、当該比較判定の結果から測定における波長毎の波長走査速度を求めることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の1つの実施態様によれば、分析者の経験に依ることなく、適切な波長走査速度を求め、かつ、測定を何度も繰り返さず、一回のまたは少ない測定回数で適切な測定精度が得られる分光光度計を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、例えば、波長領域毎に最適な走査速度を求めるという目的を、試料測定前に一度測定を行い各波長域でのノイズ幅の値を記録して、そのノイズ幅の値から波長走査速度を決定することにより、一回の測定回数で求めることを実現する実施の形態について、説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例について、図1〜図3および表1,表2を用いて説明する。
【0016】
まず、図1を用いて、実施例1の分光光度計の概要について説明する。分光光度計1は、光源2,分光器3,試料室4,検知器5で構成される。光源2から出た測定光6は、分光器3へ導かれる。分光器3によって、光はスペクトル分光され任意の波長が選択可能となり、波長走査が行われる。分光器3でスペクトル分光された測定光6は、試料室4を通り、検知器5へ導かれる。
【0017】
図2を用いて、分光光度計の制御方法について、説明する。分光光度計20は、分光光度計を制御する制御手段22,測定手段23,記憶手段24,データ処理手段25,判定手段26で構成される。また、分光光度計20は外部機器として入力手段21,表示手段27を有する。入力手段21はキーボードやマウス、表示手段27はディスプレイを含む。
【0018】
入力手段21で、予めノイズ幅判定値と波長走査速度のテーブルの指定および入力をする。また、入力手段21で、測定条件である波長走査範囲,波長走査速度を入力する。前記入力手段21で入力された測定条件が、制御手段22に一時格納され、測定手段23へ送られる。送信された測定条件が測定手段23で設定される。
【0019】
また、入力手段21で入力されたノイズ幅判定値および波長走査速度のテーブルが、制御手段22を介して記憶手段24へ送られ記憶される。
【0020】
前記測定手段23で設定された測定条件で、ベースライン補正測定を実行する。ベースラインは、現在設定されている測定条件で、各波長において基準となる値である。ベースライン補正の結果はデータ処理手段25において、測定手段23で得られた結果を元にA/D変換を行い、判定手段26へ結果が送られる。
【0021】
データ処理手段25でA/D変換された結果と、記憶手段24で記憶しているノイズ幅判定値との比較判定を、判定手段26で行う。判定手段26で判定された結果を基に、各波長域の波長走査速度が自動的に設定される。設定された波長走査速度が、制御手段22を介して測定手段23および記憶手段24へ送られる。
【0022】
前記で送られた条件を元に、再度測定手段23でベースライン補正測定を行う。ベースライン補正測定終了後、ベースライン補正結果はデータ処理手段25へ一時格納され、次に測定手段23で試料の測定を実行する。
【0023】
試料の測定終了後、前記データ処理手段25へ一時格納されているベースライン補正結果を基に、データ処理手段25でA/D変換され、制御手段22を介して表示手段27で結果が表示される。
【0024】
分光光度計の測定フローについて説明する。
【0025】
測定条件の設定を行う前に、表1のテーブル1もしくは表2のテーブル2でノイズ幅判定値を入力する。表1は、本発明の実施例に係るもので、ノイズ幅判定値と波長走査速度のテーブル1の関係を示す表である。表2は、本発明の実施例に係るもので、ノイズ幅判定値と波長走査速度のテーブル2の関係を示す表である。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
ノイズ幅判定値を2種以上の複数有し、本実施例では、記号A〜Eの5種有している。そして、ノイズ幅判定値毎に、固有の波長走査速度を有する。また、前記ノイズ幅判定値1つに対して、表1のテーブル1と表2のテーブル2の波長走査速度を有する。波長走査速度は、テーブル1またはテーブル2で設定の方法が異なる。
【0029】
以下、図3を用いて、表1のテーブル1を使用したノイズ幅判定値の設定から試料測定終了までの測定フローの各ステップを説明する。
【0030】
測定条件の設定53を行う前に、予めノイズ幅判定値の設定52を行う。ノイズ幅判定値は吸光度Absで入力を行い、波長走査速度は、ここでは表1のテーブル1を設定する。
【0031】
表1では、ノイズ幅判定値は記号A〜Eで設定でき、各々設定可能範囲が異なる。波長走査速度は固有の波長走査速度の中から、ノイズ幅判定値に応じて入力する。表1のテーブル1は初期値が入力されており、必要に応じて波長走査速度の変更を行う。記号Aはノイズ幅判定値が大きく、それに伴い波長走査速度を遅くして走査中に取り込めるデータ点数を多くする。測定時間は長くなるが、データ処理での積分回数が増加するため、ノイズ幅は小さくなる。また、記号Eはノイズ幅判定値が小さく、それに伴い波長走査速度を速くして走査中に取り込めるデータ点数を少なくする。測定時間は短くなるが、データ処理での積分回数が減少するため、ノイズ幅が大きくなる。例えば、ベースライン補正結果のノイズ幅判定値が記号Aの1<Absであった場合、波長走査速度を遅くして走査中に取り込めるデータ点数を多くする。データ処理での積分回数が増加するため、測定結果はノイズ幅が小さい結果となる。例えば、波長走査範囲200〜900nmで、波長走査速度30nm/minとした場合、測定時間は約1400秒(約24分)かかるが、データ点数が多いため、全体的にノイズ幅が小さくなる。
【0032】
前記同波長範囲で、ベースライン補正結果のノイズ幅判定値が記号EのAbs≦0.001Absであった場合、波長走査速度を速くして走査中に取り込めるデータ点数を少なくする。データ処理での積分回数が減少するため、測定結果はノイズ幅が大きい結果となる。例えば、前記同波長範囲で、波長走査速度1,200nm/minとした場合、測定時間は約35秒で終了できるが、データ点数が少なくなるため、全体的にノイズ幅が大きくなる。
【0033】
ノイズ幅判定値の設定52後、測定条件の設定53を行う。測定条件では、波長走査範囲,波長走査速度を入力する。例えば、波長走査範囲:200〜900nm、波長走査速度:300nm/minと入力する。
【0034】
試料測定前のベースライン補正の実行54をする。測定条件の設定53で入力された測定条件で、ベースライン補正の実行54を行うことにより、指定した波長走査範囲,波長走査速度での各波長のノイズ幅の記憶55を行う。
【0035】
ノイズ幅判定値の設定52で予め入力されたノイズ幅判定値と、前記ベースライン補正の実行54の際に得られた各波長でのノイズ幅で、ノイズ幅判定値との比較56を行い、波長領域毎(10nm間隔)で判定を行う。
【0036】
ノイズ幅判定値との比較56の結果が、ノイズ幅判定値以内の波長域57(図中YESの場合)は、現在の波長走査速度を維持58する。
【0037】
ベースライン補正測定した波長走査範囲のノイズ幅がノイズ幅判定値より大きい場合(図中NOの場合)は、当該波長での波長走査速度を遅く設定する。また、測定した波長走査範囲のノイズ幅がノイズ幅判定値より小さい場合(図中NOの場合)は、当該波長での波長走査速度を速く設定する。
【0038】
例えば、ベースライン補正時の波長走査速度:300nm/minで走査を行い、その結果が波長走査範囲:200〜350nm、750〜900nmでノイズ幅:0.06Abs,波長走査範囲:350〜750nmでノイズ幅:0.01Absの場合、ノイズ幅に応じた波長走査速度をステップ59からステップ65により、判定する。すなわち、波長走査範囲:200〜350nm、750〜900nmでノイズ幅:0.06Absの場合、ステップ59でNOであり、ステップ61でYESであり、ステップ62で波長走査速度:120nm/minと、ベースライン補正時の波長走査速度:300nm/minより遅く設定され、ステップ68へ進む。波長走査範囲:350〜750nmでノイズ幅:0.01の場合、ステップ59でNOであり、ステップ61でNOであり、ステップ63でYESであり、ステップ64で波長走査速度:300nm/minと、ベースライン補正時の波長走査速度:300nm/minと同一波長走査速度を維持するよう設定されされ、最適測定条件の再設定のステップ68へ進む。
【0039】
結果として、図3および表1より、波長走査範囲:200〜350nm、750〜900nmを波長走査速度:120nm/minとし、波長走査範囲350〜750nmはノイズ幅判定値以内の結果であるので、波長走査速度:300nm/minを維持し、最適化されたことになる。
【0040】
前記で判定した各波長での最適波長走査速度で、最適測定条件の再設定68を行い、ベースライン補正の再実行69を行う。
【0041】
ベースライン補正の再実行69の終了後、試料のセット70を行い、試料測定の実行71をする。
【0042】
試料測定後、図2の表示手段27に、ベースライン補正結果を基に試料測定の補正を行った、試料測定結果の表示72がされる。
【0043】
表示された測定結果の確認73を行い、測定の終了74となる。
【0044】
図3の内容について補足する。例えば、ノイズ幅が1Absより大きい場合は、ステップ59でYESであり、ステップ60で波長走査速度は、120nm/minと設定される。ノイズ幅が0.05Absより大きく1Abs以下の場合は、ステップ59でNOであり、ステップ61でYESであり、ステップ62で波長走査速度は、120nm/minと設定され、ステップ68へ進む。ノイズ幅が0.005Absより大きく0.05Abs以下の場合は、ステップ59でNOであり、ステップ61でNOであり、ステップ63でYESであり、ステップ64で波長走査速度は、300nm/minと設定され、ステップ68へ進む。ノイズ幅が0.001Absより大きく0.005Abs以下の場合は、ステップ59でNOであり、ステップ61でNOであり、ステップ63でNOであり、ステップ65でYESであり、ステップ66で波長走査速度は、600nm/minと設定され、ステップ68へ進む。ノイズ幅が0.001Abs以下の場合は、ステップ59でNOであり、ステップ61でNOであり、ステップ63でNOであり、ステップ65でNOであり、ステップ67で波長走査速度は、1200nm/minと設定され、ステップ68へ進む。
【実施例2】
【0045】
次に、図3を用いて、表2のテーブル2を使用したノイズ幅判定値の設定から試料測定終了までの測定フローの実施例2を説明する。
【0046】
測定条件の設定53を行う前に、予めノイズ幅判定値の設定52を行う。ノイズ幅判定値は吸光度Absで入力を行う。波長走査速度は、ここでは表2のテーブル2を設定する。
【0047】
表2では、ノイズ幅判定値は記号A〜Eで設定でき、各々設定可能範囲が異なる。テーブル2の波長走査速度は、基準値に係数(Y)を乗じた波長走査速度が設定される。本実施例では、波長走査速度300nm/minを初期設定した場合で、ここではテーブル2のCを基準値としたテーブルとする。そのため、テーブル2のAは30nm/min(=300nm/min×0.1)、Bは120nm/min(=300nm/min×0.4)、Cは300nm/min(=300nm/min×1.0)、Dは600nm/min(=300nm/min×2.0)、Eは1,200nm/min(=300nm/min×4.0)の波長走査速度に設定される。係数(Y)の値は初期値が入力されており、係数(Y)の値は任意に変更が可能である。本実施例では、具体的な波長走査速度の値を入力・設定する代わりに、係数(Y)の値を入力・設定することができるので、具体的な数値の入力の手間が省けることや、すべての種類(記号A〜E)の具体的な数値を把握していなくとも、適切な波長走査速度などのパラメータを設定できる。
【0048】
記号Aはノイズ幅判定値が大きく、それに伴い波長走査速度を遅くして走査中に取り込めるデータ点数を多くする。測定時間は長くなるが、データ処理での積分回数が増加するため、ノイズ幅は小さくなる。また、記号Eはノイズ幅判定値が小さく、それに伴い波長走査速度を速くして走査中に取り込めるデータ点数を少なくする。測定時間は短くなるが、データ処理での積分回数が減少するため、ノイズ幅が大きくなる。例えば、ベースライン補正結果のノイズ幅判定値がAの1<Absであった場合、波長走査速度を遅くして走査中に取り込めるデータ点数を多くする。データ処理での積分回数が増加するため、測定結果はノイズ幅が小さい結果となる。例えば、波長走査範囲200〜900nmで、波長走査速度30nm/minとした場合、測定時間は約1400秒(約24分)かかるが、データ点数が多いため、全体的にノイズ幅が小さくなる。
【0049】
前記同波長範囲で、ベースライン補正結果のノイズ幅判定値がEのAbs≦0.001Absであった場合、波長走査速度を速くして走査中に取り込めるデータ点数を少なくする。データ処理での積分回数が減少するため、測定結果はノイズ幅が大きい結果となる。例えば、前記同波長範囲で、波長走査速度1,200nm/minとした場合、測定時間は約35秒で終了できるが、データ点数が少なくなるため、全体的にノイズ幅が大きくなる。
【0050】
図3のフローにおいて、処理を開始51し、ノイズ幅判定値の設定52後、測定条件の設定53を行う。測定条件では、波長走査範囲,波長走査速度を入力する。例えば、波長走査範囲:200〜900nm,波長走査速度:300nm/minと入力する。
【0051】
試料測定前のベースライン補正の実行54をする。測定条件の設定53で入力された測定条件で、ベースライン補正の実行54を行うことにより、指定した波長走査範囲,波長走査速度での各波長のノイズ幅の記憶55を行う。
【0052】
ノイズ幅判定値の設定52で予め入力されたノイズ幅判定値と、前記ベースライン補正の実行54時に得られた各波長でのノイズ幅で、ノイズ幅判定値との比較56を行い、波長領域毎(10nm間隔)で判定を行う。
【0053】
ノイズ幅判定値との比較56の結果が、ノイズ幅判定値以内の波長域57(図中YESの場合)は、現在の波長走査速度を維持58する。
【0054】
ベースライン補正測定した波長走査範囲のノイズ幅がノイズ幅判定値より大きい場合(図中NOの場合)は、当該波長での波長走査速度を遅く設定する。また、測定した波長走査範囲のノイズ幅がノイズ幅判定値より小さい場合(図中NOの場合)は、当該波長での波長走査速度を速く設定する。例えば、ベースライン補正時の波長走査速度:300nm/minで走査を行い、その結果が波長走査範囲:200〜350nm、750〜900nmでノイズ幅:0.06Abs、波長走査範囲:350〜750nmでノイズ幅:0.01Absの場合、ノイズ幅に応じた波長走査速度を判定する。図3および表2より、波長走査範囲:200〜350nm、750〜900nmを波長走査速度:120nm/min(=300nm/min×0.4)とし、波長走査範囲350〜750nmはノイズ幅判定値以内の結果であるので、波長走査速度:300nm/min(=300nm/min×1.0)を維持し、最適化されたことになる。
【0055】
前記で判定した各波長での最適波長走査速度で、最適測定条件の再設定68を行い、ベースライン補正の再実行69を行う。
【0056】
ベースライン補正の再実行69の終了後、試料のセット70を行い、試料測定の実行71をする。
【0057】
試料測定後、図2の表示手段27に、ベースライン補正結果を基に試料測定の補正を行った、試料測定結果の表示72がされる。
【0058】
表示された測定結果の確認73を行い、測定の終了74となる。
【0059】
前記までの実施例の内容から、ノイズ幅判定値を予め設定し、試料測定前にベースライン補正をすることで、各波長でノイズ幅が判定値より大きい場合は、波長走査速度を遅くして、逆にノイズ幅が判定値より小さい場合は、波長走査速度を速くして、一回もしくは最低限の測定回数で最適な測定精度が得られ、また時間の短縮を図ることができる。したがって、分析者の経験に依ることなく、一回もしくは最低限の測定回数で最適な測定精度を得ることができる。
【0060】
本発明の実施態様では、例えば、波長走査範囲の全領域で、ノイズ幅を予め設定されたある一定の範囲に抑えるため、2種以上の固有の波長走査速度を可変し、各波長毎の最適な波長走査速度を決定する。また、波長走査速度を可変することで、検知器の感度の高いもしくは低い波長範囲をもつ波長感度特性を考慮することができる。そのため、分析者の経験に依らず、一回または最低限の測定回数で最適な測定条件および測定精度が得られ、測定時間の短縮が可能となる。
【0061】
また、本発明の実施態様では、例えば、測定者の手を煩わすことなく、基本データ(ベースラインデータ)を取得後、そのデータを基に補正を行い、一回または最低限の測定回数で走査波長範囲のノイズ幅を一定値内に抑えることができる。
【0062】
また、本明細書では、例えば、(1)試料に対して測定光を照射する発光手段と、測定光を任意の波長に分光する分光手段と、当該分光手段により分光された波長について光度検出を行う検出手段と、測定すべき波長走査範囲と波長走査速度を入力する入力手段と、測定を実行する測定手段と、得られたデータを処理するデータ処理手段と、ノイズ幅判定値を記憶する記憶手段と、前記各手段の制御を行う制御手段を備えた分光光度計において、波長走査を実行して各波長でのノイズ幅をデータ処理部に記憶する手段と、前記波長走査中の任意の波長に得られたノイズ幅の値と前記記憶手段のノイズ幅判定値との比較判定を行うステップ、当該比較判定処理の結果から測定における波長毎の波長走査速度を求めるステップとを有することが開示される。また、例えば、(2)上記(1)において、制御手段内にノイズ幅の値に応じて前記記憶手段のノイズ幅判定値を2種以上有し、前記ノイズ幅判定値毎に固有の波長走査速度を有することが開示される。また、例えば、(3)上記(1),(2)において、制御手段内に前記記憶手段のノイズ幅判定値一つに対して、2種以上の固有の波長走査速度を有することが開示される。また、例えば、(4)上記(1)において、測定者が要求するノイズ幅値を入力手段に備え、前記波長走査中の任意の波長に得られたノイズ幅の値と前記入力手段の要求するノイズ幅値との比較判定を行うステップ、当該比較判定処理の結果から測定における波長毎の波長走査速度を変更するステップとを有することが開示される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例に係るもので、分光光度計の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るもので、分光光度計の制御方法を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係るもので、測定のフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1,20 分光光度計
2 光源
3 分光器
4 試料室
5 検知器
6 測定光
21 入力手段
22 制御手段
23 測定手段
24 記憶手段
25 データ処理手段
26 判定手段
27 表示手段
51 開始
52 ノイズ幅判定値の設定
53 測定条件の設定
54 ベースライン補正の実行
55 各波長のノイズ幅の記憶
56 ノイズ幅判定値との比較
57 ノイズ幅判定値以内の波長域
58 現在の波長走査速度を維持
59 ノイズ幅判定値1<Abs
60 波長走査速度30nm/min
61 ノイズ幅判定値0.05<Abs≦1
62 波長走査速度120nm/min
63 ノイズ幅判定値0.005<Abs≦0.05
64 波長走査速度300nm/min
65 ノイズ幅判定値0.001<Abs≦0.005
66 波長走査速度600nm/min
67 波長走査速度1,200nm/min
68 最適測定条件の再設定
69 ベースライン補正の再実行
70 試料のセット
71 試料測定の実行
72 測定結果の表示
73 測定結果の確認
74 終了

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光光度計において、
試料に対して測定光を照射する発光手段と、
測定光を任意の波長に分光する分光手段と、
当該分光手段により分光された波長について光度検出を行う検出手段と、
測定すべき波長走査範囲と波長走査速度を入力する入力手段と、
測定を実行する測定手段と、
得られたデータを処理するデータ処理手段と、
ノイズ幅判定値を記憶する記憶手段と、
前記各手段の制御を行う制御手段とを備え、
前記データ処理手段において、波長走査を実行して各波長でのノイズ幅を記憶し、前記波長走査中の任意の波長に対して得られたノイズ幅の値と前記記憶手段のノイズ幅判定値との比較判定を行い、当該比較判定の結果から測定における波長毎の波長走査速度を設定することを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
請求項1において、
得られたノイズ幅の値に応じて前記記憶手段のノイズ幅判定値を2種以上有し、
前記ノイズ幅判定値毎に所定の波長走査速度を有することを特徴とする分光光度計。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記記憶手段のノイズ幅判定値一つに対して、2種以上の所定の波長走査速度を有することを特徴とする分光光度計。
【請求項4】
請求項1において、
前記入力手段において、要求されるノイズ幅値を入力し、
前記データ処理手段において、前記波長走査中の任意の波長に得られたノイズ幅の値と要求されるノイズ幅値との比較判定を行い、当該比較判定処理の結果から測定における波長毎の波長走査速度を変更することを特徴とする分光光度計。
【請求項5】
試料に対して測定光を照射し、
測定光を任意の波長に分光し、
当該分光された波長について光度検出を行う分光分析方法において、
ノイズ幅判定値を記憶し、
測定すべき波長走査範囲と波長走査速度を入力し、
波長走査を実行して各波長でのノイズ幅を記憶し、
前記波長走査中の任意の波長に対して得られたノイズ幅の値と前記記憶されたノイズ幅判定値との比較判定し、
当該比較判定の結果から測定における波長毎の波長走査速度を求めることを特徴とする分光分析方法。
【請求項6】
請求項5において、
ノイズ幅の値に応じて、ノイズ幅判定値を2種以上有し、
前記ノイズ幅判定値毎に所定の波長走査速度を有することを特徴とする分光分析方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記ノイズ幅判定値一つに対して、2種以上の所定の波長走査速度を有することを特徴とする分光分析方法。
【請求項8】
請求項5において、
前記波長走査中の任意の波長に得られたノイズ幅の値と要求される前記ノイズ幅値との比較判定を行い、
当該比較判定の結果から測定における波長毎の波長走査速度を変更することを特徴とする分光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−8238(P2010−8238A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168047(P2008−168047)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】