説明

分別結晶の際に溶融金属を冷却する方法

分別結晶の際に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却し、溶融金属の組成よりも純粋な組成を有する金属結晶を形成する方法であって、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却するのに、固体形態にある塩を使用することを特徴とする、方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、分別結晶の際に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
存在する異元素の濃度が高過ぎる金属(本明細書では合金の略記として使用する)の精錬に、結晶化方法および装置を使用できる。この異元素は、鉱石から製造された金属、つまり主要金属、中に存在する異元素が多過ぎるために、あるいはすでに使用された金属が循環使用され、スクラップ中の異元素の濃度が高過ぎるために、存在し得るものである。例えば、アルミニウムスクラップは、異元素をほとんど含まない主要金属と混合しない限り、商業的目的に使用するには多過ぎる異元素Fe、SiまたはMgを含むことがある。
【0003】
分別結晶の際、溶融金属の冷却により、溶融金属中に金属結晶が形成される。これらの結晶は、出発点として使用される溶融金属の組成よりも純粋な組成を有する、つまり、これらの結晶は、出発点として使用される溶融金属と比較して、単位重量あたりに含まれる異元素が少ない。
【0004】
分別結晶の際に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却する従来の方法では、例えば冷却パイプを壁中に埋め込むことにより、結晶化装置の壁を冷却している。しかし、これらの従来方法には、冷却表面上に結晶が成長し、その表面を外皮で覆うという欠点がある。装置の壁を経由する冷却は、冷却コイルを使用する冷却装置または溶融金属中に挿入するような装置により補足することができるが、そのような装置は、溶融金属を一箇所でしか冷却せず、やはり溶融金属が装置の上および周囲で結晶化し、冷却装置の冷却効果が損なわれる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的の一つは、分別結晶の際に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却するための、アルミニウムおよび高融点を有するそのような金属の精製に特に好適な、改良された方法を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、分別結晶の際に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却するための、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の固体画分および/または温度を、先行技術と比較して、より効果的に制御できる方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、分別結晶の際に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却する方法であって、例えば溶融金属が含まれている容器の壁に金属結晶が密着する危険性を小さくすることにより、溶融金属中に金属結晶が懸濁して残る可能性を改良する方法を提供することである。
【0008】
これらの目的の一つ以上は、分別結晶の際に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却する方法であって、形成される金属結晶が溶融金属の組成よりも純粋な組成を有し、固体形態にある塩を使用して前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却することを特徴とする、方法により達成される。
【発明の具体的説明】
【0009】
溶融金属の冷却に固体塩を使用することは、多くの理由から有利である。本発明の方法を使用する場合、添加した固体塩が、それを添加した時の温度、例えば約20℃、から、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の温度に温まるにつれて大量のエネルギーを溶融金属から吸収する。しかし、結晶が生じて溶融塩または固体塩粒子に付着することはありそうにない、つまり形成された金属結晶は溶融金属中に懸濁して残る。本発明の方法は、冷却に望ましい量の固体塩を正確に投入することができる。好ましくは、製造する精製金属結晶1kgあたり塩0.1〜1kgを溶融金属に加え、十分な冷却を確保する。より好ましくは、製造する精製金属結晶1kgあたり塩0.2〜0.8kg、さらに好ましくは製造する精製金属結晶1kgあたり塩0.3〜0.6kgを溶融金属に加える。
【0010】
固体塩は、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の融点よりも低い融点を有するので、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却する際に少なくとも部分的に融解する。こうして、固体塩は、温まり、融解するにつれて溶融金属から熱を吸収する。溶融塩は、溶融金属より重いか、または軽いように選択することができるので、溶融金属が、より重い溶融塩の上に浮揚するか、またはより軽い溶融塩が溶融金属の上に浮揚するか、もしくは2種類の固体塩を使用する場合には両方が起こる。溶融塩の温度を測定および制御し、溶融金属の温度を制御することができるのに対し、結晶化装置の壁を経由して冷却する場合、溶融金属の温度はあまり正確に制御できない。溶融塩は、結晶が生じ、付加するような表面を形成しない。
【0011】
塩が溶融した後、好ましくは塩の少なくとも一部を、例えば栓を抜いて、除去し、それによって、より多くの固体塩を加え、さらに冷却できるようにする。
【0012】
除去した塩は、好ましくは冷却し、固化させ、再使用する。これによって、冷却手段を再使用できるので、本方法がコスト的に効果的になり、資源的に経済的になる。
【0013】
固体塩は、せいぜい部分的に溶融しただけの金属の上から、および/または下に、および/または中に加えるのが好ましい。固体塩を、せいぜい部分的に溶融しただけの金属の上から、および/または下に加える場合、固体塩は、少なくとも部分的に溶融した金属の上および/または下に溶融塩層を形成することができ、例えば塩を、せいぜい部分的に溶融しただけの金属の上から加え、少なくとも部分的に溶融した金属の下に溶融塩層を形成することができる。固体塩を、せいぜい部分的に溶融しただけの金属の上から、および/または下に加える場合、固体塩は、すでに存在する溶融塩層を冷却し、それによって、溶融金属を塩/溶融金属界面を経由して冷却することもできる。固体塩を、せいぜい部分的に溶融しただけの溶融金属の中に加える場合、固体塩は、溶融金属を直接冷却し、金属結晶形成を促進する。
【0014】
せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を好ましくは攪拌する。せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を攪拌することにより、金属結晶は懸濁液に維持され、金属結晶と溶融金属との間の材料交換が強化される。
【0015】
固体塩は、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の表面上に、攪拌機の運動により形成された渦に加えるのが好ましい。固体塩は、溶融金属の表面上に、攪拌機の回転運動により形成された渦の中に加え、それによって、固体塩は、表面から、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の本体中に引き込まれる。こうして、固体塩は、せいぜい部分的に溶融しただけの金属の表面に加えられるが、せいぜい部分的に溶融しただけの金属の本体中で止まり、そこで溶融金属を直接冷却し、金属結晶形成を促進する。
【0016】
固体塩は、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を攪拌する手段を通して加えるのが好ましい。これによって、固体塩は溶融金属全体にわたって十分に配分され、塩/金属の接触が比較的大きくなり、塩は、温まり、融解するにつれて、冷却により金属結晶形成を効果的に促進する。
【0017】
固体塩は、溶融すると、好ましくは、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の密度よりも低い密度を有するので、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の上に層を形成し、例えば栓を抜くことにより、容易に除去することができ、溶融金属の酸化を低減させる。
【0018】
固体塩は、アルカリ土類金属ハロゲン化物またはアルカリ金属ハロゲン化物またはそれらの混合物を含んでなるのが好ましいが、これは、そのようなハロゲン化物は、化学的に安定しており、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属とは反応し難いためである。
【0019】
せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属は、好ましくはアルミニウム合金である。分別結晶は、アルミニウムに特に好適である。一次アルミニウムの製造はエネルギー消費が非常に大きく、高価であることから、アルミニウムの循環使用はコスト的に有利であるが、必要な化学的組成を得るには、循環使用アルミニウム中の異元素の量を下げる必要があることが多い。
【0020】
添付の図面1〜3を参照しながら本発明を例としてさらに説明する。
【0021】
図1は、本発明の方法を実施するための結晶化装置を示す。この装置は、壁3および床部分4により取り囲まれた室9を含んでなる。本装置は、蓋を含んでなることもできるが、この蓋は図には示していない。壁3および床部分4は、好ましくは埋め込んだ加熱素子またはパイプ5により加熱する。本装置は、攪拌機またはインペラー6を含んでなる。攪拌機6の回転運動が、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属8の中に、溶融金属の表面まで伸びる渦14を発生させる。固体塩13を、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属8の表面上に落下させるか、または散布し、好ましくは、装置の室中にあるせいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の本体中に固体塩が引き込まれるように、攪拌機により形成された渦14中に落下するように向ける。塩は、金属の融点より低い融点を有するように選択されているので、融解する。また、固体塩は、融解した後、溶融金属の密度より大きな密度を有し、従って、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の下に層11を形成するように選択するのが好ましい。塩は、層11から除去することができ、除去した後、冷却し、固化させて再使用することができる。
【0022】
図2は、一種以上の異元素を含む溶融金属の分別結晶を行うための結晶化装置を示す。この装置は、蓋2、壁3および床部分4により取り囲まれた室9を含んでなる。壁3および床部分4は、好ましくは埋め込んだ加熱素子またはパイプ5により加熱する。本装置は、回転する攪拌機またはインペラー6およびパイプ7を含んでなる。このパイプ7を通して、粉末または細粒形態にある固体塩13を、加圧した不活性ガスと共に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属8の中に供給する。せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の攪拌により、結晶は懸濁液に維持され、結晶と溶融金属との間の材料交換が強化される。塩は、その融点が、せいぜい部分的に固体の溶融金属の融点より低いので、融解する。塩は、融解した後、好ましくは溶融金属の密度より小さな密度を有するので、塩13は、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を通って上昇し、金属の上に層11を形成し、出口10を経由して排出することができる。排出された後、塩を冷却し、固化させて再使用する。
【0023】
図3は、本発明の方法を実施するための別の結晶化装置を示す。この装置は、蓋2、壁3および床部分4により取り囲まれた室9を含んでなる。壁3および床部分4は、好ましくは埋め込んだ加熱素子またはパイプ5により加熱する。本装置は、攪拌機と固体塩用の供給パイプ12を組み合わせて含んでなる。このパイプ12に、粉末または細粒形態にある固体塩13を、加圧した不活性ガスと共に供給する。ガスおよび固体塩は、パイプ12の内側にあるダクトを通過し、パイプ中の少なくとも2個の開口部を経由し、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の中に排出される。パイプ12を回転させ、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を攪拌しながら、固体塩が、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属に供給される。せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の攪拌により、結晶は懸濁液に維持され、結晶と溶融金属との間の材料交換が強化される。塩は、融解した後、好ましくは溶融金属の密度より小さな密度を有するので、塩13は、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を通って上昇し、金属の上に層11を形成し、出口10を経由して排出することができる。排出された後、塩を冷却し、固化させて再使用する。
【0024】
せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属8は、好ましくはアルミニウム合金である。加える固体塩は、融解した後、溶融金属の密度より高いか、または低い密度を有することができる。従って、塩は、最終的に溶融金属の上側表面上に、上側表面と接触する層を形成するか、または溶融金属の下側表面の下に、下側表面と接触する層を形成することができる。加える固体塩は、融解した後、その塩の一部が溶融金属の上に層を形成し、一部が溶融金属の下に層を形成するような組成を有することもできる。固体塩は、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の上側表面上に直接供給する、および/またはせいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の上側表面と接触する塩層の上および/または中に供給することもできる。固体塩は、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の下側表面の下に供給することができ、下側表面に直接供給する、および/または、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の下側表面と接触している塩層の中に、および/または下に供給することができる。固体塩は、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の上および下の両方に供給することができる。固体塩は、例えば粉末、ペレット、塊、または大きなブロックの形態で供給することができる。固体塩は、せいぜい部分的に溶融しただけの金属の上に落とすか、またはその中に浸漬することができる。固体塩は、他の材料中に収容して、例えば溶融金属の固化した被覆を含んでなる形態で、供給することもできる。
【0025】
固体塩は、好ましくはアルミニウム金属の融点より低い融点を有し、より好ましくは、塩層の、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の上または下に位置する部分が形成されたとしても、塩が確実に溶融したままであるように、500℃未満の融点を有する。加える固体塩は、ハロゲン化物塩、例えばアルカリ土類金属ハロゲン化物またはアルカリ金属ハロゲン化物またはそれらの混合物であるのが好ましいが、これは、そのような塩が、化学的に安定しており、溶融金属と反応し難いためである。より好ましくは、固体塩は、塩化ナトリウムおよび塩化マグネシウムを含んでなり、これらの物質は、融点がそれぞれ720℃および780℃であるが、組み合わせると、著しく低い融点を有することができる。さらに好ましくは、NaCl約60%およびMgCl約40%を使用し、融点が500℃未満で、化学的に安定した組合せを達成する。
【0026】
温度660℃における溶融したアルミニウム合金に対する固体塩の冷却効果に関する典型的な値は、
温度20℃で加えた固体塩1kg
1kgX1000J/kg℃x(660−20)℃=640kJ(塩の加熱)
1kgX300kJ/kg =300kJ(塩の融解)
吸収された総エネルギー =940kJ
アルミニウムの融解潜熱 =390kJ/kg
である。
【0027】
従って、溶融アルミニウム合金からアルミニウム結晶1kgを660℃で製造するために、冷却に必要な塩の量は約0.4kg(390/940kg)である。
【0028】
溶融アルミニウム合金500kgを含む結晶化装置で達成できる妥当な製造速度は毎時100kg結晶である。従って、毎時100kgの結晶製造速度を得るには、毎時40kgの固体塩を供給すべきである。
【0029】
蓋2および/または結晶化装置の室中で形成される溶融塩の層11は、アルミニウム金属の融点より高い温度に加熱し、アルミニウム金属の結晶が、例えば攪拌機および/または供給パイプ6、7、12の上に確実に生じないようにするとよい。
【0030】
あるいは、部品、例えば攪拌機および/または供給パイプ6、7、12をアルミニウムの融解温度より上に加熱し、金属結晶による外皮形成を避けることができよう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の冷却方法を実施する結晶化装置の断面図を示す。
【図2】本発明の冷却方法を実施する別の結晶化装置の断面図を示す。
【図3】本発明の冷却方法を実施する別の結晶化装置の断面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分別結晶の際に、せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却する方法であって、形成される金属結晶が溶融金属の組成よりも純粋な組成を有し、固体形態にある塩を使用して前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を冷却する際に少なくとも部分的に融解する塩を選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一旦前記塩が融解したところで、前記塩の少なくとも一部を除去する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記除去した塩を冷却し、固化させ、好ましくは再使用する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記固体塩を、前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の上から、および/または下に、および/または中に加える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を攪拌する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記固体塩を、前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の表面上に攪拌機の運動により形成された渦に加える、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属を攪拌手段により攪拌し、前記固体塩を、前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属中に、前記攪拌手段を通して加える、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記固体塩が、一旦融解したところで、前記せいぜい部分的に固化しただけの溶融金属の密度より低い密度を有するように選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記固体塩が、アルカリ土類金属ハロゲン化物またはアルカリ金属ハロゲン化物またはそれらの混合物を含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記金属がアルミニウム合金である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−528443(P2007−528443A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540266(P2006−540266)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012836
【国際公開番号】WO2005/049875
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(505008419)コラス、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップ (15)
【氏名又は名称原語表記】CORUS TECHNOLOGY BV
【Fターム(参考)】